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狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】
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1 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:49:27.39 ID:Vqcr7VCy0
昔、途中まで書いたものです。スレが見つからなかったというか、多分もう書き込めないでしょうし新しく立てさせてください。
その時はメインヒロインの声優さんの病死があって、ショックで最後まで書ききれなかったものなんですが、
5年たちますね。早いものです。
なんか昔のフォルダが見つかったので、いろんな意味での供養もかねて投下していきます。
前作がありまして、これを読まないと理解できないかもしれません。
狸吉「アンナ先輩に拉致監禁」綾女「SOXイ○ポッシブル!」
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5772445
これも懐かしいですね。R−18ですので読む際はお気をつけてください。
では投下していきます。量が多いので、気を付けてください。
2 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:51:56.61 ID:Vqcr7VCy0
足がひたすら重い。飢えたアナコンダの檻に向かう気分だ。しかもそのアナコンダは猛毒ももっている。ところでアナコンダのアナはどのアナなんだろう。
現実逃避の思考は時間稼ぎにならず、僕は生徒会室に向かっていた。
今日は華城先輩もゴリ先輩もいない。アンナ先輩と二人きりの生徒会室。何も起こらないわけがなかった。
僕の誘拐事件から、アンナ先輩に決定的な変化が起きてから十日。
アンナ先輩の家を出てから、二日が経っていた。
僕は色々あってアンナ先輩の家にずっと泊まる羽目になっていたのだけど、そこでアンナ先輩といちゃいちゃのぐちょぐちょなことをやっていたけど、僕の逃げ口上やアンナ先輩のプレイスタイルによって初日以外は辛うじてB止まりでおさまっていた。昨日から学校にも登校を再開して、それを機に自分のアパートに戻っている。アンナ先輩は引き止めたのだけど、僕の母さんにいつまでも甘えてるわけにはいかないみたいなことを言ってもらって、何とか自分のアパートに戻ったのだ。
生徒会室の前に立つ。背筋がゾワゾワする。今日は誰も止める人がいない。かと言って他に用事も思いつかず、華城先輩も休んでいてゴリ先輩も受験であまり生徒会の方に顔を出せず、生徒会の業務をほとんど一人でやっているアンナ先輩の負担は大きくて、僕が行かないわけにもいかなかった。
すー、はー、と息を整える。ついでに息子の調子も確認しておく。大丈夫、まだ理性はきくはずだ。
アンナ先輩は、あの事件以来、ひたすら飢えた肉食獣から媚薬という猛毒を持った蛇のように、襲い貪ることから誘い焦らすことを覚えてしまった。襲われていたころより、僕から求めるように焦らしながら誘うことを覚えたアンナ先輩は、以前よりよっぽど愉しそうでそして恐ろしかった。
ん? もうそういう仲なんだしいいじゃんって? それ華城先輩にも言われたよ。アンナ先輩のセックスのテクは日に日に向上してたしね。そのうち視線だけで僕をイカせるようになったとしても、僕は全く驚かないよ? 顔も身体も声もテクニックも何もかもが最上級の人だよ? 正直、アンナ先輩がちょっとこっちを刺激するだけですぐ発射しそうになっちゃうよ?
でもそれでも、逃げ続けなければならない理由があるのだ。
コン、コンと、ゆっくりめにノックする。
扉を開けると、生徒会室の主、アンナ・錦ノ宮が上品で穏やかな笑顔を浮かべながら、僕を迎えた。
「奥間君……、一日会えなかっただけですのに、ずいぶん長い間会えなかったような気がしますわ」
上品で穏やかな笑顔は、僕だと認めた瞬間、捕食者の笑みに変わる。以前とは違って余裕こそ持ってるけど、むしろ危険度は増している。
「!?」
「んん……!」
え、今座ってたよね? 立った瞬間から扉にいる僕のところまで一瞬で肉薄すると、僕を壁に押し付けつつ唇を重ね、舌を器用に使って唾液を送り込んでくる。
以前のただ貪るだけのキスではなく、僕を昂ぶらせ、誘惑し、堕とすためのキス。
アンナ先輩の唾液は媚薬のように、一気に僕を昂ぶらせ、僕の息子に一気に血液が集まってくる。
どれくらい唾液を送り込まれたのか、二回くらいは飲み込んだ気がする。アンナ先輩は一旦離れると、僕の首筋に顔を埋め、鼻をクンクンと鳴らして、
「奥間君……ふふふ、わたくしとの約束は守ってくださっているみたいですね? 勝手に愛の蜜を出してはいけないというあの約束を」
アンナ先輩、僕の愛の蜜(ようは精液だ)をより濃く美味しくいただくため、オナ禁を僕に命じていたのだった。勿論アンナ先輩には性知識がないからオナ禁って言葉も意味も分かってないんだけど、どうもアンナ先輩は愛の蜜は溜めた方がより濃く美味しくなると考えていて、実際それが当たっているから困る。性知識はないのに本能ですべてを習得してくる。この人本当に何か出来ないことってあるのかな。
完全に空っぽになってから十日、朱門温泉で鍛えられた僕は普段なら我慢しようと思えばできる範囲なんだけど、アンナ先輩は事あるごとに僕を挑発してきて、僕からアンナ先輩を求めるように仕向けてくる。以前は喰われる恐怖から萎える面もあったのは否定しないけど、今のアンナ先輩はひたすら僕が堕ちるのを待てるようになってしまった。正直、今のキスだけで発射しそうになってる。
その様子がわかるのか、くすくすと嬉しそうに愉しそうに笑うと、
「奥間君がおねだりしてくれれば、わたくしはいつでも構いませんのよ? ただ、愛の蜜を一滴も零したくないだけなんですの」
アンナ先輩は敢えて見せつけるように、扇情的に舌をチロチロと動かす。アンナ先輩の下腹部からそこは以前と変わらず、粘り気のある水音が溢れんばかりに聞こえてくる。その下腹部を、僕の勃ちきった息子に強すぎず弱すぎない絶妙の腰使いで押し付け、僕の理性を飛ばそうとする。
「ああ、どちらがいいでしょう? ……舌を愉しませるべきか、私のお腹の中で奥間君の愛の蜜が広がり、染み渡るのがいいか……!」
そう、僕が今でもアンナ先輩から逃げないといけない理由。
アンナ先輩、中出しの味を覚えてしまったのだった。
3 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:52:23.84 ID:Vqcr7VCy0
正直ゴム有なら僕ももう、アンナ先輩の言うとおりにしてもいいかと思っていたりも正直あるけど、アンナ先輩が妊娠したらアンナ先輩の両親からは社会的に命を絶たれ、僕の母さんからは生命的な意味で命を絶たれる。そして僕の死体はアンナ先輩が美味しく戴いてお腹の中でずっと一緒、ハッピーエンドだ。アンナ先輩、僕を傷付けないようにはしてくれてるんだけど、どうも食人趣味にも目覚めかけてて、この前喉元や小指を食い千切られそうになったんだよなあ。……あれは一時的な混乱と駆け引きの為のものだったと思いたい。
とにかく中出しだけは絶対に出来ない。アンナ先輩は妊娠を望んでいるから避妊が出来ない。避妊抜きにゴムを着けなければならない理由も思いつかない。何よりアンナ先輩は上も下もどちらの口でも、僕の愛の蜜で満たすことが何よりも最上級の愛で快感らしく、故により美味しくいただきたいと、そういう発想に至ってしまっているらしい。
「ふふふひっ、忘れてはいませんわよね? ……わたくしの許可なく愛の蜜を出したら、オシオキですわよ? それとも、オシオキを望むなら、それでもわたくしは……ふふふふ、はあ、あはあ、あ、それも、いいですわね……! 奥間君が愛に悶える顔も見たいですの……!」
「ひ!」
捕食者が悦びの声に思わず反射的な悲鳴が出た。強制的に快楽を与えられ続けて発狂しそうになった悪夢が蘇る。今のアンナ先輩なら間違いなくあれ以上のことが出来る。
「ああ、我慢はよくありませんわよ? ……ずっとわたくしの為に愛を確かめ合うことを我慢していたのはすごくうれしかったですけど、もう愛の試練は乗り越えましたし、奥間君が我慢する必要はもうありませんわ」
さらに追い打ちでぐぐ、と腰が押し付けられる!
「たった一言でいいんですのよ? 『僕の愛の蜜を飲み干してください』と、それさえ言えばいいんですの」
発射が目前だった。でもアンナ先輩が上で飲むのか下で飲むのかわからない以上、答えられない。ついでに言うならアンナ先輩もずっと僕と繋がってないから、下で飲みたがる可能性が高い。
「あら、……奥間君はオシオキがお望みですのね? それもいいですわね……!!」
とうとう手が股間に伸び、僕の言葉を待たず息子を発射させようと「あ、先輩、ここ、ここじゃちょっと!」僕は両手を使ってアンナ先輩の手を押しのけようとするけど、アンナ先輩の怪力には当然敵わず、むしろ獲物の最期の抵抗を愉しむように嫣然と笑って、
『――皆さん、騙されてはいけません!』
――PMの強制放送が始まった。
僕らの勝利ともいえるデモが行われてから、政府はその主張を否定する為に毎日PMで強制的に放送をしている。
アンナ先輩の顔が、陰った。
「…………」
さすがに萎えたようで、アンナ先輩は何も言わずに自分の席に戻る。
「奥間君、続きはまた今度にしましょう? 今日は申し訳ありませんが、綾女さんの分も仕事を頑張っていかなければ」
「……はい」
寸止めで終わったけど、助かったとは思えなかった。
僕がアンナ先輩の家からなかなか出なかった理由の一つに、このPMによる政府の強制配信があった。
アンナ先輩はそのそぶりを見せないけど、この件でアンナ先輩の家は揉めている。僕を拉致監禁なんて暴挙に及んだのも、この件が無関係だったとは思っていない。アンナ先輩が気に病んでないわけがないのだ。
「大丈夫ですか?」
思わず安っぽい声をかけてしまった。だけどアンナ先輩は、性欲とは全く関係なく、本当に嬉しそうに、
「ありがとうございます。その言葉だけで、わたくしは……」
政府の強制配信はまだ続いている。真実がどちらかにあるか、《SOX》の一員である僕にはわかっているけど、アンナ先輩はわからない。本能で分かっていても、性衝動や愛が満たされて安定しつつあっても、知識という判断材料がなければどちらが正しいのかなんてわからないのだから。
僕も何とか性知識を、真実を伝えたいのだけど、そうするとアンナ先輩は今まで自分の行ってきた崇高な愛が卑猥というアンナ先輩にとっての絶対悪だったことを教えることになるわけで、どうすればいいのかわからない。アンナ先輩が壊れたらどれほど恐ろしいことになるか、僕は十日前にさんざん思い知っている。ついでに言うなら僕はアンナ先輩に限らず他の時岡学園の生徒にも性知識を教えたら即退学になることをアンナ先輩の母親であるソフィア・錦ノ宮と約束させられている。
本当に情けないけど、この期に及んで僕は何もアンナ先輩に伝えられていなかった。
「アンナ先輩」
とっさに呼びかけてしまったが、かけるべき言葉は見つからず、
「あの、よければ……えっと、今日帰り、華城先輩のお見舞い行きましょうよ」
今の僕だけじゃ、アンナ先輩の負担を軽くすることはきっと出来ないと思った。
アンナ先輩には、僕だけじゃ駄目なんだ。
「ええ、そうですわね」
アンナ先輩は強制放送が続く中、それでも喜びの顔を見せる。同時に悪戯っぽい笑みも浮かべて、
「綾女さんには内緒で行きましょうね。奥間君、一緒に病院に行く前にお見舞いの品物、買っていきましょう」
その笑顔は可愛らしくも大人っぽく、以前の天使の笑みとはやはりベクトルが違っているけど、魅力の大きさは変わらずに僕の胸をドキドキさせる。
だけど、無理しているように見えるのは、きっと気のせいじゃなかった。
やっぱりアンナ先輩には、心の底から笑っていてほしい。
政府の強制配信は、まだ続いていた。
4 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:53:29.47 ID:Vqcr7VCy0
「「「…………」」」
「あら、鼓修理ちゃんもいらしてたの。……えーと、そちらの方は? 確か、奥間君の中学生時代の……?」
「わ、わたしの小学生時代の友達でもあるのよ、アンナ!」
とっさに眼鏡をかけた華城先輩、鼓修理、ゆとりがアンナ先輩に怯え、僕に非難の視線を浴びせてきた。
本当、ごめんなさい。せめてメールしようと思ったのだけど、アンナ先輩がサプライズで驚かせたいなんて言うから無理だった。隙を見つけたかったけど、無理でした、本当ごめんなさい!
