マミ「QBかく語りき」 QB「君らしいね」

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203 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/19(水) 23:53:15.14 ID:Moqm5wzzo

悪の魔王を倒したらすぐにめでたしめでたしとはならない辺りままならないものだな
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/21(金) 18:37:06.53 ID:hZGvRDvwO
乙乙( `・ω・)
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/10/21(金) 22:54:55.29 ID:1LjdrRIbo
おつー
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 02:45:50.08 ID:J4iKWbVnO
【咲】京太郎「…………俺は必ず帰ってみせる」【安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1477320276/

京豚は害悪です
あなたが好きな作品とキャラがレイプされるかも知れません
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/02(水) 16:44:35.00 ID:izpVRLdZo
>>202
そしてマミさんが
いやなんでもないありがとうございます
>>203
とはいえそろそろ終わる方向に
>>204
なごむありがと
>>205
感謝!
208 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 16:50:53.16 ID:izpVRLdZo


(ここは?)


草のまばらに生えた地面の上で魔法少女姿のマミが目を覚まし、身体を起こした。

遠ざかっていく雷の音がかすかに聞こえる。

立ち上がって細かい砂埃を払いながら辺りを見回すと、少し離れた小高い場所に大勢の人間が集まっていた。ざわめきなどは聞こえてこない。

取りあえずそちらに向かって歩く。

自分の身体をチェックしてみた。どこも痛めてはいないし記憶も鮮明だ。最後に覚えているのは相手を確実に仕留めたという手応えだったが。


(あれからどれくらいの時間が経ったのかしら)

(私に何が起こったの?)

(……枷は破った、と思ったのだけれど)


しかし相変わらずの魔法少女姿だ。

ふと思いついて髪飾り、すなわち自分のソウルジェムの場所に触れてみた。


(ある……よくわからないわね)


遠目には人の集団に見えていたが、近づいてみると実際にはすべて等身大の魔法少女像だった。

皆晴れやかな笑顔で、それがざっと二百体以上はありそうだ。

石でも木でもないし金属でもない。彩色はされておらず全体に暗い灰色で細部まで作りこまれている。


(いえ、これは)


まつ毛、産毛、爪の形。見れば見るほどマミにはこれらがただの「像」だと思うことができなくなった。


(ここでは何らかの魔法が働いている)

(誰の魔法なの?)


魔法少女たちが集まったそこはなだらかな丘になっている。

少人数で固まって話す者、直立して見上げる者、腰に手を当てて振り向こうとする者、腕を組んで首をかしげる者、皆思い思いの姿勢を取りつつ一様に頂上の方に意識が向いていた。


(上に何が……)


嫌でも気になる。マミは少女たちの間を縫ってゆるい斜面を登っていく。
209 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 16:53:39.15 ID:izpVRLdZo

そして気付いた。


(この子、それに向こうの子も)


見覚えのある姿が幾つもあった。


(ワルプルギスの夜から出てきた影たち!)

(この集団がワルプルギスの夜の正体なの?)


改めて周囲の少女たちをまじまじと見る。


(ワルプルギスの夜に……)

(魔法少女が殺されて取り込まれるのか、魔女になってからなのかをQBに尋ねたことがあった)

(言っていたわね。私たちにとってはどちらも同じことだと)

(自分たちの得るはずだったエネルギーをワルプルギスの夜に持って行かれたと)

(控えめに言っても酷い無駄遣いだとも)

(ワルプルギスの夜が得たエネルギーは相当なものになるはず)

(魔法少女だけでなく、街をひとつ壊滅させて膨大な数の人命も奪っていくのだから)


そして、それらはどう使われていたのか。


「その答えがここにあるのかもしれないわよ、QB」


この場にいない異星人につい語りかけてしまった。


(QBがこう言ったああ言ったなんてことばかり思い出してしまうわね)


無理もないと思う。


(あの子がどういった存在であれ、長い間頼りにはしていたものね)


さく、さく、と乾燥して脆い感触の地面を踏みしめながら頂上に出ると、そこは丸くぽっかりと空間ができていて中央にはグリーフシードが直立していた。


(こんなところに)


なんとなく拾い上げようとした時(それは君には必要ない。触らない方がいい)という聞き慣れた声がした。


「えっ?」


(今の君は高エネルギー体だ。安易にグリーフシードに触るのは止めておいた方がいいよ)

(もっと早く言ってよ)


もう手にしていた。
210 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:04:55.44 ID:izpVRLdZo


目の前の動かぬ魔法少女たちと同時に始めのうちはぼんやりと、しかし次第にまったく違う風景が見えてきた。



…………神から与えられた大いなる力を振るって国中に跋扈していた魔を払い

…………圧政を敷いた前王を倒しその親族や臣下を説得して自らを正式な王と認めさせた

…………そしてこの荒地に一夜にして石造りの都市を作り出した



いつしかマミは大勢の人や荷馬の引く台車が行き交う石畳の通りに佇み、語りかけてくる異国の言葉を聞いた。

頭に情報が流れ込んでくる。

月を信仰するその古い国が建国以来初めて戴いた女王は即位当時まだ顔立ちに幼さを残した少女だったという。

少女は聡明で弁の立つ優れた施政者となった。国の大部分は肥沃な土地ではなかったが価値ある香料を産し、これを他国に売るための安全な交易ルートを確保したことにより巨大な富みを得た。

戦は好まなかったが無敵の武力を誇った。

臣民に慕われた。だが信じていた身内の裏切りをきっかけに身を滅ぼす。

悲壮な会話が聞こえてきた。



(ビルキースが悪魔に囚われてしまった)

(“使者”はなんと)

(女王はもう助からないと)

(だが女王はまだあれの中にいる)

(あの方が我々の呼びかけに応えないはずはない)

(女王は我々に約束したではないか)

(我々と共にこの力で千年続く王国を築き上げると)

(皆がいつも笑っていられる世界を作ろうと)

(我々が女王を取り戻す)

(必ず)



国の各地に派遣されていた女王直属の臣らが密かに集まった。皆女王と同じ年頃の少女たちであり“使者”の眼にかなって神の力を授けられていた。

そして魔女の元へ向かい、誰ひとり帰ってこなかった。

彼女らの顔と、丘の上でグリーフシードを持つマミを囲んだ少女たちの顔が重なった。
211 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:10:48.30 ID:izpVRLdZo

幻は終わり、マミはいつかのQBの言葉を思い出す。


“まず、魔女になった彼女を助けようとした仲間の魔法少女十数人が
あれに取り込まれてそのまま魔女の力となった”


「そう。今のが、あなたたちなのね……」

「何か見ていたようだが大丈夫かい?」


難しい顔で考え込んでいるマミの側にQBが近づき、手近な少女の肩に登ってマミと同じ高さになった。


「QB、あなた本当にどこにでも現われるのね?」

「それは回収しよう。君の役には立たないしここに置いておくこともない」


マミは心底あきれながら手に持ったグリーフシードをQBに向かって放った。吸い込まれていく。


「この人たちが魔法少女だった頃の姿を見ていたわ。一体どれくらい昔の話なの?」

「紀元前九百年頃かな」

「今のグリーフシードはワルプルギスの夜のものよね?」

「その中心になった女王のものだね」


長くなりそうだとマミはリボンで座り心地のよさそうな二人掛けのソファを作って腰を下ろした。


「まどかに君のことを頼んだのだけれど、断られてしまったよ」


(良かった、鹿目さん)


「いい加減鹿目さんのことは諦めてもらえないかしら」

「この場合はまどかになんとかしてもらいたかったところだ。でもそれももう不可能になってしまった」

「ここは何? 私はどうなったの?」


いろいろと引っ掛かるがマミは知りたいことをまず尋ねた。


「本来何もないはずの空間の狭間にワルプルギスの夜が作り上げた結界だ。
ここを存続させるために通常空間に出入りして魔法少女ごと街を襲っていたようだね」

「ただ闇雲に魔法少女を狩っていたわけではないのよ、この人たちは……」



“我々と共にこの力で千年続く王国を築き上げると”

“皆がいつも笑っていられる世界を作ろうと”



「どうやら救済のつもりでいたみたい。ここで仲良く過ごしていたのかしらね」

「救済? 魂だけの存在になって永い時を過ごすことがかい?
魔女の力となって魔法少女や魔女も取り込んでいくことが? 君らにとって救済だと言うのかな」

「絶望に塗れて涙にくれて死んでいくよりはマシかもしれないわよ」

「不合理じゃないか。ついでに無関係の同族を自分たちのためにごまんと殺していくんだからね。
しかしほんとうに勿体ない。これだけの数の魔法少女が無駄になってしまったなんて。そう思わないかい?」

「それももう終わり。そうでしょう?」
212 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:19:46.11 ID:izpVRLdZo

「それは間違いない。この先ワルプルギスの夜が出現することはない。そのうちこの結界も消滅するだろう」

「どれくらいの時間で消えるの?」

「さあ。大きいからね、時間はかかると思うよ。ところでそっちへ行ってもいいかな?」

「どうぞ」


ゆったりくつろぐマミの隣にQBが座り、くるんと自分の身体に尻尾を巻き付けた。


「この結界について、あなたたちはまったく知らなかったの?」

「大海原に浮かんだ小さなブイみたいなものをイメージしてくれればいいかな。気付かないよ」


QBの声がなんとなく憂鬱そうに聞こえたが、もちろん気のせいだろう。


「それにしても面倒なことになった。ここから脱出するのは難しいかもしれない」

「どういうこと?」

「通常空間につながる道が見えない。隠されているのかな。
それから君には本来の肉体に戻ろうとする強い力が働いているはずなんだけどそういった気配がないのも気になる。何か心当たりはあるかい?」


「ありすぎるくらい」


魔法少女たちは玉座についた新しい女王と“使者”を確かに見つめている。

マミにはそのように思えて仕方がない。

目を凝らすと彼女たちから自分とQBに伸びる不可触の黒い糸がうっすらと見えた。


「私たちこの場所に、この子たちに捕まっちゃったみたいよ。QBにはこの糸が見えないの?」

「見えないが、うん何かあるようだね。どうも感知し辛いな」

「情念? 恨みかな? 私たちにしこたま絡みついているわよ。
そう言えば、全員あなたとは知り合いなのよね」

「そういうことになるね」


なんでもないことのようにQBは返事した。

これだけの人数から一斉に恨みつらみを訴えられたら自分は耐えられない、とマミは思う。


(しかもみんな死霊なんだもの)


死霊という言葉を思い浮かべた途端身の毛がよだった。


(怪談は正直得意じゃないわ)
213 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:33:25.12 ID:izpVRLdZo

「どうかしたのかい?」

「なんでもないの。ところでQBはどうやってここに来ることができたの?」

「君が僕を呼んだからだね。何度も言うけれど、こんなものがあるとは想定外だった」

「私、あなたを召喚したかしら?」

「君が呼ばなければここには来れなかったよ」

「拒否できるでしょう?」


ワルプルギス戦が近づいていた頃、どれだけ呼んでもQBは姿を現さなかった。


「僕らを動かすのは探究心だ。拒否する必要はないと判断した。」

「QB。こういう時に君のことが心配だから来たなんて言っておくと女の子の信頼を得られるわよ」

「参考にしよう。しかし君も呑気だね」

「そう?」

「君は今、自分がどういう状態なのかわかっているのかな」

「いいえ」

「君の身体は今君の仲間たちと共にあってこの結界に魂だけが落ちこんでいる」


急に自分の身体のことが心配になった。


「あ、ちょっと聞かせて。その……私はあちらでどういった感じでいるのかしら?」

「君の身体かい? そうだね。終始呆然自失といったところかな」


(杏子にかなり面倒をかけているのかも)


もしここから戻れたら一週間くらい続けて杏子の好きなものばっかり作ってやろうと決心する。


(山盛りの駄菓子の方が喜ぶかな?)
214 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:52:58.38 ID:izpVRLdZo

のんびりそんなことを考えているマミに冷水を浴びせるような言葉が聞こえてきた。


「いつまでもここにいると魂は消耗していくよ。君はこの場所にとって願ってもないエネルギー源だ。ほんの少しずつだけれど今この瞬間も君は結界の燃料として減っていく。
そうなると現世の身体の方もただでは済まない。この結界がいずれは消えるにしてもその前に君が失われる可能性の方が高い」

「それは困るわね」


少し間が空いた。


「どうしたの、固まっちゃって珍しいわね」

「予想外の反応だったからね。あまり驚かないね」


(そろそろびっくりするのも疲れちゃってね……)


「今こうして私が操っている身体については、これはなに?」


身体の実感が確かにあるのが不思議だ。掌を開いたり閉じたりしてみる。


「僕の場合と同じだ。ここにある物質を使って構築した仮の肉体だね。ここの子たちもそういうことだよ」

「へえ、そうなのね」

「さっきから他人事のように話しているようだけれど、君は元の世界に戻りたくないのかな?」

「もちろん戻りたいけれど……ちょっと考えていたの」


マミは隣に座るQBを見た。


「ねえ、QB。あなたがずっとここにいたら、もう元の世界では魔法少女は生まれないの?」

「しばらくの間はね。すぐまた代わりの者がやってくる」

「あらそう」


少し宙を眺めるような仕草をして「じゃあ真面目に脱出のことを考えましょうか」と呟く。


「そうそう。私はもう魔法少女ではないのよね?」

「厳密には魔法少女ではないけれど、まだ完全に元に戻ったというわけでもない。
君が僕を認識できる間は付き合うつもりだよ」

「私がまだ魔法を使えるのはどういった理屈なの?」

「君がここで使っている魔法はシステムを利用しない君自身の力だ。肉体の制約がないのとこの場所の特異性によって使える。
システムによる強化はもちろん失われているが、難しく考えなくていい。夢の中では何でもありくらいの感覚でいればいいよ。限界は自分でわかるはずだ」

「いつもいろいろ教えてくれてありがとう。メンターと呼んでもいい?」

「どう呼んでもらっても構わないよ」

「冗談なのよQB」
215 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:54:46.45 ID:izpVRLdZo


マミが集中し始めた。すんなりと馴染みの光の柱を見上げる。

黒い糸が柱に絡みついていた。

柱を中心に白い花弁がゆるやかに回り続けて、まぶしく輝いている。

深く深くマミは意識の底に沈んでいく。

幾つものヴィジョンが開く。

それは現実世界にある彼女の身体に繋がる道だ。

たやすく自身と合一できるはずだったが、黒い糸が邪魔をしている。

回転が早くなっていく。

コアから汲み上げられた力が光の柱を昇りながら黒い糸を焼き切っていく。


「君はほんとうに器用だ」


マミのまとった仮の身体とそこにあったソファーが一瞬で細かく分散して空中に溶けた。

216 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:56:33.72 ID:izpVRLdZo


(マミ………さん? うううん、ちがう?)

