マミ「QBかく語りき」 QB「君らしいね」

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286 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 08:02:21.76 ID:AjtdeEYho
>>283
はい
>>284
コールドスリープで未来篇へ
>>285
ごめん
287 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:12:47.24 ID:AjtdeEYho

奇妙な圧迫感がどんどん強まっている。気味の悪い地響きがする。

全身で感じる空気の震えがただ事ではない。

さやかは我慢できなくなって、雷雨の中座り込んで抱き合う二人に声をかけた。


「ね、帰ろ。ここマズイ気がする。てか絶対ヤバイ。ぞわぞわする!」


まどかはほむらの肩口に埋めていた顔を上げ、手の甲で涙をぬぐった。


「うん……さやかちゃん、ありがとう。さやかちゃんのおかげだよ」

「んなこたない。まどかが頑張ったんだって」

「私からも。何があったか知らないけれど
あなたに助けられたということはわかる。ありがとう」

「あんたがまず礼を言わなきゃなんないのはまどかだよ。
まどかの格好見なよ。パジャマだよ?」

「……あ、うん、分かってる。私もう終わってるよね……あはは」

「あっ、まどか、ちがうそんなことが言いたかったんじゃなくてね?!」


しょげて力なく笑う友達をもう一度抱きしめて感謝の言葉をしっかり伝えたい。ほむらの両腕が少し動いたその時杏子のテレパシーが届いた。


(いつまでのんびりしているつもりなんだ)


二人の魔法少女がさっと周りを見渡す。


(どしたの杏子、迎えにきてくれたの?)

(あんたたちを見に行けってマミに頼まれてさ。
何やってんのそんなとこで。用は済んだろ? 早くここから帰れ)


同じ方向を黙って見つめる二人の視線をまどかも辿ってみた。何も見えないが「杏子ちゃん?」と聞いてみるとさやかが「うん」と肯いた。

ほむらは杏子の言葉にいたく興味をそそられた。向こうでマミに会って以降のことはほとんど不明のままだったから。

 
(では、巴マミは元に戻ったのね?)

(ああ)

(ちゃんと人間なの?)


なんてことを訊きやがる、と杏子は思った。


(ちゃんとかどうかはともかく、マミだったよ。
それより早いとこ動きなよ。そこ安全じゃないらしいんだ)

(マミはなぜ私たちの状況を把握できているの? ここが安全じゃないとは?)

(詳しいことは知らないけど、この辺り一帯がヤバイのはわかるだろ!)


ほむらはもっとあれこれ聞きたかったが、杏子の苛立ちに気付いて自制した。
288 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:16:30.69 ID:AjtdeEYho

「言う通りにしましょう。私たちだけならともかく、まどかがいる」

「おっ急にキリッてなった。調子出てきた?」

「えっと、ほむらちゃん? さやかちゃん?」


左右から腕を取られてまどかは二人を交互に見た。


「超特急で帰るからね、まどか」

「う、うん、よろしくね」

「それから、サイズ的にそれほど問題がないとしてもだよ」

「さやかちゃん?」

「ノーブラで全力疾走はもうやっちゃダメだからね、まどか」

「………さやかちゃん」

「ごめん、緊張をほぐそうとしたの、ほんとごめん。
でもこうくっついてると嫌でも判るじゃん? まったく触れないのもどうかと思って」

「そこは黙ってるのが正解だと思うよ」

「ほむらみたいに?」


知らん顔をしているほむらにもさやかは容赦なく話を振った。


「ほむらさっき、正面からだともっと柔らかかったよね?」

「さやかちゃん!!」


(おまえらいい加減にしろ!!!!!)