ゆとりにはす、と目線を一瞬細めたが、すぐに僕や愛を育むものを邪魔する敵以外に見せる、上品で淑やかな会長モードに戻った。た、助かった? 正妻の余裕ってやつだろうか。
ちなみに《SOX》はデモの効果が消えないうちに色々画策して、華城先輩は怪我で動けないながらも的確な指示と下ネタを言って更なる上の段階の性知識流布を行っている。結果は上々だ。《SOX》を敵視を通り越して殲滅すら望んでいるアンナ先輩にとっては腹立だしい結果だろうけど、感触としては第一清麗指定都市を中心に、政府よりも《SOX》の意見を支持している方が多数だ。今もその打ち合わせ中だったんだろう。本当に申し訳ない。
「えっと、邪魔ならすぐ帰ろうと」
「いえ、わたくしの方こそお邪魔して申し訳ありません。先客がいるとは知らなかったもので」
完璧なお辞儀を披露し相手に一切不快感を与えない丁寧な所作は、ゆとりの怯えや毒気を抜いてしまう。困ったように僕に視線を向けてきた。僕に向けられても、正直本当に困る。
「奥間君の中学時代はどんな方でしたの?」
さらりと当然のように雑談に入っていた。獣性に火がつくと本当にヤバい人なんだけど、それ以外では本当に人の心の隙間を埋めていく優しさと慈愛を持った人なのだ。獣性に火がつかなければ。
「狸、奥間の話訊きたいのか?……ですか?」
ゆとりが慣れない敬語を使っている。鼓修理が話さないなと見てみると、あれ? いつの間にアンナ先輩の膝の上に乗ってるの? なんか姉が妹をあやすみたいに膝の上に乗せて頭をなでなでしていた。妹ががちがちに凍りついているのを無視すれば仲のいい姉妹に見えなくもない。なんか僕の愚息をなでなでしている時のアンナ先輩の嬉しそうな顔を思い出してしまった。
「普段の話し方で結構ですわ。それに、呼び方も普段通りに。その、以前はほんの少し、わたくしも我を忘れてしまった面は多少あったので」
そのほんの少しでゆとりは縊り殺されそうになってたんだけどね。僕の名前を呼んだというだけで。
「えーと、その……」
ゆとりは難しい顔をしてしまう。イメージとは一切違う、アンナ先輩の慈愛の一面に触れたからだろう。実際アンナ先輩は水が染み渡るように、すっと人の心に入り込んでしまう。これは僕がアンナ先輩と初めて会った小学生時代からそうで、アンナ先輩の本質の一部なんだろうと思う。
ただゆとりは僕がアンナ先輩に襲われたこと、華城先輩を傷付けたことを最も怒っていて、その怒りはまだ消化できていなかった。華城先輩に関しては大事な人が狙われたという想いから理解は出来ても、僕の件に関しては本当にキレていた。
「……あんたに憧れて、卑猥を取り締まりまくってたよ」
怯えと怒りから、その一言だけしかゆとりは言えなかった。
事情は分からなくても、ゆとりが非常に複雑な、しかも負の思いを抱いていることはわかったのだろう。アンナ先輩は決して鈍い人間ではない。理解はするし察するが、それがどういうものなのかを実際に自分で経験したことがなかっただけで。
その経験をさせなかったのがアンナ先輩の母親であるソフィア・錦ノ宮の教育なのだろう。
汚いものを徹底的に廃し、それらから子供を守り、正しい事だけで子供たちを育てていく。
その想いだけで《公序良俗健全育成法》を夫と共に作り上げ、実際に国の方針として通した女傑。
それがアンナ先輩の母親だった。そしてアンナ先輩は、その方針の最大の成功例として一番に挙げられる子供だった。
僕や華城先輩から言わせれば、それこそがアンナ先輩を歪ませた最も大きな原因なのに。
「失礼しましたわ。……そうそう、綾女さん。わたくしと奥間君で選んだお見舞いの品を持ってきましたのよ」
華城先輩なら官能小説(オトナ小説と《育成法》以降は呼ばれているけど)が本当なら喜ぶだろうけど、無論今の日本にはそんなものは売っていないので、アンナ先輩だとどうしてもお堅い小説を選んでしまうところを僕がなんとか華城先輩の好みそうな、比較的気軽に読める娯楽小説をいくつか選んで買ってみた。
5 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:53:58.96 ID:Vqcr7VCy0
「退院はいつになるんでしたっけ?」
「あー、再来週の土曜予定よ」
本ありがとうと、生徒会モードの華城先輩が仏頂面で、それでもそれなりに嬉しそうに差し入れを喜んだ。ゆとりや鼓修理はそれを複雑そうに見ている。
《雪原と青》として、アンナ先輩には左肩を外され、肋骨の八か所にひびが入る重傷を負わされた。華城先輩は知らせるつもりもないが、アンナ先輩は自分自身が親友を傷付けたことを知らずただ心配しているだけというのは、ゆとりや鼓修理でなくても怒りや気持ち悪さを覚えるかもしれない。
ただ僕が関わらないところでは、華城先輩が差し入れを素直に嬉しく思っている様子も、アンナ先輩が心配しつつ励まし勉強のノートなどをフォローする様子も、本当に親友として、友情がちゃんとあるのだと、二人の他愛ない表情から分かって。
僕も複雑な思いを抱いていた。親友同士で敵同士という複雑な関係は、非常に危うく思えてしまって。
破綻がすぐそこにあるような、ひび割れたガラスがあとちょっとの力で完全に割れてしまいそうな、そんな危険を感じてしまって。
ピピピピピピピ
「――失礼しますわ」
アンナ先輩が席を立ち、病室から出て行く。緊張していた空気が少し和らぐと、
「本当にごめんなさい」
まず開口一番全員に謝った。全員から非難の視線。うう。視線で孕んじゃうよお。
「まあ済んだことは仕方ないけど」
華城先輩が仏頂面のまま、アンナ先輩の取ったノートをぱらぱらとめくる。ちらっと見ただけでも非常に丁寧にまとめられているのがわかる。僕も勉強を教わったことがあるけど、非常に本質を捉えた分かりやすい教え方をしてくれた。足コキされたから逃げたけど。
「あの化け物はどう出るつもりなんスかね。《SOX》にとって善導課よりヤバい敵じゃないッスか」
鼓修理が強張りきった身体を何とか緩めようとしている。心底同情してやると、「気持ち悪い目で見るんじゃないッスこの狸サル!」意味不明な罵倒を言われた。どうも女性陣からはアンナ先輩とひたすらヤリまくってる印象しかないらしい。針のむしろだ。味方がいない状況に溜息を吐きつつ、
「アンナ先輩も一人の学生だし、簡単に情報は手に入らないと思うよ」
アンナ先輩から僅かに聞いた話を統合してそう判断していることを伝えた。今は華城先輩が動けないこともあって、水面下で性知識を流布していく事を地道にやっているだけだ。派手な動きが出来ないししていない以上、アンナ先輩でなく善導課も新たな情報はロクに挿入っていないだろうと思う。性衝動と違って少しずつ情報を与えて発散させるわけにもいかないしね。
でもこのまま上手くいくかというと、正直不安ではあるんだよな。アンナ先輩や善導課も、あんな騒ぎを起こしたソフィアの動きも。
「奥間君」
「はいっ!!」
淑やかモードだったけど今しがたの思考のせいで思わず仕込まれた奴隷のように背筋を伸ばすと、僅かにアンナ先輩の表情にその反応を愉しむ愉悦が混じった。だがすぐに掻き消すと、
「申し訳ありません。慌ただしいのですが、今お母様から連絡がありまして。わたくしの家で話し合いをするということですので、今すぐ帰らないと」
「話し合いって、アンナのお父さんも?」
華城先輩が探りを入れると、
「いえ、どうも奥間君のお義母様とみたいですわ。母とは親友らしいですの。大事な話があるらしく、わたくしのマンションを使わせてほしいと言われてしまって、おもてなしの準備をしなくてはならないので」
「「「「…………」」」」
それではまた、と慌ただしくアンナ先輩は病室を出て行った。
ソフィア・錦ノ宮。《公序良俗健全育成法》成立の立役者。
そして僕の母親、奥間爛子は、下ネタテロリスト最大の恐怖であり《鋼鉄の鬼女》の異名を持つ善導課の生きる伝説。
あとアンナ先輩。
《SOX》の敵ボスラッシュだった。想像するだけで気絶しそうなんだけど、助けてほしいんだけど、女性陣もみんな恐慌状態で期待できそうになかった。
6 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:54:42.86 ID:Vqcr7VCy0
奥間爛子は既に狸吉とアンナの仲は把握している。この娘が何故我が息子を選んだのか理解できないほど、よく出来た娘だった。
「どうぞ。粗茶ですが」
優雅で上品な所作で、紅茶を二人分、自分とソフィアの前に置く。母親に対しても、あくまでホストがゲストを迎える丁寧さ。ソフィアはこういうところもきちんと躾けてきたのだろう。ソフィアは感情的な面はあるが、躾という点では本当に母親としては敵わないなと爛子は思った。
「すまないな。君も大変だろうに」
「いえ。お母様方の考えがあることなのでしょうから」
自分たちの起こしたことで心労がかかっているだろうに、微塵も見せない貞淑な笑顔だった。
「それに、奥」
「あー、すまない。トイレは何処にあるだろうか」
わざと遮り、立ち上がる。近くまで行くと、ソフィアに聞こえないように囁く。
「今のソフィアにうちの愚息と君のことを話したらややこしいことになる。時期を見て私からも話そう」
あのバカ息子もまさか手を出してはいないとは思うが、男女交際なんて爆弾を今のソフィアにぶつけるのは自分も避けたい。ソフィアが感情的になって振り回されてきた過去を思い出すと、頭が痛くなってきた。強引さにかけては自分も人のことは言えないが。
くすり、とあくまでも上品さを崩さない程度に秘密を共有する少女の笑みを零すと、
「分かりましたわ。お手洗いは、あちらにありますの」
それでは、と、アンナは簡単な軽食を作りにキッチンに入った。
不自然に見られないように一応トイレを済ませて戻ると、ソフィアは難しい顔をしていた。
「今の状況が厳しいのはわかるが、世論はまだ揺れ動いている。政府の言葉を無条件に信用しているのは少ないだろう」
「…………」
ソフィアは言葉に反応しなかった。キッチンの方を見ている。
「どうした? 何か懸念でもあるのか?」
「……いえ、アンナが変わったように思っただけです」
「まあ、最近色々あったからな」
「いえ、そういうことではなく……」
ソフィアも言葉にするのが難しいのか、黙り込んでしまった。
7 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:55:11.57 ID:Vqcr7VCy0
「夏休み前から、どうも私に反抗するようになって。以前はそういうことはなかったのに、何があったのか」
「反抗期というものはどんな子供にも存在するだろう。それに転校に反対する娘の為にこの汚染された第一清麗指定都市に私を呼んだのは貴様ではないか」
ソフィアは感情的だし厳しすぎる面もあるが、決して子供のことを思ってないわけではなかった。むしろ信念を持って、子供の為を思って、《公序良俗健全育成法》を夫である錦ノ宮祠影と共に国に通し、成立させた。
一人娘のアンナのことだって、あれほどまでの理想的な娘を誇りに思ってないわけがない。転校したくないという娘の意思をソフィアなりに考えたうえで、自分をこの都市に呼んだのだ。
「まあ、そうですが。このままだと、それも無意味になりそうですね」
今もソフィアは子供たちの未来について考えている。だからこそ自分は協力しているのだ。
「貴様の夫は何と言っているのだ?」
「この件に関しては対立してます」
あんな自爆テロみたいなやり方では当然だろうと爛子でも思った。
「あのやり方だけではなく、夫は政府の主張に反対していません。むしろ推進する方向で動いているようです」
ソフィアのプロレス技のような拷問にかけられてそうなら、祠影はその方向で動いていくのだろう。
「ああもう! あの人も金子玉子も!! 腹立だしい!!」
突然ヒステリックに叫ぶが、爛子としては慣れた反応だったし、心情としては自分もそうだった。
金子玉子は与党所属の国会議員の一人でありソフィアと同じくPTA組織の幹部で、自分たちが反対している政府の方針を勧めようとPMの強制配信で自分たちの主張を潰そうとしている、自分たちの敵だ。
今こそ世論は様子見と言ったところだが、政府の強制配信がこれからも続けば、一回のデモ程度の動きは簡単に塗りつぶされるだろう。
性悪な頭脳を持つソフィアでも、簡単には打開案を思いつかないようだ。
今日はどちらかといえば、作戦会議よりは疲れを癒すためという意味合いが強い。自分は傷痕が目立つしソフィアの容姿も娘に負けず目立ち、アンナには悪いがこのマンションの一室で軽く酒を交わすことにさせてもらいにきた。無論、酒は自分達で買ってきたものだ。
がらん、と何かが落ちる音がしたのは、ワインの蓋を開けようとした時だった。
「――アンナ?」
キッチンからだった。まずソフィアが動き、自分も追う形でキッチンに向かう。
見るとアンナが蹲って、両腕で体の震えを抑えるように掻き抱いていた。ソフィアが背中をさすっている。傍には包丁が落ちていて、自分たちの為の料理を作っていた最中だったのだとわかる。爛子はとりあえずコンロの火を止め、包丁をまな板の上に戻した。
「アンナ!?」
「大丈夫か?」
よく見ると頬が上気し、眼には僅かに涙が浮かんでいる。一瞬、爛子の動きが止まってしまった。
「あ、お母様……大丈夫、ですわ」
「熱でもあるのでは? 救急箱は……!」
「いえ、本当に大丈夫ですの、お母様」
す、と一瞬で元の淑やかで上品な笑顔に戻る。あまりの突然の変化に、ソフィアも爛子も呆気にとられる。
「いや、君も心労がかかっていると思う。私達のことはいいから、もう休みたまえ」
「そうね。アンナ、あなたは休みなさい」
はい、お母様と、あくまで貞淑に、出迎えた時と同じように上品に一礼すると、ソフィアの言うとおりに寝室と思われる方に向かっていった。
蹲っていた時に一瞬見えた、自分が一瞬止まってしまうほどの不吉さを湛えた飢えた肉食獣のような笑みは、おそらく見間違いだろう。あのようないい子が、自分が見てきたどの犯罪者よりも不吉な笑みを浮かべるなど、そんなことがある訳がないのだから。
8 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:56:48.74 ID:Vqcr7VCy0
「奥間君」
母と義母の言うとおりに、寝室に戻り着替えてベッドで休む。
愛しい人と一緒にいる時には、感じなかった、思い出さなかった衝動を、料理している最中に、包丁を持った瞬間に思い出してしまった。
――敵を追い詰めた時の快感。
――敵の悲鳴、痛みに喘ぐ声を聞いた時の昂ぶり。
――どんな罰を与えようか考え、実際に痛めつけた瞬間のあの恍惚。
――足の腱を切ると包丁を取り出した瞬間に生まれた気丈な瞳からの怯えを見た時の、あの興奮。
「奥間君」
愛しい人の名前を呼ぶ。使っていた鎖と、下着の匂いを嗅いで無理矢理に落ち着かせる。
包丁を持った瞬間にフラッシュバックのように、あの気持ち良さを思い出してしまった。愛しい人が傍にいる時は、何も思い出さなかったのに。
次に《SOX》に、《雪原の青》と会った時は、無傷捕縛を目指している。それが自分を変えてくれた人への誓いであり、周りからの祝福を得るための禊だと考えていた。そのために軍事や警察の捕縛術関連の本も購入して知識を蓄えている。
だけど、衝動を解放するのは、愉しい。
自分は覚えてしまった。壊す悦びを、恍惚を。
誰にも相談できなかった。愛しい人にはこんな自分を見せたくなかった。嫌わないでいてくれるとは言ってくれたけど、そういう部分があるとわかってくれたけど、だからこそ尚更簡単に呑まれそうな自分を見せたくなかった。
それが子供の、自分たちの為だからと信じ切って、大人たちから汚いもの、醜いモノから排されてきたアンナは、あらゆる衝動を抑圧したまま、昇華も発散もされないまま、無自覚のままにずっと溜め込まれて生きてきた。
だから、どうやって発散すればいいのか、そんなのは全くわからなかった。解放することもいけないとすら思っていた。
性衝動は満たされても、破壊衝動は全く満たされずに、ただ募っていく。
「奥間君」
愛しい人の名前と匂いで、愛の蜜が溢れてくる。くちゅくちゅと指で愛を思い出して、辛うじて記憶の中の残虐な恍惚から逃げる。
声も聞きたいと思ったけど、今の自分の声がどう聞こえるのか怖くて、電話はかけられなかった。
9 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:57:57.17 ID:Vqcr7VCy0
夢うつつの中、僕は目が覚めた。十二月の朝は寒い。布団の中は暖かい。ぼーっとした頭で予定を思い出す。
うーん、今日は土曜で学校側の予定は特にない。本来なら生徒会業務である政府の方針推進の為の冊子作成と流布という仕事が溜まっているけど、どうも先生方がアンナ先輩の家の事情やアンナ先輩、僕、華城先輩が一気に休んだことを考慮したみたいで、一時的に休んでいいと言われたのだ。冊子作成自体は単純作業だから、別にアンナ先輩や華城先輩みたいな実務能力に優れてなくても、代わりに出来る人がいると判断してくれたらしい。その他の生徒会でしか出来ない業務は全部済ませてるみたいだしね。
アンナ先輩もあれだけ愛し(ヤリ)まくって当面満足だろうし、一回ちゃんと《SOX》の会議にも参加しないといけない。今日は昨日と同じく早乙女先輩以外は参加だっけ。アジトの方でエロイラストをいつものように生産するだろう。会議の方はどうしても、華城先輩の病室に行かないといけないからな……窓から漏れる光は弱く、まだ朝は早いのがわかる。
よし、二度寝しよう。まだ朝は早いし布団の中は暖かいし柔らかいし、
「ぁぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
声が漏れないようにするように必死だった。何でアンナ先輩が一緒の布団の中で寝てるんだ!?
