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【安価】メルトホライズン
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/07(日) 22:03:58.11 ID:uoymnQQV0
人は生きた状態で産まれ落ちる。
幼子は産まれながらにして生を持ち、それを失わんと己を叫ぶ。
母を求め、空気を求め、庇護を求め、生を求める。
その産声に宿るものとは、生物であるなら誰もが持っていて不思議でないものであった。
はて。
では、いつからだろうか。
この島に生きる人々が、命の産声を捨ててしまったのは。
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 22:12:52.48 ID:uoymnQQV0
1 Day
level
plus 8m.
不思議な夢を見た。
その夢は、俺に何かを語りかけていた。
俺が夢を見たのか、俺の夢を誰かが見ていたのかは定かではない。
カーテンと、窓を開ける。
変わらない朝日、変わらない潮風。
変わりつつある景色。
「ん〜。良い天気」
今日も良い朝だ、夢見の事を除けば。
隣の部屋の彼女に、それを伝えにゆこう。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 22:24:56.85 ID:uoymnQQV0
ノックもせずに、ドアノブを回す。
既に起きた彼女は、同じように窓を開き潮風に吹かれていた。
「おはよう」
「……どうしたの、龍人」
振り向かず、声だけが返ってくる。
「どうもしないけど。もう少し取り合ってくれてもいいんじゃない、静流」
「ふぅ」
気だるそうな瞳。
陽光にきらめく長髪。
己の半身を持つ心。
振り返る彼女の仕草は、美しく、好きだ。
「おはよう、静流」
それが俺の姉の名。水島静流(みずしましずる)。
「おはよう、龍人」
呼ばれた双子の弟、その名を水島龍人(みずしまたつと)と呼ぶ。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/07(日) 22:34:14.64 ID:uoymnQQV0
静流「どうしたの、こんな朝早くに」
龍人「姉ちゃんだって。もう起きてるじゃん」
静流「そりゃ、習慣なんだからそうでしょ……」
昨日、俺たちは通っていた高校を卒業した。
時は8月。
桜の季節には遠い。
では、何故か。
それは、その学校は閉校となったからだ。
俺たちの住む島、常無島(とこなしじま)。
昨日までの学び舎であった常無校と共に、程なくしてこの島は海に消える。
2489年。世界は海に還ろうとしていた。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/07(日) 22:55:46.07 ID:uoymnQQV0
静流に並び、水平線を見つめる。
海の色はわずかに濁り、エメラルドに輝く。
静流「……もう、沈みはじめてるのね」
龍人「ああ」
その昔、古き伝承に「賢者の石」というものがあった。
万物を溶かし、金と成すための触媒とされる霊薬。
今、その名を「メルティウム」と呼ぶ。
海に漂う霊薬とされた物質は、地球のあらゆる物質を海中から緩やかに分解し、文明を静かに水に帰そうとした。
2世紀も前、初めに作られたメルティウムが大陸の河に流されたのがすべてのきっかけであったという。
メルティウムが賢者の石として例えられる理由。
それは、化学的な例外として特筆すべき性質を含むからである。
『メルティウムが溶かした物質は、ゆるやかな時を経て反応し、メルティウムと変化する』
元素からなる化学の概念を覆してしまった発明と、誰かが起こしたひとつの過ち。
成す術もなく広がる融解と、最初で最期の滅亡に直面して壊れる社会のシステム。
そして時は流れ、人は自らの文明を終着としてひとつに融解し、原初に還ろうとしている。
生まれた時から教科書に載っていた。その受け売りを覚えている『沈没期』の少年少女。
何故この時代に生まれたのか、選べない分からない双子は……たった18歳という歳で世界と海面に向き合っていたのだった。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2016/08/07(日) 23:22:14.76 ID:0eY4b5VJO
静流「さ。いつまでも入り浸ってないで、ご飯」
龍人「ん」
………………
…………
……
階下に降りても迎える人は居ない。
この家屋には、静流との二人暮らし。
家と呼べるような状態ではない。
それでも、人間らしい暮らしを保っている自分たちはとても幸福であると言える。
ゆるやかにいつか訪れる世界の終わりと、不透明な海の中に沈む恐怖に精神を壊した者たちはあまりにも多い。
静流「たまご取って」
龍人「ん。……おーう、パン焼けたっぽい」
俺が無事でいられたのは、この傍らに居る存在のお陰であったと言える。
静流。
大切な俺の姉で、二卵性の双子。
