狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】

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103 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/28(金) 04:32:35.89 ID:/PykkNkX0


「アンナ会長の様子はどうですか?」

 氷菓はアンナ会長の接続だけをオフにし、他三人に問いかけるが、具体的な返答はなかったにせよ芳しいものではなかった。

「アンナ会長が冷静であったなら、防げたかもしれませんが」

「いやあ、それは無理じゃの。アンナの本質はその激情にあるからの」

 しかしこのままでは何も始まらない。アンナ会長への通信を再開する。

「アンナ会長、聞こえていたら咳を一度お願いします」

 こほ、と一度咳が聞こえた。通信自体には問題なさそうだが、さて。

 ソフィアの言葉に嫌悪感を覚えた奥間の気持ちはわかる。間違いを一切なかったことにしてしまうソフィアの言葉は、間違っている。それでも奥間には悪いが、氷菓はどちらかと言えばソフィアよりの意見だった。後悔は文字通り後ですればいい。今は事態の解決が最優先で、起きてしまったことについて考えるのは後でいい。

 ただ、ソフィアはアンナの獣性に気付いていない。性知識が一切なく、それでいて性衝動を覚え、さらに倫理は人一倍ありながら破壊衝動にも酔う様子は、矛盾としか言いようがなく、矛盾というのは不安定さを孕んでいる。

『奥間君は、どうしましたの……?』

 小声で問いかける言葉には、氷菓でも理解できない。しかし何かが含まれていた。

「善導課に情報を求めに行っています。……月見草さんがどうなるのかを確かめに」

『アンナ……』

 何かを問いかけたそうな副会長の声が聞こえるが、周りは騒然としていて誰も咎める様子はなかった。

 月見草は動かない。モニターを拡大してみる分には、僅かに身じろぎしていて生きてはいるようだが、重症だろう。

『アンナ、様……』

『喋らないでくださいまし』

 アンナ会長の遮るような声も聞こえていないのか、『守れ、なくて、申し訳、ございません……』魚眼レンズのモニター拡大という荒い画像ではあったが、それでも月見草が糸の切れた人形のように崩れ落ちるのがわかる。

『月見草さん――!?』

『すまねえ、ちょっとどいてくれ……息はある。出血も脈に合ってるから、心臓も動いているぜ』

(まずい展開ですね、これは)

『先生? 月見草さんの方を診てくださいまし』

 びくん!とアンナ会長の化け物じみた獣性を見てしまった医者はアンナ会長の言葉に文字通り跳ね上がる。氷菓の分析では、生徒会長としての聖女の声だったのだが、アンナ会長は本心を隠しているのか、わかりかねているのか。

 そう思考している間にも、『リーダーに直接治療を頼まれている以上、逆らえばどうなるかわからない』などということを医者が言い出した。

 だが医者にも良心はあったのか、『ナースステーションからありったけのガーゼを持ってくるよう頼んでくれ、あなたは圧迫止血を頼む。道具がない以上それしかできない』アンナ会長に治療をやらせるつもりらしい。

『聞きましたわね? ガーゼを持ってきてくださいまし』

 犯人の一人がトランシーバーで確認した後、ガーゼと、それとキャスター付きの担架も運ばれてきた。


『リーダーの判断により、華城綾女、月見草朧、2名を解放する。医師と看護師3名は二階下の手術室に行き、こいつを治療してもらう。そのあと、リーダーの応急処置をしたのち、解放してやる』


 戦力の低下により、人質が多すぎて把握しきれないと判断したのだろう。氷菓から見ても適切な判断だった。

 窓から外を見ると、救急車が二台、出ていこうとする。もう一台は副会長のものだろう。

 だが、救急車が一台止まった。


「大丈夫、大丈夫ですから!!」


「あれは綾女かの?」

「そのようです」

 眼鏡をかけていない副会長が救急隊員の言葉をはねのけて、殆ど飛び降りようとしている。

「副会長、聞こえますか? そうです、その黒いワゴン車です。こちらに向かってきてください」

『わかったわ』

 人質が実質5名減って、残り10人。

 だが事態が好転したとは、どうしても思えなかった。

104 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/28(金) 04:34:38.32 ID:/PykkNkX0

今日の分、おしまい!
籠城事件を書くの、難しいです……。
105 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/28(金) 06:26:06.01 ID:/PykkNkX0

 病院着のまま、救急車を転がるように出る。実際、あとは安静にするだけで治療は特に必要ない。

 それよりこの事件の行く末の方が問題だった。

 ワゴン車の扉を開ける。いたのは不破氷菓と早乙女先輩の二人だった。

「たぬ……、奥間君とソフィアさんは?」

「善導課の方に。アンナ会長に対する言葉に、奥間さんが怒ってしまったので、こちらの指揮が混乱してはいけないと善導課に行かせて頭を冷やしに行ってもらいました」

 アンナは間違っていないと半ば洗脳のように言い聞かせていた、あの言葉。

 一見正しくて、しかし正しさしかない、アンナの気持ちを無視した言葉。

 アンナの、月見草に対するあらゆる思いを、無視した言葉。

「まあ怒ったというには、情けない声でしたが」

「相手がソフィアだしね」

 ソフィアに敬称を付けるのは止めた。眼鏡をかけていないというのもあって、生徒会モードに移行できない。

 新しいPMはもう装着させられていて、禁止単語はタイマーなしには言えないのだけど、そもそも不破氷菓がいる前では言えない。

(下ネタ言いたい)

 それどころではないけど、それが自分のアイデンティティなのだから仕方なかった。

 車の扉が開いた。

「華城先輩!? 大丈夫ですか!?」

「たぬ、奥間君、ソフィアさんと……」

「奥間爛子。善導課の主任をしている」

(《鋼鉄の鬼女》が来るなんて聞いてない!)

(そもそもソフィアが来るって時点でいろいろおかしくなってるんですよ!)

「ななな、何の用じゃの?」




「今からアンナ・錦ノ宮、濡衣ゆとり、そして鬼頭鼓修理の3名に対する指示は我々善導課が行う」




 マッドワカメがちら、とこちらを向いた。判断は任せる、ということなのだろう。

『ケホケホ』

 二回、咳が続いた。アンナだった。

 ちぎれた手錠はそのままに、アンナだけが自由に動ける状態だった。

 辛うじて、指示の仕方は覚えているようだけど、今のアンナは……、

 アンナが安全に話せる場所まで行くことは、相手も混乱している以上簡単なようで、すぐに血の付いた手を洗う目的で女子トイレに向かっている。経血が来たときはびっくりしたわ……。

「私は、反対です」

 下ネタを挟まない交渉術は自信がないけど、やるしかないのだ。据え膳食わぬはマンホール、あれ? 何か間違ってる?

106 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/28(金) 06:26:56.99 ID:/PykkNkX0

「せめて交渉の同席を求めます」

「華城先輩の意見に賛成です」

 狸吉が賛成してくれた。

「母さんたちを信用しないってわけじゃないよ。でも……」

「なんだ、さっさと言え」

「この映像じゃ、わからないでしょうね」

 魚眼レンズ越しには、何もかもが歪んで見える。

「アンナはひどく、その、混乱しています」

 混乱というよりは、あれは――

『奥間主任。お母様』

 アンナの声はひどく冷静で、微笑の気配すら伝わってくる。



『わたくし一人に任せてくださいまし』



 あの夜の、女王のような気配を纏った、絶対的に服従を誓わされそうな、“あの”声色だった。

「何を言っているのです! 危険すぎます!」

 この期に及んで娘の本質に気付いていない母親は、至極当然のことを言う。

「アンナ、君はいったい何を考えている?」

 《鋼鉄の鬼女》は様子がおかしいことに気付いたのか、童貞が考える生おっぱい画像のごとく抽象的な質問を投げかける。

『殲滅、ですわ。敵、すべての殲滅をしたいんですの』

 狸吉とマッドワカメ、そして早乙女先輩と視線を合わせる。

 アンナは人質の安全を考えていない。ことによると、自分の命すらも。

 《鋼鉄の鬼女》はうすうす気付きかけているかもしれないけど、アンナの本質を理解していない、変化の本質を理解していない大人に、今のアンナの操縦ができるとは思えない。

「アンナ先輩」

『奥間君……?』

「……少し、待ってもらえますか?」

『奥間君が言うなら、わかりましたわ。《正当防衛》以外では、わたくしからは手を出しませんので……ふふ』

 微笑に不吉さを残し、「アンナ!?」ソフィアが金切り声を挙げるが、アンナはマグロのごとき総スルーを決め込むことに決めたらしく、返事をしない。

 アンナは多分、狸吉から以外の指示はもう、受け付けなくなっている。

「濡衣ゆとり、鬼頭鼓修理。善導課の指示を聞く気があれば咳を一度しろ」

『ごほ』

『げふん』

「ここの設備は善導課が預からせてもらう。いいな?」

 《鋼鉄の鬼女》に逆らえるはずもなく、全員はいと頷くしかできなかった。ヤダ、私も調教済みなの!?

107 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/28(金) 06:27:30.13 ID:/PykkNkX0

「ソフィアも、これ以上は捜査に口を出さないでもらいたい。今までが特例だ」

「…………」

 ソフィアも《鋼鉄の鬼女》モードとなった親友には何を言っても無駄なのがわかるらしい。

「私は夫と相談してきます」

「そうしろ。公海に出られたら厄介だ」

 公海――船か飛行機か。海外逃亡なら当然どちらかだろう。

「不破氷菓、ここの設備を善導課に渡して。私たちはいったん出ましょう」

「わたしは構いませんが」

「わ、わしもじゃ」

「僕は、」

「奥間君、行くわよ」

 車を善導課に渡したあと、不破氷菓に、

「これからどうするのですか?」

 訊ねられる。

「不破氷菓、あのモニターは見る手段はある?」

「そういうと思って、モニターに限らず基地局の予備は喫茶店にも置いてありますよ。距離があるから若干不安定ですが」

「そうじゃったのか!?」

「となると、あとはどうすればいいか、ね」

 それがあの夜の狸吉のように、空っぽだったのだけれど。

「失礼なこと考えてんじゃねえよ!」

「あら、私がナニを考えていたって?」

「あんたの考えることなんか一つしかねえだろ!」

「ま、冗談はここまでにして……、その」

「……すみません、華城先輩。その……、アンナ先輩を、ゆとりや鼓修理を助けましょう」

「問題はどうやって、じゃな」

 繰り返される『どうやって』に、頭が回転してくれない。

 衝動に笑うアンナを、これ以上見たくはないのに。

108 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/28(金) 06:28:06.87 ID:/PykkNkX0

もう少しだけ書いてみた。華城先輩が加わったよ、やったね!
109 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/28(金) 07:02:58.46 ID:/PykkNkX0
やっぱり読んでる人いないかなあ……
110 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 12:34:31.21 ID:gTDkXCSm0


 アンナは自分の判断力を過大評価も過小評価もしていなかった。今の自分には正常な判断力がないということも理解していた。

 だから、愛する人の指示に従っている。ただ、本音は一つだった。


 ――全員、殺したい。


 あのリーダーの女も自分を穢した少年も、このテロリスト全員を、そして、月見草の負傷を許してしまった自分自身も。

 愛する人は『待て』と言った。だから待とう。

 お義母様も、そして実のお母様の言葉も、愛する人の言葉の前では霞んでしまう。そんな自分に、何の疑問も思わなかった。

 お腹の中に“熱”が溜まっていく。愛と破壊、二つの衝動が、自分の中で矛盾なく両立していく。それを解放したくて仕方ない。 

 今のアンナに、罰を与えること以外の目的は存在しない。

(でも、奥間君は望まない)

 だけどこの“熱”は、そう遠くないうちに自分自身を焼き尽くすことがわかってしまったから。我慢なんて絶対できないから。

 だから愛する人にとって、自分はきっと間違った判断をしてしまうだろう。

 でも大丈夫。

 愛しい人は、自分が間違っても、受け入れてくれるのだから。

 再会したら、たっぷり愛し合おう。お腹の中の“熱”を、彼の逞しいモノで掻き混ぜてもらえれば、どれだけ幸福になれるだろう。

 それを思って、アンナは微笑する。

 その瞳には、敵意と悪意と殺気と、そして欲情しかなかった。


    *


(ひぃ……!)

 鼓修理が声にならない悲鳴を上げている。空気が軋むほどのオーラに、ゆとりは既視感を覚えていた。

 あの夜、衝動に身を任せたまま《雪原の青》を傷つける様を間近に見ていた。そんなゆとりとしては、もっと悲鳴を上げたいが、今の化け物女を刺激すると怖すぎたので必死に我慢する。

(お二人は)

 と思ったら話しかけてきやがった!

(悪の殲滅にご協力願えますか?)

(はいッス!!)

(……いや、その、なんだ。どうすればいいんだぜ? 下手に動けば怪我人どころか死人が出かねえぜ)

(そうですわねぇ)

 その呑気な反応にピンときた。多分、この化け物女は死人が出ようが構いやしないと思っている。

(月見草のことが、心配じゃないのか?)

(わたくしにできる範囲を超えましたから、あとはお任せするのみですわ)

 ペロリ、と小さく舌なめずりをすると、

(わたくしにできるのは、悪全ての殲滅のみですわ。疼いて疼いて仕方がないんですの)

 人の血の味を覚えた獣。

 今の化け物女の目は、それと同じ目をしていた。あの夜と同じか、もっと先鋭化させて。

(たぬ、奥間はそんなの認めねえぜ)

(…………)

 瞳から、凶悪な光がわずかに消えた。

(そうですわね。わたくしと違って、優しい方ですから)

(…………)

111 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 14:50:29.38 ID:gTDkXCSm0


 とにかく善導課からは(《鋼鉄の鬼女》の声だった)動くなの一言だった。

 現状、善導課の指示に従うしかないが、どうするつもりなのか。

(向こうもわたくしへの対策を考えるでしょう。……下手に動いてしまって、わたくしの機動力がばれてしまいましたから)

 一応、失敗しているという自覚はあるらしい。ソフィア・錦ノ宮は『何も失敗していない』などとほざいていたが、化け物女が動いたせいで――さすがにこれは同情すべき案件だが、とにかく動いたことによって月見草が負傷したことには変わりない。それを自分で認識しているのは正直、意外だった。狸吉の言葉と同じぐらいに、母親の言葉も大きいと思っていた。

(……月見草さんのことは)

 獣の気配が消え、わずかに悲しそうに呟く化け物女は、ゆとりの見たことのない部分だった。

(わたくしのやり方で、決着をつけてみせます。この事件を、解決させて)

 それが見えないから恐ろしいのだけど、ゆとりに指摘する余裕はなかった。

(鼓修理があっち側だったら、どんな作戦を考える?)

 さっきから化け物女の陰に隠れてぶるぶる震えているだけだったが、さすがにこの事態に何も思っていないわけがないだろう。

(そう、そうっスね。鼓修理が犯人なら、お義姉ちゃんはやっぱり怖いっスから、隔離すると思うんスよ)

(隔離、ですの?)

(た、多分。向こうも人員がいないとは思うっスけど、それ以上にお義姉ちゃんが暴れたら全滅の危険があるっすから。離れた場所に隔離して、他の人質との連携を阻止すると思うんスよ。お義姉ちゃんが単独で暴れたら、すぐさま別の場所で人質を傷つけられるように)

 怯えてはいてもさすがは腹黒思考だった。

(……それは厄介ですわね)

(あとあのリーダー、お義姉ちゃんを個人的に恨んでるっぽいっス)

(……奥間君のことで?)

(た、た、たぶん!)

(お、奥間はあんたに憧れて、だからあいつはフラれたんだからな? こういうのは浮気じゃねえぜ)

(ええ、わたくしにとってはただの火の粉。ですが)

 また、あの獣の瞳に戻る。(ひぅ!?)(ひっく!?)

(あのリーダーにとっては、わたくしは敵なんでしょうね。わたくしに組み伏せられても、闘志――敵意は衰えていませんでしたわ)

 あいつ、頭のいいバカで負けず嫌いだったのは知っているが、こいつの化け物性を見ても衰えないってよっぽどだな……。

(ゆとりさん?)

(はい!?)

(あのリーダー、どんな方ですの?)

(……とにかくしつこい)

 ゆとりが取り締まり側だった時、あいつは既に反体制のリーダー的な存在だった。昔いたと言われる暴走団?のリーダーのようなものだ。綾女の義母がそうなるのか。

112 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 14:50:56.69 ID:gTDkXCSm0


(勉強自体はできたんだけどな。途中で善導課に連れていかれたから正直そんなに知らないんだぜ)

 カララ、と扉が開く音が聞こえた。三角巾で腕を固定したリーダーの姿がそこにあった。

「さて朗報があるよん。どうする? 聞きたい?」

 リーダーの目は完全に化け物女一人に向けられていた。

「ええ、是非聞きたいですわ」

 本っ当、キレた化け物女相手にして余裕があるように見せられるだけでもすげえよな……。

「あの月見草ってやつ。無事に別の病院に搬送されたって」

「……そうですの」

 化け物女は油断しなかった。むしろ目つきが鋭くなっていく。

(こちらにダメージ与えたいはずっスからね、これだけのはずがないっス)

「あとね、一緒に船に乗る人が決まったのよん。……鬼頭鼓修理に決定したわ」

「え、え? こ、鼓修理が、っスか?」

「まあ、本来ならそこの化け物も予定に入ってたんだけどねえん」

「あら、わたくしは船旅にご一緒できませんの?」

「化け物と一秒でもいたくないっていう意見が大多数を占めちゃったのん、仕方ないわよねん」

 こいつ、左腕のほとんどすべてを使えなくされているのに、なんでこんなに余裕ぶれるんだ?

 ……多分、性格の問題だ。本当に、異常な負けず嫌いなのだ。

「外国についた後、大使館まで鼓修理ちゃんは届けてあげる。鼓修理ちゃん、英語の成績も凄いみたいだし、あとは大使館の人の意見を聞けば日本に戻れるから、そこは安心していいよん」

(安心できるワケないっス!!)

 鼓修理のパニックが伝わったのか、それでも化け物女は優雅に、

「わたくし、皆さんと船旅がしたいですわ」

「のーさんきゅー、あたし以外はね。あのさ、アンナちゃん」

 化け物女が獣だとしたら、あっちのリーダーは悪魔のような目つきで睨む。

「あたしと別室で、二人きりで話したくはない?」

 「ダメです!」「危険すぎます!」の声が相次いだ。やはりこのリーダーは、妙なカリスマ性があるというかなんというか。

「わたくしは」

 化け物女は、にっこりと笑った。

「是非、お願いしたく思いますわ」

113 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 14:52:43.09 ID:gTDkXCSm0

今日の分終わりです。どうなることやら、です。
114 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 18:35:28.84 ID:gTDkXCSm0


「ち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こ!!!」

 喫茶店に移動している間に事態が急展開していて、不破さんが機材の調整をしている間、華城先輩は地階のアジト部分で下ネタとすら言えない性器の羅列を連呼していた。

 華城先輩の怪我はまだ重く、激しい運動はできない。動くとすれば僕以外にいない。

「《群れた布地》の時のように、《SOX》が解決できればいいんですけどね」

「でも精子一匹入る隙間もないわ」

 侵入経路を何とか探すが、病院を警察が全包囲しているため、華城先輩の言うとおり精子一匹はいる余裕すらない。

「おーい、不破が呼んでおるぞ」

 喫茶店の個室で機材調整をしていた不破さんのもとに行く。「音は拾えますが、こちらの声は届きません」と無表情に報告してきた。

「スピーカーの電波の長さは短いですから。音を拾うだけなら半径数キロメートルまで範囲を伸ばせるのですが」

「アンナ先輩たちへの指示は、善導課だけか……」

 ……今のアンナ先輩が、善導課の言葉を聞くとは思えない。確実に暴発する。さんざんその欲情が暴発する機会を見定めて逃げてきた僕にはわかる。

 今のアンナ先輩は、いつにもまして危うい。

「愛する奥間さんの言葉なら副会長も殺すって言ってましたよ」

 え、なにそれ。あんなに華城先輩を助けたがってたアンナ先輩が?

「事実です。わたしが言いたいのは、今のアンナ会長は価値観が変わり、判断基準を社会の規範から奥間さんの言葉に変えていっているということです」

「……法律より、僕の言葉の方を信じてるってこと?」

 確かに、言っていた。「僕が母親を殺せと言ったら、どんな手段を使ってでも殺す」と。

 あれは何かの比喩だと思っていた。思わず華城先輩の方を向く。

「……今のアンナは、たぬ……奥間君以外のことは本当にどうでもいいみたいだから」

 うつむく華城先輩に対し、やはり不破さんは無表情に言う。

「わたしの見解とは少し違いますね。どうでもいいならそもそも副会長たちを助けにはいかないでしょう。母親と恋人、親友や友人、何を一番にするにせよ、それ以外が大切ではないわけではないのです」

「どういうこと?」

「アンナはの、狸吉のことも綾女のことも月見草のことも大事なのじゃ。以前のように切り捨ててはおらん」

「ですが奥間さんの言葉があれば切り捨てるでしょう。それが自分自身にどれほど痛みを与えようとも」

「…………」

 盲目よりもひどい状態じゃないのか、それ?

「厄介だわ。それって、た、奥間君への依存が酷くなってるじゃない」

「まあここでアンナの心を分析しても今は仕方なかろう。実際どう動くかが問題じゃ」

「……不破さん、ごめん、何かあったらPMに連絡くれる?」

 わかりましたとやはり無表情に呟く。疲れているだろうにな。ただ、華城先輩の下ネタ切れの方が心配なんだ、ごめん。

 喫茶店の個室でも奥まったほうに行き、不破さんが聞こえないところまで行くと、「ち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こ!!!」と連発する。

「んー、重症だこれ」

「《SOX》として乗り込むにしろ、綾女がこの怪我ではな」

「月見草以下、風紀委員も今回は使えないし、月見草も重症だし。やっぱりアンナ先輩をどうにかしないといけないんだけど」

「このままじゃ鼓修理が外だしされてしまうわ」

「外国に置き去りですね。でも、犯人たちの言葉の通りなら、比較的安全な気もしますけど」

115 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 18:36:06.12 ID:gTDkXCSm0

「バカね、テロリストどもは鼓修理を外国に差し出すのが条件で亡命を取引したに決まってんでしょ」

「え、そうなんですか!?」

「本当はアンナもだったんだろうけど、まあ無理よね。亡命先の国が鼓修理をどう扱うかなんてわからないわ。身の危険はないにしろ、何らかの政治的圧力に利用されるかもしれない。ここで鼓修理を助け出せたら鬼頭慶介にかなりの貸しを作れるんだけど……」

「大使館とやらは動かんのかの?」

「動くでしょうけど、童貞の腰振りみたいに貧相な動きしかできないでしょうね。今の日本の国際的立場は中出しセックスした後のように危ういのよ」

「そのあたりのことはようわからんが、今のアンナでも鼓修理を一人で行かせるということはないんじゃないかの?」

「なら余計に危ないと思うんですけど」

「どの国であっても、人質という立場ではあっても危険な目には遭わないと思うわ。むしろ賓客扱いされるかもね」

「アンナ先輩達と連絡とる方法が善導課にとられたのがきついですね」

 と、ここで思っていたことを聞いた。

「鼓修理はこのこと気付いているんでしょうか?」

「あの子はアンナから離れられるなら外国だって行くわよ」

 つまり、気付いてるってことか。腹黒思考は《SOX》でも随一だからな。

「華城先輩、しばらく下ネタ成分は大丈夫そうですか? 不破さんにバレると困るので」

「うぅ、全然足りないけど仕方ない。みんなのことの方が大事だもの」

 天秤にかけてるのが下ネタを言うことなんだよなあ。

「不破さん、どう?」

 移動すると、不破さんは変わらず淡々と。

「リーダーとアンナ会長が一対一で病室にこもっています。他の人質から切り離す目的でしょう」

「アンナが暴れたら、すぐに別の人質を盾にできるように、ね。同じ部屋にいると一瞬で制圧される可能性があるから」

「理論ではそうですが、よく今のアンナ会長相手に一対一で個室に閉じこもるなどできるものです」

 猛獣と一緒の檻に無防備にいるのとおんなじだぞ。エアガンなんか避けるしな。


 ピピピピピピピピ


「誰よこんな時にもう!」

 僕のPMが鳴って、華城先輩が苛立っている。相手は『非通知』とある。

116 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 18:36:35.41 ID:gTDkXCSm0


「……もしもし?」

『やあめんごめんご。そして《雪原の青》の解放おめでとう』

 基本的にPMの音量は僕にしか聞こえないけど、それでも少し下げた。

「鬼頭慶介からです」

「は、なんで!?」

「早乙女先輩、モニターができた理由とか、そのあたりの説明をお願いします!」

 慌てて喫茶店の外に出る。こんなに面倒なら不破さんに僕らの正体を明かす方が早いんじゃないかという気もするけど、不破さんには一般人としての役目がある。そう簡単な話じゃない。

「はい、なんとか無事に」

『モニターはしてたよ。……アンナお嬢さん、本当に《鋼鉄の鬼女》並みだね』

「身体能力は、そうですね」

 だけど心はきっと、誰よりもむき出しで弱い。今もまさにきっと、壊れそうになりながら戦っているんだろう。

 あの夜のことを思い出してしまって、今は意図的に無視する。

「鼓修理のこと、どうするんですか?」

『警察や善導課はバスだったり船に乗り込む際の隙を付くって言ってるけどねー、まあそれは犯人の方も考えてるだろうね』

 おちょくった、どこか他人事のような態度は、本心を見せないという意味で完璧だ。顔面にも鋼鉄の貞操帯でもつけてるんじゃないだろうか。

『鼓修理やアンナお嬢さんに少しでも傷がつけば僕らが敵に回るから、政府や警察、善導課としてはしたくないだろうね』

 体面ってのがあるんだよ大人には、とどこかしみじみとつぶやく。

「それで、用件は?」

 いつの間にか、華城先輩がこっちに来ていた。僕のPMに耳を寄せようとしたので、音量を上げる。

「鼓修理の件に関しては私たちも協力するつもりよ」

『よかったよかった。根回しが無駄にならずに済みそうだ』

 不吉な笑みが漏れ聞こえる。だけど問いかけるしかない。

「なにをすればいい?」

『向こうは鼓修理を手放す気はないだろうけどさ、突入を少しでもしやすくするために……《SOX》にかく乱してほしいんだよ』

「かく乱? 具体的には?」

『ま、君たちがやってるのと同じさ。犯人たちは若いからね。《SOX》の信奉者も多いんだよ。あのリーダーも口では《SOX》にダメージを与えるためとか言ってるけど、それは嘘だと僕は思ってる』

「根拠は?」

『僕の勘は当たるんだよ』

「《雪原の青》が動くことはできない」

 僕は口を、口だけをね、挟んだ。今の華城先輩は激しい動きができない。

「《センチメンタル・ボマー》だけが行くことになる。それでもいいか?」

『へえ、アンナお嬢さんもあのリーダーも、奥間狸吉のことが好きらしいけど、修羅場だよ? 一人で大丈夫?』

 う、となってしまう。華城先輩も頭が痛そうにこめかみを押さえてる。

『ま、できるだけ早く返事は欲しいかな。すぐにとは言えないけどさ。じゃ、まったねー』

 通話が切れた。

「胎内回帰、じゃなかった喫茶店の中に戻るわよ。慎重に作戦を立てないと」

 じゃないと僕、《SOX》として行ったらアンナ先輩に殺されるんだよなあ。


117 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 18:37:13.96 ID:gTDkXCSm0

……誰もいないのかなあ……とちょっと落ち込むけど、気にせず書くことにする(気にしてる)
118 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 20:21:14.58 ID:gTDkXCSm0


 アンナは別の病室に入れられた。女リーダーに「せめて見張りを……!」と食い下がる部下が無理矢理下がらされて、本当にリーダーと二人きりになる。

「そのボタン、外してくれる? 盗聴器でしょ、それ。イヤリングもそうかな?」

「なんのことでしょう?」


 きゅいーんきゅいーんきゅいーん


「これ、盗聴器探知機。アンナちゃんから盗聴器の電波が出てるんだよねん」

「外しても構いませんが、条件が一つありますわ。……あなたの本当の話し方で接してくれませんこと?」

「本音で話せってやつ?」

 頷くと、わざとらしい笑顔が取れた。了承したとみて、ボタンとイヤリングを指ですり潰す。

「ちっ、鎮痛剤、思ったより効かないわね」

「早く投降して、正式な処置を受けた方がいいんじゃありません?」

「あたしは長生きしたいわけじゃないからね」

 正直、この状況にうずうずしている自分を自覚していた。今ならたっぷり痛みを与えながら殺すことができる。気配が変わったことを察知したのか、怪我をしていない右手でこちらを制してきた。

「おっと、休憩室の人質たちがどうなってもいいの?」

「うふふふ、善導課に音声が送られていない以上、隠す必要はありませんわね。……わたくしは敵を、悪を殲滅できればそれでいいのですわ」

「…………」

 こちらの悦びに相手は嫌悪を抱いたようだった。

「……人質の安全は関係ないわけ?」

「判断の上位に来るものではありませんわね」

「ふん、これが清楚で健全な大和なでしことはね。あれもバカだ」

「奥間君のことですわね? ……小学校時代、告白したとか」

「こんなイカれた化け物だと知ってたら、絶対奪ってやってたけどね」

「それはできませんわね。あなたが知っているかは知りませんが」

 敵意と悪意と殺意を込めて、無表情に睨みつける。

「わたくしと奥間君は、すでに男女の仲なんですの」

119 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 20:22:15.59 ID:gTDkXCSm0


「…………は?」


 呆然とする表情に、優越感を得る。

「愛の儀式も済ませましたわ」

「愛の儀式、ってまさか、あんた、処女じゃないの……!?」

 『処女』は確か、初めてのことだった。辞書にはそれ以上のことは載っていない。

 だからアンナは頷いた。

「ええ、“初めて”の儀式は、もう済ませましたのよ。……あの方でなければ、わたくしは痛みに耐えきれなかったでしょうね」

 くすくすと鈴が鳴るように笑うと、相手の呆然具合はさらにひどくなっていた。

「……なんで」

 どこか泣きそうな、迷子のような顔だなとふと思った。

「なんで風紀優良度最底辺校出身で、父親が奥間善十郎のアイツが、なんであんたに受け入れられるわけ?」

「奥間君自身が、清く正しく生きていたからですわ」

 アンナは言い切る。

「大事なのは生まれではなく、どう生きたかでしょう?」

「気持ち悪い」

 相手の敵意が増していく。でもそれは、自分に対する嫉妬だとアンナは分かった。

 さらに優越感を得ると同時に、やはりこの女は始末しなければならないと改めて決意をする。

「もどかしいですわね。あなたはわたくしに対する攻撃力がなく、わたくしは色んな方々を人質に取られていて動けませんわ。……ただ」

 アンナ自身は気付いていない、猛獣の笑みで相手を睨む。「……っ!」怯んだ隙に、言葉を滑り込ませる。

「わたくしはいつでも、無視できますのよ?」

「……清楚で健全な大和なでしこってのは、どうやら噂だけだったみたいね」

「いえ、一昔前の、奥間君と出会う前のわたくしはきっとそのような人物だったのでしょう。わたくしは奥間君と出会って、愛の儀式を行って、生まれ変わったのですわ。自らの中にあるものを自覚し、解放することを覚えましたのよ」

 ペロリ、と意識的に舌なめずりをし、お前は獲物でしかないと言外に知らせる。

「わたくしは、人を壊すのが好きですの。もちろん、普段は我慢しますし、それが間違った欲望であることも理解していますわ。……ですが」

 微笑を深める。

「悪の殲滅という名目のもとでなら、その衝動を発散できることを知りましたの」

「悪?」

「ええ、正義に基づき、悪を殲滅する。社会の規範ともずれてはいませんわ」

「理解できない。アンタ、自分が正義の側だって言いたいの?」

「…………」

120 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 20:22:46.46 ID:gTDkXCSm0


 いろいろ言葉を並べることは可能だろう。

 ただ、何故か目の前の相手に嘘は付きたくないと思った。

 それはきっと、同じ相手を好きになった、いわばライバルだから。

「愛は正義そのものだと考えていた時期も、ありましたわ」

 だから、本音で語ることにした。それがアンナなりの礼儀だった。

「ですが正義を社会の規範と置き換えるなら、わたくしの『人を壊したい』という衝動は間違っていますわ。……それでもいいと言ってくれたのが、奥間君なのです」

「……理解できない」

「してもらう必要は、ありませんわね」

 “熱”と“疼き”が大きくなっていく。相手の嫌悪感がむしろ心地いい。なぜならそれは、自分が奥間君を独占していることからくるものだから。

 自分が奥間君の恋人だから。

「ああ、困りましたわ。今すぐにでもあなたを壊して差し上げたいのですけど、さすがにタイミングが悪いので」

「――――!」

 ジャキ、と拳銃をこちらに向ける。

「動くな。これはエアガンじゃない。本物の銃よ」

「あらあら。そんなものを使っては、反動で傷に響きますわよ?」

 困難はむしろ“疼き”を大きくする。わずかに増えた死の恐怖も、今はスリルとして楽しんでしまう。

「リーダーさん?」

「何?」

「心配なさらずとも、今は動く気はありませんわ。そう気を張らずに。ただ、言っておこうと思いまして」

 なぜこんなにも“疼く”のか、何が疼いているのか、ようやく言語化できた。これは言っておこう。



「――わたくしを穢そうとしたこと、月見草さんを傷つけたこと、絶対に許しませんわ」



 そう、これは、“怒り”だ。

「あなた方の計画は、必ず失敗に終わりますわ。わたくしの手で、終わらせてみせますわよ」

 リーダーはそれ以上答える気がない、というように、拳銃をこちらに向けたまま動かない。

「あんたの動き次第では可能だろうけどね。でもね、こっちも策は打ってあるんだよ」

 こちらに負ける気はないと、嗤う顔には、敵意と悪意と殺意がある。

 敵がいかような感情を発しても、その感情にワクワクする自分を、もうアンナは否定しなかった。あとは叩き潰す、それだけだ。



121 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/29(土) 20:24:19.65 ID:gTDkXCSm0

はてさてどうなることやら、です。今日更新多いな。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/30(日) 07:47:47.15 ID:6tKiDWYoO
読んでますよー
最近来れなくて書き込めなかったけど、今から一気に書き込む
再開してくれて本当にありがとうございます!待ってました!
再開前もそうだったけで、作者さんのSSって細部まで緻密に考え込まれていてすごい。下セカへの愛が伝わってくる
だけど、そういうのに対して無反応が続くと本当に辛いですよね。私もよくわかります

なので、質問
どうして、アンナはテロ小僧のキスを拒否できなかったんですか?
これまで、狸吉とキスしてませんでしたっけ?
だったら、キスしようとしてる事くらい気づいて拒否れたのでは?
123 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 15:42:28.05 ID:1gnwTlVe0
>>122
ありがとうございます、ありがとうございます!!

アンナ先輩、テロ小僧に狸吉を重ねたのが少しあるんだと思います。あとキスは『愛情表現』であって悪意を持った行為ではなく、故に反応が鈍った、と。
あと、好意を持っていない相手からの性的な接触(要するにレイプに近いことが)これだけ気持ち悪いこと、穢されることだと、身をもっては知らなかったのが、反応が遅れた原因です。知識がなかったんですよ……。

今回は松来さんの……誕生日か命日には間に合わせたいけど、誕生日は無理かも……でもがんばります! ありがとうございます!
124 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 18:07:55.14 ID:1gnwTlVe0


 早乙女先輩は不破さんと一緒にモニターに回ってもらって、僕らは華城先輩と一緒に別室でどうするか考える。

「華城先輩は遠隔で指示、これは当然として」

「私だって動けるわよ。ほら、100m走に匹敵する反復運動をするわけじゃないんだし?」

「僕だってしねえよ! ……華城先輩の怪我は、まだ軽くはないでしょう?」

「……まあ、足手まといになるのはわかってるから、いいわよ」

「足手まといだなんて。ただ、また危ない目に遭わせるのが僕は嫌で」

「あー、もうこれ精子の掛け合いぐらいに意味のない議論になるからやめましょ」

「ほんっとうに意味ねえ」

「あなたが奥間狸吉としていくのか、《センチメンタル・ボマー》として行くのかよね。どっちにしても爆弾があるわ」

「アンナ先輩が心配ですよね……」

 アンナ先輩、最後に通信していた時、ソフィア相手に笑ってたからなあ……。

「ぶちギレてますね」

「ぶちギレね」

 嫌な一致だった。

「されたこと、その結果月見草がああなったことを考えたら、誰でもヤバくはなると思うけど、ね」

「アンナ先輩の爆弾を考えると、奥間狸吉としていくべきなんでしょうけど……それだと《SOX》として動いたことにはならないですよね」

「それにいくら憧れがあったって、《SOX》が止めろって言ってもどうにもならないわ。そんな段階、越えているのよ」

「戦闘力が足りない、か……《群れた布地》の時はアンナと風紀委員の力を借りたけど」

「今のアンナ先輩を何とかうまく誤魔化すとなると、やっぱり……奥間狸吉としていくべきなんですかね」

「鼓修理を助け出しただけでも貸しとできるかはわからないけど、第三次ベビーブームが起きようとしているこの状況を鬼頭慶介は不本意に思っているはずなのよ」

「え? えっと」

 話が飛んで一瞬理解できなかった。最近、アンナ先輩に関わりすぎたせいで、テロ活動の中身を把握してないのだ。

「もう、赤ちゃんの作り方と妊娠検査薬を配りまくって世間は第三次ベビーブームの到来なのよ!」

「へえ」

 僕、参加できてないんだよな……。

125 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 18:08:36.49 ID:1gnwTlVe0


「まあ見返りは期待しないで、あくまで仲間を救うという体で行きましょう」

「鬼頭慶介の作戦としては、あらかじめ船に乗り込んでおくというシンプルなものですよね」

「善導課にも同じことをしたいみたいなんだけどね。クルーズ船とは言っても小型で、20人、このまま人質が解放されなければを30を超える人数だとオナ禁のした時の狸吉の金玉みたいにパンパンになるから」

「そうなる前にアンナ先輩に抜かれるわ!!」

「狸吉と、あとせいぜい……ゆとりぐらいかしら、入れるのは」

「改造エアガン持ってる相手に立ち回りは正直キツいです……」

「そうね。私達は基本、ヒットアンドアウェイ。真正面からの戦闘力は鍛えてないものね。催涙弾や閃光弾を使ったって、殺傷力ある武器をいくつも持っている以上、鼓修理が殺される可能性は否定できないわ」

「そんなの、絶対嫌です!」

 確かに性格は性悪の最悪だが、それでも《SOX》の仲間なのだ。アンナ先輩相手だと委縮してしまうが、とんでもなく悪知恵が働くのも《SOX》にとって役に立ってきた場面も多いのだ。

「《ラブホスピタル》に反対筆頭のソフィアの力を借りるのは無理ですかね?」

「…………」

 華城先輩はどこか眩しそうに僕を見ている。

「そういう発想が、私にはないのよ」

「?」

「狸吉は狸吉でいいってこと!」

 よくわからないけど、褒められたらしい。

「鬼頭慶介の件も、よくやったと思うわ。アンナと関わらせるのはちょっとまずかったけど」

「あ、はい」

 一方的に怒られると思ったので意外だった。まあでも、確かにアンナ先輩と取引させたのは問題だったよな。あれ以外にはどうしようもなかったけど。

「でもソフィアも影響力落ちてると思うわよ。何を当てにするの?」

「訓練されたSPぐらいはいるんじゃないかって。防弾チョッキとかそういう装備もソフィア経由では無理ですかね」

「下ネタテロに金も装備もいらないんだけどね」

「本物のテロに巻き込まれたんですから、仕方ないですよ」

「それに、そういうのってどっちかって言えば鬼頭の方だと思うけど」

「……確かに」

「そこで納得するから狸吉は早漏なのよ」

「早くねえ! なんで慶介経由だとダメなんですか?」


126 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 18:09:19.48 ID:1gnwTlVe0


「下ネタテロ組織同士で武器や装備の交換が行われているなんて知られたら、善導課も装備を強化するでしょう?」

「ああ、確かに……鼓修理が例外すぎただけか」

「法律上の指定も変わってくるはずよ。取り締まりも今までとは段違いになってくるわ」

「となると、やっぱりソフィア・錦ノ宮から融通してもらうしかないわね。善導課にツテがあることだし、なんとかなるでしょう」

「無防備じゃさすがに危険ですしね……」

「そうね、処女膜は必要だわ」

「華城先輩は本当ぶれませんね……」

 とりあえずソフィア・錦ノ宮には何とか連絡をつけることにして、問題は、

「アンナ先輩なんですよね」

「そこに戻るわね」

 いったん、僕らはモニターの様子を確認することにした。不破さんが栄養ドリンク(固形物)を飲んでいる。それも武器にさせてもらおうかな。

「皆の様子はどう?」

「アンナ会長の集音器とスピーカーが潰されました。病室にはカメラもなく、モニターできません。リーダーと二人きりですね」

「それって、大丈夫なの!?」

「アンナと一対一で勝てる相手などこの世にほとんどおらんよ」

「精神面ではわかりませんが」

 不破さん、早乙女先輩のフォローを一瞬で無に帰すようなことを……。

「わたしの分析では、冷静さを装っている時が最も危険だと判断しています。今はまさにその時ですね」

「……やっぱり僕、アンナ先輩の恋人として行くしかないんですかね」

 既成事実がどんどん積み重なっちゃうよぉ。

「この期に及んで責任を取らないでいるつもりですか?」

「女の子にはわかんないんだよ、このプレッシャー……」

 アンナ先輩、ソフィア、祠影の凶悪3ボスラッシュだぞ!?

「まあ、今のアンナを止められるとすれば狸吉だけじゃろうな」

 そこは女性三人同じ意見だった。僕だってゆとりも鼓修理も助けに行きたいし、仕方がない。

「もう一回、母さんと真正面から交渉してみるよ。今なら鬼頭慶介の口添えがあるからうまくいきやすいと思う」

「通信の機能はどうしますか?」

「善導課の判断に任せるよ。皆はここで待機していて」

「狸吉」

 華城先輩が、いつになく真剣に呟いた。

「アンナにはくれぐれも注意するのよ」

「……わかりました。行ってきます」

127 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 18:10:15.36 ID:1gnwTlVe0

ちょっとだけ書きました!

松来さんの誕生日に間に合うかな、間に合わなければ命日で! かなり不安ですが頑張ります!
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/30(日) 20:05:58.87 ID:qI+eDqLrO
第三次ベビーブームか……この世界観だと、未来がガンダム種みたいになりそうで怖い
人工子宮とか当たり前にやりそうだし、子作りの実験色が強くなる。コーディネイターまっしぐら

そして、質問のお返事ありがとうございました。乙
129 : ◆86inwKqtElvs [sage saga]:2020/08/30(日) 22:35:30.01 ID:1gnwTlVe0
今の世界観は、6巻最後あたりの政府がラブホスピタルという人工受精&デザイナーズベイビーを作る施設を作って、ソフィアが《SOX》から借りた不健全雑誌を腹に巻いてデモをしたところです。
原作だとアンナ先輩は何が正しいかわからず不安定になっていくのですが、ここでは逆レに成功してある意味安定したところです。
ただし、自分の判断より狸吉の判断が上になっています。それは社会規範に合わせても正しくない自分の欲求があるからで。ここらへんがifものになっています。


リーダーはオリジナルキャラなので、名前はない(可哀想) ただ、頭のいいバカですごく負けず嫌いで、下ネタとか卑猥とかにはそんなに興味がないというか、変態ではないという。赤城先生みたいに変態書けなかったよ……
130 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 23:27:18.89 ID:1gnwTlVe0


「また来たのか、貴様」

 うわ、母さんさっきよりよほどイライラしてるよ。

「ソフィア……さんは?」

「旦那と何やら画策するそうだ」

 揉めてたんじゃなかったっけ? 愛娘の危機だとそんなのは些事なのか。

「母さん」

 意を決して、できるだけ静かに言う。



「僕を、人質のいる場所に行かせてほしい」



「…………」

 珍しく、母さんは肉体言語でなく沈黙で僕の意図を透かそうとする。

「何故最初から貴様が行かなかった?」

「アンナ先輩が主導だったんだ。僕もアンナ先輩の作戦は、大丈夫だと思った。アンナ先輩なら大丈夫だって、思ってたんだ。だけど」

 以前、不破さんが言ったことを思い出す。ただ、あの時と違うのは。

「アンナ先輩は“僕の言葉”なら、人質を殺すよ。自殺してって頼んだら、自殺するよ。何の疑いもなく、笑顔で」

「……何を言ってる?」

「信じられないかもしれない。でも、アンナ先輩にとって、僕の言葉はもう、絶対になってるんだ」

 こんな、ふらふらした僕の言葉を。

 アンナ先輩は変化の最中で、不安定で、あの夜も衝動に飲み込まれそうになって間違えて、今も間違いつつあるんだ。

「アンナ先輩も、ゆとりも鼓修理もみんなも、僕は助けたい。そのためには、人質の内側にいるアンナ先輩の戦闘力は必要なんだ」

 だけど今のままでは不安定すぎて、きっと人を殺してしまう。そうなったら、戻れない。だから。

「お願い、母さん。僕を、あそこまで、行かせてください」

 土下座する。

「この期に及んで虫のいい話かもしれないけど、これ以上誰も傷つけたくないんだ。……犯人たちも」

「リーダーは、貴様に告白していたそうだな」

 う、やっぱりばれてるよね。

「同情か?」

「否定しない、です」

 これも、きちんと言わなければならないのだろう。

「でも、これも僕の責任だと思っています」

 多分、小学校時代、僕は間違えたのだ。多分、アンナ先輩への憧れをひたすら語っていたんじゃないかと思う。

 だからあの子は、道を間違えた。

 あの子は華城先輩やゆとりや、そして僕の、影なんだ。

「……防弾チョッキを着ていけ。おい、貴様、用意しろ」

「母さん!」

 善導課職員がバタバタとする中、母さんにしては静かに呟く。

「貴様まで月見草のようになったら、アンナがどうなるか知らんぞ。責任はとれ、いいな?」

「はいっ!!」

131 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 23:28:05.89 ID:1gnwTlVe0



「あー、だるいわー、痛いわー」

 アンナは腑抜けたふりをするリーダーを余すことなく観察する。そして、想像する。


 ――どうすれば、悲鳴をあげさせられるか。

 ――決定的な傷を与えられるか。


 想像だけで楽しくて仕方なかった。そんな想像が湯水のごとく湧き出るのは、奥間君が変えてくれて自分にくれた、力の証。

 この女は肉体的な痛みには強いのは分かった。できれば精神にダメージを残したい。


 コンコン


「リーダー、よろしいですか……?」

 自分に対する怖れが強いのか、犯人たちは自分に対して弱腰だ。リーダー以外は。

「善導課から?」

「はい。……人質をそちらに一人、送りたいと。その、名前が、あの」

「……ふうん? まあその様子でわかったよ、サンキュ」

 左腕を破壊されたリーダーが、ニヤリと笑う。どこからその余裕が出てくるのか、アンナでも不思議だった。

「奥間狸吉でしょ?」 

「――――」

 奥間君。奥間君、奥間君、奥間君、奥間君、奥間君、奥間君、奥間君!!!

「ここにお通しして、休憩室に詰め込むとそれはそれで厄介そうだしね」

 わかりました、と小さく礼をすると、すぐに用意がなされる。

 下肚が疼く。愛を感じる。愛の蜜が流れ出すのを感じる。

 快感と昂揚が、より強くなっていく。



「――奥間君」

「アンナ先輩、大丈夫ですか?」



 頷く。

 今だけは、二人だけの世界だった。



  
132 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 23:28:49.27 ID:1gnwTlVe0



 善導課による盗聴器はしかけられていない。向こうが手の内を知った以上、リスクの方が高いからという理由だ。

 そしてまさかいきなりリーダーの部屋に通されるとは思わなかった。できるならゆとりや鼓修理と合流して作戦を立ててからこちらに来たかったのだけど、もう、ね。

 なんだろう、この空気。冷凍マグロでも冷たさを感じるぐらい、冷たい。

 ……女同士の修羅場とかがあったんだろうか。いやまさかな。

「あ」

 アンナ先輩が朗らかに笑う。リーダーは、険しい顔のままだ。

「あ、アンナ先輩?」

「ふふ、わたくしたちの愛の証明をしようと思いましたの」

「え、えっとそれ!?」

「……唇を穢されたことには、わたくしにも非がありましたわ。相手が何をしたいのかわからなくて、つい反応が遅れてしまって……」

 アンナ先輩は目を伏せる。長いまつげが影を作る。


「だから、清めてくださいまし」


 ジャキ、という音と、アンナ先輩にしては緩慢に僕の首に腕を回すのとは、同時だった。

「これはエアガンと違って、本物の銃よ。不愉快だから二人とも離れて」

 銃!? 装備はエアガンだけと聞いていたのに!?


 バチィン!!


 銃が、跳ね飛んだ。

「!?」

「さっきすり潰した、ボタンとイヤリングの残骸ですわ。親指で弾き飛ばしてみましたの」

 し、指弾ってやつか? モーションが一切確認できなかったぞ?

 慌てて拳銃を拾おうとするが、アンナ先輩の方が数段早かった。かがんだのが見えなかった。

「向こうのアドバンテージは、一つなくなりましたわね。奥間君、拳銃、預かっててくださいまし」

「あ、あの」

「……何をする気?」

「大丈夫。わたくしからはあなたに何もしませんわ」

 あ、まずい。

 完全に欲情の獣になっている。これじゃ、交渉も何も――


「奥間君」


 唇が、重ねられた。

 ――多分、僕が初恋の相手であろう相手の前で。

 上あご、頬の傷、歯茎の裏、すべてのポイントに舌が当たる。唾液が送り込まれる。いつもと同じように、そのテクニックは凄まじい。

 違うのは、その視線。

 視線は、女リーダーに向けられていた。

 優越感。

 欲情と優越が入り混じったそれは、人を傷つけるためのものだった。

133 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 23:29:28.11 ID:1gnwTlVe0

 さらに僕の手を、胸に移動させる。「うぁん……!」舌の動きが加速し、ぴちゃぴちゃと湿った水音も大きくなっていく。

 ひと段落した後、僕の愚息がおっきおっきしてしまって、「あん、愛の蜜が……」「ひ、先輩、人のいるとこでは止めて!!」一応聞き入れてくれたのか、アンナ先輩は僕の背中に回り、腕を回してぎゅっと抱きしめる。背中におっぱいが当たるよぉ。

「わたくしたちが愛し合っているのがわかりまして?」

「……卑猥な」

「? 卑猥? 何がですの?」

 まずい! この流れはまずい! でもさっきからアンナ先輩の下が耳の穴をちゅぽちゅぽと舐めて挿入れて出して、手は息子をズボンの上から絶妙な力で撫でていてうまく考えられない!!

「これが卑猥でなかったら何だっていうのよ!?」

「? おっしゃっている意味がよくわかりませんわ。これは、愛情表現ですのよ。そしてあなたは」

 僕とアンナ先輩自身の唾液でぬらぬらと光っている唇で、思いっきり笑った。



「うふふふひ、あはははは!! あは、無謀にもわたくし共の愛を穢そうとした、最大の罪人なんですわ!!」



 コンコン!!と急いだノックが聞こえた。部下の一人がアンナ先輩の嬌声に危機を察知したんだろう。

「何でもない、見張りを続けて」

「しかし、今のは!?」

「何でもないって言ってるでしょ!?」

(アンナ先輩、向こうをいたずらに刺激するのは止めてください!)

(あん、奥間君が言うなら……でも帰ったら、じっくりたっぷり愛し合いましょうね?)

「…………」

 うすうすは気付いていただろうけど、アンナ先輩の価値感が常識と外れていると向こうは完全に気付いたらしい。

「狸吉、覚えてる?」

 後ろで殺気が膨れ上がった。僕このまま絞め殺されない?