一気に目が覚める。アンナ先輩はすやすやと寝ている。何もしてないよね? あれ?
(いぎゃあああああ!!?)
ヤバい、アンナ先輩寝ている間に僕に何かしたのか!? 僕のトランクスがガビガビになってる! まさか夢精した!?
「――ん」
鼻をすんすんと鳴らすと、銀髪の陰に隠れていた瞼が開いていく。計算してるんじゃないかというぐらい可愛らしくあどけない表情で、
「おはようございますですわ、奥間君」
まだ寝起きでボーっとしているのか、それでも僕の愛の蜜の匂いは嗅ぎつけたようで、
「あら……? 何やら、いい香りが」
パジャマの上から僕の股間に顔を埋めてきた!
「あ、いや、先輩これはまず訳を聞いて」
「……約束を、破ったのですね? 奥間君」
怒ってはいない。むしろいたぶる理由が出来て、心底嬉しそうな、凶悪な光が瞳に走る。
「あ、あ、あの! 先輩、いつから僕の布団に!?」
「昨夜の二時頃でしょうか……お母様方が帰ってから、我慢しようとしたのですが、どうしても奥間君が……恋しくなって」
丑三つ時に布団に入り込まれるってそれなんて怪談?
「眠れなくて、つい。……奥間君の香りを嗅ぐと、安心できますので」
「……えーっと」
10 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:58:35.01 ID:Vqcr7VCy0
アンナ先輩、僕と結ばれたことで変化はあっても安定したと思ったのだけど、それは僕が傍にいる時限定なのかもしれない。今の何かに怯える瞳はそうとしか考えられなかった。一回僕がいなくなっているから、その時の恐怖が蘇るのかな。この時の僕は、そう解釈していた。
しかしすぐにその怯えは消え、僕をいたぶることに興味を戻してしまった。いや、その、これ見よがしに唇を濡らすのは止めてください朝っぱらから搾り取られる助けて!
「ああ、勿体ないですわ……せっかく溜めていたのに」
僕の返事を聞くつもりなんてあるはずもなく、あっという間に僕の下のパジャマと下着をはぎ取ると、まず寝ているうちに出てしまった愛の蜜の香りと味を堪能する。
「スー、ハー、スー、ハー、スー、ハー、ああ、やっぱり溜めるとより濃くて美味しい味になるのですね……!? ふふ、奥間君が寝ている間はただ触れるだけでいたのですけど、それだけで奥間君の突起物が大きくなっていって、夢の中でもわたくしを愛しているのだと思うと幸せで、ゆっくり眠ろうと思っていたのに逆に眠れませんでしたわ」
夢精した原因やっぱアンナ先輩か! 予想通りだったけど!!
「でも、約束を破ったのには変わりませんので……オシオキ、ですわね?」
「あああ、あの、その僕の話も」
「奥間君? 夢の中でもわたくしを愛してくださっているなんて、わたくしは本当に幸せ者ですわ。怒っているわけではありませんのよ? むしろ、嬉しいんですの」
違うんですいや違わなくはないかもしれない夢の内容覚えてないけどここ数日さんざんアンナ先輩の悦ぶことをやってきたしそういう夢にアンナ先輩が出てきてもおかしくないんだけどとりあえず夢精は生理現象なんです!
「でも、約束を破ったことは、また別の話。このオシオキは、愛故のことなんですわ。それに、奥間君も……ふふふひっ、準備は整っているみたいですしね?」
これは朝勃ちといってこれも生理現象なんです女性にはわからないでしょうけど!
あ、やばい。喰われる。もう完全に捕食者の目だ。
頬にかかっていた銀髪を耳にかける。その仕草だけでも殆どの男は落ちると思う。上目づかいで僕の動きをその視線だけで完全に止めて、
「ん……!」
ぬる、ぐちゅっ
「はうっ!」
ハーモニカのように僕の息子を下から唇で滑らせると、そのふくよかな唇に吸い込まれた。
もう僕も上の口に出すだけなら、抵抗しなかった。というか、抵抗したら余計にアンナ先輩の獣性に火がついてしまうのがアンナ先輩の家に泊まっていた間にさんざん思い知らされていた。
頭が振られる。動きに合わせて愛の蜜を啜ろうと吸われる感触と音。だけどアンナ先輩の習得したテクは絶妙な加減で、痛みは全くなく、ただ快感だけ。
「先輩、出、ます!」
声と同時にアンナ先輩の頭の動きが止まり、先端部分、尿道口の部分を舌でこじ開けるようにねじ込んでいく。そして射精のタイミングと同時に一気に啜られるっ!
「は! はあ、はあ……!」
僕が早漏なのか、アンナ先輩が上手過ぎるのか、それともフェラだけでイく時はみんなこんな感じなのだろうか。
射精した後も、管に残った愛の蜜を啜ってお掃除フェラもきちんとしてくれると、
「はう……やっぱり、美味しいですわ……奥間君の、味……」
心底幸せそうに、切なそうに身を捩らせながら十二月の朝という寒さなのにそれを吹き飛ばすほどの熱気を纏う。
だけど経験から、アンナ先輩がこの程度で満足するわけがなかった。次は下のおクチを満足させに来る、オシオキとまで言い切ったのだから絶対来る!
11 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 09:59:04.83 ID:Vqcr7VCy0
(ゴム、ゴムは!?)
華城先輩からコンドームをもらっている。せめて中出しをしないようにとのことだが、妊娠を望んでいるアンナ先輩にどう説明すればいいのかまだ上手い考えが浮かんでいない。
でもこれ逆だよね。普通中出し求めるのって男だよね?
僕の愛の蜜の味の余韻に浸っていたアンナ先輩だったが、不意に立ち上がる。
「さて、今回はここまでにしますわね。オシオキは次回に持ち越しですわ」
「え?」
不可解過ぎた。え? 何故? アンナ先輩が人目とか関係ない場所で止まるなんてそれなんて天変地異?
「その、わたくしも奥間君の蜜の匂いを嗅いで、わたくし自身すっかり忘れていたのですが……奥間君がそれでもいいのなら、いいのですが……その、昨日から、生理が来ているんですの」
「……あー、それは」
さすがに性知識の一切ないアンナ先輩でも、今ぐちょぐちょして血で汚れるのは良くないことはわかるのか。
「それは、駄目ですね」
「本当はお腹の中で奥間君を感じて、わたくしの愛を掻き混ぜてほしいのですけど、やっぱり血で汚れるのは、嫌でしょう?」
「嫌というか、アンナ先輩の身体によくないですよね」
思わずそのまま言葉を選ばず言ってしまった。何で寝ている間に手を出してこないかと思ったら、そういう理由だったのか。いや手は出されてたけど。
「ですからオシオキは、また数日後……生理が終わったら、すぐにでも」
唇の周りが涎と僕の蜜で濡れまくっていて、そんな唇でそんなことを言われたら、エロさより肉食獣が極上の餌を前に我慢しているようにしか見えないよお。
「奥間君。今日は予定、あるんですの?」
「え、えーっと……その」
「今日、本当は綾女さんのお見舞いに行ったあと、実家で話し合いをする予定だったのですが、お母様からわたくしは休んでいいと言われましたの。ですからその、デートしたいのですが……駄目ですの?」
「……うーん」
今日は青姦の可能性もなさそうだし、《SOX》の女性陣からはアンナ先輩が誘って来たら中出ししない限りそちらを優先して《SOX》のことを考えさせないように言われている。まああの様子じゃ、アンナ先輩が《SOX》のことを諦めるなんてあり得ないんだけど。
「綾女さんには昨日、メールして、今日は行けないことを伝えましたのよ。昨日も行きましたし、たまには息抜きをした方がいいと仰ってくれましたわ」
おいそんな大事なことちゃんと伝えとけよ。おかげで真冬の怪談味わったじゃねえか。
ってか、もう決定か。一応後で華城先輩には確認するけど、アンナ先輩はそういう部分でウソつかないしな。
「じゃあちょっとゆっくりして、それから出かけましょうか。どこか行きたいところ、あります?」
「うふふ、すべて奥間君にお任せしますわ。奥間君が連れて行ってくれるところなら、どこでも楽しいに決まってますもの」
期待に満ちた目で、アンナ先輩はキッチンに入って朝食を作ろうとしてくれる。……なんでこんな完璧に僕の家の台所事情を把握してるのかは考えないでおく。
あと、僕の夢精したトランクスがいつの間にか消えていることももう気にしちゃいけない。朝食作ってくれている間に、とりあえずシャワー浴びて、ぬるぬるの股間を洗っとこう。
12 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:01:27.10 ID:Vqcr7VCy0
メールで華城先輩に確認したらその通りだったようで、何だろう、《SOX》から自分ハブられているんだろうか。メンバーからのアタリやたらと強いんですけど。
しかしいきなりデートと言われても思い浮かばない。この前はアンナ先輩が行きたい場所を指定したけど、今回はお任せになったからな。メールでいつもの喫茶店のマスターにテーブルの下に鉄の処女膜を用意してもらっておくけど、それ以外のところも行かないといけないよなあ。一応は。
映画館? 水族館? ショッピング? 全然思い浮かばなかった。
「あ、あの、とりあえず午前中は街をぶらぶら歩きませんか?」
計画も何もなかったが、アンナ先輩は僕といるだけで嬉しいのか、
「奥間君となら、どこへでも」
若干俯きながら恥じらうアンナ先輩の顔は、性獣状態とは比べ物にならない、僕が憧れていた時の綺麗で健全で清楚そのものの笑顔だった。
ただ正直、その笑顔を見ると自分が悩んでいたことを思い出した。アンナ先輩はまだ、性知識を知らない。僕の意思を無視したのもそうだし、僕自身もも貞操を散らせてしまった責任が、やっぱりあると思ってる。あの状況でどう抵抗すればいいのかわからなかったけど、あれ以上の言葉が他にあったんじゃないかと思っている。後悔は残ったままだ。
それに華城先輩は気にしてないようだったけど、アンナ先輩は無邪気に華城先輩の怪我を心配していた。自分自身が大怪我を負わせたにも拘らず。
それは知らないから、それで許される罪じゃないと思う。ゆとりが言っていたように。
ただ知らせることも出来ないし、僕も責任を清算しないといけないとは思ってるんだけど、華城先輩のことは伝えられないし僕もあれ以上のことを伝えることがどう言えばいいのかわからなかった。エロ本見せるわけにもいかないしな。
「奥間君?」
「え、あ……」
アンナ先輩もシャワーを浴びて、起きた時とは違う服を着ていた。
お出かけ用なのだと一目で分かった。白にパステルピンクカラーの小さい花柄のチュニック。網掛けタイプのカーディガンを羽織り、ロングのふわっとしたスカートは薄いグレーだった。マフラーの色が臙脂色でそこだけが色を主張していて、それがアンナ先輩の銀の髪と肌の白さを際立たせていた。
「あ、その……変ですか?」
「い、いえ! やっぱり制服姿が一番印象に残ってて、アンナ先輩の家ではもっとラフな服だから、お出かけの服を見るとまた別の感想が生まれるというかなんというか、見惚れてしまって」
「……もう。奥間君は、そういう言い方されると……狡いですの」
ちょっと口をとがらせて、でも嬉しそうに笑う。獣欲のない、ただ嬉しいだけの笑顔。
変化はあっても、こういう部分が消えなかったのは、ホント良かったと思う。いっつもビーストモードじゃ持たないし。
「い、行きましょうか」
とりあえず目的も何もなく、街をぶらぶらすることにした。
本当にこれでいいのかなあと、心にしこりを残しつつ。しこしこで解消できたらいいけどそれするとアンナ先輩ビーストモードに入るから絶対やらないんだからねっ。
「奥間君と歩くと、また街も違って見えますわね」
第一清麗指定都市の地理はアンナ先輩の方が詳しいはずだけど、目的もなくぶらぶらしながら歩くというのは、もっと言えば学校の帰りにちょっと寄り道なんて経験すらもあまりないのかもしれない。
ちなみに聞いて驚け、今僕とアンナ先輩は手すら繋いでいない。アンナ先輩は僕の袖をちょこんと摘まんで後ろをついてきている。昼は貞淑、夜は妖艶を通り越した性獣、何だろうこのギャップ。ずっとこのままがよかった。
と、アンナ先輩に摘ままれた裾が僅かに引っ張られる。
「どうしましたか?」
「あ、奥間君、その……あれは……」
「う」
13 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:02:39.95 ID:Vqcr7VCy0
看板には『Arcana's door』とある。タロットと占星術占い、そしてパワーストーンの店とあった。
「奥間君から以前もらったパワーストーンがあれば、一人でも寂しさを紛らわせそうなんですの……あそこで買ったものですの?」
「いやあれはかなり特殊なパワーストーンで、あそこには置いてないかと……!」
というかアレ、パワー(物理)だから。チャクラとかそんなんじゃないから。
でも占いか。ぼったくり値段とかじゃないなら女の子は好きかも。PMのネットで評判を調べてみる。
「あ、結構評判いいみたいですね」
どうやら占い師は恋愛の神様とまで呼ばれているらしい。値段もさほど高くないようだ。
「えっと、どうします?」
OPENとは出てるけど、なんか嫌な予感もする。
「わたくしと奥間君の将来について占ってほしいですわ」
ほらやっぱりこんな感じになるよね! せめて占い師がまともな結果を言ってくれたらいいけど、そしてそれをアンナ先輩が聞いてくれたらいいけど、無理だろうなあ。
店は少し地下にあった。扉を開けるとからんからんとベルの音がなる。レンガの壁に間接照明のランプで、外からの光は遮断されていた。いかにも占いの館っぽい。なんかのアロマの香りがして、クラシックのピアノが流れていて、店内には様々な色の石が綺麗に整頓されて、なんか不思議な空間を形成している。
「シューベルトの即興曲集第3番ですわね。ピアノを習っていた時、この曲が好きでよく弾いてましたわ」
なんか懐かしそうに耳を澄ませている。そう言えばこの人ピアノのコンクールでも何度か入賞してるんだった。なんだろう、ピアノ上手い人の細く長い指が挑発的に僕を刺激していたのかと思うと、なんかこう、クるよね。あれ、僕だけ?
