【鯖鱒wiki】どうやら坂松市で聖杯戦争が行われる様です【AA不使用】2

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

543 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/06/29(月) 22:20:39.20 ID:yOSGifKsO
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/06/29(月) 22:29:56.55 ID:Jt7yfexp0
乙です
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/01(水) 23:25:11.56 ID:GKxwSb6Ao
1の書き込みがないけど大丈夫かな
546 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/02(木) 22:48:14.08 ID:LFf76D3G0

【本日はお休み……体調を崩してました。報告が遅れてすみません】

【現在どう進行すべきか考え中。着地点は決めてますが、どう到達させるか悩みどころ】

【最低でも土曜日には再開させるので、ご安心を……】

547 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 21:56:05.59 ID:aemXh4B10

【重要なシーンに遅筆が合わさりとんでもない遅さに……】

【描写だけですが、再開します】

548 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 21:59:30.73 ID:aemXh4B10




「……さて、四陣営とも準備はいいなぁ?」
「そんじゃまあ、今宵は楽しい楽しい死徒退治と行こうぜえ。お前さん達」

夜が更ける。時計の短針は既に十二を過ぎ、一に差し掛かる頃
禍門の当主、招福はけらけら笑う。無邪気に、今からハイキングにでも行くかの様に

「待て、何故貴様が仕切っている?」
「いいじゃあねえかドミトリイ。年上は敬うもんだろぉ?」
「坊やはオトナの言う事をしっかりと聞くべきだぜ。ひっひひひひひ!」

「…………………………」
「抑えてください。気持ちはわかりますが……」

「……本当にすまないね。何から何まで」
「別にいいのよ。その分働いて貰っているし」
「“吸血鬼なら労災適用されないわね”とか何とか言って無茶苦茶仕事させてたもんねー……」

「先……輩」
「ん?アキラ、大丈夫か?」
「はい。……けど、私より、も」

「俺は平気。アサシンのせいで哀しむ人が大勢いるなら、何とかしないと」
「アサシンにやられたメリッサの分まで、俺が思いっきりぶん殴ってやるさ」
「メリッサさん。そんな人、なんデス?」


「……まあ、やりそうではあるな」
「えぇ……」


束の間の談笑に、それぞれ花を咲かせる
この場にいる今だけの味方だが、思惑は皆同じ
アサシン陣営を倒す。一時凌ぎの同盟だからこそせめての団欒を……



「……オイ!マスター、敵襲だぜ!」
「アーチャー。それは」

「よくわかんねえ!光の塊みてーなのだ!」



549 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 22:00:44.21 ID:aemXh4B10




「……っ、眩しっ!」
「これは……エーデルワイスの……!」

ルシフェルが言葉をこぼす。連られた全員も空を見上げる

まるで昼と夜とが逆転したかの様な目映さに、全員の思考が停止する
降り立つ姿は神々しく。溢れ、流れ出る魔力は清廉さすら感じさせる

宵の闇の中ですら輝くその者の名は……


「おう。どうしたシュヴァルツ。今晩は夜遅くに俺の顔でも見に来たか?」
「シュヴァルツ……ってあの子供が!?」

「まさか、ここまでとは……!アキラ!下がっていろ!」
「け、けど。お父さんはサーヴァントが」
「だとしてもだ!管理者として、魔術師として奴を野放図にしておけるものか!」


光の主、シュヴァルツ。煌々と輝き下に集う者達を睥睨する
そこにいるだけで胸が苦しくなる圧迫感。空を見上げるだけで頭が揺さぶられる

瞬間、膨大な魔力が地上を覆う。響き渡る爆音と衝撃
禍門及びガイスロギヴァテス、そして二陣営のマスターが吹き飛んだ


550 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 22:02:06.16 ID:aemXh4B10



「ぐぁ……っ!」
「何という……無事か!マスター!」
「な、なんとか……」

「これは単なる魔術ではない……!奴め、魔法の域に片足を突っ込んでいると言うのか!」


「……いいえ。違います、ドミトリイ様」
「あれは“天使”。降霊術の大家、“シュヴァルツ家”の秘技にして禁忌」
「同門の魔術師を殺し尽くし得た、非道極まりない外道に堕ちた怪物……!」

呟き、天に聳える光を睨むルシフェル
その言葉からは憎悪の色が漏れ、聞いているドミトリイ当人すら震える程に冷たい

あれこそが、エーデルワイスの……ひいては、今回の聖杯戦争での最も危険な存在である……


「……天使」



 ◆天使化術式:高貴なる白   
  エーデルヴァイス。魂と魔力だけで構成されたエネルギー生命体へと化身する大魔術。    簡単に言うと天使化。世界の裏側や異界での活動を可能とし、人間世界とは異なる法則の中に生きている。   
  莫大な魔力は白く輝き、保有する神秘が下等な生物からの干渉を阻害する。


551 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 22:03:32.06 ID:aemXh4B10




「……成る程。あれが、相当なバケモノである事はわかった」
「しかし、逆に君は何者なのだ?何故、エーデルワイスの魔術を、君が」

「それは……」
「うぅうあぁああああああ!!!」
「げ、バーサーカー!……ジジイの方!」

マリアの質問に答えたのは、ルシフェルではなく闖入者……バーサーカー
その眼は爛々とした光を湛えている様にも、澱んだ闇を抱えている風にも映る歪なモノ

恐らくは狂化による影響だろうが、それにしては様子がおかしい
まるで強引に動かされている様に、その動きは激しいがどこか硬い。さながら壊れかけの機械を無理やり動かしている様な……


「恐らくは、魔力の暴走だろう。強制的に流し込まれた影響で狂化のランクが上昇したんだ」
「待ってくれ。あのバーサーカーのマスターはシュヴァルツじゃないんだ。ヴィオレっていう動物で……」
「そうなの?ボクにはバーサーカーがあのピカピカに従っている様に見えるけど」


キャスターの言う通り、バーサーカーは暴れてはいるものの無差別に攻撃はしていない
命令を待っているのか空を見上げる素振りを見せたり、時折停止したり……

「じゃあ、まさかヴィオレはあいつに……」
「いや。流石にエーデルワイス当主とは言え、英霊相手では分が悪いはず」
「少なくとも殺してはいないだろう。とはいえ主導権は奴が握っている様だが……」




「で、どうすんだよ!コイツぶっ倒してアサシンをシメに行けばいいのか!?」


552 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 22:04:35.65 ID:aemXh4B10




「……それは」

アーチャーの発言に、場は固まる
どうも、シュヴァルツは此方側を通すつもりは無いらしい。バーサーカーを使って足止めする算段なのだろう
何故そんな事をするのかは不明だが……

「い、嫌がらせ。とか……アサシンと、組んでいるとか」
「何にせよ、連中が何かを企んでいる事には間違い無さそうだ」

「ここで全員総出でフルボッコにして、明日の夜にアサシンを倒しにいけばいいじゃない」
「難しいな。拠点の位置はみとりが魔力反応から割り出せるとしても、宝具の影響が町にまで広がると手遅れだ」

「是が非でもこいつを押し倒さないといけない訳だね……あ、別に変な意味は無いよ?」
「戦力を割くとアサシン討伐の成功に関わってくる。どうする……?」


今、シュヴァルツとの戦闘は避けたい。しかし倒さねば、通る事すらままならない
場面は完全に掌握されている。時間の経過だけでも此方は不利になっていく……



「……私に、任せてほしい」
「えっ?バーサーカー、どうするつもりだ?」


「私があのバーサーカーと戦う。その間にここを離れ、アサシンを倒して欲しい」




553 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 22:07:18.20 ID:aemXh4B10




「……はぁ?頭どうかしてんじゃないの?」
「確かに、バーサーカーのステータスならキミでもなんとかなりそうだけと……」
「あの天使はどうすんだよ!まさか、二人ともテメーが倒すとか言わねえよなぁ!?」

三騎の英霊は、口々に疑問を呈する。確かに、バーサーカー単独ならばクリスティーナ一人で相手取れる
しかし、シュヴァルツ……天使もとなると話は別だ。彼女一人で二人を相手にする事も、ましてマスターを守る事も不可能だろう

「だが、それ以外に方法があると言うのか!」
「ここで二の足を踏み続ける事こそが、最も愚かな行為であろうが!」

「でもマスター君の方は?彼、何の備えも無い一般人だよね」
「……令呪を使うよ。それなら俺も少しだけ支援が出来るから」

「け、けど、先輩、もう二画しか無い……デス」
「その二画をここで使い切るのか?我々の為と言えば聞こえはいいが……」
「聖杯戦争で、君の持つアドバンテージをここで捨てられるのか?どうなんだ?」
「それは……」


確かに、令呪は何も出来ない貴方にとっては唯一と言える武器である
それを捨てるという事は、即ちクリスティーナを御す事はおろか聖杯戦争を諦めると宣言するに等しい行為




「……なら、誰か一人残ればいいんじゃない?」
「こっちで二人、あっちに二人。丁度割り切れて気持ちいいじゃない」
「あぁ?だったらランサー、テメエが残れや」

呆れるように、アーチャーはランサーの意見を笑って切り捨てる
だが、当のランサーは怒る様子もなく。寧ろ楽しそうに笑いながら胸を張って

「モッチロン!そのつもりよ!」
「ランサー、俺を無視して勝手な事を……」
「何よ。駄目なの?」

「そうだ。……とは言っていない。……構わないな?ルシフェル」
「はッ!」


554 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 22:13:00.26 ID:aemXh4B10




