狸吉「華城先輩が人質に」アンナ「正義に仇なす巨悪が…?」【下セカ】

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233 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:33:59.30 ID:fFBIkeMu0


 タクシーでアンナ先輩のマンションに来た後、ソフィアがいたらどうするか考えていたのだけど、誰もいなかった。

 シャワーは先ほどホテルで浴びたのだけれど、僕にはわかる。アンナ先輩はまだ足りてない。そして、誰もいない。

 でももう僕の残弾は出尽くしていて、セックスしようがない。さてどうするか。

 アンナ先輩は僕の傷ついた小指をペロッと舐めた後、笑った。

「服を全部脱いでくださる?」

 逆らえるはずもなく、言うとおりにする。「あ、あの」ああ声が情けなくなってる。

「さっきの続き、僕はもう……」

「大丈夫ですわ。奥間君を鑑賞したいだけですから」

 鑑賞? 浣腸じゃなく?

 全裸になると、アンナ先輩は満足そうに、

「しなやかで、結構逞しい身体をしていますわよね……」

 僕の胸板を優しく撫でる。それが酷く恥ずかしい。

「あ、アンナ先輩のプロポーションには絶対敵いませんよ」

「うふふふ、ありがとうございますですわ。……手枷を嵌めますわよ」

 え?

 と思う間もなく、あっという間に手枷が嵌められた。

 今、僕の手は頭の上に上げている状態だ。手枷にさらに長い鎖を嵌めると、天井の大きなフックに通す。

 そしてキリキリと上げていく。

「あ、あの、アンナ先輩?」

「一度やってみたかったんですの。ん、もう少し鎖を短くしてもよろしくて?」

 鎖が短くなり両腕が上がっていく。

「くっ」

 自由が利かない。アンナ先輩の思うが儘なのが、恐ろしく怖い。

「……もう少しだけ」

 とうとう僕は、つま先立ちになるまで鎖を短くされた。そこで天井のフックに鎖を固定する。

「ああ、素敵ですわ。とっても素敵……先ほどあれだけ満たしましたのに、またお腹の中がうずうずしてくるぐらい」

 ちなみに僕の息子はあろうことか半勃ちになっていた。おまえ、元気だな!

「……これもきっと、卑猥の罪なんでしょうね」

 唐突に真面目な話をされる。え、これ結構きついんですけどこの状態続くの?

「実は、お母様がもうすぐ来ますの。奥間君の意思ではなく、わたくしの意思だと表明するには、これが一番早いかと思いまして」

「ちょっと待ってええええ!!!」

 ソフィア卒倒するぞ!!? あと僕ソフィアに攻撃されたら抵抗できないじゃないか!!

 ご丁寧にハンカチを利用した口轡を嵌めたあたりで、


 ピンポーン


「来ましたわ」

 え、僕、放置プレイ?


234 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:34:28.78 ID:fFBIkeMu0


 ――アンナ、いいですか、あなたはあの男に騙されているのです!

 ――いいえ、お母様。わたくしが選んだ方ですわ。

 ――こちらに来ていただくのが早いと思いますわ。



 ちょっと待ってこんな急ピッチ!?

 カチャ、と静かに扉の開く音がした。



「――――――な、な、な、な、!?」

「鎖も天井のフックも、わたくしが自分で用意したものですわ」

「な、なななな、なんて破廉恥な!? なんで、なんでこんな!?」

 僕も聞きたい。

「このつま先立ちっていう体勢、結構辛いのはお母様もわかるでしょう? ……わたくし、大好きな方の苦しそうな顔を見ますと、こう、愛の蜜が溢れてくるんですの」

「〜〜〜〜こ、こ、この!!」

「――――――ソフィア、落ち着け!!」

「あら、お義母様も一緒だったのですわね」

「アンナ、ソフィアもだ、君たちは混乱している! だからついてきた!」

 ありがと母さん、本当に感謝!

「わたくしは落ち着いていますわ。愛の蜜入りのクッキーを食べさせたり、そう、この突起物を」

 よりにもよって、僕と自分の母親の前で、口に含む。舌を使い、いつもより丁寧に、見せびらかすように。

「こうすると、すごく幸せな気持ちになれますの……ん」

 いつもよりも僕の反応が鈍いけど、尿道口を舌を使ってぐりぐりしたり、ハーモニカのように唇を滑らせたり。

 いくらソフィアでも、これが娘の意思で行われていることに、気付いたようだった。

「なんで、なんでこんな……私の教育は間違ってなどいないのに、なぜ? 不健全雑誌を身体に巻いてまで、デモを起こしたというのに、娘が傷害? 強姦? こんな破廉恥なことまでするようになったのです……?」

 口轡を乱暴に母さんがはがす。「げほっげほっ」

「お前も何か言え!!」

「……アンナ先輩は……いえ、人間は、衝動には逆らえません。それは自分の中にあるものだからです」

 聞いてくれているのかわからない。だけど言うしかない。

「性衝動も破壊衝動も、アンナ先輩にはちゃんとありました。だけどみんな、なかったことにしていた。見て見ぬふりをしていた。それでも、アンナ先輩の歳まで奇跡的に成り立っていたのは、本当に奇跡なんだと思います」

 ………これを言うと、もう後には戻れなくなると、わかっていた。

 だけど、言うしかない。だって、アンナ先輩を変えたのは、僕だから。

「僕は、アンナ先輩を尊敬して、時岡学園に入りました。それは、今でも変わりません。アンナ先輩は、本質は、変わってなんかない。ただ隠さなくなっただけなんです」

 だから。だから。



「僕はアンナ先輩を、受け入れたいと思います。ありのままのアンナ先輩を。ソフィアさんは、時間がかかるかもしれませんが、ありのままを見てほしいんです」



 多分、これは告白なんだろうなと。

 心のどこかで、気付いていた。

 できればもう少し、マシな告白がよかったな……鎖で全裸とかじゃなくてさあ。
235 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:35:02.78 ID:fFBIkeMu0


 正月が終わるまでは善導課の講習や家族内での不和があって、アンナ先輩は首都に帰って会えなくなった。電話もろくにできていない。

 占い屋で作ったおそろいのペンダントを見るたびに、これでいいのか、思う。

「アンナに告白とはお主生意気じゃのう」

 偉そうに正月気分を無視してハンバーグ800gを食べている早乙女先輩は、いつもの調子だ。

「僕、《SOX》をどうすればいいでしょう?」

「はやく止めるっス、死人が出るっス」

「止めるしかねえな、狸吉を犠牲にするしかねえぜ」

 ひでえ。

「華城先輩はどう思いますか?」

「私は別に? アンナ抱き込めばテロ活動もやりやすくなるだろうし」

 華城先輩は、いつもの元気がない。病み上がりだからかと思うけど、なんか違う気もする。


 カランコロン


「あら、皆さんもここにいましたの」

 銀髪の影が、喫茶店に入ってきた。

「あ、アンナ!? 首都に帰ってたんじゃなかったの!?」

「そうですよ!!?」

 全員がワタワタしていた。そりゃそうだ。

「お母様が思ったより強情で、お父様もよくわからない意見だったので、奥間君のお義母様に相談してみたら、少し離れた方がいいと結論に達しまして」

 まあ、そうかもしれない。でも何でここに?

「奥間君のアパートに行ったらお留守でしたので、匂いをたどって」

 あー、やっぱりそうだよなーあはは。

「あー、えっと。アンナ先輩はこれからどうするんですか?」

「お母様はわたくしを転校させたいようなのですけど、そうはいきませんので」

「遠距離恋愛も悪くないと思うわよ」

 華城先輩は黙っててください!!

「それも考えたのですけど、わたくしは確かめたいことができまして」

 確かめたいこと?



「そのためには、《SOX》と接触しなければなりませんの」



「「「「「…………」」」」」



 僕たち《SOX》の活動には、まだまだ困難が付き添うようだ。



   ――END――


236 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 17:38:41.89 ID:fFBIkeMu0
続きを書いてもよかったんですけど、一応テロリストからの救出という点においては事件として終わっているので、こういう形で〆させてください。

続きは書きたいですけど、別スレ立てるか悩んでいます。


あとこう見えてもアンナ先輩は狸吉に依存しているから安定しているように見えるだけで、まだまだ不安定なのでひと悶着はあると思います!

ここまで付き合ってくださって、ありがとうございました! 本当に、ありがとうございました!
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 18:09:48.83 ID:SRc4PU9U0
SOXを殲滅じゃなくに会うか……書いてくれー無理ない範囲で
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 18:19:32.15 ID:/FStR6Q6O
続きを投下するのは何ヶ月も先になりそう?
それなら、別スレ立てた方が良い

そして乙
ぶっちゃけ続き書いて欲しい。何年も待たされてこれだとアッサリし過ぎというか、消化不良というか……
とにかく待ってます
239 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 20:50:26.69 ID:fFBIkeMu0
うう、すみません、ちょっと急いだ感はありましたね……

10日ぐらい開けるかもしれませんが、何か月もということはないと思います。多分このスレで、続き頑張って書いてみますね。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 21:47:32.64 ID:BRHXYaDKO
りょーかい、待ってる
もし別スレ立てたら、このスレはHTML依頼出す必要あるから忘れないでね
おつ
241 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 21:57:54.23 ID:fFBIkeMu0

   <不破氷菓の一日>



 不破氷菓は科学者の端くれである。

 そう自負しているのだが、中には発明者と勘違いされている節もある。

 例えば、昨日こんな依頼が来た。



「アンナ会長の性欲を何とかしてほしい?」



 奥間狸吉からの依頼だ。正月の三が日も終わったばかりなのに何を言っているのか。

「無理に決まっているでしょう」

『そんなこと言わないで! 頼むから話を聞いて』

「毎日搾り取られていればいいじゃないですか」

『……合体』

「ほう」

『成功するかはわからないけど、アンナ先輩との合体の観察にアンナ先輩を協力してみるよ』

「そこまで言うとはよほど切羽詰まってらっしゃるんですね。わかりました、引き受けましょう」



   *



 喫茶店で会うことにした。

「アンナ先輩、僕を鎖で釣り上げたかと思えば寸止めして焦らすんだよ……」

「奥間さんの愛の蜜が溜まるまで?」

「愛の蜜が溜まるまで」

 そんなプレイスタイルは《SOX》がばらまく不健全絵画にもなかったので、非常に興味がわいた。

「いいんですか? そんなことを話して。生徒会でしょう?」

「生徒会長があんなのだからいいんだよ、きっと」

 奥間がそれでいいならそれでいいのだろう。以前の奥間なら断固拒否していただろうに、よほど疲労が激しいらしい。目にクマができている。人のことは言えないが。

「鎖でつま先立ちまで天井に引っ張る……なるほど、拷問と似ていますね」

「その状態で、その……いろんなところを羽箒でさわさわしたり」

「なるほど」

「本当に、地獄なんだよ……この前なんか見下すような視線だけでもう無理になりそうになったし」

「ほう、それは興味深いですね」

「恥的好奇心満たしてないでさ、なんとかしてくれぇ!」

「会長からもリサーチしたいところですね」

「……アンナ先輩に? わかった」

 一瞬、気まずそうな顔をしたが、すぐにPMを繋いだ。

242 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 21:59:11.82 ID:fFBIkeMu0


『奥間君? どうかされましたの?』

「あの、不破さんをアンナ先輩の部屋に連れて行ってもいいですか?」

『? 何故?』

 以前なら即浮気を疑っていたのに、今は正妻気取りである。余計な嫉妬が来ないのは助かるが。

「あの、前からの事件で色々不破さんに迷惑かけちゃったじゃないですか……それで、前から興味を持っていた」

『……愛の儀式を見たい、と?』

「あの、やっぱりだめですか? アンナ先輩も僕相手じゃ鬱憤が溜まるでしょう?」

『わたくしはすごく楽しいのですけど……、奥間君に負担がかかるのは、わかっているつもりですわ』

「拷問ですしね、基本が」

 PMはその一言を拾わなかったらしく、熟考の気配だけがする。

『お母様相手に披露したこともありますし、何も言わない、喋らない、手を出さないなら、いいですわよ』

「え、いいんですか!?」

『少しでも奥間君に触れたら、わたくしにとっては愉しい事態になるでしょうね』

「それはつまり拷問ですよね」

 …………、絶対に触れないようにしよう。

 PMが切れると、「よっしゃこれで光明が見えた!」みたいな顔をしている。

「性欲の解消には、たいてい疑似的な単為生殖にふけることが多いのですが」

「僕はもうそれでいいよ……」

「以前、奥間さんのものを疑似的に再現したブツがあったのですが、取られたのですよね?」

「アンナ先輩の箪笥の引き出しに大事にしまってあるよ」

「まずはそれを取りに行きましょうか」


   *


「いらっしゃいですわ」

 ここに来るのは二回目だが、相変わらず白を基調とした品のいい部屋だった。

「あら、早乙女先輩もご一緒ですの?」

 あれから「奥間よ不破よ、わしをそんな素晴らしいシーンに呼ばんとは寂しいではないか!」とどこからか聞きつけ、一緒に来ることになった。自分は構わないが、奥間は嫌そうにしている。

「ブツはどこに?」

「大事にとってありますの」

 取り出したブツは、洗って綺麗にしてあるらしく、汚れ一つついていなかった。

「使わないのですか?」

「え? まあ本物がありますし」

 それもそうかと納得する。ということは、本物にできない動きを付加すればより快感を得られるのだろうか。ただ素材にあまり柔軟性がない以上、無理な動きはさせづらい。

「使ってみての感触はいかがでしたか?」

「それはもう満足ですわ。ただ、自分で抜き差しするのは、味気ないですわね」

 そこでいきなりきょとんとアンナ会長が、「これは卑猥な会話に当たりますわね」といきなり爆弾を投げ始めた。

「あーえっと、その、ほら、性衝動の正しい解放は大事なんですよ! 母さんも言ってましたけど、それで不快な思いをさせなければいいわけで、むやみに人に見せびらかすわけではないし」

「お二人が見ることになりますわ」

「納得づくなら問題ないでしょう!」

 二人とも助けて! と念波が送られてきたので、頷いてみた。

243 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 21:59:45.58 ID:fFBIkeMu0


「ならいいんですけど」

 どうも最近のアンナ会長の価値観はわかりにくい。元からわかりにくい人ではあったが、あの立てこもり事件以来、卑猥に対する価値観を信用しなくなったような、いびつさがある。

「この近くに粗大ごみ置き場はありますか?」

「ありますけど、何を致しますの?」

「材料拾いです」


    *


 さすがに高級マンションの粗大ごみ置き場だけあって宝の山だった。パッと見る限り、修理すれば十分使えるものばかりだ。

「これはなんですか?」

 見慣れないものがあったので、素直にアンナ会長に訊いてみる。

「ロデオマシンですわね。確か最近、ジムが閉鎖になったとか聞きましたわ」

 ふむ、と考える。組み合わせたら使えそうだ。

「これを持って帰りましょう」

「え、重いよ?」

「わたくしが持ちますわ」

 奥間が持てなかったものを軽々持ち上げると、部屋に戻っていった。


   *


「…………」

 奥間が何か言いたそうにしているが、気にしないことにする。

「完成しました」

 構造としては非常に単純で、ロデオマシンを修理し座る部分にブツを固定しただけの代物だ。

「なるほどのう」

「では実験してみますか?」

「え、ロー……潤滑油なしに?」

「天然の潤滑油はもう十分なようじゃがのう」

「では全裸になってください」

「……明るいですわ。間接照明だけでもよろしくて?」

 ここで機嫌を損ねても仕方ないので、頷いた。間接照明だけでも十分に明るく、観察には問題なさそうだ。

「奥間君も、全裸になってくださいまし」

「え、僕も?」

「せっかくですから、このまま愛の儀式に移行してしまいましょう」

 《赤ちゃん穴》から大量の潤滑油――愛の蜜が太ももにまで流れ落ちている。声は平静でも、欲情の火がともっているのがわかった。

「スイッチの回数で強弱とオンオフがつけられますので。後は黙っています」


 そして、実験と儀式は始まった。

244 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:00:35.39 ID:fFBIkeMu0


 奥間が胸部を舐めている。それだけで「ああん」と甘く高い声を出して、背中を反らす会長は、美という観点から見ても完ぺきだった。

 そして《赤ちゃん穴》に指を挿入され、しばらく上下に動かされた後、ガクガクガク!と痙攣がおこり、愛の蜜とやらがさらにぼたぼたと流れ落ちる。

 そして、ロデオマシンに跨る。

「ゆっくりでいいですからね……痛かったら言ってください」

 そしてブツが、中に挿入されていく。

「はうん! は、は、あ、」

 一番弱い刺激だからか、物足りないようだ。前にハンドルのようなバーがあったが、そこを握らせず奥間はアンナ会長を後ろ手に手錠で固定する。

 すると、身体を固定することができず、より振動を強く受け取ることができる。なるほど、と氷菓は納得した。

「あん、奥間君の、いぢわる……」

 むしろ嬉しそうにそういう会長はまだ余裕がありそうだった。奥間もそう思ったのか、第二段階にスピードを上げる。

「はああん! あ、ああ、ああああ!」

 気持ちよさそうに声を上げる会長は既に涎まみれだった。はあ、と奥間がベッドに座る。

 気持ちよさげに声をあげながらも、会長はス、と視線を奥間の突起物に目を注ぐ。奥間はう、っと呻きながら、共鳴を起こしたかのようにグググ、と戦闘態勢になった。

(この前なんか見下すような視線だけでもう無理になりそうになったし)

 なるほど、こういうことかと納得する。自分も熱気に充てられ、潤滑油が流れ出してきた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、奥間君、これじゃダメ、ダメですの……!」

 どうやらこれでも物足りないらしい。だけど奥間は動かず、時計を見る。

「アンナ先輩、あと10分、我慢できますか?」

「10、10ふんも、ああ! ああん、奥間君のいぢわる……」

 そう言いながらも嬉しそうだ。よくわからない関係の二人だと思う。


 10、

 9、

 8、

 7、

 6、

 5、

 4、

 3、

 2、

 1、


「あ、あ、奥間君……!」

 そこで一度、奥間はスイッチを切った。

245 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:01:11.33 ID:fFBIkeMu0

「あ、あ、あ、あ、なんで……?」

「ちょっと位置調整しましょう」

 アンナ会長は素直に頷くと、潤滑油でぬるぬるになった鼠径部を上下左右、動かし、「あ、ここ、ここがいいですの!」何やらポイントを見つけたらしい。

「じゃあ、一番強いの、行きますね」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、!!」


 ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン!!!


