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【安価】ウィン「リリウム魔法学校へ! 7……ナナ?」【百合】

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969 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 00:14:48.46 ID:WkSiPg/aO
完結後は何か予定ある?小ネタとか新スレとか
970 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 01:10:37.91 ID:GfIDD9AK0
乙です。最終決戦特有のインフレがすき
971 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 10:34:54.46 ID:c5lSD2njO
乙乙
972 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/05(月) 12:04:50.92 ID:Dix56R2nO
スフィアの世代の不死鳥が全部悪魔になったって話は回収されるのかね
973 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/05(月) 23:19:10.66 ID:ieIswIzSo
>>969
完結後はできる限りの小ネタやアフター話を書こうと思っています!
974 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/13(火) 11:37:06.63 ID:eN2qiO7zO
書き溜め終わってるかな?期待
975 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/04/13(火) 14:58:43.42 ID:dC9gmJE70
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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976 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/14(水) 14:36:57.97 ID:fbuwqqmnO
復旧したの気付いてるかなぁ
977 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 20:32:40.84 ID:j2OzgBd4o
新スレ立てました!
【安価】クロエ「リリウム魔法学校へ! これで最後!」【百合】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1618398982/

このスレの残りはウィンの過去話、時雨の過去話を投下したいと思います
978 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:07:39.06 ID:j2OzgBd4o
エピソードゼロ ウィン・フォルクス

〜〜〜〜〜

ボクは、昔からマホリオが大好きだった。
ド派手な魔法! 意表を突く攻撃! 考えられた作戦!
どんな試合でも喜んで見ていたし、再放送だろうと構わずテレビにずっと釘付けになっていた。

『プロも絶賛! のびーるマジックチョコ!』

マホリオ選手が出ていれば、どんなに長いCMだって気にならない。それほどボクはマホリオが大好きだった。

「ウィンー。収穫祭に行くわよー」

「あ、はーい!」

しかしこの日は収穫祭だった。後ろ髪をひかれる思いでテレビを消し、お母さんの後について家を出ていく。

街中に近づくほど祭りは賑わいを見せ、魔獣の格好をした人ともたくさんすれ違う。
今日のボクは憧れのトッププロのレプリカユニフォームを着ている。魔獣化の魔法を使う、変身魔法がかっこいいトッププロ。ポーチに杖も入れて準備万端だ。
魔獣や悪魔の格好をした人にもお菓子を分け与えることで、人間だけでは消費できないほどの作物の豊穣を祈願する。それが豊穣祭。
だから、ボクは魔獣化プロの格好をしている。
格好だけだけれど、とても強くなった気がする!

「ふふーん♪」

「嬉しそうねえ」

お母さんが笑いかけてくる。

「だってプロの格好ができるんだもん、嬉しいよ!」

もふもふと犬耳帽子を揺らしながら答える。
お母さんは笑みを深めて、頭を撫でてくれた。

「それじゃあ出店を見て周りましょうか」

「うん!」

ーーーーー

ーーー

979 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:08:19.59 ID:j2OzgBd4o
綿あめ、缶ジュース、パンプキンケーキ。
いろいろなお菓子を食べて飲んで公園で一息。
ふとぶるりと体を震わせて、お母さんの裾を引っ張る。

「おしっこ……」

「あら……ジュースたくさん飲んだものね。この公園は確か公衆トイレが……」

キョロキョロと見回せば、確かに公園の角にトイレがあった。

「ひとりで行ってくる!」

子供ながらの見栄を張り、一人でトイレへ。
何事もなくトイレから出た時、トイレの裏……ちょっとした林の方へ向かう女の子が見えた。

「そっち行くと危ないよ!」

「!」

後ろから声をかけるとその子は青いショートヘアーをふわりと跳ねさせ驚いて振り返った。
暗い中でも目立つ紅い瞳がパチクリとしている。

「こんなに暗いのに森の中に入ったら怪我しちゃうよ」

「で、でもお母さんがいなくなって……さっきはあっちにいたから……」

どうやら迷子らしい。となるとボクのとる手段は一つだった。

「ならボクも君のお母さんを探すよ! まずはボクのお母さんのところに行こう!」

「いいの……?」

「うん!」

ちょっとしたお姉さん気分で林から出ようとした時、背中に冷たい感覚が走り抜けた。
女の子の手を引っ張って一気にしゃがみ込む。

「ホォー!」

直後しゃがんだボクらの真上を何かが通り抜ける。
暗くてよく見えないが、どうやら鳥の魔獣がいるらしい。
木々の中で一際甘い匂いを漂わせているボクらを餌だと思っているのか、ひりひりとした視線を感じる。
980 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:09:54.99 ID:j2OzgBd4o
「ボクの後ろにいて」

