マミ「QBかく語りき」 QB「君らしいね」

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148 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/24(土) 04:40:37.61 ID:pCr1Cam0o



「な、なんかずいぶんあっさりだったね??」

「………ああ、そうだな」

149 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 03:50:29.22 ID:f5vhqUUmo


まどかの部屋にほむらがいる。

ほむらを一人にしたくなかったまどかがかなり強引に誘って連れてきた。


「グリーフシードはもういいの?」

「ええ。今夜はもう何もしない。みんなで手持ちのものは全て分け合ったの」

「足りそう?」

「充分にあるはずよ」

「絶対に死なないでね」

「大丈夫」

「みんなが帰ってこれるように祈ってる」

「あなたは何があっても絶対に契約しないでね」

「何度も聞いたよほむらちゃん!」

「ええ」


(私はそのために生きているようなものだから)


まどかの携帯が鳴った。


「あ、マミさんだ」


なんだろうね? とつぶやいてまどかが電話に出た。

ほむらは通話が終わるのを待つ。そう長くはかからなかった。
150 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 03:52:38.82 ID:f5vhqUUmo

不思議そうな顔で携帯を閉じたまどかが会話の内容をほむらに伝える。


「今までこんなことあった?」

「ないわね」

「思い出したことがあるんだ。一度、マミさんと杏子ちゃんが一緒に自爆したことがあって」

「ええ」

「あれは私が弱すぎたと思うんだ。ごめんね」

「いえ、私の方こそ言い方が酷かったと思う」

「けれどまたあんなことがあったら、私きっと二人を助けてって願う。
それができない無力感もあって最終的にああなったんだ、きっと」

「そうかもね」

「あきれてる?」

「いいえ、鹿目まどかはそういう人だから。
私は結局いつもあなたを止めることができなかった」

「ほむらちゃん……なんかゴメン……」

「それでも言わせて。魔法少女にはならないで」

「……私、なりたいとは思ってないからね?」

「約束はしてくれないの?」

「えっと、破ることになるかもしれないから……」

「……」

「もし、私が契約したらほむらちゃんはまたやり直すの?」

「……」

「ほむらちゃん」

「そうなったら、あなたが魔女にならないように四六時中ずっと張り付くようにするわ」

「あは、ほむらちゃんもそんな冗談を言うんだね」


ほむらは曖昧に笑みを返した。


「………もう寝ましょうか」

「うん。おやすみなさい」

「おやすみなさい、まどか」
151 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 03:54:33.91 ID:f5vhqUUmo

また光の柱を見ている。

柱を芯に歯車はゆっくり動き続けている。

中の何かが時々発光しているので、歯車全体がぼうと薄く光る。

特に柱の上の方にある円盤は中身が透けて見えるのではないかと思う程強く光っている。

柱に沿って下降する。

一番下段にある歯車はとても大きく、さらにその下方には脈動するコアがあった。

質量を感じられそうな大量の光。

これだ、と思った。

躊躇せずコアと同化し身を任せる。

広大な空間を感じる。

巴マミという個を保持しつつ広がり、これがキャンデロロだと理解する。

呼びかけてしばしの間言葉にならない会話を交わす。



それからマミ自身に戻ってきた。



ソウルジェムが外側から破壊されればシステムも魂も共に損なわれる。

しかしシステムのみ壊れるのなら、自由になった魂は勝手に身体に戻る。

希望が温かく胸のうちを満たしていく。

実際にその時なにが起こるのかはマミにはわからない。

ふと引っかかることがあった。

携帯を手に取りまどかを呼び出す。
152 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 03:59:48.87 ID:f5vhqUUmo

(今言っておかないと明日はたぶんこれについて彼女と話す機会はない)


「鹿目さん? こんな時間にごめんなさい」

「大丈夫です、起きていました。どうかしましたか?」

「お願いがあるの」

「はい」

「あなたは今、一つだけ奇跡を願うことができるわね」

「はい、そうですね」

「けれど、何があっても絶対にそうしては駄目」

「ほむらちゃんにも散々そう言われています」

「QBを見かけた?」

「いいえ」

「私もよ。でも明日には会えるでしょう」

「はい」

「あの子の話に乗らないように。あの子は私たちと違い過ぎるの。
だから、もしもあなたの足元に死体同然の誰かが転がっても決して契約を交わさないで。
覚えておいてね。お願いよ」

「?……あの……はい、お話はわかりました」

「暁美さんによろしくね。ではまた明日」

「はい。おやすみなさい」

153 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 04:03:21.50 ID:f5vhqUUmo



そしてワルプルギスの夜がやってくる。


(今度こそ)


ほむらは目を凝らし、強風が吹き荒れる見滝原上空に誰よりも早く巨大な魔女本体の姿を認めた。

地上に、空に、溢れるように使い魔の群れが出現し始める。


(打てる手はすべて打った。これ以上はない状態でこの日を迎えることができた)

(これでダメならもう何をしてもムダだとすら思えるほど)

(失敗したら今度こそ私は絶望してしまうかもしれない)


ほむらが文字通り時間の合間を縫って仕掛けたトラップが次々と作動していく。

自ら操作するものは操作し待ち伏せるタイプのものは最も効果的にそれが働くよう能力でタイミングを合わせ、あるいは場所を調整した。

魔力を帯びない通常兵器があまり効かないことは分かっているがほむらにはこれしかない。

爆発に次ぐ爆発、魔女を中心に次々と巨大な火柱が上がる。

やがて最後のトラップが発動を終えた。

全ての攻撃を受け切ってワルプルギスの夜が耳障りな笑い声を響かせる。


(そうでしょうね……でも、いくらかは削れたはず)


ここから先は他メンバーとの連携となる。

ほむらは最適の間合いを探しつつ跳んだ。
154 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 04:09:26.04 ID:f5vhqUUmo

魔法少女は自身の性格や能力に最も適合する武器を持つ。

杏子の場合は槍だが、これほど扱いやすくて変幻自在で攻撃力の高い武器はないと密かに自負している。多節棍あるいは鞭、鉄鎖としても使うことができるが、これはリボン使いのマミの影響だ。

魔女が出現し、ほむらの攻撃が始まっている。

巻き込まれないよう最後のトラップが発動し終えるまで本体への攻撃は控えて使い魔の相手を続けている。

一際大きな爆発音がして地響きがしたかと思うと、天を焦がす巨大な火柱が上がった。


「おお、すげー!」


爆風が吹き荒れる。思わず声を上げた。

仕留めたのかと期待したがきのこ雲の中から魔女は笑いながら姿を現した。


「ちっ!……けど、そうこなくっちゃ」


担いでいた槍を脇にたばさみつつ高速で足元を薙ぎ、後方へ払いあげてから全速で振り下ろしてオーソドックスな槍の構えをとった。槍の重さをまったく感じさせない動きだった。穂先がぴたりと魔女本体へ向く。

その過程で辺りの使い魔は一掃されている。

とある古い流派ではこの一連の動作が正式な攻撃開始の宣言だが、そんなことは杏子は知らない。


「さて」


とん、と軽やかに踏み出して魔女本体へ向かって行く。

爆風が収まると雨が強く降り始めた。

魔女由来の大風がますます強まっていく。
155 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 04:22:23.58 ID:f5vhqUUmo

予想される魔女の進行ルートは人が集まる避難所を直撃するため少し逸らせる必要があった。建設途中の高層ビルに陣取ったマミは

魔女本体から一番遠くに位置しつつ囮になる。


「出し惜しみはしないわ」


おびただしい数のマスケット銃が筒先を並べている。攻撃の意思を込めると先触れの使い魔が続々と集まって来た。

暴風雨の中、際限なく増え続ける使い魔を風や距離の影響を受けない魔法の銃弾が次々と捕えていく。

弾丸を潜り抜けてマミに近づく個体があれば視線すらやらずにリボンの餌食にした。

そうしつつも折を見て魔女本体と直接交戦を始めたほむらと杏子のために攻撃力を高めた弾で本体を狙撃した。

さらに大掛かりな攻撃を仕掛ける機会を待つ。使い魔の雲が晴れるタイミングを。


(今!)


二人にテレパシーを飛ばす。


(当たらないようにしてよ!!!!)


二人が使い魔を引き連れて左右に分かれたところに一斉射撃を行なう。
156 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 04:24:48.97 ID:f5vhqUUmo

弾は魔女本体に集中し、巨体が微かに揺れた。マミのソウルジェムが一気に三分の一ほど濁る。すぐさま魔女本体から触手のような影が伸びてくるのをリボンを固めた盾でいなした。


「そうそう、あなたの敵はここ。こちらへいらっしゃい」


マミは自分が恐ろしく集中しているのを感じる。

眉間にチリチリと電気でも帯びたような感覚があり、五感が澄みわたっている。かつてないほど調子がいい。戦場がよく見えた。

ほむらの部屋にある資料で魔女の姿は知っていたが、こうして実物に遭遇してみることで改めてわかることもあった。

巨大な歯車に目を奪われる。


「なんとなくだけど、生前のあなたとは気が合ったんじゃないかしら」


(私には……その姿は冒涜のようにも思えるけれど)

(相転移、堕落、聖は俗に、俗は聖に……なんてね)


惜しまず魔力を使うのでソウルジェムはどんどん濁っていく。


(これほど魔力を全開にさせたことはなかった)

(これほどやれるとも……知らないことはいろいろあるものね)


役目を終えたグリーフシードを下の地面に投げ落とす。

恐怖はない。油断もない。わずかな緊張を保ち戦闘を続けた。
157 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 04:29:57.34 ID:f5vhqUUmo

「それにしても大きいなあ」


夢か現か定かではない淡い体験ではあったものの、確かに一度それとは遭遇していた。


「とにかくこいつさえ倒したらいいんだよね」


戦意は高い。しかし轟音を響かせた大きな爆発の後、生身なら無事では済まなかった高温の熱波と荒れ狂う爆風が届いた時さやかはふと気持ちが怯んだ。

爆心地近くで鉄塔がいくつもグニャリと曲るのを見た。昨日杏子と昇った電波塔も大きく傾き倒れた。

マントが千切れそうにはためき、両肩があらわになった。

鉄骨や軽自動車並みに大きいコンクリート片がそこら中を恐ろしいスピードで飛んでいく。

掠っただけで致命傷を負うだろう。自身を守る不可視のシールドにそれらが時々接触し、その度に白い魔法陣が浮き出る。


(やっぱ怖い)


しみじみと思う。


(不思議だなあ。もう死んでいるようなものなのに、いざ死ぬかもってなると死ぬのは怖いんだね)

(生き残りたい)

(そしてみんなと生きていきたい)


さやかはいくら倒しても減らない使い魔を捌き続けた。

戦闘は始まったばかりで三人ともまだまだ余裕がある。

回復役である自分の出番は当分なさそうだった。それは幸いなことだ。

時々本体から攻撃が伸びてくる。使い魔のそれとは桁違いのパワーを感じた。

当たればひとたまりもないので、念入りに避ける。

雨で視界はかなり悪い。魔力で強化した眼で時々杏子とほむらを確認した。

と、その時二人が慌てたように移動したかと思うとマミの位置するあたり一面から射出されたとんでもなく高い魔力が魔女に届いた。

戦闘に入る前、必要な時以外はマミと魔女を結ぶ線上には不用意に近寄るなと口を酸っぱくして言われていた訳がわかった。


「うっわ、すごいねマミさん……!」


一瞬の眩しい光、それから轟音が響いて全身がびりびりと震える。

魔女の高笑いは止まない。
158 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 04:32:08.26 ID:f5vhqUUmo

まどかは家族と共に指定の避難所にいた。


「ねえちゃ!」

「タっくん、ほらお口がよごれてるよ」


見知らぬ場所のせいで興奮気味のタツヤの相手をしてやる。大きなスポーツイベントにも利用される広いホールだが、避難している人々でいっぱいだ。

わずかに感じた地響きにふと顔を上げた。


「ん? また地震……じゃないな……
まさかコンビナートで爆発事故でもあったんじゃないだろうねえ」


母が呟く。


「どうしたまどか? 不安か?」

「え? うううん……人が多くてちょっと落ち着かない、かな」

「仕方ないさ」

「うん」

「あそぼーねえちゃー」

「わ、タっくん、いい子だから暴れないで」

「えへへへへ〜」


まどかに体重をかけて甘えるタツヤを知久がひょいと抱き上げた。


「きゃーっ!!!」


嬉しそうに父の頭にしがみつく。
159 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/25(日) 04:33:39.69 ID:f5vhqUUmo

「限界だね。ぼくが少し散歩させて来よう。トイレにも並ばなきゃ。
おいでタツヤ」

「はいっ!」

「いい返事だね」


母と二人で手を振って父子を見送る。


「タっくんは元気だなあ」

「ちっちゃいまどかはおとなしかったよ。
こんな所に連れてきたらアタシに抱き着いて離れなかっただろうねえ」

「そうなんだ?」

「そうさ。ねえまどか」

「なあにママ?」

「なにか気になることでもあるのかい。ずっとそわそわしてるぞ」

「う、うん」

「そういや、さやかちゃん見ないな? ほむらちゃんはどうした? ここに来ているはずだろ?」

「うん……そうだ、ちょっと探してきていい?」

「ん?」

「その辺、見てくるね」


母の目を見ずに立ち上がり、出入口の方を向いた。

詢子は娘が何かを心に溜めこんでいることには気づいているが、口を出すことは我慢していた。立ち上がった娘を見上げて(大きくなったんだな)と思う。


「建物の外に出るんじゃないよ」

「はい」
160 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/27(火) 17:38:07.75 ID:J5IxWr5Po