 氷菓の目から見ても激しく前後左右上下に揺れる。「ふ、ふわああああああああん!!!!」身体を反らし、全身で快楽を享受したようだが、機械だから止まらない。

「10分、我慢しましょうね。危なくなったら切りますから」

 奥間の声はどこまでも優しい。

「お、あ、おお、うぁ、あああああ」

 もはや会長の声に涼やかさはなく、獣のそれと同じになっていた。


 10、

 9、

 8、

 7、

 6、

 5、

 4、

 3、

 2、

 1、


「終わりましたよ」

「…………」

 呆然自失だった。機械的な刺激というのは得てして強すぎるのかと氷菓が心配した時、

「アンナ先輩ならよく気絶とかするから大丈夫だよ」

 奥間が言うならそうなんだろう。

 気絶しているアンナ会長をベッドまで運ぶ。丁寧に扱っていた。

「ありがとう、これでアンナ先輩が物足りない時なんとかなりそうだよ!」

「……奥間君……?」

246 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:01:43.09 ID:fFBIkeMu0


 ビクン、と文字通り奥間が跳ねた。

「ふふ、いぢわるなとこも好きですわ……でもすっごく良かったんですもの。けれど、奥間君が足りないでしょう?」

 いつの間にか起き上がり、奥間の腰を後ろから掴んでいる。

「い、いや、止めて! 排泄孔だけは!!」

「うふふふふふ……今度は奥間君の番」

 奥間に負けず劣らず優しい声で、しかしその瞳だけは欲情の獣の瞳だった。



「いやああああぎやああいひひひいいいいいふはあああああああああああああ!!」



 もう言語とも思えない発声が奥間の喉から響く。

 人間はこんな声を出せるのだと、氷菓は身を以て知った。


   *


 創作意欲がわいた! わきまくりじゃ! と何かの祭りのごとくダッシュで帰っていく。そういえば早乙女先輩の気配が途中からなかった。

 直接の合体は見られてないなと気付いたが、今の時点でこれ以上は罰が当たる。あのロデオマシンの有用性もわかったし、今日はいい日だった。

 しかしそれにしても。

「愛、とは不可思議ですね」

 慈しんだり嫌がったり、それを無視してみるとより快楽が発生したり。

「まだまだ探究心は衰えそうにありません」

 とりあえず、いつかは本当の合体が見てみたいと思う、氷菓なのだった。


247 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/06(日) 22:03:11.46 ID:fFBIkeMu0

本編と本編の間の話な感じで。アホ話。

アンナ先輩、大体愛の蜜が溜まるまでは狸吉を吊り下げて、紅茶を飲んだり読書をしたり、鑑賞物として楽しんでらっしゃるようです。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 22:31:30.81 ID:7yMJ9NmL0
たぬきち切羽詰まってたんだな……
なんつーか、本編ではペット扱いだけどこっちじゃ奴隷扱いな気がする。天吊りって結構キツイらしいね
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/06(日) 23:01:05.33 ID:lLhoANhrO
なにこれアタマおかしい
って、原作からしてそうだったわ
つまり、これは忠実な原作再現つーことか。なんてこったい
250 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:46:19.80 ID:67K1aiTg0
アクションを書く練習ですので、下ネタが入ってないと書いた後で気付きました。なんてこったい。

まあせっかくなので投下します。
251 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:47:46.38 ID:67K1aiTg0


 12月26日


「悪いね、母さん。変なことを頼んじゃって。休みの日なのにさ」

「構わん。最近の署員には緊張感が足らんしな」

 僕は今、なんと善導課の柔道場に来ている。

 アンナ先輩は事件でいろんな功罪を背負った。功を奏して罪の方は軽く済んで、(本来ならあり得ないのだけど両親が無理を通した形だ。僕と轟力先輩のBLぐらい無理を通している)講習を受けている。だけどアンナ先輩は優秀すぎて、カリキュラムが一瞬で終わるというほぼ意味のないことになって、上層部が困っていたのだという。

 そこで時間を持て余し気味のアンナ先輩を見かねて僕が母さんに頼んだのが、組み手だった。

 アンナ先輩は衝動を持った。性衝動だったり破壊衝動だったり、その他もろもろ。それは生きていくうえで必須なんだけど、アンナ先輩は正しいことしか詰め込まれておらず、抑圧されて生きてきた。だからその衝動の発散の仕方を知らず、特に破壊衝動の方は持て余し気味だった。性衝動の方は僕で遊んでなんとかなってるけども。むしろこっちを何とかしたいのだけど、みんな僕一人の犠牲で済むならということでごまかされている。ひでえ。

 まあなんだ、発散の仕方を知らないって色々辛いよね。ナニがとは言わないけどさ。

 だけどアンナ先輩の場合、人の壊し方を知っているという点でとにかくシャレになっておらず、素手で人を殺すことも可能な人だ。いや普通の人もできるのかもしれないけど、握力だけで首の骨を折るってできる? 僕はできないよ?

 柔道場へ行くと、すでにアンナ先輩が柔道着に着替えて待っていた。黒帯。アンナ先輩の可憐な容姿と黒帯のギャップが珍しいのか、ちらちらと善導課だけじゃなく警察全部の課の猛者で埋め尽くされている柔道場の視線を一身に受けていた。

「奥間君、お義母様」

 アンナ先輩が笑うだけで、むさくるしい柔道場の一角にそこだけお花畑が生まれたようだった。

「今日は、お稽古を?」

「まあ正直、君のストレス発散にしかならない連中だろうがな」

 善導課の生きる伝説《鋼鉄の鬼女》の言葉に、何人かがざわつく。母さんは今日、柔道場を仕切っていた警官に声をかけると、

「全員注目!」

 全員が稽古を止めて、僕達――というか母さんを見た。

「今日は彼女、アンナ・錦ノ宮の特別講習に付き合ってもらう。実力が足りないものは見学していろ、あとで私が可愛がってやる」

 ……皆さんごめんなさい。

「アンナ・錦ノ宮と申します。今日はよろしくお願いいたします」

 ざわつきが生まれる。アンナ先輩はどうやら柔道界では有名らしい。そりゃな。

「具体的には彼女の乱取り稽古に付き合ってもらいたいのだが……、おい、貴様」

「は、はい!」

「貴様ならアンナ相手でも、そうだな、15秒立てていたら誉めてやろう」

 空気が軋む。アンナ先輩相手に15秒立てるというならそれなりの猛者なんだろうけど、それだけの猛者ならプライドも高いだろう。

「あの……」

「かまわん。アンナ、不必要なプライドはへし折ってやれ。それが奴のためだ」

「……わかりましたわ」

 本来、今日この柔道場を仕切っていた警官が審判することになった。

「はじめ!」


 ドン!


 ……4秒だった。僕から見ても見事な、アンナ先輩の一本背負いが決まっていた。


「貴様、女相手とみて油断するとはたるんどる!!」

「ひぃ、すみません!!」

「思ったよりもたるんどるようだな。鍛えなおさねばならん」

252 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:48:30.59 ID:67K1aiTg0


 母さんは周りを見渡すと、

「しかし、これでは今日いる者では相手にならんな。仕方ない、私が相手をしよう」

「お義母様と?」

 アンナ先輩の困惑をよそに、母さんはさっさと柔道着を着替えに出て行ってしまった。

 警官たちから声をかけられるかと思ったけど、母さんが怖いらしく黙って正座している。

「奥間君はその……どう見えましたの?」

「え? えっと、僕は武道のことわからないので何とも言えないんですけど」

 ちょっと考える。流麗で見事な動き。しかし、何かが足りない。

「アンナ先輩も、遠慮してましたよね? 遠慮というか、エンジンが入ってないというか」

 アンナ先輩と言えば敵に対してはもっと容赦のないイメージだ。なんというのか、武道というよりスポーツといった感じだった。

「ん……、そうかもしれませんわね」

 これじゃあ、衝動の発散の練習にならないかもしれない。そんなことを危惧しているうちに、母さんが柔道着で戻ってきた。

 ……やっぱり迫力あるなあ。カタギには見えん。

「これより、奥間爛子とアンナ・錦ノ宮の乱取り稽古を行う」



「はじめ!」



 シュババババ!と無数の攻防が繰り広げられる。正直僕には見えない。一瞬、距離を取り、また無数の攻防が繰り広げられる。互いに決め手がない感じだ。

 警官たちは目を剥いている。母さんと互角の人間なんて数えるほどしかいないだろうしな。それがこんな美少女じゃびっくりもするわ。


「それまで!」


 結局一戦目は引き分けに終わった。

「……ふむ」

 母さんも納得いってないようだ。アンナ先輩が本気じゃないというわけじゃなく、アンナ先輩にとって柔道はあくまでルールのあるスポーツなんだろう。

 それでも衝動を発散させることはできるだろうけど、うーん。

「今のままじゃ足りんな。狸吉」

「僕無理だよ!?」

 あんな化け物同士の戦いに入れるもんか。

「お義母様?」

「……少しルールを変えるか」

「?」

 いや僕を見られても困る。柔道のルール自体知らないし。

253 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:49:21.22 ID:67K1aiTg0


「アンナ、お前は何をしてもいい。殺す気で来い」

「ちょ、母さん!?」

「何を、というのは、その、どこまでですの?」

「反則はない。目潰しも何でもありだ。本気で来い。こっちはそんな貴様を捕縛する。それでどうだ?」

「…………」

 奥間君、と小さく呼ばれたので、母さんに背を向け、囁きに耳を傾ける。

「……よろしいんですの?」

「えっと」

「……本当に殺しても、よろしくて?」

 これじゃ意味なくない?

「…………母さん、ルール変えた方が」

「もう決まっていることだ。貴様らに心配されるほど衰えてはおらん」

「……それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ」

 すでに血に飢えた猛獣の瞳になっていた。僕もう無理。


   *


「どちらかが参ったといった時点で勝敗は決する。では、はじめ!」

 アンナ先輩も母さんもいきなり動いたりはしなかった。互いに互いを見定めている。アンナ先輩は獲物の食べ応えを、母さんは捕縛対象の実力を。

 先ほどとは全く違う、アンナ先輩から漂う冷気のような殺気に、観客となった警官たちが唖然とした瞬間、アンナ先輩が動いた。

 自身の身長ほど高く飛び、母さんの頭をめがけて飛び膝蹴り。え、マジで殺す気? 母さんは当然のようにガードし、逆に足を持ち捕縛しようとするが何かの関節技の要領で抜けると、アンナ先輩は高さを利用して肘をみぞおちに入れようとする。

 アンナ先輩は嗤い、母さんは鬼のような形相となる。怖ええ!!

「でええい!!」

 くるりと母さんは旋回し避け、アンナ先輩の肘は床に突き刺さる。衝撃に床が揺れた。嘘だろ柔道場だぞここ!?

 アンナ先輩はバック宙の要領で距離を取ろうとするが母さんはあくまでも距離を詰める。母さんはというか、基本的に警官は自分から攻撃を仕掛けるのが(こういう次元の違う話でいうと)苦手なのだろう。まず攻撃を塞ごうとする癖がある。

 そしてアンナ先輩には、攻撃を塞ぐ壁を破壊する力と技を持っている。

「ふっ!」

 アンナ先輩の突きの威力に、いなしていた母さんの体勢が崩れた。好機とみてアンナ先輩のかかと落とし。ぎりぎりでかわしアンナ先輩の腕が母さんの腕に引っ掛かり、母さんが求めていたであろうインファイトにもつれ込んだ。


254 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:50:49.42 ID:67K1aiTg0


 普通の柔道ならここで一本なのだろうが、獣となったアンナ先輩は自分の不利をむしろ楽しそうに嗤いながら、

「!?」

 小さな口が大きく開かれ、首元に食らいつこうとする。急いで母さんが腹に蹴りを入れて距離を取り、一時の静寂が訪れた。

 プッと噛み千切った髪の毛を吐き出す。お腹に入った蹴りの痛みも今のアンナ先輩には命のやり取りのスパイスでしかないようで、血に飢えた獣の嗤みは消えない。

 静寂が消えるのは早かった。一瞬で今度は母さんの方から距離を詰めると、関節に決め込もうとする。もちろんアンナ先輩もそうはさせず、逆にへし折ってやろうと動いていく。

「悪く、思うな!!」

 プロレスでいうバックドロップというのか、柔道でいうと裏投げというのか、とにかくそんな感じの技でアンナ先輩を頭から投げる。おいこれ危ない技じゃないのか!? そこまで追い詰められたということなのだろう。

 アンナ先輩は頭を逆さにされたが、不吉な笑みは消えていなかった。

 両手を放し、逆立ちの状態になり、そのまま腕のばねを利用して跳ね上がり、両足を母さんの首に巻き付ける!

「ちっ……!」

 このままじゃ首をへし折られるのがわかりきっている。巻き付きが終わる前に母さんはアンナ先輩の足を力で強引に引き剥がす。一瞬動きが止まり、その間に母さんは脱出した。

 そして再び、両者距離を取っての睨み合い。

「さすがですわ、お義母様」

 はあはあと、さすがに息を切らしている、ように見えて単にアンナ先輩は衝動の解放への期待に酔いしれてるだけだ。多分この中で僕だけがわかっている。言葉も余裕と期待に溢れていた。

 母さんはふう、と一息。瞬発力と力のアンナ先輩に、持久力と技の母さん、といった感じだろうか。

 両者は普通のルールの時では互角だった。殺してもいいとまで言った何でもありのアンナ先輩と、あくまで捕縛目的の母さんとでは、アンナ先輩が有利すぎる。

「厄介すぎるな」

 あの《鋼鉄の鬼女》を以て『厄介』と言わしめるアンナ先輩を、それこそ化け物を見る目でみんな見ていた。おい、機動隊の人間もいるのにそんな目で見られるってアンナ先輩、どんだけだよ。まあ知ってたけど。



「ストップ、ストップ、ストップ!」



 この中に入っていくのは正直死ぬ思いだったけど、アンナ先輩はこのままだと母さんを本気で殺す気がしてきた。

「えっと、実力差を考えると、アンナ先輩に有利すぎるんじゃないかと思っ、たり、思わなか、ったり」

 母さんからの殺気がすげえ、なんだよ母さんのことを思って止めたのに。母さんにもプライドがあるだろうけどさあ! 

