マミ「QBかく語りき」 QB「君らしいね」

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34 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 04:05:23.62 ID:eDj2lchjo
暗い部屋に目が慣れてきたのと距離が近いせいでお互いの表情はわかった。

多少は緊張しているのだろうか。杏子は終始真面目な顔をしていてさやかにはそれがとても好ましかった。

この状況でもし杏子がこちらを気遣うような笑顔でも見せていたら一瞬で気持ちが冷めたかもしれない。

長い髪が解かれて杏子の顔をふちどっている。初めて見た。妙に大人びて見えた。

杏子は杏子でさやかの顔に見とれている。


「なんでそんなふうに見るの?」


視線に耐えきれず目をそらしながらさやかが聞いた。


「さやかの身体も顔も大好き」


ほてった顔がますます熱くなった。


「声も」


杏子の手が中心部にあてがわれ、指がそっと割って入った。中はもう充分に潤っている。

一瞬息を詰まらせたさやかの耳に「ぜんぶ好き」という声が聞こえた。

熱のこもった声と一緒になにかが身体の中に送り込まれて強烈に感じた。ぞくぞくする。

器用な指が鋭敏な部位をぬるぬると行き来し、指の動きに伴って湿った音が聞こえる。

他人の指がこんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。

勝手に腰は動くし、それと共に自分の声とは思えないような声が出る。


「気持ちいい?」


杏子が聞いた。

さやかは答えない。わかってるくせに、と思う。

耳孔にぬるりと舌が差し込まれて背筋にぞくりときた。

悲鳴みたいな声を出してしまった。

体内に浅く潜って小さく上下していた指先が抜かれ、ふくらんだ突起に当てられた。

柔らかく押し潰し、揉みこむような動きを始める。


「あっ、ちょっ、きょ、杏子!」


跳ね上がる身体はやさしく抑え込まれてしまった。
35 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 04:09:15.98 ID:eDj2lchjo
「なに?」

「……っ、だめだよ、それ嫌だ。い、いっちゃうってば」

「いいじゃん」

「だ、だめなんだって」

「なにが?」


要するにイッてる顔や姿を見られるのが恥ずかしいのだが杏子は構わず、さやかの反応を窺いながら動きを微妙に変えて一番効果的な場所と力加減を探した。


「んっ、……あっ、杏子」

「こう?」

「う、うん、じゃなくて、だめ、お願い、ちょっと待って、って」

「イヤだ」


さやかの呼吸が早くなる。

うねるような腰の動きがたまらなくて、さやかの肩のあたりに少し強めに歯を立ててしまった。

さやかの背中がこわばり、明らかに痛みからだけではない「あっ!」という喉にからんだなまめかしい声が聞こえた。


「ううっ、……杏子、お願い」

「なに?」

「もういきそう……見ないで、お願い」


さやかが杏子にしがみつく。


「さやか、かわいい」

「あっ、あっ、、あ……!」


ほどなく杏子の執拗な愛撫によってさやかが達した。

快感に身悶えるさやかの声を杏子はうっとりと聞いた。


「っ…………ん、んっ…………」


足指の先まで行き渡る絶頂感は長く続いた。

それからじんわりと身体の緊張がほぐれていき、やがて心拍と呼吸が徐々に元に戻る。

疲労を溜めこんでいたさやかはここで急激な睡魔に襲われ、逆らうことができずに眠りに落ちた。

杏子は上体を起こしてさやかを楽な姿勢に整えてやった。

さやかのソウルジェムを確認する。穢れの進行は止まっている。

杏子は安心して大きく息をつき寝入ったさやかの汗ばんだ首筋に鼻をうずめた。


(さやか)


返事はないがこうして生身のさやかと過ごすことができて満足だ。
36 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 23:43:44.27 ID:eDj2lchjo


「やあ、まどか」

「QB」

「少しいいかい? 君と話をしに来たんだ」

「少しなら……」

「ありがとう。まあ、またいつものお願いなんだけどね」

「私、魔法少女にはならない方がいいと思うんだ」

「さやかを助けないのかな」

「私ならさやかちゃんを人間に戻してあげられる……」

「それくらい造作もないことだよ」


(それくらい、かあ)


「ねえ、奇跡ってQBが叶えてくれるの?」

「僕の、というか僕たちの力だね。そういう仕組みになっている」

「仕組み?」

「魔法少女になってくれたら教えてあげるよ。
それより、そろそろさやかが危ないようなんだ。彼女を助ける気はないのかい?」

「QB」

「なんだい?」

「もっとよく考えてみたいかな」

「うーん誰かに入れ知恵をされたのかな? ほむらかい?」

「………」

「まあいい」


会話を終えるとQBはいつものように愛想よく挨拶をして部屋から消えた。

まどかはベッドに倒れ込んで目をつぶる。


(杏子ちゃんならきっとさやかちゃんを助けてくれる)

37 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 23:45:18.12 ID:eDj2lchjo


久しぶりに熟睡した。

眠りの深さのあまり目覚めた一瞬は自分が何者かもわからなかった。


「わあっ」


すぐあれこれ思い出してさやかは勢いよく裸の上半身を起こした。


(! 身体が軽い)


「よ、おはよ」


当たり前のように杏子が隣にいた。


「って、あ、あんたずっとここにいたの?」


視線を感じたので掛布団を引き上げて上半身を隠す。


「いたよ。気分は?」

「……うん、よくわかんない」


杏子の顔を直視できない。


「もう起きるね。学校に行かなきゃ。けっこう休んじゃってる。
まどかも心配してるだろうし」

「まだ暗いよ? 早起きなんだな」

「ゆっくりシャワー浴びたいし、心の準備もしたいし」

「その前にちょっとだけ昨日の続きしよう?」

「冗談でしょ?」

「冗談なんか言わない、こんな時に」


そっと抱き寄せられた。


「杏子?」

「すごくよく寝てた」

「そう?」

「うん」
38 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 23:48:54.47 ID:eDj2lchjo
耳の側でぼそぼそと話しかけられているので非常にくすぐったい。


「早く起きないかなって思ってたんだ」

「そっかそっか、さみしかったか」


そんな軽口は相手にされず、今しがた身体を覆ったばかりの布団が剥がされて胸から太腿の上部まであらわになった。

とっさに腕を上げて身体を隠そうとする仕草に杏子が反応した。


「隠すことないじゃん、今さら」


手首をつかまれる。


「ええっと……あんまり見られるのはちょっと嫌かな」

「慣れて」


言いながら身をかがめて乳房に吸い付いた。

舌で乳首を起こされ転されて快感に耐えていたら、いきなり歯が立てられた。

適度な痛みが下半身への強い刺激へと変わり、自分の中が一段と湿り気を帯びたのがわかった。


「今の声すごくかわいかった」


(声なんて立てたっけ?)


気付かなかった。


「もっと聞きたい」


ベッドに押し戻され、自然に迎え入れる姿勢になった。


(…………まあ、いいかな……時間もあるし……)


ここで流されたのがいけなかった、とさやかは後で反省することになる。


「さやか、いい匂い」

「そればっかり」
39 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 23:50:45.95 ID:eDj2lchjo


教室でまどかが仁美と昼休みを過ごしているとQBを介したテレパシーでマミが話しかけてきた。


(美樹さんは今日もお休み?)

(はい)

(QBは何も知らないの?)

(僕は何も聞いてないよ)

(そう。佐倉さんも帰ってきていないの。
美樹さんを探して話をするって出て行ったきり)

(杏子ちゃんなら昨日私のところへ来てくれて少しお話ししました。
さやかちゃんの家に行くって言ってましたけど……)

(そう? 二人が一緒にいるなら心配いらないわね。
あの子はあんなだけど、頼りになるから)

(はい)

(そういえばQB)

(なんだいマミ)

(この間、美樹さんのソウルジェムを見たの。
彼女、穢れを溜めるばかりでまったく浄化しようとしないのよ)

(そのようだね)

(ソウルジェムが穢れを限界まで溜めてしまうとどうなるのかしら?)

(元に戻らなくなる。使い物にならなくなるよ)

(まあ大変)

(そのとおり。君たち魔法少女にとってはとても大変なことだよ)
40 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 23:52:23.54 ID:eDj2lchjo



「……ぁれっ?……私また寝てしまってた??」

「あー………ふたりとも寝ちゃったんだな。まだ学校行くつもりなのか?」


あくび交じりに杏子が聞いた。


「……昼過ぎから登校できるわけがないでしょうよ……」

「じゃあもういいじゃん、ゆっくりしよ?」


うつ伏せの背中に杏子が上半身をかぶせた。


「いい加減にしなさいよ」


うなじに唇が当てられ片手が胸の下に潜り込む。

これだけで芯にじわっとくる感覚があった。


(なんか、どんどん感じやすくなってる気が……)


もぞもぞと相手の腕の中で身体を反転させて向き合うと顔を合わせた杏子がニカっと笑い、軽く体重をかけてきた。

その背中をなでてやる。


「杏子はほっそいなー」

「さやかは……めちゃくちゃ気持ちいいカラダしてる」

「そう? そりゃよかった」


ぎゅうっと抱きしめられた。


「すっごい、いい」

「わ、わかったから」


ちょっと苦しくて気持ちがいい。
41 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 23:54:48.79 ID:eDj2lchjo


「ほむらちゃん、ちょっといい?」


下校時、教室を出ようとするほむらにまどかが声をかけた。


「急いでいるのだけれど」


相変わらず木で鼻を括ったような答えが返ってくるが、めげることなくほむらとコンタクトを取ろうという試みを続けている。

そっけない態度にもだいぶ慣れてきた。


「そうなんだ……あの、ぜんぜん時間ない?」


こうして多少食い下がることはできるようになった。


「ごめんなさい」

「ちょっとだけでも?」

「……」

「わかった。じゃあまた明日ね」


引き際が肝心、あまり深追いはしない。


(あせらない。少しずつ少しずつ)


自分が野良猫と仲良くなろうとする時の心得だったが対猫用規範に則って行動している自覚はない。

今日はここまでかなと踵を返した背中に声がかけられた。


「ちょっと待って」


あわてて振り向く。
42 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/20(火) 23:57:52.66 ID:eDj2lchjo
「あっ、なに?」

「魔法少女に関わる話?」

「うん」


大きく頷くまどかを見てほむらが少し怪訝そうにした。

この時間軸においては二人の間にほどんど親交は無い。少なくとも相談事を気軽に話せる相手ではない。

魔法少女絡みの話をしたいのであればマミも杏子もいて二人の方がほむらよりよっぽど親しい。

これほど頻繁にほむらに話しかけてくるのには何か切実な理由があるのかもしれない。

だが。


「ごめんなさい。今はどうしても時間が取れないの」

「わかったよほむらちゃん。
あ、今日マミさんがQBにソウルジェムのことを聞いていたよ」


それは危険だ。


「巴さんが?」

「ソウルジェムが限界を迎えたらどうなるのかって」

「QBはなんて答えたの?」

「良くない、元に戻らなくなるって」

「そう。ありがとう」


ほむらは急ぎ足で教室を出て学校帰りに単独で街を巡回するマミを追う。
43 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:00:02.32 ID:JptNLkfbo


「日が暮れちゃった……」


さやかが長いため息をついた。

結局一日のほとんどをベッドで過ごしてしまった。


「だな。腹減ったな」

「自分が信じられない……こんだけグタグタできるとは……」

「たまにはいいじゃん」

「何時? ありゃ、もうすぐお母さん帰ってくる」

「……じゃあそろそろ退散するか」

「うちのごはん食べていきなよ」

「えっ! いいのか?」

「もちろん」

44 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:03:34.93 ID:JptNLkfbo


マミは夕刻から夜半にかけて街で行動し、特に成果もなく部屋に戻った。

ソウルジェムの穢れについて考えていた。

その才能と実力のおかげで今までまったく気にすることなく過ごしてこれた。

ソウルジェムについてはただ単にそうしなければならないものとして淡々と浄化し、それを習慣にしてきた。


(魔力を消耗し尽くすとどうなるか)


魔力の源だと説明されていたそれが実は自分たちの身体から分離された魂そのものだという。


(ソウルジェムが濁りきるとどうなるか)


少し考えてみるとどうしても認めたくない単純な一つの答えに思い至る。


(魔女がどうやって生まれるのか)


なぜ今まで気付かなかったのか。

ソウルジェムとグリーフシード。

仲良くひっくり返る頭文字。


「QB。そうなの?」


QBから全てを聞いたマミはしばらくぼんやりとしていた。

力を持たない魔法少女の大半が一体の魔女すら倒すことなく殺されたりあるいはあっさりとソウルジェムを濁りきらせているという事

実をマミは知る。

そうして魔女になった魔法少女を数限りなく狩ってきた。


「なら、こうするしか……」


つぶやいて変身しソウルジェムを無造作に放り投げたかと思うとそれに向けて発砲した。
45 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:06:50.63 ID:JptNLkfbo
ほむらが部屋に入ってきた。

時間停止空間内、放たれた銃弾は目標のすぐ手前にあった。

魔力の発動を察知してすぐアクションを起こしたが、マミの変身から攻撃までのスピードが恐ろしいほどに早いために危うく間に合わないところだった。


(この人は思い切りが良すぎる。危なかった)


ソウルジェムを取り上げてその場を離れる。

能力を使いながら百メートルあまりを一気に逃げ切りひとまずマミの自殺は阻止できた。


「マミを返してくれないか」


すぐにQBがやってきた。


「君は何を企んでいるんだい?」

「企んでいるのはあなたでしょう。話すことは何もない。消えて」

「やれやれ。何も教えてもらえないのかい?」


その姿は腹立たしいほど悠々と闇にまぎれた。

急いでマミのマンションに取って返す。

血流が途絶えて五分もすると脳の神経細胞が壊れ始め、治癒が大掛かりになる。

マミの心拍と呼吸を魔力でスタートさせ、寝室まで運んでベッドに横たえた。

杏子と二人がかりでマミの説得を行なう心積もりだったが昨晩から杏子が帰ってこない。

もうすぐ日付が変わろうとしている。
46 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:09:17.53 ID:JptNLkfbo