ホールの外はゆったりした回廊になっていて、ぽつぽつと人がいた。疲れた様子で歩く人、備え付けの椅子に深く腰掛けてうつむく人、床に敷物を広げて壁にもたれかけている人もいる。

まどかはガラス張りになっている壁沿いに歩いた。荒れ狂う空を気にしながら進む。
建物全体に叩きつけられる雨の音が大きく響く。嵐は一向に収まる気配がない。


(みんなは……ワルプルギスの夜はどこだろう)


適当な所で立ち止まって外を眺めるが雨で何も見えない。


(確かあの辺に展望台が小さく見えたはずなんだけれど……)


そのまどかの側にとことことQBがやってきてちょこんと座った。


「やあ」

「QBってどこからともなく現われるんだね」

「そうかい?」


並んで外を見ながら話す。


「久しぶり。何してたの?」

「主に新たな魔法少女のスカウトだね」

「見つかったの?」

「うん。見滝原には僕の姿を視認できる子が多いんだ。
いろいろと因縁の集まっている土地なのかもしれないね」

「彼女たちはどんな願いをかなえたの?」

「おしゃべりしていていいのかい?」

「うん。教えて」
161 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/27(火) 17:39:45.39 ID:J5IxWr5Po

「自分を変えたい、病気を治したい、友だちと仲良くしたい、勉強ができるようになりたい、
死んだペットを生き返らせて、というのもあった。まだあるけれど聞きたいかい?」

「うん」

「歌が上手くなりたい、もう少し身長がほしい、あるいは体型を変えたい、
離婚寸前の両親を仲良くさせてほしい、何ヶ国語も話せるようになりたい、
それから特定の個人を消したいというのもあって、この子はすぐに大笑いしながら魔女になってしまった。既に狩られている」

「そんなに大勢……あの、そんなに魔法少女を増やしてどうするの? QBはその子たち全員フォローできるの?
それにただでさえグリーフシードが手に入らないのに、取り合いになっちゃわない?……のかな」

「そんな心配は無用だよ、まどか」

「どうして?」

「彼女らのほとんどが今日ワルプルギスの夜を見たことで魔女化している」


まどかは絶句する。


「何人かは魔法少女として育ってくれるとバランスが良かったけど仕方ない。
結局魔女との戦闘を経験した子は一人もいなかったんじゃないかな。
まどか、泣いているのかい?」

「私はその子たちを助けられない」

「君の力はまだそこそこ大きい。さっきの願い事の子たち全員を人間に戻すというのはなんとかなるよ」

「そうなの?」

「うん。そうするかい?」


とっくに決断していたまどかだが、ほんの少し逡巡した。


「……いいえ、しない」

「そうか。意外だね。この星を終わらせるような魔女にはもうならないよ?」

「わかってる。でも、しないよ」


絞り出すような声だった。


(あなたたちを助けません……ごめんなさい)
162 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/27(火) 17:42:02.23 ID:J5IxWr5Po

「賢明な判断だね。ほむらたちのことを考えるならその方がいいだろう。
グリーフシードは魔法少女の命綱だ」

「なんとかならないのかな?」

「なにがだい?」

「魔法少女から魔女になってあなたたちのためのエネルギーになるという仕組み」

「僕らのためではなくて宇宙のあらゆる生命体のためだ。それはともかく、
うん、それはどうにもならない。君にはもう魔法少女システムをどうにかできるような力はない」

「君は少し突飛なところがあるからね。もしかしたら君の力が減じたことは
システムを含めこの世界の維持存続には良かったのかもしれない」


願いによっては宇宙すら改変してしまえるほどのものだったから、とQBは続けた。


「聞きたいことはそれだけかい? ほむらたちのことは知りたくないかな? かなり健闘しているよ」

「わかるの?!」

「じゃあしばらくは彼女らの戦いを一緒に見守るとしようか」


QBに視界を与えられ、まどかは友人らの戦場を見渡すことができた。

誰も欠けていない。みんな戦っている。


「サービスがいいんだね?」

「営業活動だと思ってくれていいよ」

「ワルプルギスの夜がいる」

「そう。実際に見るのは初めてだったね」

「舞台装置の魔女、ワルプルギスの夜。本当の名前はなんていうの?」


(−−−−−−)


頭に響いたそれはよく聞き取れなかった。


「えっと?」

「僕らの星の言葉で発音も表記も君たちの感覚器官ではムリだ」

「そうなんだ。ねえ、みんなに話しかけることはできる?」

「中継してあげたいが距離があるからやりとりは難しいかな。伝言なら承るよ」

「わかった。黙って見てる」
163 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/27(火) 17:48:25.73 ID:J5IxWr5Po


「にしても固ってーなあっ!」


杏子が苛立つ。文句を言いながらもその動きは早く鋭く疲れを見せない。突き、払い、切り落とし、抉る。それらを無限に組み合わせて切れのある体捌きを行いつつ槍をふるう。

後方からはマミの援護があって、痒い所に手が届く的確さで魔女の動きを阻害してくれていた。

何かよくわからない、しかし見るからに物騒な火器を構えたほむらがちらちらと視界の端をかすめる。

武器はとっかえひっかえしているようだ。姿が消えたかと思うと魔女本体の所々で派手な爆発が起こる。

魔女の攻撃パターンはいくつかあった。

建造物の巨大な一塊を魔法少女たちに向かって飛ばしてくるのと、本体からかなりのスピードで伸びてくる影のような触手が厄介だった。

それから無数に湧き出てくる使い魔たち。数で押してくるので単純に邪魔で仕方がなかった。本体に攻撃がうまく届かない。

たまにまとめて一掃するが、すぐ元の分厚さを取り戻す。

さらにここにきて魔女の攻撃パターンが増えた。

人間の形をした影がいくつも現われて襲ってきた。杏子とほむらを数人で囲む。

皆笑っている。


(こいつら、魔法少女だよな……?)


色は無いがさまざまなコスチュームに身を包んだ少女たちだ。


(撃てるかマミ?)


返事代わりに数発の銃弾が影の一つを貫いて消し去った。


(愚問だった!)
164 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/27(火) 17:52:23.14 ID:J5IxWr5Po

杏子は瞬く間にそれらを撃破していく。対人戦は得意だった。

ほむらは時間停止をタネとした瞬間移動を多用してじりじりと敵の数を減らしている。

ワルプルギスの夜本体への直接攻撃を担う杏子とほむらのところにそれらは重点的に出現したが、いくつかはマミとさやかをも訪れた。

マミに近づけた影は一体もいなかったが、さやかは敵が同じ魔法少女の姿をしていることに動揺してあっさり囲まれてしまった。

それを見たマミが援護を開始し、同時に顔色を変えた杏子がさやかのところへ飛んできた。

魔女本体に背を向けて。


((危ない!))


高所にいるマミと杏子の背後が見える位置にいるさやかからの警告で杏子は本体から伸びた触手を危うく避けた。


「うっわあぶねえっ」

「こらっ、こっちはいいから戻りなよ!」


さやかが叫ぶ。


「るっさい! ケガはないか?!」

「すぐ治してるからだいじょうぶ!」

「そもそもケガすんな!」

「無茶言わないでよ!」


杏子がさやかの周りの影を片付け始めたのをきっかけに視界を広げたマミが上空にそれを見つけた。


(二人とも上!)


ビルの数階分ほどの塊が杏子とさやかのいる位置に降ってくるところだった。


「うおっ真上から!」

「すみませんマミさん」


なんとか横っとびに避けることができた。
165 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/28(水) 08:06:56.52 ID:Q5Zg0UrZo


(絶好調じゃないか、マミ)

(QB、やっと出てきたわね)

(お待たせしたのかな? それは悪かったね)

(聞きたいことがあるの。先の短い魔法少女はもうサポート管轄外なのかしら?)

(まさか。なんでも聞いてくれ)

(ワルプルギスの夜はなぜ魂を縛るシステムとよく似た姿をしているの?)

(見たんだね。どうやって?)

(質問に答えてくれる?)

(あの魔女の核になった子は生前システムに並々ならぬ関心を持っていた。
君と同じようにそれを見て深く影響を受けたようだね)

(あの歯車は枷に見えたわ。何を拘束しているの?)

(拘束というよりは強化を目的としている。ギアというよりはハンドルだね。
コアを見たろう? キャンデロロには遭えたのかい?)

(ええ)

(さすがはマミだ。お世辞じゃないよ。君はほんとうに器用だね)


QBとやりとりをしながらもマミは手を止めない。

タイミングを見計らって魔力温存を全く考えない苛烈な一発を放ち、クリーンヒットさせた。

一気に濁りを増したソウルジェムを回復させ、マミはグリーフシードをまた一つ地面に投げ捨てる。


(下にいくつも落ちてるから後で回収しておいてね)

(任せてくれ)

(確認させて。システムから自由になった魂は身体に戻るのよね?)

(戻る。だがその過程でなんらかの不具合が起こることが知られている。
長い時間身体を留守にしていたためか、魂の定着に少々無理な力がかかるようなんだ)

(前例があるのね?)

(あるよ。なんの問題もなく身体と魂が結びついた例もある)

(確率的には?)

(システムから自由になろうとする魔法少女の数が少ないからね。正確な統計がとれない)

(何が起こるのか具体例を挙げてもらえないかしら)

(それはやめておいた方がいい。知ってしまうとそれに引きずられる)

(そういうものなの?)

(影響は少なからずあるね。聞かれれば答えるが知らない方がいいと思う)

(思い遣ってくれているみたいに聞こえるわ)

(僕はいつだって君たちのことを考えている)

(それはそうね)


武器を構えて目標を見据えたまま、マミは思わず苦笑いを浮かべた。
166 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/28(水) 08:11:24.83 ID:Q5Zg0UrZo


戦闘は続いている。

影のような魔法少女たちはあらかた消えた。復活はしないようだ。

使い魔の群れの一部に隙間ができてマミの大型砲による一撃がワルプルギスの夜を襲った。それに合わせて杏子も魔力を存分に込めた攻撃を放つ。魔弾と大槍が深々と魔女本体を抉った。


「へへっ、やっぱ魔力をケチってちゃいけないな」


(杏子)


ほむらが杏子に呼びかけた。


(どうした?)

(私の攻撃はほとんど効かない。サポートと使い魔の方にまわった方が効率が良さそう。
マミと二人で本体をお願い)

(じゃあ、さやかを……あ!)

(なに?)

(その盾はちゃんと防御に使えるよな?)

(もちろん……!)

(あんたがついてりゃ大丈夫だろ)
167 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/28(水) 08:12:16.51 ID:Q5Zg0UrZo


まどかは心配そうに戦闘を見守っている。


「あれはさやかちゃんとほむらちゃん?」

「ああ。いい判断だ。ほむらの攻撃はワルプルギスの夜のような大物にはそうそう効かないから」

「さやかちゃんは大丈夫なのかな」

「ほむらが防御と攻撃指示を担うのだろう。とても合理的だと思うよ」
168 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/28(水) 08:27:17.23 ID:Q5Zg0UrZo

ほむらと杏子が後衛のさやかのところへ行って一旦魔女から距離を取る。その間にマミは空を埋め尽くすように並べた大量の銃を一斉に発砲させた。

すべてを命中させて使い魔の霧が晴れたところですかさず本体への砲撃を行なう。並みの魔女なら一瞬で消滅するほどの魔力がワルプルギスの夜本体にぶつけられる。

一連の攻撃を二度繰り返すとソウルジェムがほぼぎりぎりまで濁った。

相変わらずの暴風雨と魔女の笑い声。しかし新たに湧き出る使い魔の数は目に見えて減ってきた。

マミがグリーフシードを使っていると、目の覚めるようなスピードで魔女に突っ込んで行く塊があった。

豪雨を切り裂き派手に水煙を上げて進む。使い魔も触手の攻撃も強引に突破していく。


(暁美さんと美樹さん。あれは必ず当たるわね)


二人とは少し違う軌道で杏子も続いている。


「やっぱ二人で飛ぶと早いんだ! パーマンと一緒じゃん! 知ってる?」


盾をかざすほむらの背にしがみついたさやかが大声で話しかけるが、ほむらにはほとんど聞こえていない。


(そろそろ止めるから絶対に離れないで)

(合点だ!)