「奥間主任、私の目から見ても今のままのルールでは許可できない」

 審判役を務めてくれていた警官が僕の言葉に賛同してくれた。「ちっ」と舌打ちした後、どこかに去っていく。

「終わりですの?」

 アンナ先輩は物足りなさそうだ。だけどすぐに場をわきまえた。

「いえ、感謝しますわ。臨場感があって、つい我を忘れてしまう面もありましたの」

 多分、噛みつきのとこだろうな。あのあたりのビーストモード覚醒感は半端なかった。「君、警官に、いや機動隊に入らないか?」訓練が非常に厳しいことで有名な機動隊員にも、アンナ先輩なら軽々となれるだろうなあ。



「まだ終わっとらん」



 母さんが何やら棒を持って出てきた。警棒?

255 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:51:48.64 ID:67K1aiTg0


「お義母様、それは?」

「練習用の警棒だ。これでも当たれば痛いし、怪我をさせられるぞ」

「…………」

 お、奥間主任が警棒を解禁だと!?みたいな空気が流れている。なんだよその伝説の剣みたいな扱い。

「素手じゃちと分が悪い。剣道三倍段という、先ほどまでの私と思うな」

 アンナ先輩は獣の笑みに戻る。

「ふふふ……、ええ、わたくしはいくらでも受けて立ちますわ」

 審判役の警官は、もう止められないと思ったのか、諦めて審判に戻るようだった。

「だ、大丈夫なんですか?」

「アンナ、貴様は一度2、3本は骨を折っていてもよさそうだ」

「それはお義母様の教育であっても、嫌ですわね」

 誰だって嫌だよ!



「はじめ!」



 シュ、と警棒をアンナ先輩のみぞおちめがけて突く。短期戦に持ち込む気なのはわかった。

 当然のように避けると、アンナ先輩は母さんではなく警棒の方を手刀で攻撃する。「ちっ」どうやら狙ったところに当たらなかったらしく、小さく舌打ちが聞こえた。そのまま警棒の持つ手に膝を入れる。まず武器を手放させようとしていた。

「させるか!」

 アンナ先輩は警棒が直接身体に当たれば怪我は免れないと判断したらしく、大きく距離を取った。だけどそれ以上に速く母さんの追撃。だけど追撃は追い込みすぎた。アンナ先輩は紙一重でかわすと、わきで棒を挟み込み、先ほどとは逆にインファイトに持ち込もうとする。これだと警棒の間合いの有利がなくなる。

 簡単に警棒を動かせなかったらしく、一瞬母さんが硬直、その隙をアンナ先輩は見逃さず、頭突きを食らわす。目で見る以上の威力があったのか、母さんが倒れた。

 そのまま垂直に全体重を乗せた踵を入れようとする! 母さんは辛うじて避けたが鎖骨部分に踵が当たり、アンナ先輩は流れるようにそのまま関節を決める。

「勝負あり、ですわ」

 アンナ先輩の勝利宣言に、しかし母さんは屈しなかった。先ほどの噛みつきの意趣返しとでもいうように、足で掴んだ警棒を口で噛み、頭を振ってアンナ先輩の顎にぶつける!!

「ぐ!」

 思った以上の威力にアンナ先輩の関節から脱出できたようで、母さんは警棒を持ち直し体制を整え、アンナ先輩はゆらりと立ち上がる。

 アンナ先輩は嗤っていなかった。それでも僕にはわかる。獲物ではなく、敵を叩き潰す快感を思い出している顔だ。《雪原の青》にしたような。

 うずうずしているのがわかる。暴雪の気配を感じ取っているのか、柔道場全員の沈黙が痛い。

256 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:52:30.72 ID:67K1aiTg0


 わずかにアンナ先輩の唇が切れていて、血が流れている。舌で舐めとり、僅かにアンナ先輩が顰め面をする。

「もう少しで脳を揺さぶられるところでしたわ」

「自分で唇を噛んで意識を保ったのか」

 その執念に思わずぞっとする。

 さて勝負再開か、と全員が緊張した時。

「狸吉」

 母さんが僕をいきなり呼んで、びくうと震えた。

「あとは任せたぞ」

 え、何それ死亡フラグっぽいの。

「次で最後だ」

「…………」

 アンナ先輩は無言で距離を詰める。自分が怪我をするかなんて頭になさそうだった。いかに最小限に傷を押さえるかが目的で、警棒がかすっても動きに乱れはない。

 次元の違う攻防が繰り広げられる。どっちの動きも武道経験者でない僕にはもう視えなくなってた。

 母さんの回し蹴りと、アンナ先輩の回し蹴りがかち合う。そして母さんの警棒の突きを最小限でかわし、懐に入り、鳩尾にアンナ先輩の拳が入る!

「ぐっ!」

「が……っ!」

 アンナ先輩の背中に警棒が打たれる。うわっ、痛ったいあれ。だけど拳の威力も凄まじかったらしく、アンナ先輩と母さんは同時に倒れた。

「……参りました、ですわ」

「参った」 

 二人が同時に言って、試合ならぬ死合は終わった。

 審判役の人や他の人が怪我がないか診ていく。僕も慌てて二人のところに走った。

「大丈夫!? アンナ先輩も!!」

「お互い、一週間は痛むだろうな」

「ですわね」

 ……なんか友情っぽいのが芽生えてるけど、異次元の友情なんだろうなあ、これ。



    *


「アンナ先輩、唇切ってましたけど、大丈夫ですか?」

「柔道に不慣れな昔はよくあることでしたわ。お気になさらないで、奥間君。お義母様も」

 私服に着替え、傷を化粧で隠し、貞淑なお嬢様モードに戻ったアンナ先輩は、だけど見てわかるほどに楽しそうだった。

 それなりに衝動の発散に役に立ったみたいで、僕としてはいいんだけど、正直毎回こんなのだと精神が削れる。

「私も久しぶりに勉強ができた。満足だ」

 ……お互いが満足できたならそれはそれでいいけど。

(奥間君)

 こっそりと、囁く声には愛欲の欲情があった。

(今日は一晩中、楽しみたいですわ)

「…………」

 ……あちゃー、性衝動も刺激してしまったようだ。

 後片付けがあるという母さんを警察署に残して、僕らはアンナ先輩のマンションに向かった。

 参ったって言ったら止めてくれ……るわけがないよね、うん。

257 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 15:56:09.86 ID:67K1aiTg0

アクション書く練習をしています。いつも弱いなあと思っています。
ですがせっかく書いたので投下。狸吉母さんはアンナ先輩と比べるなら、持久力と技に優れていると勝手に思ってる。力は互角かな? そんなイメージです。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 17:12:31.76 ID:LyJcD27S0
アクション描写、出来てると思うけどな
本編だと

シュババババッ、何これ互角!?

みたいな感じだったしいいんじゃね
259 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:03:35.73 ID:67K1aiTg0


 1月2日



「あ、あ、アンナ先輩、そこ、そこは……!」

 今、僕はアンナ先輩に全裸にされ鎖で天吊りされ、つま先立ちにさせられながら羽箒で乳首を撫でられていた。

「ひ、は、ああ」

「ああ、その声。痛みに悶える声も好きですけれど、疼きに堪える声も素敵ですわ……!」

 アンナ先輩、どんどん効率よく、いかに僕を傷つけずに虐めるかの習得というか発想の方面が素晴らしく豊かで、今は主にこちょこちょ地獄がお好みのようだった。

 僕の愚息の裏筋からカリまでを、羽箒で撫でる。

「は、は、あ、アンナ先輩!」

「うふふふ……」

 正月といったら、もっと正月らしいイベントがあるんじゃないかなあ。母さんが僕のアパートに住むとそれはそれで厄介な問題が起こるので(母さんがいるのに寝込みを襲おうとしていた)このまま精液搾取されて終わるのかなあ。

「あ、そうそう」

 鎖を三つ分、下げてくれた。両足が床につく。だいぶ楽になった。

「綾女さんにお願いしていたのですけど、朱門温泉に行きません?」

「温泉ですか?」

 羽箒で僕を撫でるのは止めて、パンフレットを取り出す。

「月見草さんも経過は良好ですし、慰安旅行というのも悪くはないと思いますの。朱門温泉は傷にもいいそうですから」

「僕は……その……、かまわないんですけど」

 これはこれで頭が痛い問題が待っている。

「宿題が終わってなくて」

 ずっとこうやって鎖で天吊りされたりとかされてたからね。頭空っぽにもなるわ。

「わたくしが手伝いますわ」

「いやあ、その、……アンナ先輩、全裸で勉強させようとか考えてません?」

「だって、少しの間も愛し合いたいんですもの」

 当然のように考えてらっしゃった。テスト勉強の時、足コキされたからね、僕。アンナ先輩のマンションだともっと激しいことをされるに違いない。問題が解けるまで寸止め地獄とか。

 寸止めって、本当に地獄なんだよなあ。不健全イラストのせいで気持ちいいみたいに思ってる女性って多いみたいだけどさ。

「でもなんで急に温泉なんです?」

「奥間君はご存じないでしょうけど」

 《センチメンタル・ボマー》として朱門温泉にいたことになっているので、僕は朱門温泉に行ったことがないのである。なんじゃそりゃ。



260 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:04:03.46 ID:67K1aiTg0


「わたくし、夏休み、家出をしていて。綾女さんに協力してもらったんですのよ。お代はわたくしが出しますから、一緒に行きません?」

「えっと、月見草や華城先輩も一緒ってことですか?」

「ゆとりさんや鼓修理ちゃんも。早乙女先輩や不破さんにも招待は出しますわ。事件で迷惑をかけた皆さんに出す予定ですのよ」

 うわお、ほぼオールスター。

 不意に、アンナ先輩の表情が暗くなる。

「話を聞く気もないのに、両親が帰ってこい、転校させるとばかり言うものですから。わたくしも気分転換がしたいんですの」

「…………」

 そう言われると断れない。まあ断るつもりもなかったけど。

「いつからですか?」

「5、6、7、8日の三泊四日はどうでしょう?」

 登校日が休日のずれもあって10日だから、妥当なところか。

「部屋、空いてますかね?」

「空いているそうですわ。融通してくださったみたいで、綾女さんには頭が上がりませんわ」

 そう言えば、事件以来、ちゃんと華城先輩と話してない。





『遠距離恋愛も悪くないと思うわよ』

『それも考えたのですけど、わたくしは確かめたいことができまして』




『そのためには、《SOX》と接触しなければなりませんの』




 華城先輩とも《SOX》について話したいし、アンナ先輩も《SOX》について考えが変わった部分があるみたいだし、いろいろある。

 でもとりあえず、今は宿題が先かな。……寸止め地獄をアンナ先輩が思いつきませんように。


261 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:05:03.40 ID:67K1aiTg0
続き、少しずつ書いていきまーす

華城先輩の気持ちが色々と複雑なようです。アンナ先輩は立場が複雑すぎてもう何が何だか。
262 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 18:06:40.18 ID:67K1aiTg0
>>258

アクション描写、できてますか? ありがとうございます!
それでもやはり、私の苦手な部分ですね。精進します。
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 18:42:58.53 ID:tDU0Kf1QO
乙。ありがたや、ありがたや……
母ちゃん苦戦しまくってるけど、そりゃそうよね。
スペック云々だけでなく、アンナ先輩を『人間』として扱って戦闘したら、誰も勝てないと思う。
某チート吸血鬼漫画にもあったけど、『化け物』に、対人間用の兵士を送り込んだところで、あわれな肉塊を生産されるだけ。
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 19:19:59.31 ID:nap7XDlG0
乙です

喉元噛み付くとかヤク中のやることやで、義理の母にすることじゃないわ、いくら反則なしでも
まあ華城先輩に(パンツ目当てだけど)やってたし、やっぱベースが獣なんだな、性欲以外でも

温泉回か、楽しみにしてます
265 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 21:23:57.45 ID:67K1aiTg0


 鬼頭慶介は正月休みも返上して働いていた。

「うーん、どうしよっかなぁ」

 アンナ・錦ノ宮があれほどの爆弾持ちだったとは、さすがに見抜けなかった。後処理を貸しにこうして年末年始を返上している。

 爆弾を持っているとはいえ、それだけの価値がアンナ・錦ノ宮にはある、と慶介は踏んでいた。

 《鋼鉄の鬼女》にも負けないほどの身体能力に様々な才能、カリスマ性、何より爆弾――敵に対する冷徹さと残虐さが、彼女にはあった。

「アンナ・錦ノ宮の件でしょうか。……スマホ×ガラケー」

 《羅武マシーン》が問うてきた。慶介は後半の掛け算を無視して答える。

「錦ノ宮ご夫妻は今、大変だよ。僕どころじゃなくてね」

 森の妖精スタイルじゃない、高級スーツだった。

「でも何とかするだろうね。今までのアンナお嬢さんの評判がまずそうさせない。人っていうのはそういうもんだ」

「そうですね。ピザ×トマト」

「そんなお嬢さんがまさか狸小僧に惚れるなんて、よくわからないよなあ。ああめんどくさい。人の恋路に口を出すのは野暮だけど、今回は別だ」

「アンナお嬢さんが《SOX》に協力した場合の話でしょうか? 8×8」

「そ。純粋無垢だからこそ落としやすい。まああの狸小僧が意図的にするわけないけど、あの冷徹さと残虐さは放っておいたら身を滅ぼすよ。だけど、コントロールできれば?」

「鬼頭グループの力になる、と。O×T」

「そう、そのコントロールを狸小僧にやらせるのは非常に惜しい。《SOX》を抜きにしても勿体ないんだよ。だからと言って錦ノ宮ご夫妻にできるとは思わない。ああいうのはね、社会が作り上げた化け物っていうんだよ。社会そのものである錦ノ宮ご夫妻には到底理解できないだろうね」

 どこか自嘲気味になってしまった。らしくない。

「いっそのこと《SOX》をアンナお嬢さんが滅ぼしてくれれば楽になるんだけどね。《SOX》はやりすぎた。で、調べてくれた?」

「はい、奇妙なバイク事故が12月の頭にありました。クリスマス×節分」

「ほほう……」

 パラパラと事故の概要をめくる。概要自体は珍しくないものだ。だが、できすぎている、ともいえる。

「その日のアンナお嬢さんの行動を調べてみてくれる? 場合によっては使えるかもね?」

 《羅武マシーン》はただ頷いた。

 現状を見ると、《SOX》とアンナお嬢さんは今現在だけでも敵対しているが――《群れた布地》の件のように目的のためならば手を組むこともあるのがアンナお嬢さんの怖いところだ。

「悪いけど、アンナお嬢さんと狸小僧との仲をどうするかは、僕達が決めようか」


266 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 21:26:06.83 ID:67K1aiTg0
次回予告みたいな感じで、こんな感じになるかな、と。

アンナ先輩レベルの人だと、自由に恋愛できないようです。どうなることやら。
267 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/08(火) 21:28:51.39 ID:67K1aiTg0


 <綾女「わ、私が好きなのは……」アンナ「好きなのは?」(殺気)>


 START!!
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/08(火) 23:13:02.62 ID:dhd+ybvp0
SOXと華城先輩とアンナ先輩の立場と色々ピンチなたぬきちであった

今はアンナ先輩の残虐性が表に出てるけど、本当は優しいんだって言いたい。衝動をテーマにしてるのはわかるし、持て余してるのもわかるから、批判じゃなくてね
アンナ先輩は今卑猥についてどういう認識なんだろ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 07:28:55.71 ID:LOvGTmpSO
お義母様は今日いる者では相手にならんて言ってるが、今日いない者にアンナの相手が出来たんですかね…?
270 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 19:47:08.97 ID:Bu8fg99v0


 今、朱門温泉は色んなデモやテロの影響で客足が少なくなっているらしく、八人という団体客は大歓迎だった、なんて華城先輩はいうけど。

 正月休みでもこれほど少ないものなのか……? 夏の喧騒を知っているだけに寂しさを覚える。

「清門荘よ」

 生徒会モードなのでブスッとしているが、表情は明るかった。

 しかし何度見ても圧倒される。僕が入れるような場所じゃねえ。

 ちなみに招待した全員が来ていた。断る理由もないし高級旅館だし、何よりアンナ先輩の誘いを断るのは怖いし、といったところかな。こういう部分はアンナ先輩は寛容なはずなんだけど、どんどんアンナ先輩のイメージが壊れてるというか、僕自身把握できていないので何とも言えない。今の華城先輩が下ネタを言えないようにって、なんか親指を巻き付けた卑猥なグーをしていたのが見えて、華城先輩は変わらないなと安心した。

 宿に足を踏み入れると、ぴったりのタイミングで撫子さんが姿を現した。

「本日は遠いところお疲れ様です。お待ちしておりました。わたくし、この清門荘で女将を務めさせていただいております、華城撫子と申します」

 二度目でも慣れない丁寧な挨拶に、「本日から四日間、お願いいたしますわ」と従業員に失礼のない丁寧な態度で挨拶をするアンナ先輩は、さすがの風格だった。

「これからどうするのじゃ?」

 どうやらコンクールとか、今回はそういう縛りのない早乙女先輩は無邪気に聞く。

「自由行動でよいのでは?」

「お前、協調性ねえぜ……」

 不破さんのマイペースな言葉に呆れるゆとり。ちなみに不破さんはぺスをペットホテルに預けてきたそうで、そのペットホテル代もアンナ先輩持ちだった。

(今回は何か混浴とか修行とかないですよね?)