「……ガイスロギヴァテス」
「何だ、禍門。時間が惜しいんだろう?」
「俺は貴様らを信用していない。しかし……」

「今だけは、封印しよう。……その子を頼む」
「先、輩。その……私、少しだけ遠くに行っちゃうけど、でも……」
「……ゆびきり、デス。絶対に、生きてくれるって、約束、してください」
「わかった。……そっちこそ。絶対に戻ってきてくれよ」

憂午はドミトリイに頭を下げ、アキラは貴方と小指を絡ませる
禍門の呪術は言葉による。言葉で縛り、蝕む毒こそが禍門の魔術

敢えて言葉以外での行動を取ったその意味は、彼等にとっての誠実の現れ
言葉を手短に。キャスター達と共にアーチャーの背に乗り飛んでいった


「さて、ブチのめすわよ。準備いい?」
「……何故だ。何故私の」
「加勢じゃないわよ。……取り逃がしってのは、気分が悪いからねッ!」

「あんた達……信じるからな」
「勝手にしろ、俺はお前の様な子供は嫌いだ」
「このルシフェル……ガイスロギヴァテスの名において!エーデルワイスを殲滅する!」

見据えるはシュヴァルツ、老バーサーカー
対峙するはガイスロギヴァテスと、ランサー。そして……クリスティーナと貴方

此処に、臨時のタッグ……双方の思惑が交錯する因縁の勝負の幕が上がった


555 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/04(土) 22:13:35.89 ID:aemXh4B10

【本日ここまで】

【次回アサシン側の描写と戦闘前を少し】

556 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/04(土) 22:29:32.93 ID:CWYN3KvdO
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/04(土) 23:51:02.61 ID:GdVLXtdQo
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/05(日) 11:19:24.31 ID:EM14UGSyo
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/05(日) 19:57:21.44 ID:++mXAaJc0
560 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/05(日) 22:56:50.92 ID:9XR0iDdF0

【本日お休み】

【戦闘パート前後はいつも遅くなってすまない……】

561 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:27:14.72 ID:AR2wu5cc0

【取り急ぎ、書けた分だけ……】

【本日も安価は無いです】

562 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:28:59.32 ID:AR2wu5cc0





「……俺は、人を幾つも殺してきた」
「そうね。知っているわ」

坂松市の廃工場の奥。心臓喰らいはアサシンにゆっくりと語りかけている

「生きる為じゃない。復讐の為に、何人も……」
「仕方が無い事なんでしょう?何故、そんなに悲しそうな顔をするのかしら」

アサシンは適度に相づちを打ちながら、彼へと質問を投げ掛ける
途端に、意外そうに顔を歪ませる。彼女の言葉はどうやら無意識だった様だ


「……奴等の魔術回路、あれさえあれば、復讐が叶うかもしれない」
「それを奪う方法を俺は知らない。だから……」

「なら、罪悪感が沸くのはどうして?マスターは怪物じゃない」
「違う!俺は怪物なんかじゃ……!」


言いかけて、その口を閉ざす。遥か上空から、何かが落ちてくる
認識した瞬間地が爆ぜる。土煙の舞う中、そこにいたのは青銅の巨人



「そら、着いたぜ……怪物退治のデリバリー。とでも言っといてやろうか?」




563 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:30:21.22 ID:AR2wu5cc0




「おま、え達……!」
「ついこの間ぶりだな、心臓喰らい」

「今日が晴れて貴様の命日だ。全霊を以て抹殺してやるからそのつもりでいろ」
「全霊って……ボク、ここで死ぬの確定?」
「まあそうだな。これ以上必要ないし」「そんなご無体なぁあああ!!」

「お父さん。私……」
「よく見ていろ、そして覚悟しろ。ここが我等の正念場の一つだと!」
「どんな事情かは知らねえけどよお!人様のシマ荒らしたツケはガッチリ支払えやオラァ!」


アーチャーとキャスター。二つの英霊が、自らを殺さんと眼前に聳え立っていた


「何故だ……!何故、俺の邪魔をする……!」
「俺は……ただ、力が欲しいだけだ。奴等を殺すに足る程の力が……!」
「確かに殺しはした。だが俺は決して罪の無い人間を殺してはいない……!」

「……魔術師に人権は存在しないのか?」
「ボクに聴かれても……けど、そいつの言ってる事が嘘だって言うのはわかるよ」
「そうじゃなかったとしても……いずれ、見境が無くなる。そいつはそういう目をしてる」


毅然とそう告げられた。納得等出来る訳が無い
大体、何故そんな事をハッキリと断言出来る。今しがた会ったばかりの、英霊ごときに……




「だって、そいつ……笑ってるもん」
「ボク達をどう残忍に殺してやろうか。そんな眼をしたヤツは幾つも見てきてるんだ!」


564 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:32:08.93 ID:AR2wu5cc0




「……笑っている?俺が?」

──“マスターは、怪物じゃない”

「違う!違う、違、違が違違違血が血が血が血がぁあああァア!!」
「“アサシィイイン!殺せ!殺せ!奴等の心臓を俺に寄越せぇえああああ!!!”」

「……もっと早くに受け入れれば良かったのに。仕方のない子ね」
「けど、私は貴方の先輩だから。許してあげるわ。あまりに可哀想だもの」


「令呪を使ったか……!連中も、ここで引く気は無いらしいな!」
「それは有り難い。……キャスター、此方も令呪を切る。いいな?」
「拒否権無いんでしょ?好きにしちゃって!」

「よし。“汝がマスター、マリアが命ず──”」
「“あのアサシンをぶっ飛ばせ!”」


双方に魔力が迸る。赤色の閃光、互いに令呪を行使した証
迫り来るは死の化身。黒色の鎌を振り上げ、命を刈り取らんと疾風となって襲い来る

対するはキャスター。夜の星々に照らされて、ここに第二の戦闘が勃発するのだった



565 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:33:42.34 ID:AR2wu5cc0




「……おい!聞こえているんだろ!」
「ヴィオレは何処だ!お前が拐ったんだろ!」

空へと叫び問い掛ける。本来のマスターは何処にいるのかと
しかし、問いへの答えは無く。代わりのつもりなのだろうか。光の塊が降り注ぐ

その中の一つが、貴方に直撃する……寸前。腕に巻き付いたワイヤーが後ろへと引っ張った

「うおっ……!……っとと!」
「どうやら口すら聞きたくないと見える。……俺達も舐められたものだ」
「此方のマスターは我々が保護する!其方は気にせず戦ってくれ!」



「……どうして、ですか」
「どうして貴方が!よりにもよって、狂戦士のクラスで喚ばれているのですか!」
「私は、貴方程に狂気から遠い人間を知り得ない!私に知恵を説いてくれたのは貴方でしょう!」

対峙する二人のバーサーカー。クリスティーナと錯乱する老人
クリスティーナにしては信じられないくらい、その声は震えて強ばっている


「う、うぅ?フラン?フラン、違う?」
「……何よ。もしかして、この爺知り合い?」

「想定していなかった訳ではない。私というイレギュラーが召喚されるには……」
「何かしらの、強い縁がこの世界に必要だろうとは考えていた」

「だが!───っ!」




「フラン、近い?フラン、近い!フラン!フランフランフラン!!!」

「フラーーーーーーーーン!!!!!」




566 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:34:47.92 ID:AR2wu5cc0




絶叫が響く。それは、遠くにいたマスター達の耳にすら届くほどに


「……なんだ?今の声は」
「戦っている様には見えません。ですが、何か嫌な予感が……」
「うおっ!?な、何だ!?」

突然、貴方の身体がバーサーカー達の元へと引きずられる
鉄に反応した磁石の様に強力な引力。当然、為す術の無い貴方に抵抗は敵わず……

「貴様!何をふざけている!?」
「いや身体が……じゃない、これは、あの人形が引っ張ってるのか!」
「訳のわからない事を……!く、これは俺も巻き込まれる……!」

腕に巻かれたワイヤーが軋む。尋常でない力が二人へと襲う
ドミトリイまで貴方と共に引っ張られる。このままでは二人とも……

「……ルシフェル!この場は任せる!」
「はッ!」

「ちょっ、大丈夫なのか!?」
「ルシフェルまで巻き込めるか!恐らく、奴の宝具は……!」


ドミトリイの言葉が途切れる。話せなくなったのでは無く、世界から切り離されて





「フラーーーーーーーーン!!!!」




567 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:36:13.59 ID:AR2wu5cc0





……ガチガチと、歯車が噛み合う音がする
どうやら引き寄せる力は止んだらしい。冷たいリノリウムの床で目を覚ました

「う、ここは……?」

見回す先には歯車の列。それだけではなく数式やグラフ……科学的なものばかりが

「何だ。また別の世界か……?」
「──“固有結界”。魔術の極致の一つだ」
「魔術師でも辿り着く者は極少数だが……英霊の中には、宝具として持つのもいるという」
「宝具として……?」


言葉に反応するかの様に、世界が切り替わる
そこに立っているのは、三騎の英霊。ランサーと二人のバーサーカー

恐らくはあの老人の宝具なのだろう。この空間の真ん中で、高らかに天を見上げている


「……あれ、あの人形がない」
「人形だと?それが何だと言うんだ」
「いや、あのバーサーカーの持ち物でさ。“フラン”って名前の人形なんだけど」

「フラン?フラン、フラン……フランシ……フランシーヌ……」
「……不味い。急ぐぞ!」「え、何でだよ!」




「この世界は極めて危険だ!ランサーと貴様のバーサーカー、二人纏めて消滅させられる可能性が高い!」
「あの人形が“フランシーヌ人形”だとすれば、奴の真名は恐らく……!」



