東郷あい「あちらを立てればこちらが立たず」

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1 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:22:59.34 ID:mFpjnES+0
18禁かつ若干もどかしい内容になっておりますのでご注意ください
2 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:24:46.54 ID:mFpjnES+0



アウトロの余韻がレンガ造りの壁に染み入ってゆく。
静寂の三秒前、そこここから控えめだが心地の良い拍手が起こった。

ぐるりと店内を見回せば、ゆっくりと拍手をする壮年の男性、目を閉じ聴き入るご老人、着飾ってはいるが気怠そうな女性、その女性にしか興味がなさそうな男、グラスを磨くバーテンダー。
バーでの過ごし方は皆それぞれだ。
本業の方のライブの歓声と熱狂とは比べるべくもないが、私はこの雰囲気が非常に気に入っている。

照明の絞られた店内では、ステージから一番遠くの席に座る連れの表情は分からないはずなのだが、彼の真摯な視線がありありと感じられた。

二呼吸の間拍手を受けさせてもらい、マイクを手に取る。


「ありがとう。このステージも次が最後の曲…」


言いながらこのバーのオーナーでもあるバーテンダーに視線を送る。


「最後はオリジナルの曲にしたいのだが…あぁ、お店の雰囲気を壊すような曲ではないことは約束するよ…」


数年来の付き合いのオーナーは「勝手にしろ」と言わんばかりの笑みをたたえて頷いてくれた。


「よかった。オーナー様の許可も出たな、フフッ…。曲名はあえて言わないでおこうか…。どういう曲なのか、耳だけで感じてみるのもまた一興だろう?」


戯言で本音を隠す。
耳だけで感じて欲しいというのも一演者としてはもちろん本心だが、肝心なことは別にある。
…この程度の不義理であればオーナーも赦してくれるだろう。


「……私の想いが届いてくれると幸いだ」


私の記憶が確かなら、彼にこの曲を聴かせるのは今回で2度目だ。
1度目のときは自己紹介がてらレパートリーの一つとして演奏しただけだったが、さて、彼は覚えていてくれただろうか…?

一番遠くの席を強く見つめてから、私はサックスに息を吹き込み始めた―――。


3 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:25:50.83 ID:mFpjnES+0

バックヤードで着替えと化粧直しを済ませて数十分ぶりに客席に戻ったのだが、テーブルの上は私がステージに立つ前と変わっていなかった。
どうやら私のステージ中、彼はおつまみにも飲み物にも手を着けていなかったらしい。


P「お疲れ様でした、あいさん。演奏、とっても良かったです」

あい「ありがとう。私もいつになく愉しかったよ」


なんの因果か、普段はアイドルとして煌びやかな世界に生きているが、ふとしたとき無性にこういう世界に浸りたくなることがある。
そんな欲求を発散させてくれるこの場所には本当に感謝しているのだ。


あい「好きに飲み食いしていてくれと言ったのに。まったく君は律儀だな、フフッ」

P「いえ…、あいさんのステージだと思うと、プライベートでもどうしても真剣になってしまって…」

あい「…そうだな。Pくんの熱い眼差しは感じていたよ。ただでさえ気分の高ぶるステージだというのに、君の視線のせいで体が熱くてしょうがなかった。私をこんなに興奮させて君は一体どうしようというんだい?」

P「んふっ!? あ、あいさん、またそんなことを言って…」


いつもの少しだけ際どいやりとり。
初めのころは面白いくらいにたじろいでくれたのに、最近では耐性ができてしまったのか、以前ほど賑やかな反応は見せてくれなくなってしまった。
それどころか…。


P「…ステージのあいさんが素敵すぎて目が離せなかったんですよ。出来ることならもっと間近で興奮したあいさんを見たかったなぁ…あはは」

あい「そ、そうか…それは流石に…困るな…」


それどころか、切り返してくることもある。
ジワリとした胸の奥のかゆみを努めて無視する。
ここが薄暗いバーで良かった。
多少顔色が変わったところで見咎められることはないだろうから。


あい「…で、では改めて、乾杯」

P「乾杯」


逃げるように乾杯で場を仕切りなおした。
グラスを軽く掲げて口をつけ、柄にもなく一気にカクテルグラスを空にしてしまう。


あい「んく、んくっ……ふぅぅぅ……」

P「あいさん、ペース早くないですか? そんなに強くないんですから無理しないでくださいね?」

あい「あぁ、大丈夫。これくらいなら、全然、大丈夫だよ」


とはいえ早速、胸が熱を持ち始めていた。耳もほのかに熱い。
皮膚の上に一枚薄い膜を張ったような感覚がある…だがこれを期待していた。
今日は彼に話したいことがあるのだが、いささか緊張する話なのだ。
私にもお酒の力を借りたいときはある。
4 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:26:55.82 ID:mFpjnES+0
あい「Pくん」

P「はい、なんですか…?」

あい「……………」


お酒で気を大きく装っても、それでもいざとなると、尻込みしてしまう。


P「あいさん…?」


いや、いつも通り、私らしくいこう。


あい「さっきの…最後の曲だが……」

P「ぁ………」


Pくんの顔から笑みが消えて、緊張の色を帯びる。
この反応はやはり覚えていてくれていたようだ。


あい「あれは…Pくんに向けて演奏した……。どういう曲か覚えているね?」

P「は、はい…」

あい「私の想いは、君に届いたかな…?」


初めて彼にこの曲を聞かせたとき、これはラブソングなんだと説明した。
『サックス吹きが愛しい人に贈るとしたらどんな曲になるか?』をコンセプトに作曲したんだと。
もっとも、作曲当時はこんな風に実際に使うことになるとは露程も思わなかったが。