扉を開けると黒づくめのいかにも占い師さんって恰好をした女性が出てきた。
「いらっしゃいませ」
アンナ先輩に負けないくらい穏やかな声で出迎えてくれた。丸顔の童顔で多分僕の母さんとさほど変わらない歳だと思うけど、可愛いという感じの人だった。
「初めてのお客様ですね? ようこそ、Arcana's doorへ」
丁寧で落ち着きのある接客で僕達に笑いかけると、
「本日は占いですか? パワーストーンを選びますか?」
「えっと、予算どれくらいかかります?」
「占いは1回3000円ですね。カップル二人の運命を占うのも、一回なら3000円ですよ。パワーストーンは、ピンキリなのでなんとも言えないですけど、予算に合わせて作れます」
「あの、愛を感じるパワーストーンを探しているのですけども」
だからアンナ先輩そんなのここにはないんだってぇぇぇ! ほら占い師さんが困惑してるじゃないか!
「お二人は恋人同士ではない……?」
なんか若干嬉しそうに見えるのは気のせいかな。「いえそうではなく」とアンナ先輩が説明不足だったことに気付いて、
「以前奥間君、この人からもらったプレゼントがあって、それがパワーストーンだったのですけど、どこにも同じものがなくて」
そりゃないよ。パワーストーンじゃなく、不破さん手作りのピ○ローだもん。
「でも、壊れてしまって。あれがあると奥間君が、彼がいなくても寂しさを紛らわせそうなのですけど、なかなか入手できないみたいで」
なんか卵形の、とかピンク色の、といった色や形状の説明がさらに加えられると、
「うーん、愛に関しているパワーストーンでピンク色って言ったら、ローズクォーツが一般的なんだけどね」
占い師さんの言葉が砕けてきた。まあ自分の娘ぐらいの年だろうし学生の人気も高いから、接客はもともとこういう感じの人なんだろう。
14 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:03:42.31 ID:Vqcr7VCy0
店の奥に引っ込むと、形状と色の一致した、ローズクォーツというやつらしい石を持ってきた。だけどもちろんアンナ先輩の求めるものではなくて、
「もっと軽かったですわ……他にはわかりませんの?」
「うーん、ごめんね。石も本当に種類があって、私もね、勉強中だから」
「いえそんな。こちらこそ、失礼しましたわ」
落胆はしているのだろうが、誠実な対応に好感を持てたのか、アンナ先輩はこの店と店主が気に入ったようで、機嫌はよかった。
「あの、では是非占ってほしいですわ。わたくしと奥間君の将来を」
ガハッ!
く、予想はしてたけど効いた。男にとって結婚とか将来とかそういう話はものすごく重い話で強烈なボディーブローなんだってことに気付いてほしい。あと何故占い師さんが僕と同じような反応してるんだ。
「と、とりあえず現在の二人の状態を見てみましょうね。えっと、生年月日教えてくれる?」
僕とアンナ先輩がそれぞれ誕生日を言い合うと、占い師さんは自分のPMに入力して、何か天文図?みたいなものを表示していく。
「これね、二人が生まれた時の星の位置なんだよ。さて、じゃあタロットの方も見ていこっか」
占い師さんってもっと重々しい口調なのかと思ったけど、案外フランクだな。こんなものなんだろうか。
「カードをね、『〜〜をお願いします』って願うんじゃなくて、『どうなりますか?』って尋ねる感じで、念じてながら混ぜてね。えっと、二人の将来についてどうですか?ってカードに訊く感じかな。そんなふうに思いながら混ぜてみて」
僕とアンナ先輩、二人で一応真面目に念じながら混ぜあう。結構混ぜただろうか。
「もういい? はい、じゃあそれじゃ、三つの山に分けるから……よいしょっと。じゃあこの三つの山から、二人が別の山から一枚ずつ選んで」
先に僕が選んで、次にアンナ先輩が選んだ。二枚のカードが占い師の前に並べられる。
残ったカードを片づけると、選んだ二枚のカードだけが残された。
「じゃあ出たカードと、この星の位置から二人の将来を視てみます。心の準備はいいかな?」
「な、なんか緊張しますわ」
「緊張するよね、わかるわかる。でも開いちゃうぞー、えい!」
カードが開かれた。といっても、全く知識のない僕にはなんのこっちゃだった。アンナ先輩も同じなのだろう。
「えっとね、まずタロットは正位置と逆位置っていってね、向きがあるの。占い師側から見ての結果なんだけど、奥間君は節制の正位置で、錦ノ宮さんは法王の逆位置になってるんだけど……」
ちょっと待ってね、と天文図の方を見ている。確認すると、まずアンナ先輩の方から問いかけてきた。
「えっとね、彼女さんはね、すごく白黒はっきりつけたがるタイプじゃないかな? どう?」
おお、当たってる。悪・即・斬!の人だからね。
「すごくね、秩序とか、規則とか、ルールとかね、そういうのに厳しい人なんだよね。法王ってそういう意味のカードなんだけど、これが逆位置に出ちゃってる」
「あまり、よくない結果なんですの?」
若干不安そうに訊ねる。占いなんだから気楽に聞けばいいと思うんだけどな。
「逆位置だから悪いってことはないよー。カード次第だから。ただね、ルールに縛られて何も出来なくなっちゃったり、あるいは今、ルールが絶対で聞く耳を持たなくなったりしてないかなって、そういう暗示は出てる。自己完結しちゃったり、だけど実はその自分ってものが所属している集団の考えであって自分の考えじゃなかったり、そんな不安定な状態になっちゃってるんじゃないかなって」
「…………」
「あ、でもそんな悪い結果じゃないよー。あなたはね、すごく恵まれた星の下で生まれているから、なんでもこなせちゃう人。で、すごくパワフルな人で、もうこれと決めたらすごいパワーを発揮できる人なんだよ。これだけ潜在的なパワーを持った人って、私初めて見たな」
占い師さんは半分本気で感心しているらしい。僕はというと占いってここまでわかるのかと結構驚いていた。
「でね、一直線で突っ走って、それが正しい方向に行けばすごくいい方向に働くんだけど、ちょっと道がずれると自分でも修正が効かなくなって、止められなくなっちゃう。カードの結果はね、今ちょっと、自分の中のルールとかを見直した方がいいっていう暗示だね」
でね、と次は僕のカードを指差した。
15 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:04:15.57 ID:Vqcr7VCy0
「彼氏さんはね、節制の正位置が出ててね、これは調節とか適応とか、そういう意味を持ってるんだけど」
彼氏さん彼女さん呼びはもう置いといて、PMの天文図が切り替わる。多分僕の生まれた時の星の位置なのだろう、星の位置が僅かに動いた。
「彼女さんと違って、白黒はっきりつけるより、グレーゾーンが広い人。これはね、優柔不断に繋がることもあるけど、本質は善悪両方を呑みこむ度量を持っていて、これとカードの結果を合わせると、彼氏さんはね。組織で言う、バランサーだね。まず人の話を聞いて、上手く流れを作っていける人。だからね」
占い師さんはアンナ先輩に笑いかけると、
「何か重大な決断を決断する時は、一人で決めずに、彼氏さんの意見を聞くといいよ。この彼氏さんはね、視野が広いし、ちゃんと周りのことも考えて、その上であなたにとって最良の考えを言ってくれる人だから。彼氏さんはね、彼女さんがいろんなものに縛られて動けなくなった時が来ても、その能力をうまく引き出せる人だから、安心していいよ」
いやアンナ先輩の手綱を引っ張る事なんてとても無理だと思いますが、でもわりと説得力のある結果だった。こちらのことをちゃんと考えてくれているのが伝わっているからだろうか。
「なんというか、説得力ありますわね。恋愛の神様と言われていると聞きましたが、素晴らしいアドバイスでしたわ」
「……うん。なんかね、私自分の恋愛運を人に分け与えることが出来るみたいで、周りが幸せになるのは私が恋愛運を分けてくれるからだって誰かが言ったからそのあだ名がついたんだよね。おかげで私はいい人に巡り合えないけど」
何だろう、いきなりどす黒いオーラを発揮し始めた。羅武マシーンの腐のオーラやアンナ先輩の嫉妬時の絶対零度暗黒オーラとはまた違った黒い瘴気みたいなのが出始めたんだけど、「いいの、私、おくりびとだからいいの」とかぶつぶつ言い始めたんだけど。
「あ、あの、大丈夫ですの?」
アンナ先輩の呼びかけに占い師さんははっと我に返ると、「何かパワーストーンも買ってみます?」と無理矢理話を変えてきた。まあ僕としても何かしら買って帰るつもりではあったけど、この人大丈夫なのか、さっきまでの感嘆が薄らいでちょっと不安になってきた。
結局それぞれの誕生石をメインに合わせて、二人おそろいの石を選んで、同じデザインの三連石のペンダントを作ってもらった。浄化とかよくわからないけどなんか霊的なパワーを補充する意味合いの説明を受けている間、アンナ先輩は楽しそうで、とりあえず選択としては悪くなかったならよかった。
別の予約していたお客さんが来たので、僕達は退散することにする。また来ますわとアンナ先輩は微笑むと、僕達は店を後にした。
ずっと薄暗いところにいたせいか、冬なのに太陽の光がやたら眩しく感じる。
「占いというものはよくわかりませんが、あの方がいい人なのはわかりますわ」
おそろいのセミオーダーペンダントというのはアンナ先輩にとってきっとものすごくいい買い物をしたのだろうけど、僕にとってはまた引き返せなくなるなあと若干絶望していた。
「じゃ、じゃあお昼になりましたし、前に行った喫茶店に行きましょうか」
そのままペンダントをしまおうと思ったのだけど、アンナ先輩はマフラーを再び巻く前に自分のペンダントを付け、
「……奥間君も」
ネクタイを直すみたいな感じで、人目が僕達に注目していないのを確認してから、僕にもペンダントを付けた。
「おそろい、ですわね」
アンナ先輩は恥ずかしくなったのか、自分のペンダントは服の中に仕舞ってしまった。
僕もそれに倣うことにする。く、華城先輩たちが見てなくて良かった、絶対ゆでたこになってる、鏡を見なくてもわかるったらわかる。
「い、行きましょうか」
いつもの喫茶店は歩いてもすぐ近かった。やっぱりアンナ先輩は僕の袖をつまみながら、恥ずかしそうにだけど幸せそうについてくる。
ああ、ずっとこの時間が続くなら、僕はそれはそれで幸せだったと思う。
喫茶店に入る。ぴし、と僕は固まってしまった。
「あら、お義母様」
アンナ先輩は摘まんでいた袖を離し、珍しく慌てた様子でお辞儀する。その様子はむしろ初々しさを印象付ける。
けど僕はそれどころじゃ無い。相席していたもう一人がなんでここにいるのかわかってないからだ。
「不破さん? どうして?」
助けてください、と無表情ながら冷や汗をだらだらかいてこちらにいつもより更に濃いクマの上の目で訴えてきたけど、アンナ先輩の姿を見てその瞳は一気に絶望に染まった。
「お義母様、うちの学園の生徒が何かしましたの?」
あ、アンナ先輩の気配が獲物をいたぶる蛇のそれに変わった。ごめん、不破さん、君の棺桶にはBL本をたくさん入れるよ。僕も生きて帰れるかわからないけど。
16 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:05:11.65 ID:Vqcr7VCy0
「むう……」
「…………」
前回の事件で大怪我を負った綾女に代わって、鼓修理とゆとりが主に動き回って《SOX》は以前よりさらに上の段階の性知識を流布している。結果は上々で、本来ならもう少し空気が軽くてもいいはずなのだが、
「綾女様、狸吉と化け物のデート、見張りに行かなくて良かったんスか?」
まともに動けない綾女でも、一応鼓修理やゆとりがPMの動画機能を使ってリアルタイムで中継することは出来て、見張ろうと思えば見張れた。前回は見張っていたというか覗いていたに近い状態だったが、今回もてっきりそうするのかと思いきや、綾女もゆとりも動かなかった。
「なんというかね……悩んではいるのよ」
「あの化け物女に喰われる狸吉をほっとけってのか?」
