【デレマスSS】監察医の白坂さん【R- 18G】

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36 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 12:50:13.25 ID:yP9Ewr7CO
>>35
ぶっちゃけオリジナルよね
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 16:40:51.44 ID:N27zwBlbo
別にいいんじゃね?
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/01/17(水) 17:03:22.56 ID:l90m4eIBO
 小梅の手の中には、ずっしりと重いビーフケバブサンドがあった。いつもは恥ずかしいからと小さな口で少しずつ食べる小梅も、ここのケバブとなれば話は別だ。あんぐりと口を開けて思いきりかぶりつく。甘いソースがたっぷりの千切りキャベツとスライストマト、ステーキのように厚切りにされた牛肉に絡んでたまらなく美味しい。さらに食べ進めて、野菜がなくなってくると中の具も終わりかと思うとそうではない。ここからがこの店のビーフケバブサンドの本番だ。後半になるとサンドの中身はぎっしりとつまった牛肉だけになる。そう、ずっしりと重い理由はこれだ。口の中に広がる肉、肉、肉!スパイシーに味付けされた肉がさらに食欲を刺激し、最後まで飽きずに楽しく食べられる。

「先生、おーい先生」

「………なあに」

「…いや、なんでもねえよ。先生ホントここのケバブ好きだよな。阿佐ヶ谷までわざわざ食いに来るんだから」

「ま、毎日きてもいいくらい、だよ…あむ…」

 小梅は手短に答えて、またあんぐりと口を開けてケバブサンドにかぶりつくと、目を細めてモグモグと口を動かした。

「確かにここのケバブはザ・肉って感じで俺も大好きだけどな!」

 ヒゲクマも大きく口を開けてケバブサンドにかぶりつく。山咲ハナヨの葬式が終わり、ヒゲクマと小梅は阿佐ヶ谷にあるケバブ屋へ車を飛ばし、少し遅めの昼食をとっていた。ちなみに、小梅が食べているビーフケバブサンドは2個目だ。

「んでよ、先生。そろそろ話しに入ってもいかい?」

「あ、そ、そう、だね…」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/01/17(水) 17:04:53.50 ID:l90m4eIBO
 辛口のジンジャエールをグビリと飲んで、ヒゲクマは話を切り出した。

「ま、結論から言うとあの二人はなんも知らねえかもな」

 霊柩車へ棺を運び入れる間、ヒゲクマは片岡と竹ノ内から簡単ではあるが事情聴取を済ませていた。

「片岡に関しては比奈ちゃんと同じ事しか言わなかったし、竹ノ内も会ったのは3回ぐらいでまだ名前を憶えられてないとかこぼしてたしな。ただ…あの、竹ノ内とかいう編集者が言ってたんだけどよ。失踪する直前に電話で話したときに、なんか妙に嬉しそうだったんだとよ」

「へ、へえ…」

「竹ノ内曰く、あれはなんかネタを掴んだんじゃないかって話だ」

「なにかあったのかな…?」

「そう、それよ。山咲ハナヨの周辺を調べてたら妙なことが分かってな。なんと失踪する2週間前に、銀行で200万も下ろしてた」

「に、200万も…!?」

「ああ、ホストとかに狂ってるわけでもねえのにそんな大金下ろすなんでおかしいよな。それともう一つ、まだこれは確定じゃないんだが、関わってるかもしれない奴が浮かび上がってきた。会計士の権田って奴だ」

「な、なんで会計士の人が出てくるの…?あむ…」

 小梅はビーフサンドにかじりつき、わからないと首を傾げた。

「あのマンションで向井と聞き込みをしたら、山咲ハナヨの部屋の付近でそいつを見たって証言が出てきた」

「な、殴り込みじゃなくて…?」

「そうとも言う。先生俺のこと分かってるねぇ〜!あそこに事務所開いてる闇金業者がいてな。そいつの口を割って聞き出したんだが、山咲ハナヨが金を下ろした日に見かけたそうだ。後で2課の連中にも権田について聞いてみたら、権田は資金洗浄や横領に関わってるんじゃねえかという噂がある奴でな、どこの顧問をしているわけでもないのに妙に羽振りがいいらしい」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/01/17(水) 17:06:23.97 ID:l90m4eIBO
「あ、あやしいね…」