568 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:37:16.29 ID:AR2wu5cc0




「が、アァッ、アァアアアアアア!!!」
「何よ、これ……っ!身体が、盗られる……アタシがアタシで無くなってく……!」

ブチブチと不快な音を立て、ランサーの身体は千切れていく
ランサーの身体は鉛の粘土。それが削り取られていけば、人形を保つ事すらままならない

まるで、ハサミで切り取っていくかの様に奪われた肉体は一ヶ所に集中する
別の生命を構築するかの様に蠢き、形を作っていく。その中核にあるのは、貴方が預かっていた人形だ



「……フラン。フランシーヌ。貴方の愛娘の名前だと、聞いた事がありますわ」
「早逝した子供と重ねる様に、精巧な人形を常に持っていたと。貴方が亡き後に知りました」
「……その人形は、私が呼び寄せた際の船で棄てられたんですってね」

「フラン!産まれる!フラン!帰ってくる!」
「フラン殺された!フラン棄てられた!フラン女王のせいでいなくなった!」
「フラン!フラン!フラン!フラン!」

届いていない。クリスティーナの声すら、今の老人には響いてはいない
呻くランサーの横で、女王は剣を執る。それに反応するかの様に鉛の人形……フランシーヌは女の形へ


「……お父、様。フラン、ここに」
「  フ ラ ン ! ! !  」

「フラン、敵を殺します。お父様、ずっと一緒にいる為に」
「……いいだろう。ここで、現世の師匠の醜態を終わらせてやろう」
「来るがいい、フランシーヌ!そして、敬愛する我が師匠……」





「─────ルネ・デカルト!」



569 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/06(月) 22:38:17.55 ID:AR2wu5cc0

【本日はここまで。次回は戦闘を少し】

570 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/06(月) 22:55:30.39 ID:16bXhFSaO
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/06(月) 23:13:03.38 ID:ubF9eRsi0
572 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/07(火) 22:15:09.56 ID:Giv+x6q40

【本日はお休み……】

573 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/08(水) 23:22:43.22 ID:37pHUxVd0

【遅くなってしまった。本日もお休み……】

574 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/09(木) 22:59:00.20 ID:DBGUJcMM0

【本日も……お休み……】

【他のスレを見ると自分のペースでスレを三周くらい出来そうだなーと。次回はもうちょい軽めにやってみます】

575 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/11(土) 02:08:03.36 ID:jsLfHEy60
3月初めに準備が整ってから4か月以上も書いているイッチはすごいよ
576 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/11(土) 22:44:49.04 ID:PM6Zq8DH0

【そうは言っても、休んでいたり別の事してる方が多いので】

【実は胸を張れる事では無かったり。元々が遅筆なのが悪いのじゃ……】

【取り急ぎ書けた所だけ更新します】

577 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/11(土) 22:49:24.68 ID:PM6Zq8DH0





 ◆『渦動する廻転調和(マーシャル・ギア・マイソロジー)』
  ランク:A- 種別:固有結界 レンジ:1?99 最大捕捉:1000人

 心象風景の具現化。バーサーカーの理論の礎たる機械論的世界観を展開する固有結界。
  
 本来はバーサーカーの思考観察能力を大幅に上昇させ、神秘の解体・再定義を行う空間なのだが
 狂化によって心象風景が影響を受け、その性質を異にしている。

 この世界において、神秘とは理由抜きにただ貶められて否定されるだけのものであり
 全ての理論は、自動人形の肯定材料としてのみ存在を許される。

 世界は一定の物理法則によって動き、人もまた物理現象の連続によって形作られる。

 ならば彼女は、本物足り得る。




「ぐ、クソぉ……身体、動かな……!」
「ランサー!」

戦線から離れ、倒れ伏すランサーの元に駆け寄る二人
ランサーはまるで強引に身体を引きちぎられた様に欠損し、まともに戦える状況ではないのは明白だ

「……大丈夫なのか、ランサー」
「自分よりも、アタシの心配するの……」
「そりゃ、その身体を見ればそうするだろ。誰だって」

「これでは、令呪を使ったとしても戦線復帰は不可能だ。俺もこの場では役に立たん」
「どうやらこの空間の本質は神秘の否定……俺達の力は削り取られ、奴に吸収されるらしい」
「だとすると、最も適しているのはお前だ。何の力もないお前ならば影響も何も無いだろう」



「……行け。ここはお前のバーサーカーに勝って貰わないと困るからな」
「わかった。そっちも気をつけて!」
「当然だ」


「サイアク。本当はここらで、アタシの強さを見せつけたかったんだけどなぁ」
「ていうか、アンタも結構ヤバイんでしょ。魔術師なんて神秘を身体に埋め込んでる様なモンじゃない」
「……黙っていろ」


578 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/11(土) 22:52:41.48 ID:PM6Zq8DH0





……我思う。故に、我あり。


思索の迷宮に囚われ、惑った時、異国より来訪した哲学者はそう語った
その言葉はある種の革命であった。漫然とした光の様で、しかして核心を突く様に照らし出す

思考の限界を超えたブレイクスルー。敬愛する師との日々があったからこそ今の私は存在する


「なのに……!その貴方が狂気に堕ちてどうすると言うのですか!」
「……?フラン、誰?フラン、違う。フラン、興味ない。フラン、殺す!」

クリスティーナの決死の言葉すら、狂戦士には届かない
それでも手に持つ剣は決して緩めず。目の前で殺しにかかる師の愛娘と切り結ぶ


「お父様……お父様、私はお父様を肯定します。何も間違ってはいないのです」
「ええ。そう!お父様はただ私に会いたかっただけ!それを貴女が否定出来るのかしら!?」

先程の拙い口調から、流暢に語り始める
その語り口はランサーのものに近付いている。取り込んだ肉体に影響されているのだろう

「クリスティーナ。お父様は貴女の頼みで故郷からスウェーデンまで渡航した」
「そしてその後間もなく亡くなった……その理由を知っているかしら?」


フランシーヌからの問いに、クリスティーナは顔をしかめる
デカルトと彼女の仲だ。当然知っていてもおかしくはない。が……


「……それは」
「“病弱なお父様を無理矢理講義に立たせ、その過労の末に身体を壊したから”」
「貴女が殺したも同然じゃない!アハハハハハハハハ!」



579 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/11(土) 22:55:08.01 ID:PM6Zq8DH0




「…………ッ」

「過去の貴女があるのはお父様のお陰。なら、お父様の為に貴女が死ぬのは当然でしょう?」

フランシーヌの言葉は、容赦の欠片なくクリスティーナを切り刻む
例え、敵対者が誰であれ彼女の心がブレる事は無いはずだ。けれども……


「安心しなさい……貴女の代わりに聖杯を取ってあげる。お父様こそが聖杯に相応しい」
「その為に……ここで死ね!バロックの女王!」
「くっ……!」


ほんの一瞬、隙が産まれる。それは言葉によるものか、この空間によるものかはわからない
だがクリスティーナの剣が鈍ったのは事実で。その瞬間を嘲笑うかの様に、フランシーヌの剣が首へと伸びる──



「“令呪を以て命ず!避けろバーサーカー!”」

その刹那、赤い魔力の閃光が乱入する
クリスティーナの姿は光の中に消え、剣は目標を失い宙を切る

一方、剣を逃れたクリスティーナは貴方の元へと馳せ参じる
多少の傷を負ってはいるものの、大きな問題は無い様だ


「ごめん、独断で令呪を……」
「気にするな。それが最善手であるなら、私は拒否しない」


580 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/11(土) 22:56:55.36 ID:PM6Zq8DH0




返事もそこそこに、二人はフランシーヌの方を確認する
向こうも気づいたのだろう。その歩みは遅いながらも確実にこっちへと近付いている

「なあ、少し戦闘を見てて思ったんだけど」
「相手の剣筋とクリスティーナの剣筋って、かなり似てる気がする……」

「当然と言えば当然だな。私の剣は師のものを学んで組み上げたもの」
「原点が同じなのだから、その娘の模倣ならば似てておかしくは無い」


懐かしそうに、背後の師の姿……デカルトを確認する
その目に映るのは彼の過去の姿か。彼女の願いに答え、教育を施した偉大なる哲学者

それが今や狂人に堕ちた。その責任が自らにあると言うのなら──



「宝具を開帳する。そして見せつけてやろう、貴方のお陰で歩き出せた、私の生きざまを!」
「ああ!やってやれ、クリスティーナ!」

貴方の声援を受けて立つ。誇らしげに微笑み、自らの歩みを肯定するかの様に



「……師よ。貴方の教えに照らされ、歩んだ我が生きざまをご覧あれ」

「心の歩みを知れ!師に開かれた道の果てを、私が此処に示してみせる!」

「その為に──っ、我が父からの威光を捨て!師の妄執を解き放つ!私が私である為に!」
「これが私の生きた道!私の生きざま、見せてやろう!」

「“我思う、故に……私は、ありのままに
 (バロッケンズ・ドロットニング)”──!」



「……フ、ラン……?いや、私は……」
「私は、何故……何故、な、な、な……」
「………………………………フラァアアアン!!!」


両者の剣が激突する。空に浮かぶ歯車はまだ、回り始めたばかりなのだから


581 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/11(土) 22:57:56.49 ID:PM6Zq8DH0

