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狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】
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109 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/28(金) 07:02:58.46 ID:/PykkNkX0
やっぱり読んでる人いないかなあ……
110 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 12:34:31.21 ID:gTDkXCSm0
アンナは自分の判断力を過大評価も過小評価もしていなかった。今の自分には正常な判断力がないということも理解していた。
だから、愛する人の指示に従っている。ただ、本音は一つだった。
――全員、殺したい。
あのリーダーの女も自分を穢した少年も、このテロリスト全員を、そして、月見草の負傷を許してしまった自分自身も。
愛する人は『待て』と言った。だから待とう。
お義母様も、そして実のお母様の言葉も、愛する人の言葉の前では霞んでしまう。そんな自分に、何の疑問も思わなかった。
お腹の中に“熱”が溜まっていく。愛と破壊、二つの衝動が、自分の中で矛盾なく両立していく。それを解放したくて仕方ない。
今のアンナに、罰を与えること以外の目的は存在しない。
(でも、奥間君は望まない)
だけどこの“熱”は、そう遠くないうちに自分自身を焼き尽くすことがわかってしまったから。我慢なんて絶対できないから。
だから愛する人にとって、自分はきっと間違った判断をしてしまうだろう。
でも大丈夫。
愛しい人は、自分が間違っても、受け入れてくれるのだから。
再会したら、たっぷり愛し合おう。お腹の中の“熱”を、彼の逞しいモノで掻き混ぜてもらえれば、どれだけ幸福になれるだろう。
それを思って、アンナは微笑する。
その瞳には、敵意と悪意と殺気と、そして欲情しかなかった。
*
(ひぃ……!)
鼓修理が声にならない悲鳴を上げている。空気が軋むほどのオーラに、ゆとりは既視感を覚えていた。
あの夜、衝動に身を任せたまま《雪原の青》を傷つける様を間近に見ていた。そんなゆとりとしては、もっと悲鳴を上げたいが、今の化け物女を刺激すると怖すぎたので必死に我慢する。
(お二人は)
と思ったら話しかけてきやがった!
(悪の殲滅にご協力願えますか?)
(はいッス!!)
(……いや、その、なんだ。どうすればいいんだぜ? 下手に動けば怪我人どころか死人が出かねえぜ)
(そうですわねぇ)
その呑気な反応にピンときた。多分、この化け物女は死人が出ようが構いやしないと思っている。
(月見草のことが、心配じゃないのか?)
(わたくしにできる範囲を超えましたから、あとはお任せするのみですわ)
ペロリ、と小さく舌なめずりをすると、
(わたくしにできるのは、悪全ての殲滅のみですわ。疼いて疼いて仕方がないんですの)
人の血の味を覚えた獣。
今の化け物女の目は、それと同じ目をしていた。あの夜と同じか、もっと先鋭化させて。
(たぬ、奥間はそんなの認めねえぜ)
(…………)
瞳から、凶悪な光がわずかに消えた。
(そうですわね。わたくしと違って、優しい方ですから)
(…………)
111 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 14:50:29.38 ID:gTDkXCSm0
とにかく善導課からは(《鋼鉄の鬼女》の声だった)動くなの一言だった。
現状、善導課の指示に従うしかないが、どうするつもりなのか。
(向こうもわたくしへの対策を考えるでしょう。……下手に動いてしまって、わたくしの機動力がばれてしまいましたから)
一応、失敗しているという自覚はあるらしい。ソフィア・錦ノ宮は『何も失敗していない』などとほざいていたが、化け物女が動いたせいで――さすがにこれは同情すべき案件だが、とにかく動いたことによって月見草が負傷したことには変わりない。それを自分で認識しているのは正直、意外だった。狸吉の言葉と同じぐらいに、母親の言葉も大きいと思っていた。
(……月見草さんのことは)
獣の気配が消え、わずかに悲しそうに呟く化け物女は、ゆとりの見たことのない部分だった。
(わたくしのやり方で、決着をつけてみせます。この事件を、解決させて)
それが見えないから恐ろしいのだけど、ゆとりに指摘する余裕はなかった。
(鼓修理があっち側だったら、どんな作戦を考える?)
さっきから化け物女の陰に隠れてぶるぶる震えているだけだったが、さすがにこの事態に何も思っていないわけがないだろう。
(そう、そうっスね。鼓修理が犯人なら、お義姉ちゃんはやっぱり怖いっスから、隔離すると思うんスよ)
(隔離、ですの?)
(た、多分。向こうも人員がいないとは思うっスけど、それ以上にお義姉ちゃんが暴れたら全滅の危険があるっすから。離れた場所に隔離して、他の人質との連携を阻止すると思うんスよ。お義姉ちゃんが単独で暴れたら、すぐさま別の場所で人質を傷つけられるように)
怯えてはいてもさすがは腹黒思考だった。
(……それは厄介ですわね)
(あとあのリーダー、お義姉ちゃんを個人的に恨んでるっぽいっス)
(……奥間君のことで?)
(た、た、たぶん!)
(お、奥間はあんたに憧れて、だからあいつはフラれたんだからな? こういうのは浮気じゃねえぜ)
(ええ、わたくしにとってはただの火の粉。ですが)
また、あの獣の瞳に戻る。(ひぅ!?)(ひっく!?)
(あのリーダーにとっては、わたくしは敵なんでしょうね。わたくしに組み伏せられても、闘志――敵意は衰えていませんでしたわ)
あいつ、頭のいいバカで負けず嫌いだったのは知っているが、こいつの化け物性を見ても衰えないってよっぽどだな……。
(ゆとりさん?)
(はい!?)
(あのリーダー、どんな方ですの?)
(……とにかくしつこい)
ゆとりが取り締まり側だった時、あいつは既に反体制のリーダー的な存在だった。昔いたと言われる暴走団?のリーダーのようなものだ。綾女の義母がそうなるのか。
112 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 14:50:56.69 ID:gTDkXCSm0
(勉強自体はできたんだけどな。途中で善導課に連れていかれたから正直そんなに知らないんだぜ)
カララ、と扉が開く音が聞こえた。三角巾で腕を固定したリーダーの姿がそこにあった。
「さて朗報があるよん。どうする? 聞きたい?」
リーダーの目は完全に化け物女一人に向けられていた。
「ええ、是非聞きたいですわ」
本っ当、キレた化け物女相手にして余裕があるように見せられるだけでもすげえよな……。
「あの月見草ってやつ。無事に別の病院に搬送されたって」
「……そうですの」
化け物女は油断しなかった。むしろ目つきが鋭くなっていく。
(こちらにダメージ与えたいはずっスからね、これだけのはずがないっス)
「あとね、一緒に船に乗る人が決まったのよん。……鬼頭鼓修理に決定したわ」
「え、え? こ、鼓修理が、っスか?」
「まあ、本来ならそこの化け物も予定に入ってたんだけどねえん」
「あら、わたくしは船旅にご一緒できませんの?」
「化け物と一秒でもいたくないっていう意見が大多数を占めちゃったのん、仕方ないわよねん」
こいつ、左腕のほとんどすべてを使えなくされているのに、なんでこんなに余裕ぶれるんだ?
……多分、性格の問題だ。本当に、異常な負けず嫌いなのだ。
「外国についた後、大使館まで鼓修理ちゃんは届けてあげる。鼓修理ちゃん、英語の成績も凄いみたいだし、あとは大使館の人の意見を聞けば日本に戻れるから、そこは安心していいよん」
(安心できるワケないっス!!)
鼓修理のパニックが伝わったのか、それでも化け物女は優雅に、
「わたくし、皆さんと船旅がしたいですわ」
「のーさんきゅー、あたし以外はね。あのさ、アンナちゃん」
化け物女が獣だとしたら、あっちのリーダーは悪魔のような目つきで睨む。
「あたしと別室で、二人きりで話したくはない?」
「ダメです!」「危険すぎます!」の声が相次いだ。やはりこのリーダーは、妙なカリスマ性があるというかなんというか。
「わたくしは」
化け物女は、にっこりと笑った。
「是非、お願いしたく思いますわ」
113 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 14:52:43.09 ID:gTDkXCSm0
今日の分終わりです。どうなることやら、です。
114 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 18:35:28.84 ID:gTDkXCSm0
「ち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こ!!!」
喫茶店に移動している間に事態が急展開していて、不破さんが機材の調整をしている間、華城先輩は地階のアジト部分で下ネタとすら言えない性器の羅列を連呼していた。
華城先輩の怪我はまだ重く、激しい運動はできない。動くとすれば僕以外にいない。
「《群れた布地》の時のように、《SOX》が解決できればいいんですけどね」
「でも精子一匹入る隙間もないわ」
侵入経路を何とか探すが、病院を警察が全包囲しているため、華城先輩の言うとおり精子一匹はいる余裕すらない。
「おーい、不破が呼んでおるぞ」
喫茶店の個室で機材調整をしていた不破さんのもとに行く。「音は拾えますが、こちらの声は届きません」と無表情に報告してきた。
「スピーカーの電波の長さは短いですから。音を拾うだけなら半径数キロメートルまで範囲を伸ばせるのですが」
「アンナ先輩たちへの指示は、善導課だけか……」
……今のアンナ先輩が、善導課の言葉を聞くとは思えない。確実に暴発する。さんざんその欲情が暴発する機会を見定めて逃げてきた僕にはわかる。
今のアンナ先輩は、いつにもまして危うい。
「愛する奥間さんの言葉なら副会長も殺すって言ってましたよ」
え、なにそれ。あんなに華城先輩を助けたがってたアンナ先輩が?
「事実です。わたしが言いたいのは、今のアンナ会長は価値観が変わり、判断基準を社会の規範から奥間さんの言葉に変えていっているということです」
「……法律より、僕の言葉の方を信じてるってこと?」
確かに、言っていた。「僕が母親を殺せと言ったら、どんな手段を使ってでも殺す」と。
あれは何かの比喩だと思っていた。思わず華城先輩の方を向く。
「……今のアンナは、たぬ……奥間君以外のことは本当にどうでもいいみたいだから」
うつむく華城先輩に対し、やはり不破さんは無表情に言う。
「わたしの見解とは少し違いますね。どうでもいいならそもそも副会長たちを助けにはいかないでしょう。母親と恋人、親友や友人、何を一番にするにせよ、それ以外が大切ではないわけではないのです」
「どういうこと?」
「アンナはの、狸吉のことも綾女のことも月見草のことも大事なのじゃ。以前のように切り捨ててはおらん」
「ですが奥間さんの言葉があれば切り捨てるでしょう。それが自分自身にどれほど痛みを与えようとも」
「…………」
盲目よりもひどい状態じゃないのか、それ?
「厄介だわ。それって、た、奥間君への依存が酷くなってるじゃない」
「まあここでアンナの心を分析しても今は仕方なかろう。実際どう動くかが問題じゃ」
「……不破さん、ごめん、何かあったらPMに連絡くれる?」
わかりましたとやはり無表情に呟く。疲れているだろうにな。ただ、華城先輩の下ネタ切れの方が心配なんだ、ごめん。
喫茶店の個室でも奥まったほうに行き、不破さんが聞こえないところまで行くと、「ち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こち○こま○こ!!!」と連発する。
「んー、重症だこれ」
「《SOX》として乗り込むにしろ、綾女がこの怪我ではな」
「月見草以下、風紀委員も今回は使えないし、月見草も重症だし。やっぱりアンナ先輩をどうにかしないといけないんだけど」
「このままじゃ鼓修理が外だしされてしまうわ」
「外国に置き去りですね。でも、犯人たちの言葉の通りなら、比較的安全な気もしますけど」
115 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 18:36:06.12 ID:gTDkXCSm0
「バカね、テロリストどもは鼓修理を外国に差し出すのが条件で亡命を取引したに決まってんでしょ」
「え、そうなんですか!?」
「本当はアンナもだったんだろうけど、まあ無理よね。亡命先の国が鼓修理をどう扱うかなんてわからないわ。身の危険はないにしろ、何らかの政治的圧力に利用されるかもしれない。ここで鼓修理を助け出せたら鬼頭慶介にかなりの貸しを作れるんだけど……」
「大使館とやらは動かんのかの?」
「動くでしょうけど、童貞の腰振りみたいに貧相な動きしかできないでしょうね。今の日本の国際的立場は中出しセックスした後のように危ういのよ」
「そのあたりのことはようわからんが、今のアンナでも鼓修理を一人で行かせるということはないんじゃないかの?」
「なら余計に危ないと思うんですけど」
「どの国であっても、人質という立場ではあっても危険な目には遭わないと思うわ。むしろ賓客扱いされるかもね」
「アンナ先輩達と連絡とる方法が善導課にとられたのがきついですね」
と、ここで思っていたことを聞いた。
「鼓修理はこのこと気付いているんでしょうか?」
「あの子はアンナから離れられるなら外国だって行くわよ」
つまり、気付いてるってことか。腹黒思考は《SOX》でも随一だからな。
「華城先輩、しばらく下ネタ成分は大丈夫そうですか? 不破さんにバレると困るので」
「うぅ、全然足りないけど仕方ない。みんなのことの方が大事だもの」
天秤にかけてるのが下ネタを言うことなんだよなあ。
「不破さん、どう?」
移動すると、不破さんは変わらず淡々と。
「リーダーとアンナ会長が一対一で病室にこもっています。他の人質から切り離す目的でしょう」
「アンナが暴れたら、すぐに別の人質を盾にできるように、ね。同じ部屋にいると一瞬で制圧される可能性があるから」
「理論ではそうですが、よく今のアンナ会長相手に一対一で個室に閉じこもるなどできるものです」
猛獣と一緒の檻に無防備にいるのとおんなじだぞ。エアガンなんか避けるしな。
ピピピピピピピピ
「誰よこんな時にもう!」
僕のPMが鳴って、華城先輩が苛立っている。相手は『非通知』とある。
116 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 18:36:35.41 ID:gTDkXCSm0
「……もしもし?」
『やあめんごめんご。そして《雪原の青》の解放おめでとう』
基本的にPMの音量は僕にしか聞こえないけど、それでも少し下げた。
「鬼頭慶介からです」
「は、なんで!?」
「早乙女先輩、モニターができた理由とか、そのあたりの説明をお願いします!」
慌てて喫茶店の外に出る。こんなに面倒なら不破さんに僕らの正体を明かす方が早いんじゃないかという気もするけど、不破さんには一般人としての役目がある。そう簡単な話じゃない。
「はい、なんとか無事に」
『モニターはしてたよ。……アンナお嬢さん、本当に《鋼鉄の鬼女》並みだね』
「身体能力は、そうですね」
だけど心はきっと、誰よりもむき出しで弱い。今もまさにきっと、壊れそうになりながら戦っているんだろう。
あの夜のことを思い出してしまって、今は意図的に無視する。
「鼓修理のこと、どうするんですか?」
『警察や善導課はバスだったり船に乗り込む際の隙を付くって言ってるけどねー、まあそれは犯人の方も考えてるだろうね』
おちょくった、どこか他人事のような態度は、本心を見せないという意味で完璧だ。顔面にも鋼鉄の貞操帯でもつけてるんじゃないだろうか。
『鼓修理やアンナお嬢さんに少しでも傷がつけば僕らが敵に回るから、政府や警察、善導課としてはしたくないだろうね』
体面ってのがあるんだよ大人には、とどこかしみじみとつぶやく。
「それで、用件は?」
いつの間にか、華城先輩がこっちに来ていた。僕のPMに耳を寄せようとしたので、音量を上げる。
「鼓修理の件に関しては私たちも協力するつもりよ」
『よかったよかった。根回しが無駄にならずに済みそうだ』
不吉な笑みが漏れ聞こえる。だけど問いかけるしかない。
「なにをすればいい?」
『向こうは鼓修理を手放す気はないだろうけどさ、突入を少しでもしやすくするために……《SOX》にかく乱してほしいんだよ』
「かく乱? 具体的には?」
『ま、君たちがやってるのと同じさ。犯人たちは若いからね。《SOX》の信奉者も多いんだよ。あのリーダーも口では《SOX》にダメージを与えるためとか言ってるけど、それは嘘だと僕は思ってる』
「根拠は?」
『僕の勘は当たるんだよ』
「《雪原の青》が動くことはできない」
僕は口を、口だけをね、挟んだ。今の華城先輩は激しい動きができない。
「《センチメンタル・ボマー》だけが行くことになる。それでもいいか?」
『へえ、アンナお嬢さんもあのリーダーも、奥間狸吉のことが好きらしいけど、修羅場だよ? 一人で大丈夫?』
う、となってしまう。華城先輩も頭が痛そうにこめかみを押さえてる。
『ま、できるだけ早く返事は欲しいかな。すぐにとは言えないけどさ。じゃ、まったねー』
通話が切れた。
「胎内回帰、じゃなかった喫茶店の中に戻るわよ。慎重に作戦を立てないと」
じゃないと僕、《SOX》として行ったらアンナ先輩に殺されるんだよなあ。
117 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 18:37:13.96 ID:gTDkXCSm0
……誰もいないのかなあ……とちょっと落ち込むけど、気にせず書くことにする(気にしてる)
118 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 20:21:14.58 ID:gTDkXCSm0
アンナは別の病室に入れられた。女リーダーに「せめて見張りを……!」と食い下がる部下が無理矢理下がらされて、本当にリーダーと二人きりになる。
「そのボタン、外してくれる? 盗聴器でしょ、それ。イヤリングもそうかな?」
「なんのことでしょう?」
きゅいーんきゅいーんきゅいーん
「これ、盗聴器探知機。アンナちゃんから盗聴器の電波が出てるんだよねん」
「外しても構いませんが、条件が一つありますわ。……あなたの本当の話し方で接してくれませんこと?」
「本音で話せってやつ?」
頷くと、わざとらしい笑顔が取れた。了承したとみて、ボタンとイヤリングを指ですり潰す。
「ちっ、鎮痛剤、思ったより効かないわね」
「早く投降して、正式な処置を受けた方がいいんじゃありません?」
「あたしは長生きしたいわけじゃないからね」
正直、この状況にうずうずしている自分を自覚していた。今ならたっぷり痛みを与えながら殺すことができる。気配が変わったことを察知したのか、怪我をしていない右手でこちらを制してきた。
「おっと、休憩室の人質たちがどうなってもいいの?」
「うふふふ、善導課に音声が送られていない以上、隠す必要はありませんわね。……わたくしは敵を、悪を殲滅できればそれでいいのですわ」
