このスレッドはパー速VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

いーちゃん「へえ、雛見沢ですか」 - パー速VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 17:52:12.04 ID:X3t9et.o
                   _ ...... _
                ,、 '": : : : : : : :>、
              /: : : : : : : : イ     \
           _.. ィ/: : : : : : : : :/:.レ-    ‐ヽ',
            iヽ/: l: : : : : :i: : :/: :.l       i:.',
            l: :l: : l: : : : : l: :/: : レ=.、   r=li: :',
           l: :l : : Y'""ヽ!:,': : : :lハ::::::}`   ヾ'l: : ',
           l: : : : :l    li: : : : l  `"     i: : i        / ̄\
           l: : : : :.ヽ.._ l: : : : :l     rァ /: : l         l    l
              !: : :li: : : :l: : :.l:: :.i: : !      /: : : l        \_/
              l: : l:|: : : :l: : : l^V: : l  r---‐': : : : :.!
             /: :l: :!: : : l: : : l: :l:\l  人: : |: : : : : : l          /  ̄ \
          l: : l: : l: : : l: : : l/:::::::::V::::::::\l: : : : : : !          l.      |
          /: :.l: : :l: : : :ヽ/::::::::::::::::::::::::::::ヽ: : : : :.l          \ _ /
            /: : :l: : : l: : :ト、:ヽ::::::::::::::::::::r、::::::::::\: : :.!
        /:./l: : : ::l: 人:.i\!::::::::::::/: : \::::::::::V: :!        ,、<¨¨ '' ‐-ァ‐<"7'")
        〆  l: : : : :l/::::::'!::::::::::/: : : //ヽ:  ̄〉:::l: :!      r '7'゛  `  .._/ / / ./
              l: : : : /::::::::::::::::::::\: : ./〈: : /: : :l:::::l:.l.     /:l/    - ..__/ //
          l: : : :/::::::::::::/: :\:::::::::::::::/: : : : l:::::li     /::::ヽ   /::::::::/::::::::〉 ̄
            !: : :/::::::::::::/: : : : : :.ヽ:::::::::l: : : : : ヽ:::l\  /:::::::::::i /:::::/::::::::/
           l: : /:.|:::::::::::l: : : : : : : : i::::::/: : : : : : :|::l: : | /::::::::::::::/ /:/:::::::::::/
         l: :.,': : l:::::::::::l: : : : : : : : l:::/: : : : : : : :l::l: : l/::::::::::::::〈_/:/:::::::::::::/
         l: : :ヽ: :.\::::::ヽ: : : : : : :.l:::',: : : : : : : :l:::l: /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
        l: : /: : \: l::::::::::l: : : : : : :l::::i: : : : : : : :l:::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/

・本作は、戯言シリーズ、ひぐらしのなく頃に、のクロスオーバーSSです。
・なお、両作品ともにネタバレを含みますので、未見の方はお気を付け下さい。
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このパー速VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/

2 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 17:54:22.55 ID:X3t9et.o
「いーは、それを怖いと感じますか」

「……もしも、それが本当の事だったとしたら――間違い無く地獄だね」

 ぼくは答える。

「でも、いーとボクは違う。そう感じる意味が違う」彼女は迷う事も無く、こう断言した。

 これは、ぼくと彼女が交わした、一つの会話の欠片。

「ボクはね、死ぬ事は怖く無いのですよ。だけど、いーの事が怖い」少しだけ躊躇いながら。
「――ねえ、いー。いーはどうして生きているのですか?」

 彼女はさらりとぼくに言った。そう言うのが当たり前のように。
 ぼくにそう聞くのが、まるで運命だというように。まるで例外だというように。
 その小さな瞳で、ぼくの表情を見つめた。
 まるで、見透かすように。
 まるで、探るように。
 まるで、弾劾するように。
 まるで、断罪するように。
 そして、言葉を模索し、躊躇いながら。

「いーは……どうして、生きていられるのですか?」

 ぼくの答えを聞かずに、彼女は続けた。

「たとえば、沙都子は……」彼女は眠っている沙都子ちゃんへ目をやり。
「沙都子は本当に、本当にいい子です。だけど、とても、とても可哀そうな子です」

「……多分そうなんだろうね。きみがそう言えるのなら」ぼくは言った。

 彼女がその事実を認めているのは、とても悲しい事だ。
 だけど、ぼくが言える事はこれだけだった。
 何かを言えたとしても、それは誰に為にもならない。
 ぼくの為にも、沙都子ちゃんの為にも。

「優しい兄が消えても。たとえ意地悪な叔父に苛められようとも。沙都子は、必死で生きています。ボクも――」

 数瞬の間。
 彼女はくす、と笑った。だけど目だけは、とても悲しそうにぼくを見つめる。
3 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 17:56:34.32 ID:X3t9et.o
 それは、とてもちぐはぐで、あやふやな表情。
 意味や、理由を抱え込み、なおかつそれを無視する徹底した諦めの表情。

「――ボクもそういうふうに生きたかった。たとえ、後悔しか残らなくても。苦しみしか残らなくても……ボクは、そう生きたかった」

 どうしようもない告白に。
 どうにもならない途絶の、認めないための過去系の言葉に。
 ぼくは何も言わない。このぼくに、何かが言えるはずはない。

「いー。お願いがあります」

 彼女は顔を上げ、ぼくの目を真っ直ぐに見つめて。
 精一杯作った笑みの表情で。
 ぼくに願った。
 ぼくは、後に続くその言葉を知っている。
 いつか誰かに、違う言葉で聞いた事があるから。
 だけど、理解できない。
 だから、理解できない。
 けれど……故に理解できる。

 それは、終わらない終わり。終われない終わり。繰り返す終わり――。
 彼女はいくらか間を置いて。

「キミにお願いがあります――」

 それは、欠陥製品の戯言でも、人間失格の傑作でもなく。
 ただただ純粋で、どうしようもないほど腐敗して、狂って、歪んだ、悲しい、永久という牢獄に捕らわれた永劫の願いだった。
 
「――ボクを……殺してください」

 と。壊れた願いを、ぼくは、彼女に乞われた。

 だから――ぼくは――。
4 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 17:58:55.19 ID:X3t9et.o
 これは彼女達の物語。
 進み、止まり、戻る。
 そしてまた進まされ、止められ、戻る。永久の螺旋階段での遊戯。
 たとえ、百回以上試してみても、終わらない、終われない、児戯としても不可解に過ぎる遊び。
 これはすでに、戯言遣いの物語では無かった。戯言にすらならない。
 永遠に続く欠片。
 永劫に続けさせられる、惰性のみで生かされている結果。
 いや、生かされているというのは違う。
 ただ、続いているというだけだ。
 人としての役割など何一つ果たさない諦めの、行き止まりの、一方通行の物語。
 だが、それ故に戯言である矛盾。
 
 彼女にとっての全ては、欠片を構成する材質。歯車の一つ。
 それは、誰であっても同じ枠組みであり。
 誰に対しても、たとえ自分に対しても、一切の思惟も、遠慮も無く、等しく同一であり、
 それらの世界は傷だらけの、いや、傷を付け過ぎた欠片だった。

 それ故に、傷痕。それも、致命的な疵。
 純粋であるが故に、名前を捨てた彼女も。
 互いが愛したが故に、互いの血を呪う双子も。
 救いを望むが故に、救いに望めない少女も。
 死んで、死ななくて、延々と終わらない彼女は、永遠に終わらない。
 だから傷を消す為に、未だ治らずに生々しい傷口の上から絶えずに傷を付け続けた。
 だけど、ぼくには分からない。その行為にどれほどの覚悟や意志があったとしても。
 ぼくには、解らない。
 だから、

 ぼくは――きみに――
5 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:02:17.00 ID:X3t9et.o
 一日目

 0

 運命の呪縛からは決して逃れられない。さっきも言ったろ?
 俺達は運命に流していただいてるんだよ。

 1
 
 某月某日の某県。いや、別に某にする意味など何も無いんだれけど、天気はあいにくの雨。
 とりあえずのところ、ぼくはバスに乗りいくつかの山を越え、舗装すらされていない田舎道に揺られていた。
 
「……雛見沢ですか」ぼくはひっそりと呟く。

 なんともまあ、辺鄙なところに来たものだ。
 というか――いくらなんでも辺鄙すぎじゃないか?
 現代の日本でここまで何も無いなんて、そうそうないとも思うんだけど。
 まるで、昭和で時が止まったとでもいうような。進化を止めたような、文明の流入を拒否したような。
 何となく携帯を見てみる。当然の事ながら、電波は一本も立っていない。つまりは圏外の印を液晶に映し出していた。
 頻繁に携帯を使うわけじゃないけど、少しだけ淋しいなんていうのは真っ赤な嘘であり、戯言にもならない戯言だ。
 結局、つまりはどっちなのだろうな、などという事は全くなく。ここに来た理由くらい、ぶっちゃけどうでもいい話である。
 ……ここに来た理由はどうでもいい話でもないんだけれども。ただ単純に、頼まれたというだけ。それもとんでもなく断り辛い人に。
 断れるはずもなかった、とでもいうべきだろうか。断れる理由も、断る勇気も、単純にぼくには無かったというだけか。
 でも、やっぱり仕事の内容がなぁ……。
 それよりも、だ。バスに乗った瞬間から無視し続けていた問題を、そろそろ解決しなければならない。
 ぼくはちらり、とバスの後方を見る――やはり、いやがる。

「はぁ……」

 意志とは無関係に溜息が出てくる。
 ぼくは諦めて、バスの最後尾の座席を一人で占領している、白衣の女性に声をかけた。

「……春日井さん、あんたなんでここに居るんですか?」

 彼女の名は、春日井春日。
 動物生理学、動物心理学を専門とする動物学者。生物学者の権威であり、とんでもない自由人であり、天才であり、変人である。
 確か、この人は人類最高の脳髄を持つ集団《七愚人》に選ばれそうになったけれど、性格のせいで落とされたという、割とどうしようもない人。
 そして彼女は滅茶苦茶作り物っぽい笑顔を作り、ぼくに微笑んだ。
6 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:03:55.23 ID:X3t9et.o
「やっと気付いてくれたね。わたしはいっきーが大変だと聞いたのでここにいます」

 相も変わらずに、酷く抑揚がない喋り方だった。

「……誰にぼくが大変だと聞いたのですか」

「わたしはいっきーが大変に困ると聞いてここに来ました」そっちの大変ですか。
「ちなみに後者の質問の答えは――勘?」ぼくに聞くな。

「いや、もういいです。ところでいつからこのバスに乗っていたんですか?」

「うん? 確かこの周回で四周になるかな」

 ちなみに今は昼、確かこの路線は過疎線。つまりは。

「あんた朝から今まで、ずっとバスに乗ってたのかよ?」
 なんというかずいぶんシュールな光景。

「まあそういうことになるかな。つまりわたしはいっきーが大変困るのを見学にきました」

「つまりで要約されてないです」

「実はわたしは雛見沢にある研究機関にお呼ばれしているんだよ」

「え? こんな所に研究機関なんてあるんですか?」

 とは言ったものの、重要な研究機関とかって、人があまり居ない所に建てた方が良いに決まっているよな。
 春日井さんがいた斜道卿壱朗研究施設もそうだったし。
 そういえば、よく覚えていないけど、友のやつもそんな事を言っていた気がする……。

「あるらしいのです。ついでにきみもここに来ると小耳に挟んだので運命的な出合い方を選んでみたんだよ。どうかな? ときめいた?」

「全然、全く、これっぽっちもときめきません」

 つまり、この人は、ただの演出で朝からバスに乗ってたのかよ……
 運転手さんはバスから降りない人を見てどう思ったんだろう?
 なんというか、それはあまりにも馬鹿馬鹿しくて、実に春日井さんらしい行動。
7 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:06:01.38 ID:X3t9et.o
「たしか玖渚機関とか四神一鏡とかそんな所からの依頼だったような」

「……へぇ」とぼくは曖昧に頷く。

 まぁ、日本の研究機関の九割九分が玖渚機関か四神一鏡の傘下だし。当然と言えば当然の結果な訳だよな。
 納得。頷いていると春日井さんはぼくの顔を覗き込み。

「それでいっきーは何しに来たの?」と言う。ああ、そこのところは知らないんだな。
 ぼくは割と正直に、ここに来た由来を話す。

「自分探しの旅です」

「ほう」

「……頑張った自分へのご褒美です」

「ほうほう」

「…………ええと、自分らしさのアピールをしようと思いまして」

「ええと。話を要約すると。哀川潤の依頼なわけだね」

 あう。

「ええ、まあ、そういう事になりますね」

 戯言遣いこの旅初の、完全なる敗北であった。

「どういう仕事なの? お姉さんに教えてよ」

 まあ、哀川さんの依頼って事は予想できるか。でもさ。……さすがに本当の事は、言えないよな。
8 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:08:19.88 ID:X3t9et.o
 ――――以下回想。

『よういーたん。いま暇?』
『え? 姫ちゃんの勉強を見てあげるくらいには暇ですかね』
『うん。じゃあ暇だな。そんな暇ないーたんに朗報だ』
『……はい』
『実はさ、アルバイトを頼みたいんだ』
『アルバイト……ですか?』
『ああ。ちょっとさ、雛見沢ってところに行って欲しいんだよね』
『雛見沢……ですか。ちょっと聞いたことはありませんね』
『ただのド田舎らしいよ。そこで古手梨花ってガキのとこで、祭りの手伝いをしてほしいんだとさ』
『祭り……つまりテキ屋をやるんですか?』
『らしーぜ。沙咲いるだろ? 佐々沙咲。あいつの知り合いの依頼らしいんだ。あたしもテキ屋やりたかったんだけどさ、今月は仕事が結構忙しいんだよね』
『警察関係からテキ屋の依頼って、なにかおかしくないですか?』
『面白そうじゃん。うさんくさくて』
『……さいですか』
『で、どうする? やる? やらない?』
『少し考えさせてください』
『よし、じゃあ決定だな。じゃあねー』

 ――回想終了。

 とまあこんな感じで、ぼくは雛見沢に向かっている経緯を、嘘偽り混ぜて春日井さんに説明するのであった。

「ふうん。でもさ。いくらいっきーが童顔だからって子供たちに混ざって遊ぶのはいささか無理があるんじゃない? なんとなく危なそうだし」

「ええ、ぼくも少々無理があると思うんですけど……って知ってんのかよ!」

「いや。適当に言っただけだけど」そう言いながら春日井さんは、辺りを見て
「そろそろ雛見沢のバス停に着くね」と言った。そういえば四週目だもんなこの人。

 そして、ぼくとしても、あまり突っ込まれたくないので話を変えてみる。
 少しだけ気になる事もあるしね。

「ところで、春日井さん。ちょっとだけ気になる事があるんですけど」

「ん?」

「雛見沢の研究機関では、いったい何を研究しているんですか?」
9 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:10:44.28 ID:X3t9et.o
 普通は答えてくれるはずもないけど、一応聞いておく。春日井さんだったら教えてくれるかもしれないし。

「さすがにそれは教えられないな」

「ですよね」往々にしてそういうのは秘匿だしな。

「いや教えてもいいよ。けど一つ条件がある」

「ほう。聞きましょう」

「お姉さんはいやらしいことがしたくなりました。それもバスの中で」

「一人でやっててください」

 そうこうしている内に、バスは雛見沢に着いたようで停車した。
 外は相も変わらずに、どしゃ降りの雨だった。

 バスを降り、ぼくと春日井さんはぼろっちいバスの停留所に居た。

「すごい雨ですね」

「そうだね。ところでいっきーわたしは傘を持っていません」

「そうですか、それは大変ですね。――なんでそんな目でぼくを見るんですか?」

「傘を貸して」

「いやです」

「なんで?」

「ぼくが濡れるじゃないですか。ぼくは雨に濡れるのを医者に硬く止められているのですよ。
だいたいですね、なんでぼくがあなたに傘を貸さなきゃいけないんですか?」

「わたしは今現在無職です」

ぐ。

「わたしは今現在誰かの所為で無職になりました」

ぐぅぅ。

「これをどうぞ。戯言遣いには傘など必要ありません」と、ぼくは傘を差し出した。
10 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:13:18.32 ID:X3t9et.o
「ありがと。初任給が出たら下の町にあるメイド喫茶をおごってあげよう」

 初任給という言葉で、さりげないいやがらせを忘れない春日井さん。
 いや、それよりも、だ。

「下の町にメイド喫茶なんてあるんですか?」ぼくの気の無い返事。

「興味ないの? メイドマニアのくせに?」

「ないです」即答。
「だいたいですね、それは誤解ですよ。一体全体なんですかメイドマニアって? どこのどいつがぼくの事をそんなふうに表しているのかは分かりませんがね、
誤解ですよ、誤解。全く理解できませんよね、そういうふうに嘘ばっかり言う人間をいまだかつてぼくは知りませんよ」

「ああ……そう」引き気味の春日井さん。

 補足しておくと、ぼくはメイド服が好きなわけではない。
 メイドという職業、存在を尊敬しているだけだ。
 メイド喫茶のように、服装だけをなぞったところで、それらは模造品、代替品としか言えない。
 つまるところ、結局は心がけの問題であり、服装などは些細な問題でしかないだろう。
 したがってひかりさんは、それらの全てを備えた至高の存在であるという事は、紛れもない事実ではあるのだが、
だからといってぼく個人としては、それらを認めるのをやぶさかではないということではあるようなないような……。
 …………。
 うん、戯言だよね?

「うん。傘も手に入れた事だしそろそろ行こうかな」棒読みだった。

 春日井さんはそう言って傘を開き、雨の降る中に降り立った。

「じゃあ、また。縁があれば」縁があれば、ね。……誰の言葉だっけ?

 春日井さんは、ぼくの別れの言葉に「うん。縁があれば」と言い歩きだした。
 そうして少し進み。そして、振り返り、呟いた。

「――いっきー。きみすこし気をつけた方がいい」

「え? ……どういうことです?」

 ぼくの問いに答えず、春日井さんはゆっくり歩いて行く。
11 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:16:44.26 ID:X3t9et.o
「―――――」何かを呟いた気がする。だけど雨音に消されて、春日井さんの声は聞こえなかった。
 実に意味ありげ。気にはなる、でも意味はないのかもしれない。……だって春日井さんだし。
 ぼくは雨が少し治まる事を期待して、停留所の椅子に腰かけた。

「すぐには止みそうにないな……少し、待ちますか」

 待つのは嫌じゃない。
 
 さて、それじゃあ少し、雛見沢という村について考えてみようか。
 ここに来る前に調べられたことは、あまりにも少しでしかないんだけど。
 鹿骨市の一部をなす人里離れた寒村。古くは(鬼ヶ淵村)と呼ばれた。
 由来は――確か、鬼がどうとかこうとかみたいな、特に抽出すべきような点はない。
 そして明治に雛見沢に改名。そしてほどほに最近、、ダムの建設計画が持ち上がった。
 だが建設は、完膚なきまでに停滞、頓挫することになる。
 住民たちの反対運動。当時の建設大臣子息の誘拐事件。
 そして、バラバラ殺人事件で。

 五月に京都で起こった連続猟奇殺人のように、急すぎる物ではないが。
 いや、その事件の犯人であるところの零崎人識自体は急いでいた、などとは全くもって思っていないだろうけど。
 ほんの数週間程度で十二人を解体したのは、普通の観点から考えたら早いペースだろう。
 だがこの雛見沢で起こった事件は違う、いや、事件と表してもいいのだろうか?
 それは瞬間的では無く、酷く継続的に、一年に一回の祭りの日に、一人は死んで、一人が行方不明になる祭り。
 その事件自体インターネット界やその類の世界ではいわゆる――たたりと言われている。
 なにを馬鹿な。と、一笑に付すことは出来るだろうが、事実(ぼくだって馬鹿らしいと思うが)信じている人がそれなりにいるというのは確かである。

 そして、その祭りの後日に、何かが起きると考えるのは安直ではないだろう。
 哀川さんも言っていたが、胡散臭いなんてもんじゃない。
 なんていうか――作為的にすら感じられる。
 場末のショートストーリーですら使われないような話だ。
 もしもここに、名探偵や大泥棒、はたまた殺人鬼、もしくは人類最強の請負人などが来ていたら話は別なのだが、
ここにいるのは一介の、役にもなれない戯言遣いが一人だけ。
12 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:20:28.25 ID:X3t9et.o
 もちろんそれらの事件は、事件が起こっていれば、という机上の空論の可能性もある。
 行方不明も殺人も全てが重なったのは偶然、ただの運命。
 運命――ね。
 まあ、結局のところ、ぼくはここに来た。こんなに胡散臭い話、断れることも出来たんだろうけど。
 依頼者の写真を見て、少しだけ興味が湧いた。
 古手梨花、この子の雰囲気。これは――

「いや、戯言だよな」

 ぼくは呟き――――

 ――ん?
 ふと、視線を感じ、道の端を見てみる。
 少しだけ背が高めの女の子が、ぼくをじっと見つめていた。
 そしてふいに「――し……くん?」と、信じられないとでもいったような口調でぼくに言った。

「え? えっ、と……あなた誰です?」

 ぼくの顔をを見たまま停止していた女の子に、ぼくは問うた。
 腰まで届くほど、長く伸ばした緑の黒髪。服装はいたって普通。
 雰囲気自体は大人っぽくは落ち着いた感じだが、顔の造り自体は幼い。高校生だろうか?
 対人記憶能力の弱いぼくとしては自信はあまり無いのだけれど、多分初対面だと思う。
 
「あっ、ごめんなさい! 知りあいに似ていたので驚いちゃいました」彼女は、はっとしたようにぼくに謝罪し。
「えーと、観光かなにかで来た人ですか?」とぼくに聞いた。やはり初対面だった。

「まあそんなとこかな」とりあえず同意しておく。そういえば一応現地の人だったら分かるかな。
「あの、古手神社って何処にあるか分かります?」

 僕の問いに彼女は迷うことなく、身ぶり手ぶりを駆使し、筆舌に尽くしがたい方法でぼくに神社への道を教えたのであった。

「と、まあこんな感じです。分かりましたか?」と、満面の笑顔。

「……ああ、うん、良く分かったよ。ありがとう、えっと……」

「詩音です、私は園崎詩音です。貴方は?」園崎? はて、なんか聞いた事があるような……。

 まあ、いいか。とりあえず、ぼくは問いに答えた。

「ありがとう詩音ちゃん。あと、ぼくは今まで他人に本名を教えた事が一度しかないのを誇りに思ってる人間なんだ」

「……?」何となくこの子を相手にしていると調子が狂う。

「《いーたん》でも《いっくん》でも《いーちゃん》でも、好きなように呼んでくれ」

「んー。……それじゃ、いーちゃんで」詩音ちゃんは笑顔でこう言った。
13 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:27:53.80 ID:X3t9et.o
〜〜〜〜

 通りをずっと歩いていると、少しだけ開けた場所に出た。
 辺りを見渡すと、うず高く積まれたスクラップと廃棄物の山が見えた。

「――さて」ここなら他の人間はいないだろうか。

 そろそろ目的地だった神社をわざと通り越してまで、気になった事を確認しようか。
 背中に感じていた視線。バス停で詩音ちゃんと話していた時から、今も遠くから見つめられているような、観察されているような。

「そろそろ出てきてくれませんかね?」ぼくは背後の森に、今も感じている視線の主に声を掛けた。

 振り返り、少しだけ待っていると。

「おや、気付いてたのかい? あとで後ろから『ここではね、昔バラバラ殺人があったんだよ』と、お決まりの挨拶をしたかったんだけどなぁ」

 言いながら木の陰から出てきて、ぼくに向い、眼鏡の奥からにこやかな視線を送ってきた。
 身長はぼくよりも高い。筋骨隆々で鍛え上げられた印象があり、タンクトップからは鍛えられた腕が惜しげもなく披露されている。

「人に見られているのが嫌いなだけですよ。それにしても、こっそりと人の後ろを尾行するのは、あまり良い趣味だとは思いませんけどね」

 そしてぼくの皮肉にも、彼は怯まずに。

「いやいや、これはすまない」と人懐っこそうな笑みで答える。「じゃあ、さっそくだけど先程の質問に答えようか。まずは、名前だね。
僕は富竹ジロウ、フリーのカメラマンさ――と言いたい所なんだけど、陸上自衛隊調査部所属、富竹二尉だよ」

 確かに気配の消し方が普通の人間とは違ったけど、……まさか陸自とはね。

「へえ……陸上自衛隊の人ですか。それじゃあ、ここ雛見沢での研究ってのもそうなんですか?」

「いや、研究を国が管理しているだけさ。……あまり驚かないんだね?」

「いや、十分驚いてますよ。ただ、少し感情表現が苦手なんですよ。……それで、何故ぼくに正体を明かしたんですか?」

 ぼくは居住まいを正してから問う。危険って程ではないが、緊張する程ではある。

「失礼なんだけどね、君の事を少々調べさせてもらったんだよ」富竹さんは続ける。
「――面白い経歴だね。いや、面白いと言っては失礼なのかな? ER3プログラムを中退後、日本に帰国。
まあ、中退といっても僕ごとき一般人じゃ計り知れない事だよね。それにそこに残した成果も驚くべき事だよ」 
14 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:38:29.78 ID:X3t9et.o
「その成果ってのは、多分勘違いですよ。ぼくは単純についていけなくなって日本に帰ってきただけですから」

 富竹さんはぼくの言う事を無視して続けた。

「そして、日本に帰って来てからも殺人事件を解決。それとあの恐るべき殺人鬼騒動を解決したそうだね。そして不確定だけど、澄百合学園の件もかな?」

 まったく……よく調べてやがる。致命的な所は玖渚がいいように改竄してくれている筈だけど。
 軽視していた訳じゃないけど、国がある程度の事を調べれるのは確かだろう。

「一応言っておきますけど、それはほとんどぼくじゃありませんよ」

「ああ、それも知っているよ。……だからこそ僕は君に正体を現したんだ。君は確かに恐ろしい奴だ、もちろん玖渚のお嬢さんの事も含めてね。
だけどね、それ以上に恐ろしい者が君の後ろにいる、見過ごせないほどに恐ろしい者が。君がここに来たきっかけ――」
ここで富竹さんは初めて、浮かべていた笑みを消し。
「――哀川潤……だね?」とぼくに聞く。

 ああ、なるほど。

「つまり必要以上に探られたくないので、あえて情報をぼくに渡すって訳ですか?」

「まあ、そういう事だよ。話が速くて助かるね」

「それで、国がそこまでしてまで守りたい研究って何なんですか?」

 富竹さんは帽子を直し、ぼくの問いにあっさりと答えた。

「D・L・L・R症候群――」

 それは自分や他人を傷つけずにはいられない、殺さずにはいられない、自動症の最高級。とにかく埒外に最悪で、問題外に性質の悪い、とびっきりに凶悪な精神病。
 でもそれは存在が疑わしいほど稀で、発症の可能性が低い筈だ。……もしかしたら零崎の奴もそうなのかもしれないな。
 でもサンプル事態が少ない筈なのに、そんな研究なんて出来るのか?
 だけどぼくの思考などまるで無いもののように、富竹さんは付け加えた。

「それも――」研究、それ自体を恐れるように。

「――ウイルス性の、ね」と。
15 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:41:17.46 ID:X3t9et.o
■TIPS

 暗い部屋に電子音が鳴り響く。携帯電話の呼び出し音のようだった。
 部屋の主である長身だが華奢な青年が、ソファーに胡坐をかいて座っている。
 そしてよれよれでだぼだぼのズボンから、携帯電話を取り出し耳に当て操作した。

「ああレンか、俺だっちゃ――」

 電話にでるなり痩身の男が素っ頓狂な声をあげた。

「――はあ? D・L・L・R症候群の研究だっちやか?」

 それは本来ならありえない事だった。不確定ながらDLLR症候群という神経症は、
一般的にはほとんど認知されておらず、その症例とされる患者はほとんど確認されていない。
 ――そんなものを研究したってどうしようもないだろう。
 数瞬の思考。だが電話の相手は喋る事を止めない。

「そんなもん研究出来る訳ないっちゃ――まあ、こっちでも一応調べておくが。ああ、――じゃあ、切るぞ」

 信憑性に欠ける、だが男には一笑に付す事が出来なかった。
 無視出来ない事柄。それは男にとって家族に関わる事になるかもしれないのだから。
 男は立ち上げてあるPCに向かい、青年の見た目にそぐわない軽快さで操作を始めた。

「何とも……因果な話っちゃな」と、まるで自嘲するように呟いた。
16 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/01(水) 18:46:57.16 ID:XX2s4K2o
わっふるわっふる
17 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/01(水) 18:52:36.90 ID:PPQZO8Yo
前の続き?
18 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:53:42.14 ID:X3t9et.o
 2

「なんだかなぁ……」

 ぼくは古手神社に向かい歩いていた。
 その後、富竹さんに簡単に説明を受けた後、
厳密には雛見沢症候群という、DLLR症候群に酷似した風土病という事を説明された。
 その概要は強度の強迫観念に支配され、それによる自傷や殺人衝動などの症状が発症するという。
 だが研究の甲斐あって、ある程度ではあるが、症状の緩和は出来たらしい。あくまである程度の緩和らしいが。
 それでも――まあ、それについてはぼくが考えたところで、どうにもならないんですよね。
 さて。

「そろそろ着きますか」

 辺りを見渡すと先程通り過ぎた、神社に向かう筈の石段が見えてきた。
 段の下には子供用のサイズの小さい自転車が二台並んでいる。
 ぼくは石段を登りきり、神社の横にある家を見つけ、チャイムを鳴らそうとすると――。

「あら? あなたはどなたですか?」と、後ろから声を掛けられた。

 振り返ると、金髪に近い茶色の髪の毛をした、まだ幼い小学生くらいの女の子が、ぼくをじっと見ていた。
 どこぞの制服っぽいデザインの服に身を包んだ、どことなく可愛らしい印象の女の子。

「えっと、……戯言遣いです」

 ぼくのなんの捻りもない返しを聞いた少女は、露骨に二歩くらい距離を空け、
いつでも逃げ出せるよう、ごく自然に拳法でいうところの猫足立ちの構えをとっていた。
 もちろん少女は拳法を習った訳ではないと思うが、四肢の力を抜き、
どの方向からの攻撃にも対応できる防御体制を本能的にとったようだった。
 むしろ毛とか逆立ってるし。(人間じゃない!?)

「は!? あなた、もしかして変質者ですの?」すげえ青ざめてるし。

「……」

「いや! 止めて! 助けて! 触らないで! ああ!」いや、動いてねえし。
19 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:55:28.90 ID:X3t9et.o
>>17
とりあえず微妙に直しながら最初から貼ろうかと
20 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 18:58:09.76 ID:X3t9et.o
「…………」ぼく。

「………………」ぼく。

 膠着状態。
 そのまま現実世界で一分、精神世界では一日ほど向かい合い、宇宙の法則が乱れ始めた頃。

「それで、その戯言遣いさんが何の用ですの?」さらっと言いやがった。

「今迄の展開を流した!?」

「……ちっ」何その舌うち? ぼくの突っ込みの所為なの?