(見たことがある。キャンデロロ………?)

(ちがう。魔女じゃない)


まどかにとってはどんな魔女もみな一様にどうしようもなく虚ろで怖ろしい存在だが、それは違った。

生命力に溢れ光りを発して躍動している。


(マミさん!)


その飛翔体はどこからか絡まりついてくる糸を何度も何度も振り切って飛んでいく。

だが後から後から糸は増えるばかりで、とうとう飛行は完全に止まってしまった。

それは羽をふるわせて懸命にもがく。


(がんばってマミさん!!!!)


まどかは力いっぱい叫んだ。

だがそれはとうとう力尽き、さらに増える糸に埋もれ、どこかへ引き込まれてしまう。

授業中、まどかの様子がおかしいことに隣席のほむらが気付いた。

目を見開き、前を向いたまま意識がここにない。


「まどか?」


小さく声をかける。反応はない。

完全にトランス状態にあった。魔女に魅入られた状態に似ているが何かに操られている気配はない。

ほむらが見守る中それは数分の間続き、終わった。意識を取り戻したまどかがすぐにほむらの方を向いてふたりの目が合った。

後で話して、と口を動かすとまどかが小さく頷いた。

217 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga sage]:2016/11/02(水) 17:58:00.69 ID:izpVRLdZo

「おや、うまくいかなかったのか」


中空から塵が集まってきてマミの形をとった。


「おかえり、マミ。だいぶ消耗してしまったようだね」

「かなり、手ごわいわよ」


マミは立っていられなかった。その場にへたり込んで目を瞑る。


「………寒い」

「それは錯覚だ。これは仮の身体だよ」


そう言いつつQBはマミの膝の上に乗り、それをマミが両腕で抱え込む。

魔法少女になったばかりの頃、不安や孤独を感じた時によくこうしてQBに触れていた。


「………温かい」

「それも錯覚だからね」


にべもないがマミは気にしない。

そこにある熱を確かに感じていて、それで充分だった。


「たぶん、だけど鹿目さんの気配を感じたわ」

「それはあり得るね。今の君と彼女の状態は似通っている部分がある」

「え?」

「まどかも以前、持っている素質の力で魔力を引き出したことがある。いや吹きこぼれたという方が正しいかもしれないね。
今の君と力の使い方が同じだ。呼応しているのかもしれない。それは個を超える力でもあるからね」

「ああ、あの……いろんな時間軸を夢で見ていたっていう……」

「少し眠るといい。多少は回復するはずだ」

「魂も眠るのね」

「眠るよ。おやすみ」


静かにゆっくりと黒い糸はマミとQBに降り積もっていく。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 00:47:37.40 ID:zPQmd6DYO

死人の作った楽園とか怨霊に取り付かれるとか本当に怪談話だ
でもよく考えたら魂の宝石とかいう時点でそっちの気は十分あったな
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/07(月) 01:19:40.41 ID:Wf5tByNa0
こんなスレがあったとは
Rだし内容の割にはレスが少ないような気がするが、見てるから頑張って完結してくれ
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/09(水) 00:29:06.88 ID:KQujjRioo
Rだからしゃーない
こういうのスコップできただけでじゅうぶんだわ
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 18:05:43.64 ID:TcD/Xdsko
>>218
乙感謝です
本編からしてホラーじみてますし
>>219>>220
レスは意外ともらってるという感覚
コメント心強いありがとう
222 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:09:27.24 ID:TcD/Xdsko

休み時間に入る度まどかの見た白昼夢について二人で話した。

以前行なったことを再現できるか、つまりまどかの夢を利用してマミの消えた“時空間の狭間”とやらに行くことは可能かどうかを探っている。昼休みには屋上に出て周りに気兼ねなく話し込んだ。


「あっ、居眠りしてたんじゃないからね? 突然始まったの。耳がきーんってなって」

「見た……というより見せられた?って感じがしたよ」 

「うん。姿は違ったけどあれはマミさん、それは自信あるよ。
ちょっと気になったのは、全体的にしっかりしてないっていうか」

「え、と。なんて言えばいいのかな……起こっていることを見ているというより、誰かの夢を覗いているみたいな?
うん、それが近いかも」


まどかは言葉選びに苦心しながらほむらの質問に答えた。しかし更に「もう少し感じたことを言葉にしてみてほしい」と頼まれると困ってしまった。


「感じたことかぁ……そうだねぇ……」


隣り合って座り、膝の上にそれぞれ自分の弁当を広げている。二人ともまだほとんど手をつけていない。


「とにかくこれを済ませて、それからにしましょう」


ほむらはまどかにそう声をかけ「食べながら聞いて」と話し始めた。


「具体的なイメージが欲しいの」

「?」

「他の人のことはわからないけれど、私自身に関して言えば魔法を働かせるにあたってそれが必要なの」


まどかが口を小さくもぐもぐさせながらほむらを見た。


「感覚の話よ。魔力を使う時はそれができるから、できるの……疑問の余地はない。
手足を動かすのと同じで自然なこと。時間を操作するような、どれだけ異常なことであってもね」


異常なこと。

魔法少女は世の理の外にある力を振るう。願いにより人ではなくなりその理から外れ、存在する為になおも力を願って理を歪め続ける。

願いは希望として歪みは呪いとして差引はゼロになる。ソウルジェムはグリーフシードになる。そうやってバランスは保たれる。


(しかし巴マミは人に戻った)

(どうしても彼女から話を聞かなくてはならない)

(もしも……魔法少女が人に戻ることができるのなら……それは……歪みはどこに出るの?)

(収支を合わせるなら巴マミがずっとこのままでもまったく不思議ではない。むしろ当たり前に思える)


そう考える自分自身に少しうんざりする思いだ。


「うん、わかるよ。魔法はただ当たり前にできるだけ、私もそうだったと思うよ」

「そう。あなたも夢の中とはいえ経験してきたことだものね」
223 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:11:33.71 ID:TcD/Xdsko

まどかの応答に気を取り直してほむらは続ける。


「以前私はあなたの夢を別世界への通路として使ったけれど、その先にあるのは私の良く見知った過去だった」

「うん」

「だからとてもスムーズに魔法が働いたと思っている。でも今回は違う。
だからできるだけ詳しく知っておきたいの。同じようなことを何度も聞いてごめんなさい」

「うううん、いいんだよ。何回でも説明するね」

「ええ、お願いするわ。……さあ食べてしまわないと」

「だね。ちょっと急がなきゃいけないかな」


言いながらふとほむらの手元に目がいった。


「あ」

「どうしたの?」

「お箸の使い方がすごくきれいというか、優雅というか」

「そう?」

「うん。ほむらちゃんのお家はそういうの厳しかったのかな?」

「いいえ、むしろ甘い方だった。なにしろ病気がちの子供だったから」


そしてわずかに笑みを含みながら「今でも魔法で体力の底上げしているくらい。基本的に弱いの」とさらっと付け足した。


(コメントし辛いよほむらちゃん)


発言内容はともかくとして添えられた笑顔がまどかには嬉しかった。


「そう言えば最近はお弁当作ってくるんだね? 忙しいのに」

「ええ。経費削減」

「あ、それはちょっと意外だったかも」


今度は少し歯を見せて笑ってくれて、もっと嬉しくなった。


「手だけじゃなくて姿勢から何から全部整っててほんとに絵になるね。あれ?」
224 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:12:51.44 ID:TcD/Xdsko

口からぽろぽろと転がり出た自分の言葉にまどかは驚き、耳に入れたほむらは息を詰まらせた。


「ごめん、ほむらちゃん。さっきまで頭がいっぱいいっぱいだった反動でちょっとタガが外れてたみたい」

「……いえ、別に」


(それ程おかしなことは言ってない……はず)


まどかは頭の中でそう確認してからついでに念を押した。


「からかってるとかじゃないからね?」


何か返事をしようとしたほむらに杏子の声が届いた。


(邪魔するよ)


タイミングのせいもあってビクッと全身で反応したほむらにどうしたのとまどかが目で尋ねた。


「杏子よ」


(あんたら携帯の電源切ってんのか。さやかが何回もメールしてんのに返事ないから直接来たよ)

(校内では切っておくのが決まりなの。さやかも知っているはずよ。何があったの?)

(マミがおかしい。だんだん動かなくなっちまった)


表情をこわばらせたほむらの横顔を心配そうにまどかが見た。


(動かなくなったってどういうこと?)

(そのまんま。朝はちゃんと歩いたり食べたりはできてたろ。それができなくなった。
さやかが言うにはとにかく色々弱ってるって)


彼女はもはや生身の人間だ。魂が抜けたまま存在し続けるのは難しいのだろう。


(……タイムリミットがあるということね。それで?)

(取りあえず、あんたが帰ってくるまであんたん家にいるから)

(わかったわ。家にあるものは何でも好きに使ってちょうだい)

(そうさせてもらうよ)


杏子はそのまま顔を見せずに行ってしまった。やりとりのあらましをまどかに伝える。
225 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:14:08.22 ID:TcD/Xdsko

「まどかはどう思った?」

「どうって……それは……マミさんが危ないって、思ったよ」


QBの“魂の危機”という言葉が思い出され、ほむらは符号がいくつかカチリと合った気がした。マミが正にそんな危機の真っ只中だ。それにより起こるはずのないことが起こる場合がある。


“君らが来ることはできないはずだ”


あれは確かにそう言っていた。

魔法少女から人に戻ったマミと人でありながら魔法少女の力を溢れさせたまどか。

あり得る、とほむらは考えた。なんだってあり得る。


「あなたの見たものと今のマミの状態に関連はありそう?」

「あるよ。具体的なことは何もわからないけれど、でも」


まどかは両手を重ねて自分の胸の中心に置いた。


「思い出すとこの辺が重苦しくなる。私覚えてるんだ、前の時もこんなだったって。
私にできることがあるはず、やんなきゃ、ってずっと焦ってて、それでほむらちゃんに頼ったの」


“どうやってそんなことができたんだ?”


杏子に問われた時ほむらはろくな返答ができなかった。どうするかわかったからそうしただけだった。

改めてまどかを見る。視線は受け止められ柔らかくほむらに返された。


(この子は普段ほとんど断定的な言い方をしない)

(よく知っている。一度心を決めると本当に強い)


「早速今夜にでも試してみる?」


まどかの表情がぱあっと明るくなり、ほむらはなんとなく照れた。
226 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:19:26.26 ID:TcD/Xdsko

「何もないところに君たちはこうして物を創りだす。
地上を模したこんな結界だったりこの寝椅子だったり。空白の状態に精神が耐えられなくなるようだね」

「何でもかんでも一緒にしないで欲しいわ」


相変わらずマミは過去の魔法少女たちに囲まれた丘の上にいて、新たに作ったソファーに思案気な顔で身を沈めていた。隣にはQBがいる。退屈を知らない生き物らしく同じ姿勢を取り続けている。

脱出失敗後の気絶するような眠りは急激に力を枯渇させたことによるハンガーノックのようなものだったらしい。回復して目を覚ました時、自分がQB共々黒い糸に埋まっているのを知って思わず悲鳴を上げ、腕の中のQBは抱き潰された。

マミを結界内に引きずり戻した大量の黒い糸は、今も身体中に纏わりついている。しかし彼女の動きを阻害しようとはしないし、見ないでおこうと思えば努力せずにそうできた。

振り払うこともできた。しかしすぐに絡みついてくるし切断はどうしてもできなかった。


「仕方ないわね。あまり気は進まないけれど」


元から断つべくいつもの古式銃を出現させて手近な一体の少女像に向かって発砲してみると、着弾した周囲が広く砕けて霧散した。続けざまに四、五体の上半身を消し飛ばす。


「ん……なるほど」


それらは壊れた先からみるみる復元していった。ワルプルギスの夜と戦った時とは違う。


「暖簾に腕押しね。まあこれらがこの人たちの本体で魂を宿しているということなら、そうなるわよね」

「かなり古い魂だけどね。もう僕らの役には立たない」

「それはどうでもいいの」


銃を消し、マミは肘掛にもたれて頬杖をついた。


「どうやら、ここを出て行くこと以外は好きにさせてくれるみたいね」

「それはそうだろう。君がいるだけで結界の延命は叶うわけだから」

「小屋でも建ててみようかしら? こうして大勢に囲まれているのも落ち着かないわ」

「あまり余計な力は使わない方がいい。君は無駄に凝りそうだしね」

「どうにも困ったわね。この子たちを一気にまとめて粉々にできれば復元する間に逃げられるかもしれないけれど、そこまでのことは今の私では無理」


ふうー……と長い溜息をついてしまった。


「手詰まり感が半端ないわ」

「今のところ君のできることは限られている」

「ええ。ヒマ過ぎてどうにかなりそうな心の平衡を保ったり、沸々と湧きあがる焦燥を抑えたり。
自分のメンタルケアに必死よ。……分からないでしょうけれど」

「うん。僕には理解できないが、それは大変だね」
227 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:26:26.85 ID:TcD/Xdsko