「…………」
こちらの悦びに相手は嫌悪を抱いたようだった。
「……人質の安全は関係ないわけ?」
「判断の上位に来るものではありませんわね」
「ふん、これが清楚で健全な大和なでしことはね。あれもバカだ」
「奥間君のことですわね? ……小学校時代、告白したとか」
「こんなイカれた化け物だと知ってたら、絶対奪ってやってたけどね」
「それはできませんわね。あなたが知っているかは知りませんが」
敵意と悪意と殺意を込めて、無表情に睨みつける。
「わたくしと奥間君は、すでに男女の仲なんですの」
119 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 20:22:15.59 ID:gTDkXCSm0
「…………は?」
呆然とする表情に、優越感を得る。
「愛の儀式も済ませましたわ」
「愛の儀式、ってまさか、あんた、処女じゃないの……!?」
『処女』は確か、初めてのことだった。辞書にはそれ以上のことは載っていない。
だからアンナは頷いた。
「ええ、“初めて”の儀式は、もう済ませましたのよ。……あの方でなければ、わたくしは痛みに耐えきれなかったでしょうね」
くすくすと鈴が鳴るように笑うと、相手の呆然具合はさらにひどくなっていた。
「……なんで」
どこか泣きそうな、迷子のような顔だなとふと思った。
「なんで風紀優良度最底辺校出身で、父親が奥間善十郎のアイツが、なんであんたに受け入れられるわけ?」
「奥間君自身が、清く正しく生きていたからですわ」
アンナは言い切る。
「大事なのは生まれではなく、どう生きたかでしょう?」
「気持ち悪い」
相手の敵意が増していく。でもそれは、自分に対する嫉妬だとアンナは分かった。
さらに優越感を得ると同時に、やはりこの女は始末しなければならないと改めて決意をする。
「もどかしいですわね。あなたはわたくしに対する攻撃力がなく、わたくしは色んな方々を人質に取られていて動けませんわ。……ただ」
アンナ自身は気付いていない、猛獣の笑みで相手を睨む。「……っ!」怯んだ隙に、言葉を滑り込ませる。
「わたくしはいつでも、無視できますのよ?」
「……清楚で健全な大和なでしこってのは、どうやら噂だけだったみたいね」
「いえ、一昔前の、奥間君と出会う前のわたくしはきっとそのような人物だったのでしょう。わたくしは奥間君と出会って、愛の儀式を行って、生まれ変わったのですわ。自らの中にあるものを自覚し、解放することを覚えましたのよ」
ペロリ、と意識的に舌なめずりをし、お前は獲物でしかないと言外に知らせる。
「わたくしは、人を壊すのが好きですの。もちろん、普段は我慢しますし、それが間違った欲望であることも理解していますわ。……ですが」
微笑を深める。
「悪の殲滅という名目のもとでなら、その衝動を発散できることを知りましたの」
「悪?」
「ええ、正義に基づき、悪を殲滅する。社会の規範ともずれてはいませんわ」
「理解できない。アンタ、自分が正義の側だって言いたいの?」
「…………」
120 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 20:22:46.46 ID:gTDkXCSm0
いろいろ言葉を並べることは可能だろう。
ただ、何故か目の前の相手に嘘は付きたくないと思った。
それはきっと、同じ相手を好きになった、いわばライバルだから。
「愛は正義そのものだと考えていた時期も、ありましたわ」
だから、本音で語ることにした。それがアンナなりの礼儀だった。
「ですが正義を社会の規範と置き換えるなら、わたくしの『人を壊したい』という衝動は間違っていますわ。……それでもいいと言ってくれたのが、奥間君なのです」
「……理解できない」
「してもらう必要は、ありませんわね」
“熱”と“疼き”が大きくなっていく。相手の嫌悪感がむしろ心地いい。なぜならそれは、自分が奥間君を独占していることからくるものだから。
自分が奥間君の恋人だから。
「ああ、困りましたわ。今すぐにでもあなたを壊して差し上げたいのですけど、さすがにタイミングが悪いので」
「――――!」
ジャキ、と拳銃をこちらに向ける。
「動くな。これはエアガンじゃない。本物の銃よ」
「あらあら。そんなものを使っては、反動で傷に響きますわよ?」
困難はむしろ“疼き”を大きくする。わずかに増えた死の恐怖も、今はスリルとして楽しんでしまう。
「リーダーさん?」
「何?」
「心配なさらずとも、今は動く気はありませんわ。そう気を張らずに。ただ、言っておこうと思いまして」
なぜこんなにも“疼く”のか、何が疼いているのか、ようやく言語化できた。これは言っておこう。
「――わたくしを穢そうとしたこと、月見草さんを傷つけたこと、絶対に許しませんわ」
そう、これは、“怒り”だ。
「あなた方の計画は、必ず失敗に終わりますわ。わたくしの手で、終わらせてみせますわよ」
リーダーはそれ以上答える気がない、というように、拳銃をこちらに向けたまま動かない。
「あんたの動き次第では可能だろうけどね。でもね、こっちも策は打ってあるんだよ」
こちらに負ける気はないと、嗤う顔には、敵意と悪意と殺意がある。
敵がいかような感情を発しても、その感情にワクワクする自分を、もうアンナは否定しなかった。あとは叩き潰す、それだけだ。
121 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/29(土) 20:24:19.65 ID:gTDkXCSm0
はてさてどうなることやら、です。今日更新多いな。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/08/30(日) 07:47:47.15 ID:6tKiDWYoO
読んでますよー
最近来れなくて書き込めなかったけど、今から一気に書き込む
再開してくれて本当にありがとうございます!待ってました!
再開前もそうだったけで、作者さんのSSって細部まで緻密に考え込まれていてすごい。下セカへの愛が伝わってくる
だけど、そういうのに対して無反応が続くと本当に辛いですよね。私もよくわかります
なので、質問
どうして、アンナはテロ小僧のキスを拒否できなかったんですか?
これまで、狸吉とキスしてませんでしたっけ?
だったら、キスしようとしてる事くらい気づいて拒否れたのでは?
123 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 15:42:28.05 ID:1gnwTlVe0
>>122
ありがとうございます、ありがとうございます!!
アンナ先輩、テロ小僧に狸吉を重ねたのが少しあるんだと思います。あとキスは『愛情表現』であって悪意を持った行為ではなく、故に反応が鈍った、と。
あと、好意を持っていない相手からの性的な接触(要するにレイプに近いことが)これだけ気持ち悪いこと、穢されることだと、身をもっては知らなかったのが、反応が遅れた原因です。知識がなかったんですよ……。
今回は松来さんの……誕生日か命日には間に合わせたいけど、誕生日は無理かも……でもがんばります! ありがとうございます!
124 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 18:07:55.14 ID:1gnwTlVe0
早乙女先輩は不破さんと一緒にモニターに回ってもらって、僕らは華城先輩と一緒に別室でどうするか考える。
「華城先輩は遠隔で指示、これは当然として」
「私だって動けるわよ。ほら、100m走に匹敵する反復運動をするわけじゃないんだし?」
「僕だってしねえよ! ……華城先輩の怪我は、まだ軽くはないでしょう?」
「……まあ、足手まといになるのはわかってるから、いいわよ」
「足手まといだなんて。ただ、また危ない目に遭わせるのが僕は嫌で」
「あー、もうこれ精子の掛け合いぐらいに意味のない議論になるからやめましょ」
「ほんっとうに意味ねえ」
「あなたが奥間狸吉としていくのか、《センチメンタル・ボマー》として行くのかよね。どっちにしても爆弾があるわ」
「アンナ先輩が心配ですよね……」
アンナ先輩、最後に通信していた時、ソフィア相手に笑ってたからなあ……。
「ぶちギレてますね」
「ぶちギレね」
嫌な一致だった。
「されたこと、その結果月見草がああなったことを考えたら、誰でもヤバくはなると思うけど、ね」
「アンナ先輩の爆弾を考えると、奥間狸吉としていくべきなんでしょうけど……それだと《SOX》として動いたことにはならないですよね」
「それにいくら憧れがあったって、《SOX》が止めろって言ってもどうにもならないわ。そんな段階、越えているのよ」
「戦闘力が足りない、か……《群れた布地》の時はアンナと風紀委員の力を借りたけど」
「今のアンナ先輩を何とかうまく誤魔化すとなると、やっぱり……奥間狸吉としていくべきなんですかね」
「鼓修理を助け出しただけでも貸しとできるかはわからないけど、第三次ベビーブームが起きようとしているこの状況を鬼頭慶介は不本意に思っているはずなのよ」
「え? えっと」
話が飛んで一瞬理解できなかった。最近、アンナ先輩に関わりすぎたせいで、テロ活動の中身を把握してないのだ。
「もう、赤ちゃんの作り方と妊娠検査薬を配りまくって世間は第三次ベビーブームの到来なのよ!」
「へえ」
僕、参加できてないんだよな……。
125 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 18:08:36.49 ID:1gnwTlVe0
「まあ見返りは期待しないで、あくまで仲間を救うという体で行きましょう」
「鬼頭慶介の作戦としては、あらかじめ船に乗り込んでおくというシンプルなものですよね」
「善導課にも同じことをしたいみたいなんだけどね。クルーズ船とは言っても小型で、20人、このまま人質が解放されなければを30を超える人数だとオナ禁のした時の狸吉の金玉みたいにパンパンになるから」
「そうなる前にアンナ先輩に抜かれるわ!!」
「狸吉と、あとせいぜい……ゆとりぐらいかしら、入れるのは」
「改造エアガン持ってる相手に立ち回りは正直キツいです……」
「そうね。私達は基本、ヒットアンドアウェイ。真正面からの戦闘力は鍛えてないものね。催涙弾や閃光弾を使ったって、殺傷力ある武器をいくつも持っている以上、鼓修理が殺される可能性は否定できないわ」
「そんなの、絶対嫌です!」
確かに性格は性悪の最悪だが、それでも《SOX》の仲間なのだ。アンナ先輩相手だと委縮してしまうが、とんでもなく悪知恵が働くのも《SOX》にとって役に立ってきた場面も多いのだ。
「《ラブホスピタル》に反対筆頭のソフィアの力を借りるのは無理ですかね?」
「…………」
華城先輩はどこか眩しそうに僕を見ている。
「そういう発想が、私にはないのよ」
「?」
「狸吉は狸吉でいいってこと!」
よくわからないけど、褒められたらしい。
「鬼頭慶介の件も、よくやったと思うわ。アンナと関わらせるのはちょっとまずかったけど」
「あ、はい」
一方的に怒られると思ったので意外だった。まあでも、確かにアンナ先輩と取引させたのは問題だったよな。あれ以外にはどうしようもなかったけど。
「でもソフィアも影響力落ちてると思うわよ。何を当てにするの?」
「訓練されたSPぐらいはいるんじゃないかって。防弾チョッキとかそういう装備もソフィア経由では無理ですかね」
「下ネタテロに金も装備もいらないんだけどね」
「本物のテロに巻き込まれたんですから、仕方ないですよ」
「それに、そういうのってどっちかって言えば鬼頭の方だと思うけど」
「……確かに」
「そこで納得するから狸吉は早漏なのよ」
「早くねえ! なんで慶介経由だとダメなんですか?」
126 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 18:09:19.48 ID:1gnwTlVe0
「下ネタテロ組織同士で武器や装備の交換が行われているなんて知られたら、善導課も装備を強化するでしょう?」
「ああ、確かに……鼓修理が例外すぎただけか」
「法律上の指定も変わってくるはずよ。取り締まりも今までとは段違いになってくるわ」
「となると、やっぱりソフィア・錦ノ宮から融通してもらうしかないわね。善導課にツテがあることだし、なんとかなるでしょう」
「無防備じゃさすがに危険ですしね……」
「そうね、処女膜は必要だわ」
「華城先輩は本当ぶれませんね……」
とりあえずソフィア・錦ノ宮には何とか連絡をつけることにして、問題は、
「アンナ先輩なんですよね」
「そこに戻るわね」
いったん、僕らはモニターの様子を確認することにした。不破さんが栄養ドリンク(固形物)を飲んでいる。それも武器にさせてもらおうかな。
「皆の様子はどう?」
「アンナ会長の集音器とスピーカーが潰されました。病室にはカメラもなく、モニターできません。リーダーと二人きりですね」
「それって、大丈夫なの!?」
「アンナと一対一で勝てる相手などこの世にほとんどおらんよ」
「精神面ではわかりませんが」
不破さん、早乙女先輩のフォローを一瞬で無に帰すようなことを……。
「わたしの分析では、冷静さを装っている時が最も危険だと判断しています。今はまさにその時ですね」
「……やっぱり僕、アンナ先輩の恋人として行くしかないんですかね」
既成事実がどんどん積み重なっちゃうよぉ。
「この期に及んで責任を取らないでいるつもりですか?」
「女の子にはわかんないんだよ、このプレッシャー……」
アンナ先輩、ソフィア、祠影の凶悪3ボスラッシュだぞ!?
「まあ、今のアンナを止められるとすれば狸吉だけじゃろうな」
そこは女性三人同じ意見だった。僕だってゆとりも鼓修理も助けに行きたいし、仕方がない。
「もう一回、母さんと真正面から交渉してみるよ。今なら鬼頭慶介の口添えがあるからうまくいきやすいと思う」
「通信の機能はどうしますか?」
「善導課の判断に任せるよ。皆はここで待機していて」
「狸吉」
華城先輩が、いつになく真剣に呟いた。
「アンナにはくれぐれも注意するのよ」
「……わかりました。行ってきます」
127 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 18:10:15.36 ID:1gnwTlVe0
ちょっとだけ書きました!
松来さんの誕生日に間に合うかな、間に合わなければ命日で! かなり不安ですが頑張ります!
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/08/30(日) 20:05:58.87 ID:qI+eDqLrO
第三次ベビーブームか……この世界観だと、未来がガンダム種みたいになりそうで怖い
人工子宮とか当たり前にやりそうだし、子作りの実験色が強くなる。コーディネイターまっしぐら
そして、質問のお返事ありがとうございました。乙
129 :
◆86inwKqtElvs
[sage saga]:2020/08/30(日) 22:35:30.01 ID:1gnwTlVe0
今の世界観は、6巻最後あたりの政府がラブホスピタルという人工受精&デザイナーズベイビーを作る施設を作って、ソフィアが《SOX》から借りた不健全雑誌を腹に巻いてデモをしたところです。
原作だとアンナ先輩は何が正しいかわからず不安定になっていくのですが、ここでは逆レに成功してある意味安定したところです。
ただし、自分の判断より狸吉の判断が上になっています。それは社会規範に合わせても正しくない自分の欲求があるからで。ここらへんがifものになっています。
リーダーはオリジナルキャラなので、名前はない(可哀想) ただ、頭のいいバカですごく負けず嫌いで、下ネタとか卑猥とかにはそんなに興味がないというか、変態ではないという。赤城先生みたいに変態書けなかったよ……
130 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 23:27:18.89 ID:1gnwTlVe0
「また来たのか、貴様」
うわ、母さんさっきよりよほどイライラしてるよ。
「ソフィア……さんは?」
「旦那と何やら画策するそうだ」
揉めてたんじゃなかったっけ? 愛娘の危機だとそんなのは些事なのか。
「母さん」
意を決して、できるだけ静かに言う。
「僕を、人質のいる場所に行かせてほしい」
「…………」
珍しく、母さんは肉体言語でなく沈黙で僕の意図を透かそうとする。
「何故最初から貴様が行かなかった?」
「アンナ先輩が主導だったんだ。僕もアンナ先輩の作戦は、大丈夫だと思った。アンナ先輩なら大丈夫だって、思ってたんだ。だけど」
以前、不破さんが言ったことを思い出す。ただ、あの時と違うのは。
「アンナ先輩は“僕の言葉”なら、人質を殺すよ。自殺してって頼んだら、自殺するよ。何の疑いもなく、笑顔で」
「……何を言ってる?」
「信じられないかもしれない。でも、アンナ先輩にとって、僕の言葉はもう、絶対になってるんだ」
こんな、ふらふらした僕の言葉を。
アンナ先輩は変化の最中で、不安定で、あの夜も衝動に飲み込まれそうになって間違えて、今も間違いつつあるんだ。
「アンナ先輩も、ゆとりも鼓修理もみんなも、僕は助けたい。そのためには、人質の内側にいるアンナ先輩の戦闘力は必要なんだ」
だけど今のままでは不安定すぎて、きっと人を殺してしまう。そうなったら、戻れない。だから。
「お願い、母さん。僕を、あそこまで、行かせてください」
土下座する。
「この期に及んで虫のいい話かもしれないけど、これ以上誰も傷つけたくないんだ。……犯人たちも」
「リーダーは、貴様に告白していたそうだな」
う、やっぱりばれてるよね。
「同情か?」
「否定しない、です」
これも、きちんと言わなければならないのだろう。
「でも、これも僕の責任だと思っています」
多分、小学校時代、僕は間違えたのだ。多分、アンナ先輩への憧れをひたすら語っていたんじゃないかと思う。
だからあの子は、道を間違えた。
あの子は華城先輩やゆとりや、そして僕の、影なんだ。
「……防弾チョッキを着ていけ。おい、貴様、用意しろ」
「母さん!」
善導課職員がバタバタとする中、母さんにしては静かに呟く。
「貴様まで月見草のようになったら、アンナがどうなるか知らんぞ。責任はとれ、いいな?」
「はいっ!!」
131 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 23:28:05.89 ID:1gnwTlVe0
「あー、だるいわー、痛いわー」
アンナは腑抜けたふりをするリーダーを余すことなく観察する。そして、想像する。
――どうすれば、悲鳴をあげさせられるか。
――決定的な傷を与えられるか。
想像だけで楽しくて仕方なかった。そんな想像が湯水のごとく湧き出るのは、奥間君が変えてくれて自分にくれた、力の証。
この女は肉体的な痛みには強いのは分かった。できれば精神にダメージを残したい。
コンコン
「リーダー、よろしいですか……?」
自分に対する怖れが強いのか、犯人たちは自分に対して弱腰だ。リーダー以外は。
「善導課から?」
「はい。……人質をそちらに一人、送りたいと。その、名前が、あの」
「……ふうん? まあその様子でわかったよ、サンキュ」
左腕を破壊されたリーダーが、ニヤリと笑う。どこからその余裕が出てくるのか、アンナでも不思議だった。
「奥間狸吉でしょ?」
「――――」
奥間君。奥間君、奥間君、奥間君、奥間君、奥間君、奥間君、奥間君!!!