魔法少女たちはまどかを半ば抱えるようにしてその場から姿を消した。
289 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:20:46.63 ID:AjtdeEYho

(やっと行った。さて)


杏子は荒れた空に目を向けた。


(この感じ……ワルプルギス戦の後、マミがいなくなった時と同じだ。
ほむらが戻ったんだからそれで終わるんじゃないのか)

(何だ、あれ)


雲間からパラパラと何かがたくさん降ってくる。目を凝らし、それが人の形をしているのに気付いて思わず身構えた。


「あれらは人間じゃない。見ていればわかるよ」


側にQBがいた。相変わらず神出鬼没だ。


「QB、いつからここに?」

「まどかについて来たんだ。だからほぼ最初からかな」

「コソコソ隠れて見物してたってわけか」

「僕の出る幕はなかったよ」


人の形は空中でゆるゆるとほどけて崩れ、それでもひとかたまりのまま氷の粒で覆われた地面に達し、真っ平らに潰れた。

広い範囲にばらまかれた染みのようなそれらからぼうっと小さな光点が浮かび上がり、やがてまぶしいほどの光の群れとなる。


(蛍……じゃ、ない。あんなに明るいわけがない)

(それに……)


空耳かと疑う程に微かだが、忘れようのないワルプルギスの夜の笑い声が聞こえた。

集まってしばらくはふわふわと漂っていたが、四方八方に消えていく。不思議と心奪われる風景で、目が離せない。雨も雹もとっくに降り止んでいた。
290 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:24:29.31 ID:AjtdeEYho

「さっそくだけどお願いがあるの」

「出戻り祝いになんでも聞くよ」


杏子は相手に抱きつくような大仰な喜び方をしたことを恥じ、マミに背を向けてソファーの上で胡坐をかいた。

その肩にマミが両手を置く。


「今、美樹さんと鹿目さんが暁美さんを助けに行ってくれているの」

「あ? ほむら、まだ戻ってないの? あんたほむら使って帰ってきたんだろ?」

「ええ、助かっちゃった。お礼を言わなきゃ。もちろんあなたたちにも」

「もう聞いたよ。何回もいいよ水臭い」

「そうね。でも本当に嬉しかった」

「だから──」

「しつこかった? ごめんなさい。それより暁美さんのこと」

「ああ」

「境界に至る前に離れ離れ、というか元の状態に戻ったの。
私の魂だけが先にこちらに引っ張られたのね」

「ん? んー……それで?」

「つまり彼女の身体が空っぽのまま異空間に残されて」

「は? 待てそれって大変なことなんじゃ、うっ?!」


話をさえぎって振り向き見上げると思っていたより近くにマミの顔があってぎくっとした。


「落ち着いて」


両肩に置かれたままだった手に誘導され、杏子の捻じれた体勢が元に戻る。
291 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:27:56.03 ID:AjtdeEYho

「大丈夫、私の使った通路はしばらく開いたままだからあの子もちゃんと惰性で戻ってくる。時間差ができただけ。
あなたもすぐそこへ向かってほしいの」

「何をしに? 手が足りないのか?」

「いいえ、それもたぶん大丈夫。
ただ三人にいつまでもそこにいないように伝えてくれないかしら」

「危険があるのかい?」

「もしかするとね」

「あいつらに早く帰るよう言えばいいんだな」

「ええ、そういうこと」

「わかった。なんでもって言っちまったし、使いくらいするさ」

「よろしくね」

「あいよ」


マミは元気づけるように軽く杏子の背中を叩いた。わざと億劫そうに立ち上がった杏子が何か言いたげにマミの顔を見る。


「聞きたいことを、聞いていいのよ?」


そう助け舟を出したマミだが、杏子は「まあいいや」と首を振った。


「後にする。行ってくる」

「いってらっしゃい」


そしてマミはひとりになる。

彼女はもはや魔法少女ではない。できることはそう多くはなく、なまじ優秀だっただけにもどかしい思いもある。


(リボンが使えれば簡単だったのに)


──だが、この目はとても便利だ。

今、ほむらが無事に救出された。彼女は安堵の息を漏らした。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 08:33:27.64 ID:KDOyD8MuO

目?なにか得たのかマミさん
……邪気眼?
293 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:37:33.40 ID:AjtdeEYho

闇の中、小さな光はもうあまり残っていない。飽かずにそれを眺めていた杏子にQBが話しかけた。


「杏子、マミが君と話したいそうだよ」

「はあ? 話したいったって……ぜんぜん遠いじゃん。届くの?」

「うん。問題はないね」


(マミ? 聞こえるか?)

(ええ)


半信半疑で呼びかけたがちゃんと返ってきた。


(みんな無事だよ、めでたしめでたしってね)

(よかった、ありがとう)

(これができるんなら、コイツに頼めばよかったじゃん伝言くらい。
あんたの言うことよく聞くみたいだな?)


