田井中律誕生日記念SS2016(must was the 2014)

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87 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:36:22.19 ID:2B6vRpJ6o

*

7章

 本当に時間は掛からなかった。
東門から直進して、五分も経っていない。
それだけの時間で中華の雰囲気から一転、緑葉茂る木々を散在させた公園に着いていた。
入ってすぐの噴水を迂回して進んだ先では、アスファルトの道が横長に伸びている。
その向こう側は、海だった。
向かい風が海水を擽って、律の鼻に潮の匂いを届けてくる。
波が岸壁に当たって砕ける音も空気を震わせ、律の鼓膜を叩いた。

 右に目を動かせば、鎖で岸壁に繋ぎ止められた船が映った。
そして道の手前側、即ち海の対面にはベンチが並べられている。
だが、そこに腰掛けて海を眺めている人は少なかった。
活発に道を往来する人の多さとは対照的である。
どちらにも属さない律は、澪の隣に立って瞳を右往左往させていた。

「山下公園だよ」

 海に沿って展開するこの公園の名前を、澪が教えてくれた。
律とて、名前くらいは知っている。
みなとみらい21や中華街に比して知名度でこそ劣るが、それでも有名な場所だ。
観光の名所として、或いはデートのスポットとして。

 事実、中華街ほどの密集ではないにせよ、
団体客、親子連れ、そして恋人と思しき男女の組が視界に絶えない。
観光名所の名に負わず、写真を撮る人の姿も目立つ。

「此処が、あの山下公園。人気のデートコースだよね」

 律は声に出して、自分へと言い聞かせる。
そうする事で、デートスポットに澪と一緒に訪れられた喜びを胸へと浸透させた。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:37:44.29 ID:2B6vRpJ6o
「そうだな。アリバイ作りには丁度いいだろ?」

「アリバイ?」

 律は澪の言葉を反復した。
澪の発言の意図自体は、聞いた瞬間に理解できている。
ただ、気分を壊された不満が、衝動的に口から漏れてしまっただけだ。

「ああ。夜、唯達に見せるのは、デートの途中から、って設定だろ?
だったら当然、その前にも私達はデートしているはずだよな。
明日、自分達が見る前は何処で何をしていたのかって、唯達から訊かれるかもしれない。
こうして事実を作っておけば、中華街と山下公園に行ってましたって、答え易くなるぞ。
実際に訪れているんだから、襤褸は出にくい」

 分かり切った説明が、律に現実を突き付ける。
デートスポットに立ち寄った事も、唯達を騙す策の一環でしかないのだ。
勿論、澪の気遣いに感謝はしている。
律の頼みを周到な計画と入念な準備で先導している上、
魔法に掛かったような夢の舞台まで演出してもらっているのだ。
一日限りの夢とはいえ、忘恩に等しい不満を抱くべきではない。

 そして、明日になれば魔法は解け、自分達の関係も友人でしかなくなる。

「じゃあ、デートっぽい事をしておかないとね。
唯達に言っちゃった大言壮語、実現するくらいにさ」

 ならば、せめて魔法が掛かっている今を、精一杯に享受しよう。
律は明るい声を出すと、岸壁へと走り寄った。

 足を運ぶごとに、右手に見えていた船が正面へ近付いていく。
船の舳先を真向かいに捉えた所で、律は立ち止まって手摺に手を置いた。
眼下に収めた海面と陸地の境界面では、小波がコンクリートに当たって弾けている。
その度、水飛沫とともに潮の匂いが飛散した。

「あっ、律」

 人の間をすり抜けながら、澪も追い付いてきた。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:38:45.30 ID:2B6vRpJ6o
「まだ、航行している船なの?」

 鎖で繋がれた船を見上げて、律は呟く。

「いや、昔の船だ。運航から引退して、もうそれなりの年数が経ってる。
展示されているだけだよ」

 隣に並んだ澪が教えてくれた。
船首の下の船体には、この船の名称が書かれている。
一瞬、いつもの癖で『丸川氷』と読んだが、
右から左に『氷川丸』と読むのが正しいのだろう。
横文字が逆に流れている所にも、この船が経てきた長い年月が表れている。

「外観だけじゃなく、中も見れるけど。入るか?」

 澪の指に沿って右方へと目を向けると、船の側面へと続く足場が洋上に設けられていた。
その上では、入場する者と退場した者が擦れ違っている。
足場の更に右方に、チケットの売り場らしき窓口も視認できた。

「デッキには出れないんだよね?」

 船の舳先に目を転じて、律は澪へと問い掛けた。
出られたとして、やろうか、やるまいか。律は迷う。
やるとしても、澪の協力は不可欠だ。

「ああ。デッキが開放される日もあるけど、平日は立ち入れないな」

 澪の返答を聞いた律は、落胆と同時に安堵も感じていた。
デッキに出る事が出来たとしても、実践には羞恥の壁がある。
ましてや海の方向は、ここから視認のできない船尾だ。
恥じらいを忍んでも、律の望みが叶うとは限らない。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:39:32.26 ID:2B6vRpJ6o
「じゃ、私はいいや。
でも、サングが見たいなら、私も付いていくよ」

 律は辞する意思を見せつつ、最終的な決断を澪に委ねた。
本音を言えば、デッキに出られないのであれば踵を返したい。
願望を諦めた律の内部で、別の焦燥が疼き始めている。
飲茶で大量に飲んだ烏龍茶が響いて、膀胱が尿意を訴え始めたのだ。
内装を見学するだけでも興味はあるものの、こちらの鎮静化が先決に違いない。
船中にも手洗いはあるのだろうが、事は急を要するだけに手間の少ない方を選びたかった。

「いや、私もいいよ。
でも、ここで他にやりたい事もないなら、中の展示物だけでも見てみるか?」

 律の内心の焦燥を組んだ訳ではないだろうが、澪も乗り気を見せなかった。
入船すると言ったなら、先に手洗いだけ行かせてもらおうか。
そう対策も思い付いていたものの、不要となった。

「ベンチに座って、海を眺めていたいな」

「夏の海も、そろそろ見納めだしな」

 律の提案を容れた澪が、手を握って先導してくれた。
二人、船から遠ざかる方向へと、海の際に沿って山下公園を進んでゆく。
噴水のある広場が左手に見えた。自分達が入園してきた場所である。
そこを通り過ぎた辺りで、澪が足を止めた。
背の高い澪の目線が落ちて、背の低い律の瞳に向く。

「ここでいいか?」

「うん。丁度、ベンチも空いてるし」

 目を合わせて問う澪に、律は即答した。
見晴らしだけで言うなら、ベンチに座るよりも手摺の前で立っていた方がいい。
殊に噴水の前の歩道では、バルコニーのような扇形の突端が海側に設けられている。
反面、ベンチは舗道の緑地側に据えられており、眺望で劣る事は避けられない。

 だが、律は体力がなく、澪は軽くない荷物を持っている。
落ち着いて海を観賞するには、座っていた方が良かった。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:40:30.55 ID:2B6vRpJ6o
「じゃあ、ここにするか」

 律の返答を確認した澪がベンチに腰掛けたが、当の律は座らなかった。
落ち着いて海を鑑賞するには、下腹部で疼く焦燥を鎮めなければならない。

「律?」

 澪の首が怪訝そうに傾ぐ。
座る素振りを見せない律に、不審を抱いているらしい。

「えーとね。ちょっと、席外すから。ここで待っていてくれる?」

 顎の前で両手の指を合わせ、恥じらいが伝わるように言った。
澪ならば仕草だけで、律の意図を察してくれるだろう。

「場所は分かるか?何なら、連れて行こうか?」

 律の期待した通り、澪は理解してくれた。
のみならず案内まで申し出てくれたが、律は両手を振って遠慮する。

「えっ?いいよ。サングには、荷物と場所の番を頼みたいし。
だから、場所を教えて?何処が一番近いの?」

 途端、澪の眉根が不愉快そうに歪んだ。
表情の変化は一瞬だったが、見間違いという事はないだろう。
素直に教えてくれると思っていただけに、意外な反応が網膜に焼き付いて離れない。

「場所って、何の場所だ?
それを伝えてくれなきゃ、私も教える事ができないな」

 分かっているくせに。
意地悪く惚ける澪に、律は口を尖らせた。

「何のって、分かってるじゃんかー」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:41:20.29 ID:2B6vRpJ6o
「ああ、自動販売機の場所か?曇天とはいえ、夏だもんな。
じゃあ、私が買って来てやろうか?
五百ミリの冷たい缶ジュース、一気飲みさせてやるよ」

 澪は言って、嬲るように笑う。
尿意もいよいよ激しさを増した今、
五百ミリもの冷水を一気に飲ませられたら堪ったものではない。
澪は間違いなく、分かっていて律を虐めているのだ。
気に触る事をした覚えのない律は、涙声になって訴える。

「虐めないでよ。何処の場所を聞いているかなんて、言わなくても分かってるくせに。
どうしてそんな」

──意地悪言うの。
と、続ける事はできなかった。代わりに「りっ」と、短い声が律の口から走り出る。
澪に腕を掴まれ、強引に彼女の太腿の上に座らせられたのだ。
驚きと身体に掛かる引力が、律の言葉を奪っていた。