「ああ、そんな奴だからヤクザマンションにいてもおかしくはないんだが、闇金業者が言うには山咲ハナヨの部屋があるフロアは一般人が住むフロアで、ヤクザも半グレもいない。どうせ愛人かなんかに会いに来たんだろうって話だ」

「ふうん…これから取り調べするの…?」

「ああ、2課の連中も尻尾がつかめなくて困ってるようだったからな。上手くいけば1個貸しだ。それでな先生ひとつ頼みたいんだけど」

「そ、その権田って人に「遺言」を聞かせればいいんだよね…」

「そうだ。明日の14時頃に任意で連れてくるから、すれ違いざまに聞かせてやっちゃくれないか」

「い、いいよ…」

「助かるよ、先生。礼といっちゃアレだけどここは奢るからよ」

「や、やった…じゃ、じゃあチキンケバブサンド食べたい…」

「マジかよ先生…」

 小梅はあんぐりと口を開けて、残りのビーフケバブサンドを口へ放り込んだ。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/01/17(水) 17:08:09.83 ID:l90m4eIBO
今日はここまでっス

>>35
既存のキャラを流用すれば人物像そこまで深く考えなくて済むんで…
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/20(土) 15:53:18.87 ID:clThuX910
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 10:31:27.90 ID:mjVf9XBto
本編終わってNGシーン集でもつければアイドルの出演作になるからセーフセーフ
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 08:47:49.58 ID:4vtiSoQ0O
乙乙
キャスティングで広がる妄想もあるしいいじゃない
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/02(金) 22:56:54.86 ID:WfM4Fu5/O
 翌日、小梅の姿は新宿警察署にあった。死体検案書を届けに行くという名目で、薫を何とか納得させて抜け出してきた小梅は、刑事課がある4階の休憩スペースのベンチで、遅い昼食のカロリーメイトをモソモソと食べている。その隣で、拓海は顔をしかめてスマホを耳にあてている。

「だめだ出ねえ!センセ、ホントスンマセン!わざわざ来てもらったってのに、ヒゲクマさんドコに行っちまったんだか…」

 頭を下げて謝る拓海を見て、小梅の心が罪悪感でチクリと痛む。

「んぐ…だ、大丈夫…今日は暇だし、のんびり待ってるから…」

「でも、応接室じゃなくていいンすか?寒いっすよ」

「そ、そんな大した要件じゃないから…」

「はあ…そンならいいすけど。あ、そうだ!給湯室でコーヒー入れてきますわ!」

「あ、ありがとうございます…」

 立ち上がって、刑事課の給湯室に歩いていく拓海を見送りながらスマホで時間を見ると、14時過ぎを表示していた。ヒゲクマはまだ来ない。小梅は横に置いたリュックからPLAYBOYを取り出すと、パラパラと暇つぶしに読みだした。
 小梅はグラビア写真を眺めながら、もしかしたらヒゲクマは来ないかもしれないと思った。ヒゲクマは「任意」で連れてくると言っていた。任意同行は相手にゴネられればそこまで、強制力はない。組対に居た頃は相手を半殺しにしてでも連れてきたんだがなあとヒゲクマがぼやいてたのを思い出して、小梅はモソモソと口を動かしながらくすりと笑った。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/02(金) 22:59:20.21 ID:WfM4Fu5/O
 小梅が次のカロリーメイトを口に運ぼうとした時、エレベーターの扉が開く音がした。ちらりと見ると、ボンッと突き出た腹がエレベーターから出てきた。小梅はカロリーメイトをパクリと一口に食べて立ち上がり、モサリモサリと食べながらエレベーターに向かって歩き出した。エレベータから出てきたヒゲクマに続き、風采の上がらないどこかのっぺりとした中年男、そして妙に目つきが鋭いがきっちりとネクタイを締めあげた男。おそらく真ん中の中年男が権田で、後ろの男は二課の刑事だろう。
 ヒゲクマは小梅の方をちらっと見て、目配せをした。小梅は口の中を飲み下し、中年男にふらりと近づき、ぼそりと「遺言」を呟いた。

