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ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:23:19.19 ID:8mU1puuW0





           ※ - 序幕 - ※



  prologue<プロローグ> 〜 7歳の修士、忘れ去った思い出 〜







3 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:23:46.31 ID:8mU1puuW0




 その日は、一際暑い一日だった


 降り注ぐ猛暑が石畳を熱し、雑踏を奏でる靴底にさえ悲鳴をあげさせるのではないかと心配する程だった
額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…


心なしか、夏の風物詩たちの鳴き声すら力無いように感じられる






その子供は修士のローブを身に纏い、そんな光景をぼんやりと眺めていた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯に噴水広場で座り込み
虫取り網や空っぽの虫籠をぶら下げた同世代くらいの少年たちが走り回る姿をただ、ただ見ていただけだった



「…どうしよっかなぁ」パタパタ



齢7歳、行き交う人々を眺めながら―――――彼は考えなしに飛び出したことをちょっぴりだけ後悔していた

歳相応に脚をばたつかせる、2本の脚が左右交互に宙を掻き分け、その度の影も動く


長く伸びた癖の無い銀髪、風に靡くキラキラとしたソレは噴水の水面に煌めく陽光の輝きにも勝るとも劣らない



「帰ったら、きっと先生達にまたお仕置きされるだろうなぁ…」



眼を細めて空を仰ぐように見つめる、眼界にはどこまでも蒼い空があり、その蒼さに吸い込まれていきそうな気さえした
 着の身着のままで森の奥の奥、誰に見つかることも無いであろう施設から大人の監視を掻い潜ってでも観たかった外


書物の上のインクでしか知り得なかった事柄や挿絵の中だけの情景、触れることができるのか、っと淡い期待を胸に
飛び出して来たが世の中というのはそこまで甘くなく

結局の所、知りたいと思った世界の1/10にすら満たなかった




…いや、1/10だから実りは有った、0じゃないのだから、有ったのだ








「…んんっ?」





彼はそれを見つけた


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった




4 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:24:17.66 ID:8mU1puuW0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人


猛暑日を肴に冷酒を嗜む、そんな夏の風物詩を満喫する通行人の顔が目に入る






その子供は修士のローブを身に纏い、木の根元に腰かけ書物を読んでいた
 半刻ほどで時計の短針は正午を告げるだろう時間帯にポプラ並木の木陰で捗らない読書にため息を吐いた
どうしても学院に居たくなかった、だから外へ飛び出したが失敗だったか、っとうんざりしていた



「……よくもまぁ駆けずり回れるものだ」



齢7歳、時折手にした書物から視線を外し―――――彼は何も考えずに溌剌と動き回る同世代に聴こえぬ言葉を放つ

歳の割りに大人びて見える彼は、そんな口調とは裏腹に羨望の眼差しを向けていた


束ね上げた長く艶やかな金髪は肩から流れるようで、丈夫な寿樹を背もたれにしていた彼の白い肌は雪のように美しい



「…我ながら馬鹿な事をした、抜け出せば帰った後がどうなるかわかるだろうに」



眼を細めて考えたくも無い事柄から逃避を図るように紙の上の文章へ眼を向ける
 この国一番の荘厳な創りの学院から、愛読書という名の教科書片手に窓から飛び出した


すこしだけ外の世界には興味があった、それが彼の知的好奇心を刺激する事もさることながら
気に入らない教師に教鞭を振るわれるのを嫌っていたという事も手助けしたのだ

何でも良い、何だって良いから適当な理由をこじ付けて逃げ出したかったのかもしれない




…我ながら馬鹿な事をした、と後々後悔すると分かっていてもせずにいられない若気のなんとやらだ








「……なんだ?」





彼はそれと目が逢った


思えばそれは見えざる手によって手繰り寄せられたとも言えなくもない邂逅だった




5 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:24:54.78 ID:8mU1puuW0



「ねぇキミ、僕と一緒に遊ぼうよ」

「お前と遊ぶ理由が無い、去れ」




初対面の少年に彼は手を差し伸べ声を掛けました

初対面の少年に彼はそれだけ言い放つと再び本に視線を戻しました




「えー、なんでさー」

「なら答えてみろ、俺がお前と遊ぶ理由があるか、言ってみろ」



少年は初対面の彼に問答を投げました

少年は初対面の彼からの謎かけの答えを探しました




「理由?そんなの簡単さ」

「簡単なモノか、嘘をつくな」



少年は初対面の彼に対して朗らかに笑いかけました

少年は初対面の彼に対してムッと頬を膨らませ怒りました










           「だって、キミはさっきから友達と遊んでる子をじーっと見てたもの」





少年は回答を口にしました

少年は回答を耳にしました




「どうかな?」

「…」



彼は口を開きました

彼は口を開けなくなりました





ずばり、彼の心の内を言い当てたのです、正解でした

ずばり、彼は言い当てられたのでした、驚きました

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:25:20.29 ID:8mU1puuW0

「本当は誰かと遊びたいと思ってるよね、でもお友だちがいないから一人で本を読んでる」

「仮にそうだとしたらなんだ、それとお前と俺が遊ぶ理由に繋がらないぞ」








首を振り、本の文面から視線をあげて銀髪の少年を見つめる

金色の糸がはらり、と肩から零れ落ちる




何処に行く宛ても無く、知り合いも居らず、頼れる者もなく、無計画に飛び出した

何をすれば好き事かもわからず結局のところいつもの書物を読み漁る"フリ"をするしかない




ただ、ただ…羨望の念に駆られて他者を見ているしかないだけの、そんな自分を








目の前の少年はそんな彼を言い当てたのだ




出会って間もない、名前も知らない彼に自分の立場を言い当てられた








「あるよ、僕も同じだから」

「なんだと」







「僕もお友だちがいないから、ぼんやり見てるだけしかできないから
                だから、僕とお友だちになってほしい、僕と遊ぼうよ」







「つまり、"お前とお友だちになればひとりで本を読む理由が無くなる"と」


「うん、僕もお友だちができて遊べるし、キミもじーっと見てるだけじゃなくて済むよ」



「それが"お前と遊ぶ理由"だというのか」


「そうだね、それが"キミと遊ぶ理由"になるね、ほらね簡単だったでしょ」


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:25:56.66 ID:8mU1puuW0

「面白い奴だな、いいだろう」

「ありがとう、キミも中々面白いと思うよ」





この時、しかめっ面しかしていなかった彼が初めて微笑みました、心からの微笑みでした

この時も、その前からもずーっと笑っていた彼は一層明るく笑いました、心からの喜びでした




同じ背丈、同じくらいの歳頃、両手を合わせてみれば鏡に触れたようにピッタリな手の大きさ





整った顔立ち、傍から見れば女の子に間違われてもおかしくない端麗さ
















           なにもかも "生き写し" のように そっくりな ふたり は 歩き出しました












 これは、15年後…此処、魔法大国の"リージョン"として名を馳せる[マジックキングダム]にて
運命の日を迎えであろう少年たち2人の忘却の彼方へ置き去りにされた思い出







      この運命的な接触から15年の歳月が流れる…


*******************************************************
――――
―――
――



8 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:28:20.05 ID:8mU1puuW0
【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






              ブルー「…行くか」






 艶やかな蜂蜜色の髪を束ね、藍色の術士の法衣に裾を通し、22歳になった彼は長年暮して来た寮の部屋を発つ
後に使うであろう者の為に整理整頓をしっかりとし、修士修了の日を迎えようとしていた



教員a「修士ブルーよ、ついてくるが良い」



 重々しい声色が扉越しに彼を呼んだ、名を呼ばれた彼はゆっくりと瞼を開き廊下で待ち構える教員の後に続く





*******************************************************
【旅立ちの日 時刻 12時00分】



シュルッ…  スッ―――






           ルージュ「この部屋ともお別れか、なんだか寂しいなぁ」






 待っている間が暇なのか、するべきことない彼は癖の無い長く伸びた銀髪を弄っていた、朱色の術士の法衣に裾を通し
齢22歳の彼は椅子に座って脚をパタパタとさせていた
 時折欠伸をしたり腕を伸ばしたりと呑気に修士修了の日を迎えようとしていた



教員b「修士ルージュよ、ついてくるが良い」



 重々しい…が、何処となく哀しそうな声が彼を迎えに来た






コツッ…コツッ…




 教員b「…数年も前からお前には言っていたな、お前に双子の兄が居ること」


 ルージュ「はい、先生…えっと、僕と同じで兄も今日、学院を発つのですよね?」


 教員b「……そうだ、それと無理に敬語は使わんでもよい、いつものように話せ」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:35:24.31 ID:8mU1puuW0


教員b「お前の兄は我々"裏の学院"と違い、"表の学院"で育てられた…
     我らが"裏"は学院の外へ出る事は禁じられている
      もっともそのことはお前が一番わかっているだろうから私からはこれ以上何も言わん」


ルージュ「兄のブルーは外へ―――」



教員b「……表と裏は違う、向こうは"リージョン"を出ることさえしなければ街を自由に出歩ける」


教員b「だがお前の兄はお前の事を名前しか知らない、顔も性格も、何もかもだ、お前と同じで、な」


それ以降だんまりを決め込む教師を見て、ルージュは肩を竦めそのまま歩く、これ以上は訊くだけ無駄なのだろうと




教員b「…」


教員b「これは独り言だ」


ルージュ「?」



教員b「私含め、一部を除いた殆どの者がお前を我が子のように想っている、よく立派に育った」

教員b「だから送り出すのが辛いのだ」




ルージュは"独り言"を聴いていた、此方から何かを口出しするでもなくただ聴くだけだった




教員b「修士修了式でお前は晴れてこの国の術士の1人となる、そして、何をすべきか勅令を授かる、それだけだ」




自分よりも一歩先を進む年上の人物は表情を窺えない、だが、その声だけはこれまでの"独り言"で一番哀しみに溢れていた




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【旅立ちの日 時刻 12時15分】

【BGM:ブルー編OP】
https://www.youtube.com/watch?v=bG-O7U2WWig&index=3&list=PL33021FE67F7DCC92


                『修士修了式 開会!』

            『終了者の氏名発表を主任教授から行います』




長い廊下を渡り、荘厳な大扉は開かれる、高い天井には天国に住まう住人たる天使たちが描かれていた
 そんな室内全域に響き渡るように開会式の発表は執り行われた


  『教授会による厳正な成績審査の結果、全会一致により今期の修士修了者を…』

           『修士ブルーに決定致しました』



            『 修士ブルー! 前へ! 』


ブルーは寡黙に、いや…普段冷静な彼でさえもこの時ばかりは緊張したかもしれない
 それだけ強張って見えたのだ、彼とて人の子だ

この優等生は"いつも以上に背筋を伸ばして"入室した
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:36:05.41 ID:8mU1puuW0

髭を蓄えた学会のお偉方は口元を綻ばせ拍手喝采で蒼の術士を歓迎する



      『ブルーよ…汝をマジックキングダムの術士に列する』

     『術士としての義務を果たし、キングダムへの忠誠を全うせよ』





 ブルーは表情にこそ出さないように努めていたが内心、打ち震えていた



自分は王国の為に…我が祖国の伝統と誇りある術士の1人となれた、と

祖国の名誉とさらなる躍進の為の1人となったのだ、と



それは中世の貴族が一国の妃に跪き、剣を天に掲げ命を賭す誓いを捧げる気持ちと通じているのだろう
 さながら物語の主人公か何かになったように義務と責任を背負うことに打ち震えた










     『慣例に従い、キングダムを離れ…リージョン界への外遊を許可する!』






"リージョン"界



この世界には混沌と呼ばれる漆黒の海がある、それは喩えるならば宇宙空間のようなモノで
 その真っ暗闇の空間に無数の"リージョン"と呼ばれる小さな世界がある





"混沌"を宇宙空間と喩えるのなら

"リージョン"はさながら暗黒の海に浮かぶ小惑星<べつせかい>である



機械技術が発達し、人工知能を搭載したロボットやサイボーグが生きる異世界が存在し

サムライ、忍者と呼ばれる風変わりな戦士が生まれ育った別世界もあり

ドラゴンやスライム、各種多様なモンスター種族が平和に暮らす小惑星も実在し

そして、此処…[マジックキングダム]の様に魔法大国として名を馳せるリージョンがあるのだ







このご時世、船<リージョン・シップ>に乗り、宇宙旅行…もといリージョン旅行なんてさして珍しくもなんともない

 されどもこの主任教授の御言葉を聴いて分かる通り、原則として[マジックキングダム]の住人は
船に乗り、他所の異世界へ気軽に旅行へ行くことは禁じられているのだ


外からの観光客は来るのに、内から余所へは許可なく行けない…この時勢にしては珍しく閉鎖的な部類の国家だ


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:38:11.53 ID:8mU1puuW0



   『修了者の第一の務めはリージョン界を巡り、術の資質を身に付けより高度な術を鍛錬することである』





資質、…焚火を起こそうと思えばそこには火種となるモノが必要となる、火種があって、燃えるモノがあり
初めてそこに大火を立ち昇らせる事ができる


資質を持つものは鍛錬を積むことで基本術以外の術、…即ち高位の術を操れるようになる
 それゆえに術士を志す者は喉から手が出る程に欲しいモノだ





 さて、22歳の若者に下された勅命は此処までを簡単に訳せば

国外へ旅立ち、術の資質を身に着けて最強の魔術師になって来い、簡単に訳せばそれだけだ




そう、これだけで終わる話ならば







              『……そのためには"あらゆる手段を用いてよい"』











*******************************************************

兄のブルーは幼少の頃よりそう学んだ、そしてそれは双子の弟であるルージュも同じである


目的達成の為ならば"あらゆる手段"を使う事も厭わないように、と


あらゆる手段…つまり人道に反する行いであっても、それを許可するというのだ






         ルージュ「あらゆる手段を…」ゴクッ







時を同じくして、全く同じ内容を聞かされていたルージュの顔は険しいものへと変わる

 彼もまたブルーと同じことを学びはした、しかし彼は"お利口さん"ではなかった



世の中の大半の人間は利益の為と他者を蹴落とし、時には何かしらの見返りを求めて動く、効率的な賢い生き方



生憎と、彼はその生まれつきの性格ゆえに他者を蹴落とす事よりも手を取り起き上がらせることをするのだ

何の見返りも無く、ただただ純粋な善意で他者に手を差し伸べる、全く以って非効率的なやり方

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12 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:39:18.83 ID:8mU1puuW0



                   『異例の事だが出発前に校長からのお言葉がある』





"裏の学院"でルージュがそれを聞き、ハッと我に戻ったころ

"表の学院"でブルーは、天を見上げ校長の言葉に意識を傾ける







                    - ブルー、貴方は選ばれし者です -


                      - 双子ゆえに魔力が強い -

                     - しかし、双子のままでは -

                   - 術士として完成することはありません -

                 - 貴方はその運命に従わなくてはなりません -



                       - 今日、別な場所で -

                    - 貴方の双子の片割れのルージュも -

                    - 同じように終了の日を迎えています -



                   - キングダムには不完全な術士よりも -

                    - 完璧な一人の術士を求めています -

                   - それは貴方だと信じてますよ、ブルー -









             - 行きなさい 資質を身につけ 術を高め そして――――  -













                双子の術士は同じ時間、同じタイミングで御言葉を耳にした



13 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/07/07(金) 19:42:24.05 ID:8mU1puuW0








                   ル ー ジ ュ を 殺 せ !




14 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/07/07(金) 19:42:53.23 ID:8mU1puuW0







                    ブ ル ー を 殺 せ !




15 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:49:02.49 ID:8mU1puuW0


魔術師を育成する学院の校長にしてこの国を治める者…

              …御国の最高権力者からの勅令、それは…







[双子の兄弟同士で殺し合え]という命令だった、22年間、彼等は生まれた時には既に施設に居た



一度たりとも出逢ったことの無い、双子の片割れ


名前しか知らない、赤の他人と変わりない相手



だけど、双子の兄弟


















      - 片方を殺して、自分こそが優れた魔術師であると、最強の証明をしてみせよ -














この物語は…

15年ほど前に、実は禁を犯して学院の脱走を試みた弟と兄が出会っていたという在りもしない物語




ただ、お互いに忘れてしまった

ただ、お互いが生き別れの家族だと知らない



たったそれだけの話




かくして、今日この瞬間、この言葉を合図に殺し合いは始まった



           - 国の威信を背負い、決闘に打ち勝ち生きる為に兄は旅立ち -


      - 兄弟殺しに躊躇いを感じながらも、国家反逆罪を恐れ戦う道を取るしかない弟 -

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:53:09.97 ID:8mU1puuW0






           ※ - 第1章 - ※



        〜 ファースト・コンタクト 〜






17 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:58:08.12 ID:8mU1puuW0


 ルージュの足取りは酷く重かった


彼は先述の通り、"御人好し"と評されるタイプの人種だ

 温和でそして子供っぽさの残る純真さ、そんな彼に出逢った事が無いとはいえ(実際には会ってるが)
双子の兄を殺せと命を下されたのだ

 国家の最高権力者から直々の勅令、王国の意向に背く事となればどのような理由であれ
それは"国家への反逆"を意味する


平和なリージョンとして有名なこの王国に限った話ではないが国の"暗部"というのどこもそうだ
裏では人に言えない事が平然と行われるものだ


自分を迎えに来た教師の辛そうな声色、今ならあの意図も理解できる…


まだ見ぬ兄は殺し合いをどう思っているのか?生き延びる為にルージュを本気で殺すつもりなのか…




ルージュ「…ブルーを殺せ、か」トボトボ




出発前に教授等からいくらかの支給品を渡される

[バックパック]にいくらか詰め込まれた傷薬に精霊石、そして―――




ルージュ「…わわっ、1000クレジット」ジャラッ



教員c「国からの援助資金だ、最初の1ヶ月はそれでどうにかなるだろう
     その先は自給自足となる学院でサバイバルの心得は一通り学んだバズだ」


ルージュ「…1ヶ月かぁ」ジャラッ


教員c「それとこれも渡しておく」スッ



ルージュ「! この宝石は…」


白い手袋をはめた掌の上に輝く蒼い結晶…それは彼も見た事があった、魔術を学んできた彼にとって
それはある術を使う為にどうしても必要なアイテム


教員c「[リージョン移動]、知っての通りお前たちがそう呼んでいる<ゲート>の術を使う為の媒介だ」

教員c「これが無ければ一度行った事のあるリージョンへの瞬間移動も侭ならない、失くしても再発行はしない、良いな」


ルージュ「…はい」


銀髪の好青年は教員から重要なソレを受け取った、その直後だった
 昔から勘の良い彼が全身総毛立つような嫌な感触を覚えたのは



ルージュ「うっ…!?」

教員c「?…どうした」



ルージュ「…質問ですが、僕がこの旅で一度も<ゲート>を…ひいてはこのアイテムを使わないのは構いませんね?」


その質問に眉を顰めたが、別に構わないと答え聴き、ルージュはありがとう、と軽く会釈した
 この蒼い宝石から得体の知れぬ何かを感じた、願わくば資質集めの旅の最中で何処かに捨てても良いとすら思う程に
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 19:59:52.71 ID:8mU1puuW0
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ブルー「資質集めの旅か、証明してみせる…!」グッ



ルージュがシップ発着場へと歩き始めた頃、紅い宝石を強く握りしめ、彼は強く念じる






ブルー(祖国は不完全な1人の術士よりも完璧な術士を求めている)

ブルー(資質を集めろ?双子の片割れを殺せ?)