「言わないと分からないのは、お前も同じだと思うけどな」

 耳元で囁かれ、律は心臓を掴まれたような気がした。
心の奥底まで抉り取っていく刃が、澪の声に乗せられている。
言わないと伝わらない。その事実が、澪の言葉とともに重く重く圧し掛かる。
感じ取らせるだけでは、圧倒的に不足だ、と。

「ほら、言ってごらん?取り返しが付かなくなる前に」

 今度は圧力を心ではなく身体に感じた。
律は堪らず、身を捩らせる。
澪の指に下腹部を押されたのだ。
強い力ではない。
だが、尿意が迫り上げている今は、脅威の衝撃となって律を見舞った。

「ん?」

 澪は急かすような声とともに、無慈悲にももう一押し加えてきた。
先程よりも、強い力で。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:42:18.78 ID:2B6vRpJ6o
「んっ」

 滴が零れそうになり、律は慌てて下腹部に力を込めた。
猶予はない。意地を張っていれば、沈黙は致命傷に至ってしまう。

「お手洗いっ。私、お手洗いに行きたいの。
だから、お手洗いの場所、教えて」

 澪は満足したような顔を浮かべると、律を解放してくれた。

「良く出来ました。まぁ、あれだけ烏龍茶を飲めば、そうなるよな」

 飲ませた張本人に言われたくなかったが、抗議などせずに言葉を待った。
時間が惜しい上に、機嫌を損ねたくもない。

「この角を真っ直ぐ行くだけだよ。そこにある小さい建物がトイレだ」

 澪が腋の角度を狭めて指差した道は、たった今通り過ぎたばかりの道だった。
噴水の脇を通る道のすぐ横に、平行した道が通っている。
続いて澪が指差した先に、律は確かに屋根の姿を認めた。
眼前の角を曲がって直進するだけの道程である。
一聴と一見に留めても、迷いようがなかった。

「ありがと。ここからなら、そんなに遠くないね。
じゃあ、すぐに戻ってくるから」

 礼だけ言って、律は爪先を手洗いに向けた。

「待て」

『マテ?』
 澪に留められては、急く足も止まる。
律は躾けられた犬のように、飼い主の指示を待った。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:43:20.48 ID:2B6vRpJ6o
「もし野郎から声を掛けられたら、大声を出して私を呼べ。
この距離なら必ず聞き届けて、仕留めてやるよ」

 切れ長の目で律を見据え、澪が言い切った。
自分を独占するかのような言葉に、律は蕩けた瞳を澪へと向ける。
本当に、嫉妬深い恋人であるかのようだ。

「勿論、本当の彼氏ができてお役御免なら、唯達との問題は一番スマートに解決するけどな」

 だが、その感覚も直後の言葉で途切れた。
律が錯覚を起こす度、常に現実が突き付けられる。
目の前に居る恋慕の対象は、本当の恋人ではない。
窮地を脱する為に協力してくれている、親友なのだ。

 だからこそ、律は疑問だった。
此処で都合良く異性から求愛されて付き合えば、唯達との約束は嘘ではなくなる。
本当の彼氏として、逢瀬を披露できるのだ。
それを否む理由など、協力者の澪にはないはずである。

「でもな。そんな恰好している女に声を掛けてくるのは、どうせ下心がある奴だけだ。
その程度の野郎じゃムギや梓が心配するから、付いて行くなよ?
もっと落ち着いた時に、信頼できる相手を選べ」

 律の疑問を先取りした訳ではないだろうが、澪が噛んで含めるように言った。
言うまでもなく、この艶美な服をプレゼントした者は当の澪である。
それだけに、色欲が目当ての輩を追い払う義務も感じているのかもしれない。

 そして律は、先ほど行先を暈して一人でトイレに行こうとした際、
澪が怒っていた理由も分かった気がした。
だが、可能性としては有り得るというだけで、当て推量の域を出てはいない。
律は”他に思い付けなかった”という理由だけで、自信がないままに問い掛ける。

「もしかして、だけど。
サングがさっき怒っていたのって、私が無警戒だったから、なの?」

 護衛が含意された同行の申し出を、律は遠慮してしまっている。
澪の義務感を尊重せず、扇情的な恰好で一人歩こうとした格好だ。
澪が怒りを覚えても不思議ではない。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:44:33.06 ID:2B6vRpJ6o
「怒ってないよ」

 律の問いを否定する澪は、涼しい顔を見せている。
だが、澪の言葉を額面の通りには受け取れない。
問い掛けた推測が間違っていたとしても、或いは本当に怒っていなかったとしても。
澪は間違いなく、律に対して尋常ならざる厳しい態度で臨んでいた。

 尤も、律にこれ以上追及する余裕などなかった。
膀胱が限界を訴えている。
額から脂汗を滲ませる程に、身を捩りたい程に、耐え難い衝動だ。

「なら、いいんだけど。ごめん、サング。
もう私、耐えられそうもなくて。行っちゃうけど、いい?」

 太腿を忙しく擦り合わせ、態度でも限界を訴えた。
排泄さえ管理されている我が身が、飼い犬のようにも思えてくる。
そのような自分を、惨めだとは思わなかった。
いっそ、本当に飼われて、調教して欲しいと願っている。

「ああ、行っていいぞ。引き留めてごめんな。
今も言ったけど、気を付けろよ」

 許可の出た律は、教えられた道を小走りに進んだ。
それでも履き慣れないチャイナシューズが、急く足の動きを抑えている。
肌に当たる向かい風も鬱陶しかった。背に腹は代えられない。
律は行儀の悪さを承知で、足を大股に動かした。
慣れない靴で無理に走っては転びかねないが、
大きな歩幅で移動するなら安全に距離を稼げる。
そう、思っていた。

 だが、注がれる無遠慮な視線が、律に失態を気付かせる。
大股で歩き始めた時は、然程気に留めていなかった。
下心のある者から見られているだけだろう、程度の認識でしかなかった。
しかし、歩を進めるうち、視線の主に同性も含まれている事を看取した。
自分の身体に何か付いてでもいるのだろうか。
地を大きく跨ぎながら、律は自身の肢体を見下ろした。
そして、頭に上る熱い血の気とともに、理解へと至る。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:45:41.43 ID:2B6vRpJ6o
 深いスリットが入っている為に、脚の動きに裾も連動して靡いている。
その服を着て大股で動くとどうなるか、律の瞳は捉えていた。
太腿の上に載った裾は脚の動きに沿って滑り、脚の付け根をほぼ露見させてしまっている。
股さえ晒しかねない、際どい位置だ。

 知覚によって生じた夥しい感情の氾濫を、脳は慌ただしく処理している。
それが故、歩幅を縮めろという、脚部に発するべき脳の指令は間に合わなかった。
もう一歩を踏み出す動作が、始まってしまっている。
折り悪く、前方から一際強い風が吹いた。
太腿の内側へと滑った裾が強風に煽られ、横へと靡く。
澪にさえ見せた事のない花冠が、手折られる危機を迎えて──

「っ」

 無意識に裾へと手が伸び、赤裸々な露出は免れた。
裾の端に掛かった指が、際どい所だったと教えている。
律は裾を掛け直すと、顔を俯かせて歩き出した。
此処に留まって居られない。

 露出は免れたと言っても、正面からの話だ。
観測者の立ち位置次第では、網膜に収められたかもしれない。
考えてみれば、危機を自覚した今に限った話ではないのだ。
大股で歩き始めた時から、強風は幾度か受けている。
その間、性器を露出させかねない足取りで歩いていた。
視座によっては、覗けた者が居ても不思議ではない。
自分を見ていた周囲は、どのような感想を抱いただろうか。
考えれば考える程、頭が茹って赤面してしまう。

 幸いにも、手洗いは眼前に迫っていた。
律は顔を伏せたまま、視線の追跡から逃れるように突進してゆく。
晒した痴態を人目から隠したい一心が、律の足を動かしている。
そうしてコンクリートの壁を迂回すると、俯かせた瞳が灰色の四角い入口を視認した。
あの中に逃げ込めば、衆目を遮る事ができる。
お化け屋敷の出口に駆け込む童女のように、律は入口に身を躍り込ませた。
入った途端、安堵の吐息が込み上げてくる。
律は憚る事なく相好を崩し、喉に迫り上げた息を吐き出した。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:46:45.41 ID:2B6vRpJ6o
「えっ?」

 顔を上げた律は、目に移る信じ難い光景に短い声を漏らす。
律を迎えたのは、男性たちの驚いた顔だった。
何故ここに律が居るのか分からない、彼等の顔にそう書いてある。
そしてその疑問が当然だと、律も瞬時に気付く。
忘我に飛び込んだ先は、男性用の手洗いだったのだ。

「りっ」

 謝る事さえ忘れて、律は飛び出した。顔が熱い。
直後に、隣接する女性用の手洗いに入ろうとしていた同性と目が合った。
男性用の手洗いから飛び出した律を見て、彼女の顔が驚愕に見開かれる。
そして間を置かずに表情が軽蔑へと変わり、彼女は足早に手洗いの中へと消えて行った。