「あなたたちって、本当に感情はないの?」

「君たちの思うようなものはないと断言できる」


マミは続きを待った。QBの話し方のリズムにすっかり慣れてしまっている。


「僕らに感情がない、ということが信じられないんだね」

「あなたと話していると感情を持っているとしか思えないことがあるの」

「感情はないよ。そう言うと君たちは僕らに心がないと受け取るんだね。不安定なことこの上ない自分たちの感情を心だとする。感情に支配されそのめまぐるしい変化が精神の状態に大きく作用する。本当に危うい生き物だね。
まあ、だからこそ得難いエネルギー供給源になり得るのだけれど」

「あなたたちの言う心って何?」

「思考活動のことだよ」


マミは少し食い下がりたい気持ちになった。


「驚きや悲しみや怒り、好奇心や喜びを感じることがまったくないの?
どうして生きていられるのか不思議だわ。あなたたちを動かすものは何?」

「前にも言ったと思うけれど、探究心が大きい」

「知りたいという欲求でしょう。それは感情とは言わないの? そして知り得た時の喜びや達成感もないの?」

「君たちのフィールドで、君たちの言語を使って僕らについて説明するのは無理がある。
相互理解の困難さについては常々思い知らされているよ。それでもなんとか使えるツールを最大限使って効率よく伝えようとしているんだけどね」

「はあ……あなたは何を言っているの」


額に揃えた指先を当ててマミがまたため息をついた。


「私たちと理解し合おうなんて思っていないのでしょう?」

「いいや、有史以来努力し続けているしこれからもそうするつもりだよ」

「宇宙の熱的死を遅らせるため?」

「そういうことだね」

「働きものなのよね、あなたたちは。そうやってコツコツといつまでも私たちの命を搾取し続けるの?
そんな生き物同士の間にどうして相互理解が必要なの?」

「必要だよ。これは取引なんだから」

「公平な取引ではないわ。あなたたちの取り分が大きすぎるもの」

「君たちがそう思うのも無理はないが、僕たちにとってはまったくそうではない。
君たちの望む対価を見合う分だけちゃんと支払っているじゃないか。それに君たちは数が多い。ダメージはごくわずかなはずだ」
228 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 18:39:45.88 ID:TcD/Xdsko

「ねえ、そこじゃないわQB」

「どこだろう」

「群れとして見ないで。個々を見て。できないの? そういう生き物だとわかってきたけれど……でも」


マミは傾けていた身体を起こして膝に両手を置き、QBを見た。QBはマミを見上げる。


「やり方を変えてはもらえないかしら」

「例えば?」

「私たちは未熟なの。そこにつけこむのは止めてほしい」

「具体的にどうしてほしいんだい?」

「ちゃんと説明して。契約を迫る時、私たちに起こること、魔法少女システムのからくりを希望も破滅も包み隠さず全てを明らかにして。
確実に起こることだけでなく、可能性をも含めてどうなるかをきちんと示してあげて。相互理解というなら、それが必要だわ」

「魔法少女として生き長らえ、システムから脱した君の言葉を無下にはできないね」

「聞き入れてくれるの?」

「けれど、そうすると契約してくれる子がかなり減るかもしれない」

「ええ。ほとんどいなくなるでしょうね」

「魔女がいなくなる。グリーフシードが一層入手しにくくなるよ。君にはもう必要ないけれど」

「本当に酷いシステムだわ。それから素質の少ない子に契約させるのも止めて。悲惨過ぎる」

「それは約束しよう。僕らにとっても無駄が大きい」

「ではなぜ」

「この星はまどかの魔女化を最後に終わるはずだった」

「ああ……できるだけ搾り取ろうとしていたわけね」

「返す言葉がないね」
229 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 19:23:13.83 ID:TcD/Xdsko

夕方、ほむらの家に全員が集まった。

まどかとさやかはそれぞれ一度自宅に戻って私服に着替えている。


「ちょっとのんびりし過ぎたというか順番を間違えたかもな。
マミを後回しにするんじゃなかった」


テーブルに頬杖をついて杏子が不機嫌そうに言った。


「けど待つこと以外できることなかったじゃん?」


マミの側についているさやかがそう応じると「無力だよなーホントに」と呟いた。

マミはいつでも誰でも様子を見ることができるように広々とした居間に敷かれた寝具に横たえられ、今は昏々と眠っている。


「手があるかもしれないわ」


そう言ったのはほむらだ。


「ほんとか?」
「ほんとに?」


杏子とさやかが離れた場所から同時に声を上げた。


「知っての通り以前まどかの夢を辿って異なる世界線に干渉したことがあった。同じことができるかもしれない」


その先をまどかが続けた。学校で見た白昼夢について話す。
230 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/11/22(火) 19:23:57.40 ID:TcD/Xdsko

「ただの夢とそうでないのって区別はつくのか?」


杏子が聞き、まどかが頷いた。


「それはぜんぜん違うよ。はっきりわかるよ」

「やってみてくれるか? 正直できることが何もなくて困ってる」

「そのつもりだよ」

「あっ。ちょっと待って、あたしうすぼんやりとだけど覚えてるよ」


さやかが口を挟んだ。


「それ、ほむらは大丈夫なの? QBがなんか言ってたじゃん」


ほむらももちろん覚えている。


“危ないことをする。帰れなくなるかもしれないよ”


「大丈夫よ」


特になんの根拠もないがすぐさまそう返事する。

まどかが不安気にほむらを見た。わけのわからない衝動に突き動かされ、ほむらの身に危険が及ぶ可能性について考えが及んでいなかった。


「ほむらちゃん、ごめん私」

「大丈夫。何度も同じことをしたでしょう? 一瞬たりとも危険を感じたことはないの。あなたもそうだったはず」


(ねえ)


眠るマミを見ながらさやかが杏子に話しかけた。


(言わなくていいことを言っちゃったかなあたし?)

(違う。出しとかなきゃいけない情報だ)

(まさかとは思うけど、ほむらまた時間を巻き戻したりしないよね?)

(そんなにバカじゃねーだろたぶん)
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 20:53:00.57 ID:kILy7Th0O
感情がないのと精神活動がないのは違う
ではなにを心と定義したらいいのだろう
232 : ◆5UuNMwrvUc [saga]:2016/11/29(火) 17:45:28.96 ID:nSoD7sHUo
これは面白い、一気読みしてしまった
マミさんがんばれえ
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/29(火) 18:41:31.23 ID:MrI/Zrhso
【ラブライブ】希「どうしてこんなことに…」理事長「ふふっ♪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1480308111/
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/29(火) 23:33:45.66 ID:nSoD7sHUo
ごめん酉つけたままなの全然気づかなかった
続き楽しみにしてます
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/02(金) 13:59:03.17 ID:1TcBFJpJo
グロラ豚
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 01:22:36.58 ID:Tj9/jsnfo
>>231
このSS内でどうなのかというご質問でしたら特にきっちり定めてはおりません
>>232>>234
忙しそうなのに読んでくれてありがとう

少し投下
237 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 01:36:32.18 ID:Tj9/jsnfo

(こんなに上手くいった時間を簡単に捨てていったりしない……と思う)

(だよね!)


ほむらが時間遡行の魔法を発動させるということはほむらが、最悪の場合マミもがこの世界に戻ってこないことを意味する。

マミがいなければ魔法少女が人に戻った経緯を知る術がなくなる。

ほむらにしてもやっと抜け出せたループにまたもや嵌まり込むことになる。そんな事態をまどかがそのままにしておくとは思えない。彼女はまだ奇跡を願う力を持っている。

QBの不在がふと意識をかすめたが杏子は気にしないことにした。


(まどか次第だけど……万が一の場合にはあいつの契約ってのも考えに入れておくべきじゃないかな)

(それはダメでしょ。ほむらが承知しないって)

(うーん結果としてだけど、ほむらの意思ってのはけっこー通ってこなかったんだ)


その逆もまた然り。杏子はすれ違いを繰り返してきた二人を見た。額を寄せ合うようにして何か話している。


(でももう、こいつらは一番厄介なところは越えちまってる。大丈夫だと思いたいな)

(なーんからしくないんだよ杏子)

(そうか? 任せるしかないんだし)


さやかは漠然とした不安を消すことができない。


(あたし、なんでこんなもやもやしてんのかな)

(さやかはほむらを信じられないのか?)

(それもちょっとあるかもしれない……けど、違うなぁ……)


さやかはうーんと唸って首を傾げた。 


(あっ! そうだ、ほむらだよ)

(なに?)

(ほむらって今、時間停止で無双できてた頃と違うんだよ? 魔法での攻撃もほとんどできない子なんじゃん。
もやもやするに決まってるって!)

(それは今さら心配してもしょーがないだろ。ついてってやれるわけでもないんだ)

(それそれ!!!)

(なんだかわかんないけど、聞こえないのか? まどかが呼んでるぞ)
238 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 01:57:03.23 ID:Tj9/jsnfo

「……さやかちゃんってば」

「へ?」


はっと顔を上げるとまどかが不思議そうにこちらを見ていた。杏子は知らん顏をしているし、ほむらは台所にいるようだ。水音が聞こえる。


(何回も呼んでた)

(早く教えてよも〜)


杏子との会話に集中し過ぎていて、何の音も耳に入ってこなかった。慌てて返事をする。


「ごめんごめん、ぼーっとしてた! なになに?」

「私もう帰るけれど、さやかちゃんはどうする? 一緒に帰らない?」


いつの間にかまどかは完全に身支度を整えていた。居間に戻ってきたほむらも外出準備は万端のようだ。


「あー、どうしよっかなー」


本当は迷ってなどいなかったので我ながら空々しかった。


「えっと、ほむら、あたしはここに居させてもらっていい? てか、泊まってもいいかな?
杏子ひとりにマミさんを任せておくのもなんだしさ」

「どうぞ好きにして」

「ありがとう。お礼に掃除くらいはしておくから」


放っておいてくれていい、とほむらが口を挟んだが二人は構わず掛け合いを始めた。


「そーゆーのめんどうだったから前はホテルに住んでたんだよなー」

「あ、詳しく聞いたらダメなやつだこれきっと」

「じゃあ反応すんなよ」

「開き直るなってえの」


聞き流しつつほむらとまどかは出ていった。
239 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:04:15.95 ID:Tj9/jsnfo

「仲間の心配はしていないようだね」

「心配? 何を」

「グリーフシードが不足するかもしれないことに不安はないのかな」

「すぐになくなってしまうわけではないし、あの子たちも私と同じことができるはずだから」

「僕の知る限り君は特別なケースだよ」

「いいえ。私は特別でもなんでもない。私ができることならあの子たちだってできる。
前例もあるのでしょう?」

「ある」

「教えてちょうだい。魂が身体に戻る時に起こる不具合について。
聞いてもいいわよね、もしかしたらこのまま戻れないかもしれないんだし」

「なら聞いても仕方がないんじゃないのかな」

「いいから」

「記憶に影響を及ぼすことがある。これは時間が経つにつれ治ることが多いようだ」

「記憶? 例えば?」

「極端な例だけど魔法少女についての一切をなくしてしまった子がいた」

「それは困るわね」


マミは自分の身に置き換えてみて思わずそう呟いた。実際、ものすごく困る。


(忘れてしまうのなら……そうなるくらいならいっそ……)

(ん?……いっそ? なに?)


