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八幡「最近奉仕部の椅子が湿ってる……」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/12/02(土) 11:35:06.30 ID:yXzH6IQJ0
八幡「うす」
雪乃「こんにちは」
結衣「やっはろー」
普段通りの挨拶を交わし、定位置に腰を下ろす。
別に何ということはない日常の一幕。
だがその中に、些細な、されど見逃せない一つの違和感が存在した。
八幡「……ん?」
腰を下ろした椅子と接触している部分から感じる、かすかな湿り気。
明らかに椅子が濡れているわけではない。
しかし、梅雨の日の外気のような、じっとりとした湿り気が、確かに感じられてしまう。
別に服自体が濡れているわけではないのだが、不快指数は割と高めだ。
八幡(なんだこの感触……)
しかしこんなことをわざわざ二人に聞くのも気が引ける。
俺は背中に感じる感触を気にしないように努めて、普段通りに本を読み耽るのだった。
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/12/02(土) 11:48:13.88 ID:yXzH6IQJ0
八幡(……今日も湿ってる)
日は変わって月曜日。
金曜日の椅子の湿り具合で言えば、月曜日にもなれば確実に乾いているはずなのだが、しかしその感触は消えてはいなかった。
別に座っているのに耐えられないというほどの湿り方ではないのだが、しかしこの椅子に座っているのはどうにもすわりが悪い。
心なしか貧乏ゆすりの回数が増える。
暫く本を読んでいると、よくよく考えれば椅子を変えれば済む話だということに気が付いた。
俺は読んでいた本をたたみ、隅の方に積んである椅子を適当に引っ張り出して、いつもの椅子と交換した。
雪ノ下は訝し気な目でこちらを見てくる――と思ったら、特に気にすることなく優雅に紅茶を嗜んでいる。
由比ヶ浜が携帯をいじりながら、ちらちらとこちらの様子を窺ってきたので、俺は言い訳をするように言った。
八幡「すまん。この椅子ちょっとすわりが悪かったんでな、他の椅子と交換してただけだ」
結衣「そっ、そうなんだー。ごめんね、ちらちら見て」
八幡「いや、俺もなんも言わずに変えてたからな。気になるのはしゃーないだろ」
雪乃「…………」
由比ヶ浜と会話をしている間も、雪ノ下は終始無言だった。
普段なら口の一つも挟んできそうなものを、どうにも様子がおかしいように思う。
よく見ると頬がちょっと赤いし、風邪か何か?
由比ヶ浜も同じように頬を染めている。
別に照れるような話もしていないと思うんだが……。
俺は首を傾げながら、また本を読んで時間をつぶすのだった。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/12/02(土) 12:07:59.97 ID:yXzH6IQJ0
八幡(……またか)
水曜日。
二度あることは三度ある、とでも言おうか、この湿り椅子事件もいよいよ三度目を迎えると、疑問を通り越してうんざりしてくるものだ。
今度は暫く座っておくこともなくすぐに椅子を交換する。
そのまま本を読むふりをして、この事件について考察することにした。
まずこれは悪意を持ってなされているのかどうか。
これについてはNOと言えると思う。
もしも悪意を持って嫌がらせをするのなら、椅子を湿らせる程度では済まないはずだ。
まあ最低でも椅子をずぶ濡れにしたり、画鋲をテープで張り付けたりくらいのことは平気で行われるのがいじめというもの。
この程度ではイジリの範疇にすら入らないと思う。
次に偶然の事故という可能性。
さすがに三回も同じような現象が起きて偶然もクソもないとは思うのだが、まあこの可能性も無きにしも非ずだろう。
アホの由比ヶ浜あたりはなんか同じ失敗繰り返しそうだし。
最後に外部犯の犯行なのかどうか。
先日の二人の反応からして、二人が少し怪しいと思う部分もあるのだが、これについては断定はできない。
会話の中の別の部分が琴線に触れたのかもしれんし。
しかし、最も疑わしいのがこの二人だというのは事実である。
八幡(とりあえず話題を振ってみるか)
俺は本を閉じて、二人に問いかけた。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/12/02(土) 12:13:21.93 ID:yXzH6IQJ0
八幡「なぁ、最近俺の座っている椅子が良く湿ってるんだが、なんか心当たりとかないか?」
結衣「ひぇっ!?」
おいなんだその悲鳴は。怪しいにもほどがあるぞ。
結衣「そ、そーなんだー。あれじゃない? 雨漏りとかじゃない?」
八幡「どんだけピンポイントで雨漏りしてんだよ……」
雪乃「……そもそもあなたの椅子が湿っているという認識が間違いなのではないかしら? あなた自身が分泌する粘液がそう感じさせるだけだと思うわ」
八幡「おい、人をなんか気持ち悪い生物みたいに扱うのやめろ。粘液なんか出せないから。出せるとしたら汗ぐらいだから」
結衣「と、とにかくあたしは知らないなー。うん、知らない」
雪乃「…………私も知らないわ」
由比ヶ浜は超目逸らしてるし。
雪ノ下は謎の長い長い沈黙があったし。
もうアレだな、超怪しい。
しかしこいつらが挙動不審だからと言って犯人だと決めつけるのは早計ではある。
とりあえずもう一週間ほど様子を見てみることにした。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/03(日) 10:56:36.12 ID:sB0IgGFDO
はよ
