怪異探偵ソリィバレッタ「赤いドレスは血の先触れ」

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1 :おれを ◆MVS19SfNUQ [saga]:2022/03/05(土) 03:02:42.87 ID:z8WhOIbA0
暴走怪異 豚鼻の狂巨人
鋼鉄怪竜 メタドラグ

登場

ザーコザーコ!




一応FGOの二次創作です
要素薄いし少ないし違うけど
これが私のできる精一杯でした

パンツだけ履いて寝そべりながら書きました
皆さんはしっかりとネクタイを締めて肩肘張って画面から離れてご覧ください
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2022/03/05(土) 03:07:13.16 ID:z8WhOIbA0
すいませんテストだけさせてください
死ね殺す

あ、本編は完結しません
二次創作がしたかっただけなので
よろしくお願いします
3 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:10:29.87 ID:z8WhOIbA0
深夜。駅前ロータリー。

田舎町とはいえ昼間はそれなりの賑わいが見られるこの場所も今は閑散としている。
道ゆく人と入れ替わるようにして仄かに漂う怪異の気配。
怪異といっても時折ゆらめくような霊気がふわりとするばかりで、それ以上は何があるわけでもない…というのがこの辺りの夜の日常だ。

ただ、今日ばかりは少し勝手が違った。

ズシン!…ズシン!…

豚鼻の狂巨人「ォ…オオォ…」

豚鼻の狂巨人「ブォォオオ───ッ!!!」

ズシン!…ズシン!…ズシン!…
ズン!…

豚鼻の狂巨人(………………………)

ガシィン!ガゴォン!バガァ…
グァラグァラグァラグヮラ…

豚鼻の狂巨人「ガバァアアアア────」

見よ。膝を曲げたガニマタ姿勢で駅を頭ひとつ抜かす巨体ッ!
たいして振りかぶりもしない掌底1発で駅の一角を崩すその剛力ッ!
凡そ知能の感じられない振る舞いもその巨体とパワーが組み合わされば何と恐ろしいッ!
この巨人が人々の住む住宅街へと足を踏み出せば惨劇が起こるであろうこと!想像に難くないッ!

豚鼻の狂巨人(……………………)

ズシン!…ズシン!…ズシ…ズシン

この巨人の歩みを止めるスーパーヒーローはいないッ!
哀れこのまま町は知性なき巨人によって蹂躙されてしまうのかッ!
4 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:11:45.72 ID:z8WhOIbA0
「──やっほー☆」

豚鼻の狂巨人(…………………)ピタリ

いいや、いたッ!
スーパーヒーローなくとも巨人の足を止めるその声!気配!その姿ッ!

「いい夜だねぇ。ずいぶん楽しそうじゃんか」

「私もまぜろよ」

何たる運命の悪戯ッ!場と状況に似つかわしくない、転がるような娘の声と艶やかなドレス姿ッ!
番組が違う!これではキング・コングが始まってしまうぞッ!

「つーかそのノリ何?うるせえんだけど」

豚鼻の狂巨人「」ビシッビシッ…ブルブルブル…

豚鼻の狂巨人「ゴォォアァアアア─────ッ」

歓喜!獲物を見つけた狂喜の咆哮!
聞くもの全てにショックを与える霊的雄叫びッ!

豚鼻の狂巨人「ブォォアアアッ──ギャアァアアア───スッ」

美女よッ!早く逃げるんだ!
B級パニックホラーの冒頭に登場する美女はその話の主役怪物(主にサメ)のご飯になる法則が適用されてしまうッ!

「うるっさ!二重にうるさっ!」

「いくら私が可愛いからってはしゃぐんじゃねえよブタ!それに──」
5 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:13:01.50 ID:z8WhOIbA0
ズドドッ!ズドッ!ズドドッ!ズドッ!

豚鼻の狂巨人「」バオッ!

突進ッ!跳躍!巨体に見合わぬ身のこなしッ!
己の武器をシンプルに活かしたストロング・プレス!
まともな人間が受ければ20人ほどは一息にネギトロ!哀れペチャンコに爆発四散!グロスプラッタ!

豚鼻の狂巨人「バギャァァアア───ッ」

「…………」スッ

ドズゥゥウウウン!!!!!

地鳴り!轟音!近所迷惑!
飛び散るであろう血肉も含めて、その巨体を知らぬご近所からは明朝クレーム電話が殺到すること間違いなし。

「逃げるぅ?ざけたこと言ってんじゃねえよ」

豚鼻の狂巨人「バ!…!? ????」

しかし巨人の肩に優雅に座る、ドレス姿の怪物!
美女は見かけによらなかった!エロい目の細め方をして微笑む姿にB級映画の餌役特有の死相はどこにもないッ!

「この私がこんなザコに殺されるわけ──おい私が飛び散る、つったかテメェ」

豚鼻の狂巨人「バオッ!」

グシヤァッ

狂気!自分の肩を自分で殴るッ!
しかし本来のターゲットはひらりと飛び降りて既に着地をしているのだッ!
6 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:13:58.77 ID:z8WhOIbA0
カカッ

「なに私に飛び散ってほしいワケ?付き合い考えよっかなホント」

響くヒールの靴音!
これでは──ちょっと待って。待って。やめて。違う、違うの!
ごめんなさいやめて捨てないで!お願いやめて!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!

「いやナレーションは放棄すんなよ!ほら大丈夫、大丈夫捨てないから──」

豚鼻の狂巨人「ゴアッ!」ゴッ

「」クルッ

バオウッ!タッ タン

ベギィイイ!

豚鼻の狂巨人「ギャアアアア────ッス!!!」

「やったやった!私の膝でアイツの手首を砕いてやったわ!」

「──おい分かりにくくなるだろ。メソメソしてないで解説しろって。ジョーダン通じねーやつ」

浮気しない?しない?大丈夫?大丈夫だよね?

「時々お前が私をどう思ってるか考えると悲しくなるよ…」
7 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:15:55.53 ID:z8WhOIbA0
「お前の見境ない疑心は可愛い可愛い私を傷つけてもいるんだぜ?」タッ

豚鼻の狂巨人「ギャバ…」

カッカッカッカッカッ

タンッ

「わかってんの?」ベギィイイイイッ

豚鼻の狂巨人「───────ッ」

うん……ごめん。ごめんね…

「キャハハハ…脆っ。骨、ポッキーでできてんのかよ。お菓子の国の住人ならもっとメルヘンなキャラクターでいろよな?」

豚鼻の狂巨人「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」ズズゥン…

「見える?わかる?今のは脛に背中から思いっきりぶつかってやったの──おい解説しろって。大丈夫だから」カツン、カツン、カツン

でもちゃんと答えてないよね?

