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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【1頁目】

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277 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 01:49:44.55 ID:bQ7NvF6MO

もはや勝敗関係なくドン引きさせてるんだが大丈夫かはるのん?
278 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 19:23:36.50 ID:sjJFEquno

では少しだけ
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 19:27:21.44 ID:GovKvKupO
おk
280 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 19:27:29.54 ID:sjJFEquno

陽乃「……それじゃ、駄目じゃない」

駆け込んでくる千景を見定め……そして、陽乃は何事もないかのように回避する。

千景「っ」

振り切られた大鎌は陽乃に掠りさえせず、

その勢いを戻しきるほどの余力がなかったのか

大鎌の先端はそのまま床に突き刺さって、千景を躓かせてしまう

勇者とはいえ、同じく勇者に匹敵する力を持った陽乃の一撃が相当に重かったのか

あるいは、陽乃の使う九尾の毒素によるものか。

千景は被弾前の実力を出し切れていない。

陽乃「本当に勇者なの? もしかして、勇者を騙るただ人なの?」

千景「違う……!」

陽乃「だとしたら、どうして……倒れてしまうのかしら?」

苦しそうに呻きながら、

大鎌を支えに立ち上がろうとしている千景を、陽乃は見下すように見つめる

その瞳は赤々としていて、感情を感じさせない
281 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 19:42:27.16 ID:sjJFEquno

陽乃「痛いから? 苦しいから? たったそれだけの感覚に落ちてしまうほど、貴女は弱いのかしら?」

若葉「久遠さん言いすぎです!」

陽乃「過ぎている……? 事実を口にするだけで過ぎてしまうのなら、それはその人の線引きが甘いのよ」

若葉「人には得手不得手がある。なにより、貴女が言うように初めてなら痛みに強くなくとも仕方がない!」

陽乃「そうなの? 貴女もそうだったの? あの星降りの夜、貴女は受けた痛みに折れてしまったの?」

笑みを浮かべているのに、全く油断が出来ない

人ならざる者であるかのような威圧感

陽乃は決して大声ではないが、そのやや高まっている声色は鍛練場に強く響いて

若葉とひなたは思わず足を下げてしまう

若葉「私だって、バーテックスによる攻撃から立ち上がる余力なんてなかった……」

陽乃「勇者の力があっても?」

若葉「それは……」

若葉はバーテックスの一撃を受けて立ち上がれないほどの痛みに敗北しかけたが、

ひなたの導きによって触れた刀……生大刀と神の助力によって

若葉はもう一度立ち上がり、守れるだけの命を死ぬ気で守り抜いた。

若葉は折れかけたが、折れることはなかったのだ。

陽乃「そう。勇者の力があればこの程度では折れない。折れてはいけない。これで折れる程度なら……不要だわ」
282 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 20:14:21.33 ID:sjJFEquno

ひなた「勇者であっても身も心も人なんですよ!」

陽乃「だから?」

ひなた「え……?」

陽乃「ねぇ乃木さん。貴女の刀がたった一度の鍔迫り合いで折れてしまう程度の贋作でも使おうと思える?」

若葉「郡さんは道具じゃない」

陽乃「大社にとっては戦争の道具であり、人間にとっては守ってくれる兵器でしょう?」

陽乃はまるで子供のように「ん〜?」と、不思議そうに声を漏らす。

悩ましそうなそぶりを見せてはいるが、分かっていないわけではない

若葉とひなた……そして千景を煽ろうとしているだけだ。

陽乃「その勇者がこれではね。乃木さんのような人の足を引っ張る枷でしかないのなら……邪魔だと思わない?」

陽乃はそう言いながら、何度か握り拳を作っては開いて微笑んで見せる

しかしやはり、その笑みは恐ろしく安心を生まない

千景に対して、陽乃は殆ど感情を抱いていないように見える

危険なことを言っているのに、殺意も敵意もない

ただただ、その先に行くのに邪魔な障害物としか思っていない

千景「貴女は……私を、役に立たないって……」

陽乃「ふふふっ、順番通りなら次は私が攻める番よね?」

若葉「待ってくれ……今の貴女は正気に見えない。ここで終わりだ」


1、過保護は良くないわ
2、別に二人相手でもいいのよ?
3、止めたければ……分かるでしょう?
4、正気に見えない? だったら何に見えているのかしら?
5、別に良いけれど、この子が私に噛みつかないように躾けるって約束できる?

↓2
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 20:17:06.19 ID:qySLPHFeO
3
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 20:20:17.77 ID:IJsz4iHP0
4
285 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 20:48:35.08 ID:sjJFEquno

陽乃「別に良いけれど、この子が私に噛みつかないように躾けるって約束できる?」

千景「っ!」

若葉「躾……だと?」

陽乃「曲がりなりにも貴女がリーダーであるというのなら、この子を躾けるべきだと思うのだけど違う?」

若葉「貴女は……貴女は郡さんをなんだと――」

陽乃「弁えずに噛みついてくる子供。別に犬や猫のようにペットとして躾けろだなんて私は言ってないわ」

若葉は親ではないが、

千景が所属しているメンバーのリーダーであるならば、

長として部下の教育……躾は必要だろうと陽乃は言う。

確かにリーダーとしてある程度律することは必要だと若葉も考えている

しかしながら、それを躾というのは逃せない

若葉「リーダーとして、郡さん達を律することが出来ていないのは事実だ。しかし、いくら何でも躾というのは言いすぎではないか?」

陽乃「だったら別に教育でも指導でも何でもいいけれど、してくれるの? してくれないの?」

ひなた「久遠さん……本当に大丈夫ですか?」

陽乃「怪我ならもう治っているわ。大丈夫」
286 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 20:49:27.96 ID:sjJFEquno
>>285
見間違えたので、無しでお願いします。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 20:54:32.57 ID:qySLPHFeO
了解
5番はドS過ぎる…
288 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 20:59:53.55 ID:sjJFEquno

陽乃「正気に見えない? だったら何に見えているのかしら?」

若葉「それは……」

正気に見えないに対し姿かたちではなく、

ただ異常であるという単純な返答を陽乃は認めるだろうか

陽乃は、見た目だけで言えば陽乃と変わりがない

しかしながら身に纏っている空気は普段の陽乃とはまるで違っていて

ひなたはそれを【九尾の御力】と言った。

ひなたがそういうのならそうなのだろう。若葉はそう考えて、息を飲む。

化け物と言ったところで、陽乃は笑うだろう

何より、さっきから自称しているのだから

では久遠さんだと答えたら? 笑われるだろうか

陽乃はにこにこと笑っている

それは愛らしく見えるが……恐ろしい

その裏で何を考えているのかがまるで読めないからだ

若葉「普段の久遠さんに比べて常軌を逸している」

陽乃「言葉を選ぶわね……狂ったように思えるってことね」

若葉「……端的に言ってしまえば、そうだ。普段の貴女なら郡さんを貶めたりなんてしないはずだ」
289 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 21:11:31.21 ID:sjJFEquno