「告白した日。『僕はアンナさんみたいになるんだ』って言ったの」

「……うん」

「あたしがきれいな生まれだったら、健全に生きてこれる環境だったらよかったのにって、さっきまではそう思ってた」

 あの日、僕に告白した子は、アンナ先輩を憎悪の目で見つめてる。

「その女、狂ってる。壊れてる。あんたの好きな『綺麗で健全な大和なでしこ』じゃない」

「…………」



「それでも、本当にその女を、愛してるの?」


「……僕がアンナ先輩を嫌いになることは、絶対にないよ」

 重ねて、続ける。

「今でも、憧れてる。本当は、純粋で優しい人なんだ」

(……華城先輩……)

「もし今のアンナ先輩が、狂って、壊れたんだとしたら、それは僕が原因だから。だから、僕から離れることは――ないよ」

 別の女性の顔が浮かぶ時点で、きっと僕は、アンナ先輩のことを女性として好きじゃないんだろう。

 僕はどこまでも、不誠実だった。そして、ずるい言い方で逃げる、最低の男だった。


134 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/30(日) 23:31:16.25 ID:1gnwTlVe0

狸吉はあくまでも華城先輩のことが好きなのです。恋路も大事。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/31(月) 12:44:05.06 ID:jr58xkP0O
華城先輩の方が良い。そりゃそうだ

アンナ先輩って、深く関わると、狭量なところが目立つんだよね……純粋だけど幼くて手のかかる妹って感じでさ
これじゃ、狸吉は気の休まる暇もない。だって、まだ幼い妹に自分の負の部分をさらけ出すことなんてできないから。ずっと一緒にいたら疲れるに決まってる

華城先輩はあれで器が大きいから、気楽に負の部分をさらけ出せる。少なくとも、アンナ先輩よりは、よっぽど
こういうベクトルのカリスマを母性って言うんだろうな。実の母親に負の部分をさらけ出せない狸吉にとって、母性の有無は大きい

仮に健全法なんて普通の世界でも、狸吉とアンナ先輩じゃ上手くいかなかっただろうことがよくわかるわ
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/31(月) 15:33:45.12 ID:eS8p8KYA0
やあ、やっとここまで来た。1人のキャラをこれだけ掘り下げるってすごいな

たぬきちが悪いとかじゃなく、アンナ先輩にこそ負の部分もOKな母性が必要なんだよな。原作では最終巻で
「間違ってもいいんです」
ってみんなで間違えてたけど、このアンナ先輩は1人だけで本質は変わってない気がする
137 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/31(月) 18:59:54.36 ID:MN1Q866e0


 私に何ができるんだろう。

 下ネタしか言えない、怪我人でろくに動けない私に、いったい何が。

 だって狸吉とアンナはもう結ばれていて、きっと狸吉ならいつか心の整理をつけて、アンナを受け入れるのは目に見えているのに。

「心中、大変なようですね」

 不破氷菓がモニターしながら淡々と相変わらず無表情に言葉を紡ぐ。

「まあ、生徒会二人が人質の状態じゃね」

「素直じゃありませんね、あなたも」

「…………」

「綾女の強情さはどうしようもなかろ」

「……悪かったわね」

 早乙女先輩の言うとおり、私は強情で、自分が正しいとしか言い張れなくて、だから世界は間違っているなんて言って下ネタテロリストになった。

 今のアンナは自分が間違っても狸吉が受け止めてくれると思っている。そしてそれはきっと間違いじゃない。話を聞いていて分かった。

 私に入る隙間なんてない。



「あんた、何やってんだい!?」



「え、え?」

「どなたですか?」

 不破氷菓の無機質な質問に、

「撫子、綾女の後見人じゃよ」

 早乙女先輩が代わりに答えてくれた。

 今は15:00。

「あと一時間はかかるって」

「急いで来たに決まってんだろ、バカ! マスターからこっちにいるって聞いて来たんだよ!!」

 相変わらず、威勢のいい啖呵。かと思ったら、

「朱門温泉清門荘で女将を務めております、華城撫子と申します。以後お見知りおきを」

 いきなり女将モードになった。この切り替えは3Pの相手替え並みに早いわね……。


138 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/31(月) 19:00:24.19 ID:MN1Q866e0


「今どういう状況だい?」

「ちょっとややこしいですね」

 不破氷菓が淡々と説明していく。撫子のしかめっ面の皴が増えて、

「私はまだ若い!」

「痛い! 怪我人に拳骨なんてそんな、う、うー!」

 ああもう、不破氷菓がいるせいで下ネタ言えない!

「奥間狸吉があのアンナを止めるために、これ以上犠牲を出さないために危険を承知で行ったってのに、こんなところでうじうじしてる暇なんかありゃしないよ。アンタ、いつの間に越されてんだい?」

「少し厄介な事態が発生したかもしれません」

 不破氷菓が撫子の言葉を切って、モニターの一つを指し示す。そこは今、犯人のリーダーとアンナと狸吉、三人でいる病室の前で、音声はないが部下が騒いでいるのがわかる。

 だが、すぐに戻っていった。なんだったのだろう。

「アンナ会長は刻々と不安定になっていっているようですね」

「リーダーがアイツとはね。全く世も末だ」

「な、撫子知ってるの!?」

「異常な負けず嫌いってやつぐらいしか知らないけどね。もう絶滅したと思ってたレディースの後輩ってやつさ」

「ならあの統率力もわかるわ。れでぃーすの統率は凄まじいものがあるって聞いたもの」

「で、どうすんだい?」

「相手はヘリで船の上まで人質とともに移送する、そういった要求をしています。人質の解放は外国についてからだと」

「ふざけた、頭のいい話だね」 

「このままだと、外国に交渉のカードとして人質たちは使われるわ」

「で、どうすんだい?」

 もう一度同じ問いを掛けられても、答えようがない。それを知りたいのはこっちなのだ。

 モニターをもう一度不破氷菓と早乙女先輩に任せ、撫子と別室に行く。

「私は怪我で動けない、狸吉はアンナ対策で動けない、ゆとりと鼓修理は人質の中。……《SOX》としてはどうしようもないわ」

「いつからそんな弱気になったんだい、そんな娘に育てた覚えはないね」

「…………」

「下ネタすら浮かばないとはね。こりゃ重症だ」

「じゃあ、どうするのよ、撫子なら」

「自分で考えな、って言いたいところだけど、さすがにこれはきついかねえ」

 撫子は勃ち上がる。間違えた、立ち上がる。

「大人は大人で話し合いに行くよ。子供は子供で決着着けな」

「……わかったわ」

 何一つ、何をすればいいのかわからなかったけど。

 ふう、と息を入れて、ゆとりの代わりに《哺乳類》《絶対領域》の古参メンバーに連絡していく。


139 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/31(月) 19:02:36.76 ID:MN1Q866e0

華城先輩はもうアンナと狸吉がくっつけばいいと考えてしまっているようです。
まあ、責任を取るってそういうことですよね。逆レでもね。え?

つまりどういうことかって、事件と関係なく華城先輩悪いモードに入ってまーす。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/31(月) 19:15:27.44 ID:n06gnCT10
華城先輩はどうするのが最適なのかわからんな
怪我も重いみたいだしな...
141 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/31(月) 20:21:12.14 ID:MN1Q866e0


(狸吉が来てるだぁ!?)

(よかったっス、あの化け物は狸吉に任せられるっス!)

 善導課からの連絡で、狸吉が来ていることを知る。鼓修理の言い方は癪だが、化け物女対策であることは間違いない。

(キスされる前までは頼もしかったんスけどね)

(ぶほぉ!? キ、キ、キスとか、せめて接吻とかだな!?)

(まあ化け物でなくてもぶちギレるのはわかるっスけど)

(……あれはな)

 さすがに同情している。頭に血が上ってしまったのも、そのせいで負った月見草の負傷も、ゆとりの目から見たら仕方がないと思っている。今、大暴れしていないだけマシと考えるしかない。

 でもさすがに、正直何もしていないこの状況で、狸吉任せにするわけにはいかない。なんかバタバタした音がする。何かあったのかもしれない。

「……おい」

 《鋼鉄の鬼女》から大人しくしろと指示が飛ぶが、今は無視する。

「…………」

「あたしを、リーダーのところへ連れてけだぜ。あたしはリーダーや狸吉、そして化け……一応、生徒会長の知り合いでもあるんだぜ」

(鼓修理を一人にする気っスか!?)

(ここの方が安全だろ、どう考えても!? ……あのリーダーと、化け物女に挟まれる狸吉は、絶体絶命のピンチだぜ。さすがに放っておくわけにはいかないんだぜ)

「……リーダー、……ええ、濡衣ゆとりという……はい、はい……わかりました」

 手錠は後ろ手に外されずに、立ち上がらせられる。このままリーダーの部屋に連れていかれるのだろう。

 しばらく廊下を歩いて、ある病室の前にたどり着いた。

「濡衣ゆとりをお連れしました」

 入れ、とどこか余裕のない様子の声に、化け物女が何かやらかしたのだとわかる。

 扉が開かれると、背中越しに狸吉を抱きしめている化け物女と、それを睨んでいる女リーダーが目に入った。

「入れば」

 わざとらしい余裕の声はみじんもない様子に、戸惑いを覚える。

「何しに来たわけ?」

「奥間君までわたくしを助けに来てくださって。もうわたくし一人でも十分でしたのに」

 明らかに邪魔者扱いされてた。狸吉の様子はというと、

(ア・リ・ガ・ト・ユ・ト・リ)

 それだけで来た甲斐があったというもんだぜ……。

「昔話でもしようかって思ったんだぜ」

 後ろ手に手錠をされたままだが、椅子に座らせてもらう。化け物女は拘束の意味がないからか、新しく手錠はされていないようだった。

 そして化け物女は、人の血の味を覚えた獣の目を、さらに眼光強く、さらに飢えて、さらに他人の苦痛を欲していた。頼むから自分に向かわないようにしてほしい。

「お前、なんでこんなことをした?」

 矛先をリーダーに向ける。今の化け物女とまともな会話ができるとは思わなかった。



142 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/31(月) 20:22:28.98 ID:MN1Q866e0


「お前なら、時岡学園に入ろうと思えば入れるだったぜ。た、奥間よりよっぽど成績は優秀だった」

「……成績より生まれよ。狸吉は一応母親が善導課主任だったから。ゆとりなら知ってるでしょ」

 ただ、と化け物女を睨みつける。……自分は怖くて見れない。

「《育成法》の象徴であるアンナ・錦ノ宮が、ヒトの人格を無視する化け物だと知ってたら、意地でも奥間狸吉を時岡学園なんかに行かせなかった」

「……よ、よく言い切れたもんだぜ……」

 呆れと感嘆、両方があった。目の前で化け物女を化け物と言える人間を初めて見た。

「うふふ」と化け物女はあくまで上品に笑う。

「好きに仰ってくださっていいですわ。わたくしはもう、あなた方を殲滅すると心に決めていますので」

「人質を無視して? それを狸吉が望むと?」

 リーダーが畳み掛けるように訊いても、「うふふふ」と不吉に笑うだけ。

「あ、アンナ先輩、人質を犠牲にするようなことは」 

「……残念。でも、いつでも準備はできていますので……奥間君がゴーサインを出してくれさえすれば、いつでも――」

 凍っていた空気が、さらに絶対零度まで下がる。化け物女の殺気は飽和しつつある。

「ちっ」

 リーダーは舌打ちすると、トランシーバーを口元に当てた。



「アンナ・錦ノ宮を解放する――用意をして」



「何を仰っていますの? わたくしはここに残りますわよ」

「少しでも暴れてみなさい、別室にいる人質が死ぬことになる。数は多いから問題ない」

「あ、アンナ先輩!」

「……まさか、錦ノ宮祠影とソフィア・錦ノ宮の娘を人質にしているというアドバンテージを崩すとは、意外でしたわね」

「あんたの存在は政治的駆け引きを加味しても危険すぎる。化け物なのよ、《育成法》が作り上げた、化け物なんだわ。アンナ・錦ノ宮」

「…………」

「狸吉とゆとりも解放してあげる。旧知のよしみでね。政治的駆け引きに必要な人質はこれでも十分間に合っているから、ご心配なく」


 ――人質は、鼓修理含めて、残り8人。


143 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/08/31(月) 20:23:53.36 ID:MN1Q866e0
た、多分、人質は8人であってるはず。間違っていたらすみません。何せ昔のことなのでちょっと記憶があいまいで……
144 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 00:25:04.60 ID:0HVfqfsE0


『アンナ、家に戻ってきなさい、アンナ!?』

「聞けません、お母様」

 冷静にそう返すと、善導課が用意したパトカーの中でアンナ先輩はソフィアからの着信を拒否した。僕たちは今、アンナ先輩とゆとりとで、喫茶店に向かっている最中だ。

「このままだと鼓修理が……!」

「…………」

「とりあえず、喫茶店で綾女たちと合流するんだぜ」
 
「……その前に行きたい場所がありますの。もちろん、奥間君がダメなら我慢しますわ。ですけど……」

 え? えっと、ラブホテル? そんな場所あるか!

「……月見草さんの病院に、行きたいんですの」

「…………」

「ダメなら、いいんですわ。わたくしが行ったところで、治療に役立てるわけでもありませんし、」

「すみません、行先変えてもらっていいですか?」

「まあ、そういうことなら、仕方ねえと思うぜ。綾女たちに連絡しとくぜ」

「……いいんですの? 鼓修理ちゃんのことが心配じゃ……」

「今、華城先輩たちも動いています。華城先輩からのPMだけ音量を上げて、あとはサイレントにしましょう」

 助手席に座っていたゆとりにメールを送る。アンナ先輩は窓の外を見ていて、僕達の挙動は目に入っていない。

『多分、僕と愛し合いたいとアンナ先輩は思ってるから、本当にごめん、妊娠阻害薬〈アフターピル〉入手してきて』

『お前、本当バカなんだぜ』

『一応、ゴムはいくつか持ってるんだけど、アンナ先輩相手じゃその』

『ひ、卑猥だぜ!! 入手しとくから搾り取られるといいんだぜ!!』

 さすがに知識ある女の子相手に生々しい会話だったよな……。でもアンナ先輩の暴走を止めるには必要なんだよ……。

 病院はさほど遠くない場所にあった。月見草は無事、手術を終えて今は麻酔から目を覚ますまで、念のためにICUにいるという。

「よかった……、月見草さん……」

 あのリーダーと相対していた時とは全く違う、本心から安心した女神の涙を浮かべて、アンナ先輩は銀髪を陰に囁いた。

「あたしは戻っとくぜ」

「うん、わかった。……えっと」

「頼んでいたやつはわかってるから、まあ心配しなくていいぜ」


145 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 00:25:40.24 ID:0HVfqfsE0


 ……これ、僕から言わないといけないかな。言った方が収まるんだろうけど、言うのやだな。でも仕方ない。

 ゴムは5枚、これで足りなければもう自分死ぬ。今朝夢精したし、作戦開始前に一発やってるし。

 辛うじて今の日本でも売ってる栄誉ドリンクの中でも強めのやつを買って飲む。アンナ先輩には温かいミルクティーを買ってきた。

「月見草、じきに目を覚ましますって」

「そう、ですわね」

 ……やっぱり何かを期待、もしくは恐れている目だ。僕は言わなければならない。

「アンナ先輩、もしあれがアンナ先輩の失敗だとしても、間違っていたとしても、僕はそれで嫌うことはありません」

「奥間君……わたくしは、やっぱり、その……敵を、殲滅したいですの……」

 ここから先は、もう止まらない。誰も止めてくれる人はいない。

「一時間だけ」

「…………」

「一時間だけ、空けてあります。みんなにはそう伝えてあります。だから、その……」

 僕、ぬっ殺されるかもなー。



「隣に、ビジネスホテルがありますから。愛し合いませんか?」



「――――」

 欲情の火がともる。捕食者の瞳になっていく。

 あー、もう反射でビクンと息子が反応しちゃうよぉ。

「隣よりも、向かいの方がいいですわ」

「……超高級ホテルなんですけど」

「わたくしのPMにある電子マネーで何とかなりますから、大丈夫……」

146 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 00:27:05.24 ID:0HVfqfsE0


 学生服にブランド物のない単なる私服でどこからどう見ても学生だというのに、超高級ホテルは意外と客を選ばないらしい。

「身なりで判断するようなホテルマンはいませんわ。そういうのを嫌う方も一定数いるので」

 そういうものなのか。そんなことを説明受けているとあっという間に一室に通された。さすがにスイートルームではないけど、ビジネスホテルの一室に比べたらベッドも大きく、何より防音性に優れていそうだ。

「ん! うぅぅぅん!!」

 扉が閉まった瞬間、アンナ先輩の舌が僕の口内に入り込んでくる。一部の隙も無い動きは相変わらずだった。瞳が欲情の獣の瞳になっていく。股間のあたりから、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえてくる。

「あ、は、シャワーを浴びたいところですが、奥間君の匂いを嗅ぐと、もう我慢できなくて、あはあ」

 うん、知ってた。一気に息子がおっきしたもんね。

「うふふふひ、まずは舌を堪能させてくださいまし」

 ジーパンのチャックを引きちぎるように口で開けると、僕の息子をお口に入れる。


 じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ!


 う、いつもよりも性急な動きに僕の方がついていかない。ちら、と上目遣いで僕を見ると、一気に腰が砕けそうになった。というか砕けて、扉を背に座り込む。アンナ先輩の頭が振られてく。

「せ、せ、んぱい、出ます!!」

 どぴゅ、とまだ勢いのある射精で、アンナ先輩は啜った後、尿道口まで舌をねじ込んで、じゅるじゅるとお掃除フェラまでしてくれる。

「は、はあ、はあ、先輩、ベッドに行きましょう?」

 嫣然で壮絶な笑みを浮かべると、ダンスをするように僕を起こし、僕がのしかかる形でアンナ先輩に覆いかぶさる。いつのまにかおたがい服ははだけさせられていた。

 ブラウスの下にブラジャーが見える。僕も獣欲にあてられて、(10日以上も我慢し続けたからね)外すのも面倒で、ブラジャーの上の隙間から舌を入れ、吸い付く。ガクガクガク!とアンナ先輩の身体が痙攣する。「は、ああん!! これ、これが欲しいですの!!」もう片方の乳房は揉みしだきながら、先端を指でころころと転がす。


「はあん! あ、あ、あ、おくまくぅん!!」


 絶頂の予兆が来たのでここでやめておく。「あ、は、焦らさないでくださいまし……」猛獣に食われそうな恐怖になんとか耐えながら、僕はアンナ先輩のショーツを下げた。

「ああん、そう、そういうことですの。でも、今日は生理ですから、奥間君を汚してしまいますわ……」

「そういう時のためにこれがあるんです」

 僕は言い切った。本当は生理中じゃない、危険日にこそしてほしいんだけど、とにかく避妊具の存在を知らしめたことは大きな一歩だ。

 コンドームを取り出すと、完全に勃ち上がった息子に装着する。

「ほら、これで、あの、汚れたりしないですよ……ね?」

「そういうものがありますの。……愛の蜜が交わらないのは不本意ですけど、仕方ありませんわね」

 素直に納得してくれた。愛の蜜が交じり合うと(細かい過程は違うけど)妊娠するから勘弁してほしいんだけど、それはおいおい覚えてもらおう。

「アンナ先輩、うつぶせになってもらえますか?」

 何もかもをわかってる、と言いたげに微笑すると、うつぶせに、としか言ってないのに完全にバックの体制になる。なんでわかるんだ。


147 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 00:27:47.04 ID:0HVfqfsE0


「うふふふ、早く、焦らさないでくださいまし……!」

 焦らしたら逆に食われるから、言うとおりにする。



 ズッズッズッ、ズズッ!!!



 奥まで、これ以上いかないか確かめるために、何度か角度を変えてズ、ズッと抜き挿しする。

「はあん、お腹の中が、奥間君の愛で掻き混ざっていますの!!」

 手はお尻を触っている。うわこれ、おっぱいに負けじと気持ちいい。おっぱいがお餅の柔らかさなら、お尻は桃の果実の弾力ある硬さといった感じだ。

 お尻を揉みながら、アンナ先輩の中をひたすら掻き混ぜる。

「あ、あ、あぁあああぁぁ!!!!」

 高い声を上げて、アンナ先輩は果てた。中が収縮してビクンビクンと身体が震え、僕も果てた。僕の息子を抜くと、固まりかけた血が生々しくて、あの夜の破瓜を思い出させる。アンナ先輩は一瞬動きが止まって呼吸を整えたが、凄絶に笑っていた。

「うふふ、いつもと違う体勢というのも、趣が違っていいですわね……!」

 いつも騎乗位ばっかりだったからね!

「ねえ、奥間君が嫌でなければ、その……やってみたいことがあるんですの」

「? なんです?」

「奥間君、排泄孔を指でほじると、すごく気持ちよさそうで、すごく愛を感じていましたわ」

 さ、っと顔から血の気が引くのがわかる。

「あああ、あ、あれはその、体力の消耗が激しいので、この後のことを考えると」

「ん、でも……わたくしも体験してみたいんですの。前と後ろ、両方を奥間君で満たしてみたいんですの」

「へ?」

 ……アンナ先輩、二つ穴を犯されたいってこと? アンナ先輩、淫獣モードで照れるという器用なことをしていらっしゃる。

「しんどいと思いますけど……それに女性と男性では、違うらしいですし」

 前立腺の有無とかね。

「ダメ、ですの?」

「…………」

 むしろ多少体力を奪っていた方が死人が出なくていいかもしれない。一応そんな計算が働いた後、とりあえずゴムを捨て、

「あの、その前に……は、排泄孔に、指を挿入れたりしたことはありますか?」

「あ、ありませんわ……」

「じゃ、じゃあ、僕も詳しいわけじゃないですけど……ゆっくり、慣らしていきましょうか」

 指から入れるかと考え、……「そのまま、動いたら傷つけるかもしれないんで」アンナ先輩は頷くと、シーツをぎゅっと握る。

148 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 00:28:22.96 ID:0HVfqfsE0

 ぺろ、と排泄孔を舐めてみた。「ひゃ!?」「楽にしてください、力を抜いて……」言うとおりにしてくれているらしく、穴から過剰な力が抜けた気がする。もう一度、舌を挿し込んでみる。今度はもう少し奥まで入った。

「どうですか?」

「ん、なんか、不思議な感じですわ……強烈な愛は感じないのですけど……うずうずするというか、もっと欲しくなる感じですわ……」

 僕が舐めているのは決して趣味がそうだからではない。(アンナ先輩の調教でそうなっていくかもしれないけど)ローションみたいな潤滑油がない以上、すぐに指を挿入れるのは危険と判断し。唾液を代わりの潤滑油とするためである。でもなんか、匂いというか味というか、そういうものが思っていたものと違って、汚いとか全然なくて、何故か背筋がぞくぞくしてくる。

「ん、そろそろ大丈夫そうですね……、指、挿入れても大丈夫ですか?」

「……奥間君のすることなら、なんでも受け入れますわ……」

 そういうアンナ先輩は淫獣モードでありながらも慈愛に満ちていて、僕は大丈夫だと判断した。中指を、一瞬考えて、アンナ先輩の唇に触れると、意図を察して唾液でたっぷりまぶしてくる。

 そして中指を挿入した。



「ん!? んん、ふううん……!」



 根元がギュッと閉められる。痛いぐらいだが、中はひだもなく柔らかかった。ゆっくりと動かすと、「んんんん……!!」なんとも艶めかしい声を出してくる。

「どう、ですか?」

「ん、ふうん、な、なんだか、不思議ですわ……! も、もどかしい……! 奥間君……!」

「は、はい!」

「ゆ、指じゃ、足りないんですの、きっと。奥間君の、逞しいモノじゃないと……!」

 背を反らせながら器用に僕のお尻を掴むと、排泄孔に導く。「え、あ、でも」「奥間君、わたくしに痛みを与えるかもなんて、もう考えなくていいですのよ?」力の加減をこの短期間で習得したのか、排泄孔の中に僕の息子の先が少しずつ挿入っていく。


「あ、あああああ!! やっぱり、奥間君の突起物じゃないと、はあん!?」


 ――ゴムつけてない! 大丈夫か!? 後ろだし大丈夫だよな!?

 とは理性で思いつつも、もうカリ首のところまで挿入ってしまった。抜こうとするとぎゅうと強く締め付け、痛みを感じるぐらいに抜けさせようとはしてくれない。

「もっと、奥まで……!」

 理性が飛んだのか、言うことを聞かないと後が怖かったのか、何なのかもう僕にもわからなかった。何しろ与えられる快感が尋常じゃない。多分だけどアンナ先輩以外の女性ではこんな快感は無理だと本能でわかる。

 だからとにかく、奥まで挿入れた。

「はうん!? あ、あ、あ、」

 うわ、入り口はキツキツなのに奥は柔らかくて温かい。前の穴とは違う快感がある。

 これハマる人がいるの、わかる。ゆっくりと、しかし深く、僕はアンナ先輩の穴をほじくっていく。お尻を揉むのも忘れない。

「お、おお、あああ……こ、これ、すごいですわ、あは、ふふひ!」

 アンナ先輩もお尻を振る。「う、わ」ちかちかと目の前が光る。快感が倍増してきた。

「先輩、お尻に、出ます」

「あ、あ、はああん!!」

 排泄孔の中に出した後、アンナ先輩も続けてビクンビクンとした。排泄孔から白い液体が少し漏れる。

149 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 00:29:05.49 ID:0HVfqfsE0



「……奥間君、それ、着けてくださる?」

 あ、前を希望なされてる。半勃起しているそれにゴムをはめると、アンナ先輩は体位を入れ替え、対面座位の形になる。もう十分濡れ濡れな僕らは、あっという間に挿入した。


「奥間君、わたくしの排泄孔を、指で掻き混ぜてくださいまし……!」


 素直に挿入する。あ、これ、気付かなかったけど、

「アンナ先輩、壁越しに、僕がわかりますよ、これ」

 前の方に指をひっかけるようにあてると、僕の息子の存在感がわかる。アンナ先輩は腰を動かさず、僕を抱きしめている。その様子に、少し不安になった。

「先輩、辛いですか?」



「ふ、ふふふひ、“まさか”。今すごく、気持ちいいんですのっ!」



 そういうと僕とキスをする。快感を堪能していただけだったらしい。僕は指をうごめかし、反対の指はアンナ先輩の胸の先端を転がすように捏ねる。

 アンナ先輩は重心を上手く移動させ、ずんずんと上下運動を繰り返す。ヤバい、もうイキそう。

「先輩、で、出ます!」

 言葉と同時に発射し、アンナ先輩もイッた気配があるが、アンナ先輩の上下運動は止まらないし、僕自身も止まらなかった。射精感が続いているのに、腰を振ってしまう。


「あ、あ、下から、下から来てますわ!! ああ、これ、これが奥間君の愛ですの!!」


 グネグネと中の襞をうごめかしながら、アンナ先輩は凄絶に笑う。

 ――僕の目は、今どんな目をしているだろう。

 今それを知るたった一人の人は、笑ったまま、僕の唇に貪りついた。

150 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 00:31:05.81 ID:0HVfqfsE0

久しぶりにベッドシーン。こんな時に何やってんだという気もしなくはないですが、アンナ先輩の性衝動を解放するのは死人を出さないために大事なことなのです。
久しぶりすぎるベッドシーンで勘が戻らない。こんなんでよかったかな……
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/01(火) 13:00:53.69 ID:xmPouYo80
エロシーン、おっきした
152 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 13:29:15.66 ID:0HVfqfsE0


 二人で一緒にシャワーを浴びた後(時間がないからシャワーの中ですら休みがなかった)アンナ先輩のPMに華城先輩から着信が届く。

「どうしましたの? ……はい、ええ、仕方ありませんわ。ゆっくり休んでくださいまし」

 PMを切ると、「綾女さんとゆとりさんは家に帰られましたわ」とまさかなことを言う。

「ほ、本当ですか?」

「仕方ありませんわよ。あの怪我では。ゆとりさんも一般人ですし、これ以上は巻き込めませんわ」

「…………そうですけど」

 腑に落ちない。当たり前だ、今は《SOX》にとっても全国の下ネタテロリストにとっても大事な時期なのだ。

「とにかく、いったん喫茶店に戻りましょう」

 事情が分からない。タクシーを拾ってすぐに喫茶店に向かう。



 中に入るとパンツを被った《雪原の青》と狐の面を被った《哺乳類》代表がそこにいた。



(イヤアアアアアアアナンデナンデニンジャナンデ!?)

「あら……、こんな時に」

 アンナ先輩の瞳が人を壊す悦びを覚えた獣の光を帯びた。混乱しているうちに不破さんがやってくる。

「今はこの二人を逮捕することはできませんよ、アンナ会長」

「説明してくださる?」

 本当に説明してほしいよ! 主に僕に!!

 すると、臨時のモニタールームからさらに意外な人影が出てきた。アンナ先輩と同じ銀の髪。

「お母様!?」

(なんで!?)

「アンナが何を言っても引く気がないのはわかりました」

 ぎりぎりと歯噛みしている。ソフィアにとっても嫌な案のようだ。



「《SOX》と協力して、あのテロリストを潰しなさい。手段は問いません」



「……なぜ《SOX》と協力という話に?」

「僭越ながらわたしから説明させていただきます」

 不破さんが説明に入ってくれるらしい。一般人枠だからね。

「今残っている人質全員が財界の家族などの関係者です。日本国としては外国に交渉のカードとして切られたくない類の人たちばかりです」

「…………」

 アンナ先輩の価値観では命はみな平等なのだろう。冷凍マグロのごとく無表情を動かさない。

153 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 13:29:51.16 ID:0HVfqfsE0


「警察も迂闊には動けません。そこで《SOX》の出番なのです。若い世代にカリスマ性のある《SOX》に扇動してもらい、その隙を付くというものです」

「それって、失敗したら《SOX》に全部責任を負わせる気じゃないか!?」

「その通りよ、奥間狸吉」

 《雪原の青》の声が、芯をもって響き渡る。

「それを承知で、私たちは了承したの。《ラブホスピタル計画》を潰すためにね」

「《群れた布地》の時と同じ構図、ということです。《SOX》自身がテロリストを否定することで、《ラブホスピタル計画》を推進している政府の動きとは裏腹の《SOX》の活躍により解決したとなれば、《SOX》の流布している性知識も正当なものだと認められるのです」

 不破さんが冷静に言うが、しかし……ハイリスクハイリターンな話だ。

「本来は私たち《SOX》のみで行う予定だったわ。ただ、どう考えても人手が足りなくてね。そしたら鬼頭慶介から連絡が来て、ソフィアが来たの」

「警察は、善導課はこのことを知っているのか!?」

「上層部には祠影と鬼頭慶介が手配してあります。基本、警察へのダメージが最小限になる方法ですから、交渉自体は難しくなかったようです」

 そう言うソフィアの顔には嫌悪感があった。

「……なるほどですわ……」

「アンナ、あなたはこの事件を一人ででも解決するつもりですね? 私が何を言っても、止めるつもりはありませんね?」

「はい、お母様」

「仇敵と組するのは許しがたいと思います。ですが一人では危険なのです。あなたにはあくまで《SOX》を追ったらテロリスト集団と遭遇したという体を取ってもらいます」

 なんだその無茶苦茶な論法。

 ソフィアはコーヒーを一気に飲む。不破さんが続ける。

「国益、政府の思惑、私たち《ラブホスピタル計画》への反対者、いろんな思惑が渦巻いています。それらが一致しているのが、外国にわたる前の人質の救出なのです」

 アンナ、と、どこか痛まし気にソフィアは力なく囁く。

「アンナにとっては辛いことでしょうが、今だけは逮捕せずに《SOX》の指示に従いなさい」

「《SOX》はわたくしの参加は既に了承している、とみなしていいんですわね?」

「ええ」

 《雪原の青》は最小限の言葉で頷いた。

154 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 13:30:34.79 ID:0HVfqfsE0



 母は帰っていった。ここでできることは何もないのだから当然だろう。父とまだ調整するべきする話が残っているだろうから。

 自分が壊したテーブルや椅子などは、まだ片付けられていないままだった。

 奥間君から愛を求めてきたのは、殆どない。だから嬉しかった。月見草さんもあとは休めばいいだけらしい。

 なら、今は自分にできることを。

「コンセントレーションですか」

 不破氷菓が話しかけてくる。

「ここに来るまでに、奥間さんと愛し合ったのですか?」

「あら、わかりますの?」

「数時間前のあなたなら《SOX》を見かけた時点で問答無用で捕縛していたでしょうから」

「そうかもしれませんわね」

「…………」

「どうかなさいまして?」

「わたしが言うのもガラじゃない、と思うのですが」

 珍しく言いよどむ氷菓に、身体ごと顔を向けた。

「大丈夫ですか? 色々ありましたが」

「月見草さんのことはわたくしの失態ですわ。誰がどう言おうと。奥間君は、わたくしを許してくださったけど……わたくしはわたくしを許せないのですわ」

「そう、ですか……犯人たちをどうするつもりですか?」

「殺しますわ。特にあのリーダーは絶対に殺さねばなりませんの。……あの女は危険ですわ。奥間君にとっても」

 微笑を深める。不破氷菓の頭脳は自分と違った側面で優れているから通じるだろう。

「協力は、してくださらないのでしょうね」

「奥間さんは望みません。あなたが人を殺すこと、間違えることを」

「でしょうね。でも、間違えたとしても、受け入れてくれるのが奥間君なのですわ」

「あえて誤用しますが、確信犯としての罪まで許すでしょうか?」

「受け入れてくれますわ。それが奥間君の“愛”なのですから」

「……報酬の件ですが、犯人たちを許す、というのはいかがですか?」

「……冗談、ですわよね?」

「そうなりますね。報酬は別に考えているのでご心配なく。例えば、そう。奥間さんとの愛の儀式とやらを私に見せていただくとか」

「……直接でなければなりませんの? その、やはり恥ずかしいのですけれど……」

「作戦立案も手伝いますよ。まあ報酬の件がなくても手伝うつもりですが」

 不破氷菓の表情は、アンナでも読みにくい。どこまでが本気で冗談か、いまいちわかりにくい。

「《SOX》をどう動かすか、わたくしがどの時点で関わるか、ですわね」

「アンナ会長は船の中に潜むのがいいでしょうね。ヘリの中だと狭すぎてアンナ会長の機動力が削がれますから。最悪、事故の可能性も考えられます」

「それが妥当、ですわね……さて」

 血と欲情に飢えた捕食者の笑みを浮かべ、部屋の向こうにいる、仇敵である《SOX》を壁越しに睨むかのように視線を強くし、

「うふふひっ、さて、《SOX》をどう扱いましょう……?」

 寒さではなく、興奮と昂揚からくる震えで、背筋に奥間君から愛された時と似たようなゾクゾクが生まれてくる。

「……いったん、休むべきかと。会長も疲れていらっしゃるでしょう」

「不破さんも、モニターしていて疲れたのでは?」

「わたしはそういったことに慣れていますのでご心配なく。……《SOX》と話し合いしてきます」

「わかりました。お願いいたしますわ」


155 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 13:32:48.58 ID:0HVfqfsE0

不破さんには申し訳ないけど、不破さんとアンナ先輩の会話は書いててすごく楽しいです。
エロシーン、もっとうまく書けるようになりたかった……がっくし
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/01(火) 14:23:21.43 ID:Yv8xwVAVO
アンナ先輩と不破さんって、いろいろ対比できるキャラだからね。対比できるキャラ同士の掛け合いって、書いていて楽しいよね、よくわかる

しかし、高級ホテルの連中も、よく学生の男女二人の入場を許可したなぁ
こういうのって不純と卑猥だとか言って問答無用で取り締まられるんじゃないの?

それともソフィアや奥間母みたいな体制側の大人以外は割とゆるゆるなのかな
下セカの大人って、体制側かテロリストのどちらかしかまともにキャラ付けさないからよくわからん
157 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 14:57:16.85 ID:0HVfqfsE0
呼んでくださり、ありがとうございます! そして私が考えた設定で申し訳ないのですが、

超高級ホテルは身なりで人を判断しないというのは、私たち現代の世界の価値観、《育成法》前の価値観なんですね。そこは申し訳ない。ただPM装着が外国人観光客にも義務付けられて以降、外国の客が極端に減っているので、客を差別したりはしないんじゃないかと思うのですが、都合よすぎな考えですかね。
あと多分ですがアンナは何度かこのホテルを家族と一緒に利用したことがあるんじゃないでしょうか。なんか詳しいですし。スイートだと財界の秘密の会談とかもしていそうなホテル、というイメージだったので、秘密保持は絶対なんだとは思います。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/01(火) 15:04:34.26 ID:TSnQcDIA0
アンナ先輩、([ピーーー]気)間違える気満々だけど、たぬきちどうするんだこれ。
たぬきちの価値観も揺れ動くみたいなこと、不破さんが言ってたし、たぬきちもなんか不安定な気がするのは気のせいならいいけど。

指弾で銃はじき飛ばしたのには笑った。アンナ先輩、絶対柔道だけじゃないよな。
159 :>>158 [sage]:2020/09/01(火) 15:45:41.05 ID:TSnQcDIA0
移動中だからID変わってるかもだけど、158な
実は原作読んでなくてこの作者の前のやつとアニメしか見てないんだけど、原作もこんな感じなん?
アニメよりアンナ先輩めっちゃ怖くなってるけど
160 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 15:55:01.63 ID:0HVfqfsE0
>>158
>>159

……難しいです。皆さんに解説を任せます。
なんか書いてたらキャラがこんな風に動いた感じです。多分アンナ先輩以外はそんなに変わらないとは思うのですが。

あと原作の文章は、下ネタが巧妙に散らばっていて、もっと軽妙ですね。こんな重くないです。こればかりは何というか、文体の問題というか、赤城先生みたいに下ネタ浮かばないというか変態じゃなかったみたいです。
161 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 17:16:46.02 ID:0HVfqfsE0


 不破さんにアンナ先輩の時間稼ぎをお願いして(「わたしを殺したいのですか?」と無表情に淡々と言われたのには本当にごめんとしか言いようがなかった)僕と《雪原の青》と《哺乳類》代表――華城先輩とゆとりとで詳しく話を聞くことにした。

「《SOX》だけで何とかなればよかったんだけど、圧倒的に人手が足りなかったのよ」

「《哺乳類》《絶対領域》も《SOX》に任せるっつって、実質失敗したら《SOX》だけに被害をとどめようって魂胆が見え見えなんだぜ」

「そしたら慶介と祠影が画策して、《SOX》に全部押し付けようとしたわけ」

 少しでも味方だと思った自分がバカだった、殴りたい!!

「ま、まあ、その、撫子も一枚かんでるみたいだけど」

 ……大人って、卑怯だよな……。

 なんだかんだを話しているうちに、不破さんだけが出てきた。

「アンナ会長はいったんコンセントレーションするようです」

「こん、なに?」

「精神集中ですね」

「アンナ先輩の様子はどうだった?」

「思ったよりは安定していましたが、リーダーに対する殺意も安定していましたね。事故に見せかけて殺す気でしょう」

 それなんてサスペンス劇場?

 と、インパクトに紛れて今まで気づかなかったけど、

「早乙女先輩は?」

「移動中だぜ……慶介のところに」

「え? なんで」

「今回の色々な画策のお礼として、絵を何枚か贈呈するとかなんとか」

 《SOX》のリスクを考えるとしなくていいと思うんだけど、一応チャンスが与えられたとみて、礼儀として、かな。まあここにいても役に立ちそうにないし。

「奥間さんはどうなさるのですか?」

 不破さんが問いかけてきた。僕もそれは悩んでいた。

「僕は……、」

 ちら、と《雪原の青》を見る。

「……アンナ先輩についていくことにする。今のままじゃ、アンナ先輩は絶対に間違える。許されるから間違えていいって、そんなのはダメだと思うんだ」

「アンナ会長を止めることができるのは奥間狸吉だけだろうし、それでいいと思うわ」

「《雪原の青》は怪我で激しい動きができないようですが、それでも?」

「……アンナ先輩は僕以外の女性につくことを許さないよ」

「た、奥間、あたしらはお前の意思を聞いているんだぜ」


162 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 17:17:42.32 ID:0HVfqfsE0


 ゆとりが痛いところを突く。今までずっと逃げてきた言葉。答えてこなかった言葉。



 ――僕はアンナ先輩を愛しているのか?



 その純粋さも、無垢さも、危うさも、怖さも、全部が今、奇跡的に成り立っている。

 あの夜、僕が奪ったものは、アンナ先輩にたくさんの変化をもたらした。

 ずっと性欲だけだと思ってた。でもこんな奇跡的なバランスで成り立つのは、きっと、アンナ先輩の価値基準では、本当に僕を愛しているからなんだろう。

 見捨てられない。どうしても。憧れの人というのを差し引いても。憧れが、まだ残っていても、残っているからこそ。

 《雪原の青》を見る。僕の今の憧れの人。この人みたいにまっすぐになりたい、そう思って今まで頑張ってきたつもりだった。

 だけど、今は何だ? まるでまがりきったち○こじゃないか。ふにゃちんのようにふらふらとして、自分ってものがなくて。

 僕が本当に好きなのは――、



「奥間君」



 アンナ先輩の登場に、一時会話が止む。というか凍り付いた。

 アンナ先輩は僕の背中に回り、抱きしめる。僕を誰にも渡さないと、言外にそう言いながら、捕食者の笑みを主に《雪原の青》に向ける。

「今度、奥間君に触れるようなことがあれば、無傷捕縛なんて甘いことは言いませんわよ?」

「触れるつもりなんてない。その話は終わってるのよ、アンナ会長」

「牽制はよろしいですか?」

 不破さん、僕にぐちぐちいう割には結構仕切るよな……。

 アンナ先輩は僕の背中におっぱいを押し付けたいらしく、そのまま離れない。まあ多分、不破さんの言うとおり牽制なんだろうな。アンナ先輩の目から見たら僕は一度、《SOX》に誘拐されているのだから。

「先ほどアンナ会長に入ったのですが、《SOX》には先行してヘリの中に入ってもらい、犯行グループの信用を得てもらいます。そして船の中でアンナ会長に暴れてもらう、と」

「私は怪我で戦力にならないわ。アンナ会長ひとりで大丈夫なの?」

「そちらの狐のお面の方はどうなんですの?」

「足には自信あるけど、それだけだぜ。武器もって訓練してきた連中と立ち回る自信はないぜ。あたしは主に、鬼頭鼓修理の他、人質の保護が目的なんだぜ」

「鼓修理ちゃんの? ……なるほど、ですわね」

「アンナ先輩、僕も行きます」

「…………」

 すぐに断るかと思ったのだけど、アンナ先輩は考え込んでいるかのようだった。それが少し意外で、すぐそばにあるサラサラの銀髪を頬に撫でながら横を向く。

「もし、奥間君が傷ついたら」

 全員がゾゾゾと青ざめる。月見草の時ですらあんなに我を忘れていたのだ。確実に破壊神の権化となる。

163 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 17:18:28.18 ID:0HVfqfsE0

「閃光弾などの装備は一応作ってあるのですが」

 そういえば不破さんって一応生物部じゃなくて化学部部長だった。

「苦労させられましたわね」

「…………」

 アンナ先輩の圧力に不破さんが冷や汗をかいていた。

「光だけの装備なら簡単なのですが、爆風や音を含めたスタングレネード弾となると、時間が足りませんね」

「それぐらい善導課に融通してもらえなかったの?」

 ゆとりに聞いてみるが、

「あ、あたしはそもそも交渉する暇なんかなかったんだぜ」

 ずっと人質だったから仕方ないか。

「閃光弾しかないというのであればそれで十分ですわ。問題は、相手が本物の銃を持っていることですわ」

「本物を? いったいどうやって?」

「亡命先からでしょうね」

 不破さんが淡々と答える。

「ただ、本物の数は少ないのが救いですわね。訓練も十分にはできていないようですわ」

「エアガンと本物の銃では反動が違います。場合によってはエアガンの方に注意するべきかと」

「で、私は、あくまで扇動ね」

 《雪原の青》がようやく口を挟む。

「船に乗り込んだ段階で、私がどこまでグループを二分できるか、ね」

「《雪原の青》の話術とカリスマ性にかかっています」

 不破さんがそう評した。

「二分した後、アンナ会長はそこの狐女と合流、人質の安全を確認した後、もう一つのグループを殲滅する、と」

「あ、あたしは基本、人質を守る方に動くけど、……本当にアンナ会長ひとりで大丈夫なんだぜ?」


 ――暴雪が、部屋を勢いよく靡いた。


 アンナ先輩は舌なめずりすると、

「ひとりがいいんですの。警察も善導課の目もない場所が、いいんですの」

 うわー、全員殺す気満々だこれ。しかも事故に見せかけて殺す気だ。完全に頭の働き方がそっちの方面に逝っちゃってる。

164 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 17:18:53.54 ID:0HVfqfsE0


「でもお一方だけ、じっくり殺したい方がいるんですわ。……あのリーダーだけは、生かしておけないんですの」

「……あいつは、」

 ゆとりは言いかけて、止める。あのリーダーがアンナ先輩にしたことは、同じ女性だからこそ許せないんだろう。

 でも、アンナ先輩に間違いを犯してほしくない。もう前も後ろも犯しちゃってるけど、そういうことじゃない。

「アンナ先輩、その、殺人だけは……」

「奥間君は」

 アンナ先輩は、笑う。

 自分の価値観の中で完結していて、他者を寄せ付けない、あの笑みを浮かべて。

「わたくしが間違えても、受け入れてくれるのでしょう?」

「…………それでも、僕は、止めてほしいんです」

「なら、死ぬほどつらい痛みを与えますわ。……それも、ダメですの?」

「…………」

 アンナ先輩は僕の首筋に鼻を埋めると、スー、ハー、と匂いを嗅いで、

「奥間君は、優しすぎるんですの。……もっと、その優しさを、わたくしだけに向けてほしいですわ」

 本気の嫉妬ではなく、子供が拗ねているような、拗ねていることを演じているような、かわいらしい声音で甘えてくる。……鼓修理並みに表情を作ってるんじゃないかと思うぐらい、完璧なかわいらしい笑みと声音だった。

「アンナ会長の実力を疑うわけではないけど」

 《雪原の青》が甘くなってきた空気を壊してくれた。ありがてえ。

「アンナ会長が傷ついた場合のことも考えないといけないわ」

「問題ありませんわ」

「い、いや問題ですよ。アンナ先輩が傷つくところなんて考えたくないです!」

 先ほどのかわいらしい笑みとは違う、慈愛に満ちた聖女の微笑だった。

「わたくしは、大丈夫ですわ」

「…………」

 全員が、嫌が応にも納得させられるような、生徒会長として見せる説得力あるあの微笑だった。

「アンナ会長の自己判断を信じることにしましょう。わたしの分析とも外れていませんし、そう心配はないでしょう」

 不破さんがまとめてくれた。

「とりあえず、アンナ会長、奥間狸吉、不破氷菓は何か食べておきなさい。これからが本・番!よ!」

 ……もう何発か、本番終わってるんですけどね、僕とアンナ先輩は。

 とにかく何か食べておこう。時間はあまり残っていなかった。


165 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 17:20:31.37 ID:0HVfqfsE0

やれやれ、このまま人を殺さないで済む化け物女が想像できないんだぜ by ゆとり

鼓修理の出番がないっス! by 鼓修理


鼓修理に関しては本当ごめんなさいとしか。
166 :>>158 >>159 [sage]:2020/09/01(火) 17:32:57.20 ID:IXe2rHlD0
たぬきちアンナ先輩ばっか優先して華城先輩無視してるってか、華城先輩に任せっきりなの大丈夫なんかね?
167 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/01(火) 19:43:59.63 ID:0HVfqfsE0
修正
ヘリコプターから船に乗り換える

修正後
バスから船に乗り換える


すみません、乗り物の収容人数を知らなかったのです。気を付けます。
168 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/02(水) 01:20:19.17 ID:KGOyowFN0

(はあ、あの化け物がいないってだけで鼓修理はホッとするっス)

 綾女様もきっと対策に乗り出しているし、正直鼓修理としてはあまり脅威を覚えていなかった。亡命先の国に何らかの政治利用されるかもしれないが、命の危機があるわけではないし知ったことではない。

「バスが用意された! これから移動する!!」

 人質は2、2、3人のグループに分けられ、三回に分けて地上に降りる。

 外に出る時が善導課に囲まれて一番緊張したけど、人質の質が質なだけに対応できないようだった。

 正直鼓修理としては、《群れた布地》に協力していたころを思い出してむず痒い思いがある。だけど海外逃亡は本気なのだろう。リーダーはあの化け物相手に銃を向け、骨を折られ、肩を外されても目の光を失わなかったし、なかなかの人物だと鼓修理は見ていた。さすがにキスさせたことには同情できないけど。

 二番目と三番目の間に、あの化け物にキスした少年がストレッチャーで運ばれ、バスの中に入れられる。

 そして、最後、鼓修理たちの番になり、犯人側としては何事もなく終わったかと思った時。

 白い影が、入ってきた。

「何者!?」



「こんにチンチン! 私はお尻に咲く蒙古斑のような女、《雪原の青》こと《SOX》のリーダーよ!!」



(綾女様!!)

 ざわざわと犯人たちがざわつく。「え、本物?」「善導課を抜けて?」そのあたりは自分も気になるけど《雪原の青》が本物であることは当然わかる。

「規制単語を、PMを無効化していた。《雪原の青》であることは間違いないでしょう」

 リーダーが断言すると、わっと盛り上がる。リーダー以外は。

「……何しに来たの?」

「もちろん応援よ! 遅くなってすまんこ!」

 ばっと、《雪原の青》が卑猥が描かれた絵画をばらまく。わっと集まりかけるが、

「同志に怪我人がいるわ。皆慎重になりなさい」

 すっと波が引くように静かになる。

「応援って、具体的に何を?」

「まずは善導課から振り切るわよ! 邪魔でしょ、あいつら?」

「どうやって?」

「簡単よ」

 《雪原の青》はトランシーバーを出すと、

「おっぱい気球、カモン!!」

 《哺乳類》が用意したものだろう、気球に女性の胸部が、(主にゆとりにないものが)描かれたその気球は何回見ても常軌を逸していると思う。綾女様には勝てないっスけど!

 ついてきている善導課のパトカーが一瞬、迷ったのを見て、

「ゴーゴー射精ゴーゴーゴー!」

 バスの運転手にスピードアップを要求する。前にいたパトカーを蹴散らして、さらにスピードアップ。

「船の場所は変えてあるわね!?」

『はい、発信機があるのでどうしても時間の問題ですが』

「電波妨害してあるから大丈夫、そのまま予定位置にイッちゃって、間違った行っちゃって!」

 聞いたことのある声だった。確か、不破氷菓という非常に分析力に優れた、前回の事件でも世話になった《SOX》の支持者だ。

 運転手にPMで地図が送られる。「この場所に来てくれる?」運転手は頷いた。運転手は犯人グループのメンバーの一人でPMは装着していないはずだったけど、PMの投影画像自体は見れるはずだ。

 綾女様に何か話したいが、関係性を気付かれるのはまずいというジレンマに鼓修理はいらいらしてきている。しかし我慢するしかない。

「船の中にいると思われる善導課の職員は、うちの仲間が前もって確認し排除しているから安心して!」

 ゆとりのことだろうか。作戦に参加できない自分がもどかしい。

(鼓修理が役に立てるチャンスが絶対来るっス!)

 《雪原の青》なら必ず役目を与えてくれるはずだ。
169 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/02(水) 01:20:57.29 ID:KGOyowFN0


 僕はアンナ先輩とゆとりと不破さんと一緒に慶介の言っていたフェリーターミナルまで来ていた。

(やっぱり母さんいるな)

(いくら善導課の役目がないと言っても、放置するわけにはいかねえもんだぜ)

 その事を知っている母さんなら、もっと別のポジションで指揮を執るはずなんだけど、やっぱりソフィアの起こしたデモの警護で立場が弱くなっているみたいだ。

 この分だと、船の中にも最低限の人数しかいないと思われる。今は港に着けられていて、このままバスごと入る予定だ。

(不破さんって船の操縦できるの?)

(運転免許は取得していません)

 だよねー。運転手の確保は必要か。と思ったら、

(一応、教練書で読んだレベルですが、船や飛行機の最低限の動かし方は頭に入っていますわ)

 ……アンナ先輩にできないこと、誰か教えて。

(運転手はおそらく亡命国の手先でしょう)

 不破さんが無表情に呟く。

(リモートモードがあるはずです。これだけ大きい船なら)

 何しろバスが何台入るんだってレベルだもな。どれだけガバマンだよ。これのどこが『小型』だよ。金持ちはこれだから。

 ターミナルは既に空いている。急がないと所定の位置まで移動できない。

(不破さん、走れる?)

(わたくしが奥間君のお義母様を引き付けますわ。その隙にお願いしますわ)

(あたしが不破を引っ張る、奥間狸吉は自力で走るんだぜ)

(わかった)

(カウントダウン始めます。5,4,3,2,1、)

 

 0


170 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/02(水) 01:21:26.29 ID:KGOyowFN0

「何だ貴様ら!?」

 早速母さんの声が善導課を呼び寄せる。アンナ先輩は僕のトランクスを被って私服に着替えていて、特徴ある銀髪を隠している。トランクスである必要、あった?

「こんな時に、貴様らガキの相手をしている暇は……!」

 アンナ先輩は無言で母さんの相手をしている。ちらっと見えた瞳は、食い応えのある獲物を見つけた獣の瞳だった。そんな瞳に不吉さを感じながらも、僕はアンナ先輩に任せ、善導課が前を塞いだのを、


 ピッカーーーーーン!!!


 不破さん特製閃光弾で撹乱する。目を塞いでもまっぶし、事前の合図がなければこっちもまずかった。

「ちっ」

「行かせませんわ!」

 淫獣モードじゃないアンナ先輩のあんな気迫、初めて見たぞ……!

「早く来るんだぜ!」

 母さんを何とかあしらった後、アンナ先輩が瞬間移動かっていうぐらいの俊足でこっちに来て、渡り廊下みたいな場所を通ってそのままフェリーの中に入り込む。不破さんが何かのスイッチを押して、渡り廊下を強制遮断した。

「あとは車庫ですわ。《哺乳類》さん、不破さんは運転席の方へ! 車庫を閉じるのをお願いしますわ!!」

 アンナ先輩の指示に何の疑問も抱かず、僕とアンナ先輩は車庫に向かう。車庫も開かれていて、そこから善導課がパトカーごと入るか判断に迷っていたようだ。

「指定以外の犯罪者は捕まえていい! 不法侵入で逮捕しろ!」

 母さん、鬱憤たまってるなー。

 乗下船口にたどり着く。パトカーが入ってくるか迷っていたようだったが、意外に早くゆとり達は運転席までたどり着いたのか、そこから遠隔操作で車庫も閉められ――


  ドン!