ゆとりが苛立ちを交えた声で糾弾する。綾女はというと、いつもの歯切れのいい口調はどこに行ったのか、
「もう喰われたでしょう、そう、下のオクチで」
クチは上にしかねえよ!という狸吉のツッコミが本来ならあるはずなのに、ツッコミはおろか誰からも声すら返ってこなかった。
《SOX》は狸吉がいない場所ではずっとこんな感じだった。組織として動いてはいるし結果も出ているが、女だけになるとどうしても狸吉の処遇について意見がまとまらない。
とにかく綾女とゆとりの意見が対立しているのだ。狸吉と化け物の関係については、《SOX》の手から離して本人に任せるべきだという綾女の主張と、あくまで狸吉を化け物から守るべきだというゆとりの主張。
自分としては綾女に従う以外にないが、ゆとりの意見も正直わかる。というより、心情的にはゆとり側だった。
性別が逆だからわかりにくいが、狸吉は性被害者で、あの化け物は性加害者なのだ。狸吉はそうなった原因が《公序良俗健全育成法》で化け物が一切の性知識がないため、それが相手や自分自身も傷つける行為だとわかっていないだと言っていた。それを教えることが出来なかったから、だからその罪悪感の延長線で付き合っているようにしか見えない。
卑猥な事象一切を徹底的に排除しようとするくせに、本人は卑猥自体が何かを知らないが故に超えてはいけない一線を越えてしまった、《育成法》の正負どちらの側面で見ても象徴的な子供。
「綾女様は狸吉があの化け物とくっついた方がいいと考えてるんスか?」
何度か繰り返した問いだったが、また改めて聞く。
17 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:05:46.65 ID:Vqcr7VCy0
「くっつけばいいとかじゃない。狸吉はアンナの貞操を奪ったの。その責任は、きちんと取らないといけない。そこに《SOX》がどうという意見はないわ。別に恋愛は自由だもの。《SOX》が絡むと、またアンナが暴走する。狸吉自身が判断するべきことよ」
「あれを恋愛だとかいうのか? 狸吉は奪ったんじゃなく、あの化け物女が勝手に暴走して狸吉の意思を無視して、そんなのに責任だのなんだのおかしいだろ! 《SOX》としても完全にあの化け物女は敵として動いていて、そんなやつのもとに狸吉をおいとくのかよ! ばれたら殺されるより酷い目に遭わされるぞ!」
ずっとこの調子で、二人は平行線だった。
結局はあの化け物を昔から知っている親友でもある綾女と、もはや人間とすら思ってないゆとりの、どうしようもない壁だった。
鼓修理はと言えば、ゆとりよりはあの化け物の近くにいる。時岡学園は中高一貫校で、鼓修理は中等部に春から編入していた。遠くはあるが、高等部の生徒会長としての演説や仕事ぶりは、中等部の奴隷男子ネットワークでもたくさん耳にしている。最近変わったという噂もそうだが、それ以前から、狸吉が入学する前から中等部にもファンがいるほどの人気だった。
その人気は、鼓修理みたいに人心掌握を意識してやって獲得したわけではない。狸吉が絡まないところでは、ひたすらに完璧だからだった。容姿も、能力も、悪に対する姿勢も、それでいて悪事を犯さない弱者にはひたすらに手を差し伸べるその人徳も。
その一面を知ってしまうと、《育成法》の被害者といいたくなる気持ちはわからなくもない。
知識さえあったなら。
綾女と狸吉が口を揃えて言う言葉だった。なら知らないなら許されるのかというゆとりの疑問には、二人とも答えてはいなかった。
《育成法》の矛盾を考えさせられる問題に、最初はただ暴れたくて、次に綾女に憧れて、テロリストとしての考えなど持っていなかった鼓修理にも、流石に思うところは出てきてくる。
「ったく、何度目なんだぜコレ……!」
ゆとりは頭を抱える。綾女はそんなゆとりを見ようとせず、窓の外をぼーっと見ている。今世論はガンガン動いていて、本来ならば《SOX》も動かなければならないのに、動いているはずなのに、停滞している。
「《育成法》の被害者だとか、ごちゃごちゃと……ややこしいんだぜ……」
「ゆとりは負の部分の被害者っスからね。あの化け物とはまた違って、ただ制定された時の余波を被っただけっスから、綾女様とも意見違ってくるんスよ」
鼓修理の指摘にゆとりは俯く。ゆとりはあの化け物とはまた違った側面の《育成法》の被害者だった。それは綾女や狸吉も同じ。
卑猥な犯罪を犯したり卑猥な職業に就いていた親のもとに生まれた子供。
それだけで、本人は何もしていなくても、差別を受けてきた子供。
化け物が“成功例”としての被害者なら、ゆとりは今の日本で賤業とされる酪農家の娘だった。動物の交配や交尾、去勢などのその職業に必要な、しかし卑猥な知識とされるものを持たざるを得なかったゆとりは、ずっと差別を受けてきたと聞く。
知らないから超えてはいけない一線を越えた化け物に対して、知識を持たざるを得なかったがために差別を受け続けたゆとりにとっては複雑過ぎるのだろう。狸吉に惚れているとかそういうことを抜きに考えても。
「まあ、とにかく、今は狸サルのことは置いといて、《SOX》の今後を」
話を切り替えた途端、視界が暗くなった。
自分だけではないようで、綾女もゆとりも天井を見上げる。
「蛍光灯切れ? ――照明全部が、同時に?」
「停電……病院でか?」
だだ、と、廊下から激しい音が聞こえてきた。
全員、《SOX》として、下ネタテロリストとしてそれなりに場数をくぐってきた全員が、不穏さに気付く。だけど気付いた時には、もうどうしようもなかった。
18 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:07:04.80 ID:Vqcr7VCy0
(堪忍して下さい、助けてください)
(無茶言わないでこの二人に僕が逆らえるわけないでしょ)
視線だけで不破さんとやり取りする。四人がけのテーブルに、母さんと不破さんを奥に押し込む形で、僕が母さんの側に、アンナ先輩が不破さんの隣に座る。
「えっと、どうして不破さんと僕の母さんが一緒にお茶を飲んでるの?」
どうにかして助けてあげたいが、事情によっては不破さんの命はここまでだ。多分ついでに僕の命も。
「貴様がこの女を私に楯突いてまで救おうとしていたからな。事情聴取だ」
ああああ、以前もこの話したっけ月見草が入ってきたから有耶無耶になったけどごめん不破さんこれ僕無理というかむしろ僕が危ない。
「そう言えば、その話について詳しく聞いていませんでしたわね」
ひい、アンナ先輩からにこやかな暗黒オーラが立ち上ってる! 浮気相手認定されたら僕と不破さんの命が危ない! 弁解しないと!
「だから、母さんには何度も言ってるんですけど、別に不破さんだから助けたとかじゃなくて、あれは生き物が相手だったから納得できなかっただけなんですよ!」
アンナ先輩は僕が不破さんを善導課に楯突いてまで助けた、ということしか知らないため、僕と不破さんと説明してアンナ先輩が母さんに確認を取る。
簡単に言うと、不破さんが飼っているペスと名付けられた犬が繁殖用にタマタマとサオを残した本来なら処分されるはずの犬で、《子供を犯罪の被害から守り健全に育てる条例》に引っかかる表現“物”として、生き物としてみていた僕や不破さん、本心がどうあろうと立場上“物”として扱わないといけない母さんと対立した。不破さんはその件で善導課に捕まり、その間に“物”は処理された。
不破さんはその時、非常に危うくなり、実際に善導課に自爆テロのようなやり方で殆ど意味のない体制への攻撃を仕掛けた。ただの八つ当たりに近い、自身の将来も考えないオナニーのようなことを、いやオナニーを馬鹿にしてほしくはないけど、とにかく不破さんは一回やらかしている。その為僕の母さんとも面識があったのだ。
「ああ、そういう理由でしたの」
アンナ先輩はあの時の第一清麗指定都市の騒ぎに、非常に心を痛めていた。不破さんも自暴自棄となっていた面はあったし、あの一連の騒動に関してはアンナ先輩も不破さんを被害者と認識したらしい。
「そういう理由なら、奥間君なら助けるかもしれませんわね。奥間君は、優しいから」
ペスの件に関しては、アンナ先輩の中では僕はそういう位置づけになったようだ。白認定されてホッとする。
母さんが意外そうにアンナ先輩を見ていた。いやガン飛ばしてるだけにしか見えないけど、アンナ先輩は幸い容姿で人を判断する人じゃないし、なんというか、むしろ気が合っているというか、何故か着々と外堀が埋められていっている。アンナ先輩、性獣なのになんで外堀埋めるのこんなに上手いんだよ。そういうとこの如才のなさが獣の面とはまた別の意味で本当に怖い。
「意外だな。君もそういう意見なのか」
「無論、規制されるべき卑猥な物を持っていたことに関してはわたくしなら没収し捕縛しますが」
アンナ先輩が、なんだろう、上手く表現できないけど眩しいものを見るような眼で僕を見ている。
「奥間君はそれでいいんだと、そう思いますの」
「ふむ」
母さんが珈琲を啜ると、
「やはり君は、変わったか?」
19 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:07:49.00 ID:Vqcr7VCy0
ああ、やっぱりそうなるのか。アンナ先輩の変化は顕著だからなあ。愛の儀式について語られたら僕殺されるなともはや悟りのような境地で聞いていた。
「奥間君がわたくしを深く愛してくれていることに、先日ようやく気付いたんですの。わたくしが思っていたより、ずっと強く」
アンナ先輩は、僕に笑いかけた。
「確かに奥間君がわたくしを変えてくれましたわ。ですがその変化はわたくし自身が研鑽を怠れば、悪い方向へ向かっていきますでしょう。わたくしは奥間君がわたくしを変えたのだと誇りを持って言える女性になるよう、努力していきたいと思っています」
穏やかさの中に、強い決意があった。僕が圧倒されるほどの。
「そうか」
母さんはアンナ先輩の様子に満足したのか、
「アンナのようになりたいと言っていたお前が、アンナにここまで言わせるようになったか」
「…………」
何も言えなかった。ただ何も知らずにその歪んだ健全さに憧れていた僕しか知らない母さんは、そう思っている母さんには、何も言えなかった。
不破さんは完全に外野の人間の筈だが、アンナ先輩が変化して一連の出来事に関わってたし、何か思うところがあるのかもしれない。ただじっと、無機質な瞳の中に何かを込めて、じっと僕を見つめていた。『それでいいのですか?』と問いかけているように聞こえたのは、僕の思い込みだろうか。
「……それで、わたしは解放していただけるのでしょうか?」
「わたくしは理由はありませんわね。今は生徒会長ではありませんから、持ち物検査をするつもりもありませんわ」
「残念ながら私も貴様のような要注意人物の所持品を見せてもらいたいところだが、今は休暇中だ」
不破さんは何とか無罪放免になったらしい。でもこれ、僕がむしろヤバくなってない?
「不破さんには以前お世話になりましたし、わたくしが支払いますわ。マスター、彼女と奥間君のお会計はわたくしが支払いますので」
「狸吉を奢る必要はない。アンナ、狸吉を甘やかしてはいかん」
「いえ、ここに寄る前に、奥間君にはプレゼントを買っていただきましたの。その分を考えると、むしろわたくしの方がお世話になっていますわ。奥間君はわたくしが世話をしようとしても自分でやってしまったり、むしろもっと甘えてほしいぐらいですの」
「本当に愚息には出来過ぎた娘だな、君は」
いやここでの世話ってもうほとんどペット的な扱いだから。家事とかだけじゃなく、勉強を教えてもらったりグチャグチャしたりご飯を食べさせたりお風呂に入れたりグチャグチャしたりグチャグチャしたり、とにかく隙あらば挑発してくるから。アンナ先輩、僕を学校辞めさせて自分のお部屋で飼いたいと思ってる節があるんだよなあ。
「せっかくですが、アンナ会長。自分の分は自分で支払います。もしわたしに何かを返してくれるというのであれば、わたしは別のことを求めます」
「え? 不破さん?」
僕だったら即刻逃げるようなこの状況で、何を言いだすんだ?