盾がカシャンと小さな音を立て、景色が固まる。


「おおっ?! すごいっ全部止まってる!」


静かな空間を二人で飛ぶ。
169 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/28(水) 08:38:31.68 ID:Q5Zg0UrZo

「直近までこのまま行く。合図をしたら飛び出して思う存分にやってきなさい。
危険はない、防御もまったく考えなくていい」

「任せといて!」

「今!」

「でええええええええい!!!!!」


ゼロ時間で魔女との距離を詰めたかと思うとほむらからさやかが発射された。杏子の目にはそう見えた。

さやかが水煙の渦を作りながら錐もみに高速回転して魔女に突っ込み、当たった瞬間その衝撃で魔女が全体の軸ごと少し後ろへずれた。


「うらあああっ!!!!」


それと同時に杏子も渾身の魔力を込めた槍を投擲した。

的に当たるまでの間に巨大化した武器が深々と本体に刺さった。それから槍自体が意思を持っているかのようにずくずくと潜り込んだかと思うと身震いしながら強引に貫通する。


(マミ、全力で攻撃して。また止める)

(全力ね、仰せの通りに。ちゃんとみんなそこから離れてよ。危ないから)


「ティロ・フィナーレ!」


目一杯の攻撃を放つ。魂ほぼ一個分の全身全霊弾。

ほむらは時間を止める。

さやかと杏子に接触してフリーズ状態から解放してやり、三人で一緒に出来る限りのスピードで本体から離れた。

着弾直後、凄まじい熱と光が発生する。

いくつもの魔法陣が開いてワルプルギスの夜を囲み、熱と衝撃を閉じ込める。轟々と腹に響く音が届いた。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/28(水) 09:52:39.70 ID:8B99W0pGo
なんかQBがやけにユーザーフレンドリーね
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/09/28(水) 12:45:53.83 ID:Q5Zg0UrZo
>>170
言われてみれば
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/30(金) 22:37:19.27 ID:p4RFBL9bo
おや、こんなスレがRにあったとは
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 01:21:15.81 ID:zunH4d0Ro
楽しみ
174 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/02(日) 00:34:18.53 ID:SEKQbk/so

まどかもそれを体感した。

触れていたガラスがびりびりと震え、形容しようのない異音が聞こえた。


「もしかして倒したのかな?」

「いいや。まだだね」

「あれ?」


廊下の照明が落ちた。


「え? 停電?」


いきなりのことで館内にどよめきが起こっている。


「いや、これは停電じゃない」

「じゃあなんなの?」

「魔女結界が展開されようとしている」

「こんな所で!?……QB、みんなに伝えてくれる?」

「それが願い事かい?」

「いいえ、ただの頼みごと」

「わかっているけど一応聞いてみたよ」
175 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/02(日) 00:36:58.42 ID:SEKQbk/so

マミの周りに三人が集まった。


「なんかあれ、結構ボロボロになってきたよね?!」

「そろそろ目処が立ってきたな」


マミのリボンに守られつつそれぞれソウルジェムを回復させていると


(今のはだいぶ効いたようだね)


皆にQBの声が届いた。


(それはそうと誰か来てくれないか。避難所に魔女結界ができた)


ほむらが飛び出そうとするのを抑えて「あたしが行くよ」と杏子が進み出た。


「おまえはここで早くアレを片付けてしまえ。もうひと踏ん張りで落ちるだろ!」


言い置いて飛び出し、すぐさま後姿が小さくなる。

魔女の方角から穂先を向けて槍が飛んできた。柄の真ん中辺りをキャッチして増々スピードを上げて消えた。


「じゃあ二人とも、さっきの要領でもう一度」


マミがワルプルギスの夜から目を離さずにほむらとさやかに言った。


「え、続けるんですかマミさん?」

「適任者が行ってくれたわ。きっと大丈夫。
暁美さんは鹿目さんが気になるのね?」

「避難所はかなり混乱しているはず」


阿鼻叫喚になっていても不思議ではない。まどかが契約してしまう。


「魔女発生はもう起こってしまったこと。それに対して手は打ったし、鹿目さんは自分の身を守る手段はある。
私たちはここでできることをしましょう。
目の前の魔女をどうにかしなければ契約をしようがしまいが鹿目さんが失われる可能性は高い。違うかしら?」


理詰めのマミに少し違和感を覚える。しかしとにかく避難所にはもう杏子が向かったのだ。


(ここまできて、またやり直しになるかもしれない)

(………見届けよう)


「行くわよさやか」

「アイサー! ……ん? どした?」



“どっちにしろあたしこの子とチーム組むの反対だわ”



隔世の感がする。


「なんでもない。急ぎましょう」
176 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/02(日) 01:09:26.80 ID:SEKQbk/so

「ねえQB、この魔女結界ってなんだか静かだね? なんていうか、何もない感じ。
おかげでみんな落ち着いてるし……」


小さな声で話した。


「魔女が本格的に活動するまで少し猶予がある。生まれたばかりだからね。
時間が経つとそうもいかなくなる」

「そうなんだ」

「まあそうなる前に誰か駆けつけてくるだろう。しかし君には何度も驚かされている」

「どうして?」

「さすがに魔女結界に取り込まれたらすぐに契約を申し込むんじゃないかと思ったんだ。
犠牲者を出したくないだろうし、ましてやここには君の家族がいる」

「すぐ助けが来るかなって思ったから」

「僕が助けを呼ばない場合だってあったかもしれないよ?」

「そこまでして私に契約させたいの?」

「以前の君にならね。君が最後の魔女になるはずだったんだ」


何か小さなものがたくさん動いている気配がある。もちろん使い魔だろう。

できるだけそういうものを見ないようにしながら歩いた。


「そう、それが正しい」

「なんのこと?」

「結界内での歩き方だね。視覚や聴覚に惑わされず、恐れたりせず静かに歩くんだ。
戦意や負の感情を目掛けて魔女や使い魔は襲ってくる」

「怖がったり不安に思ったりしてない人には魔女は攻撃してこないってこと?」

「概ねその通り。しかし完全にそうするというのは君たちには無理だ。君たちは感情の生き物だから」


周りが急に明るくなった。景色が元に戻る。人々がほっとして話し始めた。



…………あ、停電終わったのか。

…………良かったあ、なんだか変な感じだったよね。

…………なんか、背筋がぞくぞくしなかった? なんだったんだろう?

177 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/02(日) 01:12:20.31 ID:SEKQbk/so

「もう大丈夫だ、まどか」


声を掛けられた。


「杏子ちゃん! 来てくれたんだ!」


振り向くとパーカーのポケットに両手を突っ込んだ杏子がぶらぶらと近づいてきた。いつもの私服姿だ。


「そりゃ来るさ。そいつと契約なんてしてないだろうな?」


まどかの足元にいるQBに目をやる。


「してないよ」

「おっし間に合ってよかった。ほむらに殺されちまうとこだった」

「ほむらちゃんはそんなことしないよ?」

「ああ、おまえにはな。ん」


まどかの手に個包装のスナック菓子が押し付けられた。

この人は時々よくわからないタイミングで食べ物をくれる。


「ありがとう。これ好き」

「それは良かった。ん?」


まどかの顔を見て眉をひそめた。


「な、なにかな?」

「泣いた?」


ぎろりとQBを見る。


「ううん、なんでもないよ。それにしてもすごいね、いつの間に魔女を倒したの?」

「伊達に長いこと魔法少女してないって。こっちだ」
178 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/02(日) 01:20:36.30 ID:SEKQbk/so

まどかの先に立って歩き出した。


「杏子」


何か言いかけたQBには構わず進む。

インフォメーションコーナーに大型ディスプレイが設置してあり、ニュース番組が流れていた。


(あれ?)


まどかは不審に思う。


「電波障害だかなんだかでテレビはまったくダメになってるってママが言ってたような……?」


アナウンサーが何か原稿を読んでいるが聞き取ろうと集中しても何を言っているのかさっぱりわからない。


「杏子ちゃん、どこに向かっているの?」

「まどか」

「杏子ちゃん?」

「あんまり驚かないで聞いてくれ。今見てる景色全部幻だから」

「魔法なの?」

「杏子の固有魔法だ。魔女戦にはあまり役に立ないが人間相手にはてき面に効くね。
さすがに見事なものだ」

「集団パニックなんか起きたらめんどうだからやったことだけど、
さっきの話だとこうやって安心させておけば襲われないんだろ」

「確率は低くなるね」

「おまえがいつも結界内をひょいひょい平気な顔で歩き回れる理由がようやくわかったぜ」

「じゃあこの杏子ちゃんも幻なの?」

「あたしは本物」


杏子は足を止めて低い声で言った。


「ここでいい。ああ、おまえんちのチビとおじさんもさ、ちゃんとおばさんのとこ帰ってきてるよ」

「ありがとう、心配してたんだ」

「ワルプルギスももうすぐ終わるから」

「うん!」
179 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/02(日) 01:22:29.44 ID:SEKQbk/so

杏子の姿はかき消え、QBもいなくなっていた。


「あれ?」

「まどか? どうした?」


立ち尽くすまどかに詢子が訝しげに声をかけた。


「あれ、ママ?」

「ぼーっと帰ってきて、どうしたんだ。ほら突っ立ってないで座んな。
さやかちゃんやほむらちゃんはいたのか?」

「うううん」


首を振って答えた。


「でも杏子ちゃんに会えたよ」

「ねえちゃ? きょーこは?」

「また今度うちに遊びにきてもらおうね」

「きょーこうちくる?」

「うん」

「あ(や)ったーーーー!」

「たっくん。もうちょっと小さい声でお話ししようね、しー」

「ぁーぃ」
180 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/02(日) 01:26:27.67 ID:SEKQbk/so

「さて。悪く思うなよ」


結界の奥にいた魔女はぼんやりした霧のような姿で蠢いてる。

穂先を下げて楽に構えをとった。

周囲のそこかしこに人がいるが、彼らは杏子の幻術の中にいて自分たちの見ているべき当たり前の風景だけを見ている。

ノロノロと徘徊する使い魔を人々は認識できない。使い魔もまた恐怖も敵意もない人間たちを補足できずにいる。


「何を望んだのかは知らないが、そいつは叶えられたんだろ? もう眠れ」


大きな魔法を発動させているので攻撃に魔力を割けないでいるが、そんな縛りはものともしなかった。

生まれて間もない魔女をあっさり切り裂いて滅するとたちまち結界がたたまれていく。

そして通常空間にぽつんと残されたグリーフシードを拾い上げた。


「さすがだね」


近寄ってきたQBに杏子が尋ねた。


「新しい魔法少女は他に何人いる?」

「今のでおしまいだよ。あとはみんな相転移を起こした」

「鬼畜生め」


避難所にいた一部の人々は周囲の空気が変わったのを感じとった。まどかもその一人だ。


(杏子ちゃん、ありがとう)


QBはちゃんと中継してくれた。


(あたしはもう行くよ。ちゃんとほむら連れて帰ってくるから待っててくれ。契約すんなよ!)

(うん!)
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/10/02(日) 12:32:43.59 ID:SEKQbk/so
>>172
そうなのRなの

>>173
書き溜め終了につきこれより滞ります
でもその一言でがんばれるありがとう
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 17:27:45.89 ID:RaaNnyJHo
台無しオチがないことを願う
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 18:14:49.15 ID:HxxPWaKvO
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/03(月) 21:54:14.28 ID:X2AJWZE5o
>>182
ギクッとニヤッが半々
謝っとく

>>183
ありがとう
185 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/03(月) 23:23:10.64 ID:X2AJWZE5o

吹き荒れていた風が止み雨も小降りになってきた。

遠くで雷が鳴っていてどうやら急速に近づいてきている。

壁面がごっそり剥がれ落ちたビルの上階に彼女らはいて、もうほとんど形を成していない魔女を見上げた。

ワルプルギスの夜に勝った。

稲妻が光り、少し遅れて近くに落ちた。

その場の全員が皮膚表面にピリピリとした軽い痺れと強いオゾン臭を感じた。

空に幾筋もの稲光が走る。会話に支障をきたすほどの雷鳴の中でさやかが魔女だったものを指さしながら何かを叫び、杏子がそれに応

えている。


(信じられない)


ほむらは消えゆく魔女を凝視した。


(信じられない)


長い長い時間をかけてとうとう成し遂げた。

実感がわかないので何の感動もない。


「ワルプルギスの夜はね」


QBだ。

数えきれないほど潰しているが恐れ気もなく、むしろ親しげにこの獣は近づいてくる。


「特殊な魔女だった」


空気が変わったことにほむらと杏子が気付いた。


「おい、なんだこのおかしな感じ?」

「これは……」


ほむらには心当たりがある。時間遡行が始まる感覚によく似ていた。大きなエネルギーの動きがある。

トコトコとQBが倒れ伏したマミの元に歩んだ。


「マミ!」

「マミさん!?」


いつの間にかそうなっていた。誰もマミの状態に気付かなかった。

マミの変身は解けていて、近くに光を失ったソウルジェムが転がっている。

慌ててその身体に触れた杏子がハッとした。


「どういうことなんだ?」


マミは生きている。
186 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/03(月) 23:31:04.79 ID:X2AJWZE5o

雷が止み一帯は静かになっていた。

マミの身体を診ているさやかに杏子が聞いた。


「どうなんだ?」

「なんともないみたい」

「じゃあどうして意識が戻らないんだ?」

「ぜんぜんわかんない」


こんなの変だよ、とさやかは怒っている。


「おかしいよ! 治らないよ!? どうして??」

「病気でもケガでもないからね」


QBの返答にさやかが更に激高した。


「じゃあ、なんだっていうの!!!? いつもいつも説明が足んないのよ、わざとでしょこの耳毛!!!」

「ちょっと落ち着けさやか」

「起きて、マミさん、マミさんってば!」


ほむらはマミのソウルジェムを拾い上げて子細に見た。

ヒビひとつない。

ただ、空っぽになっていた。


「それはもう抜け殻だよ。ソウルジェムではなくなった」


QBが言い、ほむらはマミの爪を見る。魔法少女の刻印が消えている。


「こんなことが起こり得るの?」

「マミの魂は自力でそこから抜け出たんだ」

「どうしてマミさんは目を覚まさないわけ?」

「身体に定着するはずだった魂が時空間の隙間に引っ張られてしまった」


意味が解る者は誰もいない。ほむらが静かに尋ねた。


「ちゃんと説明して」

「ワルプルギスの夜は特殊な魔女だった」

「どう特殊なの?」

「次元間を彷徨うんだ。この世界に現われない時、あれは狭間にいた」

「狭間というのは、そうだね、忘却界とか時の間隙とかリンボと言えば通じるかい?
とにかく隙間だ。どこでもない場所だ」

「これを利用すると様々な場所や空間へ移動できる。ほむら、君には馴染みがあるんじゃないかな」

「さっきワルプルギスの夜は最後の力で間隙に飛び込もうとして半ば成功しかけていた」

「マミがそれを邪魔した。そして自分がそこへ吸い込まれてしまった」
187 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/03(月) 23:34:37.39 ID:X2AJWZE5o



ワルプルギスの夜を倒したという確信を得た直後マミはそこにいた。

システムの歯車がいきなり眼前でスパークした。

無機質なそれを割り砕き力を振おうとするそれ、見ていられないほどまぶしいそれは。


(花?)