「杏子、いつ帰るの?」

「さやかが眠ったら帰るつもり」

「一日中ダラダラしてたからあまり眠くないよ」

「じゃあもっかいしてもいいよな?」

「なんで聞くの?」

「一応」

「断ったらどうすんの?」

「困るけど、イヤならしないよ」

「ふうん、そう。じゃあ一切何もしないで」

「え? 怒った? 怒ってるよな? なんで?」

「さーね」

「なんであたしの手首縛ってんの?」

「何もできないようにでしょ」

「この目隠しも必要なのか?」

「うん」

「何をどうしたらいいんだ?」

「何もしないで」

「わけがわからないよ」

「モノマネやめて」


仰向けに倒され、縛られた両手は頭の上に押し上げられた。
47 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:11:08.47 ID:JptNLkfbo
「ふうん、さやかってこういう趣味もあんの?」

「口も塞いどかなきゃダメだったかなあ」

「え?」

「余計なことは言わないでってこと」

「んーーーー!!!!」


キスされつつ鼻をつままれた。


「ぷはああっ! 死ぬだろ!」

「うん、いいや。塞いじゃったら杏子のいい時の声聞けないもんね。さてと」

「は……………!?………うわわわわ!!!!」

「気持ちいい?」

「う……うぅ、ど、どうやってんの?」

「こんな感じ?」

「ちょ、うわっ……、あ、さ、さやか」

「なに?」

「見たい! 今すごい見たい!!」


さやかは動きを止めない。


「だ、め」

「せめて触らせて!」

「あとでね……杏子は身体がやわらかいね、っと」

「さy????あr?g!!」

「うん、かわいいじゃん杏子」


夜は更けていった。

48 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:20:22.69 ID:JptNLkfbo


朝の登校時間、まどかと仁美はいつもの通学路上にさやかの姿を見つけた。

向こうも二人に気付いて照れくさそうな笑みを浮かべながら小さく手を振っている。

仁美は涙ぐみまどかは泣きながら走って行って抱きついた。


「さやかちゃんっ!」

「ごめん、ほんとにごめんね、まどか」


万感の思いを込めて受け止め、ギュッと力いっぱい抱き返す。


「あたしがバカだった、ほんっとうにごめん!」

「さやかちゃん、さやかちゃん、ううううっ!」

「ねえまどか、あたしを力いっぱいひっぱたいてくれない?」

「ぜったいにイヤだよう!」

「あーこのちっこさと肉づきがたまりません。
抱き心地はまどかが一番だよ」


そう言って抱きしめたまま指を立てたのでまどかは「くすぐったいからやめてよ、さやかちゃん!」と笑いながら抗議した。


(……ん?)


泣き笑いのまどか越しにほむらを見つけた。かなり遠いが目が合った。


(尾行してんの?)


呼びかけは無視された。


「さやかさん、どうかされました?」


まどかのすぐ隣で二人のいちゃつきぶりを邪魔しないよう空気になっていた仁美が不思議そうに聞いた。


「あ〜おはよ、仁美……えっと」


恭介のことも何もかも、もう気にしなくていいと後で伝えよう。

49 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:29:12.61 ID:JptNLkfbo
「お身体の具合はもうすっかりよろしいのですか?」

「ありがと、もう大丈夫だから。
……その、いろいろ心配をかけまして。ごめん」

「いえ、そんな、わ、私の方こそ」

「さやかちゃん……よかった、ほんと元気そうだよ」


ニコニコとまどかがその顔をのぞきこんだ。


「っていうか、すごく楽しいことがあったみたいな顏してるよ?」

「えっ。あっ、いや。ええ? ほんと? そう見えるの?」

「見えるよ。何があったか聞いていい?」

「うーん? なんだろう?」

「変なさやかちゃん!」


(よく助かったわね)


ほむらが話しかけてきた。二人の魔法少女は黙って会話を始めた。


(どうも。なんか用があるんでしょ。何?)

(巴マミのソウルジェムを私が預かっている)

(どういうこと?)

(自分のソウルジェムを砕こうとしたから)

(マミさんが?! なぜ?)

(知ってしまったから。あなたも直前まで行ったのだからわかるでしょう?
魔法少女がどうなるのか気付いているのよね?)

(……魔女になるんでしょ。どうして最初に教えてくれないのよ)

(あなたは私の話を聞かなかった)

(じゃなくてQBが。なんで教えないのアイツ)

(さあ。契約する子がいなくなるからじゃないかしら)

(で、それを知ってたアンタもそれを黙ってた)

(話してもあなたは私の話を信じなかった)


少し考えて(うん、たぶん信じなかった)と認めた。

どんな話を聞いたとしても自分がやりたいようにやっただろう。


(よく引き返して来れたわね。私は諦めていた)

(……強引に連れ戻してもらったかな)

(どうやって)
50 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:32:52.05 ID:JptNLkfbo

言えない。


(……マミのことでQBが何かあなたの不安を煽るようなことを
言ってくるかもしれない。相手にしないで)

(それは大丈夫。あの白いのにはだいぶ耐性がついてきたから)

(ならいいけれど)


ほむらは続けた。


(それから今朝、杏子に会った時)


「な、なに急に」


思わず声に出してしまい、隣で話していたまどかと仁美が驚いてさやかの顔を見た。


「あ、ごめん、ちょっと思い出して。なんでもないよ!」


手をぱたぱたさせながら笑って誤魔化す様子を見てまどかは察したらしく、そっと周りを窺った。


(見たことがないくらい幸せそうな顔であなたがもう大丈夫だと教えてくれた)

(……そう)

(拾ってもらった命、大事にしなさい)

(あんたって普段喋んないくせに口を開くと一言多いよね)


ほむらの気配が消えた。


「だれ?」


小声でまどかが聞き、ボソっとさやかが答えた。


「ほむら」


きょろきょろとその姿を探し始めたまどかに「もう行っちゃった」と告げる。


「そっか」


(さやかちゃんが生き残ってくれた……ということは
ほむらちゃんが一人で戦う可能性はかなり少なくなったって、ことかな)


「えへへへへ」


まどかが嬉しそうにさやかの腕に絡みついた。


「わははっ、なぁに〜?」

「あら、まどかさん。今朝はずいぶん甘えん坊さんですのね」

「だって嬉しくて」
51 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:41:03.47 ID:JptNLkfbo
結局朝になるまでさやかの部屋にいた杏子がマミのマンションまで戻ってみると、どことなく憔悴した感のあるほむらが待っていた。


寝室ではマミが魔力で生命を維持されて眠っている。


「……遅かったわね……」

「帰るタイミングを逃しちまって……って、どういう状況なんだこれ?
なんであんたがいんの?」


ほむらが事の次第を話す。


「ふーん……ああうん……マミらしいや。で、どうすんだ?」

「この人には生きていてほしい。説得する」

「あんたが?」

「いえ、あなたが。私は何があってもいいように側で待機」

「……気の動転したマミはちょっと(どころじゃなく)苦手なんだけど……
まあいいか。じゃ、さっそく始めようぜ。マミのそれくれ」


ソウルジェムをよこせと手を差し出す。


「その前に美樹さやかはどうなったの?」

「ああ、さやかはもう大丈夫だ」


杏子がその時見せた全開の笑顔にほむらはかなり驚かされた。


「……本当に?」

「ウソついてどうすんだ」


ほむらは何か考えていたが「少し待っていて。マミをお願い」

そう言い捨てて部屋を出て行った。


(なんだ、あいつ)
52 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 00:50:26.53 ID:JptNLkfbo
夜を徹してほむらが施していたマミのケアを杏子が引継ぎ、ほむらが戻ってくるのを待った。

使うのは僅かな魔力だが慣れていないこともあって持続に神経を使う。ほむらがくたびれていた理由がわかった。

当人は顔色も良く眠っているようにしか見えない。


(けど確実に死んでるんだよな)


さやかには見せたくない光景だ、と思った。

やっぱりゾンビだとか何とか言ってまた落ち込むかもしれない。


(あたしらってほんとに魔力で生きているんだな。
だからなんにもしない時も濁っていくのかソウルジェムは)

(魔女になるか、殺されるか、自分で死ぬか、か)

(……まあ、まともではないけど)

(でもマミのやつ……自殺を考えるなんてやっぱ、わからないな)

(そういや、あたしだって何度も自分から死んでるんだっけ?)

(どうせならグリーフシードになってやってもいいかもな。
残ったやつのためになるし……ん? でも何人も殺しちまうかもしんないのか)

(それはいやかな)


そんなことを考えているうちにほむらが戻ってきた。


「早っ! メシ食ったり寝たりしてくりゃいいのに。徹夜したんだろ?」

「今まであんな風になったさやかは必ず魔女化していた。
どうしても自分の目でどんな状態なのか確認しておきたくて」

「わざわざご苦労なこった」

「まだ信じられない。あの頑迷な子をどう説得したのかぜひ教えてほしいわね」

「参考にはならないよ。あんたと違ってあたしらには次回なんてないんだ。
キッチリ終わらせろよな」

「誰よりもそうしたいと思っているのだけれど」

「うん。さ、始めようぜ」
53 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:01:34.74 ID:JptNLkfbo
「変身しないの?」


問われて一瞬、胸元の赤いソウルジェムを打ち抜かれる悪夢の様な光景を思い出して身震いする。


(初動がめちゃくちゃ早いんだよなぁ……)


「しない。もしマミが攻撃してきたらあんたがなんとかしてくれ。
ていうか、それに専念してくれ」


ソウルジェムを掌に触れさせるとマミはすぐ意識を取り戻し、それを握る手に力がこもった。

マミは情況を大体察して身体を起こし、無表情にほむらと杏子を見た。


「そう……やり損ねたのね」


杏子は緊張を隠したおだやかな声で話しかける。


「マミ。自分で無理矢理幕引きってのはないんじゃないのか」

「あなたも体験してみる? いろいろと実感できるわよ」


相手が予想に反してかなり落ち着いているので杏子は心底ほっとした。


「遠慮しとくよ」

「無理におすすめはしないわ」


返却されたソウルジェムを目の高さに掲げて眺める。


「まったく。まさに消耗品なのね」

「マミ?」

「大丈夫、もう自分で終わらせようとはしないわ。
少し衝動的すぎたと思っているの」

「聞き分けがよすぎてなんか気味が悪いんだけど」

「ずいぶんな言い方じゃない? 正直、見事に失敗したから
もう一度試す気にはなれないわね」

「いい知らせもある。さやかのソウルジェムは浄化できたよ」

「ほんとうに??」


マミの肩から力が抜けて、顔付きが一瞬で明るくなった。


「………よかった、ほんとうに」

「まったくだよ。早まらなくてよかったろ」

「ごめんなさい。あなたも、暁美さん」


黙っていたほむらをマミが見た。


「どうしてあなたが私の命を救おうとしてくれたの?
他人に干渉しない質だと思っていたから意外だわ」

「あなたに知っておいてほしいことがあるの」


マミは無言で先をうながす。


「もうすぐワルプルギスの夜がくる。一緒に戦ってほしい」
54 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:04:58.02 ID:JptNLkfbo


(マミさんは大丈夫かなあ)


さやかは自室の机の上にソウルジェムを置いてしげしげと眺めた。

青い輝きを保っている。


(不思議だな)


一番酷い時には何もしていなくても濁っていき、更に絶望を深めていたのだったが。

時々頭の中を占拠していた音楽も一切聞こえなくなり、主旋律もきれいに忘れてしまった。どうしても思い出せない。

それにしても今一つ納得がいかない。

絶望というものはただ誰かとああして身体を重ねるだけで消えてしまうものなのだろうか。

納得いかないのはQBも同じらしい。


「あれほどのスピードで心身を消耗させていたのに君は急に自分を取り戻した。
あまり前例がない。何があったのか参考までに教えてくれないか?」

「何も話したくない」

「そうか。じゃあほむらがマミとトラブルを起こしたことを知っているかな?」

「詳しくは知らないけど聞いてるよ」

「マミの様子は?」

「直接マミさんに聞けばいいんじゃないの?」

「ほむらが一緒にいてね。手立てがないわけじゃないんだが」

「ふうん? 悪いけどあたしもよく知らないから」

「なんだ君も蚊帳の外なのか……おっと杏子が来た。
彼女にもすっかり嫌われてしまってね、気まぐれに個体を減らされてしまうんだ。
無駄なことだよって何度も教えているんだけどね」
55 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:09:36.40 ID:JptNLkfbo
QBはヒョイとどこかへ消えた。

まどかの所へ行くのだろうか。

魔女化についてはありのままを教えて絶対に契約しないように念を押してある。

その時のまどかの反応は不思議だった。

あまり戸惑ったり驚いたりせずにただ「ああ、そうなんだね」と深く頷いたのだ。

そして不意にさやかに抱きついてきた。


「さやかちゃん、本当によかった!」

「まどか?」

「さやかちゃんがどこかに行ってしまいそうで本当にこわかった」。

「……うん、ごめん」

「もう一人で抱え込まないでね?」

「心配かけちゃったんだなあ、あたし。ほんとごめんね」

「うううん、私もね、もうちょっとがんばってみるね」

「へ? なにを?」


答えてくれなかったなあ、などと思い返していると杏子からコンタクトがあった。


(さやか)

(うん、部屋にいるよ)

(遅くなっちゃった。これでも早くさやかに会いたくてすっ飛んできたんだ)


くすぐったいような、恥ずかしいような気がする。


「いいから、さっさと入ってくれば」


カチリと音がして施錠していた部屋の窓が開き、するりと魔法少女姿の杏子が入ってきた。
56 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:23:08.46 ID:JptNLkfbo
「へへ、やっと会えた」

「マミさんは大丈夫なの?」

「大丈夫。マミと二人でほむらの家に行ってさ、いろいろ打ち合わせしてきた。
あ、おまえも知っとかなきゃいけないことだから後で地図のコピーもらっとこう」

「なんのこと?」

「もうすぐワルプルギスの夜が来る」

「ん? なにが来るって?」


杏子はこれから見滝原を訪れる規格外の魔女とほむらの事情についてある程度の説明をした。

ほむらにされたようなテレパシーを使って記憶を移しこむテクニックは使わなかった。

マミに対してもほむらはそれを行なわなかった。

彼女らにとっては余分な情報が多すぎて精神的な負担が大きいのと、何よりほむらにしてみると真情の吐露そのものであるためどうしても相手を選ぶ。

話を聞いたさやかがきまりの悪そうな顔をした。


「どうした?」

「や……ほむらには悪いことしたのかな?」

「悪いことって?」

「そんな子だったなんて知らなかった。知ってたらもうちょっとさあ……
こっちも取る態度ってもんがあったのに、って思ったんだ」

「……ほむらがあんな風なんだから、どうにもならなかったんじゃないか?」

「けどそんなの知っちゃったからには私、まどかに全部しゃべるよ。
魔女化して地球を滅ぼすなんてあの子が知ったら何が何でも絶っ対に契約しないよ」

「いいんじゃないの? 話してやれば?」

「じゃ今から電話して」

「あ、ちょい待て。それは明日にしてもう少し聞いてくれ」


ワルプルギスの夜出現まであまり時間がないこと。

とにかくグリーフシードを集めておく必要があること。
57 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:29:04.63 ID:JptNLkfbo
「収集は私とマミ、ほむらでやる。
さやかはなるべく魔力を消費しないでいてほしいんだ」