「ここにお通しして、休憩室に詰め込むとそれはそれで厄介そうだしね」
わかりました、と小さく礼をすると、すぐに用意がなされる。
下肚が疼く。愛を感じる。愛の蜜が流れ出すのを感じる。
快感と昂揚が、より強くなっていく。
「――奥間君」
「アンナ先輩、大丈夫ですか?」
頷く。
今だけは、二人だけの世界だった。
132 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 23:28:49.27 ID:1gnwTlVe0
善導課による盗聴器はしかけられていない。向こうが手の内を知った以上、リスクの方が高いからという理由だ。
そしてまさかいきなりリーダーの部屋に通されるとは思わなかった。できるならゆとりや鼓修理と合流して作戦を立ててからこちらに来たかったのだけど、もう、ね。
なんだろう、この空気。冷凍マグロでも冷たさを感じるぐらい、冷たい。
……女同士の修羅場とかがあったんだろうか。いやまさかな。
「あ」
アンナ先輩が朗らかに笑う。リーダーは、険しい顔のままだ。
「あ、アンナ先輩?」
「ふふ、わたくしたちの愛の証明をしようと思いましたの」
「え、えっとそれ!?」
「……唇を穢されたことには、わたくしにも非がありましたわ。相手が何をしたいのかわからなくて、つい反応が遅れてしまって……」
アンナ先輩は目を伏せる。長いまつげが影を作る。
「だから、清めてくださいまし」
ジャキ、という音と、アンナ先輩にしては緩慢に僕の首に腕を回すのとは、同時だった。
「これはエアガンと違って、本物の銃よ。不愉快だから二人とも離れて」
銃!? 装備はエアガンだけと聞いていたのに!?
バチィン!!
銃が、跳ね飛んだ。
「!?」
「さっきすり潰した、ボタンとイヤリングの残骸ですわ。親指で弾き飛ばしてみましたの」
し、指弾ってやつか? モーションが一切確認できなかったぞ?
慌てて拳銃を拾おうとするが、アンナ先輩の方が数段早かった。かがんだのが見えなかった。
「向こうのアドバンテージは、一つなくなりましたわね。奥間君、拳銃、預かっててくださいまし」
「あ、あの」
「……何をする気?」
「大丈夫。わたくしからはあなたに何もしませんわ」
あ、まずい。
完全に欲情の獣になっている。これじゃ、交渉も何も――
「奥間君」
唇が、重ねられた。
――多分、僕が初恋の相手であろう相手の前で。
上あご、頬の傷、歯茎の裏、すべてのポイントに舌が当たる。唾液が送り込まれる。いつもと同じように、そのテクニックは凄まじい。
違うのは、その視線。
視線は、女リーダーに向けられていた。
優越感。
欲情と優越が入り混じったそれは、人を傷つけるためのものだった。
133 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 23:29:28.11 ID:1gnwTlVe0
さらに僕の手を、胸に移動させる。「うぁん……!」舌の動きが加速し、ぴちゃぴちゃと湿った水音も大きくなっていく。
ひと段落した後、僕の愚息がおっきおっきしてしまって、「あん、愛の蜜が……」「ひ、先輩、人のいるとこでは止めて!!」一応聞き入れてくれたのか、アンナ先輩は僕の背中に回り、腕を回してぎゅっと抱きしめる。背中におっぱいが当たるよぉ。
「わたくしたちが愛し合っているのがわかりまして?」
「……卑猥な」
「? 卑猥? 何がですの?」
まずい! この流れはまずい! でもさっきからアンナ先輩の下が耳の穴をちゅぽちゅぽと舐めて挿入れて出して、手は息子をズボンの上から絶妙な力で撫でていてうまく考えられない!!
「これが卑猥でなかったら何だっていうのよ!?」
「? おっしゃっている意味がよくわかりませんわ。これは、愛情表現ですのよ。そしてあなたは」
僕とアンナ先輩自身の唾液でぬらぬらと光っている唇で、思いっきり笑った。
「うふふふひ、あはははは!! あは、無謀にもわたくし共の愛を穢そうとした、最大の罪人なんですわ!!」
コンコン!!と急いだノックが聞こえた。部下の一人がアンナ先輩の嬌声に危機を察知したんだろう。
「何でもない、見張りを続けて」
「しかし、今のは!?」
「何でもないって言ってるでしょ!?」
(アンナ先輩、向こうをいたずらに刺激するのは止めてください!)
(あん、奥間君が言うなら……でも帰ったら、じっくりたっぷり愛し合いましょうね?)
「…………」
うすうすは気付いていただろうけど、アンナ先輩の価値感が常識と外れていると向こうは完全に気付いたらしい。
「狸吉、覚えてる?」
後ろで殺気が膨れ上がった。僕このまま絞め殺されない?
「告白した日。『僕はアンナさんみたいになるんだ』って言ったの」
「……うん」
「あたしがきれいな生まれだったら、健全に生きてこれる環境だったらよかったのにって、さっきまではそう思ってた」
あの日、僕に告白した子は、アンナ先輩を憎悪の目で見つめてる。
「その女、狂ってる。壊れてる。あんたの好きな『綺麗で健全な大和なでしこ』じゃない」
「…………」
「それでも、本当にその女を、愛してるの?」
「……僕がアンナ先輩を嫌いになることは、絶対にないよ」
重ねて、続ける。
「今でも、憧れてる。本当は、純粋で優しい人なんだ」
(……華城先輩……)
「もし今のアンナ先輩が、狂って、壊れたんだとしたら、それは僕が原因だから。だから、僕から離れることは――ないよ」
別の女性の顔が浮かぶ時点で、きっと僕は、アンナ先輩のことを女性として好きじゃないんだろう。
僕はどこまでも、不誠実だった。そして、ずるい言い方で逃げる、最低の男だった。
134 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/30(日) 23:31:16.25 ID:1gnwTlVe0
狸吉はあくまでも華城先輩のことが好きなのです。恋路も大事。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/08/31(月) 12:44:05.06 ID:jr58xkP0O
華城先輩の方が良い。そりゃそうだ
アンナ先輩って、深く関わると、狭量なところが目立つんだよね……純粋だけど幼くて手のかかる妹って感じでさ
これじゃ、狸吉は気の休まる暇もない。だって、まだ幼い妹に自分の負の部分をさらけ出すことなんてできないから。ずっと一緒にいたら疲れるに決まってる
華城先輩はあれで器が大きいから、気楽に負の部分をさらけ出せる。少なくとも、アンナ先輩よりは、よっぽど
こういうベクトルのカリスマを母性って言うんだろうな。実の母親に負の部分をさらけ出せない狸吉にとって、母性の有無は大きい
仮に健全法なんて普通の世界でも、狸吉とアンナ先輩じゃ上手くいかなかっただろうことがよくわかるわ
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/08/31(月) 15:33:45.12 ID:eS8p8KYA0
やあ、やっとここまで来た。1人のキャラをこれだけ掘り下げるってすごいな
たぬきちが悪いとかじゃなく、アンナ先輩にこそ負の部分もOKな母性が必要なんだよな。原作では最終巻で
「間違ってもいいんです」
ってみんなで間違えてたけど、このアンナ先輩は1人だけで本質は変わってない気がする
137 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/31(月) 18:59:54.36 ID:MN1Q866e0
私に何ができるんだろう。
下ネタしか言えない、怪我人でろくに動けない私に、いったい何が。
だって狸吉とアンナはもう結ばれていて、きっと狸吉ならいつか心の整理をつけて、アンナを受け入れるのは目に見えているのに。
「心中、大変なようですね」
不破氷菓がモニターしながら淡々と相変わらず無表情に言葉を紡ぐ。
「まあ、生徒会二人が人質の状態じゃね」
「素直じゃありませんね、あなたも」
「…………」
「綾女の強情さはどうしようもなかろ」
「……悪かったわね」
早乙女先輩の言うとおり、私は強情で、自分が正しいとしか言い張れなくて、だから世界は間違っているなんて言って下ネタテロリストになった。
今のアンナは自分が間違っても狸吉が受け止めてくれると思っている。そしてそれはきっと間違いじゃない。話を聞いていて分かった。
私に入る隙間なんてない。
「あんた、何やってんだい!?」
「え、え?」
「どなたですか?」
不破氷菓の無機質な質問に、
「撫子、綾女の後見人じゃよ」
早乙女先輩が代わりに答えてくれた。
今は15:00。
「あと一時間はかかるって」
「急いで来たに決まってんだろ、バカ! マスターからこっちにいるって聞いて来たんだよ!!」
相変わらず、威勢のいい啖呵。かと思ったら、
「朱門温泉清門荘で女将を務めております、華城撫子と申します。以後お見知りおきを」
いきなり女将モードになった。この切り替えは3Pの相手替え並みに早いわね……。
138 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/31(月) 19:00:24.19 ID:MN1Q866e0
「今どういう状況だい?」
「ちょっとややこしいですね」
不破氷菓が淡々と説明していく。撫子のしかめっ面の皴が増えて、
「私はまだ若い!」
「痛い! 怪我人に拳骨なんてそんな、う、うー!」
ああもう、不破氷菓がいるせいで下ネタ言えない!
「奥間狸吉があのアンナを止めるために、これ以上犠牲を出さないために危険を承知で行ったってのに、こんなところでうじうじしてる暇なんかありゃしないよ。アンタ、いつの間に越されてんだい?」
「少し厄介な事態が発生したかもしれません」
不破氷菓が撫子の言葉を切って、モニターの一つを指し示す。そこは今、犯人のリーダーとアンナと狸吉、三人でいる病室の前で、音声はないが部下が騒いでいるのがわかる。
だが、すぐに戻っていった。なんだったのだろう。
「アンナ会長は刻々と不安定になっていっているようですね」
「リーダーがアイツとはね。全く世も末だ」
「な、撫子知ってるの!?」
「異常な負けず嫌いってやつぐらいしか知らないけどね。もう絶滅したと思ってたレディースの後輩ってやつさ」
「ならあの統率力もわかるわ。れでぃーすの統率は凄まじいものがあるって聞いたもの」
「で、どうすんだい?」
「相手はヘリで船の上まで人質とともに移送する、そういった要求をしています。人質の解放は外国についてからだと」
「ふざけた、頭のいい話だね」
「このままだと、外国に交渉のカードとして人質たちは使われるわ」
「で、どうすんだい?」
もう一度同じ問いを掛けられても、答えようがない。それを知りたいのはこっちなのだ。
モニターをもう一度不破氷菓と早乙女先輩に任せ、撫子と別室に行く。
「私は怪我で動けない、狸吉はアンナ対策で動けない、ゆとりと鼓修理は人質の中。……《SOX》としてはどうしようもないわ」
「いつからそんな弱気になったんだい、そんな娘に育てた覚えはないね」
「…………」
「下ネタすら浮かばないとはね。こりゃ重症だ」
「じゃあ、どうするのよ、撫子なら」
「自分で考えな、って言いたいところだけど、さすがにこれはきついかねえ」
撫子は勃ち上がる。間違えた、立ち上がる。
「大人は大人で話し合いに行くよ。子供は子供で決着着けな」
「……わかったわ」
何一つ、何をすればいいのかわからなかったけど。
ふう、と息を入れて、ゆとりの代わりに《哺乳類》《絶対領域》の古参メンバーに連絡していく。
139 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/31(月) 19:02:36.76 ID:MN1Q866e0
華城先輩はもうアンナと狸吉がくっつけばいいと考えてしまっているようです。
まあ、責任を取るってそういうことですよね。逆レでもね。え?
つまりどういうことかって、事件と関係なく華城先輩悪いモードに入ってまーす。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/08/31(月) 19:15:27.44 ID:n06gnCT10
華城先輩はどうするのが最適なのかわからんな
怪我も重いみたいだしな...
141 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/31(月) 20:21:12.14 ID:MN1Q866e0
(狸吉が来てるだぁ!?)
(よかったっス、あの化け物は狸吉に任せられるっス!)
善導課からの連絡で、狸吉が来ていることを知る。鼓修理の言い方は癪だが、化け物女対策であることは間違いない。
(キスされる前までは頼もしかったんスけどね)
(ぶほぉ!? キ、キ、キスとか、せめて接吻とかだな!?)
(まあ化け物でなくてもぶちギレるのはわかるっスけど)
(……あれはな)
さすがに同情している。頭に血が上ってしまったのも、そのせいで負った月見草の負傷も、ゆとりの目から見たら仕方がないと思っている。今、大暴れしていないだけマシと考えるしかない。
でもさすがに、正直何もしていないこの状況で、狸吉任せにするわけにはいかない。なんかバタバタした音がする。何かあったのかもしれない。
「……おい」
《鋼鉄の鬼女》から大人しくしろと指示が飛ぶが、今は無視する。
「…………」
「あたしを、リーダーのところへ連れてけだぜ。あたしはリーダーや狸吉、そして化け……一応、生徒会長の知り合いでもあるんだぜ」
(鼓修理を一人にする気っスか!?)
(ここの方が安全だろ、どう考えても!? ……あのリーダーと、化け物女に挟まれる狸吉は、絶体絶命のピンチだぜ。さすがに放っておくわけにはいかないんだぜ)
「……リーダー、……ええ、濡衣ゆとりという……はい、はい……わかりました」
手錠は後ろ手に外されずに、立ち上がらせられる。このままリーダーの部屋に連れていかれるのだろう。
しばらく廊下を歩いて、ある病室の前にたどり着いた。
「濡衣ゆとりをお連れしました」
入れ、とどこか余裕のない様子の声に、化け物女が何かやらかしたのだとわかる。
扉が開かれると、背中越しに狸吉を抱きしめている化け物女と、それを睨んでいる女リーダーが目に入った。
「入れば」
わざとらしい余裕の声はみじんもない様子に、戸惑いを覚える。
「何しに来たわけ?」
「奥間君までわたくしを助けに来てくださって。もうわたくし一人でも十分でしたのに」
明らかに邪魔者扱いされてた。狸吉の様子はというと、
(ア・リ・ガ・ト・ユ・ト・リ)
それだけで来た甲斐があったというもんだぜ……。
「昔話でもしようかって思ったんだぜ」
後ろ手に手錠をされたままだが、椅子に座らせてもらう。化け物女は拘束の意味がないからか、新しく手錠はされていないようだった。
そして化け物女は、人の血の味を覚えた獣の目を、さらに眼光強く、さらに飢えて、さらに他人の苦痛を欲していた。頼むから自分に向かわないようにしてほしい。
「お前、なんでこんなことをした?」
矛先をリーダーに向ける。今の化け物女とまともな会話ができるとは思わなかった。
142 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/31(月) 20:22:28.98 ID:MN1Q866e0
「お前なら、時岡学園に入ろうと思えば入れるだったぜ。た、奥間よりよっぽど成績は優秀だった」
「……成績より生まれよ。狸吉は一応母親が善導課主任だったから。ゆとりなら知ってるでしょ」
ただ、と化け物女を睨みつける。……自分は怖くて見れない。
「《育成法》の象徴であるアンナ・錦ノ宮が、ヒトの人格を無視する化け物だと知ってたら、意地でも奥間狸吉を時岡学園なんかに行かせなかった」
「……よ、よく言い切れたもんだぜ……」
呆れと感嘆、両方があった。目の前で化け物女を化け物と言える人間を初めて見た。
「うふふ」と化け物女はあくまで上品に笑う。
「好きに仰ってくださっていいですわ。わたくしはもう、あなた方を殲滅すると心に決めていますので」
「人質を無視して? それを狸吉が望むと?」
リーダーが畳み掛けるように訊いても、「うふふふ」と不吉に笑うだけ。
「あ、アンナ先輩、人質を犠牲にするようなことは」
「……残念。でも、いつでも準備はできていますので……奥間君がゴーサインを出してくれさえすれば、いつでも――」
凍っていた空気が、さらに絶対零度まで下がる。化け物女の殺気は飽和しつつある。
「ちっ」
リーダーは舌打ちすると、トランシーバーを口元に当てた。
「アンナ・錦ノ宮を解放する――用意をして」
「何を仰っていますの? わたくしはここに残りますわよ」
「少しでも暴れてみなさい、別室にいる人質が死ぬことになる。数は多いから問題ない」
「あ、アンナ先輩!」
「……まさか、錦ノ宮祠影とソフィア・錦ノ宮の娘を人質にしているというアドバンテージを崩すとは、意外でしたわね」
「あんたの存在は政治的駆け引きを加味しても危険すぎる。化け物なのよ、《育成法》が作り上げた、化け物なんだわ。アンナ・錦ノ宮」
「…………」
「狸吉とゆとりも解放してあげる。旧知のよしみでね。政治的駆け引きに必要な人質はこれでも十分間に合っているから、ご心配なく」
――人質は、鼓修理含めて、残り8人。
143 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/08/31(月) 20:23:53.36 ID:MN1Q866e0
た、多分、人質は8人であってるはず。間違っていたらすみません。何せ昔のことなのでちょっと記憶があいまいで……
144 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 00:25:04.60 ID:0HVfqfsE0
『アンナ、家に戻ってきなさい、アンナ!?』
「聞けません、お母様」
冷静にそう返すと、善導課が用意したパトカーの中でアンナ先輩はソフィアからの着信を拒否した。僕たちは今、アンナ先輩とゆとりとで、喫茶店に向かっている最中だ。
「このままだと鼓修理が……!」
「…………」
「とりあえず、喫茶店で綾女たちと合流するんだぜ」
「……その前に行きたい場所がありますの。もちろん、奥間君がダメなら我慢しますわ。ですけど……」
え? えっと、ラブホテル? そんな場所あるか!