眼で見ているわけではないのは分かっている。目蓋を閉じてもそれは見える。

回転する巨大な花弁の残像が心に焼き付いた。

いくつもの視界が広がっていく。





避難所

仲間たち

QB

過去

過去

過去

過去

過去



意味のありそうなもの、なさそうなもの。

そのうちの一つがとても気になった。

黒い影が暗い場所へ続くドアから逃げ出そうとしている。


(だめ。あれを逃がしてはいけない)


マミは滑らかな動作で発砲した。

影が千切れ跳び、空間全体が身震いした。


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/09(日) 13:03:24.17 ID:3n6euaZ2o
一気読みしてしまった
続きが気になる
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/10(月) 00:34:18.78 ID:FnV1I0xfo
Rにこんな名作が隠れているとは
わからんものだ
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/10/17(月) 00:10:47.52 ID:+k033sMKo
乙乙
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/10/18(火) 01:13:30.86 ID:c9PlB8gso
>>188
ありがとう拝んでしまいそう
>>189
照れますわ
>>190
ありがとうありがとう


滞ってて申し訳ない思いでいっぱい
192 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:19:21.44 ID:c9PlB8gso

スーパーセルの襲来から早一週間が過ぎた。

被害の大きかった場所では形ある物がことごとく破壊されて更地になった。大小様々な瓦礫が暴風に乗って巨大な渦の形に積み上がり障壁を作って復興の厄介な妨げとなった。

また最も酷くダメージを受けた地点は更地どころか爆心地さながらに広く深く抉れ、その惨状に人々は恐怖した。


「そこは実際に爆心地だよ」

「それがバレないわけないし、いろんなもん落ちてるし、どっかできっと大騒ぎしてるんだろうな」


破壊の度合いに比べて死傷者が少なかったのは徹底した避難勧告が功を奏したのと、丸一日は続くと予想されていたスーパーセルの勢力がなぜか唐突に消え失せた幸運による。

ただこの災害をきっかけに市内の行方不明者が異常な数に上っていることが明らかになった。

数か月前からスーパーセル当日までの間にざっと七十名以上もの人間が姿を消している。しかもそのほとんどが女子中高生だとわかって大騒ぎになっていた。


「全員きれいさっぱり魔女になっちゃったよ」


ほむらの家のソファーを占領して毛布にくるまった杏子が朝のニュース番組を観ながら所々でつぶやいている。


(そんでもうほとんどがグリーフシードになってる)


未討伐の魔女はワルプルギスの夜が出現したことによって魔女化した数体のみ。今丁度モニターには災害による行方不明者として十名程の顔と名前が映し出されてる。


(できるだけ手っ取り早く後片付けはしてやるから)


そんな残存魔女とワルプルギスの夜の置き土産である使い魔が街中で盛んに活動している。

住む場所を失った人や持病を悪化させた人、ケガを負った人たちが次々と自ら命を絶った。仮住まいの部屋に灯油を撒いて火を点け、無関係の住人を大勢巻き込む最悪の自殺も起こってしまった。

災害後の自殺者は増え続け、これについてもニュースで大きく取り上げられていた。


「使い魔のやつらはキリがないな。地道に潰していくしかないけどさあ」

「そうこうしてるうち時間切れで何体かは魔女になっちまいそーだよな? エサはたっぷりあるし」

「使い魔から昇格した魔女はたまにスカがあってガッカリすんだよね」


昨日も夕方から夜半まで奔走していた杏子だった。


「しかし困るな、じっくり魔女を探す暇がない」


言ってからふわあと大きなあくびをした。
193 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:23:15.42 ID:c9PlB8gso

グリーフシードのストックはまだ少なからずあった。

あの日の戦闘で手持ち分を使い切ったのはマミだけだ。次々とグリーフシードを終わらせて、凄まじい攻撃力と攻撃量を見せた。

どこか突き抜けていた。持てる力の全て、否それ以上を出し尽くしてくれた。


(マミ、杏子、さやか)

(皆が事態について深く納得していること、お互いに理解があることが大事だった)


誰もが必要なピースだった。

果てしなく続くかと思われたループを終わらせて、ほむらにはやっとそれがわかった。

全か無か。

まどか一人を助けるというのは土台無理な話だったのだ。一番遠回りに見える道が一番の近道だった。よくある話だ。

そうやって今、ほむらは未知の時間を生きている。

そして新しい問題を抱えている。

杏子の独り言めいた話を黙って聞いていたほむらがやっと口を開いた。


「少しペースを落としましょう。思っていた以上に使い魔の数が多い。
どうしても長期戦になるのだから、ここで無理をするべきではないわ」

「こんだけ騒ぎになってんだ。さぼってらんないだろ」

「魔法少女が一日二日仕事を休んだところで、大して変わりはしない」


死者の数のことをそう言い切った。それを聞いて杏子が笑い声を上げた。


「やっぱりあんたは話が分かるね」
194 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:26:15.24 ID:c9PlB8gso

「それに、全滅させてしまう訳にもいかない。そうでしょう」

「ま、ある程度落ち着くまでだな」

「そんなに疲れて。さやかはあなたに何も言わないの?」

「あーさやかは……」


ワルプルギス戦を終えてからというもの、さやかのテンションは上がりっぱなしだった。


「……それどころじゃないかも」


杏子はなんとなく部屋を見回した。

ワルプルギスの夜に関するあらゆる資料は片付けられて部屋の印象はすっかり変わった。新しくダイニングテーブルが設置してあり、椅子は五脚ある。ほむらはそのひとつに腰かけている。


「普通の人間に戻れるかもってすごく喜んでる。心配なんだ。
だってさ、あんまりそういうの良くないって思わないか?」


さやかは良くも悪くも感情の振れ幅が大きい。


「素直に喜び過ぎなんだよ……」


ほむらの隣にはマミが無言で坐っている。

丁寧に梳かしつけられたゆるやかな癖のある髪がそのまま肩甲骨を覆うあたりまで流れ落ちている。表情はない。

彼女は見えている、聞こえてもいる。簡単な指示や介添えがあれば身の回りのことはこなすし、朝起きて夜眠る。

しかしそれだけだ。

魔法少女は条理を覆す存在だと言うが、最強の魔法少女は何もかもをひっくり返して人に戻った。

これが代償なのだろうか?
195 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:30:54.57 ID:c9PlB8gso

QBから今のマミの状態についての説明はあった。



“ソウルジェムに収められた魂は完全に君たちから切り離されている。だから距離を取れば君たちは全ての機能を停止する”

“マミの場合は違う。マミの魂はもう身体に根を生やした。この結びつきは簡単に切れることはないよ”

“だが空間の壁を越えることは簡単ではない。どこへ飛ばされたのかもわからない。ドアは閉ざされてしまったから”

“たださっきも言ったが身体と魂の結びつきは本来とても強い。彼女なら帰ってこれるはずなんだが”



「なんでこのマミを見て喜んでられるのか、わかんねー」

「帰ってくるって素直に信じているのでしょう、さやかは」

「ほんとに元に戻ると思うか? あいつ別に帰ってくるとは言ってないじゃん」


QBは“帰ってこれるはず”と言った。


「百パーセントの保証はしていないわね」

「考えたいことがいろいろあるってのに、忙しいしわかんねーことだらけだし、あーあ」


言いながらごそごそと身体に巻き付けた毛布の中に潜り込んでしまった。


「……もうちょっと寝てていーかな?」

「お好きに。でももうすぐ二人が来る」


ほむらは時刻を確認してから返事した。

学校は無事だったのでほむらも通学を再開している。

マミは災害後のPTSDでしばらく休学ということにしていた。他に何人も同様に休んでいる生徒がいるらしい。

一人では生活ができないので四六時中杏子がついている。

魔女退治及び使い魔の片付けは毎晩交代で行っており、杏子が出る日はほむらの家にマミを預けに来る。一通り仕事を終えると戻ってきてそのまま泊っていく。

杏子は単独で、ほむらはさやかと組んで出撃していた。

時間停止能力を失ったほむらと経験の浅いさやかが互いにフォローしあう形で、これは自然にこうなった。

攻守の役割りがはっきり分かれていることもあり、お互い意外とストレスにならないのはワルプルギス戦でわかっていた。


(一日おきの出撃を続けるのは厳しい……休養日は作るべき)

(けれどもさやかは毎日でも使い魔退治に出たい。増え続ける死者の数にプレッシャーを感じているから)

(さやかと話してみましょう。今のままでは杏子の負担が大き過ぎる)
196 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:33:10.63 ID:c9PlB8gso

椅子から立ち上がり、何かの番組が始まったテレビを消して身支度をしているとインターフォンが鳴った。


(開いてるから入って)

(はいよー)


「ではお邪魔しまーす、っはようほむら! マミさんもおはようございます!」

「おはようほむらちゃん。マミさんおはようございます」


ほむらを迎えがてらマミと杏子の顔を見に来たさやかとまどかが口々にマミに挨拶をするが目は合わないし返事ももちろんない。

わかってはいたが二人とも一瞬寂しい思いを味わう。


「これ、いつもの」


気を取り直してまどかがマミと杏子二人分のお弁当をテーブルに置いた。


「毎朝大変でしょう」


ほむらが気遣うとまどかは「これくらいしかできないから」と笑った。


「交代でやろうよって言ってるのにどうしても譲らないんだから。頑固者め」

「だってさやかちゃんも忙しいでしょ。テストも近いんだしお弁当くらい作らせて。
パパも手伝ってくれるから、私は平気だよ」

「ダメな時はちゃんと言ってよね?」

「もちろん」

「ほむら、杏子はアレ?」


ソファー上の毛布を視線で指してさやかが聞いた。


「ええ。さっきまで起きていたけれど二度寝してるかもしれない」

「昨夜、遅かったの?」

「かなり」

「無理すんなってんのに」
197 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:34:47.94 ID:c9PlB8gso

さやかは大股で近づいて「きょ〜〜〜こ」と声を掛けながら杏子の側に坐った。


「おつかれさん杏子、起きなって。あたしらもうガッコ行くよ」


ぱたぱたと毛布越しに背中を叩くともごもごと声がした。


「起きてるってば」

「顔見せて」

「ん」


眠たげな首だけが出てきた。


「ねえ」


さやかはそれに顔を寄せて小声で言った。


「杏子さ、あたしを避けてない?」

「なんで?……んなわけないじゃん」


同じ様に小声で返す。


「だってさ」

「なんだよ」

「なんでウチに来ないの?」

「マミ放っとけないだろ?」

「放っておくわけじゃないでしょ……じゃあマミさんと一緒に来るとかさ」

「それはやだ」

「なんでよ」

「だってそりゃ」

「?」

「いや、いいよ」

「いいこたないでしょ」

「………!」

「………?」
198 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:38:04.59 ID:c9PlB8gso

ほむらは何か言い合っている二人を見るともなく見ている。

口達者な二人がそのうちケンカでも始めるのではないかと懸念していた。


(これ以上問題が起きないでほしい)


心からの願いだった。


(マミのこと、街に溢れる使い魔の始末)

(それから……QBの不在)


そんなほむらの横顔をまどかが見上げた。


「ほむらちゃんはなにか心配ごと?」

「え?」

「っておかしいね。心配ごとだらけだよね、ごめん」

「いえ……先に出ましょうか?」 


二人の話が長引きそうなのでそう提案してみるとコクンと頷く。


「マミさん行ってきます。さやかちゃん、先に行くよ? 杏子ちゃん、またね?」

「うん、わかった。すぐ追いつくよ」

「またな」


玄関に移動し、ドアを開いてまどかを先に送り出してからちらりと二人の様子を見たほむらがぱっと顔をそむけた。

ただ事ではないその表情を見て一旦外に出たまどかが中に戻ってこようとする。

ほむらは思わず身体で阻止し、勢いでまどかがよろめいた。ほむらがあわててそれを支える。


「あっ、ごめんなさい!」

「う、ううん大丈夫だよ」


挙動不審なほむらが珍しくてまどかは思わず微笑んだが、すぐに真顔になって聞いた。


「どうしたのほむらちゃん?」

「…………ごめんなさい」


ほむらの顔は真っ赤になっていた。


(ああ)