「当日までなにもするなってこと? そんなにあたしって役に立たない?
何体かやっつけてるよ?」

「身体能力そのものは高い方だし破壊力も文句ないレベルだけど
なんせ経験が足りない。
あたしらとの連携は難しいし、遊撃に回るのはもっと無理だ。
サポートを専門にやってもらうつもりなんだ」

「うーん。役立たずってそこまではっきり言われると全力で反発したくなるなー」

「役立たずなんて言ったか? おまえの力は貴重なんだ。
治癒得意なやつ、おまえしかいないんだから」


(それに……)


偶然の積み重なりにより、全員でワルプルギス戦に挑めたこともあるにはあった。

その場合近接攻撃のさやかから消えていく。

一人欠けると早い。続いて杏子、マミと続く。


「今度の戦いでは何を置いてもまず、誰も死なないようにしたいんだ」

「ねえ、そんなにヤバいやつなの?」

「今までのとはまったく比べもんにならないな」

「そんなに?」

「けど四人がかりなんだ。なんとかなるさ」

「なってもらわなきゃ困るよね」
58 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:38:09.39 ID:JptNLkfbo
さやかがふと尋ねた。


「あのさ、今まで魔法少女として生き延びた子っていなかったのかな」

「いきなりなんだ。マミより長く続けているやつは知らないな、今のところ」

「絶望さえしなきゃ長生きできるかな? なんて思うんだけど、どう?」

「どう? 実際に危なかったおまえがそれを言う?
それがどんなに難しいか思い知っただろ?」

「結構悲観的なんだね、意外〜」

「現実的なの!」

「ほむらはほんと、よく絶望しないなー。
ワルプルに何回も負けてループしてんだよね?」

「まどかを救う方法があるうちは絶望なんかしてられないだろ。
おかげで事前にワルプルギスの情報を得られたし、こうしてちっとは対策も立てられる」

「ああ、物は考え様だね」


それからしばらく真面目なのやそうでもないやりとりを続けた後、杏子は入ってきた窓から飛び出して行った。

手を振って見送った後つい「あれ?さみしいぞ?」とつぶやいてしまう。


(じゃあ明日の朝この埋め合わせするから)


思いがけなく返事があって、ドキッとした。


(独り言に返事するのはやめろ!)


笑い声が聞こえた気がした。

そして一夜明けて、さやかは自分の隣でスヤスヤと寝息を立てている杏子を発見して飛び起きた。


(埋め合わせってまさかこれですか杏子さん!?)


夜通し活動したのであろう杏子は前後不覚の眠りの中にいる。


(ま、びっくりはさせてもらったよ)


横顔にかかった髪をそっとよけて頬を軽く突いてみる。


(うん。嬉しい気持ちもあるよ)


見ているうちに何かいたずらがしたくなり、とりあえず長い髪をゆるいツインテールに仕上げてみた。


(おー、杏子じゃないみたい。まるで普通の女の子に見える)
59 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:40:00.62 ID:JptNLkfbo


杏子の姿を見たマミが珍しくお腹を抱えて笑っている。


「これ、そんなにおかしいか?」

「ち、違うの、似合っていてとてもいいの、でも」


笑いの発作で息が苦しい。


「そうじゃなくて、あ、あなたが、好き勝手にそんなことをされているあなたがおかしくて」

「そういうもんか?」


ひとしきり笑い転げてから、マミはやっと顔を上げた。


「あーあ、笑わせてもらったわ。美樹さんと仲がいいのね」

「いいよ」


にこやかに答えた。


「ねえ。なんだかいい感じになってるわよ佐倉さん」


笑い過ぎで滲んだ涙を指先で拭いて、改めて杏子を見つめる。


「どう言ったらいいのかわからないけど、時々まるで人が違うわよ? いい意味で」

「マミは腹をくくったってツラしてる」

「そう?」

「なにか吹っ切ったろ?」

「どうかしらね」

「そういうとこ話さないよな」

「聞いたらドン引くかなと思って話せないの」

「まじで?」

「冗談よ」
60 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:42:35.59 ID:JptNLkfbo
そんな他愛のないやり取りをしていると、ほむらが玄関のドアを開けて部屋に上がってきた。


「いらっしゃい暁美さん」

「おまえはコレに反応がねーな」


杏子が両手でツインテールをパタパタしてみせた。


「?……違和感があるけど似合うと思う」

「ふつうだなー」


てきぱきと元の髪型に戻しながら部屋の時計を見た。

この三人はグリーフシード収集のため完全に昼夜を逆転させている。


「さてと。さやかは納得したぜ。あいつは完全に回復役に徹してくれる」

「助かるわ。標的近くを素人にうろつかれると本当に困るから」

「攻撃力だけならけっこう高いぞ」

「ええ。そして最前線で磨り減って、真っ先に死んでいく」
            
「ふん。死なせやしないけどな」

「あなたも気を付けて。ワルプルギスの夜を前にして
誰かをかばう余裕なんて持てないわ」

「わかってるよ!」

「戦闘が始まったら鹿目さんの契約は誰も止められないわね」


杏子の短気を目で諌めながらマミが口を挟んだ。


「まどかは契約しないよ。最終的にどうなるか知ったからな」


QBが部屋の隅からやってきた。


「興味深い話し合いをしているね」
61 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:45:14.77 ID:JptNLkfbo
「マミ。こいつ部屋に入れないように頼んだろ」

「せっかくだからいろいろ聞いておきましょう。
QBは少なくともウソはつかないわ」

「ウソつかなくても事実を隠すだろ。たちが悪いぜ」

「QB、ワルプルギスの夜という魔女はなぜそれほどまでに強いの?」


マミが尋ねる。


「あれはいくつもの魔女の集合体だ」

「じゃあグリーフシードもザクザク落としてくれるのか??」

「どうだろう。あれを倒した魔法少女はいないから確かなことは言えない」

「一応聞くとくけど弱点なんてのはねーんだな?」

「あの魔女についてわかっていることは少ないよ」


そこでふと言葉を切った。


「ただ、君たちは群れるのが好きだろう。魔女も同じなんじゃないのかい?」

「ああ? なんか不愉快だな。テメーやっぱ消えろ」

「気に障るようなことを言ったかな。君たちはやはりよくわからないね」


杏子がソウルジェムから出現させた攻撃的な形状のエネルギー体を見て素早くQBは消えた。


「あら。もっと聞きたいことがあったのに」

「のらりくらり話をかわされるだけよ」とほむら。

「聞き方にもよるのよ?」


その時玄関のドアがノックされ、返事をする前に開かれた。


「マミさんお邪魔しまーす! まどか連れてきましたー」
62 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:49:27.51 ID:JptNLkfbo
声と同時にさやかが三人のいる部屋に姿を見せ、その後ろからひょっこりまどかが顔をのぞかせて会釈をした。

学校からそのままやって来たらしく、二人とも制服姿で通学かばんを下げている。


「おじゃまします」


完全に想定外だったまどかの出現に虚をつかれたほむらがさっと杏子に視線を移した。


「ああ、あたしが呼んだ。話したいことがあるって、あんたに」

「私に?」


マミは新たな客をもてなすために台所へ立つ。


「話って何かしら」


さやかと隣あってテーブルにつくまどかを見ながらほむらが尋ねた。


「ほむらちゃんなかなかつかまらないし、みんながいる所だったら
ちゃんと会話してくれるかなって」

「ちゃんと会話? ほむらは普段まどかにどんな態度なんだ」


まどかの天然かつシビアな発言に杏子が思わず突っ込みを入れた。

さやかが応える。


「ん、誰に対してもこんなんだよ。
ただ、まどかのことは距離を取りつつ目で追ってる感じ?」

「ストーカー一歩手前みたいな状態だな」

「事情を知っても共感し辛いっちゅうか
やり方をもうちょっと考えてほしいところですなあ」

「暁美さんも試行錯誤の末にそうしているわけだから」


マミがニコニコと口を挟み、新客二人に香り高い紅茶を配った。


「「ありがとうございます」」


二人は揃って頭を下げた。
63 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:51:29.03 ID:JptNLkfbo
「用件をどうぞ」


落ち着かない心地で再びほむらが催促する。


「じゃあ、ええとね。ほむらちゃんはどうして
大事なことを私に直接話してくれないのかなって」

「どういうことかしら?」

「ほむらちゃんが私のために時間を繰り返してるって
さやかちゃんから聞いたよ。どうしてそれを私に直接話してくれなかったの?
話したくない理由があったりするの?」

「知り合ったばかりの私がどうこう言っても
信じてもらえなかったでしょう。あなたが混乱するだけ」

「そうとは限らないよ、ほむらちゃん」


(だって知ってたもん)


「それに、誰から聞いたとしても同じことだと思うのだけど……」

「それは違うよ、ほむらちゃん、うん……ええっとね……」


説明を始めようとしたところでようやく、当事者が集まっているところで出す話題としては大変よろしくない内容だということに気付いた。
64 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:53:39.21 ID:JptNLkfbo

(魔女との戦闘で悲惨な最期を迎えるマミさん)

(魔女になって私や杏子ちゃんを攻撃するさやかちゃん)

(さやかちゃんと一緒に死んでしまう杏子ちゃん)

(杏子ちゃんを撃ち殺すマミさん、マミさんを射殺す私)

(ワルプルギスの夜に全滅させられる私たち)


数限りなく繰り返される失敗と敗北、そして不運。


(だめ。ここでは、話せない……
やっぱりほむらちゃんだけに話すべきだったんだ。わかってはいたんだけど)

(と……さて、この場をどうしたらいいかな)


まどかが考え込み、沈黙が長くなった。

杏子が身体ごと向き直ってほむらを見た。


「おまえ、へたくそだな」


その時のほむらのいわゆる“ハトが豆鉄砲を喰らったような顔”がマミに笑いのツボをついた。吹き出しそうになり、慌てて自分の口を両手で塞ぐ。

さやかはほむらの困惑の様が珍しくて興味深げに眺めている。


「前から言わなきゃと思ってたんだ。おまえは説得も説明も
つか会話がめちゃくちゃ下手だ! 下手ってか不能レベルだ!」


(不能!?)


あんまりな言いぐさだと内心激しく抗議するが、口には出さない。
65 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/21(水) 01:57:47.69 ID:JptNLkfbo
「だーかーらー肝心のまどかにハレモノみたいな扱いをされるんだ!
わかってんのか! それからまどか!」

「は、はい?」

「ほむらを全面的に、徹底的に信用してやってくれ。
こいつほんとただ色々不器用なだけだから。
バカって言ってもいいレベルだろ、これもう」

「杏子にバカって言われるほむらって」

「ねえ美樹さん、面白いけど私たちは黙ってましょ。
杏子のお説教なんて珍しい」

「どっちかっていうとされる方ですよね。あたしもですけど」

「二人うるさい。えっと、あのなまどか」

「はい」

「おまえにとっちゃ赤の他人みたいなコイツだけど
んで実感もさっぱりないだろうけどコイツはおまえの親友で
誰よりもおまえのことを考えて……って」


しゃべり過ぎに気付いて止まる。


「なんで私がこんなこと説明してやってんだ?
ほむらはなんでそこでちょっと赤くなる! 切れるぞいい加減おい」

「あ、誤解だよ杏子ちゃん。私ほむらちゃんのことすごく信用してるよ?」


「「「「えっ」」」」


まどかの一言にまどか以外全員の声が揃った。

各々が勝手に話し始め、場がざわつく。


「……まどか……あなたは一体?」
「なんで?! やっぱアンタって女神かなんかなの??」
「それなら話は早いじゃねーか」
「今、暁美さんでさえ“えっ”て言ったわよね?」


誰が何を言っているのか、お互いよく聞き取れなかった。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/21(水) 12:18:40.85 ID:7PSjEkvJo
面白い
いい杏さやだわ、杏子ちゃんの頼りになりまくるメンタルいい
テレパシーで記憶まで送れるって設定も美味しい、これ出来たら本編みんなの対人誤解の八割が解決しそう
ほむらは近寄って親近感持たれるとそれが原因で契約されかねないにしても、この現状ならもうちょい近寄っていくべきよな
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2016/09/22(木) 00:34:45.70 ID:H0JqPK/8o
>>66 
杏さや書きたくて書いたのであったかいコメに泣ける
ありがとう
68 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:40:09.28 ID:H0JqPK/8o


まどかは夢のひとつひとつを克明に覚えている。

一晩にいくつものエピソードを見ることもあった。

そうやって知識が増え、様々な謎が解ける一方でまたわからないことも増えていく。

ほむらへのアプローチもなかなかうまくいかず、たまりかねてある時とうとうQBを質問責めにしてみた。

警戒する気持ちは強かったがどう考えても一番事情に通じているのはQBだったし、そもそもQBがそれらの夢を見せているのかもしれないと思いついたからだ。

そうしてまどかから話を聞いたQBが出した答えが「ほむらは時間遡行者だ」というものだった。

まどかは面食らう。


「じかんそこうしゃって?」

「それはね」


QBの説明は簡素でわかりやすかった。


「えっと……じゃ、ほむらちゃんがそうだとして、だから?」

「なぜそんな夢を見るかというと、君の素質と彼女の能力が
共鳴したからだと考えられる。それはただの夢じゃないよ。
ほむらが繰り返した世界を君は見ているんだ」

「私はほむらちゃんの記憶を見ているの?」

「違う、記憶そのものではないね。夢にはほむらも出てくるんだろう?」

「うん」

「これは君が通常考えられない程の大きな素質を持っていることとも関係する」
69 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:42:34.80 ID:H0JqPK/8o
そしてその原因になっている重ねられた因果についてQBの説を聞かされた。


「一人の魔法少女が入念に君を因果の糸でがんじがらめにした。
それによって君はもう半ば魔法少女だと言ってもいい。
自覚はないだろうけど、とんでもない量のエネルギーが溜まっている」

「それを無意識ではわかっているんだよ。夢くらい見るさ。
早く契約して君の魔女を解放してやるといい」

「そして世界を滅ぼすの?」

「君の力なら余裕だろうね。
でも宇宙が滅びるよりいいはずだよ?」

「例えば魔法のない世界にしてってお願いはできる?」

「どうしてもそれを願うというなら聞き届けるしかない。
どんな世界になるかは神のみぞ知るとしか言えないけれどね」

「じゃあ……もしも今いる魔法少女全員を人間に戻してって頼んだら?」

「それは簡単だ。君一人が魔女になるだけで一つの星から回収できる
エネルギー量としては充分すぎるくらいだから、僕としては助かる。
それにするかい?」


まどかが考え込む。


「まあゆっくり考えてくれ。まだ時間はある」


(時間?)