  バッシャーン! とまず寒いより冷たいと痛いが感覚を突く。海水が目や鼻や口に入った。

「ごめんなさい、奥間君」

 小さな、小さな囁き声なのに、鮮明に聞こえる。僕にしか届かないような、囁き。



「人質はもちろん無事に。そして、――悪を殲滅させるんですの。奥間君は、それを邪魔をするでしょう? それが例え、わたくしのためでも」



 溺れかける僕の目に映ったアンナ先輩は、すでにトランクスをはぎ取っている。

 善導課がライトで僕を照らす中、逆光で見えた銀の影は、血に飢えた獣がもうすぐ獲物が罠にかかることを喜ぶかのように、無邪気に笑っていた。
  
171 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/02(水) 01:24:54.94 ID:KGOyowFN0

読んでくださる方が徐々に増えてうれしいです(( ;∀;))

アンナ先輩は、……どうなるんでしょうねえ
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/02(水) 08:57:14.66 ID:YaBJhNYHO
このテロリスト達もあの男女共同刑務所に入れられるんかなぁ……
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/03(木) 13:51:07.80 ID:EpdTYFtf0
その前にどうやってアンナ先輩を止めるかだけどな
174 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 16:24:42.17 ID:4IkUZS9Z0


 ゆとりは不破特製閃光弾を使って、運転席にいた三人を何とか確保した。武器を持ってないのが幸いしたのだと思う。

「No, I don't speak Japanese!(わ、私たちは日本語話せません!)」

「Don't worry, I speak English.(問題ありません、私が話せますから)」

 どうやら不破は英語を話せるらしい。

 ピピピピ

「こちら、不破です」

『運転席は大丈夫でした?』

「問題ありません」

『すぐにそちらに向かいますわ。それまで過剰に傷つけないように』

 PMが切れた。

「運転手は対象に入っていないのか、拷問を自分でやりたいのか、わかりにくいとこだぜ」

「後者でしょう」

 《雪原の青》は今、リーダーとあのキス小僧、一応の人質の見張りを最低限、それ以外を集めて宴会しているらしい。ろくでもない武勇伝でも聞かせているんだろう。

 化け物女はすぐに運転席に来た。ただ狸吉が見当たらない。

「会長、た、奥間はどうしたんだぜ?」

「海に捨ててきましたわ」

「……は?」

「わたくしのやることを、邪魔されたくないものですから。善導課もわたくしの両親の口添えですぐに解放するでしょうし」

「そ、そういう問題じゃ……」

「わかりました。現実として奥間さんがいない以上、もうどうしようもないことですから」

 切り替え早いなコイツ!

 化け物女は運転手三人ににこりと聖女の笑みを浮かべると、

「人質の部屋を教えてもらえますか?」

「あー、英語じゃないとダメみたいだぜ」

「……Can you show me the hostage room?」

 化け物女も英語話せるのかよ……。

 運転手三人は「I don't know! I don't know!」を繰り返すばかりだ。本当に知らないのか、言語の壁があってゆとりにはわからない。

「仕方ありませんわね。《哺乳類》さん、《雪原の青》に連絡取れますか? あちらから訊くほうが早そうです」

「お、おう」

 PMで宴会中の《雪原の青》に連絡を取る。

「Now, can you tell me where this ship is going?(さてと、この船がどこにいくのか、教えていただけません?)」

 背中が凍り付く。船員たちも完全に黙り込んだ。

 獣の飢えた嗜虐の悦びに、全員たちも気付いたのだろう。全員が恐怖する。

(狸吉……!)

 なんで、唯一止められるお前が、今、ここにいないんだ!
175 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 17:02:44.16 ID:4IkUZS9Z0


 バキドカドン!

 人質の部屋の前で待機していたあのリーダーの部下3人いたが、油断していたこともあって一瞬で沈めることができた。さすがはアンナ会長だと思う。

 人質は二等船室にまとめて詰め込まれていた。

「皆さん、大丈夫ですの?」




「「「「「「「「…………」」」」」」」」




 人質は全員沈黙していた。アンナ会長が目の前で化け物じみたアクションを見た人間からすると、当然の反応だろう。

 反応は特に鼓修理という奥間の妹が顕著だった。

「えっと、なんでお姉ちゃんがここに……?」

「助けに来たのですわ。今、《雪原の青》が残りの人員を惹きつけていますの」

「え、《SOX》と手を組んだ……? お姉ちゃんが?」

「事実だぜ」

 《哺乳類》代表がキツネの面を被りなおしながら、人質を解放していく。

「不破さんは運転室に戻らなくて大丈夫ですの?」

「あれだけきつく脅しておけば大丈夫でしょう。椅子に縛り付けてありますし」

「しかし、香港とは……《育成法》制定前は親日国、というぐらいしか情報がありませんわね」

 アンナ会長に限らず、学生の外国への意識などそんなものだ。今現在の海外情勢を知っているものなど、学生ではほぼ皆無だろう。

「水面下の交渉があるのでしょうが、わたしたちはそれ以上にやらなければならないことがあるでしょう」

「ええ、鼓修理ちゃん以外は全員、この部屋にまだ隠れてください。犯人グループを殲滅するまでは、この部屋に鍵をかけて、物音がしたら身を低くしてくださいませ。犯人グループは実銃を持っているとの情報がありますわ。わたくしたちが来たら、ノックを4回しますので、それで判断してくださいまし」



「さて、いよいよ本番ですわ」



 これから、《雪原の青》が油断させている連中を殲滅する。

 その悦びにアンナ会長は身を捩っていて、唇をぺろりとなめ、衝動の解放の時を待っていた。

(奥間さん、これでいいのですか……?)

176 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 17:27:13.19 ID:4IkUZS9Z0


 《雪原の青》は何とかハイテンションを保っていたが、事実は限界だった。傷が開いてきているのがわかる。

「リーダーは? まるで初めての処女膜を野菜で破ってしまったみたいな後悔が見えるけど」

「どんな顔よ。……あんたも座ったら」

 勧められて、やっと椅子に座る。まだ話を聞きたがる連中がいたが、リーダーが追っ払ってくれた。

「まあ助かったと言えば助かってるんだけど。《雪原の青》も香港に行くわけ?」

「逃げるのが悪いというわけじゃないけど、私は逃げないわ。香港には行くけど、それはあくまで物資調達のためよ!」

「昔のオタク文化が残っているっていうからね」

 リーダーの顔は暗い。何人か気にしている連中もいたが、あえて無視しているあたり、リーダーに対する気遣いもちゃんとあるのだろう。

「アンナ会長のこと?」

 ズバリそのまま聞くと、苦笑気味に「まあね」と返ってくる。

「あれは《育成法》が生んだ化け物だ。あたしは殺しはやらないつもりだけど、あっちはそうじゃない」

「……キスさせたことに同情の余地はないけど」

「あれはアタシの逆恨み。結果、酷い怪我人を生んでしまった。でもそうじゃなかったとしても、あの化け物は始末しないといけない。今は無理でも、いずれ」

「そう、ね」

 ピ

 一瞬、PMが鼓修理から鳴った。合図だ。3,2,1,



 ピッカーーーン!!



「!?!?」



「油断しましたわね」



 低く嬉しそうな声が、鮮明に聞こえる。20人以上を相手にしても目が一瞬眩んだ連中相手なら、アンナなら容易かった。あっという間に全員が行動不能に陥る。

 ゆとり、不破氷菓、鼓修理の三人でどんどん縛り上げていく。自分も手伝っていく。

(狸吉は!?)

(あの化け物女が船から捨てやがった)

(なんですって!?)

「アンナ……アンナ会長!!」

「……やっぱり、最初からこのつもりか。アンナ会長が《SOX》と組むのは、《群れた布地》の件から、有り得ると予想はしていたよ」

 リーダーは冷静だった。だからこそ、危うい。



「うふ、うふふふふふふふひひっ!!」



 強い強い、嬌声に、熱気が直に伝わりそうなほど火照った体を自分で抱きしめ、仇敵を見る目ではなく子供が欲しがっていた玩具をようやく手に入れた目でもって。

「ああ、やっと、愛の罰を与えられますわ……うひひひひ、やりたいことがいくらでも浮かんできて、困ってしまいますわ」

 アンナはどこまでも無垢に、子供の笑みで、笑っていた。


177 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 17:28:36.70 ID:4IkUZS9Z0

すみません、次回から多分拷問とかリョナとか、精神的にも肉体的にも痛いシーンが続くと思うので、そういうシーンの前には注意書きを入れたいと思います。よろしくお願いします。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/03(木) 19:13:27.28 ID:i1w7lDfy0
むしろリョナシーンを待ってたりする
179 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 22:50:34.07 ID:4IkUZS9Z0
今から行きます。きついシーンですので、飛ばす方は飛ばしてください。アンナ先輩がはっちゃけます。
180 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 22:51:58.47 ID:4IkUZS9Z0


「さあ、どうしましょう? ……そうですわね、とりあえず残った手足の骨を先に折っておきますわ」

 以前、足にダメージを残さなかったから《雪原の青》の逃走を許したことを思い出し、刃物がないので腱は切れないから、とりあえず足を折ることにする。

 ボキ! ボキ! ボキ!

「〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 体重を肘にかけ、右の下腕を、両のすねを折る。

 ああ、この音が耳に心地いい。愛の罰を与えている時のこの音と感触は、下肚に響く。

「うふ、うふふふひっ、しかし強情な方ですのね。わたくしは是非、あなたの悲鳴も聞いてみたいのですけども」

「……アンナ会長、もう十分ではないかしら?」

「……《雪原の青》? 黙ってくださる? 正直まだ、あなたを、《SOX》の関係者を壊すことへの興味は捨てきれていませんのよ?」

「…………」

 ちら、と鼓修理を見る。「ぴぅ!?」さすがに愛の罰を見せるのは教育に毒だと判断した。

「《哺乳類》さん、人質の部屋に鼓修理ちゃんを案内して。今なら安全でしょうから」

 鼓修理と《哺乳類》が脱兎のごとく去っていく。残るは《雪原の青》と不破氷菓。どちらも愛の罰に否定的だ。

「不破さん。この方、なかなか肉体的な痛みには強いみたいですわ。あなたならどうしますの?」

「……何故わたしに?」

「人間の仕組みに興味があるあなたなら、何かいいアイデアがあるかと思いまして」

「わたしが興味を持っているのは、人間ができる過程です。人間が壊れる過程ではありません」

 反論されるほど何故かゾクゾクする。正直、不破氷菓も条件が整うならば、愛の罰を与えてみたい。この無表情から、どんな悲鳴が飛び出るのか。

「ん、いいことを思いつきましたわ。……不破さんとは、愛の再現実験をした仲でしたわね」

「ええ、貴重な体験でした」

「ええ、それと同じように……この方に、愛を教え込もうと思うんですの」


「「……!!」」


「この、衆人環視で、ですか?」

「ええ、リーダーが愛を覚えれば、部下の方々も覚えるかもしれませんし……」

「それは、奥間狸吉に対する浮気にならないのかしら?」

「何を仰っていますの? 女性同士で恋愛が成り立つはずないでしょう?」

 思いついてしまった。不破氷菓の時は身体が傷つかないように配慮したが、今は厭わなくていい。

 背中側に回る。リーダーは薄々何をされるのかわかっているようだった。

「止めなさい、止め……! ひ」

 耳の穴の中に舌を入れる。奥間君と違って全く美味しくないが、再現実験した時のように奥間君を思うと愛の蜜が溢れてくる。

「うふふふ……」

 ふっ、と息を吹きかける。「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」あくまで悲鳴を上げるつもりはないらしい。本当に、強情で、負けず嫌いな子。愛の罰を与える相手としては、非常にやり応えがある。

 だけど、ここからは、耐えきれるのか。

「不破さん? あなたにはしていませんでしたわよね?」

「……何を、ですか?」

「わたくし、奥間君の体液を舐めるのも、わたくしの体液を与えるのも、両方好きなんですの」

181 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 22:52:46.47 ID:4IkUZS9Z0


 一見話が飛んだように見えて、だけど不破氷菓と《雪原の青》は理解したみたいだった。《雪原の青》が叫びそうになり「止め――!」その耳障りな声が耳に入る前に。




 ぶち、と耳たぶを、噛み千切る。




「ぎやあっ!!!!!!」

 血がぽたぽたと流れるのを、傷口を直接、舌先を使って舐めていく。血とは違う、肉の味もする。

「ん、やっぱり奥間君のと味が違いますわ。奥間君の方が美味しいんですの。不破さん、人によって血の味が違うというのは、知っていまして?」

「……知りません」

「そうですの。なら一つ勉強になりましたわね。でもなかなか、これも……何故でしょう、愛の罰を与えているからでしょうか。わたくし、愛の蜜が溢れてきましたわ」

「こ、この……変態、が……!」

「ふ、ふふふひ、まだ心が折れていませんのね? まだまだ愛の罰が与えられるんですのね?」

 さて次は、――うん、これがいい。

「あの少年はわたくしの胸部を揉みしだいたことですし、そのあたりの教育を致しますわ」

 上部の衣服を脱がせるのが面倒でビリビリと裂く。「ひっ」僅かな悲鳴。ここが弱点なのか。



 ――《育成法》以降の教育では、服を脱ぐことへの羞恥心というものを教わらない。それは性知識になるからだ。



 だからアンナは、今、愛の罰を与えている人間の羞恥心と屈辱が、わからない。



「アンナ会長、もういいでしょう。目には目をと言いますが、やりすぎです」

「……不破さんったら。不破さんにとっても愛の追究は至上命題なのでは? あなた、以前に言いましたわよね? 『愛がなくても、物理的刺激でも、愛を感じることができるのか』、科学者ならそれを確認しないといけない、と」

「……言いました。しかし、」

「興味がない、と?」

「…………知的好奇心がないとは言いません。しかし、物事には倫理があります。わたしが求めるのは合意の上での話です」

「私はそんなこと関係ないわ! ただ、あなたのやることは癪に障る!」

「…………ほう、それでお二人はどうする気ですの? わたくしを、止める、と?」

 自分にしては意地悪い質問だった。《雪原の青》は怪我人だし、不破氷菓は身体能力は低い。自分を無理やりに止めるすべはない。

 まあ、止める気になるのであれば、それはそれで――

「面白いですわね。わたくしを、止めてみせますの?」

 楽しみが増えるだけでしかない。

 だが実際は、二人とも黙ったまま、動かない。少しだけ抵抗がなくて残念に思う。

 抵抗というなら、今胸部をさらけ出しているこちらの方がよほど面白い。


182 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 22:53:44.13 ID:4IkUZS9Z0


「触るな、化け物」

「あは、うひひひ、わたくしの場合は愛のない胸部への刺激はただただ不愉快でしたが、それは同性同士でもそうなるのでしょうか?」


 そして、アンナが思う絶妙の力加減で、胸部を揉みしだく。


「ひ、う、……う、あ、」

「先端が尖ってきましたわね? 愛を感じることができているのでしょうか?」

 先端をつまむ。

「いたっ……〜〜〜〜!」

 ころころと転がしてみるが、本人は歯を食いしばって刺激に耐えている。自分も気持ち悪かったし、ここは本当の愛がないと辛いのだろう。

「さて、愛の蜜の量は、と」

「アンナ会長……!」

 《雪原の青》が何かを言いたそうにするが無視して、下の下着を引き裂き、股間に手を入れる。

「ひっ、いや……!」

 初めて明確な拒否の言葉に、思わず舌なめずりをする。もっともっと、この声が聞きたい。

「あまり出ていませんわね。やはり物理的刺激では、愛を感じることは難しいようですわ」

「ひ、は、は、ば、っかじゃ、ないの? 両手足骨折られてて、耳たぶ千切れててどんだけ痛いか、こんな状況で感じるわけないでしょ?」

「あら、わたくしなら奥間君がくれるものなら、痛みでも何でも愛に変わりますわ」

 初めての愛の儀式を思い出す。あの痛みは、いまだに愛しいものとして、思い出すだけで愛の蜜が溢れる。

「あたま、イカレてる……!」

「ところであなた、初めての愛の儀式はお済ですの?」



 ――ピン、とその場にいる全員が、緊張したのが伝わってきた。



「アンナ会長、もう充分よ!」

「いいえ、足りませんわ。わたくしが足りないと言ったら足りないんですのよ、《雪原の青》」

 矛先を変え、愛の罰を与えてる本人に「どうなんですの?」と訊ねるが、返事はない。

 ただ、異様に緊張したのがわかる。答えはそれで十分だった。

「ふふふ、まだのようですわね。なら、わたくしが教えて差し上げますわ」

 愛の蜜が不充分だが、まあいいだろう。

 太ももを広げる。抵抗しようとしたが、脇腹に痛みを与えると簡単に屈した。

 今、愛を感じる穴は、何人かの目には入っているだろう。

「や、見ないで……!」

183 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 22:54:29.97 ID:4IkUZS9Z0


 皆の視線を集めるように、見まわす。充分に間を取ってから、見せつけるように。

 指を二本、自分が愛を最も感じるところに、挿入れた。

「〜〜〜〜〜〜や、や……!」

「ああ、そのか細い声も、いいですわね……!」

 ぐちゅぐちゅと掻き混ぜる。ただ愛の蜜はやはりそれほど感じない。

「やっぱり、初めては痛いんですの?」

「い、いたくなんか、ない!」

「嘘つきですわね」

 ぐちゃぐちゃと乱暴に掻き混ぜる。「アンナ会長」と不破さんが自分を呼び止めた。

「もう充分とか、そういうのは聞きたくありませんわ」

「……わたしにはあえて痛みを与えているように見えます。実験としてふさわしくありません」

「ふふ、不破さんは実際に体験してますものね、誤魔化せませんわね……ねえ、リーダーさん。愛を感じてみたいですの?」

「い、いや、もう、抜いて……!」

「大丈夫。ここからは、少し違いますわ」

 単にぐちゃぐちゃに掻き混ぜていたのを、一定のリズムでもって一定のポイントにぐ、ぐ、ぐ、ぐ、と押さえていく。

「!? あ、え、嘘、なんで!? あ、あ、あ、」

「どうですの? 愛のない方から、愛を思い出すこともなく、ただ刺激を受けるだけで愛を感じますの?」

「ひ、いや、やだ、やめて――!」

「ああ、答えはなくても構いませんわ。――愛の蜜が溢れてきましたから」

 自分ほどではないが、愛の蜜が生まれている。これはどういうことなのだろう。不破氷菓が以前言っていたように、物理的刺激だけでも愛を感じるものなのか。

 だけど尋常ではないほど嫌がっている。与えているのはむしろ気持ちいいことのはずなのに。おそらくこれは自分が胸部を触れられた時の感覚を数倍にしたものだと予測した。

 なら、これは愛の罰だ。

「“愛”というものを教えて差し上げますわ」

「アンナ会長、やめ……!」

 《雪原の青》が何か言う前に、中が収縮と痙攣を繰り返し、「あ、あーー!」背中を反らし、愛の場所からは、ばしゃっと愛が水分となって噴き出た。

「あ、あ、ああ……」

「あら、もう愛の感覚に絶望しましたの? まだまだありますのに」


184 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 22:54:55.38 ID:4IkUZS9Z0


 誰かがまた、何かを言い出す前に排泄孔に無理やり指をねじ込む。

「あう! あ、あ、あ、あ、い、痛い……!」

「あら、肉体的な痛みには強い方だと思ってましたのに」

 ぎゅうと締め付けて、こちらも痛みを感じるぐらいだった。ふと、愛しい奥間君の言葉を思い出し、愛の穴にも指を入れ、両方の穴を掻き混ぜる。

「あら、面白いですわ。壁を通じて指の存在がわかりますの」

「…………! …………!」

 目を見ると、絶望が瞳を満たしていた。

 ああ、これ、これが、これが欲しかった。

 背筋を快感が駆け抜ける。物や人体をただ壊すだけじゃ得られない感覚。

「……うふふふひ、あははは、どうですの? 愛を穢される感覚は!?」

 粘膜の感覚も面白かったが、そろそろ飽きてきた。排泄孔のポイントも見つけたので、両方の穴をリズミカルに突いていく。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、」

 排泄孔を閉めて我慢しようとしているようだけど、残念ながら『愛の罰』はその程度では終わらない。

 舌で胸部の先端をころころと転がす。「ひっ」時折甘噛みしながら、視線だけに殺気を込めて、あくまでもお前は喰われる側なんだと思い知らせるように。

「そろそろ、ですわね」

 ぐ、とカギ状に指を曲げながら、ポイントを突くと、また愛の水がばしゃっと、先ほどよりも多く吹いた。

「…………」

「いいですわ……その絶望する顔。気の強い方であればあるほどいいですわね。お腹がぐるぐると動いていますわ……ああ、なぜでしょう、奥間君の愛は先ほどたっぷりいただいたのに、またほしくなってしまいましたわ」

 もう、『観客』の誰もが声を発さなかった。

 次が自分でないように、祈っていたから。

「『愛の罰』はもう充分ですわね……では最後に、せめて痛くないように、首の骨を折ることにいたしましょう」

 リーダーが目線を上げる。その視線を、アンナは正確に読み取った。


『はやく、ころして』


 その視線を受けたアンナの笑みは、獣ですらない、悪魔と形容されるもので。

 悪魔の笑みを浮かべながら、アンナは首に手をかける。


185 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/03(木) 22:56:18.70 ID:4IkUZS9Z0

リョナというかなんというか、『愛の罰』シーンはおしまいです。

これ、完全に闇堕ちしてるよね……狸吉がんばれ!
186 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 12:23:28.61 ID:9iu5sKBf0


 ひゅ、と何かが投げつけられたのと、アンナ会長が身を避け、代わりに《雪原の青》の首元を絞めていたのは、ほぼ一瞬の出来事だった。

「ぐっ!」

「あらあ、《雪原の青》。あくまで邪魔いたしますの? 今なら無理に抵抗なさらなければ、無傷捕縛も容易いですわ」

「アンナ会長」

 自分も殺されるかもしれない。好きな人格でもない。ただ。

 《雪原の青》が助けたいと願うように、奥間が救いたいと願うように、自分たちが《単純所持条例》の時に自暴自棄に暴れたときに、一人ででも解決しようとしたその心を、何故か守りたいと思った。

「奥間さんが憧れたのは、そんなあなたではありません。《育成法》正負両面から見ても象徴的な子供として育ってしまったアンナ会長を守りたいのは、ただの義務感ではありません」

「…………」

 ふっと、首を絞める手が弱まる。続きは《雪原の青》に任せることにした。

「……皆があなたを守りたいのはね、あなたが皆を救ってきたからよ。たとえ殺人を犯したとしても、あなたを守ろうとする人は出てくるわ。でもね。だからこそ、裏切ったらダメなんじゃないの?」

 ――わかっているんでしょう?

「あなた、罪を罪と知りながら、奥間君が許してくれるってそればっかりで、自分で判断していないのよ。今のあなたはただ暴れたいだけの獣――悪魔だわ」

 ――わかっているんでしょう?

「本当は、何もかも。奥間狸吉に恥じない女になるんじゃなかったの? 今のあなた、それ自分で言える?」



「でも、奥間君は、この衝動をどうすればいいか、教えてくれないんですの」



「すみません、アンナ先輩!!」

「――奥間君」

「た、奥間狸吉――!」

「奥間さん」


187 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 12:24:05.40 ID:9iu5sKBf0


「ずっと悩んでいたのに、一緒に考えていこうって言ったのに、ほんっとう、ごめんなさい!!」

 全員が、少なくとも突入組はなぜここに奥間がいるのかとは考えなかった。

 ――来てくれた、それだけ。

「アンナ先輩、お願いです。……こっちに来てください、戻ってきてください。じゃないと、僕が僕を許せなくなってしまう。もうすでに許せなくても、今ならまだ、辛うじて間に合うかもしれない」

「…………」

 アンナ会長は奥間の方をようやく見る。

「奥間君も」

 声は、先ほどまでの傷つけるしかなかった暴雪とは違う、見るものを喜ばせるような粉雪の涼やかさに――よく知った、聖女のそれに戻っていた。

「自分を許せないと思うことが、あるんですのね」

 大勢の足音と怒号が聞こえてきた。

「ごめん、不破さん、白衣貸してくれる?」

 無言で貸すと、ほぼ裸体だったリーダーに白衣をかぶせ、人の目に入らないようにする。

 そんな場面を、アンナ会長は黙って見ていた。

 装備した人波が、流れ込んでくる。



 ――人質は確保したぞ!

 ――犯人グループは既に捕縛していますわ。

 ――《SOX》、アンナ、無事か?

 ――わたしもいるのですが。奥間さんの母親ですね。

 ――ほかにも一人、キツネの仮面をかぶった女は私の仲間よ!

 ――忌まわしいが理解している。人質は確保した、逮捕しろ!



 そして、事件は終わった。


188 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 12:27:03.21 ID:9iu5sKBf0

『愛の罰』シーンはやっぱりきつかったのか、コメントしずらかったよなー、反省。
まだ後始末シーンが続きますので、もう少しお付き合いください。アンナ先輩の罪とかね。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 14:30:38.65 ID:TL3OnN29O
アンナ先輩はもう身も心も化け物ですね……

無惨様がこの時代に生きてたら、鬼に選ばれてもおかしくない
190 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 14:44:39.87 ID:9iu5sKBf0
正直、『愛の罰』シーンは一線を越えてしまった感があります。
191 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 15:41:18.24 ID:9iu5sKBf0


 アンナ先輩に突き落とされて簡単に母さんに見つかった僕は事情を説明し(アンナ先輩について来たということにした)とにかくアンナ先輩と《雪原の青》がいるなら即・制圧だろうと高をくくって、母さんの拳骨の痛みも無視して善導課のヘリコプターに乗った。

「ゆと、《哺乳類》、今の状況は!?」

 バリバリバリとうるさいので相手の声どころか自分の声が聞こえるかもわからないけど、一応ゆとりの名前は出さないでおく。

『化け物女が大暴れしてるぜ。人質は全員無事なんだけど……、あのリーダーを拷問してるぜ、『愛の罰』がどうとか』

 人質がいるため、船を尾行することができなかった善導課は、ゆとりからの位置情報を探知して即ヘリコプターで船に向かう。

 殆ど飛び降りるように降りて、ゆとりからあらかじめ聞いていた場所に行くと、アンナ先輩が《雪原の青》の首を絞めていた。

 

「でも、奥間君は、この衝動をどうすればいいか、教えてくれないんですの」


「すみません、アンナ先輩!!」

 状況はわからないけどとにかく謝った。ちらと周りを見ると、ほぼ全裸になった女の子の手足がひん曲がっている。

 遅かったのか。

 とにかくそのあとは善導課がアンナ先輩だけを隔離して、僕達は解放された。母さんは《雪原の青》を見て今にも逮捕したそうな顔をしていたけど、上の指示で無理だったのだろう。

 母さんいわく、アンナ先輩は相手が実銃を所持していたことから正当防衛で両親が収めるだろうとの話だったけど……。

 そういう話なんだろうか。

 アンナ先輩は、一週間、学校を休んだ。その間、連絡はとれていない。


   *


 アンナ先輩と華城先輩がいないと生徒会がとにかく忙しい。あの二人の優秀さは知ってたけど、身をもって実感する。

「奥間、おい、奥間!」

「あ、はい、轟力先輩」

「大丈夫か、ぼーっとして」

「轟力先輩も、受験で大変な時に」

「アンナ会長には世話になってるからな。受験は問題ないぞ」

「そうですか……」

 アンナ先輩は母さんの預かりになっている。

 衆人環視の中で手足の骨を折ったり、耳たぶを噛み千切ったり、前の穴と後ろの穴を貫通してぐちゃぐちゃにしたりしたことは、華城先輩から聞いた。

 ――どう考えたって、正当防衛ではなく拷問だ。

 レイプについては善導課や家族にはある程度誤魔化しているだろうというか、そもそもレイプという発想がない人だからわからないだろうけど、手足の骨折と耳たぶを噛み千切ったのは誤魔化せなかったらしい。

 14日間、善導課の指導の名の下で母さんのしごきを受けているはずだけど、そもそもアンナ先輩がいなければ解決できなかった事件だったし、アンナ先輩の能力なら母さんのしごきにもたやすく耐えられるだろう。

 だから僕は華城先輩のお見舞いに行ったり、ゆとりや鼓修理はアンナ先輩が自分に矛が向かなかったことを安心してるのを見ていつも通りだなと思ったり、ああ、そうだ。

 不破さんの報酬がまた悩ましい。

「合意の下でなら問題ないでしょう。もういいじゃありませんか。アンナ会長との繁殖行為を見せてください」

「わしも。わしもー!」

 ちなみにアンナ先輩の処罰が軽いのは鬼頭慶介の口添えもあったからで、それにはかなり大量に早乙女先輩が新規イラストを贈呈したかららしく、影でやることはやってたらしい。

 母さんのしごきだけでアンナ先輩の経歴に傷がつくどころか、事件解決に協力したという感謝状まで贈られることになったんだけど。何故か僕や不破さん、早乙女先輩と外にいたチーム全員が感謝状を贈られることになった。みんなアンナ先輩についていっただけなんだけどな。

 ちなみに14日という長めの時間なのは、単なる処罰でなく卑猥に関するケアもあってのことで、ソフィアが何か文句をつけるかと思いきや、母さんの元なら安心と判断したらしく、何も言ってこないらしい。当の母さんから聞いた話だ。

「アンナは優秀すぎて困る」

 母さんがしかめっ面で褒めるという器用なことをして、困ってみせた。あまり話さないが、柔道などの身体能力では母さんしか相手にならないらしい。そりゃそうだ。知識の吸収力も半端じゃないし、能力面で敵う人なんかほとんどいないだろう。

 そして、テロリストたちは傷が癒え次第、《北の大監獄》〈ヘルサウンド〉に連れていかれるらしい。

 だから、そうなる前に。アンナ先輩が戻る前に。

 僕はリーダーの面会を、お願いした。
192 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 15:42:29.22 ID:9iu5sKBf0


 医療刑務所に僕は来ていた。

 最後に会っておきたかった。もう二度と、会えないだろうから。

 病室に入ると、包帯とギプスだらけの女の子がそこにいた。

「……狸吉?」

「……その、久しぶり」

「…………」

「無茶なこと、したね。この国が嫌なのはわかるけど」

「じゃあ狸吉も、逃げればいいじゃない」

「そういうわけにはいかないよ」

「あの化け物のこと?」

「…………」

 どう答えればいいか、わからない。でも、できるだけ正直に。

「アンナ先輩を変えたのはね、僕なんだよ。……僕を、その、襲ってね」

「襲っ、まさか、逆レ、ん、……狸吉の意思を、あの女は無視したのか!?」

「まあ、ね。それもこれも、アンナ先輩にはね、性知識がないんだよ。だから無垢で、良い方にも悪い方にも転がりやすくて。良い方のアンナ先輩に助けてもらった人は、僕も含めてたくさんいるんだよ」

「…………」

 信じられない、といった顔をしていた。アンナ先輩が妊娠したんですのとか言ったら、僕もこんな顔をするんだろうな。

「もし、君がアンナ先輩を穢そうとしなかったら、アンナ先輩はあんなに怒らなかったと思う」

 《公序良俗健全育成法》正負両面から見て、象徴的な子供が、アンナ先輩なんだろう。

「アンナ先輩は、恵まれた人なんかじゃないんだ。アンナ先輩も、《育成法》の被害者なんだ。それだけ、言いたくて」

 だからと言って、アンナ先輩のやったことが許されるわけじゃないけど。

「狸吉さ」

「うん?」

「あの化け物のこと、好きなのか? 本当に?」


193 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 15:42:57.80 ID:9iu5sKBf0


「……見捨てられない。どうしても」

「好きじゃなくて同情なら、絶対破滅するぞ。あの女は身体の能力だけじゃなく、心も化け物なんだから」

「…………、君から見たら、そうだろうね」

 《育成法》が作り上げた、化け物。

 そう言う彼女は、泣きそうだった。

「狸吉は」

「ん?」

「他に好きな女、いるんじゃないのか?」

 ゲホゲホと、むせてしまった。いきなり何を言ってるんだ。

「どっちにしても、あたしに勝ち目なんかなかったな」

「……どうして、そんなにその、僕のこと……」

「悔しいけど、あの化け物と一緒の理由だろうね。狸吉は昔っから、何でも許してくれるから」

 ――施設育ちで無様な生まれの自分のことも、許してくれるかもしれないって思った。

「…………」

 どういえばいいか、わからない。それでも、これだけは言いたかった。

「稀代のテロリスト、奥間善十郎の息子で、みんなから厭われていた僕に優しくしてくれたのが、アンナ先輩だったんだ。だから、きっと」

 ――もしかしたら、わかりあえたかもしれないのに。

 それを潰したのは、僕なのか?



『面会時間終了です』



「じゃあ、僕は帰るよ」

「ああ。もう二度と、あたしの前に顔見せんな。あの化け物に殺されたくなけりゃな」

「……気を付けるよ」



194 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 15:45:51.95 ID:9iu5sKBf0

アンナ先輩は特例で善導課預かりということになっています。逮捕されたとかそういうのじゃありません。
むしろ感謝状を贈られる立場です。親の力って偉大だなあ。まあ逮捕劇に貢献したのも事実なので。

アンナ先輩の功罪は、とても大きいです。どうなることやら、です。
195 : ◆86inwKqtElvs [sage]:2020/09/05(土) 15:52:24.56 ID:9iu5sKBf0
ちなみに1週間して、クリスマスと冬休みに入っています。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 16:03:18.67 ID:Ht2DbGuaO
子供が何やっても、その子が超優秀で親が権力者だったら免罪されるってことでFA?

こんな無法がまかり通るから、金子玉子がラブホスピタルなんていうデザイナーベビー制度を押し通すんだよ

それと、レイプを誤魔化したってあるけど、被害者や不和さんが状況をありのままに証言すれば、アンナ先輩が被害者にレイプやったことわかるんじゃないの?

それから、狸吉が逆レイプされたことを面会で伝えているけど、これって立ち会ってる警察官に聞かれたら不味いと思うんだけど

なんか、いろいろ気になることがボコボコ出てくる。読解力が無くてごめんなさい。私が作者様のように博識ならばこんな事には……
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 16:03:49.64 ID:YrbLcz3L0
久しぶりに来たら愛の罰キツすぎてこれはもう救いのないレベル。
これが許されるんだから、あの社会は階級社会だよな

思ったよりたぬきちの言葉を素直に聞いたけど、アンナ先輩本人はどうなんだろな
198 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 16:16:12.02 ID:9iu5sKBf0
わたしの中ではですが、あの世界では権力者とその子供は何をしても殺人以外は許されるというイメージです。だって、デザイナーベイビー制度を押し通すなんてことをするぐらいのディストピア社会ですし……


ちょっと次回の話にもつながるんですが、アンナ先輩本人には「卑猥の罪の意識」はないんです。

ただ現実として存在しています。それをどうするかで狸吉のお母さんひとりが悩んでいる状態です。ソフィアにいったらガンギレですからね。

立ち聞きしてる警官はまともな知識を持ってる人じゃなく、以前の月見草のような杓子定規としたやつなので、逆レとか襲うとかの意味をきちんと理解していないという。そのあたりは狸吉の方は言葉を選んでます。
リーダーの方は禁止単語を言わないのは癖みたいになってるんでしょうね。頭いい人ではあるんで。


もう少し、アンナ先輩が罪に付き合うところを、しっかりと描写できればなと思います。よろしくお願いします。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 16:26:15.23 ID:BXBD+lgr0
たぬきち母は知ってるのか
アンナ先輩にとっては、卑猥の知識を頭に入れるのが1番の罰かもしれんな
200 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 17:09:39.68 ID:9iu5sKBf0


 14日経った。華城先輩たちが迎えに行けと言ったので、まあそうでなくても行くつもりだったけど、僕は善導課の椅子に座って待っていた。

「奥間君」

 鈴が鳴るように涼やかな声が、無味乾燥な善導課の部屋を明るくしたかのようだった。服は簡素だけど、胸にギュッと何かを握りしめている。

「来てくれたんですのね」

「……狸吉、ちょっと来い」

「え、母さん?」

「? お義母様?」

「アンナ、君はここで待っていろ」

 母さんの声がやけに深刻だったので、素直についていく。

 廊下のどん詰まりみたいなところに来て、なんだか空気が澱んでいた。セックスの後も換気しないといけないよね。

「アンナが犯人の一人にやったことだが、これは今は私の胸に収めている」

「……えっと、骨を折って耳たぶ千切ったんだっけ?」

「そうではない。犯人の一人に、ん――」

 規制単語を言いたかったらしい。代替単語に言い換えることもできるが、母さんは非常にめんどくさかったらしく、

「取調室にこい」

「い!?」

「別にお前を取り調べるわけではない。いや、ある意味取り調べだが、法の下ではない。ただ、PMをいったん取り外す」 

「…………」

 何も言い訳ができないまま、取調室に入れさせられた。正式な取り調べではないので録画や録音などはされていない。取り調べの可視化はどこ行ったんだ。まあのぞき見というのも楽しいんだけどさあ。




「お前、アンナとセックスしたのか?」




「ぶほぉわ!? え、え?」

「アンナが『奥間君とは『愛の儀式』を済ませた仲ですの』と言ったのだ。お前が愛の儀式とやらでごまかしたのか?」

 やばい、返答を間違えれば殺される!


201 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 17:10:09.13 ID:9iu5sKBf0


「え、えっと」

「事実のようだな」

 え、言い訳すらなし?

 しかし、思っていたのと反応が違う。どこか、沈み込んでいる。

「お前、一時期アンナをないがしろにしていたそうだな」

「そんなつもりは!」

「だからアンナは、お前を鎖で繋いで愛を確かめ合おうとした、そう言ったのだ」

「え…………」

「事実か?」

「……母さん、聞いて、アンナ先輩は」

「アンナは最後まで、自分が穢れることを、綺麗なままでいてほしいと、お前はそう言っていたと言った」

「…………」

「痛みを伴うからやめてくださいと言われた、そうも言っていた。その他にも話していて、私は違和感しか覚えなかった。だがこう仮定すればわかる。アンナには性知識が全くない、と」

「そう! そうなんだ! だから僕は、そんなアンナ先輩に何も説明するわけにはいかなくて!」

「風邪を引いていたといったあの日、本当はお前は風邪を引いていなかったのだな?」

 こくこくこく!と頷いた。

「いつも逃げられるから、鎖で繋いだと言っていた……」

 母さんは頭が痛そうにしている。理解できないんだと思う。外堀は完璧に埋めていたからな、アンナ先輩。

「他にも愛の蜜とか、それを混ぜ込んだクッキーを食べさせたとか、お前の愛の蜜が一番大好きだとか」

 ひい、こういうのを実の母親から聞くと生々しすぎて本当に泣きたい!

「とにかくだ。一線を越えているようだが、お前の意思はそこにあったのか?」

「性知識のない女性の無知に付け込んだって、ちっともうれしくないよ」

「本音らしいな」

 しばらく沈黙が落ちた。不機嫌、というよりはどうすればいいかわからないという困惑の方が強いのは、きっと息子の僕しかわからないだろう。

「アンナがリーダーにしたことは、強姦罪。卑猥の中でも最も卑劣な犯行だ」

「母さん、でも、アンナ先輩はそれが卑猥だって知らなかったんだよ」

「傷つける意図があったことには変わりない、そうだろう?」

「…………」

「明日、ソフィアを呼び出す。おまえにも証人として付き合ってもらうぞ、狸吉。不破氷菓も目撃者として呼んである。お前だけのせいにするつもりは、私にはない。そして」

 14日間という時間でも答えを出せなかったであろう答えを今、母さんは吐き捨てるように。

「最悪の卑猥な犯罪をしたことを、アンナに告げる。アンナがお前にしたこともだ、狸吉。いいな?」

 母さんの言葉は、すでに決定事項だった。

 取調室を出て、先ほどの場所に戻ると、

「奥間君」

 女神の笑みを浮かべたアンナ先輩がそこにいた。

 この笑みが明日どうなるのか。

 誰にも、わからなかった。



202 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 17:12:13.99 ID:9iu5sKBf0

狸吉のお母さんは比較的バランス感覚を持っている気がします。
行動は過激ですが、話の通じない人間が多すぎる下セカの中では比較的話が通じる気がします。

アンナ先輩、明日はいかに!?
203 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 17:14:06.27 ID:9iu5sKBf0
せっかくなのでここまでを急いで書いてみました。
狸吉のお母さんが男女逆でも強姦は強姦という意識を持っていて、本当に良かったと思います。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 17:22:09.48 ID:0VPjNObI0
何気に不破さん巻き込まれていて草生える

いや展開はヤバいけどさ。場合によっては強姦罪か。準強姦罪とかにはならないのかな
205 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 17:25:34.94 ID:9iu5sKBf0
>>204

準強姦罪は暴力などを使わず相手が抵抗できない状態での暴行です。薬とかお酒とかで眠らせたりですね。
強姦罪より軽い罪、という意味ではないのです。アンナ先輩は暴力で暴行を加えているので、強姦罪になります。

……詳しい方、合ってますよね? 教えてくださいお願いします。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 17:44:47.29 ID:Yx7KQxOiO
え?ちょっと待って。狸吉は、母さんがアンナ先輩のレイプを隠蔽していた事を知らなかったの?

だとしたら、狸吉、迂闊すぎない?面会の時、側にいる警官がたまたま性知識が無かったから良かったけど、もし違ったらアンナ先輩のレイプがバレるじゃん

てっきり、狸吉は母さんから全部事情を聞いてると思ってました。テロリーダーを確保している警官は全て母さんの息が吹きかかった連中で、狸吉はそれを把握しているから、面会で色々ぶちまけられたのだと

というか、狸吉がアンナ先輩の身を案じているなら、不破さんにアンナのレイプを証言したか聞くはずだし。それなら狸吉がアンナ先輩のレイプがバレたことを知らないなんて無理があるように思うんだけど……


それと、睡眠薬で眠らせた場合、準強姦罪じゃなくて普通に強姦罪になると思います

酒と違って、睡眠薬は本人に無許可で飲ませるのがほとんどかと。無許可で薬を飲ませて眠らせたら傷害罪になるはずなので、暴力扱いで強姦罪だと思われます

まぁ私も法律のプロではので、違っているかもしれませんが
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 17:56:40.53 ID:tQdPywmW0
まあ矛盾は生まれるって。
たぬきち母さん1人に収めてないと隠蔽も難しいだろうし。不破さん1人話さなくても目撃者が多いから無理だろうし。
逆レの話はまあ迂闊だけど、以前の月見草みたいなやつなのが分かってたならある程度言える範囲がわかったんじゃないかなって解釈してるよ
208 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 18:12:10.73 ID:9iu5sKBf0
すみません、私が言いたかったのは、>>204さんが準強姦罪が強姦罪より軽い罪と思っているように見えたので、そうではないと言いたかったのです。ご指摘ありがとうございます。後、いろいろ矛盾点もそろそろ出てきてますが、みんな疲れているのです、きっと。……いえ、本当にすみません。

皆さん真剣に考えてくれてうれしいです。答えを出せるかどうか、ちょっと不安ですが、頑張ります。
209 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 18:47:31.56 ID:9iu5sKBf0


 アンナ先輩を高級マンションまで送った。(愛し合いたい)オーラがプンプン出てたけど、明日のことを思えばそれどころじゃなかったから何とか逃げた。

 アパートにつくと、華城先輩に通話して相談してみることにする。

『そう、アンナが……いえ、狸吉のお母さんでよかったのかもしれないわ。善導課主任、いわばプロだもの』

「そうですけど……」

 どうやったってアンナ先輩には酷な日になると思う。

『それよりソフィアに殺されないかを考えたらどう?』

「あ、じゃあ棺にはケモミミ娘の完全版をお願いします」

『そうね、用意しとくわ』

 …………。

「あの」

『狸吉、あなた。……アンナと結婚しない?』

 ぶほぉわ!?と本日二回目のせき込みだった。しかも相手が真面目なところまで同じだった。

『あなたがアンナを受け入れて、結婚すれば……そしたら、アンナは救われるわ』

「……でも」


 ――僕は、アンナ先輩を、愛しているのか?


 そんなの、わかるわけない。


 ――心も化け物なんだから。


 それは違うと、はっきり言える。でも、そうなる可能性を秘めているのは、間違いない。

「見捨てられない、です。でも……結婚とか、そういうのは」

『まあアンナの両親が許さないでしょうけどね。正直、自然に別れるのは難しいと思うわ。童貞とオナホの関係のように』

 どうあったって、アンナ先輩を傷つけるしかない。あとオナホバカにすんな。

『…………ごめんなさい、私も考えてみるけど、少し時間を頂戴』

 僕が何を言う暇もなく、通話は切れた。ゆとりや鼓修理はアンナ先輩を《育成法》の被害者としては見ていないし、早乙女先輩は役に立たないし……、


210 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 18:48:34.79 ID:9iu5sKBf0


「……ごめん、本当に」

 負担をかけっぱなしだが、仕方がない。

『おや、奥間さん。明日の件ですか?』

「ああ、もう善導課から話来てるんだ……」

『言っておきますが、アンナ会長があなたを襲ったことについては何も話していません。奥間さんが《SOX》に誘拐された件も、善導課はおそらく知らないでしょう』

「じゃないと困る……」

『わたしの証言は主にあのリーダーに対することになると思います。わたしは意図して話しませんでしたから。まあ、犯人グループが全部話しているでしょうけど。わたしは知識がないのでわからないと誤魔化しました』

 不破さんでそれが通るのかよ。恥識欲の塊のくせして。

「不破さんは、その……」

『罪は償うべきでは? 常識的に考えて』

「……それが罪だと、知らなかったとしても?」

『卑猥の犯罪は潜在的に増えていると言います。人の愛し方がわからず、強引に手を出して。その流れから、アンナ会長も逃れられないでしょう』

「……そう、だね」

『わたしは明日は、聞かれたら答えます。わたしにできるのは、それだけです』

「……うん、本当に、ごめん」

 短い通話で、切れてしまった。

 明日、アンナ先輩が、壊れるかもしれない。

 そうなったら、どうなるのか。

 わからない。何一つ。思考は精子一つも駆け巡りはしなかった。


    *


「……アンナ?」

 何か用事で出なければいいのにと思った祈りは通じずに、親友は通話に出てしまった。

『綾女さん。怪我はどうですの?』

「まあ大丈夫。そっちは? 善導課のしごきはきついって聞くけど」

『まあ、勉学や体を動かすのはいいのですが、奥間君や綾女さんと会えなかったのはさみしかったですわ』

「そう。……明日も何かあるんですって?」

『ええ、どうしてそれを?』

「奥間君から相談されて、大丈夫かなって……」

『…………』

「あ、あのね、私」

『綾女さん。わたくしは社会の規範より、奥間君の言葉を信じることに決めたんですの』

「……それは、テロリストのリーダーにさせたっていう怪我とか、そういうのも奥間君が決めたことなの?」

『いいえ、わたくしの意思で、間違えたのです。明日はそれを弾劾されるのですわ、きっと』

「…………」

 アンナなりに、明日何かが起こることはわかっているみたいだった。だけど、何が起こるかまでは、わかっていない。


211 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 18:49:04.05 ID:9iu5sKBf0


『わたくしが間違えるのは、奥間君も望んではいなかった。だけどそれでいいのですわ。……奥間君は優しいから、わたくしが間違えても、大丈夫なんですの』

「どういうこと?」

『何もかも受け入れてくれるって、こんなに幸せなんですのね……甘えないようにしないといけないとは、わかっているんですけれども……この前の事件は、どうしても許せなくて』

「……そうね。アンナが来てくれて、嬉しかったわ。でも……アンナはそのせいで、傷つけられたのよね?」

『罰はもう、与えましたので』

 淡々と言っている。親友であるはずの自分にも、アンナの感情が読めない。

『明日はお母様と、奥間君のお義母様との話し合いですわ。……男女の関係であることをお母様にはもう、隠せないでしょうね』

「大丈夫?」

『ありがとうございます。お母様だって、奥間君がどれだけ立派な人間かわかれば、きっとわかってくれるはずですわ』

 そうはならない。アンナ自身の行為によって、きっと二人は引き剥がされる。

『長電話は身体に毒ですわよ。もうお休みになってくださいまし』

「あ、ありがとう、アンナ。……あのね」

『綾女さん?』

「私は、アンナが傷ついたら、そばにいたいと、そう思ってるから」

『……ありがとうございますですの。それじゃ、また』

 通話は切れた。

「……下ネタも、言う相手がいないと張り合いがないわね」

 二人がどうなるのかなんて、わからない。さっきは引き剥がされると思ったけど、もしかしたら責任を取って狸吉とアンナは婚約するかもしれない。

「……そうなったら、いいのよね。一番、アンナが傷つかなくて……私も、そばにいることができて……」

 嫌われるよりかは、親友の恋人として接する方が、ずっとマシだ。アンナは基本的にはいい子なんだから。間違っても、受け入れてくれるのは、本当なんだから。

 ずっと正しいことしか許されなかったアンナにとって、それはどれほどの救いだろう。

「……休もう、もう」

 下ネタという概念のない退屈な世界より、下ネタいっぱいの楽しい夢を見たかった。

 だけど現実は、二人が結婚式を挙げてそれを祝福するという――

 ――悪夢だった。


212 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 18:50:10.48 ID:9iu5sKBf0

ようやく話し合いというか取り調べの日が来ます。さてさてどうなることやら、です。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 19:16:13.41 ID:YilfewEz0
書くの早いなww

アンナ先輩、引き剥がされそうになって現実逃避にたぬきち誘拐に1票

華城先輩も地味にややこしい事になってるな
あと不破さん巻き込まれすぎで草だわほんと
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 20:09:13.56 ID:MEtzAMIYO
うん、一夫多妻制の国に行こう、それが良い
大体みんなもうこんな国は嫌でしょ
215 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 21:13:41.21 ID:9iu5sKBf0
うーん、物足りなく思われるかもしれませんが、こうなるよねって感じになりました。
投下したいと思います。
216 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 21:14:51.16 ID:9iu5sKBf0


 目覚ましが鳴り、時間ぴったりに起きる。こんな時でも中学時代の母さんの指導が行き届いていて、正直もっと夢の中で眠っていたい。

 さすがにアンナ先輩は夜這いには来なかった。15日間、律義にオナ禁しているけど、朱門温泉で鍛えられてるしまあまだ大丈夫。

 とりあえず、今日が僕の寿命にならないように何とか頑張りたい。精子の寿命って案外長いらしいね、膣の中だと2週間とかなんとか。

 場所は善導課の取調室だ。行くとアンナ先輩とソフィア、不破さんはもう来ていた。

「おはようございます、皆さん」

 頭を下げておく。これからのことを考えるとこれでも足りないけど。

「おはようございますですわ」

「おはようございます」

「……おはようございます」

 三者三様の挨拶を交わすと、取調室に入っていく。

 取調室ではPMが外されるケースも多い。規制単語を教える際には特に。

 今回はアンナ先輩への再教育という名目で、取調室の一室を借りている。

(不破さん、ごめんね)

(問題ありません。アンナ会長の反応には興味がありますし)

 ゲスいな!

 母さんが取り調べをするときの鋭い目になる。全員が自然と緊張する。



「今回はアンナ・錦ノ宮の強姦罪について詳しく取り調べをする」



「……は? なんですか、それ」

 まず声を上げたのがソフィアだった。母さん、いくらなんでも切り込みすぎでない?

「ごうかんざい……?」

「まず先にテロリストリーダーに対する罪状を。傷害罪は理解しているか?」

「はい。手足を折り、耳たぶを引きちぎりましたわ。あと、テロリストの一人にはろっ骨を何本か折る怪我を負わせましたわ」

「……それは! 相手が実銃なんて持ってる以上」 

「少し黙っててくれないか、ソフィア。最後まで聞いてほしい」

 母さんに取り調べモードでそう言われると、さすがのソフィアも何も言えないようだった。


217 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 21:15:51.87 ID:9iu5sKBf0


 一方のアンナ先輩は、冷静だった。罪を罪として認識しているんだろう。それを後悔しているかはともかくとして。

「それとは別に、アンナはリーダーにしていることがあった。そうだな?」

 視線が不破さんに向けられる。「はい」と冷静に答えると、

「アンナ会長はテロリストリーダーに対して上着を破り、胸部を揉みしだき、先端をつまんでいました。下着も破り、鼠径部に手のひらを当てて……」

 そこで初めて、不破さんが視線を逸らした。

「リーダーの《赤ちゃん穴》に指を入れ、掻き混ぜているように見えました。排泄孔にも指を入れ、掻き混ぜているように見えました」

「なっ」

「…………」

「事実か?」

「はい」

 アンナ先輩は、あくまで冷静だった。代わりにソフィアがわなわなと震えている。

「なぜそんなことを?」

「『愛の罰』を与えるためですわ。わたくし、《赤ちゃん穴》から愛が生まれ、《愛の蜜》が溢れることを発見しましたの」

 ダメだ、アンナ先輩独自の価値観と言語によって大人たちがフリーズしている。

「リーダーは部下を使ってわたくしを穢そうとしたのですわ。ですから愛を教え込もうとしたのですが」

 ふ、っとそこで初めて笑う。あの、人の血の味を覚えた、獣の笑みを。

「やはり愛し合っていないと無理のようですわね。まあそもそも同性ですから最初から無理なことはわかりきっていましたわ」

「……排泄孔に指を入れた、という証言もあるが」

「事実ですわ。排泄孔も、うまく使うと愛を感じることを知りましたの。ですから同時に弄ってみたのですわ。答えはまあ、愛の感覚に絶望していたようでしたが」

「〜〜〜〜あなた、何を言っているのです!? そんな卑猥なこと!?」

「? 卑猥? 何故ですの? どちらも愛しい人に挿入れてもらえると、すごく愛を感じ、幸せになれますわ」

 愛は絶対でしょう? と獣の瞳で、しかし無垢な笑みを浮かべる。

「奥間君の突起物がわたくしの《赤ちゃん穴》に挿入ってきたときは、とても痛かったですけど、わたくしは幸せでしたわ」

 今僕は死にそうです。突起物がちっちゃくなっちゃうよう。

「な、な、な、な!?」

「落ち着け、ソフィア。まだしばらくは黙っていてくれ、頼む」

「奥間君は言いましたわ。“初めて”を喪失ってほしくない、僕なんかに穢されたくない、とても痛いことだから、だから止めてほしい、と」

 熱に浮かされたかのように、アンナ先輩は僕の方を愛おしそうに見る。

「そこまで奥間君はわたくしの身を案じ、愛の儀式を行うことを最後まで気遣ってくれましたわ。ですが、そんなに痛いなら、愛を乗り越えるために必要な痛みなら、わたくしはそれを受け入れましたの」

 発情しつつある。僕、オナ禁15日目だからね。そろそろいい匂いがしだすころなんだろうな。

「それは、狸吉の意思を無視した、と捉えていいか?」

「うーん、愛の儀式に関してはそう言えるかもしれませんわね」

「奥間さんは愛の儀式とやらを行うのを最後まで抵抗していましたよ」

 不破さんが補足する。アンナ先輩は頷いた。どこまでも正直だった。

「…………」

 ソフィアは絶句している。

218 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 21:16:24.93 ID:9iu5sKBf0


「ソフィア、これが現実だ」

 母さんも、どこか辛そうに見える。

「アンナは善悪が分かっていない。卑猥が何か、わかっていない」

「? 何故愛し合うことが卑猥になりますの?」

「あ、アンナ、愛の儀式というのは、キスぐらいのことですよね?」

「鱚? 魚がどうかしまして?」

「男女が行う繁殖行為のことです。わたしは奥間さんからそのあたりの相談を受けていたので知っています」

 不破さんが重ねて説明すると、

「――――」

 ソフィアは卒倒しそうになりながら、

「こいつが!」

 僕を掴み上げてきた。ぐえ、アンナ先輩並みに力強い!