『この事を漫画にしなきゃ…絶対に…』

 小梅は、足を止めてちらりと振り返る。権田は何も聞こえなかったかのように歩いている。小梅はもう一度、ぼそりと呟く。だが、権田は何の反応も示さない。ハズレだったかと小梅がため息を吐こうとした時、耳元はざわつきだした。

『この事を』『この』『漫画』『この』『画』『絶対イ絶対ゼッタ絶対』『小梅さんどうして』『ボクを』『しなきゃしなきゃしなきゃしなきゃ』『ころ』『こここのののkkっここ』

 耳にこびりついた「遺言」が溢れ、小梅の耳に流れ込み、頭の中で反響していく。小梅の視界はぐらつき、立っていられない。ぼやける視界の中、刑事課の入り口からコーヒーを持って出てきた拓海が、コーヒーを落としてこちらに向かって走ってくるのが見える。何かを叫んでいるようだが、音が全く聞こえない。拓海に抱きとめられ、小梅は拓海のきれいなキューティクルのかかったロングヘア―のやわらかな感触を顔に感じながら意識を手放した。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/02(金) 23:01:10.34 ID:WfM4Fu5/O
 小梅が目を覚ますと、体はベッドに横たわっていた。周りを見渡すと、どうやら仮眠室の一室らしい事が分かる。妙に汗臭く、カビたような饐えた匂い、監察医務院のベッドと同じ匂いがするベッドにどこか懐かしい感覚を小梅は感じていた。小梅はベッドから出て布団を綺麗に直し、脇に置かれていた自分の荷物を手に取り部屋を出た。
 ふらふらとした足取りで部屋を出ると、見覚えのある廊下、新宿警察署の廊下に出た。どうやら、警察署の仮眠室で自分は寝ていたらしい。まずはヒゲクマと会わなければ、壁に手をついて歩きだした時、小梅の前に人影が立ちはだかった。

「もう起きて大丈夫なンすか?」

 視線を上げると、拓海がしかめっ面でこちらを睨んでいた。

「あ…た、拓海さん…」

「とりあえずそこのベンチに座りましょうや。まーだ、ふらふらじゃないすか」

「う、うん…」

 拓海は小梅の肩に手を回し、支えながらゆっくりと小梅の歩幅に合わせて歩き、自販機の横にあるベンチに小梅を座らせた。

「白坂センセ、何飲みます?」

 自販機に小銭を入れながら拓海が聞く。

「え、えっと…じゃあコーラで…」

「あいっす」

 ガコンと自販機から音がふたつして、拓海はペットボトルのコーラと缶コーヒーを取出し口から出した。

「どぞっす」

「あ、ありがとうございます…」

 小梅は、ぷしりとコーラの蓋をあけて一口飲んだ。強烈な炭酸がふわふわしていた意識をしゃっきりとさせてくれる。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/02(金) 23:03:01.56 ID:WfM4Fu5/O
「あ、あの…もしかして拓海さんが運んでくれたの…?」

「そうすよ、廊下で失神したセンセをアタシが仮眠室に運んだンす」

「か、重ね重ねのお世話をかけました…」

 小梅は深々と頭を下げる。お礼はきちんとするのが小梅の主義だ。

「そんな…謝るのはアタシらの方すよ。センセには、めちゃくちゃな量の解剖をお願いしてるってのに、体調面のサポートが不十分でした!本当にスンマセン!あと、おんぶして分かったンすけど、センセってもんのスゲー軽いっすよね。飯ちゃんと食ってます?」

「え、えっとね…お昼に食べてたカロリーメイトが最初のご飯だよ…」

「もっと飯食ってくださいよ!ただでさえ監察医の仕事は激務なんすから、食って体力つけてもらわないと…ま、そういうアタシもロクなもん食ってないんすけどね。今日の昼だってカップ焼きそばだったし」