ブルー(俺こそが優れていると証明してやる、全ては国の為に!)






ブルー(そして…俺自身が生きる為に
      会った事も無い赤の他人同然の奴にみすみす殺されてなるものか!)




闘争心、互いの命を懸けた競い

優れているのは自分の方だと言ってくれた上層部への期待に応えるべくブルーは真っすぐに
自分が華やかに勝利という凱旋を通り、忠誠心を示すことに燃えていた

そして、同時に死にたくない、まだ生きて色んな世界を見たい


小さな望みもあった


だから尚更に負けられなかった、死ねばそこで終わる、どんな生物だってそうだから…







ブルーは意識を集中させる、頭の中に自分にとって連想しやすいモノを…"青"を


海…深海の奥底に居るイメージを思い起こす、そして空想の海にピラミッド状の抽象的な像を浮かべる


無数の三角形が姿形を変える、その"世界"を…その"リージョン"を象徴するヴィジョンへと変換するッ!








 ブルー「…さらば、故郷よ…必ずここに戻るその時までは…っ!」




ルージュ「バイバイ、マジックキングダム…必ず帰って来るからねっ!」







2人はそれぞれ行くべき世界を…進むべき小惑星<リージョン>目掛けて旅立った!
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:00:48.12 ID:8mU1puuW0
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                 ブルー「<ゲート>! …[ドゥヴァン]へ!!」シュンッッ!!




                 ルージュ「[ルミナス]行きのシップに乗せてください!」




*******************************************************
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:02:42.87 ID:8mU1puuW0


―――
――



【双子が旅立ってから…初日、18時27分】




「ピンポンパンポーン♪ Attention, please! Attention, please! お客様!
  本日は当機をご利用いただき誠にありがとうございます、[マジックキングダム]発、[ルミナス]便は間もなく
 [ルミナス]に着陸致します…機体が揺れますので、しっかりとお席についてシートベルトを着用お願い致します」






 キィィィィン…!  プシュゥゥゥゥ…






       ガヤガヤ…!



「着いたなー!ルミナス!此処で精神の修行かぁー!」
「ねぇ!陽術と陰術どっちにする?やっぱり光を操る術よね?恰好良いし!」
「ばっかだなー!恰好良いってったら影操る魔法だろぉ!!」



シップの着陸と同時に観光客や修行目的の客がなだれ込むように降りて来る、その中にも当然ルージュは居た





ルージュ「…すっげぇぇ!ルミナスに着いちゃったよ…術を使ってないのに!」キラキラ…!





マジックキングダムは機械科学に疎い、そして外遊を一部の者以外は許されない

つまり、まるで田舎から都会にやって来て大はしゃぎの子供よろしくと彼は浮かれていた


ゲートの術を使えば既に登録済みのこのリージョンへは一瞬で来られる、にも関わらず態々機械の船に乗って
混沌の海を越えて別の惑星に時間を掛けて来るなど非効率と言えよう




それでも彼は"アレ"を使うのが何故か気が引けたし、何より彼自身機械や外の世界の技術に興味があった



これがルージュと外界のファースト・コンタクトであった




「ねぇ?さっきの人なんだったんだろう?ほら?[オーンブル」の前に居た」ヒソヒソ
「ああ、随分前から此処に張り込みしてるパトロールさんだよ、なんでもリージョン強盗団を追ってるとか」ヒソヒソ
「妖魔だよな、あれ…俺、人間<ヒューマン>以外の種族見た事無くってさぁ」ヒソヒソ



ルージュ「…とりあえず、どうしよう」キョロキョロ



此処へ来たのは光の力を司る陽術の資質、もしくは闇の力を操る陰術の資質を得る為である
光と闇は裏表、どちらか一つの資質しか得ることができないのだ
 しかも出発前に兄ブルーの得た資質を得る事ができないと耳にした、…早い者勝ちの競争だから考え所だ
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:04:06.91 ID:8mU1puuW0


ルージュ「う〜ん…」


発着場のラウンジの椅子に座り、悩む…


最終的には双子の兄と殺し合いをせねばならない、それを踏まえた上でどんな術を得るべきか
闘い方もある程度考えて置く必要がある








            緑髪の少女「……はぁ」トボトボ

            妖魔の女性「お辛いとは思いですが今はこれからを考え無くてはなりません」ギュッ



        緑髪の少女「…うん、そう…だよね、もうおばさんの家には帰れない、だからっていつまでも
                      くよくよする訳にいかないよね、いつも支えてくれてありがとう」ニコッ


            妖魔の女性「ふふっ、貴女様は笑顔でいらっしゃる方が素敵ですよ」






ルージュ「…」ポケー


ルージュ(…あの二人、珍しい人だなぁ…人間<ヒューマン>…じゃないよね?)




他のシップが次々と着陸し、ターミナルゲートはすぐに観光客の波でごった返し始めていた
そんな時、なんとなくぼんやりと眺めていた彼は2人組の女性が目に留まった



片方は紛れもなく妖魔だ

20代の女性で物腰が柔らかく、美しい女性
白いドレスに茶髪に着飾った花飾りがよく似合う女性が付き人を励ましていた


もう一人は10代半ばだろうか、緑髪の整った顔立ちでさっきまでがっくりと肩を落としていたが
付き添いの人に励ましの言葉を貰って笑顔を振りまく、その笑みは太陽のように眩しいものだった





ぐぅぅ〜




ルージュ「っと、見とれてる場合じゃないや、まだご飯食べてなかったんだよねぇ
                  降りたら食べようと、シップ内の売店でお弁当を――」スッ








ルージュ「…!?あ、あれ? 僕のスーツケースが無い!?」

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:05:30.74 ID:8mU1puuW0


スリ「へへっ!見るからに旅慣れてない観光客だぜ」つ【ルージュのスーツケース】

スリ「早速[クーロン]の闇市あたりで売っぱらって―――へっ?」ガシッ






緑髪の少女「おい!見ていたぞ、さっきあそこに居た銀髪の人から盗んだだろ、返せ!」



スリ「な、なんだよお前!連れか!?離しやがれ!」ググッ

緑髪の少女「違う!ただ…そういうのは放っておけないだけだ!」ググッ




ルージュ「ああーーっ!僕の荷物!」




スリ「げっ!?…クソったれ!」バッ! タッタッタ…!




緑髪の少女「ふぅ…はいっ!これ!あなたのでしょ?」つ【ルージュのスーツケース】

ルージュ「あ、ありがとう…!いやぁ、まさか気づかれない内に盗られてたなんて」


緑髪の少女「リージョン旅行は初めて?観光客を狙うスリが多いから発着場は油断しちゃダメだ」


ルージュ「あ、あはは…お恥ずかしい」



 紅の術士は気恥ずかしそうに顔を朱に染めて後ろ頭をかいた、盗人から手荷物を取り戻してくれた
緑髪の少女はそんな彼をおかしくおもったのかはにかむ様に微笑んだ、そして――







  アセルス「私はアセルス、少し訳あって行く宛ての無い旅をすることになったんだ…」




 自己紹介をしてくれた、どのような訳があるか知らないが、それを口にする時に少しだけ目を伏せ
陰りのある顔を見せた



  アセルス「それと、こっちは白薔薇、私に付き合ってくてる人なんだ」

   白薔薇「白薔薇と申します、以後お見知りおきを…」ペコリ



白薔薇…そう呼ばれた妖魔の女性はやはりというべきか育ちの良いお上品なお辞儀をしてくれた
 外界に出て早々に盗難被害に遭うというアンラッキーに見舞われたが、端麗な顔つきをしたボーイッシュな少女
そして麗しの貴婦人とお知り合いになれたのだ、彼の旅立ちは幸先の良いものなのかもしれない





  ルージュ「僕はキングダムの術士ルージュだ、術の修行の為に各地を廻ってるんだよ」




彼は荷物を取り戻してくれた二人の女性に簡単な自己紹介をした
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:07:39.80 ID:8mU1puuW0


アセルス「へぇ…術の修行の為にか…(1人人称が僕か、変わったお姉さんだなぁー)」


ルージュ「?」キョトン



 若干違和感を感じたが、気にせず「まぁ、各地を廻ってるっていっても今日旅立ったばかりだけどね」と付け加え
紅き術士はふと気になった事を尋ねてみた




ルージュ「君も術の資質を集めているのかい?」




 [ルミナス]を訪れる者は大抵、陽術か陰術の資質を求め旅に出た者だ
とすれば彼女達もそうなのだろうか?そう思い立ってルージュは質問してみたのだ


もしそうならば、此処で出会ったのも何かの縁、協力して集めないかと誘おうかと考えた

 資質、それは生半可な覚悟では得られぬ試練を越えねばならないのだ1人より大勢の方が良いに決まってるし
ルージュ自身が純粋に彼女に恩返しをしたいとも思っている



アセルス「えっ!?えぇ…と」チラッ

白薔薇「アセルス様の御心のままに」



アセルス「ルージュ、私達はさっきも言ったように訳があって宛てのない旅をしてるんだ
       此処に来たのも…その成り行きで…」

アセルス「…資質集めをしに来たとか、特に明確な理由はないんだ…ただ逃げて来ただけ、でさ」



ルージュ「ごめん、言いたくない事だったら言わなくて良いから」




 ばつの悪そうな顔で途切れ途切れの言葉を発するアセルスは
自分が置かれている状況をどう説明すべきか言葉を選んでいるようだった



"逃げて来た" その一言がこの女性二人が何者かに追われる身であるという事を意味していた



アセルス「気を遣わせすまない、女性の1人旅は大変だろうけど、キミも修行の旅を頑張ってくれ」




ルージュ「うん!ありが―――じょ、せ、い?」



アセルス「?」



白薔薇「…アセルス様、お耳を」ヒソヒソ

アセルス「どうしたんだ、白薔薇……ん?………!?えっ、は!?っ?お、男の人!?」ヒソヒソ






ルージュ(…ははは、そっかー、僕女の子と間違われたんだー)ズーン


…やっぱり幸先よくない旅路だったかもしれない、これが彼の外界とのファースト・コンタクトであった
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:08:53.90 ID:8mU1puuW0



アセルス「ご、ごめ…っ!あっ、いや、だって髪だってサラサラで綺麗だったし
               顔も女の子っぽくて可愛い感じでそのつまりそのアレでえーっと」ワテワテ



自分の失態に真っ赤に染まった顔で両手を振りながら思いつく限りのフォローを入れようとする少女


が、思いっ切りその効果は願うモノとは真逆な効果した出していない




ルージュ「素敵なフォローをありがとう…」ズーン




これ以上は更に気まずくなると判断し白薔薇が二人の間に割って入るように
「アセルス様、陽術の館へ術だけでも見に行きませんか?」と声を掛ける、その助け船に乗るように
「あ、あーそうだった!資質はともかく白薔薇みたいに<スターライトヒール>くらい使いたかったからねー」と
抑揚の無い声でそそくさと逃げていく



アセルス「ま、またね!ルージュ!縁があったら何処かで逢いましょう!」




そういって発着場のセントラルゲートから[ルミナス]へと続く扉を開き彼女は出て行った



ルージュ「…」ポカーン


ルージュ「色々と忙しない子だったなぁ…」フゥ…


――キラッ


ルージュ「ん?」

ルージュ「これは…カフスボタンかな?」スッ



 床に落ちていたそれを拾い上げルージュは天上の灯りに翳す、赤紫の輝きを放つ宝石をあしらった見事な逸品
衣服の装飾品としてだけでなくコレ単体でも美術品として値が張るような代物だった




ルージュ(…あっ、これアセルスのだ)



 中世の貴族のような爵位の高い人物が身に纏うような衣装、言い換えると時代掛かった古めかしい…
ミュージカル劇場の舞台役者が着こなしてそうな服装のあの男装麗人の少女を思い返す

さっき大袈裟に両腕を振っていたがあの時に外れたのか…




ルージュ「走れば間に合うかな、落し物は届けてあげなくちゃっ!」タッタッタ!




…ルージュは"お利口さん"ではなかった

頭に馬鹿がつく程の御人好しだ、…そんな彼は思いもしなかっただろう



   …これが後の腐れ縁に繋がり、なおかつ資質集めの旅の長い長い寄り道になるなどと…

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:10:29.97 ID:8mU1puuW0
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―――
――



【双子が旅立ってから…初日、14時49分】




- [ドゥヴァン]には秘術と印術の手がかりがある、急げ!ルージュの得た術をお前が身に着けることはできないぞ! -


 表の学院に所属する教授等に背を押され、旅立ったブルーは<ゲート>を使い
占い師が集うリージョン[ドゥヴァン]へと舞い降りた



ブルー「…着いたか」



ルージュが[ルミナス]へ到達する時刻より時は遡る…彼はシップ発着場の手前に姿を現し初めてみる外界に目を配らせた
芝生の絨毯を踏み鳴らし、群れを成す矢印看板の示す方角へと歩き出す




      「へいっ!そこ行く綺麗な金髪ポニテのおねーちゃん!占いどうだい!」
      「俺も占えるぜ、骨占いだぜ、うん!明日も晴れだぜ」
      「ハープ占いどうですか〜?」




ブルー「…」ムスッ


マスター「はいっ、コーヒーですよ」コトッ





ブルーはご機嫌ナナメだった、理由は至って簡単だ

来て早々に"綺麗な金髪のおねーちゃん"扱いをされたからだ



彼は男だ


が、端麗な顔、生まれつきの雪の様に白くきめ細やかな肌、そして蜂蜜色の艶やかな髪が見る者に女性の印象を与えさせた
奇しくも双子の片割れも今の自分と同じように、数時間後に女の子と間違われるのだが、それはまた別のお話である



外界に来て彼はすぐに疲れ切ったような表情だった


…祖国の為!

……上層部からの期待に応えるべく!

………誇りと伝統、名誉ある人間の1人としてっ!



と息巻いていたものの…来て早々にこれでは、と頭を抱えそうになった


まず、この[ドゥヴァン]というリージョンは風変りこの上ない土地だった

骨占いだの、植物占いだの…手相、ハープの音色だ、占星学だなんだと、何処もかしこも観光客を
見つけては頼んでもいないのに勝手に占っていくというのだ


此処を訪れた、何も知らないブルーは正しく、鴨がネギを背負ってきたようなモノなのだろう
詰め寄っては勝手に占い、「どうですか!!!ウチの占い素晴らしいでしょう!?でしょう!?アナタもどうぞ!」

と、訳の分からない"勧誘"をしつこく薦めて来るのだ、さっそくブルーは頭痛を覚えた
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:12:39.83 ID:8mU1puuW0



ブルー「手相図鑑に、星座の表…花の種…くそっ!いらんぞこんなもん!」イラッ


それらと一緒に手渡された契約書のような紙切れ、サインと朱印をすれば晴れてあなたも〇〇占いの同志ですっ!なんて
怪しい一文までついている



[ドゥヴァン]より先に[ルミナス]へ飛べば良かったかもしれないと浮かんできた悔恨の念を喫茶店のコーヒーで飲み流す




…甘い、砂糖とミルクの程よい甘味が彼の苦悩を溶かすようだった
齢22歳、術の修行に青春時代も何もかもを打ち込んだ"優等生"は甘党だった



同世代からの僻み、陰口…才ある者にはそれが付き纏う、更に努力家ならば尚更だった



いつの頃からか彼、ブルーは甘いモノを好むようになっていた、ブドウ糖の摂取は脳を活性化させるとはよくいったモノで
それをよく知らない子供の頃はとにかく甘いモノを食べれば頭が良くなる、というガセネタに踊らされたそうな


何れにせよ彼は甘いモノが好きになった、ソレだけの事だ



マスター「お客さん」


ブルー「ああ、良い味だったこれは少ないが受け取ってく――」





マスター「底の方にどろどろとしたのが残ってるだろう?」ニッコリ



ブルー「……」



財布からチップを差し出そうとするブルーの手が止まる、にっこりと爽やかな笑みで喫茶店のマスターは言葉を続ける


マスター「底に残ってる残りの形で運命を見るんだ、当店自慢のコーヒー占いさ!」フッ!




ブルー「…」







         " 貴様もか店主っ!! "





声に出さずとも目だけでブルーは訴えました


―――
――



「印術の誘いへようこそ!」

ブルー「…印術の資質について教えてくれ」ゲンナリ…
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:16:10.24 ID:8mU1puuW0


初日で既に疲れを覚え始めたブルーは気怠そうに尋ねる



すると、どうだろうか?