「……月見草さんの病院に、行きたいんですの」
「…………」
「ダメなら、いいんですわ。わたくしが行ったところで、治療に役立てるわけでもありませんし、」
「すみません、行先変えてもらっていいですか?」
「まあ、そういうことなら、仕方ねえと思うぜ。綾女たちに連絡しとくぜ」
「……いいんですの? 鼓修理ちゃんのことが心配じゃ……」
「今、華城先輩たちも動いています。華城先輩からのPMだけ音量を上げて、あとはサイレントにしましょう」
助手席に座っていたゆとりにメールを送る。アンナ先輩は窓の外を見ていて、僕達の挙動は目に入っていない。
『多分、僕と愛し合いたいとアンナ先輩は思ってるから、本当にごめん、妊娠阻害薬〈アフターピル〉入手してきて』
『お前、本当バカなんだぜ』
『一応、ゴムはいくつか持ってるんだけど、アンナ先輩相手じゃその』
『ひ、卑猥だぜ!! 入手しとくから搾り取られるといいんだぜ!!』
さすがに知識ある女の子相手に生々しい会話だったよな……。でもアンナ先輩の暴走を止めるには必要なんだよ……。
病院はさほど遠くない場所にあった。月見草は無事、手術を終えて今は麻酔から目を覚ますまで、念のためにICUにいるという。
「よかった……、月見草さん……」
あのリーダーと相対していた時とは全く違う、本心から安心した女神の涙を浮かべて、アンナ先輩は銀髪を陰に囁いた。
「あたしは戻っとくぜ」
「うん、わかった。……えっと」
「頼んでいたやつはわかってるから、まあ心配しなくていいぜ」
145 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 00:25:40.24 ID:0HVfqfsE0
……これ、僕から言わないといけないかな。言った方が収まるんだろうけど、言うのやだな。でも仕方ない。
ゴムは5枚、これで足りなければもう自分死ぬ。今朝夢精したし、作戦開始前に一発やってるし。
辛うじて今の日本でも売ってる栄誉ドリンクの中でも強めのやつを買って飲む。アンナ先輩には温かいミルクティーを買ってきた。
「月見草、じきに目を覚ましますって」
「そう、ですわね」
……やっぱり何かを期待、もしくは恐れている目だ。僕は言わなければならない。
「アンナ先輩、もしあれがアンナ先輩の失敗だとしても、間違っていたとしても、僕はそれで嫌うことはありません」
「奥間君……わたくしは、やっぱり、その……敵を、殲滅したいですの……」
ここから先は、もう止まらない。誰も止めてくれる人はいない。
「一時間だけ」
「…………」
「一時間だけ、空けてあります。みんなにはそう伝えてあります。だから、その……」
僕、ぬっ殺されるかもなー。
「隣に、ビジネスホテルがありますから。愛し合いませんか?」
「――――」
欲情の火がともる。捕食者の瞳になっていく。
あー、もう反射でビクンと息子が反応しちゃうよぉ。
「隣よりも、向かいの方がいいですわ」
「……超高級ホテルなんですけど」
「わたくしのPMにある電子マネーで何とかなりますから、大丈夫……」
146 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 00:27:05.24 ID:0HVfqfsE0
学生服にブランド物のない単なる私服でどこからどう見ても学生だというのに、超高級ホテルは意外と客を選ばないらしい。
「身なりで判断するようなホテルマンはいませんわ。そういうのを嫌う方も一定数いるので」
そういうものなのか。そんなことを説明受けているとあっという間に一室に通された。さすがにスイートルームではないけど、ビジネスホテルの一室に比べたらベッドも大きく、何より防音性に優れていそうだ。
「ん! うぅぅぅん!!」
扉が閉まった瞬間、アンナ先輩の舌が僕の口内に入り込んでくる。一部の隙も無い動きは相変わらずだった。瞳が欲情の獣の瞳になっていく。股間のあたりから、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえてくる。
「あ、は、シャワーを浴びたいところですが、奥間君の匂いを嗅ぐと、もう我慢できなくて、あはあ」
うん、知ってた。一気に息子がおっきしたもんね。
「うふふふひ、まずは舌を堪能させてくださいまし」
ジーパンのチャックを引きちぎるように口で開けると、僕の息子をお口に入れる。
じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ、じゅぼ!
う、いつもよりも性急な動きに僕の方がついていかない。ちら、と上目遣いで僕を見ると、一気に腰が砕けそうになった。というか砕けて、扉を背に座り込む。アンナ先輩の頭が振られてく。
「せ、せ、んぱい、出ます!!」
どぴゅ、とまだ勢いのある射精で、アンナ先輩は啜った後、尿道口まで舌をねじ込んで、じゅるじゅるとお掃除フェラまでしてくれる。
「は、はあ、はあ、先輩、ベッドに行きましょう?」
嫣然で壮絶な笑みを浮かべると、ダンスをするように僕を起こし、僕がのしかかる形でアンナ先輩に覆いかぶさる。いつのまにかおたがい服ははだけさせられていた。
ブラウスの下にブラジャーが見える。僕も獣欲にあてられて、(10日以上も我慢し続けたからね)外すのも面倒で、ブラジャーの上の隙間から舌を入れ、吸い付く。ガクガクガク!とアンナ先輩の身体が痙攣する。「は、ああん!! これ、これが欲しいですの!!」もう片方の乳房は揉みしだきながら、先端を指でころころと転がす。
「はあん! あ、あ、あ、おくまくぅん!!」
絶頂の予兆が来たのでここでやめておく。「あ、は、焦らさないでくださいまし……」猛獣に食われそうな恐怖になんとか耐えながら、僕はアンナ先輩のショーツを下げた。
「ああん、そう、そういうことですの。でも、今日は生理ですから、奥間君を汚してしまいますわ……」
「そういう時のためにこれがあるんです」
僕は言い切った。本当は生理中じゃない、危険日にこそしてほしいんだけど、とにかく避妊具の存在を知らしめたことは大きな一歩だ。
コンドームを取り出すと、完全に勃ち上がった息子に装着する。
「ほら、これで、あの、汚れたりしないですよ……ね?」
「そういうものがありますの。……愛の蜜が交わらないのは不本意ですけど、仕方ありませんわね」
素直に納得してくれた。愛の蜜が交じり合うと(細かい過程は違うけど)妊娠するから勘弁してほしいんだけど、それはおいおい覚えてもらおう。
「アンナ先輩、うつぶせになってもらえますか?」
何もかもをわかってる、と言いたげに微笑すると、うつぶせに、としか言ってないのに完全にバックの体制になる。なんでわかるんだ。
147 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 00:27:47.04 ID:0HVfqfsE0
「うふふふ、早く、焦らさないでくださいまし……!」
焦らしたら逆に食われるから、言うとおりにする。
ズッズッズッ、ズズッ!!!
奥まで、これ以上いかないか確かめるために、何度か角度を変えてズ、ズッと抜き挿しする。
「はあん、お腹の中が、奥間君の愛で掻き混ざっていますの!!」
手はお尻を触っている。うわこれ、おっぱいに負けじと気持ちいい。おっぱいがお餅の柔らかさなら、お尻は桃の果実の弾力ある硬さといった感じだ。
お尻を揉みながら、アンナ先輩の中をひたすら掻き混ぜる。
「あ、あ、あぁあああぁぁ!!!!」
高い声を上げて、アンナ先輩は果てた。中が収縮してビクンビクンと身体が震え、僕も果てた。僕の息子を抜くと、固まりかけた血が生々しくて、あの夜の破瓜を思い出させる。アンナ先輩は一瞬動きが止まって呼吸を整えたが、凄絶に笑っていた。
「うふふ、いつもと違う体勢というのも、趣が違っていいですわね……!」
いつも騎乗位ばっかりだったからね!
「ねえ、奥間君が嫌でなければ、その……やってみたいことがあるんですの」
「? なんです?」
「奥間君、排泄孔を指でほじると、すごく気持ちよさそうで、すごく愛を感じていましたわ」
さ、っと顔から血の気が引くのがわかる。
「あああ、あ、あれはその、体力の消耗が激しいので、この後のことを考えると」
「ん、でも……わたくしも体験してみたいんですの。前と後ろ、両方を奥間君で満たしてみたいんですの」
「へ?」
……アンナ先輩、二つ穴を犯されたいってこと? アンナ先輩、淫獣モードで照れるという器用なことをしていらっしゃる。
「しんどいと思いますけど……それに女性と男性では、違うらしいですし」
前立腺の有無とかね。
「ダメ、ですの?」
「…………」
むしろ多少体力を奪っていた方が死人が出なくていいかもしれない。一応そんな計算が働いた後、とりあえずゴムを捨て、
「あの、その前に……は、排泄孔に、指を挿入れたりしたことはありますか?」
「あ、ありませんわ……」
「じゃ、じゃあ、僕も詳しいわけじゃないですけど……ゆっくり、慣らしていきましょうか」
指から入れるかと考え、……「そのまま、動いたら傷つけるかもしれないんで」アンナ先輩は頷くと、シーツをぎゅっと握る。
148 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 00:28:22.96 ID:0HVfqfsE0
ぺろ、と排泄孔を舐めてみた。「ひゃ!?」「楽にしてください、力を抜いて……」言うとおりにしてくれているらしく、穴から過剰な力が抜けた気がする。もう一度、舌を挿し込んでみる。今度はもう少し奥まで入った。
「どうですか?」
「ん、なんか、不思議な感じですわ……強烈な愛は感じないのですけど……うずうずするというか、もっと欲しくなる感じですわ……」
僕が舐めているのは決して趣味がそうだからではない。(アンナ先輩の調教でそうなっていくかもしれないけど)ローションみたいな潤滑油がない以上、すぐに指を挿入れるのは危険と判断し。唾液を代わりの潤滑油とするためである。でもなんか、匂いというか味というか、そういうものが思っていたものと違って、汚いとか全然なくて、何故か背筋がぞくぞくしてくる。
「ん、そろそろ大丈夫そうですね……、指、挿入れても大丈夫ですか?」
「……奥間君のすることなら、なんでも受け入れますわ……」
そういうアンナ先輩は淫獣モードでありながらも慈愛に満ちていて、僕は大丈夫だと判断した。中指を、一瞬考えて、アンナ先輩の唇に触れると、意図を察して唾液でたっぷりまぶしてくる。
そして中指を挿入した。
「ん!? んん、ふううん……!」
根元がギュッと閉められる。痛いぐらいだが、中はひだもなく柔らかかった。ゆっくりと動かすと、「んんんん……!!」なんとも艶めかしい声を出してくる。
「どう、ですか?」
「ん、ふうん、な、なんだか、不思議ですわ……! も、もどかしい……! 奥間君……!」
「は、はい!」
「ゆ、指じゃ、足りないんですの、きっと。奥間君の、逞しいモノじゃないと……!」
背を反らせながら器用に僕のお尻を掴むと、排泄孔に導く。「え、あ、でも」「奥間君、わたくしに痛みを与えるかもなんて、もう考えなくていいですのよ?」力の加減をこの短期間で習得したのか、排泄孔の中に僕の息子の先が少しずつ挿入っていく。
「あ、あああああ!! やっぱり、奥間君の突起物じゃないと、はあん!?」
――ゴムつけてない! 大丈夫か!? 後ろだし大丈夫だよな!?
とは理性で思いつつも、もうカリ首のところまで挿入ってしまった。抜こうとするとぎゅうと強く締め付け、痛みを感じるぐらいに抜けさせようとはしてくれない。
「もっと、奥まで……!」
理性が飛んだのか、言うことを聞かないと後が怖かったのか、何なのかもう僕にもわからなかった。何しろ与えられる快感が尋常じゃない。多分だけどアンナ先輩以外の女性ではこんな快感は無理だと本能でわかる。
だからとにかく、奥まで挿入れた。
「はうん!? あ、あ、あ、」
うわ、入り口はキツキツなのに奥は柔らかくて温かい。前の穴とは違う快感がある。
これハマる人がいるの、わかる。ゆっくりと、しかし深く、僕はアンナ先輩の穴をほじくっていく。お尻を揉むのも忘れない。
「お、おお、あああ……こ、これ、すごいですわ、あは、ふふひ!」
アンナ先輩もお尻を振る。「う、わ」ちかちかと目の前が光る。快感が倍増してきた。
「先輩、お尻に、出ます」
「あ、あ、はああん!!」
排泄孔の中に出した後、アンナ先輩も続けてビクンビクンとした。排泄孔から白い液体が少し漏れる。
149 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 00:29:05.49 ID:0HVfqfsE0
「……奥間君、それ、着けてくださる?」
あ、前を希望なされてる。半勃起しているそれにゴムをはめると、アンナ先輩は体位を入れ替え、対面座位の形になる。もう十分濡れ濡れな僕らは、あっという間に挿入した。
「奥間君、わたくしの排泄孔を、指で掻き混ぜてくださいまし……!」
素直に挿入する。あ、これ、気付かなかったけど、
「アンナ先輩、壁越しに、僕がわかりますよ、これ」
前の方に指をひっかけるようにあてると、僕の息子の存在感がわかる。アンナ先輩は腰を動かさず、僕を抱きしめている。その様子に、少し不安になった。
「先輩、辛いですか?」
「ふ、ふふふひ、“まさか”。今すごく、気持ちいいんですのっ!」
そういうと僕とキスをする。快感を堪能していただけだったらしい。僕は指をうごめかし、反対の指はアンナ先輩の胸の先端を転がすように捏ねる。
アンナ先輩は重心を上手く移動させ、ずんずんと上下運動を繰り返す。ヤバい、もうイキそう。
「先輩、で、出ます!」
言葉と同時に発射し、アンナ先輩もイッた気配があるが、アンナ先輩の上下運動は止まらないし、僕自身も止まらなかった。射精感が続いているのに、腰を振ってしまう。
「あ、あ、下から、下から来てますわ!! ああ、これ、これが奥間君の愛ですの!!」
グネグネと中の襞をうごめかしながら、アンナ先輩は凄絶に笑う。
――僕の目は、今どんな目をしているだろう。
今それを知るたった一人の人は、笑ったまま、僕の唇に貪りついた。
150 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 00:31:05.81 ID:0HVfqfsE0
久しぶりにベッドシーン。こんな時に何やってんだという気もしなくはないですが、アンナ先輩の性衝動を解放するのは死人を出さないために大事なことなのです。
久しぶりすぎるベッドシーンで勘が戻らない。こんなんでよかったかな……
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/01(火) 13:00:53.69 ID:xmPouYo80
エロシーン、おっきした
152 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 13:29:15.66 ID:0HVfqfsE0
二人で一緒にシャワーを浴びた後(時間がないからシャワーの中ですら休みがなかった)アンナ先輩のPMに華城先輩から着信が届く。
「どうしましたの? ……はい、ええ、仕方ありませんわ。ゆっくり休んでくださいまし」
PMを切ると、「綾女さんとゆとりさんは家に帰られましたわ」とまさかなことを言う。
「ほ、本当ですか?」
「仕方ありませんわよ。あの怪我では。ゆとりさんも一般人ですし、これ以上は巻き込めませんわ」
「…………そうですけど」
腑に落ちない。当たり前だ、今は《SOX》にとっても全国の下ネタテロリストにとっても大事な時期なのだ。
「とにかく、いったん喫茶店に戻りましょう」
事情が分からない。タクシーを拾ってすぐに喫茶店に向かう。
中に入るとパンツを被った《雪原の青》と狐の面を被った《哺乳類》代表がそこにいた。
(イヤアアアアアアアナンデナンデニンジャナンデ!?)