「あはは…ヒゲクマさんに怒られちゃうね…肉食えー!って…」

「肉こそパワー!が信条のヒトっすからねー………そうだ、センセ今日はなんかうまいもン食いに行かないすか?」

「い、いいね…元気がでるもの食べにいこうよ…」

「うっし決まりだ!何にすっかなー。肉もいいけどもっと元気がでそうな…」

「せっかくだし、色んなもの食べたいな…普段食べられないようなものとか…」

「………ならイイトコあるすよ!何でも食えて、珍しいモンも食える店が」

「わぁ…楽しみ…!」

「俺も行くぞ」

 不意に横から野太い声が飛び込んできた。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/02(金) 23:04:52.49 ID:WfM4Fu5/O
「あ…ヒゲクマさん…」

「よう、お目覚めだな。とりあえず大事ないみたいでよかったよ」

「ご、ご心配をおかけしました…」

「よせよせ!悪いのは俺だ!体調良くないのに呼びつけたりして悪かった」

「そうですよねー。お詫びに何か美味しいもの食べさせてもらわないといけませんよねー」

 ヒゲクマの後ろから、ひょっこりと顔をのぞかせた薫が意地悪そうな笑顔で言う。

「か、薫ちゃんも来てたんだ…」

「拓海さんから、先生が倒れたって連絡がいただいたのでお迎えに来ちゃいました」

「か、重ね重ねご心配を…」

「ホントですよ!先生ったらいつまでたっても帰ってこないから、また阿佐ヶ谷へケバブでも食いに行ってるのかと思ってたらこれですもん」

「まーまー、落ち着けよ薫。一眠りして、センセも元気になったみたいだしよ。あとはウマいモン食って忘れよーぜ」

「そ、そうだよ…ついでにお酒も飲んでパーッと騒いで楽しもうよ…ヒゲクマさんのオゴリで…」

「はーい!」

「俺かよ!いいけどな!」

「あざーす!」

「ね、ねえ拓海さん…これから行くところってどんな美味しいものがあるの…?」

「へへへ…ここっすよ。ここ!紅焼猪脳(ホンザオズーナォ)が食えるトコっす」

 拓海はこめかみの辺りをトントンと指で叩く。

「ほんざおずーなぉ?」

 薫はよくわかっていないようだが、ヒゲクマはこれからどこに行くのか分かったのかニヤリと笑い、目を細めた。

「や、やったぁ…!」

 紅焼猪脳のとろけそうな味を想像した小梅のお腹から、ぐぐうと音が鳴った。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/02(金) 23:05:45.89 ID:WfM4Fu5/O
今日はここまでっス
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/02(金) 23:09:51.20 ID:n9WpoljOo
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 15:34:35.36 ID:UxEfnSJbO
おつおつ
途中めっちゃ気になる遺言があるんですけどそれは大丈夫なんですかね
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 18:55:01.79 ID:Pp+HoOGKO
 小梅の目の前に、赤黒いスープの入った器がある。湯気がほこほことあがるスープの中には、白い物体が浮かぶ。小梅は、柔らかそうなそれをレンゲで掬い、口に運んだ。ちゅるりとした食感のあとに、ビリリとくるような辛みがガツンとくる。辛さに慌てず、白い物体───脳をゆっくりと噛むと、白子のような風味がふわりと口に広がり、舌を優しく包みこむ。そして辛さが消え、物足りなくなったら、また一口。紅焼猪脳(ホンザオズーナォ)はそんな料理だ。