「ふふっ!流石印術、この間の金髪美女達と同じで訪れる者が多い!アルカナとは違うんですよ!はーっはっはっは!」


と高笑いまでし始めた…




さっさとこのリージョンから出て行きたい、ブルーの心境はその一言で埋め尽くされていた




「おっと、失礼…ふふっ、あなたの髪色を見て以前[クーロン]からお越しの3人組の女性を思い出しましてね」


ブルー「無駄話は良いから早く教えろ、頼むから」





「ええ…印術とは印(ルーン)の力、加護を得る術です、高位のルーンを召喚するには印術の資質を要します」


「また、印術の力とアルカナを呼び出す秘術の力は相反する為、どちらかを得るにはどちらかを捨てねばなりません」



「資質を得るには…この小石を以て各地にある4つのルーンに触れる必要があります」コロッ



そういって4つの小さな石を取り出す、何も描かれていない小石、だが微かに魔力を感じ取れた



「ルーン文字が刻まれた4つの巨石、"保護のルーン"は[クーロン]に、"勝利のルーン"は[シュライク]に
  "解放のルーン"は[ディスペア]に、そして"活力のルーン"は[タンザー]にあります」



「巨石に触れ、4つの小石が全てルーンの小石と変わった時、あなたは術の資質を手にすることになるでしょう」



ブルー「巨石を探すために世界各地を旅する、それが印術の試練か…良いだろう、寄越せ」

「ふふっ!印術の同志が増える事は歓迎です!どうぞ!」




 ブルーは小石を手にし、そして基本術の術書を購入する、資質は無くともこれで最低限の印術の術は唱えられる
 術の書物と同時に謎の契約書も手渡してこようとする相手を無視してテントを出る




ブルー「<ゲート>の術は一度行った事のある場所にしか飛べない、シップに頼ることになるな」



例外的に[ドゥヴァン]、[ルミナス]だけは初めから飛べる、手渡された媒介となる宝石に初めから登録さているからだ



ブルー「まずは[クーロン]だ、そこへ行ってみるか」




クーロン…九龍…九龍街、立ち並ぶ高層ビルに空は覆われ、ネオン輝く街並み、常に夜なのでは?と思う程の外観と
治安の悪さで有名なリージョンだ、彼も噂だけなら訊いた事があった


人間<ヒューマン>、妖魔、モンスター、メカ…各種多様な種族が共存し繁栄する暗黒街だと、彼は早速チケットを購入した
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:18:03.23 ID:8mU1puuW0

―――
――



「ぎゃーっはっはっは!こんな所に丸腰でくるなんて無用心なんじゃあねぇのか?ええっ!パツキンのチャンネーよぉ〜」

「へへっ!此処を通りたきゃ通行料を払いな!1000000クレジットってトコを美人だから特別100に負けてやるぜぇぇ」



ブルー「」イライラ






早速、絡まれました。




発着場を降りて、まずブルーは驚いた

想像以上に人でごった返していたのだ、ネオン輝く街並みにスーツ姿のサラリーマン風の男から
スカートをたくし上げ胸元を寄せ、あからさまに"そういう金稼ぎ"を行うけばけばしい化粧の女たち

路上販売で声を張り上げ野菜を売るモンスター、汗水垂らして(るように見える)働くロボットたち


雑踏の伴奏に酔っ払いと売春を生業とする娼婦たちのコーラス、この汚れた都会のフルオーケストラに
平和なリージョンからやってきた青年は耳を塞ぎたくなった


耳はやられるは、目はネオン煌めくいやらしい看板やらの灯りでチカチカする


慣れるのに苦労しそうだ、と逃げるように裏路地にブルーは入り込んだ





そして、これである。





「あー、通行料が払えねーってんならそれで良いんだぜ?へへっ」

「そーそー、その代わりよォ、俺達とベットの上であつぅい夜を一緒に過ごそうぜぇ」




ブルー「」イライライライラ




何度も言うがブルーは男である、そして女性に間違われることは彼の密かなコンプレックスであった



「なぁなぁ、いいだるぅろぉぉ?こんな薄暗い所に一人でくるなんて、"そういう事"だろ?」

「ヒューッ!アンタみたいなネエチャンと一発よろしくヤれるなら本望ってもんさ!さぁ行こうぜ、愛の巣へな!」


              「「 ギ ャ ー ッ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! 」」







 ブルー「」イライライライライライライライライライライライライライライライラ…ブチッッッ!!



今日だけで何度女と間違われたか分からない彼の堪忍袋はその卑下た笑い声を口火についに切って落とされたッ!
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:21:18.27 ID:8mU1puuW0
―――
――


黄金色の髪の女「あーっ!!!くっそぉ!!!ルーファスの奴!ほんっと腹立つ!!!」

紫色の髪の女性「…彼は昔からああなのよ、貴女だってわかるでしょ」





黄金色の髪の女「そりゃ分かってるさ!けど…けど…!
          エミリアは女なのよ!…あんな薬で眠らせて奴らに売り払うなんてっ!」ギリッ



紫色の髪の女性「…ええ、帰ってきたら謝らなくちゃいけないわね」






[クーロン]の街中を慣れた足取りで二人の女が歩いていた

犯罪が日常で財布の紐をきつく締め、隙を見せてはならないこの街で慣れた歩き方をする手練れの二人は愚痴を口にした



紫色の髪の女性「勝手な行動は許されない
         仮に出来てもラムダ基地に入る方法は今の所無し…エミリアを信じる他ないわ」

黄金色の髪の女「そんなの、わかってるよぉ…はぁー…」


紫色の髪の女性「今の私達に出来ることは彼女が帰って来た時
            次の作戦をスムーズにこなせるように準備をするだけ、ね?」

黄金色の髪の女「うん…」





             ――――ズドンッッ!!!



「「ぎゃーーーーーーーーーーっっッッ!!」」





黄金色の髪の女「!? な、なに今の悲鳴…」

紫色の髪の女性「…男性の声ね、それも二人…裏路地の方からだけど」


突然の悲鳴に驚く女と行き交う人々の騒音に紛れて僅かに聴こえた爆発音に首を傾げる女

それぞれがその方角を振り向くと…




ブルー「…」スタスタ



「「…」」



1人の人間とすれ違った、この街で見かけない術士の服装…


黄金色の髪の女「何事も無く悲鳴の方から来たわね…」

紫色の髪の女性「相当な腕前ね、パッと見ただけで分かったわ」


紫色の髪の女性「何にしても私達とは関わりの無い人間よ、行きましょう…」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/07/07(金) 20:22:52.62 ID:8mU1puuW0

―――
――



ブルー(チッ、薄汚い街だ、どいつもこいつも汚い…見た目も中身さえも)



虫の居所が悪いまま彼は路頭を彷徨う、術に関する情報を求め、此処にあると言われる"保護"のルーンを探し出すために
手当たり次第に声を掛け、聞き込みに回っていたが、これと言ってめぼしい収穫は無かった



 途中、宿を見つけ、10クレジットで宿泊できることも確認した
このまま実りが無いのであらば今日の探索は諦めようかと思った






「いらっしゃい!いらっしゃい!安いよ安いよ!」

「トリニティからの横流し品だよ〜!リージョン界と統一する政治機関の開発した最新軍事品がなんとこのお値段!」

「革を買うよ!」

「わぁぁぁ…!すっごーい!メイレン!此処[スクラップ]よりも人が沢山だね!」

「そうね、そんなことより次の指輪よ、豪富が持っているっていう指輪を探しに行きましょう」

「足の装備品〜!如何っすか〜!大安売りだよー!」

「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプを剣のように操るのを!」

「そこの宿屋の裏、ニワトリの後ろを通った所にある情報端末で調べたら?」

「ありがとうございます、ゲン様、行きましょう」

「おう!ん?にいちゃんどうした?」

「わりぃ!俺、此処のイタ飯屋に少し前に一緒に旅してた友達が居るんだ、久しぶりに会いたいし此処でお別れだ!」

「おう!そうかい!犬っ子とネエチャンには言っとくぜ!」

「サンキュー!」

「そこのお兄さん♡アタシとイイコトしない?うふっ」

「新聞!新聞はいらんかね〜?巷で噂のアルカイザーの記事が載ってるよ![シュライク]で誘拐犯を倒したヒーローだ!」







全く以って騒がしい

だが、これだけ人が集まるのならこのリージョンが繁栄するというのも頷ける



ブルー「すいません、お時間よろしいでしょうか?」

「ん?なんだい?」


ブルー「私は故郷を離れ術を勉強する者なのですが、この街に保護のルーンがあると聴きやってきたのです
     何かご存じないでしょうか…」


「ん〜…ルーンねぇ、あっ!そういうことなら裏通りの医者が詳しいかもしれないぜ」


ブルー「!本当ですか!ありがとうございます!」



猫被りのブルーはやっと有力な情報に辿り着いた…!

時刻は【18時03分】既に[クーロン]は闇夜に包まれていた
31 :今回は此処まで! [saga]:2017/07/07(金) 20:24:10.48 ID:8mU1puuW0
https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=〜 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '
                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
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                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
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                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~
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                           ` ̄        .ト、 .ヽ
                                      ヾ、.A
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32 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 23:24:36.39 ID:cYnk1Lvso
サガフロとかすげぇ懐かしい
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 01:49:34.63 ID:fFXjqsuI0
主人公が皆、並行で進んでるっぽいなエミリア編が一番進んでるの?
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 22:07:24.05 ID:VlusM6ch0


曇天、[クーロン]の街並みはこの時期、雨季であった

 他の異世界<リージョン>と比べれば降水量の多い土地にあたり尚且つ双子が旅立ったこの時期は
陽光を遮る灰色の空が我が物顔で天空を支配していた


 裏通りに朽ち果てたメカの残骸は主人を失い破棄された者達の死骸と言えた、物言わぬ鉄屑と化したそれに群がるのは
同じく捨てられたロボットたちで、錆びた自身のパーツを外し使える部分を死骸から奪い取る

道端で自動車に轢き殺された野生動物を食い漁る鴉の群れと変わらない鋼鉄の人型共


その人型共となんら変わらない行為をする者は他にもいた


貧困から逃れるべく迷い込んだ憐れな観光客を狙う浮浪者、彼等もまた金目のモノになるロボットだろうと
財布をぶら提げた人間だろうと、奴隷として売り飛ばせるモンスター種族の観光者であってもお構いなく襲う







人心は荒んでいた



これは言ってしまえば一種の"病気"である、心の病










だからだろうか?

…ただでさえ無法地帯として名を馳せる九龍<クーローン>街の裏通りを『彼』が居城とするのは






ブルー「…」スタスタ…パシャ…






蒼の術士が水溜りを踏みしめる

地に降ろされる靴底の圧力で飛沫は飛び、へこんだ空き缶の真上を飛び越える



 彼は印術の資質を得る為、広いリージョン界の各地を巡り、印<ルーン>の文字に触れるという修行の旅路を進む
この暗黒街には保護のルーンが刻まれし巨石があるのだ


 疑問に思っただろうか? 裏通りはご覧の通り濁った水が降り注ぎ、衛生面はハッキリ言って最悪
…そこかしこに黴菌が繁殖する不衛生極まりない裏通りだ、雑居ビルの群れと曇天で滅多に射さない日光

それが悪循環を更に加速させていると言っても良い


そんな異世界<リージョン>でありながらも表通りの繁華街にはなぜか一滴も雨水は垂れないのだ、疫病どころか感染症一つ
裏通りから表通りに流れてこない





それは単に此処が"保護"されているからだ

昔々のそのまた昔、誰も知らない程の大昔から、強い魔力を秘めた文字によって

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/15(火) 23:56:11.93 ID:VlusM6ch0



「おい見ろよ…綺麗な髪だなアレ…」
「へへ…金糸かぁ、売ったらさぞイイ値段のウイッグになるんだろうなぁ」



 汚れた段ボール、菌類の繁殖しまくったベニヤ板、その上に乗っけただけの瓦棒屋根
お世辞にも家屋とすら呼べないソレから無数の視線が術士を値踏みするように見ていた



 先程、ブルーが二人組の不幸なごろつきに絡まれた階段をゆっくりと降りていく最中
蒼の法衣に身を包んだ彼は自分の影が"何かの影"と重なるのを見た


小さな影は徐々に大きくなり、それは上空から飛来してくる鳥系のモンスター族の影であることに気がついた





「ケケケ!そこのお前、有り金全部出しな!!鞄も、そのひらひらの服も脱げ、靴も全部だ!!」

「オイオイ、待てよ相棒…独り占めは狡いぜ、久しぶりの金ヅルだ、俺にも食わせろよ」

「私も混ぜてよ…きゃははっ!」




 裏通りに巣食う者共は単独で犯罪を起こす者から種族の壁を越え、1つの目的の為に徒党を組んで襲う者も居る
舞い降りて来たのは人体に鳥のシンボルとも呼べる翼と鉤爪の足を持つ半人半鳥の[ハーピー]が2体

 紅髪を二つに結ったツインテールに露出度の高いアーマー右手には鈍い輝きの斧を携えた人間の女が
品の無い卑しい笑みを浮かべて舌なめずり…勝った後の戦利品分配でも考えているのだろうか


「俺も相棒も姐さんも気が短けぇからよ、分かったら早ぇとこ全部寄越しな、そうりゃ命は取らねぇぜ!ケケ」
















                ブルー「断る、失せろ蛆虫共」
















沈黙

ブルーを迷い込んできた馬鹿な旅人と嘲る笑い声はピタリと止み、雨音だけが場を支配する


 彼は頗る機嫌が悪かった、初日から何度眉間に皺を寄せたか分からぬ程に
そんな彼の声はゾッとする程に冷淡で、同じ血の通った人間とは思えない程に冷めていた



36 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 01:58:35.98 ID:S8PCjT6F0


[ハーピー]に斧を持った女戦士[アックスボンバー]…裏通りは先述の通り浮浪者の巣窟である
だが此処に居る3体の実力はその中でも段違いだ


 電線の上から兎のようなつぶらな瞳で黄色い小動物に蝙蝠のような翼の生えた[ラバット]
犬猫程の背丈を持つ蛙[フェイトード]等が"自分達よりも圧倒的に強い"者に不遜な態度を取る術士を見ていた

ああ、あの金髪の人間は生きて帰れないだろうな、と憐れむ様に







その予測はすぐさま裏切られるのだが





「‥ケ、ケケ…てめぇ、許さねぇその綺麗なお顔ぐちゃぐちゃにしてやらぁぁぁああああああああ!!!!!!」

「アンタたち!!このクソッタレをやっちまいなぁァ!!」




 縄張りのボス気取りたちの顰蹙を見事に買ったブルーは涼しい顔だった
彼は目を瞑り、歌うように口ずさむ、右手の中指と人差し指を合せ自身の額に近づける…



             「ケェェェェェー―――――ッ!!」ヒュォォォォオオ



 鷹が獲物目掛けて行うような急降下、[ハーピー]の鉤爪はブルーの喉元を切り裂くため
先頭の1体に続き後続は心臓を鷲掴みそのまま抉る為にそれぞれ狙いをつけていた









          ブルー「『<インプロ―ジョン>』」キュィィィン 










ぼしゅっ、




音がした


 後続の[ハーピー]は目の前の相棒が光に包まれたのを間近に見た、光は相棒を取り囲む球体の檻のようになっていて
立方体…そう無数の正三角形と正五角形で形作る変形二十二面体のような檻だった

半人半鳥のモンスターを閉じ込めたそれは徐々に小さくなり、"消滅した"…中身ごと



"爆裂魔法<インプロージョン>"の檻に閉じ込められた憐れな一体は塵一つ残さずに"焼失"した、だから消えたように見えるのだ


     ブルー「…む?完全に消し飛ばせなかったか…頭部だけが残ったか…ちっ」


 光の檻が内部にある者を"爆裂"させる寸前に頭部だけが檻の外…範囲外に突き出ていた
だから首から下が忽然と消えた生首が宙を舞った
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 05:28:30.99 ID:S8PCjT6F0






「う、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」




 戦慄した、突如として光と共に消えた相棒の首から下、残った頭部は首の付け根部分から血飛沫をあげて吹き飛ぶ
サッカーボール大の頭部は胴体がコンマ0.02秒で焦げ臭さすら残さずに焼失…否、消滅した為


 頭部の下はギロチンで切り落としたかのような断面図となった、そこから噴出する真っ赤な鮮血
空気でパンパンにした風船に爪楊枝で穴を空けた時のように、急降下していた筈の"ソレの一部"は逆に上昇した




上から無色透明な雨水とは別で紅い体液が降り注ぐ、[ハーピー]その様に半狂乱となり―――










               ブルー「『<エナジーチェーン>』…!」









ギュルッ! ―――ベシャッ ジタバタ…!



「あっぐぶゥ!?お、おごっぉ ォ こ"こ"こぉぉ"ぉ」ジタバタ






ブルーの術、[マジックキングダム]の技術によって生み出された科学的超能力<サイオニック>の力…!



指先から放たれる光り輝く念動力の鎖は相手との実力差も分からぬ愚か者の首を縛り上げた






べしゃ、ゴミが浮かぶ水溜りに絞殺刑に今この瞬間、処されんとする憐れな半人半鳥が墜ちた



「い、い いい"い"い"いいい""いいいい"いいいき"きぎき"きぃぃぃぃいィぃィ」バチバチッ



古い電線剥き出しになったコード…銅線に当たる部分に鴉や雀が引っ掛かった瞬間を見た事があるだろうか?
それが雨の日ならば尚更だ、電流が流れ瞬く間にローストチキンになる瞬間だ


 魔力の塊、念動力の力……蒼き術士の攻撃的な思念を鎖の形にしたそれは巻き付いた首元を焼いていた
焼け爛れていく首、絞めつけられ酸素供給ができなくなる気道

水溜りに落下した事で更に"感電"していく彼は先ほど弾け飛んだ相棒の顔と同じく苦悶の表情を浮かべていた


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 05:54:46.74 ID:S8PCjT6F0


「…な、なんなんだいアンタはァ…」ガチガチ




人間の所業ではない、それが同じ人間の―――生きる為に強盗殺人を生業とする者の率直な感想だった



彼は蜂蜜色を束ねた髪は湿気と雨水で重みを増し、前髪から滴る水滴を鬱陶しそうに払う

 今しがた絶命した[ハーピー]2体を屠る時などさもどうでもいい、それより前髪から垂れて来る水滴の方が
面倒だとでも言いたげで…その仕草がより一層この人間には赤い血など流れていないのではないか?
血脈を循環しているのは冷水か、さもなくば人間<ヒューマン>と異なる種族、妖魔と同じ青い血でも流れているのでは、と?