とはいえ大きく性格がズレる事もなく、こんな世界で育ったせいか衝突もなかった。
静流「いただきます」
龍人「いただきます。……むぐ、しずる」
静流「……。お茶」
龍人「っく、ありがと」
愛想は無く、気力も乏しい。しかし面倒見はよく、互いを深く知っている。
愛を注ぐというよりも、俺の半身のような存在。
龍人「ごちそうさま」
やや俺が早くに皿を空けた。
あとから空く姉ちゃんのも、まとめて洗ってしまおう。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2016/08/07(日) 23:36:02.04 ID:uoymnQQV0
…………
龍人「静流、洗い終わったよ」
静流「ありがと」
学校に通っていた頃の習慣からか、静流は鞄を持ってどこかに出かける荷造りをしていた。
制服こそ着ていないが、いつも家を出ていた8時5分にふたりで目を向ける。
龍人「顔洗ってくるわ」
静流「……わたしも使いたいんだけど」
龍人「ちぇ。あいよ」
いつも制服を着ていた時とは違い、服を選ぶとなると多少は見てくれを気にする。
先にクローゼットをひっくり返し、猛暑に負けない半袖をチョイスする。
静流「……ぷは。空いたよ」
龍人「洗濯するから、かけといて」
タオルで顔を拭う姉ちゃんと入れ替わった。
……
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 23:58:03.07 ID:uoymnQQV0
龍人「よっと」ピッピッ
ごうん、ごうん、ごうん……
この島の文明は非常に古く、ちょうど4世紀ほど前に最新鋭とされていたような道具しか残されていない。
車やバイクは手動だし、テレビもリモコンがないと満足に動かないものだし、洗濯物だって入れておけば勝手に洗ってくれるわけじゃない。
それでも無くては困るものばかりで、生まれてこの方本州の文明とは縁がなかった。
静流「済んだ?」
龍人「洗濯機は回したよ。……姉ちゃん、その格好暑くない?」
静流「日傘」
龍人「あ、そ……」
日傘があるから平気よ、とでも訳せばいいだろうか。
淑やかなロングスカートは、熱を容赦無く吸うだろう。
でも、静流の私服は好きだ。
何故かと言われると分からない。強いて言うなら、女物だからだろうか。
静流を、失われた性の半身として見ているからだろう。こと静流の、女らしさに惹かれるのは。
静流「暑くて、しんどくなったら、龍人が持って」
龍人「うーい」
静流「あ、良いんだ? ん、お願いしちゃお……」
静流も、俺の男性を望んでいる節があったりする。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2016/08/08(月) 00:25:26.99 ID:OYeM6Hq10
龍人「どこ行くかなあ」
静流「……ドア、閉めるよ」
鍵は閉めない。
海と空と緑の占める、この島の風土にはあまり似合わない。
物盗りの話など聞いた事もない。
結局8時40分になって家を出た俺たちは、習慣のままに足を運ぶ。
大遅刻ではあるが、あいつは怒らないに違いあるまい。
うだるような暑さのコンクリートが、徒歩5分の道のりを揺らす。
龍人「……あちい」
静流「そうね」
日差しは絵画のような赤ではなく、天気予報のようなオレンジでもなく、白。白も白。
蛍光灯よりも強い白の光が、日傘の中の静流をより際立たせている。
理由はないが、静流はいつも俺の右にいた。
だから荷物を左に持って、静流とときおり目を合わせたまま歩くのが、昨日まで通学路であったここでの習慣だった。
静流「着いた」
龍人「っと」
ピーンポーン……
目的の家のインターホンを迷いなく鳴らす。
その表札には「桧山」とあった。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2016/08/08(月) 10:09:29.75 ID:kBwL+6AoO
「おお。龍人くんと、静流ちゃん」
龍人「おはようございます」
静流「透さん。愛さんはいらっしゃいますか?」
ドアから出てきたのは桧山透(ひやまとおる)さん、友人の父親。
妻を亡くした中で気丈に飲食店を経営する、明るいお父さんだ。
透「相変わらず、ごいごい寝てるよ……叩き起こしてくるかい?」
静流「お願いできますか?」
透「じゃあ、かわいい娘とプロレスごっこでもしてきますかね……」
龍人「ははは、お気を付けて」
透「了解、中に入って待ってなよ」
踵を返して階段を上がっていったのち、ドタバタと激しい格闘戦の応酬が音となって聞こえてくる。
こうして静かになった時はタオルケットを剥がされてしまった時だろう。
静流と顔を見合わせて、少し笑った。
静流「愛ちゃんは、学校が終わっても変わらないのね」
龍人「なに。俺たちと一緒じゃん」
静流「一緒?」
龍人「俺たちも変わらず早起きだったろ?」
静流「まあ、そうね」
学校があった頃は、ねぼすけな友人をこうして毎朝迎えに来ていたのだ。
パタパタと階段を降りてくる音も、昨日までと変わらないものである。
「しずちゃーん!!」
ガバッ!