何かが閃いた。とても気になったが尻尾を捕まえ損ねたので一旦完全にあきらめる。

QBの話は続く。


「心身にずっと障害が残った例もある。ただ社会生活が送れなくなるほど壊れてしまった子はいなかった。
変わったところでは魔法少女だった時に戦闘で受けた傷が人間に戻ってから改めて出てきた、というのがあったよ」

「戦闘時の傷?……その子はどうなったの?」


滅茶苦茶な戦い方をしていたというさやかのことが頭に浮かんだ。
240 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:16:06.98 ID:Tj9/jsnfo

「魔女との戦いで一度片足が根元から千切れたんだ。ちゃんとくっついてその後も支障なく動けていたのに、魔法少女ではなくなってからの生涯ずっと怪我した方の足を引きずっていた」

「ちょっと──今、生涯って言った?」

「システム破りを果たした子についてはその後のデータを取っている」

「私のデータも取るの? 一生?? そんなに手間ひまをかけるのね」

「時々様子を見るだけだし君たちの一生は僕らにとっては大した時間ではない。
もし君が自分の身体に戻ることができればもう僕の姿を知覚することはできなくなるから、あまり気にしなくていいよ」

「見えないんだから気にするなと言われても」


マミは厚い雲で覆われた空を見上げて「あなたたちって本当に……」と呟いた。


「以前あなたは私が知ることによって結果が変わる可能性について教えてくれたわ」

「何も知らない方が予後はいいかもしれないと僕らは考えている」

「私にどんな症状が出るか予測はできる?」

「君が想像した最悪のところに落ち着く可能性がある。
魔法少女に関わるあらゆる記憶を失う。してきたこと、起こった出来事、そして仲間たちのことを忘れる」

「冗談を言っているの?」

「そういう傾向があるんだ。言ったはずだよ、知らない方がいいとね。引きずられるんだ」


どうであれ知っておかなくてはならなかった、とマミは自分に言い聞かせた。


「……記憶ね。回復するとしたら、どれくらい時間がかかりそう?」

「数か月から数年といったところかな」

「それは困ったわねえ。貴重な時間が潰れちゃう。あなたには都合がいいわよね?」


仲間たちにマミという実例が示せる以外の何もできなくなってしまう。魔法少女の勧誘についてマミがつけた注文も当然のようになかったことにされるのではないだろうか。

QBから返答はなかったが、マミはそれを肯定と取った。

それからしばらくの間、マミは自分の考えに深く沈み込んだ。本人は気づいていないが、その姿は周りの少女たちとよく似たくすんだ色の彫像のようになっている。
241 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:38:18.16 ID:Tj9/jsnfo

「僕もこの星に長くいるけれど、君たちのような形態をとった魂と接触するのは初めてだ」


QBは寝椅子から飛び降りて一番内側の輪を作っている魔法少女たちに近づいた。


「シバ国の子たちだね、女王の臣下として働いていた。会話はできるのかな?」


返事は無い。


「君たちが何かを発しているのはわかるんだがマミの言う黒い糸、というのが僕にはどうにもはっきりしない」

「君たちはどうしてこんな場所に留まっているんだい? ワルプルギスの夜はもう終わったんだ。ここが存在する意味も無くなった。
君たちの教義では魂は同じ存在として居続けるものではなく、滅びては再生を繰り返すのではなかったかな。
一体何が望みなんだろう?」

「帰郷」


後ろから小さな声がした。マミの方から。QBは首を巡らせる。


「マミ?」

「だ、そうよ。その子たちが……伝えてきた」


色彩は元通りになっているが苦悶の表情を浮かべている。


「これは、私にはキツイわね……やめてくれない?」


そして安堵のため息をついたが、こころなしか青ざめている。


「止まった。……まったくもう、この子たちを刺激しないでくれるかしら」

「彼女たちと話せるのかい?」

「いえ、ちゃんとした会話ではなくて、感情が流れ込んでくるの。
そんなことより、知られてしまったわ」

「何をだい?」

「時間を遡ることができる魔法少女がここへ来る可能性について、よ」
242 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:47:18.28 ID:Tj9/jsnfo

「ねー杏子」


ソファーで新聞を広げていたさやかが杏子を呼んだ。ほむらとまどかが家を出てからずっとダイニングテーブルで組んだ両腕に頭を乗せ、何か考えごとをしていた杏子だった。


「ヒマそうだね。さっきの話の続きをしない?」

「まだなんかあんの?」


杏子はちょいちょいと手招きするさやかに近づき、隣に腰を下ろしてぐーっと伸びをした。(でっかい猫みたい)と思いながらさやかはチラシの束ごと新聞をたたんで台の上に置いた。


「新聞なんか読むんだな」

「眺めてただけ。ポーズですよポーズ」

「なんだそれ」

「あまりちゃんと見ないようにしてんの」


災害直後と比べるとだいぶ小さい扱いにはなったがそれでも一面に死亡者数と行方不明者数が載っている。

さやかは掌を上を向けて差し出した。ぽんと手が乗せられたので指を組んだ。


「なんかさやかから妙なプレッシャーを感じるんだけど。なに考えてる?」

「わかってんじゃん。そーなの。さやかちゃんはただいま杏子をぐいぐいプレス中なのだよ」

「はあ?」

「いい? マミさんはものすご〜〜く大事な人です。やさしいマミさんが大好きだよ」

「うん。知ってる」

「そしてほむらも大事なの。大事なまどかをずっと大事に思ってきてくれた子だから、どっちも失うわけにはいかないの。
だからできることはやんなきゃだめだと思うんだ」

「……うん?」

「本気出そう。魔法を使おうよ」

「なにを言って」

「待って、聞いてよ。できるよ。思い出せればいいんだよ」

「思い出せれば?」

「うん。一回できたことじゃん?」

「…………あれか」
243 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 02:57:33.30 ID:Tj9/jsnfo

(あの時は目の前に大けがをしたマミさんがいた)

(あの時は目の前に死んだように倒れたほむらがいた)


いきなり異世界に二人で移行した時のことだ。あれ以来一度もそういったことは起こらなかった。偶然の重なった結果だったのだろうと深く考えずにいた。

入り口が異常なほどの性的な絶頂体験だったということもあって、これまで二人の間で話題として触れられてこなかった。


「……あれを魔力でむりやり再現させればいい……のか?」


杏子は二人の間に落ちている手に視線を落としてちょっと力を込めた。深層まで伝えるテレパシーの応用で記憶の細部までをありありと相手に思い起こさせることは可能だ。


「そうだよ。あの時のことはよく覚えてる。もうひと押しあればいいと思ったの。
そこがあたしにはわかんないけど、杏子はベテラン魔法少女でしょ?」


杏子ももちろんよく覚えている。杏子は飛んだ。さやかは沈んだ。


((……死んだと思った……))


そこには僅かながら間違いなく死に近づいた恐怖があって、それすら強烈な刺激になった。今の今二人はそれを自覚した。


(あれに限りなく近づけば道がわかる)


杏子にはそう思えたし、魔法少女が可能だと考えるのであれば、それは成る。


「──なんでそんなこと思いついた?」


さやかの肩に頭を乗せながら杏子が呟いた。さやかも相手に体重を預けて頭をもたれさせた。


「杏子のことばっか考えてるからかな、なんてね〜あははは」

「…………」

「ちょっと待ってよ、ちゃんと突っ込んでよ」


ボケ甲斐がないよと笑いながら言った。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 04:15:35.48 ID:aKLWSnPmo

世話好きさやかちゃん
恋人がいると精神の安定っぷりがすごいと思いました(小並感)
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 07:07:35.79 ID:Tj9/jsnfo
>>244
ほ、ほら、マミさんのためだから(震)
246 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 07:11:23.89 ID:Tj9/jsnfo


「たびたびお邪魔して申し訳ありません」


玄関でにこにこと出迎えてくれたまどかの父にほむらは頭を下げた。以前そうしていたように、夜になってからまどかの部屋にこっそり入れてもらうつもりでいたのだが、困ったような笑顔のまどかにやんわり断られた。


「よく来たね、さあ上がって」


知久がそう言うと父親にくっついていた三才児も少しはにかみながら声を張った。


「ねえちゃ、ほむら、おかえり!」

「こんばんは、タツヤくん」

「ただいまタツヤ、おねえちゃんたちと一緒に遊ぼーね」

「あそぶ! いっしょにおそといく?」


期待に満ちた大きな瞳を向けられてほむらの頬が自然に緩んだ。腰をかがめて膝に手を当て、タツヤと視線の高さを合わせる。


「お外はまた今度ね。今日はもう暗くなるからおうちで遊びましょう」

「うん、こんどね!」

「とってもいい子ね」


ほむらが誉めるとタツヤのみならずまどかまでもエヘヘヘと姉弟でよく似た笑い声をあげた。


「僕は夕飯の支度をしているからお客さんとタツヤの相手は頼むよ」

「任せてパパ。行こうほむらちゃん」


目一杯遊んだ。
247 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/16(金) 07:20:34.07 ID:Tj9/jsnfo

「やれやれ」


QBはマミの隣に戻ってきた。


「君は暁美ほむらに何を期待していたんだい?」

「何って、そうね……ここへ来ることができそうなのが彼女だということ以外はあまり……ああ〜」


頭を抱えた。


「この子たちが“叶うなら元の時代に帰りたい”って気持ちを持っていることがわかって暁美さんのことをふっと連想しちゃったのよ」

「君たちはそういう生き物だからね」

「どういう?」

「感情に流される生き物だということだよ」


それから何かを思い出した様子で「そう言えば」と続けた。


「ある魔法少女が僕を見て、なんでそんなに空っぽなのかって聞いたんだ。彼女はエンパスでね」

「人の感情がわかる能力ね。魔女戦にはあまり役に立たなそう」

「役に立つどころか邪魔になっただろう」

「あなたたちから見れば、どこまでも無駄な能力なのでしょうね」

「かなり苦しんでいたようだ」

「お気の毒に」

「それでちょっと思いついたんだ。君たちは水の中に、僕らは陸の上に住んでいる。そんな喩えではどうかな」

「それくらい異なる存在だと言いたいの?」

「逆だよ。君たちは常に水の影響を受ける。潰されたり流されたり茹ったり凍りつくこともある。
僕らはそうではない。『僕らの周りには水がない』と訴えても君たちはそんな生活環境が想像できないから『まさか』と驚く。『水で満たされていない、空っぽじゃないか気味が悪い』ってね」

「それで?」

「しかしながら水も空気も物質であることに違いはない。密度が違うだけだ。
つまり、存在として僕らはそれ程かけ離れてはいないということなんだが」

「うーん、どうかしら」

「分かり易いと思ったんだけどな」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 12:54:22.23 ID:PLEKpThA0
きたか
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/17(土) 13:22:43.07 ID:Kt0FTXDco
生きてるならそんなにかけ離れた存在ではないというのがQBの主張なのだろうか
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/31(土) 15:24:10.16 ID:eFXi0ApIo
>>248
きたよ
>>249
話が終わってからでもいいですか
ひっぱるほどのことではないのですが
251 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:27:45.05 ID:eFXi0ApIo
その日、特別な外出用のワンピースを着た。さやかはじいっと鏡を見て襟元のブローチをちょっと触った。

「もう出かけないと」と父の声がして母が「はーい」と返事する。

こうして家族で出かけるのは久しぶりだった。電車では座れなかったけれどドアの窓から外を眺めることができた。生まれてからずっと住んでいる街。見飽きない。

駅からそう遠くないコンサート専用ホールに到着した。入り口で記名を済ませ、パンフレットを受け取って広いエントランスを通り抜ける。あちらこちらで大人たちが挨拶を交わしている。

重い二重扉をくぐって会場に入り、席に着く。「ちゃんと座っていられるかな?」と母がさやかの顔を覗き込んだ。

かしこまった場所は苦手だし、じっとしていることも好きではないけれどもちろんさやかはちゃんとできる。小さな子供ではないから。

真面目くさってそう抗議すると両親は揃って微笑んだ。

開演ブザー が鳴り響くとざわめいていたホールが静寂に包まれた。さやかより少し年下らしい女の子が緊張しながら舞台に現れてお辞儀をし、バイオリンを奏で始めた。

少々危なっかしいところもあったがピアノ伴奏に助けられながら無事に二曲弾き終え、拍手で送られて退場していった。すぐに次の子の演奏が始まる。

三、四人が同様に弾き終わった頃さやかはとうとう退屈し始めた。

恭介の出番まであと何人分聴かなきゃいけないんだろう。


「なあ、これおもしろいのか?」


隣に座ったポニーテールの子が話しかけてきた。幾つかはわからないけれどさやかよりは確実にお姉さんだ。

なんだかとても嬉しそうにキラキラした目でさやかを覗き込んでいる。


「演奏中はお話ししたらいけないんだよ?」


小さな声で教えてあげた。(し〜)と人差し指を顔の前で立てて見せる。


「ごめんごめん」


その子は声を落としたが、なぜかますます笑みを深めてさやかを見た。丈の長い黒のワンピース姿で、肩から胸を覆う幅のある白いカラーが鮮やかだ。首元に細いリボンをつけている。


「なんだかつまんなそうにしてたから」


にいっと八重歯を見せてそう言う。どこかで見た笑顔だな、と思った。そしてまったくその子の言う通りだったのでさやかは相手をすることにした。ひそひそと言葉を返す。
252 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:36:01.56 ID:eFXi0ApIo

「あのね。みんなおんなじように聞こえちゃうんだよね」

「ん? どういうこと? あ、音楽きらい?」

「まさか!」

「なら、好きなんだな?」

「大好きだよ──あのね、今日はね」

「じゃあ楽しんでもらえると思うな」


今日は幼馴染が云々説明を始めようとしたのを遮って、その子はステージの方へステップでも踏むかのように軽々と歩いて行った。束ねられた髪とスカートの裾が踊る。


(出演者なの??)


呆気にとられて見ていると彼女は舞台に上がって一礼し、オルガンの前に座った。

それからもう一人、さやかと同じ年頃の女の子が緊張しながら袖から出てきてペコリとお辞儀をした。

さっきの子と似ている。姉妹かもしれないとさやかは思った。

ステージの二人が目くばせをしてタイミングを合わせるとちょっとのんびりしたような和音が響き始めた。


(へえ……)


小さな女の子が歌い始めた。


………glory, the glory of the Lord,


きれいな歌声が響く。演奏者が異なるパートを歌い始め、声が重なる。これも良く通る声で聴いていて気持ちがいい。


and the glory, the glory of the Load, shall be revealed,
shall be revealed,


and all fresh shall see it together,
and all fresh shall see it together,


the mouth of the Load
and the glory, the glory………

253 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:38:02.63 ID:eFXi0ApIo

(すごい)


……けど。


(あれ?)


ここ、こんなに狭かったっけ? 座席ってこんな木製のベンチだったっけ?

人がぎっしり座っている。

ステンドグラス、燭台で煌々と輝く何本ものろうそく。

訳が分からない。眉を寄せて考えていると横からラフな格好をした誰かが話しかけてきた。


「よう。まだ寝ぼけてる?」


(んん?)