ブルー「丁度いい、こういう事は地元の奴に尋ねるのが手っ取り早い」


ブルー「貴様、この辺りに医者は住んでいるか?裏通りに"ルーン"に詳しい医者が居ると聞いてきたんだ」


ブルー「さっさと答えろ…オイ聞いているのか」





「っ、の野郎……イイ気になってんじゃないよ!!!」




猫被りの時とは全く以って違う、礼儀正しい青年を"演じる"ブルーの本性…





「っずぁらああああああああああああああァ」ブンッッ



ずばっっ!蒼い法衣の左肩を切り裂く…じわりと蒼が赤く染まる




「はっ…ははははっ…」




なんだ、この冷血無比な術士にも紅い血が流れているのか
乾いた笑みが浮かぶ、目尻に涙が溜る、瞳の奥に詠唱を終えトドメを刺そうとする死神が焼き付く





ブルー「ふん、斧を振り回すしか能が無い女か、屑め」





ブルー「死ね」






取り繕う必要性が無い相手、体裁をなど気にする必要性の無い相手

それにだけ見せる"冷徹な男<ブルー>"の本性


今宵、暗黒街[クーロン]の裏通りに本日2度目の悲鳴が上がった
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 06:24:26.69 ID:S8PCjT6F0
―――
――



ブルー「…」スタスタ…



ブルー(失せろと言った時に消え去れば良かったものを、答えろと言った時に答えて逃げれば良いものを)







くだらない事に術力を使った、くだらないモノで自分の手を汚した、不愉快だ、彼の心中にあるのはそれだ


先に言っておくが彼は裏通りの最奥に息を潜める様なクレイジーな快楽殺人犯とは違う


-『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』-


自国で、国の最高責任者から言われた事、幼少の頃から学んだ教え




国家からの勅令、国の威信と名誉の為ならば何をしても良い、それが"正義"である、そう教えられて育った



"王国の術士"としてなら必要あらば100人だろうが1000人だろうが関係なく殺す、王国の忠実な術士としてなら、だ



襲われたから殺した、自分の命、ひいては国家の任務遂行の妨げになる障害物だったから消した、たったそれだけの話
そうでなくとも、どの道あの手の連中は迷い込んだ観光客の命を食い物にする


何れにせよ死傷者は出る、今回の場合それは相手側で、そしてこれ以上死傷者は出なくなるという話、たったそれだけ







ブルー「…」スタスタ…ピタッ

ブルー「…此処か」




雑居ビルに囲まれた裏通り、長い長い階段を降り、点滅する電子の輝きを見つめる
そのネオン看板は病院でお馴染みの十字のマークとは違っていた

喩えばアルファベットのNを反転させて少し傾けた見た目の文字




ブルー「…エイワズ…ふっ、此処にこの文字とはな」




それを見て鼻で笑った




エイワズ、ルーン文字の一つであり暗示する意味は『生命の樹』『防御』…そして『死』

命が生まれる場所であり、万病の攻め手から防御する為の場であり、そして最後は誰かに看取られて死を迎える…


蒼の術士は古びた診療所の戸を開く


40 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 07:06:07.84 ID:S8PCjT6F0


まずブルーを出迎えたのは鼻につく消毒用のアルコールの匂いだった


 薄暗い病院のエントランスにして待合室となる間はパイプ椅子が数脚
机の上には人体について詳細が書かれた医学書が無造作に置かれていて、受付のには今時誰も使わないような黒電話
ダイヤル式の電話機の向こうに見える壺や壁棚板の上に陳列する薬瓶には元からこの医院に居た人物と来院した術士を映す


此処の責任者に話を伺いたいが受付には人影はなく、それどころか呼び鈴の一つだってありゃしなかった


訝し気に眉を顰めたブルーは何時頃から待っているのか分からない男に語り掛ける事にした、誰も居ないのなら
この人物に尋ねる他ないからだ、無論、礼儀正しい青年を演じて




ブルー「あのー、待ってるんですか?」




青白いカッターシャツ、俯いたままの青白い男はやけに肌が白かった

医院の薄暗さも手伝って気づけなかったのかもしれない





ごとんっ、男の首が取れて落ちた、先程の[ハーピー]のように


落ちたクルリと振り返る、ああ、暗さも手伝って気づけなかった



この男は肌が白いと思っていたが思い違いだった





振り向いたその男の生首は白骨だった







理科室の標本にありがちな頭蓋骨がケタケタ笑いだし、スゥーっと消えた



           ボォォン……!


                      ボォォン…!




それを合図にするかのように柱時計が音を鳴らし、その横にあったアルコールを溜めた洗面器にぴちょりと音がなる
何処か雨漏りでもしてるのか




ブルーは少しだけ目を見開いていた、狐にでもつままれたとでも言いたげな顔で固まっていた

彼とて人の子だ、人並みの感情は当然有していて、戸惑いもする


先の事が事だけに今のはブルーに少なからず情動を与えた



41 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/08/16(水) 07:07:54.84 ID:S8PCjT6F0













 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」












42 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 07:45:20.12 ID:S8PCjT6F0



ブルー「」ビクッ


「次の方、どうぞ」




診察室、と札が掛けられた部屋の向こうから声が聞こえた



心臓に悪い所だ、固まっていた術士は気を取り直して、ドアノブに手を掛けた…



ギィィ、と木製の扉の軋む音を耳に彼が目にしたのは膝下まである白衣と流れる様な黒髪の後ろ姿



裏通りの闇医者「よろしい、早速手術だ、そこに横たわり給え」


ブルー「…外界の連中は人の話を聞かないものなのか」





[ドゥヴァン]の占い師共といい、ごろつき共といい、この無免許医師といい…額に手を当て、噂の闇医者をよく観察する


 風変わりな医師、医療費を取らずに難病を抱える患者を片っ端から治療する闇医者
裏通りに入る前、ルーンに詳しい医者が居ると知ってからある程度、どのような人物かさらりと聞き込みは行っていたが





ブルー「それとも、貴様が人間ではなく妖魔だからか?」


裏通りの闇医者「…ふむ、よくわかったな」ピクッ



ブルー「貴様から感じる魔力…いや妖力、人とは明らかに異質であることぐらいわかる」



ブルー「人間だろうと妖魔だろうとそんなことはどうでもいい、保護のルーンについて何か知っているか?」



裏通りの闇医者「[クーロン]の地脈には保護のルーンが刻まれている、その力がこの土地を栄えさせている
         しかしだ…近年この街の治安は悪くなる一方だ」



そう言って闇医師は…妖魔は振り返る、眼鏡を掛けた気品ある端麗な顔立ちは一目で彼が上級妖魔だと悟らせる



ヌサカーン「私の名はヌサカーン、君も知っての通り此処を根城に医師をしているモノだ」

ヌサカーン「尤も、君達の言葉を借りるなら私は"モグリ"という奴だがね」

ヌサカーン「どうだろうか、私は地脈に異常が無いか調査に赴きたいと前々思っていた、だが私一人では何分厳しくてね」



ヌサカーン「何があるか分からないから中々踏み出せず困っていた、そこへ君が都合よくやって来た」

ブルー「貴様なら道案内ができるという訳か」


少し考える素振りを見せ、ブルーは「良いだろう」と胡散臭いこの妖魔の医師と少しの間同行することにした


紫色の怪しげな炎が揺らめく燭台、二つの影が揺れ、妖魔医師は「よろしく、ブルー君」と笑うのであった

43 :一旦此処まで [saga]:2017/08/16(水) 07:54:04.47 ID:S8PCjT6F0




一旦此処まで

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三



      i⌒\     .
      |   \    .
      |  l\  \ 
      l | \__ ) 
⌒\  |  |       
\  \|  |       
.. \.    |       
   \_,,丿     


『<エイワズ(ユル)>』

暗示:『生命の樹』『防御』『死』


───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三


ヌサカーン先生宅の看板の文字が地味にルーン文字だったり凝ってる



>>32 名作ですね

>>33 YES、現在エミリアはラムダ基地潜入(?)の為、シップに乗せられてる…つまりアセルス達は…
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 18:28:28.06 ID:S8PCjT6F0


妖魔、それは姿形こそ人間に酷似しているが異なる種族である


彼ら、彼女らに性別という概念は無い
女性的な容姿、男性的な容姿と身体の創りや人格そのものに差はあるが、世間一般的な人間の概念でいう性別とは違う






美麗の男性が同じく顔立ちの整った男と仲睦まじく暮らす様子を見ることもあれば

華奢な身体の女性が美しい人魚姫のような女性型の同種族と愛を育んでいたり…









傍から見ると怪しい関係を疑いたくなる種族であるが、彼等(彼女等?)には人類と同じ性別の概念は通じない






 人と比べて飲食を必要としない者、年中一睡も必要とせず生きることができれば、生殖機能が存在しない生態系だったり
大小なれど差はあるが根本的に人間<ヒューマン>と違うのだ





今、ブルーの目の前にいる眼鏡を掛けた白衣の医師も同じ

見た目こそ人間の成人男性に部類される肉体だが、何処か人と違う



血管は全ての妖魔に共通する青い血液が流れていて
見た目こそ年若い美青年だが年齢など、余裕で100歳を超えているのかもしれない





ヌサカーン「ふむ、…肩に切り傷があるな」ズイッ

ブルー「寄るな、食い入るように私の肩に顔を近づけるな」



若干引き攣った顔でブルーはこの妖魔から距離を置こうとする





ヌサカーン「なぜだね?…ん?あぁ……そうか、安心したまえ、私は"病気という存在を愛する者"でね」

ヌサカーン「世にも珍しい奇病や病状の患者と出会い、それを観察するというのが私の望みなのだよ」

ヌサカーン「従って君達、人間社会で言うところの同性愛とやらには興味の欠片も無いし、世間帯とやらも熟知している」



純粋に"興味の対象物である『患者』"を見たいからでありブルーが危惧するようなことはないと男性型の妖魔は告げる



無音、風も何も無い室内で妖魔の身に纏う白衣は不可視の力ではためき、蒼の術士の肩に幻想的な輝きの粒子を舞わせた



ヌサカーン「どうだね?ん?痛みは消えただろう」


左手で肩に触れる…なるほど、上級妖魔なだけはあると彼は思った
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 19:00:22.66 ID:S8PCjT6F0


古びた廃病院に勝手に住み付き、勝手に改築した風変りの人ならざる者はしばしの間自身の根城を留守にする




懐に柄部分のスイッチを押す事により刃が出る光学兵器[レーザーナイフ]を忍ばせ、その手に大型の重火器[水撃銃]を持つ
 ブルーは記憶の引き出しから書物で知る限り妖魔という存在は機械音痴で有名だという話を引き出していた




ヌサカーン「…くくっ、意外かね?」


ブルー「!」



ヌサカーン「そう目を丸くされてはすぐにわかってしまうよ、ブルー…どうやら君は冷静に見えて感情的な人間のようだ」


ヌサカーン「……私も長い年月を人間社会で生きた、何より患者を観察するのが好きだった」


ヌサカーン「そうこうしている内に科学文明というモノにも詳しくなったのさ」





ブルー「そうか…」フイッ



それだけ言うと彼は絶え間なく水を地表へ注ぐ天を見上げた、いや、逸らした
あまりこの妖魔と長く話していたくない、自分の心の内さえ見透かされそうだから




ヌサカーン「くくっ…この[水撃銃]というのも中々に面白い、銃"火"器という部類でありながら高圧で水を飛ばし…
         ああ、面白いと言えば君の魔術もそうだ、魔術と銘打っておきながら科学的超能力<サイオニック>と――」




ブルー「なんでもいい、早く行くぞ…」スタスタ






どっと疲れた、初日からこれで本当に自分は資質を集めきれるのか…

勢いを増し始める降水量、水煙で眼鏡のレンズを曇らせながら不敵な笑みを浮かべる闇医者
目的を済ませて宿のシーツに顔を埋めたくて仕方がない旅の術士は目的地へと続く廃線へと続くマンホールを降りていく




 道中、海星の中央に蛸の様な口部(触手の下にある肛門のような部位)を持つモンスター[ゼノ]を初め
溶解液を飛ばす[スライム]…人に混じり金銭の略奪を働く下級妖魔らに襲われたが…




1人はもはや説明するまでもなく、もう片方の同行者も両手銃で向かい壁まで弾き飛ばし、解剖手術でも行うように手際良く
モンスター、あるいは人や妖魔の野盗たちを掻っ捌き、時には妖魔の術やカードを召喚する術で無謀にも襲ってきた
身の程知らずを次々と叩き伏せて行った








【18時53分】[クーロン]裏通りでの出来事であった…

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46 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/08/16(水) 19:05:15.72 ID:S8PCjT6F0















            …あっれれ〜?おかしいなぁ?どうして僕こんなことになっちゃったんだろう?














時刻は完全に月が昇る【19時49分】


彼は"喫茶店"で項垂れる様に今現在の自分の状況を振り返った






そう…あれは遡る事、1時間と少し前…





47 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 19:34:59.54 ID:S8PCjT6F0
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―――
――


【時刻 18時40分】


 此処、陰陽の術を操れる資質を求め各地より修行僧が集う異世界<リージョン>、[ルミナス]で紅き法衣に身を包んだ青年が
大慌てで走っていた行先は光の力の尊さを説く陽術の館



ルージュ「こんな高そうなカフスだもん、落とし主には届けなくちゃ…!」タッタッ…!



 赤紫の宝石を握りしめた掌の中に、人の良い彼はスリから荷物を取り戻してくれた少女アセルスの後を追う
発着場から扉を勢いよく開き、ロープと丸太で組んだだけの簡素な吊り橋を渡って陰陽の分岐路へ向かう…その時だった



            ぞわっ…!



昔から彼は直感が優れていた

術士として霊感能力が高かったのも確かにあったかもしれないが野生の直感に近かった




背筋に嫌な感触が這う、走ったせいもあるかもしれないが額に玉汗が滲む、こういう時いつだって碌なモンに遭遇しない
22年間生きてきた彼の人生経験が警鐘を煩いくらいに鳴らす



 無意識にルージュは足を速めた、短距離走で後先考えずに力の限りを尽くすような疾走、丸太の吊り橋が揺れ
他の観光客から「何しやがる!」なんて罵声が飛ぶが脇目さえ振らない


            "まずい、このままじゃ手遅れになる…ッ!"


 根拠なんて無い、だが紅の法衣は更に加速する、銀の髪が靡く、息が苦しい…
だからどうした?後悔することになるよりはマシだ、歯を食いしばり彼はそこに辿り着いた!





               「逃がしませんよ!!」





その声が聞こえ、空間が歪みだしたのと同時だった

ルージュがグニャグニャと景色のブレる結界に飲み込まれていく二人の美しき女性たちの元へ滑り込んだのは――


―――
――




アセルス「きゃあああぁぁ!!」

白薔薇「アセルス様っ!」



 貴婦人の女性型妖魔と緑髪の10代半ばの少女が結界の中へと飲み込まれようとしていた

 彼女達は"追っ手"の魔の手から逃れる為に逃亡を余儀なくされていたが、此処に来て見つかり
邪魔が入らぬようにと閉鎖された異空間に引き込み始末するつもりなのだ

 レースカーテンのような影のベールに飲み込まる寸前、白薔薇は悲鳴をあげる少女の身を守るように抱く
彼女自身も追手の奇襲という恐怖に怖れを感じていたが腕の中で震える小さな少女を勇気づけねばと気丈に振る舞う

だから反射的に目と瞑らなかったアセルスと違い白薔薇姫は確かに見た、影に飲まれゆく自分達の元へ彼が走って来たのを
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/16(水) 19:57:24.41 ID:S8PCjT6F0




ルージュ「どぅおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」ズサァ――!



スライディング、靴底がすり減り、シャッターの様な影の結界で完全に外と内が遮断される直前で紅き術士はやって来た



白薔薇「ルージュさん!?」

アセルス「…ぇ、…!?ル、ルージュ!?どうして!!」


恐る恐る目を開けたアセルスが知り合ったばかりの闖入者の登場に驚きの声をあげる

闖入者に驚いたのは二人だけではない




水の従騎士「なんですか、貴方は…」




それは清流のように穏やかにして静かな声に…聴こえないことも無いが、言葉を発する全身鎧固めの騎士から溢れる
敵意を見てしまえばそんな印象は何処かで跳んでしまう事だろう



一方でルージュはその鎧騎士を見て一瞬呆気に取られた

この騎士風の妖魔と思しき存在が「逃げて来た」と口にしたアセルス達を追ってきた者だと察することはできた


問題は…



ルージュ「……"青"」



青…蒼…ブルー…

そのカラーリングは嫌でも双子の兄を連想させる、言ってみれば彼にとって今一番見たくない色合いであった




水の従騎士「…何者か存じませんが、邪魔をするのならばその命、もらい受けます」チャキッ



白薔薇「従騎士!この御方は私達とは関係の無い方です、結界の外へ逃がしてください!」

アセルス「ハッ!そ、そうだ…!ルージュは関係ない!やめろ!」




なんで来たんだ!?と叫びたかった緑髪の少女は目の前の追手が黒鉄の剣の切っ先をルージュに向けたのを見て慌てた

自分達の所為で無関係な人間が巻き込まれ命を落としてしまう…っ!なんとしてでも逃がしてあげねばと考える





だが、ルージュは―――



ルージュ「いいや、関係なくなんて無いよ、目の前で物騒な恰好した奴が無抵抗の女性を追っかけ回してるんだ」

ルージュ「人間としてそんなの放っておけないッ!理由なんてそれだけ十分だ!」



正義感の強い、超が付くほどの御人好しはそれを見過ごせる程に器用な人間では無かった
49 :今回は此処まで [saga]:2017/08/16(水) 20:46:48.05 ID:S8PCjT6F0


ルージュ「それにね、その恰好!」ビシッ!



全身"青"を基調としたカラーリングの鎧騎士を指さし彼は言った




ルージュ「すっごい個人的な感情だけどさ、今一番見たくない色合いの人に言われると反発したくなるんだよねっ!」フン!




兄の件で思い悩んでいるというのに、ただでさえ蒼色を自分の抱えてる悩みで頭痛がしそうだというのに…!
そんな私情で彼はこの騎士のいう事なんて聞いてなんかやるもんか!と息を巻く



水の従騎士「…いいでしょう、黄泉の国で後悔なさるが良いっ!!」



その言葉を皮切りに騎士は玄武の盾を構え突撃してくる、狙いはルージュだ



アセルス「でやぁぁぁ!!」ディフレクト!

水の従騎士「ぐぅっ!」ギギッ…



 重厚な見た目に反し、敏速な動きで一気に間合いを詰めた鎧騎士は右腕の得物を天へ振りかざし唐竹割りの要領で
ルージュの頭部を叩き切る気でいた、だがそれに一早く反応したのは先ほどまで震えていた少女アセルスだった



 予想に反した動きに反応が遅れた好青年、目的を邪魔する者を排すべく動いた騎士の隙間に割り込むように
彼女は腰に下げていた血濡れの様に妖しく、それでいて美しい妖刀の刀身で黒鉄の刃を受け止めたのだ



アセルス「くぅぅぅ〜っ」ググッ

水の従騎士「はッ!!」ガンッ!ゲシッ!