(アンナがいるのよ、無理に決まってるでしょう)

 ひそひそと華城先輩と相談する。不破さんも一般人枠だしな。一応。

「今日は移動で疲れましたでしょう。お湯をいただいて、それからご飯を食べて、談笑というのはいかがでしょう?」

「鼓修理はそれでいいっス」

 鼓修理にしては言葉少なに(アンナ先輩がいるからね)賛同する。誰も反対しなかった。

「では、菊の間、華輪の間、百合の間、薔薇の間にご案内いたします。どうぞこちらへ」

 撫子さんの女将モードに、しかし拭えない違和感を感じる。元ヤンの方の顔に慣れてるからかな。

 菊の間は僕と月見草、華輪の間は華城先輩とアンナ先輩、百合の間は早乙女先輩に不破さんと、薔薇の間はゆとりと鼓修理。うん、妥当だろう。

 それぞれが移動して、お風呂に入ることにする。前は露天風呂だったけど、今回もそれだといいな。なんかいろいろありすぎて、疲れてるし。




271 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 19:47:41.39 ID:Bu8fg99v0


「うーん、さすがに露天風呂は無理か」

 普通の大浴場だったが、ちゃんと効能のある温泉らしく、ちょっと熱めの温度が身に染みわたる。

「ふいー、月見草、お前大丈夫か?」

「何がでしょう?」

「傷とかさ。ちょっと熱いぞ、ここ」

 月見草が手でお湯を触って確かめる。

「問題ありません、入ります」

「待て、お前もしかして、温泉のマナー知らないのか? 入る前にかけ湯をするとか、タオルをお湯につけないとか、泳いじゃいけないとか」

 一通り教え、シャンプーにする。月見草のやつ、長髪だからかリンスなんて持ってきてる。

「それ、お前が選んだの?」

「シャンプーとコンディショナーは、アンナ様にいただいたものを使っております。私は石鹸で十分だと言ったのですが、『勿体ない』と仰られ」

 リンスじゃなかったらしい。女性の感性だな。そういえば銘柄がアンナ先輩のマンションにあるやつと同じだ。男のくせに贅沢なと思う反面、アンナ先輩の月見草に対する態度が見えて、なんだかほっとする。

「月見草、大丈夫か?」

「傷に問題はありません」

「じゃなくて……その、アンナ先輩のこと」

 月見草は目の前でアンナ先輩を守れなかった。

 その事を月見草はどう思っているのだろう。

「祠影様は私に死ぬように命じられたのですが、それをどうしても受け入れられないでいると、アンナ様が今日、ここに連れてきてくださいました」

「そんな命令!? 聞かなくていいぞ、月見草!!」

「……祠影様の命令が、至上命令ですので」

 本当は違うだろうに。でも今オーバーヒートを起こさせて、傷に障ったら良くないしな。

「しかしまあ、なんだ」

 アンナ先輩の家は、予想以上にねじ曲がっているのかもしれない。金玉がねじ曲がったら直してもらわないと困るように、今、修復の時期なのかもしれない。

 そうは言っても、不安は拭えなかった。きっと僕一人じゃ、ダメなんだ。

272 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 19:48:44.31 ID:Bu8fg99v0


「視線が胸部に向いているのは何故ですか?」

「よかったっスね、ゆとり。不破氷菓はゆとりよりっス」

「てめえ余計なお世話だぜ!!」

「ほほう、眼福眼福」

「化け物は……化け物級っスね」

「化け物女だからもう何を見ても怖れがましいぜ」

「? なにか?」

「いえ! 綺麗な体をしてるなって!」

「ありがとうございますですわ」

 化け物女はさすがのプロポーションだった。肌にも傷やシミ一つない。なんでだ。どこかに弱点があれ。

 そんなゆとりの呪いとは別に、全員でシャンプーとコンディショナーをした後、ゆっくりと湯船につかる。

「はあ、気持ちいいですわね」

「明るいうちからのお風呂は格別よね」

 綾女は言葉が少ない。体調が悪いのか、下ネタが言えなくて不満があるのか、よくわからない。

「ところでアンナ会長、今日は奥間さんと繁殖活動はしないのですか?」

「ぶほぉ!?」

「もう、不破さんったら。愛の儀式はそうそう簡単なものじゃありませんのよ?」

 今は頼むから、ビーストモードになりそうな言葉は言わないでくれ……! 幸い、化け物女は不破の戯言はスルーしてくれたようだ。

「ふむ、残念じゃの」

 バシャン、と画家の頭を温泉にロックオンしておく。

「あ〜きもちがいいぜ〜!」

「今日は用事がありまして。奥間君と愛し合うことができそうにないんですの」

「用事? こんなところで?」

 綾女は探りを入れるが、

「心配なさらずとも、大丈夫ですわ」

 化け物女は聖女の笑みを浮かべて、何も言わなかった。


 *


 川魚と山菜を主催にした豪華な料理を堪能した後、アンナ先輩と月見草はどこかに行ってしまった。不破さんはフィールドワークとやらに出かけたようだ。

「…………なーんか、嫌な予感がするっス」

「そうね。私もこう、第六感が膣痙攣並に響いているわ」

 やっと下ネタイマーの時間がやってきたのか、意気揚々と話し出す。

「というわけで狸吉と私がアンナ達を尾行してくるわ。鼓修理も来る? カモン、カモン!」

「鼓修理もいくっス!」

「人数多すぎても尾行はしにくいだろうから、あたしはパスしとくぜ」

「何かあるなら、撫子さんに聞いた方が早くないですか?」

「撫子が話さないのなら、知らないか、知っていてすっとぼけているかよ。必要なら教えてくれるわ。さて、アンナ達がイッちゃうわよ! 急いで急いで」

 僕が行かないとダメなのかなと思ったけど、僕の気配察知能力がないとアンナ先輩見失っちゃうしな。月見草が怪我人だからあんまり無理はしないだろうけど。

 確かに何か、嫌な予感はしていたのだけど、まさかこんなことだなんて思わなかった。


273 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 20:16:43.09 ID:Bu8fg99v0


 アンナ先輩は森の中を散策しているように見えた。一月ということもあって、本来は適した気温じゃない。もう月も出ているのもあって、湯冷めしていくのがわかる。

「お部屋で待っていてもよかったんですのよ?」

「アンナ様のお傍を離れぬよう、ご命令を承っておりますので」

「……そうでしたわね」

 声がかすかに聞こえてくるぐらいの距離を保っていた。森の中は静かだ。



 すると、森の妖精が現れた。



(うげろげろげろげろ)

(ちょ、しっかりしなさい、鼓修理! 大変、息してないわ! 狸吉、人工呼吸!)

(やらせるかっス!!)

(痛い!?)

 鼓修理の頭突き浣腸を食らってもだえる僕をよそに、場の空気は真剣なものになる。



「こうやって、お父様と密談していたのですか?」

「いやあ、もう少し温かいところがいいけどね。この格好じゃ入れるところが少なくてね」


 ならやめるっス!という娘の憤りを無視して、会談は進む。


「この度は、わたくしの処遇に関して、父と母と協力していただき、誠に感謝いたしますわ」

「将来、娘と仲良くしてね」

「はい、もちろんですわ」


 いつの間に娘の将来の切り売りを!と鼓修理がわめきそうになるが、将来を切り売りしてまで皆を助けようとしたアンナ先輩を見ているだけに、僕からは何も言えない。

「それで、お願いというのは?」

「簡単だよ」



「《SOX》を潰してほしい。徹底的にだ」



 僕たちの方がシン、としたところで、アンナ先輩はクスリと笑う。

274 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 20:17:13.92 ID:Bu8fg99v0


「わたくしにそんな力は」

「あのテロリストを鎮圧したんだ。僕はその中身を知っているんだよ? 今更取り繕うこともないさ」

「わたくしは頼まれなくても無傷捕縛を目指して、日々精進しているつもりですわ」

「無傷捕縛じゃ、足りないんだ。支持者が、影響力が大きくなりすぎている。それは僕らにとっても、祠影さんとも利害が一致しない。不安なら聞いてみるといい」

「……徹底的に、というのは? それになぜ、ご自身の力ではなく、こんな小娘に頼るのです?」

「君が思う“徹底的”で構わない。後者の質問は、組織が組織を潰すと厄介なことになるんだ。利害が絡むからね。でもお嬢さん個人に、《SOX》に絡む利害はないだろう?」

「利害は、ありませんわね。無傷捕縛の願いは、あくまでも信条の問題ですわ」

「あのテロリストにしたことを考えると、君が心から無傷捕縛を望んでいるとは、思えないけどね。君は敵を叩き潰す快感を知っている。そのやり方も知っている。ならなぜやらないんだい?」

「……もし、断れば?」

「君の恋人の結婚の後押しができなくなるね」

「……少し、考えさせてくださいまし」

「うん。あ、これ、PMの番号。君みたいなお嬢さんならいつでも大歓迎だよ」

「…………」


 身体が冷め切っていたのは、湯冷めだけのせいではなかった。

 アンナ先輩が、組織の思惑に巻き込まれつつある。

(華城先輩)

(戻るわよ。それとなく話を聞いてみないと)

 華城先輩も、真剣だった。

 その真剣さの理由が、僕と微妙にずれていることには、気付かなかった。


275 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/09(水) 20:18:21.00 ID:Bu8fg99v0

少し短いですけど、今日の分の更新おしまいです。
はてさて、どうなることやら、です
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 20:31:42.84 ID:GYz5FcLD0
なんかアンナ先輩が殺し屋の請負人みたいになってる
277 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:52:33.00 ID:q130nAiu0


「アンナ、お帰り」

「ただいまですわ、皆さんはトランプを?」

「アンナ先輩もどうです?」

「わたくしは湯冷めしてしまったので、もう一度温泉に浸かろうかと思いますの」

「あ、じゃあ私も入りに行こうかな」

「綾女さんも? ええ、次は別のお風呂にしたいですわね」

 自然と役割分担が決まり、トランプをしていたふりを止め、華城先輩はアンナ先輩とともに先ほどとは別の大浴場に行った。

「月見草、悪いけどお前はアンナ先輩たちが戻るまでお土産を見てきてくれるか?」

「かしこまりました」

 文字通り、見てくるだけなんだろうな、コイツ。これでも自分の意思が見え始めた方なんだけどな。

「早乙女先輩、ちょっと……、あれ、不破さんは?」

「大浴場行ったぞー、ウォー、ホホ、インスピレーションが湧きまくる!!」

「すみません、絵は描きながらでいいんで話聞いてくれますか?」



 ――――……、



「わしは《SOX》を抜けるぞ、奥間」

「結論早っ!?」

「あ、あの化け物女に……お前の父親はあの化け物女の怖さを知らなさすぎなんだぜ?」

「鼓修理が一番それを言いたいっス! こういう時だけ着信拒否しやがって、あのクソ親父……!」

「でもさ、鼓修理がいるのに、アンナ先輩に『徹底的に』なんて言うかな? アンナ先輩がやってることを知ってるんだよ、森の妖精は」

「ぐふっはあー!!!」

「しっかりしろだぜ、お前しかあの腹黒親父の思考をたどれる奴はいねえんだぜ!」

「ぐふ、ふう……」

 ようやく鼓修理が落ち着き、まともな会話になる……といいな。

「……あの化け物を鬼頭グループに取り入れたいんじゃないっスかね」

「取り入れる?」

 まああれだけの才能に血統を持った人なら、誰でも欲しがるだろうな。アンナ先輩にできないこと、いまだに知らないし。

「《SOX》が綾女様に狸吉が関わっていたと知ったら、ただでさえ不安定なあの化け物は、きっと何を信じればいいか更にわからなくなるっスからね。そこに付け込む気っスよ、きっと」

「お前のおやじ、相変わらずえげつねーぜ」

「今のアンナの気持ちはどうなのかの?」

「わかんないんですよね……、話してくれなくて」

 というか、酷く話しにくいというか、その話題になろうとすると酷く哀し気で儚くなってしまう。何も言えなくなってしまう。

「狸吉が腰砕けなだけっス、いつもこってり搾られてるだけっスか?」

「はいはい、森の妖精森の妖精」

「ぐはあ!?」

「まあ、綾女の方がいいのかもしれねえけどだぜ? ……はあ」

「ああもうどいつもこいつもめんどくさい奴らっス!」

「なんだよ」

 妙にゆとりがアンニュイになって、ゆとりがいらいらし始めた。そして現実逃避か何か、早乙女先輩は絵を描き始める。

 ま、いつもの光景だよな、これ。

278 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:53:14.82 ID:q130nAiu0


「こちらはぬるいんですのね。長湯にいいですわね」

「そうね、血行にいいらしいわ」

 シャンプーとトリートメントは先ほどしたので、かけ湯をして直接湯船につかる。

「わ!? マッ、えっと、不破氷菓、どうしたの?」

「温泉に来て温泉に入ってはいけませんか?」

 ラブホに来てセックスをしてはいけませんかレベルの当たり前だと言いたげな無表情に、なんというかマイペースを通り越して心臓に陰毛が生えているレベルだと思う。

 と思っていたら、不破氷菓がくしゅん、と何度か連続でくしゃみをした。頭の中がびくびくんしちゃったのかしら?

「少し外に出すぎていたみたいです」

「まあ、風邪を引いたら大変ですわ」

「撫子……、女将に葛根湯用意させるわ」

 PMでメールを送る。すぐ用意すると返ってきた。

「よろしいのですか?」

「ええ、あなたにはお世話になったし」

「ええ、綾女さんに限らず、わたくしにできることがあれば、仰ってくださいまし」

「では、訊いてもいいですか?」

「? どうぞ」

「先ほど、珍妙な格好をした男性と何やら話していましたが、何を話していたのですか?」

279 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:53:42.56 ID:q130nAiu0


 辛うじて、息が止まる程度で済んだ。不破氷菓には衣装の奇妙な男としてしか認識できなかったらしい。

「うーん、そうですわね」

 ちょっとだけ困惑を混じらせた微笑を浮かべて、アンナは生徒会長モードの聖女の笑みを浮かべると、

「……少し、説明が難しいのですけど。それでも聞きたいのですか?」

「あの珍妙な男性がどんな人物かは興味があります」

 大浴場は自分たち三人しかいない。しばらく静寂があった。

「鼓修理ちゃんのお父さんですわ。わたくしの両親と同じぐらいの地位を持つ、立派な方だと伺っています」

「……あの森の妖精が」

「恰好は関係ないと思いますわ。実際に、わたくし共に協力していただきましたし……」

「そんな人が、両親を通さずアンナ会長と?」

 自分の代わりにずばずば聞いてくる。不破氷菓の棺にはたくさんのBL本を入れてあげよう。

「色々と、都合がありましたの。向こうにも、こちらにも」

「…………」

 しばらくアンナは黙っていた。表情は愁いを帯びていて、早乙女先輩ではないけど非常に絵になる光景だった。

「綾女さんには言ってませんでしたわね。わたくし、今回、たくさんの罪を犯しましたのよ。……いいえ、それ以前から」

 善導課である奥間君のお義母様に教えていただきましたの、と小さく呟いた。

「この衝動が、愛が罪というのであれば、わたくしが今まで信じてきたものは何だったのでしょう?」

 見た目は落ち着いている。だけど不安定で、危うい。 

「《SOX》に会えば、答えがわかるかもしれませんわ」

「どうして、そこで《SOX》の名前が?」

 やっと綾女が口を挟めた。前も《SOX》に会わなければならないと言っていた。動機次第では、《SOX》は崩壊する。

「……《こうのとりインフルエンザ》の心配は、必要ないと、わたくしのお母様も奥間君のお義母様も言いますの。だから、おそらく一番卑猥の知識を持っている《SOX》に会って、確かめてみたいんですの。

 ――わたくしのやってきたことは、罪なのかどうかを」



「……そこで罪だと言われて、アンナは納得するの?」



「……そう、そうですわね。でもいずれ……近いうちに、《SOX》とは会わないといけないのですわ」

 微苦笑を浮かべるアンナに、自分も不破氷菓も何も言えない。

 その微苦笑は、どこか助けを求めるような、子供が泣きたいのを押し殺しているような、そんな危うさが、どうしてもあって。

 近いうちに《SOX》として会おうと思うには、充分だった。

280 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 19:55:17.06 ID:q130nAiu0

華城先輩パートだとどうしても下ネタをうまく挟めない……あれは赤城先生の才能だわ……
281 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 21:50:45.25 ID:q130nAiu0

 アンナ先輩や不破さん、月見草が寝静まったのを見て、僕、華城先輩、早乙女先輩に鼓修理にゆとりと撫子さんとで男女混交風呂で会議をすることになった。

「「「「…………」」」」

 女性陣は撫子さん以外が端っこによって、僕も逆の端っこに寄っている。早乙女先輩はさほど気にしてなさそうだったけど。

「《SOX》として、《雪原の青》としてアンナに会うんだな?」

「撫子、なんで混浴が会議室みたいになってるの!?」

 混浴をPM無効化して、撫子さんに突っかかる。最初ぎゃあぎゃあ言ってたけど(これが大変だった)まだ女性陣は納得してないらしい。納得してないと言えば僕もなんだけど、僕はお風呂でもどこでもアンナ先輩がいるから、ハハ……。ちなみに僕は後ろを向こうとしたけど、撫子さんによって無理矢理女性陣の方に身体を向けさせられている。

「そうね、まあこっちの意思に関係なくアンナなら私達を見つけ出すでしょうけど」

「正直パパの狙いもわかんないっス。まだ情報を集めてからの方がよくないっスか?」

「あ、あたしは鼓修理に賛成だぜ……ってこっち向くなぁああ!!」

 カポン、と風呂桶を投げつけられる。理不尽。

「僕、《センチメンタル・ボマー》として出た方が……」

「アンナを刺激するような真似はさせたくないのよ。ただでさえ、アンナの本心が、アンナ自身にすらわからないのに」

「…………」

 なんか僕、《SOX》としては全く役に立っていない気がする。アンナ先輩相手だから仕方ないのかもしれないけど、なんというか、意図的に外されているというか。アンナ先輩が寸止めするみたいに、気持ちいいところをわざとさあ、あれきっついんだよな。

「もし、パパの依頼を受けたらどうするんっスか?」

「……だからこそ、《雪原の青》一人でアンナと会うのよ」

「それは嫌っス!」

 バシャアと立ち上がり、「こっち見んなっス!!」風呂桶第二弾がやってくる。お湯が入っていやがった、重いし痛え!!