【本日ここまで】

【次回はこっちを決着させるか、アサシン側やルシフェル側を描写するか】

582 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/11(土) 23:10:38.76 ID:m+TzlZomO
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/12(日) 13:11:55.71 ID:3VuMzMyU0

1月より早朝5時からデカルトの講義、講義を始めた翌月2月デカルトは風邪をこじらせて肺炎を併発して死去
招いて1か月で死んだって話は……“殺したも同然”って意見を否定できない
584 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/12(日) 22:33:23.17 ID:S8WB4L+q0

【本日はお休み】

【お知らせだけでレス消費するのは流石にアウトなので】

【返信はまばらになるかもしれません】

585 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/14(火) 22:59:54.37 ID:4Y393OoP0

【本日もお休み】

【ですが、避難所にも書きましたが金曜日には何かしら更新したいと思います】

586 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/07/16(木) 23:47:46.62 ID:hDl2vM4N0

【本日もお休み……】

【遅くなっても、明日には絶体に書き上げた分はやります】

587 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/17(金) 22:50:53.24 ID:0htsvtl90

【ちょっとだけ。再開……】


588 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/17(金) 22:57:37.33 ID:0htsvtl90

【ちょっとだけ。再開……】


589 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/17(金) 23:01:16.17 ID:0htsvtl90




二つの戦闘が行われている中、ここでも一つの戦闘が起こる
いや……これはもう戦いですら無い。ルシフェルは一方的に蹂躙されるだけ

「不純物を取り除き、純粋な魔力を抽出する。そうして得た無色の魔力を放っている……」
「……これが、エーデルワイスの魔術!」

手に振るう斧で魔力を弾き返す。が、それは天に座すシュヴァルツには届かない
桁も次元もまるで違う相手。それは風車に木の棒で挑むが如き徒労は精神も削り取っていく


「何も話さない。か……貴様にとって、我々は塵芥にすら劣る存在なのだろう」
「だから……だからこそ、私は、貴様らエーデルワイスを許さない!許してなるものか……ッ!」

ズタズタの姿になりながらも、斧を握りしめる手は強く、瞳は燃える
それでもシュヴァルツの光は尚も強く。天使の如く輝く羽が、ルシフェルに殺到する

「……言葉すら無いか。貴様にとっては、我々も犠牲の一つでしかないんだろう」
「その果てに手に入れる愛に、どれだけの価値があると言うんだ──!!」



その問いに答えは無い。あまりにも圧倒的な力の差にひれ伏す間も無く突き刺した

590 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/17(金) 23:08:38.61 ID:0htsvtl90





「………………無様、だなぁ」
「あれだけ、啖呵を切ったのに……ドミトリイ様に、申し訳無い……」
「メリッサも……ごめ、ん……」

意識も朦朧としながらも、辛うじて命だけは手放さずにすんだのは幸運か
しかし、今も戦っているであろう二人の仲間に対する、自分の不甲斐なさ

異物である自らの血を、受け入れてくれたガイスロギヴァテスへの無念が燻る
何も出来ずに蹂躙される。その弱さが憎らしい

「く、う、ぅ……!」

歯噛みするルシフェルを余所に、シュヴァルツは光を束に、編んでいく
槍の様に纏められた光は、ルシフェルに狙いを定め矛先を向ける。その引導を渡さんと切先は煌めき



「させるかーーーっ!!!」
「なっ……!?」



突如、帆船の強烈なラムアタックが激突する

さしもの翔んでいたシュヴァルツもこの勢いには耐えきれず、たまらずその身を地に落とす

ルシフェルには見覚えがあった。その帆船の持ち主である英霊は、かつて自分が殺そうとしたエーデルワイスの……



「良かった。まだ死んでない……!セイバー、後はお願い!」

「わかった。ここは僕に任せてくれ!」



591 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/17(金) 23:17:26.19 ID:0htsvtl90





「……何故、だ」
「私は、貴様らを許さない……例え、命を救われたとしてもだ!」

「なのに、何故私を助けた……エーデルワイスの小娘!」

怒気を含んだ声で、目の前の少女に問いかける
自分が殺したい程憎んだ相手に命を救われる。身を焼く屈辱に苛まれる

けれども、少女……アーディーの顔はどこか晴れやかで。まるで何かが吹っ切れた様な顔つきで宣言した


「……正直、どうしてそっちが私を殺そうとするのかはわからないよ」

「けど、これだけは断言出来る!誰かを傷つけてまで好きな人と結ばれても駄目だって!」

「天使だって、そんな風に好かれても嫌だって言うはずだよ……当主様!」


啖呵を切ったその後ろ姿は、小柄なのにやけに広く見えた
天使、ひいては当主への反逆。エーデルワイスの性質を考えれば、決してあり得ない出来事

「……自分が何を言ってるのか、わかっているんだな?」
「勿論!何回だって言ってみせるよ」

「犠牲の出してまで天使を呼んだって、きっと来るはずないんだ!」

シュヴァルツは絶体に許さない。英霊が味方にいるとはいえ、半端な覚悟では発言すら出来やしない
それでも、彼女は言ったのだ。“天使はそんな事を望んではいない”と




592 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/17(金) 23:20:10.24 ID:0htsvtl90




「……ふ、ざ、けるな…………」
「お前ごときが、我が天使探索の歴史を踏みにじるつもりか……!」

地の底を這いずる様な怨嗟の声が響く。地獄の淵から鳴らすかのように
天にて俯瞰していたシュヴァルツは、今や地に伏せていた

「当主様、聞いてください!私は」
「黙れ!その背信は万死に値する、命を以て礎となるがいい。失敗作が!」
「……そうか。貴様の性根は、あの時から……」


「マスター!幾ら多数を犠牲にしたとはいえ、あれだけの魔力を持てるかは疑問だった」
「恐らくは奴の魔術によるものだろう。ヴィオレの魔力と融合し、一体化している!」

セイバーの言葉に頷くアーディー。そこに怯えは無く。ただ使命だけが

「……助けられる?」
「一つだけ方法がある。……しかし、僕だけでは少し難しい」
「わかった!手伝うよ、セイバー!」


「……私も、協力しよう」
「えっ……!?」
「驚く程でも無いだろう?奴は私の、仇でもある……!」

驚嘆の声を挙げる二人。それもそのはずだ。ルシフェルは幾度と無く、命を狙ってきた……


「行くぞ……先程の言葉に、偽りは無いな?」
「……何度でも言うって言ったでしょ!」

並び立つアーディーとルシフェル。殺し、殺されるだけの関係が、少しだけ変化する
ここでも一つ、奇妙な共同戦線が組まれたのだった



593 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/17(金) 23:21:55.99 ID:0htsvtl90

【本日これだけ。すまない……本当にすまない……】

594 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/17(金) 23:25:40.11 ID:WgxYPWPZO
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/18(土) 19:18:42.41 ID:7QxAtw9+o
乙です
投下遅めなのは気にならない(早いと追いつけないので)
息抜きのサーヴァント作成とかも含めて全体的に遅いけど、詰まってる感じではなくて順調なペースだとは思いますよ
596 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/24(金) 23:45:00.00 ID:GX2zTo7+0

【ひっそり更新】

【本当はもうちょい書き貯める予定でしたが、キリよさげなので先に】

597 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/24(金) 23:45:42.68 ID:GX2zTo7+0




天を我が物顔で支配していた瞬間とは違い、地に落ちたシュヴァルツはやけに饒舌だ

恐らくはアーディー……支配していた筈の人間に反旗を翻された事。怒りが誇りを凌駕したのだろう
その顔は遠巻きに見ても怒りに満ちていて。此方を殺す事に全力を注いでいた


「……それで、どうやって助けるの!?」
「話は後だ!来るぞ、二人とも!」

絨毯爆撃もかくやの魔力の波が三人を襲う。人間の二人はともかく英霊相手には分が悪い
特に、セイバーの所有する対魔力は魔術師殺しとすら呼べるスキル。驚異であると判断したのだろう


「だからってこれは……!くっ!」
「貴様、もしやその身に禍門の呪いを……!」
「ああもう!同級生の癖に手加減とかしてくれないんだからーーーっ!」

セイバーとルシフェルが切り払い、遮二無二に突き進む
時折アーディーは倒れそうになるものの、その手をルシフェルが引き、戻す

「っとと!ありがと……!」
「けど、どうして……?アンタにとって、私は」
「……それは」


彼女にしては珍しく口ごもり、目を反らす。傍目に見てもその顔は複雑そうで
聞いたアーディーは申し訳なさそうに、謝るしか無かったのだった

「……ゴメン」
「いや、いい……。……行くぞ!」


598 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/24(金) 23:46:46.76 ID:GX2zTo7+0




「……くっ!」
「フラァアアアあアア!ンンンンン!!」

フランシーヌが相手の時は“やや優勢”だった。しかし相手が変わると途端に“互角”になる
クリスティーナとデカルト。二人の実力はほぼ拮抗していると言ってもいい
宝具を開帳してもなお、師であるデカルトには及ばない。寧ろ、その差を埋めているだけでも上等だろう

