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おくさまはおきつねさま
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83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:07:23.52 ID:fwAKQtYr0
「ふぁっ……ぁ……なんれ……」
一瞬でトロ顔だ。
「ちょっと心配になったんだ。さっきのおしっこ、ちゃんとトイレでふいたのか?」
「んぁ……ぅ……ふきました……よ……?」
僕はまだ尻尾の付け根から手を離していない。
「あの場所にいるのが怖くて適当にふいたんじゃないのか?」
「しょんなこと……」
「だったらさ、おしりこっちに向けて見せてみろよ。しっかりふけてるか見てやるから」
「え……しょれは……」
まだ、尻尾を刺激し続ける。
(そろそろか?)
「わ、わかり……まひた……」
自然と、頬が緩んでしまう。
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:08:44.09 ID:fwAKQtYr0
「うぅ……こう、れふか?」
まこもは僕と一緒に起き上がると敷布団の上で四つん這いになった。
さっきまで触られていた尻尾が僕を誘うように艶かしく揺られている。
襦袢を捲ると見るべき場所は透明の糸を垂らして雄を受け入れる準備をしていた。
「……拭けてない。しっかり拭かないとかぶれるぞ」
彼女のそこを広げると広がった隙間からまた新たな分泌液が溢れてメスの匂いを放つ。
それを鼻から通すと磁力で引き寄せられた相方のように僕のオスが反応を示した。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:09:44.15 ID:fwAKQtYr0
「あっ、ふぁ……」
口をつけて蜜を舐めとる。舌を痺れさせるようなしょっぱくて苦い一口、幼い場所から出たそれは大人の味だった。
初めてアルコールを口にした感覚に似ている。決して美味いとは言えないが舐める度に何故か口に馴染んでいく。
「拭いても拭いてもキリがないな」
「ら、らってしょれ……おしっこじゃ……」
「おしっこじゃないならなんなんだ?」
また尻尾を掴む。この行為はまこもを精神的に追い詰める効果もあった。
「ぅ……えっち……」
「なんだって?」
「えっちなときに……でちゃうおつゆで、す……」
まこもの切なげな視線と合う。『もうやめて欲しい』『もっとして欲しい』彼女の顔はどちらにでも取れた。
しかしどうしても今は、自分の都合のいい方にとってしまう。
「キリないからさ、おさまるまで、栓しような」
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:16:44.98 ID:fwAKQtYr0
考えたことがある。彼女の一番の弱点は尻尾だが、その弱点の位置には意味があるのではないだろうか。
(例えば、交尾するときに自然と刺激される位置にあるとか……)
引き寄せられたオスを沈めていく。お互いから分泌された粘液どうしが絡み合って結合部の隙間から泡がたつ。
半分まで挿れたところで腰を一気に沈めると驚くほどスムーズに勃起は肉壺に滑り込んだ。
「あ゛ぁんっ」
奥にぶつかった瞬間まこもは僕の枕を抱きしめて痙攣した。
(やっぱり……)
彼女にとってこの体勢は、恐らく一番子作りに適していた。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:17:25.44 ID:fwAKQtYr0
「ぁ……フッ……フッ……」
まこもは枕に噛み付いて快感を抑え込む。彼女の鼻が僕の臭いのするであろう枕に埋もれている。あんなところで荒い呼吸をしたら、僕は彼女の鼻腔まで犯してしまう。
「ぅー……うー……」
前から、後ろから、彼女を支配する。
小ぶりで丸みのある臀部を抑えて、腰を前へ前へ押していく。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:19:02.55 ID:fwAKQtYr0
「はふっ……あっ、あぅ、んぁあっ」
ときおり尻尾を掴みながら子宮付近を突き続けると急激に膣壁が縮小し、それだけで射精しそうになる。
「やっ……わふっ……ふっ……」
「まこも……イッてる?」
「わからないれふ……あたま……ふわふわして……」
「……女の子ってさ、中に出されたとき気持ちいいほどデキちゃうんだって」
「ふ、ぇ……?」
「だからさ、今出したら……絶対……」
「っ〜〜!」
出まかせの興奮剤は想像以上に効いていた。彼女にも、僕にも。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:20:02.12 ID:fwAKQtYr0
痛いほど締め付けられる、絞り出すために。さらに膨らんでいく、大量に放出するために。
(種、付け……したい)
「ひぃっ……あっ……んっ……」
両手を広げて布団に着くと力任せに腰を押し付けた。先穴にぴったりと吸い付く子宮口付近に先走りを塗り込む。
「っ……ふぃぁ……」
交尾の中、その膣内で行われるさらに小さな性行。
……耕した土に、小さな空間を広げていく。
「まこも……っ!」
種を、植えるため……
(孕めっ)
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:21:48.97 ID:fwAKQtYr0
「あっ……ああぁっ……びゅーびゅー……きてゆ……」
ドクンッ……ドクンッ……
僕の心臓と連動している。命の鼓動と連動して、そこに新しい命をふきこんでいく。その営みが、腰が溶かされそうなほど、熱くて……気持ちいい。
「はー……はー……あったかぃ……れふ……」
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:22:34.01 ID:fwAKQtYr0
引き抜いて布団に倒れこむ。まこもの隙間から僕が刻み込んだ証が気泡を割りながら垂れていくのが見えた。
「えっちなおつゆ……おさまりましたか?」
振り向いたまこもは倒れた僕を覗き込んだ。仰向けに寝返りをうつと彼女の逆さの顔と目があう。
「……どうだろ」
「もぅ」
(だってなんか別の垂れてきてるし)
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:23:11.98 ID:fwAKQtYr0
「……美形ですね」
まだ紅い顔のまこもが小さく呟いた。