「しねえって!お前ほんと私のこと何だと思ってんだ!?」

…………膝をついた巨人に再び駆け寄り、今度はより高く跳躍。
痛みに悶えうなだれる巨人のうなじに座るように両足を揃えて腰かけた。

「露骨にテンション下げるなよ。やるんならちゃんと──」クルッ、カッカッ

タンッ

「」カシィイン

片手で尖った耳を抱え、もう片手で後ろ髪らしき体毛を掴む。
そのままだらりと上半身を後ろに倒してぶら下がる。
もちろん揃えた足は巨人の首にかけたまま。

「」ガシィガシッ

ダラン…

豚鼻の狂巨人「」ピシ…ミシ…ミキ…ミリ…
8 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:18:45.01 ID:z8WhOIbA0
ベギベギバギバギバリバギベギバギィイィイッ

豚鼻の狂巨人「かパァ────────」

体重をかけられ豚鼻の狂巨人の首は捻り折られた。
大抵の人間はそうであるがこの狂巨人も同じように首を折られたら絶命するのだろうか?

豚鼻の狂巨人「」ズズズズズ…ズゴゴゴゴ…

立てた膝を倒しながらゆっくりと傾く狂巨人。
その濁った瞳に、もはや先ほどまでの生気はない(怪異が生気とはだが)。

「」グイッ

ドォシイイイイイイイイッ

「」ゴロンゴロゴロンゴロッ

狂巨人がアスファルトに崩れると同時に落下し転がるドレスの女!
激闘を制し力尽きたのかッ?着地をサボっただけかもしれない。

「…………」シーン

横たわったままピクリとも動かないッ!やはり力を使い果たしたかそれとも打ち所が悪かったのか?
ねえ大丈夫?気紛れに休んでるだけだよね?
その行動に特に意味はないんだよね?

(不安になるなよ)

起き上がらないので彼女はやはり死んでしまったようだ。
スーパーヒーローならずとも彼女の勇敢なる戦いを貶める者は誰もいないだろう(誰もこの戦いを見てないからね)。彼女の勇気と無謀と蛮勇、その溢れんばかりの善意と博愛精神に合掌。

(……)
9 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:19:48.12 ID:z8WhOIbA0
「」ズァバッ

(勢いよく身を起こす音)。これはどうしたことだろうか。二度と動かぬはずの彼女の肢体がまるで生きているかのようにすらりと立ち上がる。
この映画のジャンルはゾンビものじゃないぞ。彼女はまたしても出演する番組を間違えた。

(………………)

「よし、決まったぜ☆」

彼女はつまらなそうに死体を眺め──かわいい。何度目になるか分からないが惚れ直しそうだ。
くっ…踏みとどまれ私、これ以上恋をしたら頭がどうにかなってしまう♡っ

「決まったか?決まってないな。テメェのせいだぞ頭パープリン」

「浮かれポンチの地の文のせいでジャンルがコメディになっちまった…もう誰もこの話を真面目には読まねえ」カツン

スカートの裾を翻し、彼女は歩き出す。
どこから来たのか?どこへ向かうのか?闇の心を知るものは彼女の他に誰もいない。
住所とか連絡先を聞きたい気分になる。どうせ意味ないのに。

「次からはもうちょっと真面目にやれよ?こういうこと続けるなら誰も見なくなるんだからな」

「つーかそれいつまで続けるワケ?気持ち悪いんだけど」

浮気しないって10回言って

「浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません浮気しません…」カツン、カツン、カツン

浮気じゃないやつもやめてね?

「心配性だな。ちゃんとお前も私のこと愛しろよ?」

うん

「私だけ見て、私だけ大切にして」

うん…うん。

「私だけを特別に、私だけに夢中になってろよ?」

うん…うん!好き!好き!

「よろしい。ちゃんと私のブタやってろ?」

はーい好き
10 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:23:17.96 ID:z8WhOIbA0
ガーベラ・バレッタは怪異専門の私立探偵だ。
探偵といっても小説みたいな名推理を披露するわけじゃない。普段の主な業務は怪異相手に暴力的な振る舞いをするか、失くし物を探したりするぐらいのショボいものだ。
もちろん人間ならざる怪異を相手取るのだ。死を間近に感じたことも一度や二度できかない(別に怪異に限った話でもないと思うが)。
しかし、それでも町中で背筋が凍るような体験をすることは滅多にない。

子供「どうお?ヤッベェだろ?」

バレッタ「あぁ…」

駅前ロータリー。
破壊された駅から少し離れて巨大な肉塊がブルーシート越しに頭を覗かせている。
全貌は見えなくとも明らかに死んでいるように思える。小山のように大きい。生前はさぞ立派で見事な体格をしていたのだろう。

子供「そいでさ、朝っぱらからケーサツも調べてたんだけど、結局引き上げちゃってさ」

バレッタ(…………)

彼らだってプロだ。警察が調べて何も分からなかったのならここから眺めてみても都合よく新発見、とはいかないだろう。

バレッタ「事件性はないんでしょ…?」

誰に聞かせるでもなくぼそりと呟く。
怪異の死体が残る、というのは稀だ。通常怪異は目に見えぬ霊体となって活動しており、実体化できるのは怪異の持つ力(霊的エネルギー)を消費している時だけなのだ。
力尽きた時点で怪異実体は霧消し、失った力が回復するまで再び実体を持つことはない(怪異が死ぬことはないともいわれる)。
近頃ぽつりぽつりと現れるようになった死体が残るほどの力を持った怪異。その死因の多くは─推測に過ぎないが─強すぎる力に耐えられなくなったがゆえの自壊だそうだ。
怪異にとってもこれは異常事態なのだ。研究職であってもまともに答えを出せないのにごく一般的な私立探偵だけが真実を見抜いてる─なんてことはない。
11 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:24:39.24 ID:z8WhOIbA0
バレッタ(そりゃあ私だって格好よく決めたいところですけども)