「チビさやかカワイイからもうちょっとこのままでもいいけど」

「きょーこ」


するりと口から相手の名前が出て、それからゆっくり思い出した。小さな姿のまま、さやかは隣に座るいつもの杏子を見上げて「はぁ〜〜〜」と息を吐いた。


「………ナニコレ」

「さあ、なんだろうな。場所を聞いてるんならここはウチの教会」

「あれ妹さん?」

「うん。モモだ」


杏子の声が少し震えてる。


「どう? 何年も前のクリスマス礼拝。みんな喜んでくれたなあ、これは」

「いつもオルガンはお袋が弾いてたんだけど、あたしとモモでやらせてくれって頼んで」

「けっこう無茶苦茶だったんだ。モモがメロディー歌ってあたしが高いとこも低いとこも引き受けてさ。大勢で歌う曲なんだ」


さやかは──元の姿に戻っていた──杏子の手を握った。


「泣くな杏子」

「説明してるだけだろ、泣いてない」


あたたかい拍手に包まれてステージの二人は席に戻って行った。
254 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:40:10.40 ID:eFXi0ApIo

「あれが恭介だよ」


いつの間にか二人は一緒に天才と称される幼い少年のバイオリンを聴いている。少年の演奏は間違いなくこの発表会における目玉のひとつだった。ホール中の観客が注目している。


「すごいでしょ。音が全然違う」

「さっきの子たちより明らかに音が大きいしきれいだな。それに迫力がある」

「音量についてはね、バイオリンの大きさが違うの」


身体と楽器の見た目のバランスが他の子どもたちと違う。楽器がより大きく見える。


「子供用のバイオリンのサイズって細かく幾つも段階があってね。身体の成長に合わせて変えていくんだ。
楽器が大きければそれだけ音が大きくなるし、響きもぜんぜん違うの。
恭介は腕も指も長い。あと、関節や筋なんかも柔らかくてね、上の合わないサイズでも弾きこなしちゃうの」

「へえ」

「先生やご両親は止めておけって言ったんだって。曲芸みたいなもんだからね。
でもあいつ、どうしてもこれじゃなきゃだめだって。音に拘りがあるんだ。
出せる音をちゃんと出したいって」

「ふうん」

「あはは……つまんない?」

「いいや、続けて」

「あたしが一番最初のファンなんだ。本人の前で宣言したもん」

「そっか」

「この日の発表会でファンをだいぶ増やしたと思うんだよね。
バイオリン辞めたくなった子もいたかも」

「そっか。すごいやつなんだな」

「うん。よく、知りたくて」

「ん」

「クラシックは聴きまくったし、本も読んだ」

「そっか」

「…………」

「泣いてる?」

「泣いてないってば。魔法少女になったことは後悔してるんだけどさ」

「うん」

「あいつの腕が治ったのはほんとよかった」

「そうか」

「あの天才の腕が失われるなんて人類全体の損だ、とか思ったもん」

「大ファンだな」

「これからもずっとね」

「そっか」
255 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:42:24.02 ID:eFXi0ApIo

「お嫁さんになって近くで応援するんだって、小さい頃から思ってた」

「うん」

「どうしようもなく憧れてて、でもどっかでわかってたんだ。住む世界が違う子だって」

「事故があって………腕をやられたって聞いて真っ青になったよ。
大好きなバイオリンを弾けない恭介があたしはすごくかわいそうで」

「かわいそう、だったけど…………でも実際のところは毎日お見舞いに行けて嬉しかったな」

「誰はばかることなく二人きりで会えてこっちはウッキウキだよもう。
治らないケガだなんて知らなかったからさー」


ステージ上の上条恭介はもう幼い少年ではなかった。大けがを奇跡的に乗り越えて挑戦したコンクールの最終審査、実力を出し切った彼は応援に来ていた志筑仁美と目を合わせて穏やかに微笑んだ。


「仁美でよかった、本当に。ぴったりなんだよ」


言い訳でも僻みでもないよ、と前置きしてさやかは続けた。


「仁美が恭介を好きだって聞いた時は、こう目の前が真っ暗になったんだけど」

「絶対にかなわないってわかったし。すごくしっくりきたし。
恭介のこと一番わかっているのはあたしだって自信があったんだけど
そんなのただの勘違いだった」

「なんか、淡々と話すんだな」

「熱く語って欲しい?」

「そうじゃないけど」


握りしめられた手を見ると少し白くなっている。


「恥ずかしいんだ」

「何が?」

「こんな風に頭でわかってても、仁美にあたしの恭介を取られちゃった、ってなった自分が恥ずかしい。
みんなに八つ当たりしてた自分が恥ずかしい。なんにもわからず浮かれてた頃の自分が恥ずかしい。独りよがりでもういろいろと恥ずかしい。
あんたに世話を掛けさせたのが恥ずかしい」

「………ちゃんと整理がついているんだな」

「そうみたい」

「そっか……じゃあ、さ」


杏子は握られた手をしっかりと握り返して心で話す。
256 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:43:46.51 ID:eFXi0ApIo


おねがいだからこうしていて。

たぶんこれからかなりひどくなるから。




お互いの記憶を行ったり来たりしている。なら、すぐ、アレがくる。

杏子は身体を固くした。




音もなく二人のいる場所の底が抜けた。

ゆっくり落ちていく。

お互いを拠り所にして。
257 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:50:25.55 ID:eFXi0ApIo

朗読台で父が聖書を開いている。


「マタイによる福音書、第十四章十六節から──イエスは舟から上がって………」


日曜朝の礼拝時、家族以外誰もいないが父はきっちりと時間になると始める。どこかさびれた聖堂。杏子もモモも毎日掃除を手伝っているのに。

クリスマスが近い。


………for the Load, and the glory, the glory of the Load,………


もうあんな風にクリスマスを祝うことはないんだろうな、と思う。

教会を訪れる人が減っても日々の雑務は減らない。休日ともなると杏子も朝早くから手伝いを諸々こなす。ビラも配るしボランティアにも参加する。


(お腹が空いた)


空腹には慣れなかった。いっときましにはなることはなっても、食べるまでそれは決しておさまらない。

杏子は歯を食いしばり、両手でみぞおちのあたりを押さえた。妹はもっと辛いはずだ。あたしよりずっと小さいんだから。


(イエスさまは何千人もの人を食べさせてくれたけど、神さま。あたしはお腹が空いています)


どうしてうちはこんなに苦しくなったのか、と母に尋ねたことがあった。


「お父さんには考えがあるの」


それまで属していた教派を抜けて独立したらしい。何か教義の解釈について意見の食い違いがあったとかなんとか。父は異端となった。教会を訪れる信徒は激減した。

両親にしてみれば子供たちが飢えているなんて思ってもみなかったかもしれない。時間になればきちんと食事は出た。ただ、育ち盛りの子供たちにとってはその量は満足のいくものでは決してなかった。満腹になれるのは学校で出る給食の時だけだった。

食べ物のことを考えるのはつらかった。


「みんなが親父の話を真面目に聞いてくれるようにってのがあたしの願いだった。
単純に信徒が減ったからうちが貧乏になったって思ってたから」


空腹に苛まれる小学生の自分を見つめながら杏子がさやかに説明する。


「でも……考えてみるとさ」

「教派から独立、ってか破門されたんだけどそれは覚悟の上じゃん」

「信徒が減るのはわかってるんだから、その寄付だけで生活できるなんて甘いことは考えてなかったはずだ。
お袋は昼間働きに出てたよ。忙しそうだったな、親父のアシストも家のこともやるから。
親父はやさしい人だったけど……そんで毎日一生懸命教会のことをやってたけど……それじゃ食えない」
258 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:54:11.60 ID:eFXi0ApIo

そして目の前すべてが炎になる。


「さやか」

「なに?」

「あたしは、どうして絶望しなかったと思う?」

「それはあんたが強いから」

「違う」


さやかは杏子の顔を見た。さやかは答えを知らされる。


「あたしのせいで両親が………小さな妹まで連れて死んじまったってのにあたしは」

「どこかで、ホッとしたんだ。自分が楽になれたって思っちまった」

「杏子」


杏子の声が苦しそうだ。


「ダメな…………親たちだなって…………思っていたんだよ…………」

「神父が……自殺するか? つれあいと子供殺すか? 魔女にやられてたんじゃないか? でもその魔女はあたしなんだ」

「あたしらが戦っているような魔女なんかじゃなくて、正真正銘本物のタチの悪い」


さやかは杏子を抱き寄せてやる。

燃える司祭館、消防車のサイレン。

ものが焦げた不快な臭いの充満する聖堂で泣き明かした。


マミにすっげー八つ当たりしたな。当たる相手があいつくらいしかいなかったし。
そっからは……やりたい放題だった。あたしくらい魔法少女に向いたヤツってなかなかいないよ。
好きに生きて野垂れ死ぬんだ。どうでもいいって思ってた。食えればいいやって。

でも。

でもそれで生きていけるほど単純じゃなかった。マミと再会してあんたらに会って……
ほむらから繰り返しの時間を教えられて。


またふたりの底が抜けてどこかへ落ちていく。

259 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:55:47.26 ID:eFXi0ApIo


まどかはパジャマ、ほむらは魔法少女姿でベッドのへりに並んで座った。

まどかが手を伸ばしてほむらと手をつなぐと、相手がわずかに緊張したのがわかった。

少しの間まどかの熱で掌を温めていたほむらが、意を決したようにそっとそれを握り返した。


「これをお願い」


自分のソウルジェムをまどかに渡す。

まどかは受け取ったそれを胸に当てて少しの間祈るようにうつむいた。


「ほむらちゃん」

「なに、まどか」

「いけるよ」


口調にはっとしてまどかの横顔を見る。半眼になった目が異様に光を帯びている。


(まどか……あなた)

(いけるよ)


思わずテレパシーで話しかけると同じように明瞭に返ってきた。

ほむらは僅かに目を細めた。もう始まっている。

260 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 15:59:18.57 ID:eFXi0ApIo

あれで潮目が変わった。あたしにとっては。

自分にとっても、とさやかは伝えた。

このままじゃいけないって、やっと思えたんだ。

炎がちらつく。

なんだろうこれ。まざっていくね。

草を渡る風の音。

波の音が近づいてくるね。

炎がちらつく。

声が聞こえる。


“…………魔法少女システムの一番ダメなところはね”

“絶望がそのまま死につながるというところよ”

“システムの一番肝心な部分と言っても差し支えないね”

“元々がダメなのね”

“エネルギー収集の効率を第一に考えられているからね”

“本来絶望は出発点なの。循環するのよ”


あれとあんな風に話をするのはあの人だけだと頷き合う。

くすくすと笑いがこぼれる。

笑いながら。

対流が起こる。

お互いの中に自分を見る。

それを目印に回る。

回る。
261 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 16:00:20.52 ID:eFXi0ApIo

一人と一体は話し合いを重ねながらその時を待っている。


「煙幕のつもりもあったとはいえ、あなたとこんなにもおしゃべりをしたのは初めてじゃない?」

「確かにこの星の特定の固体と一緒に過ごした時間は君が一番長くなった」


マミはQBにひとつの提案をする。

QBは条件を出し、マミはそれを飲んだ。


「契約成立。契約書のタイトルはQBかく語りき。どう?」

「君らしいね」

「訳がわからないよって言うと思ったのに。私もまだまだね」

「しかし、君は本当にそれでいいんだね。後戻りはできないよ」

「何であれ、そんなものでしょう」


マミは意識を一点に集中する。


「来るわよ、QB」
262 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 16:01:51.84 ID:eFXi0ApIo

まどかは見た。

マミとQBの姿を。

結界内に姿を現し、降下していくほむらを。

ほむらは黒い糸に絡みつかれたマミを目にして危険を知る。


「見えた。僕はお先に」


情念の黒い糸はQBを束縛しない。絡まる術がないかのように大量の糸がするすると解けていく。


「助かったよ、ほむら」


ほむらとすれ違ってQBは消えた。

大量の糸が迫ってくる。ほむらは手榴弾のピンを抜いて生き物のように伸びてくるそれらに向かって投げた。

しかしそれらは爆風を呑みこむほど大量に現れてほむらに絡みつき、その自由を奪った。

マミは魂の本性であるキャンデロロの姿となり、自分に纏い付く糸とともにほむらへ向かって飛んだ。

ほむらの姿はもうほとんど黒い雲に溺れているように見える。
263 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 16:03:02.25 ID:eFXi0ApIo

(巴マミ。ここでなにが起こっているの?)


黒い糸に浸食されて記憶を探られる。ほむらの脳裏に過去が蘇る。


“何度繰り返すことになっても必ずあなたを守ってみせる”

──リセット


“私の戦場はここじゃない”

──リセット


──リセット


──リセット


──リセット


ほむらは激しい怒りを覚える。しかしなす術がない。

糸がほむらの盾を操作しようとしていることを知って死にもの狂いでもがく。

そのほむらにキャンデロロが飛び込んだ。文字通り。


(身体から切り離された魂と、魂を有さない身体が揃ったわ。あなたの身体を使わせて)


どこでどうしていても巴マミは巴マミだ、というようなことを漠然と思ったのを最後にほむらの意識は身体から切り離された。
264 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 16:03:57.10 ID:eFXi0ApIo


突然まどかのトランス状態が中断された。ショックが大きかったようで彼女の口から「うぐっ」という

ような声がもれた。


「ほむらちゃん!!!」


いない。ただ輝くソウルジェムだけが彼女の手の中にある。

265 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/12/31(土) 16:10:15.02 ID:eFXi0ApIo

宙を舞うリボンが黒い糸をすばやく大量に巻き取っていき、ほむらの姿をしたマミが現われる。

完全に自由になった瞬間身を翻し、結界から離れて虚空を全力で飛ぶ。加速していく。


(道はわかる、見える。でも)


糸はしつこくやってきて、何本かが足に絡む。ほむら=マミのスピードが落ちる。

それを発端にまた大量の糸が身体に纏い付いてくる。


(どこまで伸びるの? キリがない!!)