「あ、危ないよ……!」

女の子を背中に隠し、ポーチから杖を取り出す。
魔獣化はできなくていい。でも今は、今この時だけはあのプロのように……!

「へん……しん!」

「ホォーー!」

自分に喝を入れると同時に鳥が飛んでくる。
避ければ女の子が襲われるだけだ。それはできない。
ならば。

「魔弾【シュート】」

「ギャオーッ!」

努めて冷静に、杖から魔法を放出する。
バチリと魔法が当たった感覚。次いでどうっと地面に何かがぶつかった音。

「たお……した?」

ぷしゅうと自分の中から力が抜ける感覚があった。
集中しすぎて、緊張の糸が切れたようだ。

「おーい、ウィンー?」

待ちかねたのか、お母さんがベンチからこちらにやって来た。
そして腰が抜けたボクと倒れた魔獣を見つける。

「……こら、ウィン! 魔獣と戦ったの!?」

「うっ、だ、だって急に襲われたから……!」

「近くに私がいたんだから走って逃げていいのよ! もう! ケガはない!?」

怒りつつも心配してくれるお母さん。
その光景を見ていた女の子が口を開く。

「あ、あの……その子は私を守ろうとして……」

「……ウィン、そうなの?」

「うん。だってこんな暗い中でこの森を走り抜けようとしたから、危ないと思って声かけたんだよ」

「そしたら魔獣さんに見つかったみたいで……ごめんなさい!」

事実を伝えると、お母さんはしばらく呆然としていた。
そして少しして。

「……そっか。ウィン、よくやったね」

今度は褒めてくれた。それがすごく嬉しくて、ついついぎゅっと抱きついてしまう。
981 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:12:13.25 ID:j2OzgBd4o
「あなたはどうしてこの中を通ろうとしてたの?」

「ま、迷子になっちゃって……さっきまでお母さんとあっちにいたから戻ろうと……」

「ね、お母さん。一緒にこの子のお母さん探してあげようよ!」

「そうね。無視はできないもの」

お母さんはとっても優しい。迷子の子を見捨てるなんてことはしない。
左手でボク、右手で女の子と手を繋いで、女の子のお母さんを探し続けた。
街の案内センターでスピーカー魔法を使って呼びかけて、やっとお母さんと会えた女の子は大泣きだった。

「この度はうちの娘がとんだご迷惑を……!」

「いえいえ、探してる最中は泣きもせずにご立派でしたよ」

「ほら、謝りなさい」

「ごめんなさい……! ありがとうございました……!」

ぺっこりと頭をさげて謝り続ける女の子。
それを見てボクは、自分のポーチからお菓子を取り出した。

「これあげる!」

「え……」

「豊穣祭、全然お菓子もらえてないでしょ? ボクのお気に入りあげるから元気だして!」

女の子の手にそれを握らせる。
のびーるマジックチョコ。
CMでもやっている、大人気のお菓子。

「あ……ありがとう……」

「ん!」

申し訳ないという表情から笑顔に。
女の子のその花が咲いたような笑顔はとても素敵で、綺麗だなって思った。
女の子と別れて背中を向ける。せっかくだからお名前くらい聞いとけばよかったかな。また会えたらいいな、そう願わずにいられない。

「ナナ。私達も帰りましょうか」

「うんっ」

それが、歩き始めていたボクが聞きとれた最後の会話だった。

ーーーーー

ーーー

982 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:13:26.62 ID:j2OzgBd4o
「へーんしん!」