バレッタ(子供の手前、大人が不安に怯える姿を見せるのはよくないってのもそうですし)

しかしはっきり言ってかなり怖い。これまでの常識が通用しない何かが起きている。
何か起きているのにそれらしい対処もできず、ただ時が過ぎるのを待つだけ。
無邪気にはしゃぐ子供の頭に手を置いても、自分の手が震えていることに気づくと、己の情けなさを分からされるばかり。

バレッタ(無力ですね、どうにも…)

結局子供には適当なことを言って何とかその場は凌いだ。

ガウス「いいのかなバレちゃん。正直に言わなくて?私には分かりません怖いです無理無理カタツムリのお手上げでーす…ってね」

バレッタ「うるさいですガウス、うるさい。バレちゃん言うな」

呆れるほど能天気で薄っぺらく、気の抜けたような疲れたような大人の声。フェルディナンド・ガウス。怪異だ。
女性にしては背の高いバレッタを上回る高身長にガッシリとした体格。一見、人間とそう変わらない見た目をしているが、肩口や背中からのふわりとした霊気が彼の正体を物語っている。怪異のなかでも上位の悪魔種、ガルグイユ属の一体である。
今は霊体化しているが、ガウスと契約した身であるバレッタには朧気ながらその姿と声を認識できる。

バレッタ「あなたからは何か分かりませんか?」

ガウス「分かるわけないでしょ医者じゃあるまいし…。人間同士なら死体を見て無条件で何もかも分かったりするのかな?」

ダメダメコンビだ。てんで頼りにならない。

ガウス「そいつはどうもね。じゃあ、そんな頼りにならないダメコンビはダメらしく、分からないことはオトナのヒトに任せて、僕らは大人しく今の仕事に集中しましょ」

バレッタ「い、言われなくともそのつもりです。ちょうどこの近くに件の工事現場があります。向かいますよ」
12 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:25:46.20 ID:z8WhOIbA0
工事現場は燦々たるありさまだった。ネジ、鉄骨、鉄板、ブルドーザーやショベルカーの部品に至るまでありとあらゆる金属が失われている。
違う、食い散らかされている。
かろうじて残った何かの欠片からは歯形のようなものが見てとれる。

ガウス「酷いなこれは…金属嫌いの妖精とかの仕業かな」

バレッタ「ここにも鏡がありますね…」

砕け散った鏡の欠片を眺めながらバレッタは言う。欠片は大きいのから小さいのまであって特に大きな破片を見ると、元は相当巨大な一枚の鏡であったことが分かる。

バレッタ「砕いて証拠隠滅のつもりでしょうか。どうです鏡人族の気配は?」

ガウス「んー…におうね。種類まではわかんないけど、彼らのにおいは独特だからね」

ガウス「人間の鼻で感じとれるものでもないけど…少しは気にした方がいいな。石鹸使う文化とかないのかな?」

ガウスの軽口を無視してバレッタは鏡の欠片をつまむ。
パッと見ただけではわからないが、よく見ると鏡人族が使用した鏡特有の僅かな変色が見える。
紫の変色は一枚鏡と丸鏡、変わり種だと三面鏡人であることが多い。

バレッタ「近くにメイン“通路”があるはずです。これまでの被害現場と照らし合わせれば…さんかく自然公園辺りでしょうか」

バレッタ「歯形については…分かりませんね。ドラグの仲間に似ていますがこのサイズのドラグとは…」

ガウス「ペットの餌に困った貧乏鏡人とか?ダメだね責任持てないのに生き物なんか飼っちゃ…」

バレッタ「ただのドラグでもありませんね。鉄を食べるドラグは知りません。新種かも…」カツ…カツ…カツ…

ガウス「んー…考え事に入っちゃったか…ありゃしばらく何も耳に入らないぞ」

目星をつけたさんかく自然公園に向かって歩き出すバレッタ。その後を追うガウス。

ガウス(どうせ聞こえないなら言わなくてもいいかな…?問題になったらその時考えればいいだけだしね)ザッ、ザッ、ザッ…
13 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:26:40.05 ID:z8WhOIbA0
…物陰から視線が向けられていることに女は気づかなかった。傍にくっついてる怪異は気づいたようだけど、あの様子では多分忘れるな。
というわけでさんかく自然公園ですってよ、ご主人様♡

「ん。別に知ってたけどね。鏡の場所も、もう調べたし」

さすがです♡遠目から歯形を見て面白そうだと思ったら即居場所を特定♡
感服し♡惚れ直して♡♡しま♡♡♡ヤッベ♡♡♡興奮するッ♡♡♡♡♡

「ドラグねえ。竜相手はそんなに面白いとも思えないけど…ま、この際贅沢は言ってらんないか」

ねえ♡♡♡暑くない♡♡♡服♡♡♡脱ぎたくならない♡♡♡二人っきり♡♡♡になれる場所♡♡♡いきましょ♡♡♡♡♡
14 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:28:14.96 ID:z8WhOIbA0
さんかく自然公園。
この公園は森が多く…森が多くて…森が多い公園で、森フェチにはたまらない絶好の森スポットである。
管理人の方針から鬱蒼としすぎた森は薄暗くどんよりとしていて、子供にもカップルにも子持ちの若夫婦にもジョギングする人や健康マニアの老人にもあまり人気がない。
人目につきにくい、という点でよからぬ犯罪の場や変態カップルの盛り場として密かな人気スポットとはなっているが、平日の昼間からそうなっているほど大人気というわけでもない。
この時間帯は特に異常ということもない、きわめて普通のごくありふれた人里近くの森…でしかないのだが。

バレッタ「ビンゴですね」

巨大な丸い一枚鏡。
分厚い台座に乗った分厚いそれは一見して鏡とは信じられない不思議な威圧感がある。
森の奥まった、木々が円状にぽっかりとスペースをあけた、ちょっとした広場。
鏡面を覗き込めば夕方とはいえまだ明るい空が見えてもいいのに、鏡の向こうにはぼやっとした月とまばらな星空─夜空が見える。
この不思議性こそが怪異の本質であるのだ。