察したまどかがさっとほむらの腕をとって歩き出した。


「行こう?」
199 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:39:14.35 ID:c9PlB8gso












いつどちらからどうなったのか、二人ともよくわからないままお互いの気が済むまで。

長いキスになった。











200 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:41:35.24 ID:c9PlB8gso

「……二人が仲違いでもしているのかと、少し心配していたの」


ほむらの顔はまだ赤い。学校への道すがら、まどかにぽつぽつと思っていることを話した。

最近努めて考えごとを自分の中に溜めないようにしている。


「うん、それは心配要らなかったかも。見てても仲良いし」


ほむらはその辺りの機微に疎い。


「そうみたいね」

「もし、二人がお互いにどこか……なんだろ、つんけんというか……ぎくしゃく?
しているように見えたのなら、さ」

「見えたのだけど」

「たぶんそれは犬も食わないっていうあれじゃないのかなあ」


(今後はなるべく関わらないでおこう)


ほむらはそう決心した。


「ほむらちゃんが今一番気になっていることってなんなのかな?」

「一番?……そうね……」


ほむらが積極的に話そうとしていることがわかるので、まどかも質問をためらわない。


「巴さんのこと。それから、QBがいないこと……かしら」

「ああ……QBは気になるね」
201 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/10/18(火) 01:44:25.10 ID:c9PlB8gso

ワルプルギス戦直前の日々、不在のQBはせっせと魔法少女を増やしていた。今もどこかでそうしているのだろうか。

あの日、嵐が止んで安全が確認された後、避難所からぞろぞろと大勢の人が自宅に戻っていく雑踏の中、QBはまたどこからか現れてまどかの肩に飛び乗り「マミを助ける気はないか」と言った。


「僕にも魔法少女にも、今すぐマミを連れて帰るのは無理だ。でも君の願いなら、それは可能だ」


その時まどかはマミの声をまざまざと思い出した。前の晩にマミからかかってきた電話の声。



“もしもあなたの足元に死体同然の誰かが転がっても決して契約を交わさないで”



(きっとこのことだったんだ)

(マミさんは自分に何かが起こるということがわかっていた)

(なら、私が取るべき選択肢はひとつだけ)


まどかが申し出を断ると、QBは「それは残念だね」とだけ言って消えた。

後からその話を聞いた時、ほむらはどっと冷や汗をかいた。

せっかくワルプルギスの夜を越えておいて、直後にまどかが契約してしまっては悔やんでも悔やみきれない。


「どこで何をしているのかとても気にはなるけれど、でもあいつがいないと心が休まるわね」

「え?」

「あなたが変な気を起こしても、あれがいなければどうしようもないから」

「やだなあ、ほむらちゃん。ほんとうに心配しすぎだからね?」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 08:43:14.27 ID:fsFJHpvuo
乙です
しっかり通じ合った杏さやだけでなく秘めまどほむまで入れてくるとは、これはできる作者
ワルプル以降を書くssはあまり見かけないだけに、ここまでのオリジナル要素がどう収束してくのか気になる
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 23:53:15.14 ID:Moqm5wzzo

悪の魔王を倒したらすぐにめでたしめでたしとはならない辺りままならないものだな
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/21(金) 18:37:06.53 ID:hZGvRDvwO
乙乙( `・ω・)
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/10/21(金) 22:54:55.29 ID:1LjdrRIbo
おつー
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 02:45:50.08 ID:J4iKWbVnO
【咲】京太郎「…………俺は必ず帰ってみせる」【安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1477320276/

京豚は害悪です
あなたが好きな作品とキャラがレイプされるかも知れません
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/02(水) 16:44:35.00 ID:izpVRLdZo
>>202
そしてマミさんが
いやなんでもないありがとうございます
>>203
とはいえそろそろ終わる方向に
>>204
なごむありがと
>>205
感謝!
208 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 16:50:53.16 ID:izpVRLdZo


(ここは?)


草のまばらに生えた地面の上で魔法少女姿のマミが目を覚まし、身体を起こした。

遠ざかっていく雷の音がかすかに聞こえる。

立ち上がって細かい砂埃を払いながら辺りを見回すと、少し離れた小高い場所に大勢の人間が集まっていた。ざわめきなどは聞こえてこない。

取りあえずそちらに向かって歩く。

自分の身体をチェックしてみた。どこも痛めてはいないし記憶も鮮明だ。最後に覚えているのは相手を確実に仕留めたという手応えだったが。


(あれからどれくらいの時間が経ったのかしら)

(私に何が起こったの?)

(……枷は破った、と思ったのだけれど)


しかし相変わらずの魔法少女姿だ。

ふと思いついて髪飾り、すなわち自分のソウルジェムの場所に触れてみた。


(ある……よくわからないわね)


遠目には人の集団に見えていたが、近づいてみると実際にはすべて等身大の魔法少女像だった。

皆晴れやかな笑顔で、それがざっと二百体以上はありそうだ。

石でも木でもないし金属でもない。彩色はされておらず全体に暗い灰色で細部まで作りこまれている。


(いえ、これは)


まつ毛、産毛、爪の形。見れば見るほどマミにはこれらがただの「像」だと思うことができなくなった。


(ここでは何らかの魔法が働いている)

(誰の魔法なの?)


魔法少女たちが集まったそこはなだらかな丘になっている。

少人数で固まって話す者、直立して見上げる者、腰に手を当てて振り向こうとする者、腕を組んで首をかしげる者、皆思い思いの姿勢を取りつつ一様に頂上の方に意識が向いていた。


(上に何が……)


嫌でも気になる。マミは少女たちの間を縫ってゆるい斜面を登っていく。
209 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 16:53:39.15 ID:izpVRLdZo

そして気付いた。


(この子、それに向こうの子も)


見覚えのある姿が幾つもあった。


(ワルプルギスの夜から出てきた影たち!)

(この集団がワルプルギスの夜の正体なの?)


改めて周囲の少女たちをまじまじと見る。


(ワルプルギスの夜に……)

(魔法少女が殺されて取り込まれるのか、魔女になってからなのかをQBに尋ねたことがあった)

(言っていたわね。私たちにとってはどちらも同じことだと)

(自分たちの得るはずだったエネルギーをワルプルギスの夜に持って行かれたと)

(控えめに言っても酷い無駄遣いだとも)

(ワルプルギスの夜が得たエネルギーは相当なものになるはず)

(魔法少女だけでなく、街をひとつ壊滅させて膨大な数の人命も奪っていくのだから)


そして、それらはどう使われていたのか。


「その答えがここにあるのかもしれないわよ、QB」


この場にいない異星人につい語りかけてしまった。


(QBがこう言ったああ言ったなんてことばかり思い出してしまうわね)


無理もないと思う。


(あの子がどういった存在であれ、長い間頼りにはしていたものね)


さく、さく、と乾燥して脆い感触の地面を踏みしめながら頂上に出ると、そこは丸くぽっかりと空間ができていて中央にはグリーフシードが直立していた。


(こんなところに)


なんとなく拾い上げようとした時(それは君には必要ない。触らない方がいい)という聞き慣れた声がした。


「えっ?」


(今の君は高エネルギー体だ。安易にグリーフシードに触るのは止めておいた方がいいよ)

(もっと早く言ってよ)


もう手にしていた。
210 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:04:55.44 ID:izpVRLdZo


目の前の動かぬ魔法少女たちと同時に始めのうちはぼんやりと、しかし次第にまったく違う風景が見えてきた。



…………神から与えられた大いなる力を振るって国中に跋扈していた魔を払い

…………圧政を敷いた前王を倒しその親族や臣下を説得して自らを正式な王と認めさせた

…………そしてこの荒地に一夜にして石造りの都市を作り出した



いつしかマミは大勢の人や荷馬の引く台車が行き交う石畳の通りに佇み、語りかけてくる異国の言葉を聞いた。

頭に情報が流れ込んでくる。

月を信仰するその古い国が建国以来初めて戴いた女王は即位当時まだ顔立ちに幼さを残した少女だったという。

少女は聡明で弁の立つ優れた施政者となった。国の大部分は肥沃な土地ではなかったが価値ある香料を産し、これを他国に売るための安全な交易ルートを確保したことにより巨大な富みを得た。

戦は好まなかったが無敵の武力を誇った。

臣民に慕われた。だが信じていた身内の裏切りをきっかけに身を滅ぼす。

悲壮な会話が聞こえてきた。



(ビルキースが悪魔に囚われてしまった)

(“使者”はなんと)

(女王はもう助からないと)

(だが女王はまだあれの中にいる)

(あの方が我々の呼びかけに応えないはずはない)

(女王は我々に約束したではないか)

(我々と共にこの力で千年続く王国を築き上げると)

(皆がいつも笑っていられる世界を作ろうと)

(我々が女王を取り戻す)

(必ず)



国の各地に派遣されていた女王直属の臣らが密かに集まった。皆女王と同じ年頃の少女たちであり“使者”の眼にかなって神の力を授けられていた。

そして魔女の元へ向かい、誰ひとり帰ってこなかった。

彼女らの顔と、丘の上でグリーフシードを持つマミを囲んだ少女たちの顔が重なった。
211 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:10:48.30 ID:izpVRLdZo

幻は終わり、マミはいつかのQBの言葉を思い出す。


“まず、魔女になった彼女を助けようとした仲間の魔法少女十数人が
あれに取り込まれてそのまま魔女の力となった”


「そう。今のが、あなたたちなのね……」

「何か見ていたようだが大丈夫かい?」


難しい顔で考え込んでいるマミの側にQBが近づき、手近な少女の肩に登ってマミと同じ高さになった。


「QB、あなた本当にどこにでも現われるのね?」

「それは回収しよう。君の役には立たないしここに置いておくこともない」


マミは心底あきれながら手に持ったグリーフシードをQBに向かって放った。吸い込まれていく。


「この人たちが魔法少女だった頃の姿を見ていたわ。一体どれくらい昔の話なの?」

「紀元前九百年頃かな」

「今のグリーフシードはワルプルギスの夜のものよね?」

「その中心になった女王のものだね」


長くなりそうだとマミはリボンで座り心地のよさそうな二人掛けのソファを作って腰を下ろした。


「まどかに君のことを頼んだのだけれど、断られてしまったよ」


(良かった、鹿目さん)


「いい加減鹿目さんのことは諦めてもらえないかしら」

「この場合はまどかになんとかしてもらいたかったところだ。でもそれももう不可能になってしまった」

「ここは何? 私はどうなったの?」


いろいろと引っ掛かるがマミは知りたいことをまず尋ねた。


「本来何もないはずの空間の狭間にワルプルギスの夜が作り上げた結界だ。
ここを存続させるために通常空間に出入りして魔法少女ごと街を襲っていたようだね」

「ただ闇雲に魔法少女を狩っていたわけではないのよ、この人たちは……」



“我々と共にこの力で千年続く王国を築き上げると”

“皆がいつも笑っていられる世界を作ろうと”



「どうやら救済のつもりでいたみたい。ここで仲良く過ごしていたのかしらね」

「救済? 魂だけの存在になって永い時を過ごすことがかい?
魔女の力となって魔法少女や魔女も取り込んでいくことが? 君らにとって救済だと言うのかな」

「絶望に塗れて涙にくれて死んでいくよりはマシかもしれないわよ」

「不合理じゃないか。ついでに無関係の同族を自分たちのためにごまんと殺していくんだからね。
しかしほんとうに勿体ない。これだけの数の魔法少女が無駄になってしまったなんて。そう思わないかい?」

「それももう終わり。そうでしょう?」
212 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:19:46.11 ID:izpVRLdZo

「それは間違いない。この先ワルプルギスの夜が出現することはない。そのうちこの結界も消滅するだろう」

「どれくらいの時間で消えるの?」

「さあ。大きいからね、時間はかかると思うよ。ところでそっちへ行ってもいいかな?」

「どうぞ」


ゆったりくつろぐマミの隣にQBが座り、くるんと自分の身体に尻尾を巻き付けた。


「この結界について、あなたたちはまったく知らなかったの?」

「大海原に浮かんだ小さなブイみたいなものをイメージしてくれればいいかな。気付かないよ」


QBの声がなんとなく憂鬱そうに聞こえたが、もちろん気のせいだろう。


「それにしても面倒なことになった。ここから脱出するのは難しいかもしれない」

「どういうこと?」

「通常空間につながる道が見えない。隠されているのかな。
それから君には本来の肉体に戻ろうとする強い力が働いているはずなんだけどそういった気配がないのも気になる。何か心当たりはあるかい?」