隣のQBにちらっと視線をやる。


(暁美さんとQBはもうちょっと落ち着いた環境で再会した方がいいと思って)

(ふうん? で、なんか降ってきたけどアレは何?)

(ワルプルギスの夜の残りもの)

(聞いたことのある笑い声がした)

(ええ)

(次から次へと湧いて消えてったぞ)

(あれはみんな魔法少女だったもの。特殊な形で存在し続けた魂よ)

(そうなのか)

(QBからすると宇宙の延命に貢献できず、無駄になってしまったエネルギー。
あなたと一緒に見送ってあげることができてよかった)

(んん? 見えてんの?)
294 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 08:52:07.83 ID:AjtdeEYho

マミは説明をQBに任せた。


「マミは僕を通して見聞きしている」

「あ? おまえ、そんなこともできんの? もうなんでもありじゃん」

「なんでもってことはないね」

「うさんくせえ」


(あの人たちは選んだのだと思う)

(何をさ?)

(どこでもない空間で朽ち果てるより、輪廻の輪に戻ることを)

(あー?)


杏子は深く考えることは止めた。


(詳しいことが知りたければ後で説明するわ。もう帰っていらっしゃい。
そこも多分危ないから)


光の点は全て消えてしまった。

それを待っていたかのように今度は湿った重そうな土塊が落ちてきた。大きいものは家屋ほどもある。どすんずしんと迫力のある音を立てて積み上がっていく。

杏子の立つ足場が揺れ、一部が崩れ始めた。


(わかった。今から帰る)

(暁美さんのお宅じゃなくてうちのマンションね)

(了解)


次々と大量に降ってくる。勢いは増していくばかりだ。スーパーセルが築いた脆い壁が押し寄せる土塊をせき止めてくれるとは思えない。杏子は瓦礫の連なりを外側に向かって素早く駆け抜けた。

来る時に越えてきたフェンスまで辿り着いたところで、多分とてつもない大きさの塊が落ちてきたのだろう。これまでとは段違いの衝撃音と激しい揺れが起こった。

土砂やコンクリートの固まりが重機を巻き込みプレハブをぺしゃんこにのしてなだれてくる。急いで逃げた。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 08:58:53.09 ID:AjtdeEYho
>>292
あんだけ厳しい修行を乗り越えたので


また後程続き投下
296 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 12:57:27.61 ID:AjtdeEYho

家路を急ぐ三人の背後から地響きが追いかけてきた。地面が小刻みに揺れ始める。


「あっ……地震?」

「だね。あたし地震キライだなー。逃げ場がないから」

「私も、苦手」

「まっ得意な人はいないよね」


上擦った声のまどかに受け答えるさやかの顔も青ざめている。

ほむらがふたりに「急がないと」と声をかけたタイミングで大きな揺れにつかまった。ガクンと強烈に突き上げられてバランスを崩しながらも、間に挟んだまどかを支えて注意深く移動を続ける。

揺れはしかしあっけなく止み、地鳴りもおさまっていった。三人はようやく鹿目家の前に到着した。

いつのまにか雨は上がり雷雲も消えている。

未明の街はしんと静まりかえっていたがそれも短い間のことで、すぐに轟音と強い揺れに叩き起こされた人々のざわめきであふれた。救急や消防のサイレンも聞こえてくる。

鹿目家の玄関の明かりが点いた。

さやかは「またね、あたし一度家に帰るわ」と早口で言うと姿を消した。ほむらも変身を解く。

ドアから知久が顔をのぞかせた。


「まどか?」

「あ、パパ」

「いたいた、良かった。君たちが部屋にいなくて驚いたよ」
297 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:02:39.08 ID:AjtdeEYho

驚いたと言うがまるでそうは見えない。にこやかだ。


「ごめんなさい」

「すみません、二人で慌ててしまいました」


口々に謝った。


「いや、揺れが大きかったから無理もないよ。短く済んで良かったよね。
ちょっと散らかっちゃったけどガスも電気も水も無事なんだ。ラッキーだったよ」


(私が何時間も前に家を抜け出たことには気付いていない)