陽乃「普段の私なら……ね。ふふふっ」

若葉「何がおかしい!」

陽乃「あはははははっ」

おかしいと怒鳴られても、陽乃は笑う。

すぐそば出倒れていた千景がビクッと体を震わせて……引き下がったことに気付いていながら

それを無視して、笑って笑って、そうして――ふっと電源が切れたかのように笑い声が止む。

若葉「っ!」

陽乃「貴女、普段の私の心の内まで理解しているの?」

若葉「そ、こまで……理解しているとは――」

陽乃「だったら! だったらどうして私がそんなことがないと言えるのかしら?」

陽乃は一歩踏み込んで、若葉との距離を詰める

陽乃「私の噂は聞いているでしょう? 私の評価を知っているでしょう? 私の扱いを聞いているでしょう?」

迫力と、声の冷たさ

瞬きをしてくれない真っ赤な瞳が恐ろしくて、

動けずにいた若葉との距離はもう……目の前にまで来ていて。

陽乃「そんな私が……私に死ねばよかったと言ったこの子にでさえ慈愛の心を抱けるだなんて思っているの?」

若葉「く……っ」

陽乃「ねぇ上里さん。勇者が身も心も人であるならば、ただ生きているというだけで責められ続けている私は正常でいられると思う?」
290 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 21:25:19.92 ID:sjJFEquno

ひなた「……難しいと、思います」

陽乃「それでも私は私なりに頑張って……気を遣わせないようにって気遣って、独りでいることを選んでいたの」

陽乃は薄く笑みを浮かべて、すっかり離れてしまった千景を一瞥すると

また、若葉へと目を向ける

若葉よりもわずかに背の低い陽乃は見上げるような形になるが、

その視線はまるで可愛らしさが感じられない。

陽乃「なのにすれ違う程度で嫌悪して、殺す心配はないって武器を向けられて……私にだって我慢できないことだってあるのよ」

千景「それは、貴女が……」

陽乃「疑っていた? そうね。でも、私は違うと言ったのに聞く耳さえ持たなかったじゃない」

千景「貴女が疑っていたのは事実でしょう……?」

陽乃「信じろと? 死ねと言ってきた貴女を? 面白い冗談ね」

陽乃は若葉から千景へと振り返って、苦笑する

笑っているが、目は笑っていない。

怒りの代わりとでも言うかのように、殺意が感じられた

陽乃「我慢するのにも限界があるの……だから、ね? 私は私なりに改善しようと思って――」

若葉「待ってくれっ!」

千景へと近づこうとした陽乃の体は、

若葉が腕を掴んだことで、中途半端に止まった
291 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 22:04:29.77 ID:sjJFEquno

若葉「久遠さんが辛かったのは分かった。いや、分かっていた……なのに貴女に甘んじていたんだ」

陽乃「だから何? 貴女も邪魔をするなら排除させて貰うけど」

若葉「久遠さん、昨日の話を前向きに考えては貰えないだろうか」

ひなた「若葉ちゃん駄目です!」

若葉「ひなた……郡さんをどうにかできても、大社と民衆はどうにもならない」

世界は陽乃に対して優しい世界になることは非常に難しい

けれど、より厳しくなることはとても簡単なのだ

勇者が戦いで敗北したり、戦いに勝利したとしても何らかの被害が出れば陽乃が責められる。

あの子が人柱になりさえすれば解決するのにと、抗議が行われる可能性だって少なくない。

若葉「ここで足を止めてくれるなら、外に出られるように私が全力で手助けする」

陽乃「別に、ここで邪魔な人さえ消してしまえれば解決する話でしょ?」

若葉「貴女だって心の全てで望んでいるわけじゃないはずだ! 人を助けたいと……その一心であの場に立っていたはずだ!」

陽乃「私が人を助けたいからと言って、邪魔者の命まで助けると思っているなら大間違い」

陽乃は苦笑して、若葉の手を振り払う

陽乃「恩は仇で返されると、今この国が私に教えてくれている。価値がないと思ったなら――捨ててしまうべきだと教えてくれたの」

それは本当に心から浮かべているのではと錯覚するほど、整った笑顔だった。

嬉しそうで、悲しそうに……

若葉が目を見開いてしまうほどに、戸惑わせるような。

陽乃「郡さんは、要らない」
292 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 22:05:29.74 ID:sjJFEquno

↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1〜3 悪い
4〜5 普通
6〜9 良い
ぞろ目 最良
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 22:07:23.51 ID:qySLPHFeO
たのむ
294 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/14(水) 22:18:34.32 ID:sjJFEquno

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 22:23:07.42 ID:qySLPHFeO

これはダメだったのか…?
陽乃さんがあまりにも病み過ぎてて何らかの九尾の仕業でもないと救いようがない…
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 22:28:25.12 ID:+PDqHWQOO

瞳が赤いってことは九尾じゃないの?陽乃ちゃんは天乃と同じなら橙色のはず
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/14(水) 22:38:40.48 ID:qySLPHFeO
言われてみれば…まだなんとかなるか?
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/15(木) 04:46:38.78 ID:8DHrEPvuO

えらいことになってきたな
299 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 20:04:58.16 ID:VYB2ECRno

では少しだけ
300 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 20:06:05.30 ID:VYB2ECRno

若葉「ま、待てッ!」

若葉が動けなかった数秒間

たったそれだけで、陽乃はもうすでに動き出していた。

力強く蹴り上げられた鍛練場の床が軋む

窓を閉め切っているはずの場内に風が吹き込んだかのような突風が巻き起こる

数秒……1秒か2秒か

刹那ともとれるその瞬間に、若葉の目の前にいた陽乃は千景のもとにたどり着く

陽乃「 さ よ な ら 」

千景「っ!」

にっこりと、満面の笑みで拳を構えながら肉薄した陽乃は、

その勢いを丸々拳にため込んで撃ち抜く

駆け抜けた推進力、固く握りしめた拳

反り上がる弓よりも強く引き絞った腕から放たれた一撃は、容赦なく――

千景「っあ゛っ!?」

悲鳴にさえならないうめき声を漏らして千景の体が鍛練場の壁へと激突する

握られていた大鎌が手から零れ落ちて乾いた音を立てるのと同時に、

千景はその場に崩れ落ちて動かなくなってしまった

砕け散って穴が開いてしまった鍛練場の床

ジャージにはね跳んだ埃でも払うように、陽乃は裾を手で払う。

仲間の一人を殺す勢いで殴り飛ばしておきながら、

陽乃はまるで心を痛めている様子がなかった。
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/15(木) 20:08:25.49 ID:nsYZvDUcO
千景が…
302 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 20:21:55.47 ID:VYB2ECRno