P「………」


彼は目を瞑って一度深呼吸し、決心をしたように目を開く。
いつの間にか胸を叩く心臓の音がうるさいほどになっていた。






P「あいさん…ごめんなさい。俺はあいさんの気持ちを受け取ることが出来ません」






あい「………」


あい「…?」
5 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:27:40.76 ID:mFpjnES+0


可笑しい。
Pくんの声量は十分であったと思うのだが、言葉の内容が理解できない。
この文脈で何故そんな言葉が出てくるのだろう。
日本語によく似た別の国の言葉だったのかな?
まったくもって可笑しい。


あい「す、すまない、Pくん…よく聞こえなかった…」

P「……俺はあいさんの気持ちに応えられません。ごめんなさい…」

あい「ぇ…………っ」


聞き間違いでも、外国語でもない。
拒否。

何故だ?
私の見込みでは…そう見込みだ、期待なんかじゃない。
『〜だったらいいな♪』なんていう都合のいい期待なんかじゃなく、私と彼との関係を客観的に評価した上での見込みでは、承諾の答えが返ってくるはずだったのだが?
何故だ?
何故だ?


あい「なぜだ!?」


P「あ、あいさん…っ?」


驚いた顔のPくん。
気付けば水を打ったように静まり返ったバー。
他の客からの視線を感じる。ひそひそ声もする。
どうやら、自分で思ったよりも大きな声を出してしまって注目の的になってしまったらしい。


あい「ご、ごほん…失礼…」


わざと気障ったらしくグラスを掲げて見せ、なんでもないというアピールをして、どうにかバーの雰囲気を回復させる。
しかし、頭の中は乱れっ放しだ。

彼に恋人がいないのは周知の事実。
私がPくんにスカウトされてからというもの、他の誰よりも長い時間を一緒に過ごしてきたし、最近では際どいジョークを言い合えるほどに気心が知れている。
彼には私の他にも担当する子がいるが、公私に関係なく彼が一番気にしているのは私のことだという自負もある。
それに彼が私に熱の籠った視線を送って来ることがあるのは絶対に私の勘違いではない。
しかも彼は、アイドルの恋愛に関しても『露見しなければ良いのでは』というスタンスの人間だったはずだ。
何故なんだ?


あい「理由を…聞かせてくれないか…?」

P「そ、それは……」

あい「君と良い関係を築けていると思っていたのは私だけだったのかな…?」

P「俺も…っ! そう…思っています…。他に好きな人がいるとか、あいさんがダメだとか、決してそんなことではないです…。俺だってできることなら…できるなら…あいさんと……い、いえ……とにかく、全部俺の個人的な理由のせいで、あいさんの想いに応えることはできないんです………ごめんなさい」

Pくんが何か聞き捨てならないことを言ったような気もしたが、三度目のごめんなさいに完全に打ちのめされてしまって、それどころではない。

あい「ぁ…はぁ…はぁ……」


体に力が入らない。
胸がズキズキと痛む。
高山にいるように頭がクラクラする。
顔の表情が勝手に変わっていく…あぁなんてことだ…私は今涙を流そうとしているのか…!?
6 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:28:13.36 ID:mFpjnES+0


あい「く……っ!」


流石に失恋して涙を流すなんてみっともないところは彼には見せられない。
体に残る力をかき集め、どうにか白々しい笑顔を作って口を開く。


あい「あ、は、は、は…。み、見事に振られてしまったなぁ…」

P「あいさん…」


あい「振った張本人の慰めなんていらないよ……。そうだ…今日はとことん飲んでやろう…もちろん、Pくんも付き合ってもらうよ? フフッ…」

P「わかりました…。ただし、潰れるまで飲んじゃ駄目ですよ…?」

あい「あぁ…大丈夫だよ、大丈夫……」



胸の痛みはまだ引かない。
酔えばこの痛みを和らぐだろうと信じて、またグラスをあおった。
7 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:29:39.66 ID:mFpjnES+0





「らいじょうぶ…うん…らいじょうぶだから…」

「どこがですかっ!? あぁもう言わんこっちゃない! すみません運転手さん、コレで10分間だけ待っていてもらえませんか? 彼女を部屋に送っていったらすぐに戻ってきますから」


おやおや…最近のアスファルトはこんなに柔らかいのか…脚が沈み込んで抜けないぞ、困ったものだなァ…。
なんだこの地面、急に立ち上がって私に迫ってくるぞ…?


「あいさん!? 危ないっ!」


  ぼすっ


「んぷっ……? あぁ…あららかいなぁ…」

「ふぅ…よかった…あいさん? どこも怪我してないですよね?」

「はいはい…あいさんはげんきらぞ…そんにゃことより…このくっしょんがとっれもきもひいいんら……いいにおいもするひな……すんすん…」

「いや、あいさん!? 嗅がないでください! ほら、しっかりして! あいさん!」

「ゃぁぁああ…いくなぁぁくっしょんん…わらひのくっしょんんんん〜〜」


クッションの分際で勝手に動いて私から逃れるとは良い度胸だ…それにこのクッションは顔もついているらしいな…。
んん?コイツ…喋ってるぞ…???
よく見ればこの顔には見覚えが………。