(パパは私がそんなことをするなんて、きっと思ってもみない)


ほむらはまどかの後ろめたい思いを見て取った。下を向くまどかに身体を寄せ、耳の近くで小さく「ごめんね」と言った。

まどかはびっくりし、微かに首を振ってみせた。


(そうだよ私は……)

(私はどうしても行かなきゃいけなかったんだから)


二人ともしおらしく知久について家に入る。台所の方からタツヤの泣き声とそれをなだめる詢子の低い優しい声が聞こえた。

部屋に戻って電気を点けてみるとぬいぐるみや本が散乱していたので、二人で簡単に片付けた。
298 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:06:04.85 ID:AjtdeEYho

夜明けまで少し時間がある。

まどかはベッド、ほむらはその隣に敷かれた客布団に横になってぽつりぽつりとお互いの情報を交換をした。


「では、まどかも巴さんとはまだコンタクトを取れていないということ?」

「………」

「まどか?」

「え、ごめん今なんて言ったのかな?」

「無理をさせたみたいね」

「……うん?」

「少し眠りましょう。続きはまた起きてから」

「うん……おやすみほむらちゃん」

「おやすみ」


相当疲れていたのだろう。すぐに寝息を立て始めた。

ほむらはふと、自分のソウルジェムを出してみた。魔力の消耗はあまり感じないが、何か全身に違和感がある。

普段まったく使わない部分を酷使して今そのしっぺ返しを受けている。そんな感覚があった。


(無理もないわね。他人に身体を乗っ取られていたのだから)


だがまどかの静かで規則正しい寝息が徐々にほむらのまぶたを重くした。


(巴マミに……会わなければ)
299 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:08:42.36 ID:AjtdeEYho

眠りに落ちる最後の瞬間それを想ったせいかもしれない。妙な夢を見た。

ほむらは一面の花畑をひとりで歩いている。空に太陽も月もなく、ただ薄明るい。夢だという自覚はあって、安らかな気分だ。

彼女の周りをふらふらとつかず離れず、蛍の群れが飛んでいる。

ほむらはそれらを蛍だと認識したが、都会育ちの上に病弱でほとんど野外活動の経験がない彼女は蛍という昆虫を実際に見たことはない。もし杏子がこの場にいたら「これは蛍じゃない。こんなに明るくも大きくもない」と指摘しただろう。


「大体、虫の姿が見えないじゃん」


しかし杏子はいない。ほむらはその正体について特に気にもしない。夢だから。

たくさんの光点と一緒に花畑の中を伸びる細い一本道を辿り、緩やかな丘陵を越えていくと眼下に大きな川の流れが広がった。

彼岸花の群生する土手から素朴な石段を使って広々とした河原に降り、流れの側まで歩いた。蛍の群れはそのまま対岸へ向かって飛んで行った。


(花畑、暗い川……縁起がいいとは言えないわね)


向こう岸は靄がかかっている。

中州があるようだ。と言うのも、川の中程に巴マミが立っているからだ。こちらに気付いて柔らかい笑みを見せ、水面を滑るようにやってくる。

ほむらは驚いて言った。


「浮いているのね。幽霊みたい、巴マミ」


そのほむらにマミは笑顔でこう答えた。


「きゅっぷい」


そうね。夢だものね。
300 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 13:43:17.49 ID:AjtdeEYho

「おかえり」

「ただいま」


杏子が土埃にまみれて帰ってきた。

マミはまず湯を張ったばかりの風呂に彼女を追いやり、さっぱりさせたところで空腹かどうかを尋ねた。腹ペコだというので用意しておいた軽食を並べた。

ラップフィルムでひとつひとつ包まれたおにぎりはまだ温かく何種類もあり、味噌汁は具沢山で手がかかっている。杏子は目を輝かせて「いただきます」と手を合わせ、ラップをむいてかぶりついた。