ボクはそれから、魔法を使うときには必ず「変身」をするようになっていた。
あの時の集中力が呼び戻されるようで、学校でも魔法の成績が上がっていった。
そうなると魔法を撃つのが楽しくて、毎日魔力が空っぽになるまでマホリオの練習をしていた。
ある日は同級生と。ある時は上級生と。あるいは大人に混じってマホリオをすることもあった。
小学校を卒業する頃には、同級生では誰もボクに魔力の量でも質でも敵わなくなっていた。
中学校でもそれは変わらず。
ボク自身も変わることはなく、マホリオが大好きで、毎日マホリオの練習と称して近所のスタジアムや練習用フィールドに出かけていった。

「へへ〜、今日もボクの勝ち〜」

「いやー! ウィンちゃん最高! プロになれるわ!」

時々お母さんが見に来て、そのたびに熱烈な応援をしてくれた。
中学校大会でも勝ち続けて、でも中にはボクみたいに強い子もいて。やっぱりマホリオは楽しくてやめられそうになかった。
そしてボクは魔法の名門、リリウム魔法学校に入学することになる。

「よいしょ。君が同室の子かな? よろしくね〜?」

「はい、よろしくお願いします!」

寮に引っ越した日には、すでに同室の子は準備を完了させていた。どうやらしっかりした子らしい。
その子は青いショートヘアーをふわりとさせて、紅い瞳を細めて笑う。

「ウィン・フォルクスって言うんだ〜。将来の夢はマホリオのプロになること〜」

「私はナナ。ナナ・ヴァーミリオンです。将来の夢は……まだ分かりません。けど、ここでたっくさん魔法の勉強がしたいです!」

これがボクの今までのお話。
マホリオが好きで、それは今でも変わっていない。
マホリオが強くなったのは、あの女の子がいてくれたおかげ。
今でも強くなれるのは、最愛の人がいるからこそ。
今までも、これからも、好きなもののために戦い続ける。
それがボク、ウィン・フォルクスの人生だ。
983 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:17:19.97 ID:j2OzgBd4o
ウィン編はここまで

なお数年後、ナナと「昔豊穣祭で出会った女の子の話」をして、お互いに「あの時の女の子!」ってなります。
984 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:25:59.22 ID:j2OzgBd4o
エピソードゼロ 早川時雨

〜〜〜〜〜

私にはリリウム入学当初、気に食わない奴がいた。
いつものほほんと眠たそうな目をしていて、まとった空気もマイペースそのもの。
なのに周りの人は皆羨望の眼差しで見つめ、あげく「天才」やら「神童」やらと崇めている。
それがどうも面白くなかった。

「ナナ〜、食堂どっちだっけ〜」

「こっちですよ。一緒に行きましょうか、ウィンさん」

今だって目の前であくびを噛み殺しながら迷子になっている。
こんなゆるい奴が尊敬される理由が分からない。

「……」

ふとその眠たげな眼差しがこちらを向いて止まった。

「……ねえ君。ボクとマホリオで戦わない?」

「な……」

すう、と細められる目。まとった気配がにわかに、かつて剣道の大会で味わったような鋭いものに変わっている。

「ダメですよ、もう。寝起きでふらふらなんですから、まずは朝ごはんです。あなたも汗をかいてるところを見るに、朝練かなにかをしてきたんですよね? そんなところを呼び止めてすみません。早く汗を流したいですよね」

隣の少女がぺこぺこと頭を下げながら謝る。
どう答えるか迷っているうちに、ほら、食堂はこっちですよと背中をぐいぐい押して歩いていってしまった。

「……なんだったんだ……あの気配は」

呑気な彼女からは想像もつかない、ひりつくような気配。
……ぞくりとした寒気が体を震わせた。
985 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:26:27.65 ID:j2OzgBd4o
その後もことあるごとにそいつの姿は見ていた。だが、あの時感じた鋭い気配は見ることがなかった。
気のせいかとも思ったが、私にはどうもあの時の視線を忘れることができなかった。
そして、その日は訪れた。