少し引っ掛かった。
70 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:44:24.53 ID:H0JqPK/8o

「なんの時間?」

「ワルプルギスの夜が来るまでに契約を済ませないと
君は魔法少女として仲間を助けることができなくなるだろう?」

「とにかく契約だけは止めてほしいって言われているんだけど」

「だってみんなの命がかかっているよ?
君がいればどんな魔女にだって絶対に勝てるのに」

「勝っても結局は人類滅亡なんだよね?」

「些細なことだよ」

「些細だなんて、そんなことはないよ……うーん、あっ、それじゃあその
私のがんじがらめの因果の糸を断ち切ってって頼んだらどうなるの?」

「ほむらのしてきたことを無に帰すってことだね」


これは推測だけれど、と挟んでQBが続ける。


「少なくともほむらは今のほむらではなくなるだろう。
時間遡行の能力と記憶は失うだろうし、君は凡庸な魔法少女になるだろうね。
その場合ほむら並みに特殊な固有魔法を持ちそうだ。興味深いことではある。
ただせっかくの素質を無駄遣いすることになるね」


素質の無駄遣いとやらはともかくほむらの身に何が起こるのかはっきりしない点は困る。


「じゃあ例えば……」


実はこのところ誰よりもQBと会話を重ねてきているまどかだった。

71 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:45:44.24 ID:H0JqPK/8o


「ほむらちゃんのことは絶対に信じてる。でもねほむらちゃん」

「何かしら」


まどかの目が真剣で、かなり思いつめたような表情に見えた。


「私、ほむらちゃんと二人でちゃんとお話をしなきゃいけなくて」


そしてまた少し考えてから言葉を継いだ。


「だから、突然でごめんなさい。
もうあまり時間がないみたいで私ちょっとあせってて。
ほむらちゃんをお借りします」

「まどか?」


情況を今一つ把握しきれていない一同に向かってそう告げると無表情のまま激しくうろたえているほむらを連れてまどかは部屋を出て行ってしまった。

それを見送ってさやかがポツリと呟く。


「まどか、がんばるって言ってたの、このことかな……?」

「まあ、あいつらは話し合うべきだろ。
なんでほむらはまどかを避けてんの?」

「さあ? どうしてあんな秘密ばっかり抱える暗い人に
なっちゃったのかねえ、ほむらって」

「元々の性格だろ。誰かさんも悩むと黙る方じゃん」

「悩んで口数減るのは極めて普通ですよね、マミさん?」

「ええ」

「マミ! 無理に話を合わさなくていいんだからな!」
72 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:47:31.09 ID:H0JqPK/8o


「まどか、私は逃げないから手を放して」

「あ、うん、ごめん」


並んで歩く。そのことがほむらの遠い記憶を呼び覚ます。


(こうして一緒に歩いていてもあなたはいつも私を置いていく)


気持ちが沈む。


「ねえ、ほむらちゃん」

「まどか」


何か言おうとしたまどかを遮った。


「なにかなほむらちゃん?」

「杏子に話すといいわ」

「え?」

「杏子はだいたいのことを知っているから」

「そうなんだ」

「ええ。事情を話してさやかを助けてもらったの」

「そうだったんだ。ありがとう」

「あなたのためにしたことではないわ」

「私にはお礼を言う理由があるんだよ、ほむらちゃん」

「とにかく杏子ならあなたの力になってくれる」

「ねえ、私はほむらちゃんと話したくてこうしているんだよ」

「私でなければならない理由があるの?」
73 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:48:54.32 ID:H0JqPK/8o

まどかがほむらの前に回り込んでその顔を見上げた。

その表情の変化を見逃さないようにしっかりと目を覗き込む。


「あるんだよ、ほむらちゃん」


静かな声だ。


「約束したのは私とほむらちゃんだよね?」


(私を支えるもの。私の道標)


驚愕の表情を浮かべたほむらをホッとした様子でまどかは見た。


「よかった。信じてはいたけれど自信は持てなかったから安心したよ」


こみ上げる嬉しさから満面の笑顔になって、さっき放した手をまどかからもう一度つなぎ直した。


「行こ!」

「あの」


ほむらはもう何も言えない。されるがまま、まどかに手を引かれていく。

なにかすごく大事な会話を交わした気がするが、頭の中が先程のまどかの笑顔でいっぱいになっている。
74 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:52:14.44 ID:H0JqPK/8o


部屋に夕日が差し込んできた。


「さてそろそろ忙しい時間になるわね。お開きにしましょうか」

「そですね」

「あ、マミ。今日もこいつん家に泊めてもらうからメシはいいよ」

「そう? あちらのお宅にご迷惑のないようにね」

「迷惑なんかかけてないってば。
さやかん家のおじさんもおばさんも朝早く出かけて遅くに帰ってくるんだ。
誰も家にいない間こいつのベッド借りてるだけだし」

「あなたたち、ちゃんと食べてるの?」

「あ、うち共働きだから常備菜とかおかず冷凍したやつとか
チンして食べられる物いっぱいあって、ご飯さえ炊けばいつでも食事できるから大丈夫です!」

「すごいんだ。冷蔵庫に食べ物がギッシリ入ってて感動しちまった。
手作りの即席みそ汁とかあるし」

「あれ味噌玉っていうんだよ」

「楽しそうだからそのうちお邪魔しようかな?
手土産はお米とデザートでいい?」

「歓迎しますよ〜!」

「マミは意外と食うぞ」

「あなたほどではないと思うけれど」

「杏子は食べっぷりがよくて餌付けのし甲斐がありますよね」

「まったく同感よ、美樹さん」

「力いっぱい同意してるけどあたしとほぼ同じ量食うじゃねーか!」

「あなたみたいに四六時中間食してません!」

「あ、やばいマミさんがかわいい」

「あのな、おまえらの前だとちょっと作ってっからマミのやつ」

「ちょっと待って」

「暴露話はしないでおいてやるよ」


笑いながら杏子が立ち上がり「行こ」とさやかに声をかけた。


「うん。マミさんお邪魔しました。楽しかったです」

「はぁい。佐倉さんはまた後で」

「はいよ」


さやかの手を引っ張って立たせるとそのまま二人は手をつないで帰っていく。
75 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:54:04.71 ID:H0JqPK/8o

(それにしても)


急に静かになった部屋でマミが考えをまとめようとした。


(……それにしてもなぜなのかしら)


疑問がまだしっかりした形を取らない。


(一つの街を飲み込むほどの力を持つ魔女……)

(暁美さんは統計と言ったけれど、なぜこの街に?)

(街を消滅させ無数の命を奪って消える)

(そして時間をおいてまた現れる…)

(なぜ今?)

(どうしてこの見滝原なの?)

(ワルプルギスの夜は魔女の集合体)



君たちは群れるのが好きだろう?

魔女も同じじゃないのかい?



「まさか、私たちをめがけて出現するの?」


(十分にあり得る……どういう魔女なの……そして)


「どういう……魔法少女だったのかしらね」

「それがそんなに気になるのかい?」

QBが戻ってきていた。
76 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:55:43.70 ID:H0JqPK/8o

人通りの少ない住宅地を、さやかの家に向かって二人は歩いていく。

さやかが話題を振っても杏子は全くのってこない。


「ねえ、さっきから変だよ杏子」

「さやか」

「なに?」

「ちょっとだけ黙ってて」

「はあ?」


さすがにむっとしてつないでいた手を解こうとするとぎゅっと握りこまれてしまった。


「一緒にいてくれ頼むから」


杏子が立ち止まり早口で囁いた。変に張りつめている。

彼女の切羽詰った様子に魔女の気配でもするのかと周りの様子を窺うが特に不穏な空気は感じ取れない。


「なんなの、もう」


杏子は手を放してくれない。そしてその場から歩き出そうともしない。
77 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:57:48.77 ID:H0JqPK/8o


「そうね。気になるわね」


マミはQBを見つめる。

赤い双眸がマミの視線を真っ直ぐに見つめ返す。


「マミは何を知りたいんだろう」

「ちゃんと答えてくれるのかしら?」

「質問によるね」

「あなたはいつでも正直ではある」

「なるべく正確であろうとしているだけだよ」

「ワルプルギスの夜になった魔法少女をあなたは知っているの?」

「基本的に僕らインキュベーターは別固体でも同じ存在だ」

「つまり知っているわけね」

「最初はあれほど強力な魔女ではなかった」

「魔女になってから力をつけてきたということ?」

「まず、魔女になった彼女を助けようとした仲間の魔法少女十数人が
あれに取り込まれてそのまま魔女の力となった。
求心力のあった子で仲間が多かったんだ。それが本体の核と呼べるものになっているようだね」
78 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 00:59:30.67 ID:H0JqPK/8o

「なぜそんなことが起こったの?」

「そういう力を持っていたんだろう。それから魔力を集める渦のような力場が発生して
それは徐々に大きくなっていった。ゆっくりと気まぐれに移動しながら成長していったよ」

「魔法少女を巻き込んで力にしてきた魔女……」

「出現頻度は低いものの、なにしろ破壊力が凄まじいからね。
昔から恐怖の的だった。そして魔法少女が複数いる場所に現われる傾向があってね」


魔法少女は魔女になる。


「あなたがワルプルギスの夜を呼んだのね?」

「いいや。あれは呼びかけに応えたりなどしないよ」


マミは目を伏せ、小さくため息をついた。

見滝原の魔女はある時点から異常な増加を始めた。

一人で相手をするのは負担が大きいと考え、風見野から杏子に来てもらった。二人の間にあった確執は時間が解決してくれていた。

そんな彼女らがフルに活動してもなかなか間に合わないほど広範囲に数多く魔女はいた。

ワルプルギスの夜を出現させるためにQBが仕事をしたのだとすればおそらく、短い魔法少女の時間を過ごした急造の魔女たちであったろう。

彼女らの絶望と恐怖を思うと胸が痛む。
79 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:01:22.73 ID:H0JqPK/8o

(……知らなかったとはいえ、片っ端から狩っていった)

(せめて大切な願いを満足のいく形でかなえることができていればいいのだけれど)

(偽善ね)

(でもその犠牲がなければ私たちは存在していけない)


「魔法少女が殺されて取り込まれるの? それとも魔女になってから?」

「そんなの君たちにとってはどうでもいいことじゃないのかい?」

「死に方を選びたいのよQB」

「命を落とすという点においてはなにも違いがないよ。いいかいマミ」


QBが前脚を踏み揃えて身じろぎをした。こういったあたりはいかにも小動物らしく見える。


「魔法少女の力というのは魔女からきている」

「どういうこと?」

「魔法の源はなんだと思う?」

「ソウルジェムだとあなたに教わったわ、最初にね」

「もう少し詳しく言うと、ソウルジェムに内包された魂の核になる力だ。
これが魔法の源で、おもしろいことに君たちはこれに人格や様々な像をあてはめようとする。
スーパーセルフと呼んだりもするのかな」


(おもしろいことに、なんて。まるで感情を持っているかのように話すのね)


そう思いつつ口には出さず、マミは黙って聞いている。
80 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:05:50.45 ID:H0JqPK/8o

「石造りの巨大な門や尖塔、変幻自在の影絵、映像を流し続ける箱、グロテスクな怪物や獣の姿など、
まあ形はいろいろだね。自覚の有無は関係なく、それは君たちの意識の底で育ってきたものだ。
君たちの常に揺れ動く感情をエサにして、且つ因果をまといながらね」


マミが驚きの表情を浮かべてつぶやいた。


「魔女!」

「そう。魔女こそは君たちの魔力の源だ。
僕たちは君たちが育てているその像を見ることができる。エネルギー量が多く、
かつシステムによく適合する人間を僕らはそうやって知る」

「見えているの? 魔女が?」

「見えるよ。それは君たちの根源的なエネルギーだ。
この星の中心にある高温の核みたいなものだね。荒々しい力そのものとしてただ存在する。
ただし心臓を自由に動かせないのと同じように好き放題アクセスして利用するということはできないんだ」

「それがあなたたちが必要としているエネルギーなの?」

「そうだよ。感情を持つ種族のみが魂に蓄積していくこの強力なエネルギーをなんとか僕らは利用したいと思った。
まず、魂をソウルジェムに移行させることで君たちが魔力として使うことができるようになる。
次に、君たちが希望から絶望への相転移を経る」

「こうしてやっと僕らは必要とするエネルギーを効率よく抽出できる。
魔女を無理やり引っ張り出してエネルギーとして便利に使うことはできないんだ。
そうするとただ君らごと消滅するだけだ」

「僕らとしてはそれはとても困る。
魔法少女システムはどうやって君たちからエネルギーを抽出するか試行錯誤の上やっとできあがったんだよ」

「感謝しろとでも言いたげに聞こえるのだけど?」

「君らにとっても宇宙の延命というのは決して悪い話ではないはずなんだが、違うのかい?
とにかくそうやって君らから首尾よくエネルギーを得られた結果、ああいった魔女が外の世界に具現化するわけだ。
ソウルジェム内に収まっていた時とは性質を大きく変えているけれどね」
81 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:07:47.40 ID:H0JqPK/8o

「というのも魂の核としてあったエネルギー自体は根こそぎ僕らが収穫させてもらうからね。
結果、不要で粗悪なエネルギー体として形を持った魔女が残される」

「一旦魔女になると絶対に元に戻ることはできないのね」

「奇跡でも起こらない限り死者は蘇らない。単純だろ」

「その奇跡をあなたたちは取引に使う。
本当にあなたたちがその気になれば死者は蘇るし時間は巻戻る」

「奇跡は安売りできないんだ。僕らにしてもそれなりの代償を払っているよ」

「それに引き替え私たちは命を丸ごと取られるだけで済んでいるのね?」

「まあ、そう言わないでほしい。確かにシステムは君たちの命を奪う。
だから君が片付けてきた魔女たちは要するに残骸だ。
仲間を殺してきたわけじゃない。そう考えると気が楽にならないかい?」