「あぇ………?」


目の前にはこちらを心配そうにのぞき込むPくんの顔。


あい「………」


この数時間のことが走馬灯のように脳裡を駆け巡り、なぜ自分が前後不覚になるまで酔ったのかも完全に思い出した。


あい「ぁ…ぅぁ……」

P「あいさん…? 大丈夫ですか…?」


すぐ先の見覚えのある建物は私のマンションだ。


あい「すっ、すまない……もう大丈夫だ、一人で帰れるから…」


彼の脇を通り過ぎようと踏み出した右脚が地面に突き刺さり、あろうことかそのままズブズブと沈み込んでしまう。


P「あぁっ、ダメですって!」

あい「あ、あれ…?」


それは勿論錯覚で、膝に力が入らずただ膝を曲げてしまっただけだった。


P「……失礼しますっ」


Pくんに取られた左腕が彼の肩に掛けられ、右腰に回された腕に力が込められる。
彼の体に密着固定させられ、なんとか立ち上がることができた。


P「このままあいさんの部屋まで連れていきますね」

あい「あっ……す…いや…ありがとう…よろしく頼む…ぅ…く……」


さっき振られたばかりだというのに、しかも痴態といってもいい姿を見せつけてしまって、その尻拭いまでさせてしまっているのに、胸の甘い痛みを抑え込むことが出来ない。
なんという浅ましさだろうか…。
気恥ずかしさと自己嫌悪に顔が上げられない。
8 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:31:00.62 ID:mFpjnES+0


マンションのエントランスを抜けエレベーターホールへ。

胸は高鳴り続けている。
甘美な痛痒さ…。
しかしそれが許されるのも今夜までだ。
……。
正面からぶつかり玉砕した。
であれば明日からは、純粋に仕事上の良きパートナーとして振る舞うべきだ。
大人だものな…公私は分けなくては…。
そうだ…明日からは仕事のパートナーとして、こんな風に一方的に甘えることは許されない。
私は東郷あいなのだから。


  ぽーん♪


エレベーターに乗り込む。
鉄の箱に囲まれた狭い密室に私と彼の二人きり…。
あぁ、だめだ…。
脇腹と腕から感じる彼の体温。
鼻腔をくすぐる彼の生々しい匂い。
だめだ、だめだ…意識するな…意識してはいけないのに…。
明日からはもう彼にこんなに近づくことはなくなるんだ。
体で彼の温かさを感じて、汗の匂いを嗅ぐなんてことはなくなるんだ。
あくまで仕事のパートナーとして、一線を引いて彼と付き合わなくてはいけないんだ…。
男性としての彼は諦めなくてはいけないんだ…。


あい「………っ」


そんなの…。
そんなこと……。


  ぽーん♪


あい「……………できるわけがない」


口からまろび出た呟きは間抜けな電子音にかき消されてしまったらしく、Pくんがこちらを気にした様子はない。

彼にもたれ掛かりながら部屋の前までたどり着き、バッグからドアの鍵を取り出す。
その頃には胸の熱はそのままに、つま先から指先に至るすべての感覚が研ぎ冷まされていた。


あい「す
まないが、ベッドまでお願いできるかな?」

だが、浅ましい演技を続けよう。


P「は、はい…。寝室はどちらに?」

あい「あっちだよ…」


廊下の先の正面のドアを指差す。
ドアを進めばリビングで、さらにそこからもう一つドアをくぐればそこが寝室だ。


P「っと……じゃあ、下ろしますね」


まずは私をベッドに腰かけさせようとしてくれているのだろう、ベッドを背にしたまま二人して少しずつ腰を下ろしていく。
彼は私が勢いよく倒れ込んでしまうことを危惧しているのか、ベッドと腰の距離に注意を払っており、彼の表情を観察する私の舐めるような視線に気付いていない。
…好都合だ。


あい「……P…くん…っ!」

P「えっ!?ちょっと…っ!?」


  どさっ! ぎし……っ!
9 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:32:15.74 ID:mFpjnES+0
Pくんの不意を突いて彼をベッドに押し倒すのは実に容易かった。
すかさず鼻先同士が触れ合うくらいの間近に顔を近づける。
…近づけて彼の動きを牽制するつもりだったのだが…。


あい「ん…ふっ…ちゅっ…ぇぁむ…んくっ…」

P「んんんん〜〜〜〜〜っ!!??」


近づく瞬間に誤って唇同士が触れてしまったことで、私の箍が外れてしまった。
経験などほとんどないのに…いや、ない故に衝動に身を任せ、彼のことなどお構いなく一方的に唇を奪ってしまう。
思考もクリアになっていた筈であったが、実のところ私にはそれほどの余裕はなかったらしい。


あい「ちゅぷ………んっ…はぁっ!はぁっ、はぁ……あぁ…いけない…いけないよ、Pくん…」

P「んぐっ!?あっ、あいさんっ!一体なにをっ!?」


想い人の責めるような視線をゼロ距離で浴びながらも興奮が収まりそうもない。


あい「無理なんだよPくん…。振られたからって君を諦めるなんて無理なんだよ…っ」

P「そんな…!? こ、こんなの…あいさんらしくないですっ!」

あい「…いや、これが私だよ…フフッ」

あい「…私は…これまで欲しいと思ったモノはなんだって手に入れてきたんだ。なんだって、だ…。はぁ、はぁ…Pくんだって必ず手に入れてみせる…はぁぁむっ…んちゅぅ…」

P「んぁんん゛ん゛〜゛〜゛〜゛!!??」


彼の後頭部を掻き抱きながら、再び唇を奪う。
押し付ければ押し付けるだけ背骨が甘く痺れていく。
擦り付ければ擦り付けるだけ、しかし、物足りなくなってくる。


あい「はぁぁ…堪らない…。あぁ…Pくん…Pくん…」

P「だ、だめです…っ。お願いです…こんなことやめてください…」

あい「無理矢理なのは申し訳ないと思う…だが悪いようにはしないと約束するから…任せてほしい…」


口の中までは許してくれないが、どうやら彼に私を押し退けるつもりはないらしい。
であればと、一旦上体を起こし自らのジャケットとブラウスを手早く脱ぎ捨てる。
露わになるお揃いのブラ。