 まるで流し切りが完全に入っても敵を倒せなかった第一皇子の様な敗北感を味わい、地面に膝を着くぼく。
 ……さて、転換。

「えーと、きみこの家の子?」

 数瞬の間、少女は少しだけ思考し、ぼくの問いに答える。

「……今の所はそうなりますわね」

 何故だか、少女はとてもぎこちなく答えた。
 先程の無邪気な雰囲気は、変わらずに思えるけど。
 先程の無邪気な雰囲気は、変わらずに見えるけど。
 何故だか、とても。
 とても、悲しそうに見えた。
 このぼくの感情が何処に起因するのか分からない。分からない、だけどぼくは少女に何かを感じた。

「それであなたは、梨花に何か用ですの?」

「え? ああ、うん。……えっと、多分、赤坂さんの使い、って言えば分かってくれると思うよ」

 こう言えば分かる、らしい。
 少女は先程までの幼さを前面に押し出したかのような無邪気な笑顔に戻っていた。
 だけど、あの悲しそうな瞳の奥に残っていたの感情。
 あれは、多分……間違い無く――――。
21 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:03:34.99 ID:X3t9et.o
「北条沙都子」

「え?」ぼくは素っ頓狂な声を出していた。

「北条沙都子。私の名前ですわ」満面の笑顔でぼくを見つめ。そして問う。
「それで戯言遣いのに……おにーさんのお名前は?」不自然な間に疑問が湧いたが、無視しておく。

「沙都子ちゃん、ぼくはね今まで他人に本名を教えた事が一度しかないのを誇りに思ってる人間なんだ」

 言ったとたんに――違和感。
 詩音ちゃんの時にも感じた不自然。

「……?」沙都子ちゃんはぼくの言葉に首を傾げている。

 調子が狂う。ここの人? いや、違うな。だけどこれは。

「《戯言遣いのおにーさん》でも《いーたん》でも《いっくん》でも《いーちゃん》でも、好きなように呼んでくれ」

 そうして、沙都子ちゃんはたっぷりと悩み。

「それでは、いーちゃんさんにしておきますわ」と、無邪気に笑った。

 そして沙都子ちゃんは、ぼくを玄関に残したまま、少し待って下さいと断り、家に入っていく。
 家自体は時代を感じる平屋で、飾り気がなく質素な感じ。
 良く言えば素朴な雰囲気であり。悪く言えば、ぼくの住んでいるボロアパートと大差はない。
 少しだけ待っていると、奥の扉から沙都子ちゃんが顔を出し。

「どうぞ、入っていいですわ」と、言った。

「おじゃまします」

「待っていたのです。どうぞ、中に入って下さい」

 沙都子ちゃんとは違う声がした。靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替える。
 そして扉を開け中に入ると、ちゃぶ台に着く沙都子ちゃんの隣に少女が座っていた。
 沙都子ちゃんと同じくらいの年頃だろう。小女は写真で見た通り、
長めに伸ばした黒髪のストレートで、どこぞの制服のようなデザインのシャツと吊りスカート。
 イメージ的には仔猫の様な少女と言えば適当だろうか。
 沙都子ちゃんもそうだけど、特殊な趣味の人ならたまらないであろう美少女だった。
 そして少女は、ぼくと目を合わせ、写真とまるで同じの笑顔で。

「ああ、あなたが赤坂に頼まれた人ですか? ボクは古手梨花。よろしくなのですよ、にぱー☆」と。

 彼女は、古手梨花ちゃんは一片の邪気の欠片さえも感じさせないように、純粋に、天真爛漫に微笑んだ。
22 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:09:27.40 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

「――とまあ、こんな感じでお手伝いして貰いたいのです」梨花ちゃんは立ち上がり言う。
「まあ、お手伝いといっても、そんなにやる事はないのですが」

 うん、まあ……確かにやる事は少ないんだけれど、……少ないのだけれども……。

「あのさ……なんでぼくがきみの学校に行かなきゃならないのかな?」

「いーは暇なのです」断定されました。

「予定がない事を暇だというのならそうだろう。だけどきみみたいな子供に暇の何が分かるってんだよ!?」

 と言えるほど、ぼくは強気な人間ではない。まあ、子供相手だし。従っておくしかないか。
 はぁ……やっぱり流されてるなぁ。なんとなく流されることにかけては、ぼくの右に出る者はそうそういないだろう。

「……分かったよ、それじゃあ明日の朝にここに来ればいいのかい?」

 自分の流されやすさに嫌気がさすが、依頼者の頼みなのでしょうがないということにしておく。
 それにしたって情けない話なんですよね。

「はい。では明日からよろしくお願いするのです。にぱー☆」

 梨花ちゃんは立ち上がり、笑顔でぼくの前に来て、その小さな右手を差し出す。

「それじゃあよろしくお願いするのです」

 ぼくは納得できないながらも手を返した。
23 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:15:26.08 ID:X3t9et.o
 梨花ちゃんはぼくの手を握りぶんぶんと揺らし、楽しそうな笑顔でぼくの目を覗き込んだ。

 あ。

「それでは、また明日なのです。にぱー☆」

「……ああ、うん。それじゃあね」

 外に出ると雨は上がっていて、ぼくの上には蒼色の空が広がっていた。
 そして業火に焼かれた燈の空が、ぼくの上に広がろうとしていた。

 何故だか、ふいに思い出していた。
 それは昔の話。
 ぼくが壊れかけだった頃の話。
 ぼくが壊れてしまった頃の話。
 ぼくが壊してしまった頃の話。
 ぼくが毀れてしまった頃の話。

 でも、
 だからこそ、ぼくはそばにいる。
 けれど、それこそ戯言だ。理解してしまえばなんてことはない、終わった問題だろう。
 だけど、握手をした時に梨花ちゃんがしていた、あの目は――。
 それを、ぼくが見間違う事はない。
 それは、ぼくだけは見間違えない。決定的な差異。
 いや、さすがに――考えすぎだよな。

「これじゃあ、本当に……戯言だ」
24 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:22:17.15 ID:X3t9et.o
■TIPS

 ふん。『だから私は』くだらん。見下げ果てた根性だ。見上げた図太さだ。尊敬に値する程のな。
 ――たとえば、だ。お前は運命の出会いという物を信じるか? 
 俺はお前の事を知った事を偶然だとは思わん。俺はお前と出会った事を単なる奇偶だとは思わん。
 『運命という事?』ふん。お前はまだそんな事を言っているのか?
 お前はここまで生きてきて、まだそんなずれた事を言う気か?
 …………ふん。
 いや、それでこそ、それでこそとでもいうべきか。だからこそ続いてきたのか。
 無知故の奇跡。いや、怠惰故の軌跡か。
 だからこそ今、此処で、出会うべくして出会ったという事か。ふん、面白い。
 ならば理解しろ。常軌を逸した常識を。正気を逸した常識を。
 お前は、お前の意思でこの物語を閉じた気でいるようだが、それは単なる傲慢だ。単なる模倣でしかない。
 何故なら、

 ――運命は、決まっている。
25 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:26:27.50 ID:X3t9et.o
〜〜〜〜

「むう……やはり遠くてもみいこさんにフィアット500を借りるべきだったか」

 ぼくはバスの停留所に貼られた時刻表を見て呟く。
 時刻の書かれた色褪せた紙には、六時から先の停止時刻は無かった。
 ……こんな事ってあるの? いくら過疎線だっつてもねぇ……。使う人がいないって事なんだろうな。
 あらかじめ下の街にホテルを取っていたので、宿の心配はないけど。
 さてさて、どうしたもんか……。

 その時一台の車が、間抜けにもバスの来ないバス停で待っているぼくの前を通り過ぎ、
十メートルほど進んで停止した。そして車のドアが開き中から出て来た人は。

「やっほー」春日井春日その人だった。
 
「どうしたんですか春日井さん? 研究所の仕事ってそんなすぐに帰れるものなんですか?」

「うん。退職してきたんだよ」

「は?」は?

「退職とは就業していた労働者がその職を退き労働契約を解除することをいう」

「それは知ってます」この人はぼくを馬鹿にしてるのでしょうか?

「離職ともいう」

「……」

「辞職ともいう」

「…………」

「Gショック☆」

「うるせえ!」

 春日井春日恐るべし。本当にそう思うぼくであった。

「それにしても……今日は初日ですよね?」
26 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:36:44.06 ID:X3t9et.o
 ぼくに心配されるとは、この人も相当だよな。しかし周りが何を考えたところで、この人には全く意味がないんだろうけど。
 そうして春日井さんは無理矢理に作った笑顔の表情でぼくに言う。

「話は後にしてとりあえずメイド喫茶にでも行こうか。いっきーはバスを待ってたんでしょ?」

「はあ……まあ、そうなんですけど」

「乗りなよ。お姉さんが送ってあげる☆」良く分からないけどお前が運転するわけじゃねえだろ。

 停車していた車を指指し、早くしろ、とぼくに促す春日井さん。
 この人本当にメイド喫茶を楽しみにしてるのではなかろうか。
 
「というかね、春日井さん。あんた金持ってるんですか?」

 ちんぴらみたいな物言いだが、バスを降りる時にちらりと見えた情報によると、この人の財布の中は小銭しか入ってなかったように感じたんだけど。

「ああ。それは大丈夫。彼が払ってくれる事になってるから」

 と言い、ぼくの腕を引っ張り、停車していた車の助手席に乗せられた。結構強引な春日井さん。
 運転席には白衣に長髪の、柔和な表情をした大人の男性がぼくを見ていた。

「どうも、こんばんは。僕の名前は入江といいます。いっきーのお噂はかねがね聞いていますよ」

 落ち着いた口調や仕種が大人の印象を与える。彼は雛見沢研究機関の科学者だろうか。
 そして入江さんは一度ぼくから目線を外し、真剣な表情を作った。
 何かを期待するような、何かにすがりつくような。
 そんな真剣な表情。

「いっきー……君――」そこで言葉を切り。
「メイドが好きなんだって?」と、大人の男性がしてはいけない緩み切った表情で、ぼくに問うた。

 ああ、成程。ただの変態ですか。
27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:39:22.33 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 そうして目的地に着くまで、車内では入江さんの力強い演説が開始されていた。
 メイドのここが素晴らしいとか、メイドとしての心構えの問題とか、とにかく色々。
 まあ、ぼくもほどほどに共感できる内容ではあったが。まだまだ甘いよな、うん。
 ちなみに春日井さんは無言だった。

 そして、十分ほど走り車は停止した。

「さあ! 着きましたよ! 行きましょういっきー! 春日井さん!」ちょっと引くくらい元気な入江さん。

 後部座席で肩を竦めていた春日井さんも少し復活したのか。

「まあ行ってみようじゃないか」と言い、車から出て行く。

 駐車場を抜ければ、そこはなんてことはないファミレスだった。 
 偽装?

「……ぼくにはただのファミレスに見えるんですが」

 瞬間、眼鏡を光らせ、ぼくの呟きを聞き取った入江さんが叫ぶ。

「いっき―、君はまだ若い。その程度の事で君はメイドのなんたるかを判断するつもりかい?」

 両手を広げ天に掲げる入江さん。そして擬音がついたと錯覚させるくらいの勢いで、人差し指をぼくに突き付ける。

「外装を見ただけで判断するつもりかい? 君はその程度の漢なのか? だとしたらそれは――」

「どうでもいいから早く入ろう」氷のような冷たさであった。

 春日井さんの声で我に帰った入江さんは、すまなそうに頭を掻き。
 
「ああ、これは失礼しました。では入りましょうか」
28 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:43:26.89 ID:X3t9et.o
 こうしてぼく達は魔境に入り込んでいく。
 意図していなかった事のように。
 理解していなかった事のように。
 時間は進んでいく。それでも秒針は決して戻らない。
 分からなければ良かった。
 解らなければ良かった、と。
 だけど、それは否応無しにぼくの網膜に飛び込んできた。
 ぼくには分からない。
 けれど一つだけ、たった一つだけ理解できた。
 これは、

 これは、メイドなんかじゃない。

 ぼくの心は急速に冷めていく。
 いや、元々心なんて在って無いようなものじゃないか。
 ぼくにとっては、心なんて在って無いようなものじゃないか。
 この、欠陥製品であるぼくには、心なんて在って無いようなものじゃないか。
 そんな事、分かってたのに。分かりきってたのに。
 なのに、ぼくは、
 ぼくは――。

 入江さんは、軽く放心しているぼくを満面の笑みで見つめて、ぼくの肩に優しく手を掛けた。

「どうだい、いっきー。これが、これが、エンジェルモートだ!」

「……ああ、はい」なんとか返事を返すぼく。

 うん。これはとりあえず合わせておいた方がいいですよね。盛り上がってるし。

「これはメイドじゃないんじゃない?」と、氷よりもなお冷たい、絶対零度の春日井さんの声。

「…………」入江さ――――。

 怖っ! 本当に怖っ!

「……ごめんなさい」素直に謝る春日井さん。

 今のは、確実に殺されるかと思った。
 鬼だ。
 殺人鬼なんて可愛らしいもんじゃない、それはまさに《冥土の鬼》の目だった。
 今も怯えている春日井さんをよそに、入江さんは再び笑顔に戻り、店員のメイド(仮)さんに席を案内してもらう。
29 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:47:30.29 ID:X3t9et.o
 段取りがついたのか、入江さんはぼくと春日井さんに言う。

「それでは、行きましょうか。これがエンジェルモートです」楽しそうな入江さん。

「……はい」従うままのぼく。

「……はい」従うしかない春日井さん。

 店員のメイド(仮)さんに席に案内されぼく達は席に着き。
 席は一般的なボックス席。ぼくと春日井さんが並んで座り、入江さんが向いに座った。
 入江さんは満足げに店員のメイド(仮)さんを見終えてから、ぼくと春日井さんに視線を投げ、少しだけ抑えた声で言う。
 
「ええと、それでは自己紹介しましょう。僕は入江京介、表向きは雛見沢に唯一の診療所、入江診療所の所長をさせてもらっています。
いっきーさんはもう解ってらっしゃると思うのですが、この雛見沢の風土病、雛見沢症候群を研究している研究所であるところの、
入江機関の所長でもあります。ああ、診療所も本当に営業していますから、もしもいっきーが雛見沢にいる間、怪我や病気になった場合は遠慮なくどうぞ」

「はあ……だいたいの事は富竹さんから聞いてるんですが。本当にD・L・L・R症候群、いや、
ここでいう雛見沢症候群の研究をしているってのは、にわかには信じられない話ですよね」

 ぼくの問いに入江さんは眼鏡を直し答える。

「ええ、一応言っておきますが、D・L・L・R症候群の研究はあくまで副次的な要素だったんですよ。
始めはほんのちょっとした体調の変化程度だったのですが。それがどんどん重い症状になっていき」

 入江さんは目を細め、悲しそうに、悔しそうに呟き。
 それは普通の科学者には有り得ない反応。ぼくは続きを口にしていた。

「それが殺人病のようになってしまった訳ですか……」

「……残念ながら、そういうことになります」

「ところで入江先生。このお寿司を頼んでもいいかな?」あんたは黙ってろ。

 入江さんは、いいですよ、と頷き、机に備え付けられている店員さんを呼ぶボタンを押した。
 ぼくとしても気になっていた事があるので聞いてみる。

「それじゃあ、あの……ここ何年かの殺人事件と、行方不明事件もやっぱりその関係なんですか?」

 はっとしたようにぼくを見つめる。
 それは痛い所を突かれた、というよりも――

「ええ……けれどそれは」
30 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 19:50:23.13 ID:X3t9et.o
「ああっ! いーちゃんじゃないですか?」

 と、誰かがぼくを呼んだ。声のした方を見るとメイド服(仮)に身を包んだ……誰だっけ?
 えっと……たぶん、詩音ちゃんが、注文を取りに来ていた。

「あの、詩音ちゃん……だったっけ?」

 恐る恐る聞いてみる。

「そうですよ、詩音ですよ……あの、もしかして忘れてました?」

 詩音ちゃんは、可哀想な人を見る目をぼくに向け言う。
 人をそんな憐れんだ目で見ないでくれ、ぼくの記憶力は憐れまれるほど酷いのは事実だけど。

「いや、覚えてるよ。たぶん」

 ぼくの曖昧な答えに、ほんの少しだけ悲しそうに頷き。

「まあ、そうですよね」

 と、言い。 店員さんの鏡とでもいえるような笑顔に戻った。

「おねーさん。上寿司一つお願い」

「あんたは黙れ」さらに上寿司。このろくでなしめ。

「はい、上寿司お一つですね。いーちゃんはどうします?」伝票に書き込みながら、営業用とは思えない笑顔でぼくを見て。
「スイーツとか割とお勧めですよ。ああ、でも男の子だし甘いのは苦手ですか?」と聞いた。

「いや、嫌いじゃないよ」好きでもないけど。 

「ほう。詩音さんはいっきーとお知り合いだったのですか?」

 ふうん。入江さんは詩音ちゃんと知り合いなのか。……まあそうだよな診療所とかの事もあるだろうし。
 しかし、研究機関としても動いて村に一軒の診療所ってのは大変なんだろうな。

「あれ? 監督いたんですか?」と、驚く詩音ちゃん。

 ……いや、ほんとに見えてなかったような言い方。
31 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:00:23.61 ID:X3t9et.o
「ははは、詩音さんはほんとお茶目さんですね」

 屈託なく笑う入江さんの目の光は本当に嬉しそうで、大の大人としてどうなのだろう、と思う戯言遣いであった。
 そして、それはもう存分に、まさに舐めまわすようにじっくりと詩音ちゃんを観察した後、入江さんはぼくにメニューを渡し。

「さ、どうぞ。いっきーも遠慮せずに頼んで下さい」賢者の瞳でぼくを見る。

「はあ、どうも、すいません」何となく頷いてしまったぼくは、なるべく安めな物を選び、詩音ちゃんに注文を頼んだ。
「それでですね、さっき詩音ちゃんが言っていましたけど、入江さんは何かの監督なんですか?」ぼくは入江さんに聞いてみた。

「ああ、それはですね――」問いを答えようとした入江さんを遮るかたちで。

「先生はこの雛見沢の少年野球チームの監督をしているんですよ」 詩音ちゃんは言った。

「僕がこの町や村に貢献出来る事は、その程度しかありませんからね」

 というかね、この人ほんとに聖人なんじゃないのか? ……目線はメイドさんにくびったけだけど。
 しかし、この人は科学者なんだよな。
 科学者にとっては研究という事柄は被検体を物としてみる事であり、良識を捨てて知識を補完する存在だ。
 それに倫理など無く、あくまでサンプルの一例として見なければ研究など出来はしない。だから、それの――

「……ああ、もう」ぼくって奴は。

「どうしました?」入江さんはぼくを心配するように問う。

「いや、たんなる戯言です」 ぼくはそう答えた。
32 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/01(水) 20:04:34.49 ID:PPQZO8Yo
wwktk
33 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:22:29.04 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 料理を食べ終わり、雛見沢について情報を聞き終わった。
 途中何度か詩音ちゃんが来た事もあり、まともな話は出来なかったけど。
 まあ、この程度で充分だろうか。まあ、十全とはいきませんが。

「沙都子ちゃんにはもう会いましたか?」

 入江さんは表情を正す。一瞬だけ俯いた時に、何とも言えない悲しそうな顔が見えたけど。
 見えてしまったけど。

「ええと、はい。梨花ちゃんの家にいた子ですよね?」

「はい、そうです」頷き。「いっきー、もし迷惑でなければ、彼女に優しくしてあげてください」 

 まるで懇願するように、ぼくに言う。
 
「そりゃ、出来ればしますけど」ぼくには、それを全うする自信はないけど。

 だけど、なんでぼくにそんな事を頼むのだろう?
 入江さんは悼むように言う。

「彼女は重度の雛見沢症候群――患者なのです」

 ああ、なるほど。だから沙都子ちゃんはあんなふうになっていたんだ。
 酷く危ういバランスで成り立った存在。ぼくが感じた不自然はそれだったのか。
 ……でもそれにしてはあやふやで、もっと別の意志もあるような。

「でもぼくは……」

 言い淀むぼくを見て入江さんは気付いたように微笑み。

「いえいえ、何も取りたてて可愛がれ、とか。直してくれ、という訳ではないですよ。普通に接してあげてください」

 お願いします、と言い。真摯な態度でぼくに頭を下げた。 

「……はあ。分かりました」頷いてしまう。結局、ぼくは流されてしまった。

 たぶん、この人はそれが言いたかったんだろう。
 二人の間に何があるのは分からないけど。それにぼくが聞いて良いような話でもないだろうしな。

「ふうん。メイドが見たかった訳じゃないんだね」

「黙れ、[ピーーー]ぞ」台無しだった。

「いえいえ、それも本音です」ああ、そうですか。それも本音すか。
34 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:27:24.45 ID:X3t9et.o
何これwwwwwwwwすげぇwwwwww知らんかったwwwwwwどうしようwwwwwwww[ピーーー]って表現使えねえじゃんwwwwwwww
35 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/01(水) 20:33:34.99 ID:8dw3KQAO
驚き杉ww

支援
36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:35:16.06 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 ここはホテル前。
 食事を終えファミレスを後にしたぼくと一名を、入江さんはついでですから、と言い送ってくれた。

「それでは、また」

 車窓から手を振り入江さんは去って行った。
 うーん、なんか激しい人だよな。色々な意味でだけど。
 ……それよりなにより、嫌な予感がするのですが。

「あのですね、春日井さんは何処に泊まるのでしょうか?」

「早く入ろうよ。私は遠出して疲れたんだよ」

「春日井さんもこのホテルなのでしょうか?」

「そうだよ。このホテルだよ」いけしゃあしゃあと。

「では。ぼくはぼくの部屋に行きますね」ロビー。

「うん。そうだね」

「春日井さんの部屋は何階ですか?」エレベーター内。

「ああ。その階だよ」

「あの、春日井さん……どうしてぼくの後を憑いて来るのでしょうか?」フロア。

「同じ方向だからだよ」

「……じゃあ、これで」部屋の前。

「うん」

「……何で入ろうとしているのでしょうか」

「入れてよ」ぼくはもう諦めました、色々と。
37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:40:42.89 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 こじんまりとしたホテルの一室。無駄な装飾や照明がないのがなんとも悪くはない。
 ぼくはソファーに腰掛けていた。

「実験動物、か」

 今日あった事を思い出し、ぼくは呟く。
 ほんの小さな罪も、ほんの少し罪も、焼きつき。取り込み。ぼくを縛り続ける。
 それは、ぼくの原罪とでもいうべき物とでも表現すれば良いのか。
 分断され、引き裂かれ、引き離された――いや、始めからそんな物はなかったのだろうか。
 ……そう言えば説明が付く気がする。それは逃げの一手でしかないけれど。
 それでもいずれ身動きできなくなるんじゃないかという錯覚に捕らわれる。
 いや、錯覚というか、確信というか。
 混沌とした思考は止まらない。

「魔女の窯といった方が適切かもしれないよな」

 ごった煮。それは四月に行ったあの島のような状況と似ているかもしれない。
 傍観者であったこのぼくが。敗北者であるこのぼくが置かれていた状況に。
 だけど、それを直ぐに判断できるほど、ぼくは世界を知っている訳じゃない。
 表層だけをなぞってみても、あの時と今では、まるで違うんだけれど。違うんだけれど。

「……なんかすっきりしないんだよなぁ」

 その程度がぼくなんだろうけど。
 ぼくはベッドで寝ている春日井さんをちらりと見た。いい神経してやがるよな。
 間違ってもこの人を羨ましいとは思わないけど、その神経は見習いたい。

 しかしいったいぼくは何がしたいんだろう。
 いや、違うな。……結局、ぼくは何もしたくないんだろうね。
 手遅れ。手詰まり。閉塞。閉鎖。
38 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:42:34.97 ID:X3t9et.o
 そうなのに、ぼくは何を期待しているんだろう。
 誰かを助ける事が出来るとでも思っているのだろうか?
 そんなおこがましい事をぼくは思っているのだろうか?
 正直なところ、巻き添えは御免だ。
 なのに、どうしてぼくは考えてしまうんだろう。
 理由は分かっているのに、あえて考えてしまう。
 代用品。代替品。
 変わり。
 変化。

「……はあ」

 姫ちゃんの時もそうだったけど、ぼくは何度同じことをすればいいんだろう。
 誰かに誰かを投影したところで、何もならないのは分かっている。
 時間は元には戻らない。
 けれど、あの殺人鬼なら、あのぼくと鏡映し向こう側の殺人鬼なら――零崎人識ならどうするのだろう。
 解りきった問いに意味などない。それを問うことなく……あいつは行動するだろう。
 だからぼくは動かない。
 戯言遣いは流される事しか出来ない。

「それも戯言なんだよな」

 そうしてぼくの雛見沢での一日は閉じてしまった。
39 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:48:04.90 ID:X3t9et.o
 ■TIPS

ジェイルオルタナティブ
 代 替 可 能。

 どんなものにも変わりはあって、誰かが何かをしなくとも、他の誰かがその何かをやって、
かけがえのないものなど、この世にはないという、そういう概念。

バックノズル
 時 間 収 斂

 たとえそれが現時点では何の兆候もない、生じていない事象であったところで、それが起こるべき事であるのならば、
避けようもなく、いつかどこかで起きてしまう、もしも起きなかったというのならば、
それはもう、遥か昔にとっくに起き終わっていたと――避け得るものなど、この世にはない、という概念。

 成功に意味はなく。
 失敗に意味がない。
 因は違えど、果は同じ。
40 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:50:38.23 ID:X3t9et.o
二日目

 0

 たとえば、誰かが携帯電話でメールを打ってるところを、横から覗き込む奴がいたら、かなり嫌な感じでしょう?

 1

 ぼくは目を開けた。
 部屋はカーテンがされているのでまだ薄暗いが、窓からは微かに太陽の光が差し込んでいる。
 推測するに、大体――六時くらいだろうか。
まあ、どうせ寝れないのだし。

「……そろそろ起きるとしますか」

 ぼくは呟き、ソファーからゆっくりと身体を起こす。
 ベッドで寝ている春日井さんは――まだ睡眠中のようだ。
 なんというか、さすがだよな……ほんと。
 ソファーで横になっていた為か、体が少々軋んでいる感じがする。
 なるべく音を出さないように、軽い柔軟体操で体を伸ばし、各所の軋みを丹念にほぐした。
 さて、と。あまり気が進まないけど用意でもしようかな。

「あまり気が進まないのだけど、用意でもしてみようかな……」

 口に出してみても、やはり気が進まない。なんとも気が滅入ってくる。
 というより、真意が読めないってのも要因の一つなんだろうけど。

「学校行きたくねぇなぁ」不登校児顔負けのことを言ってみる。

 最終学歴が小学校卒業のぼくが言うと、何とも情けない気がするんだよね。
 しかし、何故ぼくが学校に……。
 まあ、今更に文句を言ってもしょうがない。

「かくして、運命に流され続ける戯言遣いなのであった」

 状況の認識の為に自分で解説してみたが何とも締まらない。というか馬鹿みたいだ。
 いや、事実馬鹿なんだろうけど。

「……はぁ。諦めますか」

 掛けていた布団を畳み、春日井さんの足元に置き、そのままの流れで、服を持って洗面所に行き、洗顔と着替えを済ます。
 そして春日井さんが起きた時の為に、書き置きを残す。
 そうしてぼくは雛見沢に出かけるのであった。
41 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:53:28.83 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 バスを降りたぼくは、昨日と同じように古手神社までの道を歩く。 
 途中、何件か商店があるのを見つけた。
 ところどころ錆びて色褪せたコーラの看板が、何ともいえないノスタルジックな感情を呼び起こす。
 あくまでぼくの問題なのだけれど。こういうのって、なんか気に入らないな。
 小学生以降、ぼくはヒューストンに留学していたから、見てないってのは当然なんだろうけど。
 でも、それとも違うというかなんというか……。
 ……よく分からないな。

 そうして、しばらく歩くと、石段と自転車が見えてきた。
 ぼくは、長い旅の果て、古手神社の石段に到着してしまった。

 おしまい。

 ……にしてしまいたいところだけれど、そうもいかないんですよね。
 とりあえず今は何時なのだろう?
 ぼくは腕時計で時間を確認する。まだ約束の時間には少し早いだろうか。

「待つか」あんまり早く行ってもあれだし。

 石段に腰かけ、辺りを見渡す。見事なまでに何も無い。 
 
「……エイトクイーンでもやろうかな」

 エイトクイーンとは、要は頭の体操。
 あまり楽しい物ではないけど、暇つぶしにはなるしな。
 ぼくは頭の中にチェス盤を作り、女王を配置していく。

 一つ目。二つ目。……三つ目。…………四つ目。
 うん、割と良い感じ。女王は順当に配置されていく。
 そして、五つ目に突入しようとした時――視界の端に何かを捉えた。
 女の子が恰幅のいいおじさんを――いや、おじさんっぽい物体を左手に抱え、こちらの方向に歩いている。
 良く見てみるとおじさんっぽい物体は、ケンタッキーフライドチキンでおなじみのサンダース大佐であり、
(厳密には大佐という意味ではないのだけれど)開いた右手には鉈を握っていた。それも凄い笑顔で。
 どう考えてもお近づきにはなりたくない感じ。ちなみに女王はとっくに逃げ出している。
42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:55:37.53 ID:X3t9et.o
 というか、

 ぼくも逃げていいですか? むしろ逃げろ!

 が、時既に遅し。女の子の足取りは軽く、既にぼくの目の前まで来ていた。
 そして石段に座っていたぼくを見つけ、停止した。

「……」

 無言。
 ヤバい。怖い。

「……」

「かぁいいでしょ?」

 と言い、いろいろ無残に壊れたカーネルをぼくに見せてきた。
 ええと……どういうことなのでしょう? これは答え次第ではもしかしてまずめな状況なのでは?
 というか、かぁいい、って可愛いって意味だよな。
 しかしこんな状態のカーネルを可愛いと思う人類はそうそういないはずだろう。
 崩れた頭部からは、まるで脳漿を模したように草が飛び出てるし。割れた腹部からは自転車のチューブみたいなのが出てるし。
 女の子はぼくの混乱など露知らず、再びカーネルをぼくの目の前に掲げた。
 カーネルとぼくの距離は一センチもない。

「コレ、かぁいいでしょ?」

「……はい」可愛くないです。

 戯言抜きの恐怖だった。
 さすがに瞬間的な恐怖は入江さんには敵わないものの、この子の継続的な恐怖は結構なものである。
 雛見沢住人の恐ろしさを垣間見た気がする。
 そうして、目の前の女の子は、たっぷりと時間を掛けてぼくを見つめ、口を開いた。

「それで、あなたは誰なのかな? かな? どうしてそこに座っているのかな? かな?」

 ふむ、一応意思疎通は普通に出来るようで、石段に座っていた不審者に声を掛けた、という感じか。
 この場合の不審者はぼくという事だろう。ぼくも不審者の定義を改めなければならないよな。と、この子を見て思う。
 さて、とりあえず名乗って良いものか悪いものか。名乗らないけど。
43 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 20:59:21.23 ID:X3t9et.o
「いえいえ、名乗るほどの者では御座いません、ぼくは一介の戯言遣い。後者の質問はここの子に用事があってね、ってとこかな」

 アイドルのような仕草で、女の子は首を傾げる。
 よくよく観察してみると、丁度肩くらい迄の茶色の髪の毛。
 服装は一般的なタイプのセーラー服を着ていた。高校生だろうか、わりと可愛らしい感じの女の子だった。
 半壊したカーネルと、鈍色に光る鉈のセットはとてもシュールに感じるけど。

「レナは竜宮レナっていうんだよ。あなたの名前は何ていうのかな? かな?」

 かな? を連続するのは癖だろうか。
 それに、こういう子は何となく苦手だな。……理由が予測出来るだけましなんだろうけど。

「悪いんだけどさ、レナちゃん。ぼくはね、今まで他人に本名を教えた事が一度しかないのを誇りに思ってる人間なんだ。
だから《戯言遣いのおにーさん》でも《いーたん》でも《いっくん》でも《いっきー》でも《いーちゃん》でも、好きなように呼んでくれ」

 この二日で既に何度目になるだろう台詞をぼくは言う。

「梨花ちゃんや沙都子ちゃんはなんて呼んでるのかな? かな?」

 ふぅん、……そう来ますか。ぼくは返す。

「……えっと、いーちゃんかな」

 ぼくの言葉を聞いたレナちゃんは頷き、まるでスイッチを切り替えるように惚けた顔を変えた。
 天然にして、純真無垢に、純一無雑に、清純無垢に、元からそうであるかのように、元がそうであったかのように、元々そうだったかのように、
 彼女は、嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ私はいっくんって呼ぶよ。いいかな? かな?」

「……ご自由にどうぞ」
44 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:05:17.27 ID:X3t9et.o
 成程ね。
 壊れているわけじゃなくて、あえて壊しているわけだ。
 いや、ずらしていると表現した方が的確だろうか。それはそれでやり辛いな。
 ぼくは腕時計を再び見た。分針は待ち合わせ時間の手前を指している。

「それじゃあ、また後で。……たぶん学校で会えるだろうしね」

 ぼくは言った。それを聞いたレナちゃんは本当に楽しそうに。

「あはは」

 と笑った。
 そしてレナちゃんはぼくから目線を切り、再び歩きだす。
 そして初めて彼女を見た時のような惚けた顔で、ぼくに振り返り。

「それじゃあ、また学校でねー! はう〜、お持ち帰りぃ〜!」

 と言い、まるで手の延長だとでもいったように、カーネルをぶんぶんと振り回した。
 ……あれって軽く三十キロくらいはあるよな。
 そしてレナちゃんの姿は見えなくなった。

「ふう……」

 狂言回しの仕事じゃねえよな、これは。
 それにしても、何となく嫌われた気がする。ぼくはなにかレナちゃんに嫌われる様な事でもしたのだろうか。
 考えても――やっぱり解んないんだよな。
 まあいいや、としておく。

「……はてさて、これは戯言なのでしょうか」
45 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:13:21.86 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 所変わって場所は古手家。

「いただきます」

 何故だか食事中のぼくであった。
 目の前に並んだ朝御飯。メニューは卵焼きにお味噌汁。
 日本の朝食につきものの献立だった。見た目も悪くないし、これは結構期待できるのでは。
 それでは、一口目。
 ――お。

「うん、なかなか美味しいね」

 なかなかに美味しい。見た目に反した味じゃなくて良かった。

「ボクじゃなく沙都子に言うといいのです」

「結構料理が上手いんだね、沙都子ちゃん」

「結構は余計ですのよ」

 頬を膨らまして不満げな沙都子ちゃん。

「じゃあ、わりと上手いと思わざるをえないと言って言えなくもないんだね」

「回りくどいので、もうちょっと優しさを加味してお願いしますわ」

「わりと上手いと思わざるをえないと言って言えなくもない優しさ」

「まずそうになった!? というか……美味しいと言う気がないんですの?」

「いや、なくはないんだけど。……それじゃあ文の最後に優しさと付けて雰囲気が変わる言葉でぼくを唸らせてくれたら、戯言抜きで言ってもいいよ」

「その勝負受けて立ちますわ!」

 ばん、とちゃぶ台に手の平を叩きつけ、拳を握り、崩していた姿勢を正した。
 明らかに気負いすぎである。
 しかし、何でこんな展開になったのだろう。実際のところぼくにもわからない。
 それでは、と前置きを付ける沙都子ちゃん。
46 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:17:11.41 ID:X3t9et.o
「黙って食べ続けた優しさ」

「ぬ」

 やっていることは普通に食べ続けているだけなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
不思議と誰かの為に頑張ってるようだ――そんなことは一言も言ってないのに。

「親が成績を心配する優しさ」

「むむ」

 やっていることは普通に心配しているだけなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
不思議と腹黒く感じてしまう――そんなことは一言も言ってないのに。

「幼女を愛する優しさ」

「なんと」

 やっていることは普通にぺドフィリアなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
何となく慈愛溢れるよう感じてしまう――そんなことは一言も言ってないのに。言ってないのに。

「彼女との別れを選択した優しさ」

「……やめてくれ」

 やっていることは普通に別れただけなのに、後ろに優しさとつけるだけで、
まるで彼女の為に別れたようだ――そんなことは一言も言ってないのに。言ってないのに。言ってないのに。
 
「負けを認める優しさ」
47 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:21:37.55 ID:X3t9et.o
「ぼくの負けだ……。えっと、逆立ちすればいいんだっけ?」

「それは違います」びしりと言われた。まあ、この状態だったらパンツは見えないもんな。

 ――というかね。

「いや、さ。ふと思ったんだけど、こんなのってぼくのキャラクターじゃない気がするんだよね」

「いいじゃありませんか。だいたいですね、こんな一見さんに不親切なSSをここまで読む人は、だいたい元ネタも読んでますわ」

「……何言ってんだきみ?」

 元ネタ? SS?
 わからない。沙都子ちゃんが何を言っているのかさっぱりわからない。皆目見当もつかない。
 たぶん雛見沢症候群の影響だろう。気を付けないと偶にこういう事が起きてしまうかもしれない。
 一応注意しておくべきだよな。うん。
 うん。

「ごちそうさま」

 ご飯を食べ終わり箸を置いた。

「おそまつさまです。――それでは、どうでしたか料理の方は?」

 こういうふうに面と向かって聞かれると、ちょっとこそばゆいんだよね。
 一応負けを認めた訳でありまして。

「美味しかったよ」と言う優しさ。

「それでは学校に行くのです。にぱー☆」
48 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:26:52.64 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

「あー、それでなのだけど。学校に行ったらぼくは何をすればいいのかな?」

 学校へ向う道すがら、ぼくは梨花ちゃんに問うた。
 窺うような物言いになってしまうのは、今の心情を憂慮するならしょうがないのだけど。
 とりあえず、ぼくのこれからの処遇は彼女に任せるしかない。

「そうですね……み〜……」

 悩んでる。……ほんとに考えてなかったんだな、この子。

「……年長組に勉強を教えてあげてください。いーは大学生なのです、かしこいかしこいなのです」

 と言い、梨花ちゃんが背伸びをしてぼくの頭を撫でようとするのを躱した。なんだか微妙に馬鹿にされた気がする。
 しかし勉強を教える程度なら、わりと楽な部類に入るからいいっちゃいいんだけど。