「ありすぎるくらい」


魔法少女たちは玉座についた新しい女王と“使者”を確かに見つめている。

マミにはそのように思えて仕方がない。

目を凝らすと彼女たちから自分とQBに伸びる不可触の黒い糸がうっすらと見えた。


「私たちこの場所に、この子たちに捕まっちゃったみたいよ。QBにはこの糸が見えないの?」

「見えないが、うん何かあるようだね。どうも感知し辛いな」

「情念? 恨みかな? 私たちにしこたま絡みついているわよ。
そう言えば、全員あなたとは知り合いなのよね」

「そういうことになるね」


なんでもないことのようにQBは返事した。

これだけの人数から一斉に恨みつらみを訴えられたら自分は耐えられない、とマミは思う。


(しかもみんな死霊なんだもの)


死霊という言葉を思い浮かべた途端身の毛がよだった。


(怪談は正直得意じゃないわ)
213 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:33:25.12 ID:izpVRLdZo

「どうかしたのかい?」

「なんでもないの。ところでQBはどうやってここに来ることができたの?」

「君が僕を呼んだからだね。何度も言うけれど、こんなものがあるとは想定外だった」

「私、あなたを召喚したかしら?」

「君が呼ばなければここには来れなかったよ」

「拒否できるでしょう?」


ワルプルギス戦が近づいていた頃、どれだけ呼んでもQBは姿を現さなかった。


「僕らを動かすのは探究心だ。拒否する必要はないと判断した。」

「QB。こういう時に君のことが心配だから来たなんて言っておくと女の子の信頼を得られるわよ」

「参考にしよう。しかし君も呑気だね」

「そう?」

「君は今、自分がどういう状態なのかわかっているのかな」

「いいえ」

「君の身体は今君の仲間たちと共にあってこの結界に魂だけが落ちこんでいる」


急に自分の身体のことが心配になった。


「あ、ちょっと聞かせて。その……私はあちらでどういった感じでいるのかしら?」

「君の身体かい? そうだね。終始呆然自失といったところかな」


(杏子にかなり面倒をかけているのかも)


もしここから戻れたら一週間くらい続けて杏子の好きなものばっかり作ってやろうと決心する。


(山盛りの駄菓子の方が喜ぶかな?)
214 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:52:58.38 ID:izpVRLdZo

のんびりそんなことを考えているマミに冷水を浴びせるような言葉が聞こえてきた。


「いつまでもここにいると魂は消耗していくよ。君はこの場所にとって願ってもないエネルギー源だ。ほんの少しずつだけれど今この瞬間も君は結界の燃料として減っていく。
そうなると現世の身体の方もただでは済まない。この結界がいずれは消えるにしてもその前に君が失われる可能性の方が高い」

「それは困るわね」


少し間が空いた。


「どうしたの、固まっちゃって珍しいわね」

「予想外の反応だったからね。あまり驚かないね」


(そろそろびっくりするのも疲れちゃってね……)


「今こうして私が操っている身体については、これはなに?」


身体の実感が確かにあるのが不思議だ。掌を開いたり閉じたりしてみる。


「僕の場合と同じだ。ここにある物質を使って構築した仮の肉体だね。ここの子たちもそういうことだよ」

「へえ、そうなのね」

「さっきから他人事のように話しているようだけれど、君は元の世界に戻りたくないのかな?」

「もちろん戻りたいけれど……ちょっと考えていたの」


マミは隣に座るQBを見た。


「ねえ、QB。あなたがずっとここにいたら、もう元の世界では魔法少女は生まれないの?」

「しばらくの間はね。すぐまた代わりの者がやってくる」

「あらそう」


少し宙を眺めるような仕草をして「じゃあ真面目に脱出のことを考えましょうか」と呟く。


「そうそう。私はもう魔法少女ではないのよね?」

「厳密には魔法少女ではないけれど、まだ完全に元に戻ったというわけでもない。
君が僕を認識できる間は付き合うつもりだよ」

「私がまだ魔法を使えるのはどういった理屈なの?」

「君がここで使っている魔法はシステムを利用しない君自身の力だ。肉体の制約がないのとこの場所の特異性によって使える。
システムによる強化はもちろん失われているが、難しく考えなくていい。夢の中では何でもありくらいの感覚でいればいいよ。限界は自分でわかるはずだ」

「いつもいろいろ教えてくれてありがとう。メンターと呼んでもいい?」

「どう呼んでもらっても構わないよ」

「冗談なのよQB」
215 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:54:46.45 ID:izpVRLdZo


マミが集中し始めた。すんなりと馴染みの光の柱を見上げる。

黒い糸が柱に絡みついていた。

柱を中心に白い花弁がゆるやかに回り続けて、まぶしく輝いている。

深く深くマミは意識の底に沈んでいく。

幾つものヴィジョンが開く。

それは現実世界にある彼女の身体に繋がる道だ。

たやすく自身と合一できるはずだったが、黒い糸が邪魔をしている。

回転が早くなっていく。

コアから汲み上げられた力が光の柱を昇りながら黒い糸を焼き切っていく。


「君はほんとうに器用だ」


マミのまとった仮の身体とそこにあったソファーが一瞬で細かく分散して空中に溶けた。

216 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:56:33.72 ID:izpVRLdZo


(マミ………さん? うううん、ちがう?)

(見たことがある。キャンデロロ………?)

(ちがう。魔女じゃない)


まどかにとってはどんな魔女もみな一様にどうしようもなく虚ろで怖ろしい存在だが、それは違った。

生命力に溢れ光りを発して躍動している。


(マミさん!)


その飛翔体はどこからか絡まりついてくる糸を何度も何度も振り切って飛んでいく。

だが後から後から糸は増えるばかりで、とうとう飛行は完全に止まってしまった。

それは羽をふるわせて懸命にもがく。


(がんばってマミさん!!!!)


まどかは力いっぱい叫んだ。

だがそれはとうとう力尽き、さらに増える糸に埋もれ、どこかへ引き込まれてしまう。

授業中、まどかの様子がおかしいことに隣席のほむらが気付いた。

目を見開き、前を向いたまま意識がここにない。


「まどか?」


小さく声をかける。反応はない。

完全にトランス状態にあった。魔女に魅入られた状態に似ているが何かに操られている気配はない。

ほむらが見守る中それは数分の間続き、終わった。意識を取り戻したまどかがすぐにほむらの方を向いてふたりの目が合った。

後で話して、と口を動かすとまどかが小さく頷いた。

217 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:58:00.69 ID:izpVRLdZo

「おや、うまくいかなかったのか」


中空から塵が集まってきてマミの形をとった。


「おかえり、マミ。だいぶ消耗してしまったようだね」

「かなり、手ごわいわよ」


マミは立っていられなかった。その場にへたり込んで目を瞑る。


「………寒い」

「それは錯覚だ。これは仮の身体だよ」


そう言いつつQBはマミの膝の上に乗り、それをマミが両腕で抱え込む。

魔法少女になったばかりの頃、不安や孤独を感じた時によくこうしてQBに触れていた。


「………温かい」

「それも錯覚だからね」


にべもないがマミは気にしない。

そこにある熱を確かに感じていて、それで充分だった。


「たぶん、だけど鹿目さんの気配を感じたわ」

「それはあり得るね。今の君と彼女の状態は似通っている部分がある」

「え?」

「まどかも以前、持っている素質の力で魔力を引き出したことがある。いや吹きこぼれたという方が正しいかもしれないね。
今の君と力の使い方が同じだ。呼応しているのかもしれない。それは個を超える力でもあるからね」

「ああ、あの……いろんな時間軸を夢で見ていたっていう……」

「少し眠るといい。多少は回復するはずだ」

「魂も眠るのね」

「眠るよ。おやすみ」


静かにゆっくりと黒い糸はマミとQBに降り積もっていく。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 00:47:37.40 ID:zPQmd6DYO

死人の作った楽園とか怨霊に取り付かれるとか本当に怪談話だ
でもよく考えたら魂の宝石とかいう時点でそっちの気は十分あったな
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/07(月) 01:19:40.41 ID:Wf5tByNa0
こんなスレがあったとは
Rだし内容の割にはレスが少ないような気がするが、見てるから頑張って完結してくれ
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/09(水) 00:29:06.88 ID:KQujjRioo
Rだからしゃーない
こういうのスコップできただけでじゅうぶんだわ
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 18:05:43.64 ID:TcD/Xdsko
>>218
乙感謝です
本編からしてホラーじみてますし
>>219>>220
レスは意外ともらってるという感覚
コメント心強いありがとう
222 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:09:27.24 ID:TcD/Xdsko

休み時間に入る度まどかの見た白昼夢について二人で話した。

以前行なったことを再現できるか、つまりまどかの夢を利用してマミの消えた“時空間の狭間”とやらに行くことは可能かどうかを探っている。昼休みには屋上に出て周りに気兼ねなく話し込んだ。


「あっ、居眠りしてたんじゃないからね? 突然始まったの。耳がきーんってなって」

「見た……というより見せられた?って感じがしたよ」 

「うん。姿は違ったけどあれはマミさん、それは自信あるよ。
ちょっと気になったのは、全体的にしっかりしてないっていうか」

「え、と。なんて言えばいいのかな……起こっていることを見ているというより、誰かの夢を覗いているみたいな?
うん、それが近いかも」


まどかは言葉選びに苦心しながらほむらの質問に答えた。しかし更に「もう少し感じたことを言葉にしてみてほしい」と頼まれると困ってしまった。


「感じたことかぁ……そうだねぇ……」


隣り合って座り、膝の上にそれぞれ自分の弁当を広げている。二人ともまだほとんど手をつけていない。


「とにかくこれを済ませて、それからにしましょう」


ほむらはまどかにそう声をかけ「食べながら聞いて」と話し始めた。


「具体的なイメージが欲しいの」

「?」

「他の人のことはわからないけれど、私自身に関して言えば魔法を働かせるにあたってそれが必要なの」


まどかが口を小さくもぐもぐさせながらほむらを見た。


「感覚の話よ。魔力を使う時はそれができるから、できるの……疑問の余地はない。
手足を動かすのと同じで自然なこと。時間を操作するような、どれだけ異常なことであってもね」


異常なこと。

魔法少女は世の理の外にある力を振るう。願いにより人ではなくなりその理から外れ、存在する為になおも力を願って理を歪め続ける。

願いは希望として歪みは呪いとして差引はゼロになる。ソウルジェムはグリーフシードになる。そうやってバランスは保たれる。


(しかし巴マミは人に戻った)

(どうしても彼女から話を聞かなくてはならない)

(もしも……魔法少女が人に戻ることができるのなら……それは……歪みはどこに出るの?)

(収支を合わせるなら巴マミがずっとこのままでもまったく不思議ではない。むしろ当たり前に思える)


そう考える自分自身に少しうんざりする思いだ。


「うん、わかるよ。魔法はただ当たり前にできるだけ、私もそうだったと思うよ」

「そう。あなたも夢の中とはいえ経験してきたことだものね」
223 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:11:33.71 ID:TcD/Xdsko

まどかの応答に気を取り直してほむらは続ける。


「以前私はあなたの夢を別世界への通路として使ったけれど、その先にあるのは私の良く見知った過去だった」

「うん」

「だからとてもスムーズに魔法が働いたと思っている。でも今回は違う。
だからできるだけ詳しく知っておきたいの。同じようなことを何度も聞いてごめんなさい」

「うううん、いいんだよ。何回でも説明するね」

「ええ、お願いするわ。……さあ食べてしまわないと」

「だね。ちょっと急がなきゃいけないかな」


言いながらふとほむらの手元に目がいった。


「あ」

「どうしたの?」

「お箸の使い方がすごくきれいというか、優雅というか」

「そう?」

「うん。ほむらちゃんのお家はそういうの厳しかったのかな?」

「いいえ、むしろ甘い方だった。なにしろ病気がちの子供だったから」


そしてわずかに笑みを含みながら「今でも魔法で体力の底上げしているくらい。基本的に弱いの」とさらっと付け足した。


(コメントし辛いよほむらちゃん)


発言内容はともかくとして添えられた笑顔がまどかには嬉しかった。


「そう言えば最近はお弁当作ってくるんだね? 忙しいのに」

「ええ。経費削減」

「あ、それはちょっと意外だったかも」


今度は少し歯を見せて笑ってくれて、もっと嬉しくなった。


「手だけじゃなくて姿勢から何から全部整っててほんとに絵になるね。あれ?」
224 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:12:51.44 ID:TcD/Xdsko

口からぽろぽろと転がり出た自分の言葉にまどかは驚き、耳に入れたほむらは息を詰まらせた。


「ごめん、ほむらちゃん。さっきまで頭がいっぱいいっぱいだった反動でちょっとタガが外れてたみたい」

「……いえ、別に」


(それ程おかしなことは言ってない……はず)


まどかは頭の中でそう確認してからついでに念を押した。


「からかってるとかじゃないからね?」


何か返事をしようとしたほむらに杏子の声が届いた。


(邪魔するよ)


タイミングのせいもあってビクッと全身で反応したほむらにどうしたのとまどかが目で尋ねた。


「杏子よ」


(あんたら携帯の電源切ってんのか。さやかが何回もメールしてんのに返事ないから直接来たよ)

(校内では切っておくのが決まりなの。さやかも知っているはずよ。何があったの?)

(マミがおかしい。だんだん動かなくなっちまった)


表情をこわばらせたほむらの横顔を心配そうにまどかが見た。


(動かなくなったってどういうこと?)