ひなた「千景さ――」

若葉「待てひなた! 私が行く!」

一心不乱に駆け寄ろうとしたひなたを制し、若葉が陽乃の横を抜けて千景へと駆け寄る

若葉「……郡さん!」

横切る際に一瞥した陽乃の表情は笑顔ですらなく、

そこに感情どころか魂があるのかさえ不確かで不気味に思えて……目を背けてしまう

駆け寄った若葉は千景の体に優しく触れる。

体を打ち付けた壁には何かが立てかけられていたこともなく突起もないので二次的な損傷は見られない。

しかし、顔は苦悶に歪んでいて口からは血が流れている

幸い……と、言うことは出来ないが微かに呼吸があって死んではいなかった。

若葉「ひなた! 急いで医療班を!」

ひなた「っ……分かりました!」

若葉「郡さん……頼む。死なないでくれ」

生きているのではない。

まだ、死んでいないだけだ。

千景の呼吸は非常に浅く、空気と共に少しずつ血が漏れ出してきている。

耳をすませば、喉の奥でごぽっ……と、濁った音さえ聞こえるように感じる。

頭部にダメージはなかったように見えたが、

腹部とその内側には尋常じゃない損傷を受けている可能性が非常に高いため、下手に体を動かすことも出来ない。

万が一内臓が破裂していたり、肋骨の一部が折れていたりなどしたら

そこからさらに容態を悪化させる危険があるからだ

ひなた「若葉ちゃん……扉が開きませんっ!」

若葉「なんだと……!?」
303 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 20:32:04.17 ID:VYB2ECRno

ひなたの悲鳴のような呼び声に目を向ければ、必死にガタガタと扉を揺らす姿が見えた。

入って来た時に鍵はかけていない。

いつものように自由に出入りできる状態だったはずだ。

鍵は管理している場所から持ち出しているし、

持ち出し記録にも名前が記載されているはずなので、誰かが誤って施錠したはずがない。

はっとした若葉は顔を上げ、陽乃を睨む

若葉「貴女の仕業か!」

陽乃「助けるつもりなら、私にとっての障害だもの。それを阻むのは道理にかなっていると思わない?」

若葉「郡さんは確かに酷いことを言った。だが、それでここまでする必要があるのか!?」

陽乃「避けても避けても、立ち塞がってくる障害なら排除するべきだもの」

陽乃の声には感情による振れ幅がなく、一定の音調で

それはどこか機械めいたもののように感じてしまう。

今の陽乃にとって本当に、その程度なのだ

陽乃「だから、もし……それを救うというのなら貴女達も私の障害になり得ると思うの」

若葉「……どうしても、郡さんを殺したいのか」

陽乃「私はそれが誰であろうと関係ない。障害を排除したくて、それが郡千景という人間だっただけのこと」
304 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 20:42:52.41 ID:VYB2ECRno

若葉「そうか、それが貴女の考えなんだな」

陽乃「言っておくけれど……貴女が刀を取るのなら。私は貴女も上里さんも殺すから」

若葉「っ」

陽乃「貴女の責任で上里さんの命を賭ける覚悟があるのならどうぞ」

笑うでもなく、しかし感情を流入させたかのように声を震わせた陽乃はひなたを一瞥する。

その赤い瞳だけが、笑った。

陽乃「ただし貴女が倒れたら私は上里さんを狙う。生きていようと死んでいようと貴女の目の前で彼女の首を折る」

若葉「……貴女は久遠さんではないな。そうであるはずがない」

若葉は歯を食いしばって、それでも隠し切れない怒りを滲ませながら首を振る。

陽乃の言葉が覚悟を試そうとしているだけならまだ救いはあるかもしれない。

しかし、そうではないのだろう。

今まさに死に瀕している千景を救わせまいと阻んでいるのだから。

たとえ覚悟を持って挑んでも、合格だと言って道を開け千景を救ってくれるとは思えない。

陽乃「郡さんを諦めるのなら二人は助かる。郡さんを助けるのなら三人死ぬ。どうする?」

若葉「私が貴女に勝つという選択肢はないんだな」

陽乃「それは貴女が出来るかどうかだから」

出来るならどうぞとでも言うかのような陽乃の笑みに、若葉は千景を見てひなたを見る
305 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 20:55:35.99 ID:VYB2ECRno

ひなたは若葉や千景と違って戦闘要員ではない。

陽乃に追いかけられれば逃げ切れるわけがなく、捕まれば抵抗など出来るわけがない。

鍛練などで鍛えていて痛みに強いというわけでもないのだから、

軽く殴られるだけでも、ひなたは失神したり、体の一部を壊してしまうかもしれない。

その可能性を踏まえ、そのあまりにも弱弱しい命の責任を取って戦えるのか。

いや、戦っていいのかと……若葉は

ひなた「若葉ちゃん!」

若葉「!」

ひなた「初めに言ったはずです……宜しくお願いします。と」

若葉「ひなた……」

ひなた「お願いです若葉ちゃん。【みなさん】を救ってください」

ひなたはそう言って、笑みを浮かべる。

怖くないはずがない

なにせ、陽乃の力は圧倒的なのだから。

まるで容赦のない、化け物らしい威圧感があるのだから。

それでも上里ひなたは乃木若葉を信じている。

自分の命を賭けても良いと、乃木若葉の強さに委ねている。

乃木若葉ならば、郡千景も上里ひなたも……そして、久遠陽乃も救えるのだと。
306 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 21:03:44.74 ID:VYB2ECRno

若葉「……そうだな。そうだ」

若葉は千景の口元を拭うと、

ゆっくりと立ち上がって、自分の腰元にある刀の頭を撫でる

何事にも報いを……報復を誓った力であるのと同時に、

これは守るための力でもある。

若葉「私とひなたの二人だけのために納めてはここにある意味がないんだ」

陽乃「大切な人が殺される覚悟が、出来たのね」

若葉「逃げたって、私は結局大切な人を殺されてしまう」

立ち上がった若葉の見開かれている瞳には迷いがない。

ひなたと千景と自分

その命が懸けられている重責に竦んでいる揺らぎがまるで見えない。

若葉「言っただろう久遠さん。私にとって貴女は勇者だと。そんな貴女もまた、私にとっては大切な人なんだ」

だからこそ。

若葉はそれを言葉にして、千景から離れるようにと距離を取って深く息を吐く

重心を下げ、体を傾け柄を握る

若葉「これは貴女を救うための挑戦だ!」
307 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 21:07:20.78 ID:VYB2ECRno

↓1コンマ判定 一桁

0    特殊
1、7、4 若葉
3、6、2 互角
5、9、8 陽乃

ぞろ目 00 最悪
ぞろ目 他 最良
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/15(木) 21:08:29.50 ID:nsYZvDUcO
頼む!
309 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 21:34:59.49 ID:VYB2ECRno

陽乃「へぇ……言ってくれるのね」

陽乃は若葉の宣言を耳にして、笑う。

それを無理だと見下しているかのようで――

陽乃「ふっ――」

若葉「っ!」

けれど、容赦はない

ほんのわずかな瞬きの間に陽乃は若葉へと近づく

それはまるで陽乃が若葉の目の前にいたかのように、一瞬だった

陽乃「はぁッ!」

若葉「っぁあぁぁぁぁッ!」

振り下ろされる拳に向けて、若葉は鞘から刀を引き抜く

全力で振り抜き切り裂くための一刀

当たればただでは済まない

だが、それでも若葉は躊躇しなかった

陽乃を救うためならばと――しかし

「勇者ぁぁぁぁぁぁぁぁパァァァァァァァンチィッ!」

外部からの干渉がそれを阻む

高らかな雄たけびと共に、鍛練場の一部が爆発を起こして崩れ落ちた
310 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 21:50:07.16 ID:VYB2ECRno