「残骸が出る仕様にしているのよね?」

「不要なものが残るようになっているだけだよ。どこかには捨てなきゃいけない。
でも魔女との戦いは魔法少女の存在する仮の目的としてとても適しているし
おまけに魔女化は連鎖することもある。なにかと都合がよくてね」

「それに君みたいに長生きができる固体が現われるチャンスも生まれる」


こうして会話を成立させていながら両者の間には相互理解不能な深淵が横たわっている。

マミは滔々と話す異世界人を悲しい思いで見た。


「私たちがワルプルギスの夜に勝てる確率は?」

「今のところ君たちはワルプルギスの夜といい勝負ができると思うよ」

「いい勝負?」

「簡単に言うと、君と杏子、ほむら、さやか、四人の全魔力を一気に放出させると
それだけでワルプルギスの夜の半分くらいは消し飛ぶ」
82 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:11:13.54 ID:H0JqPK/8o




「ちょ、杏子、手! 痛い痛い!」

「…………」



83 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:14:21.15 ID:H0JqPK/8o
「何体集まっていようと所詮は残骸なわけだからね。
生きた魔法少女の力というのはなかなか大したものなんだよ」

「QBは私たちに自爆してほしいの?」

「そんなもったいないことはしてほしくない。
僕としては君のキャンデロロに会いたいよ」

「キャンデロロ?」


なぜか懐かしい響きがする。


「君の魔女の名前だよ」

「あなたが名付け親?」

「仕事のひとつなんだ」

「私は魔女を解放させる気はないわよQB」

「そして杏子」



「ちっ!」

「杏子!? ……あんた今、誰と話してるの?」



「別に知りたくはないだろうけど、君はオフィーリア。
僕らと君らの間で盗み聞きはムリだよ」


(黙って聞いていただけだ)


「いいけどね。ワルプルギスの夜の出現はいつでも僕らにとって大きなチャンスだった。
ずいぶん便利に使ってきたよ」

「一方でエネルギー回収前の魔法少女が大勢殺されてしまうという困った問題もあった。
僕らの取り分をあれに随分持って行かれてしまったよ。
しかもそれらを有効活用しているとはとても言えない。控えめに言っても酷い無駄遣いだ。
君たちが退治してくれるのならそれでもいい」


(マミ! 大丈夫なのか? そっち行こうか?)


「大丈夫よ佐倉さん。少し暗い気分にはなるけれど」

「しかしそれらの膨大なロスもまどかが契約してくれれば補うに余りある。
まどかを育ててくれたほむらには感謝だね」


(マミ、もうそんな胸糞悪い話に付き合うな)


「大丈夫だって言っているでしょ。
でも、そうね。聞きたいことはもうこれくらいかしらね。
QBありがとう。出て行ってもらって結構よ」

「ちょっと待ってくれ。マミにもう少し話がある。
君自身のことだから二人だけで話したい。結界を張ってくれるかい?」


(QB!マミにおかしな真似を仕掛けるな!)


「佐倉さん、私は本当に大丈夫。気遣ってくれてありがとう」


(マミ! 待てって!)
84 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:16:58.07 ID:H0JqPK/8o

「遮断された。時々人の言うこと聞かないんだよな」

「マミさん?」

「うん。マミとQBの会話を聞いてたんだけどさ」

「それでずっと上の空か。さっさと説明しなさいよ」

「ごめん。こっから一人で帰れる?」

「もうすぐそこだから」

「先に行ってて。ちょっとマミのとこ帰る」

「うん、QBも平気でエグいことするからね」


さやかは痛覚遮断を行なうきっかけになった出来事を思い出して眉をひそめる。


(君があの魔女から被るはずだった本当の肉体的ダメージはこれくらいだ)


QBの前脚がひょいとさやかのソウルジェムに触れるとさやかの全身に激痛が走った。ソウルジェムと身体の関係について思い知らされたのだった。

声を上げることも出来ないほどの苦痛にもがいていたのはたぶん短い時間だったのだろうが気付いた時には少量ながら失禁していた。

努めて忘れようとしているが、うっかり思い出す度に不快な感情が蘇る。


「……」

「なんだその暗い顔!? 何されたんだ!? あとで教えろよ!」


杏子は変身し、猛スピードで行ってしまった。


「……いや、教えないからね?」


小さくひとりごちる。
85 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:17:59.18 ID:H0JqPK/8o

部屋の前まで跳んではきたものの、中に入れないよう強力な結界が張り巡らせてあった。

槍をぐるんと逆手に持ちかえ穂先で軽く境界面に触れてみる。小さな魔法陣が浮かびあがり、微かな振動が伝わってきた。


(杏子、来なくていいって言ったのに)


マミが話しかけてきた。


「大丈夫なのか!?」


(一時間経ってもこちらから連絡がなければ結界を破ってもいいわ。
それまでQBと二人にしてね)


「三十分にしてくれ。あんたが心配だ」


(了解)


変身を解き、背中でドアに寄りかかって待った。

86 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:19:30.83 ID:H0JqPK/8o

「杏子かい?」

「結界の外にいるわ。こちらが意図しなければ話が聞かれることはありません。
話したいことがあるならどうぞ。ただし手短にお願い」

「わかった。ねえマミ。君が魔法少女でいられる時間はあまり残っていない。
これを伝えておきたくてね」

「どういう意味かしら?」

「君はよく頑張ったよ。魔法少女として申し分なく働いてくれた」


それで? というようにマミはほんの少し首を傾けた。


「けれどシステムがそろそろもたなくなってきている。
もしワルプルギスの夜と戦って生き残っても、たぶん君はそう長くない」

「そうなの。経年劣化ってこと?」

「いや、時間が問題じゃないんだ。システムは……そうだね。
一、二世紀分くらいの時間は充分働き続ける。
ただ君という素体にソウルジェムが耐えられなくなってきているんだ。
平たく言うと成長期に服のサイズが合わなくなるようなものだね」

「つまりどうなるの?」

「ソウルジェムが壊れる」
87 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:21:08.04 ID:H0JqPK/8o

「わざわざ自分で砕くことはなかったってわけね」


不思議と平静でいられた。


「ほら、それだよ。君はもう僕の言葉に動じない。
一時的な麻痺状態というわけでもないらしい。
精神的な成長が著しいね。君は今とても落ち着いているけれど
不安定な方がシステムは上手く働く。いわゆる魔女化が捗る」

「それを踏まえて君に提案がある」

「どうぞ?」

「完全な同意があれば、僕はソウルジェムをいじって君をただちに魔女化させることもできる。
ねえマミ、宇宙延命のために協力する気はないかい?」

「QB、本気で言ってるの?」


マミは笑いだしたくなった。


「もちろんだよ。君はとても良質な素晴らしいエネルギーを持っている。
きちんと相転移を経た方が回収効率は抜群にいいが、それはもう無理そうだ」

「鹿目さんがいれば量としてはどうでもいいようなものではないの?」

「彼女に比べたら取るに足らなくても君を失くすのは惜しい」

「バカねQB。宇宙延命のために魔女化を望む魔法少女などいない……と思うわよ?」

「提案は受けてくれないということだね?」

「ええ」

「もったいないな。君ほどの魔法少女がただいなくなるなんて。
せっかくエントロピーに逆らう力になれるのに、すばらしいことだと思わないのかい?」

「普通は思わないの。覚えておいてね」

「君たちは個を大事にし過ぎるね。では好きにするといい。悔いのないようにね」

「ええ。言われるまでもないわね」

88 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:26:13.02 ID:H0JqPK/8o


さやかが珍しく早く帰宅した両親と共に居間でテレビを見ていると杏子から呼びかけがあった。

二人に「宿題残してるから」と声をかけて戻った自室では魔法少女姿の杏子が待っていた。浮かない顔をしている。


「マミさん、どうだった?」

「何があったか教えてくれなかった。ものすごく落ち着いててさあ。
一緒にメシ食った後、さっさとグリーフシード集めに行っちまったよ」

「良かったじゃん。なんでブーたれてんの?」

「QBの話に、なんかモヤモヤする。だけどうまく説明できない」

「どうモヤモヤすんの?」

「私らって、魔女なんだってさ」

「うん、まあ……そうなるって聞いたじゃん?」

「いや、そうじゃなくてさ。元々魔力ってもんが魔女からきてて
……………ってまあいいか? 考えてどうなるってもんでもないし」

「ん?」

「だからさ、明け方戻ってくるからまた隣で寝てもいいか?」

「もちろんいいよ。よしよしほーら杏子ちゃん」

「うー?」


杏子がとてもしょんぼりしているように見えたので、抱き寄せてぽふぽふと背中を叩いてやった。
89 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:28:18.22 ID:H0JqPK/8o

「なんだよ?」

「甘やかしてんの。ワザワザ言わせないでほしいな。
身体の力を抜きなさいって、そうそう」

「……ねえ、誘ってる?」


杏子は両腕をさやかに巻きつけ、頭をその肩に軽くのせた。


「バカだね杏子は。知ってたけどね」

「はあ……もう今日行くのやめようかな」

「だめでしょ。マミさん一人に働かせる気?」

「さやか、今日もいい匂いがする」

「うん、やっぱあんたはバカ」

「スイッチ入っちゃった、バカバカ言うから」


さやかの背で杏子の指がそういう動きを始める。


「杏子、今しないできない」


手が止まった。


「……じゃあキスだけ」

「ん」


軽く唇を触れ合わせた。


「なあ、今度いつちゃんとできる?」


額をこつんと合わせて未練たらたらに杏子が聞く。


「わかんないよ、そんなの。さあさあ行った行った!」


照れもあり尻を叩くようにして部屋から追い出してしまった。

名残惜しそうに出て行く杏子を見送った後少し考えていたが、自分も街に出てみる気になった。

マンションのエントランスを出る際つい癖でまどかの姿を探してしまい「たはは」と笑いがもれた。


(まどか、ほむらとうまくやってんのかな?)
90 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:32:07.21 ID:H0JqPK/8o


まどかに連れられてほむらは鹿目家を訪れた。

話は通してあったらしく一家団らんに混ぜてもらって夕飯を御馳走になり穏やかな歓待を受けた。

いつものような仏頂面も沈黙もしていられず、目の回る思いがした。

まどかの小さな弟が遊んでほしいとあの手この手で訴えてくる。かわいい。

それほど熱心に相手をしたわけではないが懐かれてなかなか離れてもらえなかった。


「ほむらちゃん、今日は泊まっていってね?」

「せっかくだけど何の用意もしていないし、ご迷惑でしょうから」


気疲れしたのですみやかに帰宅したかったのだが。


「大丈夫だよ。ウチお泊りセット常備してるから。
着替えも歯ブラシもあるよ」

「……」

91 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:33:13.36 ID:H0JqPK/8o


さやかは少し前までパーサーカーモードで暴れまわっていた街の通りで魔力の気配を探してみる。

ベテランの魔法少女が三人がかりで魔女を狩っているだけあってソウルジェムでの索敵に何も引っ掛かってこない。


(もう見滝原に魔女って残っていないんじゃないの?)

(それはすごくいいことだけど……)

(でもさ、私たち的にはすごくマズイんじゃないの?)


その日繁華街の一角で使い魔を見つけたが、あまり気が乗らないまま追い回して結局逃がしてしまった。


(あ、しまった)

(あいつがなにか悪さをして人が死んだら私のせい)


「……いやいや、違うって。QBのせいじゃん」


(そして、誰か……私みたいなバカな女の子が命と引き換えに願った奇跡のせいなんだ)

(QBはちゃんとはっきりそう言うべきだった。
おまえの魂と引き換えになんでも願いを一つ叶えてやるって)

(まっとうな悪魔みたいにさ)
92 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:36:26.87 ID:H0JqPK/8o

その時ふと、こちらを窺う他人の視線を感じた。

使い魔を追いかけている時からそこはかとなくつきまとう気配を感じてはいた。


(知らない魔法少女)


気になるのは敵意ともあるいは憎悪ともとれる負の感情がさやかに向けられていることだ。


(なにかしたっけ、あたし)

(ああ、もしかしたらあの使い魔が育つの待ってたのかな)


建物の陰から様子を窺っていた人物は自身の存在に気付かれたことを察してその場から遠ざかって行く。

急いで追ってみると後姿を捉えることがことができ、もう少しスピードを上げると見知らぬ魔法少女の前方に回り込むことができた。

眼前にいきなり現れたさやかのスピードに相手が息を呑み、戦闘態勢を取った。

段平とでも呼びたいような両刃の剣を片手に持ち、頑丈そうなガントレットをつけたもう片方の腕を前に垂らしている。


「とっとっと、待って待って! やり合うつもりはないし!」


あわてて声をかけ、手に持ったサーベルを地面に突き立ててぶんぶんと両腕を振った。しかし深緑のコスチュームをまとった相手は構えを解かずにさやかを睨みつけている。
93 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:37:56.00 ID:H0JqPK/8o

「さっきのあれ、あなたの獲物だった? なら余計なちょっかいかけてごめん!」


返事は無く、どうやらじりじりと間合いを測っている。さやかは急いで言葉を継ぐ。


「あの、あたしってついこないだ魔法少女になったばかりの新米でさ、
なんか地雷踏んじゃったかな? だったら謝るし?」

「あんたのこと知ってる」


相手が初めてしゃべった。


「あの化け物じみたやつらの仲間だね」

「化け物って、あたし魔女の仲間なんかじゃないよ?」


(あーいや、同じようなもんなんだったっけ??)