「そんなことはないだろ」
また泣かれるかと思った。怒られるかと思った。しかし最初に言われたのは意外にも下手なお世辞だった。本当にそんなことはない。
「次『い』ですよ」
(え、しりとりってまだ続いてたのか。ってか『美形』ってそういうことかよ)
やっぱり下手なお世辞だった。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:24:36.33 ID:fwAKQtYr0
「じゃあ椅子」
「好きです」
(え)
狙っていたのかそれとも今思いついただけなのか、一秒もせずに帰ってきた。
「は……えと……僕も……」
「知っていますよ。前も聞きました」
彼女の両手が僕の輪郭を包む。
襖の隙間から朝焼けの青が差し込む。浮かぶ彼女の顔は確かにいつものまこもだった。それは間違いない。そのはずなのだが……
(まこもってこんな大人っぽい顔もできたのか)
それとも、自分がまだ子どもなのか。
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:25:40.57 ID:fwAKQtYr0
「優しくしてくれるあなたが好きです。えっちになっちゃうあなたは……ちょっぴりこわい、ですけど……やっぱり好きです」
まこもは僕と並んで横になった。
「ふふっ、次は『き』ですよ」
まこもが額を当てて笑う。鼻先どうしも当たる。そのまま、影を一つにしていく。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 23:26:36.70 ID:fwAKQtYr0
この時期の早朝は誰でも温もりが恋しくなる。それは寝ても寝なくても変わらない。
「れ、ろ……ちゅりゅ……」
恋しいものは目の前にあった。大切に抱えると服が掴まれる。身を寄せあえば僕らはどちらもそれが手に入った。
「むっ……はっ、次は『す』だけど、まだ続けるか?」
「……しゅき」
「あ、同じのは……いいか……」
僕もまた同じことをするだけだ。
「んちゅ……れろ……ちゅっ……しゅき……」
眠くなるまで。
96 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2017/11/21(火) 23:27:12.79 ID:fwAKQtYr0
なうろうでぃんぐ
(-ω-)
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/22(水) 06:55:28.70 ID:b9yeq5t0o
乙
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/25(土) 09:26:40.50 ID:4lx88PIWO
このなうろうでぃんぐなんだっけな…座椅子か
99 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2017/11/27(月) 12:08:09.71 ID:6TdKgm8c0
>>98
座椅子の
>>1
です
またスレに来ていただきありがとうございます
m(-ω-)m
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:09:37.54 ID:6TdKgm8c0
「ゴホッ、ゴホッ……あーだる」
朝の話だった。
布団から体を起こすと外側からは鳥肌の立つような寒さ、脳の内側からは熱の塊が閉じ込められているような熱さを感じた。
出勤のために這うように布団を出たが立ち上がることすらままならずにそのまま畳に突っ伏した。
僕の異変に気がついたまこもが棚から体温計を持ってきてくれた。
測った結果は三十八度八分。出勤を断念した僕は勤務先に連絡をいれ、本日は休息を取ることにした。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:10:16.27 ID:6TdKgm8c0
『おかゆはごちそうさま』
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:10:54.77 ID:6TdKgm8c0
「大丈夫ですか?」
「こんなのたいしたことないって。ゴホッ」
と言っても朝はマスクをつけたまま布団の中でずっと寝たきりだった。そうこうしている内に昼が来る。
致命的なのは朝から何も食べていないはずなのに食欲が全くわかないことだった。これでは薬も飲めそうにない。
「大丈夫そうには見えませんが」
(でもまこもに心配かけたくないし)
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:11:35.84 ID:6TdKgm8c0
「食欲はありますか?」
(ぐぬ)
一番最初に痛いところをつかれた。
「……ない」
「重症ですね……でも何も食べないのはもっと身体を壊してしまいますよ」
「ゴホ……そうだな」
「おかゆ作ってきますね」
まこもはそう言い残すと枕元を離れ和室を出て行った。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:12:12.50 ID:6TdKgm8c0
ーーパタンッ
独りになった音がした。ぼやけてはっきりしない意識で天井の木目を見つめる。
そのまま、眼だけを動かして天井の端から端を見渡す。
(……広いな)
誰もいない空間に漂っていた空気が、僕を中心に渦巻くようにしてまとわりついた。
孤独。
その空気の名前だった。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:12:43.48 ID:6TdKgm8c0
まこもがここに来る前も僕は独り身だったはずなのに、いつだってそいつは僕の中にいたはずなのに。
「……っ。あれ?」
なぜか目頭が熱くなるほどそれを感じたのは初めてだった。
心細い。
衰弱していたのは身体だけではなかった。目を閉じると塩味の液体が枕を濡らす。広すぎる空間から逃げたくなってもう一度夢行きの切符を握りこもうとした。しかし、冷めたおかゆを口にするのはごめんだ。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:13:40.51 ID:6TdKgm8c0
(まこも、早く帰ってこねーかなー)
無性に彼女に会いたくなった。
伸ばした膝を折り曲げる。しかし痺れていて立ち上がるまでには至らない。幼稚な行動に出ようとした己に対する恥ずかしさばかりが募って頭をかきむしった。
(そんなに会いたいのか?)