その時どこからともなく巨大な槍が現れて糸の束を易々と断ち切っていった。輝く穂先が何度か往復するともう黒い糸はどこにも見えなくなった。

持ち手も槍の大きさに見合っていた。そびえる姿は首から先が炎に包まれ、動くと火の粉がぱあっと派手に散った。表情や顔かたちなどはっきりしないが、マミはそれの明るい哄笑と蹄の鳴る音を聞いた。徐々に薄れていく。


(ありがとう)


あなたのことをどれだけ頼りにしていたか。想像もつかないでしょうね。

いきなりグンと移動のスピードが上がった。身体が空間ごと進行方向へと流れていく。先へ先へと持って行かれる。

早い流れに身を任せていると、すぐ近くに大きな姿が見えてきた。気付けばほぼ向かい合って泳いでいる。これの作る水流に運ばれていたのだ。

銀色に輝く鎧とウロコ、はるか後方で一瞬尾ひれがひるがえった。フェイスガードの隙間からいたずらっぽい目の輝きを見た気がした。だんだんと消えていく。


(ありがとう)


私みたいな者に憧れてくれた。いつも場を明るくしようと心を砕いてくれていた。

どうやったのかは知らないけれどいろんな壁を越えてきてくれたに違いない。感謝の念で胸を一杯にしながら、ほむらの姿をしたマミは通常空間への道を行く。

雷の音が聞こえる。
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/01(日) 13:06:15.24 ID:Hs9BJw+4O
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 13:22:58.47 ID:O4YqHNQV0
おつおつ
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/18(水) 23:11:51.71 ID:7BySPIe1O
Rにこんな良スレがあったとは
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/02/07(火) 08:07:56.84 ID:5orYg2PVo
>>266
>>267
>>268
ありがとです
270 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:12:01.01 ID:5orYg2PVo

大きな存在からゆっくり別れていく。自分が自分としてまとまっていく。

少し名残惜しい気がした。


(じゃあ、帰らなきゃいいんじゃない?)


そんな気持ちにつけこむような囁きを聞いた。


「帰るよ。用は済んだ」

(わかってるだろうけど、あんたはこの先あまりいいことないよ?)

「かもね」

(さんざん好き勝手できたのも魔法があってこそだったじゃん)

「よくわかってる」

(あたしが代わってやってもいいんだよ)

「いやだよ」

(いい気分のままここで眠っていられるよ?)

「ごめんだね」

(面倒くさがりのくせに。少しは考えなよ)

「考えたよ」

(あの子がいるから帰るの?)

「うるさいな、それだけじゃないよ」

(あの子のどこがいいの?)


声に笑いが含まれている。


「うるさいよ」

(答えられないの?)

「うるさい」

(まあ、これ以上は足止めしないよ。せいぜいうまくやるんだね)


ずっとあたしと一緒にいた。捨てたと思っていたけれど、ある時は背中を押しまたある時にはブレーキをかけた。


「知ってる。あんたはあたしだ。わかってるから」

「だから任せろ」

「これからどうなったって、なんとかやっていくから」


もう返事はない。

杏子は帰る。

しかし着地はすんなりとはいかなかった。
271 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:21:37.05 ID:5orYg2PVo

何かが起こっている。

取り返しのつかない何かが起こりつつある。そんな思いで胸がざわつく。

まどかが見たのはマミがほむらと一体化したところまでだ。


(ほむらちゃんはマミさんと一緒にいる。マミさんの魂が帰る場所はひとつしかない)


もちろんマミの身体だ。ではほむらの身体は? どこからどうやって戻ってくるのだろう。

手の中のソウルジェムはきれいな紫色だ。


(無事……では、あるはず……)

(ほむらちゃんの色)


見ていると少し落ち着く。

遠くの方からゴロゴロと雷の音が聞こえてきた。気になって窓を開け、真夜中の空を見上げる。

空の一角で黒い雲が重々しく垂れ込めながら巨大な渦を形成しかけてた。


(あれは)


あの方角は──。

鼓動が早まる。まどかはほとんど無意識に一番手近にあった上着をつかみ、腕を通して家を飛び出した。


(行かなきゃ)


夢で何度も見た終焉の風景を思い出す。

あそこだ。

深夜の住宅街を彼女なりの全速力で駆けていくが、すぐに息が切れた。


(体力なさすぎ)

(情けないな)


しかし走ることを止めない。危機感がそれをさせない。

ぽつぽつと雨が降り始めた。
272 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:26:28.72 ID:5orYg2PVo

それは夢かうつつかはっきりしない。

部屋の中にQBがいる。

杏子は身体を動かせずにいた。ただそこに立って目撃している。

冷たい汗が背中を伝っていく。


(やめろ)


ほむらの家のリビングで眠り続けるマミのそばにQBが近づく。


(やめろ)


声が出ない。

見ていることしかできない。


(やめてくれ)


心の中で絶叫する。

QBが口を開けてマミの身体にかぶりつく。

まるで半固形物をすすりこむようにマミの身体を減らしていく。血は一滴も流れない。QBが頭を動かす度にマミの手足がぱた、ぱた、と力無く揺れる。着々と人の形を失っていくその一方でQBの見た目はまったく変わらない。


(なぜマミを)


QBが振り返って杏子を見た。


「なぜって、もったいないじゃないか」


マミの全てをその小さな身体に詰め込んで去って行く。


(待て!!!)


杏子は身動きできない。


(夢だ)

(絶対に、これは夢だ)
273 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:32:07.96 ID:5orYg2PVo

遠い場所から帰還を果たした。実りの多い旅だった。

そんな満ち足りた気分でさやかは目を覚ました。しかしなぜか自分が今、魔法少女の姿で路上を走っている最中なのを知って驚きの声を上げた。


「えっ?」


かなり本気のスピードだ。とりあえずペースを落とす。

街灯が照らす夜の道に人気はない。雨が降っている。


(なにやってんのアタシは……まだ夢かな?)


一体どこへ向かうつもりだったのかと悩む彼女に待ち望んだ懐かしい声が届いた。


(美樹さん)


さやかは言葉にならない大きな喜びの感情を爆発させた。高らかに鳴り響くファンファーレ、大量に打ち上がった花火のようなそれ。

今のマミにはさやかの純粋でダイレクトな歓喜が少し心に突き刺さる。


(マミさん! 戻ってきてくれたんですね!)

(おかげさまでね。それより──)


少しの間さやかの脳裏にある風景が映し出された。

豪雨、暴風、落雷、破壊された人工物が土砂と共に積み上がっている。


(マミさん、ここって)

(急いで、お願い。暁美さんを助けて)

(はいっ!?)


夜空にその中心がはっきりと見えた。巨大な黒雲の渦巻きがあり、それが所々光る。不穏な雷の音がする。

ちょうどあの真下あたりだ。
274 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:40:29.42 ID:5orYg2PVo
時折稲光で辺りが真っ白になった。数秒後にバリバリバリと雷鳴が追いかけてくる。雨風が次第に強まって行く中、人間には不可能なスピードでひた走る。あっという間に住宅街を抜け大橋を渡り、ワルプルギスの夜と戦った場所へと。


(あの日ほどじゃないけれど酷い天気……ん?)

(ちょっと、うそでしょ!?)


目を疑った。正面前方、自分と同じ方角へよろよろと進む見知った人影がある。


(まどか?!──っとっとっとっとおっ!)


急には止まれない。追い越してからかなりの距離を引き返すことになった。

駆け寄るさやかをまどかは不思議そうに見た。呼吸と動悸がめちゃくちゃでまともに声が出ない。


「さ、さ、さや」

「うわわ、まどか!」


つんのめって前に倒れかけたところを、さやかは危うく支えた。


(なにやってんの、こんなになるまで??)


眉をひそめて文句を言いかけたが、まどかが大事そうにほむらのソウルジェムを握りこんでいるのに気付いて黙った。


(ああ、そっか)


どれだけ慌てて家を出たのだろう。パジャマの上から厚手のカーディガンを着ているだけだ。雨水を吸い込んで全体が重そうに下がっている。足元はと見ると通学用の制靴だった。

下ろした髪はクセが完全に消えるまで濡れそぼっている。さやかは自分のマントを広げてまどかを覆い、わしゃわしゃと手を動かした。


「さやか、ちゃん、………び、、びっくりしたよ……!」
275 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:46:33.23 ID:5orYg2PVo
ゼイゼイと荒い呼吸の合間にまどかはなんとか言葉を発した。


「びっくりしたのはこっちだよ、も〜」


ここから帰すこともこの場に置いていくこともできない。「ごめんね」と一声かけてひょいと抱き上げた。

すーっとまどかの頭の先からつま先まで青い光が走って全身がさっぱりと乾き、靴擦れで傷めた足が癒された。


「一緒に行くよ、まどか」

「すごいね、ありがと……正直、ものすごく、助かっ……ちゃった」


まどかはさやかのマントにつかまり、まだ苦しい息で礼を言った。


「いーんだって、これくらいなんでもないよ」


自分たちの周りを目に見えない流線形の風防ですっぽりと覆い、再び走り始める。


「さやかちゃんはどうして?」

「えへへ、マミさんにほむらを助けてって頼まれてさ」

「マミさん戻ったの!? 良かった……!」

「うん! 直接会ってないけどね。テレパシーが飛んできたんだ」

「テレパシー? マミさんはもう魔法は」

「え? あ、そうか。使えるわけないじゃん。てことはQBが仲介したってことだね」

「QBが……?」


高揚した気分が一気に落ちこんでしまった。
276 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:50:36.64 ID:5orYg2PVo

「たぶん、大丈夫だよ」

「え?」

「ほむらのこと」

「うん」

「マミさんがほむらと一緒だったのを見たよ」

「見たの?」

「正確にはほむらの姿をしたマミさんだったんだけど」

「うん」

「ほむら、ちゃんと行ってくれたんだなって嬉しかった」

「ほむらちゃんは義理堅いから。やさしいし」

「あはは、まどかはほむらが好きだねえ」

「当たり前だよ」

「ああ、うん、まあ」

「さやかちゃん、なにか言いたそう」

「なんでもないよ? あっと、マミさんが戻ってるんだからほむらは機能停止中か。
急がないとね、揺れるかも。酔わないでね?」

「平気、お願い」

「ん!」


気合を入れて加速した。
277 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 08:57:23.77 ID:5orYg2PVo

ひとりでソファーに横になっていた杏子が嫌な汗にまみれて目を覚ました。


(夢だった)


安堵感がこみ上げ、長い溜息を吐いた。

部屋の電気は点けっ放しで時間がわからない。妙に重く感じる頭を持ち上げて壁の時計を見ると、とっくに日付が変わっていた。

身体を起こして深く座り直し、組んだ両手に軽く額を乗せた。


(見て、ちゃんと確認しないと)


マミが部屋の居るべき場所にいるのかどうかを知るのが怖い。なんの意味もないただの夢だったと思いたい。

目を閉じて深呼吸をした。

そして。


「佐倉さん」

「────っ!」


近い距離で背後から名前を呼ばれ全身が激しく震えた。振り返って怒鳴った。


「う、後ろからいきなり声かけんな!」

「再会第一声がそれなの?」


杏子はソファーの背もたれ越しに笑顔のマミにとびついた。膝立ちの体勢で相手の両腕ごと抱え込む。捕獲のニュアンスも垣間見える抱擁だった。


「え、ちょ、ちょっと、珍しいわね?」

「みんなどんだけ心配したと思ってんだ!!」

「まあ……ありがとう」

「うっさい!」


疑念はひとまず脇に置いてマミを実感した。


「……もしかしたら、あんたにはもう会えないかもって思ってたっ」

「ごめんなさいね。──でも話は後」


その真剣な声音に促されて身体を離す。


「どうした」

「さっそくだけどお願いがあるの」
278 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 09:06:19.76 ID:5orYg2PVo



ひとり残されたマミは緊張した面持ちで宙に視線を漂わせる。

しばらくの間そのままでいたが、安心したようにふっと一つ息を吐いた。


279 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/02/07(火) 09:11:28.64 ID:5orYg2PVo

目的地が近づいてきた。この辺りはもう街の明かりはほとんど届かない。さやかは視力を強化させる。

巨大な瓦礫の山──ビルがそのままの形でブロックのように積み上がっている箇所もある──が連なり始める大分手前に高いフェンスが張られていた。まどかを横抱きにしたまま一足で飛び越えると中にはプレハブの建築物と何台もの大型重機が整然と並んでいた。


(ん?)


さやかはフェンス内側に建ててあるポールに監視カメラが設置されていることに気付く。


(こんなとこ入ってくるやついるの?)