「察しが悪くて苛つくよアンタ。化け物ってのは黄色いのと赤いののコンビだよ!」

「んえっ? もう一人いなかった?」

「あいつら、街中の魔女を片付けやがってさあっ」


(ほむらは別行動か)


「ま、まあまあ、あんまり頭に血がのぼってるとロクなことにならないよ?」


憎々しげな少女を見て、さやかは心配になった。
94 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:40:19.09 ID:H0JqPK/8o

(かなり危ないんじゃない、この人……)


「ねえ、あなたのソウルジェム見せてくれない?
だいぶ苦しそうだよ?」


目の前の少女はさやかの言葉を無視した。


「あんたら、グリーフシードを独り占めしてる。許せない……!!!」

「QBなんにも言ってなかったなあ。あなたみたいな魔法少女もいるんだねえ。
あ、ソロ活動なの?」

「何も教えないよ」

「どうして?」

「この世界は弱肉強食、だよねえ?」


意味ありげに少女がさやかを窺った。


「私じゃあいつらの相手は無理だけどさ?」


じり、と少し距離を詰めてきた。


「あんた相手なら、なんとかなりそうな気がする」

「はあ? なにふざけたこと言ってんの?」


さやかも気の長い方ではないので、感情の赴くままつけつけと言い返した。


「ねえ、あたしを倒してなにがどうなんの?!
そんなことしたくて魔法少女になったの、あんたは?」
95 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:52:44.03 ID:H0JqPK/8o

「うるさい!! 魔女とは戦えないんだから
魔法少女から奪うしかないでしょうがあ!」

「ううん、しょうがないっちゃしょうがない気もするけど」

「コイツ腹が立つ!!」


さやかはあわてて地面から引き抜いた細身の刀身で厚い両刃剣の打ち込みを受け止めた。金属同士が激しくぶつかる音がした。さやかの剣など折れて飛んでいきそうなものだが魔法少女の戦闘は必ずしも物理に則らない。


「ん? 意外とやさしいんだね?」


さやかの本音に少女ははっきりと驚愕の表情を浮かべた。彼女の渾身の一撃だった。


(ああ、この人すごく弱いのかも)


「ねえやめよう? 引いてくれないかな?」

「うるさい!」


刃の部分にガントレットをあてがって両手で力任せに押し込んで来ようとするが、長い鍔迫り合いにはならなかった。

さやかは力の拮抗点をずらして圧をいなし、相手のバランスが崩すのと同時に踏み込んで間合いを潰した。肩からの体当たりをまともにくらって相手の身体は大きく後退する。

短い攻防だったが少女はもう息切れしていた。さやかにはその状態に覚えがあった。ソウルジェムの穢れが進むと少し動くだけで激しい疲労を感じるようになる。

さやかは手持ちのグリーフシードを取り出して見せた。


「ほら。つまるところ、これでしょう?」

「よこしなさいっ!!!」


深緑の魔法少女が吠えた。
96 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 01:56:20.35 ID:H0JqPK/8o

「いいよあげる。どうぞ? あと何回かは使えそうだよ。はい」


掌に載せて差し出す。

目をぎらつかせて近づいてきた少女がそれをひったくり、後方へ跳んでさやかを睨みつけた。


「どういうつもりなの?」

「ワルプルギスの夜って知ってる?」

「?」


これから見滝原を襲う厄災と、自分たちがそれと戦うつもりであることを簡単に話した。


「赤と黄色の人はその準備のためにグリーフシードを集めてるの」

「あははっはははは」


彼女はそれを聞くと笑い出した。


「ああ、おっかしい。どうだっていいけどさあ、もっとマシな言い訳ないの?」

「……はあ」


がっかりした。

頭から信じてもらえなかった。

見知らぬ少女はさやかの落胆のさまに哄笑をぶつけると、どこかへ行ってしまった。


(……帰ろっと)


そろそろ夜も遅い。さやかはトボトボと家路についた。
97 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:01:53.53 ID:H0JqPK/8o


「ほむらちゃん、お湯加減大丈夫だった?」

「ええ、ありがとう。いいお湯でした」

「こっちこっち」


入浴後、ほぼさやか専用という水色のパジャマを着用して脱衣所を出るとリビングからまどかが手招きしていた。

招かれるまま行ってみると仕事で不在だったまどかの母が帰宅していた。


「君がほむらちゃんか、話は聞いてるよ。美人さんだなあ」


お邪魔しています、と丁寧に頭を下げると「まあゆっくりしていきな」と気さくに言って氷を入れたグラスをちょいと上げてカランと鳴らした。


「はああ、キレイどころがいると酒がすすんでたまんないな」

「ママ、飲みすぎないでね」


知久が心配そうに声をかける。


「そうだよ、朝起こすの大変なんだからね?」


まどかも父親に便乗する。


「わかってるよ大丈夫。これでおしまい」


両親におやすみなさいとあいさつし、ほむらもそれに合わせて頭を下げた。

まどかは自室へほむらを案内し「やっと二人になれたよ」と笑う。

そして「どこでもいいから座ってね」と自分は学習机の椅子の向きを変えて座った。

ほむらは以前のループで幾度かまどかの部屋を訪れている。懐かしく思いながらベッドのへりに腰かけ、膝に両手を置いた。

鹿目家に到着した頃はガチガチに緊張していたほむらだったが、いい加減それも一周半してしまった。今では少し眠気を感じるほどリラックスしている。
98 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:03:06.90 ID:H0JqPK/8o

「ええと、何から話せばいいのかな。でもとにかく最初に」


まどかが居ずまいを正してほむらに深々と頭を下げた。


「ほむらちゃん、ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「私のせいで、ほむらちゃんを出られない迷路に閉じ込めてしまいました。
本当にごめんなさい。あやまって済むことじゃないのはわかっているけど
あやまらせてください」


(?!)


眠気は消えた。
99 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:06:28.37 ID:H0JqPK/8o

「ちょっと待って……頭をあげて。一体さやかからどんな風に私の話を聞いたの?」

「え、さやかちゃん?……ああそうじゃなくてね。あのね、QBの言い方だと
私もう半分くらい魔法少女なんだって」

「?」


まどかは自身に重ねられた因果についてQBに聞かされたことを説明する。


「そんな……それじゃ私こそが元凶そのものじゃない!」


ほむらのショックは大きいが納得のいく話でもあった。

まどかの魔女。あれはループのたびに力を増していった。そのことを疑問に思ったのは一度や二度ではなかったのに。


「違うよほむらちゃん。元々は私のお願いでしょう。私、知ってるの」

「……何を?」

「QBに騙される前の、バカな私を助けてあげてくれないかな……だよね」

「まどか?! あなたは一体?!」


先程から驚きすぎて脈拍がおかしい。いつの間にか胸に手を置いていた。昔の最悪だった身体感覚を思い出す。少しの動作で疲れて動けなくなっていた。ほむらはそっと、細く長く息を吐いた。


「あのね、私いろんなことを夢で見ているの。
初めはほんとのことだと思わなかった。
でも、あまりにもはっきりしてるし繰り返し見るから
もう時々どっちが現実か迷うくらいになっちゃった」

こんなことがあった、あんなことがあった、と夢で見た出来事を挙げていく。
100 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:08:16.54 ID:H0JqPK/8o

(何てことなの)


「間違いなくどれも実際にあった事ね……そんなことになっていたなんて」

「最初はほんとに何がなんだか全然わからなかったのに
そのうち色々と分かってきてちょっと怖くなったりして……
それで何度もほむらちゃんに相談したいと思っていたんだけど、難しくて」

「えっと、それであのね、マミさんのおうちでも聞いたけど
避けてたんだよね? 私のこと?」


親しくすることは避けていた。コクリと頷く。


「どうして?」

「今回は、つまりこの時間軸ではということだけど、私はあなたにとって
あまり必要な存在ではないの」

「どういうことかな?」

「私はいつもあなたを魔女にさせないために動いてきたけれど、ここでは私以外の人が
そうしてくれているし、あなた自身が魔法少女になろうとする意思をみせていない」

「うん。アレになるって知ってしまうとどんなことがあっても契約はできないよ」

「そうして今のところは、とてもいい感じに時間が進行している。
なにしろ誰も死んでいないわ」

「うん」
101 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:12:28.17 ID:H0JqPK/8o

「奇跡を願わないでいてくれてありがとう。
だから私があなたと接触する理由がなくなっていた。
それでうまくいっているのだから、なるべくこの状態を崩したくなかった」

「けれど私結局こうして強引に崩しちゃったよね?」

「あなたなりにこうしなければならない理由があった。
私一人の思惑で物事をどう操作しようとしてもなるようにしかならない。
それはもうよくわかっているから気にしないで」

「考えてみると私も物事を操作しようとしていたみたい。
知ってしまうと誰でもそうならざるを得ないんじゃないかな」

「まどか?」

「ねえ、ほむらちゃん。私は私だよ」

「?」

「ほむらちゃんにとって私は、ずっとずっと友達だった。そうだよね」

「……ええ、私にとっては」

「私にとってもそうなんだってわかってもらえるかな?」

「あなたが私の事情について知っていたなんて思いもよらなかったから」


言い訳めいて聞こえるのは仕方がない。
102 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:13:39.85 ID:H0JqPK/8o

「うん。嫌われてたって訳じゃなかったから、いいかな」

「決してあなたのことを嫌ってなどいない」


(あなたの存在が私の生きる意味、私の全て)


「よかった。ほんとはいろいろ言いたかったんだけど、うまく言えそうにないからもういいかな」


えへへ、と笑った。


「あなたの話をもっと早くに聞いておけばよかった。
逃げ回っていたのは謝るわ」


(機会はたくさんあったというのに)


「あはは……逃げ回っているっていう自覚はあったんだね」

「そうね」

「夢とのギャップがすごくて悩んだんだけど、理由がわかったからいいや。
それでね……ええと、あった。これ、見てくれる?」
103 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:15:19.06 ID:H0JqPK/8o
まどかが一冊のノートをほむらに差し出したので受け取ってパラパラとめくる。

魔法少女のコスチューム案が描かれている例のノートだが衝撃的なものが目に飛び込んできて少し手が震えた。

写実的とは言い難いが、鎧姿と尾ひれ、二本の剣を持つ怪物の姿。


「これはさやかの魔女……!『オクタヴィア』?」


まどかの字でそう記してあった。


「うん、名前はQBに聞いたよ。
次のページのかわいいお人形さんみたいのがマミさんで」

「『キャンデロロ』?」

「隣のページが杏子ちゃん」

「……『オフィーリア』というのね」


ほむらは何度か遭遇している。


「そして次のが、よく知ってるよね。『クリームヒルト』だって。私だね」
104 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:17:02.31 ID:H0JqPK/8o

「これは……これらの魔女も夢で見たの?」

「うん、そうだよ」

「あ、因みにほむらちゃんの魔女は見たことないの。
QBもよくわからないって言ってた。どう転ぶかで姿が変わるほど不安定で
とんでもないイレギュラーなんだってこぼしてた」

「待って。この世界ではまだ誰も魔女化していないわ。
QBはどうして皆の魔女の姿を知っているの?」

「魔女は元々私たちの中にいてQBにはそれが見えるし、
そのエネルギー量と性質からだいたいどんな形で出現するかがわかるって。
とても長い時間魔女化のパターンを見てきたから」


(それはそれはたくさん見てきたことだろう)


「ええとね、私たちの中にいるうちは希望の源だけど、
出てきてそれだけになってしまうと絶望になるって。
君にわかるようにってQBがそう解説してくれたけど、
説明が下手でごめんね」


(後でQBを問い詰めてみようかしら)


「でも私はね、それ聞いてああそうなんだって思ったの。
でなきゃ魔法少女じゃない私が魔法みたいな夢は見ないよね。
元からあるっていうから、ああそうなんだって」


あまりにも不明点が多いが、ともかくまどかの話を聞こうと思った。
105 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:17:56.81 ID:H0JqPK/8o

「……そう」

「それで、何かできることがあるんじゃないかなって考えたんだけど」


ほむらはその言葉の意図がつかめない。


「できること?」

「うん」


肯いてまどかが続ける。


「でもね、私のやりたいことは私一人では無理なの。
ほむらちゃんの力が必要なの」

「私の?」

「もしかしたらなんにもならないかもしれないし、
ぜんぜん時間が足りないかもしれないし、危ないことかもしれなくて……」

「まず何をしたいのか教えて、まどか」
106 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:24:14.87 ID:H0JqPK/8o
夜明け前、杏子がさやかのところに戻ってきた。

寝相が良くないのかそれとも気遣いなのか、さやかがかなり端の方で寝ているためセミダブルサイズのベッド上にはたっぷりスペースが残されている。

眠る彼女を起こさないようにそっと隣に潜り込んだ。

魔女を数体狩りグリーフシードも手に入れた。

戦闘を幾つも終えて疲れているのに気持ちが昂っており、なかなか寝付けそうになかった。

触れたいという欲求に逆らってさやかに背中を向け目をつぶる。


「おかえり」


声を掛けられてビクッとする。寝返るとさやかがこちらを見ていた。


「起こしちまったか? ごめん」


さやかはむくりと上体を起こして「んんん」と両腕を突き上げ、大きな伸びをする。


「ふう、何時なの?」

「四時を過ぎたとこ。まだ寝てな」

「あ、結構早かったねえ」


少しぼうっとしているさやかの頭を抱き寄せて額にキスをした。


(……やっぱり、いい匂いがするんだよなあ……)


「……ねえ、杏子」

「ん?」

「思ったんだけどさ、ワルプルギスまであと何日もないんでしょ。
こうしていられる時間ってもしかして、すごく貴重なんじゃない?」

「勝つからずっと一緒だ」

「うん……だけど違うってば杏子」


まどろっこしくなり、杏子の手を導いて自分の胸に当てた。

その指がすぐに先端を探り当てた。

固くなったところを指の間に挟みそのまま柔らかく全体を揉みしだく。

気持ちがよくて、はふっと息がもれた。

杏子は呆れるだろうか。笑われるかもしれない。その前に言っておこう。


「あのさ……笑わないでね」

「何を?」

「下着の中、今ちょっとすごいかもしれない」


杏子は自分の身体にさやかを巻き込むようにしてゆっくり押し倒した。

しばらくは何か冗談を言ったりふざけ合ったりもしていたが、すぐ行為に熱が入り始めた。

もどかしげに着ている物を脱ぎ、脱がされて抱き合い、もつれ合う。
107 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:24:53.39 ID:H0JqPK/8o





いつかどこかの時間軸で。




108 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:25:52.90 ID:H0JqPK/8o
見滝原の街は破壊し尽くされている。

魔力を極限まで使い切った瀕死の魔法少女二人が成す術もなく倒れている。


「一個残しておいたんだ」


まどかは、これまでどうしても使うことができなかったさやかのグリーフシードを取り出してほむらのソウルジェムを浄化した。


「まどか、どうして!?」

「私にはできなくて、ほむらちゃんには、できることがあるでしょう?」

「そんな……!」


グリーフシードを求めて虚しく盾の中を探る。

ほむらの目からポロポロと涙がこぼれた。

その時まるで中空から降ってわいたように新しいグリーフシードが地面に転がった。

盾から落としたのだろうか。急いで拾い上げ、まどかの危ういソウルジェムに当てる。

間に合った。

浄化されていく。

二人は大きな声で泣き、抱き合った。

みんな死んでしまったけれど。

街も守れなかったけれど。

お互いがいさえすればなんとか生きていける気がした。
109 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:27:36.99 ID:H0JqPK/8o
また別の時間軸。






双刀を振り回してさやかがワルプルギスの夜の本体を削っていく。

さやかが素早く間合いを取ると、宙に浮いて待機していた何本もの剣が連撃を仕掛けていった。

戦闘法にはっきりと巴マミの影響がうかがえる。


「さやか! 無理すんな! あたしと交代しろ!」


さやかに対する諸々の攻撃を一手に引き受けていた杏子が辺りの使い魔を薙ぎ払いながら声を張り上げた。


「もうちょっと! もう、あとちょっとで落ちるよコイツ!」

「あせるな! 自分のケガの治療をしろよ!」

「大丈夫っ!」


さやかは増々激しく攻撃をしかけていき、そしてついに限界を迎えてしまう。

魔力を使い尽くしたさやかが魔女化してオクタヴィアの結界が出現した。


「さやか、ちっくしょお!」


杏子は全速力でその結界を脱出する。

できたばかりの新しい魔女結界は、目の前で古い魔女に吸収されてしまった。


「なんなんだよ、一体! さやかはどこだ?? くそっ!
マミ、グリーフシード残ってないかっ? こいつほんとにもう少しで落とせるのに!」


(こちらはゼロよ! なんとかもたせて!)