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/03(日) 11:04:42.96 ID:fFB5GPNbO
1週間様子を見るんだ
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/03(日) 11:07:54.04 ID:sB0IgGFDO
次の更新は九日か…
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/03(日) 13:47:40.57 ID:yIH2OH290
と、言う訳で。
一週間ほど様子を見てみたわけだが。
八幡(……なんで頻度が下がるどころか上がってるんですかねぇ)
先週の水曜日までは、二日に一回というペースで起こっていたこの事件だが、なぜかその日から椅子が湿っている頻度が上がった。
最後の方はもはや座る前に椅子を交換していたまである。
やっぱこれいじめなの? 別に精神的ダメージも何もないけど。ちょっとうっとおしいくらいだけど。
とはいえ、塵も積もれば山となる。
いい加減に少しイライラしてきたので、俺は小町に相談してみることにした。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/12/03(日) 13:56:08.84 ID:yIH2OH290
八幡「なぁ小町、少し相談があるんだが」
小町「んーなになに? コイバナなら大歓迎だよっ?」
八幡「そんな色っぽい話じゃなくて悪いが……」
この二週間弱で起こった出来事を手短に話す。
小町はその話を聞いて、呆れたように目を細めていた。
小町「えー、何その地味な話。小町的にポイントひくーい」
八幡「小町ポイントの事はどうでもいいけど、どうにかならねぇかなコレ」
小町「それくらいなら別にほっといてもいいくらいじゃないの?」
八幡「いやまぁそうなんだけど、毎日続くと意外にウザいんだよこれが」
小町「……雪乃さんと結衣さんを問い詰めてみるとか」
八幡「何度かカマは掛けてみたんだけどな、キョドりはするもののするっと逃げられてそのまんまって感じだ」
小町「うーん……」
小町は暫く腕を組んで考えた後、何か策を思いついたようで、ピン、と指を立ててこちらに向き直った。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/12/03(日) 14:16:57.59 ID:yIH2OH290
八幡「……それがこんな作戦かよ」
そんなわけで翌日、朝。
俺は小町の立てた作戦を決行していた。
教室の隅、椅子と机で隠れたスペースに、ビデオカメラを設置する。
コンセントをどうするかという問題はあったのだが、よくよく周辺を探し回ると埃をかぶった差込口が見つかった。
適当に位置を調整して、教室を出る。
八幡「……朝七時に学校に来て何やってんだ俺は」
というかこれ普通に犯罪だよね?
ばれなきゃ犯罪じゃないという名言もあるにはあるが……。
まぁ、いざとなったら防犯のためという言い訳を使って適当に言い逃れよう。
小町はもう少し限度を考えようね。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/03(日) 21:55:22.81 ID:B+GrqK9Bo
きたい
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/12/04(月) 13:34:19.47 ID:vtF6k1tF0
部室にカメラを仕掛けているという普段なら考えられない状況に、自然とそわそわしてしまいながら一日を過ごす。
教室を出て行くときや奉仕部の部室に入る時、あまりにもキョロキョロしすぎて由比ヶ浜や雪ノ下から虫を見るような目で見られた。
そんな犯罪者を見るような目で見るのやめてくれよ、って実際ほぼ犯罪者だったわ。認めちゃうのかよ。
あ、ちなみに椅子は相変わらず湿ってました。
そして今日も無為な一日が終わり、奉仕部の施錠の時間になったとき、俺は平静を装って雪ノ下に提案した。
八幡「あ、今日は俺が戸締りしとくから、先行ってていいぞ」
雪乃「……あなたが積極的に雑用を申し出るなんて、怪しいわね」
八幡「施錠しようとするだけで疑われちゃうのかよ……」
結衣「でもゆきのん、今日はこのあと買い物行く予定だったし、ヒッキーにお願いしたほうがいいんじゃないかな?」
ガハマさん、ナイスアシスト。
その言葉を受けて、雪ノ下は一つため息をついて、鍵をこちらに手渡してきた。
雪乃「……それでは、お願いするわ。鍵の返し方は分かるわよね?」
八幡「ああ、問題ない」
結衣「それじゃお願いね、ヒッキー」
俺は二人の背中を見送った後、教室の隅のカメラを回収し、いそいそと帰宅の途につくのだった。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
:2017/12/04(月) 14:06:40.25 ID:vtF6k1tF0
帰宅すると、小町が夕食を作って俺を待っていてくれた。
生姜焼きをおかずにご飯を掻き込みながら、小町と今日の事について話す。
小町「それで、どうなったのお兄ちゃん?」
八幡「ん? まあ、後でビデオ見てみるつもりだ」
小町「小町も一緒に見てもいい?」
八幡「いや、一応あいつらのプライベートが映ってるし、ちょっとな……」
小町「でもでもー、小町とお兄ちゃんはもう共犯者じゃないですか。げっへっへー」
八幡「……それを言われると弱い」
まあどうせ大したものは映っていないだろうし。
そんな安易な考えで、俺は小町と一緒にビデオ鑑賞をすることと相成ったのだった。
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