P「…だめです…それ以上は…」


彼の制止を無視して背中のブラホックに手を掛け、あっさりと外して乳房を彼の前に曝け出した。
だめだ、などと言いながらも、両方の先端に痛いほどの視線を感じることに羞恥とともに喜びを感じてしまう。


あい「フフ…どう、かな…? 形と色には自信があるのだが…」

P「……あぁ…くそ…やっぱり…だめなんだ………」

あい「?」


Pくんがどこか意気消沈してしまったようにも見えるが…彼も緊張しているということだろう。
10 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:33:44.89 ID:mFpjnES+0
体を折り、彼に抱き付く。当然、意識して胸を押し付ける。
顎にキスをし、首を甘噛みし、鎖骨を唾液で濡らす。
少しづつ下へ…。
彼を抱きしめた腕を解き、手のひらで胸を摩りながら脇腹を押し、腹筋の硬さを味わう。
もっと下へ…。
意味ありげに、下へ…。

スラックスのベルトに手が触れたところで一度彼の顔を見やると、彼もこちらを見ていたらしく目が合った。
自分から動くことはしないが、逃げもせず、拒むでもない。
その彼の態度に、なし崩し的にではあるにせよ、受け入れられたと思ったんだ…。


あい「どうやら覚悟を決めてくれたようだね…本当に嬉しいよ…」

P「あいさん…だめだ……っ」

あい「フフッ……では……」



そうして、彼の股間へ手を伸ばし……






  ふにょん




あい「…………ぇ?」


全く予期していなかったその柔らかさに、私が今何をしているのかが分からなくなってしまった……。


  ふに ふに 


あい「あ…あれ……?」


  さわさわ さわさわ ふよん


あい「これは…いったい…?」


試しに周辺を触ってみても、上にも下にも左右にも硬くて大きなモノはなく、あるべきところにはやはり柔らかいままのモノがあるだけだった。
まだ『成長途中』だとかではない。
熱が全く感じられなかった。


あい「Pくん…これはいったい、どうしたんだ…?」


簡略的ながら十分に官能的な愛撫だったはずだ。
容姿にも自信がある、肌も晒している。
にもかかわらず、兆しさえ皆無であるというのは私の知識上あり得ないことだった。


P「…だから、だめだって…言ったじゃないですか…俺は…だめなんですよ…」


自分の腕で顔を覆った彼が呟く…。
その声は消え入りそうなほど小さく、それにもかかわらず悲しみの音色が支配していることがはっきりと分かってしまった。
11 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:34:55.19 ID:mFpjnES+0


あい「P…くん……?」



P「お、俺は………インポなんです………ぅっ…くっ………」




腕の隙間から一筋の光が流れ落ちた。
一体全体何が起こっているのか?
いんぽ?
いんぽといったのか、Pくんは。
あのインポのことだろうか?
しかし、それは彼のような健康な男性が罹るものだったのか?


あい「い…いんぽって……?」

P「お、オナニーはできるんです…で、でもいざ誰かとするとなると勃たないんですよ! 勃起できないんです…っ」

P「愛する人を抱けないなんて…こ、こんなに…こんなに惨めな思いをするくらいなら…恋人なんて…いらないっ!いや、俺みたいなふ、不能が!あいさんの恋人になんてなっちゃいけないんですよっ!!」

あい「ぁ……っ」


愛…、愛してくれているのか?
恋人の行為ができないから、愛していても私を慮って身を引こうとしている?
そんなこと…っ!


あい「そんなこと気にしなくていいっ!私は別にできなくたっ」

P「できなくてもいい、なんて、言わないでくださいよ?」

あい「っ!?」

P「初めはそう言ってくれても…すぐに、すぐに……っ!なんでこんな当たり前のことがってっ!愛想を尽かされて…っ!うぅぅっ……」


女である私には男の、しかも、その中でも少数の特有な悩みを本当の意味で理解することはできないのかもしれない。
そして彼が辛い思いをしてきたのは事実なのだろう。


だがしかし。

しかしだ!


Pくんからそんな程度の理由で去っていったような女どもと私を同列に語られるのは心外だ!
我慢できないほどに腹立たしい!