友奈「はっ……はぁ……やっと抜けた」

爆発した粉塵に隠れてしまっていた闖入者、高嶋友奈は、

肩で息をしながら、焦りに満ちた表情で顔を上げた。

友奈「みんな! 無事!?」

爆発に驚いて尻もちをついているひなた、

刀を振り抜いている若葉と、それから遠く離れている陽乃

そして――倒れている千景

鍛練場をこじ開けられた安堵をするまもなく、友奈は目を見開く

友奈「ぐんちゃん!? ぐんちゃん!?」

若葉「干渉するな友奈!」

友奈「で、でも!」

若葉「ひなた! 医療班の手配を頼む」

ひなた「はい!」

友奈の制止、ひなたへの指示

それを若葉は陽乃から目を離すことなく叫ぶ

若葉「……目の前に、いたはずだが」

刀を抜き放った時、若葉の目には陽乃が目の前にいるように見えた

それから友奈の乱入まで目を離していないはずなのに、

気付けば、陽乃は遠く離れ居合の斬撃など届かない場所にいた
311 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 22:44:59.30 ID:VYB2ECRno

友奈「若葉ちゃん、どうなってるの!?」

若葉「久遠さんが悪い力に取りつかれている……と、私は見ている」

友奈「悪い、力?」

若葉「九尾の力だとひなたは言っていたが確証がない」

若葉は刀をゆっくりと鞘に納めると、

いつでも抜き放てるようにと構えたまま友奈へと声をかける

千景に駆け寄ろうとしていた友奈だが、

千景の状態が触れるべきではないと判断したからか、若葉の隣に並ぶ

友奈「久遠さん、危ないの?」

若葉「郡さんをやったのも……友奈がここに入れなかった原因も彼女だ」

友奈「え……」

友奈の戸惑った声が零れる

友奈にとって、陽乃は関わることが難しい人ではあるが、

決して害のある人ではないと見ていたからだ。

もちろん、ピリピリしたものも感じてはいたが。

友奈「若葉ちゃんは久遠さんと戦っていたの?」

若葉「いや……今も戦っているんだ」
312 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 22:47:19.30 ID:VYB2ECRno

↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、7、4 悪い
3、6、2 普通
5、9、8 良い

ぞろ目 最良
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/15(木) 22:50:37.34 ID:9jq2VWaW0
314 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/15(木) 22:56:16.37 ID:VYB2ECRno

ではここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


悪判定から抜けないので、友奈とも戦闘出来ます
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/15(木) 22:59:34.24 ID:8DHrEPvuO

もう一回戦えるドン!(白目)
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/15(木) 23:02:21.79 ID:nsYZvDUcO

コンマの引きの悪さが痛いなぁ
陽乃さんも本当に九尾に乗っ取られてるっぽいし若葉たちを信じるしかないか…
317 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/16(金) 21:50:31.74 ID:zO6rqFgDo

では少しだけ
318 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/16(金) 21:51:49.48 ID:zO6rqFgDo

陽乃「無茶をするわね、高嶋さん」

友奈「嫌な予感がしたんだ。だから、無茶でも押し通って来た!」

陽乃「そう……貴女は勇者ね。勇者と呼んでもいい勇者ね」

陽乃は悲しそうに零すと、

それが前準備であるかのように拳を何度かつくっては開いて、ため息をつく

ゆっくりと……ゆらりと。

影の揺らめきに似た動きで友奈達へと体を向けた陽乃は、

もう一度、構える姿勢を見せた

陽乃「見物に努めるのなら手は出さない。どうする?」

友奈「ただの模擬戦なら見物もいいかな……」

そう言って、笑うかと思われた友奈だったが、

少し離れたところにいる千景を一瞥して、首を振る

友奈「でもそうじゃなさそうだから、戦うよ!」

陽乃「残念……貴女を殺す理由はきっと、私にはなかったはずなのに」

友奈「え……」

若葉「友奈!」

友奈「っ!」

若葉の怒号にはっとする

そこにいたと思っていた

会話をしていたと思っていた陽乃の姿は、もう目の前にあって――

陽乃「気を抜いちゃダメじゃない」

陽乃の引き絞られた左拳が見えて、慌てて肘を下げる

その上から陽乃の左拳がめり込んで、友奈の体は軽々と吹っ飛んで壁に衝突した
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/16(金) 21:53:45.06 ID:yvb2ovsdO
高嶋さんまでもが…
320 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/16(金) 22:24:31.18 ID:zO6rqFgDo

友奈「ぁ゛……」

陽乃の拳が衝突した瞬間に体の内側から響いてきた危うげな音

だんだんと痛みを増していく右腕

痺れているかのように右腕は動かせず、ただ痛みだけが大きくなって

友奈「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

友奈は自分の右腕がへし折れてしまっているのを目にして、たまらず叫ぶ

流石に千切れてしまうほどではないが、使い物になりそうもない

それでも意識を保っていられるのは、不幸にも――勇者だからだろう。

若葉「くっ……」

陽乃「手は抜かないわ」

友奈「ぁ……ぅ……」

しかしながら、勇者とは言っても友奈もまた人間の女の子で

腕を折られた痛みにどうしようもなく戦意が失せていく

まるでそれが零れ落ちていくかのように友奈の瞳からは涙が零れていた

若葉はそれに気を向けてしまいそうになるのを請らて陽乃を睨む。

陽乃の移動速度ははっきり言って異常だ

離れた場所にいるのかと思えば肉薄していたり

手の届く距離にいたかと思えば、まるで届かない場所にいる

それはきっと、見ているからと安心できない異質な力によるものだろう
321 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/16(金) 22:37:45.71 ID:zO6rqFgDo

若葉「友奈、無理はするな」

友奈「うっ……うぅ……」

若葉も勇者としてある程度の痛みに耐える覚悟をしている

しかし、千景や友奈のような一撃を受けてなお正気でいられる自信はなかった。

若葉は3年前にもバーテックスの攻撃を受けているが、

生身でも死ぬことがなかった程度……と言える。

だが、陽乃は違う

陽乃の一撃は【勇者でも死ぬ】攻撃だ。

それは陽乃も勇者だからなのか

もっと別の何かだからなのか分からないが、殺されかねないということだけは断言できる

若葉「……久遠さん、まだ続けるか?」

陽乃「だって、まだみんな生きているじゃない。生きていると私の邪魔になる。だから――最後までやり遂げなきゃ」

若葉「そうか……」

千景は相変わらず沈黙しており、友奈は戦意喪失

今この場で戦えるのは若葉ただ一人だ

それはまだいい……と、若葉は切り替える

問題は、球子と杏のどちらか

あるいはその両方がここにきてしまうことだ
322 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/16(金) 22:56:28.32 ID:zO6rqFgDo