 折悪しく、気まずい所を目撃されてしまった。
その上で軽蔑を隠さなかった彼女と、同じ場所に入りたくはない。
だが、膨張した膀胱が律の選択肢を奪っている。
律は息を詰まらせる思いで、彼女の後を追って女性用の手洗いへと入った。

 先程の女性は、折好く個室の中に身を収めた所だった。
変質者に向ける視線で遇されずに済み、律は胸を撫で下ろす。
しかし、安堵は束の間だった。
見回す目には扉の閉まった個室が飛び込むばかりで、不運を嘆息せずにはいられない。

 早く何処か空かないだろうか。
脂汗を滲ませながら、祈るような気持ちで律は待った。
太腿を擦り合わせて踵で足踏みし、身を捩らせて必死に耐える。
蹲りたい衝動は抑えられても、尿意に悶える身体を鎮める事は容易でない。
個室から聞こえる衣擦れの音にも、用を終える兆候であって欲しいとの祈りを乗せた。
手洗いの中では、音姫であろう擬音だけが絶えずに響く。

「澪の馬鹿ぁ、私の馬鹿ぁ」

 思わず澪を詰ってしまっていたが、間髪を置かずに言い直した。
直後に轟いた浄水の音が、律の思考を押し流す。
一日千秋の思いで待った扉が、遂に開くのだ。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:47:58.31 ID:2B6vRpJ6o
 実際には、然したる時間は経っていないのだろう。
後続の者は誰も入ってきていないのだ。
だが、待つ身の苦しみの上では、秒針でさえもが緩慢に動く。
今も律は衣擦れの音に耳を傾けながら、穴を穿たんばかりに扉を見つめている。
もうすぐだと分かっているのに、一秒一秒が長く遠く遅い。

 焦らすような間を置いて、漸く先客が扉から出てきた。
待ちに待った瞬間だが、律は下腹部に刺激を与えないよう慎重に歩く。
歩く際の震動さえもが、響いて疼痛のように沁みた。

 個室に入って鍵を掛けた律は、便器の形状を改めて見遣る。
腰掛けずに済む和式である事に、安堵の吐息を漏らしていた。
抗菌スプレーの入ったバッグは、澪の鞄の中に預けたままである。
律は排泄の欲求に急く緊急時でも、衛生面への留意を忘れてはいなかった。
仮に洋式であっても、便座クリーナーやシートがあるなら我慢できる。
それさえなかったら、
トイレットペーパーを便座に敷くという窮余の策に出ざるを得なかった。

 これで安心して、身体の切なる訴えの通りに行動できる。
限界との戦いから開放されるという軽やかな安堵からか、便座へと踏み出す足取りは軽い。
だが、便座の脇に足を置こうとして、律の身体は電流が走ったように強張った。

 律は顎を引いて、身に纏う被服の長い裾を見遣る。
排泄など日常的な生理現象であるにも関わらず、
実際に直面するまでこの問題が頭に擡げる事もなかった。
律は眼球だけを動かして、何度も便座と裾を往復させる。
理解した事態ではあるが、悪足掻きの確認をせずには居られない。

「汚しちゃう」

 往生際の悪い作業を打ち切る為に、律は疾うに確かめ終わっている事を口にも出した。
裾の長いチャイナドレスでしゃがみ込めば、裾が便器の中に落ちて水で汚してしまう。
後方の床や前部の凸部に裾を流す等、方策を頭の中に浮かべてはみた。
だが、僅かな動きで、裾が便器の中に落ちる危険性を排除できない。
加えて、澪から貰ったドレスである。
乾いた床であれ、不浄の場で服を地に付けたくはない。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:49:13.48 ID:2B6vRpJ6o
 裾を持ち上げればいいのだろうか。
足首にまで伸びる裾の長さを考えれば、非現実的な案だ。
裾を折り畳む事にも思慮を馳せたが、
前方のみならず後方も同様の処置を施さねばならない。
二本しかない手で、上手くできるとは思えなかった。
ましてや、事後に拭く事ができない。

 考え付く案が悉く不採用になる中、無情にも尿意は激しく募る。
膀胱に膨満する尿が波を打って、下腹部を内部から圧しているようだ。
もう、猶予はない。

 律は背中のファスナーに手を回した。
これから行なう事を思えば耳が熱くなるが、葛藤している時間はない。
膀胱が破裂せんばかりに膨張しているのだ。
律はファスナーを下限まで下ろすと、袖から両腕を抜いた。
乳房を露わにして、布が地に付かぬよう慎重にチャイナドレスから両足も抜く。
裾を汚さずに排尿するには、チャイナドレスを脱ぐしかない。

「きゃはっ」

 ドレスを畳んだ律が放った吐息は歪んで、笑い声のように弾けていた。
視界には、裸の我が身を映している。
公共の場で胸部も性器も晒して裸になるなど、我が身ながら変態に思えてならない。
この手洗いの壁を隔てた場では、多くの人が文明的な恰好で行き来しているのだ。
思えば思う程に、心臓が激しく波打って呼吸を乱す。
律の吐く息を、歪ませてしまう。

 淫猥な姿に堕したものの、これで漸く目的を果たす事ができる。
律は畳んだドレスを胸に抱えて、便座に就いた。
余裕はなくとも音姫のセンサーに指を近付け、作動させる事も怠らない。
そして川の流音の響く中、耐えてきた堰を切った。

「うわ」

 排出された液体の不規則な軌道に、律の口から呻きが漏れる。
予期した直線を描かずに、出ると同時に弾けて飛沫を散らしたのだ。
飛散は花火のように一瞬で終わったが、直後の軌道は安定していない。
水溶性の膜に覆われた蛇口から、水を放ったかのような動態が辿られていた。
通り道を邪魔する膜が流水に払われてしまえば、軌道も安定に至る。
事実、律の下腹部が楽になるに連れて、軌道も直線へと転じていった。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:50:36.05 ID:2B6vRpJ6o

 律は初め驚きこそしたが、原因に付いては瞬時に察しが付いている。
相次ぐ興奮に見舞われる中で、性器から分泌された粘液が尿道口にも被さったのだろう。
流水を弾いて散らした膜の正体は、それに違いない。

 自覚とともに、性的な含羞を抱いた事象の一つ一つが思い出される。
中華街でチャイナドレスに身を纏った時から、律の身体を刺激して止まないものだ。
ここ、山下公園に着いても、興奮と羞恥は律の身から離れていない
殊に、澪と離れて手洗いに向かった時からは、その連続だった。

「うー」

 胸に抱えていたドレスへと顔を埋めて、律は唸った。
身を焼くような記憶が脳裏に巡って、顔を上げてなど居られない。
痴女に思われても仕方がないくらい、媚態を晒してきたのだ。
澪に告白できなかった小心者のくせに、と、律は胸中で呟く。
臆病者らしく、晒した痴態を恥じて落魄に窶していれば釣り合うのだ。
なのに身体は、身の程を弁えていない。
晒した痴態を悦ぶかのように、粘つく体液を分泌して生理現象の軌道さえ変えていた。

 顧みているうちに、用は終わっていた。
腹部の疼きも消えている。
律は顔を上げると、トイレットペーパーホルダーへと手を伸ばした。
早く拭いて、服を着てしまおう。
公共の場で裸身を晒して興奮する淫奔の沙汰から、早く脱したい。
そう思って伸ばした指は、手応えなく空振りしていた。
勢い、指と指が柔らかく当たり合う。

「えっ?」

 律は拍子の抜けた声を漏らした。
衝かれたように、ホルダーへと首ごと視線を振り向ける。
頭を垂れて謝するようなホルダーの蓋に、律は絶句する他なかった。
ホルダーの蓋を持ち上げてみるが、紙も希望も見当たらない。
律は忙しく個室内に視線を走らせたが、
予備のトイレットペーパーが瞳に飛び込む事はなかった。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:51:38.00 ID:2B6vRpJ6o
「りー」

 律は弱々しい鳴き声を、唇の隙間から零した。
こればかりは、工夫や知恵で乗り切れる類のものではない。
壁越しの個室に話を通して、予備のペーパーを投げ入れてもらえないだろうか。
その案が脳裡を過ぎった直後に、自分へと軽蔑の眼差しを向けた女性の顔が蘇る。
頼める訳がない。
自分の痴態で頭が一杯になり、隣室の挙動など感知する余裕もなかった。
まだあの女性が隣の個室に居る可能性は、決して低くはない。
只でさえ、見知らぬ人にデリケートな儀を頼む事には抵抗があるのだ。
自分を蔑視で遇した人間に懇請するなど、律の弱い心が許容できる事態ではない。

 律は胸に抱くチャイナドレスを見遣った。
このまま、着るしかないのだろう。
理解はしていても、抵抗の念は消えずに残っている。
だからこそ、採り得ない解決策にさえ思いを巡らせたのだ。
貰ったばかりの服に、不浄の跡を付けたくはない。
排尿自体が綺麗に行えた訳ではなかった事も、律の葛藤に拍車を掛けている。
陰部に塗れる粘液が尿を爆ぜさせた際、全ての雨滴が便器へと散っていった訳ではない。
その粘液自身に吸着した尿が、今も律の陰部で泥濘んでいる。
染みや匂いを遮断する下着がない以上、布地や空気が泥濘へと直接触れてしまう。
そうなれば、他者の視覚に嗅覚に、赤裸々な主張を突き付ける惨事へと至りかねない。