「せっかくですから、アンナ会長と奥間さんのお母様、善導課の幹部でもあるあなたにも問いたい」
不破さんの瞳はいつも通り無感情な、だけど何かを秘めた、挑戦的な光を込めていた。
「何故卑猥は悪なのですか? 行為の規制だけでなく、知識を求めることすら悪なのですか? それが社会のルールだから、正義だから、悪だから、嫌いだからという曖昧かつ感情的な理由ではなく、論理的かつ具体的な理由をわたしは知りたい」
20 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:08:19.29 ID:Vqcr7VCy0
「…………」
あ、母さんは無理だ。卑猥を取り締まる動機が正義ではなく憎しみだから不破さんの求める答えは持っていないし、理論や理屈に関しては僕は不破さんを上回る人を知らない。
「殺人はなぜいけないのかと同じレベルの稚拙な疑問だな。小学生レベルだ」
「そう思われるならばそれで構いません。何故ですか?」
「貴様のような小娘が知る必要はない。また答える義務も私にはない」
議論する気はない、と母さんはバッサリ断ち切った。
「でしょうね。善導課の幹部なら、そう言うしかない。ならばわたしは、アンナ会長の解釈を知りたいと思います」
意外にあっさりと引き下がり、おそらく最初からこれが目的だったのだろう、矛先がアンナ先輩に向けられた。不破さんの瞳に宿る挑戦的な光が強くなる。
「アンナ会長、お聞かせ願いますか? 卑猥は悪だからと教えられたからではなく、何故悪なのか、あなたの中に理由はありますか?」
不破さんも、あの一夜に関して思うところがあったのか、わからない。
ただここでアンナ先輩の暴走を止められる母さんがいるからこそ、不破さんは訊いているのだろうと思った。母さんが不破さんの指揮する特攻隊をポイポイと投げ捨てていく様子を見ているから、不破さんの観察力ならアンナ先輩と母さんが同等の身体能力を持っていることには気付いているだろうし。
「わたくしの考えでよろしいですの?」
アンナ先輩が困惑しているように見えた。なんでそんな当然のことを聞くのだと言いたげな。
「そういうテーマのディベートをしたい、ということでよろしいですの?」
「そうですね。もしよければ、奥間さん親子にはそのジャッジをしていただきたいかと」
「……奥間君とお義母様がいいなら、かまいませんけど」
どうしますの?と視線で問いかけられる。僕は母さんの方を見た。
「私は構わん。若い世代が考えるのは悪いことではないからな。ただ私は善導課の人間だ。狸吉、お前が決めろ」
丸投げじゃねーかそれ。母さん、理屈で丸めこむんじゃなくて力業でねじ伏せて従わせるタイプだからな。
でも正直、アンナ先輩が卑猥についてどう考えているかは僕も興味あった。というより、卑猥をどう捉えているか、何故絶対悪とするのか、社会は何故そう教え知識からすら一切を切り離していると思っているのか、アンナ先輩の頭脳ならある程度答えを持っているはずだった。それが僕らから見てどう歪んでいるにせよ、それがこの社会の在り方として、僕も理解する必要があると思えた。
「あの、アンナ先輩。不破さん、本当にしつこいですから、答えてあげた方がいいと思いますよ」
「いえ、その、意外でして」
アンナ先輩の困惑は続いていた。
「不破さんがそういう方なのはわかっているつもりではありますが、不破さんはわたくしのことが嫌いだとばかり思っていましたわ」
「嫌い、ではありません。見解は絶対重ならないかとは思っていますが。ただ」
不破さんが初めて、真正面から見るのではなく、眼を伏せた。いつも科学者として事実を追い求めていたあの強い好奇心の光はなかった。
「わたしも、大事な存在を奪われた時、自分で自分を止められなくなったことがありますので」
それ以上のことは、不破さんは言葉を重ねようとはしなかった。
そうか。
ペスが善導課に没収され去勢された時の事と、アンナ先輩の目線では僕が奪われて怒りと憎しみに酔っていた時のこと、重ねているのか。
それにあの時不破さんは、不破さんも含めた時岡学園の生徒たちの為に何も出来ないながら走り回っていたアンナ先輩を陥れようとしていた。そのことも、罪悪感が残っているのかもしれない。
僕も不破さんはアンナ先輩のことを嫌っているのかと思っていたけど、むしろ反対で、心配しているのかもしれない。
それがアンナ先輩にも伝わったのだろうか。あの夜を境に変化した、しかしやはり人を救う天使ではなく女神の微笑で、
「わたくしの考えで良ければ」
少しだけ嬉しそうに申し訳なさそうに、不破さんの問いを受け止めた。
21 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:09:17.30 ID:Vqcr7VCy0
「卑猥と最も近い性質の犯罪は何だと思いますか?」
まずアンナ先輩が問いかけた。僕も考えてみるけど、正直卑猥だけでは範囲が広すぎてすぐには思いつかない。
不破さんも似たような感じだったのか、僅かに悩んだ。だがすぐに、
「暴力でしょうか」
そう答えた。そうなの?
「単語を口にするだけで、行動だけで、特別な道具も何もなく非常に身近に、そしてすぐに行える部分が、該当するかと思います」
そうかもしれないと思えた。アンナ先輩はいきなりは否定しなかった。
「そういう側面はあるかもしれませんわね。ですが窃盗なども同じことが言えると思いますわ」
不破さんは反論しない。というより、アンナ先輩の考えを引き出すための呼び水としての意見だったらしく、強くは主張しなかった。
「実は、この国において完全に規制されている犯罪はたったの二つですわ」
え?
「卑猥と違法薬物、この二つのみなのです」
「???」
え? アンナ先輩の日本ではそうなってるの? だから刃物向けたりするのもアンナ先輩の中ではOKなの? いやいや、六法全書に色んな犯罪が明記されていると思うんですけど、エロ本にエロがないみたいな言い方じゃないの、それ?
「なるほど、そういう捉え方ですか」
え? 不破さん、なんで理解できてるの? ついていけない僕がおかしいの? いや、母さんも困惑してたから、まあ僕しかわからないだろうけども、とりあえず僕の頭どうこうという訳じゃないらしいのはよかった。
僕の困惑が伝わったのか、アンナ先輩が改めて分かりやすく言葉を重ねる。
「今の日本で殺人は完全に規制はされていませんわ。日本には死刑制度があります。死刑を殺人というならば、殺人は暴力の延長線上にある犯罪と言えるでしょう。懲役刑も無辜の人間に行えば監禁罪に、罰金も個人の財産の窃盗に当たりますわ」
言われた瞬間は面食らっていたけど、理解が進むとなるほどと思えてきた……気がする。
「司法の定める刑罰の中ですら行われていないのが、違法薬物と、そして卑猥に関する全てなのですわ」
不破さんは反論せず、アンナ先輩の意見を最後まで聞く姿勢を取っていた。アンナ先輩もそれに応える。
「卑猥の蔓延していくその様子は、違法薬物が蔓延する様子と酷似していますわ。特に青少年に伝わりやすい面も含めて。わたくしにはよくわかりませんが、卑猥は違法薬物と同じように、手に入れることである種の快楽があるのでしょう。卑猥が蔓延してしまった学園の生徒の様子を見れば、それは歴然としています」
いやアンナ先輩が多分学園内でもトップクラスに卑猥の快楽に嵌ってる人だと思うんだけど、それはツッコまないしツッコめないというか僕がもうアンナ先輩の中にツッコんでしまってるから何かを言うなんて出来るわけないよね。
「知識を一切切り離す理由もこれで説明がつきますわね。そもそも存在を知らなければ、違法薬物を試そうと思わないでしょう。だから卑猥は知識も含めて徹底的に排除されるべきなのですわ」
「知識がないからこそ、身近に迫った時に自分の身を守ることが出来なくなるのでは? 護身としての最低限の知識すら制限することは、むしろ危険性を認知できずに知らない間に被害に遭ってしまうのではないでしょうか」
初めて不破さんが反論らしい反論を唱えた。だけどアンナ先輩は聞き分けのない子供を苦笑交じりに説き伏せるように、
「少しでも知ってしまえば、好奇心というものがどうしても生まれてしまいます。それが快楽に結びついているのならばなおさらそうですわ。むしろ危険性があると知れば、そちらの方が好奇心を刺激されてしまいます。どのような分野でも、知識というのは完全に教えるのは不可能ですの。ならば一切を切り離し、徹底的に排除するのが、大人の、行政の、国の役目でしょう」
「…………」
22 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:09:57.16 ID:Vqcr7VCy0
不破さんは何か僕に問いたげに見てくる。正直、僕はアンナ先輩の言葉に一瞬納得しかけてしまった。演説の上手さもそうだし、何より綺麗な理屈に聞こえたから。
だけど。
アンナ先輩の理屈は、綺麗すぎた。
アンナ先輩は卑猥を違法薬物と一緒にした。そもそも存在を知らなければ手を出すこともない、と。
だけど現実は、アンナ先輩は今でも性知識を知らないのに、卑猥の快楽に最も嵌っている子供の一人だ。
違法薬物に関しては、そうかもしれない。タバコやお酒も、知らなければ試そうとは思わない。そもそも知らないのだから。それはアンナ先輩の言うとおりだと思う。
けれど卑猥は、性は、一切の知識がなくても、辿り着ける。それは人間の中に眠る本能から来る衝動だから。
だからこの二つは、明確に違う性質の事柄なんだ。
この程度のこと、僕が思いつくのに、不破さんが思いつかないわけがなかった。不破さんが最初に暴力と卑猥が似ていると言ったのも、人間は凶暴な部分が、破壊を求める本能的な部分があるからなんだろう。その類似を指摘したんだろう。
「奥間さんは、どう思いますか?」
不破さんが、問いかけた。
「えっと」
正直、どう答えればいいかわからない。知識を最低限必要という不破さんの主張に賛同したいけど、なんというのか、アンナ先輩の綺麗すぎる理屈に上手く反論できない。
それに少しでも知ってしまえば、好奇心が刺激され、試したくなるというのも現実にそうだ。不破さんが代表格だしね。
「僕は風紀優良度、最底辺校の出身です。卑猥な知識は、今の時岡学園よりずっと多く触れる機会がありました。そこでの同級生を見る限り」
息を吸い、善導課に補導される昔の同級生たちを思い出す。
「卑猥の危険性より、卑猥の魅力に取りつかれる奴の方が、多かったです。でも」
何も知らないからこそ間違ってしまった、憧れていた女性を見つめる。
「アンナ先輩も、最初《雪原の青》とすれ違った時、それが卑猥なイラストをばらまいていたのだとわからなかったと言ってたじゃないですか。だから僕なんかが生徒会に入れて……その、だから、不破さんの主張も一概には否定できないんです。自分の身を守るのに、最低限の知識は、やっぱり必要なんじゃないかとは思います。でも知ってしまえば、好奇心に負けてしまうやつが多いのもそうで」
なんだか伝えたいことはたくさんあるはずなのに、どう伝えればいいかわからなくなった。というより、混乱してきた。
「知識そのものには善悪はないというか……結局人それぞれというか……」
しどろもどろになってしまった。それでも何とか伝えたくて言葉を重ねようとするけど、
ピピピピピピピピ
ピピピピピピピピ
「あれ」
「誰だ、休暇中に」
僕と母さんに、ほぼ同時にPMに電話が入った。僕からの相手は、『華城先輩』?
「えっと、華城先輩からなんですけど、出てもいいですか?」
「構いませんけど……わたくしにも聞こえるようにしてもらえません?」
浮気の電話だと思ってるのかなあ、アンナ先輩がにこやか暗黒オーラをまた立ち上らせていく。華城先輩、僕の心を削って楽しいですか?