「こいつが、私のアンナを誑かしたのです! 間違いありません!!」

「ち、ちが……!」

「お母様! 止めてくださいまし!!」

「あなたは黙ってなさい! い、息の根を止めなければ……!!」

「どう言おうと、テロリストに行った行為に関しては否定できんよ、ソフィア」

「〜〜〜〜!! 爛子さん、あなたはどっちの味方なのですか!?」

「……狸吉の意思を無視した、と考える方が、辻褄が合うことが多いのだ、ソフィア。それでも狸吉は恋人同士ということもあって――」

「なっ、そんな話聞いてません!!」

「……お母様に言う暇がなかったんですもの」

 アンナ先輩はなぜソフィアがこんなに過剰な反応を示しているのかわからない、という顔をしている。

「…………」

「もしかして爛子さん、あなたは知っていたのですか!?」

「いや、その、言うタイミングは見ていたのだ」

「い、いつから、いつから!?」

「五月の頭ぐらいからですわ。奥間君がわたくしを助けてくださって、それ以来相思相愛の仲ですの」

「に、妊娠は!?」

「残念ながら予兆はありませんの。子供は5人ぐらい欲しいのですけど」

「学生が妊娠だなんて、そんなことが許されるはずがないでしょう! あ、愛の儀式などと、いったいなぜそんなことを言うようになったのですか?」



「――愛は絶対の正義だって、教えたのはお母様じゃありませんの」



 話が通じない相手がいる。

 それは、害意があろうとなかろうと獣と同じなのだと、ソフィアもようやくわかってきたようだった。


219 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 21:16:57.30 ID:9iu5sKBf0


「わ、別れなさい! 今すぐに! あなたも!」

「ぼ、僕ですか!?」

「時岡学園の生徒に性知識を教えたら退学だと、入学の時に言い含めましたよね!?」

「……ソフィア、それは違う。狸吉が性知識を教えたなら、アンナはこんな怪物にはなっていない」



 ――怪物。化け物。


 《育成法》が生んだ、被害者ではなく、化け物――。



「お母様の言葉でも、それは聞けませんわ。何故なら、愛し合っていますもの」

 少し前まで絶対だったはずの母親の言葉に、今は反対する。あの夜と同じ、暴雪を伴う気配。



 微笑を浮かべる。以前の無垢で繊細な美は、迫力さを持って他者を傅かせる美に変貌していた。それは決してマイナスの意味ではなく、無条件にこの人の言葉が絶対なのだと思わせ、従わせ、心酔させるものに。以前から持っていたカリスマ性を、さらに進化させて。

 少女から女に、天使から女神に。



 それが、アンナ先輩の変化だった。気配の変化に、母親二人が一瞬、絶句する。

 ただ二人ともただものではないので、立ち直りは早かった。

「アンナを強姦罪で引っ張る」

「ちょ、ちょっと待って、爛子さん、これは何かの間違い、そう、間違いなのです!」

「――以前のわたくしなら、正しくなければ見捨てられると、そう思ったでしょうね」

 でも今は大丈夫、と、ただ無垢な信頼と愛情を、僕だけに向けて。

「奥間君はわたくしを見捨てたりしませんから」

 ――また、アンナ先輩は、この正しく狭量な世界よりもさらに深く狭い世界に、閉じ込められつつあるのか?

 アンナ先輩は何があっても大丈夫と言った自信を纏い、立ち上がる。母さんは事務的にアンナ先輩を別室に連れていく。

 残されたのは、母親と、恋人かどうかわからない僕だけ。

「どうしますか? お二方」

 不破さんの声も、ソフィアの耳には届いていない。

 ただよろよろと、PMを操作しながら、多分弁護士かなんかと相談しつつ、取調室を出ていく。

 僕は取調室を出て、椅子に座り、アンナ先輩と母さんが出てくるのをただ待つことしかできなかった。


220 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/05(土) 21:18:55.89 ID:9iu5sKBf0
……………………えーっと

あれー、ここでストーリー的には終わるはずだったのに、アンナ先輩開き直りが凄すぎて、まだ続く予感しかしないぞー
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2020/09/05(土) 21:32:57.94 ID:PscThPoM0
だから早いなww

たぬきちはともかく、リーダーに対してのレイプは誤魔化し効かない気もするが。

話が通じないって1番怖いよな。知識という共通言語がないからな。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/05(土) 22:47:17.32 ID:TpS/26b20
原作だと追い詰められてからの拒絶だったから読んでて辛かったけど、

こっちはある種の安心があるからか、逆に怖いな
話が通じない化け物ってその通りだし
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 11:19:16.85 ID:WNXNjvtDO
しかし、アンナ先輩を強姦罪で引っ張ったところで、どこに隔離するつもりなんだ…
アンナ先輩が相手じゃ、仮にリボーンの復讐者の牢獄みたいな、粘性の高い液体の水槽に入れたって難しいぞ
224 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 13:08:27.51 ID:fFBIkeMu0


「何をしている、狸吉」

 気づくと母さんが立っていた。

「アンナは今、講習を受けている。経歴に傷はつかないだろう、今の日本では」

 健全に育ったはずの娘が強姦を行っていたとなると、アンナ先輩の両親の影響力は下がらざるを得ない。

 だから必死で、情報操作するだろう。相手が犯罪者で、さらに恋人と認識されている僕なら比較的簡単な話なんだろう。

 罪を罪として認められない。

 それもまた、この国の歪みだ。

 あとはアンナ先輩が、どう向き合うかだけ。

 絶対悪としてきたものが、愛情表現として今まで僕にしてきたことを、どう受け止めるか。

「貴様はどうしたいのだ、狸吉」

「……見捨てられない」 

「どういう意味だ」

「どうあっても、アンナ先輩を変えてしまったのは僕だから」

「……恋愛は人を変える。私の持論だ」

「え?」

「アンナは変わった。確かに変わった。良い方向にも悪い方向にも変わっている。アンナはそれを否定しなかった」

「…………」

「テロリストどもが暴れる前、少し話したな。この変化はすぐに悪い方向に向かってしまう、と。自分自身が研鑽を積まなければ、すぐに悪い方向に向かう、危ういものだと。変えてくれた貴様のために、自分はより良い変化に変えていきたいと、アンナは言っていた」

 ……確かに、そんなことを言っていた気がする。

「貴様はアンナに出会ってから変わった。小学三年の時だったか。それまでは大変だった。善十郎が逮捕された時のお前の暴れっぷりはシャレにならんかった」

「…………それを救ってくれたのが、アンナ先輩だった。僕はアンナ先輩に、救われたんだ。……だから、今、アンナ先輩が苦しんでいるなら、救いたい」

 これは本音だ。なのに。

 何故、下ネタを言っている華城先輩の顔と声が思い浮かぶのだろう。

「もうすぐ講習は終わる。ただ年内は続くだろう」

 講習で終わるあたり、すでにソフィアが何かしたのだろうか。

「母さんは、怒らないの? 僕を」

「お前の意思が介入していないのに、怒りようがないだろう」

 そう言うとおり、戸惑いの方が大きく見える。

「……愛の儀式か。何も知らないと、そういう結論になるんだな」

「母さん。衝動は、止められないよ。いくら遠ざけたって、知識を切り離したって、それは本能だから、必ず行きつく。知識がなければ、歪みも歪みとわからないんだ」

「アンナを見てれば、貴様の言うことはなんとなくはわかる。だが、それでも、卑猥からは守らねばならない」

「卑猥は絶対悪でなければならない、だっけ」

「なんだそれは」

「《群れた布地》の時に言った、《SOX》の言葉」

「貴様、あんなテロリストの戯言を脳に入れる暇があれば、アンナを迎える準備をしておけ」

 ――アンナ先輩が、講習室から出てくる。

 その瞳は、銀髪の陰に隠れて、見えなかった。


225 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 13:10:04.26 ID:fFBIkeMu0


「奥間君、今日はうちに来て欲しいんですの」

 まだ仕事がある母さんを警察署に残して、僕らはタクシーでアンナ先輩の家に向かっていた。

「ソフィアさんは……?」

「いたらいたで、きちんと紹介がしたいですし……」

「いなければ?」

「……もう、二週間以上、ですわ」

 湿った声に、僕は背筋がぞくっと、愚息が勃っちゃうのは、もはや条件反射に近くなっている。

「その前に、話があります」

「ええ……あ、やはり……」

 タクシーの運転手にPMで地図を送信する。ちらっと見えたのは、この前行った超高級ホテルだった。

「ここに行ってくださいまし」

「……えっと」

「欲情を抱えたままだと、わたくし自身、抑えが効かなくなりそうですので」

 うん、多少の知識を得たぐらいじゃ本質は変わらないね! 知ってた!

 ホテルに到着し、アンナ先輩は慣れた様子でチェックインする。

 この前も通された部屋に入ると、すぐさま襲う!

 かと思いきや、アンナ先輩は発情の気配がありながらも沈み込んでいた。器用だな。

「お母様のいない場所で話を一度したかったんですの。お母様は交際に反対するだろうって、奥間君のお義母様が仰ってて」

 あの状況じゃそりゃそうだろう。



「わたくしが奥間君にしてきた愛のアプローチは、卑猥でしたの?」 



「…………」

 いきなりの直球に、何も答えられなかった。それで充分答えになっていた。

「やっぱりわたくしは、奥間君のことしか、信じられませんわ」

 表面上は冷静だが、やはり危うかった。慎重に言葉を選ばないといけない。

「……はい。何も知らないアンナ先輩のアプローチに、応えるわけにはいかなくて」

「そう、でしたの」


226 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 13:11:06.94 ID:fFBIkeMu0


「善導課の、母さん達は……いや、その前に、アンナ先輩がテロリストにしたことは?」

「両親が不問にするよう腐心していますわ。……わたくしは刑務所に入っても構わないのですけど」

 祠影やソフィアにとっては都合が悪いってか。ふざけんな。

「アンナ先輩。ご両親の言葉だけがすべてじゃないように、僕の言葉もすべてじゃないんです。誰かの言葉がすべてなんて、あり得ません」

「…………」

「僕の父親は奥間善十郎、稀代のテロリストです。そして母は、《鋼鉄の鬼女》とも呼ばれる、善導課伝説の人です。テロリスト側も体制側も両方持つ僕の言葉は、ふらふらしていて、とても誰かを導けるものじゃありません」

「……ずるい人」

 ――アンナ先輩の言葉の中で、一番ショックだったかもしれない。

 だけど、逃げるわけには、絶対にいかない。

「先輩も今、混乱しています。落ち着きましょう。色々あって、疲れるのが当たり前なんです。傷つくのが当たり前で、僕達はそれを乗り越えないといけない」

 ああもう、僕も何を言っているかわからなくなってきた。それでもアンナ先輩と目を合わせる。

「アンナ先輩、人を傷つけるのは、やっぱり愉しいですか?」

「……ええ。『愛の罰』を与えている時、愛の蜜が溢れだしていましたわ。……奥間君の匂いもなかったのに」

 アンナ先輩は自嘲の笑みを浮かべる。

「愛の蜜は、快感を覚えれば、愛がなくても出るものなのですね」

 ……母さんはそこまで教えたのか。今のアンナ先輩なら理解っているんだろう。

 愛情と性欲は違うってことが。そしてアンナ先輩の性癖は、極めて危険なものだってことが。

「性衝動も、破壊衝動も、どっちも満たすことは、難しいかもしれませんけど……」

 そこでやっと、やっと。

 僕はアンナ先輩の瞳に気付く。

 理性的な表情や言葉の中で、隠されていたものが、現れる。

 血の味を覚え、性にまみれた、危険としか言いようのない獣の瞳だ。

「奥間君」

 抱きしめられる。強く、逃がさないと言いたげに。

 じっとりとした熱を帯び、舌なめずりをし、スンスンと首筋の匂いを嗅ぎながら。

「わたくし、ずっと思っていましたの。奥間君を壊したら、どれだけ気持ちのいいことになるか」

 サーっと血の気が引いた。いやマジで。愚息もしゅんとなっている。

「身体を壊したりはしません。痕にも残りません。ただ、少しだけ、痛みを与えさせてくださいまし……」

「ちょちょちょちょちょ!」

「…………」

 まだ中だしセックスの方がマシだった。えっと、こんな時はどうすればいいんだっけ? SMの規制本ちらっと読んだ限りでは確か、そうだ!

「キキキ、キーワード!!」

「?」

「本当にダメなときは、キーワードを言うので! それを聞いたら止めてください、お願いします!!」

「…………何にいたしますの?」

「えっと、NO! NOで!」

「わかりましたわ。……大丈夫、精神が壊れるほどではありませんわ」

 全然安心できないけど、これから始まるのは、そんな特殊SMプレイらしかった。遺書残して来ればよかった。

227 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 14:35:43.30 ID:fFBIkeMu0


 母さんの調教で多少痛みに慣れているとはいえ、今のアンナ先輩に付き合うのは正直辛い。

「避妊具は持っていますの?」

 よかった、その認識が生まれている!!

「今は妊娠するわけにはいかないようですので……奥間君のお義母様がそう仰っていましたの」

 ……着床したいオーラを感じるけど、無視しておかないと精神が破綻する。

「さ、財布に入ってます」

 いつ襲われても大丈夫なようにね! 5枚用意しているけど普通はこれで足りるよね? アンナ先輩が限界まで挑戦したいとか言い出したら即座にNOと言おう。

「そう、ならお腹の中を掻き混ぜても大丈夫そうですわね」

 残念そうに聞こえるのは気のせいじゃない。

 ゆっくりと、焦らすように服を脱いで、脱がせていく。獣の瞳はそのままで、笑っている。

 ぺろ、と首筋を舐める。そこが以前、僕を食べようとしたときの傷痕を舐めていることには、すぐに気付いた。

「少し、痛みますわよ」

 背中の一部を、軽く押され

「げふっ!?」

 肺の空気が全部吐き出された。どんな芸当でこんなことができるんだ!?

「〜〜〜〜!! ああ、」

 僕が痛みにむせている姿を見て、恍惚に酔いしれている。今度はわき腹「が!?」ぐりぐりと目つぶしを握ったものを脇腹に入れていく。

 ぴちゃぴちゃと湿った水音が、大きくなった。

「ああ、ああ……やはり、わたくしは」

 今度は唇を貪る。いつもと違うのは、感じるポイントじゃなく、舌を啜り、歯で噛み千切らんばかりに強く噛んだこと。

「んー! んー!」

 唾液を啜り終えると、少し不満げにこちらを見る。

「な、なんですか?」

「……本当は、舌を噛み千切りたかったのですけど。……奥間君の血の味が、欲しいんですの」

「あの、身体は傷つけないって……」

「ん、先に舌を満足させますわ。……愛の蜜をくださいまし」

 アンナ先輩は僕の愚息に口づけをする。ここは素直におっきした。条件反射みたいなものだから仕方ないよね。


 じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ!


「〜〜〜〜!! アンナ先輩、出ます!!」

 どびゅるる、と勢いのある精液が、アンナ先輩の小さな口の中に全部入る。飲み込むのがもったいないのか、起き上がり視線を合わせ、笑みを浮かべながら舌の上でころころと味わった後、喉を反らし見せつけるように飲み込む。

「あ、はあ、やっぱり溜め込んだ奥間君の愛の蜜は美味しいですわ……!」

 騎乗位になり、僕の上にまたがろうと膝立ちになる。あ、ゴム着けなきゃ。

「……愛の蜜がお腹の中で広がらないのは、寂しいですわね」

 それしたら妊娠するから仕方ないね。

 ゴムを付けると、ゆっくりと飲み込んでいく。「うっ」呻いたのは僕の方だった。アンナ先輩の中は凄まじく、グネグネとうごめきながら搾り取ろうとする。

 アンナ先輩が、笑った。

228 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 14:36:44.81 ID:fFBIkeMu0


「ひぎぃ!?」

 い、いや、ぼ、ぼくのちくびをつねらないで!! そこはダメ、ダメなのぉ!!

 痛みでビクンと跳ねた身体の衝撃を全身で受け止めるかのように、アンナ先輩はころころと僕の乳首を転がす。

「うふふ、可愛い顔……」

 アンナ先輩はあくまで動かず、僕の身体に衝撃を与え、そこから伝わる振動で感じているようだ。ダメだ、鍛えられてないところばかり責められると体力が持たない!

 アンナ先輩のおっぱいに手を出そうとすると、

「ダメですわよ? 勝手に動いては」

 一瞬で手を上に拘束される。アンナ先輩は片手なのに、僕は両腕の力を使っても全く動かない。

 アンナ先輩が動いた。グネグネと腰を蠢かし、恍惚を移すように、奪うように、そのたびに昂ってきて、キスもいつもの激しいものに変わる。愚息も慣れたプレイに戻ったからか、一気に大きくなっていく。

「あ、あ、あ、あ!!」

 ばしゃあと、アンナ先輩が潮を吹いた。僕も二度目の発射をし、アンナ先輩から抜く。

「お、奥間君、やっぱりわたくし、奥間君の愛の蜜を身体の中で感じたいんですの」

「で、でもそれだと」

「排泄孔に、挿入れてくださる?」

 瞬時に計算、今のアンナ先輩を刺激するより後ろの穴プレイの方が危険度低いと認定!

 バックの姿勢になり、排泄孔にあてがう。

「ゆっくり、挿入れますね」

 今のアンナ先輩に指で慣らすなんてことは必要ないだろう。予想通り、力の加減を完璧に習得したのか、挿入するときはたやすく、抜くときはきつい。痛いほどだ。

「う、先輩、きつい、です」

「ふふふひ、そうしているんですわ。早く動かしてくださいまし」

 ちんこもげそうなぐらいの力で絞る排泄孔の括約筋ってどうなってるんだ。うわ、本当にもげそう。でもヤバい、中は気持ちいい。

 ぐっ、ぐっ、ぐっ、ぐっ、

 前の穴と違って自分が主導だからか、征服感みたいなのがあって、それが背筋にゾクゾクを走らせる。

 ぐっ、ぐっ、ぐっ、ぐっ、

「う、先輩、出ます!!」

 びゅる、びゅるるる!

 三回目ともなると勢いは減るかと思ったけど、そんなことはなかった。むしろ根元を押さえられ、勢いが増したほどだ。

「あ、アンナ先輩?」

 最初こそ痛かったけど、思ったより普通のプレイで少し安心して、愚息を抜く。まだ少しおっきしてる。

「うふふふふ、やっぱり、あれがいいんですの」

 ……何の話だ。

「奥間君、わたくしの排泄孔に愛の蜜を注ぎ込んだでしょう? ……わたくしもしたいんですの」

 (アンナ先輩は知らないだろうけど)前立腺プレイかあああああああ!!

 あれはきつい、死ぬ、搾り取られて死ぬ!!


229 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 14:37:20.31 ID:fFBIkeMu0


「の、の」

「えい」

 かわいい声だったが、細く長い指はあっという間に僕の排泄孔を犯し、ポイントにたどり着いて



「あああああああああああああああひいいいいいぎゃあああああああ!!」



 ぴゅっぴゅっとあっという間に射精。

「ああ、やっぱり、悲鳴って素敵ですわ……」

 NOと言いたいところだったけど唇を塞がれる。いつの間にか前も挿入していたけど(避妊はどうした)、後ろの刺激にそれどころじゃない。

 またぴゅぴゅと射精して、今度は腰ががくがくと勝手にうごめいた。

「あん、激しい! これ、これ、これ!! これがいいんですの!! ああ、痛みを与えている時の顔も素敵ですけど、こちらの苦痛の表情もなかなか……う、ひひひひ!!」

 四回の射精とドライを二回を経験して、半分意識が飛びながら「N,NO……」やっと言えた。

「……これからですのに」

 仕草だけ見るとかわいらしいけど、結局前にも出してるからね!! 四回も!!

「奥間君、まだできますわよね?」

 全力で首を横に振る。出し切った。言い切れる。

「……やっぱり、わたくしは、人が苦痛に喘いでいる時の顔が好きなんですの……」

 自分の性癖を改めて自覚したんだろう。僕は割と知ってたけど。

「奥間君なら辛うじてブレーキがかかるのですけど、他の方だと無理なんですの」

 あのリーダーにしたことを知っていればわかりますとも。

「その、僕も、どうすればいいか考えますので……」

「……《赤ちゃん穴》に愛の蜜を注ぎ込んでしまいましたわ」

「あの、妊娠阻害薬〈アフターピル〉っていうのがあって……一応、持ってます。アンナ先輩が暴走した時のために」

 今まさにこの状態のために。

「避妊に失敗したときに使う薬です。……前も飲みましたよね?」

「……風邪薬と言われたやつですの?」

「すみません。そう言わないと説明が浮かばなかったので」

「……薬に頼るわけにはいかないようですわね。副作用の激しい薬のようですから」

「らしいですね。だから、避妊具は絶対つけましょうねって話で……」

 アンナ先輩がこちらを向いている。なんだろう。

「……奥間君、小匙スプーン一杯でいいから、奥間君の血が飲みたいんですの」

「……えっと」

「避妊具は絶対つけますので」

「…………一滴じゃダメですか?」

「…………」

 不満そうな顔になったけど、結局はそれで了承してくれた。

 僕自身が小指を噛み千切って、アンナ先輩が啜るその図は、凄絶の一言だった。僕、マジで食われてる。


230 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 14:37:58.02 ID:fFBIkeMu0

…………、

ぶっちゃけ、あんまり変わらない気がする!!
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 14:49:54.65 ID:FZ7pOzX30
アンナ先輩、前回小指食おうとしてたし、確かに変わりないかも(自覚生まれたのはいいけど)
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 15:47:11.10 ID:q3+qDowjO
あー、こういうプレイ知ってる…
ヤラレる側は自分が嫌なプレイはNOで断れると思ってるけど、唇ふさぐとかされたら受け入れるしかないんだよね
ひどい時にはギャグボールとか使われて何も言えなくなるし、エロ漫画あるあるだわ
233 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:33:59.30 ID:fFBIkeMu0


 タクシーでアンナ先輩のマンションに来た後、ソフィアがいたらどうするか考えていたのだけど、誰もいなかった。

 シャワーは先ほどホテルで浴びたのだけれど、僕にはわかる。アンナ先輩はまだ足りてない。そして、誰もいない。

 でももう僕の残弾は出尽くしていて、セックスしようがない。さてどうするか。

 アンナ先輩は僕の傷ついた小指をペロッと舐めた後、笑った。

「服を全部脱いでくださる?」

 逆らえるはずもなく、言うとおりにする。「あ、あの」ああ声が情けなくなってる。

「さっきの続き、僕はもう……」

「大丈夫ですわ。奥間君を鑑賞したいだけですから」

 鑑賞? 浣腸じゃなく?

 全裸になると、アンナ先輩は満足そうに、

「しなやかで、結構逞しい身体をしていますわよね……」

 僕の胸板を優しく撫でる。それが酷く恥ずかしい。

「あ、アンナ先輩のプロポーションには絶対敵いませんよ」

「うふふふ、ありがとうございますですわ。……手枷を嵌めますわよ」

 え?

 と思う間もなく、あっという間に手枷が嵌められた。

 今、僕の手は頭の上に上げている状態だ。手枷にさらに長い鎖を嵌めると、天井の大きなフックに通す。

 そしてキリキリと上げていく。

「あ、あの、アンナ先輩?」

「一度やってみたかったんですの。ん、もう少し鎖を短くしてもよろしくて?」

 鎖が短くなり両腕が上がっていく。

「くっ」

 自由が利かない。アンナ先輩の思うが儘なのが、恐ろしく怖い。

「……もう少しだけ」

 とうとう僕は、つま先立ちになるまで鎖を短くされた。そこで天井のフックに鎖を固定する。

「ああ、素敵ですわ。とっても素敵……先ほどあれだけ満たしましたのに、またお腹の中がうずうずしてくるぐらい」

 ちなみに僕の息子はあろうことか半勃ちになっていた。おまえ、元気だな!

「……これもきっと、卑猥の罪なんでしょうね」

 唐突に真面目な話をされる。え、これ結構きついんですけどこの状態続くの?

「実は、お母様がもうすぐ来ますの。奥間君の意思ではなく、わたくしの意思だと表明するには、これが一番早いかと思いまして」

「ちょっと待ってええええ!!!」

 ソフィア卒倒するぞ!!? あと僕ソフィアに攻撃されたら抵抗できないじゃないか!!

 ご丁寧にハンカチを利用した口轡を嵌めたあたりで、


 ピンポーン


「来ましたわ」

 え、僕、放置プレイ?


234 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:34:28.78 ID:fFBIkeMu0


 ――アンナ、いいですか、あなたはあの男に騙されているのです!

 ――いいえ、お母様。わたくしが選んだ方ですわ。

 ――こちらに来ていただくのが早いと思いますわ。



 ちょっと待ってこんな急ピッチ!?

 カチャ、と静かに扉の開く音がした。



「――――――な、な、な、な、!?」

「鎖も天井のフックも、わたくしが自分で用意したものですわ」

「な、なななな、なんて破廉恥な!? なんで、なんでこんな!?」

 僕も聞きたい。

「このつま先立ちっていう体勢、結構辛いのはお母様もわかるでしょう? ……わたくし、大好きな方の苦しそうな顔を見ますと、こう、愛の蜜が溢れてくるんですの」

「〜〜〜〜こ、こ、この!!」

「――――――ソフィア、落ち着け!!」

「あら、お義母様も一緒だったのですわね」

「アンナ、ソフィアもだ、君たちは混乱している! だからついてきた!」

 ありがと母さん、本当に感謝!

「わたくしは落ち着いていますわ。愛の蜜入りのクッキーを食べさせたり、そう、この突起物を」

 よりにもよって、僕と自分の母親の前で、口に含む。舌を使い、いつもより丁寧に、見せびらかすように。

「こうすると、すごく幸せな気持ちになれますの……ん」

 いつもよりも僕の反応が鈍いけど、尿道口を舌を使ってぐりぐりしたり、ハーモニカのように唇を滑らせたり。

 いくらソフィアでも、これが娘の意思で行われていることに、気付いたようだった。

「なんで、なんでこんな……私の教育は間違ってなどいないのに、なぜ? 不健全雑誌を身体に巻いてまで、デモを起こしたというのに、娘が傷害? 強姦? こんな破廉恥なことまでするようになったのです……?」

 口轡を乱暴に母さんがはがす。「げほっげほっ」

「お前も何か言え!!」

「……アンナ先輩は……いえ、人間は、衝動には逆らえません。それは自分の中にあるものだからです」

 聞いてくれているのかわからない。だけど言うしかない。

「性衝動も破壊衝動も、アンナ先輩にはちゃんとありました。だけどみんな、なかったことにしていた。見て見ぬふりをしていた。それでも、アンナ先輩の歳まで奇跡的に成り立っていたのは、本当に奇跡なんだと思います」

 ………これを言うと、もう後には戻れなくなると、わかっていた。

 だけど、言うしかない。だって、アンナ先輩を変えたのは、僕だから。

「僕は、アンナ先輩を尊敬して、時岡学園に入りました。それは、今でも変わりません。アンナ先輩は、本質は、変わってなんかない。ただ隠さなくなっただけなんです」

 だから。だから。



「僕はアンナ先輩を、受け入れたいと思います。ありのままのアンナ先輩を。ソフィアさんは、時間がかかるかもしれませんが、ありのままを見てほしいんです」



 多分、これは告白なんだろうなと。

 心のどこかで、気付いていた。

 できればもう少し、マシな告白がよかったな……鎖で全裸とかじゃなくてさあ。
235 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:35:02.78 ID:fFBIkeMu0


 正月が終わるまでは善導課の講習や家族内での不和があって、アンナ先輩は首都に帰って会えなくなった。電話もろくにできていない。

 占い屋で作ったおそろいのペンダントを見るたびに、これでいいのか、思う。

「アンナに告白とはお主生意気じゃのう」

 偉そうに正月気分を無視してハンバーグ800gを食べている早乙女先輩は、いつもの調子だ。

「僕、《SOX》をどうすればいいでしょう?」

「はやく止めるっス、死人が出るっス」

「止めるしかねえな、狸吉を犠牲にするしかねえぜ」

 ひでえ。

「華城先輩はどう思いますか?」

「私は別に? アンナ抱き込めばテロ活動もやりやすくなるだろうし」

 華城先輩は、いつもの元気がない。病み上がりだからかと思うけど、なんか違う気もする。


 カランコロン


「あら、皆さんもここにいましたの」

 銀髪の影が、喫茶店に入ってきた。

「あ、アンナ!? 首都に帰ってたんじゃなかったの!?」

「そうですよ!!?」

 全員がワタワタしていた。そりゃそうだ。

「お母様が思ったより強情で、お父様もよくわからない意見だったので、奥間君のお義母様に相談してみたら、少し離れた方がいいと結論に達しまして」

 まあ、そうかもしれない。でも何でここに?

「奥間君のアパートに行ったらお留守でしたので、匂いをたどって」

 あー、やっぱりそうだよなーあはは。

「あー、えっと。アンナ先輩はこれからどうするんですか?」

「お母様はわたくしを転校させたいようなのですけど、そうはいきませんので」

「遠距離恋愛も悪くないと思うわよ」

 華城先輩は黙っててください!!

「それも考えたのですけど、わたくしは確かめたいことができまして」

 確かめたいこと?



「そのためには、《SOX》と接触しなければなりませんの」



「「「「「…………」」」」」



 僕たち《SOX》の活動には、まだまだ困難が付き添うようだ。



   ――END――


236 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:38:41.89 ID:fFBIkeMu0
続きを書いてもよかったんですけど、一応テロリストからの救出という点においては事件として終わっているので、こういう形で〆させてください。

続きは書きたいですけど、別スレ立てるか悩んでいます。


あとこう見えてもアンナ先輩は狸吉に依存しているから安定しているように見えるだけで、まだまだ不安定なのでひと悶着はあると思います!

ここまで付き合ってくださって、ありがとうございました! 本当に、ありがとうございました!
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 18:09:48.83 ID:SRc4PU9U0
SOXを殲滅じゃなくに会うか……書いてくれー無理ない範囲で
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 18:19:32.15 ID:/FStR6Q6O
続きを投下するのは何ヶ月も先になりそう?
それなら、別スレ立てた方が良い

そして乙
ぶっちゃけ続き書いて欲しい。何年も待たされてこれだとアッサリし過ぎというか、消化不良というか……
とにかく待ってます
239 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 20:50:26.69 ID:fFBIkeMu0
うう、すみません、ちょっと急いだ感はありましたね……

10日ぐらい開けるかもしれませんが、何か月もということはないと思います。多分このスレで、続き頑張って書いてみますね。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 21:47:32.64 ID:BRHXYaDKO
りょーかい、待ってる
もし別スレ立てたら、このスレはHTML依頼出す必要あるから忘れないでね
おつ
241 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 21:57:54.23 ID:fFBIkeMu0

   <不破氷菓の一日>



 不破氷菓は科学者の端くれである。

 そう自負しているのだが、中には発明者と勘違いされている節もある。

 例えば、昨日こんな依頼が来た。



「アンナ会長の性欲を何とかしてほしい?」



 奥間狸吉からの依頼だ。正月の三が日も終わったばかりなのに何を言っているのか。

「無理に決まっているでしょう」

『そんなこと言わないで! 頼むから話を聞いて』

「毎日搾り取られていればいいじゃないですか」

『……合体』

「ほう」

『成功するかはわからないけど、アンナ先輩との合体の観察にアンナ先輩を協力してみるよ』

「そこまで言うとはよほど切羽詰まってらっしゃるんですね。わかりました、引き受けましょう」



   *



 喫茶店で会うことにした。

「アンナ先輩、僕を鎖で釣り上げたかと思えば寸止めして焦らすんだよ……」

「奥間さんの愛の蜜が溜まるまで?」

「愛の蜜が溜まるまで」

 そんなプレイスタイルは《SOX》がばらまく不健全絵画にもなかったので、非常に興味がわいた。

「いいんですか? そんなことを話して。生徒会でしょう?」

「生徒会長があんなのだからいいんだよ、きっと」

 奥間がそれでいいならそれでいいのだろう。以前の奥間なら断固拒否していただろうに、よほど疲労が激しいらしい。目にクマができている。人のことは言えないが。

「鎖でつま先立ちまで天井に引っ張る……なるほど、拷問と似ていますね」

「その状態で、その……いろんなところを羽箒でさわさわしたり」

「なるほど」

「本当に、地獄なんだよ……この前なんか見下すような視線だけでもう無理になりそうになったし」

「ほう、それは興味深いですね」

「恥的好奇心満たしてないでさ、なんとかしてくれぇ!」

「会長からもリサーチしたいところですね」

「……アンナ先輩に? わかった」

 一瞬、気まずそうな顔をしたが、すぐにPMを繋いだ。

242 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 21:59:11.82 ID:fFBIkeMu0


『奥間君? どうかされましたの?』

「あの、不破さんをアンナ先輩の部屋に連れて行ってもいいですか?」

『? 何故?』

 以前なら即浮気を疑っていたのに、今は正妻気取りである。余計な嫉妬が来ないのは助かるが。

「あの、前からの事件で色々不破さんに迷惑かけちゃったじゃないですか……それで、前から興味を持っていた」

『……愛の儀式を見たい、と?』

「あの、やっぱりだめですか? アンナ先輩も僕相手じゃ鬱憤が溜まるでしょう?」

『わたくしはすごく楽しいのですけど……、奥間君に負担がかかるのは、わかっているつもりですわ』

「拷問ですしね、基本が」

 PMはその一言を拾わなかったらしく、熟考の気配だけがする。

『お母様相手に披露したこともありますし、何も言わない、喋らない、手を出さないなら、いいですわよ』

「え、いいんですか!?」

『少しでも奥間君に触れたら、わたくしにとっては愉しい事態になるでしょうね』

「それはつまり拷問ですよね」

 …………、絶対に触れないようにしよう。

 PMが切れると、「よっしゃこれで光明が見えた!」みたいな顔をしている。

「性欲の解消には、たいてい疑似的な単為生殖にふけることが多いのですが」

「僕はもうそれでいいよ……」

「以前、奥間さんのものを疑似的に再現したブツがあったのですが、取られたのですよね?」

「アンナ先輩の箪笥の引き出しに大事にしまってあるよ」

「まずはそれを取りに行きましょうか」


   *


「いらっしゃいですわ」

 ここに来るのは二回目だが、相変わらず白を基調とした品のいい部屋だった。

「あら、早乙女先輩もご一緒ですの?」

 あれから「奥間よ不破よ、わしをそんな素晴らしいシーンに呼ばんとは寂しいではないか!」とどこからか聞きつけ、一緒に来ることになった。自分は構わないが、奥間は嫌そうにしている。

「ブツはどこに?」

「大事にとってありますの」

 取り出したブツは、洗って綺麗にしてあるらしく、汚れ一つついていなかった。

「使わないのですか?」

「え? まあ本物がありますし」

 それもそうかと納得する。ということは、本物にできない動きを付加すればより快感を得られるのだろうか。ただ素材にあまり柔軟性がない以上、無理な動きはさせづらい。

「使ってみての感触はいかがでしたか?」

「それはもう満足ですわ。ただ、自分で抜き差しするのは、味気ないですわね」

 そこでいきなりきょとんとアンナ会長が、「これは卑猥な会話に当たりますわね」といきなり爆弾を投げ始めた。

「あーえっと、その、ほら、性衝動の正しい解放は大事なんですよ! 母さんも言ってましたけど、それで不快な思いをさせなければいいわけで、むやみに人に見せびらかすわけではないし」

「お二人が見ることになりますわ」

「納得づくなら問題ないでしょう!」

 二人とも助けて! と念波が送られてきたので、頷いてみた。

243 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 21:59:45.58 ID:fFBIkeMu0


「ならいいんですけど」

 どうも最近のアンナ会長の価値観はわかりにくい。元からわかりにくい人ではあったが、あの立てこもり事件以来、卑猥に対する価値観を信用しなくなったような、いびつさがある。

「この近くに粗大ごみ置き場はありますか?」

「ありますけど、何を致しますの?」

「材料拾いです」


    *


 さすがに高級マンションの粗大ごみ置き場だけあって宝の山だった。パッと見る限り、修理すれば十分使えるものばかりだ。

「これはなんですか?」

 見慣れないものがあったので、素直にアンナ会長に訊いてみる。

「ロデオマシンですわね。確か最近、ジムが閉鎖になったとか聞きましたわ」

 ふむ、と考える。組み合わせたら使えそうだ。

「これを持って帰りましょう」

「え、重いよ?」

「わたくしが持ちますわ」

 奥間が持てなかったものを軽々持ち上げると、部屋に戻っていった。


   *


「…………」

 奥間が何か言いたそうにしているが、気にしないことにする。

「完成しました」

 構造としては非常に単純で、ロデオマシンを修理し座る部分にブツを固定しただけの代物だ。

「なるほどのう」

「では実験してみますか?」

「え、ロー……潤滑油なしに?」

「天然の潤滑油はもう十分なようじゃがのう」

「では全裸になってください」

「……明るいですわ。間接照明だけでもよろしくて?」

 ここで機嫌を損ねても仕方ないので、頷いた。間接照明だけでも十分に明るく、観察には問題なさそうだ。

「奥間君も、全裸になってくださいまし」

「え、僕も?」

「せっかくですから、このまま愛の儀式に移行してしまいましょう」

 《赤ちゃん穴》から大量の潤滑油――愛の蜜が太ももにまで流れ落ちている。声は平静でも、欲情の火がともっているのがわかった。

「スイッチの回数で強弱とオンオフがつけられますので。後は黙っています」


 そして、実験と儀式は始まった。

244 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:00:35.39 ID:fFBIkeMu0


 奥間が胸部を舐めている。それだけで「ああん」と甘く高い声を出して、背中を反らす会長は、美という観点から見ても完ぺきだった。

 そして《赤ちゃん穴》に指を挿入され、しばらく上下に動かされた後、ガクガクガク!と痙攣がおこり、愛の蜜とやらがさらにぼたぼたと流れ落ちる。

 そして、ロデオマシンに跨る。

「ゆっくりでいいですからね……痛かったら言ってください」

 そしてブツが、中に挿入されていく。

「はうん! は、は、あ、」

 一番弱い刺激だからか、物足りないようだ。前にハンドルのようなバーがあったが、そこを握らせず奥間はアンナ会長を後ろ手に手錠で固定する。

 すると、身体を固定することができず、より振動を強く受け取ることができる。なるほど、と氷菓は納得した。

「あん、奥間君の、いぢわる……」

 むしろ嬉しそうにそういう会長はまだ余裕がありそうだった。奥間もそう思ったのか、第二段階にスピードを上げる。

「はああん! あ、ああ、ああああ!」

 気持ちよさそうに声を上げる会長は既に涎まみれだった。はあ、と奥間がベッドに座る。

 気持ちよさげに声をあげながらも、会長はス、と視線を奥間の突起物に目を注ぐ。奥間はう、っと呻きながら、共鳴を起こしたかのようにグググ、と戦闘態勢になった。

(この前なんか見下すような視線だけでもう無理になりそうになったし)

 なるほど、こういうことかと納得する。自分も熱気に充てられ、潤滑油が流れ出してきた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、奥間君、これじゃダメ、ダメですの……!」

 どうやらこれでも物足りないらしい。だけど奥間は動かず、時計を見る。

「アンナ先輩、あと10分、我慢できますか?」

「10、10ふんも、ああ! ああん、奥間君のいぢわる……」

 そう言いながらも嬉しそうだ。よくわからない関係の二人だと思う。


 10、

 9、

 8、

 7、

 6、

 5、

 4、

 3、

 2、

 1、


「あ、あ、奥間君……!」

 そこで一度、奥間はスイッチを切った。

245 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:01:11.33 ID:fFBIkeMu0

「あ、あ、あ、あ、なんで……?」

「ちょっと位置調整しましょう」

 アンナ会長は素直に頷くと、潤滑油でぬるぬるになった鼠径部を上下左右、動かし、「あ、ここ、ここがいいですの!」何やらポイントを見つけたらしい。

「じゃあ、一番強いの、行きますね」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、!!」


 ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン!!!


 氷菓の目から見ても激しく前後左右上下に揺れる。「ふ、ふわああああああああん!!!!」身体を反らし、全身で快楽を享受したようだが、機械だから止まらない。

「10分、我慢しましょうね。危なくなったら切りますから」

 奥間の声はどこまでも優しい。

「お、あ、おお、うぁ、あああああ」

 もはや会長の声に涼やかさはなく、獣のそれと同じになっていた。


 10、

 9、

 8、

 7、

 6、

 5、

 4、

 3、

 2、

 1、


「終わりましたよ」

「…………」

 呆然自失だった。機械的な刺激というのは得てして強すぎるのかと氷菓が心配した時、

「アンナ先輩ならよく気絶とかするから大丈夫だよ」

 奥間が言うならそうなんだろう。

 気絶しているアンナ会長をベッドまで運ぶ。丁寧に扱っていた。

「ありがとう、これでアンナ先輩が物足りない時なんとかなりそうだよ!」

「……奥間君……?」

246 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:01:43.09 ID:fFBIkeMu0


 ビクン、と文字通り奥間が跳ねた。

「ふふ、いぢわるなとこも好きですわ……でもすっごく良かったんですもの。けれど、奥間君が足りないでしょう?」

 いつの間にか起き上がり、奥間の腰を後ろから掴んでいる。

「い、いや、止めて! 排泄孔だけは!!」

「うふふふふふ……今度は奥間君の番」

 奥間に負けず劣らず優しい声で、しかしその瞳だけは欲情の獣の瞳だった。



「いやああああぎやああいひひひいいいいいふはあああああああああああああ!!」



 もう言語とも思えない発声が奥間の喉から響く。

 人間はこんな声を出せるのだと、氷菓は身を以て知った。


   *


 創作意欲がわいた! わきまくりじゃ! と何かの祭りのごとくダッシュで帰っていく。そういえば早乙女先輩の気配が途中からなかった。

 直接の合体は見られてないなと気付いたが、今の時点でこれ以上は罰が当たる。あのロデオマシンの有用性もわかったし、今日はいい日だった。

 しかしそれにしても。

「愛、とは不可思議ですね」

 慈しんだり嫌がったり、それを無視してみるとより快楽が発生したり。

「まだまだ探究心は衰えそうにありません」

 とりあえず、いつかは本当の合体が見てみたいと思う、氷菓なのだった。


247 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:03:11.46 ID:fFBIkeMu0

本編と本編の間の話な感じで。アホ話。

アンナ先輩、大体愛の蜜が溜まるまでは狸吉を吊り下げて、紅茶を飲んだり読書をしたり、鑑賞物として楽しんでらっしゃるようです。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 22:31:30.81 ID:7yMJ9NmL0
たぬきち切羽詰まってたんだな……
なんつーか、本編ではペット扱いだけどこっちじゃ奴隷扱いな気がする。天吊りって結構キツイらしいね
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 23:01:05.33 ID:lLhoANhrO
なにこれアタマおかしい
って、原作からしてそうだったわ
つまり、これは忠実な原作再現つーことか。なんてこったい
250 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:46:19.80 ID:67K1aiTg0
アクションを書く練習ですので、下ネタが入ってないと書いた後で気付きました。なんてこったい。

まあせっかくなので投下します。
251 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:47:46.38 ID:67K1aiTg0


 12月26日


「悪いね、母さん。変なことを頼んじゃって。休みの日なのにさ」

「構わん。最近の署員には緊張感が足らんしな」

 僕は今、なんと善導課の柔道場に来ている。

 アンナ先輩は事件でいろんな功罪を背負った。功を奏して罪の方は軽く済んで、(本来ならあり得ないのだけど両親が無理を通した形だ。僕と轟力先輩のBLぐらい無理を通している)講習を受けている。だけどアンナ先輩は優秀すぎて、カリキュラムが一瞬で終わるというほぼ意味のないことになって、上層部が困っていたのだという。

 そこで時間を持て余し気味のアンナ先輩を見かねて僕が母さんに頼んだのが、組み手だった。

 アンナ先輩は衝動を持った。性衝動だったり破壊衝動だったり、その他もろもろ。それは生きていくうえで必須なんだけど、アンナ先輩は正しいことしか詰め込まれておらず、抑圧されて生きてきた。だからその衝動の発散の仕方を知らず、特に破壊衝動の方は持て余し気味だった。性衝動の方は僕で遊んでなんとかなってるけども。むしろこっちを何とかしたいのだけど、みんな僕一人の犠牲で済むならということでごまかされている。ひでえ。

 まあなんだ、発散の仕方を知らないって色々辛いよね。ナニがとは言わないけどさ。

 だけどアンナ先輩の場合、人の壊し方を知っているという点でとにかくシャレになっておらず、素手で人を殺すことも可能な人だ。いや普通の人もできるのかもしれないけど、握力だけで首の骨を折るってできる? 僕はできないよ?

 柔道場へ行くと、すでにアンナ先輩が柔道着に着替えて待っていた。黒帯。アンナ先輩の可憐な容姿と黒帯のギャップが珍しいのか、ちらちらと善導課だけじゃなく警察全部の課の猛者で埋め尽くされている柔道場の視線を一身に受けていた。

「奥間君、お義母様」

 アンナ先輩が笑うだけで、むさくるしい柔道場の一角にそこだけお花畑が生まれたようだった。

「今日は、お稽古を?」

「まあ正直、君のストレス発散にしかならない連中だろうがな」

 善導課の生きる伝説《鋼鉄の鬼女》の言葉に、何人かがざわつく。母さんは今日、柔道場を仕切っていた警官に声をかけると、

「全員注目!」

 全員が稽古を止めて、僕達――というか母さんを見た。

「今日は彼女、アンナ・錦ノ宮の特別講習に付き合ってもらう。実力が足りないものは見学していろ、あとで私が可愛がってやる」

 ……皆さんごめんなさい。

「アンナ・錦ノ宮と申します。今日はよろしくお願いいたします」

 ざわつきが生まれる。アンナ先輩はどうやら柔道界では有名らしい。そりゃな。

「具体的には彼女の乱取り稽古に付き合ってもらいたいのだが……、おい、貴様」

「は、はい!」

「貴様ならアンナ相手でも、そうだな、15秒立てていたら誉めてやろう」

 空気が軋む。アンナ先輩相手に15秒立てるというならそれなりの猛者なんだろうけど、それだけの猛者ならプライドも高いだろう。

「あの……」

「かまわん。アンナ、不必要なプライドはへし折ってやれ。それが奴のためだ」

「……わかりましたわ」

 本来、今日この柔道場を仕切っていた警官が審判することになった。

「はじめ!」


 ドン!


 ……4秒だった。僕から見ても見事な、アンナ先輩の一本背負いが決まっていた。


「貴様、女相手とみて油断するとはたるんどる!!」

「ひぃ、すみません!!」

「思ったよりもたるんどるようだな。鍛えなおさねばならん」

252 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:48:30.59 ID:67K1aiTg0


 母さんは周りを見渡すと、

「しかし、これでは今日いる者では相手にならんな。仕方ない、私が相手をしよう」

「お義母様と?」

 アンナ先輩の困惑をよそに、母さんはさっさと柔道着を着替えに出て行ってしまった。

 警官たちから声をかけられるかと思ったけど、母さんが怖いらしく黙って正座している。

「奥間君はその……どう見えましたの?」

「え? えっと、僕は武道のことわからないので何とも言えないんですけど」

 ちょっと考える。流麗で見事な動き。しかし、何かが足りない。

「アンナ先輩も、遠慮してましたよね? 遠慮というか、エンジンが入ってないというか」

 アンナ先輩と言えば敵に対してはもっと容赦のないイメージだ。なんというのか、武道というよりスポーツといった感じだった。

「ん……、そうかもしれませんわね」

 これじゃあ、衝動の発散の練習にならないかもしれない。そんなことを危惧しているうちに、母さんが柔道着で戻ってきた。

 ……やっぱり迫力あるなあ。カタギには見えん。

「これより、奥間爛子とアンナ・錦ノ宮の乱取り稽古を行う」



「はじめ!」



 シュババババ!と無数の攻防が繰り広げられる。正直僕には見えない。一瞬、距離を取り、また無数の攻防が繰り広げられる。互いに決め手がない感じだ。

 警官たちは目を剥いている。母さんと互角の人間なんて数えるほどしかいないだろうしな。それがこんな美少女じゃびっくりもするわ。


「それまで!」


 結局一戦目は引き分けに終わった。

「……ふむ」

 母さんも納得いってないようだ。アンナ先輩が本気じゃないというわけじゃなく、アンナ先輩にとって柔道はあくまでルールのあるスポーツなんだろう。

 それでも衝動を発散させることはできるだろうけど、うーん。

「今のままじゃ足りんな。狸吉」

「僕無理だよ!?」

 あんな化け物同士の戦いに入れるもんか。

「お義母様?」

「……少しルールを変えるか」

「?」

 いや僕を見られても困る。柔道のルール自体知らないし。

253 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:49:21.22 ID:67K1aiTg0


「アンナ、お前は何をしてもいい。殺す気で来い」

「ちょ、母さん!?」

「何を、というのは、その、どこまでですの?」

「反則はない。目潰しも何でもありだ。本気で来い。こっちはそんな貴様を捕縛する。それでどうだ?」

「…………」

 奥間君、と小さく呼ばれたので、母さんに背を向け、囁きに耳を傾ける。

「……よろしいんですの?」

「えっと」

「……本当に殺しても、よろしくて?」

 これじゃ意味なくない?

「…………母さん、ルール変えた方が」

「もう決まっていることだ。貴様らに心配されるほど衰えてはおらん」

「……それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ」

 すでに血に飢えた猛獣の瞳になっていた。僕もう無理。


   *


「どちらかが参ったといった時点で勝敗は決する。では、はじめ!」

 アンナ先輩も母さんもいきなり動いたりはしなかった。互いに互いを見定めている。アンナ先輩は獲物の食べ応えを、母さんは捕縛対象の実力を。

 先ほどとは全く違う、アンナ先輩から漂う冷気のような殺気に、観客となった警官たちが唖然とした瞬間、アンナ先輩が動いた。

 自身の身長ほど高く飛び、母さんの頭をめがけて飛び膝蹴り。え、マジで殺す気? 母さんは当然のようにガードし、逆に足を持ち捕縛しようとするが何かの関節技の要領で抜けると、アンナ先輩は高さを利用して肘をみぞおちに入れようとする。

 アンナ先輩は嗤い、母さんは鬼のような形相となる。怖ええ!!

「でええい!!」

 くるりと母さんは旋回し避け、アンナ先輩の肘は床に突き刺さる。衝撃に床が揺れた。嘘だろ柔道場だぞここ!?

 アンナ先輩はバック宙の要領で距離を取ろうとするが母さんはあくまでも距離を詰める。母さんはというか、基本的に警官は自分から攻撃を仕掛けるのが(こういう次元の違う話でいうと)苦手なのだろう。まず攻撃を塞ごうとする癖がある。

 そしてアンナ先輩には、攻撃を塞ぐ壁を破壊する力と技を持っている。

「ふっ!」

 アンナ先輩の突きの威力に、いなしていた母さんの体勢が崩れた。好機とみてアンナ先輩のかかと落とし。ぎりぎりでかわしアンナ先輩の腕が母さんの腕に引っ掛かり、母さんが求めていたであろうインファイトにもつれ込んだ。


254 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:50:49.42 ID:67K1aiTg0


 普通の柔道ならここで一本なのだろうが、獣となったアンナ先輩は自分の不利をむしろ楽しそうに嗤いながら、

「!?」

 小さな口が大きく開かれ、首元に食らいつこうとする。急いで母さんが腹に蹴りを入れて距離を取り、一時の静寂が訪れた。

 プッと噛み千切った髪の毛を吐き出す。お腹に入った蹴りの痛みも今のアンナ先輩には命のやり取りのスパイスでしかないようで、血に飢えた獣の嗤みは消えない。

 静寂が消えるのは早かった。一瞬で今度は母さんの方から距離を詰めると、関節に決め込もうとする。もちろんアンナ先輩もそうはさせず、逆にへし折ってやろうと動いていく。

「悪く、思うな!!」

 プロレスでいうバックドロップというのか、柔道でいうと裏投げというのか、とにかくそんな感じの技でアンナ先輩を頭から投げる。おいこれ危ない技じゃないのか!? そこまで追い詰められたということなのだろう。

 アンナ先輩は頭を逆さにされたが、不吉な笑みは消えていなかった。

 両手を放し、逆立ちの状態になり、そのまま腕のばねを利用して跳ね上がり、両足を母さんの首に巻き付ける!