「あら……、こんな時に」
アンナ先輩の瞳が人を壊す悦びを覚えた獣の光を帯びた。混乱しているうちに不破さんがやってくる。
「今はこの二人を逮捕することはできませんよ、アンナ会長」
「説明してくださる?」
本当に説明してほしいよ! 主に僕に!!
すると、臨時のモニタールームからさらに意外な人影が出てきた。アンナ先輩と同じ銀の髪。
「お母様!?」
(なんで!?)
「アンナが何を言っても引く気がないのはわかりました」
ぎりぎりと歯噛みしている。ソフィアにとっても嫌な案のようだ。
「《SOX》と協力して、あのテロリストを潰しなさい。手段は問いません」
「……なぜ《SOX》と協力という話に?」
「僭越ながらわたしから説明させていただきます」
不破さんが説明に入ってくれるらしい。一般人枠だからね。
「今残っている人質全員が財界の家族などの関係者です。日本国としては外国に交渉のカードとして切られたくない類の人たちばかりです」
「…………」
アンナ先輩の価値観では命はみな平等なのだろう。冷凍マグロのごとく無表情を動かさない。
153 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 13:29:51.16 ID:0HVfqfsE0
「警察も迂闊には動けません。そこで《SOX》の出番なのです。若い世代にカリスマ性のある《SOX》に扇動してもらい、その隙を付くというものです」
「それって、失敗したら《SOX》に全部責任を負わせる気じゃないか!?」
「その通りよ、奥間狸吉」
《雪原の青》の声が、芯をもって響き渡る。
「それを承知で、私たちは了承したの。《ラブホスピタル計画》を潰すためにね」
「《群れた布地》の時と同じ構図、ということです。《SOX》自身がテロリストを否定することで、《ラブホスピタル計画》を推進している政府の動きとは裏腹の《SOX》の活躍により解決したとなれば、《SOX》の流布している性知識も正当なものだと認められるのです」
不破さんが冷静に言うが、しかし……ハイリスクハイリターンな話だ。
「本来は私たち《SOX》のみで行う予定だったわ。ただ、どう考えても人手が足りなくてね。そしたら鬼頭慶介から連絡が来て、ソフィアが来たの」
「警察は、善導課はこのことを知っているのか!?」
「上層部には祠影と鬼頭慶介が手配してあります。基本、警察へのダメージが最小限になる方法ですから、交渉自体は難しくなかったようです」
そう言うソフィアの顔には嫌悪感があった。
「……なるほどですわ……」
「アンナ、あなたはこの事件を一人ででも解決するつもりですね? 私が何を言っても、止めるつもりはありませんね?」
「はい、お母様」
「仇敵と組するのは許しがたいと思います。ですが一人では危険なのです。あなたにはあくまで《SOX》を追ったらテロリスト集団と遭遇したという体を取ってもらいます」
なんだその無茶苦茶な論法。
ソフィアはコーヒーを一気に飲む。不破さんが続ける。
「国益、政府の思惑、私たち《ラブホスピタル計画》への反対者、いろんな思惑が渦巻いています。それらが一致しているのが、外国にわたる前の人質の救出なのです」
アンナ、と、どこか痛まし気にソフィアは力なく囁く。
「アンナにとっては辛いことでしょうが、今だけは逮捕せずに《SOX》の指示に従いなさい」
「《SOX》はわたくしの参加は既に了承している、とみなしていいんですわね?」
「ええ」
《雪原の青》は最小限の言葉で頷いた。
154 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 13:30:34.79 ID:0HVfqfsE0
母は帰っていった。ここでできることは何もないのだから当然だろう。父とまだ調整するべきする話が残っているだろうから。
自分が壊したテーブルや椅子などは、まだ片付けられていないままだった。
奥間君から愛を求めてきたのは、殆どない。だから嬉しかった。月見草さんもあとは休めばいいだけらしい。
なら、今は自分にできることを。
「コンセントレーションですか」
不破氷菓が話しかけてくる。
「ここに来るまでに、奥間さんと愛し合ったのですか?」
「あら、わかりますの?」
「数時間前のあなたなら《SOX》を見かけた時点で問答無用で捕縛していたでしょうから」
「そうかもしれませんわね」
「…………」
「どうかなさいまして?」
「わたしが言うのもガラじゃない、と思うのですが」
珍しく言いよどむ氷菓に、身体ごと顔を向けた。
「大丈夫ですか? 色々ありましたが」
「月見草さんのことはわたくしの失態ですわ。誰がどう言おうと。奥間君は、わたくしを許してくださったけど……わたくしはわたくしを許せないのですわ」
「そう、ですか……犯人たちをどうするつもりですか?」
「殺しますわ。特にあのリーダーは絶対に殺さねばなりませんの。……あの女は危険ですわ。奥間君にとっても」
微笑を深める。不破氷菓の頭脳は自分と違った側面で優れているから通じるだろう。
「協力は、してくださらないのでしょうね」
「奥間さんは望みません。あなたが人を殺すこと、間違えることを」
「でしょうね。でも、間違えたとしても、受け入れてくれるのが奥間君なのですわ」
「あえて誤用しますが、確信犯としての罪まで許すでしょうか?」
「受け入れてくれますわ。それが奥間君の“愛”なのですから」
「……報酬の件ですが、犯人たちを許す、というのはいかがですか?」
「……冗談、ですわよね?」
「そうなりますね。報酬は別に考えているのでご心配なく。例えば、そう。奥間さんとの愛の儀式とやらを私に見せていただくとか」
「……直接でなければなりませんの? その、やはり恥ずかしいのですけれど……」
「作戦立案も手伝いますよ。まあ報酬の件がなくても手伝うつもりですが」
不破氷菓の表情は、アンナでも読みにくい。どこまでが本気で冗談か、いまいちわかりにくい。
「《SOX》をどう動かすか、わたくしがどの時点で関わるか、ですわね」
「アンナ会長は船の中に潜むのがいいでしょうね。ヘリの中だと狭すぎてアンナ会長の機動力が削がれますから。最悪、事故の可能性も考えられます」
「それが妥当、ですわね……さて」
血と欲情に飢えた捕食者の笑みを浮かべ、部屋の向こうにいる、仇敵である《SOX》を壁越しに睨むかのように視線を強くし、
「うふふひっ、さて、《SOX》をどう扱いましょう……?」
寒さではなく、興奮と昂揚からくる震えで、背筋に奥間君から愛された時と似たようなゾクゾクが生まれてくる。
「……いったん、休むべきかと。会長も疲れていらっしゃるでしょう」
「不破さんも、モニターしていて疲れたのでは?」
「わたしはそういったことに慣れていますのでご心配なく。……《SOX》と話し合いしてきます」
「わかりました。お願いいたしますわ」
155 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 13:32:48.58 ID:0HVfqfsE0
不破さんには申し訳ないけど、不破さんとアンナ先輩の会話は書いててすごく楽しいです。
エロシーン、もっとうまく書けるようになりたかった……がっくし
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/01(火) 14:23:21.43 ID:Yv8xwVAVO
アンナ先輩と不破さんって、いろいろ対比できるキャラだからね。対比できるキャラ同士の掛け合いって、書いていて楽しいよね、よくわかる
しかし、高級ホテルの連中も、よく学生の男女二人の入場を許可したなぁ
こういうのって不純と卑猥だとか言って問答無用で取り締まられるんじゃないの?
それともソフィアや奥間母みたいな体制側の大人以外は割とゆるゆるなのかな
下セカの大人って、体制側かテロリストのどちらかしかまともにキャラ付けさないからよくわからん
157 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 14:57:16.85 ID:0HVfqfsE0
呼んでくださり、ありがとうございます! そして私が考えた設定で申し訳ないのですが、
超高級ホテルは身なりで人を判断しないというのは、私たち現代の世界の価値観、《育成法》前の価値観なんですね。そこは申し訳ない。ただPM装着が外国人観光客にも義務付けられて以降、外国の客が極端に減っているので、客を差別したりはしないんじゃないかと思うのですが、都合よすぎな考えですかね。
あと多分ですがアンナは何度かこのホテルを家族と一緒に利用したことがあるんじゃないでしょうか。なんか詳しいですし。スイートだと財界の秘密の会談とかもしていそうなホテル、というイメージだったので、秘密保持は絶対なんだとは思います。
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/01(火) 15:04:34.26 ID:TSnQcDIA0
アンナ先輩、([
ピーーー
]気)間違える気満々だけど、たぬきちどうするんだこれ。
たぬきちの価値観も揺れ動くみたいなこと、不破さんが言ってたし、たぬきちもなんか不安定な気がするのは気のせいならいいけど。
指弾で銃はじき飛ばしたのには笑った。アンナ先輩、絶対柔道だけじゃないよな。
159 :
>>158
[sage]:2020/09/01(火) 15:45:41.05 ID:TSnQcDIA0
移動中だからID変わってるかもだけど、158な
実は原作読んでなくてこの作者の前のやつとアニメしか見てないんだけど、原作もこんな感じなん?
アニメよりアンナ先輩めっちゃ怖くなってるけど
160 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 15:55:01.63 ID:0HVfqfsE0
>>158
>>159
……難しいです。皆さんに解説を任せます。
なんか書いてたらキャラがこんな風に動いた感じです。多分アンナ先輩以外はそんなに変わらないとは思うのですが。
あと原作の文章は、下ネタが巧妙に散らばっていて、もっと軽妙ですね。こんな重くないです。こればかりは何というか、文体の問題というか、赤城先生みたいに下ネタ浮かばないというか変態じゃなかったみたいです。
161 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 17:16:46.02 ID:0HVfqfsE0
不破さんにアンナ先輩の時間稼ぎをお願いして(「わたしを殺したいのですか?」と無表情に淡々と言われたのには本当にごめんとしか言いようがなかった)僕と《雪原の青》と《哺乳類》代表――華城先輩とゆとりとで詳しく話を聞くことにした。
「《SOX》だけで何とかなればよかったんだけど、圧倒的に人手が足りなかったのよ」
「《哺乳類》《絶対領域》も《SOX》に任せるっつって、実質失敗したら《SOX》だけに被害をとどめようって魂胆が見え見えなんだぜ」
「そしたら慶介と祠影が画策して、《SOX》に全部押し付けようとしたわけ」
少しでも味方だと思った自分がバカだった、殴りたい!!
「ま、まあ、その、撫子も一枚かんでるみたいだけど」
……大人って、卑怯だよな……。
なんだかんだを話しているうちに、不破さんだけが出てきた。
「アンナ会長はいったんコンセントレーションするようです」
「こん、なに?」
「精神集中ですね」
「アンナ先輩の様子はどうだった?」
「思ったよりは安定していましたが、リーダーに対する殺意も安定していましたね。事故に見せかけて殺す気でしょう」
それなんてサスペンス劇場?
と、インパクトに紛れて今まで気づかなかったけど、
「早乙女先輩は?」
「移動中だぜ……慶介のところに」
「え? なんで」
「今回の色々な画策のお礼として、絵を何枚か贈呈するとかなんとか」
《SOX》のリスクを考えるとしなくていいと思うんだけど、一応チャンスが与えられたとみて、礼儀として、かな。まあここにいても役に立ちそうにないし。
「奥間さんはどうなさるのですか?」
不破さんが問いかけてきた。僕もそれは悩んでいた。
「僕は……、」
ちら、と《雪原の青》を見る。
「……アンナ先輩についていくことにする。今のままじゃ、アンナ先輩は絶対に間違える。許されるから間違えていいって、そんなのはダメだと思うんだ」
「アンナ会長を止めることができるのは奥間狸吉だけだろうし、それでいいと思うわ」
「《雪原の青》は怪我で激しい動きができないようですが、それでも?」
「……アンナ先輩は僕以外の女性につくことを許さないよ」
「た、奥間、あたしらはお前の意思を聞いているんだぜ」
162 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 17:17:42.32 ID:0HVfqfsE0
ゆとりが痛いところを突く。今までずっと逃げてきた言葉。答えてこなかった言葉。
――僕はアンナ先輩を愛しているのか?
その純粋さも、無垢さも、危うさも、怖さも、全部が今、奇跡的に成り立っている。
あの夜、僕が奪ったものは、アンナ先輩にたくさんの変化をもたらした。
ずっと性欲だけだと思ってた。でもこんな奇跡的なバランスで成り立つのは、きっと、アンナ先輩の価値基準では、本当に僕を愛しているからなんだろう。
見捨てられない。どうしても。憧れの人というのを差し引いても。憧れが、まだ残っていても、残っているからこそ。
《雪原の青》を見る。僕の今の憧れの人。この人みたいにまっすぐになりたい、そう思って今まで頑張ってきたつもりだった。
だけど、今は何だ? まるでまがりきったち○こじゃないか。ふにゃちんのようにふらふらとして、自分ってものがなくて。
僕が本当に好きなのは――、
「奥間君」
アンナ先輩の登場に、一時会話が止む。というか凍り付いた。
アンナ先輩は僕の背中に回り、抱きしめる。僕を誰にも渡さないと、言外にそう言いながら、捕食者の笑みを主に《雪原の青》に向ける。
「今度、奥間君に触れるようなことがあれば、無傷捕縛なんて甘いことは言いませんわよ?」
「触れるつもりなんてない。その話は終わってるのよ、アンナ会長」
「牽制はよろしいですか?」
不破さん、僕にぐちぐちいう割には結構仕切るよな……。
アンナ先輩は僕の背中におっぱいを押し付けたいらしく、そのまま離れない。まあ多分、不破さんの言うとおり牽制なんだろうな。アンナ先輩の目から見たら僕は一度、《SOX》に誘拐されているのだから。
「先ほどアンナ会長に入ったのですが、《SOX》には先行してヘリの中に入ってもらい、犯行グループの信用を得てもらいます。そして船の中でアンナ会長に暴れてもらう、と」
「私は怪我で戦力にならないわ。アンナ会長ひとりで大丈夫なの?」
「そちらの狐のお面の方はどうなんですの?」
「足には自信あるけど、それだけだぜ。武器もって訓練してきた連中と立ち回る自信はないぜ。あたしは主に、鬼頭鼓修理の他、人質の保護が目的なんだぜ」
「鼓修理ちゃんの? ……なるほど、ですわね」
「アンナ先輩、僕も行きます」
「…………」
すぐに断るかと思ったのだけど、アンナ先輩は考え込んでいるかのようだった。それが少し意外で、すぐそばにあるサラサラの銀髪を頬に撫でながら横を向く。
「もし、奥間君が傷ついたら」
全員がゾゾゾと青ざめる。月見草の時ですらあんなに我を忘れていたのだ。確実に破壊神の権化となる。
163 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 17:18:28.18 ID:0HVfqfsE0
「閃光弾などの装備は一応作ってあるのですが」
そういえば不破さんって一応生物部じゃなくて化学部部長だった。
「苦労させられましたわね」
「…………」
アンナ先輩の圧力に不破さんが冷や汗をかいていた。
「光だけの装備なら簡単なのですが、爆風や音を含めたスタングレネード弾となると、時間が足りませんね」
「それぐらい善導課に融通してもらえなかったの?」
ゆとりに聞いてみるが、
「あ、あたしはそもそも交渉する暇なんかなかったんだぜ」
ずっと人質だったから仕方ないか。
「閃光弾しかないというのであればそれで十分ですわ。問題は、相手が本物の銃を持っていることですわ」
「本物を? いったいどうやって?」
「亡命先からでしょうね」
不破さんが淡々と答える。
「ただ、本物の数は少ないのが救いですわね。訓練も十分にはできていないようですわ」
「エアガンと本物の銃では反動が違います。場合によってはエアガンの方に注意するべきかと」
「で、私は、あくまで扇動ね」
《雪原の青》がようやく口を挟む。
「船に乗り込んだ段階で、私がどこまでグループを二分できるか、ね」
「《雪原の青》の話術とカリスマ性にかかっています」
不破さんがそう評した。
「二分した後、アンナ会長はそこの狐女と合流、人質の安全を確認した後、もう一つのグループを殲滅する、と」
「あ、あたしは基本、人質を守る方に動くけど、……本当にアンナ会長ひとりで大丈夫なんだぜ?」
――暴雪が、部屋を勢いよく靡いた。
アンナ先輩は舌なめずりすると、
「ひとりがいいんですの。警察も善導課の目もない場所が、いいんですの」
うわー、全員殺す気満々だこれ。しかも事故に見せかけて殺す気だ。完全に頭の働き方がそっちの方面に逝っちゃってる。
164 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 17:18:53.54 ID:0HVfqfsE0
「でもお一方だけ、じっくり殺したい方がいるんですわ。……あのリーダーだけは、生かしておけないんですの」
「……あいつは、」
ゆとりは言いかけて、止める。あのリーダーがアンナ先輩にしたことは、同じ女性だからこそ許せないんだろう。
でも、アンナ先輩に間違いを犯してほしくない。もう前も後ろも犯しちゃってるけど、そういうことじゃない。
「アンナ先輩、その、殺人だけは……」
「奥間君は」
アンナ先輩は、笑う。
自分の価値観の中で完結していて、他者を寄せ付けない、あの笑みを浮かべて。
「わたくしが間違えても、受け入れてくれるのでしょう?」
「…………それでも、僕は、止めてほしいんです」
「なら、死ぬほどつらい痛みを与えますわ。……それも、ダメですの?」
「…………」
アンナ先輩は僕の首筋に鼻を埋めると、スー、ハー、と匂いを嗅いで、
「奥間君は、優しすぎるんですの。……もっと、その優しさを、わたくしだけに向けてほしいですわ」
本気の嫉妬ではなく、子供が拗ねているような、拗ねていることを演じているような、かわいらしい声音で甘えてくる。……鼓修理並みに表情を作ってるんじゃないかと思うぐらい、完璧なかわいらしい笑みと声音だった。
「アンナ会長の実力を疑うわけではないけど」
《雪原の青》が甘くなってきた空気を壊してくれた。ありがてえ。
「アンナ会長が傷ついた場合のことも考えないといけないわ」
「問題ありませんわ」
「い、いや問題ですよ。アンナ先輩が傷つくところなんて考えたくないです!」
先ほどのかわいらしい笑みとは違う、慈愛に満ちた聖女の微笑だった。
「わたくしは、大丈夫ですわ」
「…………」
全員が、嫌が応にも納得させられるような、生徒会長として見せる説得力あるあの微笑だった。
「アンナ会長の自己判断を信じることにしましょう。わたしの分析とも外れていませんし、そう心配はないでしょう」
不破さんがまとめてくれた。
「とりあえず、アンナ会長、奥間狸吉、不破氷菓は何か食べておきなさい。これからが本・番!よ!」
……もう何発か、本番終わってるんですけどね、僕とアンナ先輩は。
とにかく何か食べておこう。時間はあまり残っていなかった。
165 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 17:20:31.37 ID:0HVfqfsE0
やれやれ、このまま人を殺さないで済む化け物女が想像できないんだぜ by ゆとり
鼓修理の出番がないっス! by 鼓修理
鼓修理に関しては本当ごめんなさいとしか。
166 :
>>158 >>159
[sage]:2020/09/01(火) 17:32:57.20 ID:IXe2rHlD0
たぬきちアンナ先輩ばっか優先して華城先輩無視してるってか、華城先輩に任せっきりなの大丈夫なんかね?