アセルス「きゃぅ!」



 大剣に近いソードの創りと刀に部類されるブレードでは質量にも差があった
何より彼女の細腕と見るからに逞しい騎士の剛腕では鍔迫り合いに持っていたアセルスが打ち負けるのも当然と言えよう


一瞬、腕を引いてその後に勢いをつけて押し返しアセルスが後方へ仰け反った隙をついて蹴り飛ばす


小さな悲鳴と共に尻餅をついたアセルス目掛けた刺突を騎士は繰り出す
 その一突きは態勢を崩した少女の身体を突き刺すことは無かった、何故ならば突如として伸びて来た念動力の鎖に
腕を絡めとられたからだ、彼女の胸部を貫き心臓の動きを止める筈だった一撃は大きく逸れ、大地に深く突き刺さる



水の従騎士「貴様…っ!」


ルージュ「アセルス!ごめんっ、助かったよ!!
       そして騎士さんとやら!狙うなら初めっから1人に絞っとかないとこんな風に横やり入れられちゃうよ!」


鎧越しに伝わる熱と締め付けられ軋み罅が入る鎧に更なる追い打ちが掛かるッ!


白薔薇「門よ!声に耳を傾け開きなさい!『<幻夢の一撃>』出でよ…!"ジャッカル"」


貴婦人を中心にサークル上の陣が展開される、異界より召喚されるは術者に仇なす者を喰い殺す魔狼
 その牙はルージュの<エナジーチェーン>で締め上げられた腕の罅に突き刺さった…!

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 23:08:41.65 ID:CAIPkBBV0


 異形の魔獣が突き立てた牙は罅を更に広げ、冑に覆われ表情を窺い知る術はないが騎士が苦悶の声を漏らし
牡山羊を彷彿させる2本の角が生えた頭部を振るう姿を見るに恐らく皮膚にまで食い込んだのだろう





紅き妖刀を手にアセルスが咄嗟に機転を利かせた防御

あれだけ大口を叩いた癖に油断したッ!と舌を打ちながらも飛び退きエネルギー集合体で敵の腕を縛るルージュ

詠唱を終え、自身を中心とした陣で異形の存在を呼び出す妖<あやかし>の術でジャッカルを召喚した妖魔、白薔薇姫




 単純に力量差ならば騎士に分配が上がっていた
しかしながら古来より戦いというモノは数に左右される、如何なる兵<ツワモノ>も、百戦錬磨の英雄であろうとも
多くの敵の連携を前にしては辛酸を舐めさせられる事となる





 白薔薇「星光の加護よ、彼の者に安らぎを―――『<スターライトヒール>』パァァァァ!!



 澱んだ溝水のように一点の光さえ刺さない結界の中に一筋の輝きが降りて来る
それは従騎士の剛脚で蹴りつけられた腹部を押さえていたアセルスを温かく包み、光に抱擁された彼女の表情も和らぐ




アセルス「白薔薇!すまない……、私にはまだこの妖刀を、幻魔を扱い切れないのか…っ」



手にするは紅い劔、ただならぬ気配が漂う刃は何も答えてくれない



 先程、ルージュを護った紅き妖刀を鞘に納め、少女は右手を前に翳す…
何も掴んでいなかった筈のその手の中に突如として1本の長剣が姿を現した



ルージュ(…!何も無い空間から剣を取り出したっ!?)

白薔薇(っ、アセルス様…それは!!)



水の従騎士「…ほう、[妖魔の剣]を呼び出せるようになったのですね」

アセルス「だぁぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁ!!」ヒュッ!スパッ!



水の従騎士「仮にもあの御方の血を注がれ、半分とは言え妖魔の仲間入りを果たされただけはある…しかし!」ガキィィン!


ルージュ「うおぉおお!?(なんて腕力だ、腕を振り回して縛ってる僕ごと)」




念動力の鎖が巻き付いた腕を大きく振り回し、ルージュごと振り回す
大地から足が離れ遠心力に翻弄されたルージュは堪らず術を解除し、地面に叩きつけられる


彼の身体が地につくのとは真逆だった、彼女が全く同じタイミングで地から飛翔したのは…!



 青年の肉体が地を2度跳ね、少女が剣の先を敵の顔面目掛け突き刺すような姿勢で跳び
妖魔が驚愕の表情のまま口元を手で覆い、騎士は自由になった利き腕の剣で迎え撃つ



これが一瞬の出来事であった

51 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 00:48:39.95 ID:QDQEiEeC0









                        【< 妖 魔 化 >】







―――――――カッッ!!








 目を見開いた、春の若葉を連想させる綺麗な緑髪は暗色を深め、重力に反するように外側は逆立つ
その姿を見たルージュは勢いよく突きを放つアセルスの剣先を目で追う…


その刃先は水の従騎士の冑で眼の位置に当たる部位を突き刺すのは間違いなかった







剣先が届けばの話だ










水の従騎士「クゥォォオオオオ、ボッッッッッッ!!」ガコッ ブシャァァァァ!!!





口の部分がシャッターのように開く、人間とは違った歯並びの大口が顔を覗かせた


 消防車のポンプから噴き出す高出力の水圧、いや、それ以上の出力で
それこそ重火器[水撃銃]に匹敵する[水撃]が妖魔の騎士の喉奥から放たれたのだ



 鈍い音、障害物も何も無く、真っすぐ跳んでくるはずだったアセルスの右肩から骨が折れたような音がした
滞空中の少女の身体はさながら風を受けた風車のように回りながら弾き飛ばされる




そして追い打ちの一太刀がアセルスの身体を裂かんとする





時間を要する白薔薇の術は間に合わない

弾き飛ばされすぐさま態勢を整えて術を放とうとするルージュでも間に合わなかった





17歳の少女の鮮血が騎士の剣先に付着した
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 01:46:08.84 ID:QDQEiEeC0



言葉を失った、自分の目の前で助けられたかもしれない人が命を落とす





深々と刃が通った少女の肉体が嫌にルージュの網膜に焼き付く、脇腹から臍の位置までざっくり…
やや、斜め上に胃腸から肝臓まで切ろうとでもしたのだろう



あれでは助からない




ルージュ「なんてことだ…」ワナワナ




 このような非道が許されようか、年端もいかない娘が目の前で切り殺されたて平然と何故できようか!?
握り拳を創り、彼は暴挙をあげた騎士を何としても葬らねばと怒りに震えた


 誰にでも優しい彼とて相手が微塵たりとも救いようの無い極悪非道の悪漢ならば手心など加えない
容赦なく爆裂魔法<インプロージョン>でその生命をも奪う事だろう



立ち上がり、彼が術を唱えようとしたその直後―――












                     "それ"は起きた











         ドクンッ!

                 ドクンッ






        ―――ゆらり…





本日何度目になるか、分からないがルージュは絶句した


何故ならば…







53 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!nasu_res]:2017/08/19(土) 01:48:25.86 ID:QDQEiEeC0




                 ドクンッ!

                     ドクンッ!



                ドクンッ!












            シュウゥゥゥゥゥ…!
























                  アセルス「」ユラァ…






























     明らかに致命傷を受けた筈のアセルスが立ち上がったのだっ!!その手に血染め色の妖刀[幻魔]を手にして!


54 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!nasu_res]:2017/08/19(土) 02:20:19.42 ID:QDQEiEeC0



                             ビチャッ!


アセルスの血が地面に落ちた…




アセルスの―――















ルージュ「紫色の血液…?」



妖魔の血は青色

人間の血は赤色




あの血はなんだ?





白薔薇「アセルス様…」





裂けた腹からは血液が滴る…そして驚く事にその傷口が尋常ではない速度で塞がっていくのだ、術の力じゃない


ジュゥゥ…!



ルージュ「あ、アセルス…キミは一体」



アセルス「」フラリ…フラリ…フラッ



意識が無い、何も答えず、虚ろな眼は何も映さない

ゾンビのように起き上がり、風に揺れる草原の芝のように左右に身を揺らし、そして―――






             アセルス「           」ボソッ








  彼女は誰に聞き取れる訳でも無い小声でつぶやいた
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 02:26:14.79 ID:QDQEiEeC0
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               イ`ヽ、::ト、ヽ:\  .._    ̄ ニ´/ /ヽヽ_  -ー /
                / /    |  \ \  ` T ー‐イ     ヽヽ    {
..r─---─−……<く        ヽ_   ` ー─‐イ_   \   ヽヽ─ 丿_
|`ヽ        _ヽヽ__    { \       /((_) `ヽ、_j    √ ̄∨´ `ー-イ、
| |        ゝ、___  ̄ ` ヽ、 `ヽ、_ /: :斤ト、: :| |   _/ - ニ ヽ、__  ノ ヽ
| |      _______`_ヽ、    `    マY| l L!: :| |  イ   xf ニヽヽ /   _人
| ! _ - ( ___          /: : ヽレ'_:_:_j j/  ! 八 l辷ソiリ /U  ∨'Y
亅   ヽ|f⌒ヽ `ー-、___` ̄`      ヽー、: :├──イ   { 〈 ヽ戈Zノ / l!     〉 }
`ヽ、   \ |   >、  (::(`¨     _∨: : :\  `ヽ    =≧=彳_ヽ′ノ    /ハ
   >、 j/| ∠   ` ̄{厂 > 、 {: : : : : : : : :.ト、  `Y  、_  ̄ _ - ´   ヽ_ノムノ
  |\」/   ヽ{f⌒i    / ̄   |:>'=-: : : : : :..:| f=ーハ     ̄  }    ,f´广´
  ヽ      \ ヽ  / 7ヽ  ハ: :..:∧ニニつ:.//: :..:/ ゝv'⌒)__ノ廴/>′
     ̄ ̄>、  入ノ`ー`ー': : | /  X/_: !: : : : :〈〈: :/    / >、ィ´⌒`‐ア〈
      ト、⊥/  ヽ: : : : : : : \__」/: :L|: : : : : :V: |    ̄/    _ - ' /
        ` ー─‐r}:\: : : : : : : : : : : : : ト、: : : :/,′       ‐´   /}_
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          -    幻   魔   相   破   -








56 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 02:28:09.72 ID:QDQEiEeC0
    .|  .|    . ゙゙ゝ..、  _..-'"          |i |i            ヽ              }l
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         }!      l{          ヽ   /                        /  }l           \
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/19(土) 23:39:04.33 ID:QDQEiEeC0


気がついた時には全てが終わっていた



妖魔の騎士はもう動かなかった



蒼を基調としたカラーリングの鎧は音を立てて砕け、その破片が砂粒のように変貌する

流れ出した粒子は天へ昇り、蝶へと変わって何処かへ飛び去って消えゆく




幻想的な『死』だった…


後には彼が持っていた[玄武の盾]が転がっていた







意識を失ったアセルスもまた、元の[ルミナス]の風景に戻ったこの場所に倒れていた





「おい!何の騒ぎだ!」

「戦闘があったんじゃないのか…」

「誰か!警察を!IRPOのパトロール隊員を呼べ!」



ルージュ「騒ぎを聞きつけて人が…」バッ!



 倒れて動けないアセルス、その傍らに泣き出しそうな白薔薇
群がる群衆…パトロール隊員の要請、…穏やかじゃないのは確かだ



白薔薇「嗚呼…!そんな!」


白薔薇「厚かましいとは思われますが!お願いです!どうか人を近づけないでください…!」


白薔薇「今のアセルス様を人に視られる訳には!」






紫色の血液を流した少女…


人に視られる訳にはいかない…


シップ発着場の方から来る人集り、逃げ場がない…







    ルージュの中で答えは出た



ルージュ「白薔薇さんっ!アセルスの身体をしっかり掴んで僕に捕まってくれ!」つ【リージョン移動】

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 04:48:40.34 ID:FCDawJzU0


外界に出てからは一度たりとも使うまいと思っていた宝石を強く握りしめた



 涙ながらに悲願する貴婦人の妖魔、如何様な理由があるかまだハッキリと分かってはいないが
今、彼女らが民衆の眼に触れるという事は"泣くほど"の事なのだ


ならば誰の眼に触れることも無く脱出する手段を使う他ない

























                ルージュ「『<ゲート>』…[ドゥヴァン]へ!!」
























―――
――



時刻(アセルス達を連れて逃げた回想シーンから今、現在)【19時49分】





「お客さん、どうだいウチのコーヒー占い」ニカッ


ルージュ「あー、すごくいいです」グデー


白い歯を見せて笑うマスターを前に喫茶店のカウンターに突っ伏すようにルージュは疲労の混じった声を出す


59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 05:48:40.42 ID:FCDawJzU0


ルージュ「…陰術か陽術の資質を取る為に[ルミナス]に行ったはずなんだけどなぁ…あれ〜おかしいなぁ」

ルージュ「なんで僕ってば丸1日使ってこんな事になってんのかなぁ、あはははははー」(泣)




「ありゃ?間違ってコーヒーにお酒入れちゃったかな?お客さん?大丈夫ですか」ポリポリ




ルージュ「大丈夫です、それとお酒入ってないんで安心してください、うっ、うぅぅ…」ブワッ






カランカラン!




アセルス「…あのー…此方に銀髪の男の方はいますか?」


ルージュ「」ビクッ ハンカチ、トリダシ ナミダフキ!



ルージュ「やぁ!!もう平気なんだね!良かったぁ」


アセルス「ルージュ、…此処に居たんだ、白薔薇の手当のおかげでなんとか、それで目を覚ました後で聞いたんだ」

アセルス「資質、私達のごたごたに巻き込まれたから取りに行けなかったんでしょ…ごめんなさいっ!」ペコッ


ルージュ「…いや、そのことは良いんだ、自分から突っ込んでいったんだしさ」

ルージュ「それよりも大口叩いといて結局僕は何もできなかった謝るのは僕の方だ」


アセルス「…」チラッ

ルージュ「…マスター!コーヒー美味しかったし個性的な占いで楽しかった、また来るよ!じゃあね!」



緑髪の少女はチラリと喫茶店の店主を見た、目配せ…


此処じゃ話せない事があると暗に言いたいのだ、それを汲みルージュはアセルス、そして外で待っていた白薔薇と共に
神社の方へと歩き出す


白薔薇「ルージュさん…アセルス様のことでお話があります、ただ口外しないことをお約束願いた―――」

アセルス「いいんだ白薔薇、どうあれ巻き込んだのは事実だ、だから…私の口から"話す"」


白薔薇「…畏まりました」





神社の長い階段、紅葉が風に舞い、蒼白い月の光はそれを幻想的に染め上げる


アセルスは告げた…彼女達の立場を、包み隠さずに



60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!美鳥_res]:2017/08/20(日) 06:05:45.15 ID:FCDawJzU0
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[BGM:主人公アセルスのテーマ(未使用曲) ]

https://www.youtube.com/watch?v=R9iIWQlZxzM





妖魔、人とは異なる種族が住まう世界<リージョン>がある


妖魔の王の中の王、"魅惑の君"と崇められるオルロワージュなる者の統治の元その地は悠久の時を流れていた


変わらぬ日々、代わり映えの無い行動、決められたルーチンワーク、住人も城の召使も騎士も皆が淀んだ時間を過ごす




時が止まったように動かない世界、何もかもが"いつも通り過ぎる"世界



そこで"人間の少女"アセルスは目を覚ます




彼女は困惑した、生まれ育ったリージョン[シュライク]の自宅ではない、見た事も無い天井、見た事も無い部屋での目覚め


彼女は思い出す、育ての親の叔母の頼みでお得意先に本の配達に向かった事を…


彼女は思い出す、その帰り道に





  命を落としたことを…






アスファルトの上を歩いていた、真夜中の道路上には自動車のライトもエンジン音も何も無かった

そう、音もなく、突如として現れた馬車に、馬に、轢き殺された





思い出して頭を押さえた、このご時世で馬車? …頭を強く打って記憶がこんがらがってるのか?ここは何処の病院だ?と



もしかしたら、自分はおとぎの国に迷い込んだ夢でも見てるのかもしれない、なんて楽観的な考えも持っていた

中世のお城のような内装を歩き…


棺桶に入ったたくさんの女性を見て青ざめるまでは





彼女は知る事になった


その城に住まう妖魔の君、オルロワージュの馬車に轢き殺され絶命した事を

そして、"暇つぶし"で城主オルロワージュに妖魔の青い血液を注がれ

半分人間で半分妖魔という、この世でたった一人の奇異の存在に変えられてしまった事を…っ!