「流石だ……剣の達人とは聞いていたが……」
「狂化を受け入れても剣筋が鈍らないとは、正気であればどれ程……っ!」
「お父様に近付くなぁあああ!!」

だが、クリスティーナの敵は一人ではない。横入りしてきた剣をいなし、距離を離す

「お前のせいでお父様は……お父様は」
「フラン、そいつのせい!フラン、離れ離れになった!全部、全部、全部!」
「……それは」

師匠から突きつけられる言葉は、それだけで彼女の心を抉りとる
何も間違った事はない。死の原因が誰にあると言われれば、間違いなく自分であろうから


「……だが、私は逃げるつもりはない」
「貴方との出会いを否定したくない。それが、私のエゴだとしても!」

それでも、彼女は折れない。どこまでも自分の為に剣を執る
自分の生き様に、間違いなんて無い。そう断言して、二人と切り結ぶ

彼女の生き方……誰よりも自由に、誰よりも破天荒に突き進んだその道を示すかの様に


599 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/24(金) 23:47:53.69 ID:GX2zTo7+0




「……凄え」

セイバー達とシュヴァルツの攻防を、影に隠れて観察する者が一人
青年、鹿黒はひっそりと。ヴィオレの感覚だけを頼りにここまで辿り着いたのだった

「こんな、バケモノ達と争うかもしれなかったのか……」

光の暴威を裂き行く剣。絶対的な波にすら立ち向かうその姿に、否が応でも目が奪われる

「それなのに、俺は……ヴィオレ、俺は……」

自分は何も出来ない。英霊との契約も、ああして身一つで戦う力すら持っていない
何も出来ない自分が悔しい。少しも力になれないもどかしさが苦しい程にのしかかる

「どうすれば、いいかな、ヴィオレ……」

問いかけた先にいるのは愛するものではなく。それを取り込んだ悪魔の姿が
神々しく嫌悪感すら覚えるその清廉な姿。自然と震えがカタカタと隆起する

怯えている……その事実が、如実に自分に突きつけられていた



「くそ……クソっ、ちくしょう……!」
「何か、何か出来る事は無いのか……!」



600 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/24(金) 23:48:51.83 ID:GX2zTo7+0





「……私は、天使に全てを奪われた」
「私が物心ついた時には、既に我が家は全てが失くなっていた」
「……え?」
「昔話だ。……少し、付き合ってくれ」

魔術の海を掻い潜りながら、ルシフェルは話す
突然の言葉に驚きを隠せない。……が、不思議と聞き流そうとは思えなかった

「人生の全てを復讐に捧げた。如何なる犠牲を払ってでも、奴を滅ぼすと誓ったのだ」
「その過程で、名を失い、兄妹を失い、私の夢も失った……」

「……本当は、戦いなんてしたくはなかった。斧よりもペンを持ち、研究していたかった!」
「我が真名は……“エーデルワイス”。かつて同門だった一族の末裔なんだ……よっ!」
「………………っ!」


叫びと共に、一際大きく斧を振るって魔力の渦を断ち切る
怒りを向けても戻れない。やるせなさと憤怒に満ちた一撃は、一際大きな穴を穿つ
……


 ◆地獄の炎
 後天的に与えられた火の魔術属性の行使。
 エーデルワイス家から追放された一族の復讐の炎の具現であり、本来は持たない魔術属性の使用は彼女自身をも焼く。
 火と風の二重属性を扱うことで魔術の幅と破壊力が増し、彼女は『天使に恋した一族』を無に帰す劫火となる。



「……その言葉で、確信したよ」
「やっぱり……この家は間違ってる。この場で元に戻さなきゃダメなんだ!」

走る。当主にむけて、全力疾走で駆け抜ける
その隣にはセイバーが。既に活路を見出だしたのか、その顔には余裕すら浮かんでいた




601 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/24(金) 23:51:01.80 ID:GX2zTo7+0




「……セイバー!お願い!」
「承知した。……彼女に、伝えておいてくれ」

正面に、自らの担う聖剣を構える
絶世の名剣、デュランダル。王勇を示す輝剣、ジョワユースと同等の製法で鍛え上げられた王家の宝剣

かの円卓の騎士も所有していたとされるその剣は、眩いばかりの光を放って

「自分らしく生きる事。もう君は、天使に呪われる事は無いだろう」
「……僕にも、生きたい道があった。それはもう叶わないけれど」
「せめて、応援だけはさせてほしい……君の航路に光あれと!」


その刀身に鋒は無い。その理由は、奇しくも……


「“無益な殺戮を防ぐ為、天使にて折られたこの剣。今こそがその妄念を断つ時である!”」
「“汝がマスター、アーディー・エーデルワイスが令呪を以て命ずる!”」


「“この家を、エーデルワイスを!その聖剣で正して!セイバーっ!”」
「“輝け、無峰の宝剣よ。此処にその名を示し、正道へと導いてくれ───っ!”」




「「“剣先無き慈悲の剣(カーテナ)ーーー!!!”」」

振り下ろされた剣に峰は無い。はずなのに、シュヴァルツはその軌跡に呑まれる様に
慈悲の剣が、偽りの天使を両断する。その責務を果たすかの様に……


602 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/07/24(金) 23:51:37.61 ID:GX2zTo7+0

【本日ここまで】

【次回はクリスティーナVSデカルトの決着をメインにする予定】

603 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/07/25(土) 00:37:25.69 ID:1cYQ5Ph4O
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [age]:2020/07/30(木) 21:12:29.56 ID:aQwp8CCiO
前回大反響を呼んだ
戦争略奪ゲーム「RUST」実況再び。

加藤純一(うんこちゃん) Youtubelive

Steam/オープンワールドMMOFPS
『RUST』シーズン4 Part3

『RUSTにて敵の拠点を潰す。』
(20:42〜放送開始)

://youtube.com/watch?v=QP57i_z-GKA
605 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:27:40.92 ID:Jz4NUtEI0

【それでは再開……】

606 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:29:14.49 ID:Jz4NUtEI0





「…………ガ」



慈悲の斬撃が身体を裂く。凄烈な様で柔らかな一撃は、真っ二つにその身を別つ

痛みはなく、流血もない。セイバーの持つ無峰の聖剣は、寸分も違わずヴィオレとシュヴァルツを分離してみせた

飛び散る血飛沫は透明で。キラキラと空に、花弁のように反射する

それは、あの時の。そうだ、あれは確かに──



「いた、んだ……」
「いたんだ。確かにそこにいたんだ!話したんだ。一言でも、いや、もっと少ないかもしれないけれど……」

「それでも、オレは確かに会ったんだ。貴女に、天使に───!」




「気持ちがわからねえとは言わねえ。けれどよお、手前の恋なら手前で叶えるべきだろう」
「子孫共々巻き込むのはダメだろ?そんな情けねえ男に、天使なんか振り向かねえよ!ひゃっひゃひゃひゃ!」

「……クソッタレ。テメェかよ」
「よう。泣きっ面見に来たぜ。……あばよ」

招福の声は届いたのか、倒れ伏す男は苦々しげに顔を歪め
しかし、それもほんの数秒。瞬きの間に、その姿は虚空へと消え去っていた



「……終わった、のか」

「ああ。ま、片思いの末路なんか面白くも何ともねえよ。……お疲れだったな。ルシフェル」



607 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:30:32.37 ID:Jz4NUtEI0


「ヴィオレーーーっ!!」
「!?君は……」
「きゅ!きゅい!」

シュヴァルツとヴィオレが分離した瞬間、木陰から青年が走り寄る
当然出てきた青年に面食らいながらも、青年はヴィオレを抱き撫でる

「生きてた……!ごめん、ごめん……!」
「きゅう……きゅ!」
「もしかして、貴方がこの子の飼い主さん?」

駆け寄ってきた青年にアーディーは訪ねる
青年、鹿黒は若干不機嫌そうになりながらも、素直に答えた

「そう、だけど」
「お願い……!バーサーカーを止めて!センパイが、今戦ってるの……!」
「な、そんな事出来る訳ないだろ!」


「お願い!センパイのバーサーカー達が精一杯戦ってくれたから助けられたんだよ!」
「けど私じゃどうする事も出来ないんだ、もう貴方にしか頼めないんだ!」

「……あいつが…………?」
「え、知ってるの?」

林道が紹介した青年の顔が脳裏によぎる
彼の言葉や表情を思い出す。そこに嘘や偽りがあっただろうか


「……ヴィオレを、助けようとしたんだな」
「どうしようか?……どうしたほうがいい?」






608 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:32:07.24 ID:Jz4NUtEI0



「きゅ!きゅきゅい!」
「……でも、それだと俺達は」
「きゅい!きゅーいっ!」

悩む鹿黒を後押しする様に鳴くヴィオレ
それを聞き覚悟を決めたのか、鹿黒の目からは強い意思が


「……わかったよ。それが本当に正しいかはわからないけど」
「アイツが助けるって言ったんだ。俺も少しはやれる……はずだから」
「きゅーっ!」


鹿黒の言葉に合わせて、ひときわ高く鳴くヴィオレ。そのちいさな身体から、赤い魔力の奔流が迸る。
光は天に伸び、そのまま遥か遠くに……



「センパイ、本当に色々な人を動かしてるんだな……意識してるかわからないけどさ」
「でも、だからこそ。私は、センパイが……」



「…………大好き。なんだ、えへへ」

その呟きは風に消える。隔離された世界に届けと願うように


609 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:33:16.00 ID:Jz4NUtEI0




「くっ……!」
「フラン、殺した!フラン、奪った!」
「お父様……よくも、お父様を……っ!」


「クリスティーナ……」

一陣の風が世界に吹く。師弟と娘は剣を重ね、周囲に火花を散らしていく
貴方の目の前で奮戦するも、その力は徐々に圧されているようにみえた
宝具を開帳しても尚、その実力は拮抗する。理由の大きな要因は、デカルトの固有結界だろう