球子には楯があるため、

もしかしたら陽乃の攻撃を防いでくれるかもしれない。

しかし、楯は陽乃の攻撃が予見できなければ無意味だ

その隙を容易に打ってくるだろう

それでは友奈のように殴り飛ばされてしまうだけだ

杏は言わずもがなで

他よりも身体的に劣っているあの体で陽乃に攻撃されたら一撃で死んでもおかしくない

だから、これは若葉の役目だ

ひなたも信じてくれた、乃木若葉のなすべきこと

しかし――届く気がしなかった

援軍として現れた友奈ですら一撃で飛ばしてしまう、悪魔的な力に

陽乃「……乃木さん、邪魔が入っちゃったわね」

陽乃は友奈を殴り飛ばした左手を軽く振って見せると、

無駄なことをしたと言うかのようにため息をつく

陽乃「まったく……これ以上手間が増えるのは面倒ね」



1、友奈を狙う
2、若葉を狙う
3、ひなたを追いかける


↓2
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/16(金) 22:56:56.12 ID:vgnUr0W6O
1
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/16(金) 22:59:37.28 ID:yvb2ovsdO
2
325 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/16(金) 23:01:45.10 ID:zO6rqFgDo

↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1、7、4、2 命中
    3 回避
6、5、9、8 反撃

ぞろ目 特殊
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/16(金) 23:02:23.58 ID:vgnUr0W6O
そい
327 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/16(金) 23:16:53.23 ID:zO6rqFgDo

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であれば早い時間から


一刀両断
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/16(金) 23:27:40.81 ID:yvb2ovsdO

ここで若葉の反撃翌来るとはさすが頼れるリーダー
だけどあの高嶋さんの腕と心をへし折る九尾の力って相当ヤバいな…
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/17(土) 00:17:40.83 ID:hlptbP0bO

若葉頼りになるなあ
330 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/17(土) 20:55:06.62 ID:bFmEeZKno
では少しだけ
331 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/17(土) 20:55:54.59 ID:bFmEeZKno

若葉「ふぅ……」

若葉は深く息を吐いて、指の一つ一つに全神経を集中させながら、

腰に納めた刀の柄を握りしめる

抜刀状態での戦闘ももちろん可能だが、

陽乃の速さに確実に対応できるのは、幼いころから納めてきた居合の斬撃だけだ

若葉「私は貴女を諦めない……必ず、取り戻す」

陽乃「私は私なのだけど。そう、貴女はそう考えているのね」

陽乃は驚くほどに無表情で声にでさえ感情が感じられなかった。

どこからが九尾、どこまで九尾なのか。

一刀に切り伏せたとき、陽乃の体は無事でいられるのか。

不安ばかりの中で、若葉はその考えを頭から排除する

するべきことは一つ、救うこと

出来ることはただ一つ、全身全霊の一刀にて彼女から斬り祓うこと

若葉「来るなら来い。次は、切り伏せる」

そう宣言した若葉はもう一度深呼吸をして、目を閉じる

陽乃はそこにいるのにいないような霞のような存在と言える

であれば、視覚は不要だ

口を閉じ、呼吸を止めて周囲の空気の流れを感じ取る

ほんのわずかな乱れでも感じ取れなければ一瞬の差で敗北する

ゆえに、生命維持など不要だ
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/17(土) 20:59:19.49 ID:r3Gg8DeK0
あいよー
333 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/17(土) 21:19:37.69 ID:bFmEeZKno

生大刀とされたこの刀

国と子の守護の為に、大敵に立ち向かうことができたかの王の神器であるならば――

守らせてくれと。

若葉は己の全てをただ一刀に込めていく

陽乃「……まったく」

陽乃は雰囲気の変わった若葉を見つめると、目を細める

正直に言ってしまえば、待ちに徹している若葉を狙う必要は陽乃にはなかった。

まだ無事なのは若葉のみだが、友奈だってまだ生きている

身構えている若葉の隣で友奈をより痛めつけても良かったのだ

しかし、しかし――だ。

ここで標的を変えるのは、陽乃自身が許せない。

あの娘は確実に勝利できると自負している

それはあまりにも傲慢だろう。

陽乃「殺してあげる」

若葉「……来るなら来いと、言ったはずだが?」

陽乃「はぁ……」

陽乃のため息が少し離れた場所で聞こえる

ミシリと、床が軋む。

そして――

陽乃「ふっ!」

次の瞬間には、耳元にも感じる距離で陽乃の声が聞こえた
334 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/17(土) 21:45:07.83 ID:bFmEeZKno

若葉「っ!」

陽乃が近づいてきたような空気の流れは感じなかった

ミシリと軋んだあの音だけが、陽乃の動きを感じられるただ一つの情報だった。

では今、耳元で聞こえた声は何なのか。

本当に陽乃の物なのか。

若葉は引き抜いてしまいそうな手を抑え込む

いや、違う。

まだだ

まだ、そこに陽乃はいない

そして空気が揺れた瞬間――

若葉「っぇあッ!」

少女らしさの欠片もない闘気に満ちた声を上げて、

己の全てを込めたただ一刀を抜き放つ

生大刀とされたこの刀

国と子の守護の為に、大敵に立ち向かうことのできたかの王の神器であるならば

守らせたまえ――そう、祈り、願い

刀には確かな感触が伝わって来た

陽乃「ぐ――」

若葉「うぉぉぉぉっ!」

強い抵抗力を受けて、なお……若葉は全力で斬り払う。

手を抜けば自分が殺される

友奈も、千景も、そしてきっとひなたたちも

なにより――陽乃を救うために躊躇はなかった。
335 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/17(土) 22:09:11.15 ID:bFmEeZKno

完全に斬り払った腕から重さが消えて、若葉は目を開く

すぐ目の前にいた陽乃は、

腹部を押さえ、よろめきながら後ろに下がっていく

そうして、不意に膝をついて――

陽乃「ふっ……く……ふふふっ、あははははははははっ」

若葉「っ!」

陽乃「……これは……あはははっ」

高笑いする陽乃の腹部はだんだんと赤く染まる

どこまで深く裂かれたのか、

ジャージの裾を染めていった血は下までも侵食し、やがて鍛練場の床にまで広がっていく

ぐぷ……と、不快な音が聞こえた

陽乃「はははっ……なるほど、そう。やってくれるじゃない……」

若葉「なん……」

陽乃はそれでも、ゆらりと立ち上がる

まるで操られている人形のように、

血を滴らせながら立ち上がった陽乃は抑えていた腹部から手を離す。

圧迫されていた分の血の流れが戻ったせいか――流れ出る血の量が多くなって

僅かに臓器が顔を覗かせた

それでも立っている、笑っている

血塗れの少女は――あの日見た勇者ではなく

まさしく、化け物そのものだった
336 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/17(土) 22:12:08.92 ID:bFmEeZKno

↓1コンマ判定 一桁

0 00 最悪
1〜2 悪い
3〜6 普通
7〜9 良い 
ぞろ目 最良
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/17(土) 22:13:48.93 ID:HKlmEEw8O
338 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/17(土) 22:53:11.31 ID:bFmEeZKno