なんていうことだ、Pくんよ。
君は案外私のことを知らないんだな…。
おっと、それは私もだったか。
彼がこんな悩みを抱えていたなんて想像だにしなかったからね。


そうか…お互いまだ知るべきことがあったと、ただそれだけのことだったのか…フフッ。
12 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:35:59.61 ID:mFpjnES+0


あい「Pくん」

P「………なんですか、あいさ」

あい「んちゅぅ…はぁぁっむゅぅ…ちゅぅちゅレぉ♥」

P「はぁんん゛ん゛!!???」


彼の私への気持ちが分かった以上、もう何の憂いもない。
遠慮もしない。


P「んぐっ…な、なんなんですか!?俺の話を聞いてましたか…っ?」

あい「はーっ、はーっ……Pくんの…その…イ、インポは…もう治らないのか?」

P「………いえ…医者にも原因は精神的なものと言われていますので…治る可能性はあるらしいです…」

あい「そう…か…ちなみに、精神的というのは?」

P「俺は…怖いんです…。拒絶されるのが、落胆されるのが、振られるのが…。そういった恐怖感がストッパーになっているみたいなんです…」

あい「ほう…ならばどれだけ私がPくんに夢中かを伝えて安心させてやればいいのかな…?」

P「はぁ…? まぁ……要するに、たぶん、そういうことですが……」


言葉にしてしまえば簡単なことに思えるが、本質的にはトラウマの克服だ、実際は難しいのだろう。
だが、可能性がゼロでなければ何も問題はない。


あい「Pくんは否定するかもしれないが敢えて言おう、私は別に君と性交できないとしても構わない!」

P「はは……気持ちは嬉しいですが、言うだけならどうとでも言えますからね……」

あい「とはいえ!できるなら、それに越したことはないと思ってしまう。だから…」

P「……」

あい「あ、そうだ…今日はウチに泊まっていくかい?」

P「ぇ? いえ…帰ります。帰らせてください…」

あい「そうか…。まぁ、今日はそれで良いだろう。だが、明日からは……フフッ…」

P「?」


久方ぶりの難題に胸が躍る。
脳内では解決のための手だてが既にいくつも浮かんでいた。
13 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:36:52.09 ID:mFpjnES+0

P「…あの、あいさん…そろそろ胸を隠してください」

あい「ん?」


言われて視線を下方に落とすと露わになったままの乳房が二つ。
Pくんは気まずそうに目をそらしていた。


あい「おっと失敬…」


すぐにブラへと手を伸ばしたが、はたと気付く…。


あい「別に恋人になら見られても構わないよ? ほら…好きに見ていいぞ…?」

P「こ、恋人って…?」

あい「お互い愛し合っていることを確認できたんだ、これはもう恋人という他ないだろう?フフッ」

P「んんん…? ぁぁもう…それでいいです……」


多少投げやりだったのは気に入らないが、言質も取れたことだしOKとしようか。


P「でも…恋人だからって、恥じらいが無くなると見飽きちゃいますよ…?」

あい「な…っ!? み、見るなPくん!」

P「はいはい、あいさんの裸なんてそうそう見飽きたりしませんよ…」


流石は私が見込んだ男だ。
ついさっきまで泣いていたのにこの私に一杯食わせるとは、やるじゃないか。


P「ははは…では、帰ります。おやすみなさい、あいさん…」

あい「あぁ、おやすみ、Pくん。また明日からよろしく頼むよ」


玄関まで行こうとしたが、下着姿だからと遠慮されてしまったためベッドから彼を見送った。




それにしても今夜は想定外のことが起こり過ぎた。
顔の表情が定まらない。ニヤケていいのか、困ればいいのか…。

ベッドに仰向けに大の字になって深呼吸してみれば、下腹部に重い熱がまだ渦巻いていることに気付いた。
彼に好き勝手口づけをして肌まで晒したのだ、無理もない。


あい「フフッ…明日から愉しくなりそうだ……………んっ♥」
14 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:37:59.56 ID:mFpjnES+0


―――――
―――




どれだけ衝撃的なことがあっても朝が来れば出社しなければならない。
幸いにも昨日の酒は残っていない。
睡眠時間は十分とは言えないが、それはいつものことだ。
今日の予定はほとんどルーティンワーク、つまり半分寝ていても務まるような楽な日。
にもかかわらず、重要なプレゼンがある日よりも社屋に入る足は重かった。


P「はぁ……」


どんな顔をしてあいさんに会えばいいのか?
想いを告げられて、振って、半ば襲われて、インポがばれて、それでもなぜか恋人になれてしまった。
……意味が分からない。
男前な彼女にふさわしいプロデューサーたろうと、積み上げてきたものが跡形もなく崩れ去ってしまった気がする。
あいさんとのこれからの付き合い方はどうしたらいいのだろうか?どうなるのだろうか?
昨夜から相変わらず空転しっぱなしの思考にうんざりしながら、事務所のドアを開いたのだが…。


「やぁ、来たね。おはよう、Pくん」


俺を出迎えたのは今一番聞きたくない声だった。


P「あいさん…っ!?」


彼女の今日のスケジュール的に、たとえ顔を合わせる機会があったとしてもそれは午後以降だろうと高をくくっていたところへの不意打ち。


あい「フフッ…」


あいさんがはまぶしいくらいの満面の笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がる。
よく見れば彼女が座っていたのは俺のデスクの椅子だった…。
既に出社していた数名の同僚も、朝にふさわしくない快活な美声に何事かと顔を上げている。

モデルのようなこなれたキャットウォークで一直線に俺へと近づいてくる麗人。
嫌気がさすほどに面白みのない事務所がいつのまにやら、煌びやかなランウェイへと変貌していた。


P「ぅ…ぁ……っ」


入り口で立ち止まったまま思考停止して微動だに出来ないでいる俺を余所に、あいさんはどんどんと距離を縮め、縮め…縮め…!!