「先生、ものすごく笑顔ですね」

「こ、これ、すごく美味しい……。薫ちゃんも食べる……?」

「……それって脳、なんですよね。豚の」

「脳、だね……。あむ……んー♪」

「……一口ください」

「は、はい……あーん……」

「あむ……うわ、むちゃくちゃ美味しい!」

 ちゅるんちゅるんと脳を仲良く啜る二人を、拓海はじっと見ていた。

「ヒゲクマさん、あの二人って飼えないすかね」

「犬や猫じゃねぇんだぞ……」

 そう言ってから、ヒゲクマはサソリの唐翌揚げをバリリと齧る。カニミソのような風味がたまらなくうまい。

「いや、あれは保護しないと」

「おめぇ、それは保護じゃなくて略取ってんだ。逮捕すんぞ」

 だいたい飼われてるのはお前だろという言葉と一緒に、ヒゲクマはサソリを飲み込んだ。

「わぁ−ってますよ……」

 拓海はそうぼやいて、蜂の子をちびちびと食べながら紹興酒を煽った。

「しっかし、権田の野郎マジでなんも知らなかったんすかね」

「マンションに行ったこともない。知らないの一点張りだ。大方、こっちの目撃証言の出処が後ろ暗いのを知ってるんだろうよ。だが、奴が噛んでるのは間違いねぇ」

「共犯者を押さえるしかないっすね」

「それも明日、明後日中にだ。権田は今日の事を共犯者に話してるだろうからな」

「手がかりが欲しいっすね……」

 拓海は悔し気に紹興酒を煽る。現状では、捜査線上に浮かび上がっている人間は、権田以外にいない。

「ああ……」

 ヒゲクマも苛立たしげにバリリとサソリを齧り、ビールを煽る。

「あの、ちょっと質問良いですか?そもそも、その権田って会計士さんは山咲ハナヨさんに近づいたんですか」

「そりゃあ、金目当てかなんかだろ。山咲ハナヨは単行本が大量に売れて、作品も映画化もして、さらに単行本が売れて印税でそれなりの金が……」

 薫からの質問に答えかけて、ヒゲクマはハッとなった。

「……確かに、金があるから会計士に資産管理を任せるのはおかしくはない。だが、比奈ちゃんの話では山咲ハナヨは金に執着がないはずだ」

「う、うん……資産管理をしようなんて人間じゃないよね……」

「誰かが、山咲ハナヨに会計士の権田を紹介したって事すね。山咲ハナヨの総資産を知っている人間が」

「あ……」

 どうやら、小梅は気づいたらしい。拓海と薫も、それとなく気づいたようだ。

「誰だ……誰が権田を山咲ハナヨに紹介したんだ……」

 ヒゲクマは唸り、ぶつぶつと呟いている。小梅は、蜂の子をもむもむと食べながら唸るヒゲクマをニコニコと見つめていた。結局、ヒゲクマが答えに辿り着いたのは翌朝に目が覚めた時だった。慌てて署に出勤した時には、拓海がすでに共犯者の居所を突き止めていて、ニコニコと「はよざーす!」とあいさつする拓海に、ヒゲクマはチクショウと憤慨したのだった。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/03/24(土) 09:25:59.96 ID:1D8xnKax0
更新してる!
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/24(土) 11:35:08.54 ID:clvjMwU80
 小雨のふる朝、豊島区にあるデザイナーズマンションから、大きなスーツケースを引っ張りながら出てきた男は、しきりに辺りをキョロキョロと見回していた。何もくる気配がない事を知ると、男は煙草を取出して火を付け、深く吸い、大きく煙を吐いた。深めに被った帽子とサングラスで表情は伺えないが、その所作から焦りと苛立ちが見て取れる。

「おい」

 不意に、後ろから声をかけられ、男はびくりとする。男がゆっくりと振り返ると、そこには恰幅のいい髭面の男がいた。振り返った男は片岡。声をかけた男はヒゲクマだった。

「おはようさん。朝早くに、申し訳ないんだが、少し事情聴取させてくんねえか」

「……おはようございます。申し訳ありません、これからシンガポールへ行くんです。帰国後にあらためてお受けしますが」

「いや、何も署に引っ張ろうってんじゃねえよ。2、3聞きてえ事があってな」

「ですが…あ、タクシーが来ちゃいましたね。飛行機のフライトの時間があるので、これで失礼させてもらいます」

「そうかい。んじゃ、楽しいご旅行を」

「え……?はあ、ありがとうございます」

 てっきり、タクシーの中で話を聞かせてくれと食い下がられるかと思っていた片岡は、あっさりと引いたヒゲクマに困惑しながらも、タイミングよく現れたタクシーに安堵していた。タクシーの表示灯が『迎車』ではなく『賃走』になっている事に気づかない程度には。
 片岡の目の前でタクシーが停車し、ドアが開く。片岡がタクシーに乗り込もうした瞬間、タクシーの中から、ぼそりと声が蠢いた。