黙り込む身体に言い訳をする。
(別に、待ってたらおかゆは来るし)
ではなぜ脚に力を入れようとしたのか。
(腹が減ってきたからだ。朝から何も食べていないわけだし)
「な?」
目線を下に己の胃袋との対話を試みる。
が……腹の虫はもどかしいほど静かだった。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:14:16.24 ID:6TdKgm8c0
「あーくそっ」
仕方ないので暗示をかけてみる。
(僕は腹が減っている腹が減っている腹が減っている)
「僕は腹が減っている!!」
声に出してみるとかなり減ってきた気がした。言霊は偉大だ。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:14:53.02 ID:6TdKgm8c0
「……おなか空いてたんですね」
「あ」
襖に目をやるとお盆を持ったまこもが少し驚いた顔で出入り口に立っていた。
「いや、これはえっと……違うんだ……」
何も考えずに否定すると重ね掛けた暗示は何処かへ飛んでいった。せっかくわいた微量の食欲がまた限りなく0に近くなる。
(う、何やってるんだ僕は)
「もう少し早く持ってくるべきでしたね。すみません」
(またなくなっちゃったけど)
しかしせっかく彼女が作ってくれたものを無駄にはできないので力を入れて上体を起こす。ひんやりとした寒気がまた首筋をなぞった。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:15:39.68 ID:6TdKgm8c0
まこもはもう一度僕の枕元に座るとお盆の上の器と匙をとっておかゆをすくった。
「ふー、ふー……」
匙の上で湯気立つおかゆに小さく口先をとがらせてまこもが息を吹きかける。
「はい、どーぞ……」
彼女は柔らかく微笑むと僕の口元にその匙を持ってきた。まだ、食欲はない。
(でも)
彼女が直接息を吹きかけたその一口にはなんともいえない魅力が感じられた。匙の上にはまだ彼女から出た何かが乗っているような気がして、それにつられて口を開ける。
「もぐ……むぐ……」
柔らかく煮崩された米粒を口に含むと優しい塩味が口内に広がった。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:16:45.30 ID:6TdKgm8c0
「どうですか?」
それを舌と歯でかみしめながら、ついでに彼女が吹きかけたものも喉に通していく。
「おい、しい……」
それは、まこもが僕に与えてくれた一口だった。自分ですくった匙からではない。確かな優しさを含んだ僕以外からの、僕のための一口。
「えへへ、よかったです。……ってええ!? なっ、大丈夫ですか! どこか痛みますか!?」
風邪にやられて何もかもが麻痺している。手足も、ぼーっとする頭も、ついでに涙腺も……
「いや大丈夫。なんか、すごくおいしくて……」
「泣くほどですか? やっぱりものすごくおなかが減ってたんですねぇ。おなかがすいているときは何でもおいしく感じられますから」
「まこもが作ってくれたからだよ」
恥ずかしくて、風邪よりも寒気のするセリフ。でも簡単に口を出た。
「ふぇ、え……あ……ありがとぅ、ございまふ……」
無理やり休むことになる上、手足の自由が利かずゆとりのある時間を生かせるわけでもない現状を朝は不幸だと呪ったが今はなんとなく
(たまにはこういうのも悪くないな)
そう思った。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:17:26.76 ID:6TdKgm8c0
「さあーどんどんたべましょー!」
「ちょっ、待てって……」
「はいどうぞ!」
「あ、あむ」
照れ隠しかまこもは急に張り切りだすと、おかゆを匙に取っては僕の口に押し込むのを絶え間なく繰り返し始めた。
「はい!」
「あむあむ……」
「はい!」
「もぐ……ゴホッ! ゴホッ!」
「あ! あわわすみません……」
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:18:12.18 ID:6TdKgm8c0
彼女に渡された湯飲みから水を飲んで一息つく。
「ハァ、はぁ、ふぅ」
「すごいですね。最初は食欲がないといっていたのに堂々の完食です」
まこもは米粒一つない器を嬉しそうに僕に見せた。
「……ごちそうさま」
「お粗末様でした! これ、お薬です」
彼女が引き出しから取ってきてくれた風邪薬を飲むと僕は再び横になった。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:18:48.03 ID:6TdKgm8c0
「これでまた安静にしていれば確実に良くなりますよ」
まこもは器と湯飲みをお盆に乗せると立ち上がった。
「わたしはこれを片付けてきます。何かあったらまた呼んでくださいね」
(え……)
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:19:20.55 ID:6TdKgm8c0
『また行ってしまうのか』
そんな寂しさから、遠ざかるまこもの足首を掴んだ。
「へ?」
僕は何をしているんだろう。彼女はきっと、お盆を置いて食器を洗えばまたここに戻ってきてくれる。
分かっているはずなのに……そんな短い時間ですら彼女のいないこの部屋は酸素のない空間に放られたように息苦しいのではないかと思ってしまう。
人間ではない不安定な存在の彼女は僕の視界から外れるとフッと、その姿を消してしまうのではないかと……
僕にはまだ、彼女の存在が夢に見えていた。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:19:59.50 ID:6TdKgm8c0
「あの……」
困惑した表情で見下ろされる。早く、この手を離さないと……
「何か、あったんですか?」
もし何かあったら。
(お前は側にいてくれるのか?)
「……あった」
適当に呟いた。するとまこもはその場に座り込んでお盆を畳に置き、片手を僕の額に乗せた。
「確かにまだ熱いですね。近くにいた方がいいですか?」
今*lの額が熱い理由に風邪の影響なんてきっと半分くらいしかない。
まだ片思いな気さえするこの焦がれた心臓が、限りなく悪戯に近い純情を燃やしてまこもを繋ぎ止めたがる。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:21:11.12 ID:6TdKgm8c0
「手、握っててほしい」
「こうですか?」
小さな二つの温もりが、僕の手を包む。
「ありがと」
「……くすっ」
「な、なんで笑うんだよ」
「だってあなたが珍しく弱々しいので」
いつからか忘れてしまったが、僕はずっと彼女の微笑みに依存している。もし彼女が消えてしまったら、僕は死んでしまうのではないだろうか。
「……それが人間なんだよ」
また言い訳をする。弱いのは人間≠ナはなく僕自身≠セというのに。
「ごめん」
「ふぇ?」
謝って大人ぶってみた。自分がただの我がままで幼稚な人間ではないことを証明するために。
「近くにいたら僕が治ったってうつしちゃうかもしれないだろ?」
それが矛盾を生んでただの面倒なやつに成り下がるのには気づかないフリをした。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:21:48.20 ID:6TdKgm8c0
「うつしてください」
「は」
「わたしにうつして治る風邪なら、わたしにうつしちゃってください」
ずいと顔が寄せられる。