「それはいいんだけど――でもさ、やっぱりちゃんと先生に教えてもらったほうがいいと思うんだよね」授業の進行具合もあるし。

「それはそうなのですけれど」

 沙都子ちゃんが割り込むようにぼくに言う。説明好きなんだろうかこの子は。

「担任の知恵先生じゃちょっと年長組の勉強まで手を回すのは難しいですからねー」

「知恵先生?」字的には、ちょっとだけ智恵ちゃんと似てるな。

「ええ、知恵先生。校長先生以外の唯一の教師ですのよ」

「へぇ、先生もあんまりいないんだね」

「はっきり言って廃校ぎりぎりなのです」

 全校生徒集めて、やっと一クラスってのは聞いてたけど、そこまで寂れているとは……。
 まあ、そうだよなぁ。どう見てもこの村って、クローズドヴィレッジにしか見えないもんな。
 むしろ出ようとしても、この村から出ていけないのか。
 まあ、いいか。

「家庭教師をしたことがあるし、高校生くらいの勉強で少人数なら、ぼくでもなんとかなると思うよ」

 さすがに姫ちゃんに勉強を教えるよりは楽な筈だろう、たぶんだけど。

「では、そうしてくださると嬉しいのです」

 という運びで学校に向かうぼく達であった。

「その時いーは、あんなに悲惨な状況になるとは、夢にも思わなかったのです……。にぱー☆」

 ろくでもないナレーションを入れるな。
49 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:29:21.93 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 梨花ちゃんと沙都子ちゃんの後ろについて歩き、目的の場所に到着。
 古手家から徒歩で、だいたい二十分くらいだろうか。時刻は八時を少し過ぎていた。
 ぼくの前を歩いていた梨花ちゃんが足を止め、振り返り両手を一杯に広げて無邪気な笑顔で言った。

「着きました。ここが私達の学校なのです」

 雛見沢分校。
 登校時に聞いた情報によると。
 興宮の公立学校分校。教員は校長と教師の二名のみ。施設は営林署の建物を間借りしており。
 小、中、高、等学校併設の学校。ということらしい。
 正門を抜けると、校舎の全景が見えた。
 うーむ。 
 想像していたよりかは立派だった。ちゃんと学校に見えるしな。
 奥の方には営林署の名残だろうか、機材や作業機械が積み重なって放置されているようだ。

「沙都子、ボクはいーを知恵先生に紹介してくるのです」

「わかりましたわ。先に教室に行っていますのよ」

 沙都子ちゃんは手を挙げ、校舎に入って行った。
 それを見届けた後、梨花ちゃんは唐突に

「沙都子はとても良い子なのですよ」と言った。

「え? 一体……どういう事? そりゃあ、さ。沙都子ちゃんが良い子だっていうのは分かるんだけどさ……」

「いーには、知っておいてほしかったのです」 

 と、一瞬だけ儚げに笑ったように見えた。
 それを見た瞬間。

 ぞくり、とした。
50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:36:35.02 ID:X3t9et.o
 なんだよ、それ。
 どうやったら、
 どんな事をしたら、
 そんなのは、
 それは、
 これは、

 どうして、ぼくは梨花ちゃんを――

 ぼくは、言った。思わず言ってしまった。
 ぼく自身が助かりたいが為に。
 本当に思っているのかもわからない事を。

「けれど、ぼくには……きみだって良い子に見えるよ」

「みー。ボクは皆と同じで、初めから良い子なのですよ、にぱー☆」
 梨花ちゃんは無邪気に笑い。「さあ、職員室に行くのです」と更に笑い、歩きだした。

 梨花ちゃんの表情は変わらない。いつもと同じ、変わらない笑顔。
 そして職員室に向かい少しだけ歩くと、木造廊下の向かいから歩いていた男の子がにこやかに笑み、片手をあげ。

「おはよっ、梨花ちゃん」気軽に挨拶をした。

「こちらこそおはようなのです、圭一」

 梨花ちゃんも朗らかに返す。まるで何事もなかったかのように……。

「それで、あんたがいーちゃんかい?」

 と、ぼくにも親しげに挨拶をしてきた。はて? 知り合い、じゃあねえよなぁ。
 しかし、ぼくの名前も知ってるしな――。ああ、レナちゃんと一緒の理由か。
 納得。

「どうも」ぼくは適当に返事を返す。

 男の子は適当な返事に意気消沈したように溜息をつき。

「いやいや、聞いてた通り、本当にテンション低いんだな」まあいいけどな、と呟き。
「俺は前原圭一、ってんだ。よろしくな、いーちゃん」と爽やかに笑った。

 どちらかというと悪ガキって感じではなく、されど優等生っぽくもない。普通と言って言えなくもない。
 いたずらっ子てのが相応しいかな。
 それに、なんとなくだけど雛見沢の人っぽくはないな、都会の子っぽいような。
51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:39:20.01 ID:X3t9et.o
 気付くと圭一君はぼくの目の前で手を差し出していた。
 
「ああ、うん。こちらこそ」

 ぼくも手を差し出し軽く握手した。
 うーん。少しだけ気恥かしい気がしなくもない……。

「いー、それでは職員室に行くのです。圭一もまた後で。にぱー☆」

 圭一君は納得すると、「じゃあ、後でな」と言い。駆け足で教室に走って行った。
 元気だなぁ、ぼくが老成してるだけって線もあるけど。

「初めて雛見沢で普通の人に会った気がするな……」

「あはは」

 ぼくの呟きを聞いた梨花ちゃんは楽しそうに笑った。

「……ぼく変な事言った?」

「いえ、圭一はですね、実は結構凄い人なのです。いわばヒーローみたいな人間なのですよ」

 と誇らしそうに胸を張った。

「へぇ……ヒーローですか」

 ヒーローって言うとまず真っ先に哀川さんが思い浮かぶんだよな。
 ……少々、というか結構ダークヒーロー分と怪獣分が混じっている気はするけど。
 しかし圭一君がね、まあ、梨花ちゃんがヒーローと言うならそうなのだろう。

「それはおいおい分かるのです」

 しかしぼくが言うのも何なのだけど、思わせぶりな子だよな。
 笑ったり、喜んだり、期待したりと。
 本当に猫みたいな気まぐれな子だな。

「さ、いざ職員室へ行くのです。もう授業が始まるのですよ」

 かくして、ぼくの学校生活はいささか不安を残すも始まるのであった。
52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:44:38.55 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜


「それじゃあよろしくお願いします」

「……はぁ、分かりました」

 何かわかんないけど……知恵先生の話でほんとに疲れた。 
 熱意溢れるいい先生なんだろうけど。生徒の事を考える本当にいい先生なんだろうけど……。
 何であんなにカレーが好きなのだろうか。……向こう一週間は絶対にカレーは食べたくない気がする。
 だいたいブラックカレーってまずいだろ――倫理的にだけど。実際どこかの作家が食べたらしいけど。
 それに具はルーが出来た後に入れるなんて普通こだわらないですよ。あと黒鍵なんて知らねえよ。
 知識を詰め込まれたせいか、目を瞑りながらでもカレーが作れそうな気がする。
 というかね、なんでぼくがカレー博士みたいになってるんだろうか? 嫌いじゃないですって言っただけなのに……。
 ほんとに雛見沢で普通の人って圭一くんだけかもしれない。そう考えると貴重な存在だよな。

「お疲れなのです。いーは頑張ったのです」

 職員室の戸の陰に、梨花ちゃんは座っていた。

「……あ、うん。ところで今何時なのかな?」時間という概念が曖昧になってきた。

「さっき十時半になりました」

「え……マジすか?」

 予測を遥かに通り越している。

「マジなのです」

 冗談でも何でもなく、腕時計はしっかりと十時半を映し出す。
 まさかカレーでゲシュタルト崩壊を起こすとは……。というかカレーってなんだったっけ。
 カレーって確かそういう名前の飲み物だよな。いや、違う。というよりぼくって誰だっけ?
 カレーって確かぼくだよな。ぼくがカレーでカレーがぼくだったもんな。いかん――そっちへ行くな、ぼく。 
53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:52:02.61 ID:X3t9et.o
「というか梨花ちゃん、もしかしてそこで待ってた?」

 さすがに二時間はないと思うけど。

「待ってたのですよ。何回か教室に行ったりしましたのですが、七割は聞いていたのです」

 それはそれですごいな……ぼくはまだ適当に相槌を打っていたから意識を保っていたけど。
 一人でアレは聞くのはきついよな。しっかりした子だと思う。

「ところで、いー」

「なに?」

「カレーってなんの事でしょうか」

「は? ……梨花ちゃん?」何言ってんの?

 梨花ちゃんは完璧に目が座っていた。目の光は消え失せ、深く濁った底なし沼のような、虚ろな暗い瞳でぼくを見て言った。

「梨花ちゃん? ボクはカレーなのですよ。あれ? カレーがボクなのでしょうか?」

 かくして梨花ちゃん自我は、粉々に砕け、混ざり合った。
 カレーと。
54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 21:55:43.44 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

「さて、教室に行くのです」

 どうやら梨花ちゃんは我を取り戻したらしい。
 一時は膝を抱えて、ぶつぶつと。
「違う違う違う違う、私はこんなカレーを極める為に生きて来たんじゃない」とか、
「むしろ人生自体がカレーなら楽になれるんじゃないか。というかカレー自体が……」などと呟いていたが。
 やがて、なんとか自分を取り戻したようで。小さく「にぱー☆、にぱー☆」と呟き、いつもの笑顔に戻り、歩きだした。

 そして教室の扉を開け、教壇に立つ。そうして後ろについていたぼくを指差し言う。

「ただいま戻ったのです。皆、この人はいーと言います。大学生なので皆に勉強を教えてくれるのです。
ひとでなしの目をしてますが、たぶん優しい気がしますので、使ってやってください。にぱー☆」

 さりげに酷い事を言われた気がする。色々否定できないけど。
 それにしても、結構人いるんだな。こんなに注目されるのは嫌だけど……。
 皆の拍手。善意での行動なんだろうけど……それにしたってな。

「ふう……」

 ため息が出た。いや、もう諦めてるけど、諦めてるんですけど。
 ……それでは、仕事でもしますか。
 知恵先生の話だと高等学年の子はあまり多くはないから集中して見てやって欲しい、との事。

「圭一くんに、魅音ちゃん、レナちゃん……だっけか」

 ああ、もう。子供達がぼくに集まってきた。ほんとにこんなのは、ぼくのキャラじゃない。
 こんなのは本当に、嫌なんだ。
55 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:00:00.14 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜


 ぼくは子供達を戯言混じりであしらいながら、勉強を見て行く。
 勉強自体は簡単な物だったけれど、教えた後に、純粋な目でお礼を言うのは止めて欲しい。

「ついでだから圭一くんやレナちゃんも解らない事があったら聞いていいよ」

 見覚えのある顔がいた。えっと……。

「……ふうん、詩音ちゃんもこの学校だったんだね」

 たぶん間違えてはいないと思う。さすがに三回目……だしな。
 でも何となく雰囲気が違うような。ホルスターとか着けてるような子だっけか。
 まあいいや。
 詩音ちゃんはぼくの言葉に大袈裟に驚き。
 
「あるぇ? いーちゃん詩音と知り合いなの?」

「え? きみって、確か詩音ちゃんだよね?」

 どういうことだろうか。

「あたしは魅音、詩音の双子の姉だよ」

 ふうん。成程。納得。

「へえ」

 魅音ちゃんが、ぽん、と両の平手を合わせ皆に向き直った。

「そうだ! おじさんいいこと考えちゃったよ!」

「何かな? かな?」レナちゃんが机から身を乗り出す。

「ん? どうしたんだ魅音?」圭一くんもそれに続く。

「いーちゃんにも部活に出てもらおうよ」はあ。

「魅音さんにしては良い考えですのよ」ああ……。
56 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:07:01.84 ID:X3t9et.o
 魅音ちゃんは机から立ち上がり、胸を張って、大仰なポーズをとった。
 ホントに演出過多な子だな。

「というわけで」びしりと、ぼくに指を突き付け。「いーちゃんには部活に出て貰いたいんだ」

 皆の期待した視線がぼくに集まる。子供達の純真な視線。まともな人類なら断れる筈もないだろう。

「嫌だね」

 それでも断る戯言遣いだった。
 空間が凍る。圭一くんやレナちゃん、沙都子ちゃんは固まっていた。
 いち早く硬直から解放された魅音ちゃんは慌てるようにぼくに言う。

「な、なんで!? ぶぶ、部活って言ってもね、そんなかたっ苦しいもんじゃないんだよ!」
 動揺まる見えでぼくに笑いかけ「要は遊びみたいなものなんだよ――」

 微妙な空気の中、必死の説明は続く。
 ああ、なんか可哀そうになってきたぞ。
 というか、またもやまずい流れなのではなかろうか。

「――とまあ、そんな感じだから構えなくてもいいのさ!」と爽やかに閉めた。

「いや、ぼくとしてもその輪を壊してしまうのはいささか気まずいので、きみ達の友情の促進の為に遠慮しておこう」

 やんわりと断っておく。
 さすがにここまで言えば大多数の人間は諦めてくれるだろう。

「それなら大丈夫!」と、指でVサインを作る魅音ちゃん「そんなことは気にせず参加してくれたまえ」

「……」

 絶句した。
 どうやら少数に含まれていたようです。
 もしかして、……魅音ちゃんって空気読めない子なのでしょうか?
 それとも、この空気の中に敢えて切り込んだのか。だとしたら大物だな。
 よく分からないけど、やはり雛見沢の人間だよなぁ。

「…………」

 静寂。お葬式のような静けさの教室。
57 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:08:51.66 ID:X3t9et.o
「と、いうことで!」脈絡がない……。
 そして勢いよく、ばん、とぼくの両肩を叩き「参加しようよ、いーちゃん!」と言う魅音ちゃん。

 ……この子すげぇ。

「あ、いや、うん。そうしたいところもやまやまなんだけどさ。……でもね、そういうのってさ――」

 あまりの勢いに口ごもってしまうぼく。
 教室の皆も、似たような精神状態だと見受けられるようで、
梨花ちゃんや圭一くんは笑いを堪えているし。レナちゃんは朝見た時と同じように、現実から逃避してるし。
 沙都子ちゃんに至っては目の端に涙を溜めている。……これはぼくの所為なんだろうが。
 ああ、もう。頼まれなければ良かった。
 いったいぼくは何を考えているんだろう――ぼくらしくもない、本当に思う。
 いったい何なんだろうね、この状況は……。

「はぁ……」溜息をついていた。
「わかったよ。……でも今はちゃんと勉強してくれ」

 流された。完膚なきまでに流された――それも勢いだけで。
 そうしてぼくの自己嫌悪は、魅音ちゃんへの喝采にかき消されてしまった。

 〜〜〜〜

 そうしてつつがなく授業は終わり、生徒たちに昼休みを知らせているであろう鐘が鳴った。
 あくまで客観的な感想としてなのだけど。
 圭一くんは感覚的に問題を解くタイプだったので、しっかりとした公式を教えればすぐに理解してくれた。
 というか、知能的なレベルはかなり高く纏っているのではなかろうか。
 レナちゃんはそれとは真逆に公式そのものに捕らわれるタイプで、逆算的な教え方をしてみた。
 そして、魅音ちゃん。
 ……勉強嫌いなんだろうなぁ。
 頭自体は悪くないものの、今までまともに勉強した事がないんだろう。
 それでも姫ちゃんよりは教えやすいってのが……。
 ぼくはひっそりと夏休みは姫ちゃんに勉強漬けになってもらおうと誓った。

「ってかいーちゃんって教え方うまいな。大学で家庭教師でもやってたのか?」

 教室の真ん中の席が開いていたので、座っていたぼくに話しかけてきた圭一くん。
 頷き肯定の意を返す。

「まあ、基本的に貧乏学生だからね。バイトでもしなきゃやっていけないんだよ」

「はは、大変だな」快活に笑い「えと……確か京都だったっけ?」
58 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:13:54.60 ID:X3t9et.o
 ううむ。気さくな子なんだな。何となくぼくが行っている大学を思い出していた。
 きっと圭一くんなら大学でも友人などには困らないだろうな。結構結構。
 などどどうでもいい事を考え、どうでもいい返事を返しておく。

「そ、京都だよ」

「俺もさ、少し前に東京から越して来たんだぜ」

 へえ、なるほど。だから雛見沢の人っぽくなかったんだな。

「ふうん。大変だね、都会から引っ越しって。……ところで何かぼくに用?」

「おっと……忘れてたぜ」圭一くんは軽く頭を掻き、教室の隅を指差し。
「梨花ちゃんと沙都子が呼んでるんだ」とぼくに言う。

「ふうん、何だって?」ぼくは圭一くんに問う。

 圭一くんはにやけて。ま、行けばわかるさ。と言い去って行く。
 ふむ、……行ってみますか。


「何か用かな?」

 ぼくは座っていた梨花ちゃんを見下ろす形で声をかけた。
 圭一くん、魅音ちゃん、梨花ちゃん、沙都子ちゃんが固まって座ってお弁当を広げている。
 
「み〜。いーは何も食べていないのでしょう?」

 梨花ちゃんはぼくに問うてきた。

「うん? 食べてないけど」

 一応だけど、三日程度なら水だけで活動できるんですよね。
 今も多少お腹はすいてるけど。

「ならここに座るのです」

「何故に?」

「いーの分のお弁当があるからなのです」
59 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:17:53.47 ID:X3t9et.o
「それは嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。いいのかな?」

 ぼくの問いに梨花ちゃんは邪悪そうに笑い。

「食べなければ知恵先生にカレーを食べさせられるのです」

「いただきます」即答。よく心得てらっしゃる。

 しかし攻撃にはノックバック、反動というものがつきものである。
 つまりは因果応報。
 梨花ちゃんはカレーという言葉に反応し、頭を抱えて、「……にぱー……にぱー」と呟き、あちら側に旅立って行った。

 ぼくはちょうど梨花ちゃんと圭一くんの間に置かれた椅子に座る。
 何となく座りが悪い気がする。いや、ぼくの気持の問題なのだろうけど。

「これをお食べになってください」と、沙都子ちゃんからお弁当の包みを渡される。

 机を見ると、全員分の弁当箱があった事から推察するに。

「もしかして作ってくれたの?」

「おほほ、ほんのついでですわ」と、頬に手をあて笑った。

 うーん。甘えてんな、ぼく。
 
「ごめんね、沙都子ちゃん。手間が増えちゃったよね?」

 沙都子ちゃんは困ったように首を振り、ぼくの問いを否定した。

「いえいえ、私や梨花のもありますからついでですのよ」

 ……うーん、本当にいい子なんだよな。
 けどな、引っかかる。
 入江さんに言われたからか?
 分からない。
 けれど、本当に分かっていないのはどっちの事なのだろう。

「ささ、早くお食べになってください」

 と沙都子ちゃんに促され、ぼくは分からないなりに弁当箱を開けた。
60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:23:03.16 ID:X3t9et.o
「へえ」

 ぼくは感嘆の声をあげる。
 中には色とりどりの具が入っており、中々に美味しそうである。
 朝御飯もそうだったけど、本当に料理得意なんだな。と感心していると。
 沙都子ちゃんがぼくの顔色を窺うように聞いてきた。

「嫌いな食べ物ってありますか?」

「いや、無いけど」

 ぼくは基本的に雑食なので、大抵のものならなんでも食べれる。

「沙都子はかぼちゃが嫌いないのです。他にも――」というか梨花ちゃん復活してたんだ。

 沙都子ちゃんは梨花ちゃんの言葉を遮るように言う。

「んもー、梨花ったら。……私はかぼちゃだって食べられますわ」

 そして頬を膨らませ、冗談っぽく梨花ちゃんを睨んだ。

「気持ちは分かるけど好き嫌いはあまりいいことじゃないよ」

 ぼくは沙都子ちゃんに言う。
 気持は分かるけど、ね。
 それを聞いた皆が、それぞれに沙都子ちゃんをからかう。
 とても嬉しそうに。とても楽しそうに。

 ぼくは顔色を変えずに、誰にも聞かれないように溜息をついた。
 どうしてだろう――。
 どうして、この村の人は。
 どうして、この村の人は、
 こんなに、
 こんなに壊れているのに、欠けているのに、
 どうして、こんなに真っ直ぐなんだろう。
 そんな事を思考してみたところで、意味などありはしないのに。
 所詮、戯言なのに。
 なのに、どうして、ぼくは。
61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:33:12.55 ID:X3t9et.o
という事で今迄の分までコピペ終了。そんで続きはどうしようかな、と思うんだけど
書き貯めはあんまり多くはないけど(12kbくらい)このまま貼るか、
もしくは、書き貯めを増やして、また日曜日にでもvipにスレ立ててやるか。さて、どうしようかね?
62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:36:18.28 ID:SeOZxQDO
このまんま貼ってください
63 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:45:23.52 ID:8dw3KQAO
好きにしてくれ
でも殆んどの読者はここを見付けてないだろうから、また日曜にでもvipに立てた方がいいかもね
64 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:52:45.73 ID:X3t9et.o
ほんじゃ、とりあえずキリのいいとこまで貼るかな
65 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:54:21.04 ID:X3t9et.o
「おい、いーちゃん。……どうした? 具合でも悪いのか?」

 圭一くんの声で我に帰る。
 ……今はこんな事を考えるべきではないよな。

「ああ、いや。……なんでもないよ」

 ぼくは答えた。自分の声で、道化のように冷静な声で。 

「停止してましたのですよ。本当に大丈夫ですの?」

 沙都子ちゃんがぼくを覗き込み、心配するよう言った。。
 どうやら大げさではなく停止していたようで、皆が心配しているような素振りをみせていた。
 ぼくは頭を大げさに振り。

「本当に大丈夫だから。さっき梨花ちゃんが言ってた、カレーって言葉が今更になって効いてきたんだよ」

 ぼくは笑い飛ばすように言う。まるで道化のように。
 レナちゃんは笑った。圭一くんも、魅音ちゃんも笑った。
 沙都子ちゃんも馬鹿にされたと感じたのか、頬を膨らませた後笑った。
 だけど、ぼくは笑わなかった。
 そして、梨花ちゃんはぼくを探るように、ぼくを観察するように、じっと見ていた。
66 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 22:56:19.47 ID:X3t9et.o
 〜〜〜〜

 授業終了のチャイムが鳴り、教室は喧噪に包まれていた。
 やはり雛見沢の子供達といえども、授業の終了は嬉しいようで瞬間的におもちゃ箱をひっくり返したような状況になっていた。
 ぼくにもこんなふうに喜べる時期があったのかどうなのか。……まあ、なかったのだけれど。
 思いを馳せる事なく、回想は終了しました。
 教師ごっこが終わり、ぼくは教室を出ようとすると――後ろから肩をぽん、と叩かれた。

「何処に行こうというのですか?」

 出れませんでした。ええ。
 後ろを振り向くと、梨花ちゃんが邪悪な笑みで立っていた。

「今から京都に帰らないとルパンVSコナンが見れないからね」

 ぼくは大げさに肩を竦めてみせる。

「諦めるのです」一言で切り捨てられた。

 …………。
 だいたいね、ぼくはこれでも大学生なのですよ。
 それがなんでこんな子供達とゲームや遊びをしなければならないんでしょうか。
 それに学生の本分って勉強でしょ。きみ達は大切な時期にそんなくだらない事をしていいのかい?
 言わないけど、言えるはずもないんだけど。
 そうして、ぼくは部活に参加させられるのでした。

「それで、何をするの?」

 ぼくは教室の後ろの一角に陣取っていた魅音ちゃんに問うた。

「ふふふ。まあ、楽しみにしてくれたまえ」

 魅音ちゃんはぼくの問いを完全に無視するかたちで、妖しげに笑い、皆に指示を出していく。
 そうして準備が終わると、昼食の時と同じように机を四つ着け長方形の形を作り、その周りを囲むように全員で座る形になった。
67 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:00:40.77 ID:X3t9et.o
「さーて、準備はいいね」そしておもむろに椅子から立ち上がり。
「それでは、会則に則り、部員の諸君に是非を問いたい! いーちゃんを新たなゲスト部員として我らの部活動に加えたいのだが」

 えー?

「ああ、全然構わないぜ。むしろ男の部員が欲しかったところだぜ」

 場の空気に乗せられたのか、圭一くんも立ち上がり、握り拳をぼくに向けウインクした。

「レナも勿論異議無しだよ。だよ」

「おほほ、いーちゃんさんにこの私の相手を務められるのかしら」

「ボクも沙都子も賛成するのですよ。いーも混ぜてあげてほしいのです」

 やはり他の皆も場の空気に乗せられたのか、立ち上がりぼくを見つめた。
 梨花ちゃんだけは純粋に笑うというより、ほくそ笑んでるって感じ。これって地が出てるんだよな……。
 しかし……テンション高い子達だ。
 羨ましくはないんだけど、若さの力というかなんというか。まあ、年頃を考えれば、それも当たり前なんですよね。

「ほら、いっくんもそんな顔してないで一緒にやろうね。うね」斬新な語尾で言うレナちゃん。

 ぼくは両手を挙げ、降参のポーズで言う。

「はいはい。参加しますよ」ぼくは手をおろし聞いた「それでさっきも聞いたんだけどさ、何をするのかな?
大まかにしか聞いてないからよく分からないんだけれど、ゲームをしたり遊んだりする部活なんだよね?」

 ゲーム部、みたいなものなんだろうか?
 魅音ちゃんはおほん、と咳払いをしてでっかい胸を張り、ぼくの疑問に問うた。

「我が部はだね、複雑化する社会に対応するため、活動毎に提案される様々な条件下、時には順境、あるいは逆境からいかにして――」

 魅音ちゃんの説明は終わらない。合間をぬうように皆が喋る。

「レナはあんまり強くないから苛めないでほしいな」

「おーっほっほ。弱いものは食い尽くされるのが世の常でございますのよ、レナさん」

「とどのつまりは、みんなでゲームをして、楽しく遊ぶ部活なのです。にぱ〜☆」そうですか。
68 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:02:34.05 ID:X3t9et.o
「そういう事だ。まあ、気楽にやろうぜ……」

 圭一くんはにこやかに言う。
 ……何となく裏がありそうな気もするけど、ゲームぐらいだったら酷い事にはならないよな。

「うん。それじゃあ、お手柔らかに……」

「ふふふ、甘いよいーちゃん! 会則第一条! 狙うは一位のみ! 遊びだからなんていういい加減なプレイは許されない!!
そして、会則第二条! その為には、あらゆる努力をする事が義務付けられている!」

「はあ……」しかし凄いな、この子は。「それで何のゲームをするのかな?」

「そうだねー……」

 ぼくの問いに数瞬の思考、そして教室の後ろに設置されているロッカーに向かう魅音ちゃん。
 そしてロッカーを開け、がしゃがしゃと中を漁り始めた。
 一瞬だけ中が見えたけど、……物を入れ過ぎなのではなかろうか。
 物持ちが良いのか、収集癖があるのかはよく分からないけど、ぼくの部屋の物を全て集めてもあれ以下なんだろうな。
 少しだけ待っていると、魅音ちゃんは

「おっし、あった!」と叫び、おっきい胸の前に何か小さい箱を掲げ。
「じゃじゃーん! 今日のゲームはジジ抜きだよ!」と声高らかに言った。

「えっと、ジジ抜きってババ抜きの亜種だっけ?」ぼくは魅音ちゃんに聞いた。

「そう。ババ、つまりはジョーカーの代わりに適当なカードを一枚を抜いてやるババ抜きだよ。
いーちゃんは今日が初日だしあんまり難しくないゲームの方がいいと思ったんだ」

 まあ、ルールは理解した。基本的にはババ抜きだし、ルール上特に難しい事は無いので出来ないって事はないだろ。

「皆もジジ抜きでいいかな?」

「いいぜ。受けてやるよ!」

 圭一くんの答えと同時に、ぼく以外が頷く。

「もちろん、罰ゲームありだからね。今回は一位が罰ゲームを決めるっていうので、どう?」

 はて? なんか聞き捨てならない言葉があったような……。しかし話はぼくを置いてけぼりに進んでいる。
69 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:18:27.77 ID:X3t9et.o
「ええ、構わないのですよ。ボクは大丈夫なのです。にぱー☆」

「へへっ、いーちゃんには悪いが、今回は俺が一位を取らせてもらうぜ!」

「あらあら? さすが圭一さん。下から数えて一位になろうとするとは見上げた根性ですこと」

「みんなレナには手加減してほしいな……」

 みんな張り切ってんな。何かわかんねぇけど、すごく嫌な予感がしてきた。
 このまま進んだら元には戻れないような……。

「ちょっと待ってよ。罰ゲームって何かな?」ぼくは問う。

「不本意な成績を取ってしまった参加者に対して、主催者や他の参加者から課されるペナルティ的な意味合いを持ったゲームのことだよ」

「それは知ってる」何この流れ? ……わざと、じゃないよね魅音ちゃん?

 ぼくの隣に座っていた沙都子ちゃんがわざとらしく溜息を吐く。
 そしてもの凄く演技臭く。

「えっと、バスゲーム?」

「そんなシンプル2000でも発売されそうにないゲーム、きみだってやりたくないだろ……
だが沙都子ちゃん、ぼくが聞いてるのは罰ゲームだ、バスゲームじゃない」

「失礼。噛みました」

「違う、わざとだ……」

「噛みまみた」

「わざとじゃないっ!?」

「アヴェマリア」

「何処に停車するんだよきみは?」祝詞か? 祝福されてるのか? バス停に?

「ちなみにバスを運転するゲームは存在しますのよ」

「知りたくなかったよ、そんな情報!?」もしも本当にあるとしたら、SEGAあたりだろうな。
70 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:22:16.85 ID:X3t9et.o
「えっと、罰ゲームでしたっけ?」

 沙都子ちゃんは言った。言い直した。

「……うん。出来ればどういう罰ゲームなのかを教えてほしいところなのだけど」

 しかしぼくの問いに答えたのは、沙都子ちゃんではなく、暗い笑みを浮かべた梨花ちゃんだった。

「大丈夫なのですよ。いーはゲストなのですから、そこまで酷い罰は与えられない筈なのですよ」

 半笑いで言われても信用出来ない。

「それじゃあ、どんな罰になるの?」

「女装猫耳メイド――」

「待て。もうこの段階で許容出来ないん気がするんだけど」

「んもう、いーはせっかちなのです。ちゃんと最後まで聞くのです」

「……分かった、聞こう」

「女装スク水猫耳メイド」ふ、増えてる……「姿で下校してください」

「断る。……だいたいね、なんで女装なんだよ?」

「いいじゃないですか。成人男性が女装する機会なんてそうそう無いのですよ。してたとしたらたんなる変態なのです」
71 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:23:43.21 ID:X3t9et.o
「…………」

「え、もしかして……したことあるの?」梨花ちゃん素の問いだった。

「いやいやいやいや、そんな事ある筈ないじゃないか」ぼくの全力の否定。
「まったく、女装だなんて、男らしさの塊であるこのぼくがそんな事をする筈ないでしょ? そりゃあぼくに対する侮辱だよ。
やだやだ、あー、いやだいやだ。だいたいね、何を根拠にぼくが澄百合学園で女装をしたっていうんだよ。
スカートって案外にスースーするんだ、なんて思った事なんてある筈ないじゃないか。いやもうホント、本当に」

「……」

「…………」

 うん、気付かれていない筈だ。……ですよね。

「じゃあそういう可能性があっても問題ないわよね?」梨花ちゃんは疑惑の眼差しでぼくを突き刺す。

「……ああ、そうだね。ぼくとしても未体験な領域な感じではありまして、
それを否定するわけでもなく肯定するのはやぶさかでもあったりするようで可もなく不可もないなんて思ってみたり……」

 無茶苦茶だった。

「それじゃあやろうか」

「……はい」梨花ちゃんの無情の一撃に、ついつい頷いてしまういーちゃんでした。
72 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:28:08.95 ID:X3t9et.o
以上本日の分終了。とりあえず続きは日曜にでもvipにスレ立てるね
73 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/01(水) 23:29:49.57 ID:N9AHqeMo
別にここでよくね?
74 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:39:01.95 ID:X3t9et.o
どっちで進行させるにしても、一応ここに誘導しといた方がいいんじゃね?
75 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/01(水) 23:48:55.61 ID:WBeVgh.o
今日はもう終わりかな・・・・・・・・・・・?
76 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/02(木) 00:25:03.92 ID:qS/h3.AO
魔法幼女の続きは書かないの?
77 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/04/02(木) 15:15:35.25 ID:Xion5FIo
vipだと追い駆けられないんでここでやってくれ。
あと、殺すとかの単語はメール欄に「saga」って入れてると解除される。

パー速の機能覚書
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=part4vip&key=1232801322&ls=50
78 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/02(木) 20:37:58.70 ID:J/uKles0
個人的には、二度手間にはなるけどvipとこっちに投下して欲しかったりはする。
79 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/05(日) 21:58:57.74 ID:CL1FhAAO
パー速に移動してたのか
VIPに続きが来ないから一応パー速で探してみたら案の定だぜ
80 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/05(日) 23:24:43.74 ID:/aXkRRko
 〜〜〜〜

「それじゃ、始めよーか!」

 それが始まりの合図だった。
 魅音ちゃんはトランプから一枚のカードを抜き、別の場所に隔離した。
 皆の表情は真剣そのものになり、隔離したトランプを穴があくほど見つめていた。
 見つめたって透視出来る訳じゃないのにな。
 ババ抜きなら前半戦でも、あくまで少々の心理戦なら出来るが、ジジ抜きはほとんど前情報が無い。
 抜かれたカードを推測するにしても、情報が少なすぎる。皆無と言っても過言ではないだろう。
 実際は運の要素が高すぎるってのが真理だろうけどね。
 
 魅音ちゃんは再びカードをシャッフルし、配り始めた。
 カードを配り方を見るだけで、手つきが手慣れているのが分かる。
 やり慣れてるんだろうなぁ、などとどうでもいい感想を漏らしてみる。
 そうして滑らかな手つきで、一度もつっかえる事無く全五十一枚のカードは配り終わった。

 ぼくは手前に配られたカードを持ち確認。
 揃えられたペアは二つ、そして残りの手札は四枚。これはかなり幸先の良いスタートだろう。
 他の皆はワンペアや、ブタ。
 遊技者は五人なので札数は少ない、あくまで順当にいけばの話だけど三順から四順、つまりは三十六ターンから四十八程度で終わるだろうか。
 しかし最終的には運の要素が強すぎるゲームなので適当な予測は止めておく。
 ぼくだってこんな田舎でも、女装スク水猫耳メイドなどどいう超弩級の羞恥を、間違って衆目に晒せしてしまえば、
約束を破って衝動的に自殺してしまうかもしれない。ある意味命がけの遊戯である。
 さすがに負けられないよね。
81 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/05(日) 23:28:34.55 ID:/aXkRRko
 全員が手札を前に掲げる。
 では、いざ開始といきましょうか。
 カードを引く順番は魅音ちゃん、圭一くん、ぼく、梨花ちゃん、沙都子ちゃん、レナちゃんの順番。
 席順を時計回りで進む感じ。場合によって反時計回りにもなるらしい。
 まずは魅音ちゃんが圭一くんの手札を引く。どうやらペアが出来たようで、机のカード置き場に捨てた。
 次は圭一くんがぼくの手札を引く番。ずいぶんにらめっこしてたが決めたようで引いた。ペア完成。
 ぼくの番。特に何も考えず梨花ちゃんの手札を引いた。
 ペア完成ならず。仕方ないが確率的にはまだある方だと自分を納得させる。
 梨花ちゃん、ペア完成。沙都子ちゃんも。
 レナちゃんも完成。机にはペアになったトランプが重なる。

 初順はぼくだけブタか……。
 まあ、序盤はこんなもんだろうな。だが次順は全員ペアが出来た。
 それにしても……何か変なんだよな。
 ぼくは首を捻る。確率的にはまだまだ考えられる範囲で収まっているのだが。

「これだね!」ノータイムでレナちゃんから手札を奪い取る魅音ちゃん。

 ペアは完成したようで、机に札を二枚投げ捨てた。
 魅音ちゃんは札の判断がついているかのように瞬間的に判断する。
 他の皆もノータイムではないが的確にペアを作る。
 ……イカサマか。一応ハッタリの可能性も視野には入れておくべきだが。
 てかさ、そこまではしないよね普通。

「おっし、次は俺だ。確かこれがハートの……」
82 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/05(日) 23:43:53.22 ID:/aXkRRko
 圭一くんが身を乗り出し、ぼくのカードを凝視する。
 ええ……あからさまにイカサマですね。ていうか初めから気付けよぼく。
 これは、あらかじめカードに印か傷を付けてやがんのか。
 まあ、他にも可能性なんていくらでもある。ぼくはすでに捕らわれていたって事か……。

「あらら、気付かれちゃったか」顔色を変えたぼくに気付いたのか、魅音ちゃんが舌を出し笑う。
「まさか、卑怯とは言うまいね? 会則でちゃんと言った筈だよ」ふん、と鼻を鳴らした。

 は、言いやがるじゃねぇか。会則第一条。狙うは一位のみ。遊びだからなんていういい加減なプレイは許されない。
そして、会則第二条。その為には、あらゆる努力をする事が義務付けられている。ってか。
 笑える冗談だな。いや、笑えないのがぼくなだけだ。

「そりゃそうだ。ぼくが間抜けだっただけだよ」まったく、詐欺師が詐欺に取られるってのは傑作だよな。

 それじゃあ――。
 ぼくは自嘲気味に笑み、あえてこの場の全員に宣言した。

「だったら――その会則にのっとって、このゲームを、この遊戯を、この部活を――」

「――殺して解して並べて揃えて晒してやるよ」

 ここからは、殺し合いだ。とわざとらしく意気込んでみせる。
 ぶっちゃけ誰が勝とうが何も関係ない。ただの単純な論理として、ぼくがビリにならなければいいだけだ。
83 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/05(日) 23:47:49.01 ID:YzSrgwAO
待ってた!超待ってた!!
84 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/05(日) 23:50:18.24 ID:/aXkRRko
 〜〜〜〜

 二回戦目が終了し。結果は上から魅音ちゃん、レナちゃん、梨花ちゃん、沙都子ちゃん。そしてぼくと圭一くんの差は無し。
 少々意外だったのは、圭一くんもぼくと同様にビリになったことだろうか
 圭一くんはつい最近雛見沢に引っ越してきたっていう話だから、そこまでカードの把握は出来ていないんだろうね。
 初めの段階でそこまで差がつかなかったてのは、圭一くんには申し訳ない気もするけど、ぼくにとっては少々幸運だった。
 それでは詐欺師らしく、正々堂々手段を選ばず真っ向から騙し合いに洒落込むとしましょうか。

「それじゃあ、三回戦目だ」魅音ちゃんはカードをシャッフルし始める。

「ああ、いいぜ。ぼくももう覚えたしね」

「覚えた……何をかな?」魅音ちゃんはぼくに疑惑の眼差しを向けた。

「さあ、何だろうね。何を覚えたんだろうね」ぼくは嘯く。

 もちろんこの程度で揺らせるとは思っていない。あくまでこの段階ではハッタリと思ってもらった方が都合が良い。
 実際ハッタリなんだし。

 そしてゲームが中盤にさしかかった頃。ブタ何度か続いた。
 魅音ちゃんがレナちゃんの手札を引く時、ぼくはわざとらしく言う。

「あーあ」

 しかし、この状況。割と早かったな……さて、皆さんはどうでるのでしょうか?