マミは同居人の健啖ぶりを嬉しそうに眺め、茶をそそいだり汁物のおかわりをついだりと世話を焼いた。


「マミは食べないの?」

「寝てばかりだったもの。簡単な物ばかりで悪いわね」

「いやいやじゅうぶん……あ、じゃこ梅もいいけど、おかかにチーズうまいねこれ」

「冷蔵庫の中身が賞味期限切れのものばかりになってて驚いたわ。
レトルト食品もほとんど減ってないし。何を食べていたの?」

「食べる物は主にさやかとまどかに世話になった。ほむらにも。
あたしは正直あんたの抜け殻を世話するので手一杯だったからさ」

「迷惑をかけたわね。あなたが大事に扱ってくれたお陰で不具合もなく助かりました。
あ、まだたくさんあるわよ? 五合炊いたから」

「食べる」


もりもり卓上の食べ物を片付けていく杏子に、どこでどうなっていたのかおおよそのところをマミは話して聞かせた。

杏子の胃が落ち着いた頃にはすっかり日が高くなっていて、マミが部屋のカーテンとガラス戸を開いて換気した。
301 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:16:22.82 ID:AjtdeEYho

「新しい山ができたわね。街の人もびっくりよ、きっと」


直接見ることはできないが、その辺りの上空をヘリコプターが何台も旋回している。騒音がひどいのですぐ窓は閉め切った。

結局、ワルプルギスの夜が何世紀もかけて溜め続けてきたものがああいった形でこちらに根こそぎ戻ってきたということらしい。


「あそこにあるごちゃごちゃしたもの全部きれいに覆い隠しちゃったな」

「ファフロツキーズって言うんだって」

「ふぁ、なんだって? またイタリア語?」

「またってことはないでしょ。Falls From The Skiesを縮めた言葉ね。
空から降るはずのないものが降ってくる怪奇現象のこと。魚とかカエルとか」

「へえ、やっぱり変なことには詳しいね」

「詳しくないわよ。調べたの」

「でもそいつら、なんでこっちに来る気になったのかな。
ずっと隠れててQBさえそいつらのこと知らなかったってのに」

「あの人たちはもう、遅かれ早かれ消えるしかなかった。
向こうにいてもただ無になるだけ。でもこちらに戻ればこの星の自然な循環系に参加できるでしょ」

「自然……? 死人ってそんなこと気にするか?」

「そうね。私たちみたいには考えないかもね。
生きた身体を闇雲に追いかけてきただけかもしれない。パニック映画のゾンビみたいに。
本当のところはわからない。知りようがないでしょ」

「紀元前九百年って言ったよね。シバの女王だろ、そいつ聖書に出てくるよ。
QBってほんっとに大昔から地球にいてずっと魔法少女を魔女にしてきたんだな」

「僕たちはそのための存在だからね」

「いたのかよ」


QBが割り込んできた。


「驚かせたかな?」

「いきなりしゃべりかけられると殺意がわく」

「ごめんなさい」

「なんでマミが謝んの?」


マミは「つい」と真面目な顔をした。
302 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:18:26.32 ID:AjtdeEYho

「そうだ、マミの携帯にさやかから何か連絡入ってない?」

「そう言えばさっき何か鳴ったかも」

「めんどくさがらずにこまめにチェックしろよ」

「あなたにだけは言われたくなかったわね」


充電中のそれをとりあげて画面を確認する。


「メールが一件。マミさんおかえりなさい、アタシは家で今から寝ます。起きたら遊びに行ってもいいですか。後でメールします、だって。いつでもどうぞって返すわね」

「うん」


あの部屋にはずっと訪れることができないでいる。今すぐ眠るさやかの隣に潜り込みたい。


「仲がいいのね?」

「えっ?」

「美樹さんと。あなたのそういう顔は見たことがなかった」

「なんだよ、どんな顔したんだよ」

「んー……切なげな、なんというかちょっと色っぽいというか」

「頼むからやめてくれ!!!」


たまらず叫んだ杏子に「ごめん」と笑いながらマミが謝った。


「いや自分で聞いたんだった……それじゃあマミ」

「ええ」

「本題に入るとするか」


マミはニコニコしている。


「なんでも聞いて。どう説明したらいいのかわからないの。
質問してもらえると助かるわ」

「うん、それじゃあさ」
303 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:30:07.63 ID:AjtdeEYho