「それで前大怪我したじゃないっスか!! もう鼓修理、そんなのは嫌っスよ!!」

「あたしも同じ意見だぜ、《雪原の青》。どうせ化け物が本気になったら全員殺られるに決まってんだ、なら全員で向かうほうが潔いってもんだぜ」

「じゃあ僕も!」

「狸吉はダメ」「お前は来るなっス」「画家と一緒に留守番だぜ」

 やっぱり仲間外れされてない?

「はあ、ダメだね、こりゃ。本っ当、ダメダメだ」

 撫子さんの呆れ声に、僕は頷くしかなかった。

282 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 21:51:18.64 ID:q130nAiu0


 ――眠れない。

 ふ、と隣を見てみると、親友である綾女がいなかった。今は四時とある。どこにいったのだろう。

 PMのメールに、『鬼頭慶介』とあった。そこには簡単に、地図と日時の指定だけ。

「《SOX》……」

 

『……そこで罪だと言われて、アンナは納得するの?』



「できないに決まっていますわ」

 この愛を、衝動を、罪と断じられたとして、それからどうする?

 あの愛の試練を乗り越えたとき、痛みを乗り越えたとき、そのあとの幸福が訪れたとき、自分は思った。

 この愛を否定するなら、世界の方が間違っている、と。 

 その時の激情は、いまだに覚えている。思い出すだけで、愛の蜜が溢れてきた。

「奥間君……わたくしが唯一信じられるのは、あなたへの愛だけですわ」

 だけど同時に、敵を、人間を壊す快感も知ってしまった。いくらでもやり方が思い浮かぶ。その衝動も、自分の中に確実にある。

 受け止めてくれる、愛しい人はそう言った。だからせめて、律したい。自分を、衝動を、そして立派な人間になって、みんなからの祝福を得たい。

 愛だけは絶対で、アンナの中には今はもう、それしかない。



 だけど、壊してもいい玩具が与えられたら、無垢な子供はどうする?



 くちゅ……くちゅ……



 それ以上考えたくなくて、今、愛しい人のもとに向かったらすべてを壊してしまいそうで、自分で自分を慰めるけど、圧倒的になりない。

 胸部の先端をつまみ、愛の蜜が溢れる場所を弄ったところで、そんなものでは全然足りない。

 ――明日、午後2時。

 自分の中で答えを出さなければならない時が、嫌でも近づいてくる。

283 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 21:53:08.08 ID:q130nAiu0
アンナ先輩も悩むあたりは成長したと言えなくもない(多分)
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/11(金) 22:47:46.56 ID:chctOZB80
乙、アンナ先輩は能力と精神の差が激し過ぎるからな

人質に行く前は安定して見えたけど、こんなに簡単に揺らぐんだな、やっぱ
285 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 23:54:54.14 ID:q130nAiu0


 昨日、化け物が慶介と会っていた場所とは違う、より鬱蒼とした森の中にいた。 

 多少の睡眠不足気味だが、今から起こりうることを考えると気を引き締めないわけにはいかない。

「パパ経由でメール送ったっス。確実に来るっスよ」

 パンツを被って緊張過多なのは鼓修理だった。震えは寒気のせいじゃないだろう。

「昨日はお前にしては、殊勝なこと言ってたぜ」

「……あの化け物は、心まで化け物になったんス。綾女様と意見が違ってても、鼓修理はこの意見に変わりないっス」

 あのテロリストのリーダーにしたことを考えたら当然だろうと思う。

「いいんスか、狸吉をあの化け物のところに置いといて」

「手段が思い浮かばねえし、《雪原の青》も『恋愛は自由』で言うこと聞かねえんだぜ」

 肝心の《雪原の青》は自分と鼓修理の会話も聞こえているだろうに、黙っている。

「あんなの、恋愛じゃねえのに」

「しっ。来たわよ」

 ――銀の影が、森の中に姿を現した。



「あら、今日は三人ですの? 《センチメンタル・ボマー》はいらっしゃらないんですのね」



 声には聖女の余裕だけがあった。性に、破壊に飢えた獣ではない、何も知らなければ人に安心しか与えないであろう声音。

「思ったより早く再会できて、わたくし嬉しいですわ」

「こっちは再会したくなかったわ」

 牽制か、吐き捨てるように《雪原の青》が答える。


286 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/11(金) 23:55:25.33 ID:q130nAiu0


「…………」

「どうしたの?」

「わたくし、困っていますの」

 あくまで鈴の鳴るような、この一月という寒い季節でも目を楽しませる粉雪のように軽やかな声で以て。




「今ここで皆さんを潰すべきか、それとも少し先延ばしにするべきか」




 ――暴雪の殺気に、身体が凍える。《雪原の青》はそれを無視して続ける。

「先延ばしにする方法ならわかっているわ」

「あら? なんですの?」

「アンナ会長、あなた、性知識が欲しいのでしょう?」

「…………」

 《雪原の青》は厳重に密閉された袋を投げた。

「《安心確実妊娠セット》よ。私達が配っているもの……知っているでしょう?」

「何故、私が性知識を欲しているだなんて思うんですの? 《こうのとりインフルエンザ》に罹るかもしれないのに」

「善導課の《鋼鉄の鬼女》にあなたの母親、ソフィア・錦ノ宮はそう思ってないみたいよ? 何が正しいか、知りたいのでしょう?」

「……少し、確認の時間を」

 そういうと、袋を拾い、中身を確認していく。本当に確認しているのかというスピードで冊子をめくっていたが、「そうですの」と納得したようだった。

「……これを見る限り、母は正しいことをしているのですね」 

「そうね。何せソフィア・錦ノ宮に不健全雑誌を提供したのは私達だもの」

 初めてここで、《雪原の青》が視線を逸らした。提供の話は一番《雪原の青》が反対していた経緯があるからだろうか。とにかく化け物女はその意味には気付かずに、言葉の応酬は続く。





「じゃあ、わたくしの愛は……卑猥という、悪でしたの?」





 《雪原の青》は初めてここで口を閉ざした。

287 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/12(土) 00:01:26.29 ID:BHl92OUE0
義母や母親の言葉を信じないで《SOX》の言葉を信じるのか?という疑問が起こりそうなので説明すると、

どの意見も信じたくなくて、信じられない状態にあるのです。ちなみにソフィアは感情的に否定するので、アンナは信用できなくなっているようです。だめだこりゃ。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2020/09/12(土) 01:33:47.59 ID:d9m/jyGd0
アンナ先輩の『徹底的に』は組織の人間皆殺しじゃすまなさそう
289 : ◆86inwKqtElvs [sage]:2020/09/12(土) 13:51:32.37 ID:BHl92OUE0
ちょっと、1週間ほど仕事が忙しいので、しばらく書き込めないかもです。
なにかあってもなくても遠慮なく書き込んでください!
290 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/12(土) 20:44:57.88 ID:BHl92OUE0


 《雪原の青》は初めてここで口を閉ざした。



「……何故、私に訊くのかしら?」

「卑猥の知識の流布が《SOX》の目的なんでしょう?」

「…………」

「もし、あの時点でわたくしが妊娠していたら……、奥間君は……、」

「…………」

「祝福を受けなかった……、誰からも、きっと」

 《雪原の青》は無言のまま、化け物女の話を聞いている。




「何故、絶対に正しいはずの愛が、祝福してもらえないのでしょう?」




「あんたが、間違ってたからだぜ」

 狸吉の気持ちをまるで無視している化け物女の言葉に、我慢ならなくなった。

「ちょっと……!」

「間違っていた……? 愛が? あの、衝動が?」

「相手の気持ちを無視して話を聞かないからそうなるんだぜ。あんた、今まで恋人とやらの言葉を聞いたことがあるのか?」

「奥間君はわたくしの愛を受け入れてくれましたわ!!」

 暴雪とは違う、じっとりとした熱気を帯びた、欲情にも似た殺気に動けなくなる。

「奥間君はわたくしを受け止めてくれましたの!! あの幸福も安心感も、すべては奥間君がいるからこそですわ!! もし、もしも」

 化け物女は、とうとう言ってしまう。




「この愛が間違いだというのなら、世界の方が間違っているのですわ!!」




 はあはあと、一言にすべてを込めた化け物女は、それだけで疲れ切っていた。

「だったら、どうするの?」

 恐怖で動けなくなった自分に代わり、《雪原の青》は無機質に、呟くように。もう声が届かないことをわかりきったような、諦めを含んだ声音で。

「うふ、ふふふひっ」

 獣の狂気を混じらせた、不吉な笑みを漏らすと、「お願いがありますの」と化け物女は、言った。




「あなた方《SOX》も、世界と戦う者。なら――

 ――わたくしを、《SOX》に入れてくださいまし」




 化け物女の目からは、何も読み取ることができなかった。

291 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/12(土) 20:45:34.99 ID:BHl92OUE0
ではしばらくよろしくお願いします。ここまでは書きたかった……!
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/12(土) 21:24:25.20 ID:MDHpuM+j0

話が急転したな
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/13(日) 15:02:29.82 ID:+hOzOpuLO
おつ、待ってます。
そして間違ってるのは自分ではなく世界の方か……
この世界の日本は世界から見て完全に間違ってるが、アンナ先輩の行動は日本から見ても世界から見ても間違ってるんだよね……

だれか両さんを呼んできてくれ。親も教師も見放したアンナ先輩を殴れるのはあの男だけだ
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/13(日) 23:21:35.36 ID:VVTicaHJ0
アンナ先輩に必要なのって殴られることじゃなくないかい?
とにかくひとりじゃないってことに気付くことだと思う。アンナ先輩、このSSだとまだ孤独だから
295 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/14(月) 21:07:16.07 ID:OWnZRGGH0
アニーとか、6、7巻以降に出てきたキャラを出すか迷ってるなう、アニー出せばPM無効化が色々あるのですが……

今の時点で3月以降の時間軸も書く事になりそうな予感がします。アニーや藻女さんとか出せないよキャラ多すぎやでって事で、アンナ先輩に搾る、間違えた絞る気でいます。アニーや藻女ファンいたらごめんね
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/14(月) 21:31:01.33 ID:1nUQaWC10
>>1に文句言ったら罰当たりだ、ifものとして楽しみにしてたよ。アニメ当時いたよ、2章は読めてなかったけど、再開してくれて嬉しい、やっとここまで読めた
ただ、今は原作だとどのへんだっけ? そういうのがあったら教えて
297 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/14(月) 21:50:18.87 ID:OWnZRGGH0
うわ、のんびりしてたら返信が来てびっくりしてました。当時の読者もやっぱりいらっしゃるんですね、あの時はすみません。
7巻が12中旬からクリスマスイブで、8巻が1月末〜2/14のバレンタインですね。(今確認した)

ここのSSの時系列的には、アンナ先輩の破瓜が12月上旬(6巻エンディング前、《SOX》分裂騒ぎ直前あたり)、
病院ジャックが12月中旬後半、温泉旅行(今書いてるとこ)が1月の5、6、7、8日となってます。今は6日です。

あんまり明確には考えてはいないのですが、多分だけど温泉旅行が終わったら一気に日にちが飛ぶ気がしてます。3月とか。はい。そんな感じですかね。
298 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 00:23:22.23 ID:mkdjd76E0


(あぶうぇえええなんでなんでなんっで!?)

 こっそり尾行していた僕もそうだけど、アンナ先輩の発言には全員絶句しかなかった。

 ただ《雪原の青》が、無感情な声のままだ。

「どういう了見?」

「言ったとおりですわ。わたくしは、自分と世界、どちらを変えるかを考えて、世界を変える方を選びましたの」

「……アンナ会長と私達の考えがあっているとはとても思えないわ」

「そうですわね。わたくしも、あなた方の立場なら困惑することでしょう。ずっと敵同士だったのですから。ただ、目標は違っても、目的は同じだと思いませんこと?」

「なら手は組めると言いたいわけ? どうだか。あなたにはさんざん辛酸を舐めさせられたわ。……とは言ってもね」

 《雪原の青》はそこで睨みつけるようにアンナ先輩を見た。

「ここで断れば、あなた、今ここで私たちを捕縛するつもりでしょう?」

「そう考えるのが、普通ですわね。ですが今日は捕縛しませんわ。今日はわたくしのために時間を取っていただいたのですし、そのような品性を欠く行為はしたくないものですから」

「けど、引き下がる気もない、そうよね?」

「そうですわね。《SOX》に入れなければ……、わたくしが一から組織を作り上げるしかありませんわね」

 父親の入れ知恵があったとはいえ、風紀委員の実績もあるアンナ先輩には十分可能だろう。

 いや、絶対にする。能力云々じゃなく、アンナ先輩の執念がそうさせる。

「同じような理念を持った組織がいくつもあるという状況は、ただ戦力を分散させるだけ……そうですわね。一年。一年で、《SOX》と同じ規模と練度の組織を作り上げてみせますわ」

 アンナ先輩は獣の笑みを崩さない。

「想像してみてくださいまし。同じ規模と練度の組織が、ただ潰しあう消耗戦を」

「な、何の得があるんだぜ、そんなの……」

 ゆとりの思わず出たという感じの言葉に、しまったと慌てて口を閉じるも、勿論アンナ先輩には聞こえている。

「重要なのは、その後ですわ。変革には破壊から、基本ですわよ?」

「……潰し合いの後の混乱を狙うっていうの?」

「ええ。ぶつけ合い、潰し合い、それぞれの組織が疲弊したところを合併させる。そうすれば、今の《SOX》よりも、さらに巨大な組織が出来上がりますわ」

 今までのアンナ先輩にはない思想だった。元々アンナ先輩の中で、組織そのものを動かす意思が薄かったからだろう。生徒会長なんて、皆の支持があっても基本が学校の雑用だしな。

「《雪原の青》」 

「何?」

「ここで確実に敵になる分子を放っておくんですの? それよりも、わたくしを仲間にしてみません?」

299 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 00:23:50.15 ID:mkdjd76E0


「騙されちゃダメッス! あいつ、隙あらば《SOX》を乗っ取るつもりでいるっスよ!!」

 鼓修理が叫ぶ。そっか、アンナ先輩の狙いはそこにあるのか。勢いに負けてて気づかなかった。さすが《SOX》随一の腹黒女子だ。

「いやですわ、どうもわたくしの思考はわかりやすいようで。困りましたわね」

 獣の笑みは消えない。だけど、これが最後通牒なのは、暴雪の気配からわかる。

「《SOX》の影響力を考えると、潰し合いよりはすでに出来ている組織を広げていく方が手がかからない、そう判断しただけですわ……《センチメンタル・ボマー》そこにいますわよね?」