バレッタ(…………)チャポ…

手で触れてみると、水のように沈む。
まだ機能している。最近使用したばかりのようだ。

ガウス「思ったより早く見つかったね。後はこのまま待ち伏せして──」

バレッタ「ヘンだと思いませんか?」

ガウス「…何が?」

バレッタ「鏡ですよ。やけに大きい。しかも台座まで用意した立派なつくりです」

バレッタ「ただの通路にこれほど手間をかけては消耗も激しいはず。それでもこうしなくてはならない理由があった──」

ガウス「んー…凝り性だったんじゃない?拘りの一品なんだよきっと」

バレッタ「…………」

バレッタは服の上から懐の怪異ショッカー※に触れた。

バレッタ「…侵入を試みます。戦闘になるかもしれません。お前も準備しておくように」

ガウス「うへぇ…かったるいねぇ…(了解。おじさんに任せな)」


対怪異実体用携帯霊的衝撃発生装置。通称怪異ショッカー。
怪異特有の霊気に反応して接触部位から霊的なショックを浸透させる。出力にもよるが強力なものだと一般的な家屋サイズまでの怪異ならば制圧可能。
怪異以外には発動しないことと怪異以外を対象とした武器として使うには不向きな形状から所持するだけならば罪には問われない。しかし訓練を積んでいない者が怪異に対して攻撃するのは逆に危険なので購入には免許が必要。
昨今一部のメーカー品が解析されたことによる違法なリミッターカットが問題視されている。
15 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:29:33.56 ID:z8WhOIbA0
ブイ────…ン

ショッカーのリング状パーツに起動状態を表す赤色が鈍く灯る。
周囲を見回すが、夜の森に契約悪魔以外の気配はない。
野鳥や虫の気配すらしない。鏡のなかの世界に動物は普通いない。
それどころか植物すらも建築物やらと同じように再現された作り物の偽物にすぎない。
ファンタジーやメルヘン、と言ってしまうにはこの世界はあまりにも暗くうすら寒い。

ガウス「冷えるね、どうも…。バレちゃんは大丈夫?おじさんの肌で暖めたげよっか?」

バレッタ「近くにはいないようです。しばらく森を散策──」

バレッタ「───」

ガウス「?」

突如、バレッタが息をのむ。
人影を見つけたのだ。
夜の森でもはっきりと見えるドレス姿。
真後ろからなので顔は見えず鏡人間かはわからない。
しかし通常生き物の存在しない鏡の世界。迷い込んだにしては妙に迷いのない足取り。何より探偵としてのカンが叫んでいた。
この女は何か知っているぞ。

ガウス「尾行かい?仕事中のナンパは感心しないね」

ガウスの軽口を無視して、バレッタは暗い森を進んでゆく。
良くも悪くも、事件は長引きそうになかった。

どれくらい歩いただろうか。気がつけば開けた岩場にやって来ていた。
茂みに身を隠していると不意に転がるような娘の声が耳に届く。

「つーかさ、いつまでコソコソついてきてんだよ。もしかして尾行のつもりなワケ?だとしたらダッサ!バレバレだってぇの」

月明かりに照らされた、こちらに向けた顔は少々色が白すぎるが、あどけない少女の顔だった。
鏡人間のようなつるりとした鏡面顔は名残すら見られない。鏡人の血が入ってるとしても¼以下だろう(もっともそこまで血が薄いと人間のような実体を持ちやすく、怪異としての力は殆ど失っていることが多い)。
16 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:30:49.95 ID:z8WhOIbA0
ともあれ尾行はバレていたようだ。バレッタは素直に姿を見せることにする。

「で、何の用?ナンパならお断りだぜ。ほら!」

そう言って嬉しそうに左手をひらひらと振る。薬指にはきらりとゴールドのリング。
バレッタにはその意味はわからなかったが、女は敵意を見せているわけではないと判断し、少し距離を詰める。

バレッタ「すみません、尾けたわけでは…。ここが…どこか分かりますか?道に迷ったんですが…」

武器を隠し、迷い込んだ一般人を装う。
この女が犯人かそれに繋がる人物だとしたら素性を明かせば逃げられるかもしれない。
女は突然ぎゅっとした笑顔になり、わざとらしいほど弾んだ声で答える。

「そう、そうね。あなたは道に迷っただけだし、私はただお花でも摘みにここへ来たのかしら。テメェの後ろにいるそこのクソもただうっかり偶然迷い込んだだけの野良怪異なんでしょう」

「なんてな。うっかり鏡面なんか通るヤツがあるか?冗談よせよ。知らないフリして契約した怪異なんか引き連れて、しかもソイツは隠れんぼ真っ最中ときたもんだ!」

きゃらきゃらとおかしそうに笑う女とは逆に心臓を素手で掴まれたような気分。霊体化したガウスを認識している。
普段ちゃらんぽらんでもガウスは悪魔だ。怪異のなかでも上位種である悪魔の霊体を見破れる目はそうない。

ガウス「まいったね…手を抜いたつもりはなかったんだけど。おじさんももう年なのかな?」

ガウスの軽口にも心なしかいつもの余裕を感じられない。
その反応を見て気をよくしたのか女は笑顔で続ける。
17 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:33:59.86 ID:z8WhOIbA0
「よく見たら面白そうなオモチャ持ってるじゃんか。その隠してるやつ出してみろよ」

隠し持っているショッカーも見破られた。それは別にどうでもいいのだが、このまま女に従うべきか。
まごついていると、女はニヤリと

「ビビるこたないだろ。私とお前の仲じゃんか、なあガーベラ・ソリィバレッタ?」

背後でガウスがたじろぐ声が聞こえた気がした。
ソリィバレッタ。バレッタをその名で呼ぶのは大抵、敵か味方だ。
今、目の前で悪意の笑顔を作るこの女は味方だろうか?
にやにやと意地悪く笑う女の前で、隠し持ったショッカーを強く握る。
やってみよう。もう意表は突けないだろうが不意を打つくらいはできる。

バレッタ「──御免!」ザッ

「…ん」ス…

ガシィイイン!