「だって、あなたは今日ずっと辛そうな顔してます。あなたのそんな顔を見るのはわたしも辛いんです」
そう言うとまこもは目を閉じた。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:22:23.94 ID:6TdKgm8c0
「さぁ、はやく……」
僕があとほんのわずか頭を上げてしまえば彼女と重なる距離。そんな近くに最愛の人の唇がある。
……吸い込まれそうになる。
けど
「駄目だって」
「んにゅらっ」
僕は手のひらでまこもの顔を突き返した。
「まこもが風邪ひいたら今度はまこもが辛そうな顔になるだろ。そんなの、僕が辛い」
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:22:56.63 ID:6TdKgm8c0
「でも、まだ何かさせてくださいっ」
握られる手の力が強まる。
責任を感じてしまう。僕が下手に引き止めてしまったから、結局彼女を心配させてしまっている。
「わたしを信じてくれる人を救えないなんて、かみさま失格ですから……」
(あ)
いつから彼女に依存していたのか思い出した。今思えば最初からだ。
本当に最初の最初から。まこもをここに連れてきた日よりも前、彼女と初めて出会った日から、僕は彼女に依存していたのだ。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:23:52.09 ID:6TdKgm8c0
…………
かなり口調の強い女上司に毎日仕事を駄目出しされる日々の中で、僕は病んでいた。
誰でもいいからすがれる人が欲しかった。でも、僕には愚痴を言い合える友人や仕事仲間すら存在しなかった。
そんなある日擦り切れかけていた心が見つけた。誰が管理しているのかも分からないような、もう捨てられているのと同じような社を。
足が勝手にそこに向かっていくのを感じた。神にでも頼ろうと思った。
そのときだけ本気で信じた。神の存在を。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:24:38.02 ID:6TdKgm8c0
信じて賽銭を投げ込むと、背広姿のまま座り込み視界を強く閉じて拝んだ。『僕を救ってください』と。他の人がその場にいたらその姿は実に滑稽に見えたかもしれない。
するとかみさまが、そこに姿を現した。
頭に違和感を感じて目を開けると小さな女の子が僕の頭を撫でている。優しい手つきだった。
「わたしにはこれくらいのことしかできませんが……許してくださいね」
あどけなく不安定で柔らかい声、しかし全てを包み込むような寛容な手のひら。
抱きしめた。末期だと思った。でもそこに温もりがあったからすがった。
「まふっ!? わたしが見えてるんですか!? 見えないようにしてたつもりなんですけどね……ってあれ? だ、だいじょーぶですか?」
涙を流しながら。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:25:51.55 ID:6TdKgm8c0
………………
「ありがとな。その気持ちだけで嬉しいって。手握っててくれたら、もう、寝るから……」
「あ、それでは膝枕なんてどうですか?」
「膝枕?」
まこもが膝に僕の頭を乗せてなでているのを想像すると初めて会った日の記憶がフラッシュバックする。
「……いいって。恥ずかしい」
「まあまあそう言わずに」
まこもが僕の頭の下から枕を引っこ抜くと後頭部が敷布団にぶつかる。
「いてっ」
それでもおかまいなしといった具合にまこもは僕の頭を持って自分の正座した膝に乗せた。
「どうですか? 安心しますか?」
さっきまで広いと感じていた天井は半分に隠され、そこがまこもの顔に埋められる。そのことに少しばかり感動した僕はしばらく無言でじっと彼女を見つめていた。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:26:33.95 ID:6TdKgm8c0
「う、うーん……ずっと見られてると思うと、ちょっと恥ずかしいですね」
まこもは垂れた耳で照れ隠しに笑った。
「自爆するなよ……」
「は、はやく寝てください」
「眠れなくなったよ」
「え〜、さっきまでもう寝るって言ってたじゃないですか〜」
(だって……まこもの真下でずっと寝顔晒しながら寝るなんて)
そんなの、心臓がうるさくて眠れない。
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:27:14.60 ID:6TdKgm8c0
「では子守唄を唄ってさしあげましょう。きっと眠れますよ」
「子守唄なら子供に唄ってくれ」
「むぅ……今近くにお子さまはいないじゃないですか」
「いるけど」
「ふぇ? どこですか?」
「ここに」
繋いだまこもの手を握り返す。
「あぅ。そーゆーのひどいと思います。傷つきました」
「だってまこもって耳と尻尾以外人間の小学生と変わらないし」
「でもおとななんですぅ! かみさまは人間さんより成長が早い変わりに止まるのも早いんですぅ!」
「ふーん」
初耳だ。長い時を人類の信仰心と寄り添うために、身体が弱い子どもの時代を早く終え、後の老化を停止させてしまっているのか。
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:28:06.56 ID:6TdKgm8c0
「……あなたはどうなんですか?」
「何が?」
まこもと繋がれていた手が解かれていく。離れた手は布団に隠れた下半身に潜り込みある場所をプッシュした。
「ま、まこも……?」
困惑しつつも刺激に反応するソレをまこもが親指と人差し指を使ってつまみ出していく。
「……子どもなわたしに、いつもこーふんしちゃってるんですか?」
「それは……」
「わたしはおとななんです」
いつもより若干強気な表情を見上げる。それでも隠しきれない恥じらいは彼女の顔色に出ていた。
無理をしている。一目で分かった。
しかし扱かれる僕のソレは大人ぶる彼女に屈していく。
「……おとなのわたしにこーふんしてくださぃ」
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:28:48.05 ID:6TdKgm8c0
また内側が熱をもってきた。もしかしたら風邪が盛り返してきたせいかもしれない。むしろ、そうであって欲しいとさえ願う。
短く息が切れていく。
「まこも……やば……ぃ……って……」
盛られた熱はズボンと下着をずらされて掛け布団すら窮屈そうに持ち上げた。
さっきまで僕と繋がれていたまこもの手のひらは人肌の温もりを程よく秘めていて、それが快感を内側から溶かしていく。
「わたしのこと……おとなってみとめてくれますか?」
「ハァッ……ァ……ハァッ……」
溶かされた快感が管を通って外を出ようとしている。思考の鈍った脳内を桃色の波が支配し始めた。
だらしなく口をあけて呼吸をする僕は喋れなくなるほど呑み込まれていた。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:29:21.17 ID:6TdKgm8c0
「返事がないですね」
僕の口横を伝う涎をまこもは鼓膜にべったりと張り付くような音を立てて舐めとった。
「分かってもらえないみたいなので……おとなちゅーしちゃいますね……」
小さな舌が伸ばされて僕の口内に入ってくる。まだ唇同士は密着していない。舌と舌がお互いの呼吸を乗せて唾液を混ぜながら絡んでいく。
「んっ……れっ……ちゅぅっ……」