「ふうん。どうやらある程度覚えたってのは本当なんだね」

 ペアは出来なかったようで、魅音ちゃんは今の札を右端にしまった。

「さあ、何の事かな? 魅音ちゃんの札がスペードのAと四、そしてクローバーの九だよね、なんて事は全然分からないよね」
85 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/05(日) 23:59:05.77 ID:/aXkRRko
「いーちゃん、あ、あんたは――まさか?」

「おっと、勘違いしないでほしいな。ぼくは全然、全く、これっぽっちも分からない、と言っているんだよ。
勿論他のカードなんて、どれがどれなんだか理解できない。ましてや――新しく傷の付いたカードなんて判別すら出来ないんだ」

「それじゃあ、さっきから皆がペアに出来なかったのって……」

 魅音ちゃんの後を継ぐようにぼくはわざとらしく言う。

「どうしてペアが出来なかったんだろうね?」

「確かにみんなさっきから間違えてばっかいると思ったら」圭一くんは乗せられたかな?

「もしかして新しく傷を付けていましたの?」

「さあて、ぼくには分からないな。ああ、圭一くん。個人的には一番右のカードがお勧めだぜ」

「それじゃあ、右のっと」

「……あうっ」

 圭一くんが魅音ちゃんのカードを取る。ペア完成。先程のスペードのAが入っている。
 ……もう少し揺らしたほうがいいかな。魅音ちゃんはもう十分だと思うけど、梨花ちゃんとレナちゃんは……さすがに冷静だな。
 もうちょい揺らすべきか……まあ、いいか。そこまでするほどのことじゃないんだよね。
 というかさ、魅音ちゃんってちょっと想像力豊かすぎなんじゃないか……。自信故にってとこか。
 それが良いことなのか悪いことなのかは、ぼくには分からないけど。

「それじゃ、まっさらになったところで再開しようか」
86 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/06(月) 00:01:29.94 ID:yb2XsZgo
ここら辺は曖昧なので別視点のTIPSで補完したいと、なのであまり深く考えないでくれ
87 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/06(月) 00:09:10.32 ID:yb2XsZgo
 〜〜〜〜

「……ま、負けた。このあたしが……この部長であるあたしが……」

 という事で、魅音ちゃんがビリになりました。
 一位は梨花ちゃん。

「さーて、みぃにはどんな罰を受けて貰いましょうかね。……にぱー☆」

 うわぁ、すげぇ邪悪。
 人はここまで悪意溢れる笑みを作れるのでしょうか? と悩まざるを得ないほど邪悪な笑み。

「……ああ、どんとこいや! おじさんは部長なのさ!」やけっぱちの魅音ちゃん。

「みんなは何か良い案はありますか?」顔は笑っているけど、激烈な殺意を感じる。

「レナはね、みぃちゃんには可愛い格好をしてもらいたいな。魔法スク水猫耳メイドとか。……もしくは生皮を剥ぐとか。とか」

「それもいいですわね。魔法スク水猫耳メイド幼稚園児の恰好で、この世界に愛的な物を振りまいて欲しいですわ。……市役所とか駅とかで」

「折角だから魔法スク水猫耳眼鏡メイド幼稚園児の活躍をテレビ局に取材してもらおう。……全国の大きな大人達がお前の愛的な物を求めている筈だし」

「魔法……少女」梨花ちゃんは何故か分からないけど、少しだけその言葉に反応した。
「しかし、その程度でみぃの精神は崩壊するでしょうか?」

「ひぃっ」梨花ちゃんや皆の背後から立ち上る、黒い憎悪に怯える魅音ちゃん。

 というか、精神の崩壊が前提ですか。いや、負けなくてよかったな、ほんとに。
 しかしさすがに可哀そうになってきた気もする。自業自得とはいえ、ぼくの所為でもあるっちゃあるしな。
88 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/06(月) 00:13:29.98 ID:yb2XsZgo
「あ、あのさ……もうちょっと軽い罰でもいいんじゃないか、なーんて……」

「それじゃあいーが代わりに罰を受けますか?」

 冷たい梨花ちゃんの笑みに、ぼくは全力で首を左右に振る。恐怖からか、いつのまにか教室の端まで後退していたぼく。
 梨花ちゃんはふぅ、と嘆息し「それでは、もう少し罪を軽くしましょう」罰が罪になっていたけど、ぼくは何も言わない。


「それでは……罰の発表なのです」そうして、一息つき。
「知恵先生にカレーという物質の成り立ちと、美味しいカレーの作り方を詳しく教えてもらって下さい」

「え、それだけ? そんなんでいいの?」

 魅音ちゃんは呆けたように呟いた。皆も同じようなリアクション。知らないって素敵だと思う。
 ぼくと梨花ちゃんは手を合わせ合掌。

「さよなら、魅音ちゃん。君の事はなるべく忘れないようにしたい」

「さよならなのです。また来世で」

「へ? なにそれ?」知らなければ良かった事って確かにあると思う。

「それがみぃの最後の言葉なのでした。にぱー☆」

 やっぱりろくでもねえな、この子。
89 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/06(月) 00:18:43.32 ID:yb2XsZgo
 〜〜〜〜

「明日は学校が休みらしいけど、ぼくはどうしたらいいのかな?」

 部活はほどなく終了し帰宅中。もうそろそろ魅音ちゃんは位相の違う世界に旅立った頃だろうか。
 ぼくの問いに、梨花ちゃんはこっちを向いて言う。
 
「明日は休日なのです」指を立てる梨花ちゃん。
「つまりいーは野球を応援しに行かなければなりません」

 反論してもどうせ押し切られるので諦めた。しかしな、明日もこんななのかよ……。

「ほらほら、そんな顔しないで下さりませんこと? 私共も陰気になりますわ」

「ほっといてくれ。そういうキャラクターなんだよ、ぼくは」

 まあ、どうせ明日もやる事はないし、あと一日二日程度なら問題無いだろう。
 何が問題無いのかは考えないでおく。

「それじゃあ明日もここに迎えに来ればいいのかい?」

「いえ、明日の野球は輿宮でやるのですよ。なので明日の朝に、駅で待ち合わせでいいでしょうか?」

「別に構わないけど……野球はしないからね。ぼくは生涯サッカーしかしないって誓ってるんだよ」

「いー、あなたはサッカーがどんな競技か知っていますか?」

「足でする野球だろ? いくらぼくが世間知らずだからってそれぐらいは分かるさ」

「……」

「…………」あれ?

「それと……沙都子」と話を打ち切り、梨花ちゃんは沙都子ちゃんの肩をぽん、と叩いた。
90 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/06(月) 00:26:31.38 ID:yb2XsZgo
「あの、その……」口ごもる沙都子ちゃん。どうしたんだろうか?

「うん? どうしたの? もしかして具合でも悪いの?」

 そういう感じでもなかった気がするけど、少しだけ熱っぽく見える。風邪だろうか?
 まあ、夏風邪ってのはいきなり引くって誰かから聞いた事があるような気もする。
 しかし、ぼくの心配をよそに沙都子ちゃんは大きく首を振り「明日はお弁当は用意しないで下さいね!」と、叫んだ。

「……? いや、それにしたって悪いよ。ただでさえ今日も朝御飯と昼のお弁当まで世話になって申し訳ないと思ってるのに、
風邪気味の体で弁当を作らすなんてのは……さすがにね」

 うーむ。料理が出来て、それに対して自身があるってのもある意味困りものだよな。
 作った料理を色々な人に食べてもらいたくもあるってのは、分かるっちゃ分かるんだけど。
 体調が良くない時くらい休めばいいのに。

「それじゃあ、ぼくが作ろうか? 沙都子ちゃんみたいに上手じゃないけど、ぼくも結構料理出来るんだぜ」

「……いー、ホテルでどうやって作るんですか?」呆れたように言う梨花ちゃん。

「あー。……まあ、そりゃそうだよな。厨房を貸してはくれないか……」

 頼めば貸してくれなくも、無いよな……やっぱり。

「んもー! 私が作りますの!!」

 と、沙都子ちゃんが地団駄を踏む。子供らしい感情表現がちょっと可愛らしい。
 しかしそんな作りたいもんなのかね。食べてもらいたいってのは分かるけど、そこまでするもんか?
 ……まあ、一応本人も作りたいと言ってるし。

「……ああ、うん。それじゃあ、甘えようかな。でも本当に具合は大丈夫?」

「大丈夫ですわ!!」

 案外に元気そうだった。というか元気一杯。
 しかしなんだろう、この不安感は。このままの流れだと二人王様ゲームとかの状況になりかねない気がする……。
 何故かそうなりそうだ。理由は全く分からないけど。見当もつかないけど。
91 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/06(月) 00:26:50.19 ID:MxLksewo
相変わらずいい文章だなぁ
92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/06(月) 00:32:09.18 ID:yb2XsZgo
本日はこんなものでどうでしょうか?
てかね、ほんと遅くてごめんね。生きている限り途中で逃げる事は無いと思うのでゆっくり付き合ってくれよ
93 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/06(月) 00:35:05.45 ID:MxLksewo
お疲れ様〜
来週も楽しみにしてるよ
94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/06(月) 00:40:48.52 ID:2lgbScAO
乙!
そうあわてるなよ。まあ、のんびりやろうや。
ところでvipにはスレ立ててないよね?
95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/06(月) 00:46:51.52 ID:yb2XsZgo
vipには立ててない。とりあえず作品内で事件が起こるまでは立てないでおこうかな、と
96 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/06(月) 02:08:43.80 ID:1SZh46AO
難民が結構多そうだから来週の日曜にでも立てて誘導した方がいいんじゃないかしら
97 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/11(土) 22:35:55.89 ID:fpxIbADO
やっと見つけた…明日が待ち遠しいなwwktk


ちなみにどうでもいい事だけど、
原作でいっくんは、自分から「いーちゃん」って名乗ったり呼ばせたりしたことないんだぜ
98 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/12(日) 18:05:29.01 ID:03e4C.AO
申し訳ないんだが今日は投下出来ない。明日の夕方にでも投下します

>>97
失礼。噛みました
99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/12(日) 21:33:10.52 ID:uoY.5U.0
>>98
了解したw
楽しみに舞ってるよ。
100 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/13(月) 21:46:42.50 ID:M2A.44Qo
 2

 そうして、二人は階段を上って行った。
 なんというか、一人になって賑やかだったなと思う。今迄そう思わなかったのは、なんだかんだで忙しかったからか。
 騒がしいのは苦手だし、喧しいのは嫌いだ。うるさいのは鬱陶しい。
 ひぐらし、ではなくセミがひっきりなしに鳴いている。こういうのは大丈夫なんだけどな。
 寂寥感なのでしょうかね、これは。

「さて……」

 それじゃホテルに帰るとしますか。正直少しばかり疲れた。……人に触れ過ぎた所為だろうか。
 ぼくは空を仰ぎ見ると、日が少しだけ傾いていた。腕時計を確認しすると、午後四時を十分ほど過ぎたあたり。

「今日はバスに間に合いそうだな」

 歩いて歩けない事はないんだけど、ある物は使っておきたいよな。
 などと、文明にどっぷりと浸かった現代人的な事を考えながら歩いていると。

「よう、いーちゃん」と、声を掛けられた。

 声のした方向に振り返ると、圭一くんが爽やかな笑顔で左手を上げていた。
 彼が無意識に左手を上げてしまう病でなければ、ぼくに挨拶という事であろう。

「やあ」ぼくは圭一くんのまねをし、軽く手をあげた。

 ぼくの動作を見た圭一くんは、小走りでぼくの隣に並び。にやっ、と悪ガキっぽく笑んだ。

「今から帰るのか? 輿宮のホテルに部屋を取ってるんだろ?」

「そうだけど。きみも今から帰るのかい?」

「ああ。俺の家は」右の方を指差し「あっちなんだ」と言った。

「ふうん」なんとなく相槌を打っておく。

「……相変わらずテンションが低いんだな、あんたは」と、困ったように笑い。
「そういえばさ、さっきジジ抜きやったじゃん」と、ぼくに問うた。

「うん?」何かひっかかるが、促す。

「それでだ。実際あんたは何枚覚えてたんだい?」と、軽い感じで言った。

 へえ、鋭いな。……そういうふうに聞くんだ。
 授業もそうだったけど、ほんとに頭のいい――いや、回る子なんだな。
 とりあえず答えておくか。

「……二、いや三枚かな」
101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/13(月) 21:48:43.77 ID:M2A.44Qo
 たぶんそれくらいだったと思う。あの場ではその程度で十分だったってだけだ。
 正直それ以上覚える意味も無さそうだったしな。

「は?」口をぽかんと開け「だってペアになる札や魅音の札を当ててたじゃんかよ」と続けた。

「単純に運が良かっただけだよ」ぼくは平然と答える。

「嘘つけ……」と、呆れたように圭一くんは嘆息する。

 そうして、首を傾げつつ歩き。

「ううむ。さっぱり分からん……どうやったのか教えてくれよ」

 気付いていそうな気もするんだけどな。気付けないのか何なのか。
 ぼくにいえた事でも無いが、ほんのちょっと横道にそれてみれば分からなくもなさそうなんだけどな。
 まあ、可能性だけで考えるならやはり低い方に入るな。という事で少し濁してみる。

「あまり人を頼るのもどうかと思うよ、自分で考えてみよう」

 ぼくはしたり顔で言った。

「オーケー。あんたが雛見沢にいる間に解いてみせるぜ!」と、ぼくに意気込んで見せた。

 爽やかだなぁ。と同時に若いなぁと思う。
 けれど、疑問に対して明確な答えを見つけられなかったとき、圭一くんはどうするのだろうか。
 もちろんこんな言葉遊び程度の疑問じゃなくて、それがもっと難問だったなら。人生に関わるほどの難問だったなら。
 そして、それを解決した後、次々と現れた難問を解決し終わったら、圭一くんはどうなってしまうのだろう。
 きっと、どうもならないのだろう。変わらないんだろうな。
 今日見た印象だけで判断すると――勿論それが全てだって訳じゃないけど。
 圭一くんはとても楽しそうだった。部活のメンバーと一緒に楽しそうに笑っていた。
 それなら、失敗しないよな。

「期待してるよ」期待ね、ぼくにしては言い得て妙だ。

「ああ、そうだ」圭一くん唐突に話を区切り、ポケットの中をがさがさと探り。

「うん? どうかしたの?」ぼくの問いに、ちょっと待ってくれよ、と言いながらポケットを探り。

「おし、あった」何かのチケットのような物を二枚取り出し、それを目の前に掲げた。
「なあ、いーちゃん。甘いもの好きか」にや、と笑いぼくを見る。

「……嫌いではないけど」なんだこの流れ?

「そうかそうか。それじゃあ――メイド好きか?」ああ、成程。聞かずとも分かりました。
102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/13(月) 21:51:51.75 ID:M2A.44Qo
 〜〜〜〜

 そうしてぼくは輿宮の大道りに面した他の飲食店に比べると、一回りか二回りくらい大きめのファミレス、
つまりはエンジェルモートに到着した。雛見沢からのバスに乗り、十分と少し走り、それから歩きで少々。
 道は覚えていたので迷う事はなかった。

「しかしな……二日連続で来るとは思わなかったな」タダ券に釣られた訳ではないんだけどね。

 ちなみに圭一くんは自分の自転車で来るらしいので、ぼくは一人エンジェルモートの前で挙動不審者のようにうろうろとしている訳なんですよね。
 食事時なのか、中は結構込み合っているらしく、外から店内を眺めている人もいるし。
 まあ、ここなら知り合いに会う事はそうそうないので――前言撤回。……なんか白いのが見えた。

「……あんたなにしてるんですか?」他の皆さんと同様に窓に張りついている白衣、すなわち春日井春日にぼくは声をかけた。

「あら。お仕事を終えたのですね旦那様。ささ。早く中へ入りましょう」

「…………」

 ぼくは反撃も出来ず、黙る事しか出来ない。

「あらあら冗談だよ。冗談。お腹が空いたので何か食べようかと思ってね」

「はあ。……まあ、いいですけど。春日井さんって無一文じゃなくなったんですか?」

「いっきー。そんなに人生は甘くないんだよ」ふう、とため息を吐く春日井さん。

「……そりゃそうですけど」正しい事を、間違っている人に言われるのはどうしてこうも……。

「じゃあ早くご飯をごちそうしてほしいな」

「やっぱりあんた間違ってるよ、人として」

 などなど約体の無いやり取りをしていると。

「待たせたかな、いーちゃん」と、圭一くんが現れた。

 まあ、この人の間違ってるっぷりは今更なのでいいとしておこう。
 しかし圭一くんみたいな青少年に、春日井さんは悪影響でしかない。
 ぼくは春日井さんに向かって、何もするんじゃねえぞ、という視線を送った。
 視線に気づいた春日井さんは、にっこりと胡散臭い笑顔を作り、ぼくじゃなく圭一くんに微笑んだ。

「そんで、この人はいーちゃんのお姉さんか何かか?」

 さっそくそれに触れないでくれ。しかし気になるのは確かだろうしな。
103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/13(月) 22:04:24.70 ID:g2K3Jwg0
>>1きてたあああ!!!
104 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/13(月) 22:14:12.61 ID:M2A.44Qo
「ああ、この人は――」ぼくの言葉に被せるように。

「旦那様のメイドでございます」と、しなを作った態度で、白衣の端を持ちお辞儀する春日井さん。

「黙りやがれ」

 圭一くんはどっ引きだった。露骨に一メートルほど距離を取り、曖昧な笑顔を作り。

「ああ、なるほどな……ははは」と、言う。ちなみに足はいつでも逃げ出せるようにつま先立ち。

「あのね、圭一くん。この女の言う事は全てが嘘と偽りなので信用しない方がいいよ」

「ああ、そう……なんだ」困り顔の圭一くん。まあいい、話を変えよう。

「あのさ、さっきのケーキの券あったよね。あれをさ、この人にあげたいんだけどいいかな」

 ぼくはあんまり食べるほうでもないので、春日井さんにあげたほうがいいという判断。
 ケーキを口に入れたまま黙ってくれるといいんだけどね。
 圭一くんは一も二もなく「ああ、構わないぜ」と了承した。

 そうして少し並び、ぼく達の順番になった。エンジェルモート二度目の入店。
 扉を開け中に入ると、当たり前だが昨日と変わらない配置。
 ぼく達に気付いた店員さんが、

「いらっしゃいませー」とぼく等の前に来て言う。

 そして窓際のボックス席に案内され、春日井さんと、ぼくが隣り合って座り、向いに圭一くんが座った。
 向いに座っているのが入江さんじゃないだけで、気が楽なのは何でなのでしょうね。

「それじゃあ、何か頼もうか。圭一くんも何か頼んでいいぜ。春日井さんはケーキだけにしてください」聞かないだろうけど。

 全員メニューが決まったというので、店員さんを呼ぶボタンを押す。
 そうして、やってきた店員さんは、

「あれ? いーちゃんじゃないですか」詩音ちゃんだった。

「今日もバイトなのかい?」

「ええ、そうなんですよ。最近すっごく忙しくって……」と、ぼくの向かいに居た圭一くんに目を移す詩音ちゃん。
105 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/13(月) 22:15:39.49 ID:rmh45sAO
今週も楽しみにしてたんだぜwwww
106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/13(月) 22:58:59.52 ID:M2A.44Qo
「あの……もしかして圭ちゃんですか?」と、言葉を発した。

 うん? 知りあいじゃないのか?
 圭一くんは目をまん丸くして詩音ちゃんに言う。

「……魅音? お前何してんだ?」

 ふうん。圭一くんは詩音ちゃんとは面識がないんだ。学校でぼくも間違えたし。
 魅音ちゃんの双子の妹なんだよな。一卵性の、顔が同じの。
 もしも同じ服を着て並べたら、付き合いの短い人なんかは見分ける事が出来ないな。

「始めまして圭ちゃん。よくお姉から圭ちゃんの話は聞いてるんですよ」詩音ちゃんはぺこりとお辞儀をした。

 圭一くんは、困ったようにぼくを見つめた。実際そっくりだもんな。

「いや、さすがにここまで似てるとは思わなかった。実は魅音なんじゃねーの?」

「いえいえ、本当にお姉じゃないんですよ。圭ちゃんと一緒に来てるという事は、いーちゃんはお姉に会ったんですよね」

「うん。確かにあったよ。しかし申し訳ないんだけどさ、ぼくにはきみ達を見分ける事は出来そうにないな」

「まあ、一卵性の双子ですからね。私がお姉のものまねをしたら、そのままになりますよ」

 極論するなら入れ物が全く同じという事か。しかも中身も似てるんだよな。
 圭一くんはじろじろと詩音ちゃんを見て。

「うーむ、分からん」と顎に手をやり悩んでいた。

 詩音ちゃんはお盆をテーブルの上に置き、ぼくに問うた。

「お姉はどうでしたか? いーちゃんに罰ゲームのある部活だ、とか言いませんでしたか?」

「ああ、言ったね。たぶん今も罰ゲームを受けてるんじゃないかな」

 ……発狂してそうな気もするけどな。
 ぼくの言葉を聞いた詩音ちゃんは口に手を当て、大げさに驚き。

「えー!? もしかしてお姉負けちゃったんですか?」
107 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/13(月) 23:34:42.37 ID:M2A.44Qo
「ああ、俺も初めてだよ。魅音が負ける所を見たのは」

 圭一くんがぼくを見て微笑んだ。
 ……なにか買いかぶられている気がする、実際何もやってないんだけどな。

「ほうほう。つまりいーちゃんが何かをしかけてお姉を負かした、という事ですか?」

 圭一くんの視線から、何か謎の推理をしたのかぼくに聞いてきた。

「いや、そういうのじゃないから。魅音ちゃんはほんとに強かったし、ぼくがビリにならなかったのは運みたいなもんだよ」

 ぼくは答える。そういうふうに見られるのは苦手だな。やはりゲームは避けるべきだったか。
 事勿れ主義のぼくとしては本当に迂闊だった。しかし乗りかかった船だしな……。
 などと、ひたむきに後ろ向きな事を考えてみる。

「うーん。それが本当だとしても、お姉が負けるんだ……」と、顎に人差し指を当てた。

「ところで店員さん。わたしはオーダーを頼みたいんだよね」

 と、ずっとメニューとにらめっこしていた春日井さんが口を開いた。
 それを聞いた詩音ちゃんは姿勢を正し、急いで営業スマイルを作る。

「失礼しました。それではご注文よろしいですか?」

 ぼくは適当な物を頼ぶ。圭一くんも遠慮してくれたのか、安めな物を頼んだ。
 そして、ぼくの財布を侵す者、春日井春日。

「上寿司一つお願い」と、本日もろくでもない人格を如何なく発揮した。

「……いつか返して下さいね」
108 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/13(月) 23:44:32.37 ID:M2A.44Qo
という訳で短くてすまないが、本日はここまでになります。ありがとうございました
109 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/14(火) 00:17:57.55 ID:2LOXmkDO


春日井さんはいいキャラしてるよなー
110 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/14(火) 07:02:32.94 ID:Ml5SmWA0
乙!
相も変わらずのクォリティで楽しませてもらったぜw
111 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/19(日) 23:58:58.67 ID:I4iNOUDO
今日はやらないのかな?
112 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 02:39:11.57 ID:N67Fvsoo
腰を強く動かす。

それを防ぐために妹の言う事に従っていたくらいなのだから。

時間が経った事で少しでも怒りが治まっていることを願いながらドアをノック

視線を胸に向けると、以前自由に揉みしだいたつつましい膨らみがシャツを持

母は言った,バプテスマを施す人ヨハネの首を。

。 719 それは彼の心の中に入るのではなく,腹の中に入って,便所に入り,こうし

一度目にしてしまった生の女体。

彼に飲まそうとして,彼をそのままにしておけ。エリヤが彼を降ろしに来るかどう

それからそうねぇ、お兄ちゃんのお小遣い、これから全部私に頂戴

最後の射精を終えると体の力が抜け、そのまま妹の背中に身を横たえた。
                    
113 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 03:39:08.99 ID:a8SmOj6o
ざん苦しめられ,持っていたものをすべて使い果たしてしまったが,良くなるどころ

お前の気持ちも分かるけど父さんたちに話したら家族が不幸になるぞ

を転がしておいた。 1547 マリア・マグダレネとヨセの母マリアは,イエスの横たえ

あっ、あっ、ああんっだ、駄目だよぉ、やっこんな、あんっこん



た。王は乙女に言った,何でも欲しいものを求めなさい。わたしはそれをお前に与



あっそ、そんなこと、あっないよぉ、ああっ

してゆく!


             
114 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 04:38:24.22 ID:Ds2pqwso
ただの強姦と違い、そのままどこかに逃げるわけにはいかない。

母は帰りが遅いと言っていたので、それは妹だろう。

腰を強く動かす。

。 514 飼っていた者たちは逃げて行き,その町とその地方でそのことを知らせた。

嘘つけっこんなにっ気持ち良さそうな声上げてっ

く。

あんっ、あああんっ

凄まじい開放感と快楽が脳に襲い掛かる。

ああキスって気持ちいいんだなぁあ、俺、これがファーストキスじゃ

、テラテラと光を放っているのに気づいた瞬間、そん
               
115 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 04:49:01.16 ID:ufco2qwo
報告遅れてすまない。投下は水曜日に。

そんでこれはなんだろうか?
116 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 05:25:02.82 ID:MMblxXMo
それまでに何とか妹の機嫌を取り、黙っていてもらうしかないだろう。

ちが、やんっ違うもん、はぅっこれは脚が勝手に、ああんっお兄

途中で抜く、などというテクニックは中学生の司郎にはない。

たは三度わたしを否認するだろうとイエスが自分に言った言葉を思い出した。それ



せに俺にしてもらいたがったくせにどうして

ディも何も練り溶かされてゆく。全身が生殖器だ。肉

しかも手に触れんばかりの身近な距離で見たのである。

押し返そうとしてくる妹に逆らって、ピッタリと体をくっつける。

きゃあっ!何やってるのよっ!
              
117 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 06:56:45.14 ID:5l0pWVYo
きゃあっ!何やってるのよっ!

だが司郎にとっては、言葉で何を言われようと満足することはない。



答えなかった。再び大祭司は彼に尋ねた,お前はほめたたえるべき方の子,キリス

それまでに何とか妹の機嫌を取り、黙っていてもらうしかないだろう。



った。重そうな乳を。大きな尻を。健康的な太ももを。

んんっ、んっ、んんっ




            
118 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 07:44:49.05 ID:zs435sIo
すぐにキツイ口調で拒絶される。

知らないっ知らないもんっ

以前の様に痛がらないことにホッとしながら、さらに腰のスピードを早める。

こんな気持ちのいいこと止められるもんか

動かさないで!わたし、死んじゃう!!

あっ、あっ、ああっやっ、やぁっ、やぁんっす、凄い、あっ凄い



うことも信じなかった。

人は彼らの一人です。 1470 しかし彼は再びそれを否定した。しばらくして,そば

んんっ、んっ、んんっ
           
119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 08:32:26.62 ID:oKWElQko
て,彼のもとに集まった。 72 さて,彼らは,弟子たちのうちのある者たちが,汚れ

それは神に捧げる肉感であった。

1435 少し進んで行って地面にひれ伏し,もしできることなら,その時が自分から過

ははっ感じやすいんだな

だからもっとしていいんだまだ俺の怒りは治まっていないんだから

慌てて妹の肩に手をかけ尋ねる。

目的を忘れて、いきなり激しく腰を動かし始めた。

ぐん!!



ことはない。ただ信じなさい。 537 ペトロとヤコブおよびヤコブの兄弟ヨハネの
                 
120 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 09:21:58.56 ID:TVJ6L/Yo
服させるよりも自分の快楽を求めて激しく腰を振り続



力に触れて生地が、燃え溶け、千切れてゆく。雪のよ

彼は村々を巡回して教えた。 67 十二人を呼び寄せて,彼らを二人ずつ遣わし始め,

小遣いは全て取られ、部屋の掃除から今まで妹がしていた家の手伝いまでをさ

それは比喩ではなく、二人きりになると妹は般若の形相で司郎を責め立てる。

返事がない。

る。

にドピュッ、ドピュッ、と精液が妹の膣に注がれてい

すげぇ
                
121 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 10:13:10.51 ID:hd/hnjIo
お父さんたちに、あっ言うよ、ああんっ帰ってきたら、やんっ言

体をピクピクと震わせている。

と一緒にいました!

それはたまらない興奮を司郎にもたらした。

気持ち良く、はふっない、あああんっ

入り,自分たちでパンを買うようにさせてください。彼らには食べ物が何もないから

なのぉ、やぁんっ



を感じ始めた。

ガクガクと体を前後に揺り動かしながら、いつまでも続く射精の快感に浸る。
            
122 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/20(月) 10:17:49.75 ID:9DI.5gAO
>>115
待ってたぞ!!もう来ないのかと思ったよ、変な奴沸いてるし(ノ∀`)
水曜日だな、了解した!!
これだけを楽しみに生きてるような毎日さ。
123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 11:16:42.61 ID:Izex0coo
触りさえすれば,わたしはよくなるだろうと言っていたからである。 529 すぐに

647 夕方になった時,舟は海の真ん中にあり,彼はひとりで陸にいた。 648 風が彼

じゃ、じゃあ、どうしたらいい?何でもする言ってくれ

そのことがどのように起こったか,また豚たちについて,彼らに知らせた。 517 彼

妹だからってっしないの勿体なくないかっ?