  ぎゅうぅぅ〜〜〜


P「!!!????」
15 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:40:09.57 ID:mFpjnES+0

俺の足元に至るまで歩み続け、そのままぶつかるように彼女は抱き着いてきた。
頬を撫でる黒の艶髪から漂うかぐわしい香り。
華奢なくせに柔らかいという半矛盾。
融けてしまいそうなくらい心地の良い彼女の体温。
ショートしっぱなしの貧弱な脳みそ。
ざわつく同僚たち。


P「あっ…いさん……?」


かろうじて動いたのは口だけ。
その問い掛けも彼女は意に介さずゆっくりと一呼吸し、顔を上に向ける。
彼女の吐息が俺の耳をくすぐるのと、俺にしか聞こえない小さな甘い声で囁き始めたのは同時のことだった。


あい「Pくんは昨夜はよく眠れたかい?私はぐっすりだったよ。
  今朝ほど目覚めの良い朝は生まれて初めてだった。Pくん…会いたかったよ。
  フフッ、昨日も日付が変わるまで一緒にいたというのに、早く会いたくて仕方なかったんだ…。
  なんせ君と恋人同士になれたんだから…。
  それで居ても立っても居られずにやることもないのに来てしまったんだ。
  いや、やることはあるな…こうして君に抱き着くことが出来る。
  …そうだ、今日は私の仕事の時間までずっとこうしていて良いかい?
  なぁ、良いだろう?仕事の邪魔はしないから…フフッ、大丈夫だよ冗談さ。
  あぁ〜Pくん…今日も素敵だよ」


P「」


あい「でも、こんなに君を近くに感じていると…ぁ…やっぱり…いけないな…
  昨日三回もしたっていうのに…いや、三回もしたからかな?
  Pくんを見ると反射的に下腹部が疼くようになってしまったのかもしれないね…」


P「」


あい「朝の挨拶はこれくらいにして…私はこれからお花摘みに行こうと思うんだが、Pくんはどうする?
  一緒に来るかい?あぁ、多目的トイレの方だよ?
  私が処理するのを見てるだけでもいいし、手伝ってくれてもいいし…それとも…」


  さわっ…ふにょっ


P「」


あい「フフッ…想定内さ。むしろこれで硬くなっているようなら張り合いがない。
  まだまだ始まったばかり…所謂あいさつ代わりのジャブだよ」


P「」


P「」



P「…ハッ!?」
16 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:41:21.57 ID:mFpjnES+0


あいさんの囁きが一段落したらしく、耳にかかる吐息が無くなったことで意識を取り戻すことができた。
もしかすると心臓が止まっていたかもしれない。
相変わらず抱き着いたままのあいさん。
怪訝な視線を送って来る同僚たち。
出社と同時に担当アイドルに抱き着かれているという状況。
…どう見ても常軌を逸している。
朝一だというのに、冷や汗が背中をぐっしょり濡らしていた。
もう力技しかない…。


P「あ、あぁぁ〜〜、ド、ドラマの演技の練習ですねぇ〜〜。演技の練習、演技の!練習っ!いきなり演技の練習始めちゃうんだもんなぁ〜〜び、びっくりしちゃいましたよ〜〜」

あい「………フフッ」

あい「で……どうだったかね?私の演技は」

P「そ、そうですねぇ……反省会をここでやると、他の人のお仕事の邪魔になっちゃいますから……か、会議室に行きましょうか。会議室!さあっ!ほらぁっ!早く…っ!」


  チッ ナンダヨ ドラマノ レンシュウカヨ ツマンネーナァ
  マンガイチニモ トウゴウサンガ アイツニ トカ ソンナワケネーヨナ
  サッ シゴト シゴト〜〜


あいさんの普段の素行の良さのおかげか、強引すぎる誤魔化しはなんと通ったらしく、同僚たちの興味は目の前の仕事に戻った。
そのことにひとまずは胸をなでおろし、彼女を連れ近場の会議室に入り込む。
そして開口一番…。


P「こらーーーーっ!!!」


  ぽこん


あい「ぁうっ」


叱責の言葉とともに、蟻も殺せないようなやわらかチョップを脳天にお見舞いした。


P「あなたはっ!痴女ですかっ!?」


  ぽこっ

あい「ぅくっ」

P「朝っぱらから事務所で抱き着いて耳元で囁いて…あまつさえ…あまつさえ!!チ…股間を撫でるとかっ!あなたはっ!痴女なんですかっ!?」


  ぽこん

あい「んっ」

P「ふぅ〜〜ふぅ〜〜ふぅ〜〜」

あい「大丈夫だ、問題ないよ。誰からも見えない角度で触ったからね?そこは抜かりないよ。フフッ」


  ぽこんっ


あい「ぅぁん」

P「見られてないならOKって、それまんま変態の論理ですから…」
17 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:42:22.11 ID:mFpjnES+0
P「はぁ〜〜…………あいさんがあんなことをするなんて…なんでこんなことに…」


とりあえず言いたいことを吐き出すと脱力してしまい、がっくりとうなだれてしまった。
あいさんは俺が叩いた頭を形容しがたい表情で撫でている。これは彼女のニヤケ顔なのだろうか…。


あい「意外だったかい?でも、私にとってはいつも通りだよ?」

P「はぁ…?」

あい「目的を達成するために最善手を選択しているに過ぎない。…まぁ、昨日の今日で少々抑えが効かなかったのも事実だが…不快だったかい?」

P「そ、それは…」


あいさんほどの美女に抱き着かれて耳元で囁かれるなんて、普通の男なら歓喜するだろう。ひょっとすると、それだけで射精する奴もいるかもしれない。
生憎、俺にとっては背筋を多少震わせる程度で、やはり下半身の性感には繋がらなかったが。
彼女の匂いと柔らかさと温かさを思い出す…。
あれが不快な筈がない。