まこもが僕の舌を吸うと前にでた彼女の唇が自然と押し付けられていった。
「ちゅるっ……」
口を口で蓋される。その内側で尚も続く、舌と舌の絡み合い。唾液に混ざっていろんなものが吸い上げられていく。より快楽に溺れるほど身体全体が癒されていくような気がした。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:29:51.53 ID:6TdKgm8c0
(もう……だめた……)
脚から感覚がなくなる。瞬間、僕の頭は真っ白になった。
(ん゛んっ)
腰が短く痙攣する。舌が絡むたびに脈打つソレは熱を漏らした。
僕が漏らした液体をまこもは手のひらで包んで受け止めると僕から顔を離してそれを舐めとった。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:31:02.11 ID:6TdKgm8c0
(おとな……か……)
「じゅるっ……ぺちゅ……んっ……」
恍惚とした表情で手のひらを舐める彼女はおとなというより……
「えへへ……本当にうつしてしまったときは、あなたがわたしを看病してくださいね」
妖艶な女狐に見えた。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:31:31.46 ID:6TdKgm8c0
……………………
「むぎゅー」
「そんなにくっついたらますますうつるって……共倒れしたら大変だろ?」
「だからわたしがあなたのお布団代わりになってあげます。あったかくしてはやく治しましょー」
「暑い」
「ひどい!」
「……まこものせい」
「だからお身体をふいてあげたじゃないですか」
「そういう問題じゃないだろ」
「……ふふっ。冷めないうちに寝てしまいましょう」
「……ああ、おやすみ」
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:32:03.62 ID:6TdKgm8c0
……………………
「こんっ! こんっ!」
「言わんこっちゃない」
次の日の朝、僕の体調はまこものおかげですっかり良くなったがそれと引き換えに彼女は酷く咳き込んでいた。
「うー……さむいです……」
「はぁ」
今度は僕が、布団だな。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/27(月) 12:33:36.51 ID:6TdKgm8c0
なうろうでぃんぐ
(-ω-)
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/27(月) 15:51:07.16 ID:VyMBGwOJo
乙
134 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2017/11/29(水) 18:45:28.30 ID:mtUTyXYl0
「おいキミ」
退社間際、先輩に後ろから肩を叩かれた。唐突な出来事に思わず肩が跳ねる。
「は、はい。自分ですか」
全身に力が入りついおどけたことを聞いてしまった。
「わざわざ肩を叩いたんだぞ。キミしかいないだろう」
彼女は日常的に向けている鋭い視線を僕に送った。彼女のかけた眼鏡が夕焼けに反射して一瞬光る。
(僕今日なにかやらかしたっけ)
身に覚えがない。大したことじゃないなら早く帰してほしい。僕は彼女のことが苦手だった。
入社したばかりの頃から散々小言を言われ続け、もちろん僕にも原因があるとはいえそのせいで早々に退職を考えたほどだ。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:46:05.10 ID:mtUTyXYl0
「その、なんだ。明日は休日だろう? 暇してるならこれから二人で呑みにいかないか」
「え……あ……」
今までそんなことを誘われたことがなかったため耳を疑ってしまった。改めて先輩の顔を見るといつもよりは穏やかな顔をしているように見えなくもない。
しかし暇しているわけでもない。家ではまこもが僕の帰りを待っている……と思いたい。
(でもなー、断ったら付き合い悪いとか思われて後が怖いよな……)
五秒で言い訳を考える。相手にしょうがないと思わせるような、そんな言い訳を。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:46:37.64 ID:mtUTyXYl0
「えっと……実は恥ずかしながら今手持ちが最低限でして……」
(これならまぁ)
仕方がな
「私が出す」
(なっ……)
上司が部下に一食奢るなど別段おかしなことではないのだが、今の僕には予想だにしない展開につい言葉を詰まらせる。
「そんなっ……とんでもない! いいですよ別に!」
「私が君を労ってやると言っているんだ! 他に理由がないなら大人しくついてこい!」
「う……それではお言葉に甘えて……」
結局押されてしまい僕は彼女に連れられて居酒屋へと来店した。
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:47:09.94 ID:mtUTyXYl0
『お酒とおにごっこ』
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:47:53.49 ID:mtUTyXYl0
店員に案内された座敷席へと二人で向かい合って座る。
「とりあえず私はウーロンハイを……キミはどうする」
「じゃあ、同じものを」
「ウーロンハイを二つですね。かしこまりました」
「いい雰囲気の場所だろう?」
「そうですね」
「私のお気に入りなんだ」
店員が去った後酒肴の品書きを眺める先輩に素朴な疑問を投げかける。
「あの」
「ん、どうかしたか?」
「なぜ突然……?」
「ああそのことか。キミ、この前風邪で二日ほど休養していただろう?」
「その件はすみませんでした。自分が体調管理を疎かにしたばかりに」
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:48:44.98 ID:mtUTyXYl0
「いや気にしないでくれ。逆にそれほど日頃の疲れがたまっているのではと思ってな。これは息抜きのようなものだ。どうせ私と二人きりなわけだしここは社外だ。今日くらいは遠慮せずに美味しいもの食べて程よく酔ってもっと気を楽にしてくれ」
「はあ、痛み入ります」
と言われても、上司からの奢りで遠慮しない程僕は肝が据わった奴でもないのだが。
「はいこちらウーロンハイです」
店員が二杯のグラスをテーブルに置きにくると同時に先輩はつまみを注文し始める。
「たたき鶏と冷やしトマト。後は……」
「あ、では自分は若鶏の唐揚げを」
目配せされて僕も注文した。
「かしこまりました」
もう一度店員が去ると途切れていた会話が続く。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:49:20.70 ID:mtUTyXYl0
「気に障ったら申し訳ないがキミは確かまだ独り身だったよな。恋人とかはいるのかい?」
「あー……」
それは僕にとって難しい質問だった。
(なんて言えばいいんだろう)
「いる」とだけ言えばいいのだろうが、もしも詳細を聞かれたときに説明が面倒だ。
『かみさまと同居してます』……なんて、まだ酔ってもないのにそんなこと言ったら一生笑われそうだ。
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:50:15.26 ID:mtUTyXYl0
「そうですね……恋人とかも、ぜんぜん……」
(っ……!)