押し返す様に腕を伸ばすが、すぐに力が抜けて布団の上に落ちる。



はガリラヤ人で,方言がそれを明かしているからだ。 1471 しかし彼はのろったり

ネルギー塊の激光と化し、衛星を破壊しまくりながら

うごめきは、まるで贄にえであった。
               
124 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 13:41:01.94 ID:fn5jXM.o
頑固なヤツだなぁまあ、いいさ嫌なら嫌で、無理やりするまでだ



。星レベルの振幅はより巨大に、より超高速度の領域

あるのか。神にかけてお願いする,わたしを苦しめないでくれ。 58 というのは,

触りさえすれば,わたしはよくなるだろうと言っていたからである。 529 すぐに

正座をすると、両手を付いて頭を深々と下げる。

あぐっ、痛っ、痛いぃっ

苦痛の表情がたまらない快感となり、射精感が高まっていく。

きゃあっお兄ちゃん、いやっ止めてぇっ

うとする。
                
125 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 15:30:57.33 ID:PDH/2/Qo
ゆっくりと洗面所の前まで移動すると、バレない程度にドアを開け覗き込む。

あふっ、あっ、あんっいいよぉ、ああっこんなの凄いぃっあっ、

なる!ウンコになる!神になる!分子になる!素粒子になる!

どうせ出てしまうのなら自分の意思で腰を動かして射精しようと激しく前後させ始める。

嘘つけっこんなにっ気持ち良さそうな声上げてっ

何も反応はないがそのまま続ける。



おおっおおぅっ

舌を這わせていく。

だが司郎はそのまま近寄るとそれを剥ぎ取ってしまった。
          
126 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 17:49:39.95 ID:GtBUk.ko
りつかれていた人,レギオンを宿していた人が服を着て,正気で座っているのを見た

妹の絶叫に合わせて精を放つ。

な、何言ってるのっ駄目に決まってるでしょっ

舌でクリトリスをつつき、柔らかく舐め上げる。

小遣いは全て取られ、部屋の掃除から今まで妹がしていた家の手伝いまでをさせられているのだ。

ふふ止めてって言うけどなお前、ここを舐めて欲しいんだろ?

四肢を金属の拘束具にカチリと嵌はめた。



村でも町でも里でも,彼が入った所ではどこでも,人々は病気の者たちを市場に横た

ただの強姦と違い、そのままどこかに逃げるわけにはいかない。
              
127 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 19:11:23.84 ID:tsYmUfAo
だが自分はまだ中学生。
ロケットより凄まじく、素晴らしく超的に、ぐんぐん急加速し、大気を引き裂き
が舞っている。超高速で。神舞だ。

どうしたらどうしたら
待ち焦がれた妹の裸がそこにあった。
いた。 522 見よ,会堂長の一人でヤイロスという名の者が来て,彼を見ると足もと
それはたまらない興奮を司郎にもたらした。
                 
128 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/20(月) 21:07:05.45 ID:Qmw4p02o

だったらそれで構わないではないか。
魂は死ぬほどに深く悲しんでいる。ここにとどまって,見張っていなさい。
によってみ言葉を強固にした。アーメン。
するとどうしたのだろう?といった感じで妹がこちらを向いた。
イエスは弟子たちを自分のところに呼び寄せて,彼らに言った, 82 わたしは群衆
                
129 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/21(火) 00:14:54.51 ID:CEUmKNEo
>>73
司郎はため息を一つ付くと、ゆっくりと話し出した。


時間が経った事で少しでも怒りが治まっていることを願いながらドアをノックする。
気持ち良く、はふっない、あああんっ
,眠っているのだ。
            
130 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/21(火) 02:07:52.97 ID:Mb4j3Xco

いつまでそんなこと言ってられるかなぁ
さすがに挿入まではするまいと思っていたのだが、ここまで乱れた妹のいやら
それは比喩ではなく、二人きりになると妹は般若の形相で司郎を責め立てる。

男として女を快感に導いている事実に心が満足感で一杯になる。
ために墓の入り口から石を転がしてくれるでしょうと互いに言い合っていた。 164
四肢を金属の拘束具にカチリと嵌はめた。
               
131 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/21(火) 03:41:58.69 ID:y60FAK2o
に対して哀れみを抱く。彼らはもう三日もわたしと共にいるのに,食べる物を何も持
兄として守るべき妹を襲っているという罪悪感があったものの、
っ白になっていく。
          
132 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/21(火) 05:09:00.04 ID:7zXnbTQo
51 彼らは海の向こう岸に着き,ゲラサ人たちの地方に入った。 52 彼が舟から出て
ロデ自身が,自分の兄弟フィリポの妻ヘロディアのために,人を遣わして,ヨハネを
そう言い放つ妹の顔は、教科書で見た般若の面ソックリだった。
神と娘は両者不可分の状態へと入った。超々トランス状態。神が踊っている。神


ドクドクドクと先を争う様に精液が放出されていくのを感じながら、
            
133 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/21(火) 06:31:11.75 ID:PqAd25wo

で、何かが胎動している。
で二つに裂けた。 1539 彼に向かい合って立っていた百人隊長は,彼がこのように叫

妹は言葉で否定しようが、結局は自分を受け入れている。
服を押し上げると、つつましい膨らみをあらわにし、揉みながら腰を動かし始める。
どうだぁ?気持ちいいだろ?もっとしてもらいたいだろぉ?
父は殴るだろうか、母は泣き崩れるだろうか。
な、何言ってるのっ駄目に決まってるでしょっ
                
134 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/21(火) 08:04:37.44 ID:EdSlvU.o
>>54
自分と同じで肉体の快楽には逆らえないのだ。
はははっあれだけ俺を苦しめた罰だまた俺の息子を味わってもらうぜ
それに興奮しつつ、グイと押し込んでいく。
彼は村々を巡回して教えた。 67 十二人を呼び寄せて,彼らを二人ずつ遣わし始め,

153 祭司長たちは多くの事について彼を訴えた。 154 ピラトは再び彼に尋ねた,
し、したくないよ
のが出て行くからだ。すなわち,悪い考え,姦淫《かんいん》,淫《いん》行,殺人
            
135 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/21(火) 20:27:12.88 ID:sJihcNc0
冒頭のトンガリ文体も
日常のボケツッコミ文体も好き
136 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/22(水) 11:34:26.12 ID:Kq9pCgI0
この時点で双子は通常時と逆、と思う
137 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:14:51.70 ID:Au9//.Ao
「ふうん。どう返せばいいのかな?」

 舌舐めずりしながら、じっとりとしたなまめかしい目で見られた。
 怖っ!

「いや、返さなくていいです。むしろお断りだ」

 哀川さんからあらかじめバイト代を貰っておいて良かった。
 ぼく自身がお金を使う事はあまりないのだが、姫ちゃんの学費やらなんやらできつい事には変わりはないんだよな。
 圭一くんはぼくと春日井さんのやり取りを見て。

「ところで春日井さんって本当は何者なんだ?」

 と、答えにくい事を圭一くんに問われた。
 ……これは、困る。
 君の住んでいる村のとある風土病を研究しに来て首になった科学者だよ。などと言えるはずもないしな。
 さて、どうしたものか。
 ぼくは春日井さんを盗み見る、そして変な事言わないでくださいね、という視線を送る。
 春日井さんは小さく頷いたように見える。……通じたのだろうか。

「ああ、春日井さんはね――」

「うん少年。君の想像通りだ。お姉さんはいっきーのセックスフレンドだよ」真顔!?

「……てめえ」

 圭一くんは引いている、それも露骨に。まあ、興味を逸らせた事で良しとしておこう。むしろそうしておきたい。
 そうじゃなきゃぼくが浮かばれない。
 ぼくは嘆息をつき、圭一くんに向きなおる。

「この人は医者だよ。ほら白衣とか着てるし」

 と、本当に本来の意味じゃない適当で、適当に返しておく。

「ふうん。まあ、いいさ」苦笑いしながら笑みを作る圭一くん。

 ごまかせればいいんだけどな。追及の如何は圭一くんの良心に任せるとしよう。

「お待たせしましたー」
138 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:16:33.71 ID:Au9//.Ao
 助け舟参上。詩音ちゃんが店員さんの笑顔で、注文を持って再びぼく達のテーブルに来た。
 お盆に載せられた料理が手際よくテーブルに並べられる。
 店員さんの外観に惑わされるけど、この店の料理は結構美味しいんですよね。
 よく考えたらファミレスに来る機会なんて無いもんな。行くとしたらみいこさんくらいか。
 哀川さんは居酒屋だし、玖渚はジャンクフード限定。他の知り合いだって皆似たり寄ったりの偏食家ばかり。
 だからといって貴重な体験だというわけでもない。……なんとも変な状況。
 うーん……帰りてえな――他にも色々と気を回さなければならないし。

「なんだかなあ……」

「どうしたんですか? 独り言でてますよ」

 圭一くんの隣に座った詩音ちゃん。昨日もそうだったけど、あんた店員の仕事はいいんですか?

「いや、なんでもないさ。ぼくはね、絶えず独り言を言わないと死んでしまう病にかかっていると、もっぱらの噂なんだ」

「誰に噂されてるんですか? 友達ですか?」

 うぐ。
 ……この子はなんて事を聞きやがるんだ……。ぼくに友達だなんて……。そんな事を聞くだなんて……。聞くのだなんて……。

「ああ、そうさ! 沢山の友達に噂されてるのさ!」

 開き直ってみた。旅の恥はかき捨てるべき、って零崎も言ってたしね。嘘だけど。
 大嘘だけど。悲しくなんてなにもないけど。

「いーちゃんにも友達いたんですね」分かってんなら聞くんじゃねえよ。

「へえ、友達いたんだな」きみもかよ圭一くん。

「ふうん。沢山の友達ねぇ」

「……なんすかその目は、春日井さん? ぼくは間違った事など言ってませんよ」

「いいや。別になんでもないよ。いっきーは友達一杯だもんね!」

 ピンポイントで人の心をえぐってきやがる。分かってる癖に……。
 
「ぼくに友達がいるとかいないとかなんてね、そんな事はどうでもいいんですよ……」

 と、そろそろ逃げに入るぼく。付き合ってられませんよ。ホント。
139 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:19:04.01 ID:Au9//.Ao
 〜〜〜〜

 そうこうして食事が終わったぼく達は、エンジェルモートを後にした。
 ちなみに春日井さんと圭一くんは、馬鹿みたいな量のケーキをたいらげ、しっかりとアンケートにまで答えていた。
 何となくだけど、そういうバイタリティーの高さは尊敬したくなるような。やはりならないような。
 ぼく等は夕焼けの橙色の中、大通りをホテルに向かい歩いていた。

「そんじゃ、俺はこっちだから」と、圭一くんは雛見沢に向かう道を指差した。

「ああ、うん。ありがとうねケーキの券貰っちゃってさ」

 ぼくは食べてないけれど。一応の礼儀として、そこの社会不適合者の代わりにお礼を言っておく。
 横目で春日井さんを見てみると――満足そうな顔してやがる。

「気にしないでくれよ。あれは貰いものだしな」

「ふうん。そうなんだ」そういえば、そこらへんの事は聞いてなかったな。

「ああ、いいや。むしろ俺こそ礼を言わなきゃな。奢ってもらってサンキュな」と、笑顔で頭を下げた。

「そんな気にしなくてもいいさ」ま、人それぞれか。

 どこかに二日連続で他人の金で寿司を食って、つらっとしているような人もいるからな。
 ぼくは春日井さんを見た。ぼくの視線に気づいた春日井さんは、ぼくと圭一くんに「うむ」と大きく頷いた。
 ……勝てる気がしねえ。

「そんじゃ、明日な!」と、圭一くんは自転車で走り去った。

 そうして、残されたぼくと春日井さん。

「それじゃあ、とりあえずホテルに帰りますか」

「さて。それじゃわたしも帰ろうかな」と、唐突にぼくに向きなおり、こう言った。

「……え? 春日井さんって住む家あるんですか」

 だって衣食住完備の研究所だからって雛見沢に誘われたんじゃなかったっけ?
140 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:21:40.70 ID:u1KG1kwo
>>126

おおっおおぅっ
神の無慈悲なる意志が、そこで発現された。径を、長さを、倍に、ひとまわり上
これが巫女の陵辱だ。
自分は今、妹が可愛くて仕方がないのだから。
鼻息を荒くしながら揉み続け、ついには唇を可憐な桜色の乳首に押し付けた。
            
141 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:23:13.24 ID:Au9//.Ao
「さあて。あったようななかったような」と、全く表情を変えずに言う。

「いや、わけわかんないです。だいたい春日井さんお金を持ってないじゃないですか。電車代とかだってあるだろうし……」

「わたしはそういう奴なんだよ。きみだって良く知ってるでしょう? 帰ろうと思ったのもただの気まぐれなんだよ。
それにお金も何とかなるだろうしね。だからきみはわたしを心配しなくてもいいんだよ」

 ああ、そうだった。この人は本当に何も無いんだな。

 分かってはいたけど。 
 分かりきっていたけど。理解出来すぎて忘れていたけど。
 ……まあ、大丈夫だっていうんなら大丈夫なんだろうけど。ここは山の中でもなんでもないし。
 そして、振り返り、歩き始めた。

「何処に行くんですか?」ぼくは呼び止めるように、春日井さんの背中に声をかけた。

「京都にでも行ってみようかな」ぼくの問いに迷うでもなく返答。

 また戻るのか。
 それにしても……もしかして歩いて行くのか?
 いくらなんでも遠すぎる気がしないでもない。しかしこの人だったらありえるんだよな。

「もしかして、歩いて行くんですか?」一応問うてみる。

「さあどうするのかな。……ああそうだ。ご飯美味しかったよ。それじゃあね。じゃあまた

 縁が合えば

 会えるかもしれないね」

 それだけ残して、春日井さんは再び歩み出した。
 こちらを振り返る事無く。

 こうして。春日井春日は、ここ雛見沢の舞台から退場した。
142 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:25:51.12 ID:Au9//.Ao
 三日目

 0

 逃げたい。どこかに逃げ出したい。
 だから逃げれない。

 1

 バットに白球が当たった独特の快音。瞬間ボールはぼくの頭上を通過した。
 ぼくはボールの通過した場所をぼけっと眺めていた。
 ……あいにくながら、空は雲一つない晴天なり。雨は降りそうにない。
 さて、なぜぼくはこんなところにいるのでしょうか?
 いったいぼくは誰なのでしょう? カレー? ……それはもういい。
 正解は青空の下で座っている、酷く健康的な戯言遣いでした。

「――という話ですのよ」

「ほう」ぼくは適当に頷き。
「……えっと、多分、赤坂さんの使い、って言えば分かってくれると思うよ」

「分かりましたわ。少々お待ちくだ――って初日!?」と、乗り突っ込みの沙都子ちゃん。

「いや、沙都子ちゃん、きみは間違っている。その台詞は二日目だな」ぼくは指を二本突き出した。

「え? だって着いてすぐに家に来たんでしょ?」

「うん、そうだよ。沙都子ちゃん、よく考えてみなよ。深く考えるんだ。裏の裏まで見通すんだ」

 沙都子ちゃんは額に手を当て、熟考。
 そうして、その姿勢のまま数分悩んでいた。
 しかし考えても分からないようで、ぐでっと倒れこむようにベンチに横たわり。

「分からない……どういうことなのですか? あれは初日のはずですわよね?」

「うん、初日だよ。だって嘘だし」
143 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:32:07.89 ID:Au9//.Ao
「なんですって!?」

「沙都子ちゃん、きみはまだ社会の厳しさって奴を知らない。だからぼくはきみの為を思って泣く泣く嘘をついたんだよ」

「なんという人でなし」

「そう思うのはとても良い事だよ。一つ経験を積んで、また一つ賢くなったね沙都子ちゃん」

 ぼくは親指を立て沙都子ちゃんに向ける。――露骨に嫌な顔をされた。

 本日は雛見沢三日目。
 ぼくは市民球場の隅にあるベンチに座っているのであった。
 前日していた約束通り、輿宮のコンビニの前で待っていると。自転車の一団が出現しぼくを拉致。
 そうして、この市民球場に連れてこられた、というくだりなんですよね。
 球場には入江さんもいて、ぼくを見つけると柔らかな笑顔で一礼された。

「それにしてもさ。ぼくはあまり野球を知らないからよく分からないんだけどさ」ぼくは相手のピッチャーを指差し。
「あの子プロなの? 投げる球が結構早いんだけど」

 ボールがミットに吸い込まれる。……すげえな。距離からいって130Km以上は出てるだろう。
 傍から見ててこんなに早いんじゃ、打てるわけねえよな。二段変化シンカーとか使われないだけましなのかもしれないけど。
 ぼくはスコアボードに視線を移した。得点は0対0。
 雛見沢チームがなんとか守備で頑張っているって感じか。

「どこだかの高校球児らしいですわ。きっとあの人の活躍が漫画化されたら最終回辺りで死にますけど」

「……なんで野球で死ぬんだよ?」

「試合に向けて猛特訓、そして」指を立て、真剣な沙都子ちゃん。

「ふむ」

「過剰な減量苦で死ぬ」

「死ぬ前に食え! いや、その前にそれは野球じゃない、ボクシングだ。野球に体重制限はない」

 ……たぶん体重制限なんてないよな。微妙に自信がない。
144 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:46:44.76 ID:4.MUv2AO
「でございましょう?」
「ですの?」
じゃね
いや別にいいけど
すまん
145 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 22:53:45.13 ID:JPCuHYAO
キテル━━(゚∀゚)━━!!!
146 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 23:02:09.14 ID:Au9//.Ao
 しかし沙都子ちゃんは続ける。

「状況は圧倒的なリード、しかし」

「……ほうほう」

「火山弾で宇宙に射出され諦める」

「考える事をやめるな。それにここはヴェネチアじゃないし、彼は究極生物でもないから、鉱物と生物の中間の存在になったりしない」

「スコアボードに刺さって死ぬ!」

「地獄だっ!?」しかし地獄ならしょうがない。納得。
「しかしさ、ちょっと不謹慎だぜ。彼らだって死ぬために野球をやってるわけじゃないんだしさ」

「いいじゃありませんか。アストロ球団なんて試合をするたびに死者続出ですのよ」

「アストロ球団と一緒にするな」

 なんでそんなアニメ知ってるんだよ、この子は。
 ぼくも話を聞いただけで見た事がないぞ。たしか陰腹を切ってバッターボックスにあがったりするんだよな。

「物語での人の生き死になんて、極論でいえば読み手の感情を上下させるシステムでございましょう?」

「今日一日できみに何があった!?」ろくでないほど冷静な意見だった。

「一つ成長したので大人っぽい意見を」

「……そういう考えは止めた方がいいよ。いや、実際そうなんだろうけど。そういうのをさ、きみみたいな少女が言うのはどうかと思うんだ」

「沙都子さんじゅうよんさい!」

「それは穿ちすぎだ」もう何がなんやら。

 そして圭一くんの打順が終わったのか、打席から帰ってきた。

「いやいや、ありゃ早すぎだ。まともに打てる気がしない」肩を伸ばしながら言う圭一くん。
147 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/22(水) 23:06:24.05 ID:wNG/6EAO
二段変化シンカーってwwww
148 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 23:29:20.94 ID:Au9//.Ao
という訳で本日終了です。次は日曜で。

>>144
すまん。次から気を付ける
149 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/22(水) 23:38:26.59 ID:4.MUv2AO
>>148
いや、考えたらこっちが不粋だ。すまない
結構楽しみだから次もよろ
おつかれ!
150 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/23(木) 01:53:16.40 ID:XJvO7jso
長編×長編が大長編になるのはわかる
それでもなるべく早く投下してほしい
それほど期待してるってことだ
151 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/23(木) 14:51:36.27 ID:umQ2iMAO
今vipで書いてるの>>1だろwwwwww
152 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/23(木) 21:34:53.41 ID:2yYLSRwo
ttp://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1240452721/
何即興でこのクオリティ
153 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/23(木) 22:22:49.03 ID:rP3q/AYo
>>152
50モリタポ払ってでも見る価値があった
154 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/24(金) 04:18:11.03 ID:wqTuWzk0
「他人の家を自覚的に意識的に家宅捜索出来る警察ってのは、なかなかどうして怖いものが
あるよな」
そうだろうか。
ぼくには、無自覚で無意識で他人の部屋を家探しする人間の方が、趣味で興味で他人の家を
土足で上がる人間の方が、ずっと怖いように思えるけど。
「へえ。はは、何言ってんだ?当然じゃないか」
軽く笑われてしまった。ぼくの頭が弱いかどうかは、しかし幸いなことにこの場合あまり関
係ない。多分これは、考え方の違いではなくて、感じ方そのものの違いだろう。他人の家を
家探ししなくても良い人間と、家宅捜索しなければならない人間との、絶対的で絶大な差異。
結局、そういう事だろうと思う。
155 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/24(金) 04:18:33.19 ID:wqTuWzk0
たとえば酒を飲み過ぎた彼。
たとえば呂律が回らなくなっていた彼。
たとえば全裸で発見された彼。
たとえば夜中に大声で叫んでいた彼。
あの家に住んでいた彼はあまりにも有名人過ぎた。
公園にいた時も、そしてTVに映っている時も、どちらの場合もどうしようもないくらい有名で
どうにもならないくらい有名で、どうする気にもなれないほどに有名で、そして韓国でも有名
だった彼。
156 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/24(金) 04:18:50.47 ID:wqTuWzk0
そして。
「つまりだな。これは有名人ってのはどういった存在であり、そして何が許されないのかって
問題なんだよ。無名だったらそっちの方が良いんだ。普通の人間並みに無名だったなら。そも
そもアイドルでなかったなら、そもそもここまでファンがいなければ、そもそもTVに映らない
ほど無名だったなら、こんなに大きな事件にはならなかった。平穏で平和で平静で。些細な事
が大事件で、大事件は些細なことで、最高の一生を終える事が出来たんだろうよ」

それはきっと、その通りなのだろう。
157 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/24(金) 04:19:08.08 ID:wqTuWzk0
世界は有名に厳しい。世界は有能に厳しい。
世界は綺麗に厳しい。世界は美形に厳しい。
世界は無名に優しい。世界は無能に優しい。
世界は汚職に優しい。世界は変顔に優しい。

けれどそれは、それはそうと理解してしまえば、そうと知ってしまえば、その時点で既に終わっ
てしまっている、解決も解釈もない種類の問題だ。報道される前に終わっていて、報道された後
には事務所のコメント待ち。そんな種類の番組構成なのだと思う。
158 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/24(金) 04:19:32.54 ID:wqTuWzk0
たとえば。
「人の生き方ってのは、要するに二種類しか無い。警察に御厄介になるか、ならないかだ」
警察に御厄介になるのとならないのと。

果たしてどっちがましなのか。考えるまでもない。
前科があると肩身が狭い思いをすることになるだろう。

「何処からが犯罪で、何処までが犯罪じゃないのか」

良く考えなくてはいけない。
159 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/24(金) 04:25:14.28 ID:wqTuWzk0
こっちは多分50モリタポ払ってでも見る価値ない奴…すぐ落ちた
160 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/24(金) 16:20:19.14 ID:pGjIygAO
やっぱり>>1だったのかwwwwwwwwwwwwwwww
161 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/26(日) 16:49:58.74 ID:/vq5ncAO
そんなひまじゃなくね
162 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/26(日) 21:06:51.58 ID:Id1zSoAO
すまん。今日は無しで頼む
163 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/26(日) 21:28:07.69 ID:dwAY.1M0
しかたないね
164 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/26(日) 22:07:49.49 ID:/vq5ncAO
うい
次いつ?
いつまでもwktkして待ってるお
165 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/27(月) 21:51:17.85 ID:BCqO1gco
傷物語(09年3月刊)もぼくの世界(09年5月刊)も予定通り出ないしな。
ネコソギラジカルに至っては
04年9月から3ヶ月連続刊行予定→05年2月に上巻発売→05年6月に中巻発売→05年11月に下巻発売という体たらくだ

講談社のお陰で待つことには慣らされました
166 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/27(月) 21:55:09.14 ID:BCqO1gco
>>1あと
× 輿宮
○ 興宮
じゃね?
167 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 21:46:04.20 ID:9Qi14gDO
>>165
西尾って遅筆じゃないはずだよな、むしろ速筆
明らかに講談社の経営戦略の匂いがするんだが

あと傷は夏じゃなかったか?
168 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 22:35:31.31 ID:aeOoue6o
傷物語じゃなくて偽物語でした。
西尾さん自身は仕事しすぎ、講談社は売り方が酷すぎ
ひぐらしBOXとか人間関係4冊同時発売とか、中高生のファンにはきつすぎる負荷だと思うんですが

本編に関係ない話スマソ
169 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 22:36:15.18 ID:aeOoue6o
傷物語じゃなくて偽物語でした。
西尾さん自身は仕事しすぎ、講談社は売り方が酷すぎ
ひぐらしBOXとか人間関係4冊同時発売とか、中高生のファンにはきつすぎる負荷だと思うんですが

本編に関係ない話スマソ
170 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 10:28:07.45 ID:HJ2RO2AO
>>168
大河は高校生の自分にはヒィヒィでした…
IDきつそうですね
171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 17:49:20.91 ID:kJBct6DO
まだかな…
172 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 21:45:38.06 ID:NHHrVugo
明日まで待とう
173 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/02(土) 23:04:58.23 ID:40myYcAO
大丈夫かなぁ
174 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 11:24:55.37 ID:vX79YNE0
オヤシロエンドレス(上)無間地獄の雛見沢村
オヤシロエンドレス(下)百年の魔女・古手梨花

原案:竜騎士07、西尾維新
作者:>>1
イラスト:竹
出版:講談社



ここまで妄想した
175 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 20:28:06.26 ID:Y2VSZg6o
「アストロ球団出身らしいからね。……それにしたって実際大したもんだよな」

 甲子園とか目指してるんだろうな。球とかやたら速いし、坊主だし。それが町内の野球チームで出場ってのは大したことなのかはわからない。
 しかし正直なところ、いまいち凄さが分からないのが困りどころ――いや、別にぼくが困る訳ではないんだけれど。
 野球を詳しく知っていたら、その凄さとかが分かるんだろうが、ぼくがバッターボックスに立つわけじゃねえからどうでもいい。
 むしろ早く終わって欲しい。なんとも前振りじみた思考だが、この際どうでもいい事にしておく。

「アストロ球団? なんだそれ?」

「いや、そういうどうでもいい話は拾わなくていいよ」ぼくは話を打ち切るため適当に話を振る。
「そういやさ、圭一くんはどうしてこの試合に出る事になったの? もしかして野球少年なのかい?」

「入江先生に頼まれたんだよ。なんでも欠員が出たそうな。ちなみに後者の質問はだな、――野球なんて小学生以来かな。
特にスポーツに打ち込んでたって感じでもないしな、勉強ばっかさ。いや、……前は勉強に打ち込んでたという方が正しいな」

「ふうん、……そうなんだ。まあ、それにしたってこの場所じゃ、皆あまり受験勉強に必死って感じじゃないもんな」

 魅音ちゃんにしたってレナちゃんにしたって勉強に必死ってタイプじゃあないし。
 日本の大学に行くのは学びたい人間だけじゃないしね。……巫女子ちゃんとか。
 そういえばこの村に合いそうな人だよな巫女子ちゃんとかって。アグレッシブ過ぎるところとか、案外なじめるんじゃないかね。

「近くに大学もないからしょうがないんだろうけどな」

 成程。地理的な問題もありですか。しかし下宿とかも……ああ、成程。成程。納得。そういえばそうだったな。
 ぼくは圭一くんに気取られないよう頷き、適当に問いを振っておく。

「圭一くんは進学?」

「今のところはその予定だな。正直さ、学力面での不安は残るけどな」と肩を竦め言う。
「……実際ここじゃまともには学べないから独学で何とかするしかないんだよ」

 しかしこの子勤勉だよな。姫ちゃんには圭一くんの爪の垢を煎じてあげたい。
 ものすごい勢いで拒否されるだろうけど。

「へえ、大変だね。ま、昨日見ただけで決めつけるのもよくないんだけど、圭一くん頭良いから大丈夫じゃない」ぼくは軽い調子で言う。

「そりゃあんがとよ」と、苦笑いの圭一くん。
176 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 20:32:33.69 ID:Y2VSZg6o
「ああ、皮肉とかで言った訳じゃないよ」ぼくのとりあえずの訂正に、圭一くんは頭を掻き。

「ああ、悪い悪い。そういう意味じゃない……それにさ、いーちゃんはそういう、皮肉とか嫌味とか言いそうにないじゃん。
というより、そういうこと自体に興味がないって感じだよな。なんてーか仙人みたいな感じか」

「ふうん……そっか、そう見えるんだ」ぼくは事も無げに呟く。

 よく見てるな。ぼくとしても、それについてはあまり意識はしていなかった。
 しかしそれを知られたところであまりぞっとするわけじゃないが、問題は圭一くんがその意味をどこまで理解しているのか、でしょうかね。
 ぶっちゃけそこら辺は無視しておきたいところなのだけど。

「なんてな」圭一くんは、にいっと口の端を上げ笑い。
「そういうのって知り合ってすぐでそうそう簡単に分かるもんでもねーよな」と言い、一人でうんうんと呟いた。 

「そうかもね……そういえば圭一くんって最近引っ越してきたんだよね? ずいぶん馴染んでいるように見えるんだけど」

「そろそろ一か月経つか経たないかでございましょう?」

 進路の話などで所在なさげにしていた沙都子ちゃんが割り込むようにそう言った。

「圭一は口が良く回るので、すぐに村の人にも覚えてもらったみたいなのですよ」

 梨花ちゃんの答えに、ぼくは曖昧に頷きながらつぶやく。

「ふうん。口が回るねえ……」

 そういう印象はなかったな。どっちかっていうと頭が回るって印象。
 それにしても、言葉を駆使して周りに馴染むってのは嫌な表現だな。そう感じるのは、ただ単純にぼくがひねくれているだけなんだろうけど。
 ふと、考える。何故だか少しだけ緩んでいるような気がした。
 それはこのくだらない仲良しごっこに付き合っているからなのだろうか。それとも、また別の要素なのだろうか。ぼくはそれを考えない。

「こういうのも戯言だよな」溜息交じりで呟く。

「うん? 独り言なんてどうかしましたか」

 梨花ちゃんはぼくに問う。

「いや、いつも通りの独り言だよ。きみだって独り言を呟く事ってあるだろ?」軽く流し、質問を更に返してみる。

「しょっちゅうあるのです。ボクはもう妄想性障害――いや、二重人格の領域なのです。にぱー☆」

「……笑顔で言うな。というか事もなげに言いすぎだろ」衝撃的事実だった。どうせ嘘なんだろうけど。
177 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 20:32:37.41 ID:NlEu4Fg0
きーーーーーーーーーたーーーーーーーーー
178 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 20:32:42.45 ID:NlEu4Fg0
きーーーーーーーーーたーーーーーーーーー
179 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 20:35:05.25 ID:Y2VSZg6o
「梨花は夜中に一人でぶつぶつ呟いてますのよ」誇らしげに言う沙都子ちゃん。というか何故に誇らしげ?