 だが。こうしている間にも、澪が律の身を案じて待っている。
悪い男に絆されないよう、念を押して諭してくれた友人だ。
早く戻って、安心させてやりたい。
どうせ選ぶ余地のない懊悩なら、時間を空費しているに過ぎない。
逡巡を経た所で一本道は変わらず、通る時が今か後かの違いでしかないのだ。
結論の出ている事なのに澪を待たせる訳にはいかない。
澪を不安の渦中に置いて、焦らして煩悶させる訳にはいかない。
律は、覚悟を決めた。羞恥が何だというのだ。

 律は立ち上がりざま、チャイナドレスを広げた。
裾が床に付かないよう、そして布地が湿地に付かないよう、慎重に足を通す。
両腕も袖に通してチャックを締めると、僅かに姿勢を前傾させた。
腰を支点に、裾が下へと真っ直ぐに伸びる。
律は裾の具合を確認しながら、緩やかに背筋を伸ばしてゆく。
裾の布地が恥丘に触れたが、滲み出してはいない。
背筋が伸びきっても、染みが布地に浮き出る事はなかった。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:52:47.59 ID:2B6vRpJ6o
 律は心労を押し出すように、長く息を吐き出す。
幸いにも、布地が触れる個所の大部分は、体液の付着の具合が少なく済んでいた。
直下に濃く塗れたゾーンがある以上、楽観まではできない。
それでも気を付けて歩けば、惨事には至らないだろう。

 たかが排尿に、多くの時間と労力を割く羽目になったものだ。
律は疲弊の我が身に呆れながら個室を出た。
入れ替わるように、律の出た個室へと人が吸い込まれてゆく。
待たせてしまった相手は、澪だけではなかったらしい。
自身の優柔不断を省みながら、律は両手を洗う。

 無手の律はドライタオルに濡れた手を翳すに留め、トイレを後にした。
せめてハンカチだけでも持ってくれば良かったと思う。
言うまでもなく、手を拭く為ではない。
染みて匂って悟られないかとの懸念を、粘って纏わる液もろともに払拭する為だった。

 澪の下へと戻る道は険しさを増して、辿る律を苛んでいる。
風で煽られる度、痴態が露わになってしまいそうだった。
今や、太腿を滑るスリットだけが脅威なのではない。
風や動作で匂いが飛散して、往来する人の鼻腔に痴女の存在を宣していないだろうか、と。
律は頻りに周囲を気にしながら歩いた。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:53:57.96 ID:2B6vRpJ6o
 四方へと張り巡らせた律の意識も、愛しき者の姿を捉えては一点へと収まる。
無遠慮な視線に犯され続けた律を、澪は抱擁で迎えてくれた。
腰と肩に回された澪の手も、耳元で囁かれる澪の声も、
律は多淫に仕上がった一身で受け入れる。
澪が、欲しい。
生殺しにされた性が疼いて、澪を欲している。

「やはり今のお前は、一際目を引いているな。
命知らずな野郎に絡まれたりしなかっただろうな?」

 言った後で、澪が威嚇するように鋭い瞳を左右に振った。
獲物の横取りを許さぬが如き澪の剣幕に怯んだのか、
律に注いでいた不躾な視線の群れが一様に伏せられる。
いつになく激しい澪の態度が、
自分が掛けてしまった心配の大きさを物語っているようだった。
律が葛藤に費やした時間を、澪は心労に費やしていたに違いない。
自分が彼女の下を離れて手洗いへと行く時から、澪は律を案じていたのだから。

 もし、これが唯ならば、と律は思う。
「遅いよー。あ、もしかして。りっちゃん、うんこ?」
などとデリカシーの欠片もない問いで、律の乙女心を踏み躙っていたに違いない。
脳裡には、嘲弄的な笑みを浮かべた唯の顔が蘇っている。
彼氏の有無で揉めた先日、律を煽ってきた時に見せた笑みだ。

 澪ならば、思っても口にはしないだろう。
現に、心配の言葉だけを掛けてくれているのだから。

 そこまで考えて、律の胸が焦燥に急いた。
澪には、野卑な想像さえも避けて欲しい。

「うん、大丈夫。でも遅くなって、心配掛けちゃったよね。
ただ、お手洗いで順番待ちしちゃって。紙もなかったし」

 言い訳でもするかのように、言葉が自然と口を衝いていた。

「紙がなかったのか?それで、どうしたんだ?
ティッシュも何も持って行ってないだろう?」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:55:35.98 ID:2B6vRpJ6o
 澪がその疑問を口にするのも当然ではあるが、答えるには躊躇する。
抱いて当然の疑問だけに、問われるとの予期もあった。
そして、紙がなかったなどと余計な事は言わず、
手洗いが混んでいたとだけ伝えていれば、受けずに済んでいた問いでもある。
にも関わらず正直に告げたのは、澪を心配させた負い目があるからに他ならない。
答えも正直を貫いてこそ、責を果たした事になるのだろう。
加えて、澪に確認しておきたい事もあった。
律は逡巡を押し遣って、重い口を開く。

「拭いてないの。それでね、本当のこ」

「えっ?拭かずに出たのか?どうりで強い匂いが」

 律が言い切らないうちに、驚いた様子の澪が声を割り込ませていた。

「ええっ?」

 律も澪にみなまで言わせていない。
受けた衝撃の大きさ故、最後まで口を閉じている事ができなかったのだ。
──本当の事を言って欲しいんだけど──などと前置きして、澪に問うまでもなかった。

「うっ、嘘っ?やっぱり匂うの?分かっちゃうの?」

 瞳の奥から滲んでくるものを感じながら、律は半狂乱に問う。
羞恥のあまり、泣き出してしまいそうだった。

「ごめんな、冗談だよ。律からはいい匂いしかしないよ。
いや、冗談というよりは、いつも以上に快い香りがするように感じるよ」

 柔らかく告げる澪の声が、取り乱していた律の鼓膜を叩く。
律は潤んだ瞳で澪を見上げながら、瞬きを繰り返した。
そうして、澪の言葉を咀嚼して遅い理解に至った律は、抗すべく口を尖らせる。
言いたい事ばかりが脳裏を巡るが、喘ぐような呼気に阻まれて声が上手く出せない。
唇の隙間から短く一言漏らすだけで、精一杯だった。

「意地悪」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:56:52.82 ID:2B6vRpJ6o
「ごめんな」

 澪がハンカチで律の目元を優しく叩いてくれた。
ただそれだけの動作で、あれだけ取り乱していた律の心が落ち着きを取り戻してゆく。
動から静へと至る過程すら、律の心それ自身を以って感じ取れる。
意地悪をされても優しくされると許してしまう。
自分の心は澪に掌握されて為されるがままだと、諦めにも似た気持ちで律は思った。

「でも。正直な所は、どうなの?本当に冗談で言ったの?
匂ったりしてない?」

 落ち着いたところで、律は改めて問い直した。
冗談と言う澪の発言を信じ切る事ができない。
本音を零してしまったが、律の取り乱した態度を見て繕った。
その疑念が、頭に擡げている。

「言ったろ?律からはいい匂いしかしない、って」

 澪は先程と同じ答えを繰り返した。
即ち、澪は今も先程も、無臭だとは言っていないのだ。
そこに律は拭い切れない疑念を抱いている。

「つまりそれって、匂うって事じゃ」

 律は確認するように言うが、口から漏れる声は細く弱く消え入ってゆく。

「そんなに心配なのか?なら、確かめてやるよ」

「えっ?あっ」

 律の了解を待たず、澪が顔を律の首筋に沿わせてきた。
頬に当たる澪の髪の感触が擽ったい。

「ちょっとっ、みっ」

 首の付け根に呼気を感じ、律は堪らず声を上げた。
吸音まで聞いては冷静で居られるはずもないが、
それでも”澪”と叫びかけた声は途中で押し留める。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:57:52.26 ID:2B6vRpJ6o
「うん。いい匂いだ。
律が気にするような匂いは一切ないよ」

 律の首に顔を埋めていた澪が、表情を持ち上げて耳元に囁いてきた。

「なっ、何言ってるんだよぉ。
そんな事してくれなんて、私言ってないし」

 自分の身体を嗅ぎ取られた律は、恥辱で息も絶え絶えに抗言を張った。
だが、澪に気にした様子は見られない。

「律がしつこく気にしているから、確かめてやってるってだけだろ?
それに。お前、いつから私に命令できるようになったんだ?
私はお前に何を言われようと、お前の身体を好きなように扱うよ。
お前が私に出来るのは、お願いとおねだりだけだ」