陽乃「はぁ……ふふっ、残念」

陽乃はそう言って笑みを零すと、ふっと糸が切れたかのように崩れ落ちていく

若葉「久遠さん!」

慌てて駆け寄って、倒れる前に抱きとめる

陽乃は気を失ってはいるものの、息はある

だが――

若葉「なっ……」

若葉が斬り開いてしまったはずの腹部の傷は一切なく、

流れていたはずの血の跡もない

ただ、ジャージが引き裂かれたようにお腹の辺りが見えてしまっているだけだ

若葉「あの一瞬で怪我を治したのか……?」

友奈「若葉……ちゃん」

若葉「友奈?」

腕を庇いながら近づいてきた友奈は、

陽乃が気を失っているのを見ると、辛そうに首を振る

友奈「腕、動かないけど……大丈夫みたい」

若葉「どういう……」

友奈「多分、そこまでが久遠さんの力なんだと思う」
339 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 00:04:30.19 ID:Z9qlIiLCo

へし折れて二度と使い物にならなくなったかのように見えた友奈の右腕

暫くは痺れて動かせそうにないのは変わらないが、

二度と動かせないほどに酷い状態ではなかった

友奈「なんか、それを見ちゃったら凄くずんっと気分が重くなっちゃって……」

若葉「……そうか。郡さんは?」

友奈「ぐんちゃんも、多分大丈夫……気を失ってはいるけど」

若葉「血は?」

友奈「血?」

友奈は不思議そうに言うと、少し考えるように眉を顰める

若葉が干渉するなと叫んだので、触ったりはしなかったのだろうけれど

若葉が見たとき、千景は非常に危うい状態で血も吐いていた

そんな状況を見たなら「血は?」と言われればすぐに気が付くはず。

そうではないということは、その吐血でさえ偽りだったということだろう。

若葉「いや、大丈夫ならいいんだ……大丈夫なら」

ほっとようやく安どのため息が零れたところで、

外から数人の足音が聞こえてきた。

球子「うぉわっ!? なんだこれ!?」

杏「一人で先に……あっ」

若葉「間に合わなくてよかったよ……こっちは片が付いた。みんな無事だ」
340 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 00:15:12.29 ID:Z9qlIiLCo

球子たちが合流してからすぐに、ひなたと共に医療班の人たちが大勢駆けつけてきた。

千景は気を失っているもの、若葉が疑った臓器の破裂といった最悪の事態もなく、

多少の打撲痕が腹部に見られる程度だった。

友奈に関しても、強烈な打撃によって一時的に麻痺しているだけだったようで、

すぐに動かせるようになっていき、大きな問題はないとのことだった。

陽乃に関しても、やはり体には傷一つ存在していなかったらしい

しかし、暴走のようなことも起こったからか

別所で一時的に入院させる必要がある――言ってしまえば隔離されることとなった。

ひなた「若葉ちゃんっ」

若葉「ああ、すまないひなた」

ひなた「いえ、いえ……無事だったなら。それで……」

念のためにと検査した若葉も、問題はなく

検査室から出た途端に、ひなたに抱きしめられてしまう。

球子と杏の二人がいないことを確認してから、若葉はひなたの体を優しく抱きしめる

若葉「彼女の殺意は間違いなく本物だった。だが、本当に殺す気はなかったのかもしれないな」

ひなた「それは、どういう……」

若葉「少なくとも久遠さんは私達を殺したくなかったのだろう。そのお陰で、彼女のために動く九尾も私達を殺せなかったんだ」
341 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 00:47:45.84 ID:Z9qlIiLCo

若葉はそういうと、しかし……と表情を暗くする。

彼女が叫んでいた言葉が全て偽りだったとは思えない。

久遠陽乃という少女を、大社は敵視している

この国に生きる人々の一部は彼女の家系が人柱になるべきであるという噂を信じ、

そして、彼女たちが生きていることを憎んでいる

それゆえに勇者ともそりを合わせることが出来ず、孤独になるほかなかった。

若葉「私は、彼女を勇者だと思っている」

ひなた「知っています」

しかし、大社も民衆も彼女を認めない。

彼女を化け物と、悪と、バーテックスと。

それらと同類であるかのような扱いをしている。

陽乃はそれをぐっと堪えているけれど

陽乃を苦しめている存在を、陽乃が望まないからと九尾がいつまでも許してくれるとは限らない。

若葉「このままでは、久遠さんはともかく九尾が人を殺める可能性がある」

ひなた「その可能性は……きっと、今回の件で大社も抱いたと思いますし、手は打ってくると思います」

若葉「嫌な予感しかしないな」

ひなた「そうですね……裏目に出ないと良いですが」

困ったように言うひなたの耳元に、若葉は口を近づける

若葉「……なんとか、手を回せないだろうか?」

ひなた「簡単にはいきませんよ。久遠さんはもう、ただの要注意人物ではなくなってしまいましたから」
342 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 00:48:31.64 ID:Z9qlIiLCo

では途中ですがここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから。
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 01:57:55.79 ID:MO0baI5NO

千景ともさらに拗れちゃったなあ
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 07:06:06.96 ID:RmVBl/bZO

なんとかこれで陽乃さんの闇墜ちモードは解除か
理解者の若葉の存在が生命線だな
345 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 15:06:39.63 ID:Z9qlIiLCo

では少しずつ
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 15:10:15.90 ID:IuS33zNFO
よっしゃ
347 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 15:17:41.13 ID:Z9qlIiLCo
↓1コンマ判定 一桁

0 00 2日経過
1〜2 夜 
5〜7 8/1 朝
8〜9 8/1 昼
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 15:30:09.22 ID:q5Zb3Yo/O
349 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 16:03:07.75 ID:Z9qlIiLCo
√2018/07/31 夜 (某所)


地の底にいるかのような、

全身が窮屈に締め付けられる中で必死に藻掻く感覚

もう体が動かないと思うほどに酷使したあの日にも感じたのと似ている

けれど――違う。

陽乃「ぅ……」

目を開くと、天井とカーテンレールが見えて

自分が病室にいるのだとおぼろげな頭で察する

外側から内側へと

何か細く

しかし、鋭利ではないものを差し込まれようとしている痛みを覚えて顔を顰める

陽乃「……なに、これ」

合間合間を縫うかのように体に纏わりつく拘束感

陽乃の身体は病院のベッドに縛り付けられており、

腕を上げることすらできそうになかった。

「あぁ、お目覚めになられましたか。久遠陽乃様」

陽乃「だ、れ……?」

長く眠っていたわけではないはずなのに、声が酷く掠れてしまう

陽乃の傍に用意した椅子に座っていた看護師の女性は、

心配そうに顔を顰めて、自分の唇に人差し指を当てた。
350 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 16:56:37.10 ID:Z9qlIiLCo