剣を飛ばしてポールごと切り落としておいたが、侵入の様子はばっちり録画されていそうだ。


(まあいいや、なるようになる。……はず)

(なにか盗んだり壊したりするわけじゃないし。友達を助けに来ただけだもんね)


ここを訪れるのはあの戦闘以来だ。様子はあまり変わっていないように思う。つまりは撤去作業がまだほとんど進んでいないのだろう。

脆くて険しい絶壁を駆け登り、跳び移り、飛び降りて一番内側へと急ぐ。

二人が辿り着いたそこは不自然な平坦に見えるが、実はすり鉢状の窪地だ。常識はずれのスーパーセルは建物を基礎ごと地面から剥いだ。

ここは魔法少女たちがワルプルギスの夜の進行を止めた場所、魔女があの日一番長く留まった場所だ。

さやかはまどかを地面に立たせて雷の音に負けないよう耳の近くで話しかけた。


「大丈夫だからね!」


こくこくとまどかは頷く。雷雲はしつこく頭上に居座り続け、次々と光っては轟音を響かせる。

さやかが魔力で防護してくれていることはわかっていたが、それでも身がすくんでしまう。


「絶対まどかには落ちてこないからっ」


その通りなのだろう。雨と雹が降りしきる中、身体はまったく濡れていない。不思議だ。


「う、うん、ありがと」


怖がりながらもまどかは何かの兆候を探して神経を尖らせる。雲が禍々しく光を籠らせているので周りの地面がぼんやり見える程度の明るさはあった。

大粒の雹が降り始めた。丸い氷の粒が地面に溜まっていく。
280 : ◆GXVkKXrpNcpr [sage saga]:2017/02/07(火) 14:23:59.51 ID:5orYg2PVo

また光った。近い。直後の一際大きな雷鳴にまどかは絶叫してしまった。ほむらのソウルジェムを持ったまま頭を抱えるようにして両耳を塞ぐ。頬がぴりぴりする。


「よーしよし、怖くないよ〜大丈夫だって」

「い、いい今の、今のすごくなかった? ねえ?」

「すごかったけど、でも大丈夫だからねホント」


涙目でカチカチと歯を鳴らす友人の肩を抱いて励ましているうちに、さやかは一帯になにやら異様な気配が近づいてくるのを感じた。

どんどん大きくなる。鳥肌が立った。


「うーん、どこからだろう、これ」


まどかも同じように感じていたが、それがどこからというなら何度も見た。ワルプルギスの夜はいつでも空から現れた。


「……そうだった……ねえ、さやかちゃん、上だよ」


まどかが震えながら空を見上げると「ん、なに?」とさやかも同じ方を向いた。

ほぼ同時に二人の頭上、雲の渦の中心から小さな何かが放出された。雷光が照らしたそれは人影らしい、という程度の認識しかできないものだったがまどかはぎょっとして叫んだ。


「ほむらちゃん!!」


さやかは彼女のこれ程必死な大声は聞いたことがなかった。

時間がない。


「ふんっっ!」

「ちょっっさやかちゃん?!」


まどかの手からソウルジェムを奪い、頭を下にして落ちてくるほむら目掛けて最小最速のモーションで投げた。

間をおかず直径三メートルほどの白く輝く魔法陣をほむらの落下線上に出現させる。

それ自体は厚みのない円盤が僅かな間隔を保って幾重にも層を成し、地上数メートルに浮かんで明るく光る円柱となった。

重力に逆らって飛んで行った小さな紫は目標を掠め、しばらく上昇してから持ち主に続いて落ちてくる。

ほむらは中心から少しずれて光の柱に吸い込まれた。まどかはそれをはらはらしながら見守りつつ、ソウルジェムの行方も懸命に目の端で追った。

本体はソウルジェムだと頭でわかっていても、どうしても身体の方を重点的に見てしまう。それを抜け殻などと思うことはできない。
281 : ◆GXVkKXrpNcpr [sage saga]:2017/02/07(火) 14:41:08.65 ID:5orYg2PVo

完璧なコントロールで投擲されたソウルジェムが身体に触れた瞬間、ほむらが意識を取り戻す。

なぜか目蓋が開かない。身体が思うように動かせない。ただ高所から落下中だということはわかった。これまで幾度となく味わってきた感覚だ。

ソウルジェムが手元にないため変身できない。鹿目家で入浴後に着替えた部屋着姿だった。

とにかく頭から落ちるのは避けようともがき始めたところで何かの魔法が働いたらしい。固いゼリーの中を落ちていくように感じる。おかげで落下の勢いはかなり弱まった。

着地の瞬間に血肉の広がりになることはないだろう。息を詰めて衝撃に備えた。


「よーしいいよ、そのまま落ちてこいほむら。まどかは離れてて……そうそう、その辺」


ほむらが最後の魔法陣を破りながら背中を下にして落ちてくる。


「んぎっ!!!!!!」


さやかがほむらの身体を受け止めた。頭部と肩を胸にしっかり固定し、足のバネで衝撃をある程度吸収してから臀部、背中と丸く受け身をとった。二人まとまってぬかるんだ地面に押しつけられ、ぐしゃ、という音がした。


「っ………!」


まどかが悲鳴を呑み込んだ。二人に駆け寄りたいのを我慢して、ほむらより先に地面に落ちたソウルジェムを拾いに行った。辺りを明るく照らしていた魔法陣の円柱は役目を終えてゆっくり消えていこうとしていたが、辺りはまだ十分に明るい。

落ちた所は見ていたものの、大きな氷の粒の間で光を放つそれを無事に発見できた瞬間はへたり込みそうになる程ホッとした。
282 : ◆GXVkKXrpNcpr [sage saga]:2017/02/07(火) 15:03:59.90 ID:5orYg2PVo

「あいてててててて、ほむら無事?」


さやかはクッションになって内側にめり込んだ肋骨を整復しながら立ち上がった。彼女なりに細心の注意を払った甲斐あってほむらの外傷は大したことがなさそうだ。


「ん? あれ? ほむら?」


どうも意識レベルが低い。全身が冷え切っている。顔にうっすら霜が張っており、上下まつ毛は閉じられたまま凍りついている。髪の毛や衣服もバリバリに固まって酷い有様だ。


「この子ってば冷凍庫にでも入ってたのかな。ちょっと待ちなよね……よっと」


身体の中心に熱の固まりを発生させるイメージでほむらの体温を上げてやる。温められた血液が全身を巡り、全身から白い湯気が上がった。徐々に顔色が良くなって目が薄く開いた。


「あ………」


小さな声が洩れた。


「よし。どう、ほむら」 

「ほむらちゃん、これ」


まどかが拾ったソウルジェムを手に持たせた。ほむらはすぐさま変身して体を起こし、まどかとさやかを交互に見た。


「……………あの」


情況が今ひとつのみこめない。まどかはそんなほむらに無言で抱き着いた。


「まどか?」


押し殺した嗚咽の声が聞こえてきてあたふたしたが、腕の中の温かさと柔らかさで我に返る。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/09(木) 15:16:50.66 ID:kqnGd+m1O
待ってた
これでみんな帰還かな?
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/13(月) 15:05:31.01 ID:rtISy8QDo
乙でした
冷凍ほむ
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/28(火) 00:46:23.40 ID:j15W64fuO
まだ
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 08:02:21.76 ID:AjtdeEYho
>>283
はい
>>284
コールドスリープで未来篇へ
>>285
ごめん
287 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:12:47.24 ID:AjtdeEYho

奇妙な圧迫感がどんどん強まっている。気味の悪い地響きがする。

全身で感じる空気の震えがただ事ではない。

さやかは我慢できなくなって、雷雨の中座り込んで抱き合う二人に声をかけた。


「ね、帰ろ。ここマズイ気がする。てか絶対ヤバイ。ぞわぞわする!」


まどかはほむらの肩口に埋めていた顔を上げ、手の甲で涙をぬぐった。


「うん……さやかちゃん、ありがとう。さやかちゃんのおかげだよ」

「んなこたない。まどかが頑張ったんだって」

「私からも。何があったか知らないけれど
あなたに助けられたということはわかる。ありがとう」

「あんたがまず礼を言わなきゃなんないのはまどかだよ。
まどかの格好見なよ。パジャマだよ?」

「……あ、うん、分かってる。私もう終わってるよね……あはは」

「あっ、まどか、ちがうそんなことが言いたかったんじゃなくてね?!」


しょげて力なく笑う友達をもう一度抱きしめて感謝の言葉をしっかり伝えたい。ほむらの両腕が少し動いたその時杏子のテレパシーが届いた。


(いつまでのんびりしているつもりなんだ)


二人の魔法少女がさっと周りを見渡す。


(どしたの杏子、迎えにきてくれたの?)

(あんたたちを見に行けってマミに頼まれてさ。
何やってんのそんなとこで。用は済んだろ? 早くここから帰れ)


同じ方向を黙って見つめる二人の視線をまどかも辿ってみた。何も見えないが「杏子ちゃん?」と聞いてみるとさやかが「うん」と肯いた。

ほむらは杏子の言葉にいたく興味をそそられた。向こうでマミに会って以降のことはほとんど不明のままだったから。

 
(では、巴マミは元に戻ったのね?)

(ああ)

(ちゃんと人間なの?)


なんてことを訊きやがる、と杏子は思った。


(ちゃんとかどうかはともかく、マミだったよ。
それより早いとこ動きなよ。そこ安全じゃないらしいんだ)

(マミはなぜ私たちの状況を把握できているの? ここが安全じゃないとは?)

(詳しいことは知らないけど、この辺り一帯がヤバイのはわかるだろ!)


ほむらはもっとあれこれ聞きたかったが、杏子の苛立ちに気付いて自制した。
288 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:16:30.69 ID:AjtdeEYho

「言う通りにしましょう。私たちだけならともかく、まどかがいる」

「おっ急にキリッてなった。調子出てきた?」

「えっと、ほむらちゃん? さやかちゃん?」


左右から腕を取られてまどかは二人を交互に見た。


「超特急で帰るからね、まどか」

「う、うん、よろしくね」

「それから、サイズ的にそれほど問題がないとしてもだよ」

「さやかちゃん?」

「ノーブラで全力疾走はもうやっちゃダメだからね、まどか」

「………さやかちゃん」

「ごめん、緊張をほぐそうとしたの、ほんとごめん。
でもこうくっついてると嫌でも判るじゃん? まったく触れないのもどうかと思って」

「そこは黙ってるのが正解だと思うよ」

「ほむらみたいに?」


知らん顔をしているほむらにもさやかは容赦なく話を振った。


「ほむらさっき、正面からだともっと柔らかかったよね?」

「さやかちゃん!!」


(おまえらいい加減にしろ!!!!!)


魔法少女たちはまどかを半ば抱えるようにしてその場から姿を消した。
289 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:20:46.63 ID:AjtdeEYho

(やっと行った。さて)


杏子は荒れた空に目を向けた。


(この感じ……ワルプルギス戦の後、マミがいなくなった時と同じだ。
ほむらが戻ったんだからそれで終わるんじゃないのか)

(何だ、あれ)


雲間からパラパラと何かがたくさん降ってくる。目を凝らし、それが人の形をしているのに気付いて思わず身構えた。


「あれらは人間じゃない。見ていればわかるよ」


側にQBがいた。相変わらず神出鬼没だ。


「QB、いつからここに?」

「まどかについて来たんだ。だからほぼ最初からかな」

「コソコソ隠れて見物してたってわけか」

「僕の出る幕はなかったよ」


人の形は空中でゆるゆるとほどけて崩れ、それでもひとかたまりのまま氷の粒で覆われた地面に達し、真っ平らに潰れた。

広い範囲にばらまかれた染みのようなそれらからぼうっと小さな光点が浮かび上がり、やがてまぶしいほどの光の群れとなる。


(蛍……じゃ、ない。あんなに明るいわけがない)

(それに……)


空耳かと疑う程に微かだが、忘れようのないワルプルギスの夜の笑い声が聞こえた。

集まってしばらくはふわふわと漂っていたが、四方八方に消えていく。不思議と心奪われる風景で、目が離せない。雨も雹もとっくに降り止んでいた。
290 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:24:29.31 ID:AjtdeEYho

「さっそくだけどお願いがあるの」

「出戻り祝いになんでも聞くよ」


杏子は相手に抱きつくような大仰な喜び方をしたことを恥じ、マミに背を向けてソファーの上で胡坐をかいた。

その肩にマミが両手を置く。


「今、美樹さんと鹿目さんが暁美さんを助けに行ってくれているの」

「あ? ほむら、まだ戻ってないの? あんたほむら使って帰ってきたんだろ?」

「ええ、助かっちゃった。お礼を言わなきゃ。もちろんあなたたちにも」

「もう聞いたよ。何回もいいよ水臭い」

「そうね。でも本当に嬉しかった」

「だから──」

「しつこかった? ごめんなさい。それより暁美さんのこと」

「ああ」

「境界に至る前に離れ離れ、というか元の状態に戻ったの。
私の魂だけが先にこちらに引っ張られたのね」

「ん? んー……それで?」

「つまり彼女の身体が空っぽのまま異空間に残されて」

「は? 待てそれって大変なことなんじゃ、うっ?!」


話をさえぎって振り向き見上げると思っていたより近くにマミの顔があってぎくっとした。


「落ち着いて」


両肩に置かれたままだった手に誘導され、杏子の捻じれた体勢が元に戻る。
291 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:27:56.03 ID:AjtdeEYho

「大丈夫、私の使った通路はしばらく開いたままだからあの子もちゃんと惰性で戻ってくる。時間差ができただけ。
あなたもすぐそこへ向かってほしいの」

「何をしに? 手が足りないのか?」

「いいえ、それもたぶん大丈夫。
ただ三人にいつまでもそこにいないように伝えてくれないかしら」

「危険があるのかい?」

「もしかするとね」

「あいつらに早く帰るよう言えばいいんだな」

「ええ、そういうこと」

「わかった。なんでもって言っちまったし、使いくらいするさ」

「よろしくね」

「あいよ」


マミは元気づけるように軽く杏子の背中を叩いた。わざと億劫そうに立ち上がった杏子が何か言いたげにマミの顔を見る。


「聞きたいことを、聞いていいのよ?」


そう助け舟を出したマミだが、杏子は「まあいいや」と首を振った。


「後にする。行ってくる」

「いってらっしゃい」


そしてマミはひとりになる。

彼女はもはや魔法少女ではない。できることはそう多くはなく、なまじ優秀だっただけにもどかしい思いもある。


(リボンが使えれば簡単だったのに)


──だが、この目はとても便利だ。

今、ほむらが無事に救出された。彼女は安堵の息を漏らした。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 08:33:27.64 ID:KDOyD8MuO

目?なにか得たのかマミさん
……邪気眼?
293 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:37:33.40 ID:AjtdeEYho

闇の中、小さな光はもうあまり残っていない。飽かずにそれを眺めていた杏子にQBが話しかけた。


「杏子、マミが君と話したいそうだよ」

「はあ? 話したいったって……ぜんぜん遠いじゃん。届くの?」

「うん。問題はないね」


(マミ? 聞こえるか?)