(そのまんま。朝はちゃんと歩いたり食べたりはできてたろ。それができなくなった。
さやかが言うにはとにかく色々弱ってるって)


彼女はもはや生身の人間だ。魂が抜けたまま存在し続けるのは難しいのだろう。


(……タイムリミットがあるということね。それで?)

(取りあえず、あんたが帰ってくるまであんたん家にいるから)

(わかったわ。家にあるものは何でも好きに使ってちょうだい)

(そうさせてもらうよ)


杏子はそのまま顔を見せずに行ってしまった。やりとりのあらましをまどかに伝える。
225 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:14:08.22 ID:TcD/Xdsko

「まどかはどう思った?」

「どうって……それは……マミさんが危ないって、思ったよ」


QBの“魂の危機”という言葉が思い出され、ほむらは符号がいくつかカチリと合った気がした。マミが正にそんな危機の真っ只中だ。それにより起こるはずのないことが起こる場合がある。


“君らが来ることはできないはずだ”


あれは確かにそう言っていた。

魔法少女から人に戻ったマミと人でありながら魔法少女の力を溢れさせたまどか。

あり得る、とほむらは考えた。なんだってあり得る。


「あなたの見たものと今のマミの状態に関連はありそう?」

「あるよ。具体的なことは何もわからないけれど、でも」


まどかは両手を重ねて自分の胸の中心に置いた。


「思い出すとこの辺が重苦しくなる。私覚えてるんだ、前の時もこんなだったって。
私にできることがあるはず、やんなきゃ、ってずっと焦ってて、それでほむらちゃんに頼ったの」


“どうやってそんなことができたんだ?”


杏子に問われた時ほむらはろくな返答ができなかった。どうするかわかったからそうしただけだった。

改めてまどかを見る。視線は受け止められ柔らかくほむらに返された。


(この子は普段ほとんど断定的な言い方をしない)

(よく知っている。一度心を決めると本当に強い)


「早速今夜にでも試してみる?」


まどかの表情がぱあっと明るくなり、ほむらはなんとなく照れた。
226 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:19:26.26 ID:TcD/Xdsko

「何もないところに君たちはこうして物を創りだす。
地上を模したこんな結界だったりこの寝椅子だったり。空白の状態に精神が耐えられなくなるようだね」

「何でもかんでも一緒にしないで欲しいわ」


相変わらずマミは過去の魔法少女たちに囲まれた丘の上にいて、新たに作ったソファーに思案気な顔で身を沈めていた。隣にはQBがいる。退屈を知らない生き物らしく同じ姿勢を取り続けている。

脱出失敗後の気絶するような眠りは急激に力を枯渇させたことによるハンガーノックのようなものだったらしい。回復して目を覚ました時、自分がQB共々黒い糸に埋まっているのを知って思わず悲鳴を上げ、腕の中のQBは抱き潰された。

マミを結界内に引きずり戻した大量の黒い糸は、今も身体中に纏わりついている。しかし彼女の動きを阻害しようとはしないし、見ないでおこうと思えば努力せずにそうできた。

振り払うこともできた。しかしすぐに絡みついてくるし切断はどうしてもできなかった。


「仕方ないわね。あまり気は進まないけれど」


元から断つべくいつもの古式銃を出現させて手近な一体の少女像に向かって発砲してみると、着弾した周囲が広く砕けて霧散した。続けざまに四、五体の上半身を消し飛ばす。


「ん……なるほど」


それらは壊れた先からみるみる復元していった。ワルプルギスの夜と戦った時とは違う。


「暖簾に腕押しね。まあこれらがこの人たちの本体で魂を宿しているということなら、そうなるわよね」

「かなり古い魂だけどね。もう僕らの役には立たない」

「それはどうでもいいの」


銃を消し、マミは肘掛にもたれて頬杖をついた。


「どうやら、ここを出て行くこと以外は好きにさせてくれるみたいね」

「それはそうだろう。君がいるだけで結界の延命は叶うわけだから」

「小屋でも建ててみようかしら? こうして大勢に囲まれているのも落ち着かないわ」

「あまり余計な力は使わない方がいい。君は無駄に凝りそうだしね」

「どうにも困ったわね。この子たちを一気にまとめて粉々にできれば復元する間に逃げられるかもしれないけれど、そこまでのことは今の私では無理」


ふうー……と長い溜息をついてしまった。


「手詰まり感が半端ないわ」

「今のところ君のできることは限られている」

「ええ。ヒマ過ぎてどうにかなりそうな心の平衡を保ったり、沸々と湧きあがる焦燥を抑えたり。
自分のメンタルケアに必死よ。……分からないでしょうけれど」

「うん。僕には理解できないが、それは大変だね」
227 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:26:26.85 ID:TcD/Xdsko

「あなたたちって、本当に感情はないの?」

「君たちの思うようなものはないと断言できる」


マミは続きを待った。QBの話し方のリズムにすっかり慣れてしまっている。


「僕らに感情がない、ということが信じられないんだね」

「あなたと話していると感情を持っているとしか思えないことがあるの」

「感情はないよ。そう言うと君たちは僕らに心がないと受け取るんだね。不安定なことこの上ない自分たちの感情を心だとする。感情に支配されそのめまぐるしい変化が精神の状態に大きく作用する。本当に危うい生き物だね。
まあ、だからこそ得難いエネルギー供給源になり得るのだけれど」

「あなたたちの言う心って何?」

「思考活動のことだよ」


マミは少し食い下がりたい気持ちになった。


「驚きや悲しみや怒り、好奇心や喜びを感じることがまったくないの?
どうして生きていられるのか不思議だわ。あなたたちを動かすものは何?」

「前にも言ったと思うけれど、探究心が大きい」

「知りたいという欲求でしょう。それは感情とは言わないの? そして知り得た時の喜びや達成感もないの?」

「君たちのフィールドで、君たちの言語を使って僕らについて説明するのは無理がある。
相互理解の困難さについては常々思い知らされているよ。それでもなんとか使えるツールを最大限使って効率よく伝えようとしているんだけどね」

「はあ……あなたは何を言っているの」


額に揃えた指先を当ててマミがまたため息をついた。


「私たちと理解し合おうなんて思っていないのでしょう?」

「いいや、有史以来努力し続けているしこれからもそうするつもりだよ」

「宇宙の熱的死を遅らせるため?」

「そういうことだね」

「働きものなのよね、あなたたちは。そうやってコツコツといつまでも私たちの命を搾取し続けるの?
そんな生き物同士の間にどうして相互理解が必要なの?」

「必要だよ。これは取引なんだから」

「公平な取引ではないわ。あなたたちの取り分が大きすぎるもの」

「君たちがそう思うのも無理はないが、僕たちにとってはまったくそうではない。
君たちの望む対価を見合う分だけちゃんと支払っているじゃないか。それに君たちは数が多い。ダメージはごくわずかなはずだ」
228 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:39:45.88 ID:TcD/Xdsko

「ねえ、そこじゃないわQB」

「どこだろう」

「群れとして見ないで。個々を見て。できないの? そういう生き物だとわかってきたけれど……でも」


マミは傾けていた身体を起こして膝に両手を置き、QBを見た。QBはマミを見上げる。


「やり方を変えてはもらえないかしら」

「例えば?」

「私たちは未熟なの。そこにつけこむのは止めてほしい」

「具体的にどうしてほしいんだい?」

「ちゃんと説明して。契約を迫る時、私たちに起こること、魔法少女システムのからくりを希望も破滅も包み隠さず全てを明らかにして。
確実に起こることだけでなく、可能性をも含めてどうなるかをきちんと示してあげて。相互理解というなら、それが必要だわ」

「魔法少女として生き長らえ、システムから脱した君の言葉を無下にはできないね」

「聞き入れてくれるの?」

「けれど、そうすると契約してくれる子がかなり減るかもしれない」

「ええ。ほとんどいなくなるでしょうね」

「魔女がいなくなる。グリーフシードが一層入手しにくくなるよ。君にはもう必要ないけれど」

「本当に酷いシステムだわ。それから素質の少ない子に契約させるのも止めて。悲惨過ぎる」

「それは約束しよう。僕らにとっても無駄が大きい」

「ではなぜ」

「この星はまどかの魔女化を最後に終わるはずだった」

「ああ……できるだけ搾り取ろうとしていたわけね」

「返す言葉がないね」
229 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 19:23:13.83 ID:TcD/Xdsko

夕方、ほむらの家に全員が集まった。

まどかとさやかはそれぞれ一度自宅に戻って私服に着替えている。


「ちょっとのんびりし過ぎたというか順番を間違えたかもな。
マミを後回しにするんじゃなかった」


テーブルに頬杖をついて杏子が不機嫌そうに言った。


「けど待つこと以外できることなかったじゃん?」


マミの側についているさやかがそう応じると「無力だよなーホントに」と呟いた。

マミはいつでも誰でも様子を見ることができるように広々とした居間に敷かれた寝具に横たえられ、今は昏々と眠っている。


「手があるかもしれないわ」


そう言ったのはほむらだ。


「ほんとか?」
「ほんとに?」


杏子とさやかが離れた場所から同時に声を上げた。


「知っての通り以前まどかの夢を辿って異なる世界線に干渉したことがあった。同じことができるかもしれない」


その先をまどかが続けた。学校で見た白昼夢について話す。
230 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 19:23:57.40 ID:TcD/Xdsko

「ただの夢とそうでないのって区別はつくのか?」


杏子が聞き、まどかが頷いた。


「それはぜんぜん違うよ。はっきりわかるよ」

「やってみてくれるか? 正直できることが何もなくて困ってる」

「そのつもりだよ」

「あっ。ちょっと待って、あたしうすぼんやりとだけど覚えてるよ」


さやかが口を挟んだ。


「それ、ほむらは大丈夫なの? QBがなんか言ってたじゃん」


ほむらももちろん覚えている。


“危ないことをする。帰れなくなるかもしれないよ”


「大丈夫よ」


特になんの根拠もないがすぐさまそう返事する。

まどかが不安気にほむらを見た。わけのわからない衝動に突き動かされ、ほむらの身に危険が及ぶ可能性について考えが及んでいなかった。


「ほむらちゃん、ごめん私」

「大丈夫。何度も同じことをしたでしょう? 一瞬たりとも危険を感じたことはないの。あなたもそうだったはず」


(ねえ)


眠るマミを見ながらさやかが杏子に話しかけた。


(言わなくていいことを言っちゃったかなあたし?)

(違う。出しとかなきゃいけない情報だ)

(まさかとは思うけど、ほむらまた時間を巻き戻したりしないよね?)

(そんなにバカじゃねーだろたぶん)
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 20:53:00.57 ID:kILy7Th0O
感情がないのと精神活動がないのは違う
ではなにを心と定義したらいいのだろう
232 : ◆5UuNMwrvUc [saga]:2016/11/29(火) 17:45:28.96 ID:nSoD7sHUo
これは面白い、一気読みしてしまった
マミさんがんばれえ
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/29(火) 18:41:31.23 ID:MrI/Zrhso
【ラブライブ】希「どうしてこんなことに…」理事長「ふふっ♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1480308111/
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/29(火) 23:33:45.66 ID:nSoD7sHUo
ごめん酉つけたままなの全然気づかなかった
続き楽しみにしてます
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/02(金) 13:59:03.17 ID:1TcBFJpJo
グロラ豚
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 01:22:36.58 ID:Tj9/jsnfo
>>231
このSS内でどうなのかというご質問でしたら特にきっちり定めてはおりません
>>232>>234
忙しそうなのに読んでくれてありがとう

少し投下
237 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 01:36:32.18 ID:Tj9/jsnfo

(こんなに上手くいった時間を簡単に捨てていったりしない……と思う)

(だよね!)


ほむらが時間遡行の魔法を発動させるということはほむらが、最悪の場合マミもがこの世界に戻ってこないことを意味する。

マミがいなければ魔法少女が人に戻った経緯を知る術がなくなる。

ほむらにしてもやっと抜け出せたループにまたもや嵌まり込むことになる。そんな事態をまどかがそのままにしておくとは思えない。彼女はまだ奇跡を願う力を持っている。

QBの不在がふと意識をかすめたが杏子は気にしないことにした。


(まどか次第だけど……万が一の場合にはあいつの契約ってのも考えに入れておくべきじゃないかな)

(それはダメでしょ。ほむらが承知しないって)

(うーん結果としてだけど、ほむらの意思ってのはけっこー通ってこなかったんだ)


その逆もまた然り。杏子はすれ違いを繰り返してきた二人を見た。額を寄せ合うようにして何か話している。


(でももう、こいつらは一番厄介なところは越えちまってる。大丈夫だと思いたいな)

(なーんからしくないんだよ杏子)

(そうか? 任せるしかないんだし)


さやかは漠然とした不安を消すことができない。


(あたし、なんでこんなもやもやしてんのかな)

(さやかはほむらを信じられないのか?)

(それもちょっとあるかもしれない……けど、違うなぁ……)


さやかはうーんと唸って首を傾げた。 


(あっ! そうだ、ほむらだよ)

(なに?)

(ほむらって今、時間停止で無双できてた頃と違うんだよ? 魔法での攻撃もほとんどできない子なんじゃん。
もやもやするに決まってるって!)

(それは今さら心配してもしょーがないだろ。ついてってやれるわけでもないんだ)

(それそれ!!!)