防御に突き出された腕に押し当てられるショッカーのリング。
そのままショッカーの引き金を引く。

カチッ

シィー…ン

バレッタ「え…」

何も起こらない。ショッカーのリングは相変わらずぼんやりとした鈍い赤色をしているだけだ。
怪異の霊気に反応していない。
呆気にとられていると、

ズ…ッ

バレッタ「う」

ゆったりとした優しい裏拳。赤子の肌に触れるような気遣いで当てられたそれはしかしバレッタにそれ以上の思考を許さなかった。

バレッタ「あ…く…」ヨロロ…

ガッ ズシアッ

バレッタ「がッ…は…!あっ…か…は…っ」

「あ?頑丈ね。正直ちょっと力加減、間違えたんだけどな…。丈夫なカラダに感謝しろよ?」

ガウス「ガーベラ!」

ガウスが心配して駆け寄る。心配のあまり軽薄そうな雰囲気の消えた顔が増えたり減ったりしながら揺れている。

ガウス「だとしたらかなりマズイね。ごめんね、おじさんちょっと気を抜いた。落ち着いて、ゆっくり息を…」

「マジダッサ。それ故障してんじゃない?道具の手入れぐらいちゃんとしとけっつーの…」

二人の悪魔の声を耳にしながら、バレッタは意識を手放した。
18 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:36:20.74 ID:z8WhOIbA0
すみませんミスりました
>>14の後です


バレッタ「は?」

ガウス「おっと…口が滑った。何でもないよ…うっかり本音が出ただけ」

バレッタ「…頼みますよ」
19 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:37:46.25 ID:z8WhOIbA0
結論から言うと別に故障はしてなかった。
覚醒してすぐに傍にいたガウスに使ったところ、ちゃんと作動したのだ。
怪異を味方につけるとこういう時便利だ。このために契約したわけではないのだけど。

「からかった私も悪いけど、私は『鉄クズ盗難事件』とは無関係よ」

ショッカーを触ったりいじったり覗き込んだりスイッチを何度も押したりしながらドレス女は言う。

「ドラグの歯形があっただろ?あれ私のオモチャにしたくてさ。居場所を特定してここに来たの」

行動の是非や手段は問わないことにした。いきなり襲いかかった負い目があるし、仕事の邪魔にならないなら特に興味もないからだ。

ガウス「だったら何でおびき寄せるようなマネしたのかな?どうせなら直接ドラグのとこへ連れてってくれてもいいのに」

ガウスの言葉に女はムッとする。
この怒り顔が私を狂わせる。

「年中狂ってるだろ、余計なこと言うな…別にそうしてやってもよかったんだけど…森じゃ狭いから」

女はつまらなそうに肩をすくめる。それだけの仕草が妙に色っぽい。そう思うのは私だけでいい。

「場所を移すにしたって飼い主が邪魔だしな。手伝いが欲しかったから、ついでに利用することにしたってワケ」

「作戦立てるにしても相談が要るだろ?聞かれちゃマズいからわざわざこんなとこまで連れて来てんの」ハイこれ

返却されたショッカーを受け取りながらバレッタは言う。

バレッタ「作戦とは?手伝いとは具体的に何をすればいいのです?」

女は待ってましたとばかりにニヤリと笑う。
笑顔はどこまでも楽しそうに、邪悪で。
ワガママ、キマグレ、ザンコク、サイアク…私の恋した悪の華の姿が、そこにあった。
20 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:38:51.09 ID:z8WhOIbA0
夜の森をひた走る。袋に入ったクズ鉄が耳障りな音を立てる。
棘のような月明かりが三面鏡人の鏡面顔にきらりと反射した。

メタドラグ「」グルルルルル…

三面鏡人「き、今日の分を持ってきました…」

ドシャン!ガチャンガチャ…

メタドラグ「」ブルルルル〜…

ガブン!ガヂャ…ガヂャン!ジャラ…

ガザッ! 

三面鏡人「」ギグゥ!

茂みから姿を現すバレッタ。ショッカーを胸の前に構えている。

バレッタ「動かないで。ショッカーは既に起動しています。その袋の中身は盗品ですね?大人しくしていれば──」

三面鏡人「あっ…?なっ…あっ…」

メタドラグ(……)グルルル〜…

メタドラグ「何用だ、人間よ」

バレッタ「……!」

驚愕するバレッタ。後ろのガウスも僅かに眉をひそめる。

バレッタ「ドラグが口を──」

メタドラグ「きくとも。怪異も日々、進歩しているということだ」

メタドラグ「それで、何用と聞いている」

バレッタ「ここ近辺で鉄の盗難及び器物損壊の被害が出ています。抵抗するようならあなた方を拘束の後、警察に引き渡し─」

メタドラグ「うん?はっは、アッハッハッハ…」

鋼鉄のドラグは金属質な太い笑い声を響かせる。
21 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:39:43.66 ID:z8WhOIbA0
メタドラグ「これは奇異。そして不遜、不敬、愚かなり。見るがいい人間よ」

ブァサッ

金属の骨にカーボンの皮膜。巨大な翼を広げたドラグの胸部前面には装甲プリズムジェムが怪しげに煌めいている。

メタドラグ「そして感じるがいい。平伏し崇め奉れ。貴様のま見えるはドラグの中のドラグ。王の中の王。この世を支配すべき、選ばれし王者なるぞ」

メタドラグ「支配者たる余の礎となれるのだ。喜んで貢ぐが弱者の務めというもの」

バレッタ「そんな勝手な理屈!」

メタドラグ「いったな!」

プリズムジェムが一層力強くきらめく。誇り高きドラグのジェムズ・ヴィジョンアイが怒りに燃える。
風がざわめき、木々が揺らされ、夜が怯える。

メタドラグ「ただの人間、何するものぞ。恐れ多くも貴様の相立つは選ばれしドラグの王!それをたった一人で…」

ガウス「ビンゴだね。今だ、嬢ちゃん!コイツはオレたちに気づいてない!」サッ

ガザザッ

愚かな人間の背後の茂みが唐突に揺れ、気を取られたドラグは針の穴に糸を通すような一瞬の隙を突かれた。卑怯にも突如空中から首に掴まるように現れた、奇っ怪な不届き者に不覚にも接近を許したのだ。

メタドラグ「ヌォオオオオオオ──!」

「いっただき──ぃ!ほら暴れんじゃねェよザコ!大人しく私のオモチャに…なれ!」

ブゥン!ブゥン、ブウウン!