「あらあら、沙都子は寝たふりをして聞いていたのですね」きらりと眼が光る梨花ちゃん。

 というかマジネタですか……。いや、この子の事だから実際はわからないけど。

「まあ、最近の子供は多感な時期っていうからね……」意味が分からんフォローをするぼく。

 それにしてもやはり雛見沢の人って濃いなぁ、と感心せざるをえない。これ自体が欺瞞ゆえの寒心かもしれないけどな。
 それはぼく個人としても、あまり楽しい話ではないので話をずらす。

「そういえば魅音ちゃんはまだ復活しないのかい?」

 朝からずっと頭を抱えながら、虚ろな目でぶつぶつと何か危険な事を呟いている魅音ちゃんを指差し、誰に聞くでもなく問うてみる。

「見ての通りなのですよ」

 見るまでもなかった。
 そう簡単にあの呪縛からは逃れられないようで、魅音ちゃんは今も、朝と変わりなく震えている身体を自分の両手で抱いていた。
 そうなる気持は分かるが――いや、そうなる理由は分かるが、事実ぼくも破壊されかけたしな。
 ……あの時ぼくは――あれ? 
 あの時の事を思い出そうとすると、何故だか身体が勝手に震えだした。どうやら脳があの時の不条理と恐怖を思い出すのを拒否しているらしい。
 梨花ちゃんを見てみると、ぼくと同じなようで、目の光が明暗に点滅していた。

「……いや、えと、ごめん」なんとなく謝罪してみる。

「……いえいえ、こちらこそ」死線を共に越えた二人が通じ合う瞬間だった。戯言以外のなにものでもないけど。

 ふう。やはり疲れるなよな、こういうのって。五月の件でも、それ以前でも分かってたけど。
 ぼくはベンチから腰をあげた。

「ん? いー、どこかへ行くのですか?」

「……ちょっとトイレに」

「ふうん」梨花ちゃんは思わせぶりに、にこやかに笑みを浮かべた。

 それの方が立派にらしいじゃないか。とは言わない。
 ぼくは目を合わせないようにしながら後ろに振り向き。

「まあ、すぐ戻るさ」と言い、歩きだした。

 さて、これからどうしようかな。
 これからの事も。
 これからの事も。
180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/03(日) 20:36:35.28 ID:YzmqjX20
きたあああああああああああ
181 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 20:39:10.14 ID:Y2VSZg6o
 〜〜〜〜

 いつだっただろうか、ぼくは哀川さんに言われたことをふいに思い出していた。『お前の基底は《諦観》と《妥協》だ』と。
 諦観。あきらめること。超然とした態度をとること。妥協。譲り合って一致点を見いだし、おだやかに解決すること。
 言葉にすれば、それはとても陳腐で、ありふれてて、つまらなくて、認めなくてはならない言葉。
 ぼくにとってそれは事実だ。理解しきってる。
 それは、どうしようもないくらいに。
 それならば、いまぼくは何を諦観し、何を妥協しなくてはならないのだろうか。
 けれど、ぼくには何の意志もない。それを決めるだけの――それを決める為の意志が。

「そういうのって諦めていたんだけどなぁ。それとも単純に主体性が無いだけなのか……」

 歩き始めて約五分ほど経ったところにあった図書館で、ぼくは何を読むでもなく、適当な本を開いたまま呟いた。
 中はクーラーが効いていて中々に涼しい。人もあまりいないので騒がしくないのはちょうど良いしな。
 どうやら相当に疲れているらしい。そうしてほんのすこしだけ時間が経った頃。

「こんにちわ」と。ぼくの正面の席に誰かが座った。

 ぼくは視線を上にあげ声の主を見上げた。目の前に座っていたのはロングの髪を見事に金色にし、おっとりとした印象の美人だった。
 ……誰、このおねえさん? ひょっとして知り合い……とかじゃあねえよな。アニメオリジナルの新キャラだろうか?
 ここ雛見沢に来てから結構沢山の人と会ったから、ぼくの人を覚える器官の処理能力はいっぱいいっぱいなんですよ。
 などと失礼な事を考えつつ、ぼくは挨拶を返す。

「……ええと、こんにちわ。あの失礼ですけど初対面ですよね?」

「ええ、そうよ。うふふ」と、知的に微笑まれた。この状況も含めてだけど、なんというか露骨に妖しいよな。

 彼女はそれだけ言い、じっとぼくを見つめる。

「……」それっきり無言だった。

 これはぼくの質問が悪かったのだろうか、彼女は今もぼくを見つめている。
 見られているのかもしれない。

「……あの」さすがに視線に耐えられなくなり口を開くぼく。

「なにかしら?」柔らかい物腰。でもどこかひっかかる感じだった。

「何かぼくに用でしょうか?」

「あらあら、うふふ」何が面白いのか分からないが笑顔を作り。
「あなたはいっきーよね?」と、質問に質問を返された。

「ええ、そうですけど。あなた誰です?」
182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 20:42:43.45 ID:Y2VSZg6o
 ぼくの名前を知っているという事はなんかの関係者ってことだよな。一応は警戒しておく。
 ちなみにこの界隈で、ぼくの事をいっきーと呼ぶのは。えっと――春日井さん、はもういないので……あとは入江さん関係だろうか。

「あら、やっぱりそうだったのね。あなたが死んだ魚のような目をしているから、きっといっきーだと思ったのよ」

「……」いきなり失礼な事を満面の笑顔で言う人だった。

「本当にとても死んだ目をしているから――うふふ、私もびっくりしちゃったわ」口に手を当て微笑まれても……。

「……ぼくの目がどんな感じだなんてどうでもいいですよ。さっきの質問に答えてくれませんか、それと用件はなんなんですか?」

「あらあら、せっかちねえ。私は鷹野三四。入江診療所で看護婦をしているのよ――それと」

「入江機関の人、ですか」

 鷹野さんは口元だけでうふふ、と笑い。

「せ、い、か、い」と、鷹野さんは、まるで語尾にハートマークが付いているかのように言う。
「これでも責任者なのよ、私は。一応階級も言っておくと三佐ね」いいながら、窓の外に視線をうつし、遠くを見るようにした。

「へえ、責任者ですか。それはD・L・L・R症候群、いや、雛見沢症候群の研究者としての意味ですか?」

 相槌を打ちつつ、問うてみる。そしてぼくはさらに鷹野さんを観察する。

「ううん……研究者、責任者」否定とも肯定とも取れるように首を振り。
「しいて言うのなら指揮者、もしくは統率者……かしらねぇ。勿論いっきーのお友達の玖渚友さんのようにはいかないけれど、
それが正しい表現なのかしらね。――あら、そんな怖い顔しないでほしいな。別に玖渚のお嬢さんになにかあるって話じゃないのよ」

 と、訂正するように微笑む。ああ、成程ね。この人はこういう人なんだな。勿論これだけで判断できる相手でもなさそうだけど。
 そういえば入江機関も玖渚機関の下部組織だったっけか。ついでに国も関わってるって、どういう状況なんだか。

「いえ、別に気にしてませんよ。少し気になっただけですよ」ぼくは言う。そして、警戒をさらに引き上げる。

「そう、なら続けようかしら。あなたに声をかけたのはね、客観的な意見として雛見沢の人はどうかしら、と聞きたかったのよ」

「……どう、と言われましても。普通の人達ですね、としか返せないですよ」

 ぼくは用心して答える。

「ふうん。それなら質問を変えてみようかしら」鷹野さんはにっこりと笑い、まるで子供を諭すかのように、ぼくに問いかけた。
「いっきー個人の主観として、雛見沢症候群の患者は、零崎とどれくらい相似しているのかしら?」と。
183 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 21:01:40.41 ID:yby8EoAO
今更だがやはり時代のズレを感じさせないようにするのは大変なんじゃないだろうか
昭和58年…
184 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 21:02:12.31 ID:Y2VSZg6o
どうやら本日終了らしいです。遅れたくせに短くてすまんね。
185 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 21:10:02.64 ID:yby8EoAO
何故他人事wwwwwwww
お疲れ。
自分としては未完で終わらなければ遅くても気にならんしゆっくりでいいと思う。
次も楽しみにしてまふ
186 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/04(月) 01:05:33.79 ID:sL/FuQAO
こんな続きが気になるところで終わりとは>>1は焦らし方がうまいな
187 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/05(火) 04:33:33.43 ID:0bJlwo60
>183
ひぐらしの原作も時代が入り乱れてる感じだからそこまで大変じゃないんじゃない?
188 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/05(火) 20:36:07.37 ID:yvQFe1Eo
いっきー零崎は一人しか知らんだろ
189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/06(水) 10:45:05.00 ID:Bhzt5XsP
「零崎」という名前だけ知ってりゃいいんじゃね?
190 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/06(水) 22:00:09.50 ID:DQVMUsAO
零崎自体レアだからな
一般人なら零崎を一人でも知ってるほうが珍しい
191 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/08(金) 21:34:44.86 ID:G28qOIAO
最近戯言のSS多いな
アニメ化の影響かな?
192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/09(土) 13:25:34.93 ID:mZMEttY0
何か哀川さんなら普通に羽入に話しかけそうだな
193 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/09(土) 18:12:32.09 ID:K5ZW9pco
これって戯言の時系列だとヒトクイが始まるちょっと前くらい?
姫ちゃん生きてるっぽい描写だし

>>192
最強と最終には多分普通に見えるよなww
あと双識、曲識、呪い名の一部は見ないけど攻撃はできそう
194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/09(土) 19:08:18.51 ID:hUpiLfUo
             /)
           ///)
          /,.=゙''"/          時系列とかwwww
   /     i f ,.r='"-‐'つ____   こまけぇこたぁいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \ パラレルワールドだとお考え下さい
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /
195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/10(日) 15:34:31.96 ID:zKX28zUo
しえん
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/10(日) 19:12:04.94 ID:rp3GWmo0
最近戯言人気だな
197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/10(日) 19:15:05.88 ID:rrqB7Tso
ようやく時代が追いついたのさ
198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/10(日) 23:33:02.34 ID:K7SG66DO
今日は無しかね
199 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/13(水) 10:32:45.97 ID:jFOy/UDO
今日あたり来たりしないかな
200 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/13(水) 10:48:04.74 ID:HdYLP4Mo
>>1じゃないけど明日だと思うよ
201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/13(水) 11:18:06.98 ID:dyVZ86AO
例のキョンss書いてないで雛見沢進めろよwwwwww
と思ったのは俺だけじゃないはず



面白かったけど
202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/13(水) 14:02:31.06 ID:8kp/LrAo
urlkr
203 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/14(木) 09:43:15.82 ID:mV/yvOE0
>>201 俺は同じ日に立った、 哀川潤「雛見沢連続怪死事件ね……オーケー。引き受けてやる」

の即興師さんが>>1だと思った
戯言を即興であそこまで書けるのは凄いと思ったぜ
204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/14(木) 20:55:34.81 ID:NM5cMpYo
ごめんよ明日投下するよ
ちなみに哀川潤「雛見沢連続怪死事件ね、は俺じゃないよ
205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/14(木) 21:36:52.80 ID:6sUwPkAO
<<投下が待ち遠しくて夜も眠れない、ただし8時間昼寝した>>みたいなっ!
206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/15(金) 08:06:57.13 ID:qWjCXMAO
>>204ん…?なら>>201のキョン「ーーーーさあ零崎を始めよう」の一人は>>1
207 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/15(金) 22:05:47.90 ID:Hz/pKUAO
楽しみにしてる
208 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/15(金) 23:05:01.86 ID:YJ2rSQDO
くるか?くるか?
209 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/15(金) 23:23:14.16 ID:.AUhL2ko
 そう言い、鷹野さんは確信犯的な笑みを浮かべた。
 驚いた……そこまで調べられたとは思ってもみなかった。
 実際のところ、零崎がぼくと一緒にいたのは、ほんのわずかな時間だったんだけど。……ああ、智恵ちゃんのマンションの監視カメラとかだろうか。
 ぼくがあのマンションに忍びこんだ事は沙咲さんにはばれていたしな……まあ、他にも考えられる事はいっぱいあるんだけど。

「……それで、どうなのかしら?」

 鷹野さんは、押し黙っているぼくに返答を促してきた。痺れを切らしたのではなく、期待しているかのような口調だった。
 優しそうに細められていたその目を、まるで子供のように輝かせながら、そわそわと落ち着かない様子だった。
 なんなんだろうこの人。……天然なんだろうか? ただの純粋な興味みたいに感じる。
 ともかく、このまま黙秘は出来ないだろう。ぼくはわりと正直に答える事にした。

「その零崎は五月に京都で起きた連続殺人の犯人、つまり零崎人識の事ですよね」

「ええ、そうよ。……他の零崎一賊の人間も知っているなら教えてほしいわねぇ」

 零崎一賊、ねえ……。そこら辺の情報は哀川さんや小唄さんからの情報しかないんだけど。
 ……しかしあいつとはよくよく縁があるな。

「ぼくはあいつ、つまり零崎人識しか知りませんよ。……それに一応言っておきますけど、あくまでたまたま関わった程度ですから」

「そう、残念ねぇ……」と露骨に落胆した顔を見せ、すぐにさっきまでしていたような顔に戻る。
「じゃあ、その零崎人識くんはどういう子だったのかな?」そしてそう続けた。

 その後、ぼくは鷹野さんに、ある程度の虚偽を混ぜつつ、肝心なところは誤魔化しながら、ある程度の事を簡単に伝えた。
 ある程度の風体や、ある程度の経緯を、もれなく曖昧に伝えた。
 何となくだが、零崎をかばうことになった気もする。そして鷹野さんはぼくが殺されそうになったところは興味深そうに頷いていた。

「それとも、零崎という存在が殺し名ってだけなのかしら」ひとり言のように呟き、
「ふうん。やっぱり殺意だけで殺人技能は特化するものなのかしらねぇ?」そうぼくに問うた。

 たしかにあいつの殺人技術は図抜けて凄かった。それは、ぼくではなく、人類最強をして『人類最速』と言わせるほどだしな。
 けれど、それは殺意に関係あるってのはどういうことなんだろう。

「その、ぼくは他の零崎一賊の人を知らないので何とも言えないですけど、たとえ零崎がDLLR症候群にかかっていたと仮定しても、
一般の人間には到達できない領域だと思いますよ。たとえ機関銃を持ったとしても普通の人じゃ殺せないでしょうね。
そんなのは殺意だけじゃ埋めようもないでしょうから……」

「へえ。やはりそういうものなのかしらね……」
210 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/15(金) 23:26:00.91 ID:.AUhL2ko
 思わせぶりに言いやがる。どっちかっていうとこの人も春日井さんみたいなタイプだよな。
 まあ、春日井さんがここにいたら、間違いなく話は進まないだろうけど。絶対に進まないだろうけど。

「他には何かないのかしら?」小首を傾げる鷹野さん。

「ええ、そんなもんです」

「……ほんとにぃ?」甘えたような声を出し、疑いの目でぼくを見てきた。……キャラ変ってるし。

「ええ、ぼくが知ってる事なんてほんの少しですからね」それ以上は言いたくないってのもある。

 鷹野さんは微妙に納得のいかないような顔をし、そして何かを思い出したように開いた手の平に、逆の手のこぶしでぽん、とついた。

「まあ、いいわ。思い出したら教えてね。もし何か思い出したら猫耳メイド服姿で『ご主人様のミルクのみたいにゃー』くらいやってもいいわよ」

 言いたくなってきた。
 しかし猫耳はいらない。いくら人間失格で殺人鬼の鏡写しである欠陥製品の人でなしであるぼくでも、その程度の矜持は持っている。
 動揺からか、軽く意味が通っていない事は無視する。……まあ、そんな事なんてどうでもいいよ。
 それより、ぼくとしては聞かなくてはならない事がある。

「あの、鷹野さん。少し聞きたい事があるんですけど、いいでしょうか?」

 ぼくの前置きに、鷹野さんはゆっくり「いいわよ」と頷いた。
 
「あなたは、雛見沢症候群に対し、何か思うところはあるんですか? そして、それを治せるものと思い、研究を続けているんですか?」

 それに続けるべき言葉をぼくは言わない。それは感傷ではなく、純粋な興味でもある。

「うーん。……私個人としては、思うべき事は何もないわね。珍しい病気っていうだけの、ただのサンプルかしらね。あとは後者の質問ね……」

 鷹野さんは顎に手を当て悩むような格好をぼくに見せ。

「今のままじゃ治せないんじゃないかしら。入江さんじゃちょっと無理かもね。
もうちょっと優秀な研究者でもいたらいいのかもしれないけれど……その観点で見たら春日井さんの辞職は痛かったんじゃないかしらねえ」

「なんだか他人事みたいな物言いですね……それと入江さんじゃ無理ってどういうことなんですか?」

「言葉の通りよ。入江さんのやり方じゃ無理なんじゃないかしら。本当に治す方法を確立したいなら研究者らしく、
被験者の頭を片っ端から掻っ捌いて調べればいいのにねぇ……まったくもう、そういう職業に向いてないのかなんなのか分からないけど、
可哀そうだとか、人道的じゃないとか、綺麗ごとばっかりでつまらないのよねぇ。ほんと馬鹿みたい」
211 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/15(金) 23:33:16.78 ID:.AUhL2ko
 鷹野さんは独白のように呟きながら、ぼくを見つめ。

「ほんともう、お姉さん困っちゃうわ。いっきーもそう思わない?」

 と、優しそうに笑った。先程までの会話の流れからだと、この微笑みが非人間的に感じられる気すらする。

「……さあ、ぼくは研究者ではないので判断がつきませんね」ぼくは分からないとでもいったふうに、両手を広げ答える。
「研究者とすれば、鷹野さんが言ったのが正解なんでしょうけどね……」

 あくまで実験対象……本当にそれだけなのだろうか。
 それは、ぼくにとっても、入江さんにとっても、この鷹野さんにとっても……。
 そして、それを知ることは、ぼくにとってあまりプラスになることじゃない。
 ましてや……今の状況だったら、尚更。

「うんうん。まあ、そういうのが普通よねぇ。とりあえずこんなものかしら。……ああ、そうだ。いっきーは祭が終わるまでここに居るんでしょ?」

「ええ、一応その予定ですけど」

 ぼくの頷きを見ると、鷹野さんはテーブルに置いていた鞄からノート的な物を取り出し、それをぼくの前に置いた。
 期待に溢れた感じの鷹野さん。見ろって事なのだろうか。

「……何ですか、このノート?」あまりに怪しすぎる。

「うん。私の個人的な趣味なんだけどね、雛見沢の民間伝承とか、例の殺人事件とか、雛見沢症候群を曲解して、悪意とオカルトで混ぜこぜにして、
最終的に全て宇宙人の所為にしてみたっていうお話書いたノートなんだけどね、ちゃんと本筋を知っている人間に読んで欲しいのよ」

「……さすがに宇宙人の所為ってのは突拍子が過ぎるんじゃないでしょうか?」

 誰に見せるって訳じゃないんだろうけど、すごい趣味だ。一瞬本気で逃げようかと思ってしまった。

「そうよねぇ、さすがにこんなの信じる人はいないわよね」残念そうに呟き。
「まあ、一応読んで感想を聞かせてほしいな」そう言った。

「はあ、分かりました」
212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/15(金) 23:35:15.64 ID:.AUhL2ko
 なんか面倒くさい事になった気がする。しかし暇つぶしにはなるだろうか。 
 鷹野さんはちらりと腕時計を見る、そして椅子から腰を浮かせた。

「うん。それじゃあ、帰ろうかな」

 そうして席を立ち、ぼくの表情をじっと見つめた。そして思わせぶりに、

「今年の鬼隠しは誰になるのかしらね。いっきーも気を付けた方がいいわよ」と言い、微笑んだ。

 ふうん。……鬼隠し、ねえ。
 ここでそれを持ってきますか。そういやぼくも一応登場人物の一人だもんな。

「どういうことですか?」

 ぼくは問う。
 ただ怖がらせたいだけの可能性もあるが、やはり圧力って線だろうか。

「うふふ……どういうことかしらね?」

 そう言い残し、鷹野さんは図書館から出て行った。
 テーブルに残されたノートを拾い上げ鞄の中に放り込んでおく。
 ぼくは背筋を伸ばし、手を上に上げた。そうして、鷹野さんが完全に出た事を確認し呟いた。

「えっと……東京だったっけか。うん、たしか東京だよな……」

 今時秘密結社ってのはどうなんだろう。いや、そりゃあるんだろうけど……。
 腕時計を見ると約一時間ほど経過している。どうやら結構話していたようだった。
 その割には要領を得ない会話だったな。まるっきり無駄だったってわけじゃないんだけど……。
 今更だけど、意味のない言葉遊びに感じられる。
 嘘つきと嘘つきの話し合いは、嘘つきの勝利に終わりました、ってか。
 結局それも、

「戯言だよな」

 ぼくは天井の蛍光灯を見つめ、そう呟いた。
213 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/15(金) 23:38:52.17 ID:.AUhL2ko
 〜〜〜〜

「ふう、しかしやたら暑いな。まあ、八月だったらこんなもんか。どっちかっていうと湿度の所為で京都はもっと暑いんだろうし」

 益体もない事を呟きながら、ぼくは先程の球場に戻ろうと歩いていたりする。
 時刻は午前十一時。
 道は休日ながら人の通りは少ない。京都のように、年がら年中観光客や修学旅行生がいないからだろうか、酷く歩きやすく感じる。
 そういや、トイレに行くといって出てきたんだよな。
 さて、どういう言い訳をすべきか。……まあ、今のところいい人に徹している訳じゃないので、なるようにはなるんだけど。

「しかし微妙に世話になっているので、悪い人に徹しようとも思わないんですけどね」

 軽く自虐してみる。
 ……なんだかなぁ。人はこういうふうに流されていくっていう見本のようなぼくであった。
 かといって今のぼくに、何か他の選択肢があるわけもない。
 はたしてぼくはこのまま流され続けると、どこに漂着するんでしょうね。
 あるいは漂流し続けているのが正しいのか。
 それとも、ずっと前に漂着して、既に終わってしまっているのか。
 それとも、ただ単に止まっているから、始まっていないだけなのか。

「……だから流されるのかな……」

 なんだかんだで、ここの皆は楽しそうで幸せに見えるもんな。もちろんぼくには何も分からないので、ぱっと見の判断ってだけだけど。
 いや……馬鹿馬鹿しいな、何を考えたところで結果は変わらない。
 どこまで行っても――――ぼくは、ぼくだ。
 ぼくは頭を振り、それについて考える事を止めたところで。

 ぼくを見つめる視線に気付いた。

 その方向、道の向こうを辿ると。誰かは分からないが、大人と歩いている沙都子ちゃんがぼくを見ていた。
 ぼくの視線に気づいた沙都子ちゃんは、にこりと儚げに笑った。
 沙都子ちゃんの前を歩いていた大人の人は、随分とガラの悪そうな感じで、向かいから歩いていたぼくをじろりと睨んだ。

「どうしたのかな、沙都子ちゃん?」

 誘拐とかだったら困るので、足を止め話しかけてみた。
 沙都子ちゃんは快活そうににっこりと笑い、ぼくの問いに答えず、嫌味っぽく。

「あーら、ながーいトイレでしたわねぇ?」と、言った。

「……ちょっとお腹が痛くてね」考え得る限り、最悪の返答だろ、これは……。
「まあ、それはいいよ。それでどうしたの?」ぼくに向けられているおじさんの視線を無視し、再び問いかけた。

「伯父さんが帰ってきたので、北条の実家に帰ろうかと思いまして」沙都子ちゃんはそのとうの伯父さんであろう人に目を向けた。
214 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 00:01:02.23 ID:CRSOOPgo
「へえ、そうなんだ」

 ぼくが曖昧に頷いた時、その伯父さんは乱暴な声で沙都子ちゃんに、

「沙都子ぉ、はようせぇ!」と怒鳴る。

 それを聞いた沙都子ちゃんは、一瞬だけ表情を硬め、すぐに元の笑顔に戻り、明るい声音で返す。

「はい、分かりました」

 そして、ぼくを一瞬だけ見つめた。
 それは、とても、色々な感情が入り混じった目で、
 哀しそうに、
 悲しそうに、
 苦しそうに、
 優しそうに、
 愛しそうに、
 懐しそうに、
 壊しそうに、

 ぼくを見つめた。

「ええ、そういう訳で、私急いでますの。ではごきげんよう」そう言い、ぼくから目を逸らし、また歩き出した。

「ああ、そっか、引きとめてごめんね。それじゃあ、ぼくは球場に戻るとするかな」

 ぼくは戸惑いながら別れを告げた。

「……にー」

 消え入るような声が聞こえた気がする。とても悲しそうな声が。

「うん? 何か言った?」ぼくは離れていく沙都子ちゃんの背中に聞いた。

 沙都子ちゃんは、振り向かずに、

「球場にお弁当があるので、食べてくださいね」そう言い、去って行った。

「……ああ、うん」

 ぼくは首を傾げる。いったい沙都子ちゃんはどうしたんだろうか。
 実家に戻るって言っていたけど……。それだけで、ああもなるものか……?

「分かんねえな……。とりあえず球場に戻ってみるとするか」

 呟きながら、欠陥製品は歩みを進めた。
215 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 00:15:58.34 ID:0qlED6AO
wwktk
216 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 00:18:31.03 ID:Ijg7hxMo
きたー支援

玖渚機関なんて秘密結社なんてレベルじゃねえぞww
217 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/16(土) 00:27:53.64 ID:cYs4CEDO
いよっしゃ待ってた!wwktk!
あと、>>210猫耳メイド吹いたwwwwwwwwww
218 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/16(土) 00:44:21.37 ID:a4C686DO
呼吸をするように嘘をつくいーちゃんに、鷹野ノートは効くのか?wwww
219 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 00:50:44.61 ID:npGUoP2o
嘘喰い「いーちゃん、あんた、嘘つきだね?」
220 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 01:06:05.03 ID:CRSOOPgo
 〜〜〜〜

 何故だかふと思い出していた。それは五月のある日に交わした会話。
 殺人鬼とぼくの会話。

 殺人鬼はぼくに言った。

『お前は欠陥製品だ』と。

 だからぼくは殺人鬼に言う。

『それじゃあ、きみは人間失格だ』と。

 殺人鬼はぼくに言った。

『お前はいったい何人殺した?』と。

 だからぼくは殺人鬼に言う。

『ぼくは誰も殺してなんていない』と。

 ぼくは殺人鬼に問い返す。

『ならばきみは何人殺した?』と。

 殺人鬼は笑いながら答える。

『俺は誰一人として殺しちゃいない』

 と、水面に映った殺人鬼は笑った。
 だから、ぼくは笑わなかった。

 それは、ぼくにとって、深いところで根付いていた記憶。
 何が起ころうと、ぼくは止まったままだった。
 四月も、五月も、六月も、七月もぼくは変わらなかった。
 その前からも、今でも、ずっと、ぼくは変わらなかった。
 それを見て、鏡移しのぼくは言う。

『それはそれは、とても傑作だろう』と。

 目を開け、ぼくは呟いた。

「いいや、結局それは戯言だよ」
221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 01:58:40.73 ID:CRSOOPgo
 球場が見え、ぼくは思考を振り払う。
 試合は終わっていないらしく、ユニフォームの白が、土の茶色に映えていた。
 ぼくは坂を下り、雛見沢の皆が座っているベンチに向かう。
 メンバーは沙都子ちゃんを抜かし、全員揃っていた話し合っていた。
 それは前日の部活の時のような軽さではなく、真剣に何かを議論しているような感じに見える。
 梨花ちゃんは、近づいてきたぼくに気付き、ぼく以外の誰にも見えないように、ある種の達観したような微笑みを見せた。

「いーも、こっちに来てください」そう言い、手招きをした。

 何となく所在がないので、輪には入らず少しだけ外れた場所に、ぼくは座った。

「どうしたの?」

 ぼくは問う。
 たぶん、沙都子ちゃんの事だろう。それは分かり切っているはずなのに……。

「沙都子が連れていかれました」

 梨花ちゃんは、淡々とぼくに告げた。
 それから、皆がぼくに事のあらましを説明し始めた。
 ぼくがいなくなって少しした後、沙都子ちゃんの伯父さんが現れ、沙都子ちゃんは自分から着いて行ったらしい。
 そして、沙都子ちゃんはその伯父に虐待を受けている、と。
 ぼくが頷いていると、圭一くんは声を荒げて、言う。

「虐待されてるのに、なんで沙都子は着いて行ったんだよ!?」

 圭一君の問いに、誰も答えなかった。
 魅音ちゃんは俯き、レナちゃんは何かを考え込むように、梨花ちゃんは瞳を閉じ、三者三様の様子。

「……なあ、なんで黙ってるんだよ? なんで助けてやらないんだよ……? あいつは、沙都子は俺達の友達だろ?
あいつは助けを求めているかもしれないんだぞ! 信頼している友達に助けて貰いたいだろ!」

 青臭い。圭一君は言っている意味が分かっているのだろうか。本当の意味で本来の意味で分かっているのだろうか。
 それはいともたやすく壊れてしまうような意見だ。……それにそれを言える責任を持っているんだろうか。
 いたたまれずに、ぼくは口を挿もうとすると。

「少し黙って」と、レナちゃんは有無を言わせない口調で圭一くんに言った。
222 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 02:02:27.84 ID:pGjKWUM0
今日はこれでおわりかな?
乙でしたよー
223 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 02:03:24.45 ID:pGjKWUM0
更新されてなかっただけだった・・・
忘れてくれ
224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 02:07:05.32 ID:CRSOOPgo
つーわけで本日おしまい。ありがとうございました。それと遅れてごめんよ
はたして俺は撒きすぎた伏線をうまいこと回収できるのでしょうか?

>>206
あのスレは何も考えてない話を書いたよ

>>222
いや、あなたは正しい
225 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 02:20:47.65 ID:uPXqDUAO
乙ー

よかったら他に>>1が書いたSS教えてくれないか?
226 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 02:27:41.82 ID:CRSOOPgo
カオスでも構わないならこれ
ttp://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/cyodq_mahostew_youjo/1237866646_01.html
227 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 02:50:13.83 ID:uPXqDUAO
>>226
カオス過ぎてLO吹いたwwwwwwwwww
228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/16(土) 03:36:55.91 ID:0qlED6AO
クソワロタwwwwwwwwwwwwwwww
229 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/17(日) 15:38:29.14 ID:7Tm2uqYo
今日も来るかな・・・・・・・・・・・?
230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/18(月) 03:48:52.37 ID:qkCZIwI0
流石に今日は無理だったか
231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/18(月) 09:04:28.57 ID:MHJpTxk0
どうやら週一か二週間に一回のペースだな
232 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/18(月) 11:15:22.64 ID:u0C8MkkP
ゆっくり書かせてやれよ
233 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/19(火) 20:33:29.28 ID:6auWX2AO
だってVIPですぐ他のSSスレ立てるんだものwwwwww
八九寺を汚すなwwwwww
234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/20(水) 01:44:31.39 ID:8inS52AO
おい何の事だ詳しく聞かせろ
235 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/20(水) 23:51:44.62 ID:Cjf68QDO
>>232
kwwsk
236 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/20(水) 23:53:05.06 ID:Cjf68QDO
>>233だった
237 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/21(木) 01:11:11.41 ID:/qjNOsDO
>>1かはわからないが確かこんな感じの
八九寺「ほう、千石さんには生でするのに私にはゴムを着けるんですね」
238 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/24(日) 13:50:51.68 ID:C8Vv6Jso
今日はくるかな・・・・・・?
239 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/24(日) 17:28:29.69 ID:u6mqym6o
ごめんよ。火曜日くらいになる
240 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/24(日) 18:52:56.00 ID:viRg.jco
楽しみにしてるよ
241 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 00:13:34.30 ID:C5YPlQAO
待ってるぞ
242 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 00:18:31.17 ID:tljhW/go
落ちる心配がないってのはいいな
243 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 02:04:24.98 ID:WqTQdIko
「けどよ!」

 圭一君は座っていた椅子から立ち上がり声を上げた。
 それを見たレナちゃんは先程と変わらない、いささか冷たいともいえる視線を圭一くんに投げる。

「それじゃあ圭一くんには何か出来るの? 解決出来る策や方法があるのなら言ってみて。出来るのならさっさとやって」
レナちゃんは目を伏せ、「そんなに簡単に解決出来る問題じゃないんだよ」そう言い、乱雑に頭をぼりぼりと掻いた。

 やっぱり皆助けたいんだよなぁ。しかしこういうのって……当人の問題なんだよな。たとえ友達が何を言ったとしても……。
 ぼくは口を開く。これこそあまりスマートな手段じゃないんだけど。それこそ、ぼくの流儀ではないんだけど。

「あのさ、ちょっといいかな? こういう家族親族間の事に口を挿むのって、ぼくとしては本意じゃないんだけどね、
児童相談所に相談したらいいんじゃないかな。多分だけど、ここの市役所にもそういう機構があるはずだよ。
昔に虐待されていたってんなら、曖昧な情報でも聞いてくれるんじゃないかな。もし相談所側がきみ達の言葉を信じられなくっても、
誰か信用できる大人、そう――たとえば知恵先生や、そこにいる入江先生の意見だったら聞いてくれると思うしね」

 ぼくは言う。しかしながらぼくが出来るのは、この程度の誰でも考えつくような事しかない。
 他にも方法はあるんだろうが、この子たちが頼るべきなのは社会という枠組みだろう。
 ……なんか歯がゆいな。こういうのって。何故そう思うのか――理由は分からなくもないから考えないんだけど。

「ああ、それいいと思う。根本的な解決にゃあならないけど、すぐにでも出来そうだ。それじゃあすぐにでも――」

「それは無理なのです」圭一くんの言葉を遮るように、梨花ちゃんは首を横に振る。

 ひどく大人びた雰囲気――いや、違う。
 ひどく老成したような、この世界の物を全て馬鹿にしたようなぞっとするような雰囲気だった。
 何度も思う。どうしてこの子はこんなにも、全部諦めているような目をするんだろうと。
 そして梨花ちゃんは、つまらないとでもいったふうに。
244 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 02:06:32.25 ID:WqTQdIko
「もう、それは試したのですよ」こう言った。

「試したって……」

 圭一くんは茫然と呟く。つまりはそれで解決しなかったわけだ。
 という事は児童相談所が動かなかったのか。それとも……。

「圭一がここに来る前に、虐待が一番ひどかった頃に、悟史がいなくなり、沙都子の精神が一番すり減っていた頃に」

 梨花ちゃんは訥々と語る。何か根が深いっぽいな。
 それに悟史? ……多分、自信はないけど知らない名前だろう。判断するには早いが、それが関係あるんだろう。

「知恵先生と入江先生が沙都子の事を心配して、相談所に行ったのです。ですがその行動は無駄に終わりました」

「……なんでだよ? それに悟史って誰だ?」

 圭一君は話の腰を折るように梨花ちゃんに問うた。
 なんつうか若いよなぁ、こういうふうに話を振れるのは少年ならではなのだろうか。
 おかしくはないけど、愚かしくはある。
 まあ、いいんだけど。それに……ぼくだって気にならないって訳じゃない。
 梨花ちゃんはにこりと笑顔を繕いながら、

「沙都子の兄なのですよ。……悟史は失踪したのです」と少しだけ寂しそうに言った。

 ……ふうん。
 それよりも、だ。……今更だけど、ぼくはこの話を聞いていいんだろうか。ぼくが聞いてしまっていいんだろうか。
 なんか腑に落ちない。気の所為だろうが、ぼくが粗筋に組み込まれてしまっているような気さえする。
 たしかに偶然は起こりえる、だがしかし――いや、こういうのは早計がすぎる。自意識過剰が過ぎるだろう。
 ぼくは思考を梨花ちゃんの語りに向ける。
245 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 02:10:54.93 ID:1s..scAO
>>1*.。..。.*・゜(n‘∀‘)ηキタワァ゜・*
246 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 02:11:24.52 ID:WqTQdIko
 少しだけ沙都子ちゃんのまねをしたような口調で言う。
 ぼくの気の所為かもしれないが、それが少しだけ哀れに見えた。

「沙都子は『あらあら、誰がそんな事を言ったんでしょうかしら? そんな事はありませんわ』こう言いました」

 それを聞いた圭一くんは怪訝な顔で返す。

「それは……あのおじさんを庇っての事なのか?」

「いいえ、それはないのです」

 梨花ちゃんはゆっくりと首を横に数回振り、否定の意を示す。
 そうして、呟くように。噛み締めるように言う。

「沙都子は強くなりたかったのです」

「……成程な」ぼくは誰にも聞かれないよう口の中で呟く。

 けれど、それは駄目だ。それじゃあ駄目だ。他の誰かに誰かを投影したところで、結果は同じ。
 このぼくと同じだ。このままじゃ、欠陥製品であるぼくと同じになってしまう。
 ぼくが玖渚に対し、妹を写したように。
 ぼくが姫ちゃんに対し、玖渚を写したように。
 ぼくが零崎に対し、吐き気を催しながら自分を投影したように。
 あの子は、ぼくに、その悟史くんを写していたのか。

 そうして、ぼくは気付かない振りをして、あの子で、あるはずのない事を夢想していたのか。

 やっぱりここには来るべきじゃなかった。
 ぼくは素直に、そう思った。
247 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 02:30:29.63 ID:WqTQdIko
 それから、少しだけ色々な話を、蚊帳の外にいるような気分で聞いていた。
 北条家の事、その伯父の事、魅音ちゃんの家の事、沙都子ちゃんの事、他にも色々。
 圭一くんは納得していない様子で、憤っている様子。
 レナちゃんは落ち着いているように見えるだけで、その実すぐにでも暴れだしそうで、それこそ爆発してしまいそうな、危うい感じ。
 魅音ちゃんは家の事もあるので、何も言えずに、ただすまなそうに俯き、耳を傾けている。
 そうして、話は何も進まないうちに、入江さんはぼくを呼び。

「いっきー。この試合が終わったら、少しだけお話よろしいでしょうか?」

 物腰は変わらないのに、妙に疲れている感じで入江さんは言った。
 きっと沙都子ちゃんの事だろう。……羨ましいな、そういうの。ぼくには分からないけど。
 ぼくは「分かりました」と頷き、時間と場所を聞くと、近くにある喫茶店の場所を教えられた。
 さすがに今日はエンジェルモートじゃないか。などと不謹慎な事を思ってしまう。
 そうこうしていると、梨花ちゃんは少し離れているぼくに近づき。