 三人が驚く気配があった。く、風下にいたはずがいつの間にか風の向きが変わってアンナ先輩の嗅覚に僕の臭いが届いていたらしい。

 パンツを被って、草藪の中から立ち上がる。

「わたくしを仲間にしてくれるのでしたら、あなたも含めて全員、命を狙うことだけは致しませんわ。きっと、奥間君も許してくださるでしょうし」

 こくんこくんこくんと頷く。アンナ先輩を仲間に入れると命の危険性がなくなるのは正直助かる。アンナ先輩のことだ。実は裏で善導課に僕達を売るとか、そういうやり方ではなく、真っ向から乗っ取るだろう。

「まあ、時間は必要ですわね。明後日わたくしどもは第一清麗指定都市に帰る予定なので、そうですわね。明後日の午前中には返答をいただきたいですわ」

「無茶にもほどがあるぜ! あんたが今まであたしらにしたことを考えたら、そんな二択、どっちも受け入れられるわけがねえぜ!」

 ゆとりが吠えるが、アンナ先輩には負け犬の遠吠えよりも興味のないことになり下がったらしく、すでに獣の笑みから聖女の笑みに戻っていた。

「それでは、ごきげんよう」

 全員、アンナ先輩が見えなくなるまで、一言も喋らなかった。

「狸吉、なんで来たのよ」

 パンツを脱いで、《雪原の青》から華城先輩に戻ったら、またブスッとしている。僕やゆとりも鼓修理も、(上の)パンツを脱ぐと、

「いや、その、いざとなったらトランクス撒く準備をしていたんですけど」

 まあ、最近のアンナ先輩はそんなレベルじゃもう止められないんだけどな。

「だって、華城先輩やゆとりや鼓修理のことも気になったし、アンナ先輩のことも気になったし」

「こいつ、全員……まさか、5P目的!!?」

「違えよ! アンナ先輩が暴れたら、僕が囮になろうって考えてみたんだけど……」

 どうやら、そういう次元の話じゃなかったようだ。三次元が二次元になればいいのに。

300 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 00:25:04.84 ID:mkdjd76E0

あああ、仕事があるのになんでSS書いてんだ……明日も早いのに……
301 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:07:29.51 ID:mkdjd76E0


 この部屋は昔は密会に使われていて、まあ今僕のやろうとしていることと変わらないことを昔の偉い人もしていたという。

 とにかく、アンナ先輩の精神状態が不安なのは本当だった。ただ、卑猥が悪だと知ったアンナ先輩を、それを受け入れられていないアンナ先輩を、いつもしているからの延長線上でやってしまっていいのだろうか。

 襖を開けると、布団が二組、隣り合って敷いてあって、

「奥間君……んっ……あ」

 すでに全裸のアンナ先輩からぴちゃぴちゃと湿った水音が聞こえてましたとさ。どっとはらい。これで終わりにできねえかな。無理だな。

「ねえ、奥間君……どうしてこれが、卑猥なのでしょう……? こんなに、気持ちのいいことが……愛じゃないなんて……」

「……母さんが言ってました。衝動をむやみやたらに振り回してケダモノのように貪るのが卑猥なのであって、お互いを尊重し合えれば……大丈夫ですよ、きっと」

「……奥間君は、優しいですわね。わたくしとは、大違いですわ……ん!」

 ビクンビクン!と腰を跳ねさせる。アンナ先輩は、どこか泣きそうだった。

「もしこの優しさに包まれていたなら、わたくしは何を敵に回しても構いはしないのに」

「アンナ先輩……」

 アンナ先輩が視線で唇を求めた。もうそれが視線だけでわかるぐらいには、僕とアンナ先輩は身体を重ねすぎたのかもしれない。

「はむ、ん、じゅる、あ、はふ、ぴちゃ」

 こんな時でもアンナ先輩のキステクは見事だった。泣きそうな女の子相手に興奮する趣味は僕にはないはずだったのに、愚息が一瞬でおっきした。

 さすがに僕も慣れていて、アンナ先輩の舌使いに負けない動きができるようになってはきたけど、それもアンナ先輩のリードによるものなんだと思う。

 ゴクリ、と僕の唾液を、見せつけるように飲み込む。

「服を脱いでくださいまし」

 最近は鎖で天吊りに羽箒ばかりで発射していなかったので、溜まりに溜まりきっている。ズボンを脱ぐと、愚息がビン!と天を向いた。

「アンナ、先輩」

「いい香りですわ……ああ、本当に、わたくしは、もう」

 焦らすこともなく、アンナ先輩は存分にフェラテクを披露してくれた。「う、あ……!」アンナ先輩、と声をあげることもできず、アンナ先輩の口の中に発射する。

「ん……いつも通り、美味しいですわ……」

 ちゅるちゅる、とわざと音を立てて(これが息子に響くんだ)残った愛の蜜を啜ると、僕に跨ろうとする。対面座位、アンナ先輩が一番気に入ってる体位だ。

「アンナ先輩……その、避妊、しないと」

「…………おかしいですわ」

「え?」

「何故、愛し合って生まれた子供に、祝福が与えられないのでしょう?」

「…………」

「そんな世界は、間違っていますわ。奥間君は、そう思いません?」

「……確かに間違っていると、思います」

「……すみません、わたくしったら……愛し合っている最中に」

 いつの間にかゴムをアンナ先輩が持っていた。仇敵のような目でゴムを睨むと(愚息が少しへこんだ)パッケージを破り、愚息にかぶせていく。アンナ先輩に避妊という概念が生まれて本当に良かったと思う。


 ズン!


「う!」

「ああん!」

302 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:08:26.38 ID:mkdjd76E0


 重心が一点にかけられ、全体重すべてが結合部に集まるように姿勢を制御した結果として、僕の息子は一気にアンナ先輩を貫いていた。

「ふー、ふー、ふー、あふ、ああん、奥間君……!!」

 キスをせがまれ、また僕の唇を啜られる。アンナ先輩は僕の首に腕を回して密着しようとする。その間、腰をグラインドすることも忘れてない。僕も腰を突き上げる。

「ん。んんんーううん……!!」

 がくがくがく!と全身が揺れる。姿勢が崩れないように抱きしめるが、中も痙攣して、僕の息子を搾り取ろうとぎゅうぎゅう締め付ける。発射の予感、

「アンナ先輩、出ます!」

 びゅるる、と白濁液が出る快感にアンナ先輩から身体を離してしまわないよう、無意識に強く抱きしめる。

「――ん、ん!」

 アンナ先輩は中の壁を動かすことに夢中で、一回息子を引き抜くことができずにいた。

「アンナ先輩、避妊具、取り換えないと」

「ん、煩わしいですわね……!」

 身体を浮かせて一瞬で取り換えた後、(こんなに早く取り換えられるの?)また中に息子が入り、壁が蠢く感触を味わう。

 二人とも数回ビクンビクンしたのが効いて、会話の余裕が生まれる。ダーリントラップ、なんて言葉が再生される。

「アンナ先輩、どこかに行ってましたか?」

「ちょっと、散策に……何故ですの?」

「いや、月見草がいないって珍しいなって」

「不破さんが、風邪を引いたようなので、ん!」

 軽く痙攣。ぴくぴくするのを我慢する様子って絶対男の子は好きだと思うんだよ、みんな。ぎゅうと入り口が絞られる。

「――いえ、奥間君には、言わないと、いけませんわね」

 ――本題だと直感した。急がずにあえてアンナ先輩の胸の先端に吸い付き、「ああああんん!!」「う!」アンナ先輩の背中が反り、中の壁が収縮する。頭を打たないように支えると、その姿勢を利用する形で僕がアンナ先輩に覆いかぶさった。




「わたくし、《SOX》に入ろうと思っていますの」




「…………」

 演技ではなく、本当に言葉が見つからない。知ってたはずのことなのに。

 僕の動きが止まったのをどう見たのか、足を巻き付け、腰を擦り付けるように動かしてくる。

「《SOX》の、影響力は、強くなる、一方ですわ。それを、利用しようと、思いますの」

「……利用って」

「数は、あるだけで、力ですから」

「どう、したいんですか?」




「――この世界を、変えますの」




「…………」

「わたくしは、正しい、ことしか、教わって、こなく、て、あ、あ、」

 アンナ先輩は焦れったそうに腰の動きを速めるけど、僕は動けない。

「だから、間違えて、罪を、犯して」

 悲壮な告白のはずなのに。

303 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:09:04.95 ID:mkdjd76E0


「あ、誰にも、祝福を、綾女さんにすら、受けられずに、」

 アンナ先輩が恍惚と笑っていたから。

「奥間君はわたくしが間違っても、受け入れてくれるのでしょう?」

 そこだけ、はっきりと声に出していて、

「あ、あ――――!」

 パシャン、と熱い水が痙攣とともに湧き出た。

「――だから間違ったやり方で、世界を変えてみようと思いましたの……《SOX》のように」

「……なんで、《SOX》なんですか?」

 まだ合体したままだけど、引き抜く余裕がなかった。

「あふ、わたくしにとって《SOX》は『間違い』の象徴なんですの……『卑猥は絶対悪でならなければならない』でしたわね……」

 派手に痙攣したからか、幾分大人しく、その分幸せそうに笑って。




「悪いことって、気持ちよくって、楽しいんですのね」




「〜〜〜〜!!」

 本能がアンナ先輩の変化に先に気付き、身体を引き剥がそうとしたけど、そんなことをアンナ先輩が許すわけがなかった。

「知ってますでしょう? わたくし、苦痛を与えるのが好きですの」

 背中に回された手が拳を握って、一部を押すと「がはっ」肺の空気が全部なくなった。

 血に飢えた猛獣の瞳で、僕を愛おしそうに見つめる。

 耳の中に舌を入れ、軽く耳たぶが噛まれる。

「奥間君の血……飲みたいですわ……」

「き、傷は付けないって、約束したじゃないですか」

「ええ、だから……ふふ、“悪いこと”、なんですわ」

 まだドッキングしたままだったアンナ先輩の中が蠢き始める。

「ああ、その恐怖の顔……素敵ですわ……奥間君のすべての感情はわたくしのもの……今この恐怖も、わたくしが与えていますのね……」

 ツウ、と背筋を指で撫でられる。反射としてぞくっとした僕を見て、アンナ先輩の嗤う気配。

「美味しそう」

 ぎゅる、と内臓の音がした。明らかに子宮じゃない、何かの腹の音。

 た、助けて! 僕、殺される! 食べられる!

 こんな時にもおっ勃つしな、僕のバカ息子は!

304 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:10:36.49 ID:mkdjd76E0


「壊したいですわ……何か……なんでも……!」

 ぎりぎりと蛇のように力で僕を締め上げる。ミシミシと不吉な音がする。




「世界が壊れる時って、どんなに気持ちいいのでしょう?」




「そ、れって……?」

 その一言には無視できずに思わず反応してしまう。

「ああ、こんなことを想像して、気持ちよくなってしまうなんて、わたくしは“悪い子”なんですわ……!」

 答えはなかった。多分、抽象的な、概念的なものなんだろう。

 誰だって、ふっと“何か”を壊してやりたいと考え、どうなるかなと考えることはあると思う。

 でもアンナ先輩には、『やろうとさえ思えば壊せるモノ』が、あまりにも多すぎた。

 アンナ先輩は、理性的に計画的に、執念深く物事を考えられる一方で、本能的な衝動に身を任せることを覚えてしまって。

「奥間君」

 そんな僕の恐怖を見抜いて、アンナ先輩はゾクゾクと快感を覚えてしまって。

「わたくしは、《SOX》に入り、“悪い子”になりますわ」

 なのになんで。

 僕の涙を舐めて、それでもアンナ先輩は破瓜のあの時みたいには止まらなくて、アンナ先輩自身がそんな自分に傷ついてて、それでも僕の愛を信じて、世界に抗おうとしていて。

「綺麗で健全でなくなって、ごめんなさい、奥間君――」

 それは、最後通告だったのかもしれない。

 ごめんなさい、華城先輩。

 僕じゃ、無理でした――
305 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/15(火) 03:16:19.04 ID:mkdjd76E0

あらまあ、徹夜だわー
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/15(火) 13:58:28.60 ID:G/12HkuD0
これは闇堕ちしてるのかな?
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/16(水) 12:54:52.46 ID:zIH+smKtO
いつの間にか徹夜よくある。
人間なら誰しもダークサイドある闇堕ちある。
アンナ先輩は素で純粋な真っ黒なんだけどね。
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/17(木) 20:40:19.29 ID:mnLqZVgVO
アンナ先輩の理想の世界って何さ

逆レが合法化される世界なんてやーよ
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/18(金) 10:10:15.56 ID:wpQTugN0O
赤城大空先生の新刊本日発売
310 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:45:08.69 ID:NNdaJwWB0



 化け物の処遇については『入れるしかない』と『絶対に嫌だ』の感情論になっていた。

 鼓修理だって、《SOX》に入れるしか選択肢がないのはわかっている。第三の選択肢など都合よく存在しない。第三の性器が存在しないように、というと色々と議論が起こりそうなのでやめておいた。

 今、狸吉が身体を使って(文字通りの意味で)時間を稼いでいるのに、綾女様と画家は『入れるしかない』自分とゆとりは『絶対に嫌だ』の二択しかなくなっていた。

 狸吉は入れるしかないと答えるだろうから、多数決で決めるならば化け物を入れるしかない。

 だけどここで単なる多数決で決めたら、組織としては割れる。化け物は《SOX》の乗っ取りが目的なのだから、その割れ目を無視することはないはずだ。

「私も、代案があるならそれに乗るわよ? 騎乗位のごとく! でもあのアンナを止める方法なんて……」

「無理じゃな。それよりわしを早く解放させてくれんかの」

 画家はどちらかといえば中立よりで、むしろ今すぐ化け物と狸吉の痴態を見に行きたいらしく、会議を抜けたがっていた。鼓修理としてはどうでもいいが、画家が覗きで死ぬことになると厄介なため、止めている状態だ。

「正体がバレたらどうするんだぜ?」

「それも、ね」

 鼓修理もゆとりも、駄々をこねているだけの状態になりつつあった時。

「鼓修理。今夜12時、今日会った場所でと伝えられるかしら?」

「……できますけど、何をするんっスか?」

「私だけ、正体を話すわ」

 シン、と部屋が静かになった。賢者タイムはこれより静かなのだろうか。

「危険っス! 無理っスダメッス!」

「…………」

「ゆとり、なんで黙るっスか!?」

「何か事態の進展を考えるなら、それしかねえかもとかは思ったんだぜ」

 ゆとりの目は真剣だった。

「失敗したときはどうすればいい?」

「他のメンバーの正体はばらさないで、アンナをメンバーに引き入れるわ。私は死んでいるだろうけど」

「だから! そんなのは鼓修理がダメって言ってるっス!!」

「鼓修理、わかりなさい。私だって何も勝算なしに行くわけじゃないわ」

「どうせ引き入れることになるんじゃ、正体に関しても絶対意見が割れるじゃろ。今のうちに様子を見ておいた方がというのは正論じゃないかの?」

「〜〜〜〜!! もういいっス!!」

「鼓修理!」

 部屋を思わず飛び出した鼓修理に対し、ゆとりが声を投げかけてくるけど、無視して廊下を走る。と、

「う、わ!?」

 撫子に捕まってしまった。撫子は呆れたようにこちらを見ている。

「なあにやってんだい、外にまで声聞こえちまうよ」

「撫子……」

 綾女様がばつの悪そうな顔をするも、撫子は気にも留めずに、

「アンナはお前の親友なんだろ?」

「……ええ、そうよ」

「ならやることは決まってんだよ、おい鼓修理。さっさとPMでメール送りな。別に私から手紙って形で出してもいいんだからね?」

「……わかったっス。勝算は、あるんスよね?」

「ええ、あるわ」

 《雪原の青》としての顔で、きっぱりと言い切ったその言葉を、鼓修理はどうしても信じられなかった。


311 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:46:28.32 ID:NNdaJwWB0


 華城綾女は《雪原の青》として、深い森の中にひっそりと立っていた。

 帰ってきた狸吉にもかなり反対されたけど、綾女が折れないことがわかったのか、最後は送り出してくれた。

 本道ではない別の近道を通ってきたため、アンナとは別に部屋を出ている。

(アンナ……)