(ええ)


半信半疑で呼びかけたがちゃんと返ってきた。


(みんな無事だよ、めでたしめでたしってね)

(よかった、ありがとう)

(これができるんなら、コイツに頼めばよかったじゃん伝言くらい。
あんたの言うことよく聞くみたいだな?)


隣のQBにちらっと視線をやる。


(暁美さんとQBはもうちょっと落ち着いた環境で再会した方がいいと思って)

(ふうん? で、なんか降ってきたけどアレは何?)

(ワルプルギスの夜の残りもの)

(聞いたことのある笑い声がした)

(ええ)

(次から次へと湧いて消えてったぞ)

(あれはみんな魔法少女だったもの。特殊な形で存在し続けた魂よ)

(そうなのか)

(QBからすると宇宙の延命に貢献できず、無駄になってしまったエネルギー。
あなたと一緒に見送ってあげることができてよかった)

(んん? 見えてんの?)
294 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:52:07.83 ID:AjtdeEYho

マミは説明をQBに任せた。


「マミは僕を通して見聞きしている」

「あ? おまえ、そんなこともできんの? もうなんでもありじゃん」

「なんでもってことはないね」

「うさんくせえ」


(あの人たちは選んだのだと思う)

(何をさ?)

(どこでもない空間で朽ち果てるより、輪廻の輪に戻ることを)

(あー?)


杏子は深く考えることは止めた。


(詳しいことが知りたければ後で説明するわ。もう帰っていらっしゃい。
そこも多分危ないから)


光の点は全て消えてしまった。

それを待っていたかのように今度は湿った重そうな土塊が落ちてきた。大きいものは家屋ほどもある。どすんずしんと迫力のある音を立てて積み上がっていく。

杏子の立つ足場が揺れ、一部が崩れ始めた。


(わかった。今から帰る)

(暁美さんのお宅じゃなくてうちのマンションね)

(了解)


次々と大量に降ってくる。勢いは増していくばかりだ。スーパーセルが築いた脆い壁が押し寄せる土塊をせき止めてくれるとは思えない。杏子は瓦礫の連なりを外側に向かって素早く駆け抜けた。

来る時に越えてきたフェンスまで辿り着いたところで、多分とてつもない大きさの塊が落ちてきたのだろう。これまでとは段違いの衝撃音と激しい揺れが起こった。

土砂やコンクリートの固まりが重機を巻き込みプレハブをぺしゃんこにのしてなだれてくる。急いで逃げた。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 08:58:53.09 ID:AjtdeEYho
>>292
あんだけ厳しい修行を乗り越えたので


また後程続き投下
296 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 12:57:27.61 ID:AjtdeEYho

家路を急ぐ三人の背後から地響きが追いかけてきた。地面が小刻みに揺れ始める。


「あっ……地震?」

「だね。あたし地震キライだなー。逃げ場がないから」

「私も、苦手」

「まっ得意な人はいないよね」


上擦った声のまどかに受け答えるさやかの顔も青ざめている。

ほむらがふたりに「急がないと」と声をかけたタイミングで大きな揺れにつかまった。ガクンと強烈に突き上げられてバランスを崩しながらも、間に挟んだまどかを支えて注意深く移動を続ける。

揺れはしかしあっけなく止み、地鳴りもおさまっていった。三人はようやく鹿目家の前に到着した。

いつのまにか雨は上がり雷雲も消えている。

未明の街はしんと静まりかえっていたがそれも短い間のことで、すぐに轟音と強い揺れに叩き起こされた人々のざわめきであふれた。救急や消防のサイレンも聞こえてくる。

鹿目家の玄関の明かりが点いた。

さやかは「またね、あたし一度家に帰るわ」と早口で言うと姿を消した。ほむらも変身を解く。

ドアから知久が顔をのぞかせた。


「まどか?」

「あ、パパ」

「いたいた、良かった。君たちが部屋にいなくて驚いたよ」
297 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:02:39.08 ID:AjtdeEYho

驚いたと言うがまるでそうは見えない。にこやかだ。


「ごめんなさい」

「すみません、二人で慌ててしまいました」


口々に謝った。


「いや、揺れが大きかったから無理もないよ。短く済んで良かったよね。
ちょっと散らかっちゃったけどガスも電気も水も無事なんだ。ラッキーだったよ」


(私が何時間も前に家を抜け出たことには気付いていない)

(パパは私がそんなことをするなんて、きっと思ってもみない)


ほむらはまどかの後ろめたい思いを見て取った。下を向くまどかに身体を寄せ、耳の近くで小さく「ごめんね」と言った。

まどかはびっくりし、微かに首を振ってみせた。


(そうだよ私は……)

(私はどうしても行かなきゃいけなかったんだから)


二人ともしおらしく知久について家に入る。台所の方からタツヤの泣き声とそれをなだめる詢子の低い優しい声が聞こえた。

部屋に戻って電気を点けてみるとぬいぐるみや本が散乱していたので、二人で簡単に片付けた。
298 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:06:04.85 ID:AjtdeEYho

夜明けまで少し時間がある。

まどかはベッド、ほむらはその隣に敷かれた客布団に横になってぽつりぽつりとお互いの情報を交換をした。


「では、まどかも巴さんとはまだコンタクトを取れていないということ?」

「………」

「まどか?」

「え、ごめん今なんて言ったのかな?」

「無理をさせたみたいね」

「……うん?」

「少し眠りましょう。続きはまた起きてから」

「うん……おやすみほむらちゃん」

「おやすみ」


相当疲れていたのだろう。すぐに寝息を立て始めた。

ほむらはふと、自分のソウルジェムを出してみた。魔力の消耗はあまり感じないが、何か全身に違和感がある。

普段まったく使わない部分を酷使して今そのしっぺ返しを受けている。そんな感覚があった。


(無理もないわね。他人に身体を乗っ取られていたのだから)


だがまどかの静かで規則正しい寝息が徐々にほむらのまぶたを重くした。


(巴マミに……会わなければ)
299 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:08:42.36 ID:AjtdeEYho

眠りに落ちる最後の瞬間それを想ったせいかもしれない。妙な夢を見た。

ほむらは一面の花畑をひとりで歩いている。空に太陽も月もなく、ただ薄明るい。夢だという自覚はあって、安らかな気分だ。

彼女の周りをふらふらとつかず離れず、蛍の群れが飛んでいる。

ほむらはそれらを蛍だと認識したが、都会育ちの上に病弱でほとんど野外活動の経験がない彼女は蛍という昆虫を実際に見たことはない。もし杏子がこの場にいたら「これは蛍じゃない。こんなに明るくも大きくもない」と指摘しただろう。


「大体、虫の姿が見えないじゃん」


しかし杏子はいない。ほむらはその正体について特に気にもしない。夢だから。

たくさんの光点と一緒に花畑の中を伸びる細い一本道を辿り、緩やかな丘陵を越えていくと眼下に大きな川の流れが広がった。

彼岸花の群生する土手から素朴な石段を使って広々とした河原に降り、流れの側まで歩いた。蛍の群れはそのまま対岸へ向かって飛んで行った。


(花畑、暗い川……縁起がいいとは言えないわね)


向こう岸は靄がかかっている。

中州があるようだ。と言うのも、川の中程に巴マミが立っているからだ。こちらに気付いて柔らかい笑みを見せ、水面を滑るようにやってくる。

ほむらは驚いて言った。


「浮いているのね。幽霊みたい、巴マミ」


そのほむらにマミは笑顔でこう答えた。


「きゅっぷい」


そうね。夢だものね。
300 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:43:17.49 ID:AjtdeEYho

「おかえり」

「ただいま」


杏子が土埃にまみれて帰ってきた。

マミはまず湯を張ったばかりの風呂に彼女を追いやり、さっぱりさせたところで空腹かどうかを尋ねた。腹ペコだというので用意しておいた軽食を並べた。

ラップフィルムでひとつひとつ包まれたおにぎりはまだ温かく何種類もあり、味噌汁は具沢山で手がかかっている。杏子は目を輝かせて「いただきます」と手を合わせ、ラップをむいてかぶりついた。

マミは同居人の健啖ぶりを嬉しそうに眺め、茶をそそいだり汁物のおかわりをついだりと世話を焼いた。


「マミは食べないの?」

「寝てばかりだったもの。簡単な物ばかりで悪いわね」

「いやいやじゅうぶん……あ、じゃこ梅もいいけど、おかかにチーズうまいねこれ」

「冷蔵庫の中身が賞味期限切れのものばかりになってて驚いたわ。
レトルト食品もほとんど減ってないし。何を食べていたの?」

「食べる物は主にさやかとまどかに世話になった。ほむらにも。
あたしは正直あんたの抜け殻を世話するので手一杯だったからさ」

「迷惑をかけたわね。あなたが大事に扱ってくれたお陰で不具合もなく助かりました。
あ、まだたくさんあるわよ? 五合炊いたから」

「食べる」


もりもり卓上の食べ物を片付けていく杏子に、どこでどうなっていたのかおおよそのところをマミは話して聞かせた。

杏子の胃が落ち着いた頃にはすっかり日が高くなっていて、マミが部屋のカーテンとガラス戸を開いて換気した。
301 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:16:22.82 ID:AjtdeEYho

「新しい山ができたわね。街の人もびっくりよ、きっと」


直接見ることはできないが、その辺りの上空をヘリコプターが何台も旋回している。騒音がひどいのですぐ窓は閉め切った。

結局、ワルプルギスの夜が何世紀もかけて溜め続けてきたものがああいった形でこちらに根こそぎ戻ってきたということらしい。


「あそこにあるごちゃごちゃしたもの全部きれいに覆い隠しちゃったな」

「ファフロツキーズって言うんだって」

「ふぁ、なんだって? またイタリア語?」

「またってことはないでしょ。Falls From The Skiesを縮めた言葉ね。
空から降るはずのないものが降ってくる怪奇現象のこと。魚とかカエルとか」

「へえ、やっぱり変なことには詳しいね」

「詳しくないわよ。調べたの」

「でもそいつら、なんでこっちに来る気になったのかな。
ずっと隠れててQBさえそいつらのこと知らなかったってのに」

「あの人たちはもう、遅かれ早かれ消えるしかなかった。
向こうにいてもただ無になるだけ。でもこちらに戻ればこの星の自然な循環系に参加できるでしょ」

「自然……? 死人ってそんなこと気にするか?」

「そうね。私たちみたいには考えないかもね。
生きた身体を闇雲に追いかけてきただけかもしれない。パニック映画のゾンビみたいに。
本当のところはわからない。知りようがないでしょ」

「紀元前九百年って言ったよね。シバの女王だろ、そいつ聖書に出てくるよ。
QBってほんっとに大昔から地球にいてずっと魔法少女を魔女にしてきたんだな」

「僕たちはそのための存在だからね」

「いたのかよ」


QBが割り込んできた。


「驚かせたかな?」

「いきなりしゃべりかけられると殺意がわく」

「ごめんなさい」

「なんでマミが謝んの?」


マミは「つい」と真面目な顔をした。
302 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:18:26.32 ID:AjtdeEYho

「そうだ、マミの携帯にさやかから何か連絡入ってない?」

「そう言えばさっき何か鳴ったかも」

「めんどくさがらずにこまめにチェックしろよ」

「あなたにだけは言われたくなかったわね」


充電中のそれをとりあげて画面を確認する。


「メールが一件。マミさんおかえりなさい、アタシは家で今から寝ます。起きたら遊びに行ってもいいですか。後でメールします、だって。いつでもどうぞって返すわね」

「うん」


あの部屋にはずっと訪れることができないでいる。今すぐ眠るさやかの隣に潜り込みたい。


「仲がいいのね?」

「えっ?」

「美樹さんと。あなたのそういう顔は見たことがなかった」

「なんだよ、どんな顔したんだよ」

「んー……切なげな、なんというかちょっと色っぽいというか」

「頼むからやめてくれ!!!」


たまらず叫んだ杏子に「ごめん」と笑いながらマミが謝った。


「いや自分で聞いたんだった……それじゃあマミ」

「ええ」

「本題に入るとするか」


マミはニコニコしている。


「なんでも聞いて。どう説明したらいいのかわからないの。
質問してもらえると助かるわ」

「うん、それじゃあさ」
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