「今日は合同体育か〜」

「レクリエーションみたいですよ。いろんな人と魔法を撃ち合って、同級生がどんな魔法を持ってるか確かめながら交流を深めるらしいです」

クラスをまたいだ、一年生同士での体育の授業。
その最中も私は彼女のことを見ていた。

「それじゃあいきますよ。魔弾【シュート】!」

この間も隣にいた少女がシュートを放つ。
ぽひゅうと飛び出たそれはものの数秒で空気に溶けて消えてしまった。

「じゃあ今度はボクの番だね〜」

にこにこと笑っていたそいつの顔から笑顔が消えた。
やった動作は杖を構える、それだけだ。
たったそれだけでまとった空気が一変し、あの時の鋭い気配がやってくる。

「魔弾【シュート】」

少女に当たらないようにと放たれたそれは、私が今まで見たどのシュートよりも力強く、そして綺麗だった。

「こんな感じ〜」

「す、すごいですウィンさん!」

次の瞬間にはケロッと元の雰囲気に戻っていた。
だが、あの一瞬だけ見せた気配。
あれは間違いなくあの朝感じたものと同じだった。

「ウィン・フォルクス……か」

「時雨さーん、魔法撃ってよー」

観察に夢中になっていた私に、組んでいた同級生から声がかけられる。
一言謝ってから私も魔法を撃つ。

「剣戟・飛燕!」

剣に光を集め、己の前面を斬る。
斬撃がごうっと飛び、燕のような形で突き進む。
光魔法を応用した自己流の魔法、剣戟と名付けたそれが私の得意魔法だった。

「時雨さんの魔法かっこいいー!」

「そ、そうか」

褒められ慣れていない私は、頬が赤くなるのを隠すためにそっぽを向く。

「……」

その時、あの目をしたウィン・フォルクスと目があった。
……だがその授業中は声をかけることもなく、何も起こることはなかった。

ーーーーー

ーーー

986 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:27:07.72 ID:j2OzgBd4o
ある朝、私は寮の外で剣道の素振りをしていた。
毎朝の日課だ。

「198……199……200!」

心を落ち着かせ、200本。汗をかいた体で、そのまま軽く走り込みに向かう。

「はっはっはっ……」

朝の澄んだ空気が肺いっぱいに入る。
温まる体は朝冷えの空気で冷まされ、とても気持ちがいい。

「……ふう」

寮の入口まで戻ってきて一息。
これで私の毎朝の鍛錬は終わる。シャワーを浴びようと寮に戻ったところで、彼女の姿を発見した。

「ウィン・フォルクス……」

「ん〜……?」

眠そうなまぶたをさらに眠たげにこすりながらこちらを振り向く。

「……私と仕合え、ウィン・フォルクス」

「……へえ?」

すう、とあの目つきに変わる。
やはりだ。こいつはマホリオが絡むとあの気配を見せる。
どれだけ強いかは知らないが、その魔法への自信を打ち砕いてやりたいと思った。

「今から修練場でだ。構わないか?」

「いいよ、行こう」

私は中学生時代、剣道に集中するということでマホリオの大会には出場してこなかった。
だから向こうは私の実力を知らない。
よっぽどマホリオには自信があるようだが、それはこちらも同じことだ。
鍛錬の日々を積み、リリウムではマホリオでも結果を残すつもりだった。
ならば一番手っ取り早いのは、この持て囃されている神童とやらを倒すこと。
987 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:27:35.37 ID:j2OzgBd4o
修練場につき、扉を開ける。
互いに無言で浮き、剣と杖を構える。

「ーーいくぞ! 剣戟・飛燕!」

「魔弾【シュート】」

衝突、轟音。
飛燕がただの光となって拡散する。
それを利用し、息をつく暇も与えず別角度へと移動する。

「剣戟・飛燕!」

「魔弾【シュート】」

再び轟音。
相殺されるが、今度は一気に真後ろまで移動することができた。

「もらった……! 剣戟・朱雀!」

「魔弾【シュート】」

轟音。
そして「こちらを見ているウィン」と目が合った。
危険と判断し、一気に距離を取る。

(なんだ……!? 今私は奴の背後を……)