167 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/01(火) 19:43:59.63 ID:0HVfqfsE0
修正
ヘリコプターから船に乗り換える
修正後
バスから船に乗り換える
すみません、乗り物の収容人数を知らなかったのです。気を付けます。
168 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/02(水) 01:20:19.17 ID:KGOyowFN0
(はあ、あの化け物がいないってだけで鼓修理はホッとするっス)
綾女様もきっと対策に乗り出しているし、正直鼓修理としてはあまり脅威を覚えていなかった。亡命先の国に何らかの政治利用されるかもしれないが、命の危機があるわけではないし知ったことではない。
「バスが用意された! これから移動する!!」
人質は2、2、3人のグループに分けられ、三回に分けて地上に降りる。
外に出る時が善導課に囲まれて一番緊張したけど、人質の質が質なだけに対応できないようだった。
正直鼓修理としては、《群れた布地》に協力していたころを思い出してむず痒い思いがある。だけど海外逃亡は本気なのだろう。リーダーはあの化け物相手に銃を向け、骨を折られ、肩を外されても目の光を失わなかったし、なかなかの人物だと鼓修理は見ていた。さすがにキスさせたことには同情できないけど。
二番目と三番目の間に、あの化け物にキスした少年がストレッチャーで運ばれ、バスの中に入れられる。
そして、最後、鼓修理たちの番になり、犯人側としては何事もなく終わったかと思った時。
白い影が、入ってきた。
「何者!?」
「こんにチンチン! 私はお尻に咲く蒙古斑のような女、《雪原の青》こと《SOX》のリーダーよ!!」
(綾女様!!)
ざわざわと犯人たちがざわつく。「え、本物?」「善導課を抜けて?」そのあたりは自分も気になるけど《雪原の青》が本物であることは当然わかる。
「規制単語を、PMを無効化していた。《雪原の青》であることは間違いないでしょう」
リーダーが断言すると、わっと盛り上がる。リーダー以外は。
「……何しに来たの?」
「もちろん応援よ! 遅くなってすまんこ!」
ばっと、《雪原の青》が卑猥が描かれた絵画をばらまく。わっと集まりかけるが、
「同志に怪我人がいるわ。皆慎重になりなさい」
すっと波が引くように静かになる。
「応援って、具体的に何を?」
「まずは善導課から振り切るわよ! 邪魔でしょ、あいつら?」
「どうやって?」
「簡単よ」
《雪原の青》はトランシーバーを出すと、
「おっぱい気球、カモン!!」
《哺乳類》が用意したものだろう、気球に女性の胸部が、(主にゆとりにないものが)描かれたその気球は何回見ても常軌を逸していると思う。綾女様には勝てないっスけど!
ついてきている善導課のパトカーが一瞬、迷ったのを見て、
「ゴーゴー射精ゴーゴーゴー!」
バスの運転手にスピードアップを要求する。前にいたパトカーを蹴散らして、さらにスピードアップ。
「船の場所は変えてあるわね!?」
『はい、発信機があるのでどうしても時間の問題ですが』
「電波妨害してあるから大丈夫、そのまま予定位置にイッちゃって、間違った行っちゃって!」
聞いたことのある声だった。確か、不破氷菓という非常に分析力に優れた、前回の事件でも世話になった《SOX》の支持者だ。
運転手にPMで地図が送られる。「この場所に来てくれる?」運転手は頷いた。運転手は犯人グループのメンバーの一人でPMは装着していないはずだったけど、PMの投影画像自体は見れるはずだ。
綾女様に何か話したいが、関係性を気付かれるのはまずいというジレンマに鼓修理はいらいらしてきている。しかし我慢するしかない。
「船の中にいると思われる善導課の職員は、うちの仲間が前もって確認し排除しているから安心して!」
ゆとりのことだろうか。作戦に参加できない自分がもどかしい。
(鼓修理が役に立てるチャンスが絶対来るっス!)
《雪原の青》なら必ず役目を与えてくれるはずだ。
169 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/02(水) 01:20:57.29 ID:KGOyowFN0
僕はアンナ先輩とゆとりと不破さんと一緒に慶介の言っていたフェリーターミナルまで来ていた。
(やっぱり母さんいるな)
(いくら善導課の役目がないと言っても、放置するわけにはいかねえもんだぜ)
その事を知っている母さんなら、もっと別のポジションで指揮を執るはずなんだけど、やっぱりソフィアの起こしたデモの警護で立場が弱くなっているみたいだ。
この分だと、船の中にも最低限の人数しかいないと思われる。今は港に着けられていて、このままバスごと入る予定だ。
(不破さんって船の操縦できるの?)
(運転免許は取得していません)
だよねー。運転手の確保は必要か。と思ったら、
(一応、教練書で読んだレベルですが、船や飛行機の最低限の動かし方は頭に入っていますわ)
……アンナ先輩にできないこと、誰か教えて。
(運転手はおそらく亡命国の手先でしょう)
不破さんが無表情に呟く。
(リモートモードがあるはずです。これだけ大きい船なら)
何しろバスが何台入るんだってレベルだもな。どれだけガバマンだよ。これのどこが『小型』だよ。金持ちはこれだから。
ターミナルは既に空いている。急がないと所定の位置まで移動できない。
(不破さん、走れる?)
(わたくしが奥間君のお義母様を引き付けますわ。その隙にお願いしますわ)
(あたしが不破を引っ張る、奥間狸吉は自力で走るんだぜ)
(わかった)
(カウントダウン始めます。5,4,3,2,1、)
0
170 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/02(水) 01:21:26.29 ID:KGOyowFN0
「何だ貴様ら!?」
早速母さんの声が善導課を呼び寄せる。アンナ先輩は僕のトランクスを被って私服に着替えていて、特徴ある銀髪を隠している。トランクスである必要、あった?
「こんな時に、貴様らガキの相手をしている暇は……!」
アンナ先輩は無言で母さんの相手をしている。ちらっと見えた瞳は、食い応えのある獲物を見つけた獣の瞳だった。そんな瞳に不吉さを感じながらも、僕はアンナ先輩に任せ、善導課が前を塞いだのを、
ピッカーーーーーン!!!
不破さん特製閃光弾で撹乱する。目を塞いでもまっぶし、事前の合図がなければこっちもまずかった。
「ちっ」
「行かせませんわ!」
淫獣モードじゃないアンナ先輩のあんな気迫、初めて見たぞ……!
「早く来るんだぜ!」
母さんを何とかあしらった後、アンナ先輩が瞬間移動かっていうぐらいの俊足でこっちに来て、渡り廊下みたいな場所を通ってそのままフェリーの中に入り込む。不破さんが何かのスイッチを押して、渡り廊下を強制遮断した。
「あとは車庫ですわ。《哺乳類》さん、不破さんは運転席の方へ! 車庫を閉じるのをお願いしますわ!!」
アンナ先輩の指示に何の疑問も抱かず、僕とアンナ先輩は車庫に向かう。車庫も開かれていて、そこから善導課がパトカーごと入るか判断に迷っていたようだ。
「指定以外の犯罪者は捕まえていい! 不法侵入で逮捕しろ!」
母さん、鬱憤たまってるなー。
乗下船口にたどり着く。パトカーが入ってくるか迷っていたようだったが、意外に早くゆとり達は運転席までたどり着いたのか、そこから遠隔操作で車庫も閉められ――
ドン!
バッシャーン! とまず寒いより冷たいと痛いが感覚を突く。海水が目や鼻や口に入った。
「ごめんなさい、奥間君」
小さな、小さな囁き声なのに、鮮明に聞こえる。僕にしか届かないような、囁き。
「人質はもちろん無事に。そして、――悪を殲滅させるんですの。奥間君は、それを邪魔をするでしょう? それが例え、わたくしのためでも」
溺れかける僕の目に映ったアンナ先輩は、すでにトランクスをはぎ取っている。
善導課がライトで僕を照らす中、逆光で見えた銀の影は、血に飢えた獣がもうすぐ獲物が罠にかかることを喜ぶかのように、無邪気に笑っていた。
171 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/02(水) 01:24:54.94 ID:KGOyowFN0
読んでくださる方が徐々に増えてうれしいです(( ;∀;))
アンナ先輩は、……どうなるんでしょうねえ
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/02(水) 08:57:14.66 ID:YaBJhNYHO
このテロリスト達もあの男女共同刑務所に入れられるんかなぁ……
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/03(木) 13:51:07.80 ID:EpdTYFtf0
その前にどうやってアンナ先輩を止めるかだけどな
174 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 16:24:42.17 ID:4IkUZS9Z0
ゆとりは不破特製閃光弾を使って、運転席にいた三人を何とか確保した。武器を持ってないのが幸いしたのだと思う。
「No, I don't speak Japanese!(わ、私たちは日本語話せません!)」
「Don't worry, I speak English.(問題ありません、私が話せますから)」
どうやら不破は英語を話せるらしい。
ピピピピ
「こちら、不破です」
『運転席は大丈夫でした?』
「問題ありません」
『すぐにそちらに向かいますわ。それまで過剰に傷つけないように』
PMが切れた。
「運転手は対象に入っていないのか、拷問を自分でやりたいのか、わかりにくいとこだぜ」
「後者でしょう」
《雪原の青》は今、リーダーとあのキス小僧、一応の人質の見張りを最低限、それ以外を集めて宴会しているらしい。ろくでもない武勇伝でも聞かせているんだろう。
化け物女はすぐに運転席に来た。ただ狸吉が見当たらない。
「会長、た、奥間はどうしたんだぜ?」
「海に捨ててきましたわ」
「……は?」
「わたくしのやることを、邪魔されたくないものですから。善導課もわたくしの両親の口添えですぐに解放するでしょうし」
「そ、そういう問題じゃ……」
「わかりました。現実として奥間さんがいない以上、もうどうしようもないことですから」
切り替え早いなコイツ!
化け物女は運転手三人ににこりと聖女の笑みを浮かべると、
「人質の部屋を教えてもらえますか?」
「あー、英語じゃないとダメみたいだぜ」
「……Can you show me the hostage room?」
化け物女も英語話せるのかよ……。
運転手三人は「I don't know! I don't know!」を繰り返すばかりだ。本当に知らないのか、言語の壁があってゆとりにはわからない。
「仕方ありませんわね。《哺乳類》さん、《雪原の青》に連絡取れますか? あちらから訊くほうが早そうです」
「お、おう」
PMで宴会中の《雪原の青》に連絡を取る。
「Now, can you tell me where this ship is going?(さてと、この船がどこにいくのか、教えていただけません?)」
背中が凍り付く。船員たちも完全に黙り込んだ。
獣の飢えた嗜虐の悦びに、全員たちも気付いたのだろう。全員が恐怖する。
(狸吉……!)
なんで、唯一止められるお前が、今、ここにいないんだ!
175 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 17:02:44.16 ID:4IkUZS9Z0
バキドカドン!
人質の部屋の前で待機していたあのリーダーの部下3人いたが、油断していたこともあって一瞬で沈めることができた。さすがはアンナ会長だと思う。
人質は二等船室にまとめて詰め込まれていた。
「皆さん、大丈夫ですの?」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
人質は全員沈黙していた。アンナ会長が目の前で化け物じみたアクションを見た人間からすると、当然の反応だろう。
反応は特に鼓修理という奥間の妹が顕著だった。
「えっと、なんでお姉ちゃんがここに……?」
「助けに来たのですわ。今、《雪原の青》が残りの人員を惹きつけていますの」
「え、《SOX》と手を組んだ……? お姉ちゃんが?」
「事実だぜ」
《哺乳類》代表がキツネの面を被りなおしながら、人質を解放していく。
「不破さんは運転室に戻らなくて大丈夫ですの?」
「あれだけきつく脅しておけば大丈夫でしょう。椅子に縛り付けてありますし」
「しかし、香港とは……《育成法》制定前は親日国、というぐらいしか情報がありませんわね」
アンナ会長に限らず、学生の外国への意識などそんなものだ。今現在の海外情勢を知っているものなど、学生ではほぼ皆無だろう。
「水面下の交渉があるのでしょうが、わたしたちはそれ以上にやらなければならないことがあるでしょう」
「ええ、鼓修理ちゃん以外は全員、この部屋にまだ隠れてください。犯人グループを殲滅するまでは、この部屋に鍵をかけて、物音がしたら身を低くしてくださいませ。犯人グループは実銃を持っているとの情報がありますわ。わたくしたちが来たら、ノックを4回しますので、それで判断してくださいまし」
「さて、いよいよ本番ですわ」
これから、《雪原の青》が油断させている連中を殲滅する。
その悦びにアンナ会長は身を捩っていて、唇をぺろりとなめ、衝動の解放の時を待っていた。
(奥間さん、これでいいのですか……?)
176 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 17:27:13.19 ID:4IkUZS9Z0
《雪原の青》は何とかハイテンションを保っていたが、事実は限界だった。傷が開いてきているのがわかる。
「リーダーは? まるで初めての処女膜を野菜で破ってしまったみたいな後悔が見えるけど」
「どんな顔よ。……あんたも座ったら」
勧められて、やっと椅子に座る。まだ話を聞きたがる連中がいたが、リーダーが追っ払ってくれた。
「まあ助かったと言えば助かってるんだけど。《雪原の青》も香港に行くわけ?」
「逃げるのが悪いというわけじゃないけど、私は逃げないわ。香港には行くけど、それはあくまで物資調達のためよ!」
「昔のオタク文化が残っているっていうからね」
リーダーの顔は暗い。何人か気にしている連中もいたが、あえて無視しているあたり、リーダーに対する気遣いもちゃんとあるのだろう。
「アンナ会長のこと?」
ズバリそのまま聞くと、苦笑気味に「まあね」と返ってくる。
「あれは《育成法》が生んだ化け物だ。あたしは殺しはやらないつもりだけど、あっちはそうじゃない」
「……キスさせたことに同情の余地はないけど」
「あれはアタシの逆恨み。結果、酷い怪我人を生んでしまった。でもそうじゃなかったとしても、あの化け物は始末しないといけない。今は無理でも、いずれ」
「そう、ね」
ピ
一瞬、PMが鼓修理から鳴った。合図だ。3,2,1,
ピッカーーーン!!
「!?!?」
「油断しましたわね」
低く嬉しそうな声が、鮮明に聞こえる。20人以上を相手にしても目が一瞬眩んだ連中相手なら、アンナなら容易かった。あっという間に全員が行動不能に陥る。
ゆとり、不破氷菓、鼓修理の三人でどんどん縛り上げていく。自分も手伝っていく。
(狸吉は!?)
(あの化け物女が船から捨てやがった)
(なんですって!?)
「アンナ……アンナ会長!!」
「……やっぱり、最初からこのつもりか。アンナ会長が《SOX》と組むのは、《群れた布地》の件から、有り得ると予想はしていたよ」
リーダーは冷静だった。だからこそ、危うい。
「うふ、うふふふふふふふひひっ!!」
強い強い、嬌声に、熱気が直に伝わりそうなほど火照った体を自分で抱きしめ、仇敵を見る目ではなく子供が欲しがっていた玩具をようやく手に入れた目でもって。
「ああ、やっと、愛の罰を与えられますわ……うひひひひ、やりたいことがいくらでも浮かんできて、困ってしまいますわ」
アンナはどこまでも無垢に、子供の笑みで、笑っていた。
177 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 17:28:36.70 ID:4IkUZS9Z0
すみません、次回から多分拷問とかリョナとか、精神的にも肉体的にも痛いシーンが続くと思うので、そういうシーンの前には注意書きを入れたいと思います。よろしくお願いします。
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/03(木) 19:13:27.28 ID:i1w7lDfy0
むしろリョナシーンを待ってたりする
179 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 22:50:34.07 ID:4IkUZS9Z0
今から行きます。きついシーンですので、飛ばす方は飛ばしてください。アンナ先輩がはっちゃけます。
180 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 22:51:58.47 ID:4IkUZS9Z0
「さあ、どうしましょう? ……そうですわね、とりあえず残った手足の骨を先に折っておきますわ」
以前、足にダメージを残さなかったから《雪原の青》の逃走を許したことを思い出し、刃物がないので腱は切れないから、とりあえず足を折ることにする。
ボキ! ボキ! ボキ!