23 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:10:22.87 ID:Vqcr7VCy0
隣では母さんの気配が険しくなっていく。それにも不吉な予感を覚えつつ、PMの音量を操作する。
「もしもし」
『奥間君? アンナもそこにいるでしょう?』
生徒会モードの、だけど切迫した声に、僕もアンナ先輩も不破さんも思わず聞き耳を立てた。
「どうしたんですか?」
『奥間君、アンナから離れないで。傍にいてあげて、いいわね』
ぶつん、とあまりに不自然にPMが切れた。様子のおかしさに、僕達は顔を見合わせる。
「すぐ戻る」
隣では母さんが立ち上がった。今の華城先輩の声も聞こえていたみたいで、
「今の女は鬼頭厚生病院に入院か病院に見舞いに行っていたりするのか?」
母さんの顔が、いつになく真剣で険しかった。
「わたくしの親友が入院してますわ」
「すぐにニュースになるだろうから伝えておく」
ちっと舌打ちする。僕は母さんが通れるように立ち上がり、その先の言葉を待つ。
「鬼頭厚生病院の最上階で入院患者、病院関係者、見舞客全員が人質となって立て籠もる事件が起こった。私は現場で指揮を執る」
がたん、とアンナ先輩が立ち上がった。目を見開き、戦慄きながら。
「狸吉、その女の言葉通り、アンナの傍にいてやれ。いいな」
その言葉を残して、母さんは出て行った。
「アンナ先輩」
思わず呼びかける。アンナ先輩の表情は、銀髪で隠れて見えない。
ただ僕の視線から逃れるように顔を逸らしたことだけがわかって、だけどその意味よりも華城先輩たちが気になって心配過ぎて、だからアンナ先輩が何に怯えたのか、わからないどころか気付きすらしなかった。
24 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:11:01.74 ID:Vqcr7VCy0
――緊急ニュース速報――
『本日午前十一時半頃、第一清麗指定都市にあります鬼頭厚生病院にて人質立てこもり事件が発生しました。
犯人グループは武装していると情報が入っておりますが、規模は不明とのことです。
――今入ってきた情報があります、どうやら犯人グループの要求は、
《公序良俗健全育成法》そしてそれにまつわる全ての条例の廃止とのことです。
警察では人質のPMは外されており、人質の人数は把握できていると発表がありました。
第一清麗指定都市では《SOX》などによる卑猥なテロ活動が頻発しており、この事件に触発される犯罪の増加も懸念されます。
政府は卑劣なテロ行為には屈しないとの声明を発表しました。
人質には各界の著名人も多数いるとの情報もあり、現在は警察の情報の発表が待たれます』
25 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:11:44.27 ID:Vqcr7VCy0
「なんだよそれ……!」
ニュースは母さんが出て行ってから、二十分後にPMで流された。
華城先輩の下ネタよりもタチが悪いニュースだ。こんなやり方で《育成法》が撤回できるわけないのに。
だからこそ僕達が色んな人たちの力を借りて、ようやく開けた体制への小さな風穴が、ついこの間出来たのに。
直感する。この事件は、《SOX》の開けた風穴を、全て無に帰す。
政府はきっとこの事件を利用して、《SOX》と関連付けて、体制の強化への口実に乗り出す。
だけどそれ以上に何よりも、華城先輩やゆとりや鼓修理が人質になっていて、今現在危険な目に遭っている。
小さく、袖が引っ張られた。
「奥間君」
アンナ先輩はまだ顔を逸らしたまま、
「警察に、任せましょう……わたくしたちがやることは、何もありませんわ」
「え?」
何を言っているのか、わからなかった。
僕がいなくなった時、あれほど憎しみに身を任せていたアンナ先輩が、そうでなくても悪を絶対に許さないアンナ先輩が、親友を人質に取られて何もしないことを選ぶだなんて。
バスジャックも銃器を持った相手に一瞬で決着をつけ、《群れた布地》のスタンガンなどをもった数十人相手にも無双できるような、最強の最終兵器彼女なのに。
「アンナ先輩?」
華城先輩はアンナ先輩の傍にいるように言った。暴走しないように見張っておけという事なのだとすぐ分かった。僕も事件を知った時、そうするべきだと思った。
だけど実際は、暴走どころか、ひたすらに沈み込んでいる。予想と違う反応に困惑してしまう。
「アンナ会長、大丈夫ですか?」
不破さんも異変に気付き、声をかける。多分不破さんも似たように感じたんだろう。
「……民間人に、未成年であるわたくし達は、待つしか出来ないと思うんですの。心配……もちろん、心配で、不安で……ですけど……」
身体が震え、息が荒くなっている。発情とかそんな時のものとは明らかに違う。
26 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:12:13.49 ID:Vqcr7VCy0
「厄介なことになっておるようじゃの」
「うわ!?」
いきなり現れた座敷童に思わず声が出る。いやアジトでイラストを描いていたのは確かに予定通りだったのだけど、正直ちょっと忘れていた。
「マスターよ、悪いがわしらの貸切にしてくれんかの? それと、アンナが休めるような部屋はあるかの?」
華城先輩たちが人質になっているという異常事態、アンナ先輩のあまりの調子の悪そうな様子に、真剣ではあったけどいつものペースを崩さない早乙女先輩の声は正直ありがたかった。
「あの、アンナ先輩。家に帰った方がよくないですか?」
とにかくあまりにも調子が悪そうで、暴走どころかこのまま倒れてしまいそうだった。アンナ先輩の背中をさすりつつ、月見草に連絡して迎えに来てもらおうとPMを操作しようとして、
「奥間よ、今アンナを動かすとはまずいと思うのじゃ」
早乙女先輩が、僕の動作を遮った。真剣な様子に、僕の手が止まる。
「マスターよ、悪いが今からここは貸し切りにしてもらうぞ。アンナ、奥の個室にはアンナが休めるぐらい大きなソファがあるからの、そこで一旦休むといい」
「え、ええ……」
アンナ先輩は言葉を発するのも難しい程息が荒くなっていた。ここ数週間の疲れが、一気に堰を切って体調に現れたのかもしれない。
「アンナ先輩、僕がついて」
「奥間と不破は薬を買ってきてくれんかの?」
「は?」
多分僕の目には苛立ちが込められていたと思う。小声で早乙女先輩の耳打つ。
「華城先輩にはアンナ先輩から離れないように言われました。今の状態を思うと、僕もそう思います」
「じゃが《SOX》としてもこの事件はどうにかせねばなるまい。それぐらいのことはわしにもわかるぞ」
「わかってますよ、でも今は……!」
「わしに任せてくれんかの、奥間」
ふざけた調子の一切ない言葉に、僕は思わず黙り込む。
「多分じゃが、今おぬしが傍にいると逆にアンナは悪くなっていくじゃろう」
「……信じていいんですね?」
早乙女先輩はニヤ、と不敵に笑うと、僕から離れた。
「不破よ、すまぬが」
「ええ。少なくとも奥間さんは、副会長を助けに行くのでしょう? ネットワークを使って必要な情報を集めておきましょう」
「頭がいいと助かるわい。奥間よ、おぬしは月見草に連絡をとれ。月見草も善導課の一員なら何かしら情報が入るかもしれん」
不破さんがここにいるから言わないけど、早乙女先輩はそれ以外にも、《SOX》として出来ることを出来るだけしておけと視線で伝えてくる。
「その間のアンナは、任せておけ」
いつになく頼もしく、早乙女先輩は親指を巻きつける卑猥な握り拳で、僕のお腹に軽く当てる。
「はい。よろしくお願いします」
早乙女先輩を信じることにした。早乙女先輩は今のアンナ先輩の様子に、僕とは違って何かを確信している。
それがわかったから、だから任せた。
それがあんなに危険なことだとわかっていたら僕はきっと止めていただろうけど、それでもこの状態で何が最善かと言われたら、きっとこれしかなかった。
27 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:12:45.25 ID:Vqcr7VCy0
(ち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こ……)
PMが外されたことをいいことに、精神安定のようにもはや下ネタといっていいのかわからないただ性器の名前をぶつぶつと呟いている《雪原の青》こと華城綾女の様子に、これ割とダメだとゆとりは確信した。
今現在、人質のPMは全て強引な手段で外されている。外部の連絡手段を断つためというだけではない、何か、別の主張みたいなものを感じた。
《公序良俗健全育成法》の撤廃。
PMは、その象徴。これを外して、差別されない自由な社会を。
犯人グループの一人が呟いた言葉だった。この犯人グループは自分が見ても訓練されていると思う。動きに乱れがなかった。武装している銃器も、モデルガンではなく違法改造したエアガンみたいで、実際に壁に穴を空けてみせた。誰も動けなかった。
人質は18人。自分、綾女、鼓修理に加えてナースステーションにいた看護師が3名、医師が1名、綾女以外の入院患者が4名、その他の見舞客が7名。
ただ、ただの人質ではなかった。この階は政治家や芸能人が逃げの為の特別病室となっていて、政財界の大物が3名にゆとりも知ってる芸能人1名が人質になっている。警備も厳重な特別な階で、面会にも入院患者からの確認、そしてPMによる照会が必要なほどだ。許可された人間のみが直通のエレベーターにまで案内され、基本はそのエレベーターでしか出入りできない。非常階段もあるとは思うが、ゆとりはそこまでここの病院の警備に関して詳しくはない。
今は全員が大きな休憩スペースに入れられ、手錠で後ろ手に拘束されている。犯人の三人がこの部屋の中にいて、自分たちを見張っている。
綾女はPMが外される前に何とか狸吉に連絡をとれたようだが、それ以外はどうしようもない状態だった。テレビが付けられていて、外の情報は一応把握できる。犯人の余裕の表れなのか、不幸中の幸いと言っていいのか、とりあえず小声の会話ぐらいは許されていた。
テレビでは早速、最近の第一清麗指定都市の風紀悪化やソフィアのデモとこの事件を一緒に扱っていて、国がこの事件をどう扱っていくかが手に取るように分かった。
だからこそ綾女は殆ど錯乱して三角座りをしながら声が隣の鼓修理と自分にしか漏れないようにぶつぶつと現実逃避をしているのだ。それで何とかなるなら自分も何か唱えようか。狸吉好き狸吉好き狸吉……
(おい頭の中を侵食すんな!?)
(からかわなきゃやってらんないっすよこの状況!)
使い物にならない綾女を挟んで全く実にならない喧嘩をする。《SOX》の主要メンバーは殆ど身動きが取れないし、狸吉もあの化け物女を抑え込むのに精いっぱいだろう。
(一回《群れた布地》やっつけてるだろう、お前達)
(装備も動きもかなり訓練されてるっスよ? 鼓修理の持ってるスタンガンレベルじゃなく、あの銃は人を殺せるッス……壁の穴を見ればわかるッス。それにあのときはその、あの化け物の力も借りての事っスよ)
一体どうやってそんな協力を取り付けたのか、ゆとりは純粋に驚いた。どうやったのか詳しく聞きたいが、今はそういう場合じゃないと頭を切り替える。
(あいつら、他の下ネタテロリストのやつらか? 見た事ねえけど)
(多分、違うわ。鬼頭慶介がこんなこと、許すとは思えない)
ようやく会話に綾女が入ってきた。なんとか眼には力が戻っているが、綾女の怪我はまだ重く、普通の動きも難しい。
(きっと、ずっと時機を見てたんだわ。いつ生まれるかわからないチャンスを逃さないよう、必死に訓練してきたのでしょうね。……見た限り、犯人グループの殆どは、まだ若いわ。私たちと同じぐらいじゃないかしら)
そう言われて、ゆとりも気付いた。そう、犯人グループの殆どは、確かに自分達とさほど変わりのない年齢だった。
(要求からすると、きっと……ゆとりの方が理解できるんじゃないかしら)
《育成法》の撤廃を、PMからの自由を。
それは、昔のゆとりが守ろうとしてだけど無理だった、差別を受けてきた子供の叫びだった。
この事件は歪んだ健全な社会に切り捨てられた子供の、捨て身の反抗だと気付いた。
《SOX》と出会う前の自分そっくりで、だけど流されて終わることを選ばず、せめてもの反抗を選んだ子供たち。
世間が、世論が、政府と対立して揺れた時機を見ての決行から見ても、流されていた自分よりもずっとしっかりとした頭を持っているんだろう。《雪原の青》のように。
ゆとりは昔の自分を思い出してしまって、何も考えられなくなってた。
綾女も同じだったのだろうか、綾女も黙る。
《SOX》のしてきたことを全て無に帰すかもしれないこの事件に、責める感情は生まれなかった。
(どうして、待てなかったんだよ)
ゆとりの呟きに、誰も答えない。答えはわかりきっていた。
救いは今、欲しいのだから。その救いがいつか来るかもと期待することは出来ない程に、この世界に責められ続けてきたのだろうから。
犯人たちはきっと下調べもしていろいろ準備もして訓練も自分たちなりに頑張って、それでもこの事件は無駄にしか終わらないだろうと思うと、これが《SOX》の末路にも思えて、ゆとりにはもう未来は見えなかった。
やっぱり、駄目だったんだ。流されておけばよかった。期待するからこうなった。
そんな昔の自分と同じ考えが生まれて、情けなさにどうしようもなくて、でもこの状況を狸吉が何とかできるとはとても思えなくて、もうどうしようもなくなってた。
28 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:14:04.78 ID:Vqcr7VCy0
外に出て、歩きながら考えるけど何も浮かばない。とにかく情報が欲しかった。PMを操作し、とにかく電話をかけてみる。
「あ、撫子さん! あの、何か連絡ありましたか!?」
『善導課から連絡が来た時はとうとう捕まったのだと思ったけどね。まさか別の奴らに捕まってるとは思わなかったよ』
飄々としているが、華城先輩の育ての親である華城撫子の声は苦かった。当たり前だけどそんなに情報は持っているわけがないが、それでも保護者の立場から何か聞いているかもしれない。
「あいつら、下ネタテロ組織のやつらですか?」
『違うだろうね。多分、あんたらに触発されて自分も動きたいと勇み足踏んだ奴らだろうさ』
「うちのメンバーが、殆ど……早乙女先輩以外、全員があの病院に……」
『それでうちの綾女は怪我してるんだろう? お荷物だね』
「華城先輩はお荷物なんかじゃ!」
『で、あんたは善導課の連中にこの事件を任せる気かい?』
「そんなつもりはありません! ありませんけど……!」
はあ、と溜息がPM越しにも聞こえてきた。当然だろう。
『あんた、泣き言言うために電話してきたのかい? こっちはそんな暇ないんだけどね』
「鬼頭慶介に、コンタクト取れないですか? 電話でも構いません」
鬼頭慶介。鼓修理の父親であり、日本中の下ネタテロリストを影から支援し、コントロールしている
鼓修理が捕まっているというだけでない。犯行の舞台は、鬼頭系列の病院なのだ。
かなり曲者で僕一人じゃ交渉は難しいだろうけど、それでもやるしかない。
『連絡は取れる。だけど何を武器に、どんな交渉をするつもりだい?』
ぐ、と詰まる。何の考えもなしにはやっぱり、交渉は無理か。
「分かりました。一旦頭を冷やします。……連絡の準備は、いつでもできるようにしていただけますか?」
『ああ。まあ一筋縄じゃいかないだろうけどね。あれはなかなかの親バカだし、娘が捕まってるなら向こうは何かしら対策をとるだろうさ』
親バカというよりはバカ親だけど、その対策がおそらく《SOX》とは相いれないものになると思うからこそ、連絡を取りたかった。だけど今は何も浮かばない。童貞の早漏連射砲じゃなく、何かテクが必要な相手だ。
撫子さんの電話を切り、一旦冬の冷たい空気で頭を冷やそうとするけど、外の空気は身近で起きた大きな事件に浮かれまくっていた。関係のない人間からすれば、政府の動きも《SOX》の主張もこの事件の目的も、きっとただの乱痴気騒ぎでしかないんだろう。ところで乱痴気騒ぎってやっぱり乱交パーティーの事かな。つまり今、この街は乱交パーティー真っ最中なのか。
「奥間さん」
白衣姿の不破さんが戻ってきていた。ついでに月見草も一緒だ。
「月見草、お前も来てくれたのか」
前回一番の功労者といっても過言ではないこいつが来てくれたのは、アンナ先輩対策としてありがたい。
そう言えば、アンナ先輩のことも非常に気になるのだけど、まだ月見草には連絡を取っていないのにどうしてここにいるんだ?