「ちっ……!」

 このままじゃ首をへし折られるのがわかりきっている。巻き付きが終わる前に母さんはアンナ先輩の足を力で強引に引き剥がす。一瞬動きが止まり、その間に母さんは脱出した。

 そして再び、両者距離を取っての睨み合い。

「さすがですわ、お義母様」

 はあはあと、さすがに息を切らしている、ように見えて単にアンナ先輩は衝動の解放への期待に酔いしれてるだけだ。多分この中で僕だけがわかっている。言葉も余裕と期待に溢れていた。

 母さんはふう、と一息。瞬発力と力のアンナ先輩に、持久力と技の母さん、といった感じだろうか。

 両者は普通のルールの時では互角だった。殺してもいいとまで言った何でもありのアンナ先輩と、あくまで捕縛目的の母さんとでは、アンナ先輩が有利すぎる。

「厄介すぎるな」

 あの《鋼鉄の鬼女》を以て『厄介』と言わしめるアンナ先輩を、それこそ化け物を見る目でみんな見ていた。おい、機動隊の人間もいるのにそんな目で見られるってアンナ先輩、どんだけだよ。まあ知ってたけど。



「ストップ、ストップ、ストップ!」



 この中に入っていくのは正直死ぬ思いだったけど、アンナ先輩はこのままだと母さんを本気で殺す気がしてきた。

「えっと、実力差を考えると、アンナ先輩に有利すぎるんじゃないかと思っ、たり、思わなか、ったり」

 母さんからの殺気がすげえ、なんだよ母さんのことを思って止めたのに。母さんにもプライドがあるだろうけどさあ! 

「奥間主任、私の目から見ても今のままのルールでは許可できない」

 審判役を務めてくれていた警官が僕の言葉に賛同してくれた。「ちっ」と舌打ちした後、どこかに去っていく。

「終わりですの?」

 アンナ先輩は物足りなさそうだ。だけどすぐに場をわきまえた。

「いえ、感謝しますわ。臨場感があって、つい我を忘れてしまう面もありましたの」

 多分、噛みつきのとこだろうな。あのあたりのビーストモード覚醒感は半端なかった。「君、警官に、いや機動隊に入らないか?」訓練が非常に厳しいことで有名な機動隊員にも、アンナ先輩なら軽々となれるだろうなあ。



「まだ終わっとらん」



 母さんが何やら棒を持って出てきた。警棒?

255 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:51:48.64 ID:67K1aiTg0


「お義母様、それは?」

「練習用の警棒だ。これでも当たれば痛いし、怪我をさせられるぞ」

「…………」

 お、奥間主任が警棒を解禁だと!?みたいな空気が流れている。なんだよその伝説の剣みたいな扱い。

「素手じゃちと分が悪い。剣道三倍段という、先ほどまでの私と思うな」

 アンナ先輩は獣の笑みに戻る。

「ふふふ……、ええ、わたくしはいくらでも受けて立ちますわ」

 審判役の警官は、もう止められないと思ったのか、諦めて審判に戻るようだった。

「だ、大丈夫なんですか?」

「アンナ、貴様は一度2、3本は骨を折っていてもよさそうだ」

「それはお義母様の教育であっても、嫌ですわね」

 誰だって嫌だよ!



「はじめ!」



 シュ、と警棒をアンナ先輩のみぞおちめがけて突く。短期戦に持ち込む気なのはわかった。

 当然のように避けると、アンナ先輩は母さんではなく警棒の方を手刀で攻撃する。「ちっ」どうやら狙ったところに当たらなかったらしく、小さく舌打ちが聞こえた。そのまま警棒の持つ手に膝を入れる。まず武器を手放させようとしていた。

「させるか!」

 アンナ先輩は警棒が直接身体に当たれば怪我は免れないと判断したらしく、大きく距離を取った。だけどそれ以上に速く母さんの追撃。だけど追撃は追い込みすぎた。アンナ先輩は紙一重でかわすと、わきで棒を挟み込み、先ほどとは逆にインファイトに持ち込もうとする。これだと警棒の間合いの有利がなくなる。

 簡単に警棒を動かせなかったらしく、一瞬母さんが硬直、その隙をアンナ先輩は見逃さず、頭突きを食らわす。目で見る以上の威力があったのか、母さんが倒れた。

 そのまま垂直に全体重を乗せた踵を入れようとする! 母さんは辛うじて避けたが鎖骨部分に踵が当たり、アンナ先輩は流れるようにそのまま関節を決める。

「勝負あり、ですわ」

 アンナ先輩の勝利宣言に、しかし母さんは屈しなかった。先ほどの噛みつきの意趣返しとでもいうように、足で掴んだ警棒を口で噛み、頭を振ってアンナ先輩の顎にぶつける!!

「ぐ!」

 思った以上の威力にアンナ先輩の関節から脱出できたようで、母さんは警棒を持ち直し体制を整え、アンナ先輩はゆらりと立ち上がる。

 アンナ先輩は嗤っていなかった。それでも僕にはわかる。獲物ではなく、敵を叩き潰す快感を思い出している顔だ。《雪原の青》にしたような。

 うずうずしているのがわかる。暴雪の気配を感じ取っているのか、柔道場全員の沈黙が痛い。

256 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:52:30.72 ID:67K1aiTg0


 わずかにアンナ先輩の唇が切れていて、血が流れている。舌で舐めとり、僅かにアンナ先輩が顰め面をする。

「もう少しで脳を揺さぶられるところでしたわ」

「自分で唇を噛んで意識を保ったのか」

 その執念に思わずぞっとする。

 さて勝負再開か、と全員が緊張した時。

「狸吉」

 母さんが僕をいきなり呼んで、びくうと震えた。

「あとは任せたぞ」

 え、何それ死亡フラグっぽいの。

「次で最後だ」

「…………」

 アンナ先輩は無言で距離を詰める。自分が怪我をするかなんて頭になさそうだった。いかに最小限に傷を押さえるかが目的で、警棒がかすっても動きに乱れはない。

 次元の違う攻防が繰り広げられる。どっちの動きも武道経験者でない僕にはもう視えなくなってた。

 母さんの回し蹴りと、アンナ先輩の回し蹴りがかち合う。そして母さんの警棒の突きを最小限でかわし、懐に入り、鳩尾にアンナ先輩の拳が入る!

「ぐっ!」

「が……っ!」

 アンナ先輩の背中に警棒が打たれる。うわっ、痛ったいあれ。だけど拳の威力も凄まじかったらしく、アンナ先輩と母さんは同時に倒れた。

「……参りました、ですわ」

「参った」 

 二人が同時に言って、試合ならぬ死合は終わった。

 審判役の人や他の人が怪我がないか診ていく。僕も慌てて二人のところに走った。

「大丈夫!? アンナ先輩も!!」

「お互い、一週間は痛むだろうな」

「ですわね」

 ……なんか友情っぽいのが芽生えてるけど、異次元の友情なんだろうなあ、これ。



    *


「アンナ先輩、唇切ってましたけど、大丈夫ですか?」

「柔道に不慣れな昔はよくあることでしたわ。お気になさらないで、奥間君。お義母様も」

 私服に着替え、傷を化粧で隠し、貞淑なお嬢様モードに戻ったアンナ先輩は、だけど見てわかるほどに楽しそうだった。

 それなりに衝動の発散に役に立ったみたいで、僕としてはいいんだけど、正直毎回こんなのだと精神が削れる。

「私も久しぶりに勉強ができた。満足だ」

 ……お互いが満足できたならそれはそれでいいけど。

(奥間君)

 こっそりと、囁く声には愛欲の欲情があった。

(今日は一晩中、楽しみたいですわ)

「…………」

 ……あちゃー、性衝動も刺激してしまったようだ。

 後片付けがあるという母さんを警察署に残して、僕らはアンナ先輩のマンションに向かった。

 参ったって言ったら止めてくれ……るわけがないよね、うん。

257 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:56:09.86 ID:67K1aiTg0

アクション書く練習をしています。いつも弱いなあと思っています。
ですがせっかく書いたので投下。狸吉母さんはアンナ先輩と比べるなら、持久力と技に優れていると勝手に思ってる。力は互角かな? そんなイメージです。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 17:12:31.76 ID:LyJcD27S0
アクション描写、出来てると思うけどな
本編だと

シュババババッ、何これ互角!?

みたいな感じだったしいいんじゃね
259 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:03:35.73 ID:67K1aiTg0


 1月2日



「あ、あ、アンナ先輩、そこ、そこは……!」

 今、僕はアンナ先輩に全裸にされ鎖で天吊りされ、つま先立ちにさせられながら羽箒で乳首を撫でられていた。

「ひ、は、ああ」

「ああ、その声。痛みに悶える声も好きですけれど、疼きに堪える声も素敵ですわ……!」

 アンナ先輩、どんどん効率よく、いかに僕を傷つけずに虐めるかの習得というか発想の方面が素晴らしく豊かで、今は主にこちょこちょ地獄がお好みのようだった。

 僕の愚息の裏筋からカリまでを、羽箒で撫でる。

「は、は、あ、アンナ先輩!」

「うふふふ……」

 正月といったら、もっと正月らしいイベントがあるんじゃないかなあ。母さんが僕のアパートに住むとそれはそれで厄介な問題が起こるので(母さんがいるのに寝込みを襲おうとしていた)このまま精液搾取されて終わるのかなあ。

「あ、そうそう」

 鎖を三つ分、下げてくれた。両足が床につく。だいぶ楽になった。

「綾女さんにお願いしていたのですけど、朱門温泉に行きません?」

「温泉ですか?」

 羽箒で僕を撫でるのは止めて、パンフレットを取り出す。

「月見草さんも経過は良好ですし、慰安旅行というのも悪くはないと思いますの。朱門温泉は傷にもいいそうですから」

「僕は……その……、かまわないんですけど」

 これはこれで頭が痛い問題が待っている。

「宿題が終わってなくて」

 ずっとこうやって鎖で天吊りされたりとかされてたからね。頭空っぽにもなるわ。

「わたくしが手伝いますわ」

「いやあ、その、……アンナ先輩、全裸で勉強させようとか考えてません?」

「だって、少しの間も愛し合いたいんですもの」

 当然のように考えてらっしゃった。テスト勉強の時、足コキされたからね、僕。アンナ先輩のマンションだともっと激しいことをされるに違いない。問題が解けるまで寸止め地獄とか。

 寸止めって、本当に地獄なんだよなあ。不健全イラストのせいで気持ちいいみたいに思ってる女性って多いみたいだけどさ。

「でもなんで急に温泉なんです?」

「奥間君はご存じないでしょうけど」

 《センチメンタル・ボマー》として朱門温泉にいたことになっているので、僕は朱門温泉に行ったことがないのである。なんじゃそりゃ。



260 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:04:03.46 ID:67K1aiTg0


「わたくし、夏休み、家出をしていて。綾女さんに協力してもらったんですのよ。お代はわたくしが出しますから、一緒に行きません?」

「えっと、月見草や華城先輩も一緒ってことですか?」

「ゆとりさんや鼓修理ちゃんも。早乙女先輩や不破さんにも招待は出しますわ。事件で迷惑をかけた皆さんに出す予定ですのよ」

 うわお、ほぼオールスター。

 不意に、アンナ先輩の表情が暗くなる。

「話を聞く気もないのに、両親が帰ってこい、転校させるとばかり言うものですから。わたくしも気分転換がしたいんですの」

「…………」

 そう言われると断れない。まあ断るつもりもなかったけど。

「いつからですか?」

「5、6、7、8日の三泊四日はどうでしょう?」

 登校日が休日のずれもあって10日だから、妥当なところか。

「部屋、空いてますかね?」

「空いているそうですわ。融通してくださったみたいで、綾女さんには頭が上がりませんわ」

 そう言えば、事件以来、ちゃんと華城先輩と話してない。





『遠距離恋愛も悪くないと思うわよ』

『それも考えたのですけど、わたくしは確かめたいことができまして』




『そのためには、《SOX》と接触しなければなりませんの』




 華城先輩とも《SOX》について話したいし、アンナ先輩も《SOX》について考えが変わった部分があるみたいだし、いろいろある。

 でもとりあえず、今は宿題が先かな。……寸止め地獄をアンナ先輩が思いつきませんように。


261 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:05:03.40 ID:67K1aiTg0
続き、少しずつ書いていきまーす

華城先輩の気持ちが色々と複雑なようです。アンナ先輩は立場が複雑すぎてもう何が何だか。
262 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:06:40.18 ID:67K1aiTg0
>>258

アクション描写、できてますか? ありがとうございます!
それでもやはり、私の苦手な部分ですね。精進します。
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 18:42:58.53 ID:tDU0Kf1QO
乙。ありがたや、ありがたや……
母ちゃん苦戦しまくってるけど、そりゃそうよね。
スペック云々だけでなく、アンナ先輩を『人間』として扱って戦闘したら、誰も勝てないと思う。
某チート吸血鬼漫画にもあったけど、『化け物』に、対人間用の兵士を送り込んだところで、あわれな肉塊を生産されるだけ。
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 19:19:59.31 ID:nap7XDlG0
乙です

喉元噛み付くとかヤク中のやることやで、義理の母にすることじゃないわ、いくら反則なしでも
まあ華城先輩に(パンツ目当てだけど)やってたし、やっぱベースが獣なんだな、性欲以外でも

温泉回か、楽しみにしてます
265 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 21:23:57.45 ID:67K1aiTg0


 鬼頭慶介は正月休みも返上して働いていた。

「うーん、どうしよっかなぁ」

 アンナ・錦ノ宮があれほどの爆弾持ちだったとは、さすがに見抜けなかった。後処理を貸しにこうして年末年始を返上している。

 爆弾を持っているとはいえ、それだけの価値がアンナ・錦ノ宮にはある、と慶介は踏んでいた。

 《鋼鉄の鬼女》にも負けないほどの身体能力に様々な才能、カリスマ性、何より爆弾――敵に対する冷徹さと残虐さが、彼女にはあった。

「アンナ・錦ノ宮の件でしょうか。……スマホ×ガラケー」

 《羅武マシーン》が問うてきた。慶介は後半の掛け算を無視して答える。

「錦ノ宮ご夫妻は今、大変だよ。僕どころじゃなくてね」

 森の妖精スタイルじゃない、高級スーツだった。

「でも何とかするだろうね。今までのアンナお嬢さんの評判がまずそうさせない。人っていうのはそういうもんだ」

「そうですね。ピザ×トマト」

「そんなお嬢さんがまさか狸小僧に惚れるなんて、よくわからないよなあ。ああめんどくさい。人の恋路に口を出すのは野暮だけど、今回は別だ」

「アンナお嬢さんが《SOX》に協力した場合の話でしょうか? 8×8」

「そ。純粋無垢だからこそ落としやすい。まああの狸小僧が意図的にするわけないけど、あの冷徹さと残虐さは放っておいたら身を滅ぼすよ。だけど、コントロールできれば?」

「鬼頭グループの力になる、と。O×T」

「そう、そのコントロールを狸小僧にやらせるのは非常に惜しい。《SOX》を抜きにしても勿体ないんだよ。だからと言って錦ノ宮ご夫妻にできるとは思わない。ああいうのはね、社会が作り上げた化け物っていうんだよ。社会そのものである錦ノ宮ご夫妻には到底理解できないだろうね」

 どこか自嘲気味になってしまった。らしくない。

「いっそのこと《SOX》をアンナお嬢さんが滅ぼしてくれれば楽になるんだけどね。《SOX》はやりすぎた。で、調べてくれた?」

「はい、奇妙なバイク事故が12月の頭にありました。クリスマス×節分」

「ほほう……」

 パラパラと事故の概要をめくる。概要自体は珍しくないものだ。だが、できすぎている、ともいえる。

「その日のアンナお嬢さんの行動を調べてみてくれる? 場合によっては使えるかもね?」

 《羅武マシーン》はただ頷いた。

 現状を見ると、《SOX》とアンナお嬢さんは今現在だけでも敵対しているが――《群れた布地》の件のように目的のためならば手を組むこともあるのがアンナお嬢さんの怖いところだ。

「悪いけど、アンナお嬢さんと狸小僧との仲をどうするかは、僕達が決めようか」


266 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 21:26:06.83 ID:67K1aiTg0
次回予告みたいな感じで、こんな感じになるかな、と。

アンナ先輩レベルの人だと、自由に恋愛できないようです。どうなることやら。
267 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 21:28:51.39 ID:67K1aiTg0


 <綾女「わ、私が好きなのは……」アンナ「好きなのは?」(殺気)>


 START!!
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 23:13:02.62 ID:dhd+ybvp0
SOXと華城先輩とアンナ先輩の立場と色々ピンチなたぬきちであった

今はアンナ先輩の残虐性が表に出てるけど、本当は優しいんだって言いたい。衝動をテーマにしてるのはわかるし、持て余してるのもわかるから、批判じゃなくてね
アンナ先輩は今卑猥についてどういう認識なんだろ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 07:28:55.71 ID:LOvGTmpSO
お義母様は今日いる者では相手にならんて言ってるが、今日いない者にアンナの相手が出来たんですかね…?
270 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 19:47:08.97 ID:Bu8fg99v0


 今、朱門温泉は色んなデモやテロの影響で客足が少なくなっているらしく、八人という団体客は大歓迎だった、なんて華城先輩はいうけど。

 正月休みでもこれほど少ないものなのか……? 夏の喧騒を知っているだけに寂しさを覚える。

「清門荘よ」

 生徒会モードなのでブスッとしているが、表情は明るかった。

 しかし何度見ても圧倒される。僕が入れるような場所じゃねえ。

 ちなみに招待した全員が来ていた。断る理由もないし高級旅館だし、何よりアンナ先輩の誘いを断るのは怖いし、といったところかな。こういう部分はアンナ先輩は寛容なはずなんだけど、どんどんアンナ先輩のイメージが壊れてるというか、僕自身把握できていないので何とも言えない。今の華城先輩が下ネタを言えないようにって、なんか親指を巻き付けた卑猥なグーをしていたのが見えて、華城先輩は変わらないなと安心した。

 宿に足を踏み入れると、ぴったりのタイミングで撫子さんが姿を現した。

「本日は遠いところお疲れ様です。お待ちしておりました。わたくし、この清門荘で女将を務めさせていただいております、華城撫子と申します」

 二度目でも慣れない丁寧な挨拶に、「本日から四日間、お願いいたしますわ」と従業員に失礼のない丁寧な態度で挨拶をするアンナ先輩は、さすがの風格だった。

「これからどうするのじゃ?」

 どうやらコンクールとか、今回はそういう縛りのない早乙女先輩は無邪気に聞く。

「自由行動でよいのでは?」

「お前、協調性ねえぜ……」

 不破さんのマイペースな言葉に呆れるゆとり。ちなみに不破さんはぺスをペットホテルに預けてきたそうで、そのペットホテル代もアンナ先輩持ちだった。

(今回は何か混浴とか修行とかないですよね?)

(アンナがいるのよ、無理に決まってるでしょう)

 ひそひそと華城先輩と相談する。不破さんも一般人枠だしな。一応。

「今日は移動で疲れましたでしょう。お湯をいただいて、それからご飯を食べて、談笑というのはいかがでしょう?」

「鼓修理はそれでいいっス」

 鼓修理にしては言葉少なに(アンナ先輩がいるからね)賛同する。誰も反対しなかった。

「では、菊の間、華輪の間、百合の間、薔薇の間にご案内いたします。どうぞこちらへ」

 撫子さんの女将モードに、しかし拭えない違和感を感じる。元ヤンの方の顔に慣れてるからかな。

 菊の間は僕と月見草、華輪の間は華城先輩とアンナ先輩、百合の間は早乙女先輩に不破さんと、薔薇の間はゆとりと鼓修理。うん、妥当だろう。

 それぞれが移動して、お風呂に入ることにする。前は露天風呂だったけど、今回もそれだといいな。なんかいろいろありすぎて、疲れてるし。




271 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 19:47:41.39 ID:Bu8fg99v0


「うーん、さすがに露天風呂は無理か」

 普通の大浴場だったが、ちゃんと効能のある温泉らしく、ちょっと熱めの温度が身に染みわたる。

「ふいー、月見草、お前大丈夫か?」

「何がでしょう?」

「傷とかさ。ちょっと熱いぞ、ここ」

 月見草が手でお湯を触って確かめる。

「問題ありません、入ります」

「待て、お前もしかして、温泉のマナー知らないのか? 入る前にかけ湯をするとか、タオルをお湯につけないとか、泳いじゃいけないとか」

 一通り教え、シャンプーにする。月見草のやつ、長髪だからかリンスなんて持ってきてる。

「それ、お前が選んだの?」

「シャンプーとコンディショナーは、アンナ様にいただいたものを使っております。私は石鹸で十分だと言ったのですが、『勿体ない』と仰られ」

 リンスじゃなかったらしい。女性の感性だな。そういえば銘柄がアンナ先輩のマンションにあるやつと同じだ。男のくせに贅沢なと思う反面、アンナ先輩の月見草に対する態度が見えて、なんだかほっとする。

「月見草、大丈夫か?」

「傷に問題はありません」

「じゃなくて……その、アンナ先輩のこと」

 月見草は目の前でアンナ先輩を守れなかった。

 その事を月見草はどう思っているのだろう。

「祠影様は私に死ぬように命じられたのですが、それをどうしても受け入れられないでいると、アンナ様が今日、ここに連れてきてくださいました」

「そんな命令!? 聞かなくていいぞ、月見草!!」

「……祠影様の命令が、至上命令ですので」

 本当は違うだろうに。でも今オーバーヒートを起こさせて、傷に障ったら良くないしな。

「しかしまあ、なんだ」

 アンナ先輩の家は、予想以上にねじ曲がっているのかもしれない。金玉がねじ曲がったら直してもらわないと困るように、今、修復の時期なのかもしれない。

 そうは言っても、不安は拭えなかった。きっと僕一人じゃ、ダメなんだ。

272 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 19:48:44.31 ID:Bu8fg99v0


「視線が胸部に向いているのは何故ですか?」

「よかったっスね、ゆとり。不破氷菓はゆとりよりっス」

「てめえ余計なお世話だぜ!!」

「ほほう、眼福眼福」

「化け物は……化け物級っスね」

「化け物女だからもう何を見ても怖れがましいぜ」

「? なにか?」

「いえ! 綺麗な体をしてるなって!」

「ありがとうございますですわ」

 化け物女はさすがのプロポーションだった。肌にも傷やシミ一つない。なんでだ。どこかに弱点があれ。

 そんなゆとりの呪いとは別に、全員でシャンプーとコンディショナーをした後、ゆっくりと湯船につかる。

「はあ、気持ちいいですわね」

「明るいうちからのお風呂は格別よね」

 綾女は言葉が少ない。体調が悪いのか、下ネタが言えなくて不満があるのか、よくわからない。

「ところでアンナ会長、今日は奥間さんと繁殖活動はしないのですか?」

「ぶほぉ!?」

「もう、不破さんったら。愛の儀式はそうそう簡単なものじゃありませんのよ?」

 今は頼むから、ビーストモードになりそうな言葉は言わないでくれ……! 幸い、化け物女は不破の戯言はスルーしてくれたようだ。

「ふむ、残念じゃの」

 バシャン、と画家の頭を温泉にロックオンしておく。

「あ〜きもちがいいぜ〜!」

「今日は用事がありまして。奥間君と愛し合うことができそうにないんですの」

「用事? こんなところで?」

 綾女は探りを入れるが、

「心配なさらずとも、大丈夫ですわ」

 化け物女は聖女の笑みを浮かべて、何も言わなかった。


 *


 川魚と山菜を主催にした豪華な料理を堪能した後、アンナ先輩と月見草はどこかに行ってしまった。不破さんはフィールドワークとやらに出かけたようだ。

「…………なーんか、嫌な予感がするっス」

「そうね。私もこう、第六感が膣痙攣並に響いているわ」

 やっと下ネタイマーの時間がやってきたのか、意気揚々と話し出す。

「というわけで狸吉と私がアンナ達を尾行してくるわ。鼓修理も来る? カモン、カモン!」

「鼓修理もいくっス!」

「人数多すぎても尾行はしにくいだろうから、あたしはパスしとくぜ」

「何かあるなら、撫子さんに聞いた方が早くないですか?」

「撫子が話さないのなら、知らないか、知っていてすっとぼけているかよ。必要なら教えてくれるわ。さて、アンナ達がイッちゃうわよ! 急いで急いで」

 僕が行かないとダメなのかなと思ったけど、僕の気配察知能力がないとアンナ先輩見失っちゃうしな。月見草が怪我人だからあんまり無理はしないだろうけど。

 確かに何か、嫌な予感はしていたのだけど、まさかこんなことだなんて思わなかった。


273 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 20:16:43.09 ID:Bu8fg99v0


 アンナ先輩は森の中を散策しているように見えた。一月ということもあって、本来は適した気温じゃない。もう月も出ているのもあって、湯冷めしていくのがわかる。

「お部屋で待っていてもよかったんですのよ?」

「アンナ様のお傍を離れぬよう、ご命令を承っておりますので」

「……そうでしたわね」

 声がかすかに聞こえてくるぐらいの距離を保っていた。森の中は静かだ。



 すると、森の妖精が現れた。



(うげろげろげろげろ)

(ちょ、しっかりしなさい、鼓修理! 大変、息してないわ! 狸吉、人工呼吸!)

(やらせるかっス!!)

(痛い!?)

 鼓修理の頭突き浣腸を食らってもだえる僕をよそに、場の空気は真剣なものになる。



「こうやって、お父様と密談していたのですか?」

「いやあ、もう少し温かいところがいいけどね。この格好じゃ入れるところが少なくてね」


 ならやめるっス!という娘の憤りを無視して、会談は進む。


「この度は、わたくしの処遇に関して、父と母と協力していただき、誠に感謝いたしますわ」

「将来、娘と仲良くしてね」

「はい、もちろんですわ」


 いつの間に娘の将来の切り売りを!と鼓修理がわめきそうになるが、将来を切り売りしてまで皆を助けようとしたアンナ先輩を見ているだけに、僕からは何も言えない。

「それで、お願いというのは?」

「簡単だよ」



「《SOX》を潰してほしい。徹底的にだ」



 僕たちの方がシン、としたところで、アンナ先輩はクスリと笑う。

274 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 20:17:13.92 ID:Bu8fg99v0


「わたくしにそんな力は」

「あのテロリストを鎮圧したんだ。僕はその中身を知っているんだよ? 今更取り繕うこともないさ」

「わたくしは頼まれなくても無傷捕縛を目指して、日々精進しているつもりですわ」

「無傷捕縛じゃ、足りないんだ。支持者が、影響力が大きくなりすぎている。それは僕らにとっても、祠影さんとも利害が一致しない。不安なら聞いてみるといい」

「……徹底的に、というのは? それになぜ、ご自身の力ではなく、こんな小娘に頼るのです?」

「君が思う“徹底的”で構わない。後者の質問は、組織が組織を潰すと厄介なことになるんだ。利害が絡むからね。でもお嬢さん個人に、《SOX》に絡む利害はないだろう?」

「利害は、ありませんわね。無傷捕縛の願いは、あくまでも信条の問題ですわ」

「あのテロリストにしたことを考えると、君が心から無傷捕縛を望んでいるとは、思えないけどね。君は敵を叩き潰す快感を知っている。そのやり方も知っている。ならなぜやらないんだい?」

「……もし、断れば?」

「君の恋人の結婚の後押しができなくなるね」

「……少し、考えさせてくださいまし」

「うん。あ、これ、PMの番号。君みたいなお嬢さんならいつでも大歓迎だよ」

「…………」


 身体が冷め切っていたのは、湯冷めだけのせいではなかった。

 アンナ先輩が、組織の思惑に巻き込まれつつある。

(華城先輩)

(戻るわよ。それとなく話を聞いてみないと)

 華城先輩も、真剣だった。

 その真剣さの理由が、僕と微妙にずれていることには、気付かなかった。


275 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 20:18:21.00 ID:Bu8fg99v0

少し短いですけど、今日の分の更新おしまいです。
はてさて、どうなることやら、です
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 20:31:42.84 ID:GYz5FcLD0
なんかアンナ先輩が殺し屋の請負人みたいになってる
277 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:52:33.00 ID:q130nAiu0


「アンナ、お帰り」

「ただいまですわ、皆さんはトランプを?」

「アンナ先輩もどうです?」

「わたくしは湯冷めしてしまったので、もう一度温泉に浸かろうかと思いますの」

「あ、じゃあ私も入りに行こうかな」

「綾女さんも? ええ、次は別のお風呂にしたいですわね」

 自然と役割分担が決まり、トランプをしていたふりを止め、華城先輩はアンナ先輩とともに先ほどとは別の大浴場に行った。

「月見草、悪いけどお前はアンナ先輩たちが戻るまでお土産を見てきてくれるか?」

「かしこまりました」

 文字通り、見てくるだけなんだろうな、コイツ。これでも自分の意思が見え始めた方なんだけどな。

「早乙女先輩、ちょっと……、あれ、不破さんは?」

「大浴場行ったぞー、ウォー、ホホ、インスピレーションが湧きまくる!!」

「すみません、絵は描きながらでいいんで話聞いてくれますか?」



 ――――……、



「わしは《SOX》を抜けるぞ、奥間」

「結論早っ!?」

「あ、あの化け物女に……お前の父親はあの化け物女の怖さを知らなさすぎなんだぜ?」

「鼓修理が一番それを言いたいっス! こういう時だけ着信拒否しやがって、あのクソ親父……!」

「でもさ、鼓修理がいるのに、アンナ先輩に『徹底的に』なんて言うかな? アンナ先輩がやってることを知ってるんだよ、森の妖精は」

「ぐふっはあー!!!」

「しっかりしろだぜ、お前しかあの腹黒親父の思考をたどれる奴はいねえんだぜ!」

「ぐふ、ふう……」

 ようやく鼓修理が落ち着き、まともな会話になる……といいな。

「……あの化け物を鬼頭グループに取り入れたいんじゃないっスかね」

「取り入れる?」

 まああれだけの才能に血統を持った人なら、誰でも欲しがるだろうな。アンナ先輩にできないこと、いまだに知らないし。

「《SOX》が綾女様に狸吉が関わっていたと知ったら、ただでさえ不安定なあの化け物は、きっと何を信じればいいか更にわからなくなるっスからね。そこに付け込む気っスよ、きっと」

「お前のおやじ、相変わらずえげつねーぜ」

「今のアンナの気持ちはどうなのかの?」

「わかんないんですよね……、話してくれなくて」

 というか、酷く話しにくいというか、その話題になろうとすると酷く哀し気で儚くなってしまう。何も言えなくなってしまう。

「狸吉が腰砕けなだけっス、いつもこってり搾られてるだけっスか?」

「はいはい、森の妖精森の妖精」

「ぐはあ!?」

「まあ、綾女の方がいいのかもしれねえけどだぜ? ……はあ」

「ああもうどいつもこいつもめんどくさい奴らっス!」

「なんだよ」

 妙にゆとりがアンニュイになって、ゆとりがいらいらし始めた。そして現実逃避か何か、早乙女先輩は絵を描き始める。

 ま、いつもの光景だよな、これ。

278 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:53:14.82 ID:q130nAiu0


「こちらはぬるいんですのね。長湯にいいですわね」

「そうね、血行にいいらしいわ」

 シャンプーとトリートメントは先ほどしたので、かけ湯をして直接湯船につかる。

「わ!? マッ、えっと、不破氷菓、どうしたの?」

「温泉に来て温泉に入ってはいけませんか?」

 ラブホに来てセックスをしてはいけませんかレベルの当たり前だと言いたげな無表情に、なんというかマイペースを通り越して心臓に陰毛が生えているレベルだと思う。

 と思っていたら、不破氷菓がくしゅん、と何度か連続でくしゃみをした。頭の中がびくびくんしちゃったのかしら?

「少し外に出すぎていたみたいです」

「まあ、風邪を引いたら大変ですわ」

「撫子……、女将に葛根湯用意させるわ」

 PMでメールを送る。すぐ用意すると返ってきた。

「よろしいのですか?」

「ええ、あなたにはお世話になったし」

「ええ、綾女さんに限らず、わたくしにできることがあれば、仰ってくださいまし」

「では、訊いてもいいですか?」

「? どうぞ」

「先ほど、珍妙な格好をした男性と何やら話していましたが、何を話していたのですか?」

279 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:53:42.56 ID:q130nAiu0


 辛うじて、息が止まる程度で済んだ。不破氷菓には衣装の奇妙な男としてしか認識できなかったらしい。

「うーん、そうですわね」

 ちょっとだけ困惑を混じらせた微笑を浮かべて、アンナは生徒会長モードの聖女の笑みを浮かべると、

「……少し、説明が難しいのですけど。それでも聞きたいのですか?」

「あの珍妙な男性がどんな人物かは興味があります」

 大浴場は自分たち三人しかいない。しばらく静寂があった。

「鼓修理ちゃんのお父さんですわ。わたくしの両親と同じぐらいの地位を持つ、立派な方だと伺っています」

「……あの森の妖精が」

「恰好は関係ないと思いますわ。実際に、わたくし共に協力していただきましたし……」

「そんな人が、両親を通さずアンナ会長と?」

 自分の代わりにずばずば聞いてくる。不破氷菓の棺にはたくさんのBL本を入れてあげよう。

「色々と、都合がありましたの。向こうにも、こちらにも」

「…………」

 しばらくアンナは黙っていた。表情は愁いを帯びていて、早乙女先輩ではないけど非常に絵になる光景だった。

「綾女さんには言ってませんでしたわね。わたくし、今回、たくさんの罪を犯しましたのよ。……いいえ、それ以前から」

 善導課である奥間君のお義母様に教えていただきましたの、と小さく呟いた。

「この衝動が、愛が罪というのであれば、わたくしが今まで信じてきたものは何だったのでしょう?」

 見た目は落ち着いている。だけど不安定で、危うい。 

「《SOX》に会えば、答えがわかるかもしれませんわ」

「どうして、そこで《SOX》の名前が?」

 やっと綾女が口を挟めた。前も《SOX》に会わなければならないと言っていた。動機次第では、《SOX》は崩壊する。

「……《こうのとりインフルエンザ》の心配は、必要ないと、わたくしのお母様も奥間君のお義母様も言いますの。だから、おそらく一番卑猥の知識を持っている《SOX》に会って、確かめてみたいんですの。

 ――わたくしのやってきたことは、罪なのかどうかを」



「……そこで罪だと言われて、アンナは納得するの?」



「……そう、そうですわね。でもいずれ……近いうちに、《SOX》とは会わないといけないのですわ」

 微苦笑を浮かべるアンナに、自分も不破氷菓も何も言えない。

 その微苦笑は、どこか助けを求めるような、子供が泣きたいのを押し殺しているような、そんな危うさが、どうしてもあって。

 近いうちに《SOX》として会おうと思うには、充分だった。

280 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:55:17.06 ID:q130nAiu0

華城先輩パートだとどうしても下ネタをうまく挟めない……あれは赤城先生の才能だわ……
281 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 21:50:45.25 ID:q130nAiu0

 アンナ先輩や不破さん、月見草が寝静まったのを見て、僕、華城先輩、早乙女先輩に鼓修理にゆとりと撫子さんとで男女混交風呂で会議をすることになった。

「「「「…………」」」」

 女性陣は撫子さん以外が端っこによって、僕も逆の端っこに寄っている。早乙女先輩はさほど気にしてなさそうだったけど。

「《SOX》として、《雪原の青》としてアンナに会うんだな?」

「撫子、なんで混浴が会議室みたいになってるの!?」

 混浴をPM無効化して、撫子さんに突っかかる。最初ぎゃあぎゃあ言ってたけど(これが大変だった)まだ女性陣は納得してないらしい。納得してないと言えば僕もなんだけど、僕はお風呂でもどこでもアンナ先輩がいるから、ハハ……。ちなみに僕は後ろを向こうとしたけど、撫子さんによって無理矢理女性陣の方に身体を向けさせられている。

「そうね、まあこっちの意思に関係なくアンナなら私達を見つけ出すでしょうけど」

「正直パパの狙いもわかんないっス。まだ情報を集めてからの方がよくないっスか?」

「あ、あたしは鼓修理に賛成だぜ……ってこっち向くなぁああ!!」

 カポン、と風呂桶を投げつけられる。理不尽。

「僕、《センチメンタル・ボマー》として出た方が……」

「アンナを刺激するような真似はさせたくないのよ。ただでさえ、アンナの本心が、アンナ自身にすらわからないのに」

「…………」

 なんか僕、《SOX》としては全く役に立っていない気がする。アンナ先輩相手だから仕方ないのかもしれないけど、なんというか、意図的に外されているというか。アンナ先輩が寸止めするみたいに、気持ちいいところをわざとさあ、あれきっついんだよな。

「もし、パパの依頼を受けたらどうするんっスか?」

「……だからこそ、《雪原の青》一人でアンナと会うのよ」

「それは嫌っス!」

 バシャアと立ち上がり、「こっち見んなっス!!」風呂桶第二弾がやってくる。お湯が入っていやがった、重いし痛え!!

「それで前大怪我したじゃないっスか!! もう鼓修理、そんなのは嫌っスよ!!」

「あたしも同じ意見だぜ、《雪原の青》。どうせ化け物が本気になったら全員殺られるに決まってんだ、なら全員で向かうほうが潔いってもんだぜ」

「じゃあ僕も!」

「狸吉はダメ」「お前は来るなっス」「画家と一緒に留守番だぜ」

 やっぱり仲間外れされてない?

「はあ、ダメだね、こりゃ。本っ当、ダメダメだ」

 撫子さんの呆れ声に、僕は頷くしかなかった。

282 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 21:51:18.64 ID:q130nAiu0


 ――眠れない。

 ふ、と隣を見てみると、親友である綾女がいなかった。今は四時とある。どこにいったのだろう。

 PMのメールに、『鬼頭慶介』とあった。そこには簡単に、地図と日時の指定だけ。

「《SOX》……」

 

『……そこで罪だと言われて、アンナは納得するの?』



「できないに決まっていますわ」

 この愛を、衝動を、罪と断じられたとして、それからどうする?

 あの愛の試練を乗り越えたとき、痛みを乗り越えたとき、そのあとの幸福が訪れたとき、自分は思った。

 この愛を否定するなら、世界の方が間違っている、と。 

 その時の激情は、いまだに覚えている。思い出すだけで、愛の蜜が溢れてきた。

「奥間君……わたくしが唯一信じられるのは、あなたへの愛だけですわ」

 だけど同時に、敵を、人間を壊す快感も知ってしまった。いくらでもやり方が思い浮かぶ。その衝動も、自分の中に確実にある。

 受け止めてくれる、愛しい人はそう言った。だからせめて、律したい。自分を、衝動を、そして立派な人間になって、みんなからの祝福を得たい。

 愛だけは絶対で、アンナの中には今はもう、それしかない。



 だけど、壊してもいい玩具が与えられたら、無垢な子供はどうする?



 くちゅ……くちゅ……



 それ以上考えたくなくて、今、愛しい人のもとに向かったらすべてを壊してしまいそうで、自分で自分を慰めるけど、圧倒的になりない。

 胸部の先端をつまみ、愛の蜜が溢れる場所を弄ったところで、そんなものでは全然足りない。

 ――明日、午後2時。

 自分の中で答えを出さなければならない時が、嫌でも近づいてくる。

283 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 21:53:08.08 ID:q130nAiu0
アンナ先輩も悩むあたりは成長したと言えなくもない(多分)
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/11(金) 22:47:46.56 ID:chctOZB80
乙、アンナ先輩は能力と精神の差が激し過ぎるからな

人質に行く前は安定して見えたけど、こんなに簡単に揺らぐんだな、やっぱ
285 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 23:54:54.14 ID:q130nAiu0


 昨日、化け物が慶介と会っていた場所とは違う、より鬱蒼とした森の中にいた。 

 多少の睡眠不足気味だが、今から起こりうることを考えると気を引き締めないわけにはいかない。

「パパ経由でメール送ったっス。確実に来るっスよ」

 パンツを被って緊張過多なのは鼓修理だった。震えは寒気のせいじゃないだろう。

「昨日はお前にしては、殊勝なこと言ってたぜ」

「……あの化け物は、心まで化け物になったんス。綾女様と意見が違ってても、鼓修理はこの意見に変わりないっス」

 あのテロリストのリーダーにしたことを考えたら当然だろうと思う。

「いいんスか、狸吉をあの化け物のところに置いといて」

「手段が思い浮かばねえし、《雪原の青》も『恋愛は自由』で言うこと聞かねえんだぜ」

 肝心の《雪原の青》は自分と鼓修理の会話も聞こえているだろうに、黙っている。

「あんなの、恋愛じゃねえのに」

「しっ。来たわよ」

 ――銀の影が、森の中に姿を現した。



「あら、今日は三人ですの? 《センチメンタル・ボマー》はいらっしゃらないんですのね」



 声には聖女の余裕だけがあった。性に、破壊に飢えた獣ではない、何も知らなければ人に安心しか与えないであろう声音。

「思ったより早く再会できて、わたくし嬉しいですわ」

「こっちは再会したくなかったわ」

 牽制か、吐き捨てるように《雪原の青》が答える。


286 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 23:55:25.33 ID:q130nAiu0


「…………」

「どうしたの?」

「わたくし、困っていますの」

 あくまで鈴の鳴るような、この一月という寒い季節でも目を楽しませる粉雪のように軽やかな声で以て。




「今ここで皆さんを潰すべきか、それとも少し先延ばしにするべきか」




 ――暴雪の殺気に、身体が凍える。《雪原の青》はそれを無視して続ける。

「先延ばしにする方法ならわかっているわ」

「あら? なんですの?」

「アンナ会長、あなた、性知識が欲しいのでしょう?」

「…………」

 《雪原の青》は厳重に密閉された袋を投げた。

「《安心確実妊娠セット》よ。私達が配っているもの……知っているでしょう?」

「何故、私が性知識を欲しているだなんて思うんですの? 《こうのとりインフルエンザ》に罹るかもしれないのに」

「善導課の《鋼鉄の鬼女》にあなたの母親、ソフィア・錦ノ宮はそう思ってないみたいよ? 何が正しいか、知りたいのでしょう?」

「……少し、確認の時間を」

 そういうと、袋を拾い、中身を確認していく。本当に確認しているのかというスピードで冊子をめくっていたが、「そうですの」と納得したようだった。

「……これを見る限り、母は正しいことをしているのですね」 

「そうね。何せソフィア・錦ノ宮に不健全雑誌を提供したのは私達だもの」

 初めてここで、《雪原の青》が視線を逸らした。提供の話は一番《雪原の青》が反対していた経緯があるからだろうか。とにかく化け物女はその意味には気付かずに、言葉の応酬は続く。





「じゃあ、わたくしの愛は……卑猥という、悪でしたの?」





 《雪原の青》は初めてここで口を閉ざした。

287 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/12(土) 00:01:26.29 ID:BHl92OUE0
義母や母親の言葉を信じないで《SOX》の言葉を信じるのか?という疑問が起こりそうなので説明すると、

どの意見も信じたくなくて、信じられない状態にあるのです。ちなみにソフィアは感情的に否定するので、アンナは信用できなくなっているようです。だめだこりゃ。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2020/09/12(土) 01:33:47.59 ID:d9m/jyGd0
アンナ先輩の『徹底的に』は組織の人間皆殺しじゃすまなさそう
289 : ◆86inwKqtElvs [sage]:2020/09/12(土) 13:51:32.37 ID:BHl92OUE0
ちょっと、1週間ほど仕事が忙しいので、しばらく書き込めないかもです。
なにかあってもなくても遠慮なく書き込んでください!
290 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/12(土) 20:44:57.88 ID:BHl92OUE0


 《雪原の青》は初めてここで口を閉ざした。



「……何故、私に訊くのかしら?」

「卑猥の知識の流布が《SOX》の目的なんでしょう?」

「…………」

「もし、あの時点でわたくしが妊娠していたら……、奥間君は……、」

「…………」

「祝福を受けなかった……、誰からも、きっと」

 《雪原の青》は無言のまま、化け物女の話を聞いている。




「何故、絶対に正しいはずの愛が、祝福してもらえないのでしょう?」




「あんたが、間違ってたからだぜ」

 狸吉の気持ちをまるで無視している化け物女の言葉に、我慢ならなくなった。

「ちょっと……!」

「間違っていた……? 愛が? あの、衝動が?」

「相手の気持ちを無視して話を聞かないからそうなるんだぜ。あんた、今まで恋人とやらの言葉を聞いたことがあるのか?」

「奥間君はわたくしの愛を受け入れてくれましたわ!!」

 暴雪とは違う、じっとりとした熱気を帯びた、欲情にも似た殺気に動けなくなる。

「奥間君はわたくしを受け止めてくれましたの!! あの幸福も安心感も、すべては奥間君がいるからこそですわ!! もし、もしも」

 化け物女は、とうとう言ってしまう。




「この愛が間違いだというのなら、世界の方が間違っているのですわ!!」




 はあはあと、一言にすべてを込めた化け物女は、それだけで疲れ切っていた。

「だったら、どうするの?」

 恐怖で動けなくなった自分に代わり、《雪原の青》は無機質に、呟くように。もう声が届かないことをわかりきったような、諦めを含んだ声音で。

「うふ、ふふふひっ」

 獣の狂気を混じらせた、不吉な笑みを漏らすと、「お願いがありますの」と化け物女は、言った。




「あなた方《SOX》も、世界と戦う者。なら――

 ――わたくしを、《SOX》に入れてくださいまし」




 化け物女の目からは、何も読み取ることができなかった。

291 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/12(土) 20:45:34.99 ID:BHl92OUE0
ではしばらくよろしくお願いします。ここまでは書きたかった……!
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/12(土) 21:24:25.20 ID:MDHpuM+j0

話が急転したな
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/13(日) 15:02:29.82 ID:+hOzOpuLO
おつ、待ってます。
そして間違ってるのは自分ではなく世界の方か……
この世界の日本は世界から見て完全に間違ってるが、アンナ先輩の行動は日本から見ても世界から見ても間違ってるんだよね……

だれか両さんを呼んできてくれ。親も教師も見放したアンナ先輩を殴れるのはあの男だけだ
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/13(日) 23:21:35.36 ID:VVTicaHJ0
アンナ先輩に必要なのって殴られることじゃなくないかい?
とにかくひとりじゃないってことに気付くことだと思う。アンナ先輩、このSSだとまだ孤独だから
295 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/14(月) 21:07:16.07 ID:OWnZRGGH0
アニーとか、6、7巻以降に出てきたキャラを出すか迷ってるなう、アニー出せばPM無効化が色々あるのですが……

今の時点で3月以降の時間軸も書く事になりそうな予感がします。アニーや藻女さんとか出せないよキャラ多すぎやでって事で、アンナ先輩に搾る、間違えた絞る気でいます。アニーや藻女ファンいたらごめんね
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/14(月) 21:31:01.33 ID:1nUQaWC10
>>1に文句言ったら罰当たりだ、ifものとして楽しみにしてたよ。アニメ当時いたよ、2章は読めてなかったけど、再開してくれて嬉しい、やっとここまで読めた
ただ、今は原作だとどのへんだっけ? そういうのがあったら教えて
297 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/14(月) 21:50:18.87 ID:OWnZRGGH0
うわ、のんびりしてたら返信が来てびっくりしてました。当時の読者もやっぱりいらっしゃるんですね、あの時はすみません。
7巻が12中旬からクリスマスイブで、8巻が1月末〜2/14のバレンタインですね。(今確認した)

ここのSSの時系列的には、アンナ先輩の破瓜が12月上旬(6巻エンディング前、《SOX》分裂騒ぎ直前あたり)、
病院ジャックが12月中旬後半、温泉旅行(今書いてるとこ)が1月の5、6、7、8日となってます。今は6日です。

あんまり明確には考えてはいないのですが、多分だけど温泉旅行が終わったら一気に日にちが飛ぶ気がしてます。3月とか。はい。そんな感じですかね。
298 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 00:23:22.23 ID:mkdjd76E0


(あぶうぇえええなんでなんでなんっで!?)

 こっそり尾行していた僕もそうだけど、アンナ先輩の発言には全員絶句しかなかった。

 ただ《雪原の青》が、無感情な声のままだ。

「どういう了見?」

「言ったとおりですわ。わたくしは、自分と世界、どちらを変えるかを考えて、世界を変える方を選びましたの」

「……アンナ会長と私達の考えがあっているとはとても思えないわ」

「そうですわね。わたくしも、あなた方の立場なら困惑することでしょう。ずっと敵同士だったのですから。ただ、目標は違っても、目的は同じだと思いませんこと?」

「なら手は組めると言いたいわけ? どうだか。あなたにはさんざん辛酸を舐めさせられたわ。……とは言ってもね」

 《雪原の青》はそこで睨みつけるようにアンナ先輩を見た。

「ここで断れば、あなた、今ここで私たちを捕縛するつもりでしょう?」

「そう考えるのが、普通ですわね。ですが今日は捕縛しませんわ。今日はわたくしのために時間を取っていただいたのですし、そのような品性を欠く行為はしたくないものですから」

「けど、引き下がる気もない、そうよね?」

「そうですわね。《SOX》に入れなければ……、わたくしが一から組織を作り上げるしかありませんわね」

 父親の入れ知恵があったとはいえ、風紀委員の実績もあるアンナ先輩には十分可能だろう。

 いや、絶対にする。能力云々じゃなく、アンナ先輩の執念がそうさせる。

「同じような理念を持った組織がいくつもあるという状況は、ただ戦力を分散させるだけ……そうですわね。一年。一年で、《SOX》と同じ規模と練度の組織を作り上げてみせますわ」

 アンナ先輩は獣の笑みを崩さない。

「想像してみてくださいまし。同じ規模と練度の組織が、ただ潰しあう消耗戦を」

「な、何の得があるんだぜ、そんなの……」

 ゆとりの思わず出たという感じの言葉に、しまったと慌てて口を閉じるも、勿論アンナ先輩には聞こえている。

「重要なのは、その後ですわ。変革には破壊から、基本ですわよ?」

「……潰し合いの後の混乱を狙うっていうの?」

「ええ。ぶつけ合い、潰し合い、それぞれの組織が疲弊したところを合併させる。そうすれば、今の《SOX》よりも、さらに巨大な組織が出来上がりますわ」

 今までのアンナ先輩にはない思想だった。元々アンナ先輩の中で、組織そのものを動かす意思が薄かったからだろう。生徒会長なんて、皆の支持があっても基本が学校の雑用だしな。

「《雪原の青》」 

「何?」

「ここで確実に敵になる分子を放っておくんですの? それよりも、わたくしを仲間にしてみません?」

299 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 00:23:50.15 ID:mkdjd76E0


「騙されちゃダメッス! あいつ、隙あらば《SOX》を乗っ取るつもりでいるっスよ!!」

 鼓修理が叫ぶ。そっか、アンナ先輩の狙いはそこにあるのか。勢いに負けてて気づかなかった。さすが《SOX》随一の腹黒女子だ。

「いやですわ、どうもわたくしの思考はわかりやすいようで。困りましたわね」

 獣の笑みは消えない。だけど、これが最後通牒なのは、暴雪の気配からわかる。

「《SOX》の影響力を考えると、潰し合いよりはすでに出来ている組織を広げていく方が手がかからない、そう判断しただけですわ……《センチメンタル・ボマー》そこにいますわよね?」

 三人が驚く気配があった。く、風下にいたはずがいつの間にか風の向きが変わってアンナ先輩の嗅覚に僕の臭いが届いていたらしい。

 パンツを被って、草藪の中から立ち上がる。

「わたくしを仲間にしてくれるのでしたら、あなたも含めて全員、命を狙うことだけは致しませんわ。きっと、奥間君も許してくださるでしょうし」

 こくんこくんこくんと頷く。アンナ先輩を仲間に入れると命の危険性がなくなるのは正直助かる。アンナ先輩のことだ。実は裏で善導課に僕達を売るとか、そういうやり方ではなく、真っ向から乗っ取るだろう。

「まあ、時間は必要ですわね。明後日わたくしどもは第一清麗指定都市に帰る予定なので、そうですわね。明後日の午前中には返答をいただきたいですわ」

「無茶にもほどがあるぜ! あんたが今まであたしらにしたことを考えたら、そんな二択、どっちも受け入れられるわけがねえぜ!」

 ゆとりが吠えるが、アンナ先輩には負け犬の遠吠えよりも興味のないことになり下がったらしく、すでに獣の笑みから聖女の笑みに戻っていた。

「それでは、ごきげんよう」

 全員、アンナ先輩が見えなくなるまで、一言も喋らなかった。

「狸吉、なんで来たのよ」

 パンツを脱いで、《雪原の青》から華城先輩に戻ったら、またブスッとしている。僕やゆとりも鼓修理も、(上の)パンツを脱ぐと、

「いや、その、いざとなったらトランクス撒く準備をしていたんですけど」

 まあ、最近のアンナ先輩はそんなレベルじゃもう止められないんだけどな。

「だって、華城先輩やゆとりや鼓修理のことも気になったし、アンナ先輩のことも気になったし」

「こいつ、全員……まさか、5P目的!!?」

「違えよ! アンナ先輩が暴れたら、僕が囮になろうって考えてみたんだけど……」

 どうやら、そういう次元の話じゃなかったようだ。三次元が二次元になればいいのに。

300 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 00:25:04.84 ID:mkdjd76E0

あああ、仕事があるのになんでSS書いてんだ……明日も早いのに……
301 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:07:29.51 ID:mkdjd76E0


 この部屋は昔は密会に使われていて、まあ今僕のやろうとしていることと変わらないことを昔の偉い人もしていたという。

 とにかく、アンナ先輩の精神状態が不安なのは本当だった。ただ、卑猥が悪だと知ったアンナ先輩を、それを受け入れられていないアンナ先輩を、いつもしているからの延長線上でやってしまっていいのだろうか。

 襖を開けると、布団が二組、隣り合って敷いてあって、

「奥間君……んっ……あ」

 すでに全裸のアンナ先輩からぴちゃぴちゃと湿った水音が聞こえてましたとさ。どっとはらい。これで終わりにできねえかな。無理だな。

「ねえ、奥間君……どうしてこれが、卑猥なのでしょう……? こんなに、気持ちのいいことが……愛じゃないなんて……」

「……母さんが言ってました。衝動をむやみやたらに振り回してケダモノのように貪るのが卑猥なのであって、お互いを尊重し合えれば……大丈夫ですよ、きっと」

「……奥間君は、優しいですわね。わたくしとは、大違いですわ……ん!」

 ビクンビクン!と腰を跳ねさせる。アンナ先輩は、どこか泣きそうだった。

「もしこの優しさに包まれていたなら、わたくしは何を敵に回しても構いはしないのに」

「アンナ先輩……」

 アンナ先輩が視線で唇を求めた。もうそれが視線だけでわかるぐらいには、僕とアンナ先輩は身体を重ねすぎたのかもしれない。

「はむ、ん、じゅる、あ、はふ、ぴちゃ」

 こんな時でもアンナ先輩のキステクは見事だった。泣きそうな女の子相手に興奮する趣味は僕にはないはずだったのに、愚息が一瞬でおっきした。

 さすがに僕も慣れていて、アンナ先輩の舌使いに負けない動きができるようになってはきたけど、それもアンナ先輩のリードによるものなんだと思う。

 ゴクリ、と僕の唾液を、見せつけるように飲み込む。

「服を脱いでくださいまし」

 最近は鎖で天吊りに羽箒ばかりで発射していなかったので、溜まりに溜まりきっている。ズボンを脱ぐと、愚息がビン!と天を向いた。

「アンナ、先輩」

「いい香りですわ……ああ、本当に、わたくしは、もう」

 焦らすこともなく、アンナ先輩は存分にフェラテクを披露してくれた。「う、あ……!」アンナ先輩、と声をあげることもできず、アンナ先輩の口の中に発射する。

「ん……いつも通り、美味しいですわ……」

 ちゅるちゅる、とわざと音を立てて(これが息子に響くんだ)残った愛の蜜を啜ると、僕に跨ろうとする。対面座位、アンナ先輩が一番気に入ってる体位だ。

「アンナ先輩……その、避妊、しないと」

「…………おかしいですわ」

「え?」

「何故、愛し合って生まれた子供に、祝福が与えられないのでしょう?」

「…………」

「そんな世界は、間違っていますわ。奥間君は、そう思いません?」

「……確かに間違っていると、思います」

「……すみません、わたくしったら……愛し合っている最中に」

 いつの間にかゴムをアンナ先輩が持っていた。仇敵のような目でゴムを睨むと(愚息が少しへこんだ)パッケージを破り、愚息にかぶせていく。アンナ先輩に避妊という概念が生まれて本当に良かったと思う。


 ズン!