そのとき、胸を小さな針が刺した感覚を覚えた。
まこもの存在を否定してしまっているようで、気分が悪くなった。
「なら療養も一苦労だったろう。私でよければ連絡をもらえれば見舞いにくらいは行ったぞ?」
「と、とんでもないっ!」
「そう寂しいことを言うな。偶には頼ってもいいんだぞ?」
(なんか、今日は妙に優しいな)
風邪で寝込んでいた僕のことを、そんなに気にかけてくれていたのか。
「いやもう終わったことだが……頼って欲しかった、かな」
優しいというか、しおらしい?
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:51:01.46 ID:mtUTyXYl0
「それは一体どういう……」
先輩はウーロンハイを一口入れてから拗ねるようにぼそぼそと呟き始めた。
「キミは私にとって初めての後輩だったんだ。自分が誰かの教育係になるなんて思ってもみなかったから……気合いを入れていたんだがね。聞けば教える人間がいるというのに、キミはろくにできやしないことも一人で試行錯誤してやり切ろうとするじゃないか」
(そういえば……)
入社当時彼女から叱られる中で「分からないことがあるならちゃんと聞け」と言われたことがある。教育係といっても彼女には彼女の仕事があるわけで、それを横から邪魔をしてまで聞こうという気になれなかった。
そのことが失敗を生んでかえって彼女に尻拭いをさせる手間がかかってしまうことに僕は気付けなかった。そうこうしている内に口うるさく言われることばかりが耳に入って僕は彼女に壁を作ってしまうようになった。
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:51:48.09 ID:mtUTyXYl0
「キミには伝わってないみたいで辛いのだがね。私は入社式で一目見たときからキミのことを結構気に入っているんだぞ」
「……そうだったんですね。すみません」
なんというか、こそばゆい。
「謝ることはない。これから頼ってくれればいいんだ。これからな」
慣れないことを口にして先輩も僕と同じだったのか彼女は残ったウーロンハイを一気飲みしてテーブルに軽快なグラスと氷の音を立てた。
「ん、やっと肴が来たぞ。これからだな」
品を置く店員に機嫌よくもう一杯を頼む先輩の顔は笑っていた。思えば彼女の曇り一つない笑顔を目の当たりにするのは初めてだった。
(なんというか……)
「充実している」と感じてしまった。恐れ多いが先輩のことを改めて仕事仲間≠セと思った。そんな人とこうして酒を飲み交わせることを、喜ばしいと感じた。
久しぶりに舐めた酒の味は、美酒のそれだった。
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:52:19.96 ID:mtUTyXYl0
……………………
「悪いな。わざわざ送ってもらって」
「いえいえ」
「ふふっ、いい飲みっぷりだったぞ」
「久しぶりだったもので」
「……なあ、また付き合ってもらえるか?」
「ああはい全然! 今度はちゃんと自分で出します」
「そうか、ありがとう。では今日はこれでな」
「はい! お疲れ様でした!」
(妙に美味かったから飲み過ぎちまった……)
定時上がりだったがかなり遅くなった。いつものお供物も用意できていないがすぐ横になりたい程度には酔っているので真っ直ぐ帰るしかない。
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:52:53.84 ID:mtUTyXYl0
「ただいまー」
遅くなったから玄関まで出てくるかと思いきや足音すら聞こえてこない。自分が廊下を歩く足音が嫌に大きく聞こえる。誰かの生活感を微塵にも感じない。まるで一人暮らしのころに戻ったみたいだった。
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:53:31.32 ID:mtUTyXYl0
(寝てたりしてな)
先に着替えてから和室を開ける。そこにはもうすでに二枚の布団が敷かれていたがまこもの姿は見当たらない。
(珍しくこんな時間に出歩いてるのか?)
時計に目をやると時刻はもう九時半を回っている。今までまこもがこのような時間に外に出ることはなかった。
(……駄菓子屋なんてとっくの昔に閉まってるしな)
一体、どうしたというのだろうか。
まこもは僕が寝るその瞬間まで、帰ってくることはなかった。
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:54:10.54 ID:mtUTyXYl0
……………………
暗い。ここは何処だろうか。家でも外でもない。謎の空間の中で僕は立ち尽くしていた。
「まこも?」
突然、目の前にまこもが現れた。
「ははっ、どこ行ってたんだよ」
彼女は僕の質問に答えることなく無言で微笑んだ。そして僕にその大きな尻尾をむけると走り出した。
「あれ……おい待てよ!」
僕もその背中を追う。まるで幼い子を相手にした鬼ごっこだ。
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:54:41.44 ID:mtUTyXYl0
だが、追いつける気がしない。彼女の背は遠ざかるばかりで、そのまま後姿すら点になって見えなくなってしまいそうだった。
「まこも! まこも! まこ、も……」
足が止まった。ふと我にかえる。
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:55:15.35 ID:mtUTyXYl0
なぜ、僕は走っていたのだろうか。意味のない全力疾走をしていた僕はその場にしゃがみこんで休憩した。
暗い空間が開けて白い光が差し込む。
(朝が来たのか? 仕事、行かないとな)
僕はため息を一つ吐くとその場からゆっくりと立ち上がった。
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:55:52.42 ID:mtUTyXYl0
……………………
「ん……ん〜……」
(仕事……じゃないか。今日は休みだったな)
いつものように起き上がって布団を畳む。すると隣にもう一枚布団が敷いてあった。
(あれ? 客用のやつ……)
誰かを家に呼んだ覚えはない。酔ってボケていたのだろうか。
(飲み過ぎだな。どんだけだよ)
仕方なく二枚目の布団も片付ける。だがなんとなく、どういうわけか僕は一日に二枚の敷布団を片付けることには違和感を感じなかった。
(なんでだろ……誰もこの家に呼んだことないはずなんだけどな)
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:56:27.92 ID:mtUTyXYl0
今日もまた、一人暮らしの一日が始まる。
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/11/29(水) 18:57:09.52 ID:mtUTyXYl0
なうろうでぃんぐ(-ω-)
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/29(水) 23:20:09.69 ID:FHrHYn7Lo
こういう意思のはっきりしない主人公って嫌いだわ
エヴァのシンジ君みたい
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 03:24:09.61 ID:TUSij/NLo
まじか
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/11/30(木) 07:12:17.48 ID:YhHy2ryno
えっ
156 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2017/12/04(月) 19:56:50.08 ID:I83lcKI00
「……味噌汁?」
朝、カップ麺に注ぐ湯を作るためにコンロに置いてあった蓋つきの両手鍋を持つと水を入れる前から液体の重みを感じた。
蓋を取ってみるとまだ湯気の立つ油揚げの味噌汁が入っていた。
(昨日こんなの作ったっけ)
そんな記憶はない。それに、まだ作られて新しいことを鍋が教えてくれている。これはどう見ても今朝作られたものだ。
因みに僕に朝味噌汁を作るという習慣はない。
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 19:57:24.69 ID:I83lcKI00
(実はもう二度寝をしていて、最初に起きたとき寝ぼけた頭で作ったとか? 不思議なこともあるもんだな)
せっかくなのでカップ麺をやめてそれをいただくことにした。
杓子でお椀に注ぐ。まだ余っている。どう見ても、量は二人分。
(……ま、いっか。いただきます)
お椀に口をつけて、一口。
「……うまい」
思わず独り言をもらしてしまう。そして、僕には味噌汁を作る習慣はなかったが食べる習慣はあったことを思い出した。
「っ……」
頭痛がする。
(二日酔い?)