 硬直して言い返せない律を眼前に置いて、澪は一呼吸だけ置いて付け加えた。

「だって今日の私は、お前の彼氏役なんだろ?
恥ずかしい事をやらせてきたりする、サディストな彼氏なんだろ?」

 高圧的に振る舞う澪を、律は拒めなかった。
田井中律を所有している者は、自分ではない。
澪の言う通り自分に許されている事など、赦しを乞うように懇願する事だけだ。

「お願い、サングー。
熱くて蒸しちゃって、汗とかもいっぱい掻いてるから。
だから」

「だから、匂わないか心配なんだろ?だから、確かめて欲しいんだろ?」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 20:59:11.59 ID:2B6vRpJ6o
 澪が後を引き取って言った。
律が言わんとしていた内容とは正反対である。
だが、律が訂正をする前に、澪は動き出していた。
律の髪の毛に、早くも澪の鼻腔が埋まっている。

「サンッ、うー」

 律は頭に熱気を上らせながら耐えた。
澪の放つ呼気が髪の中で燻り、痒みのような疼きが首筋に走る。

「うん、いい香りだ。ん?暑いのか?耳まで真っ赤だぞ」

「熱いんだよー」

 律は身体の状態を答えたが、澪は同音異義を聞き分けられただろうか。
尤も、問うた澪とて、気温だけが原因だとは思っていまい。
恥ずかしがらせると宣していたのだから。

「みたいだな。
そのせいで今日はいっぱい汗をかいているだろうから、入念にチェックしてやるよ」

 律の襟元から胸部へかけて、澪の鼻が黄色いシルクの上を滑ってゆく。
執拗に嗅ぎ取る吸音を、間断なく響かせながら。

「やっ」

 乳首を鼻の頭で擦られた律は、短い声とともに背を仰け反らせた。

「逃げるなよ。ここは特にいい匂いがするんだ」

 澪の強い力に引き寄せられては、律も抗いようがない。
そう、圧倒的な膂力に屈しただけだ。
澪の甘い言葉に擽られたせいではないと、律は自分に言い聞かせる。

 その間にも澪の鼻梁が、無抵抗な律の胸部を蹂躙していく。
双の房の合間、露出した谷間も、澪に容易く侵略された。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:00:24.58 ID:2B6vRpJ6o
「堪能したよ。芳しかった」

 律の身体から顔を話した澪が、満足を表情に浮かべて言った。
律は解放感に全身を弛緩させ、口を尖らせる。

「もー、強引なんだから。じゃあ、もうお終いっ。休も休も」

「いーや、お腹や背中も確かめて欲しいだろ?」

 澪の手に力が籠もり、律も再び身体を強張らせた。

「いっ、いいよ。そんな事しなくて」

「遠慮するなよ、お前らしくない。あっ、そうか。
こっちの方が気になるもんな。こっちを確認して欲しいって事か」

 澪は慌てて拒む律を意に解していなかった。
一方的に納得して、律の左腕を持ち上げている。

「あっ、こらっ、だめっ」

 腰を屈めた澪の姿勢に、律も彼女の意図を察して喚く。
急いで腕を閉じようとするが、澪の腕力には適うはずもない。

「ねっ、そこだけは、めっ、なのっ。許してよ」

 律の懇願は、無情にも聞き入れられなかった。
澪の端正な顔が、律の腋へと埋められてゆく。
そして、吸音が、響いた。

「やぁっ」

 顔を反らして呻く律に、自分達へと視線を注ぐ衆人の姿が映った。
一様に軽蔑が顔へと浮かんでいる。

「っ」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:01:45.40 ID:2B6vRpJ6o
 込み上げる激しい恥辱が行き場を求めて、瞳から雫となり滴り落ちた。
唐突に学校での平穏な日々が思い出され、皆の笑顔が脳裏を巡る。
あの日々の自分と、大衆から蔑みに満ちた視線で遇される自分が、
同じ存在だとは到底信じられない。隔世の感だ。
あの日々を恋しがれば恋しがる程に、涙が溢れて止まらない。

「許してよぉ……恥ずかしくって死んじゃうよぉ」

 涙声を喉の奥から絞り出し、律は必死の思いで嘆願した。
それが通じたのか、単に目的を果たしただけなのか。
澪の顔が律の腋から離れた。

「発汗が他より多い部位だからな。
律の甘酸っぱい香りが濃厚で、病み付きになりそうだよ」

「馬鹿っ。止めてって言ったのに」

 律は濡れた瞳で澪を睨みつけた。

「悪かったな、焦らしたりして。怒るのも分かるよ。
だって、律が嗅いで欲しかったのって、こっちなんだもんな」

 澪の視線が落ちて、律の恥丘へと注がれた。
律は慌ただしく手を当てがって、澪の視線を遮り喚く。

「やぁっ、ここは駄目っ。絶対の絶対の絶対駄目っ」

「匂わないか私に聞いてきたのは、律の方だぞ。
拭いてないんだろ?
だから周囲に匂いを撒き散らしていないか、気になって仕方がないんだろ?」

 澪の言う通りだった。始めに自分から質問している事に違いない。
髪にも首にも胸にも腋にも言及はしていなかったが、
今澪の視線が注がれている局部には言及していたのだ。
そこばかりは、逃れようがない。
そして、強引に蹂躙の限りを尽くした澪が、逃してくれるはずもない。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:02:49.72 ID:2B6vRpJ6o
「いやっ。ひっく、ぐすっ、えぐぅっ」

 反論も許容もできない律は、泣きじゃくる事しかできなかった。
そこを許してしまえば、往来する人も蔑みの色が強まった目線で律を糾弾してくるだろう。
耐えられない。

 だが、無慈悲にも澪は動いていた。
衣擦れの音が、彼女の息遣いが、人に篭る温度が、律へと迫りながら危機を告げている。

「ひぐっ」

 澪の指が自分へと触れて、律は強く目を瞑った。涙の粒が、瞼から振り落ちる。
だが、吸音は聞こえてこない。澪が触れた場所も恥丘ではなく、頭頂の髪だった。
優しく髪を撫でる澪の仕草に、律は促されたように感じてゆっくりと目を開いた。
その指使い同様に優しく微笑む顔が、霞んだ視界の向こうに映っている。
ぼやけていても分かる、律を甘やかしてくれる時の顔だ。

「悪かったよ。律がそんなに嫌がるなら、やらないよ。
それに。やるまでもなく、分かってる。
何をした後の何処を嗅いだって、律からはスウィーティーな匂いしかしないって事」

 律を気遣う澪の舌は、喋って慰めるだけの用で終わっていない。
律の眼窩の直下に伸びて、零れた涙を舐め取ってくれた。
律は潤んだ瞳で澪を見上げ、顔に這う愛撫を受け入れる。

「泣かせてごめんな。瞳まで涙に濡れてる。
ちゃんと、拭ってやるからな」

 澪の舌は休む暇もなく動いた。
口内に引っ込んで謝罪の言を繰り出した直後には、
再び口唇から飛び出て律へと伸びてきている。
澪の赤い舌先が、明瞭となった視界の中で大きくなってゆく。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:04:31.23 ID:2B6vRpJ6o
「えぅっ」

 澪の舌先が瞳に触れた途端、律は反射的に瞼を閉じて背も仰け反らせた。
眼を衝いた生暖かい感触が、遅れて瞼の裏で走っている。

 開いたままの右目で見遣った澪は、律の顔を覗き込んでいた。
嫌か?と視線で問うてくる澪に、律は閉じていた瞼を開いて答えに代える。
泣いた自分を慰撫してくれる、澪の愛撫に浴していたい。

 もう一度伸びてきた澪の舌を、律は左目を開いたままで受け入れた。
瞳の上で舌先が転がり、間断なく痛みと違和を律に走らせる。
閉じそうになる瞼を意志で抑える度、異常を訴えるように目の回りの筋肉が痙攣した。

 目の中に入れても痛くない、その思いで澪を見てきた。
だが実際には、慣用句では収まらない思いを抱いていたらしい。
今や、目の中に入れる痛みを受忍してでも、澪を求めてしまう。

「あっ、はぁっんっ」

 深く侵入してくる澪の舌に、律は耐え切れずに声を漏らした。
瞼の裏側が攻められ、眼球の上部曲面に海鼠のような舌が這ってきている。
澪に塞がれて、瞼は閉じられない。瞬きの自由さえも奪われていた。
瞬きせずとも、瞳は乾く暇がない。
澪の唾液が、律の眼に塗り付けられてゆく。

 視界が揺れ動く。
否、何も映っていないのに、視界が揺れている。
酔ったように気持ちが悪い。
嘔吐しそうな感覚が、澪が舌を置く奥の奥の脳から放たれている。
唾液か涙か、眼窩の縁に水気が堪り、自重で頬を伝っていった。

「うえぇ……み、おぉ」

 堪えた嘔吐に代わって、澪を呼ぶ声が口から漏れ出ていた。
サング、などと繕う思考の余裕はない。
瞼に始まった痙攣は全身に回り、立っている事にさえ限界が訪れている。
下半身の力が抜けて、腰から崩れていってしまいそうだった。
膝が、折れる。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:05:26.84 ID:2B6vRpJ6o
 律が崩れ落ちるよりも早く、澪が機転を利かせて動いていた。
立つ事も侭ならない律の腰に手を回して、身体を支えてくれている。
膝を折ったまま、律は顔を上方へと向けた。
そこに澪の口唇が降りかかってくる。
頭から食べられるような心持ちで、律は澪の唇を眼に受け入れた。
優しい口付けにも、違和に敏い瞳が瞬きの欲求に疼く。