「う!」

「ああん!」

302 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:08:26.38 ID:mkdjd76E0


 重心が一点にかけられ、全体重すべてが結合部に集まるように姿勢を制御した結果として、僕の息子は一気にアンナ先輩を貫いていた。

「ふー、ふー、ふー、あふ、ああん、奥間君……!!」

 キスをせがまれ、また僕の唇を啜られる。アンナ先輩は僕の首に腕を回して密着しようとする。その間、腰をグラインドすることも忘れてない。僕も腰を突き上げる。

「ん。んんんーううん……!!」

 がくがくがく!と全身が揺れる。姿勢が崩れないように抱きしめるが、中も痙攣して、僕の息子を搾り取ろうとぎゅうぎゅう締め付ける。発射の予感、

「アンナ先輩、出ます!」

 びゅるる、と白濁液が出る快感にアンナ先輩から身体を離してしまわないよう、無意識に強く抱きしめる。

「――ん、ん!」

 アンナ先輩は中の壁を動かすことに夢中で、一回息子を引き抜くことができずにいた。

「アンナ先輩、避妊具、取り換えないと」

「ん、煩わしいですわね……!」

 身体を浮かせて一瞬で取り換えた後、(こんなに早く取り換えられるの?)また中に息子が入り、壁が蠢く感触を味わう。

 二人とも数回ビクンビクンしたのが効いて、会話の余裕が生まれる。ダーリントラップ、なんて言葉が再生される。

「アンナ先輩、どこかに行ってましたか?」

「ちょっと、散策に……何故ですの?」

「いや、月見草がいないって珍しいなって」

「不破さんが、風邪を引いたようなので、ん!」

 軽く痙攣。ぴくぴくするのを我慢する様子って絶対男の子は好きだと思うんだよ、みんな。ぎゅうと入り口が絞られる。

「――いえ、奥間君には、言わないと、いけませんわね」

 ――本題だと直感した。急がずにあえてアンナ先輩の胸の先端に吸い付き、「ああああんん!!」「う!」アンナ先輩の背中が反り、中の壁が収縮する。頭を打たないように支えると、その姿勢を利用する形で僕がアンナ先輩に覆いかぶさった。




「わたくし、《SOX》に入ろうと思っていますの」




「…………」

 演技ではなく、本当に言葉が見つからない。知ってたはずのことなのに。

 僕の動きが止まったのをどう見たのか、足を巻き付け、腰を擦り付けるように動かしてくる。

「《SOX》の、影響力は、強くなる、一方ですわ。それを、利用しようと、思いますの」

「……利用って」

「数は、あるだけで、力ですから」

「どう、したいんですか?」




「――この世界を、変えますの」




「…………」

「わたくしは、正しい、ことしか、教わって、こなく、て、あ、あ、」

 アンナ先輩は焦れったそうに腰の動きを速めるけど、僕は動けない。

「だから、間違えて、罪を、犯して」

 悲壮な告白のはずなのに。

303 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:09:04.95 ID:mkdjd76E0


「あ、誰にも、祝福を、綾女さんにすら、受けられずに、」

 アンナ先輩が恍惚と笑っていたから。

「奥間君はわたくしが間違っても、受け入れてくれるのでしょう?」

 そこだけ、はっきりと声に出していて、

「あ、あ――――!」

 パシャン、と熱い水が痙攣とともに湧き出た。

「――だから間違ったやり方で、世界を変えてみようと思いましたの……《SOX》のように」

「……なんで、《SOX》なんですか?」

 まだ合体したままだけど、引き抜く余裕がなかった。

「あふ、わたくしにとって《SOX》は『間違い』の象徴なんですの……『卑猥は絶対悪でならなければならない』でしたわね……」

 派手に痙攣したからか、幾分大人しく、その分幸せそうに笑って。




「悪いことって、気持ちよくって、楽しいんですのね」




「〜〜〜〜!!」

 本能がアンナ先輩の変化に先に気付き、身体を引き剥がそうとしたけど、そんなことをアンナ先輩が許すわけがなかった。

「知ってますでしょう? わたくし、苦痛を与えるのが好きですの」

 背中に回された手が拳を握って、一部を押すと「がはっ」肺の空気が全部なくなった。

 血に飢えた猛獣の瞳で、僕を愛おしそうに見つめる。

 耳の中に舌を入れ、軽く耳たぶが噛まれる。

「奥間君の血……飲みたいですわ……」

「き、傷は付けないって、約束したじゃないですか」

「ええ、だから……ふふ、“悪いこと”、なんですわ」

 まだドッキングしたままだったアンナ先輩の中が蠢き始める。

「ああ、その恐怖の顔……素敵ですわ……奥間君のすべての感情はわたくしのもの……今この恐怖も、わたくしが与えていますのね……」

 ツウ、と背筋を指で撫でられる。反射としてぞくっとした僕を見て、アンナ先輩の嗤う気配。

「美味しそう」

 ぎゅる、と内臓の音がした。明らかに子宮じゃない、何かの腹の音。

 た、助けて! 僕、殺される! 食べられる!

 こんな時にもおっ勃つしな、僕のバカ息子は!

304 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:10:36.49 ID:mkdjd76E0


「壊したいですわ……何か……なんでも……!」

 ぎりぎりと蛇のように力で僕を締め上げる。ミシミシと不吉な音がする。




「世界が壊れる時って、どんなに気持ちいいのでしょう?」




「そ、れって……?」

 その一言には無視できずに思わず反応してしまう。

「ああ、こんなことを想像して、気持ちよくなってしまうなんて、わたくしは“悪い子”なんですわ……!」

 答えはなかった。多分、抽象的な、概念的なものなんだろう。

 誰だって、ふっと“何か”を壊してやりたいと考え、どうなるかなと考えることはあると思う。

 でもアンナ先輩には、『やろうとさえ思えば壊せるモノ』が、あまりにも多すぎた。

 アンナ先輩は、理性的に計画的に、執念深く物事を考えられる一方で、本能的な衝動に身を任せることを覚えてしまって。

「奥間君」

 そんな僕の恐怖を見抜いて、アンナ先輩はゾクゾクと快感を覚えてしまって。

「わたくしは、《SOX》に入り、“悪い子”になりますわ」

 なのになんで。

 僕の涙を舐めて、それでもアンナ先輩は破瓜のあの時みたいには止まらなくて、アンナ先輩自身がそんな自分に傷ついてて、それでも僕の愛を信じて、世界に抗おうとしていて。

「綺麗で健全でなくなって、ごめんなさい、奥間君――」

 それは、最後通告だったのかもしれない。

 ごめんなさい、華城先輩。

 僕じゃ、無理でした――
305 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:16:19.04 ID:mkdjd76E0

あらまあ、徹夜だわー
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/15(火) 13:58:28.60 ID:G/12HkuD0
これは闇堕ちしてるのかな?
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/16(水) 12:54:52.46 ID:zIH+smKtO
いつの間にか徹夜よくある。
人間なら誰しもダークサイドある闇堕ちある。
アンナ先輩は素で純粋な真っ黒なんだけどね。
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/17(木) 20:40:19.29 ID:mnLqZVgVO
アンナ先輩の理想の世界って何さ

逆レが合法化される世界なんてやーよ
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/18(金) 10:10:15.56 ID:wpQTugN0O
赤城大空先生の新刊本日発売
310 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:45:08.69 ID:NNdaJwWB0



 化け物の処遇については『入れるしかない』と『絶対に嫌だ』の感情論になっていた。

 鼓修理だって、《SOX》に入れるしか選択肢がないのはわかっている。第三の選択肢など都合よく存在しない。第三の性器が存在しないように、というと色々と議論が起こりそうなのでやめておいた。

 今、狸吉が身体を使って(文字通りの意味で)時間を稼いでいるのに、綾女様と画家は『入れるしかない』自分とゆとりは『絶対に嫌だ』の二択しかなくなっていた。

 狸吉は入れるしかないと答えるだろうから、多数決で決めるならば化け物を入れるしかない。

 だけどここで単なる多数決で決めたら、組織としては割れる。化け物は《SOX》の乗っ取りが目的なのだから、その割れ目を無視することはないはずだ。

「私も、代案があるならそれに乗るわよ? 騎乗位のごとく! でもあのアンナを止める方法なんて……」

「無理じゃな。それよりわしを早く解放させてくれんかの」

 画家はどちらかといえば中立よりで、むしろ今すぐ化け物と狸吉の痴態を見に行きたいらしく、会議を抜けたがっていた。鼓修理としてはどうでもいいが、画家が覗きで死ぬことになると厄介なため、止めている状態だ。

「正体がバレたらどうするんだぜ?」

「それも、ね」

 鼓修理もゆとりも、駄々をこねているだけの状態になりつつあった時。

「鼓修理。今夜12時、今日会った場所でと伝えられるかしら?」

「……できますけど、何をするんっスか?」

「私だけ、正体を話すわ」

 シン、と部屋が静かになった。賢者タイムはこれより静かなのだろうか。

「危険っス! 無理っスダメッス!」

「…………」

「ゆとり、なんで黙るっスか!?」

「何か事態の進展を考えるなら、それしかねえかもとかは思ったんだぜ」

 ゆとりの目は真剣だった。

「失敗したときはどうすればいい?」

「他のメンバーの正体はばらさないで、アンナをメンバーに引き入れるわ。私は死んでいるだろうけど」

「だから! そんなのは鼓修理がダメって言ってるっス!!」

「鼓修理、わかりなさい。私だって何も勝算なしに行くわけじゃないわ」

「どうせ引き入れることになるんじゃ、正体に関しても絶対意見が割れるじゃろ。今のうちに様子を見ておいた方がというのは正論じゃないかの?」

「〜〜〜〜!! もういいっス!!」

「鼓修理!」

 部屋を思わず飛び出した鼓修理に対し、ゆとりが声を投げかけてくるけど、無視して廊下を走る。と、

「う、わ!?」

 撫子に捕まってしまった。撫子は呆れたようにこちらを見ている。

「なあにやってんだい、外にまで声聞こえちまうよ」

「撫子……」

 綾女様がばつの悪そうな顔をするも、撫子は気にも留めずに、

「アンナはお前の親友なんだろ?」

「……ええ、そうよ」

「ならやることは決まってんだよ、おい鼓修理。さっさとPMでメール送りな。別に私から手紙って形で出してもいいんだからね?」

「……わかったっス。勝算は、あるんスよね?」

「ええ、あるわ」

 《雪原の青》としての顔で、きっぱりと言い切ったその言葉を、鼓修理はどうしても信じられなかった。


311 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:46:28.32 ID:NNdaJwWB0


 華城綾女は《雪原の青》として、深い森の中にひっそりと立っていた。

 帰ってきた狸吉にもかなり反対されたけど、綾女が折れないことがわかったのか、最後は送り出してくれた。

 本道ではない別の近道を通ってきたため、アンナとは別に部屋を出ている。

(アンナ……)

 卑猥じゃない部分の楽しさや優しさは、すべてアンナに教えてもらったと言っても過言じゃない。

 アンナは言った。自分と世界、自分を否定してくる世界の方が間違っていると、はっきりそう言った。

 それは、自分と同じ考えだ。自分も自分が正しいと信じて、自分自身を否定してくる世界が間違っていると信じて、下ネタテロリストになった。

 アンナは同じ道を辿ろうとしている。




「お待たせしましたわね」




 聖女の笑みを浮かべた、アンナが現れた。

 月光の光ぐらいしかない中で、銀髪は月光に負けない輝きを放っている。

「《雪原の青》一人ですの?」

「……そうね。他のメンバーはいないわ。先に言っておくと、基本はあなたの思い通りになると思うわ。私達にあなたを止めることはできない、という意味で、《SOX》に入ることを認めざるを得ないのよ」

 どこか感慨深げな《雪原の青》の言葉に、アンナは殺気を放ったりも、慈愛に満ちた笑みも浮かべなかった。

「あのね、アンナ」

 とうとう、私は《雪原の青》から華城綾女になる。




「私、本当に、あなたのこと、親友だと思ってる」




 そして、上のパンツを脱ぐ。顔面が一気に凍るような寒さに包まれて、痛いほどだった。

「――――綾女さん? 綾女さんが、《雪原の青》……?」

「否定されるって、辛いわよね。それも、自分の根幹を否定されるのは。……アンナの場合は、狸吉への愛だったわけだけど、きっと近いうちに似たようなことは、きっと起きてた」

「…………」

 アンナの顔は、月光だけではよく見えない。ただ銀髪の陰に隠れるだけ。

312 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:47:24.57 ID:NNdaJwWB0

「裏切っていた、と思ってくれて構わないわ。どう思われようと、私が《雪原の青》であることは変わりないから。騙していたことには、変わりないから」

「――あなたも? 綾女さん」

「……?」

「あなたも、両親の作り上げた《育成法》の、被害者ですの?」

「私はマシな方よ。アンナ、あなたこそ《育成法》最大の被害者だと私は考えているけど、そのあなたは――何をする気?」

「世界を壊すんですの。愛を愛として認めない、この世界を。そして新しく、愛を愛として認められる世界に作り替えるんですの」

 

  ――そして、《育成法》の破壊を。



「綾女さん」

「…………」

「今までずいぶんと、悪巧みしてこられたのですわね。……ズルいですわ」

 破壊に飢えた獣が、嗤う気配がした。

「わたくしにも、悪巧みの楽しさを、教えてくださいまし」

「充分にできると思うわ。あなたはもう、“知ってしまった”のだから。私なんかより、ずっとうまくできると思うわ……」

「……綾女さん?」



「私は表向きの活動を引退するわ。《SOX》全てのリーダー、その後釜に、アンナを据えようと思うの」



「…………」

「乗っ取りはそれで完了するはずよ」

 ――一瞬で、距離を詰められる。そして、

「わひゃ!? わひゃ、脇はダメ、第5の性感帯なのぉ!」

「ふふふ。そんなに急がなくてもよろしいじゃありませんの。《雪原の青》あっての《SOX》であることぐらいはわかりますわ。……綾女さん」

 あなたが泣いてくれた時、嬉しかったんですのよ。

「わたくしも、たくさん変わってしまって、失くしたものもたくさんありますが……それでも綾女さんを親友だと、思っていますわ」

「アンナ……」

「乗っ取りの計画に関しては、もう少し先の話としましょう。強引なやり方でなく、もっと組織として合理的な判断で以て」

「鬼頭慶介の約束はどうするの?」

「そこまで知っているんですのね。まあ、不穏分子が中にいる組織というのは基本的に脆いものですので、それでごまかしつつ、二重スパイみたいな形になると思いますわ」

「大丈夫? アンナ、搦め手は苦手でしょう?」

「世界の変革には清濁飲み込む力がないと、結局は変革できませんわ。その程度のことができないなら、わたくしにはその力がないということですの」

 そこまでわかっているなら、大丈夫だろう。アンナの不安定な部分は狸吉が支えてくれるだろう。

「明日、出発前、またここに来てくれる? 《SOX》としての正式な回答を送るわ」

「ええ、わかりましたわ……綾女さん」

「…………」

「《センチメンタル・ボマー》は、奥間君でしたの?」

「……ええ。明日、正式に紹介するけど」

「……そう、ですの。色々と言いたいことはありますけど、まあいいですわ」

 そういって、アンナは去っていく。

 ……大丈夫、全部言いたいことは言ったし、アンナも頭に血が上らず冷静に聞いてくれていたと思う。だから、大丈夫。

 でも、アンナって、あんなに心を見せない人間だったっけ?
313 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:48:37.63 ID:NNdaJwWB0
ちょっと書いてみましたー。場面的にはかなり大変な場所なんですが。

ちなみにアンナ先輩は逆レの意識はありません。あの張り紙のせいです。なんてこったい
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 08:50:30.25 ID:n3joLe16O
あぁ…自分が愛している男性が別の女性と大きな秘密を共有していたなんて、許せないよね。親友なら余計に。
修羅場ヤンデレ制裁ルート一直線ですわ。
それとこの期に及んで逆レの意識のないアンナ先輩はもうどうしたら。
315 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:24:34.66 ID:qiesvTN40


「ぎゃあ、ちょっと待ってアンナ先輩話を聞いてぎゃあ!!?」

「アンナ、ちょ、嘘つき! ……ご、ごめんなさい何も言ってないわ私は何もげふ!?」

 翌日、《SOX》が全員集まり、アンナ先輩が来たところで和やかに自己紹介タイム。それが終わったらアンナ先輩に僕と華城先輩が簀巻きにされ、木に吊るされた。

 何も変化がなかった、という時点でおかしいと思ったけど、やっぱりアンナ先輩的には浮気的な面で黒判定だったらしい。一時間ほど公開処刑が行われるのを、早乙女先輩に鼓修理にゆとりは黙って見てるしかなかった。

 まあ、確かに身体に傷は負わなかったけど、心に傷は負ったんだよなあ、これが。

「ふう、これぐらいにしておきますわ。身体も温まったことですし、綾女さんが奥間君と、わたくしにナイショで大きな秘密を抱えていたことについては、とりあえずは許して差し上げますわ……これ以上は傷つけないことが難しそうですし」

 拷問吏の残念そうな顔に、心底ほっとする。一時間で済んだなら僕としては慣れている方だった。それもどうなんだ、というツッコミは誰からもなかった。

「さて、綾女さん」

 ぴぅ!とおっぱいから声出したみたいな悲鳴を上げる。アンナ先輩は僕と華城先輩を解放すると、華城先輩を複雑そうな、悲壮とも言えそうな目で見つめる。

「…………?」

「次は、綾女さんの番ですわ。わたくし、あなたに大怪我させたこと、忘れていませんのよ」

「…………」

「色々と、言いたいことはありますけど。……全部わたくしのため、でしたものね。なのに、わたくしは……」

「正直に言っていいかしら?」

「……なんですの?」

「私は色々と、忘れたいの、痛いこととかそういうの。SMはね、お二人でやってちょうだい!」

 PM無効化してまで言うことか! SMじゃない、よな? 僕ってえ? M? なのか?

「Sえ、?」

「アンナ先輩ストップストップ!! 禁止単語です!!」

「ん、……本当に綾女さんが、《雪原の青》なんですのね」

 アンナ先輩が、銀髪を陽光に透かしながら完璧な聖女の微笑で振り向いた。

「後顧の憂いも今、失くしましたし、これからよろしくお願いいたしますわ」

「よ、よろしく……っス」

「よろしく……だぜ」

「アンナの嫉妬に狂う微笑も、絵になるのお」

 一人だけずれたことを言う早乙女先輩はいつものこととして、ゆとりも鼓修理も納得はしてないけど(公開処刑みせられたし)アンナ先輩を《SOX》に受け入れざるを得ないことはわかったようだ。

 心にダメージを負った僕と華城先輩をよそに、いったん清門荘に戻る。そこにいたのは女将モードではない、いつもよりも余裕のない感じの撫子さんだった。撫子さんもアンナ先輩の武勇伝については色々知ってるしね。

「まさか錦ノ宮夫婦の子供がねえ……」

 現実はわからんね、と呆れたように軽く言う。「反抗期ですの」とアンナ先輩も軽く返した。

「で、昨日起こしたあの騒ぎであのざまなんだけど、あの不破ってバカはどうしたらいい?」

 不破さんが月見草と一緒に栄養ドリンク改を作ろうとして清門荘が火事になりかけた件について、いつか時間があったら話そうと思う。不破さん、今は熱で頭が回っていないようだし、月見草は基本言われたことしかできないから事故と言えば事故なんだけどな。


316 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:25:01.60 ID:qiesvTN40


「不破さんは《SOX》に入れませんの?」

「あー」

 華城先輩と顔を見合わせる。不破さんについては全員賛同するだろうけど、ぶっちゃけタイミングを忘れてたというかなんというか。

 清門荘の一室に戻ると、完全に風邪でダウンしている不破さんがいた。

「今寝付いたところです」

「お疲れ様ですわ。月見草さんも、休んでくださいまし」

 スケッチブックに先ほどのアンナ先輩の形相を描きたいらしい早乙女先輩を傍において、月見草は菊の間で休ませる。

 そして今できる、アンナ先輩の修行内容について撫子さんと一緒に考える。

 まあ答えは決まっていて、

「正しい知識、だな」

 禁止単語やその意味、社に置いてある不健全雑誌の熟読、《育成法》が生まれる前の、そもそも卑猥とは何かなどの価値観など、とにかく性知識について徹底的に教えなければならない。

 僕にしたことについてショックを受けるかもしれないけど、もう正直言って、どうこうできる問題じゃなかった。逃げられないなら、今をいい機会とするしかないんだと思う。

 ……アンナ先輩の性欲が薄まることは、多分ないだろうけど、それでもちょっと期待してしまうのは、僕悪くないよね?

「おい、綾女。お前教えろ」

「え!? そんな、急に言われてもゴムも何も準備ができていないわ!」

「谷津ヶ森の不健全雑誌があるだろうが! いいから社で勉強だ!」

 その様子を見て、アンナ先輩が慈しむように、僕にだけわかるようにクスッと笑った。

「撫子さんと綾女さんって、似てますわね」

「そうですね。義理とはいえ、お母さんと娘ですからね」

「……親子、反抗する子供」

 アンナ先輩は、悲しげに長いまつげの影を作る。

「……わたくしは、世界を必ず変えてみせますわ。両親の作った、この日本という国を」

 悲しげではあっても迷いはなかった。

 アンナ先輩と華城先輩は、社に向かった。


317 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:25:29.75 ID:qiesvTN40

「さて、と。これからどうするんだぜ?」

 今日帰る予定だったが、不破が風邪を引いた以上、動けない。置いて帰るのも薄情だろうというのがゆとりの意見だ。

 特別に往診してもらって、薬は出してもらっている。ただ昨日のバカ騒ぎ(自分たちは知らなかったけど何かやらかしたらしい)で病状が悪化したとのことだ。

 明日も休みなので、一日延ばそうと考えてはいる。でもそれ以上は、学校が始まるのでどうすればいいか考えている最中だ。

「あの化け物、本当に二重スパイなんかやるんスかね?」

「その話をしたらキリがないから信じるしかないって言ったじゃないか」

 狸吉がうんざりしたように反論する。鼓修理も自分がしつこいのは自覚していたようで、「わかってるっスけど」と不機嫌そうに返した。

「あの化け物とクソ親父が繋がってると考えると、ろくでもないことしか考えられないっスね」

「表向きでもアンナ先輩が敵でなくなったのは、《SOX》にとっては楽になったよ」

「いつ乗っ取りされるかもわからないのにっスか?」

「だあ、止めろお前ら、ややこしい!」

 ゆとりにはどうしてもそういう駆け引きが合わない。油断はできないし、危険性もあるが、それを言ったら鼓修理だって鬼頭家の一人娘だし、狸吉にいたっては善導課の《鋼鉄の鬼女》の息子なのだ。

「ここにいてもあの女将に見つかったら何かやらされそうだし、あたしも社見てみたいぜ」

「ゆとりはちゃんとは見たことなかった? 僕もあの不健全雑誌呼んで予習しとこうかな……僕で試される前に」

「ひ、卑猥だぜ! そんな、日中から!」

 ゆとりが蹴りを入れるが、慣れている狸吉はひょいと躱す。

「ま、どんな感じで勉強してるかを見るのはありっス。ここで適性試験に失格とかいちゃもんつければ……」

「あー、アンナ先輩に限ってはそれ無理だと思うよ」

 一応、撫子に社の様子を見てくることを伝え、清門荘から社に向かう。


318 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:27:05.75 ID:qiesvTN40

不破さん、いろいろやらかしていたようです。
とうとうアンナ先輩がちゃんとした知識を付けていきます。どうなることやらなのです。

ちなみに希望があれば、不破さんがやらかした短編も書く用意はできております、はい。
319 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 00:55:05.08 ID:XNH/9rFA0


「これと、これはどう違うんですの?」

「えっとね、ヴァギナと膣と《赤ちゃん穴》はね……」

 まず禁止単語表なるもの(1000ぐらいはある)を叩き込んでいた。

 まあアンナなので、すぐに表そのものは覚えたのだけど、意味を理解するのに若干苦労していた。谷津ヶ森から奪った不健全雑誌の写真を使って、あるいはもう教育現場では使われなくなった精巧な人体模型を使って説明していく。

 まあ言葉だけでは理解できないだろうと、アジトにある2、3冊を除いたすべての不健全雑誌やコピーをアンナに見せて、ほとんど独学でやらせている。疑問に思ったところを解説した方が早い。

「……これが卑猥ですの?」

 アンナの声には戸惑いがあった。アンナにとっては無意識の愛情表現が、卑猥と断定されているのだから当然だった。

 善導課からも指導されてはいるだろうけど、それはあくまで一部の偏った知識だけだ。特に愛の蜜関連はきちんと教えなければならない。

「愛の蜜は男女で違うんですのね。奥間君は、男性の愛の蜜が女性の《赤ちゃん穴》に入ってきたら、妊娠すると仰っていましたわ」

「……うーん、それで大体合ってるわ」

 あってるのかな、この教育法はと、綾女の方が戸惑いを覚え始める。アンナが読んでいるものは不健全雑誌と言って想起されるような、いわゆるエロ本だけでなく、昔の保健体育の教科書や医学書も含まれている。これは谷津ヶ森のものではなく昔から社にあったものだが、下半身にガツンと来ない! 下ネタ思い浮かばない! と有り体に言うと面白くなかったので、社に放りっぱなしだったものまでを読んでいる。

「綾女さん、今更疑うわけではないのですが、この本が正しいという根拠はありますの?」

「……アンナなら本能でわかってるんじゃないの?」

「……わたくしには、なぜお父様とお母様がこれらを不健全だと禁止するのか、よくわかりませんの」

「アンナ、あなたなら身に覚えはあるんじゃないの? 初めてのこととか、エッチなこととか」

「…………それが、卑猥?」

「……そうね、猥褻なアプローチを狸吉にしてきたのは間違いないわ」

「…………」

 しばらく無言だった。不安になって、「アンナ」「綾女さん」――二人同時に、呼びかけた。

「わたくしは、“悪い子”になるんですの。だって、“悪いこと”って、楽しいんですもの」

「そうね。下ネタは楽しいわ。でもね。行き過ぎると、傷つけるわ」

 ある文字を指した。『レイプ』――強姦。精神の殺害ともいわれた、《育成法》成立前でも最悪の罪。

「…………」

「あなたがあのリーダーにしたことよ」

「……両親がもみ消したい気持ちが、よくわかりましたわ。ふ、ふふひ、あは、娘が卑猥の最上級の罪を犯したのですわ。当然ですわね」

「アンナ。今からでも両親と仲直りできるなら、」

「それでも、知っていたら、わたくしはしていなかったのですわ」

 アンナはどこか泣きそうで、何も言えなくなる。「その言葉が本当か?」なんて、訊けもしなかった。

「知ってさえいれば、間違えなかったのに」

「…………」

「でもいいんですの。間違えても、奥間君は受け止めてくれるのですわ。――勉強に戻りますわね」

 間違えても、狸吉が受け止めてくれるから、だからわざと間違えてやる。

 今のアンナの行動原理はこんなもので、根本は狸吉と愛以外を信用していない。

 足音、

320 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 00:55:49.60 ID:XNH/9rFA0

「……狸吉、鼓修理にゆとりも」

「調子はどうかなって。アンナ先輩、大丈夫ですか?」

「……ええ。勉強自体ははかどっていると思いますわ」

 軽い調子の狸吉たちに、アンナも笑顔で答える。

 多分、この笑顔のまま、アンナは人を殺せる。根本が正義と愛以外を信用していなかった頃と、変わっていない。

 それを綾女は、わかっていた。

「色っぽいポーズ、というのは何ですの?」

「え? えーっと」

「ゆとりに教えてもらったらどうっスか、まあ胸部がなぶほ!?」

「あー今日は暑いぜー」

「ゆ、ゆとり、靴ありは反則っス……」

「一月で暖房もないのに暑くはないと思うのですけど、あの、鼓修理ちゃん、大丈夫ですの?」

「あー、大丈夫だぜ。こいつ、結構慣れてるんだぜ」

 でもどこかで、信じていたかった。

 こんなふうに親友が自分たちと混ざってバカ騒ぎするのを、どこかで夢見ている。



 ピピピピピピピピピ



「鬼頭慶介さんですわ」

 アンナが人差し指を立て、静かに、とジェスチャーを送る。

 全員が静かになったところで、「もしもし」と電話に出た。



 ――暴雪の気配が漂った。



「鼓修理ちゃんのお義父様。お疲れ様ですわ」

 ちなみに鼓修理と慶介はアンナの中では、紆余曲折を経て義理の親子となっている。

『やあ、鼓修理のことは知ったんだね。お嬢さんは、返事の方をどうするか、まだちゃんとは聞いてないなーって思ってね』

 電話越しにもこの気配は伝わっているはずなのだが、慶介は軽いノリのままだ。

「お受けしますわ。色々とご協力してもらってる身ですもの、少しでも恩返ししたいんですの」



321 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 00:56:26.35 ID:XNH/9rFA0


『奥間狸吉君との結婚にそこまでするなんて、よっぽど愛しているんだねえ』

「ええ、愛、していますわ」

 愛、にアクセントがおかれる。ここだけは絶対に本音で、ビクン!と狸吉が跳ねた。

『じゃあ、お嬢さんには良くないお知らせだ。錦ノ宮の口座から5000万円引き出されているよ』

「? 5000万円……?」

『早いとこ、ご両親に電話した方がいいかもね、これは確実に奥間家への口止め料と手切れ金だから』

「――――」

 アンナ落ち着いて、とメモで書く。アンナは頷いた。

 ただ、暴雪の気配が、さらに冷たさを帯びてくる。

「用件は、それだけですの?」

『うーんとね、どこまで入り込めたかなあって』

「主要メンバーの名前と顔は、覚えましたわ」

『なるほど、順調だ。じゃあ君も忙しくなりそうだし、切るねー。じゃあねー』

 ツーツー。

「……手切れ金? まさか、わたくしの両親は、愛を、お金で解決しようとしてるんですの?」

「落ち着いて、アンナ。《鋼鉄の鬼女》の性格を考えて、そんなお金簡単に受け取ったりはしないわ」

「そうですよ! うちの母親に限って、そんな……」

 狸吉の目が泳いだ。「とにかく、電話してみます」――金をもらわなくても、狸吉の母親はこういう問題のエキスパートのはずで――




  『祝福を受けたい』




 アンナもPMを操作する。

 殺気立った目に、誰も何も、言えない。

322 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 01:02:18.94 ID:XNH/9rFA0
多分だけどアンナ先輩にとって1番やってはいけないことじゃないかなと思ってみました。
うん、多分ですが。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/22(火) 14:35:28.76 ID:R4IhwTaNO
性犯罪を金で誤魔化して被害者を黙らすとか……

これ、卑猥な上に卑劣なんじゃ。旧世界でソフィアが一番憎んでた事やないの
324 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:28:12.06 ID:XNH/9rFA0


 奥間爛子は第一清麗都市の第二オフィスビルの最上階にいた。善導課に関わる用件ではない。むしろ私的な事柄になる。

 呼び出した張本人たちが、爛子がついてからすぐに表れた。

「ずいぶん早いな」

「お待たせするわけにはいかないので」

 呼び出したのは、錦ノ宮夫婦と、もう一人、おそらくは弁護士がついていた。

「お座りください」

 弁護士の名刺を受け取り、爛子は座る。さすがというか、全員爛子のカタギには見えない風貌に気圧されることのない連中だった。

 錦ノ宮夫婦はソフィアがデモを起こしてから不仲になったと聞いていたが、愛娘の事件にはそれどころじゃないらしい。

 アタッシェケースが取り出され、中身を見せつけられる。

「5000万円あります。もちろん、贈与税などを抜きにした金額です」

「何が言いたい」

「……そちらのご子息と、うちのアンナの、慰謝料と手切れ金です」

「犯罪を隠すために金とコネで隠蔽するか。私の知っているソフィアはそんなことをもっとも毛嫌いする人間だったがな」

「……爛子さんに軽蔑されるのは、承知しています」

 さすがにプライドの高いソフィアは消沈していた。代わりに旦那の、祠影が口を開く。

「間違ったやり方かもしれません。ですが、娘を守りたいという親心は、あなたも子供がいる以上、理解できるでしょう?」

「守るの意味が違う以上、話にならんな。私はこんな金を受け取りはしない」

「では、どうしたら、アンナを守れますか?」

 ソフィアは虚ろに呟く。すがるように、爛子を見る。

「弁護士なら知っているだろう。婚約もしていない学生の恋愛に手切れ金など必要ない、と」

「恋愛だけならばそうですが、今回は犯罪が絡んでいるとのことでしたので」

「…………」

「アンナさんが狸吉さんに本人の合意なく性交にいたったことは、こちらも認めております」

 本来なら『性交』は禁止単語なのだが、弁護士などの法律用語としては許可される。今回もそのパターンだった。

 善導課は証拠として鎖を回収している。

「徹底的に争うのかと思ったが、意外だな」

「……あんな、アンナを見せつけられては……」

「……そうだな……」

「私には信じられません。お二人から話を聞いてもです」

 祠影が口を挟む。清楚なお嬢様にしか見えないアンナが鎖につないだ狸吉の性器を口に含み、コロコロと美味しそうに転がしていたのはあまりに衝撃的な光景で、自分も狸吉の口から聞いただけなら一笑に付したかもしれない。実際、祠影は信じ切れていない節がある。

「慰謝料と手切れ金は、受け取ってもらえないでしょうか?」

「本人に話も通さずに答えなど出せない。17歳と16歳だ、その程度の頭はあると信じている。夫妻はアンナと話をしたのか?」

325 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:28:39.95 ID:XNH/9rFA0


「……拒絶されています。『愛のために必要な儀式だった』『奥間君は間違っても受け止めてくれる』など、わけのわからないことを言って……」

 ソフィアのことだから感情的に責めてしまったんだろう。アンナからすれば、ソフィアや祠影の方が拒絶しているのだろう。

「アンナは言い出したら聞かないタイプみたいだな。ソフィアのようだ。……このことは逆効果になるぞ」

「……それでも。卑怯で卑劣でどうしようもなくても」

 ソフィアは感情のままに突っ走っていたころとは嘘のように、沈み込んだままで。

「娘のために、ご子息には別れてほしいのです」

「…………」

「このままじゃアンナはダメになります」

 祠影が消沈したソフィアの代わりに言葉を紡ぐ。

「今のアンナは間違っています。間違った元から離れなければ、さらに悪くなる一方です」

「うちの愚息に原因があると?」

「いえ、アンナは《育成法》の奇跡的な成功例だったのです。奇跡的なバランスで保たれていたのが、恋心で崩れたのでしょう。奥間狸吉君でなければもっとひどいことになっていたかもしれないし、そうでないかもしれない。わかっているのは、これ以上狸吉君と一緒にいさせるわけにはいかないということです」

「全部、親としての理屈だな。子供の立場を考えていない」

 だが正直なところ、爛子にもどうすればいいかなんてわからない。こんなに消沈しているソフィアも見たことがない。



 ピピピピピピピピピ



 爛子のPMが鳴った。『奥間狸吉』と出ている。

「うちの愚息からだ。失礼だが、この場で出させてもらう」

 ハッとして、ソフィアもサイレントにしていたPMを確認する。『アンナ』と出ていた。



「「――もしもし」」


326 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:47:57.59 ID:XNH/9rFA0


「母さん」

『なんだ?』

「今、アンナ先輩から、アンナ先輩の家が5000万円も引き出したって聞いて」

『事実だ。その件で今話をしている』

「口止め料と手切れ金で?」

『どこから聞いたんだ、その話は。……私は受け取らない。お前が決めろ、狸吉』

「……わかった」

『切るぞ』


 ツーツー、


  
   *



「お母様」

『アンナ』

「何を、しようとしてらっしゃるのですか?」

『……私達は、アンナのために』

「嘘を吐かないでくださいまし! 《育成法》も、欺瞞ばっかりで! こんなやり方で、正しいことだけを詰め込んだら、正しい人間ができると、お母様は本気で思っているのですか!?」

『アンナ……』

「知ってさえいれば、わたくしは間違えなかったのに……!」

『アンナ。お願いです、戻ってくるのです』

「……お母様は、お父様も、わたくしと奥間君を、別れさせたいのでしょう?」

『アンナ』

「わたくしが間違えたのは、奥間君のせいではありませんわ。それに……」

『アンナ、わかりました、私達は色々話し合わないといけないんです』

「わたくしは奥間君を愛していますわ。奥間君も……何故、愛が祝福を受けられないのですか? お母様……」

『…………』

「わたくしには、話し合うことなんてありません。手切れ金を用意する必要もありませんわ。だって、一生、わたくしと奥間君は愛し合うのですから」

『アンナ、落ち着いて、それは……間違っています』

「ならどう間違っているのか、説明してくださいまし!!」

『――あなたが不幸になるのが耐えられないだけです……!!』

「……もういいですわ。話になりませんもの」

『アンナ、待ちなさい、アンナ!』



 ツーツー、『着信拒否』

327 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:52:15.18 ID:XNH/9rFA0

これは、「親の心子知らず」なんでしょうか?
立場を守りたいとか打算もあるとは思いますが、ソフィアもそうだし祠影も、アンナのためにと思って動いてはいます。それが正しいかは別として。
328 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:56:44.04 ID:XNH/9rFA0
あと、アンナが一番祝福を受けたい相手はやっぱりご両親なんですね。当たり前か。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/22(火) 18:14:15.77 ID:tkldBrmI0
ソフィアは子供や信念の為ならプライド捨てれるんだよなぁ、不健全雑誌身体に巻いたり
今回の手切れ金もソフィアにとっては屈辱なんだろな、でもやるあたりは親なんだなと思う。
まあ間違ってるんだけど
330 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:42:34.51 ID:XNH/9rFA0


 アンナ先輩の失望と絶望からの無表情は、今までとは違う意味で冷たさがあった。

「アンナ、不健全雑誌はコピーを取って第一清麗都市に持ち帰って、アジトで勉強しましょう」

「ええ」

 華城先輩も言葉少なだった。

 だけど、今の日本では珍しくない光景でもある。さすがに極端な例ではあったけど、僕やゆとりのような社会的に弱い立場の子供の縁談は昔より格段に厳しいと聞く。

 もし何もなくても、今とは逆の意味で僕とアンナ先輩じゃ釣り合わないのが現状だ。アンナ先輩はそういう部分からも切り離されていたんだろうけど。

「奥間君」

「はい!?」

 思考が別のところに行っていたせいで反応が遅れた。いやね、母さんやアンナ先輩の躾によって返事には即答せねばならないという条件反射がもう身に沁みついてて……。

「わたくしは、奥間君がいれば、幸せですわ」

「……はい」

 そう答えるしかなかった。

 だって、この人が変わったのは、やっぱり僕のせいだから。

 そのせいで降りかかる不幸からは、守りたかった。

 でも――



『本当に、愛してる?』



 誰の言葉だっただろう。もう精液が夢精で空っぽになってしまったかのように忘れてしまった。

「PMの電子マネーが凍結されたらどうするんスか?」

 鼓修理が現実に戻してくれる。いかんいかん、夢精なんかしたらアンナ先輩にお仕置きからの前立腺プレイが始まってしまう。

「私の家に来ればいいじゃない。アンナのマンションほどじゃないけど、アンナが泊まれないほど狭くもないわ」


331 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:43:19.38 ID:XNH/9rFA0


「まあ狸吉の家は、くっくっく」

 鼓修理の邪悪な笑みは「化け物に散々搾り取られれば自動的に綾女様の隣は自分のものに!」みたいなことを考えているだけなので無視しとこう。

「まあ、そんな強硬な手段には出ないと思いますわ」

 このあたり、アンナ先輩と僕らでソフィアに対する意識の乖離とでもいうのか、ソフィアは意外とアンナ先輩には甘いというか。まあこんだけ完璧超人だったらな。

「マンションにいる方が風紀委員の見張りもありますし、両親にとっては好都合ですわ」

 あとあのクローゼットで僕を監禁したりとか。

「まあ帰ってからのことは帰ってからにして、明日までどうするんだぜ?」

「うーん」

 アンナ先輩が可愛らしく小首を傾げる。

「現実の問題として、《SOX》は武力が足りないように思うのですわ」

「下ネタテロに!」

「武器もお金もいらないんス!」

 華城先輩と鼓修理が合わせて卑猥な拳を作る。にこっとアンナ先輩は軽くスルーした。意味は分かっても、面白さは理解できないようだ。

「奥間君のお義母様をわたくし一人で引きつけるのは、正直自信がありませんわね」

「「「「いやいやいやいや」」」」

 僕と華城先輩と鼓修理にゆとりの合唱が広がる。勝てるとしたらアンナ先輩ぐらいしかいないだろう。

「奥間君? 勝つ必要はないんですのよ。こういうのは、ヒットアンドアウェイで無差別に出没して逃げるが勝ちなんですの。逃げられたらそれでいいんですわ」

 さすがにこの前まで僕達を追っていただけはある。ヒットアンドアウェイで逃げるが勝ちが嫌だから僕を誘拐に差し出したんだしね。

「皆さんの身体能力を知りたいですわ、特に綾女さんと、ゆとりさん。表に出る場面が多いですし、鼓修理さんや早乙女先輩は陰で別の仕事があるでしょう?」

「あれ、僕は?」

 アンナ先輩の頬が、ポ、と赤くなった。

「――知り尽くしていますもの」

 うん! もう身体の部分で知らない場所はきっとないんじゃないかな!

「ああもう、はいはい。私がいつも撫子とクンニ、じゃなかった組手してるとこがあるから、そこ借りましょ」

 やいややいや言いながら僕は華城先輩とアンナ先輩が前で談笑してるのを見る。

 この光景が、いつまでも続けばいいのに。


332 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:43:57.27 ID:XNH/9rFA0


「《鋼鉄の鬼女》と互角、か」

 そこは50畳ほどの、畳敷きの離れだった。全員が貸し出されたジャージに着替える。

「じゃあ、まずは綾女さんから」

「き、緊張するわね。アンナとこんなふうに組むなんてことなかったから」

「そういえばそうですわね。わたくしは構えないので、どこから来ても構いませんわ。撫子さんは、わたくしの直すべき点を見ていただけません?」

「いや、多分ないと思うぜ」

 ゆとりの言葉をきっかけにして、鼓修理が「はいスタート」とあえて気の抜けた声で試合開始を告げた。

「…………」

 華城先輩は動けずにいる。アンナ先輩からは殺気も何もなく普段通りの聖女の笑みで、それが逆に余裕を現していた。

「来ませんの?」

「行けるかー! どんだけアンナにはトラウマがあると思ってんのよ!?」

 全員がうんうんと頷いていた。包丁を投げつけられた鼓修理や首を絞め殺されそうになったゆとりは必死だった。

「仕方ありませんわね、それぞれ独自の筋力トレーニングを作ったほうが早そうですわ。皆さん、服を脱いでくださいまし」

 アンナ先輩以外の視線が僕に集まった。「ああ」とアンナ先輩も思い出したように、

「卑猥の知識を持っていると、自然と裸に羞恥心を持つようになるのでしたわね。わたくし、どうもそのあたりが繋がらなくて、申し訳ありませんわ」

 というわけで、僕一人追い出された。まあアンナ先輩は僕の身体のことを知り尽くしているし、筋力トレーニングメニューも常識の範囲内でやると思うし、今はとりあえず不破さんところへお見舞いに行こうかな。


333 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:44:46.57 ID:XNH/9rFA0

 ゆとりはTシャツとスパッツ一枚、上半身下着下半身下着という冬場には似合わない服装を強いられた。

 浴場でも見たけど、なんでこの化け物女はこんなに肌が白くて胸部も大きいのだろうか。完璧にもほどがあると思う。

 全員が何となく自然とストレッチをして、「まずは綾女さんから」と化け物女が綾女に近寄る。腕を押したり、太ももを押したり、筋肉を手で測っているようだ。

「勿論、綾女さん他、皆さんの身体能力は平均を超えていますわ。ですが、細かい部分を見ると、やはりずれが出てきますの」

 PMのメモ帳にチェックポイントだろうか、そんなのを記入していく。

「骨盤のずれとか、背骨のずれとかですわね。骨がずれると全てが狂いますから……綾女さん、うつぶせになってくださいまし」

「ん、こう?」

「そう、楽にしてくださいまし」

 ゆっくりと背中を押していく。パッと見は整体みたいで、骨を直すといったところからあながち間違ってはなさそうだ。

「錦ノ宮さん」

「アンナでいいですわ」

「アンナって、ああ、うん。そう呼ぶ」

 ゆとりの言葉に「ありがとうですの」と笑いかける。それは中学時代の狸吉が目指していたもので、完璧な聖女の笑みだった。

「……はあ」 

「綾女さん。気持ちいいですの?」

「んー? すごい、気持ちいい」

 今にも寝そうな綾女に、化け物女はやっぱり化け物女らしく爆弾を放った。

「綾女さんたちは、わたくしや奥間君みたいに愛――性の感覚を知っていますの?」

「ひぎぐぐ!?」

「あ、痛かったですの?」

「じゃ、じゃない、びっくりして。なんで急に?」

「だって《SOX》って性知識の流布が目的なのに、その感覚を知らないなんておかしいでしょう?」

「わ、わ、わ、私は!?」

「えい、えい」

「いやああ、脇はらめぇぇぇ!! 第五の性感帯なのおおぉぉぉ!!」

 大型の肉食獣が人間でじゃれているといった様子だった。何も知らなければ女子高生の戯れに過ぎないのだろうけど、ゆとりにはアンナ・錦ノ宮という存在はバイアスがかかりすぎている。


334 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:45:16.98 ID:XNH/9rFA0


「《育成法》制定前は、みんな自然とオ、」

「オナニーね!」

「ああ、そうそう。自然と覚えていったらしいですわね……わたくしも、奥間君と出会ってから、自然と覚えていきましたもの」

 な、生々しい。

 鼓修理は綾女の下ネタ教育に慣れているためか、この程度ではびくともしなかった。

「《SOX》が配った卑猥な絵画とか見たら、大体愛の蜜ぐらいは出るんじゃないっスか? あ、女は、の話っス!」

「……そう、なんですの。皆さん、では、経験あるんですの?」

 どうもまだ化け……アンナはそのあたりの羞恥心がわからないらしく、純粋に疑問として聞いてくる。

「わたくしは《センチメンタル・ボマー》としての奥間君に胸部の先端を吸われた時、身体中ががくがくとして、特にヴァ……《赤ちゃん穴》がびくびくして、愛の蜜が溢れだしましたの」

 善導課に追われた時、アンナも一緒にやってきて、追い込まれた狸吉がアンナの乳首を吸って覚醒させたあの事件だ。

「……、あー、ごめんなさい。あれは狸吉が悪いから」

「いえ、うん、まあ……外で善導課の皆さんが見ている状況は恥ずかしいですわね。で、皆さんは経験あるんですの? あの気持ちよさを」

「……ない」

「……ないぜ」

「あったらパパが泣くっス」

「そ、そのね、アンナ。私は、冗談としての下ネタは好きなんだけど、生々しい話になると、なんか、えっと、ひいちゃって」

「――そういうとこ狸吉に似てるんだぜ」

「――そっくりっス」

「まだ皆さんには愛し合った人がいないんですの?」

「……いない、わ」

「……はあ、その、いないんだぜ」

「鼓修理に見合うやつがこの世にいるんスかね」

 三者三様の答えに、アンナは納得したのかどうか、頷いた。

「愛する人ができるといいですわね。愛ほど幸せなことはありませんから」

 そういうアンナはあくまで自然な笑みで。

 自分や綾女の好きな奴が狸吉だっていうのは、疑いもしてない顔だった。

335 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:46:44.48 ID:XNH/9rFA0

華城先輩が一番乙女だよね、わかります。
知識を知ってるからこそ羞恥心が生まれるんだよね。わかります。
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/22(火) 22:14:59.16 ID:rxnYxl2/O
耳年増って尊いよね
ギャルビッチが実は処女だったという夢のような感じが素敵すぐる
華城先輩はセクハラされまくれば良いと思うの
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 01:13:36.39 ID:msSntneGO
しかしアンナと狸吉、親の目線から見れば別れた方が良いんだよね。
強姦で成立させた恋愛関係を肯定するのはヤバイ。それやったらアンナは強姦で成功体験を得てしまう。下手したら狸吉と子供を作ってその子に教育として強姦を働くかもしれん。
親なら反対するに決まってる。世間体だけの問題じゃない。
レイプから始まる恋?普通は無いですよ。普通なら。

あ、不破さんの話は普通に読みたいです。
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 01:48:18.08 ID:o6hf/Cgn0
多分間違ってるのは親子共々話し合う気がないところだと思う、問答無用で金で解決しようとしてるところが
父親の方は、アンナ先輩が育ったのは奇跡って確か本編でも言ってたね
このアンナ先輩とたぬきちは別れないとあかんのは確か、けどたぬきちは責任感じてるからなぁ
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 02:15:08.62 ID:o6hf/Cgn0
まあアンナ先輩も、今じゃ殆ど仇敵みたいに両親(《育成法》)を見てるから、話し合えばなんて無理なんだけどね
不破さん読みたいです
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/23(水) 13:52:15.98 ID:TT0vQFCHO
アンナ先輩がソフィア達と話し合えないのはしゃーない、まだ未熟な女の子だもの

でもソフィア達までそんなじゃダメでしょ
ソフィアは子供の都合のいい部分しか見たくない、だから今のアンナ先輩と話し合えない
子供はみんな純粋で可愛い、それでも悲劇が起きるのは悪い大人や性知識のせいって思ってる
産まれながらの悪も中にはいるんですぜ、お嬢ちゃん
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/24(木) 15:33:48.00 ID:9NE0O72D0
どこまでいっても親は子供に理想を押し付け、そんなだからラブホスピタルなんてモンが作られる
ソフィアは私欲が入ってないだけ金子玉子よりはマシだが
342 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/26(土) 04:07:32.14 ID:1ADphy2e0


 様子を見に行ったけど、まだ不破さんは寝ているらしく、月見草も休んでいるとのことだった。

「早乙女先輩は、いつもの通りですね」

「そうでもないぞ。アンナが入ってきたからのお、これからが楽しみじゃ」

「余計なこと言わないでくださいよ」

「なんじゃい、信用しとらんのかい。こういうことはの、自然に発展してこそじゃて」

「???」

「なんじゃ、わかってないのは奥間の方ではないか」

 ケッケッケと笑う様子は、ちょっとした座敷童っぽく見えなくもない。実際はデバガメなんだけど。

「アンナはお前と別れないためならなんでもするぞ。“なんでも”じゃ。せいぜい、気を付けるんじゃぞ」

 そういうと、またスケッチに入る。この状態になると何の耳も持たなくなるので、不破さんを起こさないように外に出た。

 何しようか悩む。あの道場っぽいとこに行ってもまだ女子は何かしてるだろうし、手切れ金のこともある。誰かに相談したいけど、誰がいいだろうか。

「撫子さん、いるかな」

 女将だから仕事きついかなと思いつつ、一応聞いてみると、存外簡単に時間を空けてくれた。

 人に話を聞かれない別室に移り、手切れ金のことを話してみる。

「錦ノ宮夫婦、そりゃ愚策に出たね」

「ですね、そんなことでアンナ先輩が諦めるわけがないのに」

「お前はどう思ってるんだい、あのアンナって子をさ」

「見捨ててはいけないと思っています」

 即答した。

 もし見捨てたら、それは《育成法》の被害者であり加害者である人を見捨てたことと同じだ。

「そうじゃない、男と女としての話さ。あんた、色んな罪を犯したアンナをパートナーにする気かい? いや、できるのかい?」

「…………」

 率直すぎるほど率直に言われ、言葉に詰まる。 

「錦ノ宮夫婦は愚策に出たけどね、あんたとアンナはくっつけてはいけないと思うのは親心さ。加害者と被害者の関係なんだ、綾女がアンナと同じことをしたらあたしもそうしてるね」