「本日早朝、久遠様は乃木若葉様立ち合いのもと、郡千景様と模擬戦闘を行ったと伺っております」

陽乃「え、ええ……」

「その最中、久遠様が郡千景様を意識不明とし、高嶋友奈様を一時戦闘不能に追い込み、
乃木若葉様が久遠様を止められた……というのが、略式ですが経緯となります」

看護師はやや機械的な口調で陽乃が運び込まれた理由を説明すると

陽乃の体の拘束具に軽く触れる。

よくある革製のベルトのほかに、ご丁寧に金属製のものも使われているようで、

ジャラジャラとした音が聞こえた

「ほかの勇者様を害したことで、申し訳ありませんが一時的に拘束させて頂いております」

陽乃「一時的……って」

「安全が確認されるまでですね」

陽乃「……そう」

何が起こったのか、陽乃は覚えがない。

千景と模擬戦を行っている最中に、何か嫌なものを感じて

全身が熱くなって、そのまま意識が燃え尽きてしまったような感覚に溺れて

気が付いたら病院のベッドの上だった。

意識がないはずの自分が戦闘を継続していたということは……九尾だろう。と、

陽乃はだんだんと戻りつつある頭の回転を緩やかにしていく
351 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 17:29:33.26 ID:Z9qlIiLCo

陽乃「三人は?」

「……ご無事、ですよ」

看護師は何を思ったのかやや顔を顰めたが

すぐに改めて無表情になっていく

千景はまだ目を覚ましていないが、腹部に痣が残っている程度で

それもしばらくしたら消えるだろうとのことで、

友奈に至っては数日無理は控えるべきだと言われているものの、

麻痺してしまった右腕は動かせるようになったそうだ。

若葉に関しては、傷を負っていないというのだから……陽乃は思わず安堵のため息をついた

陽乃「乃木さんには感謝してもしきれないわ」

「そうですね、乃木若葉様が居られなかったら、今頃勇者様二名がお亡くなりになられていたかもしれません」

陽乃「………」

そうだ。

若葉が阻んでくれたとは言っても

陽乃が覚えていないと言っても

人々にとっては、陽乃こそが勇者を殺害しようとした最悪の存在なのだ。

看護師の感情を削いだような表情の中、瞳にだけは怒りが感じられる

憎悪が感じられる。

なぜおまえなんかを……という、嫌悪感を感じる


1、ごめんなさい、私が悪かったわ
2、そんな感情を向けると、殺されてしまうわ
3、本当にね、どうして私が勇者なのか不思議よね
4、ずっとこのままにするくらいなら、いっそ追放してしまえば良いんじゃない?


↓2
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 17:31:08.31 ID:duK7FkfzO
Ksk
安価なら上か下
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 17:31:12.26 ID:6dJbaFKA0
3
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 17:32:14.33 ID:DV/IygrKO
1
355 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 17:49:13.09 ID:Z9qlIiLCo

陽乃「本当にね、どうして私が勇者なのか不思議よね」

「……久遠様は勇者とされているだけです」

陽乃「知ってる」

「ご自身の御力が危険だと、理解されているのですか?」

陽乃「十分、理解しているつもりよ」

とは言うが、陽乃も九尾の力の全てを理解しているわけではない。

あくまで、その力が危険であることは間違いないと確信しているだけだ。

陽乃「でも郡さん達が死ななかったって言うことは、勇者を殺す力はないのかも……」

「そうとは限りません」

看護師は陽乃の言葉を瞬時に否定した。

さっきまで無機質にも感じられた声には怒りが滲んでいる

陽乃以外の勇者たちはみんな、世界の期待を一身に背負っている。

希望を託されている

そんな少女たち、たった5人の内2人を殺害しようとしたのだから仕方がない。

陽乃はそう考えて、諦念を持って言葉を飲み込む

陽乃「ごめんなさい。そうであって欲しいってだけだったの……軽はずみに祈るべきじゃなかった」
356 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 18:19:17.68 ID:Z9qlIiLCo

陽乃は別に看護師をこれ以上憤らせたいわけではない。

可能な限り言葉を選ぼうとも思っている。

しかしながら、陽乃の言葉というもの自体が気に入らないように感じた。

それは気のせいではないだろう。

陽乃に付き添って説明しているということは、

彼女も大社の息がかかった人員とみて間違いなく、

謝罪を口にしたところで、彼女は受け入れてはくれない。

陽乃「私だって、ただの女の子でいられるのなら居たかったわ」

本当ならそうあれるはずだったのに。

3年前のあの星が落ちてきた日、それは儚い夢と散っていった。

生き残るためには力が必要だった。

友人を護るためには縋りつくしかなかった。

浅はかだと言われても仕方がない

けれど、それ以外に選択肢はなかったのだから、仕方がない

陽乃「……貴女達にとっては悪魔の力でも、私にとってはこれだけが救いだった」
357 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 18:44:59.41 ID:Z9qlIiLCo

友人となれたであろう勇者達を傷つける力だろうと、

民衆に忌み嫌われる力であろうと、

こうして、拘束される結果に至る要因であったとしても

陽乃にとっては、守るための力

陽乃「……理不尽だわ」

力の脅威度ゆえ、

周囲から蔑視されることを仕方がないと言っても、

それはバーテックスのように理不尽な話だ

不満が募る

怒りがふつふつと湧いて来る

ガシャンッ! と、拘束する鎖が勢いよく跳ね上がって、

驚いた看護師が椅子から転げ落ちて悲鳴を上げる

陽乃「あ……ごめんなさい」

「や、やはり……貴女は……危険です……っ!」

陽乃「つい体を動かしちゃったのよ」
358 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 19:07:18.36 ID:Z9qlIiLCo

久遠様とさえ言わず、

貴女と言った看護師は立ち上がることも出来ずにずりずりと距離を取っていく

そこまで怯えなくてもとは思うのだが

拘束具を引きちぎるような勢いで体を動かそうとしては

普通の人なら怖いのだろう。

特に、陽乃のような人が相手なら……

陽乃「大丈夫よ、流石に引きちぎれたりはしないから」

身体的な拘束衣に加えて、金属製の鎖

どう考えても、過剰と言える

若葉達には見せられないだろう

陽乃「……そんなに怯えるなら、傍に居なければよかったのに」

「わ、私だって……貴女なんて……ッ」

陽乃「………」

頭を上げられないせいで看護師の顔は見えないが、

嫌っていることだけは、言葉でも声色でもはっきりとわかった


1、目を覚ましたのだから報告にいけばいいじゃない
2、脅されたって逃げて良いのよ
3、ごめんなさい
4、私だって、貴女達のような人を守りたくない
5、言葉には気を付けて。私は良くても許さない人がいるから


↓2
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 19:10:09.03 ID:6dJbaFKA0
ksk
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 19:12:04.32 ID:DV/IygrKO
3
361 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 19:48:00.34 ID:Z9qlIiLCo

陽乃「……ごめんなさい」

陽乃は彼女に危害を加えていない。

しかし、陽乃は謝罪を口にした。

そうしたほうが穏便に済むと思って

自分が我慢したらいいだけだと思って。

それは、陽乃が独りぼっちだからではなく

大社によって母が守られているからだ

陽乃「私が悪かったわ」

「………」

看護師は陽乃に対して何も言わず、

暫く沈黙が続いた後、おもむろに立ち上がる。

見えた表情は暗く、何かを言いたげに口元が固く結ばれていた。

陽乃「見ての通り、私はこんな状態だから。何かしようと思えばあなたでも出来る」

「……したら、殺すのでしょう?」

陽乃「貴女のしたことによると思うわ。私はね」
362 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 20:06:25.88 ID:Z9qlIiLCo