メタドラグ「不敬!不敬ィ、不敬ィイイ───ッ!」バザザッ!バザッズァバッ

ヴァッザアッ

気高きドラグは安い挑発には決して反応せず、見苦しく首を振り回したりせず、極めて冷静に誇り高く、恐ろしいほど静かに夜空へ飛び立った。
22 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:40:44.82 ID:z8WhOIbA0
三面鏡人「あ…あ…」

バレッタ「動かないで!あなたは─」

三面鏡人「た、助けてください脅されてたンですゥ!」ガバァアッ

バレッタ「はっ?」

三面鏡人「三日前に出くわした、えらそーなヘンなアイツに脅されて仕方なく言いなりになってたんですゥウ。あんた刑事さんですか?どっちでもいいので助けてくだァさぁい」ガシィガシッガシ

バレッタ「わ、わかった。わかったから離して…」

三面鏡人「へ、へへへ、へへへへへ!」ギラッ!

バレッタ「!…っ」

ギャバァアアアッ

バレッタ「……!」ハラッ

三面鏡人「へへへ、へへへへ!外しちまったァうひひひひひひひっ」バヂッ!バヂチ…バチバチ!

バレッタ「怪異ショッカー…!」

三面鏡人「もちろん威力はド違法!しかも人間にも効く『新商品』ウゥ!ぎひっケヒヒヒヒヒヒ…」

三面鏡人「当然リミッターはカットしてある。ブヒヒヒヒヒヒヒヒ…」バヂッ!バヂン
23 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:41:55.15 ID:z8WhOIbA0
バレッタ「くっ…」

三面鏡人「いやね、ショッカーなんてクソだァ…と思ってたさ。けど自分で使ってみたら!なかなかどうして便利なモンだね」バヂバヂバヂ…

三面鏡人「特に人間相手はよ!いいンだよね油断するからなぁあああどーせ怪異専用だからってよォオオオ」バヂバヂババヂハギバヂ

三面鏡人「げっひゃっひゃひゃひゃひゃあげゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃバァッブゥウウウウ!」バヂィイイイ!

バレッタ「…………」ゴオオッ!

バレッタ「お願いっ…ガウス」

ガウス「お呼びとあらば、仰せの通りに」ズワッ

グッ バッバッ グッ

三面鏡人「」バオンッ!

ガウス「『タイム=ロック・カプセル』ッ!」ピシィイイ───

三面鏡人「何ィ!?」ガキッバギィイイン!

バヂィイイイイ──…ン
24 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:42:59.05 ID:z8WhOIbA0
三面鏡人「フルパワァー・ショッカーがまるで効かぁなァいィイイ…何だ?てめーわぁあああああ」バギギバチバヂ

ガウス「へへ…『タイム・ロックカプセル』。特殊な構えをとることにより発動する冷凍時間法で!」シュー…シュー

ガシッ!ガシィ!

三面鏡人(!……)

ガウス「あらゆるダメージから身を守れちまうんだな、これが!ははは…」ガシィガシッピシィ!バリッピキッピシ

三面鏡人「て、てめェ──!そのきたねェ手を今すぐ離しやがれェエエエ!」ギシッ!ギシィギッバヂバヂ

ガウス(まっ!発動したら自分も動けなくなるんだがね──だからフェルディナンドさんには仲間が必要…ってワケだ)

ガウス『』ピキィイ────ン

三面鏡人「あべェばアアああアァ!アァァあぎゃァアアァァア!」バヂ!バリバリバリ!バギッバギャァアアアガララララ!

ガウス『』シィイ──ン

三面鏡人「はあッはあ──ッハアハア──」
25 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:43:55.21 ID:z8WhOIbA0
ブイ──…ン

三面鏡人「はっ!」

バレッタ「──心配しないでください」

バレッタ「出力は100パーセントじゃありませんので……!」

三面鏡人「まッ!待て、待って!実はオレには病気の妹が───」

──パシッ

三面鏡人「ぱオッ…」ビグンッ…

三面鏡人「ぐうの音も出ない」ガグゥ─ッ

ピシ…ピシ

ガウス「…ふう。とんでもないヤツだったね」パラ…パラ…

バレッタ「ええ、本当に。拘束して通報しないと…縄を探してくるので、ガウスはいつも通り押さえていてください」

ガウス「オーライ。いい加減持ち歩いた方がいいって、おじさん思うんだけどね…」ガシッ

ピキィイイ──ン

バレッタ(…………)

バレッタ(あれ?縄…いらないんじゃないかしら)
26 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:45:34.30 ID:z8WhOIbA0
ガギィイイン!バギッ!ガギッ!バギン!
ガギィイイ──ン!

幾度も重なる金属音。飛び散る火花。ぶつかり合う柔らかな細腕と鉄の爪。
奇妙なオブジェが点在する公園の広場。転がるように落下してから、そこが決戦のバトル・フィールドとなった。

バギィイイン!

「キャッハハハ!いいねぇ、そうこなくっちゃ」

メタドラグ「ぬぅうぇあああああ!だぁぁまぁぁれぇえええええ!」ゾバッ!

何度目かの鋼鉄と肌の衝突。
しびれを切らしたドラグが距離をとって力をためる。

「こちら解説席、クズをお呼びしておりまーす。おいクズ」

はい任せてください、いきますよ!このドラグはね、突然変異で鋼鉄の体を持ち、鉄分を多量に摂取することで霊的質量を増幅させ巨大化した個体のようですねー。

メタドラグ「」バサッ、バサッ

霊力を用いて通常飛べない重すぎる体を強引に持ち上げるほどのパワーを実現しているようです。まさにドラグを越えたドラグ、メタドラグといったところですねー。

「何それ、ダッサ!センスなーい」

うっ!…ふぅ、ありがとうございます。メタドラグは強力なパワーと硬い体、それからドラグにしては高い知能が武器ですねー。恐るべき相手です。

「ときめいてんじゃねえよ。似たような内容を繰り返すって要するによくわかんないってことよね。ありがと」

「解説助かったぜ。お役立ち度は丁度お前の人生と同じぐらいだな?」

ありがとうございます。それでは前方、前足を振り上げたメタドラグが接近しておりまーす。

「…ん」ザ─

メタドラグ「」ギャオ──っ

「いいねぇ…!」
27 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:46:37.19 ID:z8WhOIbA0
メタドラグ「キィエアァアアッ!」ギャバッ

「」サッ

バギギィイイン!

「」…ギッ

メタドラグ「ぬぅ…ぅ、うぐぉ…っ」ビシ…バキ!