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61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!美鳥_res]:2017/08/20(日) 06:22:41.60 ID:FCDawJzU0


アセルス「お願い!この城から出たいの!叔母さんに…家族の所に帰りたいの!!」


白薔薇「アセルス様…」



妖魔の君より、教育係としてアセルスの面倒を見ることになった者が2人居る

1人はアセルスに武術を教えるようにと騎士を(尤も手当たり次第に圧倒的実力差のモンスターと戦わせるだけの人だが)




1人はアセルスに礼儀作法、妖魔の世界について教育するようにと99人居る城主の寵姫<ちょうき>…人の言葉で言う愛人
その99人の側室の中で誰よりも優しい姫、白薔薇姫が担当することになった



血液を体内に注がれたアセルスとは違い、妖魔の君に血液を吸われ…それこそ御伽噺の吸血鬼のように吸われた白薔薇姫は
人間としての人生を強制的に終わらせられ、妖魔へと変えられた


そんな白薔薇姫は故郷に、そして家族の元へ帰りたいと願うアセルスの姿にかつての自分を重ねたこともあり

彼女の脱出に加担する



そして、念願の[シュライク]へと帰郷できたものの…






アセルスの叔母「…アセルスは12年前に行方不明になったんだよ!あの時と変わらない姿なんて…私を騙す妖怪かい!」

アセルス「叔母さん…違う、違うの!私、アセルスだよ!生きてるんだよ…っ!」





アセルス「12年…、私が意識を失って12…年…?」


アセルス「白薔薇…どうして、教えてくれなかったの?」



白薔薇「…私達のリージョン[ファシナトゥール]では時間の流れなど意味を持ちません」

白薔薇「ですがそれ以上にアセルス様に…ショックを与えたくなかったのです」



眠り姫

もしくは、竜宮城から帰って来たばかりの浦島太郎か



母親代わりの叔母は白髪で、数日前までは同級生だった女子高校生は子供の母親…、街並みは所々変わっていて



アセルス「12年も歳を取らないなんて…やっぱり私はもう人間じゃないんだ…、化け物なんだっ!!」

白薔薇「そのような物言いをしてはいけません!」




城を抜けだしたことで、帰る場所を…迎えてくれる人も失くした自分の唯一の理解である白薔薇姫を奪い返そうと

従騎士たちがやって来る


自分はもうどこにも行けない、誰の元へも帰れない、だからアセルスは白薔薇を護る決意を…逃げ切る決意を胸にする


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62 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/20(日) 06:33:42.56 ID:FCDawJzU0
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白薔薇「アセルス様…これから何処へ向かわれるのですか?」

アセルス「…何処だって良い、二人で逃げ切れる場所へ行くんだ…」


―――
――





そして二人が乗り込んだシップの行先は[ルミナス]だった…そこから先はルージュも知る通りである





ルージュ「そんなことが…」


アセルス「お腹、切られちゃったんでしょ?私」

アセルス「でも、この通り私はもうピンピンしてるんだ、血管を流れてる血だって人の赤と妖魔の青で紫」




アセルス「前にもお腹をグサッて刃物で刺された事があるけど、すぐに傷口が塞がってさ…ゾンビみたいに」





アセルス「気味が悪いでしょ?」



自嘲気味に笑った、それがなんとも言えない、…この少女が一体何をしたというのだ



アセルス「[ファシナトゥール]から逃げて来る前にこの妖刀、[幻魔]を手に入れた」

アセルス「逃げるなら少しでも万全の準備が必要だったからね…でも、困った事にこの剣は使いこなせてないし…
                       白薔薇を護るって言っときながら実際、騎士との闘いはあんなんだよ」


アセルス「私が劔を使ったんじゃない、私が劔に使われた、気絶したまんま、引き摺られるようにね」


アセルス「何から何まで駄目さ」


63 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 00:45:33.92 ID:jsyQzSm60


ルージュ「君達は、これからどうするんだい」



 彼には使命がある、祖国の最高権力者から双子の片割れを殺せ、と…国家が欲するのは完璧な1人の術士
双子の片割れを決闘を通じて打ち倒す事で唯一無二の最強を証明せよ、と



その勅令を無視すれば国家反逆罪として追手がやってきてルージュは始末される、それは兄ブルーにも言えることだが…









生き残るためには国の御言葉に黙って従い、各地での修行を終え、資質を集め、術を磨き兄を抹殺する事…






アセルス「もう引き返せないんだ、これからも追手から逃げ続けるさ、白薔薇と二人でね」

ルージュ「―――っ!」





目の前の彼女は、追手に追われる身の彼女は他人事とはどうしても思えなかった

未来の…そう、選択によってはこうなるであろう、未来の自分の姿なのだ





ルージュ「僕も…」


振るえる唇から声を絞り出す、止められない



ルージュ「僕も…君たちの旅路に付き合わせてくれないか…資質集めの旅で世界各地を歩き回る」

ルージュ「君達が安住の地を見つけるその時までボディーガードくらいにはなれる!」



アセルス「ルージュ……」


その眼差しには光があった、何かを見出したい

国を出て、これから誰かに言われた通りに決められたレールの上を歩くだけの人生、兄を殺すか殺されて終わるか



たったそれだけの『生』の中で何かを残したい、その何かを残せるかもしれない、そんな希望があった



 紅き術士の旅の最終目的を知らない半妖の少女は戸惑い、共に逃げて来た妖魔の貴婦人に目を配らせる
それを見かねた白薔薇は口を挟む


白薔薇「ルージュさん、わたくし達と共に行動をなさるという事は従騎士に襲われる危険があります」

白薔薇「それでも良いと仰るのであらば歓迎いたしますわ」


アセルス「し、白薔薇?」ギョッ


 目配せはした、危険に巻き込むのも吝かではないアセルスはこの男性にどうお断りの言葉を掛ければ良いか困っていた
しかし瞳の奥にある希望を見たような光に戸惑い彼女に助け船を出したが、予想に反した声が来たので驚いた
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:53:53.32 ID:jsyQzSm60


 白薔薇の姉姫…"44番目の姫"に勇敢な姫君が居る、噂で聞く限り城主に眠らされ続けている彼女に限らず
決意を持つモノの眼には通ずる物があるのだ、一歩たりとて退こうとしない強き意志を宿した目…それを彼女は知っている


恐らく、彼は『退かない』そういう目をしているのだと解るのだ



ルージュ「覚悟の上です、それでこの命を落とすというのなら…僕はそれまでの人間だったということだ」


ルージュ(そう、兄に殺される、国家反逆罪になり大勢の人間に囲まれ死ぬ、旅路の果てで死ぬ)


ルージュ(死ぬまでの過程で何かを作りたい、誰かの役に立ちたい…
         もちろん死なずに済む方法、兄を殺さずに済む策が見つかるならそれが一番だし)









ルージュ(それに、知ってしまった以上もう他人事とは思えない…!)





白薔薇「アセルス様、私からのご意見をお許しください…現状私達は行く宛ても無く、また頼れる人もおりません」


白薔薇「此処はルージュさんのご提案を受け入れるべきだと思いますわ、…アセルス様の心中もお分かりですが」



アセルス「……分かった」クルッ


アセルス「ルージュ、私達が安住の地を見つけるまで…お願いできる?」


ルージュ「ああ!当然だ」ニィ!




朗らかな笑み、青年は手を前に差し出し、少女もその手を握ろうと前へ――――





             「今だっ!!!」」ブンッ!




       プシュウウウウウウウゥゥゥ――――っ!


ルージュ「!?」

アセルス「な、なに!?」





 茂みの中から光る物体が飛んできた、それは月光に照らされて僅かに反射することから金属だと解することはできた
スプレー缶の噴出音の様なそれは二人の合間に飛んできて"ガス"を噴き出す


ルージュ「げほっげほっ…こ、れ――ぁ」バタッ

アセルス「ルー…げほっ!」


「おおっと、そこの嬢ちゃん動くんじゃない!」

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 02:36:19.54 ID:jsyQzSm60


 目が痒い、それと同時に襲ってくるの体内に妖魔の血が流れているアセルスでさえも意識を手放しかねない強烈な睡魔
茂みからガサガサと掻き分けて歩いてくる音と野太い男性を聴覚は認識する


「俺達は手荒な真似したくないんだ、それにそっちの白い子を視ろよ」


アセルス「し、白薔、ごほっ…」フラッ


 睡魔、"ガス"に遮られ視界が暈ける中、いつの間に白薔薇の身体を取り押さえたのか男が数人
白薔薇を拘束、口元を覆うようにハンカチのような布を押し当てているのが見えた


がっくりと項垂れるように、目を瞑った彼女…恐らくこのガスと同じ成分の薬を染み込ませた布で白薔薇を眠らせたのだ




アセルス「!白薔薇、しろばらああああぁぁぁぁ」


「うるせぇ!!お前も眠ってろ!!」


アセルス「ぅぐうっ!…‥っ!…!!…・・・っ・…」ジタバタ、…ガクッ





「ふぅ…いっちょ上がりか、へへっ…イイ女が3人も」





…3人、どうやらこの男達、全員女だと思い込んでいるようだ



「どれもこれも上玉だぜ…、にしても…聞いてた情報と違うな」

「ああ、[ドゥヴァン]の神社に[ファシナトゥール]から逃げ出した妖魔の姫が出没するって噂だったが…」チラッ

「この頭に花飾りつけてる奴じゃねぇのか?」
「俺に聞くなよ、噂だけで容姿とかは分らなかったしよ…そもそもガセネタの可能性があったろう?」



"[ドゥヴァン]の神社に妖魔の姫君が居る"…リージョン界で誰が流したか知らない噂…尤も眉唾物として扱われていたが



「っていうか、この銀髪のネーちゃん人間じゃねぇの?」

「なんだっていいさ、このレベルならヤルート執政官も満足するだろうよ」




「ああ、最近妖魔狩りに凝ってるっていうあの変態のな…あんなのが各地のリージョンの取締役、トリニティの執政だろ」

「政治家が軍事基地に自分のハーレム作って女と変態プレイとか…世の人々が聞けば税金返せって喚くよな…よいしょっ」


「おい!そっちの女たち運べや!…小型の高速艇をわざわざ借りてシップ発着場に止めたんだ」

「早いトコ運んで礼金貰おうぜ!」



「おう!あのシップならトリニティのラムダ基地まで1時間もしねぇつけるぜ」


―――
――


66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2017/08/23(水) 02:53:20.28 ID:jsyQzSm60















            …まずは一つ目か、認めたくないが背を預けられる者が居るというのは悪くない














自然洞窟、人間がいつしか忘れ去ったそこは神秘的な世界だった


希少価値の高いレアメタル、鉱石、あるいは古代のお宝を求めた野盗、モンスターも徘徊していたが…






 それでもこの空洞は表の[クーロン]よりも居心地が良いと感じたのは保護の力だろうか…


67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 07:44:18.75 ID:jsyQzSm60


ヌサカーン「ほう…大したモノだな」




 白衣の妖魔医師は目の前で荒れ狂うルビーの嵐に感嘆の声を漏らす
蒼の術士が唱えた魔術はその名を冠するにふさわしい輝きを見せた、朱色の太陽達…そのまんま、その通りだ


彼が言葉を切ると同時に巨大な宝玉が現出し、それは惹きあうようにぶつかり砕け、弾け飛ぶ




衝突の瞬間に出た火花は正しく日没の一瞬の煌めきに等しい光で、その残光は飛び散った無数の破片に乱反射する

物理法則を完全に無視した光の迸流、大気も何も無い無風の空間に渦巻く竜巻




熱を帯びた鉱物の棘は地脈から"保護の力"を喰らっていた巨虫たちを貫き、体内に熱を送る

 腹、胸、頭の三構造を持つ体節はどれもこれも針の筵の上を転がされたかのように穴だらけで
タンパク質の焼け焦げた異臭と白い煙が立ち上り始めていた、蚤虫に酷似したモンスターの死骸を見てから
ブルーは1匹だけまだ息のある蟲…[クエイカーワーム]を睨みつけた



ブルー「醜い粗虫め、今楽にしてやる…」



文字通り虫の息、放っておいても息を引き取るであろうモンスターに向けて爆裂魔法<インプロージョン>を打ち込もうと――



ヌサカーン「…ふんっ!!」シュバッ!


「ギィッ "ッ ッ」




ヌサカーン「たった一撃で沈む相手にそれはないな、仮にも医者を前にして瀕死の相手に追い打ちをかけるのはどうかね」

ブルー「……」



ブルー「……」プイッ



ヌサカーン「やれやれ…君は情けや人情とやらを学ぶべきだな」



手にした[妖魔の剣]を霧雨のように消し、妖魔は白衣をはためかせながら眼鏡越しに目の前の青年の後ろ姿を見る
 決して殺しを愉しんでいる訳ではない…、それは分かるのだが



ヌサカーン「人間にも様々なタイプが居る者だ、冗句の通じない相手などがな」



 他者に自分の心の領域を犯す事を一切許そうとしないタイプ、調和性が極端に低い人種
根が真面目過ぎるが故に手加減を知らぬ者…


束ねた金糸の髪が揺れる彼はその3点が見事に揃っているという…



ヌサカーン「私から君に診断結果を告げるべきかな?…君は人との繋がりを持つとイイ、さすれば自ずと心にゆとりが」
ブルー「どうでもいい話は後にしろ、それよりもルーンは何処だ」



やれやれ、と肩を竦め「まだルーンが何処にあるか気づかないのかね?」と妖魔医師は言葉を続けた
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 07:59:09.13 ID:jsyQzSm60



ブルー「なに?」ピクッ



ヌサカーン「」トントン



妖魔は何も言わない、ただ片足をあげて爪先で地表を叩く

革靴の底が2回音を鳴らし、術士はそれが意味する所に気がついた




ブルー「…!なんと」


ヌサカーン「この街が何故ここまで栄えたか理解できたようだね」




ルーン文字の刻まれた巨石に触れる、そのためにリージョン界を廻る旅をすることになった
巨石というからにはそれなりのサイズだろうと思ってはいたが…






           ブルー「この地脈そのものが保護のルーンだというのか」




"今自分が立っている大地そのものが"目的の大岩だったのだ


 地盤そのものが目的の石、大地には窪みがあった、1本の長い…川か何かが元は流れていてそれが干からびてできたと
そう思えるような痕があった、途中枝分かれのように三岐路になったような地層



もしもブルーが鳥か蝙蝠か…何れにせよ翼を持った生命体でこの地下空洞のこの場所を
少し浮遊して真上から見ればすぐに分かった事だろう



この場所こそが保護のルーン…<エオロー>の刻まれた巨石だと…!!












                フォン…!

      i⌒i    
. <^\ .|  |. /^>
  \     / .
    \  /   .
      |  |    
      |  |      フォン…!
      |  |    
..    弋_ノ    


  フォン…!



           『保護のルーン』を手に入れた!


69 :今回は此処まで! [saga]:2017/08/23(水) 08:00:55.39 ID:jsyQzSm60
https://www.youtube.com/watch?v=HSh7-WrhFnk
[BGM:サガフロより…アイキャッチ専用曲]
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                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=〜 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
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                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
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     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
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70 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 14:31:20.74 ID:OL516RZpO
乙乙
久々にサガフロやりたくなってきたわ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:46:15.11 ID:oub8EXv60

【時刻 21時23分】




 常闇の街は夜が深まるにつれ昼間以上の輝きと華やかさを増す
特に居酒屋、路上で鍋から湯気を湧き立たせる屋台には顔を赤くしてグラス一杯の焼酎を呷るスーツ姿が目に映った


闇医師ヌサカーンと別れ、1人[クーロン]の安宿へとブルーは歩いていた


 夜なのに昼間以上に明るくなる摩訶不思議な街はその特徴的な色を濃くしていた、路上で客引きをする売春婦
酔っ払い同士の殴り合いを肴に酒を呷りどっちが勝つか金銭を張る警官…数が明らかに増えていた


喧騒と欲望に塗れた暗黒街の小さな安宿、カウンターの向こう側には翼竜の姿をしたモンスター種族の店主が経営している



「1泊、10クレジットだよ」


良く言えば質素な、悪く言えばただの寝床が置いてあるだけの部屋を貸し与えるだけの宿
シャワー、食事等は別料金のオプション扱いだ



しかし、隙を見せれば無一文、裏通りを歩けば追剥の末に骸へと変えられかねない無法地帯で羽休めができる所とあらば
喩え雑魚寝しかできない粗末な場所であろうとも砂漠のオアシスに等しい楽園なのだ




部屋の鍵を受け取った後、シャワーと軽く胃に詰められる物を注文しようと思いながら荷物を整理していた時だった






ブルー「!?…無い、無いっ!!」ガサゴソ



ブルー「【リージョン移動】が無いだとっっ!!」



息を荒げ、何度も自身の荷物をひっくり返して鞄の底を漁る、目当ての宝石は出て来ない
ブルーは一旦呼吸を整え、考えられる可能性を一つ一つ挙げた…

盗まれた?いや、それは無い、此処がどういう街かこの数時間でいやという程に知った
それに、自然洞窟へ入る前に[傷薬]の確認等で一度鞄を見たが…その時は確かにあった…とすれば



ブルー「くそっ!!自然洞窟に落としたというのかッ!」


 ヒステリックに両手で自身の金髪を掴み、忌々し気に床を蹴り飛ばす
疲れた身体に鞭打って彼は既に目的を果たした筈の地下空洞へと再び赴くこととなったのだ…






災い転じて福となす、これは何処かのリージョンに伝わる諺だが、これが後々彼の資質集めの旅にまた関わって来る



無論、福となす方…つまり良い意味で



―――
――



72 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 01:24:47.00 ID:oub8EXv60



黄金色の髪の女「…はぁ…モヤモヤするなぁ〜」


紫色の髪の女性「そう」



黄金色の髪の女「そうって、ライザぁ…」



ライザ、と向かいの席に座る女を呼んだ女は机に突っ伏したまま洋酒入りのコップの淵を指でなぞっていた






ライザ「あと2時間するかしないかでラムダ基地にエミリアを乗せたシップが着地するでしょうね…」


ライザ「エミリアが自分の婚約者の仇、ジョーカーの情報を首尾よく掴めたとしてどう脱出するか」ゴクッ


ライザ「私達は現状、助けたくてもそれが儘ならない…
       基地から適当に小型艇でも奪ってエミリアが逃げて来るのを信じて待つ他ないわ」



口にアルコールを含んだ女が一呼吸おいて淡々と事実だけを述べる

仲間の1人が任務の為とは言え女癖の悪い事で有名な政治家の元へ薬で眠らされて売られたのだ
 表に出さないだけで心配してはいるのだろうが…




ライザ「それで、アニー…貴女はどうする気なのかしら?このまま私と朝までヤケ酒を交すつもり?」ゴクッ


アニー「…遠慮しとく」グデー




アニー「…」

ライザ「」ゴクッ、ゴクッ…




アニー「ライザ」

ライザ「なにかしら?」



アニー「暇」

ライザ「そう」





そっけない返事に黄金色の髪を持つ彼女はムッと頬を膨らませた


アニー「はぁー、もう良いよ…!本当はエミリアが帰ってきたら3人で行く気だったけど…」チャキッ


そういって、彼女はポケットの[レーザーナイフ]とは別で仲間達と同行中に街中で買った得物を…
机の脚の所に凭れさせていた[サムライソード]を手に立ち上がる



アニー「解放、活力は取ったけど、身近にある保護と[シュライク]の勝利は後回しにしてたからね」

アニー「自然洞窟のお宝さがしついでに行ってくるよ、ちょっと鬱憤晴らしたいしさ!」

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 16:16:46.90 ID:xELsypRTO
アニー来た!
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 20:52:14.63 ID:hsAywGgW0
巨乳きたか!
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 00:09:13.64 ID:Mh5gDrEmo
う〜ん、でかい
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 00:34:04.87 ID:VcHYNB2LO
でもレッドの出番は少なさそう
というかなさそう
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 01:01:02.90 ID:rmSlmX26O
ルージュと組ませればワンチャン
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 21:49:54.64 ID:8EAxpLHc0


 鬱憤を晴らす為、金銭を得る為、と威勢良く飛び出していった彼女の後姿をライザはコップを傾けながら見送った
ショートパンツにブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけの相変わらず露出度の高い彼女は店を出る前に
溌剌とした笑顔で「お宝みつけてくるから!楽しみにしてなよ!」とだけ言って飛び出す



ライザ「」ゴクッ



傾けたコップを卓上の上に置く、片寄った液体は水平になりイタ飯屋の照明の灯りを何処か寂しげに反射させる







「心配なら、ついていけば予感じゃないのかい?此処で独りでの飲んでたってつまんないだろう?」







ライザ「…珍客ね、今日は定休日なのだけど」ゴクッ





「いやぁ〜![クーロン]に寄る機会があったもんでさぁ!久しぶりにエミリアに会いに来たんだよ!」



イタ飯屋…皆が犯罪履歴を持つ構成員であり、役に立たないパトロールや法律ではどうにもできない事柄を解決する
裏組織"グラディウス"の隠れ蓑である店内にやたらと明るい声が冴えわたる




 扉の前に居る珍客は紺色でボサボサの髪に民族風の帽子と服装…如何にも「田舎から出てきました」と言った風貌で
腰には使い込まれた剣が一本、その背中には彼の名前と全く同じ弦楽器が背負われていた





ライザ「そう、残念ね、エミリアは今"お仕事中"なのよ…それより、貴方まだ仕事が見つからないのかしら?」ゴク



弦楽器を背負ったニート「ありゃ?エミリア居ないのかー………仕事の方は、まぁぼちぼちな!」



ライザ「…貴方の言う通り、一人でお酒を飲むのも虚しいわ、面白いお話でも聞かせてくれないかしら?」





弦楽器を背負ったニート「おっ!なら今日の出来事を話すぜ!」


弦楽器を背負ったニート「[スクラップ]の酒場で出会った"指輪を集める奴"と"謎のメカ"と一緒に悪党を退治した話さ!」


弦楽器を背負ったニート「さぁさぁ!聞くも語るも愉快な物語の始まりだぜ!」ポロロン〜♪






―――
――

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 22:07:19.34 ID:HT+lE5s/0
ニート、一体何者なんだ(棒)
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 00:29:57.89 ID:m2WBEQKN0
【時刻:22時14分】





アニー「[飛天の鎧]だ!」チャリッ!