 卑猥じゃない部分の楽しさや優しさは、すべてアンナに教えてもらったと言っても過言じゃない。

 アンナは言った。自分と世界、自分を否定してくる世界の方が間違っていると、はっきりそう言った。

 それは、自分と同じ考えだ。自分も自分が正しいと信じて、自分自身を否定してくる世界が間違っていると信じて、下ネタテロリストになった。

 アンナは同じ道を辿ろうとしている。




「お待たせしましたわね」




 聖女の笑みを浮かべた、アンナが現れた。

 月光の光ぐらいしかない中で、銀髪は月光に負けない輝きを放っている。

「《雪原の青》一人ですの?」

「……そうね。他のメンバーはいないわ。先に言っておくと、基本はあなたの思い通りになると思うわ。私達にあなたを止めることはできない、という意味で、《SOX》に入ることを認めざるを得ないのよ」

 どこか感慨深げな《雪原の青》の言葉に、アンナは殺気を放ったりも、慈愛に満ちた笑みも浮かべなかった。

「あのね、アンナ」

 とうとう、私は《雪原の青》から華城綾女になる。




「私、本当に、あなたのこと、親友だと思ってる」




 そして、上のパンツを脱ぐ。顔面が一気に凍るような寒さに包まれて、痛いほどだった。

「――――綾女さん? 綾女さんが、《雪原の青》……?」

「否定されるって、辛いわよね。それも、自分の根幹を否定されるのは。……アンナの場合は、狸吉への愛だったわけだけど、きっと近いうちに似たようなことは、きっと起きてた」

「…………」

 アンナの顔は、月光だけではよく見えない。ただ銀髪の陰に隠れるだけ。

312 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:47:24.57 ID:NNdaJwWB0

「裏切っていた、と思ってくれて構わないわ。どう思われようと、私が《雪原の青》であることは変わりないから。騙していたことには、変わりないから」

「――あなたも? 綾女さん」

「……?」

「あなたも、両親の作り上げた《育成法》の、被害者ですの?」

「私はマシな方よ。アンナ、あなたこそ《育成法》最大の被害者だと私は考えているけど、そのあなたは――何をする気?」

「世界を壊すんですの。愛を愛として認めない、この世界を。そして新しく、愛を愛として認められる世界に作り替えるんですの」

 

  ――そして、《育成法》の破壊を。



「綾女さん」

「…………」

「今までずいぶんと、悪巧みしてこられたのですわね。……ズルいですわ」

 破壊に飢えた獣が、嗤う気配がした。

「わたくしにも、悪巧みの楽しさを、教えてくださいまし」

「充分にできると思うわ。あなたはもう、“知ってしまった”のだから。私なんかより、ずっとうまくできると思うわ……」

「……綾女さん?」



「私は表向きの活動を引退するわ。《SOX》全てのリーダー、その後釜に、アンナを据えようと思うの」



「…………」

「乗っ取りはそれで完了するはずよ」

 ――一瞬で、距離を詰められる。そして、

「わひゃ!? わひゃ、脇はダメ、第5の性感帯なのぉ!」

「ふふふ。そんなに急がなくてもよろしいじゃありませんの。《雪原の青》あっての《SOX》であることぐらいはわかりますわ。……綾女さん」

 あなたが泣いてくれた時、嬉しかったんですのよ。

「わたくしも、たくさん変わってしまって、失くしたものもたくさんありますが……それでも綾女さんを親友だと、思っていますわ」

「アンナ……」

「乗っ取りの計画に関しては、もう少し先の話としましょう。強引なやり方でなく、もっと組織として合理的な判断で以て」

「鬼頭慶介の約束はどうするの?」

「そこまで知っているんですのね。まあ、不穏分子が中にいる組織というのは基本的に脆いものですので、それでごまかしつつ、二重スパイみたいな形になると思いますわ」

「大丈夫? アンナ、搦め手は苦手でしょう?」

「世界の変革には清濁飲み込む力がないと、結局は変革できませんわ。その程度のことができないなら、わたくしにはその力がないということですの」

 そこまでわかっているなら、大丈夫だろう。アンナの不安定な部分は狸吉が支えてくれるだろう。

「明日、出発前、またここに来てくれる? 《SOX》としての正式な回答を送るわ」

「ええ、わかりましたわ……綾女さん」

「…………」

「《センチメンタル・ボマー》は、奥間君でしたの?」

「……ええ。明日、正式に紹介するけど」

「……そう、ですの。色々と言いたいことはありますけど、まあいいですわ」

 そういって、アンナは去っていく。

 ……大丈夫、全部言いたいことは言ったし、アンナも頭に血が上らず冷静に聞いてくれていたと思う。だから、大丈夫。

 でも、アンナって、あんなに心を見せない人間だったっけ?
313 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/19(土) 02:48:37.63 ID:NNdaJwWB0
ちょっと書いてみましたー。場面的にはかなり大変な場所なんですが。

ちなみにアンナ先輩は逆レの意識はありません。あの張り紙のせいです。なんてこったい
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/20(日) 08:50:30.25 ID:n3joLe16O
あぁ…自分が愛している男性が別の女性と大きな秘密を共有していたなんて、許せないよね。親友なら余計に。
修羅場ヤンデレ制裁ルート一直線ですわ。
それとこの期に及んで逆レの意識のないアンナ先輩はもうどうしたら。
315 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:24:34.66 ID:qiesvTN40


「ぎゃあ、ちょっと待ってアンナ先輩話を聞いてぎゃあ!!?」

「アンナ、ちょ、嘘つき! ……ご、ごめんなさい何も言ってないわ私は何もげふ!?」

 翌日、《SOX》が全員集まり、アンナ先輩が来たところで和やかに自己紹介タイム。それが終わったらアンナ先輩に僕と華城先輩が簀巻きにされ、木に吊るされた。

 何も変化がなかった、という時点でおかしいと思ったけど、やっぱりアンナ先輩的には浮気的な面で黒判定だったらしい。一時間ほど公開処刑が行われるのを、早乙女先輩に鼓修理にゆとりは黙って見てるしかなかった。

 まあ、確かに身体に傷は負わなかったけど、心に傷は負ったんだよなあ、これが。

「ふう、これぐらいにしておきますわ。身体も温まったことですし、綾女さんが奥間君と、わたくしにナイショで大きな秘密を抱えていたことについては、とりあえずは許して差し上げますわ……これ以上は傷つけないことが難しそうですし」

 拷問吏の残念そうな顔に、心底ほっとする。一時間で済んだなら僕としては慣れている方だった。それもどうなんだ、というツッコミは誰からもなかった。

「さて、綾女さん」

 ぴぅ!とおっぱいから声出したみたいな悲鳴を上げる。アンナ先輩は僕と華城先輩を解放すると、華城先輩を複雑そうな、悲壮とも言えそうな目で見つめる。

「…………?」

「次は、綾女さんの番ですわ。わたくし、あなたに大怪我させたこと、忘れていませんのよ」

「…………」

「色々と、言いたいことはありますけど。……全部わたくしのため、でしたものね。なのに、わたくしは……」

「正直に言っていいかしら?」

「……なんですの?」

「私は色々と、忘れたいの、痛いこととかそういうの。SMはね、お二人でやってちょうだい!」

 PM無効化してまで言うことか! SMじゃない、よな? 僕ってえ? M? なのか?

「Sえ、?」

「アンナ先輩ストップストップ!! 禁止単語です!!」

「ん、……本当に綾女さんが、《雪原の青》なんですのね」

 アンナ先輩が、銀髪を陽光に透かしながら完璧な聖女の微笑で振り向いた。

「後顧の憂いも今、失くしましたし、これからよろしくお願いいたしますわ」

「よ、よろしく……っス」

「よろしく……だぜ」

「アンナの嫉妬に狂う微笑も、絵になるのお」

 一人だけずれたことを言う早乙女先輩はいつものこととして、ゆとりも鼓修理も納得はしてないけど(公開処刑みせられたし)アンナ先輩を《SOX》に受け入れざるを得ないことはわかったようだ。

 心にダメージを負った僕と華城先輩をよそに、いったん清門荘に戻る。そこにいたのは女将モードではない、いつもよりも余裕のない感じの撫子さんだった。撫子さんもアンナ先輩の武勇伝については色々知ってるしね。

「まさか錦ノ宮夫婦の子供がねえ……」

 現実はわからんね、と呆れたように軽く言う。「反抗期ですの」とアンナ先輩も軽く返した。

「で、昨日起こしたあの騒ぎであのざまなんだけど、あの不破ってバカはどうしたらいい?」

 不破さんが月見草と一緒に栄養ドリンク改を作ろうとして清門荘が火事になりかけた件について、いつか時間があったら話そうと思う。不破さん、今は熱で頭が回っていないようだし、月見草は基本言われたことしかできないから事故と言えば事故なんだけどな。


316 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:25:01.60 ID:qiesvTN40


「不破さんは《SOX》に入れませんの?」

「あー」

 華城先輩と顔を見合わせる。不破さんについては全員賛同するだろうけど、ぶっちゃけタイミングを忘れてたというかなんというか。

 清門荘の一室に戻ると、完全に風邪でダウンしている不破さんがいた。

「今寝付いたところです」

「お疲れ様ですわ。月見草さんも、休んでくださいまし」

 スケッチブックに先ほどのアンナ先輩の形相を描きたいらしい早乙女先輩を傍において、月見草は菊の間で休ませる。

 そして今できる、アンナ先輩の修行内容について撫子さんと一緒に考える。

 まあ答えは決まっていて、

「正しい知識、だな」

 禁止単語やその意味、社に置いてある不健全雑誌の熟読、《育成法》が生まれる前の、そもそも卑猥とは何かなどの価値観など、とにかく性知識について徹底的に教えなければならない。

 僕にしたことについてショックを受けるかもしれないけど、もう正直言って、どうこうできる問題じゃなかった。逃げられないなら、今をいい機会とするしかないんだと思う。

 ……アンナ先輩の性欲が薄まることは、多分ないだろうけど、それでもちょっと期待してしまうのは、僕悪くないよね?

「おい、綾女。お前教えろ」

「え!? そんな、急に言われてもゴムも何も準備ができていないわ!」

「谷津ヶ森の不健全雑誌があるだろうが! いいから社で勉強だ!」

 その様子を見て、アンナ先輩が慈しむように、僕にだけわかるようにクスッと笑った。

「撫子さんと綾女さんって、似てますわね」

「そうですね。義理とはいえ、お母さんと娘ですからね」

「……親子、反抗する子供」

 アンナ先輩は、悲しげに長いまつげの影を作る。

「……わたくしは、世界を必ず変えてみせますわ。両親の作った、この日本という国を」

 悲しげではあっても迷いはなかった。

 アンナ先輩と華城先輩は、社に向かった。


317 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:25:29.75 ID:qiesvTN40

「さて、と。これからどうするんだぜ?」

 今日帰る予定だったが、不破が風邪を引いた以上、動けない。置いて帰るのも薄情だろうというのがゆとりの意見だ。

 特別に往診してもらって、薬は出してもらっている。ただ昨日のバカ騒ぎ(自分たちは知らなかったけど何かやらかしたらしい)で病状が悪化したとのことだ。

 明日も休みなので、一日延ばそうと考えてはいる。でもそれ以上は、学校が始まるのでどうすればいいか考えている最中だ。

「あの化け物、本当に二重スパイなんかやるんスかね?」

「その話をしたらキリがないから信じるしかないって言ったじゃないか」

 狸吉がうんざりしたように反論する。鼓修理も自分がしつこいのは自覚していたようで、「わかってるっスけど」と不機嫌そうに返した。

「あの化け物とクソ親父が繋がってると考えると、ろくでもないことしか考えられないっスね」

「表向きでもアンナ先輩が敵でなくなったのは、《SOX》にとっては楽になったよ」

「いつ乗っ取りされるかもわからないのにっスか?」

「だあ、止めろお前ら、ややこしい!」

 ゆとりにはどうしてもそういう駆け引きが合わない。油断はできないし、危険性もあるが、それを言ったら鼓修理だって鬼頭家の一人娘だし、狸吉にいたっては善導課の《鋼鉄の鬼女》の息子なのだ。

「ここにいてもあの女将に見つかったら何かやらされそうだし、あたしも社見てみたいぜ」

「ゆとりはちゃんとは見たことなかった? 僕もあの不健全雑誌呼んで予習しとこうかな……僕で試される前に」

「ひ、卑猥だぜ! そんな、日中から!」

 ゆとりが蹴りを入れるが、慣れている狸吉はひょいと躱す。

「ま、どんな感じで勉強してるかを見るのはありっス。ここで適性試験に失格とかいちゃもんつければ……」

「あー、アンナ先輩に限ってはそれ無理だと思うよ」

 一応、撫子に社の様子を見てくることを伝え、清門荘から社に向かう。


318 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/21(月) 23:27:05.75 ID:qiesvTN40

不破さん、いろいろやらかしていたようです。
とうとうアンナ先輩がちゃんとした知識を付けていきます。どうなることやらなのです。

ちなみに希望があれば、不破さんがやらかした短編も書く用意はできております、はい。
319 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 00:55:05.08 ID:XNH/9rFA0


「これと、これはどう違うんですの?」

「えっとね、ヴァギナと膣と《赤ちゃん穴》はね……」

 まず禁止単語表なるもの(1000ぐらいはある)を叩き込んでいた。

 まあアンナなので、すぐに表そのものは覚えたのだけど、意味を理解するのに若干苦労していた。谷津ヶ森から奪った不健全雑誌の写真を使って、あるいはもう教育現場では使われなくなった精巧な人体模型を使って説明していく。

 まあ言葉だけでは理解できないだろうと、アジトにある2、3冊を除いたすべての不健全雑誌やコピーをアンナに見せて、ほとんど独学でやらせている。疑問に思ったところを解説した方が早い。

「……これが卑猥ですの?」

 アンナの声には戸惑いがあった。アンナにとっては無意識の愛情表現が、卑猥と断定されているのだから当然だった。

 善導課からも指導されてはいるだろうけど、それはあくまで一部の偏った知識だけだ。特に愛の蜜関連はきちんと教えなければならない。

「愛の蜜は男女で違うんですのね。奥間君は、男性の愛の蜜が女性の《赤ちゃん穴》に入ってきたら、妊娠すると仰っていましたわ」

「……うーん、それで大体合ってるわ」

 あってるのかな、この教育法はと、綾女の方が戸惑いを覚え始める。アンナが読んでいるものは不健全雑誌と言って想起されるような、いわゆるエロ本だけでなく、昔の保健体育の教科書や医学書も含まれている。これは谷津ヶ森のものではなく昔から社にあったものだが、下半身にガツンと来ない! 下ネタ思い浮かばない! と有り体に言うと面白くなかったので、社に放りっぱなしだったものまでを読んでいる。

「綾女さん、今更疑うわけではないのですが、この本が正しいという根拠はありますの?」

「……アンナなら本能でわかってるんじゃないの?」

「……わたくしには、なぜお父様とお母様がこれらを不健全だと禁止するのか、よくわかりませんの」

「アンナ、あなたなら身に覚えはあるんじゃないの? 初めてのこととか、エッチなこととか」

「…………それが、卑猥?」

「……そうね、猥褻なアプローチを狸吉にしてきたのは間違いないわ」

「…………」

 しばらく無言だった。不安になって、「アンナ」「綾女さん」――二人同時に、呼びかけた。

「わたくしは、“悪い子”になるんですの。だって、“悪いこと”って、楽しいんですもの」

「そうね。下ネタは楽しいわ。でもね。行き過ぎると、傷つけるわ」

 ある文字を指した。『レイプ』――強姦。精神の殺害ともいわれた、《育成法》成立前でも最悪の罪。

「…………」

「あなたがあのリーダーにしたことよ」

「……両親がもみ消したい気持ちが、よくわかりましたわ。ふ、ふふひ、あは、娘が卑猥の最上級の罪を犯したのですわ。当然ですわね」

「アンナ。今からでも両親と仲直りできるなら、」

「それでも、知っていたら、わたくしはしていなかったのですわ」

 アンナはどこか泣きそうで、何も言えなくなる。「その言葉が本当か?」なんて、訊けもしなかった。

「知ってさえいれば、間違えなかったのに」

「…………」

「でもいいんですの。間違えても、奥間君は受け止めてくれるのですわ。――勉強に戻りますわね」

 間違えても、狸吉が受け止めてくれるから、だからわざと間違えてやる。

 今のアンナの行動原理はこんなもので、根本は狸吉と愛以外を信用していない。

 足音、

320 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 00:55:49.60 ID:XNH/9rFA0