激突!振り下ろされた爪を両手で添えるようにして抱え、一瞬のうちに突き上げられた膝はメタル・クローを蹴り砕いたッ!

メタドラグ「ちえいっ!」バヂッ!

「おっと…」カッカッ

バザバザッ ギイィィイイイイイ…

メタドラグ「いい気になるな!いい気になるなぁ!いい気になるなぁよぉおおお!」ザバザバザバ

メタドラグ「わが怒り!わが嵐!気高き煌めきは大地を穿つ!いざ受けよ炎の流星ッ!」チカッチカッ…チカ

旋回飛行をしながら胸部装甲プリズムジェムが強く瞬く。本気の怪異に見られる霊的生命のみなぎりだ。

「こっちが恥ずかしくなるようなセリフばんばん喋ってんな…」

ストレスたまってるんですかね?
28 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:47:46.84 ID:z8WhOIbA0
メタドラグ「キィイエェヤァアアアアアアッ!!!」ギュアッ!

カッ、カッ!

バゾォオオ──ン

「ワオ!」

メタドラグ「ぬぅうッ!かわしたかッ!」

ドドギュゥウ─────…ン

…そういえば昔、没にしたネタにこんな攻撃してくる巨大ロボット系の敵キャラを出そうとしてたんだよね。
格闘戦でかなわないと手足を畳んで空中を高速で飛び回って突進するやつ。

「マジかよ、そのものじゃん。せっかくだから攻略法教えてよ。当然、考えてたんでしょ?」

覚醒回の予定だったからその辺テキトーなんだよなぁ…
えっとねぇ…突進の勢いをー利用してぇー…殴っ…た…?

「疑問形かよ頼りにならねえなぁ。まあいいや、一旦それでいこっと」

「あの何とかジェム、どう見ても弱点だしな?舐めプ上等ストレートパンチでブチ抜いてやるよ」

ギィイ…イ…イ…ン

メタドラグ「」ギラッ

シュパァ…ン

ソニックブームッ!ほんの僅かな旋回加速でッ!
音を破り尚きらめきを放つプリズムの、その威圧感たるや迫る剣山壁の如しッ!

メタドラグ「」ドオ───ーッ

「もらっ──」

プリズムが突き出される拳と激突し、

バギ

ブァッギィッギャァアアッ
29 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:48:28.65 ID:z8WhOIbA0
ぎゃあっ!?──
30 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:49:28.36 ID:z8WhOIbA0
宙を舞う。空中を舞う。ふわりと浮く、気持ち悪い感覚。意図せず足が地面から離れる不安感。
…いつかに見えた、思い出す度、吐き気の込み上げる憎悪の記憶。

ドォッザアッ!ゴロンゴロンゴロ

「は…ぁ…っ」

ボディ的なダメージというよりも、メンタル的ダメージ。
己の腕力が通じず、また予想外の勢いで弾き飛ばされたショック。諸々が起き上がりを遅れさせる。

「あっ…くそ、油断したな…」ググッ…

いつもの声は聞こえない。かわりに上空から金属質な練れた太い声が降り注ぐ。

メタドラグ「恥じるな。育て上げ鍛え上げた胸部装甲プリズムジェム。その煌めきは何人たりとも損なえず、またあらゆる一切の破壊エネルギーをも通さぬよう磨き上げた」バサッバサッ

プリズムが得意気に鈍く瞬く。何とかは何とかに似るとはよく使われる言い回しだが、身体機能も持ち主にまた似るようだ。

メタドラグ「そしてそれは貴様の本当の力を考慮しても、ヒビひとつの陰りも見せぬということよ」バサッ、バサッ

「─何だと?」

メタドラグ「気づかんと思ったか?何の遊びかは知らんが、実力を隠して余に勝てると思わんことだ。おお、おお、妖しき炎のプリズムジェムよ!」バサッ、バサッ!

再びプリズムがきらめく。今度はより強く、より激しく。周囲が歪むほどに、より熱く。
羽ばたきは音を失い、今度は長く、更に長い、旋回を開始する。
31 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:50:35.46 ID:z8WhOIbA0
ギィイイイイイ…ン

(…………)グァバッ!

メタドラグ「──」ギャン!ギャン!ギャワァアアアアア…

「はァ─?教えてやるよ、おいクソトカゲ」

ボワ…

魔力を練り上げ、右手に集める。右肘から指先までが、ぼんやりとした赤色に灯る。

「いいかよく聞けよ。必殺技ってのはな……」…キュ

右腕を胸に当て、拳を作るよりも軽く握る。腕を空間から動かさずに魔力の加速を完了する。
ほんの、ささやかな迎撃準備。

メタドラグ「」ギィイイイ───ン

「─必殺技は、最後までとっとくモンなんだよ!」ギュッ

メタドラグ「」ゴオアッ
32 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:51:33.84 ID:z8WhOIbA0
バギャァアアッ!─ガコンッ


破砕音。砕け散る音。繰り出した右腕は─

ビシッ…バキン!ピキ…

メタドラグ「…バカな!」

─その殆どが飲み込まれるほどに、メタドラグの胸部ジェムに深々と突き刺さっていた。

ピシッ…

ズッ…ギ、アッ…

メタドラグ「ガッ…!ご…!?」

メタドラグの体が一瞬、硬直する。砕けた胸部前面プリズムジェム装甲。その奥の霊核を魔力の弾丸が貫いたのだ。

(………)ズァシュ!

クルッ

右腕を引き抜き、その場から離れる。カウントダウンの声は跳ねるように、弾むように。

「サン!ニイ!イチ─」カツン、カツン、カツン

メタドラグ(………!)バチッ…バチバチ…バチ!