恐らく違った。
何か、大切なことを忘れている。そんな焦燥感に駆られた。
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 19:58:04.20 ID:I83lcKI00
「ずっ、もぐっ……んっ……」
味噌汁を飲めばその何かを思い出せそうな気がして一気にかきこむ。美味しいから、苦ではなかった。
「ぷはっ! はぁっ! はぁっ!」
優しい味だった。もっと、ゆっくり味わうべきだったと後悔した。思い出せそうだった何かは、まだ……
(二杯目っ)
椅子を倒しながら立ち上がった。だが気にはしない。僕は腹を空かせた子どものように食い気味にもう一度台所を訪れる。
「……あれ?」
味噌汁はなくなっていた。入っていた鍋も片付けられていた。
(なんで……)
瞬間、立ちつくす僕に再度脳が半分に割られそうなほどの激痛が走る。
「ぐぁ」
(やっぱり、おかしい)
今日のこの家は、僕は、何か、何処かがおかしい。
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 19:58:35.31 ID:I83lcKI00
『お菓子とおもいでと』
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 19:59:22.68 ID:I83lcKI00
廊下に出て朝起きた和室を目指す。妙に廊下が長く感じる。日が昇りきる前の朝の空気は家内まで冷やす。床と接する足裏の体温は一歩ごとに下がっていく気がした。
『この家の廊下ってなんか寒いですよね』
誰かと一緒にここを歩いた夜の記憶が蘇る。誰だったかはまだ思い出せない。
いつか見た夢だったかもしれない。疲れた身体が創り出した妄想だったかもしれない。
でも、この記憶が大切だってことだけは……
(確かで……)
根拠のない確信。自分の記憶と本体が全くの別人のパーツにすら思えてさらなる頭痛を呼び、吐き気をもよおす。
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:00:18.85 ID:I83lcKI00
和室の襖を開いた。部屋の隅のタンスの引き出しが一箇所開いたままになっている。開いていた場所は、いつも風邪薬をしまってある場所だった。
『お粗末様でした! これ、お薬です』
また、忘れていた何かの欠片。僕はつい最近風邪をひいて寝込んでいて……それで……
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:00:49.86 ID:I83lcKI00
『なら療養も一苦労だったろう。私でよければ連絡をもらえれば見舞いにくらいは行ったぞ?』
違う。全然苦労なんてしなかったんだ。だって、僕を看病してくれた人がいて……
(なんで先輩にあんなこと言われたんだっけ)
『そうですね……恋人とかも、ぜんぜん……』
思い出した。嘘をついたからだ。
僕は嘘をついて……大切な人の存在を否定した。一時的に信じることをやめた。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:01:22.38 ID:I83lcKI00
『謝ることはない。これから頼ってくれればいいんだ。これからな』
あのとき感じた充実感が、僕に偽りのメンタルを与えて……
(違う! 僕は……そんな強い人間じゃなかったはずだ)
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:02:04.89 ID:I83lcKI00
『ならずっと、一緒にいてくれますか?』
あいつに甘えて
『……どきどきして、つかれてしまいます』
あいつに癒やされて
『……しゅき』
あいつに甘えてもらって
『……ふふっ。冷めないうちに寝てしまいましょう』
あいつと
寄り添わないと、生きていけないから……
「ま、こも……」
大切な人の名前だった。
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:02:39.56 ID:I83lcKI00
瞳が決壊して流れた大粒の涙が音を立てて畳とぶつかる。
首を振って、後ろを向いて探した。いない。何処にもいない。彼女の姿がない。
「まこも! まこもぉ!!」
まこもがいない。
味噌汁、タンスの引き出し……さっきまではまだ近くにいたはずだ。なのになぜ……
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:03:07.67 ID:I83lcKI00
鍵と財布だけ握りしめると靴の踵を潰したまま片足で飛び跳ねながら外に出た。靴を整えた足は次第に加速していく。
(もしかしたら、駄菓子屋に……)
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:03:39.22 ID:I83lcKI00
……………………
「あらいらっしゃい。おや? 今日はお兄さんがいっしょなのかい?」
近所の駄菓子屋に駆け込んだ。成人してからは初めての来店だった。店内のおばあちゃんは顔見知りだ。昔は僕もこの場所でお世話になった。
「ハァッ、ハァ……あの、すみません……」
「あらま、あんたすごい汗だよ。どうしたの」
「金髪で、ハァ……着物着た……ケホッ……小学生くらいの背丈の女の子、来ませんでしたか?」
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:04:22.11 ID:I83lcKI00
「その子のことじゃないのかい?」
「え……」
駄菓子屋のおばあちゃんは空を指差した。僕の隣だ。指された方向に目をやるも当然誰もいやしない。
「今もあんたの腕を抱いてる……その子じゃないのかい?」
両腕の自由は普通にきいていた。
(おばあちゃんにはまこもが見えてるっていうのか?)