「でも、知らなかったんです、アンナ先輩は」

「そうやってずるずると傷つけたくないから言い訳を作っていく気かい?」

「僕は……僕には、責任がありますから」

「……そうかい」

 撫子さんは、心なしか感傷的に苦く笑った。

「あんたも難しい子と抱え込んだね」

「かもしれません。だけど、それでも」


343 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/26(土) 04:08:02.60 ID:1ADphy2e0


 ――見捨てたくない、という気持ち。それだけは、アンナ先輩に確かに抱いている思いで。

「アンナを《SOX》に入れたのも、どう転がるかね」

「…………」

「おい、訊いてるんだよ。答えな」

「……不安定には、なっていると思います。アンナ先輩だけじゃなく、ほとんどみんなが」

「ま、この前まで最上の敵が二重スパイなんて爆弾抱えていたら、普通だわな」

 ……それだけなのだろうか。それだけでいいのだろうか。

 撫子さんがこっちを見ていた。

「なん、ですか?」

「いんや」

 撫子さんは、やっぱり苦く笑って。

「難しいね、こればっかりはね。正直、子供だけでは無理な話かもしれないさね」

「……母さんとも相談します」

「それがいい。まあ、まず別れろって言われる覚悟はしときな」

「……はい」



 ピピピピピピピピピ



 『アンナ・錦ノ宮』と出ていた。

「あ、はい、もしもし」

『もしもし、奥間君。先ほどの場所に来ていただけませんこと? 皆さんジャージに着替えましたので』

「あ、早かったですね、今行きます」

 ピ

「わざわざ時間取っていただいて、すみませんでした」

「いいよ別に。こればっかりは、子供の手に余りそうだしね。まあ大人でも難しいことではあるけどもさ」

「やっぱり……そうですよね」

 撫子さんの言葉を胸に、先ほどの離れに戻る。

 あーあ、子宮回帰できればいいのになあ。胎児だったころに戻りたい。


344 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/26(土) 04:08:44.36 ID:1ADphy2e0


 アンナは愛しい人の様子がおかしいことにすぐに気付いた。

「どうしたんですの? 沈んでらっしゃいますわ」

「あー、その……なんというか。……さっきの、ほら」

 両親のことを言っているのだと思った。抑えきれない気持ちが湧き出てくる。

「……!」

「わたくしは、奥間君以外はいらないですわ……そして“悪い子”になるって決めましたの」

 ふふっと、呼気とともに笑声が漏れる。それは笑みのようで笑みでないことに、自分では気づかなかった。

 ただ、両親のことを考えると、『奥間君とわたくしを引き裂く敵』のことを考えると、

 ――唾液を飲み込んで、意図的に気配を柔らかくする。そうじゃないと、すべてに手を出してしまいそうだった。

「綾女さん、何か壊してもいいものはありません?」

「……壊してもいいもの……」

 綾女でもぱっとは思い浮かばないようだった。なら仕方ない。

「ああ、いえ、ちょっとだけストレス解消にしたくて。ないなら大丈夫ですわ」

 奥間君の方を見ると、すぐに意図を察してくれる。じゅん、と下腹部が熱くなる。前に借りた部屋をもう一度お願いしようか、と思ったところで、

「アンナ、ちょっといいかい?」

「? 撫子、どうしたの?」

 女将の撫子が現れた。様子を見ていた全員が撫子に注目したのを見て、

「鬼頭慶介からの招待状だよ」

「!」

 全員が招待状とやらを見てみる。
345 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/26(土) 04:09:13.50 ID:1ADphy2e0


「Show Time Village?」

「怪しすぎて何が何だかっスっけど」

「あたしには意味すらわからないぜこれ」

「男女ペアで。実質アンナと狸吉ね」

「これは何なのか、撫子さんはおわかりですの?」

 どうやら何かのイベントらしいということしかわからない。しかも会員制のVIPチケットらしい。ただそう書いてあるだけだったが。

「ここではね、身分もどこの組織に所属してるかも関係ないんだよ。顔がわからないようにするのが条件だけどね」

 はあ、と撫子が溜息を吐く。

「隣の隣の街さ。今日の19時から、ね。見るだけでもいいし、参加してもいい、相手も参加者の同意があれば変えていい、そういうところさ」

「それってまさか」

 PM無効化を綾女さんがして、

「SEXするためだけの……!?」

「そういうことさ」

 撫子は苦い顔だった。自分も似たような顔になっていたと思う。

 アンナにとって性は愛する人とのコミュニケーションが前提にあって、見知らぬ人間と快楽を追求するためのものではない。知った以上は余計にそう思う。

「止めましょう、アンナ先輩」

 即座に愛しい奥間君が判断した。

「下らないですよ、罠に決まってます」

「奥間君の言葉は、とてもうれしいですわ。皆さんも、同意見ですの?」

 ゆとりや鼓修理は呆れている。判断は《雪原の青》に任せた、無言でそう主張していた。

「何時がタイムリミット?」

「18時には出ないと間に合わないね。まあ別に遅刻しても構わないようなイベントなんだけどもさ」

 今が16時とある。

「一時間、時間をちょうだい。それまでに決めるわ」

 アンナはきょとんとしてしまう。

 《雪原の青》もきっと奥間君と同じ考えだと思っていたから、違う意見なのは、意外だった。


346 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/26(土) 04:35:35.57 ID:1ADphy2e0


 僕はすぐに華城先輩を問い詰めた。

「どういうことですか、華城先輩!」

「まだ何も決めてないでしょ」

「それがおかしいんですよ、罠に決まってるじゃないですかこれ!」

「あー、あたしも同意見だぜ、綾女」

「あのクソ親父のイベントですからね、罠でなくても怪しすぎるっス」

「ここでノーと言えばアンナと慶介の繋がりが脆くなるわ」

「まあ、そうですわね。おそらくこれは、『わたくしがこの場に《SOX》を呼べるか』という試験でもあると思いますの」

「……僕達にメリットがないじゃないですか」

「メンバーの顔の隠し方の程度にもよりますけど、財界や政界の主要人物ならわたくし、多分わかりますわ。目を隠してる程度なら何とか」

「その割には《雪原の青》の正体とかわからなかったっスね」

 鼓修理のあてこすりに、

「綾女さんや奥間君だとは思わなかったんですもの」

 ちょっと自信なさげになってしまう。本来は観察力ある人なんだけど、思い込みが激しいので何とも言えない。

「でもそんなイベントに出席してる連中の正体が一人でもわかれば、これは朗報よ」

「まあ、あのクソ親父は関わっていることはわかったっスけどね」

「アンナが嫌ならいいんだけど」

「僕の意思は……?」

「できれば参加してもらえないかしら。キツイ場面もあるかもしれないけど」

「わたくしは構いませんけど」

 アンナ先輩は小首をかしげた。

「とりあえず顔隠しには奥間君のトランクスを借りて」

「それは決定なんですね……」

「だって、わたくしの髪は目立ちますし、ウィッグも用意するには時間が足りないんですもの」

 まあ、確かにアンナ先輩の容姿は目立つけれども。絶対趣味入ってるだろ。

「え、僕も《SOX》スタイルで?」

「えっと、『顔が隠れること』『偽名を使うこと』が条件みたいよ」

「パ、あれ用意してないんですけど……」

「じゃあサングラスとマスクでいいわね、《SOX》と喧伝する必要もないんだし」

「結局行くんスか?」

「みたいですわ。まあこれぐらい乗り越えられないなら、わたくし共ももっとひどい罠にはまって終わり、そういうことですわ」 

 アンナ先輩の軽く、だけど自信にあふれた言葉に、もう不平の言葉は出なかった。

347 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/26(土) 04:39:10.32 ID:1ADphy2e0
>>350
アンナ先輩の二つ名、『雪原の青』的な感じでお願いします。

ゆとりはペニス@マスターってあるんですけど一応。鼓修理はないですよね? 記憶にないだけでしょうか。

本来はない予定でしたが、ちょっとやってみたかったイベントです。


こういう性規制がされたら、絶対こういう裏でのイベントが出てくると思うんですよ、禁酒法みたく裏で出回るものです。
348 : ◆86inwKqtElvs [sage]:2020/09/26(土) 07:14:53.81 ID:1ADphy2e0
安価下

人いないんだった(ノ≧?≦)☆
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 09:57:42.77 ID:ZiP5HCOsO
アンナ先輩の二つ名?
厨二っぽいのが良いんですよね?

それなら『獣愛の飴』で。
(じゅうあいのあん)

>>1的にもっと良さそうのあったら、そっちでOK。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 10:35:33.52 ID:HsBKuFXK0
獣欲の銀愛《じゅうよくのシルバーラブ》

うーんラブマシーンとかぶるか

気に入らないなら安価したでok
351 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/26(土) 17:21:39.58 ID:1ADphy2e0
皆さんがいいなら>>350でいいですか?
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 17:27:27.26 ID:yujQg04dO
いっそ、【逆姦獣(ぎゃかんじゅう)アンアン】ってのはどうよ。
アンナ先輩ならどんな名前でも名前負けしないから困る
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 17:32:08.35 ID:yujQg04dO
>>351
ごめん、来てたの気づいてなかった。
作者さんがその名前でしっくりくるなら、こちらからは何も言わない。>>350本人が別の名前を望んでいるなら違うかもだけど、今のところ何の反応もないしね。
自分が考えた名前採用されなくて残念って気持ちはあるけど、そんなの安価ものじゃ良くあることだし。
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/26(土) 18:16:57.83 ID:Dy3byLkG0
移動中だからID違うかもだけど、>>350GETした者です
自分は使ってくれたらそりゃ嬉しいな、作者がいいならさ、あんま安価取ったことないしw
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/27(日) 15:51:43.26 ID:rL5XD5y+O
乱交パーティー会場って…

わざわざ隠れてやるくらいなら、海外でヤリまくれば良いのに
356 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/28(月) 22:48:57.36 ID:TwDEMAj70


 僕はサングラスと帽子を持っていき、アンナ先輩は僕のトランクスを持ってタクシーに乗った。それでいいのか。

 降りた場所で地下に案内され(なんかエレベーターの操作盤をややこしい起動方法を使って表示のない階に降りてた)そこで顔を隠すように言われ、帽子とサングラスにトランクスと訳の分からない組み合わせでVIPルームに入る。

「やあ、ようこそ」

「こんばんはですわ。今日はどのようなイベントなのでしょう? わたくし、とても楽しみですの」

 本心と表情が乖離した駆け引きは、僕も苦手だ。どちらかと言えば情に訴えるタイプだしね。アンナ先輩はトランクスで見えないけど、声音は涼やかに笑っている。

「今日は特に……えーっと、偽名なんだっけ?」

「獣欲の銀愛《じゅうよくのシルバーラブ》ですわ」

 ちなみに華城先輩が一秒で名付けた。アンナ先輩がいいならいいけど、いいのだろうか。

「今日はね、趣向が特別なんだよ」

 カーテンが開かれる。カーテン? 地下でカーテン?

 開かれた窓には、上から見渡せるようになっていた。



 そこにはボンテージ服の男女がいろんな方法で痛めつける、いわゆるSMプレイをしていた。



「わざわざ日本でやらなくてもいいのにねえ。ま、今は日本を離れるのが難しい情勢なのはあるけど」

「こんなものを見せてどうしたいんですか?」

 音が聞こえないため、動いている姿だけだったけど、それでも50人ほどはいるだろうか、それらが一斉に、しかも倒錯したプレイをしている姿は、正直なところおっきしていた。

「《センチメンタル・ボマー》?」

 咎める声が聞こえるけど、仕方ないじゃない、だって絵ですらこんなに厳しく取り締まられているこの世界で身近に! こんなに! 発情している人間がいる!

「なんで性はダメなんだろうね。人間は気持ちよさを追求する生き物なのにさ。あ、君たち、ここ、入ってみる?」

「……なぜそうなりますの?」

「君たちの世界を広げる必要があると思ってね」

 君たち、と言っているが、これは僕じゃない。アンナ先輩に向かって言っている。

 でも正直に言うと、これに似たことは結構してるんだよなあ、僕たち。

 なんだかんだでアンナ先輩も発情した人間を見て、うずうずしているのがわかる。

「大人は卑怯だよ」

 慶介の自嘲に満ちたような、不思議な声だけが、非現実的なこの空間に響く。

「あとで動画取られていても困りますわね」

「それはない。それをするとこのパーティーの信用がガタ落ちだからね。僕の場合はたまたま近くに来ていた君たちへの、純粋な好意さ」

「…………」

 淫獣モードのアンナ先輩が吟味しているのがわかる。あと慶介、アンナ先輩のビーストモードを直接は見たことはなかったのか、だらだらと汗をかいている。アンナ先輩から、くちゅ、くちゅと鼠径部から音がしている。

「乗り気、みたいだね?」

「……《センチメンタルボマー》、わたくしは今ここで帰っても何の収穫もないと考えますわ」

「見学だけでもOKだよ」

 つまり参加したいんですね、わかりました。

 ちょっと僕もこの空気にあてられて、おかしくなっていたんだと思う。でもしょうがないじゃない、狂うよこれは。


357 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/28(月) 22:49:51.40 ID:TwDEMAj70

 さすがにその姿じゃ空気が壊れるとのことで、着替えることになった。僕は革のパンツに仮面、アンナ先輩は、ボンテージ服に仮面とウィッグだ。アンナ先輩の銀髪は目立つからウィッグは必要不可欠とのこと。

 ぴっちりとした素材に、チャックが上からついていて、局部を露出させられるつくりになっている。昔の人は良く考えたよなあ。

「お待たせしましたわ」

「…………」

「やっぱり、似合いませんか……?」

 ウィッグがあるので印象が違うが、妖精のように整った顔立ちも完璧なプロポーションも、仮面やボンテージでは隠し切れなかった。上品さもあって、不思議な存在感がある。

「綺麗、です。とても」

「……もう」

 そこでウェイターらしき人間が、ドア前で説明を始めた。

「ではご案内いたします。当パーティーの参加は初めてでしょうか?」

「はい」

「パートナーを変えるには合意が必要となります。あまりありませんが、断ってもしつこいようでしたら当スタッフをお呼びください。こちらも見張っておりますので何かあったら駆け付けます」
 
 警備員がいるのはわかっていた。明らかに雰囲気の違うガチムチな野郎がいたからね。
 
「道具を使いたい場合はあそこのバーに貸し出しを申し出てください。無料で貸し出しております。使い方がわからない場合は、バーテンダーにお聞きください。ドリンクはお二人の場合はソフトドリンクのみと伺っていますが、よろしいでしょうか?」

 はい、と頷く。そこだけ法律順守かよ。慶介の価値観もわからねえな。

「以上となります。ご不明点はございますか?」

「いえ、わからない時はまた伺いたいと思いますわ」

「かしこまりました。では、ごゆっくりお楽しみください」

 そして、扉が開く。


   *


 むせかえるほどの艶香が、まず鼻を直撃した。なんというのか、下半身に直接響く匂いだ。

 初めての客は珍しいらしく、特にアンナ先輩は雰囲気を変えても何か格のようなものが違うのが皆わかるらしく、注目が集まる。

「あれ、使いたいですわね」

 ……天吊りの鎖だった。そりゃそうですよねー。

「先、バーいきませんか?」

「いらっしゃいませ」

「スポーツドリンクを二つ。それと、あの鎖は使えますの?」

「はい、只今ご使用いただけます」

「じゃあ、これと、……これは何に使いますの? あとこれは?」

 質問攻めにあっても表向きはバーテンダーの職務をこなし、いくつかを借りてくる。それらをまとめて袋に入れて、

「じゃあいきますわよ」

358 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/28(月) 22:51:09.12 ID:TwDEMAj70


 アンナ先輩、なんだかんだでいつもより昂っているらしい。僕は手枷を付けられ、天井に吊るされる。まだ両足がつくぐらいの高さだ。

「ふふふ……」
 
 袋から取り出したのは、……家でもおなじみの羽箒だった。

「ひっ」

 羽箒で僕の乳首を撫でる。思わず変な声が出た。

 撫でながら僕の革のパンツのジッパーを下すと、ぼよんと僕の愚息が飛び出す。

「美味しそう……」

 家ではもう少し焦らすのだけど、今はアンナ先輩も興奮していて、あっという間に僕の愚息はアンナ先輩の口の中に吸い込まれた。



 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ!!



「はあ、ああ、出……!」

「まだですわ」

「痛い!?」

 見ると、根元をアンナ先輩が握りしめていた。

 アンナ先輩が視線だけで、鎖の操作する人に指示する。


 きり、きり、きり


 鎖三つ分上がって、つま先立ちになる。ゆらゆらと揺れる感覚が不安で、怖くて、それがスリルとなる。

「そこでいいですわ」

 鎖が止まった。

 アンナ先輩のクロッチの部分は開いていて、愛の蜜が駄々洩れだ。

 アンナ先輩の局部が、僕の愚息に押し付けられる。豊かな胸部も、革越しに伝わるとまた違った感触になる。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 アンナ先輩が僕の唇を奪うと同時に、僕の愚息がアンナ先輩の中に入る。




 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ!!



「ふ、ふうん、あ、ん、んんんん!!」

「はふ、あ、あ、れ、れます!!」

 アンナ先輩が、視線で笑った。

 ゾクゾクとその視線に快感が来て、同時に発射する。

 抜くと二つの愛の蜜が交じり合ったものがこぼれ、そのこぼれたものを指ですくうと、アンナ先輩は舐めた。

 そしてもう一回、今度は口で僕の愚息を舐めると、今度は位置を調整しながら挿入れなおす。

 揺れる鎖は不安定で、それが感覚としてアンナ先輩は好きらしく、ゆらゆらと揺れる。

 右足を上げ、僕に巻き付ける。

 アンナ先輩の笑みが笑いから嗤いに変わった。

「さあ、存分にイッてくださいまし……!!」

「う、う、あ、あ、あ!!」

 ――連続で二回、放つ。でもまだ足りない。アンナ先輩を味わいたい。僕からアンナ先輩をイカせたい――

359 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/28(月) 22:51:58.63 ID:TwDEMAj70


「……ベッドはありますの?」

 鎖を操作してる人に聞く。空いてるベッドを指示されたので、そちらに向かう。

 アンナ先輩から抜いても、まだ息子は勃ち上がったままだった。

 ベッドに座ると、アンナ先輩が上から乗っかる。対面座位の姿勢は一番のお気に入りだ。当たり前のように僕の息子はアンナ先輩を刺した。

「ううん……!」

 刺激が足りなくなってきたのがわかったので、「何か袋にありますか?」訊いてみると、

「排泄孔に、入れるためのものが入ってますわ……」

 袋を探ると、長さ25センチはあるアナルパールだった。横幅も三センチはある。

「え、これ入れるんですか?」

「ダメですの?」

「……いえ、せっかくだから試しましょうか……痛かったら、言ってくださいね」

 どうせ指で弄るつもりだったし、アンナ先輩なら大丈夫だろう。多分。

 ローションなんて贅沢品がついてきたので、アナルパールにかけ、少しずつ挿入れていく。

「い、ひ、やん、あ、あ、い、やああああん……!」

 全部入りきったころには、アンナ先輩の顔は法悦しかなかった。

 アンナ先輩の腰を持ち、上げて、落とす。それを繰り返す。

 アンナ先輩が体重が一点にかかるようにしてくれているので、衝撃が凄い。自分も下から突き上げる。革の隙間から舌を入れ、胸部の先端を啜る。

「はああああああああんんん……!」

 がくがくがく! と腰が揺れ、「ぐ、搾り、取られる……!」びくびくびく!と中の壁が収縮し、僕の息子を搾り取ろうとする。けど三回はイッた僕の息子は満足しなかった。

 下からの突き上げを止めない。

「あ、ひい!?」

 アンナ先輩が連続でイく。こうなるとアンナ先輩は止まらない。ふと、何かのスイッチを見つけた。

「こ、これなんですか?」

「あ、それは……あ、あ、い、ま、うしろ、の、スイッチ、ですわ……!」

 アナルパールのスイッチか。

 とりあえず、押してみた。



 ウィンウィンウィン



「はうう!!」

 アンナ先輩の締め付けが強まり、後ろ側の壁から何か異物感がある。どうやらぐにゃぐにゃと蛇のように蠢いているようだ。

「あ、あ、あ、あ、気持ちい、気持ちいいんですの!!」

 左手はたわわに実った胸部を揉みしだき、右手はクリトリスをつまんだ。

「ひ、いや!?」

 パシャン、と熱い水。潮を吹いたアンナ先輩はビクンビクンと痙攣しているのにまだまだ足りなさそうで、周りからの視線もアクセントにさらに嗤いながら腰を蠢かす。

 僕もそれに付き合っていいと思えるぐらいには、この空間に酔っていた。

360 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/28(月) 22:52:31.91 ID:TwDEMAj70


 慶介への挨拶もそこそこに、僕らはタクシーで清門荘に戻る。

 八回はイッた。全部アンナ先輩に搾り取られた。腰が痛い。

「その、よかったんですけど……、何か意味ありました?」

「行く前に言ったとおり、何人かの名前と顔は一致しましたわ……」

 まじかよ、そんな余裕なかったよ。

「利用できますわね」

 冷徹に笑う。変化する前は見たことのない顔で、僕は苦手な顔だった。

「アンナ先輩、」

「帰ったらどう話しましょう?」

「……あー、」

 単にSMプレイやりまくりましたじゃなあ。

「まあいいですわ……明日説明しましょう。今日は奥間君も疲れましたでしょう?」

「あ、はい、ものすごく」

「不破さんの状態は気になりますけど、明日は帰らなくては。……ふふふ、奥間君」

「は、はい」

「やっぱり、わたくし、“悪いこと”が好きなんですわ……とても、よかったんですの」

「…………」

「……清門荘についたら、起こしてくださいまし」

「はい」

 眠ってしまったアンナ先輩を見て、僕は気付いた。

 そういえばアナルパール入れっぱなしじゃなかったっけ?

361 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/28(月) 22:53:53.69 ID:TwDEMAj70

書いてみたかっただけパート。なんかアンナ先輩のマンションとあんまり変わんないな。しいて言うなら、ボンテージ服のアンナ先輩は絶対最高です。
362 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:19:44.54 ID:Y9iAHKDp0


「何人か知っている人を見かけましたわ」

 帰った後、アンナ先輩はそう報告した。

 ちなみにアナルパールはやっぱり抜いてなくて、これは後で買取するらしい。

 不破さんと月見草は結局治らなくて清門荘専用の送迎者に乗せて帰ってもらってる。僕たちは今、電車の中だ。

「でも、そのこと誰にも言えねえんだぜ?」

「今は、ですわね」

「…………」

「綾女さんの心情的には反対のようですわね」

「秘密を握ってとか、そういうのはね。効果的なのはわかるんだけど」

「綾女さんらしいですわ」

「結局あのクソ親父の思惑がわからないままっていうのが悔しいっスね」

「わたくしを引き入れたいのでしょう」

「それと、乱交パーティーを見せられることに何の因果があるのかしら?」

「陥れたいのかもしれませんわね。わたくしを、とことんまで」

 若干鼓修理がばつの悪そうにつぶやく。

「うちのクソ親父がすみませんっス」

「鼓修理ちゃんは悪くないんですのよ。わたくし共の事情ですわ」

 妹に対するように、アンナ先輩は優しく笑った。

「闇堕ちしたアンナか、それはそれで絵になりそうじゃの」

 この人は、本当に何でも絵のモチーフにするな……。

「さあ、明日から学校よ。どちらも両立していきましょうね、奥間君」

「はい」

 ……これでいいんだよな?


363 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:20:37.02 ID:Y9iAHKDp0
ここから三月まで時間が飛ぶのですが、

せっかくなので掌編を一つか二つ。どちらも不破さん視点が入ります。
364 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:23:27.77 ID:Y9iAHKDp0

*アンナ先輩はゆとりからもらったアフターピルと、低用量ピルを現在は使用しています。


  1/16


 不破氷菓は科学者である。自分ではそう自負している。

 だが時に発明者と思われる節も多々ある。

 今回の依頼は――



「不破さん? ちょっと、ご相談がありますの」

 アンナ・錦ノ宮会長だった。化学部の部室にまで来るとは珍しい。

「どうしました? なにかありましたか?」

「ええ。ここ、人は来ないですわよね?」

「滅多に来ませんね。それで、どうしましたか?」

 なかなか用件を言い出さないのは珍しい。促すと、一枚の雑誌のコピーと思われる紙を取り出した。

「朱門温泉にあった、不健全雑誌のコピーの一部なのですけど……」

「ほう。拝見してよろしいのですか?」

「今はわたくしも《SOX》ですから」

 どういうわけか、この会長も《SOX》になってたらしい。その話はおいおい聞いていくとして、

「珍しいタイプの不健全雑誌ですね。グッズのカタログとは」

「そこに、トレーニングの話があるでしょう? それについて、相談したいんですの」

「ふむ」



『これで彼もあなたも快楽絶頂! レッツ膣トレ!!』



「《赤ちゃん穴》も排泄孔も、筋肉でできているので、トレーニングができるらしいですの。鍛えれば、わたくしも奥間君もさらに気持ちよくなれるらしいのですが……、鍛え方がわからないんですの……」

「会長は十分筋肉はあると思いますが」

 とはいえ興味深い話だった。この手の方向の知識は氷菓にはなかったからだ。

「まずはアンナ会長のク、おっといけない、CスポットやGのスポットの位置を測らせてくれますか?」

 カタログにある形を模倣することは難しくはない。ただこれは万人向けのものだ。せっかくだからアンナ会長にあった形にした方がいいだろう。

「え……、えっと、不破さんが、わたくしの局部に触るんですの?」

「いけませんか?」

「いえ……お願いしますわ」

 アンナ会長がスカートを下す。そしてショーツを脱ぐと、銀の陰毛に隠された性器が見えた。

 あくまでも無表情に、しかし興味津々に見つめる。以前は余裕がなくて見れなかったが、陰毛は銀なのか。手入れらしい手入れはしていないようだが、絡まったりせず纏まっている。

「そ、そんなに見つめないでくださいまし……恥ずかしいですわ……」

「失礼しました。触りますね」

 一気に大陰唇を広げる。「きゃ!?」クリトリスと膣口が見えた。ついでに愛の蜜がドバドバと落ちていくのも見えたが、これはいつものことだろう。

「あまりひくひくしないでくださいね」

「そ、そんなこと、言われたって……! ひん!」

 クリトリス、8mm、膣口までの長さ、約3.2cm

「測れましたよ」

 さすがに形状が特殊なためか、PMにも引っかからなかった。このまま3Dプリンターで型を作ってしまおう。

365 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:23:57.49 ID:Y9iAHKDp0


 作っている間に、もう一つ。

「排泄孔は、そうですね」

 カタログを見る。

「そもそも排泄孔は使ったことはありますか? 使ったならどの程度まで使いましたか?」

「……奥間君の突起物を……奥まで……」

「充分です、ありがとうございます。ならこの細いものを、せっかくなので20cmほどの長さと、1.5cmの連なりにして作ってみましょう」



 ガタンゴトンガタンゴトン



「できました。まず排泄孔から説明しましょう」

 排泄孔は傷つきやすいので、氷菓手作りのローションをかけ、「中に挿入れますね」「自、自分で入れますわ」アンナ会長が自分で、「んっ……」艶めかしい声を出しながら挿入れた。

 最後の部分は少しだけ大きく、2cmにして、さらにリングを付けている。

「どうですか?」

「……刺激は、あまり……」

「トレーニングですから刺激は念頭に置いていません。筋肉を絞っている意識はありますか?」

「ん、こうでしょうか? んん……!」

 ぎゅうと絞られるのが見えた。リングを引っ張る。

「きゃ!?」

 ずる、と抜けた。

「このように、抜けることがないようにするのが排泄孔のトレーニングです」

 そのまま挿入れなおす。抜き差しの感覚を得たようで、「ああ……!」愛の蜜がさらにドバドバとこぼれる。

「こちらも」

 クリトリスを覆う形状にトゲトゲをつけ、氷菓が指で確かめたGスポットの位置まで伸びる特殊な形状にしている。下の部分には排泄孔用のと同じ、リングがある。

「これは、Cの部分を広げて……このように装着します」

「ん、なんか、当たってないように思うのですけど……」

「締めれば当たるようにできています。締めてみてもらっていですか」

「あ、これ、中も、外も、両方、当たって、……!」

 ビクンビクン!とアンナ会長の腰が蠢いて、膣用と排泄孔用、両方のトレーニング器具が落ちた。

「まずは筋肉を締めるところを意識してみてください。会長ならすぐできるでしょう。明日、また来てください」

 まあそれ以上に、愛の蜜の処理の方が大変そうだが。

「これは……今までで一番辛いトレーニングになりそうですわ……」

366 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:24:48.37 ID:Y9iAHKDp0


「そんなものを作らせたんですか」

 アンナ先輩の家で、呆れて僕はそう言った。ちなみにいつもの天吊り状態で、僕はパンツ一枚の状態だ。

 そしてアンナ先輩は、そのトレーニング器具とやらを二つ着けているだけ状態で、

「それで、奥間君も頑張ってほしいことがありますの」

「……なんです…………っ――!?」

「これ。身に覚えがありますでしょう?」

 《鋼鉄の童貞》朱門温泉でもらってきた貞操帯だ。

 アンナ先輩が僕のパンツを剥ぐ。

「ちょ、ちょっと待ってください、先輩、それ……」

「10日、頑張りましょう? できますわよね?」

 アンナ先輩が優しい声で励ましながら、ビルドアップした僕の息子に1cm幅の革のベルトを付け、それだけでも射精できないのに《鋼鉄の童貞》を無理やりに付けた。

 これでもう、射精はおろか、勃起もできない状態になっている。

「ひ、ひ……う、あう」

 思わず漏れた苦しみの声も、アンナ先輩は恍惚のまなざしで聞いていた。

「ああ、愛に悶える声は、やはり素敵ですわね……! わたくしも耐えなければ……!」

 アンナ先輩はコツをつかんだのか、イッても落とさないようにはなっていた。ただ何度もイッているため、乳首が服にこすれるだけでイケてしまうようになっている。

 天吊り状態を解除された僕は、しかし不安しかなかった。

 鍵を見せびらかすようにひらひらと振りながら、しかしお互い10日間の地獄を我慢しなければならないのだ。



   *


「ふ、不破さん……いますの?」

 ぽたぽたと愛の蜜を垂らしながら、それでも内またで歩いてくるアンナ会長は、明らかに淫獣の目をしていた。

「一日で慣れましたか?」

「こ、コツは掴んだと思いますわ」

 そして奥間も射精管理されていることを知った。かわいそうに。

「エビ○スと亜鉛と整腸剤の組み合わせがいいらしいですよ。ドラッグストアで買えます」

「いいことを、聞きましたわ……うふふひっ」

「さて、診せていただけますか」

 前と後ろのリングを同時に引っ張る。「はあん!!」ビクンビクンと鼠径部を大きく振動させ、へなへなと倒れこんだ。

「……《赤ちゃん穴》に、指を入れてもいいですか?」

「え?」

「締りがいいか悪いかを判断するので。嫌ならば結構です」

「…………」


367 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:25:23.41 ID:Y9iAHKDp0

 浮気でないかどうかを判断しているのだろう。結果、浮気ではないと判断したらしい。

 氷菓はアンナ会長の《赤ちゃん穴》に指を一本、挿入れる。

「んん……」

「締めてください」

 ぎゅうと締まる。氷菓も自分で触ったことがあるが、それよりも格段に締りが良かった。

「充分じゃないでしょうか」

 快楽を与えるのが目的ではないので、すぐに抜く。

「奥間さんも幸せだと思いますよ」

「……限界まで挑戦したいんですの」

「……ふむ」

 床に落ちてしまったので、いったん、器具を水で洗ってから、もう一度挿入れなおす。「はふん……!」

「このリングに重りを付けます。少し、リングを引っ張りますね」

 くい、くい、

「ああん!」

「結構です。まずは、アンナ会長なら……」

 250gと350gの重りを、取り出し、250gの方を前に、350gの方を後ろに着ける。

「負荷は、確かに、大きい方が、筋力トレーニングには、なりますが……!」

 一気に重くなったので、辛そうだ。

「これを一週間、頑張ってみてください」

「い、一週間!? い、一週間もなんて、あああん!」

 ビクンビクンと痙攣した途端、ゴトンと落ちた。

「やり直しですね」

「はふ……!」


   *


 アンナ先輩に三つの瓶を渡された。これを毎日決まった量飲まないといけないらしい。

 おそらく精液を作るための材料だろう。これを飲み続けるだけでも理論上は5日で満杯にはなるのに、

「あん、ああん……!!」

 ビクンビクンとし続けるアンナ先輩を見続けても、勃起すら許されない。アンナ先輩は外でも学校でも(!)つけているらしく、その時は気を付けてはいるそうだが、やはりもじもじしてるらしい。そりゃそうだ。

「奥間君、これ、食べてくださいまし……!」

「…………」

 うん、これが美味しいことは知ってる。アンナ先輩の作る料理は僕とつながるようになってからは異物混入しなくなったし。

 だけど、明らかに滋養強壮を目的としているというか、これ朱門温泉秘伝のレシピじゃなかったのかよ。

 もうやけになってがつがつと食べる。お腹の底の方が熱い気がする。薬も飲む。

 アンナ先輩と一緒のベッドで、それぞれ器具以外は外して、裸で就寝、できるか!!とツッコミたい。

 もう僕のムラムラは、2日目で限界に来ていた。


368 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:26:26.08 ID:Y9iAHKDp0

 8日が経った。どうなっているだろう。

「あ、ああああんん!!」

 指への締まりが明らかに良くなっていた。奥も排泄孔もそうだろう。

「……400gと500g、一気に増やしてみますか?」

「あ、う、おねがいしますわ……ああ、これ、重いんですの!! お、お、あ、し、締めなくては……!!」

 さすがにきついらしく、イケばすぐにでも抜け落ちそうだ。

「奥間さんの様子はどうですか?」

「あ、ああああんん!!」

 ビクンビクン! ゴトンゴトン!

「あ、接吻しかしていませんの!! ああ奥間君の臭い、濃くなって、ああ、あと12日、わたくしの方が持つかどうか……!!」

 最初は10日と言っていたような気もするが、まあいいだろう。

「ふ、ふひひひひ!」

「…………」

369 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:26:54.69 ID:Y9iAHKDp0


 約束の、10日。

 滋養強壮にいいものばかり食べさせられて、帰ってきたら発情しっぱなしのアンナ先輩の隣にいて、僕はとうに限界だった。

「は、外してください! お願いします!」

「んー……、ふふ、やっぱりやめましたわ」

「え……?」

「ああ、いいですわね、その絶望の顔……!! ふふふふひ!!」

 気づいた。アンナ先輩は最初から10日で解放する気なんてさらさらなかったのだ。

「お、お願いします! は、外して、何でもする、します! だから、お願いします!!」

「……そうですわね、じゃあ」

 アンナ先輩が愛の蜜だらだら状態でM字開脚をする。器具だけが入った状態で、あとは裸の、最近の夜の状態だ。

「まずは、わたくしの器具を、両方抜いてくださいまし……口だけで」

「は、はい……!」

 リングがついているからそこを噛む。「!?」重た!? え、こんなの付けて毎日平然とした顔で学校行ってたの?

「ん……!」

 ずる、と前の器具が抜ける。後ろも同じくリング部分を歯で噛んで引っ張る。

「あああああん……!」

 びくん! と痙攣した。最近のアンナ先輩はイキっぱなしなのでこれがイッたのかはわからないけど。

「じゃあ、その指で、手で、口で、私の胸部や局部をこねくり回してくださいまし……!」

 口で愛の蜜を直接啜る。排泄孔に指を入れ、かぎ状に動かす。胸部を揉みしだく。

「はああああああああんんん!!! あ、あ、あ、指、入れてくださいまし……!!!」

 声も何もかもが全部が僕の五感全てを刺激する。もう僕は限界のところを綱渡りさせられている。

 痛い。勃起できない! いや、嫌だ、辛い!! 助けて、

「助けて、アンナ先輩、これはずしてぇぇえぇ!!」



「だーめ、ですわ」



 アンナ先輩が僕の貞操帯からはみ出た睾丸を揉む。より強く精子と精漿が掻き混ざり、精液が作られていく。

 思わずアンナ先輩の手首を握って外そうとするけど、力比べでアンナ先輩に勝てるわけがなかった。

 逆の僕の手を自分の《赤ちゃん穴》に誘導する。自然と中指と薬指を入れてしまう。

「!?」

 締まりが凄い。凄まじい。でも硬いわけじゃなく、ざらざらとした部分がちょうどいい弾力で跳ね返ってきて心地いい。

 ああ、いれたい、いれたい、いれたい!!

「あ、あ、あ、あああああん!!」

 潮を吹き、アンナ先輩は何回目か数えるのを忘れるほど、イッた。

 ――結局、鍵を開けてくれないまま。

370 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:28:07.17 ID:Y9iAHKDp0

「今日が、最終日ですか」

「ありがとうございます。いい経験になりましたわ」

 20日目。アンナ会長は今日は器具を嵌めてなかった。

 筋肉には休む時間も必要だという。柔道の経験もあるアンナ会長がそういうのならそちらの知識の方が正確だろう。

「わたしも今回はいいデータが取れました」

「ふふふ、今日は特に楽しみですわ……!」

「まあ、愛を育んでください。奥間さんが壊れない程度に」



   *



 僕はアンナ先輩が帰ってくるのをひたすら待っていた。

 かちゃ……

「!!」

「ただいまですわ。……ふふ。もうすでに裸だなんて……」

「あ、アンナ先輩、僕、本当に、もうだめで……!!」

「20日間。よく頑張りましたわ……奥間君」

 《鋼鉄の童貞》を外してくれた!

 ボン、と爆発するように、息子が天にそびえ立つ。

「ふわあ、いい匂い……!!」

「せ、先輩、最後まで、お願いします!!」

 最後の根元のベルトが、外してくれない。これがなければ射精できるのに!!

「さあ、仰向けになって……奥間君」

「あ、あ、」

 逆らうこともできず、ほんの少し押されただけで僕はベッドに仰向けになる。

「我慢のお汁が凄いですわね……! パンパンですわ。これが、わたくしの中に入るかと思うと……!」

「ひっ! お願い、止めて、先輩の、先輩の中、気持ちいいこと僕知ってるから!!」

「ああ、嬉しいですわ!! でも、まずはこっちから……!」

 SMパーティーから持って帰ったアナルパールを挿入れるように要求された。

 ズチュ、ツルン、ズルズルルル!

「ああ……、後ろが、いい感じに……!! さあ、本番といきましょうね……」

「アンナ先輩、お願い、ベルト外して!!」



 ズ、ズチュ、チュ、ズ、ズ……



「アンナ先輩、い、一気に入れて、このベルト外して!! ああ、締まりが! 前と全然違います!!」

371 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:29:00.23 ID:Y9iAHKDp0


「ああ、その表情、狂いかけのその表情、素敵ですわ……! くす、動きますわよ」

 ズ、ズ、ズ、ズ、ズチュ……

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」

 アンナ先輩はわざとゆっくり動いている。その代わり締め付けがぎゅうぎゅうと本当にすごかった。ちんこもげそうになるぐらい凄い。

 だからこそ、この膣内に出したい!!

「ああ、この20日間、奥間君がどうなるか、ずっとずっと楽しみでしたのよ……! その表情、本当に素敵ですわ……!」



 このまま狂わせたいぐらい可愛い――



「ああ、でも狂ってしまったら、色々これからが困りますものね。わたくしもどれくらい溜まったかが楽しみですし、外しますわ……その前に」

 ま、まだ……何かあるのか?

「奥間君が愛しているのは誰ですの?」

「あ、あ、あ、アンナ先輩、です」

「聞こえませんわ。もっと大きな声で」

「アンナ先輩です!!」

「いいですわ、いきますわよ!!」

 根元が、ぶつん、と外れる音がした。


 ズンズンズンズン!!


「う、」

 ズ、

「うわあああああ……………!!!!!」



 ズチュウウウウウウウ、ズチュウウウウウウ、ブチュウウウウウ



 まるで尿道口が裂けるような、射精感の時間と感覚を引き延ばしたような、押し出す感じ。

 身体中全ての血液が精液になったのかと勘違いするほど、僕の息子に力が集まる。

 それでも一回力を込めただけではイキきれずに、二回、三回と力を込めて、ゼリーを通り越して半分固体状になった精液を押し出した。

 この世の射精感をすべて集めたような、凄まじい快感だった。

「あん、どろどろですわ、ん」

 膣内に入りきらなかった分を、指ですくってアンナ先輩が舐める。

「ふわあああん……!!」

 ぎゅうううううと半固体の精液が搾られる。
 
「また、また、またイキます!!」

「いいですわよ、何度でも、何度でも……!! 今夜は愛の蜜を搾りつくしますわよ!!」

 一回目ほどではないけど濃い射精感の予兆に、僕とアンナ先輩は震えた。

 僕は動けない。アンナ先輩が搾り取る快感をただ享受するだけの存在になり下がった。

 ただアンナ先輩だけがそれを悦ぶように、舌が僕の耳を舐めた。

 僕の排泄孔にアンナ先輩の指が入っても、もう抵抗する気力は残っていなかった。



 あ、あ、あ、おおおおおお、ふわあん、ひゃん、いぎやああああ、おおおおおお!!!

372 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/29(火) 21:33:28.32 ID:Y9iAHKDp0

射精管理はアンナ先輩の判断により特別な月にのみ行われるようになったとさ。誕生月とか。どっとはらい。

バレンタインデーも書きたいなあ。

次回予告っぽいもの


    *


三月に入り、アンナ先輩に迫る「転校」の文字。

錦ノ宮夫婦に迫る、「離婚」の文字。

そしていまだに捨てきれない、狸吉の華城先輩への思い――

そして《SOX》としてのアンナの活躍はいかに!?


 こうご期待!
373 : ◆86inwKqtElvs [sage]:2020/09/30(水) 01:01:51.76 ID:KEfK2ub40
…………

おっきした人いたら挙手!ノ
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/01(木) 05:43:24.32 ID:5oj7niIKO
これは拙者も思わず前かがみでござるよ ノ

不和さんとのエッチなやりとりが最高すぎて
女の子同士でこういうのいいぞ〜

男の子同士だとこういうのできないからね
やっても狸吉の腐った薄い本みたいになっちゃうからね
375 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 12:38:19.86 ID:DfToxJPx0
えへへ、ありがとうございます。
番外編、行きます!
376 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 12:39:20.98 ID:DfToxJPx0

 2/13


 明日はバレンタインデーである。

 濡衣ゆとりはもちろん本命なんて渡せなかった。

「奥間君は苦いのと甘いの、どちらが好きですの?」

 人前では清楚で可憐にしか見えないアンナは、袖口を掴んで小首をかしげて聞いてくる。ここ《SOX》のアジトなんだけど。

「ビター……どっちかっていうとホワイトの方が好きですかね」

「え、精液? 精液好きなのって珍しい男ね! やっぱりBL……」

「違っげえよ、どう考えても明日のことだろうよ!!」

「こういうことには目ざといんじゃの」

「最近はイベントがないっスからね」

 第三次ベビーブームが来て、特別やることがなくなった。今はまだ『安心確実妊娠セット!』を配れていない都市に配布する段階だ。

「…………」

「…………」

 綾女とゆとりの様子を見て、はあ、と困ったように微笑するアンナは、しょうがない、とでもいうように。

「奥間君、これから女性同士のナイショの話があるんですの。すみませんが、席を外してくださる?」

「あ、はい。じゃあ晩御飯何がいいですか?」

「材料は大体あると思うので、お任せしますわ」

 今、アンナと狸吉は同居している。

 ゆとりはそれに、イライラしていない、とは言えなかった。

 今、すごく中途半端な位置にあるのに、二人はそれについて何も考えていないように思えて。

 そんなアンナは、ゆとりを見る。優しい笑みだったが条件反射的に体が強張る。

「ゆとりさんは優しいんですのね」

「え? えっと、そうなのか? だぜ?」

「以前の、変わる前のわたくしなら気付かなかったでしょうが。綾女さん、ゆとりさん」

 にこっと、聖女の笑みで。



「二人とも、奥間君のこと、好きですわね?」



 ブォフ!と飲んでたコーヒーを二人同時に吹いた。同時に鼓修理はさっと地階の方に逃げ、デバガメ画家は面白そうにカウンターから見ている。

「えっと、私達はその、えっと、好きと言ってもそれは」

「男女の仲としての好きでしょう? できるならば、わたくしの位置を望みたいでしょう?」

 いやそれはない。もう少し普通がいい、とは言い出せなかった。

 血に飢えた獣の目になってきている。

377 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 12:40:36.87 ID:DfToxJPx0


「不戦勝でいいんですの? わたくしと奥間君は確かに愛し合っていますけど、今は外的要因で引き離される可能性も高いんですのよ? その隙を狙わないんですの?」

「…………」

「…………」

「だから、言ったんですの。優しいんですのね、ゆとりさんも、綾女さんも」

 言葉とは裏腹に、女王のような、不遜な目で。

「勿論、わたくしは引き離されるつもりはありませんわ。そのつもりで準備もしていますもの」

「準備って?」

「貯金を投資で増やしています。今で1000万円ほどでしょうか。あと二倍か三倍にはして、マンションが一括で買えるぐらいがいいですわね」

 コイツ本気で何ができないんだよ……。

「ですが、わたくしもわかりますの。愛が受け入れられていない時、わたくしは熱暴走を起こしそうでしたわ」

 聞いたことがある。起こしそうではなくほとんど起こしていたらしいと綾女から聞いていた。

「告白の機会ぐらいは、与えてもいいかもしれない。そんな気分になっているんですの。そしてそのうえで奥間君がわたくしを選んだら」

 ゾクゾクゾク!と寒気がする。暴雪と獣の気配が混在して、背筋を這いまわる。

「それは愛の証明ですの。違うんですの?」

「……アンナにしては優しいじゃない」

「あら、自分が選んだ男性がモテること自体は、嬉しいことだと思いませんの? それに、奥間君が他の女性を選ぶなんてこと、万に一つもあり得ませんわ」

 つまりこれは。

 アンナにとっては、ゲームの一つに過ぎないのだ。

「〜〜〜〜! やってやらあ!」

「ちょ、ゆとり!」

「ホワイトチョコが好きらしいですわよ」

「聞いてらぁ!!」

「ちょ、ゆとり、口調がおかしいわよ!?」

 挑戦を受けるように、あるいは逃げるように、喫茶店を後にした。

 その後ろを、綾女が追いかけてくる気配を感じたまま。

378 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 12:41:05.05 ID:DfToxJPx0


(あわわわわわ……)

 場合によってはゆとりもしくは綾女が殺される。ゆとりはともかく綾女様が殺されるのは何としてでも避けたい。

 それが鼓修理の本音だった。

「お、お姉ちゃん?」

「なんですの、鼓修理ちゃんもお義兄ちゃんにチョコレート作りますの?」

「いや、作らないっス。もしお姉ちゃんが選ばれなくて、他の人が選ばれたらどうするの?」

「……何も」

「え?」

「嫉妬に任せて殺すのも面白そうではありますわ。ですがそれじゃ、――足りないんですの、きっと」

(あわわわわわ……!!)

「わたくしは我慢を覚えなくてはならなくて……ん、あ、」

 くちゅくちゅとスカートの中から音がしてきた……。

「ですから、奥間君の選択に従いますわ」

「…………」

「……ごめんなさい、変な話を聞かせましたわね」

「いや、その、鼓修理は大丈夫っスけど……お義兄ちゃんがアンナお義姉ちゃんを選ばなかったら?」

「わたくしは一度ならず、何度も間違えています」

「?」

 話が飛んでよくわからない。

「ですが、その間違いをすべて受け入れてくれると言ってくれたのが、奥間君なのですわ」

「……そう……」

「ですから、大丈夫。それに、本気で殺したりはしない、多分、きっと、おそらくは……んん……!!」

 ビクンビクンと腰が跳ねた。カップの取っ手がこするように握り潰された。

「……すみません、今日は18時まで警察署で特別講習があるので、そろそろ行かなくては。それでは」

 特別講習って確か、12月に行ったのと同じアンナを模擬犯人にした実践訓練だったか。



『知識さえあれば間違えなかった』



 アンナはそう信じている。それはある程度は正しいとは思う。

 けど、鼓修理が見る限り、アンナにはそういう素質があったとしか、どうしても思えない。性と破壊に悦びを見出す獣と、周囲に服従を強いる暴雪の女王の二つの素質は、どこに行き着くのだろうか。

 それをどう、あのクソ親父が見ているのかも、不安で仕方なかった。


379 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 12:41:38.32 ID:DfToxJPx0

「ふう」

 やはりお義母様との対戦は楽しい。もっとルール無用だったらいいのだけど、それでは遊びとしても面白くない。

 そう、今のアンナにとって、奥間の言葉以外はすべてが遊びだった。もっと言うならどうでもいいことだった。

 法律も倫理も親の言葉も、すべてがどうでもいい。愛さえあれば、奥間君さえいれば、他はどうでもいい。

 でもそれだと奥間君の負担もかかる。だから適度に息抜きを入れるよう、できる限り努力していた。この警察の特別講習もその一つだ。

「バレンタインデー×2月!!」

「? ああ、《羅武マシーン》さん」

 正直こういう二重スパイも、嫌いじゃない。比重は今でこそ《SOX》に傾いてはいる。けど条件次第では自分は裏切るだろうとも思っている。

 それが奥間君のためになるなら、自分の欲望をかなえるためなら。

「何か御用でしょうか?」

 《羅武マシーン》はスーツを着て、一見そこらのキャリアウーマンといった感じだ。

 並ぶと《羅武マシーン》が録音機器の類を持っていることもあって、マスコミ関係者とインタビューされる側にしか見えない。

「定期報告はしているはずですけど」

 《雪原の青》がチェックした内容を送っているので《SOX》には害にもならない程度のものだが。

「慶介さんは足りないと仰っています。……離婚×結婚」

「今は《SOX》も活動を抑えていますから、これ以上を言われても……」

「何故抑えているのでしょうか? アイスボーン×溶岩」

「わたくしの存在でしょうね。大胆な行動に出るには、わたくしが信用されていないのですわ。それと単純な、情報不足……。!」

「何か思いついたようですね? アンナ×狸吉」

「ええ、思いつきましたわ。それが実現可能かはわかりませんので今は言えませんが」

「ぜひそれを――」

 暗がりに《羅武マシーン》を引きずり込み、喉を舐め上げる。胸部を握りしめ、腿と腿で《羅武マシーン》の腿を挟み、相手の動きを封じる。

「ひっ……!」

「《羅武マシーン》さん。わたくし、決してあなたのこと、慶介さんのことが嫌いなわけではありませんわ。

 だからこそ、申し上げますの。わたくしを、《SOX》を、《育成法》に潰れそうな子供たちを、甘く見てはいけない、と」

 もう一度喉を舐め上げる。今度は少し噛んでみた。薄く化粧が塗られているため、味が美味しくない。やっぱり奥間君がいい。

「あ、あ、化、け物……!」

「最近では聞き慣れましたわ……《育成法》はわたくしのような“化け物”を量産する法律ですのよ」

 暴雪の気配を吹雪かせる。

「壊しますわ。何もかも。まずは父母を、そして《育成法》を。わたくしの目的はあくまでそれだと、慶介さんによろしくお伝えくださいまし」

 暴雪の気配を消し、無垢な子供の笑みで《羅武マシーン》を離す。咳き込んでいるため背中をさする。

「両親はきっと離婚するでしょうね。まあ書類の関係があるので別居かもしれませんが。父が母のデモを許していませんから。母も折れることはないでしょうし。わたくしは一応母についていくつもりですわ。まあ両親次第ですが」

 これは《SOX》の連中にも言っていない、いわば錦ノ宮家の秘密だった。それを《羅武マシーン》は言外に理解したようで、

「わかり、ました。B×P」

「ごめんなさいね、少しはしゃぎすぎましたわ。ではまた」

 アンナは去って行った。《羅武マシーン》がポツリと漏らす。

「あの子は《育成法》の正負両方の象徴……その象徴が《育成法》を壊したら、いったいどうなるのでしょうか……?」

 初めて独り言で掛け算を使わずに一息に話すと、立ち上がって慶介に報告を試みた。

380 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 12:42:12.79 ID:DfToxJPx0

「鼓修理助けてくれ、お前料理あたしよりできるだろ!?」

『いやっス! 修羅場に飛び込んだゆとりがバカっスよ、なんでいちいち相手の挑発に乗るんスか!?』

「乗らざるを得ないだろ! あれは!」

『勝っても負けても地獄じゃないっスか!』

「いや、そうだけどさ……」

 途端にゆとりのトーンが落ちた。

「あの化け物女と思ってたアンナが、気付いてたとは思わなくてさ……綾女やあたしのことに」

 もじもじと、言葉を何とか紡ぎだす。

「ああでも言われないと勝負に乗らないだろうし、負けたら負けたで……気持ちに見限り付けれるかなって気もする……んだぜ」

『はあ、本当にバカっス。綾女様もたいがいですけど』

「え」

『喫茶店にいるっスよ。材料持ってくるならマスターが教えてくれるって』

 PMを切るのも忘れて、材料を片手に家を飛び出した。


   *


「何よ、まな板」

「言うに事欠いてそれはないんだぜ!?」

「まあ平等性ということでいいんじゃないのかの。アンナの料理の腕は皆認めるところじゃろ?」

「異物混入がなければね……」

「あの、マスター、その」

「はい」

「……教えてほしい、んだぜ、です」

「メニューは決まっていますか?」

 ぶんぶんと頭を横に振る。料理自体はともかく、そういったことが全然できないのがゆとりだった。

 綾女は既に決まって湯銭でチョコを溶かしている。白くどろどろとした、ダメだ思考を犯されている。

「初心者でもできるものをお願いだぜ……」

「じゃあとりあえず、湯煎しましょうか」

381 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 12:43:47.88 ID:DfToxJPx0

 2/14


 学校帰りに華城先輩とアンナ先輩から大事なようがあると言われ、喫茶店に来てみれば。

「「「…………」」」

 余裕の表情のアンナ先輩に、断崖絶壁状態の華城先輩とゆとりだった。

「今日はチョコレート対決ですの。匿名で三つ、一番おいしいものを選ばれた人が勝ちですわ」

 アンナ先輩を選ばないと全員が死ぬ奴じゃないですかーやだー。

「ではまずこれから」

 ちょ、マスター待って、心の準備が、

「……おお……」

 なんだろう、紗々っていうお菓子をハイヒール状にしたっていえばわかる? 白と黒の斜めの線でできたハイヒールだ。正直、食べるのがもったいない。

「次です」

 シフォンケーキだった。普通においしそうだ。

「最後です」

「…………」

 チロルチョコだった。

「最後なんだよこれ!」

「いいから全部食べなさい。あ、ザーメンっぽくて無理なわけ?」

「昨日と同じネタは通用しませんよ、いただきます!」

 ハイヒールチョコを食べる。うん、普通にチョコだ。パリパリした触感も行ける。

 シフォンケーキを食べる。甘い。でも作り手の温もりが伝わる気がする。

 チロルチョコは一口で放り込んだ。

「うーん」

 答えは二択なんだろうな。





下3レスで

ハイヒールチョコなら1
シフォンケーキなら2

多い方でちょっとだけルートが変わります。
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/03(土) 13:11:00.06 ID:+A9/Lgkv0
1
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/03(土) 15:30:05.69 ID:8ArxqhumO
1
384 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 16:01:26.65 ID:DfToxJPx0
あ、決まりましたね!
書いていきたいと思います。
385 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 16:16:36.05 ID:DfToxJPx0

「このハイヒールのチョコが、見た目も綺麗でかわいいなって思います」

 悩んでもどうにもならないので、素直に直感で答える。――誰だ、これは?