「……私まで否定するのですか。貴方は!」
「ファァアァアア!!ラァアアン!」

「貴方との語らい全てが私の道となった!私は無駄にしたくない!」
「フランフランフランフラン!!」

「目を覚まさせてやる……!デカルト!」
「フラーーーン!!!」



叫び、ぶつかる。意志はクリスティーナに部があるが、力は狂化故かデカルトが勝る
そして敵は一人ではない。拮抗した所にフランシーヌが割り込み、趨勢を相手に傾ける

「お父様を悲しませる奴は許さない……例え、愛弟子だろうと!」
「フゥゥウウウ……ラァアアアア!!」


フランシーヌに圧され、体勢を僅かに崩す
その隙にを突きデカルトは剣をクリスティーナの身体に斬りかかる





610 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:34:46.01 ID:Jz4NUtEI0












「───“令呪を全て以て命ずる”」
「“ランサーよ。限界を超えた出力で宝具を開帳する事を命じ……”」

「“ルネ・デカルト。及びフランシーヌ人形のみを狙い、穿て!”」


そこを、赤熱の横槍が通過する。デカルトとフランシーヌの身体を突き破りながら


611 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:36:03.21 ID:Jz4NUtEI0




「……これで良かったのか?ランサー」
「上等よ。あのムカつく女王様に一泡吹かせられ、あの爺を吹っ飛ばせる。最高じゃない」

「だが、フランシーヌ人形を構成している肉体の大半は貴様の身体だ」
「人形を吹き飛ばすとは、即ち……」
「それ以上言うんじゃないわよ。ドミトリイ」


言葉通り、ランサーの身体は光の粒子となってほどけていく
元々身体を大半を奪い取られていた上に、限界以上に魔力を引き出し、その肉体を自ら粉々に砕いたのだから

「これはアタシがやりたかった事。それ聞いてアンタ否定しなかったじゃない」
「聖杯戦争から敗退しろって言うようなモノなのによ?普通なら断るでしょう」
「…………それは」

サングラスの中の瞳が揺れる。戸惑う様に目を反らし……ランサーに向き直る


「少しくらい、外れてみてもいいと思ってな」
「ハッ、あのガキが気に入らないのもそれが理由なんでしょ?」
「……まあ、な」

「ま、案外楽しかったわよ。結果はともかく、好きに暴れられたしね……」



それだけで。言い残しは終わりとばかりに音もなく光は霧散する
残されたドミトリイはどう言い訳しようか。と苦笑し、サングラスをポケットにしまった




612 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:37:11.42 ID:Jz4NUtEI0




「あ、ああ。あああ……!」
「師匠……師匠!目を開けてください!」

倒れ伏すデカルトをお越し揺さぶる
クリスティーナの目の前には、腹から空いた穴に焦げた異臭を放つ老人の姿が

フランシーヌは既に、その身を四散させ木っ端微塵に散らばっていた


「嘘だ。私は貴方と決着をつけたかった。なのに……ランサー!」
「もう止めよう、クリスティーナ……多分、それよりも師匠さんの方を……」
「ふざけるな!これではもう……いや、私が倒すつもりではあったが!」

「これでは、悔やむに悔やみきれない……!」

ポタポタと、握った掌に涙が落ちる。その理由は師を狂気から救えなかった事だろうか?
いや、そんな殊勝な理由では無いだろう。自らの道を歩けなかった。それが堪らなく悔しいのだろう





「……ああ、それでこそ君だ。誰よりも自由に、誰よりも学を探求した女よ」
「な……その、声は」



「……目が覚めたよ。クリスティーナ。私の教えた最高の弟子よ」
「我が師、デカルト……!」



613 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:39:12.26 ID:Jz4NUtEI0




心優しい、暖かな光のような声
デカルトの表情は、苦痛に歪みつつも晴れやかに。まるで憑き物が堕ちた様に澄んでいた


「な、大丈夫……なんですか。もうその傷じゃ」
「フランシーヌさ。フランシーヌが私に、少しだけ話す時間をくれた……この場は私の心に近い場所だからね」

言われて気付く。世界に張り巡らされた歯車は落ち、数式は透き通り消えていく
残されたものは仄かな光……漠然と、それでいて確固たる意志だけが空に灯されていた


「さて……君に講義はもう要らないだろう。まずは礼を。ありがとう」
「そそそ、そんな!私は一介の弟子として当然の事をしたまでで!」
「倒す気だったって言ってたじゃないか……」


「ああ、それと。私が君を恨んでいたというのは嘘ではない」
「…………っ」

そう呟く言葉に身体を固めるクリスティーナ
しかし、それを見たデカルトはふっと微笑みながら訂正を


「しかし、それは本当に……狂気に犯されねば発露し得ない程の、微かな感情だ」

「私は君に、ある種の敬意を抱いている。国に反発されようと、君に心配されようと、渡航の時期を早めたのも……」

「全ては君の為。私の全てを、君に教えたくなったからさ」

「そう、だったのですか……」



614 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:39:40.11 ID:Jz4NUtEI0







「……行きなさい。クリスティーナ」

「君に必要なのは言葉ではないだろう?何をすべきかは、既に理解しているはずだ」

「進め!自らを征し世界を股に駆けたバロックの女王よ。その道に満足がある事を!」

「ささやかながら応援しよう。……さらば!」




デカルトからの激励が世界を、心を震わす
哲学を極めた賢人からのエールは、世界そのものからの祝福に等しい
クリスティーナ、そして貴方もその言葉を噛み締める。


「あの……ありがとう、ございました」
「……はい、それでは行きます。……師よ」


「……さようなら。やっと、言えましたね……」


世界が解れて、光の先に消えていく
二人は共に、世界が崩れるまでのその様を目に焼き付けていた



615 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/02(日) 20:42:09.92 ID:Jz4NUtEI0

【本日はここまで】

【次回は禍門VSアサシンを描写する予定です】



616 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/02(日) 21:03:58.80 ID:hyjvKXFNO
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/02(日) 22:01:11.11 ID:qPDIYUlg0

師弟の決着がランサーのものになるのは予想外だった、gj
618 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/08/11(火) 22:12:43.61 ID:RQSi7VJ40

【しばらく、こちらで反応しなくて申し訳ございません】

【お盆休み中には更新するつもりです。それまでもう少しだけ……必ず……!】

619 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/14(金) 22:30:07.96 ID:pniPS3Bg0

【なんとかお盆中には間に合った。明日夜7時に更新します】


620 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:06:06.01 ID:nJa2KyxX0

【それでは更新】

【安価がないのでゆっくり進めていきます…】

621 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:06:52.40 ID:nJa2KyxX0




「フッ!ハッ!でぇやぁあ!!」
「どうした!?狙いが逸れているぞ!」
「ムチャ言うんじゃねー!相手が小さ過ぎるんだよ!」

「キャスター。何とか出来ないのか?」
「ちょっとどうにも出来ない!ボクの魔術ってそういうの専門外だから!」


ひらりひらりと暖簾に腕押し。アーチャーの重厚な拳や蹴りは、風船の様にすり抜ける
嘲笑う様に周りを飛び回るアサシンは、小刻みにアーチャーを切りつけるが無傷のようで

「やりにくいわ。カツンカツンって、まるで鉄を突っついているみたい」
「そりゃそうだろ!オメーみたいなチャチな鎌で殺られる程、オレは雑魚じゃねーっての!」

「……言うまでもないけど、あいつボクじゃどうやっても勝てないんだよね」
「そうだろうな。あれは神代の守護兵器。お前が壊せたらどうしようかと思ってたぞ」

マリアの言葉に複雑そうな顔を浮かべる。その顔を見てか見ずか、前に躍り出る

「……では、キャスター。私はマスターを狩りにいくとしようか」
「はいはーい。……って、ならボクはどうすればいいの!?」
「私の補佐に回ってくれ。何、禍門の集も理解してくれるさ」
「本当かなぁ……」

困惑しつつも、死徒へと走りよるマリア
ため息をつくキャスターの前で、此方での死闘も佳境へと差し掛かろうとしていた



622 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:07:47.33 ID:nJa2KyxX0



「……お父さん」
「何だ、アキラ!俺も今は手が……」

「アーチャーの、宝具の使用許可を。あれならば、アサシンを一撃で」
「駄目だ、規模が大き過ぎる!ここで宝具を開帳してしまえば街にも被害が起きる!」
「け、けど。アサシンの宝具の方が、被害が大きくなる……と、思う、デス」

憂午とアキラの譲らぬ意見は平行線を辿るだけ
未だ明確な着地点の見えない議論は、戦闘にも現れていた

「クソーっ!チクショーっ!せめて槍か犬がいてくれりゃあなあああ!!」
「犬?槍?物騒なお仲間がいるのね。機械人形さんには」
「オレは機械なんかじゃねーヨ!こう見えてもなぁぁーっ!」