P「不快なわけないじゃないですか…。いえ…俺のためを思ってあいさんがしてくれることなら…なんであれ嬉しいですよ…」



そうだ…。
なんだかんだと言いながら俺は嬉しいんだ。
もう何年もセックスできていない。
風俗でもだめ。
これはもう本当に一生無理かもしれないと、ほとんど諦めていた。
あいさんへの想いもずっと秘めたままにしようと思っていた。
それがこの展開だ。
もしかしてあいさんとならば…。

………。

そのときようやく、昨夜のこととこれからのことが俺の中で整理できたような気がした。
18 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:43:18.06 ID:mFpjnES+0
P「俺は…実のところ…嬉しいです。あいさんの恋人になれたことが…。あいさんが俺のことを考えてくれるのが…」

P「あいさんとなら…俺も普通に戻れるのかもしれないと期待もしています。あぁ…俺、最低ですね。そんなにヤリたいのかって話ですよね…」

あい「……」

P「でも、どうかお願いします…。どうか俺を助けてください…。俺を…見捨てないでください…」


なんというみっともなさだろう。
自分よりも年下の女性に助けを請い、捨てないで、などと。
しかもそれが心の底からのまったくの本心なのだから。


あい「承知した! いや、承知している!」


自己嫌悪に飲まれる数瞬前に、しかし、彼女はあっけらかんとそう言ってくれた。


あい「昨日も言ったが、私だってできるならしたいさ。だからお互い様なんだよ。キミは安心して私に魅了されればいい。フフッ」

P「あぁ…あいさん…ありがとう…」


  ぎゅうぅぅ…


あい「ぁ……っ」


やっと自分からあいさんを抱きしめることが出来た。
心なしかさっきよりも彼女の体温が高い気がする。

安心する…。
ここ何年かは人を抱きしめたところでインポのことが気になり、むしろ不安になっていたのだが。
ハグがこんなにも心地よいものだったということをようやく思い出した。

あぁ、だけどこれは言っておかないと…。


P「あの…人目のあるところでは、さっきみたいなのはダメですよ…?」

あい「分かっているよ…フフッ」

あい「Pくんへの誘惑は続けていくとして…、それとは別に次のオフだが、一緒に過ごすのはどうかな?」

P「ええ、喜んで」
19 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:44:10.22 ID:mFpjnES+0



―――――
―――




あいさんとプライベートで外出したことはこれまでにも何度もあった。
恋人になったからといってその内容は特に変わったりすることはなく、お互いの興味のある場所へ何か所か訪れ、最終的にいつものバーにたどり着く。
これまでと違うのは、バーを出た後に解散とならないこと。
特に示し合わせたわけではないが、自然な流れで俺のマンション前で一緒にタクシーを降り、彼女を部屋に招き入れた。


あい「思ったよりも片付いているみたいだね…フフッ」

P「えぇ、昨日掃除しましたから」

あい「なるほど…君は昨日から私を連れ込む気満々だったというわけだな」

P「うっ…」


してやったりといったようにニッコリ顔の麗人と、図星を突かれ汚い笑いでごまかすしかないみっともない男…。


P「そ、その通りでございます…。今日のために手に入れていた良い紅茶がありますので、じゅ、準備してまいります…」


見透かされた恥ずかしさに居たたまれなくなって、彼女をリビングに残し逃げるようにキッチンへ向かった。

紅茶を用意して戻ると、彼女は上着を脱いで淡い色のワンピースのみの姿になってソファに掛けていた。
平静に戻りかけていた胸の裡が別の意味でまた軽く跳ねそうになる。


P「はい…どうぞ…」

あい「ありがとう、頂きます」

あい「……良い香りだ…んく……うん、美味しい…」

P「あぁ、良かったです。ごくっ…お、我ながらなかなかの味…」


俺もカップに口を付けながら彼女の隣に腰かけた。
何を話すわけでもなく微笑み合いながらこくこくと紅茶を飲む…。
カップの残りが少なくなってきてようやく部屋がしんと静まり返っていることに気付いた。


P「あ、テレビでもつけましょうか…」

そう言ってテーブルの上のリモコンに伸ばした手にあいさんの手が重なる。

あい「いや…それよりも音楽の方が良いな…」

P「…そ、そうですね…じゃあ…」
20 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:45:22.22 ID:mFpjnES+0
テレビのリモコンを掴もうとしていた手を、そのまま同じくテーブルの上のオーディオのリモコンに伸ばし操作する。
トラックを何曲分か送りゆったりとしたジャズを出し、音量を調整するまで彼女の手は俺の手に重ねられたままだった。
そしてその操作中、顔に彼女の視線を痛いくらいに感じていた。
あいさんの顔が近くにあり過ぎて、逆にこちらから彼女の方へ向き難い。
リモコンをテーブルに置き、妙な緊張感を感じていると…。