陽乃は何かされたって殺すとまでは考えたくないと思っている。

母に手を出されるのならともかく、

自分に関しては仕方がないと割り切って、耐えれば良いと陽乃は考えていた。

それで、少しでも誤解を解いてもらえるのなら

母が危険な目に遭う可能性が低くなるのなら……と

生き残るために、我慢をするつもりだった。

「……ひっ」

けれど――彼女は、そうではない。

看護師の悲鳴が上がって、目を向ければその姿は真っ黒に染まっていた。

「ぁ……あっ……」

目を見開いて、

口元を押さえて……やがて、膝から崩れ落ちていく

それでも真っ黒な何かは消えなかった

『他愛もないのう?』

陽乃「出てくると思ったわ」

世界を闇に染め上げている九尾は、

影だからなのか、九つの尾を持つ妖狐の姿をしている。

一般人である看護師には、刺激が強かったに違いない
363 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 20:34:00.21 ID:Z9qlIiLCo

陽乃「貴女のせいで散々だわ」

『主様が甘んじておるからよ。あまりにも……不甲斐なかろう』

陽乃「だからって……」

『あんな小娘共処分してよかろうに』

九尾は口惜しそうに言う。

陽乃が千景たちを必要としていなければ、

九尾は容赦なく、殺していたことだろう。

九尾の尾が動くたびに、ばさりばさりと床を叩く音が聞こえて、

陽乃を囲うカーテンが揺らめく

『何故、主様が耐えねばならぬ……害をなすならば、阻むならば消せばよい』

陽乃「やめて!」

『……この人間でさえ、主様は生かそうというのかや?』

九尾の尻尾の一つの影が倒れ伏している看護師へと伸びると

そこには何もないはずなのに、看護師の体が浮き上がる

四肢をだらりと下げて、気を失っている

影は看護師の身体ではなく、首に上っていくと――ぎゅっと、絞めた

「――ぁ゛っ」

気を失っていた看護師は無理矢理に意識を絞り出され、

息苦しさにじたばたと暴れだす。

「あ゛っ、がっ……ぉ゛っ、あ゛ぁ゛っぁっ!?」

陽乃「やめて……やめてやめて、やめてっ!」
364 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 20:47:54.68 ID:Z9qlIiLCo

絞め殺される寸前のような、醜い声が看護師の声から洩れていく

もはや意図せず、無造作に振り回される足、

首を絞める何かを掴もうとして

けれど、虚しく空を切るだけの両手

「ぉ゛あ゛……ぅ゛ぶっ……!」

びくんっと、ひと際大きく跳ねた看護師の体は、

不意に、鈍い音を立てて床へと落ちる

「ぁ゛っぇ゛っ……げほっ、げほっ……」

陽乃「大丈夫……?」

「……の……」

陽乃「あの――」

「化け物ッ!」

叫んだ看護師は、逃げ出そうとして勢いよく立ち上がるそぶりを見せたが、

何かに足を取られ、陽乃の視界から消えた途端にゴツンッと音が聞こえた

額を打ったのか、看護師はうめき声を最後に沈黙した

『この娘は主様が眠る間、このまま死ねばよいと願っておった。殺してしまおうかと考えていた』

陽乃「っ……」

『それでも主様は生かすべきと、そう……考えておるのかや?』


1、生かすべき
2、死んでもいい
3、………


↓2
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 20:53:27.45 ID:6dJbaFKA0
1
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 20:54:32.83 ID:FtSdJdKgO
1
367 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 21:12:08.95 ID:Z9qlIiLCo

陽乃「生かすべき……と、思うわ」

『主様が死することを願う非道な生物じゃぞ』

陽乃「貴女が言ってることが事実とは限らないわ」

『……ほう』

陽乃「何より、私は人を助けたくて貴女の力を借りたの。殺したいわけじゃない」

狐の形をした影が、陽乃をじっと見つめるように頭を動かす

九つの尾が立って広がる

その大きさはカーテンからはみ出していくほどだ

『甘いのう』

陽乃「……分かってる」

『主様の親類縁者を贄と捧げた存在も、それらに謀られる愚かな人間共も。主様は生かすと?』

陽乃「今の私は、そう思ってる」

九尾のため息がカーテンを浮き上がらせて、

そこに映っていた大きな影はそれに吹き飛ばされたかのように消える。

陽乃「そう、今の私は……思ってる」
368 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 21:24:30.49 ID:Z9qlIiLCo

心の中にある憎しみ

それが少しずつ大きくなっているのを陽乃は感じている

けれど、まだ大丈夫だ

きっとこれからも大丈夫だ

どれだけ憎まれようと

どれだけ恨まれようと

どれだけ蔑まれようと

いつか、すべてが終わったとき

母親の前で誇れる自分でありたいと、思っていたからだ

陽乃「……大丈夫、まだ、頑張れる」

目を閉じる

熱くなっていく目頭を陽乃はどうにもできなくて、

誰も拭ってはくれない涙が伝い落ちる

辛い、苦しい、悲しい

けれど、それでも。

陽乃「っ……」

陽乃は唇を噛みしめて

固く、固く……目を閉じた
369 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 21:30:49.58 ID:Z9qlIiLCo

↓1コンマ判定 一桁

0 00 

※それ以外は問題なし
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 21:31:08.19 ID:Gc44ZxuWO
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 21:34:19.86 ID:duK7FkfzO
あっぶな
372 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 21:40:56.86 ID:Z9qlIiLCo

1日のまとめ

・ 乃木若葉 : 交流有(模擬戦、暴走、とても悪い)
・上里ひなた : 交流有(模擬戦、暴走、とても悪い)
・ 高嶋友奈 : 交流有(とても悪い)
・ 土居球子 : 交流有(とても悪い)
・ 伊予島杏 : 交流有(とても悪い)
・  郡千景 : 交流有(模擬戦、暴走、とても悪い)
・   九尾 : 交流有(生かしたい)


√ 2018/07/31 まとめ


 乃木若葉との絆 57→56(普通)
上里ひなたとの絆 56→55(普通)
 高嶋友奈との絆 50→49(普通)
 土居球子との絆 40→38(悪い)
 伊予島杏との絆 45→43(普通)
  郡千景との絆 24→21(険悪)
   九尾との絆 60→59(普通)
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 21:54:08.76 ID:Gc44ZxuWO
千景たちは仕方ないけど九尾も下がるのか…
374 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 21:56:39.42 ID:Z9qlIiLCo

√ 2018 8月 1日目 朝 (某所)

01〜10 九尾
31〜40 若葉 ひなた
81〜90 若葉

↓1のコンマ

※それ以外、無し
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/10/18(日) 21:57:56.02 ID:Gc44ZxuWO
376 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2020/10/18(日) 22:07:16.13 ID:Z9qlIiLCo

では少し早いですが、ここまでとさせていただきます
明日もできれば通常時間から


8月交流―拘留―期間、選択により短縮
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