「私よ」

「え、華城、先輩……」

 それじゃ、この、シフォンケーキが……

「……あたしだぜ……」

 おおい!?

「昨日は忙しくて作る時間がありませんでしたの」

 いやアンナ先輩なら規制品でももっといいやつ買うんじゃないの? どういうこと!?

「お二人、奥間君のことが本当に好きみたいですから、チャンスをあげようと思いまして」

 え? え?

「ほら、綾女さん」

「う、うー、ち、ちんぽ! ま○こ!」

「もう、脇をくすぐりますわよ。えい、えい」

「きゃ、だからそこは第五の性感帯だって!! わ、わかったわよ、言うわよ」




「すすすす、す、好きよ。言わされてるとかじゃなくて、本当に……好きで……」




「でも」、と悲しそうに。

「アンナに勝てるわけ、ないもの」

 それが本心かはわからなかった。

 ただ、僕は。僕は、いったい、何を、どうすれば、

「…………華城先輩、僕は……ゆとりも、ありがとう。だけど……」




「アンナ先輩を変えたのは僕だから。だからアンナ先輩からじゃない限り、僕からは離れないつもりで……いる……」




 勝手に言葉を紡いでいた。

 いたたまれなくなってきた。二人とも、本当に泣きそうだったから。

 それをアンナ先輩が、嫉妬でも殺意でもなく、真剣に見ていたから。

「奥間君は、……まあいいですわ」

 何かを言いたそうにしているアンナ先輩は、別のことを話し始めた。


386 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 16:17:09.05 ID:DfToxJPx0


「綾女さんは『恋愛は自由』と言いますが、さすがにこの状態はわたくしの心が持たないので」

 くるんくるん、とケーキを切り分けるナイフを回す。あわわわわわわ、嫉妬心が持たなかったか。二人もぞーっとした顔をしている。

「わたくしが無理矢理この場を作りましたの。もしわたくしが振られていたら……どうしていたでしょうね」

 確実に監禁からの拷問コースですね、わかります。

「でも、奥間君は……わたくしのことを……」

 少しだけ、アンナ先輩は寂しそうだった。

 理由がわからず、「アンナ先輩……?」思わず呼びかけると、

「お二人とも、納得を今すぐしろというのは難しいでしょうが、今はこれでよろしいでしょうか?」

「アンナにしては強引ね」

 常に強引だった記憶しかないけど、華城先輩は変わる前のアンナ先輩を一番よく知っているから、きっとそうなのだろう。

「実はわたくし、4月を以って転校するかもしれませんの」

「え?」

「なんだよそれ?」

「首都に戻って来いと、両親がうるさくて」

 面倒そうだった。今のアンナ先輩にとって僕だけでいい世界ならば、両親の心配も偽善も保身もすべてが煩わしいものでしかないんだろう。

「それで、昨日奥間君のお義母様には了承を得たのですけど」

 やっと、アンナ先輩を視線が合った。ある種の決意めいたものがある、そんな感じの。

「来月、私とお義母様と一緒に、首都に行ってくれません? 両親も交えて、5人で話したいんですの」




「――――」




「狸吉!? 狸吉、しっかりしなさい!!」

「これは、その、きついぜ……?」

「結婚には反対していますが、必ずしも両親の許可は必要ないんですのよ?」

「大変! 狸吉が泡を吹き始めているわ!!」

「ちょ、アンナは黙ってろ、それ世間一般ではきついから、めっちゃきついから!!」

 ――三月まであと半月。

 しっちゃかめっちゃかな三月になりそうだった。


387 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 16:36:27.70 ID:DfToxJPx0


  3/14



 僕は三人に平等にお返しすると(アンナ先輩は余裕の表情だったのでいいのだろう、多分)二人とも一応は感謝してくれた。よかった。

 今日は卒業式。アンナ先輩が送辞を述べる。

 生徒会は今まで大忙しだった。轟力先輩の代わりの人材となると、あの人ああ見えて頭よく事務能力が高いので、代わりの人材となると全く持って困る。

 轟力先輩は号泣しながらアンナ先輩から花束を受け取ると、その日は旧三年生は解散となった。午後からは新しい三年生であるアンナ先輩と華城先輩が引き続き役職を担当する――と思いきや。

「わたしに生徒会長のオファーが来るとは、世も末ですね」

「ごめん、不破さんぐらいしかいないんだ」

「メリットがありません、お断りします」

 アンナ先輩みたいにずば抜けた能力を持った人なら、一年からでも生徒会長というのは務められるのだけど、基本は二年生から選ぶものであって、今年もそれに倣った形だ。

 本来ならアンナ先輩は推薦で一番いい大学を受けるため、受験には余裕があるはずなのだが、

「わたくし、首都に戻って転校するかもしれませんの」

 アンナ先輩が僕の言葉を引き継いだ。

「実務能力と生徒の人気、両方を持っているのは不破さんぐらいとみています」

「それはどうも」

「はあ。アンナ、やっぱり言っちゃう? ってかアンナは言ってるんだっけ?」

「ええ、わたくしが《SOX》の一員であることは話しましたわ」

「生徒会長を引き受ければ《SOX》に入れてもらえるとでも?」

 アンナ先輩と、そして華城先輩がにっこり笑った。

「その通りよ《蟲毒試験管》(ちゅうかんのおんな)!」

 《雪原の青》モードの華城先輩に、僕もパンツを被る。アンナ先輩も僕のトランクスを被り、華城先輩も三つ編みをほどきパンツを被った。

「……やっと話してくれましたか」

 まあ気付いているだろうな。陰毛一本からでも不破さんなら気付きそうだ。

「それで、その名前は何ですか?」

「え? 虫大好きっ娘でしょ? いい名前だと思うんだけど」

「サンプルに虫しか取れなかっただけで、別にハエちゃんたちが特別好きというわけでは」

「ちゃんを付けている時点で語るに落ちてるよ、不破さん」

「まあいいでしょう。そういうことならば引き受けます。ところで気になっているのですが、アンナ会長が転校、ですか?」

「まだ決まっていませんけども。明日、奥間君と奥間君のお義母様と一緒に、首都にあるわたくしの実家に話し合いに行く予定ですわ」

「…………」

 胃の痛い問題を思い出してしまった。でも避けては通れないことなのだ。排泄孔が裂けてはいけないけどね!

「その結果次第では、わたくしは首都に戻らなければなりませんの」


388 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 16:36:59.11 ID:DfToxJPx0


「ずいぶん急ですね。というよりは、アンナ会長がごねてると言った方が早いのでしょうか?」

「当たり前ですわ。……奥間君と引き離そうなんて、絶対に許されませんの」

 目には両親への殺意があった。この人、両親でも殺す気でいるよう。

「僕の母さんは、まあ仲介役というか。僕がまだ未成年だしね」

 ソフィアもアンナ先輩並みに体力お化けらしいし、母娘が喧嘩(物理)を始めたら止められるのが母さんしかいない。

「…………大変ですね」

 それしか言えないよねー。

「ところで不破さんはサイバー端末に詳しいですの?」

 唐突な切り替えに、「まあ普通の人よりは」と言葉を濁した。



「この機会に、父と母のサイバー端末から情報を盗もうと思っていますの」



「……なるほど、それは……」

 アンナ先輩の考えは華城先輩にも知らされてなかったらしく、深く頷いていた。

 今は家にあるのは昔のPCと違ったサイバー端末が主流となっている。企業だとそうでもないのが日本らしい。

「パスワードはわからないのですね?」

 アンナ先輩は頷いた。

「確かサイバー端末に詳しい友人が、ハッキング用のメモリ端末を開発していたように思います。出発はいつですか?」

「ぎりぎりまで延ばして、14時ごろでしょうか」

「今、連絡を取りました。今日の深夜、何時になっても構いませんか?」

「ええ、大丈夫ですわ」

「わかりました。できる限り急ぎますが、都市が遠いので時間がかかる可能性が高いです。設定も必要なはずですし、あとを残さないようにするプログラムも書いてもらわないと……」

「これはあくまでお願いですが、この機を逃したらわたくしも第一精麗都市と首都の行き来ができなくなるかもしれないので」

「善処します。連絡は取りましたので、今からその人物のところに行ってきます。《SOX》の件についても理解ある人ですから、ご心配なく」

「私も行くわ。場合によっては《SOX》の依頼という名目が必要になるかもしれないから」

「……わかりました。早速大忙しですね」

「じゃあ今日はこれで私と《蟲毒試験管》とは早退するわ。アンナと狸吉、お願いね」

 ……この書類の量、全部やるのか……。

 華城先輩とアンナ先輩、僕はパンツを脱ぐと、急いでそれぞれの仕事にとりかかった。

389 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 16:38:42.79 ID:DfToxJPx0

こ、これで国会図書館とかセクシャリティー・ノーとかに触れられる! ようになりました!

《蟲毒試験管》の二つ名、自分は一発で思いついたのですが、つまり私は好きです。
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/03(土) 16:51:03.04 ID:8ArxqhumO
不和さんってそんなに生徒に人気あるの?なんで?

顔が良いから?
391 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/03(土) 16:58:11.44 ID:DfToxJPx0
9巻の初めに「不破さん自身、支持率が高い」と公式に設定されているのです。なので私の設定ではないのですが、デモとかいろいろ指揮していたのでカリスマ性はあると思います。
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/03(土) 17:05:30.70 ID:w334XzvG0
たぬきちは意地でも『愛してる』と言わんな

奴ヶ森の指揮もしてたし、アンナ先輩とは違うカリスマ性はあるんじゃないか?
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/04(日) 01:49:47.10 ID:2iC/ctDH0
アンナ先輩のラスボス感がすごいのは自分だけか…?
394 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 14:12:57.83 ID:E76adJb10
ところで皆さん、狸吉の態度についてはどう思います?
アンナ先輩にかまけて華城先輩たちを無視しているように見えるか、それとも別の見方をしているのか、よければ教えてください
395 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 14:55:43.93 ID:E76adJb10


「間に合いますかね」

「何を気にしている、狸吉」

「いや、友達がさ、見送りに来てくれるってさ」

 今13:32。チケットは14:01。

 首都に入ると前歴(未成年者の前科のようなもの。不破さんには条例違反がある)を調べられることもあるため、首都に直接送ってもらうのは微妙だ。

 今ここで受け取れるのがベストなんだけど。男と女がイくのが同時であるのがベストであるように。

「あ、来ましたわ」

 不破さんが珍しく(なんとなく運動しているイメージがない)走ってくる。

「説明書というほどではありませんが、使い方はこの中に」

 紙袋を渡すと、さっさと帰って行った。

「……淡白だな」

「まあ不破さんはそういう人だよ」

 行動自体はアクティブな人なんだけどな。隈がいつもより3割増しだったし、徹夜したに違いない。感謝しないと。

「まあいい。用事が済んだならホームへ行くぞ」

 そして新幹線を待つ。

 僕にとっては久しぶりの首都だった。

396 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 14:56:21.06 ID:E76adJb10


 奥間善十郎、僕の父はテロリストとしての悪名が名高いが、その前は何と国会議員をやっていたのである。今でも信じられない。

 まあそうじゃなきゃテロリストとなってからじゃ善導課主任の母さんと結婚するには遅いわな。

 そんなわけで首都に生まれてから10年ほど、滞在していたことがある。母さんが首都浄化作戦に参加したり、僕とアンナ先輩が出会ったのもその時だ。

 まあ、そっからは風紀優良校最底辺の地域に、母さんいわく『左遷』させられたんだけどね。

 母さんだけ通路を挟んだ離れた席に座っている。アンナ先輩は窓側だ。

 母さんは眠っている。夜のことを考えると、今は休ませておこう。

「それで、なんて書いてありましたの?」

 不破さんの袋が気になるらしい。僕も気になるので開けてみてみる。

 見ると、メモリ式カードが二枚、入っていた。

『これをサイバー端末に刺せば、あとは自動で全てやってくれます』

 ひどくお手軽だな、おい。追伸、なんだ?

『メモリ式カード×サイバー端末で早乙女先輩がBLを考えてくれるそうです』

「…………」

「……わたくし、この概念がよくわからないんですの」

「アンナ先輩が腐ったらこの世の終わりです……!」

 僕の排泄孔が犯されるのはアンナ先輩の指だけでいいんです。よくはないけどそういうことにしておかないと仕方ないことって結構ある。

「奥間君にとって、首都はどんなイメージですの?」

「んー、あんまり覚えてないというか。父さんと一緒に卑猥なことしかやってなかった記憶しかないですね」

「好きだったんですね、お義父様のこと」

「そうですね。ヒーローでした。逮捕された時は荒れた、ってこの話前もしましたよね」

 横目で眠っている母さんを見る。

「母さんも、今は厳しいイメージしかないですけど。中学に上がってアンナ先輩みたいになりたいって言いだすまでは、もう少し優しかったですよ」

 そのあと軍隊並に厳しくなったんだけどね。

「……わたくしは……悪人の素性を、考えたことがありませんでしたわ。悪は悪、正義は正義だと、社会の規範に則った形での基準でしか考えられない人間でしたの」

 奥間君も知っての通り、とどこか自嘲的に話す。

「でもきっと、わたくしが捕まえてきた“悪”には、いろんなものが詰め込まれていたのでしょうね」

 奥間君、ともう一度、囁くように。

「“悪いこと”は“楽しいこと”でもありますわ。卑猥は、楽しいし、気持ちいいこと……。だからこそ守らなければならない女性や子供などの弱者もいるでしょう。でも」

 全てを切り離す《育成法》は、間違っていますの。

「奥間君は、《育成法》の撤廃を、手伝ってくれますか?」

「……はい」

 自信を持って言える。きっと華城先輩も頷くはずだ。

 アンナ先輩が《SOX》にやっと入ったような、気がした。


397 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 14:59:31.09 ID:E76adJb10
今日はここまでー
アンナ先輩が逆レに成功していたらのIFから始まった物語なので、ある意味アンナ先輩はラスボスですね。
アンナ先輩がどういう変遷を遂げるかという感じ。まあ趣味がかなり入ってるんで、何故か狸吉とはSMの関係になってる感がありますけど、そこはほら、二次創作なので気にしすぎないでください。
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/04(日) 15:42:44.87 ID:Aag/64K/0
たぬきちはアンナ先輩の二面性に気づいているのだろうか
そこらへん、僕のせいって考えてるっぽいけど、ゆとりやこすりは元から持ってたって思ってるし
華城先輩は描写少ないからわからんが、たぬきちよりかな
個人的には優しさを犠牲に羽化してしまってると思うな、つまり手遅れ
399 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 17:55:43.36 ID:E76adJb10


 アンナ先輩の実家はタワマンの一層を買い切ったものだった。すげえ。

 ソフィアは最後に会った時とは比べ物にならないほど憔悴していた。

「どうも、お邪魔します……」

「入ってください。何もないところですが」

 もちろん謙遜で、シンプルながら調度品は品よく並んでいた。アンナ先輩のマンションと、このあたり似ているなと思う。

「貴様の夫はまだなのか?」

「まーくんは少し遅れるそうです」

 本当に祠影をまーくん呼びしてるよソフィア!!

「お茶を飲みますか?」

「いただこう」

「わたくしも」

「……僕も」

 ソフィアが憔悴ぶりとは裏腹に手際よく紅茶を淹れていく。

(アンナ先輩は手伝わないんですか?)

(今回はお客とホストの関係ですから)

(?)

(招いた者が、お客をもてなすのは当然ですわ)

 金持ちの感覚ってなんか違うなって思った。

「どうぞ」

 音もなくソーサーに置いたカップを三人の前に置いていく。このあたり、アンナ先輩に受け継がれた躾が垣間見えた。

 アンナ先輩が……お誕生日席とでもいうのか、2:2:1の1のところに座っている。話の主役だから自然とそうなったのだろうか。

 僕と母さんが隣同士で、ソフィアが隣に一人分空けている。祠影の席なんだろう。

 本当は一列に四人ぐらい座れそうなソファなんだけど、自然とそういう並びになってしまった。

 かちゃ、という扉の開く音がした。

「すまない、遅れて」

「まーくん、遅いですよ」

「こちらは構わない。まずはお招きいただき、礼を言わせていただこう」

 母さんに合わせて頭を下げる。アンナ先輩は緊張はしていないが、どことなくつまらなさそうだった。

「アンナに秘密で手切れ金を用意したのは悪かった。だが被害者側から言わないとお前は別れないだろう?」

 うお、いきなり核心を付いてくるな。祠影は冷静に見えるが、逆に言えば僕に対する感情はわからない。

「わたくしと奥間君は愛し合っていますわ」

 にこりと笑う。牽制の笑みだった。

「愛は最も尊いもの。そう教えたのはお父様とお母様じゃありませんの」

「アンナ、これは愛じゃないんです。一方的な、ただの感情です」

 ソフィアが電話で何度も話したのだろう、言葉は選んでいるが余裕はなかった。

「狸吉はどう思う」

「ぼ、僕?」

 母さんにいきなり振られて、焦る。だけど言うべきことは言わないといけない。


400 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 17:56:48.40 ID:E76adJb10


「愛や恋は、正直僕には違いは分かりません」

 アンナ先輩がこちらを見る。情欲の獣の目。

「ですが、誰かが誰かの感情を一方的に否定することは、誰にもできないと思います。親子であってもです」

「君には被害者意識はないのか?」

 …………、

「正直、ショックでした」

 ああ、くそ、語彙力のなさが情けない。

「ただ早く知識を教えておけば、あんなことを先輩はしなかったと思っています」

「お父様とお母様は」

 アンナ先輩が、お茶を一口、音もなく啜った。

「正しいことだけを教えたら、間違いのない子供ができると、本気で思っていたんですの?」

「…………」

「間違いを起こしたわたくしを、許せませんか?」

「……それは、」

「奥間君は受け止めてくださいましたわ」

 優しい、愛おしい。そんな言葉がぴったりの視線を、僕に注ぐ。

「ですからわたくしは奥間君を信じますわ。お父様よりも、お母様よりも」

 アンナ先輩は微笑み、

「奥間君の間違いは、わたくしの間違いですわ。ただ、それだけですの」

「……アンナ先輩が間違えたのは、僕の責任でもあります。もっと早く知識を教えておけば……」

 言葉に詰まる。

「僕のとれる形で、責任は取りたいと思います。でも、あのリーダーにしたこととかは、また別の罪です。ただ傷つけたいがために傷つけた」

 アンナ先輩が、僕から視線を逸らす。

「自己保身のために更生する機会を、奪わないでください。お願いします」

「自己保身?」

 ソフィアが初めて、感情らしき感情をあらわにした。

「誰だって、身を穢されそうになったら、女性ならば怯えるか激昂するでしょう!! そんなことを指示したあの女を、許せません、親として許せません!!」

「ソフィア、落ち着け。話がずれている」

 母さんが訂正するが、

「なぜみんな、私がアンナの、子供のためにやっていることがわからないのですか!!? デモまで起こして、……」

「その件だが」

 祠影が口を挟んだ。正直もうお腹いっぱいなんだけど、多分ここからが正念場だ。

「私とソフィアは別居しようと思う。見解の不一致でね」

「私は許してません!!」

 祠影はソフィアを無視した。すげえ。

「離婚だと、今からだとアンナの進路に関わるからね。別居という形を取ろうと思っている。幸いというべきか、第一精麗都市にもマンションを借りているし、ソフィアとアンナが二人暮らしするには問題ないだろう」

「その話は聞いてませんわ、お父様」

 アンナ先輩が初めて困惑した。両親の離婚はアンナ先輩にとってあくまでどうでもいい事象だったのだろう。


401 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 17:57:52.80 ID:E76adJb10


「アンナには保護者が必要だ。それは奥間狸吉君には無理なんだ。わかるね?」

 言い聞かせるような言葉に若干の苛立たしさを覚えたけど、

「……はい……」

「保護者が必要だという意見には同意する。アンナはまだ未成年、子供だ」

 母さんが口を挟んだ。

「祠影さん、で大丈夫ですか?」

「好きに呼んでくれて構わないよ」

 意外にフレンドリーな人なのか、冷静さと爽やかさを両立させた笑顔だった。

「祠影さん、今のソフィアさんとアンナ先輩だと、衝突しか見えないのですけど……」

「僕はどうしても首都を離れられないんだよ。かといって、アンナは首都に戻りたくないだろう? 奥間狸吉君と離れたくはないからね」

「もちろんですわ、お父様」

「だから精いっぱいの譲歩なんだよ。アンナには保護者が“必ず”必要で、僕は“絶対”に首都を離れられなくて、アンナは転校は“あり得ない”。その三つを成立させるには、ソフィアを第一精麗都市のマンションに引っ越しさせるしかない。部屋数は足りているし、爛子さんというご友人もいる。それほど悪くはない環境だと僕は思う」

「…………」

「アンナ、どうだ?」

 母さんが聞く。一見、すべてが成立しているように思えるけど……、

「お母様と住むのは反対です」

「……何故?」

「奥間君と愛し合うことを、お母様は許してくださらないでしょう?」

 うわあ止めてくれ、そんな直球投げたら僕が死ぬ!

「あ、あ、当たり前です! そんな、卑猥な!」

「何故? 愛し合うこと、子供を作る行為は崇高な行為だと思いますわ。家の中ですし、卑猥でも何でもないと思うのですが」

 ふう、とアンナ先輩が溜息をつく。

「どうしてもここで、見解の相違が出るんですわ」

 ソフィアの第一精麗都市への引っ越し以外は大体話し合ってたわけか。


402 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 17:58:20.67 ID:E76adJb10


「わたくしは今、奥間君と同居していますわ」

「…っ! ……!」

 ジェスチャーで何とか方向性を変えられないかやってみたけど無理だった。

「奥間君とつながっているときのあの幸福感……!」

 欲情の目で、淫獣の目でこちらを見てくる。発情ギリギリ、この状況で発情できるってアンナ先輩すごいです。

「それが奪われるのは、愛し合っていることの証明をできないのは、嫌ですわ」

「いい加減にしなさい!!」

 バン、と机をたたき割った。……たたき割ったんだよ。

「あな、あなたは、自分の立場が分かってない! そんなわがままを言える立場にないのですよ!?」

「わがまま?」

 暴雪のダイヤモンドダストが見えた気がした。暴雪の、無理矢理に隷属させる女王の纏うオーラ。以前はなかった気配の変化に、僕以外全員驚く。

「わたくしは愛を貫き通したい、ただそれだけですわ。……それを邪魔するのなら、お母様も誰も彼も、要らないのですわ」

「あなたは、アンナは」

 ソフィアは泣きそうだった。

「何故そんなふうに変わってしまったのですか? そんな道理のわからない子じゃなかったはずです……」

「道理はわかっていますわ、お母様。ええ、そう。“悪いことは楽しい”という道理を」

 暴雪の気配のまま、アンナ先輩は微笑みを深くする。

「“卑猥は楽しい”ですわね、お母様」

「っく、この!」

 ソフィアがとうとう我慢ならずに実力行使に出た。だけど今のアンナ先輩も、両親を殺すつもりで反撃に出る。

 止めるのは母さんしかいなかった。



「止めろ貴様ら!!」



 よく通る声に、しかし場の混乱は収まらない。祠影と一緒に物陰に隠れる。

「アンナもソフィアに似てしまったな」

 祠影の疲れたような言葉だけが耳に残って、その場は解散となった。



403 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/04(日) 17:59:20.03 ID:E76adJb10
>>398
華城先輩の描写が少ないのは、華城先輩の下ネタ思考がトレースできないからです、すみません
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/04(日) 20:30:24.16 ID:R5F+yXsF0
ソフィアがアンナ先輩のとこに来ればいいのか、確かに

アンナ先輩は、いいラストが見えないなぁ、このSSでは
絶対別れる未来しか見えない

というか、アンナ先輩がたぬきちに求めているのって本来はソフィアがやるべきことだよね。なんでも受け入れてくれる母性ってやつ。たぬきちには無理だよ
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/06(火) 02:42:50.07 ID:igkmu0ajO
奥間くんはわたくしの母親になってくれるかもしれなかった男性ですわ!

うん、絶対に破綻する(断言)

あと狸吉の態度についてだけど、華城先輩達を無視しているなんて事は無いと思うよ
狸吉は狸吉のできる範囲でやれる事はやってるし、むしろこんな化け物と一緒にいてよく壊れないなと称賛されるレベル
もちろん、狸吉が華城先輩達と男女の契りや結婚の約束をしていてコレなら話は別よ?
だけど、違うじゃん
406 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 13:33:27.42 ID:OB+0Ky3Z0


「うーん」

 ふかふかした布団はアンナ先輩のマンションと同じなんだけど、枕が慣れてないのかどうも寝付けない。

 母さんと僕、一部屋ずつ客間を貸し与えられていた。ベッドがないけど、僕としてはそちらの方が何となく落ち着く。鎖で繋がれる心配がないからかな。

「ソフィアも殴り掛からなくてもいいのに」

 ただソフィアの対応も問題だったけど、アンナ先輩の挑発するような言動も大いに問題があると思う。

「今のソフィアとアンナ先輩が同居して大丈夫かな」

 祠影の言葉は正しいのだけれど、正しいだけのような気もする。なんというか、気持ちを考えていないというか、そんな感じ。

「奥間君」

「はいぃ!?」

 なんで、え、いつの間に!? 気配がなかった。

 薄いワンピース姿で、上気した頬。荒い呼吸。湿った水音がにちゃ、にちゃと聞こえてくる。

 結論:完全に発情しています。

「褒めてほしいんですの。わたくし、お父様とお母様のサイバー端末のデータを入手しましたわ」

「え、本当ですか!?」

「そう、それに……、その、お母様のこともあって、その、」

 ストレス発散したいんですね、わかります。

「でも、ここじゃちょっと……母さん達もいますし……」

「……そのスリルがいいんじゃありませんの? 不健全雑誌にはスリルも大事だと」

「あ、あれは誇張もあるので」

「……キス、したいですわ」

 したら完全に最後までイきますね、わかります。

 ぐるる、とお腹が鳴った。子宮の方の内臓の音。アンナ先輩の子宮は完全に僕を求めていた。

「……薬、ちゃんと飲んでますよね?」

「ええ、そういうのはわたくし、嘘を吐かないって知っているでしょう?」

 いやアンナ先輩だったらどんな嘘でも付きそうだからさ、僕と子作りするためだったら。

 仕方ない、とアンナ先輩の背中に手を回す。アンナ先輩は上にのしかかってきた。いつも思うけど全然重くなかったり逆に一点だけ異様に重くなったり、どういう重心移動してるんだろう。今は重さを全く感じなかった。



 ん、ちゅぱ、は、じゅる、ぴちゃ、あ、ん


 尖った胸の先端を摘まむ。「ん〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」ビクンビクン!と腰のあたりが揺れた。

「あは、やっぱり環境が変わると、敏感になりますわね……!」


407 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 13:33:57.35 ID:OB+0Ky3Z0

 薄いワンピースを脱ぎ、夜用の下着を全部脱ぐと、相変わらず完璧なプロポーションを発揮なされる。僕の愚息も完全に勃ち上がっていた。

 アンナ先輩は身体を起こすと、騎乗位の体勢で僕の愚息の上から一気に



 ズン! 「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」



「ぐっ!!」

 グネグネと締め付けが凄まじい。もう発射してしまった。

「あはあ、もう愛の蜜を……!」

 アンナ先輩いわく、膣トレ以降感じやすくもなったそうで、前はもっと時間がかかったのに僕に与える快感も強くなって、挿入れただけでも射精するようになっていた。決して僕が早漏ってわけじゃないよ、アンナ先輩の膣内が凄まじすぎるんだよ!!

 アンナ先輩はピストン運動を行う。僕はされるがままだ。

「ああ、愛の蜜が混ざったら、先端で引っかかるのに滑りはよくなって、より一体感が増して気持ちいいですわ……!! ほら、奥間君も動かしてくださいまし!!」

 ズンズンズン、とペースが上がる。僕はそのペースに合わせて、アンナ先輩を突く。僕の息子全部が入り切り、さらにタマタマまで挿入りそうな予感。アンナ先輩の子宮口も開いている気がする。クリトリスを触ると、

「ひっ!?」

 ぷっしゃあああああ、と潮を吹いた。

「あ、あ、あ、あ、あ!!」

 潮を吹きながらも腰を動かすのを止めない。止まることなく、ピストンではなく前後のグラインドに移行する。

 アンナ先輩の背中がのけぞる。その繋がっている部分も、お腹も、胸も、反り返った喉も、全部が見える。何度見ても、いい光景だった。

「い、きます!!」

 僕が発射したと同時、がくがくがく!!と強烈な痙攣をおこして、アンナ先輩はぎりぎりのところで前の方に倒れる。イきながらキスをする。耳に舌を入れ、喉元を軽く噛む。

「……今日はここまでにしておきましょう。明日が、ありますから……」

 色々残しておかないと、僕の方がヤバい。

「……物足りませんが、わかりましたわ……体力は残しておかないと……、ん、でも、まだ硬いのに……」

 名残惜しそうに抜くけど、これ以上やって中折れしたらなんかまたヤバいことになる気がしてならない。ってか経験上、なる。

「……奥間君が、メモリー端末、預かってくれません? わたくしだと、まだ首都に残される可能性もあるので。不破さんにお渡しくださいまし」

「わかりました」

「……ねえ、奥間君。キスを、接吻を、わたくしに」

 唇を重ね合わせる。唾液が糸を引いた後に残ったのは、聖女の微笑。

「何かが進展するといいですわね」

「そうですね」

 まだ、アンナ先輩が何を考えているのか、わからない時も多い。

 だけどこの言葉だけは真実に思えて、僕は眠りについた。

408 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 13:34:32.97 ID:OB+0Ky3Z0


「ねえ、あそびませんの?」

 ああ、この特徴ある銀髪はすぐに分かった。

 アンナ先輩と僕が出会ったころの、子供時代のときだ。

 まだ何も知らず、無垢だった時の。

「あそびたいんですの。おくまくんと」

 僕も知らなかったし、両親ですら気付かなかったのだから、何もどうすることもできなかったんだと思う。

 この無垢な子供の中に、獣がいるなんてこと。

「おくまくん」

 笑う。無垢な微笑のままで。



「おくまくんをたべさせてくださいまし」



 そして開かれる、小さな口。

 そこには、喉元を引きちぎるには十分な力が込められていて――




「うわあ!?」

 ……寝汗が凄い。隣にアンナ先輩もいない。珍しい日だった。ここ数か月はセックスをしなくても、大抵は一緒に寝ているから。

 何か夢を見た気がするけど、思い出せない。

「あ」

 そうだ、メモリー端末。

「あった、よかった」

 コンコン、とノックの音。

「奥間殿、祠影様たちが朝食を一緒に、と」

 一緒に連れてこられた月見草の声が、扉越しに低く響く。

 忘れないうちにメモリー端末をカバンに入れて、気の重い朝食を食べに行く。

409 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 13:35:36.63 ID:OB+0Ky3Z0

 アンナ先輩が時々僕と母さんに話を振るだけの、沈黙の多い朝食が終わると、「ジムに行きません?」とアンナ先輩が母さんを誘っていた。

「あ、僕も」

「貴様はここに残っていろ」

 にべもなかった。え、祠影とソフィアの二大ボスを目の前にして一人で残されるの?

「…………」

「狸吉君」

「は、はい!」

「アンナの前では言えませんでしたが」

 ソフィアが祠影の言葉を引き継ぐ。

「別れてくれませんか」

「……言葉でなんとかなるアンナ先輩じゃないのは、そちらのほうが知っていると思っていました」

 思わず厭味ったらしい方になってしまう。

「僕も、考えます。僕と一緒になることは、アンナ先輩のためにならないんじゃないかって」

 できるだけ、正直になることにした。

「それでもアンナ先輩が選んだことです。アンナ先輩が、自分自身で負うべきことだと思います。もちろん、それは、僕自身も、そう思っています」

「今のアンナに、現実が見えているとは思えないんだよ。それは僕たちの責任だ、申し訳ないと思っている」

「…………」

「《こうのとりインフルエンザ》を知っているかい?」

「あなた、まだそんな世迷言を!」

「これについてはいろいろ意見があるが、大事なのはこれから生まれてくる子供は、《こうのとりインフルエンザ》による差別を受けるということだ」

「《こうのとりインフルエンザ》を発症した人から生まれた子供は、《こうのとりインフルエンザ》を潜在的に持っている、でしたか?」

 知識がある僕からすれば、くだらないとしか言いようがない。ソフィアもアンナ先輩も同様だろう。

「君は《ラブホスピタル》に反対のようだね。まあ今は政治的主張は止めておこう。世論として、そういう流れが起きるのが、今大事なんだ」

 祠影は苦笑する。

「《ラブホスピタル》以外での妊娠した子は、差別を受けるというのが重要なんだ」

「何が言いたいんでしょうか?」

 回りくどい言い方にイライラしているのは、自分だけじゃないようだった。

「これから先は、結婚も差別される世の中になるだろう。しばらくの間だが、そのしばらくの間の世代にアンナたちはいる」

「アンナ先輩を、僕達の世代を犠牲にして、祠影さんは何をしたいんですか?」

「この国のためだよ」

 ……わけがわからない。このわけのわからなさは、アンナ先輩の何を考えているかわからない時と似ている。

 どうしようもなく深く、冷酷に、自分の子供までも切り捨てる親と、

 どうしようもなく狭く、残酷に、自分の両親までも切り捨てる子供。

「アンナ先輩がどうなるにしろ、その責任はアンナ先輩にあります。でも、忘れないでください。

 『アンナ先輩を化け物にしたのは、あなた達だ』」

「……ソフィア、ジムにまで案内して差し上げなさい」

「いえ、月見草に案内してもらいますので。ソフィアさんは休んでいてください、失礼します」

 早口に、リビングを出た。

「月見草、ジムまで案内してくれ」

 なんかもう、ドッと、疲れた。

410 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 13:37:41.30 ID:OB+0Ky3Z0

……祠影の性格というか口調がわからない!

悪巧みしている時のアンナ先輩の不可解さは、祠影から受け継いでいると勝手に想像しています。
411 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 14:34:01.77 ID:OB+0Ky3Z0


 シュシュシュ、バババ!

「相変わらずアンナ先輩と母さんは異次元だなあ」

 母さんは真剣な表情で、アンナ先輩は心なしか笑いながら実戦形式の訓練を行っていた。

「小休止しよう」

 母さんの言葉でアンナ先輩の動きが止まる。

「物足りなさそうだな、狸吉を好きに使っていいぞ」

 母さんの苦笑交じりの言葉に、え、僕玩具にされること決定したの? 秘技・乳吸いで勝つわけにはいかないしな。

「いえ、もう少し自主トレを致しますわ。すみませんが、スポーツドリンクを三杯持ってきてくださいまし」

 月見草に頼むと、「かしこまりました」と一礼し、ジムを去って行く。

「すごいですね、家の中にこんなスポーツジム」

「母の趣味でもありますから」

「あいつは昔から体力バカだった」

 母さんが言えることかよ。

 アンナ先輩は年季の入ったサンドバッグに蹴りや拳を入れる。バン、バン!と素人の僕でも鋭いとわかる音がする。

「母さんは、」

「お前が決めろ、狸吉」

 月見草が持ってきたスポーツドリンクを一口飲むと、

「決めたことが間違ってなければ、最後まで付き合ってやる。間違ってたら殴る、それだけだ」

「シンプルだね、母さんは」

 バン、バン!と鋭い音がジムに木霊する。

「正直、アンナ先輩のことを思うと、別れた方がいいんじゃないかとか、思う時もあるけど」

「…………」

「それは逃げなんじゃないかって、思うから、だから」

「まだ考える時間はある。焦るな」

「……うん」

 なぜか、寂しそうな、でも嬉しそうな、朱門温泉での混浴風呂で見たあの華城先輩の顔が思い浮かんで。

 ――アンナ先輩も人間なんだよって、言ってくれる人はいるのかな。

 きっと、誰もいないんじゃないか。

 一人でサンドバッグを殴り続けるアンナ先輩を見て、ふと、そう思った。

412 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 14:45:22.76 ID:OB+0Ky3Z0


 新幹線のホームで僕らはしばしの別れを惜しんでいた。

「忘れ物はございませんか?」

 アンナ先輩は一週間先に休学を申し込んでいたらしく、春休みいっぱいまで首都にいるらしい。約三週間のお別れになる。

 ……その間、僕は射精管理のために《鋼鉄の童貞》を嵌めさせられた。やっぱり昨日抜いてもらっとけばよかった。

 カバンの中身をチェックして、メモリ端末があるかをちゃんと確認する。あとはこれを不破さんに渡せれば、ミッションコンプリートだ。

「大丈夫です。アンナ先輩、それじゃ、また」

 アンナ先輩が僕の袖口を掴んで、もじもじする。くっ、か、可愛いな。

「……う、浮気しちゃ、ダメですのよ?」

「はっはっは、できるわけないじゃないですか」

 言ってることは全然かわいくなかったけど。《鋼鉄の童貞》嵌めてる状態でどう浮気しろと、ってアンナ先輩の浮気認定はちょっとおかしいんだった。ゆとりなんか下の名前読んだだけで浮気相手認定されたもんなあ。

「じゃあ、また」

「ええ、また。毎日通話するんですのよ?」

「勿論」

 しないと周囲の女性陣がヤバいことになるからね。

「行くぞ、貴様ら」

「じゃあアンナ先輩、気を付けて」

 こうして、約三週間(射精管理されたままで)アンナ先輩とはしばらく遠距離恋愛となった。

413 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 14:47:36.68 ID:OB+0Ky3Z0
アンナ先輩にもね、優しさというか純粋というか、うーん。

純粋無垢という化け物なのかもしれないけどさあ。
アンナ先輩は優しさも残ってるんだけどさあ。やったことがやったことだから仕方ないね。インパクトってそういうモノさ。
414 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 18:29:28.12 ID:OB+0Ky3Z0


「それでは、綾女さん。奥間君を、くれぐれもよろしくお願いいたしますわ……」

(どうしてるでしょうか、奥間君は)

 離れて一日目でもう不安と昂揚で仕方がない。射精管理しているとはいえ、浮気ができないわけではないのだから。

 その時は、オシオキが待っているだけだけど。

「アンナ、今誰と、」 

「綾女さんと、少し。お母様、ちゃんと約束は守りますわ」

 『節度のある交際』

 《ラブホスピタル》で見たような、児戯に等しい愛の真似事のことだろう。

 愛はそんな、幼稚園児がするようなものではない。誰にでも説明できるものではないのは、他ならぬ自分たちがよく知っているくせに。

 それよりも、母をどうするか、少し悩んでいた。“母を壊すことは決定している”が、“どうやって壊すか”。このままだと勝手に自壊しそうだ。

 それだと面白くない。そう。“面白くない”。

 あの夜、《雪原の青》に抱いた憎悪のような、あるいは《更生プログラム》を思いついたような、アイデアが湯水のようにあふれ、力が湧いてくるような、“あの感覚”が足りない。

 今ならわかる。理解できる。

 あれは、破壊の衝動が飽和した時特有の、万能感なのだと。

 性の衝動とはまた違う、シナプスが弾けるような万能感。

「アンナ……?」

 今の、自分の子供を持て余している母親を見ても、疼きはする。しかし、足りない。

 何か、もう一歩が、それさえあれば、自分はあの感覚を存分に味わい、アイデアも浮かび、たっぷりと時間をかけて壊すことができるのに。

「お母様は、離婚の意思はないのですか?」

「あるわけありません! 私は、間違ったことはしていません!!」

「…………」

 疼きが大きくなった。ふ、と浮かんだ。

 ああ、簡単な話だ。

 わたくしがもっと悪い子だと知ったら、母はどうなるだろう?

 ――今は正当防衛だの理不尽に穢された怒りだの、無理矢理に理由を付けて納得している。だけど、手塩にかけて育てた我が子が、言い訳すらも許されないほどの『悪』だった場合は?

 ぞくぞくぞく!とあの叫び出したい感覚が走る。シナプスが弾け、電流が脳内にめぐり、アイデアと力が湯水のように湧く。 


415 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 18:29:58.73 ID:OB+0Ky3Z0


(もっともっと依存させて、突き放したらどうなるだろう?)

(もっともっといい子のふりをして、実は『悪』だったと知ったなら)

(その時に、もう自分一人しか、頼れるもの、支えるものがいなかったら――?)

 カチカチカチ、と歯が鳴った。

「アンナ……?」

「いえ、何も」

 平然を装った。それでも笑い出したくて止まらなくて、歯をカチカチと抑えるのに精いっぱいで、なのに異変に気付かない母は、なんて滑稽で、なんて――

(壊し甲斐があるんでしょう)

「お母様」

 だからアンナは、平然と嘘を吐く。

 父母を壊すという目的と、快楽を得るためだけの、『悪』い嘘を。

「わたくし、わからなくて、怖かったんですの。何も、知らないんですの。……だから、教えてくださいまし。どうか、わたくしに、『正しいこと』を」

「アンナ……、ええ、ええ、わかっていますとも。私だけは味方でいますから」

 その実は逆で、そのうちソフィアにはアンナしか味方がいなくなる。

 その時、自分の正体を教えよう。

 そして囁くのだ。


 
 ――《育成法》を壊したときに、耳元で、誰も味方のいない状態で、孤独に突き落として差し上げましょうね、お母様。



 もしこの時に、腰のあたりから出る湿った水音にソフィアが気付いていれば、歯のカチカチした音に気付いていれば、

 最悪は防げたはずだった。



416 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/09(金) 18:33:39.44 ID:OB+0Ky3Z0
今更私個人の考えですが、

衝動って絡まっていて、多分壊したときにアンナ先輩は性的な快感も得ているはずです。っていうかそもそもが快感って性的なものですよね、うん
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/09(金) 18:54:31.08 ID:FOERipDV0
アンナ先輩は目的の為に手段を選ばないのか、手段の為に目的設定してるのか、どうなんだろうな
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/10(土) 12:03:22.99 ID:gzDRdjqvO
快感は性的なものって……

それは人にもよるのでは?

プチプチシートで楽しくなることはあれど、別にエロい気分になったりしないし

美味いラーメン食っても同じ。そういう気分になれない
ソーマの世界観ならエロい気分になるかもしれないけど、ここは現実だし……
419 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/10(土) 15:01:08.39 ID:Gkb2hePb0
あー、そういえばそうですよね。
アンナ先輩の場合は、性衝動より破壊衝動の方が厄介になってきました。性衝動は、狸吉がガス抜きする羽目になったんで。
420 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/10(土) 20:14:02.12 ID:Gkb2hePb0


「たっだいまー」

「おかえりちんこ! まあ座って」

 幼稚園児レベルの下ネタに反応する元気もなく、僕はいつもの喫茶店に戻った。

 一週間ぐらいはアンナ先輩に襲われる恐怖に怯えなくて済むけど、それぐらいからアンナ先輩がいない恐怖が始まるんだよなあ。

「なになに? 射精管理の話?」

「しゃ……管理、ですか?」

 無表情に興味を示したのが不破さんだった。不破さん以外は《鋼鉄の童貞》を全員知ってるからね。

 不破さんの痴的好奇心は置いといて、アンナ先輩の家で起こった話をする。おおむね想定通りではあったけど、ソフィアがアンナ先輩と同居するかもという話にはみんな驚いていた。

「厄介だぜ……母娘そろってまあ」

「父親の方も侮れなさそうっスけどね。クソ親父と手を組むぐらいの奴っスからね」

「そうだ、これ、メモリー端末渡しとくよ。解析ってどれくらいかかるの?」

 持ち歩き用のサイバー端末にメモリーを差し込む。不破さんの顔が曇った。

「他にもパスワードとかあると思われるので、アンナ会長……元会長が戻ってくるまでには」

「そんなにかかるんかの?」

「情報量が多すぎるのと、専門外というのがあるので。あと他にやることも多いので」

 早乙女先輩の疑問に、不破さんが端的に答える。

「誰か手伝えそうな人っていないよね」

「こういう情報処理ができるのは《蟲毒試験管》ぐらいしかいないわね。あとはまあ、アンナぐらいだけど」

「なあ、あの化け物女、何ができないんだぜ?」

「鼓修理は割と得意そうだけど、こういうの」

「サイバー端末は苦手っスね」

 うーん、向き不向きがあるか。同じ情報でも処理の仕方が違うんじゃ仕方ない。

「どちらの情報を優先しますか?」

「祠影でお願い。ソフィアは味方でもないけど今は敵でもなく、行動原理がわかりやすいけど、祠影は完全に敵だもの」

 ふむ。と無表情に理解を示すと、今度は不破さんは僕の方に顔を向けて、

「それではわたしの頭脳を刺激するために、是非管理の話についてお願いします」

 あー、言わないとだめか、やっぱり。

「うーん、えっとね、男の愛の蜜って貯めれば貯めるほど濃くなるんだよ。で、はち切れそうになるんだけど、アンナ先輩はそれ以上に我慢して美味しくしろって言ってんの、わかる?」

「貞操帯ってのがあってね」

 貞操帯についてはPM無効化をして華城先輩が補足する。

「きっついんだよ、ほんっとにこれが、きついんだよ……」

「これは是非サンプルを採取したいですね」

「アンナ先輩に頼んでみたら? まず許可下りないだろうけど」

「ではこのメモリー端末は私のサイバー端末にも移しましたので」

 アンナ先輩の話になるとみんな揃って話をそらしやがる。



421 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/10(土) 20:14:35.85 ID:Gkb2hePb0


「あ、アンナ先輩に電話しないと」


 ピピピピピピピピ


『奥間君? わたくしですわ』

 バン、バン!と聞いたことのある音が聞こえてくる。

「アンナ先輩、今何を」

『ジムでストレス発散を。はあ、奥間君と一日でも会えないと思うと、自分を律しようとしても難しく……これから自分を慰めようかと』

 いいですねオナニーができて!!

「アンナの下ネタは生々しいのよね」

 親友の華城先輩が頭を抱えていた。ネタじゃなく真実を言ってるだけだと思うけど、そこには突っ込まないでおいた。

『父が明日、お見合いをすると言っていて、ちょっと揉めてますの。安心してくださいまし、わたくしは奥間君一筋ですので』

「……え……大丈夫ですか?」

『大丈夫ですわよ? ちょっと会食して、気が合わないでお断りするだけですから』

「よくある話っスよ。化け、お義姉ちゃんなら大丈夫っス。何度もお見合いはしたことあるんスよね?」

 鼓修理は上流階級の娘だから経験はあるのか、気楽そうだった。

『ええ、まあ。すべて母が断っていたのですが、今回は母の立場が弱く、わたくしがかなり強く出ないといけないみたいですけども。なんとかなりますわ』

「ちなみに、名前は?」

『……奥間君は覚えてます? あの、パーティーの中にいた方ですわ』

「え゛」

 あのSMパーティーにいたやつかよ。まあ趣味や性的志向で人柄を判断するべきじゃないんだろうけど、あそこに入れるという時点でろくでもない気がしてならない。

『まあそれはわたくしたちもですが』

 そりゃそうか。

『それじゃあ奥間君、お気をつけて』

「アンナ先輩も。おやすみなさい」

 通話が切れる。相手の素性を大体説明する。

「クソ親父の関係者っスか……、一応調べておくっスよ」

「ありがとう鼓修理。今のアンナに不確定要素が入るのは避けたいもの」

「それは……、お見合い相手が慶介の刺客だと?」

「そこまでは言わないけど、考えすぎるに越したことはないわ。オナニーと射精管理はしすぎると大変だけど」

「ああもうぶり返すな!!」 

 アンナ先輩、大丈夫かな……。データも気になるし、まだいろいろひと悶着ありそうだ。

422 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/10/10(土) 20:22:15.39 ID:Gkb2hePb0
狸吉→華城先輩に思いが無意識にあるが、アンナ先輩の責任を取らないといけないと思い込んでいる

綾女→狸吉とアンナ先輩がくっつくことで、自分は親友の隣にいたい、嫌われるよりかと考えている

ゆとり→狸吉とアンナの関係を恋愛だと認めていないが奪う勇気もないヘタレである

鼓修理→なんだかんだで今は綾女の補佐をしているのは鼓修理。一番ラッキーかもしれない。

不破さん→苦労人。好奇心は猫を殺すのだ。

早乙女先輩→割と原作のまんま

アンナ先輩→性衝動と破壊衝動の解放で狸吉以外との世界を望んでいない状態。
      他人を痛めつけることに快楽を得始めている。以前持っていた優しさはもうないのか……?


現状の説明みたいな感じです。心理状態はこんな感じ。
何かご不明な点はありますか? あれば答えられるなら答えたいと思います。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/11(日) 11:50:08.25 ID:jVu/fsmnO
じゃあ、質問。


月見草の他にアンナ先輩の監視役がいないのは何故ですか?

アンナ先輩の暴走は、月見草自身の判断能力が著しく欠如しているから判明が遅れたわけで。

(別に月見草を責めるつもりはないです。月見草に判断能力が欠如しているのは本人の責任じゃないし)

だったら、殺処分まではいかないにしろ、別の人間(大人のボディーガードとか)にもアンナ先輩の監視役を任せるのでは。


それと、アンナ先輩やソフィアが使っているジム用具は何製なんですか?

あの二人の実用に耐えるなんて、どっかの宇宙から持ってきた特殊鉱石か何かでしょうか。
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 01:48:46.86 ID:0L1ziWGsO
またエタった?
425 : ◆86inwKqtElvs :2020/10/18(日) 15:57:14.99 ID:CFAhMFVI0
すまない、いるよ
ちょっと仕事が忙しかったのと、次どうしようかアイデアまとめてた。
質問に答えてないのは更新と一緒にまとめてしようと思ってた。
どこをゴールにするか迷ってる感じかな、すみません。
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/11/16(月) 16:33:49.95 ID:H7E4PygUO
完結する気があるなら、1か月ごとに生存報告はしといた方が良いですよ。
でないと、また前みたいにスレに書き込みできなくなる可能性がある。
427 : ◆86inwKqtElvs [sage]:2020/11/18(水) 18:21:03.13 ID:SO4twf6Q0
すみません、生きています。
今仕事が、うぎゃーっとなっていて、もうちょっとSS書けそうにないんですが、頑張って時間作るのでよろしくお願いします。
エロい妄想する時、アンナ先輩に侵食されるよぅ
428 : ◆86inwKqtElvs [sage]:2020/12/08(火) 06:10:58.27 ID:6E6TG+GR0
すみません、年末年始は忙しくなって頭が割れました。(ただの交通事故です)
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/12/14(月) 15:59:58.48 ID:9hMIyCtoO
こういうとき華城先輩なら、割れるのはケツとおっぱいと股間の前部分だけにしなさいって言うんでしょうね。
私は華城先輩ではないので言いません。お大事に。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2021/01/08(金) 15:13:48.47 ID:wYtA7vuD0
イナイレSSを見ろっ
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/01/18(月) 12:12:59.61 ID:OF/AXdd0O
最強女師匠2巻明日発売
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/03/17(水) 12:12:51.55 ID:xMb9JmlXO
絶頂除霊8巻明日発売
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/09/08(木) 20:05:23.41 ID:jaKsrzlU0
続き一生松茸ぺろぺろ
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