「─ゼロ!爆発」

チュドォォオオオオオンンンンン!
33 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:52:29.92 ID:z8WhOIbA0
爆発。爆炎と轟音が夜空を裂き、鋼鉄のドラグは跡形もなく消え失せた。
怪異の実体喪失である。これが怪異の実質的死なのだ。

(…………)

振り向いて見つめても、その場には舐めるような炎が残るだけ。
ある種のショーのような派手さと騒々しさ、終わってしまった寂しさと静けさ。歪みきった形とはいえ生命が失われた、この瞬間は──

クルッ

「サイコ〜ッ!マジ気持ちいい!この瞬間が一番気持ちいいもんね!」
34 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:53:36.54 ID:z8WhOIbA0
拘束した三面鏡人を警察に引き渡し、鏡面の機能喪失も確認して、公園から出る頃にはすっかり夜も更けていた。
夕飯は何食べようかと考えながら、とぼとぼと歩き始める。
進化する怪異。違法ショッカーの新商品。気にならないといえば嘘になる。
しかしガーベラ・バレッタは私立探偵。仕事といえば怪異に暴力的な振る舞いをすることと、失くし物を探すぐらいのケチなもの。
漫画や映画に登場するようなスーパーヒーローではないのだから──
自分は自分の領分だけを。それが■■■■■べき■■■■■■■。
■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■。

バレッタ「………?」

バレッタは足を止める。
何だ?今、何か…私は、何かを…
思い出す?違う、忘れている。

私は何かを忘れている。
忘れていたことさえ忘れていた。

ガウス「…どうかした?」

バレッタ「」ビクッ

ガウス「足、止まってる。帰らないのかな?」

バレッタ「フェルディナンド…」

ガウス「…はい。あなたのフェルディナンドさんですよ」

バレッタ「………」

フェルディナンド・ガウス。私と契約した悪魔。上位の怪異。冷凍時間の化身。
幼い頃に怪異事件に巻き込まれた私を……助けてくれた、物好きな怪異。
35 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:54:27.25 ID:z8WhOIbA0
ガウス「何か…?」

バレッタ「な、何でもない」

なんだか無性に泣きたくなって、情けない気持ちを振り切りたくて、再び歩き出す。
ポケットに手を入れ、ゆったりとガウスが後を追う。

ガウス「それにしても今回はマジヤバだったね…あんなドラグは初めて見た」

バレッタ「ええ、そうね…」

言いかけてハッと思い出す。そういえばあのドレスの娘はどうしただろうか。
ドラグの爆発痕は確認できたのだから勝てたのだろうか。鏡の世界からは脱出したのだろうか。
取り残されてやしないだろうか。
青ざめていると、

ガウス「大丈夫じゃないかな…あの嬢ちゃんのことだ、うまく抜け出して何食わぬ顔でまたぞろどこかの誰かをイジめてると思うよ」

バレッタ「…そういえばあなた、何か怒ってません?あの娘のことで」

ガウス「さあ、どうでしょう…」

ガウス「…また会えるよ。きっと」

バレッタ「…別に会いたいわけではありませんけどね」

そう、別に会いたいわけではない。
一般的良識の観念から心配になっただけだし、自分が逸った結果とはいえ殴られて気絶させられた相手と何事もない時に会うのは何となく気まずい。ただ…
ただ、無事を確認できたらその時は…

──その時は、お茶の一杯ぐらいは出そう。

ささやかな約束を溶け込ませ、夜はさらに更けていった。
36 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:55:35.20 ID:z8WhOIbA0
小高い丘に取りつけられた休憩スペース。町の夜景を見渡せて、ベンチもあるこの場所は……

デートにもいいんじゃないかな!?僕はいいと思う!
どうでしょう?■■■■■様。私はちゃんとしていますか?

「ん、ああー…そうね」

「どうだった、はこっちのセリフなんだけど…」

ん、何でしょう。

(…………)

「…楽しかった?」

………………
■■■■■様。■■■■■・■■様。私の主君。私の■■■■■。
私の女王陛下。私の愛しき悪の華。■■騎士■■■■■様。
私のためにありがとう。
あなたの■■■■めは、恐悦至極にございます。

「…感想を訊いてんだよ。変わらねえなテメェも」

「今回はどう?なかなか硬かったし、あなたも楽しめたんじゃない?」

そこそこ。

「そこそこかよ!欲張りだな私の■■■■は」

だって最後の方よく覚えてないし。血も見れなかったし。それに…
37 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:56:32.65 ID:z8WhOIbA0
これからも、もっともっと楽しませてくれるんでしょ?
簡単に満足しちゃったらツマラナイじゃない?

「──」

えっ、だよね?■■■■■様?そう約束してくれたよね?

「…ん、わかったわかった。約束したものね」

「くそ、変な■■■■の召喚に応えちゃったな…」

ええ、その節はどうもありがとう!
それでどうする?今日はもう帰る?

「そうね、しばらく空けちゃったし…。いい加減、帰ろっと」

「今回のはそこそこ大物だったしね。■■■■様褒めてくれるかしら!」

…………

「…こういうタイミングで黙ってる時のテメェがどういう感情抱いてるか、最近わかってきたのよね。顔があったらぶん殴ってやるのに」

ははは、何をおっしゃいますやら。ははは。
あ、でも殴られるのはイイな。顔がないのが今になって惜しい。

「惜しむ理由それかよ!たいがい終わってんなテメェも!」
38 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:57:12.98 ID:z8WhOIbA0
かつんかつんと響く靴音。ヒール靴の音が夜の闇に溶けていく。
どこから来たのか?どこへ向かうのか?

「いつかゼッテー泣かすからな。涙腺なくてもゼッテー泣かす」

ええー…それはやだなー…

靴音は一人分、夜に触れる声も一人分。

─闇の心を知るものは、彼女の他に誰もいない。
39 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 03:58:44.80 ID:z8WhOIbA0
ようテメェら!私だぁ。
キャッハハハ!なーんて!騙された?ねえ騙された?
何まだ私のコト知らないヤツがこの中にいるワケぇ?
滑稽すぎて気に入っちまうぜ!…どう?似てるかしら。
さて次回だけどバレちゃんマンの仕事は失くし物探しのようね。ペットの捜索とかナルトとめだかボックスの序盤で見たことあるわ。
まだ始まったばかりで序盤も序盤の、この物語に相応しい日常回…ってトコかしら。
あーあ、タイクツそうな話ね。私はもっとこう、血と暴力と殺戮の舞台が見たいのにな…
あ?結局、私が誰かって?知らなきゃ知らないで別に…いいんだよ、細かいことは。
次回、怪異探偵ソリィバレッタ
「ルナチック・マッドメイク」
ワガママ、キマグレ、ザンコク、サイアク♡
40 :おれを ◆MVS19SfNUQ [sage saga]:2022/03/05(土) 04:01:24.00 ID:z8WhOIbA0
レス数見ると短いなぁ
区切りのために新しくスレ立てします

HTML化依頼してきます
ありがとうございました
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