 重力に逆らえないほど身体が困憊していても、律に休む間は与えられなかった。
澪の口唇から這い出た舌先の表面が、律の瞳に覆い被せられる。
澪の味覚を担う器官が、口中の飴玉を転がすように上下に動く。
それは緩慢に始まり、往復を重ねるうちに激しさも伴っていった。
そうして、澪の味蕾を気にしていた律から、それだけの思考の余裕が奪われてゆく。

 目が回る、脳が回る。
眩暈と吐き気に現実感を奪われる中、鋭い痛みだけが律に現実味を与えている。
制御できない涙液が涙腺を通って鼻に落ち、喉にも流れ込んでゆく。
揺らされる視覚を通じて脳が犯され、身体の末端が小刻みに震えた。
汗が、涙が、涎が、自律を保てない身体から流出してゆく。
自我も、保てない。自分が壊れる。

「み……お……」

 壊れてしまう前に、と。
律は荒い息と嘔吐の欲求の間隙から、愛しき者の呼声を喘がせた。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:06:54.43 ID:2B6vRpJ6o
 直後、空いていた方の目が、愛しき者の姿を捉える。
律の眼窩に被さっていた口唇も間近に見えた。
その隙間に覗く舌先から、細い糸が自分へと落ちている。
唾液が引いた糸だと理解する間に、それは澪の唇の中へと吸い上げられていった。
吸い込んだ澪の喉が鳴り、嚥下を知らせる。

「大丈夫か?」

「うん。ちょっと、くらくらするけど」

 澪の問いに答えるも、
呂律の回らない舌が”ちょっと”どころではないと告げてしまっていた。
舐められた側の目にも痛みの余韻が燻り、閉じた瞼を開ける事ができない。

「だろうな。綺麗にしたら、少し休もうか」

 澪がポケットから取り出したハンカチで、唾液と涙に塗れた律の目元を拭いてくれた。
律は異物感が緩和された左目を、緩慢な動作で開く。
視力が完全には回復していない為か、視界には霞んだ輪郭ばかりが映る。
それも衝撃が齎した一時的なもので、直に戻ってくるだろう。
脳が揺れたような眩暈もまた、少しずつ落ち着いてきている。

 同時に、自分の身体の状態を把握する余裕も戻ってきた。
全身の肌から滲んだ汗で、身体全体が湿気を纏って蒸れている。
吸汗性に優れているシルクの素材の内側にも、
高温多湿の熱気が籠もって肌を沸かせていた。
だが、蒸気に似た湿気が纏わりつく肌よりも、一段と律の注意を引く局所があった。

「おいで、律」

 ベンチに座った澪が、隣の席へと手招いていた。
誘われるままに澪の隣席に座すべきか、律は局所の状態を知覚しながら迷う。
そこを湿らせる液体は、粘液だけではない。
澪に狂わされて制御の効かない身体は、膀胱の隅々からも液体を絞り出していたらしい。
感覚的な濡れ具合が、それを律に教えている。
幸いにも手洗いに行った直後だからか、極めて少ない量で済んでいた。
膀胱の内部に堪った状態であったのならば、
失禁する様をライブで人々に露呈していた事だろう。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:08:08.34 ID:2B6vRpJ6o
 一方で、同時に湧いた粘液は、夥しい量を律の局所に塗りたくっていた。
溢れた液が脚の付け根を越えて垂れ、性器の真下にある太腿の内側までも濡らしている。
服に染みが浮き出て、淫らな形跡を赤裸々に晒していないだろうか。
恐れながら目を向けた律は、布地が恥丘に貼り付いてしまっている事に気付いた。
局部の形状を、委細隈なく明晰に浮き上がらせている。
目立たないだけで、滲み出た染みも見えた。
だが律は、形跡よりも形状を浮き上がらせる事の方が、遥かに恥ずかしい。
堆い恥丘が布地を突き上げていただけの時とは、含羞の深刻さが違う。
律は慌てて裾を摘むと、布地と性器を引き剥がした。
そうして律は布が肌から離れた開放感の直後に気付く。
蓋を開けて、抑えられない且つ止まらない漏出を招いてしまったのだと。

 酸味の強い匂いが弾け、律の鼻腔を衝いた。
爆ぜた液も地に落ちて、落下地点に染みを増やしてゆく。
地を彩る飛沫の跡から察するに、眼球を舐められている最中にも垂れていたらしい。

「変態」

 澪の口から発せられた罵声に、律は身を震わせた。
だが、目を向けて映る澪の顔に、軽蔑の色は浮かんでいない。
茶化すような笑みが浮かんでいるだけだ。
澪から蔑まれなかった事に、律は胸を撫で下ろす。
澪は律が口にしていた彼氏の像を演じているだけなのだ。

「何をポタポタと漏らしてるんだよ。真性だな。
目を舐められて感じちゃったのか?」

 律は小さく顎を引いて頷くと、小走りで澪の下へと向かった。
まだ脳の奥に残る眩暈が、足元を覚束なくさせている。
それでも転ぶ事なく澪の前まで辿り着ける程度には、回復してきていた。

 迷っていた事に決断を下した律は、澪の眼前に立って口を開こうとする。
だが、言おうとしていた言葉が口中で絡んで出てこない。
先程は恥ずかしさから逃げてしまった事を、頼む決心が漸く付いたというのに。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:09:19.55 ID:2B6vRpJ6o
 口に出せないのなら、態度で示せばいい。
律は座ったままの澪へ向かって、歩みを進めた。
澪の顔と律の服が触れ合える距離まで、深く狭く近付く。
そうして澪の鼻先へと、恥丘を突き出した。

「何だよ?」

 対する澪の口調は、突き放すように冷たい。
軽蔑するような視線も、律の熱く溶ける局所を突き刺している。

「トイレの時に躾けたはずなんだけどな。
私に何か伝える事があるなら、言葉にしてみろよ。
ここを、どうして欲しいんだ?」

 澪は”ここ”の指し示す部位を、中指の先端で以って強烈に弾いた。
中指の先端を親指で抑えてから弾き出すこの動きは、
所謂「でこぴん」と呼ばれるものではある。
だが、今その呼称を用いるのは相応しくないだろう。
律が打ち込まれた箇所は、額ではないのだから。

「んぅっ」

 固い爪の背が過敏な場所へと叩き込まれた律は、堪らず苦悶の呻きを上げていた。
同時に、打たれた部位が重く湿った音を上げる。
そこに多く含まれた水気が防音材の用を為し、衝撃の齎す轟音を鈍らせたのだろう。
鋭い痛みに息を荒げながらも、部活の成果なのか音に対しては敏感だった。

 打擲の爪痕は、音と痛みだけではない。
地に落ちた飛沫も、澪が与えた一撃の強烈さを物語っていた。
滴を零すほど激しく陰唇が震えたのなら、
体液だけではなく匂いも撒き散らされたに違いない。
だが、澪の嗅覚に届いた程度では、律の本願を満たすには至らないのだ。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:10:35.43 ID:2B6vRpJ6o
「で、何だ?」

 悶える律に澪は容赦がない。
再び指を構えながら、問いの文句を繰り返していた。

 一方の律も、腰を引きはしない。澪の眼前に構えたまま、躾けられた通りに口を開く。

「嗅いで?」

 泣いて逃げた時よりも艶やかに塗れて匂いの濃くなった性器が、
澪の目先に布一枚を挟んで蕩けて泥濘んでいる。

「それでいい」

 応えた澪の鼻梁が、突き出した律の恥丘を布越しに弄った。
粘つく糊を捏ねるような音に交じって、澪の鼻の鳴らす吸音が響く。

「どうかな?
汗とか……色んな液とかで、凄い事になっちゃってると思うんだけど」

 性感と含羞に身を上気させながら、律は問い掛けた。

「ああ、堪らない。お前の雌の匂いに、脳が犯されてるみたいだ。
こんな垂涎の上物、お行儀良く嗅いでられるかっ」

 前から後ろへと回された澪の大きな両手に、律の臀部が鷲掴みに抱かれる。
そして逃場を失った律の下腹部に、澪の顔が強く強く押し付けられた。
比例して澪の吸音も、強く大きく荒々しくなってゆく。

「もー、飢えちゃって。乱暴なんだからー」

 律は口を尖らせるが、内心は満更でもなかった。
澪は律の香を獰猛に貪るほど、甚く気に入ってくれたらしい。
衆人の中で性的な羞恥を強いられる行為であっても、
惚れた相手に強く求められて悪い気はしなかった。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:11:44.27 ID:2B6vRpJ6o
「もっと乱暴に扱ってやるよ。
私は恥ずかしい事をやらせる彼氏、だったよな?」

 顔を上げた澪が、確認するような口振りで同意を求めてきた。
間違いなく自分が口にしていた言葉なので、否めはしない。
だが、不要な発言で言質を取られたなどと、嘆ずる念も湧いてはこなかった。
唯達に語った彼氏の像は虚栄ではなく、唯の指摘した通りに願望だったのかもしれない。
と、今更ながら、律は気付いた。