無数の使い魔を潰し続けるマミが応える。


(ほむらは?! 残ってないか?)


「使って」


ほむらが近くに現われた。

時間停止空間で杏子のソウルジェムが蘇る。


「恩に着る」

「無茶はしないで」
110 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:28:30.42 ID:H0JqPK/8o
杏子がワルプルギスの夜に向かって行き、勝負どころだと察したマミも距離を詰めてきた。

追い詰められた魔女の笑い声が高らかに響き、更に大きな力をふるい始める。

杏子の雄叫びが聞こえてきた。

果てしなく続くかと思われた戦闘もようやく終わった。

避難所でみんなの無事を祈っていたまどかのところにほむらだけは帰ることができた。


「ほむらちゃん、ほかのみんなは?」


ほむらは小さく首を振る。


「そんな、……うそ……ぜったい大丈夫って……みんな」


泣き出したまどかの肩をそっと抱く。

ほむらはもう、この時間軸から移動する気はまったくない。

目的は達せられたと言っていい。


(今度こそ終わり……やっと……! でも)

(だけど)

(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん、なさい、ごめん……)


ほむらも涙を流し続けた。
111 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:30:53.26 ID:H0JqPK/8o


また別の時間軸。





まどかは避難所を出てほむらを探す。


「ほむらちゃん、そのケガ!」


治癒に回す魔力はない。


「もうこの街はダメ。逃げるわよ。あなたは生きなければ」

「待ってほむらちゃん! みんな、パパやママ、タっくんもあそこにまだ!」

「どうすることもできない。運に任せるしかないわ」

「じゃあ私が契約しなきゃ!」

「ダメ! そうしたら本当になにもかもが終わりになる!」

「だけどほむらちゃん!!」


まどかを抱えて全速力でワルプルギスの夜の影響下から逃れようとする。

だが、逃げるつもりであったのなら行動を起こすのが少々遅かったようだ。

ソウルジェムの穢れが危険なほど進んでいる。


(まもなく魔女化する)


確実にまどかを巻き込んでしまう。

これ以上この世界には留まっていられない。


(……ここまでね)


残存魔力で時間遡行を発動させる前にふと盾を探る。

グリーフシードはとっくに使い尽くしてしまっているはずだったが。
112 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:32:30.13 ID:H0JqPK/8o

(!?)


新しいグリーフシードが目の前にあった。

まるでなんの脈絡もなくただ空中にいきなり出現したかのように。

ほむらは疑問に思う余裕もなくそれを掴み、自身の浄化を行ってすみやかに街を脱出した。

スーパーセルはおびただしい数の人命を巻き上げて自然消滅した。

まどかは座り込んだままずっと泣いている。無理もない。

だがほむらはもう時間を遡ることはしない。絶対に。

おずおずと声をかける。


「まどか。私は何もできなかった。あなたに恨まれても構わない」

「ほむらちゃん……私、わかってるの。
ほむらちゃんが精一杯やってくれたんだってわかってる」


まどかがしゃくり上げながら言う。

ズキリと胸が痛んだ。


「恨んだり……するわけ、ないよ」

「まどか」


まどかの泣き声はやまない。

ほむらは立ち尽くす。

盾の砂はもちろん全て落ち切っている。もう二度と時間停止魔法は使えない。

一人で魔女に対峙することはもう難しい。近いうちに魔女にやられるか自身が魔女化するのだろう。


(それでもまどかは生きている)


それで充分だと思った。
113 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:33:07.39 ID:H0JqPK/8o




また別の時間軸






また別の時間軸






また別の






また


114 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:33:49.61 ID:H0JqPK/8o


まどかは自室のベッドで身体を丸め、眠り続ける。

両手でほむらのソウルジェムを包み込み、胸に抱いている。

魔力が発動しているらしく、まどかの身体全体をほのかな紫の光が覆っている。

ほむらの姿は見当たらない。

まどかは眠り続ける。

寝顔は穏やかで、小さな規則正しい寝息が聞こえる。

その眠りはかなり深いようだ。ピクリとも身じろぎしない。

その光でQBの影が部屋の壁に大きく浮かび上がった。

115 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:35:06.33 ID:H0JqPK/8o



また






また別の






また、別の時間軸。


使い魔にかかりきりだったマミがワルプルギスの夜本体から伸びた影のようなものに勢いよくはじき飛ばされるのが見えた。

別の場所では巨大な鉄骨の構造物が今まさに崩れ落ちようとしており、落下の軌道上にほむらがいる。


「本当に勝てるの?」

「勝てるわけがない」


まどかの問いにはっきりとQBが答える。


「見ればわかるだろう。無理だ。二人とも気を失っているしソウルジェムも限界だ」

「そんな」

「彼女たちを助けたいかい」

「助けたい!」

「なら契約するしかない。魂をかけた君の願いを言ってごらん。
君ならどんな願いでもかなえられるよ」

「私は」


(この先、私はどうなってもいい)

(みんなを助けるには)

(魔法少女という存在を救うためには)

116 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:36:19.12 ID:H0JqPK/8o


「私の願いは」

「君はどこから」


ふいにほむらが現われてQBの身体が爆ぜた。


「ほむらちゃん?」

「まどか、いけない」

「でも!」

「ワルプルギスの夜はもうじき止まる。お願い。信じて待っていて」

「虚しいものだよ。その場しのぎの嘘というものは」


無駄だとわかっているがQBの新たな一体にも実弾を数発打ち込む。


「そいつの言うことを聞かないで。お願いだから待っていて、まどか」

「……わかった。そういう約束だったよね」


まどかは頷いた。声が震えている。不安でたまらないのだ。ほむらは頷き返してその場から姿を消した。


(この世界の私は、直撃は免れていてケガは酷くない。ただ気絶しているだけ)

(まず巴マミの救出に向かわなければ)
117 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:37:22.47 ID:H0JqPK/8o



ねえ、ほむらちゃん。

QBの言う因果っていうのを私たちでなくしてしまうことはできないかな。

私の見ている夢はただの夢じゃない。

そこは、いつかの現実なの。

ほむらちゃんは時空を行き来してきたんでしょう。

だったら私の見ている世界に干渉できないかな。

ひとつひとつ因果を解きほぐしていくことはできないのかな。


(あなたという人は……)


私は、ほむらちゃんならできると思う。


(あなたがそう言うのなら)

(私はなんでもできる)

(なんでもする)


118 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:38:19.72 ID:H0JqPK/8o


二人の身体が重なっている。

お互いの脚の付け根で中心を圧迫し合い、貪欲に動いている。

腕はしっかり相手の背中に回され、しがみつくようにお互いをかき抱く。

さやかの片方の脚が下から蛇のように杏子に絡みついた。

さらにより強く密着するために。

昇りつめようとしつつある二人の荒い息遣いと忘我の声、ベッドが規則的にきしむ音がする。

さやか一際大きな声をあげた。

口が大きく開き、ぐんと身体がのけぞった。

背を反らした姿勢で硬直する。

両足先が伸びて丸まったつま先が微かに震えた。

そんなさやかの名前を呼びながら杏子もまたその時を迎えた。


(やばい)

(っ、すごいのきた……、つか、これ、は)

(……と…ぶ…)


杏子は「飛ぶ」、さやかにとっては「沈む」「落ちる」といった感覚だった。

真っ白いどこかにそれぞれ二人とも。

119 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:39:52.63 ID:H0JqPK/8o

マミは瀕死だった。

わき腹から脊髄中心あたりまでを深く切られて気絶している。

彼女を中心に大きな血だまりができていた。痛覚遮断が間に合っていても、ここまで出血していては意識を保ち続けることは難しかっただろう。

ほむらの力で修復は可能だろうか? が、やるしかない。


「あれ? マミさん?」


そこへすたすたとさやかがやってきて、おもむろに治癒魔法をかけ始めた。

ほむらは呆気にとられた。自分が新しい都合のいい夢でも見ているのかと思った。

この世界ではワルプルギスの夜が来る前に魔女化によってさやかは脱落している。ついでに杏子まで魔女化してしまった。


「あなたはどうしてここにいるの?」

「え? なんで? いちゃダメなの?」


マミの身体がみるみる治っていった。


(……さすがね)


「美樹さんなの?……私は死んだのかしら」


意識を取り戻したマミはそう言おうとして、口の中に残っていた血液で少しむせた。


「こほっ」


手の甲で口を拭いながら、不思議そうにさやかを見る。


「美樹さん……なのよね? 幻覚?」

「やけにリアルな夢だなあ」


さやかが首をひねる。口調は場違いにのんびりしている。
120 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:40:51.54 ID:H0JqPK/8o

「ねえほむら、あれが例のワルプルギスの夜ってやつ? こっちに向かって来てない?」


まどかが夢を見ている世界、現在進行形の時間軸のさやかだと確信する。


(どうしてこんなことが)


考えている暇はない。とにかくマミのソウルジェムを浄化する。

魔女が近づいてくる。避難所から離れた方向へ誘導するため三人は一斉に動いて魔女から大きく距離を取った。


「……まだ死んだわけではなさそうね」


マミが戦闘を再開する。視界を確保するために近くのビルの壁面を駆け登って屋上に陣取った。無数の銃が魔女と使い魔を狙う。


「あれ? 杏子だ」


やはり緊迫感のないさやかの声がした。ワルプルギスの夜に向かって槍を構えた赤い魔法少女が跳んでいくところが見えた。


「どうなっているの。私は夢でも見ているの?」


呟きつつ銃を構えたマミが集中力を高めていく。


(……助けにきてくれたのかしらね。幻でもいい。うれしい)


ワルプルギス本体から時折攻撃が届くが、こうなった彼女にもう当たることはない。
121 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:42:22.69 ID:H0JqPK/8o

「そういえば、まどかに聞かれたことがあった」


不意にほむらの背後からQBの声がした。


「因果の糸を断ち切って、と頼んだらどうなるのかって。
まさか自分たちで試そうと考えるなんてね」

「邪魔しに来たの? インキュベーター」

「危ないことをする。元に戻れなくなるかもしれないよ」

「ん? あれえ? あそこ、杏子と一緒にほむらもいるじゃん……
ほむらが二人いるよ。夢にしたって滅茶苦茶だね」

「解せないのは君だ、さやか。杏子もいる。どうやってここに?」

「QBは大体いつも何を言ってるのかよくわかんないんだよなー」

「こういった特殊な空間にはね、ほむらはともかく君らが来ることはできないはずだ。
……そうだね、臨死体験に類する心身の極限状態やストレス、激しい性行為、あらゆる魂の危機の時に
迷い込む人間がまれにいるけれど」

「ああ、とぷん、って身体が全部沈んじゃったんだよね。
そしたらマミさんがケガしてて……ってあれ? そろそろ浮上しそう」


ほむらは試しに言ってみた。


「帰るのならQBも一緒に連れて行ってもらえないかしら?」

「あ? うん、いいよ」


さやかがQBの尻尾を鷲掴みにする。
122 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:42:55.42 ID:H0JqPK/8o

そして一人と一匹の姿は忽然とこの世界から消えた。

時を置かず杏子の姿も消えた。

ほむらは二人のことをひとまず意識から消し、戦闘を続けるマミとこの世界の自分を影ながらフォローし続ける。

自らの作り出したまどかの因果をまた一つ解消するために。

こうした干渉でどれくらい解消できるかはわからないが。

ワルプルギスの夜が崩れていく。

マミとほむらは生き残り、避難所のまどかの所へ戻っていく。

ほむらはもう時間を巻き戻さない。
123 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:43:53.53 ID:H0JqPK/8o





(お、落ちる! ………あれ?)