(なんだかわかんないけど、聞こえないのか? まどかが呼んでるぞ)
238 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 01:57:03.23 ID:Tj9/jsnfo

「……さやかちゃんってば」

「へ?」


はっと顔を上げるとまどかが不思議そうにこちらを見ていた。杏子は知らん顏をしているし、ほむらは台所にいるようだ。水音が聞こえる。


(何回も呼んでた)

(早く教えてよも〜)


杏子との会話に集中し過ぎていて、何の音も耳に入ってこなかった。慌てて返事をする。


「ごめんごめん、ぼーっとしてた! なになに?」

「私もう帰るけれど、さやかちゃんはどうする? 一緒に帰らない?」


いつの間にかまどかは完全に身支度を整えていた。居間に戻ってきたほむらも外出準備は万端のようだ。


「あー、どうしよっかなー」


本当は迷ってなどいなかったので我ながら空々しかった。


「えっと、ほむら、あたしはここに居させてもらっていい? てか、泊まってもいいかな?
杏子ひとりにマミさんを任せておくのもなんだしさ」

「どうぞ好きにして」

「ありがとう。お礼に掃除くらいはしておくから」


放っておいてくれていい、とほむらが口を挟んだが二人は構わず掛け合いを始めた。


「そーゆーのめんどうだったから前はホテルに住んでたんだよなー」

「あ、詳しく聞いたらダメなやつだこれきっと」

「じゃあ反応すんなよ」

「開き直るなってえの」


聞き流しつつほむらとまどかは出ていった。
239 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:04:15.95 ID:Tj9/jsnfo

「仲間の心配はしていないようだね」

「心配? 何を」

「グリーフシードが不足するかもしれないことに不安はないのかな」

「すぐになくなってしまうわけではないし、あの子たちも私と同じことができるはずだから」

「僕の知る限り君は特別なケースだよ」

「いいえ。私は特別でもなんでもない。私ができることならあの子たちだってできる。
前例もあるのでしょう?」

「ある」

「教えてちょうだい。魂が身体に戻る時に起こる不具合について。
聞いてもいいわよね、もしかしたらこのまま戻れないかもしれないんだし」

「なら聞いても仕方がないんじゃないのかな」

「いいから」

「記憶に影響を及ぼすことがある。これは時間が経つにつれ治ることが多いようだ」

「記憶? 例えば?」

「極端な例だけど魔法少女についての一切をなくしてしまった子がいた」

「それは困るわね」


マミは自分の身に置き換えてみて思わずそう呟いた。実際、ものすごく困る。


(忘れてしまうのなら……そうなるくらいならいっそ……)

(ん?……いっそ? なに?)


何かが閃いた。とても気になったが尻尾を捕まえ損ねたので一旦完全にあきらめる。

QBの話は続く。


「心身にずっと障害が残った例もある。ただ社会生活が送れなくなるほど壊れてしまった子はいなかった。
変わったところでは魔法少女だった時に戦闘で受けた傷が人間に戻ってから改めて出てきた、というのがあったよ」

「戦闘時の傷?……その子はどうなったの?」


滅茶苦茶な戦い方をしていたというさやかのことが頭に浮かんだ。
240 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:16:06.98 ID:Tj9/jsnfo

「魔女との戦いで一度片足が根元から千切れたんだ。ちゃんとくっついてその後も支障なく動けていたのに、魔法少女ではなくなってからの生涯ずっと怪我した方の足を引きずっていた」

「ちょっと──今、生涯って言った?」

「システム破りを果たした子についてはその後のデータを取っている」

「私のデータも取るの? 一生?? そんなに手間ひまをかけるのね」

「時々様子を見るだけだし君たちの一生は僕らにとっては大した時間ではない。
もし君が自分の身体に戻ることができればもう僕の姿を知覚することはできなくなるから、あまり気にしなくていいよ」

「見えないんだから気にするなと言われても」


マミは厚い雲で覆われた空を見上げて「あなたたちって本当に……」と呟いた。


「以前あなたは私が知ることによって結果が変わる可能性について教えてくれたわ」

「何も知らない方が予後はいいかもしれないと僕らは考えている」

「私にどんな症状が出るか予測はできる?」

「君が想像した最悪のところに落ち着く可能性がある。
魔法少女に関わるあらゆる記憶を失う。してきたこと、起こった出来事、そして仲間たちのことを忘れる」

「冗談を言っているの?」

「そういう傾向があるんだ。言ったはずだよ、知らない方がいいとね。引きずられるんだ」


どうであれ知っておかなくてはならなかった、とマミは自分に言い聞かせた。


「……記憶ね。回復するとしたら、どれくらい時間がかかりそう?」

「数か月から数年といったところかな」

「それは困ったわねえ。貴重な時間が潰れちゃう。あなたには都合がいいわよね?」


仲間たちにマミという実例が示せる以外の何もできなくなってしまう。魔法少女の勧誘についてマミがつけた注文も当然のようになかったことにされるのではないだろうか。

QBから返答はなかったが、マミはそれを肯定と取った。

それからしばらくの間、マミは自分の考えに深く沈み込んだ。本人は気づいていないが、その姿は周りの少女たちとよく似たくすんだ色の彫像のようになっている。
241 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:38:18.16 ID:Tj9/jsnfo

「僕もこの星に長くいるけれど、君たちのような形態をとった魂と接触するのは初めてだ」


QBは寝椅子から飛び降りて一番内側の輪を作っている魔法少女たちに近づいた。


「シバ国の子たちだね、女王の臣下として働いていた。会話はできるのかな?」


返事は無い。


「君たちが何かを発しているのはわかるんだがマミの言う黒い糸、というのが僕にはどうにもはっきりしない」

「君たちはどうしてこんな場所に留まっているんだい? ワルプルギスの夜はもう終わったんだ。ここが存在する意味も無くなった。
君たちの教義では魂は同じ存在として居続けるものではなく、滅びては再生を繰り返すのではなかったかな。
一体何が望みなんだろう?」

「帰郷」


後ろから小さな声がした。マミの方から。QBは首を巡らせる。


「マミ?」

「だ、そうよ。その子たちが……伝えてきた」


色彩は元通りになっているが苦悶の表情を浮かべている。


「これは、私にはキツイわね……やめてくれない?」


そして安堵のため息をついたが、こころなしか青ざめている。


「止まった。……まったくもう、この子たちを刺激しないでくれるかしら」

「彼女たちと話せるのかい?」

「いえ、ちゃんとした会話ではなくて、感情が流れ込んでくるの。
そんなことより、知られてしまったわ」

「何をだい?」

「時間を遡ることができる魔法少女がここへ来る可能性について、よ」
242 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:47:18.28 ID:Tj9/jsnfo

「ねー杏子」


ソファーで新聞を広げていたさやかが杏子を呼んだ。ほむらとまどかが家を出てからずっとダイニングテーブルで組んだ両腕に頭を乗せ、何か考えごとをしていた杏子だった。


「ヒマそうだね。さっきの話の続きをしない?」

「まだなんかあんの?」


杏子はちょいちょいと手招きするさやかに近づき、隣に腰を下ろしてぐーっと伸びをした。(でっかい猫みたい)と思いながらさやかはチラシの束ごと新聞をたたんで台の上に置いた。


「新聞なんか読むんだな」

「眺めてただけ。ポーズですよポーズ」

「なんだそれ」

「あまりちゃんと見ないようにしてんの」


災害直後と比べるとだいぶ小さい扱いにはなったがそれでも一面に死亡者数と行方不明者数が載っている。

さやかは掌を上を向けて差し出した。ぽんと手が乗せられたので指を組んだ。


「なんかさやかから妙なプレッシャーを感じるんだけど。なに考えてる?」

「わかってんじゃん。そーなの。さやかちゃんはただいま杏子をぐいぐいプレス中なのだよ」

「はあ?」

「いい? マミさんはものすご〜〜く大事な人です。やさしいマミさんが大好きだよ」

「うん。知ってる」

「そしてほむらも大事なの。大事なまどかをずっと大事に思ってきてくれた子だから、どっちも失うわけにはいかないの。
だからできることはやんなきゃだめだと思うんだ」

「……うん?」

「本気出そう。魔法を使おうよ」

「なにを言って」

「待って、聞いてよ。できるよ。思い出せればいいんだよ」

「思い出せれば?」

「うん。一回できたことじゃん?」

「…………あれか」
243 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:57:33.30 ID:Tj9/jsnfo

(あの時は目の前に大けがをしたマミさんがいた)

(あの時は目の前に死んだように倒れたほむらがいた)


いきなり異世界に二人で移行した時のことだ。あれ以来一度もそういったことは起こらなかった。偶然の重なった結果だったのだろうと深く考えずにいた。

入り口が異常なほどの性的な絶頂体験だったということもあって、これまで二人の間で話題として触れられてこなかった。


「……あれを魔力でむりやり再現させればいい……のか?」


杏子は二人の間に落ちている手に視線を落としてちょっと力を込めた。深層まで伝えるテレパシーの応用で記憶の細部までをありありと相手に思い起こさせることは可能だ。


「そうだよ。あの時のことはよく覚えてる。もうひと押しあればいいと思ったの。
そこがあたしにはわかんないけど、杏子はベテラン魔法少女でしょ?」


杏子ももちろんよく覚えている。杏子は飛んだ。さやかは沈んだ。


((……死んだと思った……))


そこには僅かながら間違いなく死に近づいた恐怖があって、それすら強烈な刺激になった。今の今二人はそれを自覚した。


(あれに限りなく近づけば道がわかる)


杏子にはそう思えたし、魔法少女が可能だと考えるのであれば、それは成る。


「──なんでそんなこと思いついた?」


さやかの肩に頭を乗せながら杏子が呟いた。さやかも相手に体重を預けて頭をもたれさせた。


「杏子のことばっか考えてるからかな、なんてね〜あははは」

「…………」

「ちょっと待ってよ、ちゃんと突っ込んでよ」


ボケ甲斐がないよと笑いながら言った。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 04:15:35.48 ID:aKLWSnPmo

世話好きさやかちゃん
恋人がいると精神の安定っぷりがすごいと思いました(小並感)
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 07:07:35.79 ID:Tj9/jsnfo
>>244
ほ、ほら、マミさんのためだから(震)
246 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 07:11:23.89 ID:Tj9/jsnfo


「たびたびお邪魔して申し訳ありません」


玄関でにこにこと出迎えてくれたまどかの父にほむらは頭を下げた。以前そうしていたように、夜になってからまどかの部屋にこっそり入れてもらうつもりでいたのだが、困ったような笑顔のまどかにやんわり断られた。


「よく来たね、さあ上がって」


知久がそう言うと父親にくっついていた三才児も少しはにかみながら声を張った。


「ねえちゃ、ほむら、おかえり!」

「こんばんは、タツヤくん」

「ただいまタツヤ、おねえちゃんたちと一緒に遊ぼーね」

「あそぶ! いっしょにおそといく?」


期待に満ちた大きな瞳を向けられてほむらの頬が自然に緩んだ。腰をかがめて膝に手を当て、タツヤと視線の高さを合わせる。


「お外はまた今度ね。今日はもう暗くなるからおうちで遊びましょう」

「うん、こんどね!」

「とってもいい子ね」


ほむらが誉めるとタツヤのみならずまどかまでもエヘヘヘと姉弟でよく似た笑い声をあげた。


「僕は夕飯の支度をしているからお客さんとタツヤの相手は頼むよ」

「任せてパパ。行こうほむらちゃん」


目一杯遊んだ。
247 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 07:20:34.07 ID:Tj9/jsnfo

「やれやれ」


QBはマミの隣に戻ってきた。


「君は暁美ほむらに何を期待していたんだい?」

「何って、そうね……ここへ来ることができそうなのが彼女だということ以外はあまり……ああ〜」


頭を抱えた。


「この子たちが“叶うなら元の時代に帰りたい”って気持ちを持っていることがわかって暁美さんのことをふっと連想しちゃったのよ」

「君たちはそういう生き物だからね」

「どういう?」

「感情に流される生き物だということだよ」


それから何かを思い出した様子で「そう言えば」と続けた。


「ある魔法少女が僕を見て、なんでそんなに空っぽなのかって聞いたんだ。彼女はエンパスでね」

「人の感情がわかる能力ね。魔女戦にはあまり役に立たなそう」

「役に立つどころか邪魔になっただろう」

「あなたたちから見れば、どこまでも無駄な能力なのでしょうね」

「かなり苦しんでいたようだ」

「お気の毒に」

「それでちょっと思いついたんだ。君たちは水の中に、僕らは陸の上に住んでいる。そんな喩えではどうかな」

「それくらい異なる存在だと言いたいの?」

「逆だよ。君たちは常に水の影響を受ける。潰されたり流されたり茹ったり凍りつくこともある。
僕らはそうではない。『僕らの周りには水がない』と訴えても君たちはそんな生活環境が想像できないから『まさか』と驚く。『水で満たされていない、空っぽじゃないか気味が悪い』ってね」

「それで?」

「しかしながら水も空気も物質であることに違いはない。密度が違うだけだ。
つまり、存在として僕らはそれ程かけ離れてはいないということなんだが」

「うーん、どうかしら」

「分かり易いと思ったんだけどな」
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