「うん。恰好良くって頭も良くてスポーツも得意で、
優しくて甘やかしてくれてお姫様みたいに扱ってくれて、
でも辱めてきたりもするサディスティックな彼氏、だよ」

 本心だから、だろうか。
律は澪の言葉に、弁も滑らかに同調する事ができた。

「なら、遠慮なく。もう後悔しても遅いから、覚悟だけしろ」

 傲然と言い放って立ち上がる澪を、律は一歩も場を譲らずに迎えた。
元から詰めていた距離である。
澪と律の間で、互いの衣や肉が擦れ合った。
そうして後、二人は互いの肌を向かい合わせて圧し合う体勢となる。
間を置かず、澪の胸の中で律の身体が回り、澪の胸に背を預けて止まった。

「鼻を直接宛がって確かめるだけじゃ不十分だ。
匂いが周りに霧散しないかも、確認しないとな」

 律を後ろから抱き支える澪が、耳元で囁いた。
耳朶に被る息と低い声が、擽るように律の耳小骨を愛撫して響く。
堪らず顔に朱の線を走らせながらも、律は首を縮めて耐えた。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:12:56.71 ID:2B6vRpJ6o
「それに、濡れて漏れて蒸れちゃってるぞ。
だから、そこの風通しも良くしてやるよ」

 澪は継いだ言葉で律を嬲ってから、左腕を同じ側にある律の膝下へと添えてきた。
そして右腕で律の腰部を支えながら、律の左脚を上方へと引っ張って伸ばす。
右脚との角度が広がるにつれて、股に疼痛が募ってゆく。
左脚が腰と水平になる頃には、裂かれるような苦しみに喘いでいた。
股関節にも強い負荷を感じ、堪らず右脚を跳ねさせて足掻く。
澪に支えられていなければ転倒してしまうだろうが、
転んで地へと逃れた方が如何に楽か知れない。

 一方の澪は、残酷なまでの徹底ぶりで応じている。
自身の右脚を律の股下に割り込ませる事で、拘束の度合いを強めてきていた。
澪の逞しい右脚が、律の右脚に当て木のように添えられる形となる。
これではもう、足を跳ねさせて逃げる事も適わない。
その上で、澪は無慈悲にも左腕に込める力を増していた。

「外れちゃうよお」

 律は息も絶え絶えな口から、泣き言にも似た声を漏らした。
軋む脚の付け根が、股関節の脱臼の危機を告げている。
骨の継ぎ目が擦れる音さえ、腰の奥から響いてきそうだった。
身体が解体される痛みに、律の口から苦悶の吐息が漏れ出る。

 その吐息を限界の合図と見たのか、澪が動きを止めた。
右脚から頭頂部を真っ直ぐに結んで直立する幹の横に、
斜め上へと向けて左脚が伸びている。
爪先の高さと肩の高さが水平に近い律の姿は、
正面から見た者には片仮名のトの字を逆さにしたように映る事だろう。

 尤も、律は記号や象形文字の類ではなく、生身の体を持った人間である。
開脚が止まっても、無理な姿勢で留められた身体は苦痛に軋んだ。
吐く息も荒く、湿り気を帯びている。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:14:11.33 ID:2B6vRpJ6o
「辛いか?痛いか?苦しいか?」

 問い掛けてくる澪に、律は肯んずる態度と言葉を繰り出そうと思う。
実際、喉元にまで言葉を上らせ、声に出しかけていた。

「私から解放されたいか?」

 だが、続けて放たれた澪の問いを、律は肯んずる事ができなかった。

「どうなんだ?」

 黙した律に、澪が答えを迫ってくる。
そうなのだ。澪は明言を求めている。
全てはお前次第だ、と突き付けられているのだ。

 律は首を振った。
仕草だけでは足りないと思い、言葉も態度に追わせて放つ。

「んーん、解放、しなくていい」

 律の口から出た答えに、脚の付け根が痛みで不満を訴えている。
反面、そのすぐ傍にある律の性の象徴は、口から出た回答を歓迎していた。
律の”ここ”は痛みでさえも甘受して、女としての幸せに変えてしまう。
さながら、出産のように。

「そこは全開の寸前まで開放しかけてるけどな」

 律の腰を抑えていた澪の右手から、発話に合せて中指が伸びる。
指し示す先を目で追うと、斜め上に張られ続けている左脚の根が映った。
左脚の傾斜に沿って裾が肌の上を滑り、
大きく開いたスリットが律の太腿を付け根まで余さず露出させている。
そして、露見は太腿に留まっていない。下腹部の縁の際どい所まで覗けていた。
堆い恥丘が引っ掛かりとなって、滑る裾を極限の所で堰き止めたようにも見える。
危うい縁の差の死守だった。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:15:37.09 ID:2B6vRpJ6o
「ね、サング。それで、どうかな?
ここまで開放しちゃうと、やっぱり霧散しちゃってるかな?
匂い、撒き散らしちゃってる?」

 全壊の寸前まで開放しかけた股が、絶え間のない激しい痛みを走らせる。
それに発声のテンポを乱されながらも、律は問い掛けた。
付け根付近に湿潤して放たれる艶が、目に付いて離れない。
眼球を舐められて感じ入った際の跡に違いなかった。
ここまで濃く多くの体液を溢れさせてしまった身が、
蓋を極限まで取り払った状態で往来に晒されている。
激痛を押してでも、匂いの程度を訊ねずにはいられなかった。

「誘因されるようだよ。
覆うもの何もなく、ヴェール一枚で視覚だけ遮って、大開脚だもんな。
強烈鮮烈峻烈。
この匂いだと、風向き次第で十メートル越えた所の人間まで振り向かせるんじゃないか?」

「大袈裟、だよ。桁が違うし」

 喘ぐ呼気の合間に言葉を割り込ませ、律は反駁を試みる。

「あながち、大袈裟とは言えないな。ほら、ご覧?
皆、お前に注目してるぞ。放つ香りに誘因されてるんじゃないのか?」

 澪が指摘する通り、今の律は衆目を一身に集めている。
だが、嗅覚に訴えて集客の功を為した訳ではない。
今始まった事ではないのにと、律は口を尖らせた。

「前から、じゃん。さっきから、恥ずかしいかっこ、してるからぁ。
きっと皆、私の事、淫らな女だって思ってるんだ」

 否定できない痴態が、隠せない滴となって股下から落ちている。
下着を剥いだ身では、自重に耐えかねて滴る体液を堰き止められない。
大きく開脚した姿勢も、垂水の湧出に拍車を掛けていた。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:16:46.93 ID:2B6vRpJ6o
「ああ、そうか。言われてみれば。さっきからずっと、お前見られてたもんな。
遠近を問わず、皆見てから通り過ぎてったっけ。
淫らな、今自覚してるまんまな見目のお前をね」

 今気付いたかのように澪は言うが、白々しい振る舞いを隠そうとはしていない。
説明するような口調にも、態とらしさが染み出ている。
だが、むくれる律に構う事なく、澪は言葉を続けた。

「でも匂いが拡散されているのも事実だよ。
お前が放っているんだって、気付いている者もいるはずだぞ」

「そんなぁ」

 喉から漏れる恥じ入った声を、自分でも白々しく思う。
匂うとの蓋然性を股の具合から自覚して、澪に嗅ぐよう頼んでいたのだ。
澪の物言いを態とらしいなどと詰れた筋合いではない。

「分かってたくせに」

 律の胸の内を透かしたように、澪が追い討ちを掛けてくる。
耳を嬲る言葉に対し反論できず、律は耳朶に熱を篭らせる一方だ。
自身の顔色を視認できずとも、耳まで赤くなる自分が鏡像を通したように自覚できている。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:17:39.11 ID:2B6vRpJ6o
 行き交う人々も律の羞恥を煽って止まない。
痴態を晒す律の姿は、好奇と下心が込められた視線の的となっている。
勿論、瞥見に留めるだけの理性を持った者が過半ではあるが、
無遠慮に眺めてくる者も少なからず居た。
通りすがりにスマートフォンを構えて、撮影や録画を行う者も散見できる。
大胆にも、デジタルカメラで堂々と撮影及び録画を行っている者さえ居た。
観光地だけあって、デジタルカメラを持ち込んでいる者も少なくはないのだ。
鮮明に、克明に、律の晒す痴態がメディアへと巻き取られてゆく。

 メディアに記録された淫縦な姿は、
動画サイトやSNSにもアップロードされるかもしれない。
田井中律という個人の特定に至るだろうか。
知り合いの目に留まって軽蔑されてしまうだろうか。
そして、ネットを通じて全世界の人々の目に留まり、
この地球という星に生きるありとあらゆる人種から変態のレッテルを貼られてしまうだろうか。
或いは、ワールドクラスの変態として淫祀されるのだろうか。

 視線に犯される状況下で、律の想像が暴走してゆく。
股を裂く鋭い痛みも、自我を保つ用は為していない。
逆に脳から冷静に思惟する余裕を奪う形で、妄想の誇大化に与してさえいた。