『この事を漫画にしなきゃ……』


 その声を聞いた片岡は、足を痙攣させるように動かして後ずさった。タクシーの中から、ぬっと誰かが出てきた。片岡には全く見覚えのない人物だ。だが、さっきの言葉は、あれは彼女の、山咲ハナヨの。
 タクシーから出てきた人物。白坂小梅は、ヒゲクマを見て、にこりと笑った。

「お、おはよう……いい、朝だね……」

「おはようさん、なんか眠そうだな」

「そ、そりゃあいつもは寝てる時間だよ……。朝7時なんて……」

 小梅が起きる時間は朝の8時、監察医務院から徒歩10分の所に住んでいる小梅にしてみれば、朝の7時は十分に早朝だ。

「だ、誰だお前……それに、なんでそれを」

「あれ……?まだ、この人、元気だね……」

「よく聞こえなかったんじゃねえか?しっかり聞かせてやれよ」

「わ、わかった……」

 そう言うと、小梅は片岡に歩み寄り、首に手を回し、唇を耳に近づけた。


『この事を漫画にしなきゃ……絶対に大ヒット間違いなしだわ……』


 山咲ハナヨの『遺言』が、片岡の耳元でぼそりと囁かれた。

「……ああ、そうだよ。なんでこの事を漫画にしなかったんだよ!こんな大ヒット間違いなしのネタに気づかないなんて編集者失格だ!ハハハッ!ハハ!ハハハハ!よーしやるぞ!何もかもぶちまけて漫画にしてもらうぞぉ!」

 片岡はぶるぶると震えだし、ゲタゲタと笑いながら叫んでいた。

「お、終わったよ……」

「おう、んじゃ署まで連行すっか。ちょうどタクシーあるしな……げっ、こいつ勃起してやがる」

「わぁーお……」

 新宿署に連行された片岡は、宣言通り何もかもぶちまけ、その日の内に、権田を含めた関係者全員が勾留される事となった。

56 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/03/24(土) 11:48:31.77 ID:T1J5WTzyO
そろそろ完結か
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 11:32:14.47 ID:FdddFuN50
 片岡が連行されてから数日後、東京監察医務院の応接室にヒゲクマの姿はあった。小梅と薫の目の前で、カモミールティーを啜り、チェリーパイを齧る様子は、やっぱりどこか可愛らしいと小梅は思った。

「しかし、蓋を開けてみたらとんでもねぇ事件だったよ」

 カモミールティーを飲み、一息ついてからヒゲクマが話を切り出した。

「漫画家8人が殺害されてたんでしたっけ」

「ああよ。被害者は山咲ハナヨを含めて8人、全員が短期集中連載で一山当てた漫画家ばかりだ。主犯は片岡と権田で、共犯は人気漫画雑誌の編集部に勤める編集者が5人、あとはオマケで半グレのガキが5人ばかしってトコだな」

「け、結構いたね……。比奈ちゃんが巻き込まれなくて良かった……」

「ああ、本当にな。実際、比奈ちゃんも狙われる可能性があったからな」

「マジですか」

「マジよ。奴ら、短期集中連載に向いていそうな漫画家を見つけては、全身全霊でそれを描かせて大ヒット作に仕立て上げる。急に転がり込んできた大金を持て余すようだったら、そこに会計士の権田を紹介する。権田は利率のいい投資がある。次回作を作る期間の生活の糧になりますよと騙し、現金を引き出させてから殺して回収って寸法だ」