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
体重を肘にかけ、右の下腕を、両のすねを折る。
ああ、この音が耳に心地いい。愛の罰を与えている時のこの音と感触は、下肚に響く。
「うふ、うふふふひっ、しかし強情な方ですのね。わたくしは是非、あなたの悲鳴も聞いてみたいのですけども」
「……アンナ会長、もう十分ではないかしら?」
「……《雪原の青》? 黙ってくださる? 正直まだ、あなたを、《SOX》の関係者を壊すことへの興味は捨てきれていませんのよ?」
「…………」
ちら、と鼓修理を見る。「ぴぅ!?」さすがに愛の罰を見せるのは教育に毒だと判断した。
「《哺乳類》さん、人質の部屋に鼓修理ちゃんを案内して。今なら安全でしょうから」
鼓修理と《哺乳類》が脱兎のごとく去っていく。残るは《雪原の青》と不破氷菓。どちらも愛の罰に否定的だ。
「不破さん。この方、なかなか肉体的な痛みには強いみたいですわ。あなたならどうしますの?」
「……何故わたしに?」
「人間の仕組みに興味があるあなたなら、何かいいアイデアがあるかと思いまして」
「わたしが興味を持っているのは、人間ができる過程です。人間が壊れる過程ではありません」
反論されるほど何故かゾクゾクする。正直、不破氷菓も条件が整うならば、愛の罰を与えてみたい。この無表情から、どんな悲鳴が飛び出るのか。
「ん、いいことを思いつきましたわ。……不破さんとは、愛の再現実験をした仲でしたわね」
「ええ、貴重な体験でした」
「ええ、それと同じように……この方に、愛を教え込もうと思うんですの」
「「……!!」」
「この、衆人環視で、ですか?」
「ええ、リーダーが愛を覚えれば、部下の方々も覚えるかもしれませんし……」
「それは、奥間狸吉に対する浮気にならないのかしら?」
「何を仰っていますの? 女性同士で恋愛が成り立つはずないでしょう?」
思いついてしまった。不破氷菓の時は身体が傷つかないように配慮したが、今は厭わなくていい。
背中側に回る。リーダーは薄々何をされるのかわかっているようだった。
「止めなさい、止め……! ひ」
耳の穴の中に舌を入れる。奥間君と違って全く美味しくないが、再現実験した時のように奥間君を思うと愛の蜜が溢れてくる。
「うふふふ……」
ふっ、と息を吹きかける。「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」あくまで悲鳴を上げるつもりはないらしい。本当に、強情で、負けず嫌いな子。愛の罰を与える相手としては、非常にやり応えがある。
だけど、ここからは、耐えきれるのか。
「不破さん? あなたにはしていませんでしたわよね?」
「……何を、ですか?」
「わたくし、奥間君の体液を舐めるのも、わたくしの体液を与えるのも、両方好きなんですの」
181 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 22:52:46.47 ID:4IkUZS9Z0
一見話が飛んだように見えて、だけど不破氷菓と《雪原の青》は理解したみたいだった。《雪原の青》が叫びそうになり「止め――!」その耳障りな声が耳に入る前に。
ぶち、と耳たぶを、噛み千切る。
「ぎやあっ!!!!!!」
血がぽたぽたと流れるのを、傷口を直接、舌先を使って舐めていく。血とは違う、肉の味もする。
「ん、やっぱり奥間君のと味が違いますわ。奥間君の方が美味しいんですの。不破さん、人によって血の味が違うというのは、知っていまして?」
「……知りません」
「そうですの。なら一つ勉強になりましたわね。でもなかなか、これも……何故でしょう、愛の罰を与えているからでしょうか。わたくし、愛の蜜が溢れてきましたわ」
「こ、この……変態、が……!」
「ふ、ふふふひ、まだ心が折れていませんのね? まだまだ愛の罰が与えられるんですのね?」
さて次は、――うん、これがいい。
「あの少年はわたくしの胸部を揉みしだいたことですし、そのあたりの教育を致しますわ」
上部の衣服を脱がせるのが面倒でビリビリと裂く。「ひっ」僅かな悲鳴。ここが弱点なのか。
――《育成法》以降の教育では、服を脱ぐことへの羞恥心というものを教わらない。それは性知識になるからだ。
だからアンナは、今、愛の罰を与えている人間の羞恥心と屈辱が、わからない。
「アンナ会長、もういいでしょう。目には目をと言いますが、やりすぎです」
「……不破さんったら。不破さんにとっても愛の追究は至上命題なのでは? あなた、以前に言いましたわよね? 『愛がなくても、物理的刺激でも、愛を感じることができるのか』、科学者ならそれを確認しないといけない、と」
「……言いました。しかし、」
「興味がない、と?」
「…………知的好奇心がないとは言いません。しかし、物事には倫理があります。わたしが求めるのは合意の上での話です」
「私はそんなこと関係ないわ! ただ、あなたのやることは癪に障る!」
「…………ほう、それでお二人はどうする気ですの? わたくしを、止める、と?」
自分にしては意地悪い質問だった。《雪原の青》は怪我人だし、不破氷菓は身体能力は低い。自分を無理やりに止めるすべはない。
まあ、止める気になるのであれば、それはそれで――
「面白いですわね。わたくしを、止めてみせますの?」
楽しみが増えるだけでしかない。
だが実際は、二人とも黙ったまま、動かない。少しだけ抵抗がなくて残念に思う。
抵抗というなら、今胸部をさらけ出しているこちらの方がよほど面白い。
182 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 22:53:44.13 ID:4IkUZS9Z0
「触るな、化け物」
「あは、うひひひ、わたくしの場合は愛のない胸部への刺激はただただ不愉快でしたが、それは同性同士でもそうなるのでしょうか?」
そして、アンナが思う絶妙の力加減で、胸部を揉みしだく。
「ひ、う、……う、あ、」
「先端が尖ってきましたわね? 愛を感じることができているのでしょうか?」
先端をつまむ。
「いたっ……〜〜〜〜!」
ころころと転がしてみるが、本人は歯を食いしばって刺激に耐えている。自分も気持ち悪かったし、ここは本当の愛がないと辛いのだろう。
「さて、愛の蜜の量は、と」
「アンナ会長……!」
《雪原の青》が何かを言いたそうにするが無視して、下の下着を引き裂き、股間に手を入れる。
「ひっ、いや……!」
初めて明確な拒否の言葉に、思わず舌なめずりをする。もっともっと、この声が聞きたい。
「あまり出ていませんわね。やはり物理的刺激では、愛を感じることは難しいようですわ」
「ひ、は、は、ば、っかじゃ、ないの? 両手足骨折られてて、耳たぶ千切れててどんだけ痛いか、こんな状況で感じるわけないでしょ?」
「あら、わたくしなら奥間君がくれるものなら、痛みでも何でも愛に変わりますわ」
初めての愛の儀式を思い出す。あの痛みは、いまだに愛しいものとして、思い出すだけで愛の蜜が溢れる。
「あたま、イカレてる……!」
「ところであなた、初めての愛の儀式はお済ですの?」
――ピン、とその場にいる全員が、緊張したのが伝わってきた。
「アンナ会長、もう充分よ!」
「いいえ、足りませんわ。わたくしが足りないと言ったら足りないんですのよ、《雪原の青》」
矛先を変え、愛の罰を与えてる本人に「どうなんですの?」と訊ねるが、返事はない。
ただ、異様に緊張したのがわかる。答えはそれで十分だった。
「ふふふ、まだのようですわね。なら、わたくしが教えて差し上げますわ」
愛の蜜が不充分だが、まあいいだろう。
太ももを広げる。抵抗しようとしたが、脇腹に痛みを与えると簡単に屈した。
今、愛を感じる穴は、何人かの目には入っているだろう。
「や、見ないで……!」
183 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 22:54:29.97 ID:4IkUZS9Z0
皆の視線を集めるように、見まわす。充分に間を取ってから、見せつけるように。
指を二本、自分が愛を最も感じるところに、挿入れた。
「〜〜〜〜〜〜や、や……!」
「ああ、そのか細い声も、いいですわね……!」
ぐちゅぐちゅと掻き混ぜる。ただ愛の蜜はやはりそれほど感じない。
「やっぱり、初めては痛いんですの?」
「い、いたくなんか、ない!」
「嘘つきですわね」
ぐちゃぐちゃと乱暴に掻き混ぜる。「アンナ会長」と不破さんが自分を呼び止めた。
「もう充分とか、そういうのは聞きたくありませんわ」
「……わたしにはあえて痛みを与えているように見えます。実験としてふさわしくありません」
「ふふ、不破さんは実際に体験してますものね、誤魔化せませんわね……ねえ、リーダーさん。愛を感じてみたいですの?」
「い、いや、もう、抜いて……!」
「大丈夫。ここからは、少し違いますわ」
単にぐちゃぐちゃに掻き混ぜていたのを、一定のリズムでもって一定のポイントにぐ、ぐ、ぐ、ぐ、と押さえていく。
「!? あ、え、嘘、なんで!? あ、あ、あ、」
「どうですの? 愛のない方から、愛を思い出すこともなく、ただ刺激を受けるだけで愛を感じますの?」
「ひ、いや、やだ、やめて――!」
「ああ、答えはなくても構いませんわ。――愛の蜜が溢れてきましたから」
自分ほどではないが、愛の蜜が生まれている。これはどういうことなのだろう。不破氷菓が以前言っていたように、物理的刺激だけでも愛を感じるものなのか。
だけど尋常ではないほど嫌がっている。与えているのはむしろ気持ちいいことのはずなのに。おそらくこれは自分が胸部を触れられた時の感覚を数倍にしたものだと予測した。
なら、これは愛の罰だ。
「“愛”というものを教えて差し上げますわ」
「アンナ会長、やめ……!」
《雪原の青》が何か言う前に、中が収縮と痙攣を繰り返し、「あ、あーー!」背中を反らし、愛の場所からは、ばしゃっと愛が水分となって噴き出た。
「あ、あ、ああ……」
「あら、もう愛の感覚に絶望しましたの? まだまだありますのに」
184 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 22:54:55.38 ID:4IkUZS9Z0
誰かがまた、何かを言い出す前に排泄孔に無理やり指をねじ込む。
「あう! あ、あ、あ、あ、い、痛い……!」
「あら、肉体的な痛みには強い方だと思ってましたのに」
ぎゅうと締め付けて、こちらも痛みを感じるぐらいだった。ふと、愛しい奥間君の言葉を思い出し、愛の穴にも指を入れ、両方の穴を掻き混ぜる。
「あら、面白いですわ。壁を通じて指の存在がわかりますの」
「…………! …………!」
目を見ると、絶望が瞳を満たしていた。
ああ、これ、これが、これが欲しかった。
背筋を快感が駆け抜ける。物や人体をただ壊すだけじゃ得られない感覚。
「……うふふふひ、あははは、どうですの? 愛を穢される感覚は!?」
粘膜の感覚も面白かったが、そろそろ飽きてきた。排泄孔のポイントも見つけたので、両方の穴をリズミカルに突いていく。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、」
排泄孔を閉めて我慢しようとしているようだけど、残念ながら『愛の罰』はその程度では終わらない。
舌で胸部の先端をころころと転がす。「ひっ」時折甘噛みしながら、視線だけに殺気を込めて、あくまでもお前は喰われる側なんだと思い知らせるように。
「そろそろ、ですわね」
ぐ、とカギ状に指を曲げながら、ポイントを突くと、また愛の水がばしゃっと、先ほどよりも多く吹いた。
「…………」
「いいですわ……その絶望する顔。気の強い方であればあるほどいいですわね。お腹がぐるぐると動いていますわ……ああ、なぜでしょう、奥間君の愛は先ほどたっぷりいただいたのに、またほしくなってしまいましたわ」
もう、『観客』の誰もが声を発さなかった。
次が自分でないように、祈っていたから。
「『愛の罰』はもう充分ですわね……では最後に、せめて痛くないように、首の骨を折ることにいたしましょう」
リーダーが目線を上げる。その視線を、アンナは正確に読み取った。
『はやく、ころして』
その視線を受けたアンナの笑みは、獣ですらない、悪魔と形容されるもので。
悪魔の笑みを浮かべながら、アンナは首に手をかける。
185 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/03(木) 22:56:18.70 ID:4IkUZS9Z0
リョナというかなんというか、『愛の罰』シーンはおしまいです。
これ、完全に闇堕ちしてるよね……狸吉がんばれ!
186 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 12:23:28.61 ID:9iu5sKBf0
ひゅ、と何かが投げつけられたのと、アンナ会長が身を避け、代わりに《雪原の青》の首元を絞めていたのは、ほぼ一瞬の出来事だった。
「ぐっ!」
「あらあ、《雪原の青》。あくまで邪魔いたしますの? 今なら無理に抵抗なさらなければ、無傷捕縛も容易いですわ」
「アンナ会長」
自分も殺されるかもしれない。好きな人格でもない。ただ。
《雪原の青》が助けたいと願うように、奥間が救いたいと願うように、自分たちが《単純所持条例》の時に自暴自棄に暴れたときに、一人ででも解決しようとしたその心を、何故か守りたいと思った。
「奥間さんが憧れたのは、そんなあなたではありません。《育成法》正負両面から見ても象徴的な子供として育ってしまったアンナ会長を守りたいのは、ただの義務感ではありません」
「…………」
ふっと、首を絞める手が弱まる。続きは《雪原の青》に任せることにした。
「……皆があなたを守りたいのはね、あなたが皆を救ってきたからよ。たとえ殺人を犯したとしても、あなたを守ろうとする人は出てくるわ。でもね。だからこそ、裏切ったらダメなんじゃないの?」
――わかっているんでしょう?
「あなた、罪を罪と知りながら、奥間君が許してくれるってそればっかりで、自分で判断していないのよ。今のあなたはただ暴れたいだけの獣――悪魔だわ」
――わかっているんでしょう?
「本当は、何もかも。奥間狸吉に恥じない女になるんじゃなかったの? 今のあなた、それ自分で言える?」
「でも、奥間君は、この衝動をどうすればいいか、教えてくれないんですの」
「すみません、アンナ先輩!!」
「――奥間君」
「た、奥間狸吉――!」
「奥間さん」
187 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 12:24:05.40 ID:9iu5sKBf0
「ずっと悩んでいたのに、一緒に考えていこうって言ったのに、ほんっとう、ごめんなさい!!」
全員が、少なくとも突入組はなぜここに奥間がいるのかとは考えなかった。
――来てくれた、それだけ。
「アンナ先輩、お願いです。……こっちに来てください、戻ってきてください。じゃないと、僕が僕を許せなくなってしまう。もうすでに許せなくても、今ならまだ、辛うじて間に合うかもしれない」
「…………」
アンナ会長は奥間の方をようやく見る。
「奥間君も」
声は、先ほどまでの傷つけるしかなかった暴雪とは違う、見るものを喜ばせるような粉雪の涼やかさに――よく知った、聖女のそれに戻っていた。
「自分を許せないと思うことが、あるんですのね」
大勢の足音と怒号が聞こえてきた。
「ごめん、不破さん、白衣貸してくれる?」
無言で貸すと、ほぼ裸体だったリーダーに白衣をかぶせ、人の目に入らないようにする。
そんな場面を、アンナ会長は黙って見ていた。
装備した人波が、流れ込んでくる。
――人質は確保したぞ!
――犯人グループは既に捕縛していますわ。
――《SOX》、アンナ、無事か?
――わたしもいるのですが。奥間さんの母親ですね。
――ほかにも一人、キツネの仮面をかぶった女は私の仲間よ!
――忌まわしいが理解している。人質は確保した、逮捕しろ!
