【安価コンマ】貴方は世界を巡るようです　R-18巡目

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796 ：以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]：2020/08/01(土) 02:20:17.41 ID:ypHCDnnfO

むかしむかし

あるところにお父さんと、お母さんと、幼い女の子の竜が仲良く暮らしていました

竜はとても温厚な生き物です

好戦的な個体が産まれることもありますが、基本的に自分たちの縄張りから出ることはありません

長い時間を平和な神代で……いえ多少、神々の争いもありましたが、過ごした両親はとても温厚で優しく、娘も両親の言いつけを守る素直な良い子に育ちました

ある日、竜を専門に狩るハンターたちが住処にやってきました

ハンターたちは住処に踏み込もうとしますが、見えない何かに阻まれて先に進むことができません

竜好きの神代の魔術師が張った結界にはハンターたちもお手上げです

しかし彼らは歴戦のハンター、この程度のことは慣れっこです

住処の前で野営を始めました

お腹を空かせた竜たちが出てくるまで待つことにしたのです

両親は言いました

ここから出ては行けませんよ

素直で良い子な娘はうなずきました

結界の外に出た両親はハンターたちを追い払うために力を振るいました

797 ：以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]：2020/08/01(土) 02:25:15.66 ID:ypHCDnnfO

神々と神代の魔術師が去っていってしまったこの世界に、神代を生きた竜に勝てる生物は存在しないでしょう

油断があったのでしょうか、いいえ、娘を守る両親に油断はありません

縄張りから出ず、世間に疎い竜は、神代にはなかった未知なる兵器の前に膝をついてしまいました

目の前で両親が殺されそうになっても、娘は結界の外に出ることはありませんでした

歯を食いしばって、涙を流して、ときにはやめてと泣き叫んでも、ハンターたちは聞き入れることはありません

ハンターたちの野営はさらに続きました

幸いにも食料に困ることはありません

お肉の在庫はたくさんあります

日に日にやつれていく娘とは対照的に、ハンターたちは今日も今日とてどんちゃん騒ぎです

はやくでてこい　お肉があるぞ　最期の晩餐　食わせてやるぞ　お前を育てた　お肉があるぞ

娘はがりがりと、壁を食べ始めました

住処にあるものは何でも食べました

食べ物ではないそれらを食べました

空腹は満たされました

美味しくありませんでした

栄養になりませんでした

今日もハンターたちの笑い声が聞こえてきます

からからに乾いた身体から何かが出てくることはありません

がりがりに痩せ細った娘は、それでも両親の言いつけを守りました

798 ：以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]：2020/08/01(土) 02:30:41.12 ID:ypHCDnnfO

やがてぴくりとも動かなくなった娘を見たハンターたちはようやく諦めたのか、撤収を始めました

攻撃は通らないので、腹いせに、ハンターの一人が横たわる娘に向けて残飯を投げつけました

香ばしい肉の匂いです、娘はそれが何だったかも忘れてむしゃぶりつきました、久しぶりのまともなご飯に枯れたはずの涙があふれました

娘は結界の外を見ました、外には美味しいお肉がまだまだたくさんあります、しかし娘には両親の言いつけがあります


娘は“両親の言いつけ“を食べてしまいました


歴戦のハンターたちも、未知なる兵器も、転がっていたお肉も、住処での出来事も、何もかも食べました

竜好きの神代の魔術師が張った結界だけは食べられませんでしたが、そもそもそれが何だったのか彼女は覚えていません

何故かこの中に入れないな、でも中には何もないしいいかと、がらんどうになっているその場所に彼女は何の思い入れもありません

嫌な記憶は全部食べました

でも空腹だけは嫌でした

頭で忘れていても身体が覚えています

身体が温かみを求めていました

誰かのぬくもりを欲しがっています

きっとお腹が減っているせいだなと、今日も彼女は食事を続けます