一息置いて、気持ちを整えた。


「マミは、人間なのか?」

「単刀直入ねえ」

「ほむらにもそう聞かれた。マミはちゃんと人間なのかって」

「なんて答えたの?」

「マミだったって」

「そう」


どう言えば正確に伝わるか、マミは考えながら話す。


「人間だと自分では思っているけれど。
ところであなたはどうなの? 魔法少女は人間かしら?」

「人間だよ、間違いなく」

「良かった。揺らがないでね。その思いはとても大事なの」

「大事?」

「ええ、あなたたちが人間だということは、私と違って確実なの」

「あんたは確実じゃない?」

「ええ」

「つまり人間じゃない?」

「そうとも言えてしまう」

「じゃ、確実に人間ってのはどういうこと?」

「身体とその魂を持っていること、かな」

「分離されてっけどな」

「ええ」

「あんたはどう確実じゃないんだ」

「身体も魂もインキュベーターに属している。融合している、と言えば近いかしら」


何を言っているのか、理解できなかった。
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2017/04/05(水) 14:44:25.76 ID:6t3A4HZho
今のマミさんは殺しても新しいマミさんがどこからともなく出てくるの?
305 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:46:18.41 ID:AjtdeEYho

「パパ」

「おや、早いねまどか。おはよう」

「おはようパパ」


台所で忙しく立ち働いていた知久だが、娘の様子がいつもと違うのに気付いて手を止めた。コンロの火を消してまどかと向かい合う。


「どうかしたのかい?」

「ほむらちゃんが熱を出してるの」


まどかは隣で眠るほむらの早い呼吸音で目を覚ました。声をかけても返事がなく、額に掌を当てて熱さに驚いた。


「それはいけないね。何度か計ってみた?」 

「八度九分。今日と明日は家で看病していいよね?」

「一人暮らしなんだよね。うん、うちでゆっくり休んでもらえばいい。
今からお粥を炊くから持っていってあげて。とりあえず、これ」


常備してあったペットボトルの経口補水液を数本とコップをのせたお盆を受け取った。


「少しずつ飲ませてあげるんだ。わかった?」

「わかった、パパありがとう」
306 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:51:33.07 ID:AjtdeEYho

そこはいつもの病室で、天上に部屋の中をまんべんなく見渡せる半球状のカメラがある。中で丸く赤い光がキョロキョロと動いている。

腕の内側に点滴の針がテープでしっかり固定されていた。そこから延びたチューブは点滴台にかけられたパックに繋がっており、決められた分量の薬液をほむらの体内に送り込む。

ドアが遠慮がちに開いて看護師が入ってきた。ベッドの足元から回り込んで点滴台のデジタル表示を確認し、手元のボードにさらさらと何か書き込んでトレイをベッド横のテーブルの上にそっと置いた。

部屋の窓は遮光カーテンが引かれて薄暗く、元々目も悪い。だから看護師の顔はよくわからなかった。ほむらは「今何時ですか」と尋ねた。


「あ、起こしちゃった? もうすぐ七時だよ
気分は? 喉乾いてない? お腹空いてない?」

「朝の?」

「もちろん朝だよ」

「そうですか」


優しそうな人だったので、ほむらは天井のカメラのことを頼んでみた。


「できれば、カメラを切ってもらえませんか? 気になってしまって」

「え? なんのこと?」

「天井のあれです」


(天井のあれって何? っていうかどうして敬語……?)


彼女が指差すなんの変哲もない自室の天井を見上げて、まどかは困ってしまった。とりあえず調子を合わせることにする。
307 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 14:55:14.76 ID:AjtdeEYho

「ええと、わかったよ、ほむらちゃん」

「ありがとうございます」


ほむらはそう言って身体を起こし、片手で枕元やそのもう少し広い範囲を探り始めた。


「どうしたの? 何かなくしたの?」

「あ、いえ……眼鏡が……ここに置いていたはずなんですけど……
おかしいな、ない……どこ……」

「ほむらちゃんっ!?」


まどかは衝撃を受けて少し声が大きくなってしまった。


「は、はい?」

「あのね」


(なんて言おう)