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:04:56.32 ID:I83lcKI00
「あの、つかぬことをうかがいますが……あなたはかみさまって信じますか?」
「はえ? 神様って……そりゃああんた、神様はいつもすぐ側であたし達を見守ってくださっているよ」
(やっぱり、そうか)
かみさま≠ヘ、その存在を迷信以上に信じる人にしか見えず、触れられず、感じられず、記憶にも残らない。
まこもは駄菓子屋に来たときだけ耳と尾を隠し、その姿を現していると言っていたがそうではない。彼女がそう思っていただけでこのおばあちゃんには最初からまこもが見えていたのだ。
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:05:29.70 ID:I83lcKI00
僕はりんご味とぶどう味の飴玉を一つずつ取るとおばあちゃんの前まで歩き二十円を差し出した。
「なんだかよくわからないけど、お兄さんはその子と本当に仲がいいんだね。今もほら、そんなにべったりくっついて……」
また泣きそうになる。僕にはそんなの、感じられないから。感じられないことが悲しくて辛い。
「ありがとうございました。また、来ます」
ポケットの中に飴玉を押し込むと僕は駄菓子屋を出てまた歩き始めた。
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:05:58.09 ID:I83lcKI00
「ん? ……おやまっ!? あの尻尾……あたしゃ夢でも見てるのかねぇ」
「妙に綺麗な髪をしていると思ったら、あの子はおきつねさまだったのかい」
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:06:28.85 ID:I83lcKI00
……………………
もしかしたら、今も僕についてきてくれているのかもしれない。そう思って歩幅を小さくしてみた。
手を差し出すと繋いでくれるかもしれないと思って、手を横に出してできるだけ動かさないようにしてみる。
冷風が肌を叩いて僕の行いを否定する。『そんなものは無意味』だと言われてる気がしてならない。そのひ弱な心がまた少し彼女を否定してしまっているのかもしれない。
目に見えないものを信じ続けるのは難しい。
信頼、友情、愛情。「好き」って言われるだけじゃ足りないから抱きしめたくなる。逆もまた然り。
声が、聞きたい。
お前の声が……
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:07:03.32 ID:I83lcKI00
僕たちにとっての始まりの地を訪れた。相変わらずオンボロでカビ臭くて、いつ取り壊されてもおかしくないその場所で、僕は十五円を放り投げて跪く。
目を瞑る。『僕を救ってください』なんて、もう図々しいことは願わない。ただ、目の前にいてくれるだけでいい。僕の目の前でまた笑ってくれるだけでいい。なんでも捧げてやる。供物なら、ここにある。
ポケットの飴玉と、僕の命そのものだ。
174 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:07:29.26 ID:I83lcKI00
かなりの時間が経った。一時間くらいずっと目を瞑っていたかもしれない。でも、温もりは感じられなかった。
結局、まこもが再び姿を現すことはなかった。
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/04(月) 20:08:01.60 ID:I83lcKI00
なうろうでぃんぐ(-ω-)
176 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/05(火) 00:19:49.56 ID:PWDsLgHeo
乙
177 :
◆hs5MwVGbLE
[saga]:2017/12/11(月) 04:27:07.58 ID:LakI5gP+0
今思い返してみれば祈ることにはなんの意味もなかった。いつまで経ってもまこもが見えなかったからではない。僕は根本から間違っていたのだ。
まこもは今も僕の近くにいる。なのに姿が見えない。それが分かっているのなら、僕にできることなど最初からただ一つだけだった。
「ただいま」
ただこうやって、静かな廊下に声を響かせることしか
今は、できない。
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/11(月) 04:27:47.88 ID:LakI5gP+0
『お茶とおしるこ』
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/11(月) 04:28:28.60 ID:LakI5gP+0
「今日も疲れた。これ、今日のだから」
机の上にいなり寿司と油揚げを置いた。こうしておくと明日の朝にはなくなっていて、かわりに美味しい味噌汁に変わっている。
いなり寿司が味噌汁になるなんてとんでもマジックだ。もし僕に宿った超能力ならテレビ番組の一つにでも出て荒稼ぎしたいところだ。
(さすがに汎用性が低すぎて話題にならないか)
寝る前の布団も二枚敷くようにしている。一枚だけにしておけば僕のところにまこもが入ってきてくれるのではないかと期待してしまうがそれは彼女が可哀想だから、なかなかできない。
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/11(月) 04:29:07.85 ID:LakI5gP+0
「僕と一緒に寝るか?」
冗談気に独り天井にぼやいてみる。目を瞑って、耳をすます。
(せめて、返事の一つさえこの耳に届いてくれたら)
過度な集中による耳鳴りがする。勝手に耳に入ってくる秒針の音数は十を超えた。
「はぁ」
(今は花摘みにでも行ってるのかね)
といった具合にこういうときは開き直るようにしている。
そうでもしないと
「電気消すぞー?」
「……おやすみ」
心がもたない。
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/11(月) 04:29:50.90 ID:LakI5gP+0
……………………
「ただいま」
これで何日目だろう。
「これ、今日の……」
まこもが消……じゃなくて、見えなくなってから。
「おやすみ」
もう、十二月になった。
「行ってきます。今日も味噌汁美味かったよ。あー、そろそろ味噌もかってこないとな」
家から一歩出れば、肌に優しくない凍えるような風が吹く。
「さむ……」
さすがにもう真冬だ。
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2017/12/11(月) 04:30:45.92 ID:LakI5gP+0
「お先に失礼します」
「おつかれー」
深呼吸すると吐き出した息が白色になって目の前で広がる。
ふと思う。肺からでたこいつらが目に見えるのはこの地に住んでいればこの季節だけだが、普段からこいつらはそこにいる。俺たちが無言でも生きていることを主張するたびに、そこに現れて一緒にそれを証明してくれている。
「駄菓子屋のおばあちゃんが言ってたこともそういうことなのかね」
(もしかしたら出歩いてて、今も近くにいたりしてな)
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