「下手な強盗よりタチ悪いですねそれ……」

「んで、死体は半グレのガキどもが解体(バラ)して、ミンチにして、川へポイって訳だ」

「ミ、ミンチ……」

 その場面を想像したのか、うぇーと薫は顔をしかめた。

「奴らはあの廃ソープランドで漫画家を殺して、ミンチにしてやがった。ま、目の付け所は悪かないな。水場があるから片付けもしやすい」

「や、山咲さんは運が良かったよね……。死体を見つけてもらったんだから……」

「けど、ちょっと不思議ですね。確か山咲ハナヨってお金には執着がなくて、投資なんかに興味を示すような人じゃなかったんじゃ」

「それがなぁ、どうも山咲ハナヨの場合はワザと誘いに乗ったみたいなんだわ。片岡の話じゃ、権田との会話を全部録音してたんだと。ま、恐らく漫画のネタにするつもりだったんだろ。だが、権田にそれを気づかれちまった。誰かに話していないか調べるために、山咲ハナヨはすぐに殺さずに、痛めつけていたらしい」

「だ、だから、全身に殴られた痕があったんだね……」

「だが、いくら痛めつけても山咲ハナヨは知らないの一点張り。業を煮やした片岡が、電気コードで首を絞めあげて、話さないと[ピーーー]ぞと脅してたら「このことを漫画にしなきゃ」「大ヒット間違いなしだわ」と山咲ハナヨが嬉しそうに呟いたから、怖くなってそのまま絞殺しちまったんだとさ」

「……あの、漫画家さんってそんなにヤバい生き物なんですか?」

「ま、漫画家って言うか、作家さんには……ネタのためなら、なりふり構わないって人はいるんじゃないかな……」

「えぇ……」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/03/25(日) 11:33:19.09 ID:FdddFuN50
「ま、確かにこんなの漫画にできたらそりゃあ大ヒットするかもな」