杏子が自分を取り戻す。

目の前には当惑顏のさやかがいて、その手にQBが握られている。


「なるほど」


QBがそう言いかけた時、杏子がさやかの手からその身体を真横に払いざまもぎ取り一瞬で蒸発させた。

二人で顔を見合わせる。


「ほむら、いたよな?」

「うん」

「なんだったんだろう」

「うーんと、因果の糸を断ち切るとかなんとか」

「まじか!」

「え、それでわかんの杏子すごい」
124 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/22(木) 02:45:10.36 ID:H0JqPK/8o

朝を迎える。

まどかが目を覚ました。

傍らでほむらがその目覚めを待っていた。


「おはようまどか」

「おはよう。お疲れさま、ほむらちゃん。これでうまくいっているのかな? はい」


握りしめていたソウルジェムを返す。


「もうじきわかると思うわ」


ぬくもったそれを受け取りながら答えた。


「これこそ才能の無駄遣いというものだよ」


二人が予期していた通り、どこからともなくQBが現われて文句を垂れた。


「せっかくの素質を削ってしまうなんて」

「ああよかった、効果あったみたいだね」


まどかがふわっと微笑んだ。


「やれやれ。まだ続ける気かい?」

「やれるだけ、ギリギリまで」とほむらが答える。

「まあ、いい。それで」


QBがまどかを見て小首をかしげた。


「最凶最悪の魔女は出現しなくなりそうだし、君にとって大きな心配事が一つ減ったというわけだ。
契約は考えてくれるのかな?」

「状況によるかなって」

「そうか、うん、わかった」


QBは姿を消した。
125 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 04:15:08.24 ID:K+q61Ei9o


午後、さやかのベッドで目覚めた杏子は無人の美樹家を出てほむらを訪ねた。


「よ。起きてた? なんか食わしてほしいんだけど」


他人の家を訪ねて平気で食べ物を要求する杏子を謎の生き物を見るような目でほむらは見た。


(そう言えば)


多くの場合巴マミからは供され、美樹さやかには叩き落され、まどかには手渡す。


(杏子は食べ物で友好度が測定できる子だった)


そんなことを考えながら部屋に上がるよう促す。


「えっ? サンドイッチ? しかも手が込んでる!
絶対なんかまたジャンクなやつが出てくると思って気軽にメシ頼んだのに?!」


(ああ、そういうこと)


「まどかのお家の人が今日のお弁当にと持たせてくれたのだけど」

「あー、あの料理上手な親父さんか」

「量があるし一人で食べるのはもったいないから手伝って。
ご期待通りのジャンクなものも用意する」

「おおサンキュー!」


何種類かのサンドイッチと使い捨て容器に詰められたサラダが並べられた。
126 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 04:17:12.50 ID:K+q61Ei9o

「すげーうまい卵サンド。ふわっとしょっぱいのなんだろ」

「アンチョビね」

「なにそれ」

「いわしの塩漬け」

「へ〜魚なのか。肉もうまい。この葉っぱは味知ってるけどなんだっけ」

「野菜はクレソン、肉はローストビーフね」

「あーそれそれ。ん、これはわかる。カリカリベーコンとチーズ。
緑はアボカドだな。うまい」

「パンめくって見ないでよ」

「え、やんない?」

「ええ」

「パンがまたうまいよな」

「お手製らしいわ」

「有能だな」


鹿目家特製サンドイッチ弁当がみるみる減っていき、少食のほむらはほっとした。作ってもらったものを残さずに済む。

火にかけていたヤカンのフタがカタカタ鳴り出したので火を止めに立った。

ストックしてあった即席めんのカップに熱湯を注いでから二人分の飲み物を用意して居間に戻る。

カップめんと湯呑を杏子の前に置き自分の飲み物を手に取った。


「ありがと」

「いいえ」


楽しげに蓋を開け、割り箸でするすると平らげていく。
127 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 04:20:33.12 ID:K+q61Ei9o


「今朝のあれだけどさ」


杏子が切り出した。テーブルの上はもうきれいに片付いてる。


「さやかに聞いたよ。因果の糸を切るってつまり、まどかの化け物じみた素質ってのを消そうとしているんだよな?
合ってる?」

「ええ」

「どうやってそんなことができたんだ? 過去を書き換えるなんてアリなのかよ」

「過去を書き換えているというのは違うと思う。 私にとっては過ぎてきた時間ではあるけれど」

「うん」

「過去に遡っているわけではないの。私は繰り返してるから、それは感覚でわかる。
もっとあやふやな移動のように思う……ごめんなさい、合理的な説明はできない」

「ああ、そんな詳しく聞きたいわけでもなかったし、いいんだけどさ。
聞いてもたぶんわかんねーし」

「考えてみるとワルプルギスの夜の出現自体も、因果の糸がまどか一点に重ねられるような異常事態に
少なからず影響を与えているのかもしれない」

「そいや、ワルプルギスの夜には魔力を集める性質があるってさ。
マミがQBから聞き出してたよ。求心力のある一人の魔法少女が魔女化して
そいつのたくさんいた仲間が根こそぎ魔女の力として吸収された……んだったっけな確か」


ほむらはQBから一度たりともそんな話は聞けなかった。


「巴マミはインキュベーターの扱いが上手いわ」

「あいつら付き合い長いから」


会話が少し途切れた。
128 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 04:22:26.78 ID:K+q61Ei9o

「QBと言えばさ、気付いたら目の前でさやかがQBのしっぽ握ってて」

「……!」

「なんだよ?」

「激しい性行為?」


突然杏子が大きな音を立ててむせた。

ほむらが本気で謝ってしまうほど咳き込みは長く続いた。

口に当てるタオルを手渡して背中をさすってやりながら、QBの説をテレパシーで再生させた。


“こういった特殊な空間にはね、ほむらはともかく君らが来ることはできないはずだ。
……そうだね、臨死体験に類する心身の極限状態やストレス、激しい性行為、あらゆる魂の危機の時に
迷い込む人間がまれにいるけれど”


「はあ、やっと落ち着いた。な、何それ。さやかもそれ聞いたのか?」


平静を装っているが涙目になっている。


「さやかは、QBはいつもわけがわからない、と」

「た、確かにわけわかんないけどな」

「………」


(杏子とさやかが。まったく想像がつかない)

(……想像する必要もないけれど)


「……ともかく、あなたたちのお蔭で助かった。ありがとう。
さやかにもお礼を言っておいて。私では無理だった」

「こっちはボロボロになってのびてたあんたをひっぱたいて起こしただけだよ。
あたしを見て“なぜ生きているの?”って叫んでた。
魔女になったあたしをあんたが狩ったんだよな?」

「そう」

「後始末をありがとさん」

「いいえ」

「で、本題に入るんだけどさ」
129 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 04:27:45.55 ID:K+q61Ei9o

杏子は少し言い方を考えている。


「んーつまりあんた、まどかを魔法少女にする気なのか?」

「まさか」


ほむらは即答し、表情が固くなった。


「それだけはない。なぜそう思うの?」

「気ぃ悪くしないで聞きなよ。あたしら全員が自爆攻撃をしたら
ワルプルギスの夜に大打撃を与えられるんだってさ」

「QBがそう言ったの? あなたはそれを信じるの?」

「うそはつかないだろ、あいつ」

「それで?」

「それ聞いて思ったんだ。つまり全員で無理すりゃ勝てる相手だ」

「そうね」

「その無理を支えるのがグリーフシードだよな? だからせっせと蓄えている」

「……」

「まどかを絶対に魔法少女にしないってんなら、ひょっとするとおまえのやっていることは
グリーフシードの無駄遣いにならないか?」

「まどかにあんなリスクを抱えさせておくわけにはいかないでしょう?」

「大事なグリーフシードを減らしてまでまどかの素質を失くさなきゃいけないんだな?」

「これで最悪の結果は避けられる」

「最悪ってのはまどかが最凶最悪のあの魔女になることか?」

「…………」

「とすると、まどかの契約を何かあった時のための保険に使える。
だってもうあんな入道雲のお化けみたいな魔女にはならないんだろ」

「保険ね。ええ、まどか自身もそれを考えているみたい」

「だろうな。まどかが契約しやすくなった」

「でも私はどんな手を使ってでもそれは止める」

「一応言っておくけど、私も基本的にはあいつを魔法少女にするの反対だからな」

「美樹さやかは正しいわ」

「は?」

「魔法少女になった時点で人としてはもう死んでいるのと同じこと」

「おまえそれさやかに言うなよ」

「だからもしさやかやマミが命を落として、それをまどかが契約で助けようとしても私はそれを止める」

「わかったよ。確認しときたかっただけだ」


そう答えた杏子の視線を一瞬受けてから、ほむらがわずかに目蓋を伏せた。


「なぜそんな風に言えるの。私はマミもさやかも助けないと言っているの」

「あたしはただ誰も死なさない気でいるんだ。そんだけだ」
130 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 04:30:23.03 ID:K+q61Ei9o

「だいたいその辺はまどか次第だろ?」


余計なことを言ってるな、と自分で思いつつ杏子は続けた。


「まどかが決断したらあんたはどうやってそれを止めるんだ?
殴って気絶でもさせるのか? 協力してやろうか?」


ほむらは挑発に乗らない。


「この話に関しては立ち入らないでほしい」

「わかったよ」


杏子はあっさり引き下がる。この話は終わりだ。


「それから」


ほむらがわずかに言い淀む。


「……グリーフシードについてだけど」

「ん?」

「ストックは、まだかなりある」

「そうなのか?! いつもいつもアレがなくなってグダグダになるじゃねーか」

「グリーフシードが切れで失敗したことも多いけど、そうでない場合も少なくなかった」

「まあ確かに。失敗のバリエーションはちょっとしたもんだよな」

「以前私の記憶を見てもらったことがあったわね」

「ああ」

「虚偽の記憶を作って見せたりはできないけれど事実を隠すことはできるの」

「ん?」

「QBと同じよ。うそはつかない。でも秘密は持てる」

「どういうことだよ」

「一人で戦おうと決めた時、とにかくグリーフシードを集めようと思った。
どれだけあっても足りなかったから………だからグリーフシードを集めるだけの周回も作った。


ほむらは変身して盾の中からばらばらとユニットバス一槽分ほどのグリーフシードを積み上げてみせた。

このひとつひとつがかつて魔法少女だったものだ。別時間のマミも杏子もさやかもここにいる。


「お、おいおい、すげえな」

「一ヶ月間これと武器をひたすら集め続けて見滝原が壊滅してから時を戻す、というのを繰り返したの」


(まあ、そうでもしなきゃこんだけ貯まるわけねーよな)


「誰ともまったく接触しなかった。ワルプルギスの夜が来て街が消えるまで淡々と作業しただけ。
感情を持たないQBみたいにね。大抵の場合まどかの魔女は現われたわ。そんな世界を捨ててきた」
131 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 04:37:31.24 ID:K+q61Ei9o


「私だって同じ立場ならそうしたと思うよ」


杏子がなんでもない風に言った。


(なんて顏をするんだよ)


「簡単に言うのね」

「けどさ、こんなにあるなら私らが今ガツガツ集める必要なくないか?
マミも私もこれほどじゃないにしろストックはあるぞ?」

「いいえ」


きっぱりとほむらが答えた。


「昨夜だけで八個ほど使った」

「一日でか、豪儀だなオイ」

「最終的にどれだけ残るかわからないし、戦ってみればわかるけれど
ワルプルギスの夜みたいな規格外と戦えばあっという間に魔力は減っていく」

「出し惜しみなんかできないんだろうしな」

「ええ」

「わかった、せっせと集めるよ」

「そうしてくれると助かるわ」

「うん」


杏子は腰を上げた。


「じゃあ帰る。余計なことしゃべらせて悪かったな」


ほむらは座ったままだ。


「んな顔すんなよ、ほむら」

「どんな顔をしているの?」

「まあ、またもし手伝えることがあったら手伝うから」

「……稀なことだとQBは言っていたわよ」

「かもしれないけどさ。ごちそうさん」


ひらひらと手首から先を振って杏子は出て行き、それを見届けてからほむらはぐったりと背もたれに身をあずけた。
132 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 08:06:42.00 ID:K+q61Ei9o


QBは「魔法少女の力は魔女からきている」と言った。

魔力の源であり、そこに元からあるものだと。


(ではそれは、私の土台となっているもの)


私とはなにか。


(今の私は実質これ)


掌のソウルジェムを見る。

マミはこれのことが頭から離れない。

「壊れる」と聞いたあの日からずっと。


(私は魔法少女、巴マミ)


そして


(魔法少女である巴マミはこのソウルジェム)


かもしれないが


(ソウルジェムは私)


という認識は難しい。


(だって、ソウルジェムを見ている私は何?)


身体など単なるハードウェアに過ぎない、とQBは言った。

しかし自身が身体に在る、という確かな感覚を消すことはできない。

言葉を紡いで思考するのはこの身体なのだから。


“君たちは個を大事にしすぎるね”


(QBと私たちは違いすぎる)

(そしてQBは、ウソはつかない)


QBにとっては人間の身体はあくまでも単なる外殻にすぎない。

スペアをいくつも持つ彼らであれば、そう言うだろう。

(QBは身体を軽く見すぎている。身体が一瞬で失われるようなことがあれば
ソウルジェムだって無事なはずはないのに)

(どちらかを失えば私という個体は存続できない。魔法少女システムによって
本来不可分な身体と魂を分かたれた存在になってしまった……)

(私という存在に深く根を張り食い込んでいるこのシステムは私にとって極めて不自然なもの)

(ソウルジェムが私に合わなくなってきている、と言ったわね)

(システムが適合しにくくなってきている、と)
133 : ◆GXVkKXrpNcpr [saga]:2016/09/23(金) 08:11:31.66 ID:K+q61Ei9o

精神的な変化、思春期の終わり、すなわち成長がシステムの不適合を起こすのならこれは魔法少女すべてに起こり得る。

だが個人差はかなり大きいとみていいだろう。

ふと、暁美ほむらの気持ちが理解できる気がした。

出会った頃の表情の読めない張りつめた雰囲気を思い出す。


(話すべきことを話すことができない。そんな状況もあるのね)


魔法少女の終わり方について得た新しい情報についてはワルプルギスの夜が終わるまで自分の胸に収めておく。

だが、まだQBは大事な情報を隠している。

なんとなく彼女にはそれがわかる。

マミは何度かコンタクトを取ろうとしているがインキュベーターは姿を現さない。

今までこんなことはなかった。


“悔いのないようにね”


(もちろんよQB)


マミはソウルジェムを見つめ集中する。

「私」に集中してみる。

肉体による思考活動を放棄することで「私」であるソウルジェムそのものを感じ取ることはできないだろうか?

そんなことを考えていた。

だが思考を止めることは難しい。考えないでおこうとするとなおさらに。

そこで魔力を使った。

直後、マミの身体は肉体の五感を失う。



そして、破壊され尽くした街に立っていた。遠目にいくつか見える見慣れた人影は。

そして、いつか見たことのある魔女結界内にいた。魔女の気配を辿って結界内を歩く。

そして、父母と談笑し、学校に行き、戦い眠り食べ笑い泣き怒り悲しみ喜び



………を通り抜けると黄色い光に包まれた。

魂に深く食い込んだシステムという、彼女の持つイメージが形をとってそこにある。

特定の感覚に頼ろうとするとすり抜けていく、定まりきらない像をマミは追う。

ようやくピントが合ってきた。
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