アサシンからの煽りを受けて、アーチャーの拳が激しく唸る
だが、その結果は先程と同じ。ふわりと軽く舞い上がり、難なくその手を回避する


「だぁあああ!!何なんだよテメェ!」
「さっきからひょいひょい逃げ回ってよぉ!勝つ気あんのかテメェらはよぉ!ええ!?」

「もちろんよ。私達は動かなくてもいいの」
「だって、勝手に進んでくれるもの。焦る必要なんてないんだから」



623 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:08:48.49 ID:nJa2KyxX0




「……ガ、ぐ、おぉおお……!」
「苦しいならもう止めておけ。今なら痛みだけは与えないと約束するぞ」
「何故……何故、何故!俺は、ただ……」


「生きたいだけ。なんて言える訳ないだろう」
「それだけで無数の人間に害を為す、お前は害獣と同じだ」

「違、違……俺は」
「同じだ……よ!」

心臓喰らいとマリアが交錯する
醜悪な肉の鞭と化した肉体にも怯まず。マリアの腕は無慈悲に貫く
幾ら吸血鬼と言えども、本来ならば貫いた腕もただでは済まない……


「そこでボクの出番ってワケ!エンチャントは得意中の得意だもんねー!」

マリアの両腕には風が渦巻き、手甲の様に形を為す
下級の宝具にも等しい威力。キャスターの施したエンチャントは、死徒の肉塊すらも穿つ


 ◆エンチャント:EX
  概念付与。本来は作家や脚本家たちの所有するスキル、
  ……であるが、最古の語り部にして神官たるキャスターが
  紡ぐ言葉はそれ自体が比べ物にならないほどの魔力を帯びている。
  キャスターの場合、自然事象を宝具に変化させ強力な機能を追加する。



624 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:09:55.10 ID:nJa2KyxX0





「……ゲホッ!ガッ!」
「わー。メリッサちゃん、大丈夫ー?」
「そんな、訳……ぐうぅ……!」

所変わって禍門邸。そこには横たわる少女と、それを遠巻きに眺める少女が
アサシンの影響下にあるメリッサを残った千呼が看病していた
と言っても、相手は英霊。何が起きるかわからない為、結界越しに話しかける程度だが


「ねえねえ、メリッサちゃんってさ、兄弟とかいるの?」
「今、そんな事を話してる余裕が……!」
「わくわく、わくわく」

此方の具合は完全に無視。千呼はキラキラと目を輝かせて答えを待つ
……感情を出したからか、少しだけ熱が引いた気がする。拒絶した所でまた来るのだろう
そう考えたら今話した方がいい。諦めた様に口を開く


「……兄と姉が一人。弟が一人、妹が二人」
「わ!びっくりする程いっぱいだ!でも魔術師の家で兄弟が多くていいの?」
「魔術師になるのは一人だけだ。他の兄弟は傭兵としての道を歩くはず」
「ほへー凄ーい」 「……聞いてたのか?」

あんまりにも呑気な返答。緊張感の欠片もない
思わず身構えたメリッサも毒気を抜かれて呆気にとられる


「でもいいなー。仲いいんでしょ?」
「……仲が悪いのか?そうは見えないが」

「うーん。悪いって言うか、何て言えばいいんだろう」
「アキラちゃん、私に心を開いてくれないって言うのかな。なんか壁があるみたい」


ぽつりと呟く千呼の顔は、普段の底抜けの明るさではなく姉としての表情を映す
妹は好きだ。だけど、その妹は自分の事をどう感じているのかがわからない……





625 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:10:57.58 ID:nJa2KyxX0




「……殴り合う、しかない」
「え?殴るの?アキラちゃんを?」

メリッサからの突飛な提案に、目を白黒させる
対して提案した本人は、千呼のその態度に怪訝な顔を浮かべて


「おかしい?互いの本音をぶつけ合うには最も有効な手段だと思うけど」
「私も弟相手によくやる。特にニンジンを誰が食べるか決める時には」
「ニンジン……嫌いなの?」


拳を固めて天を睨む。その仕草は勇ましいが、言ってる事は何とも可愛らしい
そのギャップに千呼も脱力したのか、あははと笑いながら手を叩いた

「うん……ありがと!今度、アキラちゃんとしっかり話し合おっかな」
「メリッサちゃんも、早く良くなってね!」
「……どうすれば?」


話して満足したのか、アキラとどう向き合うか決めたのか
パタパタと嬉しげに去っていく千呼をメリッサはただ見ている事しか出来ず


「……ふぅ。面倒な奴だった」
「けど、身体が軽くなった?……まさか」

目を閉じ、身体の力を抜いていく。
すぐに闇が包み込み、意識は遠くに消えていくのだった



626 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:11:42.04 ID:nJa2KyxX0




マスター同士の激戦の横で、徐々に状況は動いていく
心臓喰らいが追い込まれる裏、令呪の力も切れてきたのか回避しきれず掠めてくる
補助に回ろうにも、二騎の英霊がそれを許す筈もなく。アサシンは今、窮地に立たされていた


「……ねえ。貴方達はどうして死んだの?」
「ああ?そんなの聞いてどうすんだ。弱点でも突こうってか!?」
「答える必要は無い……よねっ!」

ふいに、アサシンから唐突に問い掛けられる
勿論二騎は聞く耳を持たず、熾烈な攻撃の手を緩めない

「どうして戦うの?死ねば楽になるのに、死ねば何も考えなくてもいいのに」
「また後悔するだけなのに、辛い思いをするだけなのに、戦う必要があるのかしら?」


それでも、話は勝手に進めていく。ひらり、ひらりといなす様に
まるで答えを掴ませないかのように、アサシンの言葉はふわふわと


「だーーーウッゼェ!何で戦うのかだとぉ?」
「んなもん、オレがくたばってから後悔する事が出来たからに決まってんだろうがぁーー!」

だが、アーチャーが言葉をを打ち貫く。豪放な声が響き、伸ばした腕は遂に少女を掌握する
掌の中に囚われたアサシンは、尚も動じた様子は無く。平然と兵器の瞳を直視していた




627 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:12:40.95 ID:nJa2KyxX0






───“勝手に産みやがったのに、その癖勝手に殺すだと?”

───“舐めてんじゃねえぞ。人類を!”



「……何も、残せなかった」

脳裏に過るのは、怒りに燃えた人間だった頃



──“皮は青銅に、血潮は灼熱に。許容量を超えるならば、その都度肉体の拡張を”

──“魂は不要である。人格は不要である。ただ兵器として最善であればよい”



「……何も、残せなかった」

脳裏に過るのは、神に肉体を奪われた頃



──“くぅ、くぅ……あら?貴方は?私のお友達になってくれるの?”

──“貴方は頑張りやさんですね。よしよし。アメは……食べられない?”

──“では……よしよし。ふふふ。また肩に伸せて、日向ぼっこをしましょう”



「……何も、残せなかった……!」

脳裏に過るのは、ある女性と暮らしてきた頃

憤怒に、絶望に満ちていた記憶でなく。穏やかな日向の様に安らぎに満ちた平穏な頃
だが……それも、残せなかった。残したかった姫すらも、最古の略奪船によって奪われた



628 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:14:22.74 ID:nJa2KyxX0





──“クソっ、何だあのデカブツは!?”

──“あんな奴ヘラクレスさえいれば……おい船を壊すつもりか!?距離を取れ!”

──“ハッ、ケツ捲って逃げるつもりか?情けねえ。ヘラクレスがいなきゃ何も倒せねえか!”



──“黙ってろ!ええいアスクレピオス、奴に弱点はないのか弱点は!”

──“何だ、患者か?……おい、僕を医療行為以外で呼ぶなとあれ”

──“ならさっさと答えろ!一番人間の身体に詳しいのはお前だ。なんでもいいから何か弱点を思いつけ!”

──“……なんだ、青銅人か。機械の身体に興味はないな。しかも神の血が流れている”




──“なら、それを抜けば機能を停止するかもしれませんね。それなら私でも出来そうです”

──“ほう?可愛い可愛いメディア。君があの超巨大怪人を、私の為に潰してくれるんだね?”

──“は、はい!……そーれ。眠くなーれ、眠くなーれ……”




629 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:15:12.79 ID:nJa2KyxX0





「……今思い出してもムカつくぜ。あのクソ野郎共にも復讐してえけど」
「けれどよお!それよりもムカつくのはよお!守れなかったオレ自身なんだよ!!」

業火の如く。叫ぶ声は地の底から吹き出す溶岩すら凌駕する熱量を持って

「眠らされたのも許す。弱点をブチ抜いたのも構わねえ。けど、けれど……」


「あの姫様を奪った事だけは!絶対に許さねえええええええ!!!!!」


アーチャーの燻る怒りは、遂に臨界点を迎る
身体は真紅に燃え盛り、熱は離れている憂午やアキラの肌すらも焼いていて


「だから……オレは聖杯を獲る!誰を蹴落とそうが、誰をブチ殺そうが!」
「あの姫様を救う為に……オレは戦う!死んでも死にきれねえんだからなあぁあああ!!!」

掌から炎が……否、神の血潮が吹き上がる
超高温の紅蓮がアサシンを包み込む。その矮躯は容易く灰となって消えていく……



「……“神の血潮を焚きつけろ(イーコール・タロス)”」
「マジムカつくゼ。神の力を使っちまうとはな」




630 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/15(土) 19:15:51.75 ID:nJa2KyxX0

【本日はここまで】

【VSアサシンは、もうちょっとだけ続くんじゃ】

631 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/15(土) 19:16:01.41 ID:hSy4i4V4O
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/15(土) 23:10:44.41 ID:y3O6OSas0
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/17(月) 02:46:34.97 ID:TNuzPQVI0
634 : ◆6QF2c0WenUEY [sage]:2020/08/23(日) 22:49:11.14 ID:zz6QB8os0