 ヒゲクマは嫌味混じりにそう言って、ハーブティーを啜った。

「え、映画の方がいいなぁ……ミンチにするシーンが見られるから……」

 小梅は、パクリとチェリーパイを齧りながら、そう呟いた。

「ミ、ミンチ……うぇー……」

 薫はまたもミンチのシーンを想像して、顔をしかめた。その時、応接室のドアが小さくノックされた。

「はーい、どなたですかー?」

 薫は、ぱたぱたとかけて行き、ドアを開いて来訪者を迎えた。

「あ、ど、どうも、私、荒木比奈といいまス。ヒゲクマさんがコチラにいらっしゃると警察署で聞いて」

「えっ、あなたが荒木比奈さん?!」

 ドアの隙間から、おずおずと比奈が顔をのぞかせた。

「おお、比奈ちゃんじゃねえか。元気そうだな!ま、入れや」

「はい、おかげさまで何とか……。あ、失礼しまス」

「こ、こんにちは、比奈さん……」

「こんちはっス」

 比奈の顔色は良く、声に力が戻っている。山咲ハナヨの死の悲しみから立ち直れた様子に、小梅は安堵した。

「先生、お茶入れてきますね」

「う、うん……、お願い……」

 薫は給湯室へ、ぱたぱたとかけて行く。

「小梅さん、ヒゲクマさん、この度は本当にお世話になりましたっス」

 そう言って、比奈は深々と頭を下げた。

「うんうん……、こちらこそ比奈さんと会ってなかったら、あのご遺体が山咲さんだって分からなかったもの……どうも、ありがとうございました……」

「ああ、比奈ちゃんのおかげで今回の事件は解決したようなもんだ。ありがとうな」

「あ、いや、そんな頭を下げられるようなことは……」

 深々と頭を下げる小梅とヒゲクマに、困惑しきりの比奈だった。

「そ、それで……その後、いかがですか……?あ……チェリーパイどうぞ……」

「あ、どうもっス。あむ……うまっ!うまいでスねこれ!」

「帝国ホテルのガルガンチュワのチェリーパイだ。うまさは折り紙付きよ」

「おいしい……あ、そうだ、お二人にご報告することがありまして、これを」

 比奈が鞄から漫画雑誌を取出し、来月号の予告ページを開いて見せた。

「た、短期集中連載……『魔法少女ズンビー&アパッチ』……荒木ヒナ……!」

「おお!雑誌掲載か!やったじゃねぇか!」

「ありがとうございまス!」

 予告ページには、ゴシックホラーの衣装に顔面ピアスだらけの魔法少女と見た目はカワイイクマなのに無精髭が生えていてヤクザみたいな妖精が描かれていた。モデルになっているのは、小梅とヒゲクマだろう。

「わぁ……!いい…!いい…!」

「こりゃまた随分と可愛らしいな」

「これも、お二人のおかげっス!」

 あの夜、パティスリーバーで二人をスケッチしていなければ、この漫画も描かれることはなかった。本当に、この二人と会えてよかったと比奈は感謝の念でいっぱいだった。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/03/25(日) 11:34:22.01 ID:FdddFuN50
「失礼しまーす。お茶を入れてきましたよー」

「か、薫ちゃん……ありがとうね……」

「どうぞ、カモミールティーです」

「あ、これはどうもっス」

「ひ、比奈さん……、この子はウチの研修医で……」

「龍崎薫と言います!よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、いいなあ……こんな可愛い助手さんがいるなんて」

「や、可愛いだなんてそんな!可愛いですけど」

「謙遜しねえのかよ!」

「可愛いなあ……あの、後でスケッチしてもいいでスか?」

「い、いいよ……好きに使ってください……」

「なんだったら全裸モデルでも」

「薫ちゃん、自分をもっと大事にしてくれ。頼むから」

「あ、あはは……じゃあ、あとで遠慮なく」

「あ、そ、そうだ……薫ちゃん、比奈さん、連載決まったんだって……これ見て……」

 小梅が予告ページを見せると、薫の目がキラキラと輝いた。

「おおー……!すごく面白そうですね!」

「えへへ……、このお二人を見たときにビビビッ!と来たんでス!」

「どこでお知り合いになったんですか?」

「パティスリーバーでお二人と会ったんでスよ」

「……パティスリーバー?」

 小梅は音もなく立ち上がり、そろりそろりと応接室のドアへ向かい、そーっと部屋から逃げ出そうとする。ここで逃げ出さいないと非常にマズイ。

「せんせい!」

「あ、あ……あのね……これはね……」

「深夜のスイーツは体に悪いから、あのパティスリーバーに行くのは禁止って言っているでしょう!本当に早死にしちゃいますよ!」

「怒り顔も可愛いでスね。スケッチしよう……」


 鞄から取り出したスケッチブックに、さらさらと薫の怒り顔を描いていく比奈に、ヒゲクマは呆れるしかなかった。

「山咲ハナヨといい、比奈ちゃんといい、漫画家ってのは強かな生き物だなぁ」

「聞いてるんですか先生!大体、先生はなんだってそう健康に対して意識が低いんですか!もう!」

「は、はい……ごめんなさい……」

 薫に怒られながら、健康にしていないといけない理由を小梅は思案する。ああ、そうだ。このためだ。


『小梅さんどうしてボクを———ころ———』


 長生きして、この声をもっと聴くためだ。小梅は、にこりと笑った。 
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/03/25(日) 11:36:15.72 ID:FdddFuN50
終わりっ!閉廷!

同人誌のお原稿書いてたから、随分と時間かかっちゃいましたけど終わりっす!あー疲れた!
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/03/25(日) 14:33:07.45 ID:t0ipV1RVO
あと、色々と手直しを加えたのを、同じタイトルで渋に上げたんで、もし良かったら読んでみてくだちい
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/26(月) 13:56:26.51 ID:HuQqil/GO
乙乙
面白かった
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 15:22:04.75 ID:/zYoP2wR0

おもしろかった
最後の遺言はホラーなんすかね…
小梅ちゃん人ころs…


続きがほしい!
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