そして、事件は終わった。
188 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 12:27:03.21 ID:9iu5sKBf0
『愛の罰』シーンはやっぱりきつかったのか、コメントしずらかったよなー、反省。
まだ後始末シーンが続きますので、もう少しお付き合いください。アンナ先輩の罪とかね。
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 14:30:38.65 ID:TL3OnN29O
アンナ先輩はもう身も心も化け物ですね……
無惨様がこの時代に生きてたら、鬼に選ばれてもおかしくない
190 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 14:44:39.87 ID:9iu5sKBf0
正直、『愛の罰』シーンは一線を越えてしまった感があります。
191 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 15:41:18.24 ID:9iu5sKBf0
アンナ先輩に突き落とされて簡単に母さんに見つかった僕は事情を説明し(アンナ先輩について来たということにした)とにかくアンナ先輩と《雪原の青》がいるなら即・制圧だろうと高をくくって、母さんの拳骨の痛みも無視して善導課のヘリコプターに乗った。
「ゆと、《哺乳類》、今の状況は!?」
バリバリバリとうるさいので相手の声どころか自分の声が聞こえるかもわからないけど、一応ゆとりの名前は出さないでおく。
『化け物女が大暴れしてるぜ。人質は全員無事なんだけど……、あのリーダーを拷問してるぜ、『愛の罰』がどうとか』
人質がいるため、船を尾行することができなかった善導課は、ゆとりからの位置情報を探知して即ヘリコプターで船に向かう。
殆ど飛び降りるように降りて、ゆとりからあらかじめ聞いていた場所に行くと、アンナ先輩が《雪原の青》の首を絞めていた。
「でも、奥間君は、この衝動をどうすればいいか、教えてくれないんですの」
「すみません、アンナ先輩!!」
状況はわからないけどとにかく謝った。ちらと周りを見ると、ほぼ全裸になった女の子の手足がひん曲がっている。
遅かったのか。
とにかくそのあとは善導課がアンナ先輩だけを隔離して、僕達は解放された。母さんは《雪原の青》を見て今にも逮捕したそうな顔をしていたけど、上の指示で無理だったのだろう。
母さんいわく、アンナ先輩は相手が実銃を所持していたことから正当防衛で両親が収めるだろうとの話だったけど……。
そういう話なんだろうか。
アンナ先輩は、一週間、学校を休んだ。その間、連絡はとれていない。
*
アンナ先輩と華城先輩がいないと生徒会がとにかく忙しい。あの二人の優秀さは知ってたけど、身をもって実感する。
「奥間、おい、奥間!」
「あ、はい、轟力先輩」
「大丈夫か、ぼーっとして」
「轟力先輩も、受験で大変な時に」
「アンナ会長には世話になってるからな。受験は問題ないぞ」
「そうですか……」
アンナ先輩は母さんの預かりになっている。
衆人環視の中で手足の骨を折ったり、耳たぶを噛み千切ったり、前の穴と後ろの穴を貫通してぐちゃぐちゃにしたりしたことは、華城先輩から聞いた。
――どう考えたって、正当防衛ではなく拷問だ。
レイプについては善導課や家族にはある程度誤魔化しているだろうというか、そもそもレイプという発想がない人だからわからないだろうけど、手足の骨折と耳たぶを噛み千切ったのは誤魔化せなかったらしい。
14日間、善導課の指導の名の下で母さんのしごきを受けているはずだけど、そもそもアンナ先輩がいなければ解決できなかった事件だったし、アンナ先輩の能力なら母さんのしごきにもたやすく耐えられるだろう。
だから僕は華城先輩のお見舞いに行ったり、ゆとりや鼓修理はアンナ先輩が自分に矛が向かなかったことを安心してるのを見ていつも通りだなと思ったり、ああ、そうだ。
不破さんの報酬がまた悩ましい。
「合意の下でなら問題ないでしょう。もういいじゃありませんか。アンナ会長との繁殖行為を見せてください」
「わしも。わしもー!」
ちなみにアンナ先輩の処罰が軽いのは鬼頭慶介の口添えもあったからで、それにはかなり大量に早乙女先輩が新規イラストを贈呈したかららしく、影でやることはやってたらしい。
母さんのしごきだけでアンナ先輩の経歴に傷がつくどころか、事件解決に協力したという感謝状まで贈られることになったんだけど。何故か僕や不破さん、早乙女先輩と外にいたチーム全員が感謝状を贈られることになった。みんなアンナ先輩についていっただけなんだけどな。
ちなみに14日という長めの時間なのは、単なる処罰でなく卑猥に関するケアもあってのことで、ソフィアが何か文句をつけるかと思いきや、母さんの元なら安心と判断したらしく、何も言ってこないらしい。当の母さんから聞いた話だ。
「アンナは優秀すぎて困る」
母さんがしかめっ面で褒めるという器用なことをして、困ってみせた。あまり話さないが、柔道などの身体能力では母さんしか相手にならないらしい。そりゃそうだ。知識の吸収力も半端じゃないし、能力面で敵う人なんかほとんどいないだろう。
そして、テロリストたちは傷が癒え次第、《北の大監獄》〈ヘルサウンド〉に連れていかれるらしい。
だから、そうなる前に。アンナ先輩が戻る前に。
僕はリーダーの面会を、お願いした。
192 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 15:42:29.22 ID:9iu5sKBf0
医療刑務所に僕は来ていた。
最後に会っておきたかった。もう二度と、会えないだろうから。
病室に入ると、包帯とギプスだらけの女の子がそこにいた。
「……狸吉?」
「……その、久しぶり」
「…………」
「無茶なこと、したね。この国が嫌なのはわかるけど」
「じゃあ狸吉も、逃げればいいじゃない」
「そういうわけにはいかないよ」
「あの化け物のこと?」
「…………」
どう答えればいいか、わからない。でも、できるだけ正直に。
「アンナ先輩を変えたのはね、僕なんだよ。……僕を、その、襲ってね」
「襲っ、まさか、逆レ、ん、……狸吉の意思を、あの女は無視したのか!?」
「まあ、ね。それもこれも、アンナ先輩にはね、性知識がないんだよ。だから無垢で、良い方にも悪い方にも転がりやすくて。良い方のアンナ先輩に助けてもらった人は、僕も含めてたくさんいるんだよ」
「…………」
信じられない、といった顔をしていた。アンナ先輩が妊娠したんですのとか言ったら、僕もこんな顔をするんだろうな。
「もし、君がアンナ先輩を穢そうとしなかったら、アンナ先輩はあんなに怒らなかったと思う」
《公序良俗健全育成法》正負両面から見て、象徴的な子供が、アンナ先輩なんだろう。
「アンナ先輩は、恵まれた人なんかじゃないんだ。アンナ先輩も、《育成法》の被害者なんだ。それだけ、言いたくて」
だからと言って、アンナ先輩のやったことが許されるわけじゃないけど。
「狸吉さ」
「うん?」
「あの化け物のこと、好きなのか? 本当に?」
193 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 15:42:57.80 ID:9iu5sKBf0
「……見捨てられない。どうしても」
「好きじゃなくて同情なら、絶対破滅するぞ。あの女は身体の能力だけじゃなく、心も化け物なんだから」
「…………、君から見たら、そうだろうね」
《育成法》が作り上げた、化け物。
そう言う彼女は、泣きそうだった。
「狸吉は」
「ん?」
「他に好きな女、いるんじゃないのか?」
ゲホゲホと、むせてしまった。いきなり何を言ってるんだ。
「どっちにしても、あたしに勝ち目なんかなかったな」
「……どうして、そんなにその、僕のこと……」
「悔しいけど、あの化け物と一緒の理由だろうね。狸吉は昔っから、何でも許してくれるから」
――施設育ちで無様な生まれの自分のことも、許してくれるかもしれないって思った。
「…………」
どういえばいいか、わからない。それでも、これだけは言いたかった。
「稀代のテロリスト、奥間善十郎の息子で、みんなから厭われていた僕に優しくしてくれたのが、アンナ先輩だったんだ。だから、きっと」
――もしかしたら、わかりあえたかもしれないのに。
それを潰したのは、僕なのか?
『面会時間終了です』
「じゃあ、僕は帰るよ」
「ああ。もう二度と、あたしの前に顔見せんな。あの化け物に殺されたくなけりゃな」
「……気を付けるよ」
194 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 15:45:51.95 ID:9iu5sKBf0
アンナ先輩は特例で善導課預かりということになっています。逮捕されたとかそういうのじゃありません。
むしろ感謝状を贈られる立場です。親の力って偉大だなあ。まあ逮捕劇に貢献したのも事実なので。
アンナ先輩の功罪は、とても大きいです。どうなることやら、です。
195 :
◆86inwKqtElvs
[sage]:2020/09/05(土) 15:52:24.56 ID:9iu5sKBf0
ちなみに1週間して、クリスマスと冬休みに入っています。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 16:03:18.67 ID:Ht2DbGuaO
子供が何やっても、その子が超優秀で親が権力者だったら免罪されるってことでFA?
こんな無法がまかり通るから、金子玉子がラブホスピタルなんていうデザイナーベビー制度を押し通すんだよ
それと、レイプを誤魔化したってあるけど、被害者や不和さんが状況をありのままに証言すれば、アンナ先輩が被害者にレイプやったことわかるんじゃないの?
それから、狸吉が逆レイプされたことを面会で伝えているけど、これって立ち会ってる警察官に聞かれたら不味いと思うんだけど
なんか、いろいろ気になることがボコボコ出てくる。読解力が無くてごめんなさい。私が作者様のように博識ならばこんな事には……
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 16:03:49.64 ID:YrbLcz3L0
久しぶりに来たら愛の罰キツすぎてこれはもう救いのないレベル。
これが許されるんだから、あの社会は階級社会だよな
思ったよりたぬきちの言葉を素直に聞いたけど、アンナ先輩本人はどうなんだろな
198 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 16:16:12.02 ID:9iu5sKBf0
わたしの中ではですが、あの世界では権力者とその子供は何をしても殺人以外は許されるというイメージです。だって、デザイナーベイビー制度を押し通すなんてことをするぐらいのディストピア社会ですし……
ちょっと次回の話にもつながるんですが、アンナ先輩本人には「卑猥の罪の意識」はないんです。
ただ現実として存在しています。それをどうするかで狸吉のお母さんひとりが悩んでいる状態です。ソフィアにいったらガンギレですからね。
立ち聞きしてる警官はまともな知識を持ってる人じゃなく、以前の月見草のような杓子定規としたやつなので、逆レとか襲うとかの意味をきちんと理解していないという。そのあたりは狸吉の方は言葉を選んでます。
リーダーの方は禁止単語を言わないのは癖みたいになってるんでしょうね。頭いい人ではあるんで。
もう少し、アンナ先輩が罪に付き合うところを、しっかりと描写できればなと思います。よろしくお願いします。
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 16:26:15.23 ID:BXBD+lgr0
たぬきち母は知ってるのか
アンナ先輩にとっては、卑猥の知識を頭に入れるのが1番の罰かもしれんな
200 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 17:09:39.68 ID:9iu5sKBf0
14日経った。華城先輩たちが迎えに行けと言ったので、まあそうでなくても行くつもりだったけど、僕は善導課の椅子に座って待っていた。
「奥間君」
鈴が鳴るように涼やかな声が、無味乾燥な善導課の部屋を明るくしたかのようだった。服は簡素だけど、胸にギュッと何かを握りしめている。
「来てくれたんですのね」
「……狸吉、ちょっと来い」
「え、母さん?」
「? お義母様?」
「アンナ、君はここで待っていろ」
母さんの声がやけに深刻だったので、素直についていく。
廊下のどん詰まりみたいなところに来て、なんだか空気が澱んでいた。セックスの後も換気しないといけないよね。
「アンナが犯人の一人にやったことだが、これは今は私の胸に収めている」
「……えっと、骨を折って耳たぶ千切ったんだっけ?」
「そうではない。犯人の一人に、ん――」
規制単語を言いたかったらしい。代替単語に言い換えることもできるが、母さんは非常にめんどくさかったらしく、
「取調室にこい」
「い!?」
「別にお前を取り調べるわけではない。いや、ある意味取り調べだが、法の下ではない。ただ、PMをいったん取り外す」
「…………」
何も言い訳ができないまま、取調室に入れさせられた。正式な取り調べではないので録画や録音などはされていない。取り調べの可視化はどこ行ったんだ。まあのぞき見というのも楽しいんだけどさあ。
「お前、アンナとセックスしたのか?」
「ぶほぉわ!? え、え?」
「アンナが『奥間君とは『愛の儀式』を済ませた仲ですの』と言ったのだ。お前が愛の儀式とやらでごまかしたのか?」
やばい、返答を間違えれば殺される!
201 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 17:10:09.13 ID:9iu5sKBf0
「え、えっと」
「事実のようだな」
え、言い訳すらなし?
しかし、思っていたのと反応が違う。どこか、沈み込んでいる。
「お前、一時期アンナをないがしろにしていたそうだな」
「そんなつもりは!」
「だからアンナは、お前を鎖で繋いで愛を確かめ合おうとした、そう言ったのだ」
「え…………」
「事実か?」
「……母さん、聞いて、アンナ先輩は」
「アンナは最後まで、自分が穢れることを、綺麗なままでいてほしいと、お前はそう言っていたと言った」
「…………」
「痛みを伴うからやめてくださいと言われた、そうも言っていた。その他にも話していて、私は違和感しか覚えなかった。だがこう仮定すればわかる。アンナには性知識が全くない、と」
「そう! そうなんだ! だから僕は、そんなアンナ先輩に何も説明するわけにはいかなくて!」
「風邪を引いていたといったあの日、本当はお前は風邪を引いていなかったのだな?」
こくこくこく!と頷いた。
「いつも逃げられるから、鎖で繋いだと言っていた……」
母さんは頭が痛そうにしている。理解できないんだと思う。外堀は完璧に埋めていたからな、アンナ先輩。
「他にも愛の蜜とか、それを混ぜ込んだクッキーを食べさせたとか、お前の愛の蜜が一番大好きだとか」
ひい、こういうのを実の母親から聞くと生々しすぎて本当に泣きたい!
「とにかくだ。一線を越えているようだが、お前の意思はそこにあったのか?」
「性知識のない女性の無知に付け込んだって、ちっともうれしくないよ」
「本音らしいな」
しばらく沈黙が落ちた。不機嫌、というよりはどうすればいいかわからないという困惑の方が強いのは、きっと息子の僕しかわからないだろう。
「アンナがリーダーにしたことは、強姦罪。卑猥の中でも最も卑劣な犯行だ」
「母さん、でも、アンナ先輩はそれが卑猥だって知らなかったんだよ」
「傷つける意図があったことには変わりない、そうだろう?」
「…………」
「明日、ソフィアを呼び出す。おまえにも証人として付き合ってもらうぞ、狸吉。不破氷菓も目撃者として呼んである。お前だけのせいにするつもりは、私にはない。そして」
14日間という時間でも答えを出せなかったであろう答えを今、母さんは吐き捨てるように。
「最悪の卑猥な犯罪をしたことを、アンナに告げる。アンナがお前にしたこともだ、狸吉。いいな?」
母さんの言葉は、すでに決定事項だった。
取調室を出て、先ほどの場所に戻ると、
「奥間君」
女神の笑みを浮かべたアンナ先輩がそこにいた。
この笑みが明日どうなるのか。
誰にも、わからなかった。
202 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 17:12:13.99 ID:9iu5sKBf0
狸吉のお母さんは比較的バランス感覚を持っている気がします。
行動は過激ですが、話の通じない人間が多すぎる下セカの中では比較的話が通じる気がします。
アンナ先輩、明日はいかに!?
203 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 17:14:06.27 ID:9iu5sKBf0
せっかくなのでここまでを急いで書いてみました。
狸吉のお母さんが男女逆でも強姦は強姦という意識を持っていて、本当に良かったと思います。
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 17:22:09.48 ID:0VPjNObI0
何気に不破さん巻き込まれていて草生える
いや展開はヤバいけどさ。場合によっては強姦罪か。準強姦罪とかにはならないのかな
205 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 17:25:34.94 ID:9iu5sKBf0
>>204
準強姦罪は暴力などを使わず相手が抵抗できない状態での暴行です。薬とかお酒とかで眠らせたりですね。
強姦罪より軽い罪、という意味ではないのです。アンナ先輩は暴力で暴行を加えているので、強姦罪になります。
……詳しい方、合ってますよね? 教えてくださいお願いします。
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 17:44:47.29 ID:Yx7KQxOiO
え?ちょっと待って。狸吉は、母さんがアンナ先輩のレイプを隠蔽していた事を知らなかったの?
だとしたら、狸吉、迂闊すぎない?面会の時、側にいる警官がたまたま性知識が無かったから良かったけど、もし違ったらアンナ先輩のレイプがバレるじゃん
てっきり、狸吉は母さんから全部事情を聞いてると思ってました。テロリーダーを確保している警官は全て母さんの息が吹きかかった連中で、狸吉はそれを把握しているから、面会で色々ぶちまけられたのだと
というか、狸吉がアンナ先輩の身を案じているなら、不破さんにアンナのレイプを証言したか聞くはずだし。それなら狸吉がアンナ先輩のレイプがバレたことを知らないなんて無理があるように思うんだけど……
それと、睡眠薬で眠らせた場合、準強姦罪じゃなくて普通に強姦罪になると思います
酒と違って、睡眠薬は本人に無許可で飲ませるのがほとんどかと。無許可で薬を飲ませて眠らせたら傷害罪になるはずなので、暴力扱いで強姦罪だと思われます
まぁ私も法律のプロではので、違っているかもしれませんが
207 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2020/09/05(土) 17:56:40.53 ID:tQdPywmW0
まあ矛盾は生まれるって。
たぬきち母さん1人に収めてないと隠蔽も難しいだろうし。不破さん1人話さなくても目撃者が多いから無理だろうし。
逆レの話はまあ迂闊だけど、以前の月見草みたいなやつなのが分かってたならある程度言える範囲がわかったんじゃないかなって解釈してるよ
208 :
◆86inwKqtElvs
[saga]:2020/09/05(土) 18:12:10.73 ID:9iu5sKBf0
すみません、私が言いたかったのは、
>>204
さんが準強姦罪が強姦罪より軽い罪と思っているように見えたので、そうではないと言いたかったのです。ご指摘ありがとうございます。後、いろいろ矛盾点もそろそろ出てきてますが、みんな疲れているのです、きっと。……いえ、本当にすみません。
皆さん真剣に考えてくれてうれしいです。答えを出せるかどうか、ちょっと不安ですが、頑張ります。
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