あい「…ん、ちゅ」

P「あっ…」


彼女の顔が更に近づく気配とともに、頬に柔らかいものが当たった。
頬と耳の間に微電流が走る。


あい「……フフッ」


たまらずあいさんに顔を向けてみれば悪戯っぽい笑みを見せてくれる。
心臓を優しく握られたような心地の良い息苦しさに、また彼女に一段と惚れてしまったことに気付いた。


あい「……どれ、私の為に部屋を掃除しておいてくれたPくんに感謝して、マッサージでもしてあげよう…」

P「え? マッサージですか…?」

あい「まずは…手からだな…」


右手があいさんの両手に取られ、人差し指を握られる。


あい「ん…んっ…♪」


  ぎゅぅぅ〜〜……すぽっ


握られた人差し指が絞られるように圧迫され、そのまま引っ張りながらするっと離される。


P「あ…気持ちいい……」


次は中指に同じことをされる。
そして、薬指、小指、親指…。
指先に淀んでいた血液が循環し始めているように感じられる。

5本の指を圧迫し終わると手のひらが揉みこまれていく。


  ぐにっ ぐに ぎゅぅ くにっ


あい「ここは肝臓のツボ…こっちは…腎臓だったかな…ん♪」


単純な圧迫にも関わらず気持ちがいい。
彼女の指の力ではどう揉まれても気持ちよくにしかならなさそうだ。
21 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:46:28.59 ID:mFpjnES+0
あい「よし…こっちの手はこのくらいかな…」


手のひら全体が満遍なく揉み解されると、彼女の手が止まった。
次は左手かと期待したところで、右手が彼女の口元まで持ち上げられ…。


あい「んっ♪ ちゅ、ん、んちゅ♪んっ、ん♪」

P「ぁ……っ」


手のひらと五本の指にキスをされた。


あい「ふぅ…左手を貸してもらえるかな…?」


俺の驚きも無視して何事もなかったように左手にも同様の指圧を加えていく。


  ぎゅぎゅぅぅ〜〜……すぽんっ
  ぎゅう〜〜 ぐにっ くにくにっ 
  もみっ ぐに ぐにっ ぎゅうっ……


あい「ふむ…こんなものかな…」


手のひらのマッサージが終わる。
ということはこちらの手にもキスが…と期待が高まり、彼女の唇に不躾な視線を送ってしまった。
彼女のキスを今か今かと待ち構える。
だが、彼女はそのまま動かない。


P「…はぁ…はぁ……ごくっ…」

あい「…………」

P「………?」

あい「そんなに物欲しそうな目をしてどうしたのかな?フフ…」

P「!?」


意地が悪い…。
期待させるようなことをしたのはそっちのくせに…。


P「……っ」


強がってみせようかという考えが浮かんだが、左手が既に求めすぎていて切なさを訴えているのを無視することはできなかった。


P「左手にも、その…き、キスを……」

あい「ほぅ…女にキスを強要するのか、君は…」

P「えっ? いや…そういうつもりじゃなくて……っ」

あい「フフッ……冗談さ」


ようやく左手があいさんの口元まで引き寄せられ、彼女の口づけが始まった。


あい「んっ♪ ちゅ、ちゅ、ちゅぅぅ…、ん♪、んんっ♪………ふぅぅぅ」
22 : ◆ao.kz0hS/Q [sage saga]:2016/10/07(金) 20:48:57.93 ID:mFpjnES+0
左手へのキスを終えた彼女はどこかうっとりとしているように見えた。
ほとんど無意識的に彼女の両手を自分の口元に持っていき彼女がしてくれたのと同様に、いやそれを遥かに超える執拗さで口づけを繰り返した。


あい「ぁ…ぅくっ…んっ…ふぁ……♥」

P「はぁっ、はぁっ、はぁ……んちゅ……っ」


あいさんが手指を満遍なくマッサージしてくれたお返しとばかりに。
手のひらも、指も、甲も、爪も、指先も、指の股も…。


あい「こ、これは…んくっ♥ 悪くないな……んっ、ふ♥」


もっとも、俺なんかのキスではまったく釣り合わないだろうが。


あい「はぁ、は
ぁ…ま、まだマッサージは終わっていないよ…?」

俺にされるがままになっていた両手が彼女の元に帰ってしまう。
それも束の間、彼女に促されるままにワイシャツを脱ぐと、俺の右手首が両手で握られ、揉み解しが始まった。


  ぎゅぅ さすさすっ ぎゅぅぅっ さわっさすさすっ むにゅぅ〜〜


手首から肘に向かいさらに肩を摩ると彼女の両手が離れる。
そして…。


あい「はぁ、はぁ…んっ、ちゅっ、ちゅ…んっ、んちゅっ、はっ、はぁっ…んっ♥」

P「ぅぁっ…くぅ…」


手にしてくれたのと同じように、腕に、肘に、肩にあいさんの唇が押し付けられていく。
彼女の唇が触れたところがじわぁっと甘く痺れ、一回ごとに胸の鼓動が早まる。


  さすっ ぎゅぅ ぎゅっ さすっ…


あい「はぁ、はぁっ…あぁ…はぁ…っ」


左腕へのマッサージは、初めの手のひらへのものと比べると随分と性急でぞんざいになっていた。
しかし、その代わりとでもいうように…。


あい「んんっ…はぁんちゅ…ちゅぅ〜んっ♥ ん、んっ、んっ♥ んん〜〜〜♥」


熱烈なリップサービスがより大きな満足感を与えてくれる。
左肩に長いキスをしてくれたあいさんとねっとりと見つめ合い、今度は俺が彼女の腕を取る。
手首の脈動が唇で感じ取れそうなほど強く押し当て、離すことすら億劫になってそのまま彼女の艶肌を遡上していった。


あい「ふっ…っぅあぁ♥ んふっ…くっ♥ んぁ…っ!」


肘を超えたあたりから、鼻呼吸で取り入れる空気にあいさんの匂いを強く感じ始める。
胸をズキズキと、首筋をゾクゾクとさせる甘い芳香…。


あい「ぅぁ…P…くん…鼻息が…んぁっ…荒い、ぞ……んっ♥」
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