「いー、今日の夜は空いていますか?」そう問うた。

「入江さんと話があるから、少し遅くなるかもしれないけど、それでもいいかな?」

「はい、いつでもかまわないのですよ。にぱー☆」

「なんでかわからないけどその『にぱー☆』って随分久しぶりに感じるよ」ぼくは少しだけ皮肉げに言っていた。

「あはは」

 ほんとこの子はわかんねぇな。……こんなふうにも笑えるんだ。
 ああ、そういえば夜はバスもないので歩くことになるな。それなら少しだけ遅めの時間を指定しておけばいいだろうか。
 そう思い、ぼくはある程度の時間になると梨花ちゃんに伝えた。
 依頼主だしな。可能な限り希望に答えておく。それで何かが解決する訳じゃないけど。

「梨花ちゃん、ぼくホテルに帰っていいかい?」

 梨花ちゃんはすぐに、頷く。ぼくはそれを見て、皆に別れを告げた後、球場を後にする。
 ほんの少しだけ、

 やることが出来た。
248 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 02:37:05.05 ID:WqTQdIko
という事で本日おしまい。遅れてごめんよ。
249 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 06:51:21.68 ID:nM04fDQo
乙!
250 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/27(水) 07:28:23.26 ID:GKNEVEDO
乙でした
251 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv :2009/05/27(水) 22:15:41.63 ID:9u42PIDO
なかなか話が進まないな…この焦らし上手め
252 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv :2009/05/27(水) 22:16:26.90 ID:9u42PIDO
言うの忘れてた、乙
253 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/05/28(木) 15:07:59.28 ID:WIlrDIAO

ROMってるけどいつも楽しみにしてる
254 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv :2009/05/31(日) 14:50:47.66 ID:r.Yx3UDO
今日は来るかな?
255 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/06/02(火) 00:59:31.98 ID:soGR6EAO
最近VIPで戯言スレがほんとに流行ってるなあ
256 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv :2009/06/02(火) 08:49:55.14 ID:X7/X0cDO
戯言文庫化&化物アニメ化の効果だろうな
257 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv :2009/06/03(水) 20:30:16.36 ID:WtFJ1gDO
携帯は文字コピーできないの?
258 :旧サーバーにロールバックしましたFrom vs302.vip2ch.com sv [sage]:2009/06/04(木) 18:17:31.64 ID:6taYdYAO
コネ━━('A`)━━!!!
259 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/07(日) 12:37:00.64 ID:OUmhncIo
そうあわてるなよ。
まあ、のんびりやろうや。
260 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/07(日) 13:45:57.82 ID:53f9l3.o
ただいま。ちょっとアメリカ行ってた。明日か明後日には投下します
261 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/07(日) 15:07:03.18 ID:OUmhncIo
もちろんテキサス州ヒューストンに取材だよな?
NASAと砂漠とテリーマンを見てきたんだよな?
262 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/09(火) 13:41:47.37 ID:XPrMXgAO
>>260
コンビニみたいに行ってんじゃねえよwwwwwwww
263 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 14:36:17.18 ID:haJS96DO
>>1はE3システムで何を研究してるんだ…
264 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 17:32:34.20 ID:JPlH6UYo
潤さんならコンビニついでに月まで行きそうだけどな
265 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 17:50:22.59 ID:RMrEhoIo
 〜〜〜〜

 では少しだけ思考しよう。
 人間が幸せになりたいと思うこと。それは間違った願いではない。むしろ正しい。
 ぼくだって幸せになりたいけれど、幸せになるべきだとは思わない。
それはぼくが汚濁と汚泥にまみれた人間でなくてもそうだっただろう。
それに、押しつけられたような幸福が、正しい事だとはどうやっても思えない。
たとえそれが善意からの行動であっても、人によっては傲慢にすら感じられるだろう。何も考えないのなら、それでも良いのだろう。
それだって与えられた状況を善意という事で押しつけられれば、たぶん流されるからという理由でだけど。
 それでも幸せになりたいから。ただそれだけ。
 でもそれって、自意識過剰の押しつけがましい好意としか思えないんだよな。
 それが逃げた人間の意見なのだろうか。それとも、また別の要素なのだろうか。
ぼくには分からないし、誰かに置き換えて分かったつもりでいるのも傲慢としかいえない。
たとえそれが誰かのためになる事だとしても、世の中にはどうしようもないほどの悪意や、悪行が溢れている。
どんな聖人であっても、それら全ての悪意を回避することなど不可能だろう。
 つまり誰だってありふれた不幸であり、誰だってこれ以上ないほど不幸になりえる。
ならばそれが自分であっても、隣にいる誰かであっても驚くべきところではない。
それらは全てが全て、誰にとっても当たり前の、誰にでもある絶望ということでしかない。
 少なくとも、ぼくはそう実感している。けれどそれはぼくの実感であって、それを他人に適応しようとも思えない。

「……はあ」

 なんだかな。情にほだされたって感じなのだろうか。
 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。けれど実際のところどうなのかが全く分からない。
 ……。
 それにしたって――ぼくがこれからしようとする事が、正解だという保障があるわけじゃない。
むしろ誰かが今以上不幸になる可能性だって大いにある。それでもな……。
 ま、今時点じゃ何も分からないし、とりあえず準備しておくのは悪い事じゃない。と前向きなようで後ろ向きの思考を終えた。

「よし、それじゃあ少しだけ行動しますか」

 呟き、ぼくは目を開けた。
 目に映る光景ははホテルの一室であり、ぼくの滞在している狭い部屋だった。
 ぼくはズボンのポケットに入っている携帯電話を取り出し、ぼくが唯一記憶している番号を押し、電話を耳に当てる。
 ほどなくして、電話は繋がった。

「うっにーっ! いっえぇーい! いーっちゃーん元気ー!? 僕様ちゃんはすこぶる快調なんだよー!」

 電話の相手、すなわち玖渚友のテンションは、いきなりレッドゾーンに突入していた。
 変わらねぇなぁ……しみじみ思う。
 そんなに永い間会ってないって訳じゃないんだけど、このテンションは懐かしく感じる。
 いろいろ放り出して、京都に帰りたくなってきた。帰れねえんだけど。
266 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 18:14:27.84 ID:RMrEhoIo
「いーちゃん今雛見沢とかいう所にいるんだっけ。そんでどしたの? どしたの? いーちゃんが電話くれるなんてめっずらしぃ!
そうだ! 記念塔を建てよう! むしろ電波塔! 遠距離記念電波! きゃははは!」

「いや、建てないでいい」ぼくは冷静に突っ込む。

「なんだとー! まあいいよ、記念は僕様ちゃんの電子の海の中さ!」

「友、ちょっと頼みがある」ぼくは言う。
「来る前に秘密結社東京って言ってたよな?」

「うん? 東京? 言ったよん! なんかどっかの政治家の木端組織だよね! 秘密結社なのに全然秘密結社してないという男らしい秘密結社だよね?
バッタ怪人とかの製造もしてない普通の組織だよ!」たぶん普通に秘密結社してるんだろうけど、玖渚にとっては秘密でも何でもない組織らしい。

「それで頼みってなに? 僕様ちゃんに出来る事だったらなんだってしちゃう気分だよ! もう身も心も捧げちゃうくらいだよ!」

 なんか機嫌がいいな。何かあったんだろうか。
 ……まあ、いいや。とりあえず要件を話しておく。

「その秘密結社東京の下位組織、入江機関の事を調べて欲しい。それと雛見沢症候群の患者の情報も」

「ふうん……いいけど。多分だけど、それって結構な量になるよ」

「ああ、構わない。……頼めるか?」

「うん、いいよ。いーちゃんはまためんどくさい事になってるのかな?」

「……さあ、よくわからないな」正直な感想。

「そんじゃ、調べ終わったらいーちゃんの泊ってるホテルに届けるよん」

「ああ、頼む」

「それじゃあねー!」

 そうして電話は切れた。ぼくは電話をベッドの上に置き、一つ息をつく。
 さて、どうしようか。すぐさまやることがなくなってしまった。
 約束の時間までまだ結構あるし、とりあえず今できる事といえば……。
267 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 18:20:20.26 ID:2yPUjwAO
毎回リアルタイムな時間にいる俺万歳
268 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 18:31:18.00 ID:RMrEhoIo
「弁当でも食べるかな……」

 呟きながらベッドの上に置いてあった弁当箱に視線を移す。
 球場から帰るとき、梨花ちゃんに渡された物。沙都子ちゃんが作ってくれたお弁当だった。
 丁寧に包まれた布を取り蓋を開ける。小さな弁当箱の中には色とりどりの料理が入っていて、おかず一つとっても一目で手が掛かった物だとわかる。

「美味しそうだな。それじゃあ、いただきます」

 素直に感嘆の声を上げていた。誰にも聞かれていないから出たのか、誰かに聞かれていても口に出していたのか……。
 とりあえず目についた煮物を口に放り込む。薄口の醤油と出汁がよく効いている。ほどよく煮込まれ、味の染みた蓮根だった。
 あの島の料理人、えーと何て名前だっけ? ……まあいいや。あの人と比べる訳じゃないが、ほんとに美味しい。
 思いのほか箸が進み、五分ほどで平らげてしまった。

「ごちそうさん」

 と、それを聞く対象がいないけど、感謝の意を示しておく。
 まだ時間が結構あるので、そのままベッドの上に寝転び、鷹野さんから借りたノートを広げてみた。
 とりあえずこれでも読んで時間を潰すしかないか。
 待つのは嫌いじゃない。

 それから数時間経ち。
 読み終わったぼくは手元のノートを閉じ、一言呟いた。

「……あの人本当に性格悪いな」微妙に絶句していた。

 ちょっと首から上、主に頭部辺りがメルヘンな人だったら、信じてしまうかもしれない話だった。
 事実を的確に湾曲させ、真実を適度に捏造している。悪意たっぷりの、偽物の物語。
 表で起きた事だけを知っていて、裏側の話を知らなかったら、ぼくも信じてしまっていたかもしれないな。
 まあ……鬼や宇宙人まで出演者に入っているので信じる事はないけど。でもそれ以外の理由だったらあるかもな、と思うような内容だった。

「でもな、さすがに宇宙人はないよな……時間つぶしにはなったけど」

 そういや、感想を教えてくれって言ってたな。
 なんていうのかな……POV映画とかそんな感じの一人称的な楽しみはあるけど、最終的にダークファンタジーになってしまったのがちょっと残念だった。
 とりあえず次に鷹野さん会った時に、そんな感じの適当な感想を言えばいいだろうか。
 ぼくは腕時計を確認、そこそこに時間は経っていた。今から出たらちょうど良いくらいだろうか。

「それじゃあ、行きますか」言いながら、ぼくはベッドから身体を起こした。
269 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 18:47:39.71 ID:m.h8w56o
キテター!!

やっぱりいーちゃんには鷹野ノートルールは適用されないのかwwww
「偽物の物語」ね…下巻買ってくっか
270 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 18:53:06.04 ID:RMrEhoIo
 〜〜〜〜

 夕方だってのに外の気温は高い。太陽とアスファルトに挟まれてない分、昼よりはましなのだろうけど、暑いものは暑いのだ。
 そんなだらけたくなるような暑さの中、ホテルから数分ほど歩くと目的地の喫茶店が見えてきた。
 住所からいってこの店で間違いないだろう。外観は落ち着いた感じの、もうこれ以上ないってくらいの喫茶店。
通りにあるガラスから店内が見えるが、中を覗き込んでみるも見える範囲に入江さんは見当たらない。
 ……来るのが早かったかな。
 ぼくは腕時計で時間を確認していると、

「おや、もう来てたのですか。遅れて申し訳ありません」と、声を掛けられた。

 振り向くと、野球のユニフォームから白衣に着替えた入江さんが微笑していた。
 さっき時計を見たときに、まだ約束の時間ではなかったから問題ない。

「いえ、ぼくも今来ました」

「そうですか。まあ、とりあえず入りましょうか」入江さんはそう言い、ドアを開け店内に入って行った。

 ぼくも入江さんの後ろについて入る。
 中は外から見た通りで、広いってわけじゃないが、狭すぎるというわけでもない。
まあ、話をするくらいだったらどうにでもなるだろう。人もあまりいないし。
 ぼくがきょろきょろと辺りを見ている間、入江さんはこの店の店主らしき人と話している。会話から察するに、どうやら奥の席を取っているらしい。
 そうして奥の小さい席に通され、ぼくと入江さんは向かい合って座った。

「お呼び立てしてしまい申し訳ありません」入江さんは言いながら、深く頭を下げた。

「いや、構わないです。ぼくとしても聞きたい事があったので」

「ここにお呼び立てした理由はですね、大変に申し訳ないのですが、エンジェルモートでは出来ない話でして、
ここなら誰かに話を聞かれる事もありません。いっきーとしては残念でしょうが、ご勘弁を」

 ……なんか分かんないけど、ぼくがとてもエンジェルモートを楽しみにしているような物言いだった。 
 しかし突っ込まない。というか突っ込めない。……怖いから。

「それで本題なんですけれど、ぼくに何の話でしょうか? やっぱり沙都子ちゃんの事ですか?」

「はい、そうです」入江さんは眼鏡を治し、ぼくの目をまっすぐと見つめ。
「いっきー、僕はね――」少しだけ躊躇ったようにぼくに言う。
271 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 18:56:50.30 ID:2yPUjwAO
>>269
あれ自体はルールじゃなくね?
まぁなんにせよいーちゃんは一応正常だからなwwww
つかいーちゃんを正常と呼べる村…すげえ
272 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 19:07:35.22 ID:RMrEhoIo
「――沙都子ちゃんをメイドにしたいんですよ」

「は?」ぼくの呆けた顔を見て、入江さんは慌てて続けた。

「失礼、噛みました」

「噛む要素が全く無いです……」

「本音でした」

「何言ってんだあんた?」

「ま、まあ冗談はこれくらいにしておきましょう」大人の切り返しだった。……しかし目が泳いでいる。この人本当に侮れない。
「とにかく、沙都子ちゃんの事です。ある程度の事は聞いていますか?」

「はあ、ある程度の概要程度ならですけど。もしよければ、そこら辺も説明してくれると助かります」

「ふむ、どこから説明したものか……」そう言い腕を組み、悩む素振りをみせる。
「回りくどくなってしまいますが、初めからでよろしいでしょうか?」

 ぼくは首を縦に振り、構いませんと促した。

「沙都子ちゃんの親御さん――いえ、この場合は北条家と言った方がいいですね。北条家は、雛見沢では数少ないダム建設の推進派だったのです」

 ……それで村八分か。
 異端を迫害ということ。こういう閉ざされた村ではそういう事もいまだにあるんだよな。
 どこかの誰かが言っていた、社会の変化は人の意識を変化させる、だったっけ。
それに準拠するなら、変化しない社会の人間は停滞しているともいえる。行為の代償に伴わず差はあるものの、魔女狩りの時代と何も変わらないな。
 こういうのって、しょうがないんだろうけど。諦めるしかないんだろうけど。そういや、ダム建設を反対する団体ってのが……えーと園崎家だっけ。
 あー、えっと、つまり……魅音ちゃんの家か。そこら辺の村事情はあまりよく分かってないんだよな。
 入江さんは目を伏せ、恥じるように俯いた。

「……ダム建設の件に関しては、機関も一枚噛んでいましたからね」

「反対派で、ですか……」 

 ぼくの呟きを聞き、入江さんは重く頷いた。風土病の研究の為にだろう。
 ……情報がある分、どうしても穿った見方をしてしまう。少しだけ話に集中した方がいいだろう。
273 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 19:52:25.87 ID:TPkZQjIo
わくわくしてきたぜ
鷹野ノート無惨ww
274 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 19:56:55.58 ID:VTKjGTwo
>>266
バッタ怪人wwwwパワポケ3かな
275 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 20:03:15.59 ID:TPkZQjIo
>>274
仮面ライダーだと思う、秘密組織ってことも考えてみると
ライダー1号はもともとバッタ怪人
276 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 20:08:47.32 ID:RMrEhoIo
「ええ、後から知ったというのを言い訳にするつもりはありませんが……。妨害工作に一枚噛んでいたというのは本当です。
当時ダム建設に関わっていた大臣の子息が機関付きの隊に誘拐されました。それでダム建設の話は、件の殺人事件もあり白紙になったのです」

 たしか誘拐された男の子は、無事に帰ってきたんだよな。それで犯人は捕まらなかった。うん、話は繋がる。

「聞いておきたいんですけど、その殺人事件は入江機関とは関係がないんですよね?」

「全く関係がないとは言い切れませんが、直接関わったのは誘拐だけだだと聞いています。
そして、殺人事件は犯人、被害者、共に雛見沢症候群を発症していた。その所為で起こった事件かと思われます」

「なるほど……誘拐事件の経緯は分かりました。それじゃあ鬼隠し――いや、行方不明ってのはどういう事なんですか?」

 そこら辺の事情は気になっていたので、一応聞いておきたい。

「そうですね……言い方は悪いですが、犯人の方は今も機関で研究材料になりました」

 嫌な過去形だ。科学の為にという免罪符はやはり慣れるもんじゃない。

「なるほど、それでですか。それじゃあ……ここの警察も、機関の存在は知らないんですよね?」

「秘特事項です。実際に、こう軽々しく喋っているのも異例の事態なのです。一部を除けば、誰も診療所の地下に研究所があるなんて知らないでしょう」

 それをぼくに話すのは、やはり人類最強が後ろに居るからなのだろうか。富竹さんの話ならそうだったが、色々と思惑がありそうな感じだな。

「それじゃあ警察に手が出せるはずもない。……鬼隠しで済ませたくなるでしょうね」ぼくは適当に相槌を打つ。

 自分で言いながら納得していた。そりゃ捕まらないよな。
 警察にも圧力やらなんやらが掛かっているのだろう。真相にたどり着けるはずもない。
 国に、軍に、秘密結社。おまけに玖渚機関ときたもんだ。まったく……どんな戯言だよ。

「ええ。まともに考えたら鬼隠しなんてありえません。しかし分かりやすい逃げ口としては適しているのでしょうね」

 まあ、そうだろうな。誰だって理解できない事があると逃げてしまう。ほとんどの人間は危険だと理解できるものには近付きたくない。
 そういう意味では、何も知らない事件の関係者が鷹野さんのノートを読んだらやばいんだろうな。

「それでは二年目の事件……これが本題なのです。北条夫妻――つまりは沙都子ちゃんの親御さんの事件です。
祭の後、北条夫妻が崖から転落し亡くなりました。北条夫の遺体は見つかりましたが、婦人の遺体は見つかりませんでした」

「……この事件の原因は分かっているんですか?」

 自分でも驚くほど冷たい声音だった。こうなる可能性もあるってのは、ある程度の予想はしていたけど。

「現場には沙都子ちゃんがいました」目を閉じ、口ごもるように思い口調で言う入江さん。

「それは、沙都子ちゃんが犯人という事ですか?」

「……状況的に考えると、ほぼ間違いないでしょう。発見された時、沙都子ちゃんの症状は末期の一歩手前まで進行していました」

 ……成程。しかしなにかが引っ掛かる、だが理由が分からないので無視しておく。
277 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 20:25:43.08 ID:RMrEhoIo
申し訳ないんだが、ちょっと用事が出来てしまった
今日の夜か明日の夜にまた来ます。遅くってごめんね
278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 20:28:23.18 ID:m.h8w56o
待ってるぜ
279 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 20:42:06.46 ID:2yPUjwAO
おつかれ!
280 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/10(水) 20:52:37.84 ID:TPkZQjIo
楽しかった
次も楽しみにしてるよん
281 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/06/10(水) 21:04:57.41 ID:jRy/Biso
かみまみた
282 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/11(木) 17:50:10.68 ID:VCBNzOwo
垣間見た
283 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/11(木) 20:01:14.74 ID:jXALGQAO
俺の才能の(ry
284 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/13(土) 11:32:43.95 ID:whsDbADO
狩りは北
285 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/13(土) 11:57:09.20 ID:OtRbRiko
舌噛んだ……
286 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/13(土) 22:56:26.50 ID:B.nik.AO
ききららさん
287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/13(土) 22:59:52.90 ID:OtRbRiko
蘭さん
288 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/14(日) 14:20:25.42 ID:Fdi3iYDO
はにかみました! えへっ!
289 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/14(日) 15:49:55.82 ID:bjgkDEAO
可愛いっ!
290 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/17(水) 23:05:36.45 ID:RL9SsQDO
恥ずかしい告白大会しようぜ。一番、ヒキオタニート。実は俺、何も考えてねーんだよ(人生的な意味で)。
291 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/18(木) 18:47:08.86 ID:Eh2n95Uo
戯言文庫版も完結したのか
第2第3の狐さんなんて、ほらそこら辺をぶらぶた歩いてるぜ
292 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/23(火) 21:08:42.66 ID:WgJUC.Mo
マダー?
293 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/24(水) 11:33:43.35 ID:kafyRlAo
ごめんよう、もうちょっとまってくれよう
294 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/24(水) 16:20:37.85 ID:uV8ycEAO
じっくり待ってるから満足のいくものを書いておくれ(´∀`)
295 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/24(水) 17:45:09.97 ID:qzQCLxIo
いつまでも待つよ〜
296 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/24(水) 18:23:40.16 ID:omGhLwAO
わたしまーつーわっ!
297 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/26(金) 18:01:27.20 ID:6Bi7Z2DO
もうすぐ化物アニメが始まる訳だが
ありゃりゃ木さんがイケメンなことよりも忍野がファンキー過ぎるとこに違和感を覚えた
298 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/26(金) 18:08:35.29 ID:7BTyEJ6o
しかも櫻井という

299 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/28(日) 01:01:57.93 ID:zbBlPx2o
忍野はもう少し小汚くて小太りしてて不健康そうな印象があったけどアクセはつけてるわ健康的な肌してるわ
もともと忍野好きだったのにもっと好きになっちゃったじゃないか
300 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/28(日) 02:51:41.50 ID:YkuWTNso
確かに小太りなイメージだったけどアニメのキャラデザみてるとなんかもうこれでいいやって思えてきた不思議
301 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/28(日) 11:35:57.15 ID:LkYiJoDO
というか早くブラック羽川が見たい
302 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/28(日) 13:56:20.75 ID:s8A868Q0
なぜか忍野はよつばのとーちゃんみたいなイメージですた
303 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/06/28(日) 20:21:45.73 ID:ol536pAo
まだかなまだかな〜
304 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/28(日) 20:36:05.50 ID:/CgiucAO
wwktk
305 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/06/29(月) 10:20:55.01 ID:StD6ccAO
忍野はよつばとの自転車屋のおっちゃんイメージでした
何故か勝手に黒髪と思っていた

しかしあのききららの中2みたいな外見wwwwwwww
306 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/02(木) 21:51:20.04 ID:9mxxjsIo
明日からだなwktk
307 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/04(土) 07:43:25.69 ID:yYs7pYAO
なんだあのクオリティは
録画すればよかった
308 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/05(日) 14:13:47.23 ID:iMPPzUDO
うちの地域は今日の深夜からだぜ

最初は期待してなかったのに、今はwwktkが止まらん
309 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/05(日) 23:30:48.17 ID:Zh.gJrQo
1話だけ作画が良いなんてのはよくあることだからな
今後どうなるかだ
310 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/05(日) 23:52:15.14 ID:SmeZ4Doo
おっと、けよりなの悪口はそこまでだ
311 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/06(月) 11:53:01.32 ID:56PdI6AO
見るの忘れてた死にたい
312 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/06(月) 14:26:18.82 ID:0mvJuwYo
遅れて放送される別の地域に行くんだ!
313 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/06(月) 22:22:23.31 ID:MtTidIDO
ありがとうBS




ありがとうBS
314 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/08(水) 07:46:55.88 ID:e9KvPQAO
>>309
他んとこだったらそうだがシャフトだから心配してない
しかし例によってシャフトクオリティでシュールになり過ぎないことを祈る
315 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/08(水) 23:41:32.44 ID:4pXQ6Oco
傷物ってやるの?
原作見読者があのOPだけ見させられてもポカーンだと思うんだが
316 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/09(木) 09:48:09.40 ID:kPhm0oDO
もう一ヶ月投下がないわけだが
317 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/09(木) 17:59:32.75 ID:2TDdQwAO
まあ待ってるけどな
ところで先週あたりにひどく厨二病なssを書いてのはここの>>1だろ?
318 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/10(金) 07:45:13.21 ID:qm7EUMIo
もう少しで仕事が一段落するんで待ってて貰えると嬉しい
遅くてごめんね
319 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/12(日) 18:50:21.56 ID:1RsOEkAO
>>318
仕事お疲れ様
320 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/17(金) 21:30:09.43 ID:UqC8zuwo
もう書かないのかな・・・・・・?
321 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/19(日) 13:38:00.98 ID:oTMAHaQo
今日こそ・・・・・・・・・!!!!
322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/20(月) 23:47:41.76 ID:KdYyVA2o
エターなった
323 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/28(火) 00:21:31.47 ID:4.sLXNIo
さてと…
324 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/28(火) 00:24:08.78 ID:4.sLXNIo
さてと…
325 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/28(火) 04:24:52.86 ID:oYlm85wo
絶対に許さない
326 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/28(火) 07:37:07.29 ID:5vlScn.o
えっと
327 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 19:15:30.16 ID:Q7/DRtQo
エタっちゃったわけですね…
328 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/01(土) 17:21:29.44 ID:v6sVHwAO
せめて書けないと言ってくれれば、誰かが続きを書いてくれるかも知れないのになー
329 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/02(日) 05:53:26.59 ID:nn8lMKco
>>328
>>318
330 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/02(日) 13:46:15.05 ID:juWgGgDO
前回の書き込みから三週間経ってるわけで。
たまには生存報告でもないと心配になる
331 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/02(日) 13:48:39.47 ID:8qfI83Ao
生存報告があっただけで
諸手を上げて喜ぶよ
332 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/03(月) 21:50:53.12 ID:5GfJXrYo
果てしなく気まずいけどただいま
明日か明後日に投下するよ
333 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/03(月) 21:54:47.77 ID:RPMf1Ako
わーい!
楽しみにしてます
334 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/03(月) 22:19:54.43 ID:kcrOj5ko
おかえりなさいー!wwktkして待ってます
335 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/04(火) 00:42:48.95 ID:i3T2ewAO
大回りでも遠回りじゃない!!
336 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/04(火) 10:53:01.83 ID:9B5OhMDO
お帰りなさいませご主人様っ!
337 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/05(水) 23:41:30.25 ID:dyRHYMso
 さっきも考えた通り、ぼくが余分な事まで知ってしまっているせいだろう。多分……なのだろうけど。
 何ともここら辺の話が曖昧なんだよな。

「ふむ、なんだかな」

「? ……どうかしましたか?」

「ああ、いや、なんでもありません。たんなる独り言です……続けて貰えますか」

 入江さんは、「……それでは」と前置きを付け、再び語り出す。
「次は翌年の事件です。古手夫妻の事です……」

 梨花ちゃんの親御さんの事か。……そういや梨花ちゃんの事は全然知らないんだよな。
 あの家で、沙都子ちゃんと二人で暮らしているって事くらいか。
 垣間見せる達観しすぎた感じは、両親が亡くなった事と関係でもあるのだろうか。それにしたってあそこまではな……。
 ぼくだって褒められたような少年時代ではなかったけど、そこまで達していたわけじゃない。

「梨花ちゃんのお父さん、神主は病気でお亡くなりなってしまいました」

「それは機関の手で、とかじゃないんですよね?」

「ええ、診察した限りでは普通の病気でした。進行の具合があまりに早かったので、対処する暇もなくお亡くなりに。
そして、婦人はそれが原因で雛見沢症候群を発症しました。神主の死、それが機関の仕業だと思い込み、末期症状に……」

「それじゃあ婦人は研究材料になり、行方不明ということですか」

 ぼくの発した問いに、少しだけ言いづらそうに口を噤む。
 そうして、数秒後に、

「……そういう事になります。……それで、梨花ちゃんは一人になりました」

 目を伏せ、珈琲を一口啜りながら入江さんは淡々と言った。
 確かに――理由としては通る。死を間近に感じすぎて、それに対しての事全てが麻痺してしまったとかだろうか。

「では、次の年の事件――つまり去年の事件についてです」語るのを躊躇うかのように、少しだけ間を開けた。
「北条夫妻の義妹が祭の日に撲殺されました。そして数日後に薬物中毒の男が犯行を自供後、自殺。
当初、重要参考人として警察のマークを受けていた沙都子ちゃんの兄、北条悟史くんが行方不明になったのです。
そして、これは警察の見解であり事実ではありません」

 なるほど、これは薬物中毒者の犯行だな。などと納得できるはずもない。
この村の事件には裏がありすぎる。これも機関がらみで隠蔽やらなんやらがされてたのだろう。
 北条悟史くん、ね。ぼくはその名前を口の中で反芻していた。

「その悟史くんは雛見沢症候群の患者だったんですか?」
338 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/05(水) 23:52:37.24 ID:dyRHYMso
「……いいえ、違います。彼だけは違います」

 入江さんは悩みながら答えた。そうしてたっぷりと間を置き、口を開いた。

「悟史くんは雛見沢症候群の患者ではありません。悟史くんはD・L・L・R症候群でした。いいえ、こう表現した方がいいでしょう、

 ――北条悟史くんは零崎でした。ある日、突然、零崎に成ってしまいました。

 彼は叔母を殺害した後、僕のところに来て、沙都子を頼みます。そう告げて雛見沢から出ていってしまったのです」

 告げた言葉は、まるで予測できない展開だった。
 零崎。よりにもよって零崎とは……。どうやらぼくはつくづく零崎に縁があるらしい。
 そういやあの人、鷹野さんもぼくに色々聞きたがっていたが、これが原因だったのだろうか。
 本人としては隠しているようだったが、彼女の零崎に対する執着は尋常じゃなかったしな。
 なんかすげぇ踏みたくない話題だけど……一応聞いておこう。

「それにしても、鷹野さんがよく見逃しましたね。」

「まさか。……彼女が興味の対象を見逃す筈はありませんよ。悟史くんがいなくなり、彼女はすぐに捕獲の為に一隊を差し向けました。
ですが連絡が途絶え数日後に、県境で彼を追っていた自衛隊員四名の死体が発見されました」

「……悟史くんって一般人ですよね。それが自衛隊の人をって事でしょうか?」

「はい。状況から見てまず間違いないかと思います。小銃などの装備はしていませんでしたが、それなりの装備はしていたそうです。
ですが結果は先程言ったように全滅ですよ。
……それが零崎の殺意によるものなのかはわからないのですが、彼等は高校生一人に殺戮されました……」

 今まで普通の高校生だった人間が自衛隊員四人を殺害って……いったいどこの伝奇小説だよ。
ぶっちゃけ荒唐無稽過ぎてにわかには信じられない話だが、入江さんの口調に冗談の要素は一切含まれていない。
 確かに零崎人識の殺意という物は、僕がいままで生きてきた中でも最上級の殺意といえるものだろう。
……けれど、それだけで殺人の技術が上昇するものなのだろうか?
 なんだかどうにも話の連結が甘い気がする。

「とにかく、悟史くんの行方は完全に分からなくなりました。これで今年までの事件は終わりです。
大体の事は説明できたと思いますが、何か分からなかった事があればどうぞ」

 ぼくは首を横に振る。それを見た入江さんは語り疲れたかのように目を伏せ、深く溜息を吐いた。
 その様子だけ見ると今までの若々しい印象が作られたものだったようにすら感じる。
 
「あんまり長く話したので少し疲れてしまいましたよ。メイドの事ならいくら話しても大丈夫なのですけどね」

 おどけるように言いながら、柔らかい笑みを作りぼくを見つめた。
 その微笑みは、何故だかとても悲しそうに見えた。そうして、その表情のままごく自然に次の話題を続けた。

「それでは、今年起きる予定の事件です」
339 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 00:01:20.87 ID:af9s2K2o
 やはり――それか。
 ……さて、どう答えたものか。それがぼくの本来の役目であるとしても、ここで切りこんでいいものなのだろうか。
 入江さんだって分かっているんだろううけど……いや、それすら知らされていない可能性もある。
 刹那の逡巡――ぼくは問うた。

「それは……もう決まっているんですか?」

 ぼくの何も知らない振りをしての問い。
 それを知ってか知らずか入江さんは声を低めて言う。

「いっきー、僕はね……殺人事件ではなく、沙都子ちゃんを被害者とする鬼隠しを起こしたいと思っています」

 これは完全に予想外だ。
 ぼくにとっては先程の情報より、更に超展開といっても誇張ないほどに想定外だろう。
 茫然と口を開く。

「どういう、ことです?」

 入江さんは、まるですがるような目で、ぼくの視線と自分の視線を合わせる。

「非常に不躾なお願いで申し訳ありませんが……沙都子ちゃんをこの村から出す手伝いをしていただきたいのです。
そして、少しの間あなたに沙都子ちゃんを預かってもらいたいのです。もちろんそれについての費用は僕が払います」

「ちょ、ちょっと待ってください。どうしてそんな……」

 ぼくの言葉を遮るように入江さんは、
「沙都子ちゃんはもう限界なのです」真剣な声でそう告げた。その響きに圧力を感じるほど真摯な声で。
「いきなりこんな事を乞われて困惑するとは思います――ですがもうこれ以上の時間と機会はないのですよ」

 ……言いたい事はわかるけど。
 この時期で……いや、この時期だからって事だよな……でもそれを選択するってのはこの人は知っているのだろうか。
 知っていて、ぼくにその役目を押し付けるのだろうか。
 知っていて、ぼくにその罪を押し付けるのだろうか。
 それとも、知らずに踊らされているだけなのだろうか。

「鉄平が雛見沢に戻ってきた所為で、沙都子ちゃんの精神は限界に近づいています」

 言いながら、ぼくに向かってテーブルに額が着くほど深く頭を下げ、続く言葉を紡いだ。

「――助けて、あげたいんです」

「少し……考えさせてください」

 熱の籠った入江さんの声に、あくまで保留を望むぼくの声は冷たかった。
340 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 00:11:27.40 ID:af9s2K2o
 〜〜〜〜

 喫茶店を後にしたぼくはホテルに戻らず、その足で梨花ちゃんの家に行く為に雛見沢へと向かっていた。
 腕時計を見ると、時間は七時を超えている。結構長い時間話したもんだ。
 あれから話は何も進展しなかったけれど。
 結局のところ、この問題だって、与えるか。奪うか。大抵はそれで解決するんだろうけど、