「試合中に考え事? 魔弾【シュート】」

「くっ!」

なんとか剣で弾く。
そうだ、戦いの最中に考え事などしている暇はない。
剣道と同じだ。一瞬の気の緩みが敗北に繋がる。

「剣戟・朱雀!」

「魔弾【シュート】」

朱雀は飛燕よりも範囲が大きい。故に拡散する光量も多く、今度はさらに簡単に背後に回ることができた。

「剣戟・双飛燕!」

より素早く、より避けにくく!
二羽の燕が飛んでいく。

「……時間魔法【クロック】」

当たったと確信した。奴が振り向いた時にはもう眼前にまで迫っていたはずだった。
だが「消えた」。頬に風を感じて背後を斬る。

「……っと」

確かに背後にはいたが避けられた。
だが収穫はあった。消えたあとに風を感じるということは、空間を接続するような瞬間移動ではなく、目にも止まらない程の高速移動だと推察できる。
ならばもっと速くーー。

「遅い」

剣の柄を抑え込まれ、胸には杖の感触。

「……負けたのか」

負けた。完敗だった。
そう認識するや否や、目の前から鋭い気配が消える。

「楽しかった〜」

んー、と伸びをしながら、本当に楽しそうにそうこぼす。
その姿を見ていると、目の敵のようにしていたのがバカらしく思えて、ついふっと吹き出してしまった。
988 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:28:04.48 ID:j2OzgBd4o
「ウィン・フォルクス。私の完敗だよ。こちらこそ楽しかった」

「こっちこそ戦ってくれてありがとうね〜、時雨さん」

名前を知っていたとは驚きだった。一方的に知っていただけかと思い尋ねる。

「結構前の話だけど、朝すれ違った時にすごい魔力だーって思ってさ〜。それからいろんな人に聞いて調べたんだよ〜。「かっこよくて強い」とか「文武両道で素敵」とか〜、みんな褒めてたな〜」

「そ、そうか……」

ニコニコと話されると、顔が赤くなっていくのを抑えられない。

「な、なあ……ウィン・フォルクス。よかったら、その……私と友達になってくれないか?」

「いいよ〜」

あっさりと承諾してくれた。この呑気さには頬が緩んでしまう。

「そうか、よろしくな。えっと……ウィン」

「よろしくね、時雨〜」

呼び捨てで呼んでみると、向こうも呼び捨てで返してくれる。

「しかし驚いたよ。まさか同じ学校に時間魔法の使い手がいるとは」

「……!!」

そう、あれは時間魔法だった。気づいたのは最後の最後だったが、あの空間の揺らぎと移動の仕方。そこから察するに周囲の時間の流れを極端に遅くするものだったのだろう。

「時雨〜! 友達だけど、時雨はライバルだよ〜!」

「な、なに!? 突然なんだ!?」

「今まで初見でボクの魔法見破った人いないのに〜……!」

「そうなのか?」

いや、あれだけの実力者だ。使い所を誤らなければ瞬間移動系や高速移動系の魔法だと思わせることもできるだろう。
現に私も最初は高速移動魔法としか思えなかったし、一対一という本来ならありえない状況だ。互いの魔力の流れにだけ集中できたからこそ見破れた可能性も高い。

「……汗かいちゃったねえ、時雨。寮に戻ろっか〜」

「ああ、そうだな」

コツンと拳同士をぶつける。
「お疲れ様」と言葉にせずとも分かり合える。
扉を開くと、朝日が私達を包み込んでくれた。
989 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:28:31.14 ID:j2OzgBd4o
寮への帰り道、ある提案をする。

「なあ、ウィン。よかったらマホリオのチームを組まないか? 正直、ウィンの実力には感服した。一番近くで戦いぶりを見て、その強さを学びたい」

「時雨とチーム……面白そうだね〜。いいよ、組もっか〜」

またもあっけらかんと答えてくれる。

「あ、でもボクもう一人と組んでるから、その子にも聞かないとね〜」

その後は他愛もない雑談をしながら寮にたどり着いた。
寮の玄関扉を開けてみれば、奥の廊下からキョロキョロと辺りを見渡している一人の少女がいた。
確かウィンと同室の女の子だ。