「何でしょうか?」

「ええと、今眼鏡がどうしても必要?」

「お手洗いに行きたいんです。眼鏡がないと足元すらぼんやりとしか、見えません」

「そうなんだ……じゃあ、連れて行ってあげるね」


あるはずのない眼鏡を探す間中ほむらは逆の腕を脱力させたままでいた。まどかの目にそれがとても不自然に映ったが、ほむらにしてみるとそちらは点滴針の刺さった腕なので自由には動かせないのだった。


「……お願いします」


チューブに絡まないように注意しながら立ち上がり手を引かれ、点滴台を転がして部屋を出た。
308 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 15:00:32.16 ID:AjtdeEYho

まどかが空になった一人用の小さな土鍋と取り皿を台所に下げに来ると、遅く起きた詢子がコーヒーを飲んでいた。知久とタツヤは買い物ついでに公園まで遊びに行ったらしい。昨夜の悪天候がウソみたいな晴天だ。


「やあ、まどか。ほむらちゃんは大丈夫なのかい?」

「大丈夫……だと思うよ」


練梅をのせた塩粥を「おいしいです」と時間をかけて丁寧に食べきってくれた。咳もしていないし、吐き気や腹痛、頭痛もないらしい。


「そっかそっか」

「でもさ、少し変なの。私のことがわかってないみたいで」

「あん?」


母親にほむらの行動について相談してみた。


「ああ……譫妄ってやつじゃないかな、そりゃ」

「せんもう?」

「熱で幻覚を見てるんだな。薬の影響とかじゃないのか?」

「わかんない、幻覚なのかな……それにしては妙にはっきりお話するんだけどな」

「入院してたんだろ? 今飲んでる薬があるんじゃないのかい?」

「んー、そう言えばそんなことを早乙女先生から聞いたけど……」


(多分、ちゃんと飲んでないんだろうなあ)


「担任なら知ってそうだな。和子に電話してみるか。
長患いの子ってのは血液型やら薬やらの情報をひとまとめにして携帯してたりするんだ、

保険証なんかと一緒に。いつ何があるかわかんないからな。
そういうの見当たらないか?」

「……うん、わかんない」

「いざとなったら持ち物ひっくり返して探してあげな」

「うぇ?」


(でもきっと、そういうのも持ってないだろうなあ) 


「まっ、もうしばらく様子を見よう。熱もびっくりする程高いってわけでもないしな。
ちゃんと食べて飲んで、また眠ったんだろ?」

「うん」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 15:04:24.32 ID:AjtdeEYho
>>304
気になる?
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 16:41:25.22 ID:6t3A4HZho
>>309
気になる!
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 17:06:02.31 ID:AjtdeEYho
>>310
そうなんか(考)


次の1レスで今日のは終わり
312 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2017/04/05(水) 17:09:54.56 ID:AjtdeEYho

「こんなこと言いたくないけど、あの子の親はどうしてんのかね?
病気の子を一人暮らしさせるってなんなんだろうな」

「……」

「ま、他人の家の事情なんぞ知ったこっちゃないが」

「……」


(そういや、ほむらちゃんてもうどれくらい自分のママやパパに会っていないのかな)


難しい顔で黙ってしまった娘に、思わず「ふふふ」と笑いがこぼれた。


「ほむらちゃんが心配か」

「当たり前だよ」

「いい子だろ?」

「はい、とても」

「あっ!」


まどかの背後に身支度を整えたほむらが立っていて、詢子にぺこりと頭をさげた。


「ほむらちゃん熱まだ下がってないでしょ、大丈夫?」

「起きて歩ける程度には大丈夫よ」

「よかった、元に戻ってる」

「元?」

「私と話したこと、覚えてない?」


一から説明されても全く身に覚えがなかった。思い出せるのは「きゅっぷい」までだ。


「ちょっと話さない?」


ほむらに椅子をすすめながら詢子が言った。不安そうにまどかが母親の顔を見ると心配しなさんな、とウインクが返ってきた。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 19:01:01.46 ID:6t3A4HZho
おつ
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 19:50:36.84 ID:KDOyD8MuO

ただの熱ならいいんだけど
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 19:59:42.28 ID:NurLkLJco
乙でした
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/09(金) 01:49:14.91 ID:Z+ivalPfo
ほしゅ
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 03:48:53.38 ID:jvG4LKCqo
保守
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 04:43:13.43 ID:WEGaL92po
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