軽快な足取りで自然洞窟へ脚を踏み入れた彼女を絶好のカモと勘違いし戦いを挑んだモンスター、野盗が返り討ちにされて
そこら中に転がる中、彼女は頬を綻ばせた


そんじゃそこらの出店では早々見つからない希少価値のある宝が湯水の如く湧いていたと言うべきであろうか
上機嫌で値打ちのある手土産を収穫し、もはやオマケと目当てが逆になりつつある保護のルーンを彼女は目指す




「くそ…!此処にも無い!」




アニー「ん?」スタスタ









ブルー「…考えられるとすれば、やはりあの粗虫共の所か…っ!」


アニー(あいつ…裏通りから出て来た奴か)コソッ





男性二人の悲鳴が上がった路地裏の方から何食わぬ顔で歩いてきた珍しい法衣の人物の顔はよく覚えていた
 妙に苛立った様子で辺りを散策する様子に眉を顰め、岩陰に身を隠す

術士の周りにはなんとも惨ったらしい死体が複数転がっており、それがアニーを警戒させる一因でもあった


妙な気配を感じるから戦闘の準備を、とヌサカーンに言われ、ルーンの地脈がある空洞へ入り込む前に[術酒]の瓶を開けた
 酒瓶を取り出す為に鞄を一度開けたが、あの時に何らかの形で彼の命の次に大切な国家からの大事な支給品を落とした


宿を飛び出てすぐにそう考えて再び最奥の此処まで彼は戻って来たのだ





 裏組織グラディウス、常に命の綱渡りを繰り返す組織に属するアニーは…いや、組織に属する前から厳しい環境で
育った彼女は人一倍、自己保存と自己防衛の本能に研ぎ澄まされている



だからこそ不用意にブルーには近づかない



下手な真似をすればすぐさま自分もあそこに転がる死骸の仲間入りを果たしかねないからだ


後退ろうと一歩脚を退いた、不味かった




                  ―――コツッ



ブルー「!? 誰だ!!」

アニー(っ!…アタシとした事が、しくっちまった…)チッ
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 02:52:36.95 ID:m2WBEQKN0



アニー「あたしはこの奥にあるルーンを探しに来たんだ…そしたらアンタの姿が見えてね」ザッザッザッ…

アニー「先に言っとくけどその辺の野盗共と一緒にしないどくれよ…この通りだ」



両手を上げながら、ゆっくりとアニーは術士の前に出る

 隠れてやり過ごすことは不可能、逃げれば後ろから術を撃たれる可能性も無きにしも非ず…
ならば両手を上げて敵対の意志が無い事を示した方が良いと考えたのだ



ブルー「…証拠はあるのか?」ジトッ



アニー「あたしの鞄の中に[ドゥヴァン]で貰ったルーンの小石がある、それが証拠さ」
ブルー「出してみろ、ゆっくりとだ、妙な動きは見せるな」



ゆっくりと、その言葉に従うように鞄から小石を取り出す…


アニー「ほら、これさ…アンタその恰好からして術士だろ?術士がこんなとこに居るんだなら、同じ石を持ってるはずだ」



ブルー「…!("活力"、それに"解放"まで…)確かにそのようだな…」



ブルー「女、貴様も資質集めをしているようだな?」


アニー「…ああ、それとあたしはアニーって言うんだ、女なんて名前じゃないね」ムッ!




目の前の術士のやけに尊大な態度に内心怒りを覚える
上から目線で他者を見下したような眼差し、…ハッキリ言ってアニーにとって苦手なタイプの人種だ


ブルー「ならば訊くが、この付近でこれぐらいの大きさの宝石を見なかったか?」


アニー「…いや、見てないね」




 正直に言えば仮に見ていたとしてもシラを切ってやりたいと思ったが、相手の機嫌を損ねたくない
見ていたと言えば、案内しろと言われかねないし、もし道中拾っていたとして知らないと言えば「ならば鞄を見せろ」と
そう言われる可能性もある



ブルー「鞄の中身を見せろ」



ほれ、言わんこっちゃない

アニーは内心で愚痴る





アニー「…ほら?嘘はついてないだろう」


ブルー「…疑ってすまなかったな、どうにも気が立っているようでな」


アニー「…ふぅん?」


これは意外だ、偉そうな態度が鼻につく奴だと思っていたが、謝るとは…
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 03:37:38.87 ID:m2WBEQKN0


ブルー「こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様」ジロッ


アニー「そ、そう…」ギクッ




ブルー「それにしても、そうなるとやはり…」ブツブツ

アニー「…あのさぁ、アンタ落し物ってことはこの奥まで行ったの?」


その宝石とやらをこの自然洞窟で落としたというからには一度ここに脚を踏み入れたという事、それが意味するところは
この術士もルーンを求め此処へ来たばかりか、事を為し終えた後のどちらかである


ブルー「ああ、そうだが」


アニー「だったらさ、あたしを保護のルーンのある所まで案内してくれない?その代わりアンタの探し物を手伝う」


アニー「あたしは保護のルーンに触れられるし、アンタは探す目が増える、悪くないと思うけど?」



ブルー「ふむ?」



 道中、野盗やモンスターの群れを剣の錆にしてきたアニーではある、だが予想を超えて広がる大自然の地下迷宮と
敵意を以て襲い来る者達の数の多さに少しだけ疲れの色が出ていた


突破できるかできないで言えば目的を果たしてライザの元へ帰る事はできる

しかし、1人だと威勢よく此処へ来たものの流石に疲弊の色が滲んでくるのだ



見る限りこの術士は相当の手練れ、ならば戦力として申し分ないし、それはこの術士ブルーにとっても同じ事が言えた





            露出度の高い女…見るからに頭の悪そうな女


アニーは世の男が見れば放っておかない容姿だ、女としての魅力があるのだが…

如何せん、目の前の男は例外中の例外、世の全ては知性で決まると判断する男で外見的な容姿には目もくれない




 この場にもし、リージョン界を魅了した元スーパーモデルの金髪美女が居たとしても『頭の悪そうな女だ…』と
鼻で笑うような男である




上記の通り、ショートパンツに上半身はブラジャーにジャケットという肌の露出の多い姿はブルーにとって最悪な第一印象
しかも、岩陰に隠れて此方を窺っていたのだから尚更である




…当然ながらブルーとしては、「こんな女と行動なんぞ共にしたくない」というのが本音なのだが




ブルー「…いいだろう」



[術酒]はヌサカーンと来た時に使った、宿から此処まで全速力で悪鬼の如く駆け抜けて立ちふさがる者を術力の限り屠った
術力が底を尽きればブルーは戦力を失い窮地に立たされることになりかねないのだ

不本意ながら、剣を手に此処まで来たであろう女を利用する他ない
83 : ◆u5jU/0ZJi2 [saga]:2017/08/30(水) 05:03:11.37 ID:m2WBEQKN0


それに、この徹底した合理主義者にはもう一つだけ目論見があった




アニーの持っている"活力"と"解放"のルーンだ





 リージョン界の何処かにある巨石探しの旅路で、ブルーは初日で残り3つの内2つの在処を知る事が出来るのだ
双子の弟が今、どれだけ資質集めの旅を進めているのかは知らないが



 自分の名を告げ、[マジックキングダム]から資質集めの修行の旅をしている事を語り、他愛の無い会話をすること早数分
彼が"活力"や"解放"に関する情報を聞き出そうとしたところで―――






ブルー「所で、訊きたいのだがその小石――」

アニー「おっ!こんなとこにクレジットが落ちてるなんて使ってくださいねっていってるようなもんじゃん!」チャリッ









ブルー「…先程は言いそびれたが貴様の集めているルーン―――」


アニー「500クレジットだわ!」ダッッ! チャリッ!










ブルー「……見たところ既に"活りょ―――」イライラ

アニー「[術酒]だわ!…飲めるのかしらねコレ」チャリッ!









ブルー「………貴様の持っている"解ほ"―――」イライライライライラ…!

アニー「[星屑のマント]じゃん!!これで軍資金もかなり財布の中に貯めとける!」チャリッ!

アニー「ふふっ、これで大儲けね」ニィ








   ブルー 「 い い 加 減 に しろ ! !!さっきから金、金、金!と守銭奴か貴様はッ!!」




キレました。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 06:11:32.18 ID:m2WBEQKN0



アニー「〜っ!んな大声出さなくったって聞こえるっての!!」キーン


 両手で耳を押さえる女をしり目に肩で息を切る術士、フラストレーションを一気に解き放つ
その怒声は薄汚れた都会の地下に存在する大迷宮に響き渡り反響させる






ブルー(…っく、これだから薄汚い街の女はッ)ギリッ





アニーに背を向け、見えない様にブルーは端麗な顔を歪める…顔は見えずとも歯軋りは聴こえているかもしれない



表の街並みで見かける売春婦を汚物でも見る様に彼は見ていた、金の為に身体を売る女
そんなにまでするのか、と





冷ややかな眼差しは背後の女を見ない、見ないが「どうせこいつも薄汚い下賤な者だろう」とアニーを見下していた



"この時までは"





アニー「っ!」チャキッ

ブルー「!」バッ!




「きぃぃぃーー!!」キコキコ…!




アニー「…チッ、アンタがバカでかい声出すから余計なモンが来たじゃない」

ブルー「ふん…!悪かったな」プイッ







一言でいうとソレ


真っ白な体毛、長くうねうねと動く尻尾、それは紛れもなく白猿そのものであった
奇妙な点を挙げるとすれば、その猿は人類に利器(?)に跨っている事だ…


頭に[ヨークランド]の民族衣装を連想させる帽子を被り、一輪車を乗りこなす猿…[モンキーライダー]だ



アニー「2匹か、お互い一匹ずつ片づけるわよ」


ブルー「ああ、そっちは任せた」



アニーが[サムライソード]を手に地を蹴り、それを皮切りにブルーも術を口ずさむ
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:03:03.04 ID:m2WBEQKN0


「ウキャキャ!」


大道芸の荒業か、ペダルを漕ぎながら突撃してくる白猿は一輪車に跨ったまま跳ぶ、でこぼこ状の石床を器用に走りながら
ペダルに両脚を乗せたまま猿は人の背丈を優に二回りを越える大ジャンプを果たす


「キッキィィ〜っ!!」



高く飛び上がるライダーはそのまま鍾乳洞に在りがちなつらら状に垂れ下がった鍾乳石にしがみつき
公園のブランコで子供が遊ぶ様を再現するように猿は動きをつける、後退、前進、それを生かし

ニタニタと笑いながら猿はアニーを車輪で踏みつけようと勢いをつけて強襲を仕掛ける――――ッ!





             ジュバッッッ




「キッ きゃ?」ブシャアアアアアアアアアアアアァァァ




[モンキーライダー]の網膜に映った映像は…



アニーが[サムライソード]で何も無い空間を切った光景



[モンキーライダー]の鼓膜に飛び込んだ音声は…



見えない真空の刃が自分目掛けて飛ぶ音





気がつけば白猿の視界は180℃反転していた、地表に居るはずのアニーを見つめていた二つの眼は天上を見つめていた


 黄金色のショートヘアーを揺らしながら彼女が放った[<飛燕剣>]は…剣気によって生じた真空の刃は
猿の首をスッパリと切断した、天井の洞窟生成物に

べちゃり、と音を立てて何かが突き刺さるが見るまでも無い

 頭部の無い遺体がアニーの数p先に落下し、紅い水溜りを創る
そして主を亡くした一輪車はカラカラと音をたてながら何処へなりと駆けた



…派手な音がアニーの後方から鳴り響いた、きっと壁にでも衝突したのだろう




アニー「ふぅ…掃除完了っと…」クルッ



ブルー「…先を急ぐぞ」



プスプスと煙を上げる焼死体を背にブルーが声を掛ける



アニー「ちぇっ、先に仕留められる自信あったのに」

ブルー「誰も競争なんぞしてはおらんだろうが…」

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:20:55.54 ID:m2WBEQKN0



ブルー「」スタスタ…

アニー「」テクテク…








アニー「…アンタ、は……さ…その、"家族"とか居るの?」テクテク…


ブルー「なんだ藪から棒に」スタスタ…


アニー「良いから、答えなよ、別に減るもんじゃないしいいだろ?」




ブルー「……」







ブルー「居る、」






――――――物心ついた時から…施設暮らしだった、祖国の学院で…自分は育った


―――――――祖国は自分の親代わりだ、自分を育ててくれた父親であり、母親である


――――――――― 子供は…子供は大恩ある親に尽くす義務がある…
              だから俺は…祖国の誇りの為に尽くし、国家の為に身を粉にする、それが俺の誇りでもある






             だから俺は…――――−






ブルー「たった"1人だけ"…居る」









             ― 名前しか知らない、顔も見た事無い双子の弟<ルージュ>を殺す ―





      ―――弟を殺して、自分こそが優れた人間である証明を掴む、そして祖国に求められる完璧な魔術師となる





87 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:43:16.36 ID:m2WBEQKN0


後ろを歩く女は目の前を歩く男の顔を見ることはできない

もし見たのならどれだけ険しい顔だったかを知れただろう






アニー「たった"1人"…?」



アニー「…そう」


アニー「…」





アニー「あたしさ、どうしてもお金が欲しいのよね」テクテク…


ブルー「なんだ突然、話の前後が繋がらない――」スタスタ…














     アニー「あたしには弟と妹が居る…あたしが稼いで養わなきゃいけないのよ、あたし達、親いないから」




                      ブルー「…」ピタッ







"弟"という言葉に反応するように、男は足を止めた




アニー「二人共施設に預けててさ、こんな街だから費用も馬鹿にならない」

アニー「身体の弱い妹は[ヨークランド]の裕福な家庭に養子になったから一安心なんだけどね」

アニー「弟の方はまだ小さくて、そんでもって手が掛かる悪ガキで」



アニー「こんな街で女が小遣いを稼ぐなんて殆ど決まってる…男に身体を売るか荒っぽい事をするかの二つ」


アニー「あたしだってこれでも女だからね……腕っぷしでヤバい橋を渡る方を選んだわ」



アニー「アンタの言う通りあたしはお金にうるさいの、気分を悪くして悪かったわね」




アニー「…」

アニー「ああ!!やめやめ!こんな湿っぽい話、らしくない!」

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/08/30(水) 07:56:32.81 ID:m2WBEQKN0


数分前、アニーはこの不遜極まりない男に驚かされた


今度はブルーが目の前を通り過ぎて行った女に驚かされた



「薄汚い街の女」「どうせ肌の露出の多いその恰好…表に居た醜い売春婦共と同じだろう」と見下していたが…




その考えは改めざるを得ない、人は外見に寄らない、目に見える物、言動だけが全てではない




ブルーにとって今日一番の外界で驚かされた事、一番の衝撃との出会い、ファーストコンタクトだ










ブルー(…露出度の多い女には違いないがな)














  この世に かみ が居るとするならば、なんと数奇な巡り合わせを用意したのだろうか…




  奇しくも此処に居る者は…【弟を自らの手で殺す為に戦う男】と『弟たちが生きれるよう食わせていくために戦う女』









    これほど奇妙な組み合わせがあるだろうか…














2名は自然洞窟の奥、[クエイカーワーム]が巣食っていた空洞内へと到達する


ブルー「!! 【リージョン移動】…此処にあったのか!」ダッ!



89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 12:25:51.92 ID:7X8P3L88O

やっぱアニー良いな
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 13:18:42.16 ID:Eggdf3fJ0




          「ギュィィイイイイイイイ イ   イ イ "ィイ "ぃ 」シュバッ


             ブルー「 ?!ぐ、がっ ぁ!?」ド ゴ ッ





地下空洞の最深部に落し物はあった

彼は敬愛する祖国からの支給品という命の次に大切なそれをここに至るまでに術を乱発し文字通り血眼になって探し求めた








だから、気が抜けた、有り体に言えば完全に"油断していた"




 妖魔医師と一度ここに来た時、ブルーは自身の唱えられる最高位の攻撃術を放った…目に見える物全てを巻き込み
広範囲に渡る灼熱の宝玉の嵐、熱を帯びた鉱物の破片は蟲の群れを物言わぬ亡骸へと確かに変えた


辛うじて生きていた粗虫もヌサカーン医師の一太刀で生命線を断ち切りそれを締めに殲滅したと思った





 先入観や思い込み、これほど恐ろしいモノは他にあるまい…入口から一直線に入って来たブルーの鳩尾目掛けて
突進してきた巨蟲のモンスターは何処に潜んでいたのか、はたまた彼等が一度地上へ帰還していた合間に余所から来たのか




アニー「!!―――っくぉぉっっらぁぁ」シュパッ!ザシュッ!