静流「きゃっ! ……もう。おはよう」
「えへへへ、おはよー」
彼女の名前は桧山愛(ひやまあい)。この荒廃する世界で「明るさ」と「無邪気さ」という稀有な力を持つ、大変貴重な友人だ。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage saga]:2016/08/08(月) 21:30:57.06 ID:kBwL+6AoO
透「あらら。入ってて良かったのに」
静流「構いませんよ、すぐ出かけますから。それより、お店の方は大丈夫ですか?」
透「お、仕込みしてたんだったわ。じゃあ悪いね、愛をよろしく」
龍人「はい、任されました」
愛「はいはい、行ってきまーす」
透「暑いから、みんな気を付けてな」
……
愛「ほげー、あっついねえ……」
龍人「中央区抜ければ、木陰に出るから」
とりあえず、習慣からか俺たちは常無高校に向かう道に進んだ。
島は大きく3つの区画に分かれている。
発電や変電、水道などのインフラを賄う南部。
生活圏として桧山の店などが存在する中央区。
魚港や常無高校がある北区。
俺たちの家があるのが南区、ちょうど桧山を拾うのが中心区、今から目指すのが北区。
端から端まで移動するとはいえども、俺たちの家も常無校も中央区に寄っており、おおよそ20分も歩けば着いた。
愛「うっし! 涼しー☆」
静流「……置いて行かないでよ」
龍人「行かせとけ」
高校に続く長い登りの並木道を、桧山が勢い良く駆けていく。
どうせ校門で待っているだろう。
愛「あーっ!?」
声がデカい。
龍人「……ほらな」
静流「どういうこと?」
龍人「門ごと閉まってたんだろ、学校。とりあえず行こうぜ」
静流「分かった」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:00:16.62 ID:kBwL+6AoO
案の定、桧山は校門の前で途方に暮れていた。
愛「なんでなんで! 閉まってるし!」
静流「昨日、卒業したでしょ」
愛「知ってるわい! あたしまだこの中に用があるんだけどっ」
龍人「あー、例の計画?」
愛「そうだよ! あー無法しちゃう? あたし不法侵入しちゃう!? ゴー!!」
ショートパンツから覗く眩しい脚を見せつけ、校門をよじ登ろうとする。
その眩しい脚は拠り所を探してバタバタしていた。
そう、彼女はだいぶちっちゃい。
同い年のはずなのだが、150無い系の女子である。
静流「誰も来ていないのね」
龍人「そりゃ、そうだろうな」
島の全人口は400人ほど。
その中で常無校にいたのは11人。
そして、昨日の卒業式に居たのは、たったの3人。
俺と、静流と、桧山だけ。
学生だけじゃない、島もそうだ。
全人口400人と伝えられていたこの島からは、ここ一年の間に次々と人が抜け出ていって、もう四半数を残していない。
人間シリに火が点くと生まれも育ちもヘッタクレも無いもので、島が沈むと伝えられれば本州からの連絡船が来る度にその数を減らした。
早く移住しないと、住まいにしろ仕事にしろ向こうでまともな暮らしが出来ないからだろう。
世界各国で居住地を減らし始めてからは、より長く顔を出していられる土地の値段や人気が爆発的に高騰していた。
日本も国として地球から退場する前に、国民の受け入れ先を探しているようだったが、簡単では無い様子だ。
まあ、
龍人「これからは一日あいちまうなぁ」
愛「なに!? なんか言った!! 見てないでなんとかしてー!!」
静流「……まず、降りたら。汚れるでしょ」
今、この土壇場まで残っている人間たちには、そんなことはどうでも良いのだ。
龍人(とりあえず、今日はどうするかな)
静流も桧山も、何となく俺の言葉を待っているようだった。
もともと薄っぺらな戒律も失くした今、何か言い出せばそのように動くだろう。
>>+1
1.各自、家に帰る
2.学校に侵入してみる
3.ひとりで南に散歩しにいく
4.ひとりで漁港へ行ってみる
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 22:21:49.46 ID:Gz+VcC5tO
2
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga sage]:2016/08/08(月) 22:53:21.66 ID:OYeM6Hq10
龍人「おーい桧山、手伝ってやるよ」
愛「龍人ー! お願いお願い!」
桧山の足首を掴み、校門に乗る高さまで押してやる。
華奢な体躯は軽々と上がり、そこそこ立派な門の頂に乗った。
愛「いえいっ。ありがと龍人!」
龍人「おうよ。あっ」
静流「!」
そのまま向こう側に着地する桧山……しまった!
静流も気付いたようだ。
静流「愛ちゃん。その門、鍵開けられる?」
愛「えー? 南京錠ついてるけど?」
龍人「やっぱりか……」
常無高校の敷地は広くないとはいえどもキチンと石畳やフェンスに囲まれていて、登るとしても一番この門が簡単な場所のはず。
それでも苦しかった桧山の事を考えると、俺は……。
龍人「静流。行くわ俺」
静流「……わたしは?」
龍人「傘持っては危ねえし、留守番頼んでもいいだろ?」
静流「別にひとりで登れなくはないんだけど」
愛「えー? なになにどうしたの」
龍人「バカ。今殴りに行ってやるからそこで待ってろ」
静流「ま、いいか。愛ちゃんよろしくね」
愛「あれ、龍人来るのにしずちゃん帰っちゃうの?」
龍人「しょうがねえよ。あと、俺いねえとお前。帰り登れねえだろ?」
愛「あっ。え、えへへ……」
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