「ウィンさん! こんな早くからどこに行ってたんですか?」

「時雨と修練場に行ってたんだ〜。強かったよ〜」

「ま、まさか戦ったんですか? 二人ともケガは……」

「してないよ。心配させてしまってすまない」

ほっと胸を撫で下ろす少女。どうやらとても心優しい女の子のようだ。

「ナナ、こちら早川時雨さんだよ。時雨、こっちは同室のナナ・ヴァーミリオン」

「ナナさんか、よろしく頼む」

「同級生なんだし呼び捨てでいいですよ。時雨さん」

自分こそさん付けしてるじゃないかと言おうと思ったが、ウィンにもさん付けをしているところを見るにこの子の癖みたいなものなのだろう。

「そうか、じゃあ……ナナ、よろしく」

「はい!」

にこりと微笑む。

「それでナナ、相談なんだけど〜。ボク達のマホリオチームに時雨を入れてもいいかな〜?」

「修練場で戦ってるんですもんね。そのお二人が互いの実力を見て決めたことなら私は構いません!」

「そっか、よかった〜。じゃ、時雨。これからよろしくね〜?」

「ああ、よろしく頼む!」

ウィン、ナナ、私。
リリウムの新一年生トリオはこうしてチームを結成することとなった。
ナナは最初魔法の扱いが上手くなかったが、寮も同じということで毎日のようにウィンと練習を続けていた。
結果としてチームは一年目から全国大会優勝という成績を残し、世代を代表するトリオへと成長していくことができた。
まさかウィンとナナが一年後に付き合うようになるとは思わなかったが、今思えば最初からとてもお似合いだったように思う。

「198……199……200!」

そしてプロとなった今も毎朝の日課は欠かさない。
汗を拭き、練習場へと向かう。

「早川時雨入ります!」

私は今日も鍛錬をする。
大切な友達のナナ。
そして友達でありライバルでもあるウィン。
この二人に恥ずかしい戦いは見せられない。
さあ、今日も気を抜かず。

「よろしくお願いします!」

頑張ろうじゃないか!
990 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/14(水) 22:29:37.65 ID:j2OzgBd4o
これにて時雨編も投下終了です

本編は次スレにて、明日から更新していきます
991 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2021/04/15(木) 01:39:03.17 ID:KF5kmUMW0
読者の書き込みがなければあと1つくらい小ネタ投げる余裕ありそうだけどどうする?
992 : ◆ZOSRNJGVq. [saga]:2021/04/15(木) 19:07:28.22 ID:vDuTv4Nbo
書き溜めもありませんので、このスレは埋めてもらってかまいません!
993 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/15(木) 19:48:18.59 ID:KF5kmUMW0
折角だし完結後に見てみたい小ネタの案でも書いてみようかな

ゼーレ先生の授業風景とか
994 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/15(木) 19:55:39.21 ID:C3mKM8pY0
些細な事で大喧嘩するイリノワとかイオモミが見たいかも
ちゃんと仲直りするところまで
995 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/16(金) 01:49:20.09 ID:/fRWrulS0
ソフィアの後日談は見たいかも
996 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/16(金) 07:44:49.21 ID:/fRWrulS0
埋めちゃうか
997 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2021/04/16(金) 07:45:41.94 ID:/fRWrulS0
うめ
998 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/16(金) 07:46:14.70 ID:/fRWrulS0
うめ
999 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/16(金) 07:47:07.32 ID:/fRWrulS0
うめ
1000 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/04/16(金) 07:47:47.96 ID:/fRWrulS0
うめ
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ロビン「ひどい事するわ…」 @ 2021/04/16(金) 00:08:58.12 ID:EU88+DF40
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梨子「暇だわ…」 @ 2021/04/16(金) 00:03:33.41 ID:xXIGCqc50
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トレーナー「よし、テイオー! 座薬を挿(い)れるぞ!!!」 @ 2021/04/15(木) 22:58:32.85 ID:aHmvw7CpO
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【ハイスクール・フリート】明乃「もしも現代兵装だったら……」 @ 2021/04/15(木) 22:15:50.87 ID:D7afbdg+0
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【モバマス】留美「『後輩くんと一緒〜ワンコ系男子に懐かれました〜』……?」 @ 2021/04/15(木) 22:01:33.58 ID:1NTx0QrN0
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めぐみん「やっぱり気になりますよね」ダクネス「気にならないと言えば嘘になるな」 @ 2021/04/15(木) 20:36:41.79 ID:ww8ofml6O
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衝動 @ 2021/04/15(木) 01:04:58.31 ID:joD1cyNP0
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■ 萌竜会 ■ @ 2021/04/14(水) 21:53:24.37 ID:E2wP4xsQ0
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