「ギッッ!」ガシュッ!ジュブッ



アニー「おい!しっかりしろ!生きてるのか…おい!返事をしろって!」



 目の前を歩いていた蒼の術士が猪を裕に上回る大型の昆虫モンスターの突撃で跳ね飛ばされると同時に
彼の後ろをついて来ていた彼女は脊髄反射で[サムライソード]を鞘から引き抜き蟲の前脚を切り飛ばした



 大胆不敵に思い切った踏込、そして股下から頭部目掛けた切りつけ、剣術における"逆風"という名称のそれを放つ


前脚を切り飛ばされ血飛沫を上げる蟲を見据え牽制しつつも彼女…アニーは後方の術士に声を掛ける


ブルー「…ぅ、粗蟲共…まだ居たのか…っ」ヨロ…


アニー「…生きてるんだね、良かった」ホッ



腹部を抑えながらも返事を帰してくれた男の顔はまだ見れない、だが生きている事が確認でき安堵した



アニー「目の前で死なれたりされちゃ、流石にあたしも夢見が悪いからね」チャキッ


91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 13:59:51.21 ID:Eggdf3fJ0



「ギィィ…」ギチギチ
「ギュゥゥィイイイ」カサカサ…





 刺々しい触覚のような手足、牙をギチギチと鳴らし威嚇をする[ワームブルード]の群れ
前方に2体、右斜め後ろに前脚を切り飛ばした1体…羽音を響かせながら降りて来るのが1体…計4匹の巨蟲がお出ましだ




ブルー「…おい、ゴホ…女」


アニー「…あたしは女なんて名前じゃないね、なんだよ」


ブルー「さ、っきので、上手く声を――うぐっ…だ、せん  ゲホッ」ビチャ…


アニー(コイツ血ぃ吐いてんのか…)




 目を離せば彼奴等はなだれ込む様に襲ってくる、後ろの魔術師は察する所、術を唱えようにもそれが儘ならないときた







ブルー「整うま、で…ッ 時間が居る、時間を稼げ」

アニー「言ってくれるじゃん、難しい注文をさぁ…!」ダッ!





 要点は確かに聴いた、女手一人で馬鹿デカイ蟲の化け物を4匹相手にしろと言っている
術の使えん魔術師など恰好の餌食でしかない、ならばこそアニーが猛進し後方のブルーに近づけさせない、それしかない




<うらぁぁぁ!! ガキィィン ザシュッ!
<キイイイィィ ィ ィ ィ ィィ ィ!!







ブルー「ゼェ…ゼェ、くっ…」スッ!バッ!



ブルー([ドゥヴァン]で買った術書が功を成すようだな…!)シュッ!サッサッサッ!





 シップに乗っていた合間に術書を開き、内容を頭に叩き込んだ彼は両手を動かす
幼子のあやとりを初めとする手遊びや手話のように忙しなく動かし、"印"を表す


それはかのリージョンでは"九字護身法"などと呼ばれる式の築き方だ




ブルー(印を構築した…あとはこのまま印を切りれば…)ゴホッ



永い詠唱はできない、短く、それでいて今の自身を癒す方法…!
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 14:23:02.72 ID:Eggdf3fJ0





           ブルー「…生命を繋げ…っ [活力のルーン]!!」






 素早く印を切り、短く喉の奥から捻り出すように声を捻出する

基本術の一つにして自身の細胞を活性化させ身体の損傷を癒す印術[活力のルーン]目の前に出現するライトグリーンの光は
ルーンの文字を宙に描き、ブルーの身を包む…すぐさま自身の身にせいの力が漲って来るのを感じ取る




―――
――




    キィン…!



                 パァァン…!







     アニー「あうっ!」ドサッ


 アニー「〜っ、こいつ…他の奴よりも強い…どうして…」ハッ!?










  「ギッ〜ギイギイィ…!」バタタタタッ![アシスト]!


  「ギイイイイイイイイイイイイイ――――ッィイ!」"STR UP!"."QUI UP!"."INT UP…










アニー「くそっ!こいつら仲間同士で互いに強化させてるからか!」




「キシャアアアアアアアアアアアァァァァァアアアアア!!」バタタタタタッ!ガリッ



アニー「なっ!―――きゃあああっ!!」ガシュッ



猛スピードで突っ込んできた1匹に肩を喰われる

鍛え抜いた反射神経で掠る程度には留めたものの羽織っていた緑のジャケットが裂け、露出した肩肌からは血が滲みだす


93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 14:56:36.94 ID:Eggdf3fJ0



アニー「い"っ‥‥、こ、こんのぉ!クソ蛆虫ぃぃ!あたしのお気に入りだったってのに!!」






肩の痛みを気に入りの服を破かれた怒りで紛らわす、目尻に浮き出た涙を振り払うように渾身の一撃を打ち込む






        アニー「喰らええぇぇぇぇ!!![稲妻突き]ぃぃぃ!!」ダンッッ――ギュンッッ!!



             「ビギィィッ!?―ギッ」ブチュンッッッ!!グシャ!




雷光一閃


刺突技を十八番とする彼女が可能な限りの瞬発力を発揮し稲妻の如く突っ込む






 [仲間の体術使い]と[銃火器を巧みに扱うスーパーモデル]等と共に

"多くの剣術を閃き"[達人]の域に到達した彼女の剣先には闘気が渦を巻き、稲妻が迸る突きの一撃は滞空する虫の胴体を
ものの見事に吹っ飛ばす、頭部、腹、なんやようわからん昆虫系モンスターの臓器が散乱する



同胞の贓物と血飛沫の雨に臆んだか、後に続いて追い打ちをかける予定だった1匹の動きはやや鈍いモノとなる


勢いを落とした突撃など多くの修羅場を潜り抜けて来た彼女からすればスローモーションで―――






         アニー「ふっ!!―――」サッ




くるり、踊るような足さばきで回避行動を取ると同時に手早くジャケットの内ポケットから[レーザーナイフ]を取り出し
グリップを握り締めてボタンを押す


このご時世何処にでもあるビーム兵器の大して珍しくない駆動音と同時にナイフの柄から先に光り輝く刃先が伸びる








 ――――――クルッ…ザシュッ! ガシュッ!





           アニー「…[かすみ青眼]っと!」ボソッ





遠心力を上乗せした両手の得物で害虫を一匹スライスする
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 15:24:38.09 ID:Eggdf3fJ0



アニー「これで2匹、あとは―――」キッ!




害虫を2体駆除し、すぐさま[<アシスト>]で肉体を強化された粗虫共を睨みつける


アニーが振り返ると同時に虫の一匹(最初にブルーに突撃して彼女に脚を切り飛ばされた奴)が強化された奴の頭上を
忙しなく飛び回っていた



すると何ということだろうか、強化済みの[ワームブルード]の身体についた切り傷が癒えていくではないか…っ!!






アニー「…[<マジカルヒール>]回復までできんのね、随分と多芸な事で」チッ!



最初に仕留めとけば良かったと舌を打つ、芸達者の蟲は凝りもせずアニー目掛けてその巨体で体当たりを仕掛ける


当然ながら彼女もそれに対して迎撃すべく剣を構え地を蹴る…










…が!











          ヒュンッ! ヒュンッ―――!






             アニー「!!」






強化された蟲の背後から飛んでくる力の塊、それはモンスター特有の技[エルフショット]であった―――ッ




 飛んできたエネルギー弾の直撃はもはや免れようがない、それでも抵抗すべく刀身で2発叩き落としたが残りは全弾被弾
後方から放たれた援護射撃に遅れて強化済みの蟲がアニーの身体を撥ね飛ばす


血を吐いて仰け反る様な恰好で吹き飛ぶ彼女に[エルフショット]を放った蟲が牙を突き立てるべくアニー目掛けて羽ばたく




 余程、片足を切り飛ばされた事でも根に持っているのか
その執念の赴くままに接近し柔らかな人間の女性の肌に[毒液]滴るその牙を…!

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 15:45:22.74 ID:Eggdf3fJ0







            ブルー「爆ぜろ、[インプロージョン]!」キュィイイイン!






「アギッ!」ボンッッボジュッ





…粘り気の強い[毒液]が滴るその牙は彼女の身体に突き刺さらなかった




短い断末魔、一瞬の焦げ臭さを残し、この世から消え失せた


片脚を切り取ばされた恨みよりも、不意打ちで鳩尾に一撃喰らわされた魔術師の方が根に持つタイプだった、それだけの話






ブルー「ふぅーっ…このクソゴミ蟲共が…此処に保護のルーンがなければこの場所諸共消し飛ばしてやりたい所だ」




見るからに青筋を立てて、惜しみなく不機嫌を表現する術士は目だけで人が殺せそうな視線を残りの害虫に向ける




アニー「なぁ…こいつはあたしにヤらせてくんない?」




腹部を片手で抑え、同じく怒りで肩をわなわなと震わせる黄金色の髪をした女がゆっくりとブルーの背後に近づいてくる

ブルーは呆れた、この女の耐久性に





自分でさえああなったというのに、強化された彼奴の突撃を直に受け止めてその程度で済んでるのか、と







                      ブルー「勝手にしろ」

                      アニー「ん、わかった」



                      「ギッ!?ギイイイィィ!?」









元より、お宝さがしに加えて鬱憤晴らしの為に来たのだ
蟲如きにコケにされては財宝の他に苛立ちまでお土産にしてしまう、怒りの一撃をお見舞いせねば
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 16:13:11.45 ID:Eggdf3fJ0


不穏な空気を感じ取ったのか、モンスターは脇目も振らずに一目散に逃げ出そうとする



アニー「逃がすかぁぁぁぁ!!」



 剣を構える、達人の域に到達した彼女が閃いた一つの到達点
無駄なく敵の急所のみを狙い、生命活動の源となる部位を確実に寸断する手法








       アニー「だあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」シュバッ!















                   [デッドエンド]ッッッッ!!











 地下空洞内全域に轟くような音、天井すれすれまでに跳躍した彼女の身体は逃走を試みる小蟲の一生に幕を下ろした



―――
――


https://www.youtube.com/watch?v=L-oSUIEn218
[BGM:クーロン]



【クーロン:発着場前】



ブルー「まさかあんなところに抜け道があるとはな」

アニー「大昔の地下鉄だからね、こうやってシップ発着場に繋がってる場所もあんのよ」



 お互いに目的を果たした男女は[クーロン]の街へと戻って来ていた、アニーは同僚のライザから教わった道を使い
蒼の術士と共に帰って来たのだ


アニー「あのデカイ蟲が保護のルーンになんかしてるから、街の治安が悪くなるんでしょ?」

アニー「なら、これで安心して暮らせる奴もちょっとは増える、良い事ね」




自分の後ろについてくる術士から聴いた話からそんなことを考える、お宝は手に入るし運動にもなった
挙句にはこの街で暮らす人々の平穏にもつながる良い事じゃないか、と
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 16:29:27.52 ID:Eggdf3fJ0



ブルー「…」スタスタ


ブルー「おい、おん………アニー」






「おい、女」と言いかけて改める、初めて目の前を歩く女の名前を尊大な態度の術士は口にした





アニー「な、なにさ?」




この無礼極まりない男が急に改まったので内心驚きを隠せない、とりあえず返事を返してみれば








ブルー「癪だが、貴様には一つ借りができたな…」

ブルー「粗虫の最初の不意打ちからあれだけの数に囲まれれば俺も命を落としたやもしれん」




ブルー「礼を言わせてもらう」




アニー「お、おう……気にすることないっての…」



偉そうな態度が鼻につく男ではある、が最初の邂逅の時もそうだったが自分に非がある時は素直に謝るのが筋だと述べたり
この男は変なところで真面目だ



ブルー「この借りはいつか何らかの形で貴様に返させてもらう」

アニー「そ、そう?(なんか調子狂うわね)」




借りを返す、かぁ…しかし、返してもらうにしたってどうする
どうせな貰うのなら満足のいくものが良いと思うのが人の常





アニー「……!ねぇ!アンタさ!その恩返しだけどなんでも良いの?」

ブルー「? ああ、可能な事であるならばな」



命を救う、これに匹敵する恩ならば返してやってもいいと思うし、何よりこの女は"[解放]のルーン"、"[活力]のルーン"

ブルーが喉から手が出る程欲しいモノの情報を彼女は二つも有しているのだっ!






…要するに、純粋に恩義に報いてやるのが半分、もう半分は貴重な情報源の機嫌を損ねたくないという利己的な考えなのだ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/09/19(火) 16:49:15.15 ID:Eggdf3fJ0







アニー「ふっふっふ…なんでも良いのね♪」ニシシ




―――この時ッ!アニーの頭上に豆電球が灯るッ!



アニー「じゃあ、あたし含めてあたしの仲間達をディナーに連れてって欲しいのよ!アンタの出費で」


ブルー「晩飯を奢る程度で良いというのか?その程度なら構わんが」




アニー「OK!契約成立ね!取り消しは無し!」つ【紙切れ】




ブルー「? なんだこ―――」





ブルーが手渡されたのは一枚のチラシだった…先程のリージョンシップ発着場で誰でも気軽に貰えるチラシ







アニー「すっっっごくお金の掛かる豪華客船での食べ放題バイキングディナー」

アニー「いやー、一度で良いから皆で行きたかったのよねぇ〜♪」





ブルー「  」





そのチラシにはこう書いてありました






                         【チラシ】

  〜『美しき白鳥のフォルム、展望台から一望できるリージョンの空!満点のサービスに豪華三ツ星ビュッフェ』〜


     〜『 [マンハッタン]発の宇宙船<リージョン・シップ>  《キグナス号》で優雅な一時を! 』 〜
            ※三ツ星ビュッフェは別料金となり、クレジットはお一人様――――




アニー(…エミリアが帰って来た時に、詫びの一つは要るだろうとは思ってたし…)

アニー(グラディウス皆でちょっとした旅行みたいで良いわよね!)ニシシ♪


アニー(不本意だけどルーファスの奴もこのキグナスって船に乗せてやって、皆でご馳走ね)



99 :今回は此処まで [saga]:2017/09/19(火) 17:10:22.15 ID:Eggdf3fJ0

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三

      【解説:アニーの閃き率】

どの主人公を選んでも印術の資質入手EVで仲間に出来る子、ラッキースケベの主人公曰く「う〜ん、でかい。」

仲間キャラそれぞれに閃きやすい系統というモノが存在する、"体術" "剣技" "銃技"…その中で彼女は剣

とくに[突き]系の剣術を閃きやすいというが…



   実 は そ ん な こ と は な く 寧ろ 全仲間キャラの中で閃きが一番悪い

 というのも彼女だけが閃きの系統が異質、剣とか銃とかそういうレベルじゃなくて

 彼女は 『[名前がカタカナ]系の技』 を閃きやすいという 何故か独特の系統が設定されてるらしい


 だから漢字の刀技や剣技も新技が覚えにくいらしく
       代わりに[ディフレクト]とか[ロザリオインペール]等の名前がカタカナは閃きやすいという噂



           , _,r '' ´ ̄ ̄ ̄`ヽ、
          //               \
         _//                  ヽ---イ
        /            \ \\  \ヽ
      / /        / |     ヽ ヽ ヽ   l l
      l//      / |  ト 、 ヽ  |l  |ハ | | |
      | |   /  / /| |  | `、 || | |イ} リ | | |
      | |   |   | ハ |⊥|-- | || / ,ィ〒| /| リ
      | |   |   | { l八,⊥= l /|/ ヒj_ K |/
      | |      |川 リィlトイ:} リ/〃   、 "VV
      リ} l     ||ト|ヽ ゞ='´     ′ ハ ト==‐
      〃|| |    ヽ \`ヽ、""   ー一  /| | |
        |j/ /  ヽ\ヾミ        /| | |/
        // / │ | | hヽ ‐- ..__, イ {/イ
       //// ∧ | | lTリ____」 │  | {〃
      |/|/ / /川川/ナ人____| ̄`Y | ヽ、_
      |l | / ///レ┴┴‐tュ_r‐┬r)〉  ト|ヽ、_ノ
      l! | / //      \┴┴'⌒ヽト、
          | { ケ/>====t \   \ \
          〈rイノイ´ ̄ ̄ ̄|L -ヘ ___>‐、ヽ、
           〈 〈 |       └┬⌒〉      ヽ `ヽ、
            ヽ| |  , ---- 、|  |       }     ヽ、_
            ヽV , ---- 、)  |        /     /フ二入
             |Y      |   |     ∧   // 〃    `丶、
             | |      |  |二>--イ ヽ` '‐|レ/_          `>- 、
            /│       |   |-──┤   \//″ ` ''‐ 、 __/    ``ヽ.
            /   |      |    lニニニl  /// |    ,、‐ ''´     `ヽ、    ヽ
            \  |     |    l     レ'  | || | ,  '´             /       |
              ヽ_|       l    \  /|   ノノ/      /      |_i    |
              |     |一''´ ̄ ̄ _l |ァ-イ/         | {        | |l、__/ lハ
             / ̄ ̄ ̄ヽ---─ ''´ |」k/|==ァ     V       し1 / 丁7
             〉‐───く __r─ニロテ7 /|) 〃      /        / 〃 / /
             L -──‐、_)テ }} // |// ∨ ̄了    /         しl |_/‐'
              レ── 、|〉   }}厶//レ'   ヽ 〃    /          /
              |       ん〜┬〒イ  |    ヽ-─┐/         /`丶、
               |      /   / |  | |   |       \ //           /    `ヽ、
                |     /   / |  | |  |      ヽ/           /        \
             j     ハ  / │ l |  ヽ      /,'          /    /      ヽ
            ∧   / `、   |  | ヽ   \   / !           / __/ノ      |
           / ヽ二二ソ  \      \   `ニン |       /´              |
        rr '´       |     \         __ノ   |       /            /
        //ヽ__人   ノ      `ー‐ '´ ̄ ̄    /|      /            /
       / / /  , `'"            ____,.  '´  │     /               _/
      (_/    ̄       rァ⌒ト-‐''´  /     j       /        ,  '"´
                 _,ノ /    /      / /    /_...  --‐ ''´
               , イ   //    /      r'´ ̄ ̄`ヽ、/
            //  / |「レ== 、_ ヽ、___, イ       ヽ
            厶/ |< M Lト=ッ7/7| _.. -'´ /         /个L
            | ∧//ヽ|ラ‐イ//|し1´    〈 ┬‐ 、  (( イ/| 〉〉
            レ冖\__/Jl」 ̄      /   ト|`Tヒ// |しノ
            `ヽ⊥ -‐'´           |__  \\//大」
                            ├  ``ヽ、 ̄|/ ⌒⌒ヽ、_
                            | r─、    ̄ ̄二二ー‐ヽ
                            ヽ三三 r─‐ 、` ー----ハ
                                  ``<┬三三三ヽ/
                                     ` ーニニソ

───────===========ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニ三三三三三三三三三三三三三
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 17:53:01.66 ID:xEXM+K6SO
そんな特殊な閃き条件ついてたのかこの子……
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 18:13:14.39 ID:z1+jwyCk0
はへ〜知らんかったわ
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