「り?」

 その時、母親と手を繋ぎながら歩く子供が律の目に止まった。小学生くらいだろうか。
律の正面前方を通り過ぎようとする彼は、聡よりも幼く見える。
だが、律の方を盗み見る視線に、彼の男性性が萌芽を覗かせていた。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:18:45.73 ID:2B6vRpJ6o
「あはっ」

 盗み見る彼と目が合った拍子に、律は笑いかけてみた。
言語を絶する痛みの中でも、表情を攣らせる事なく笑顔が作れたと思う。
初体験の最中で彼氏に笑い掛けている気分だった。

「っ」

 反射的に顔を伏せる彼の初々しい姿が可愛らしい。
息を呑んだ少年の吸音まで聞こえてくるようだった。
そして、伏せったまま時折向く横目も、律の悪戯娘としての性を刺激していた。

「えへへ」──ませた子供に悪戯しちゃおうかな。

 律は右手を伸ばすと、左側の下腹部に掛かる裾を摘まんだ。

──いいもの、見せてあげるね。

 痴女の目が我が子へと向いている事に、母親も気付いたらしい。
『見てはいけない』と言う間も惜しんだ母親の手が、我が子の目元へと伸びる。
間に合わない、という焦燥が彼女の顔に表れていた。

 そう、間に合わない。裾を摘まんだ律の右手が、右側へと動く。
そうして晒される生殖器は、間違いなく少年の視界へと飛び込むはずだった。

「こらっ、律っ」

 だが、少年の目は、淫猥な光景に当てられずに済んでいた。
『見てはいけない』と我が子を守る母が居るように、
『見せてはいけない』と律に躾ける存在が居る。
その存在たる澪が、怒声を放ちながら自身の右手で律の右手を払い除けたのだ。
同時に、律の左脚を掴んでいる澪の左手が、戒めるかのように上げる力を増す。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:19:48.79 ID:2B6vRpJ6o
「痛ぁっ」

 股に掛かる負荷が増して、律は堪え切れずに悲鳴を漏らした。
律は激痛に悶えながらも、少年の母親が自分へと向けた表情は捉えている。
嫌悪と軽蔑と怒りを隠す事なく、眉間も頬も口元も歪めていた。
穢らわしい”忌き物”に向ける表情そのものだった。
それは決して”人”に向けて良い表情ではない。
顔に唾を吐かれた気分で、律は親子の後姿を見送った。
もし射程の範囲内に居たならば、本当に吐き掛けられていたに違いない。

「誰彼構わず、場所も弁えずか?このド淫乱が。
幼い男の子にそんなものを見せて、トラウマになったらどうするんだよ?」

 無言で侮蔑の表情だけ残して去った母親に代わり、澪が怒気を露わに耳元で凄んでいる。

「ごめんなさい。でも、トラウマは人聞きが悪いもん。
そんなグロテスクじゃないし。あ、確かめてみる?」

 弁解の途中で浮かんだ思い付きを口にして、律は裾を摘んで見せた。

「確かめるついでにね。直接、嗅いでみたらどうかなって。
さっきは、生地を間に挟んでたし」

 誘う律の脳裏では、スリットから両肩を露出させて裾に潜り込む澪の姿が浮かんでいる。
そこで律の陰唇に鼻を押し付けて、存分に匂いを吸引するのだろう。
生地を通した匂いでさえ、澪の見せた興奮は常軌を逸していた。
ならば、嗅覚と対象が密着した状態で直接嗅いだのならば、
澪はどんな反応を見せてくれるのだろうか。
悦びを先取りした心が逸って止まない。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:20:58.24 ID:2B6vRpJ6o
「いーや、私は確かめないよ。私なんかが、そんな事しちゃ駄目だろ?」

 勇む姿を想像していた律にとって、澪の返答は慮外のものだった。
今更、何を言っているのだろう。
澪にブレーキなど存在しないはずだと、律は詰め寄る語勢を強めた。

「今更、じゃんかー。焦らさないでよー。
ここまでやっておいて、そんな事も、駄目も、ないよ」

 股が裂かれる、恥骨が外れる。
律の声を喘がせるその痛みも、抗議の弁に加勢していた。

「あるよ。これ以上は資格がないんだよ。
さっきだって、幼い子供のメンタルヘルスだけが問題なんじゃない。
資格も問われている。
いいか?そこをどうこうしていいのは、お前の恋人だけだ。
そういう存在が本当に現れる時まで、勿体振って取っておけ」

 人の身体を支え続ける事は重労働のはずだが、澪の長広舌は一糸たりとも乱れていない。

「その恋人が、サングじゃんかー。
それに、今更だよ。人前で、こんなに私の身体を辱めておいて」

「だから。サングにその資格がないんだって、お前も分かってるはずなんだけどな」

 耳元で囁く澪の声が、律の意識に冷たい氷を落とす。

「サング如き架空の存在に、お前に関わる全権限を委ねるのは、本物の彼氏に失礼なんだよ」

 澪は言葉を続けながら、律の左足を吊り上げる力も強めていた。
痛覚を強烈な波が走り抜け、律の股下から脳へと突き抜ける。
それは澪の言葉が巡る脳に理解を齎す一撃となった。
ここまでの痛みも、今までの恥辱も、澪が与えるものだから享受できるのだ、と。
余の者では、甘受さえできない。
痛みも恥辱も拒んで、悲鳴を上げてでも逃避していただろう。
それは、律の願望を集めて作り上げた彼氏の虚像でシミュレートしたとしても同じだった。
このサディスティックな彼氏を本心からサングとして扱っていたのなら、
耐えられはしなかった。
──況や悦びの享楽をや。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:21:51.47 ID:2B6vRpJ6o
「本物の彼氏は……。彼氏なんて、居ないし」

 律は言い淀んで、言い直した。
胸の奥で痞える本心は、喉元まで擡げても口外には至らない。

「それはこれから作れ。度胸か覚悟か勇気か、足りないものを充たしてからな。
取り敢えずは目先の、唯達を騙す事に集中していればいいさ」

 澪の手が、律から離れた。
律を苛んでいた過度の負担が緩和され、身体が軽くなる。
反動からか、律は身体の平衡を失してしまった。
律の肢体が、重力のまま澪へ向かって撓垂れ掛かる。
受け止める澪は、律が左足を地に着けるまで支えてくれた。

「いい子だ、良く耐えて頑張った、偉いぞ。
似合っていたよ、律」

 澪は律を解放すると、ベンチに腰を下ろす前に褒めて労ってくれた。

「おいで、律。好きな所を貸してあげる。私の身体で休め」

 ベンチの右側に腰掛けた澪が、左手で手招きして律を隣席へと誘う。

「うん」

 律は小さく頷いた。
眼球を舐められて回した目が、思い出したように吐き気を再来させている。
痛みに意識を取られていた時は、眩暈も忘れていた。
今になって頭を預けて休みたいと、揺れる脳が訴えている。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:22:46.65 ID:2B6vRpJ6o
 律は覚束ない足取りで、澪の隣へと向かう。
脳や目の調子だけが問題なのではない。
無理な開脚も確実に足取りを蝕んでいた。
脚の付け根から股に掛けて、痺れるような疼痛が残っている。
それが眩みと相俟って、数歩の距離を天竺への険路に変えていた。

「大丈夫か?」

 蹣跚の体で隣席に辿り着いた律を、澪が労わってくれた。

「大丈夫、じゃないかも」

 律は苦笑を浮かべて返答した。
姿勢を反転させる時も、座す為に腰を下ろす時も、鼠蹊が鈍痛に軋んでいる。
何より、脳に擡げる吐き気は着座した今も収まっていない。
目立った外傷がないだけで、律は満身創痍の体を抱えていた。

「無茶しちゃったもんな。眠ると良い。
唯達との約束には間に合うよう、ちゃんと起こすから」

「そっちが本番だもんね。
じゃあ、お言葉に甘えて、ここ借りるね」

 律は澪の肩に自身の頭を預けた。
極度の疲労と酔ったような吐き気が、律から遠慮する余裕を奪っている。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/08/11(木) 21:23:38.39 ID:2B6vRpJ6o
「肩でいいのか?何処でも貸してやるぞ?」

「んー、肩でいい」

 律は首を小さく左右に動かした。
律が頭を預け眠る先として、澪の胸部も太腿も申し分のない魅力を擁している。
だが、疼痛の残る股や脚に配慮するなら、首だけ傾ければ済む肩が最も楽だった。

「確かにそこが、一番お行儀は良いかもな。
何処でもいいさ、律が休み易い所なら。今は眠って、しっかりと身体を休めておけ」

 律の髪の毛を右手で撫でながら、その手付きと変わらぬ優しい声音で澪が囁く。
そう、今は身体を休めねばならない。
目が覚めた後は、唯達の前で逢瀬を演じ切らねばならないのだ。
律は今日の使命を胸中で反芻し、重くなる瞼に逆らわず瞳を閉じた。
身心の疲羸の所為か、間を置かずに意識が離れてゆく。

「今夜は長くなるぞ」

 眠りに落ちる一瞬、律は五感も曖昧な夢現の中で、澪の声を聴いた気がした。

*

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