【すみません。今日はお休み…】

【三日以内、三日以内には絶対にまとめます……!】


635 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:04:59.21 ID:ykIm7mR10

【それでは、再開していきます……】

636 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:07:41.37 ID:ykIm7mR10




パチパチ、パチパチと空気が焼ける音が響く
アーチャーの周囲は瞬時に焦げ付き、踏み締める大地は赤熱して溶けかける
マスターであるアキラですらも、咄嗟に魔術による耐熱を施さねば危険だっただろう

「これで終わりだ。諦めろ、心臓喰らい」
「あ、あぁ……あさ、シン」

そして、アサシンが消滅した事により完全に無防備となった心臓喰らい
最早、誰もその足を阻む者はいない。一歩一歩を慎重に踏み込んでいく……


「……悪く思ってくれ。人を害する死徒を滅ぼすのが私の仕事だからな」


『ええ、思う存分悪く思うわ。貴女のせいで、マスターが死んじゃうもの』


「……何?」
「この声は……!っ、『下がれ』!」

間一髪。いち早く反応した憂午の声が、マリアを強引に後退させた
先程までマリアがいた場所に突き刺さるのは、歪んだ形状の鎌の尖端……



「うぇ!?どういう事!?ちゃんと燃え尽きたはずじゃ……!?」
「んなバカな……!オレの手の中で、確かに潰したはずだろうが!」

誰もがその場を注視する。そこに立っていた者は、気配を遮断する事もなく存在していた





「……こんばんは。ついさっきぶりね」



637 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:08:25.25 ID:ykIm7mR10




ぺこり。と首を傾げる少女。その姿はとても愛らしくて
だが、どこか歪な印象を受ける。マリアはその少女の名を口にした

「アサシン……!」
「ふふ、どうしたのかしら?さっきまでここにいたじゃない」


アサシン。その身は握り潰され、超高温により灰となった少女がそこにいた
今、目の前でくすくすと愛らしく笑う姿と先程までの無惨な姿が重ならない
まるで何も無かったかの様に平然としている……

「成る程……“早すぎた埋葬”か」
「死亡誤認、仮死蘇生。それに関連した逸話を持つ英霊なら消滅しても復活出来るか……」

淡々と仮説を述べるマリア。それが正しいかを示すように、くすくすと笑う声が響く


 ◆早過ぎた埋葬:A
  死亡したと誤認され、生きながら墓に埋められたことから。
  死亡しても一度だけ、任意のタイミングでリレイズできる。
  死亡した時点で一旦マスターとのパスは断たれ、アサシンは消滅したと偽装される。
  但し火葬された場合、このスキルは発動できない。


「アーチャー!ちゃんと燃やしてよお!」
「だああ!あれ厳密には炎じゃねーんだよ!」
「ええいうるさい!来るぞ!」


ぎゃいぎゃいと騒ぐ視界の隅。舞い戻った少女は的確に首を狙い釜を振るう
その見た目とは裏腹に、俊敏な動きで的確にそれを回避する二騎

しかし、何故か先程の戦闘よりも力が発揮出来ていない
まるで土の中にいるかの様に、その動きは鈍重に、緩慢になっている





638 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:09:25.10 ID:ykIm7mR10





「ぐっ……!なんじゃこりゃあ!?」
「身体が重い〜〜〜!!」

「これ、は。お父さ、ん……?」
「重圧……?……!そうか、まさか、奴は!」

明らかに動きが鈍い二騎に疑問を抱く
アキラからの問いに何かを悟ったのか。憂午は悔しげに口を噛んだ
そしてアサシンは得意気に、嗜虐的に唇をつり上げて微笑んで……


「そうよ。私は“蘇った死者”。そして“生者を食らう吸血鬼”」
「なら、貴方達は?……決まってるじゃない。私に殺される、“哀れな被害者”でしょう?」


『霧夜の殺人』、というスキルが存在する

殺人鬼……命を奪う者という大前提。被害者の先に傷をつけられる加害者に与えられた特権

蘇った死者は、夜毎に人間を襲い、喰らう……。その法則は英霊といえど、否

英霊だからこそ、より鮮明に影響を受ける……


「……アサシンも、動きが、鋭く」
「それだけではない。アーチャーもキャスターも徐々に押され始めている……!」


639 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:10:26.00 ID:ykIm7mR10




……食人鬼に喰われるのは、必然的に弱い者

その絶対のルールは、例え神話の兵器であれ、巫女であれ従わねばならないもの
兵器で怪異は吹き飛ばせず、巫女の祈りは届かない。悪夢が此処に顕現していた


「クソッ!こんな奴にオレが負ける訳が……!」
「負けるわよ?貴方達は被害者。それは絶対に覆す事の出来ない真実」
「蘇った私に蹂躙される、可哀想にね。哀れに食い散らかされるの。当然ね」

アーチャーはアサシンの機敏な動きに翻弄され続ける。その度に身に付く傷は増えていって
幸い、キャスターは狙われていない。ちまちまと回復の魔術をかけて補佐しているが……

アサシンの猛攻は激しい。一時の気休めにしかなっていないのが現状だ


「うげぇ。冥界に帰ってくれないかナー」
「言ってる場合か馬鹿!何とかしろ!」
「何とかってどうするのさ!ボクのエンチャントは市街地では不向きなんだよう!」


マリアも心臓喰らいに近付き、先んじて始末を狙うものの、それすらアサシンに阻まれる
まるで身体を分かつかの様に。ひらひらと舞っては斬りかかり足を止めさせて

「う〜ん、う〜ん、う〜〜〜ん……」
「……あ!もしかしたら何とかなるかも!」


640 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:11:53.83 ID:ykIm7mR10




場違いな程に軽い、明るい声
怪訝そうな顔をする禍門の親子。マリアは頭を掴みながら、再度確認する

「……本当か?」
「うん。多分。きっと……」
「そのきっとはなんだ。ふざけるのは止めろ」

「いやイケるんだって!ただ、ちょっと……」
「ちょっと?」


「うーん……アーチャー。一度死んでくれる?」
「は?」


もごもごと口ごもるキャスターから、突然投げられたのは意味不明な内容だった
意味も理由もわからない問いかけ。必然、その視線は冷ややかなもので

「そんな目で見るのは止めてよ!ボクは真面目な話をしてるんだから!」
「いや意味わかんねーし。なんて?」
「だーかーらーいっぺん死んでみる?って……あ痛い痛い痛い!?」

「……いい加減その内容を話せ。さもなくば令呪で自害させるぞ」
「そこまで!?……わかったよ、もう!」


持てるありったけの魔力をかき集めて、周囲に撒き散らす
狙いも何もない雑な攻撃。アサシンもこれには一時的に引く他は無く

その隙に禍門の陣営は集合する。キャスターの考案した一発逆転の策を確認するべく……




641 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:12:19.57 ID:ykIm7mR10






「……ね?これなら何とかなりそうでしょ?」
「確かに、キャスターの推測が、正しければ」
「アサシンを何とかする事が出来る……か」

「だけどよぉ、リスクがデカ過ぎんだろ!下手すりゃここで全滅すんぞ!」
「エーデルワイスやバーサーカー。我々に味方する陣営はいるにはいるが……」

「彼等はまだ子供だ!彼等に責務を押し付ける事は出来ない!」
「……だよねえ」


語気を荒げる憂午に、知っていたと言いたげに肩を竦める
どうやら、禍門はキャスターの出した案を否定的に見ている
言葉には出さないが、却下だと言いたげに顔をしかめる憂午……だったのだが

「なら。私が、令呪を使います」
「最悪でも、復帰は出来る。アサシンを倒す事は可能……デス」

アーチャーのマスター、アキラが強く発言した
切り札である令呪を使用すると。かつての大人しい姿からは想像出来ない程ハッキリと

「アキラ。お前……」
「アーチャーも、それでいいデス」
「それでいいなんて一言も言ってねーだ……」
「アーチャー」「ハイ」


「……えーと、やっちゃっていいんだね?」
「ああ。禍門からの了承も得た、私の魔力もくれてやる」

「……“汝がマスター、マリアが令呪を以て命ずる”」
「“宝具を必ず成功させろ……いいな!”」「オッケー!任っかせといて!」


642 : ◆6QF2c0WenUEY [saga]:2020/08/25(火) 22:13:22.94 ID:ykIm7mR10




「……さて、それでは皆様お立ち会い!」

喧騒が引く頃合い。キャスターが跳ねる様に前に躍り出る
その手には円盤の様な……何らかの文字の刻まれた、白く滑らかな石の盤


「“此より語るは女神の賛歌。天に座したる優雅な女王よ、ボクの祈りを聞き届けたまえ!”」

「“戦の理すらもねじ曲げ、過去も未来も思うがまま!貴女の力を今ここに!”」

「“行くぞっ!『雪花石の奉納円環(ニン・メ・シャルラ)』!廻れ廻れ廻れ廻れーっ!”」


勢いよく、威勢よく。キャスターは円環を回し始める
グルグルグルグル、目にも止まらぬ速さで流転する石盤を、必死に制御していた
その度に火花が散り、石からは今にも壊れそうな、悲痛な悲鳴が聴こえていて……



「……ここだっ!とぉおぅっ!!」

しかし、それにも終わりが訪れる
キャスターが強引に円転を止め、石盤からは魔力が拡散していった




430.61 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報R 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)