「先程アンナ様から連絡がありました。喫茶店前に来て待機するように、と」
「待機? 理由は」
「存じません」
29 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:15:06.19 ID:Vqcr7VCy0
やっぱコイツ役に立たないか。いないよりはマシだろうけど。
喫茶店前で待機……僕が帰ってくるのを待っているのかな。一緒に帰りたいとか。
「単純に調子が悪いだけならばいいんですけどね」
不破さんが僕の思考を読んだのか、不破さんなりにアンナ先輩のことが気になるのか、口を挟んできた。
「不破さんの方はどう?」
「芳しい情報は何も。テレビで言われている以上のことはわかりかねます。ただ、情報の確度は高くないのですが、犯人たちは十代中心という情報があります」
うーん、不破さんのネットワークでもそんなふにゃちん程度の情報しか得られないのか。といってもまだ事件のニュースが流れて一時間も経っていないし、不破さんのネットワークも一般学生からのものだから、過度の期待をする方がむしろ酷だよね。
とりあえず、アンナ先輩も心配だし、喫茶店に戻ることにする。アンナ先輩をほっといてから30分ぐらい経ってる。事件のニュースが流れてからは1時間ぐらいか。
喫茶店に戻ると、ドアの前にマスターが立っていた。「?」と近づく。
「二人きりにさせてほしいと言われましてね」
マスターはそれ以上何も言わなかった。とりあえず入ろうとしたドアノブに手をかけた瞬間、
「!!?」
心臓を鷲掴みにされ、背骨に直接錐をねじ込まれるような、そんな最悪の感覚が全身を貫く。
アンナ先輩から半年以上逃げ回り、《センチメンタル・ボマー》として鍛えた鋭敏な感覚が全身に撤退を求める。だけど動けない。
「……みんな。悪いけど、外で待ってて」
あの夜に感じた空気の軋みをドア越しにも感じた。僕ほどでなくても、不破さんは気付いたらしく、この寒い中冷や汗をダラダラと流しながら、
「月見草、不破さん捕まえといて」
「かしこまりました」
「ちょっ」
今にも逃げたそうにする不破さんだったけど、この中で僕の骨を拾ってくれそうなのは不破さんだけだから逃がさないよ?
月見草に羽交い絞めにされ、身動きの取れなくなった不破さんは諦めたように、
「生きて帰ってきたら何かお返ししてもらいます」
ちゃっかりと約束を取り付けた。でも僕は答える余裕なんてなかった。
早乙女先輩は何をして、一体どうなったのか。
喫茶店の扉を、精一杯力を込めて開く。
いつもの喫茶店の筈なのに、まるで魔王の城みたいな強烈な圧迫感があった。奥の個室にいるはずだけど、そこが明らかに異質な空気になっている。
あの夜の、人質交換の時のような、何かが完全に解き放たれた気配。
「――アンナ先輩?」
奥の個室に、精一杯の勇気を込めて乗り込む。
「――奥間君」
声は静かだった。だけどむしろその静かさが異常だった。
部屋の中で破壊されていないものがソファ以外、殆どなかった。テーブルも椅子もバラバラになっていて、壁にはあちらこちらに穴が開いていて、窓のない部屋だからガラスなどは割れてないけど、そこだけ巨大地震でも発生したかのようだった。
「おおお、奥間!」
しゃがみこみ後ずさって泣きそうになっている早乙女先輩を、アンナ先輩がいたぶるように一歩ずつ追いつめている。早乙女先輩が僕に気付いて叫ぶが、ただでさえ状況がわからない僕は、完全にこの空気に呑まれていた。
「ありがとうございますですわ、早乙女先輩。わたくし、感謝しています。本当ですわよ?」
鈴の鳴るような涼やかな声に、か弱い獲物をいたぶる嗜虐が混じっていた。ただ僕をいじめる時とはわけが違う、相手の安全を考えない、僕を性的に襲う時とは全く違う衝動に酔いしれた声。
アンナ先輩が早乙女先輩に手を伸ばし、無理矢理に立たせる。そしてそのまま僕の方へ投げ「うわっ!?」
「はわわわわ、お、思っていた以上に危ない状態だったみたいじゃ! い、いや予定通りではあるのじゃが、あとはおぬしに任せた!」
「おい!」
僕から飛び降りると凄まじい勢いでいなくなった。スケッチブックだけはしっかりと回収してたけど。
30 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:15:50.89 ID:Vqcr7VCy0
「奥間君」
「ははは、はい!?」
あの夜のような、迫力を持って他者を傅かせる圧倒的な美が、無条件に従わせるカリスマ性を持って、それらすべてを僕に向ける。
「ねえ、奥間君」
どこか甘えるような、言い聞かせるような、そして獲物の抵抗を期待するような、陶酔しきった声。僕がどんな返事をしようとも、力尽くでねじ伏せられる。むしろそれを愉しみたいとすら思っている。
本当、早乙女先輩は何をしたんだこの人に!?
だけどその疑問は次のアンナ先輩の言葉に吹き飛ぶ。
「わたくしを、あの病院に行くことを、許してくださいまし。あそこには、正義に仇なす巨悪がいますの。悪を殲滅したいんですの」
ぞわっとした。今のアンナ先輩は、人質を無傷で救おうとか、そもそも人質の安全を考えていないとはっきりわかる。
「僕以外の人間はいらない」と、《雪原の青》に見せつけるように僕を無理矢理に発情させた、あの瞳そのままだったから。
ただ衝動に任せて酔いしれたいだけ。
「――ダメです」
そう答えるしかなかった。こんな言葉で止まるとは思えなかったけど、それでもこう答えるしかなかった。
「ふふ、ふふふひっ」
舌で唇を濡らし、僕を完全に獲物としてロックオンしたことを、今の嬌声に近い笑い声で知った。
これ、もう死ぬしかないよね? 僕死ぬよね? アンナ先輩のお腹の中に入ってずっと一緒エンドだよね?
「奥間君……どうしていかせてくれませんの?」
アンナ先輩にとっては拒絶の言葉だったろうに、むしろわくわくしているかのように捕食者としての笑みが深くなっていく。今朝見た時よりもはるかに熱が大きく、周囲の空気が歪んでいた。
「病院にはとびっきりの悪がいますのに。あの悪を殲滅すれば、わたくしの正義はより強固なものとなって、奥間君への愛も深まりますのに」
「アンナ先輩……その、まずこの状況を説明してほしいんですけど……」
とにかくなんでこんなあらゆる本能衝動全開モードになってるのか、経緯を知れば少しは対策が見えるかもしれない。
と、アンナ先輩は胸の中から……胸? え、何挟んで
「何ですかそれぇぇぇ!?」
な、な、な、な!?
こ、これは昔の不健全図書で噂に聞く、ち○こを模したオトナの玩具……ディルドじゃないか!? なんでそんなものがアンナ先輩の胸に挟まってるんだ!?
「ああ、人肌で温めたら、より感覚が近くなりますわね……色も形も大きさも感触も、奥間君がわたくしを愛したいと最大に願っている時のもの、そのものですわ」
アンナ先輩の瞳が僕の下半身を捕食したいという方の欲望で一気に染まる。愛おしそうにペロペロと舐めている姿は確かにフェラする時そのものだったけど、ってかあれ僕のカタチなの!? 僕に関しては不破さんと同じレベルの観察力を発揮するアンナ先輩が言い切るんだからそれだけ精巧に作られているんだろうけど、なんで!?
「早乙女先輩が、不破さんと一緒に作ってみたと仰っていましたわ」
あの無駄な方向へ無駄に才能を発揮するバカ二人には男女平等パンチ見舞ってやる!! チョップじゃ済まさねえ!!
「奥間くぅん……ねえ、いかせて下さいまし」
甘える調子が強くなる。このモードで外に出すと確実に死者が出る。まず真っ先に僕が死ぬ。病院より葬儀屋に直行する。あと『いく』の意味が違って聞こえるのは僕は悪くない。
31 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:16:31.39 ID:Vqcr7VCy0
「あああ、あの、その、えっと」
「それとも、わたくしと愛し合ってくれますの? 初めての夜のように、深く、熱く、激しく愛してくださる?」
まずい、全然言葉が浮かばない。アンナ先輩、大人のこけしをペロペロしながら自分で胸を揉みしだき始めるほど発情してるし、もはや僕の言葉が聞ける状態じゃない。分かっていたけどこんなに一気にメルトダウン起こされるともうどうしようもない。
だからといってアンナ先輩が僕の貞操を奪った時ほど愛し合う暇なんてない。っていうか、体力的に持たない。
「疲れたくないのであれば、これを使えばいいと思いますの」
そういう意図かバカかぁ!
「でも、でも、やっぱりわたくしは悪を殲滅したいんですわ。……《SOX》を逃がしてから、ずっと募ってきた想いがありますの」
瞳にピンクのハートっぽい何かを宿していたアンナ先輩が、またあの不吉過ぎる気配に戻る。
「奥間君。やっぱり、わたくしは」
声には怯えがあった。様子が変わったアンナ先輩を、思わず僕は見つめてしまう。
一瞬だけ、躊躇ったように見えた。だけどすぐにその熱に浮かされるままに、
「奥間君以外はいらないんですの。わたくし以外に優しさを向けないでほしいですわ。わたくし達の邪魔をする者に愛の罰を与えることを考えると胸がざわついてゾクゾクしますの。《更生プログラム》のことも、世界の悪をわたくし達の愛で塗り替えられたら、どれだけわたくしは満たされるでしょう」
あの夜、人質交換の時に再会した時の恐怖がそのまま蘇る。
性衝動と破壊衝動が、愛と憎しみから来る激情が、アンナ先輩の中で『愛とそれを邪魔するものへの罰』となって変換され、矛盾なく両立されていく。
だけど両立されていくそのさまに、アンナ先輩がそれを自覚していて、そして傷付いていた。その様子に、少なからず僕の方が驚いていた。
「奥間君は言いましたわよね? 『こんなアンナ先輩は嫌です!! 僕が憧れたアンナ先輩は、僕の好きな先輩は、人を傷つけて悦ぶような、そういう人じゃない!!』……一言一句覚えていますわ」
衝動も激情も先程からそのままに僕に向けられていて、けれど今はアンナ先輩に脆さを感じていた。
「だけど、こうも言ってくれましたわ」
――僕はそういう衝動を持つことだけで、アンナ先輩を嫌いになったりしません。絶対に。
「持つことだけでは嫌わないと、そう仰ってくれましたわね」
衝動も激情も、アンナ先輩自身を傷付けるほどに極度に肥大していたから。
知識もなく、機会もなく、それらを覚えることすら許されずに育てられたアンナ先輩は、
「では、今、この身を焦がしているこの熱は、どうすればいいんですの?」
危うい、という言葉が僕の中で浮かんだ。
命の危機を感じているのはこちらなのに、崩れ落ちそうなのはアンナ先輩の方だった。
32 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/21(金) 10:17:50.87 ID:Vqcr7VCy0
――少し時間は遡る。
「ペットボトルで済まんの。水じゃ」
「あ、ありがとうございますですの……」
義母から事件を聞き、PMでニュースが配信され、それが事実だと認識した瞬間、アンナはぐらぐらと頭が揺れる感覚に陥った。
早乙女先輩が持ってきてくれた水を飲んで熱を冷ます。だけどこの程度の水では熱が冷めない。促されるまま、奥の個室のソファに横にさせてもらう。頭は熱に浮かされたように、ぼうっとして働かない。働かせたくない。
「奥間君は……奥間君は、どこですの?」
愛しい人といれば、この熱も忘れられるのに。愛しい人の愛があれば、このこみ上げる熱と同じぐらいの熱を放ち、幸せを感じられ、忘れることが出来るのに。
だけど返ってくるのは、アンナにとっては無慈悲な答えだった。
「奥間は薬を買いに行っている。薬局はちょっと遠いからの、しばらくはかかるじゃろうて」
優しい声だったが、怒りを感じた。今一番の薬は奥間君からの愛なのに、なぜ奪う?
熱が強くなり、持ってきてもらった毛布に頭ごとかぶり、外からの音を遮る。息が荒くなっていくのがわかる。「んっ」指を口の中に入れて震えを止めようとするけど、うまくいかない。
「辛そうじゃの、アンナ」
トントンと背中に一定のリズムで優しく叩かれる。善意から来るものだとは分かっていたが、今は止めてほしかった。
「奥間には愛してもらってるのかの?」
「ん、ええ……まあ……」
「アンナがいいなら構わんのじゃが、どうもアンナも奥間に遠慮しているように見えての」
「……わかるんですの?」
「そりゃあ、儂はおぬしと奥間が愛し合っている姿が最高のモデルだと確信しておるからの。奥間からも少しは話を聞かせてもらってるのじゃが、とにかくアンナらしくない気がしての」
「…………」
別に遠慮という訳ではないのだが、愛されていると確信があるし不満というほどではないが、満ち足りているか、と言えば正直嘘になる。
「その、奥間君にはわたくしのお腹に入って愛をもっと激しく掻き乱してほしいのですが、……どうも、そこだけは避けられているようで、正直寂しいですの」
ただアンナからは直接求めるような真似はしていなかった。その他の愛情表現には応えてくれているし、身体の中から溢れる愛の熱はそれなりに解放できている。だけどやっぱり、あの初めての夜のように、とにかく激しくひたすらに愛しい人の身体を貪りたいという欲求は間違いなくある。
それでもそれをしないのは、
「その、奥間君の愛の蜜もわたくしと同じように流れ出るのかと思っていたのですが、どうも限界があるみたいで……それに、愛の蜜を出した後、奥間君、すごく体力がなくなっているようで、だから男性にとって愛し合う行為は非常に体力がいるのではないかと、そう思いまして」
だから自分から求めるようにお誘いをかけているだけに留めているのだ。向こうから求めてきてくれる方が満ち足りるし、“お誘い”する行為も楽しいし、その時の奥間君の顔も可愛くて、だからそれが不満という訳ではない。
実際あの夜の後の奥間君は2〜3日は足腰が立たなくなっていて、どうもそれが愛し合った為だと薄々は気付いてた。確かに自分も愛し合った後、幸せではあったが確かにどんなスポーツをするよりも体力を消耗した。愛の蜜を放った後の愛しい人の顔を見るとすごく可愛い反面、自分よりも明らかに体力を消耗していて、回数を重ねるごとに味も薄くなって量も減って、だから男性は自分と違って一旦溜めないといけないのではないかと、そう考えたのだ。お誘いをかけて向こうがそれに乗って、向こうのペースでお腹の中に愛の蜜を入れてくれるのが一番いいのではないかと、アンナなりに愛しい人のペースを考えてはいたのだった。
実際は体力はアンナが異常すぎるのと、愛の蜜どうこうはシタノクチの中で出すわけにはいかない向こう側の理由と、あと実際にはそのお誘いは挑発であり、アンナの捕食者としての本質が獲物を追いつめ甘噛みする快感に変わってしまってその様が恐怖を与えていた為に逃げ回っているという現実があったが、それはアンナにはわからないし知らないことだった。
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