「……狸吉、鼓修理にゆとりも」

「調子はどうかなって。アンナ先輩、大丈夫ですか?」

「……ええ。勉強自体ははかどっていると思いますわ」

 軽い調子の狸吉たちに、アンナも笑顔で答える。

 多分、この笑顔のまま、アンナは人を殺せる。根本が正義と愛以外を信用していなかった頃と、変わっていない。

 それを綾女は、わかっていた。

「色っぽいポーズ、というのは何ですの?」

「え? えーっと」

「ゆとりに教えてもらったらどうっスか、まあ胸部がなぶほ!?」

「あー今日は暑いぜー」

「ゆ、ゆとり、靴ありは反則っス……」

「一月で暖房もないのに暑くはないと思うのですけど、あの、鼓修理ちゃん、大丈夫ですの?」

「あー、大丈夫だぜ。こいつ、結構慣れてるんだぜ」

 でもどこかで、信じていたかった。

 こんなふうに親友が自分たちと混ざってバカ騒ぎするのを、どこかで夢見ている。



 ピピピピピピピピピ



「鬼頭慶介さんですわ」

 アンナが人差し指を立て、静かに、とジェスチャーを送る。

 全員が静かになったところで、「もしもし」と電話に出た。



 ――暴雪の気配が漂った。



「鼓修理ちゃんのお義父様。お疲れ様ですわ」

 ちなみに鼓修理と慶介はアンナの中では、紆余曲折を経て義理の親子となっている。

『やあ、鼓修理のことは知ったんだね。お嬢さんは、返事の方をどうするか、まだちゃんとは聞いてないなーって思ってね』

 電話越しにもこの気配は伝わっているはずなのだが、慶介は軽いノリのままだ。

「お受けしますわ。色々とご協力してもらってる身ですもの、少しでも恩返ししたいんですの」



321 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 00:56:26.35 ID:XNH/9rFA0


『奥間狸吉君との結婚にそこまでするなんて、よっぽど愛しているんだねえ』

「ええ、愛、していますわ」

 愛、にアクセントがおかれる。ここだけは絶対に本音で、ビクン!と狸吉が跳ねた。

『じゃあ、お嬢さんには良くないお知らせだ。錦ノ宮の口座から5000万円引き出されているよ』

「? 5000万円……?」

『早いとこ、ご両親に電話した方がいいかもね、これは確実に奥間家への口止め料と手切れ金だから』

「――――」

 アンナ落ち着いて、とメモで書く。アンナは頷いた。

 ただ、暴雪の気配が、さらに冷たさを帯びてくる。

「用件は、それだけですの?」

『うーんとね、どこまで入り込めたかなあって』

「主要メンバーの名前と顔は、覚えましたわ」

『なるほど、順調だ。じゃあ君も忙しくなりそうだし、切るねー。じゃあねー』

 ツーツー。

「……手切れ金? まさか、わたくしの両親は、愛を、お金で解決しようとしてるんですの?」

「落ち着いて、アンナ。《鋼鉄の鬼女》の性格を考えて、そんなお金簡単に受け取ったりはしないわ」

「そうですよ! うちの母親に限って、そんな……」

 狸吉の目が泳いだ。「とにかく、電話してみます」――金をもらわなくても、狸吉の母親はこういう問題のエキスパートのはずで――




  『祝福を受けたい』




 アンナもPMを操作する。

 殺気立った目に、誰も何も、言えない。

322 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 01:02:18.94 ID:XNH/9rFA0
多分だけどアンナ先輩にとって1番やってはいけないことじゃないかなと思ってみました。
うん、多分ですが。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/22(火) 14:35:28.76 ID:R4IhwTaNO
性犯罪を金で誤魔化して被害者を黙らすとか……

これ、卑猥な上に卑劣なんじゃ。旧世界でソフィアが一番憎んでた事やないの
324 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:28:12.06 ID:XNH/9rFA0


 奥間爛子は第一清麗都市の第二オフィスビルの最上階にいた。善導課に関わる用件ではない。むしろ私的な事柄になる。

 呼び出した張本人たちが、爛子がついてからすぐに表れた。

「ずいぶん早いな」

「お待たせするわけにはいかないので」

 呼び出したのは、錦ノ宮夫婦と、もう一人、おそらくは弁護士がついていた。

「お座りください」

 弁護士の名刺を受け取り、爛子は座る。さすがというか、全員爛子のカタギには見えない風貌に気圧されることのない連中だった。

 錦ノ宮夫婦はソフィアがデモを起こしてから不仲になったと聞いていたが、愛娘の事件にはそれどころじゃないらしい。

 アタッシェケースが取り出され、中身を見せつけられる。

「5000万円あります。もちろん、贈与税などを抜きにした金額です」

「何が言いたい」

「……そちらのご子息と、うちのアンナの、慰謝料と手切れ金です」

「犯罪を隠すために金とコネで隠蔽するか。私の知っているソフィアはそんなことをもっとも毛嫌いする人間だったがな」

「……爛子さんに軽蔑されるのは、承知しています」

 さすがにプライドの高いソフィアは消沈していた。代わりに旦那の、祠影が口を開く。

「間違ったやり方かもしれません。ですが、娘を守りたいという親心は、あなたも子供がいる以上、理解できるでしょう?」

「守るの意味が違う以上、話にならんな。私はこんな金を受け取りはしない」

「では、どうしたら、アンナを守れますか?」

 ソフィアは虚ろに呟く。すがるように、爛子を見る。

「弁護士なら知っているだろう。婚約もしていない学生の恋愛に手切れ金など必要ない、と」

「恋愛だけならばそうですが、今回は犯罪が絡んでいるとのことでしたので」

「…………」

「アンナさんが狸吉さんに本人の合意なく性交にいたったことは、こちらも認めております」

 本来なら『性交』は禁止単語なのだが、弁護士などの法律用語としては許可される。今回もそのパターンだった。

 善導課は証拠として鎖を回収している。

「徹底的に争うのかと思ったが、意外だな」

「……あんな、アンナを見せつけられては……」

「……そうだな……」

「私には信じられません。お二人から話を聞いてもです」

 祠影が口を挟む。清楚なお嬢様にしか見えないアンナが鎖につないだ狸吉の性器を口に含み、コロコロと美味しそうに転がしていたのはあまりに衝撃的な光景で、自分も狸吉の口から聞いただけなら一笑に付したかもしれない。実際、祠影は信じ切れていない節がある。

「慰謝料と手切れ金は、受け取ってもらえないでしょうか?」

「本人に話も通さずに答えなど出せない。17歳と16歳だ、その程度の頭はあると信じている。夫妻はアンナと話をしたのか?」

325 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:28:39.95 ID:XNH/9rFA0


「……拒絶されています。『愛のために必要な儀式だった』『奥間君は間違っても受け止めてくれる』など、わけのわからないことを言って……」

 ソフィアのことだから感情的に責めてしまったんだろう。アンナからすれば、ソフィアや祠影の方が拒絶しているのだろう。

「アンナは言い出したら聞かないタイプみたいだな。ソフィアのようだ。……このことは逆効果になるぞ」

「……それでも。卑怯で卑劣でどうしようもなくても」

 ソフィアは感情のままに突っ走っていたころとは嘘のように、沈み込んだままで。

「娘のために、ご子息には別れてほしいのです」

「…………」

「このままじゃアンナはダメになります」

 祠影が消沈したソフィアの代わりに言葉を紡ぐ。

「今のアンナは間違っています。間違った元から離れなければ、さらに悪くなる一方です」

「うちの愚息に原因があると?」

「いえ、アンナは《育成法》の奇跡的な成功例だったのです。奇跡的なバランスで保たれていたのが、恋心で崩れたのでしょう。奥間狸吉君でなければもっとひどいことになっていたかもしれないし、そうでないかもしれない。わかっているのは、これ以上狸吉君と一緒にいさせるわけにはいかないということです」

「全部、親としての理屈だな。子供の立場を考えていない」

 だが正直なところ、爛子にもどうすればいいかなんてわからない。こんなに消沈しているソフィアも見たことがない。



 ピピピピピピピピピ



 爛子のPMが鳴った。『奥間狸吉』と出ている。

「うちの愚息からだ。失礼だが、この場で出させてもらう」

 ハッとして、ソフィアもサイレントにしていたPMを確認する。『アンナ』と出ていた。



「「――もしもし」」


326 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:47:57.59 ID:XNH/9rFA0


「母さん」

『なんだ?』

「今、アンナ先輩から、アンナ先輩の家が5000万円も引き出したって聞いて」

『事実だ。その件で今話をしている』

「口止め料と手切れ金で?」

『どこから聞いたんだ、その話は。……私は受け取らない。お前が決めろ、狸吉』

「……わかった」

『切るぞ』


 ツーツー、


  
   *



「お母様」

『アンナ』

「何を、しようとしてらっしゃるのですか?」

『……私達は、アンナのために』

「嘘を吐かないでくださいまし! 《育成法》も、欺瞞ばっかりで! こんなやり方で、正しいことだけを詰め込んだら、正しい人間ができると、お母様は本気で思っているのですか!?」

『アンナ……』

「知ってさえいれば、わたくしは間違えなかったのに……!」

『アンナ。お願いです、戻ってくるのです』

「……お母様は、お父様も、わたくしと奥間君を、別れさせたいのでしょう?」

『アンナ』

「わたくしが間違えたのは、奥間君のせいではありませんわ。それに……」

『アンナ、わかりました、私達は色々話し合わないといけないんです』

「わたくしは奥間君を愛していますわ。奥間君も……何故、愛が祝福を受けられないのですか? お母様……」

『…………』

「わたくしには、話し合うことなんてありません。手切れ金を用意する必要もありませんわ。だって、一生、わたくしと奥間君は愛し合うのですから」

『アンナ、落ち着いて、それは……間違っています』

「ならどう間違っているのか、説明してくださいまし!!」

『――あなたが不幸になるのが耐えられないだけです……!!』

「……もういいですわ。話になりませんもの」

『アンナ、待ちなさい、アンナ!』



 ツーツー、『着信拒否』

327 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:52:15.18 ID:XNH/9rFA0

これは、「親の心子知らず」なんでしょうか?
立場を守りたいとか打算もあるとは思いますが、ソフィアもそうだし祠影も、アンナのためにと思って動いてはいます。それが正しいかは別として。
328 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 17:56:44.04 ID:XNH/9rFA0
あと、アンナが一番祝福を受けたい相手はやっぱりご両親なんですね。当たり前か。
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/09/22(火) 18:14:15.77 ID:tkldBrmI0
ソフィアは子供や信念の為ならプライド捨てれるんだよなぁ、不健全雑誌身体に巻いたり
今回の手切れ金もソフィアにとっては屈辱なんだろな、でもやるあたりは親なんだなと思う。
まあ間違ってるんだけど
330 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:42:34.51 ID:XNH/9rFA0


 アンナ先輩の失望と絶望からの無表情は、今までとは違う意味で冷たさがあった。

「アンナ、不健全雑誌はコピーを取って第一清麗都市に持ち帰って、アジトで勉強しましょう」

「ええ」

 華城先輩も言葉少なだった。

 だけど、今の日本では珍しくない光景でもある。さすがに極端な例ではあったけど、僕やゆとりのような社会的に弱い立場の子供の縁談は昔より格段に厳しいと聞く。

 もし何もなくても、今とは逆の意味で僕とアンナ先輩じゃ釣り合わないのが現状だ。アンナ先輩はそういう部分からも切り離されていたんだろうけど。

「奥間君」

「はい!?」

 思考が別のところに行っていたせいで反応が遅れた。いやね、母さんやアンナ先輩の躾によって返事には即答せねばならないという条件反射がもう身に沁みついてて……。

「わたくしは、奥間君がいれば、幸せですわ」

「……はい」

 そう答えるしかなかった。

 だって、この人が変わったのは、やっぱり僕のせいだから。

 そのせいで降りかかる不幸からは、守りたかった。

 でも――



『本当に、愛してる?』



 誰の言葉だっただろう。もう精液が夢精で空っぽになってしまったかのように忘れてしまった。

「PMの電子マネーが凍結されたらどうするんスか?」

 鼓修理が現実に戻してくれる。いかんいかん、夢精なんかしたらアンナ先輩にお仕置きからの前立腺プレイが始まってしまう。

「私の家に来ればいいじゃない。アンナのマンションほどじゃないけど、アンナが泊まれないほど狭くもないわ」


331 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:43:19.38 ID:XNH/9rFA0


「まあ狸吉の家は、くっくっく」

 鼓修理の邪悪な笑みは「化け物に散々搾り取られれば自動的に綾女様の隣は自分のものに!」みたいなことを考えているだけなので無視しとこう。

「まあ、そんな強硬な手段には出ないと思いますわ」

 このあたり、アンナ先輩と僕らでソフィアに対する意識の乖離とでもいうのか、ソフィアは意外とアンナ先輩には甘いというか。まあこんだけ完璧超人だったらな。

「マンションにいる方が風紀委員の見張りもありますし、両親にとっては好都合ですわ」

 あとあのクローゼットで僕を監禁したりとか。

「まあ帰ってからのことは帰ってからにして、明日までどうするんだぜ?」

「うーん」

 アンナ先輩が可愛らしく小首を傾げる。

「現実の問題として、《SOX》は武力が足りないように思うのですわ」

「下ネタテロに!」

「武器もお金もいらないんス!」

 華城先輩と鼓修理が合わせて卑猥な拳を作る。にこっとアンナ先輩は軽くスルーした。意味は分かっても、面白さは理解できないようだ。

「奥間君のお義母様をわたくし一人で引きつけるのは、正直自信がありませんわね」

「「「「いやいやいやいや」」」」

 僕と華城先輩と鼓修理にゆとりの合唱が広がる。勝てるとしたらアンナ先輩ぐらいしかいないだろう。

「奥間君? 勝つ必要はないんですのよ。こういうのは、ヒットアンドアウェイで無差別に出没して逃げるが勝ちなんですの。逃げられたらそれでいいんですわ」

 さすがにこの前まで僕達を追っていただけはある。ヒットアンドアウェイで逃げるが勝ちが嫌だから僕を誘拐に差し出したんだしね。

「皆さんの身体能力を知りたいですわ、特に綾女さんと、ゆとりさん。表に出る場面が多いですし、鼓修理さんや早乙女先輩は陰で別の仕事があるでしょう?」

「あれ、僕は?」

 アンナ先輩の頬が、ポ、と赤くなった。

「――知り尽くしていますもの」

 うん! もう身体の部分で知らない場所はきっとないんじゃないかな!

「ああもう、はいはい。私がいつも撫子とクンニ、じゃなかった組手してるとこがあるから、そこ借りましょ」

 やいややいや言いながら僕は華城先輩とアンナ先輩が前で談笑してるのを見る。

 この光景が、いつまでも続けばいいのに。


332 : ◆86inwKqtElvs [saga]:2020/09/22(火) 21:43:57.27 ID:XNH/9rFA0


「《鋼鉄の鬼女》と互角、か」

 そこは50畳ほどの、畳敷きの離れだった。全員が貸し出されたジャージに着替える。

「じゃあ、まずは綾女さんから」

「き、緊張するわね。アンナとこんなふうに組むなんてことなかったから」

「そういえばそうですわね。わたくしは構えないので、どこから来ても構いませんわ。撫子さんは、わたくしの直すべき点を見ていただけません?」

「いや、多分ないと思うぜ」

 ゆとりの言葉をきっかけにして、鼓修理が「はいスタート」とあえて気の抜けた声で試合開始を告げた。

「…………」

 華城先輩は動けずにいる。アンナ先輩からは殺気も何もなく普段通りの聖女の笑みで、それが逆に余裕を現していた。

「来ませんの?」

「行けるかー! どんだけアンナにはトラウマがあると思ってんのよ!?」

 全員がうんうんと頷いていた。包丁を投げつけられた鼓修理や首を絞め殺されそうになったゆとりは必死だった。

「仕方ありませんわね、それぞれ独自の筋力トレーニングを作ったほうが早そうですわ。皆さん、服を脱いでくださいまし」

 アンナ先輩以外の視線が僕に集まった。「ああ」とアンナ先輩も思い出したように、

「卑猥の知識を持っていると、自然と裸に羞恥心を持つようになるのでしたわね。わたくし、どうもそのあたりが繋がらなくて、申し訳ありませんわ」

 というわけで、僕一人追い出された。まあアンナ先輩は僕の身体のことを知り尽くしているし、筋力トレーニングメニューも常識の範囲内でやると思うし、今はとりあえず不破さんところへお見舞いに行こうかな。


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