 ぼくはそれを決めれるのだろうか。
 ぼくはそれを委ねる事が出来るのだろうか。
 ぼくはそれを受け入れる事が出来るのだろうか。

「どうしたもんかね……こういうのって人類最強の役目だろ。諦観と妥協を愛する戯言遣いに、この問題は少々荷が重いんじゃないんだろうかね」

 恨み言を呟きながら、うす暗い山道を歩いて行くと見覚えのある人影を見つけた。
 ファッションはノースリーブのベストにハーフパンツ。いたって平均的な夏の少年ファッション――平均的ってなんだろうとは考えないでおく。
 特に目を引いたのが、肩に担いだ金属のバット。野球のユニフォームでも着てれば違和感はないのだろうが、
ケースに入れずにそのまま持っている光景は少々物騒だよな。
 ふと、視線を顔に移してみた。
 ……声をかけないでもいいかな、とも思ったが、無視すると面倒くさい事になりそうな気がするので一応声を掛けておくしかない。
 こっそりと溜息を付きながら、

「こんばんは、圭一くん。きみはこれから帰るのかな?」ぼくは圭一くんに声をかける。

「おう? なんだ、誰かと思ったらいーちゃんか。俺はさ……」少年臭い笑みをぼくに向けながら、数瞬悩み、口を開いた。
「ちょっくら沙都子の様子でも見に行こうかなと思ってさ」

「ふうん、そうなんだ」嘘ではないんだろうけど。
「それにしたって、バットをそのまま持ちながら道を歩くのは少しばかり物騒に見えるぜ」 

「レナなんて鉈を持ちながら道を往来してるぜ。それに比べたらバットなんて鞄と変わらないさ」
 鼻の下をこすりながら、都会じゃ逮捕されてるな、と小さく笑った。
「それで、だ。いーちゃんはどうしてこんなところにいるんだ?」

「ちょっと沙都子ちゃんの家に行こうと思ってね。それが終わったら梨花ちゃんの家に行くんだよ」

 反射的に答えてしまった。保留していた事柄をいとも簡単に決めてしまった自分に、少しだけ驚く。

「……どうして沙都子の家に行くんだ?」圭一くんは疑うような眼差しを僕に向け、問うてきた。

「ちょっと入江さんに頼まれてさ。……それに沙都子ちゃんをほっとくってのも気分が悪いしね」

 ぼくの適当な答えを聞いた圭一君は、吃驚したような表情を作り言う。

「へえ、そういうキャラクターだったのか。いーちゃんってさ……あれだ、ほら、何もかも興味がない。
誰に何が起ころうが、自分には関係ないみたいな奴だと思ってたよ」
341 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 00:15:31.62 ID:af9s2K2o
「……失礼な事を言うね。それじゃまるでぼくが人でなしみたいじゃないか」冷静を装いながらぼくは言う。

「いや、悪い悪い。そういう意味じゃないんだ」

「まあ、いいけどね」それはそれで正解なのだろうし。

 圭一くんは肩に乗せていたバットを降ろし、ふう、と溜息を吐き。

「それじゃあ沙都子の様子を見るの、任せていいか? ……正直さ、現状で子供である俺が行っても、
沙都子の為になる事なんて何も出来なそうだしな」力なく呟いた。

「そうでもないんじゃないかな。……ぼくにはその方法なんて分からないけど」

 分からないけど。
 圭一君がやろうとしていた、その方法を行使する理由が解からないけど。
 それに、他にも手段なんて転がってるんだろうけど。

「まあ、そうだろうな」

 ぼくの言葉をどれくらい理解しているのかは分からないけど、圭一くんは肩を竦めながら目を細めた。
 まあ、とりあえずめんどくさい事にはならないだろうかな。

「とにかくさ、ぼくが沙都子ちゃんの様子を見に行くよ。……ぼくに沙都子ちゃんを任せろ、とまでは言わないけどね。
圭一くんもさ、そんな人でも殺してしまいそうな表情でバットを持ちながら道を歩いていたら、警察の厄介になっちまうぜ」

 ぼくの言葉を聞いた圭一くんは、一瞬だけ目を丸くし、
「表情はともかく、バットは野球の道具だぜ。それに今は野球の帰りだしな」と笑いながら言った。

「そうなんだろうけどね」

「そういやさ、いーちゃんは祭まではここにいるんだよな?」

「うん。明後日まではいる予定だけど――それがどうかした?」

「いや、特に意味は無いんだけどな。部活の皆で一緒に行こうって約束したんだ。もし良かったらいーちゃんも一緒に回ろうぜ」

「考えとくよ」

「それじゃあ、俺は帰るよ。沙都子の件は大学生に任せたぜ」

 ぼくの短い答えに肩を竦ませながら、背を向け歩き出した。しばらくその背中を見ていると、やがて小さくなり、見えなくなった。
 そうして一つ嘆息をつきながら、ぼくは呟く。

「任されても困るんだけどな。結局、こういうやりとりも戯言なのだろうかね」

 自信なさげな決め台詞の後。ぼくは少しの間目を閉じ、開けた。
 さて、本当にどうしたものか……。
 この後の事を考えながら、ぼくは沙都子ちゃんの家へと向かうのであった。
342 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 00:21:13.83 ID:af9s2K2o
 〜〜〜〜

 圭一くんと別れた後、腕時計で時間を確認すると七時半を少し過ぎていた。
 畑に囲まれた道を歩いていると、遠くに木造の平屋が見えてきた。入江さんから聞いた話が間違っていなければ多分あの家だろう。
 しかしこの村広すぎるだろ。端から端までどれくらいあるのか考えたくないほどの広さだった。
 まあ、土地の大部分が山と畑なのでこれくらいなのは仕方ないのだろうが、
普通に大災害とかが起こった場合どうすんだろうな。いや、だから人が下の街に移り住んだのか。などなどとつまらない事を考えていると。

「目的地についてしまったんですよね」

 家の前まで行くと、表札には北条と記されていた。このまま沙都子ちゃんを呼び出して良いものか悪いものか。
 未だにぼくはどうすればいいのか決めかねている。いや、ここに来てしまった段階でもう引っ込みもつかないしな。
そこら辺は後でいくらでも後悔できるだろう。冷静に考えなくとも、既に流されすぎな気がしないでもないが。
 どうやらこの村ではぼくの主体性は欠如してしまっているらしい。まあ、もともと存在しない物に思いを馳せても仕様がないわけだし。
 ……そういや夜分遅く女子中学生を呼び出す男子大学生ってのは……やはり怪しすぎるよな。
更に呼び鈴を押さずに家の前をうろうろしてるってのも、怪しさレベルを上げるのに一役も二役もかっているわけでして。
このままここをうろうろしてると駐在さんに逮捕されかねない。辺りには人っ子一人歩いてないけどな。

「しょうがない。やはりぼくが諦めるしかないんですよね」

 言い捨てながら、扉の横に慎ましく設置されている懐かしいタイプの呼び鈴を押した。
なじみのある電子音ではなく、金属の打ち合う甲高い音が鳴る。
 少しだけ待つと、家の中で何かが動く気配がした。そして玄関の扉が少しだけ開けられ、

「どなたでございましょうか」と、怯えているような少女の声音が聞こえた。

「ぼくだけど。沙都子ちゃんだよね?」

 玄関の扉は開けられ、何故かバスタオルを巻いただけの沙都子ちゃんが出てきた。
 髪の毛も濡れていたのでお風呂上りだったのだろう。……それにしたってそのまま出てくるのは年頃の少女としてはどうなのだろう?
 そりゃあ夏真っ盛りだし、暑いから服を着たくないってのは分かるのだけれど……。
 だが沙都子ちゃんはそんな事が常識だとでもいうような普通な対応をしてきた。

「あら、あなたでしたか。てっきりおじさんの友達かと思いましたわ」

 おじさんの友達って……。家族ならまだいいんだろうけど、親族以外の応対にその格好は不味いだろ……。
 一応やんわりと注意しておいたほうがいいだろう。
いくら相手が子供とはいえ、そのおじさんの友達が近代国家で認められていない性癖だった場合危険だし。

「……あのね、ぼくとしても夜分遅く訪ねてきたのは悪いと思うし、さすがに人のハウスルールにとやかく言うつもりはないんだけどさ、
やっぱり外に出るなら服くらい着てもいいんじゃなかろうか」
343 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 00:53:46.82 ID:af9s2K2o
 ぼくの言葉を聞き、沙都子ちゃんはぼくに向けていた視線を自分の身体に写す。
 数瞬の間――後。

「ぎゃああああああっ!! そうでしたわっ!!」

 叫びと共に、玄関の戸は嵌められた曇り硝子の窓が砕けるのではなかろうか、というほどの速度で堅く閉ざされた。その前に気付けよ、おい。

「……少々お待ち頂きたいのでございまするが」

 硝子戸越しに聞こえる声は、少々キャラ付けを失敗した感のある、つつましやかな少女の声だった。

「……ぼくが訪ねてきたんだし、そりゃあ待つけどさ」

「それじゃ、少し待っててくださいましっ!」

 言い終えると同時に、玄関の中で少女の疾走が開始されたようで、木の床を踏みつける音が外まで響く。
 それにしても、おじさんの友達だったら問題ないのに、ぼくだったら駄目なのか?
 これは、もしかしてだけど……ぼくは沙都子ちゃんに変態と思われているのだろうか?
そんな引かれるほどの変態的行為などしてはいないと思うんだけど……そんな事していないよね。
いや、……もしかしたら忘れてしまっただけかもしれない。
 少しだけ考えてみても分からない。やはり思春期特有の何かなのだろうと無理矢理自分を納得させる事にしておく。
崩子ちゃんや姫ちゃんとかもそうなのだけれど、こういう年頃の女の子って複雑なんだよな。よく分からない行動や言動をすることがあるし。
 そうこうしている内に十分ほど経ち、沙都子ちゃんは再び玄関に現れた。さすがに今回はバスタオル一枚ではなく、普通の服装だった。
 靴を履き、踵を軽く地面に打ち付けながら外に出てきた。

「それで、こんな時間にどうかしました? 私に何か用事でもありまして?」

 沙都子ちゃんは不安そうな口調で、ぼくの顔色を窺うように言う。

「用事というかなんというか……きみと話がしたくてね。そういや、おじさんは家にいるのかな?」

 少しばかり時間がかかりそうな話なので、もしも居るのなら『ちょっと沙都子ちゃんをお借りします』くらい事は言った方がいいだろうか。
 だがぼくのそんな心配をよそに、沙都子ちゃんは何ともいえない微妙な笑顔を作る。

「今は居ないですわよ。少し前にどこかへ出かけましたわ」

「ふうん、ならいいんだけどね。……それじゃあ、少しいいかな?」

 沙都子ちゃんは怪訝そうに「ええ、いいですわよ」と答え。
「それで……あの、そのお話は、私のことでしょうか」と、続けた。
344 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 01:08:41.19 ID:af9s2K2o
本日はここまででよろしゅうございますでしょうか?
いやね、ほんと間を開け過ぎて申し訳ない。しばらくは暇なのでもうちょっと早くなると思います
345 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 01:24:17.79 ID:Lv.An3.o
次も楽しみに待っているでございまする
346 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 02:13:11.18 ID:783UfUAO
乙で御座候う
347 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 02:28:15.01 ID:f9bTimQo
キテター
348 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 07:27:29.91 ID:TgDp6hIo
零崎さとしきwwwwwwwwww

乙かれさんです〜
沙都子は小学生だと思
349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 07:37:12.57 ID:GIHnf4Io
350 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 16:56:12.55 ID:af9s2K2o
>>348
えっ
ttp://sukima.vip2ch.com/up/sukima038545.jpg
351 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/07(金) 02:34:39.68 ID:OsXTy.AO
>>350
ですよねー
352 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/07(金) 05:36:59.67 ID:772EqkAO
>>350
う、嘘だ!証拠を見せろ!その子が十八歳以上であるなら画像を見せろ!
353 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/07(金) 07:42:06.66 ID:IAJR2tQo
18歳とか初老じゃねぇか
354 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/11(火) 23:55:44.09 ID:/sGPgcDO
まだかな
355 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/12(水) 00:00:08.52 ID:sx6hYa2o
矛盾がありそうだから二日ほど寝かせたいんだぜ
356 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/12(水) 06:30:25.63 ID:Xcq4oxso
投下を延期することをあらかじめなんとかかんとか
把握
357 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/14(金) 02:16:55.13 ID:vWPcToUo
「あー……まあ、そうっちゃそうなんだろうけどね」

「それは、私の事を……皆さんに色々と聞いたってことで宜しいのかしら?」

 沙都子ちゃんは感情を読ませないほど酷く曖昧な表情で薄く笑い、ぼくから視線を外した。
 まずったか……そりゃそうだよな。
会って間もないよく知らない人間に、自分の事を色々と知られるってのは……嫌なものだよな。
 ぼくは頭の隅に発芽しかけた謝罪の言葉を飲み込む。

「うん……そういう事になるな。みんなね、きみの事を心配してたよ。
だからって勝手に、きみ都合も考えずに、きみの事を聞いてしまったのは、ぼくが悪いんだけどな」

「その言葉は正しすぎて、それ故に残酷でしょうね」

「だろうね」

 軽く見透かされた感じ。それを狙ったのだけれど。
分かっていたことだが、嘘を飾らず卑怯に作られた言葉を見透かされるのはあまり気持ちの良いものじゃない。
 それが故にぼくは、なんて劣悪なのだろうな。そう無意味に実感する。今更なのだけど。
 本当に、今更なのだけれど。

「……別に誰かを責めてるって訳じゃありませんのよ」沙都子ちゃんは呆れたような声色を作り。
「それで、お話って何でしょうか? このままじゃ話が進みませんのよ」と、外していた視線を上げ、手の平を上向きに広げながら肩を竦めた。

「それじゃあ、本題に入らせてもらおうか……」

 この地点まで来ても、ぼくは迷っていた。この終点に到達してしまった状況まで来てしまっても、
ぼくを見上げる沙都子ちゃんの目が、歪とも表現しえるほどに、真っ直ぐに見えてしまった。
 何も知らないように見える少女へ、続く言葉を告げる事を、ぼくは迷っている。
 だがぼくが言葉を発する前に、沙都子ちゃんはあっさりと、何でもない事のように、

「されてるのでしょうね――自分の保護下にある者に対し、長期間にわたって暴力をふるったり、世話をしない、
いやがらせや無視をするなどの行為を行うことを虐待と言うのなら、わたしは虐待されているのでしょうね」

 明るく振舞いながら、そう言った。その雰囲気に、ぼくは言葉を失う。
 沙都子ちゃんは立っているのが疲れたのか、庭先に置かれたぼろぼろの椅子に座り、ぼくを上目に見つめながら、
358 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/14(金) 02:19:32.65 ID:vWPcToUo
「まあ、立ち話もなんですので、どうぞ座ってください」もう一つの椅子に指をさし、寂しそうに、優しく笑った。
「申し訳ないのですけど……私ね、あまりこの家に居たくないんですよ。良い思い出もそれなりにあるんですけど……。
でも、そのほとんどが無くなってしまいましたけどね」

 それなりに。
 それなりに、としか言えないこの子に、ふいに自分を投影しそうになる。
 けれど……それは。
 ……流されそうになりながら、ぼくは言う。

「別に気にしないよ。元々家に上がらせてもらおうなんて思ってなかったしさ……」一度言葉を切り、舌を甘く噛んだ。
「この椅子の座りごこちだって、そんなに悪いもんじゃないさ」ぼくは嘆息しながら、続けた。
「……それにしてもさ、案外はっきりと言うんだね。きみは、そんな事実なんてありません、って言うと思っていたんだけどね」

 沙都子ちゃんは黙った。それから顎に指を当て少しだけ悩むふりをしながら、

「この村の人になら絶対に言わないですわ」と、自嘲気味に呟く。
「……やっぱり、あなたが外から来た人だからでしょうかね。だって、お祭りが終わったら京都に帰ってしまうのでしょう? それに……」

「それに?」

「ううん」言いながら首を横に数回振り、
「いえ、何でもありませんわよ。たんなる気まぐれみたいなものですわね」ぼくを見て悪戯っぽく微笑んだ。

「まあ、そういうのもあるのかもしれないね」ぼくは素直な感想を口にした。
「でもさ……こんな事を部外者であるぼくが言うのも嫌なんだけどね、誰かに頼ってみてもいいんじゃないのかな」

 答えの分かりきった問いをぼくは言う。部外者だからこそ、ぼくに言ったのに。

「こんなふうになっている私にも、矜持っていうのがあるんですのよ。……こういうキャラ付けでそう言うのも変ですけどね」

「キャラ付けを認めるんだ……」つらっと衝撃発言だった。

「こんな尋問みたいな状況だとぶっちゃけたくもなりますよ」

「尋問って……人聞きの悪い」
 ぼくの呟きを聞いた沙都子ちゃんは、にやりと悪い笑みを浮かべる。

「ところで尋問の『尋』という字にエとロが入っているからってエロ展開を期待しないでくださいね」

「……してない。まったく期待してないから上手い事言ったみたいな顔しないでくれ」

 ……畜生、ちょっと面白いじゃねえか。
359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/14(金) 12:04:21.25 ID:yn1lyrAo
もっふるもっふる
360 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/14(金) 23:13:41.58 ID:RBSH/R6o
まさか今日はもう終わりなのか・・・・・・・・・・・!?
361 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/17(月) 00:55:30.71 ID:kAxcdbQ0
やっと追いついた……
戯言シリーズを全く知らない俺でも
wktkしながら続きを待つよ
362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/17(月) 01:46:23.18 ID:LaCVV2AO
俺はこのスレに出会ってから戯言読み始めてつい先日零崎シリーズも読み終わったよ
まいおりんかわいいよまいおりん
人間関係が楽しみ
363 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/17(月) 02:26:37.37 ID:sQm7qVwo
まいおりんとか語呂悪すぎwwww
364 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/17(月) 07:26:51.85 ID:LjjVLhko
零崎悟識
零崎詩織
365 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/18(火) 02:40:16.22 ID:LsdqmoAO
>>364
悟史は確かにありそうだ!
ネタバレだったらすまそ

しかし漢字は変わるんじゃないか
郷識とか聡識とか
志織とか紙織とか

しおりなら死織やら姉織やら使いたい字は沢山あるが
366 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/23(日) 20:26:18.07 ID:FvNGqMDO
>>1まだかな〜
367 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/28(金) 20:31:52.69 ID:kpN2ksAO
>>1まなかな〜
368 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/06(日) 02:09:16.07 ID:Z/2plXQo
失礼かみまみた
369 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/06(日) 19:28:26.59 ID:TvcbkZo0
わざとじゃないっ!?
370 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/06(日) 23:35:56.46 ID:WRiti.co
逃亡か?
371 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/06(日) 23:37:43.65 ID:j/OGhEIo
1ヶ月程度ならまだ焦る時期ではない
372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/14(月) 17:14:22.18 ID:CZYrZHwo
化物語アニメって全13話くらい? 終わっちゃうよ……
373 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/15(火) 18:58:41.41 ID:ApBN1X6o
撫子ってゼーガペインの幼馴染の棒の人だったのか!!!
374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/21(月) 01:51:56.47 ID:xXOtmwDO
さて、前回投下から一ヶ月か…
375 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/26(土) 22:11:39.71 ID:4AXggcYo
まだまだ
376 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/06(火) 22:58:09.76 ID:ylB5tEAO
|ω・`)
377 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/07(水) 04:11:09.83 ID:el5IlRUo
>>1の死亡を・・・確認致しました
378 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/07(水) 16:20:26.43 ID:4yC9I9.o
そんな……
379 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/07(水) 17:44:22.31 ID:skYgnYoo
炎の中から甦る
380 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/13(火) 18:28:52.65 ID:1G46RwAO
ま、まだぁー?
381 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/14(水) 23:09:40.10 ID:H.XwnoAO
(´・ω・`)
382 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 04:34:38.39 ID:RKo4WRMo
「けっ、つまんねえ糞野郎ですわね。……まあいいです。さ、早くエロ問を続けましょう」

「酷い事を真顔で言うな、っていうか完全に消すな」

「ヨエロ寸問」

「話を戻すな、続けるな」

「ところでエロ寸っていうのは何となく想像できるんですが、ヨエロっていうのはいったい何なんでしょうね? 地名?」

「……知らねえよ、そんなもん」北海道辺りにそういう地名がありそうな気がしなくもない。いやない。
「というかまともにしてくれ、このままじゃ漢字の発案者が泣くぞ。いや、それよりも……」

「まあまあ、そんなことはどうでもいいんですよ」続くぼくの言葉を遮り、自分の手の平を拳で、ぽん、と打った。
「そうだ、折角なのであなたの運勢を占ってさしあげてもよろしくってよ」

「いらん。というか何故に占い?」

「えー、あなたの運勢は……でました! おめでとうございますあなたは大エロです!!」

「大吉みたいなノリで言った!? たしかにちょっと合ってるけど……いや、漢字が! ――まあいい、話を戻そう。
えっと、確か……沙都子ちゃんのおっぱいって子供のくせに少しだけ膨らんでるからけしからんよね、って話だったよね?」

「……全く戻していない、むしろ斜め上に飛躍しています。ついでに目を閉じてさっきのシーンを回想するな」

「じゃあどうしろってんだよ!」

「どういう逆切れですの!? というか何に対しての怒り?」

「ぼくの心はね、九十パーセントが悪への怒りで構成されているんだよ」言いながら、ぼくは空を見上げた。

「なんか意味の無さが格好良い気がしてきましたわ……そ、それじゃ残り十パーセントは……?」

「……ふっ、前向きに善処する心さ」

「その言葉があるだけで、怒りが実行される気がしないですね」

「なんなら遺憾の意を表明するのも厭わないんだよ、ぼくは」

 色々な意味で危険な表現だと言ったらまずそうだから、言わなかったということにしたりしなかったりしておきたいような気がしていたい。
かといってそういうわけでもなくそれを前向きに善処したりするようなことを検討するということはやぶさかでもありながらもかつ……馬鹿ですか?
 そんなぼくの思考を読んだのか、沙都子ちゃんは無言のままで鷹揚に頷いた。意味わかんねぇ。
 それから数瞬の沈黙。後に、
383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 04:59:22.22 ID:RKo4WRMo
「あはは」

 と、沙都子ちゃんは愉しそうに笑った。
 年相応の子どものように、表情のどこにもしがらみの欠片も見当たらないくらいに、本当に愉しそうに笑いながら、
うんうんと一人で納得したように頷く。それから、ゆっくりと独り言のように呟いた。

「ああ、なるほど……なるほどな――そうだったんだ、こんなので良かったんだ。いや、こんなことで良かったんですね」

「……どうかしたの? いきなり笑いだしたり納得しだしたりして」ぼくは訊いた。

「いえいえ、なんでもないですのよ。ずうっと分からなかった事があったんですけどね。ふっと気付いてしまったんですよ。
それはそれはとても簡単な事でした……まったく、どうして忘れてしまっていたんでしょうかね?」

 しきりに頷きながらも、沙都子ちゃんは答えにならない答えを答え、問いにならない問いを問うてきた。

「えっと、つまり……なにか忘れていた事を思い出したって事でおっけい?」

「いえす。そういう事ですわね」沙都子ちゃんは無邪気に見える、可愛らしい笑みを浮かべ答え。
「あなたは、一番人間らしくない感情って何だと思いますか?」そう問うてきた。

 うーん、それにしても『人間らしくない感情』と来たか。
 ぼくとしても思い当たることがないわけでもない。しかし……どう答えたものか。

「そりゃ、たくさんあるんだろうけどさ――そういうのって『人』って奴の捉え方にもよるからね。
今現在の文化形態としては美点として考えられていない、あまり良くない動物的な感情。他にも悪意や害意……それと、殺意とか。
そういうのはあまり人間らしくないと言えるんじゃないのかな。少なくとも、理性で抑えられるような劣情っつうのは人間らしくないといえるんじゃないかな」

 逆説的に考えれば、これは酷く人間的な感情でもある。だがぼくはそれを無視しつつ、何度か突っかかりながらも、あくまで機械的に答えておく。
これにしたって、何となく話の雲行きが怪しくなりそうなので、何個か予防線を貼っておくってだけ。
ぼくの感情が動いたわけではなく、あくまで、ただの、反射としての対処。
 それにしても、なんとも……云い得て妙だよな。
 そもそも戯言遣いたるぼくにとって、言い得て妙というのも可笑しいのだけれど。
 そもそも欠陥製品たるぼくにとって、この質問に答えるられるというのも、おかしいのだけれど。
384 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 05:23:43.94 ID:RKo4WRMo
「なるほど。あなたにはそういう感情が人間らしくないと、そういうわけですのね……」

 ぼくは意識して頷き、肯定する振りをした。沙都子ちゃんはそんなぼくをじいっと見てから、目を伏せ口を開いた。

「私はですね。その『理性』という感情が一番『人間らしくない』感情だと思います」

 と――。
 それは本当に、唐突だった。
 注意していなければわからないレベルの、小さな変化。だが、圧倒的に変質していた。

「ふうん……そう、なんだ」

 唐突過ぎて、一瞬、呆気にとられそうになりながらも、身体が硬直してしまいそうになるのを堪えながらも、それを脇に置きぼくは曖昧にうなずく。
 
「ええ、そう思っていますのよ」

 云いながら。沙都子ちゃんは、薄い笑みを浮かべていた。
 他の誰でもなく、ぼくだけを見詰め、気配だけを変貌させながら。
 ぼくは沙都子ちゃんの表情から目を離せなかった。そこから感じられるのは、静謐な強さ。それと、狂気だった。

「あなたは、耐える事ってなんだと思いますか?」ぼくの返答を待たずに、沙都子ちゃんは薄笑いを浮かべながら続けた。
「たとえば、臭いと言われ熱いお湯に延々と浸からされ、のぼせても外に出れずに苦しくなって頭が回らなくなっても、理性があれば耐える事が出来ますよね?」

 なかば独白のような問いに、危険を感じながらも、ぼくは答えられない。
 意識だけでもなく空気中にすら、ある種の血なまぐささのようなものを感じさせながら、少女は呟くように言う。

「たとえば、理由も意味もなく、ただなんとなくというだけで殴られて、とても痛い思いをしたとしても。
自分の中に理性があるということを意識していれば、そんな行為は蚊に刺されたと同一に思えますよね。
毎日毎日理由すらなく虐められて、攻撃を受け続けました。殴られたり、笑われたり、無視されたり、
……他にも、たくさんたくさんあります。けれど言いたくありません。だから喋りたくありません。故に私は耐えていました。耐え抜きました。
死のうかと思いました。けれど、私は壊れているから、持っているから、そこには到達できませんでした」
385 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 05:55:01.79 ID:RKo4WRMo
 既に自己完結を経ている言葉に、ぼくの言葉は割り込めない。
 いや、そもそも答えられないのでなく、こういう物言いが

                               ――考えるな。

 本当に、嫌になる。ぼくが卑屈に過ぎて。
 いつのまにか、沙都子ちゃんを見る目をすりかえていたことに。
 ぼくがやろうとしていた事は、免罪符としての行為になっていたことに気付かなかった。
 いや、もしかしてすり替えられているのは沙都子ちゃんに対してではなく、ぼくがすり替えられている所為でなのかもしれない。
 ……きっと、たぶん、おそらく、あるいは、もしかしてではなくとも。
 彼女も、ぼくの事を他の誰かと重ね合わせているのでは、
 止めよう、悪い想像は。

「あなたは、どう、思いますか?」

「さあ、ね。そうなのかもしれないね。そんなこと……よりもさ――」

 答えるべき言葉をぼくは答えずに、話を逸らした。というより、逸らしてしまわざるを得なかった、というべきなのだろう。
 曖昧を不条理で濁し矛盾を不合理で汚しきった矮小で卑屈で脆弱なぼくらしい。まったく恐ろしいほど――笑えてしまうほどに。
 沙都子ちゃんは、ほんの少しだけ、躊躇するようにした。

「ちゃんと答えてくれないんですね。ほんの、ちょっとだけ期待したのにな……」

 呟いて、沙都子ちゃんは家から遠ざかるように、ゆっくりと歩き出した。まるでついてこいとでも言うかの如く、ぼくに一瞬視線を向け、外した。
数歩遅れてその後に続く。街灯の光が届かない場所まで来ると、兎のいない月の明かりがぼくたちを淡く照らした。

「……それは、期待に答えられず失礼。所詮そんな奴なんだよ、ぼくは。誰かの期待に答えた事なんてないしさ。
だいいち、ここに来たのだって別にきみを助けに来たり、慰める為に来たわけじゃない」

「知っていますわよ。私も誰かに助けてもらおうなんて思ってないですから」沙都子ちゃんははっきりと言った。
「助からないって知ってますから――なのに、あなたは、何を話そうというんですか?」

「その通りなのだろうね。……それでもさ、ぼくはきみに聞かなくてはならないことがあるんだ」

 沙都子ちゃんは聞きたくない、とでもいったふうにゆっくりと首を振りながら、その流れのまま口を開いた。
386 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 07:16:25.18 ID:RKo4WRMo
「……ともかくですね、この件に関しては誰かに頼ったりするのを避けたいんですよ。他は全部が全部駄目な私でも、
これだけは自分で何とかしたいんですのよ。いや、違いますね……私は立ち向かえない、けれど逃げもできない。逃げる場所もない。
子供だからという理由を免罪符にするでもなく、助けを呼ばない理由にすらならない。
そう、無くなった物を待ち望むだけの停滞――それこそが信念だからなのか。それともたんなる思い込みなだけで、
結局結局全部が無駄な事なのか。まあ、こんな事に意味なんてありません。何となくそうしているっていうだけなのでしょうね、たぶん。
……だから、もういいんですよ。私の事なんて、どうでもいいんですの」

 小さな唇を震わせ、そんな悲しいことをいう。

「でも、そんなんでいいのかい? このままじゃ……終わってしまうよ。それでは、終わりに近付いているだけだよ」 

 ぼくは口を開いた。
 あてずっぽうとまではいかないが、確証があるわけでもない。
 彼女がここに執着している意味を入江さんから聞いていたから、そう言えるのだろうか。
 いや、そんな理由じゃない。

「ええ」沙都子ちゃんは、再び笑顔を浮かべながら、何でもない事のように、
「知っていますわ」柔らかく微笑した。

「だったら……どうして」

「どうしてでしょうね……私にもわからないです」

 そろそろ、いいかげんに、決めなければならない。
 一体何をやっているんだろう、ぼくは……。本当の目的すらも曖昧に感じられる。
 この村の為なのか。梨花ちゃんの為なのか。それとも、目の前の少女の為なのか。
 なんとも……厄介な事になっている。
 けれど、このままの状態は、ぼくの流儀ではない。

「沙都子ちゃん」ぼくの呼びかけに、沙都子ちゃんは真っ直ぐに視線を合わせた。
「ぼくはね、きみを助けてあげるわけじゃない。ただ、闘争ではなく逃走を促しているだけ。
もしきみが手を伸ばして、ぼくに助けを乞うたとしても、ぼくはきっときみを助けないだろうし、見捨てるかもしれない。
そのうえで、ぼくは言おう」

 言葉を切って、ぼくは沙都子ちゃんの表情を見ないように目を閉じ――開けた。
 今更ながら、躊躇う。
 これからぼくが言う言葉が、彼女を壊してしまうのではないか。それともぼく自身が壊れてしまうのではないか。
 それでも、ぼくは云う。

「ぼくのところにおいでよ」
387 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 07:43:54.67 ID:A/luhUAO
うおおきてたー!
388 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 07:52:23.66 ID:K0fobrUo
沙都子関係は読んでいて辛いのう
389 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 08:11:40.82 ID:dUz3Wooo
フォォォォォォォォォ
390 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/15(木) 20:35:38.44 ID:kaklFUAO
いーちゃんの台詞って本編圭一と対になってるのね
391 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/18(日) 00:09:01.17 ID:k.RrzoAO
しかし西尾維新にほんと文章似てるよなぁ
392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/18(日) 06:36:52.59 ID:m5uhCGQo
人間関係1〜4は来春発売となりました
393 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/18(日) 22:41:17.88 ID:GvOLRYDO
>>392
マジで!?




……講談社いい加減にしろ
394 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/19(月) 07:29:19.30 ID:8GM6JMMo
>>393
マジです。ソースは講談社メールマガジン【講談社ミステリーの館】2009年10月《号外》
2009年11月予定→2010年春頃

ネコソギラジカルも傷物語下巻も「ぼくの世界」も延期する講談社
395 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/20(火) 22:45:18.88 ID:/70x/P20
西尾維新は速筆のはずだったのだけど
どうしてこうなった
396 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/21(水) 00:02:44.77 ID:uC6rjx.o
本命 講談社
大穴 集英社
397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/04(水) 18:03:21.38 ID:P7WaIQDO
しえ
398 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/05(木) 17:52:43.14 ID:fac9gsg0
PSPから支援
399 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/10(火) 18:51:18.55 ID:PaZJWPco
4巻同時刊行なんてせず、
1冊ずつ発売すればいいものを
400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/13(金) 20:08:23.35 ID:vPkkI6AO
(´・ω・`)
401 :パズー「んっ、んん・・・はっ!」 :2009/11/20(金) 22:49:31.98 ID:XMhFmsSO
ラピュタ見ながら待ち
402 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/23(月) 16:46:02.34 ID:ANH120E0
まだかなまだかな
403 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/24(火) 15:34:52.15 ID:ym1d4AAO
>>390
えっ
404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/29(日) 13:31:11.77 ID:EEhvcUDO
まってる
405 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/01(火) 01:47:17.36 ID:SChEwMAO
人数減ってきたみたいだから
もう一回VIPに立ててこのスレの宣伝とか‥
406 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/02(水) 13:02:27.05 ID:D2ZFNcDO
ROMってる奴も多いんじゃない?
407 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/02(水) 14:04:28.82 ID:ZBSqnQAO
人数が増えても>>1の書く速さが変わらなきゃ無駄にレス消費するだけさ
このままゆっくりまったりやればいいじゃないか
408 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/03(木) 14:06:06.29 ID:JOCFy.AO
待つのは嫌いじゃない
409 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/03(木) 14:07:02.49 ID:JOCFy.AO
410 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/03(木) 17:12:32.98 ID:Akbq.Pc0
「いいじゃないそんなの・・・」僕はキメ顔でそう言った
411 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/04(金) 10:33:13.73 ID:WRvsmoAO
>>410
その口癖うざすぎるよなwwww
412 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/04(金) 22:39:13.60 ID:N5WQjTYo
『その口癖うざすぎるよなwwwwwwww』
ふん。
413 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/14(月) 16:40:54.59 ID:bM2S8sAO
まだかなまだかな
414 :しーたん [sage]:2009/12/14(月) 22:37:32.18 ID:nhm2IYAO
≪みっくみくにしてやんよ!ただし巡音ルカ≫みたいなっ!
415 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/17(木) 15:03:42.17 ID:xGCCPcAO
《巫女子語一大ブーム到来!ただしオリジナルは序盤で死んでいる》みたいなっ!

416 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/25(金) 18:18:47.88 ID:D9vyBmQ0
汀目かっこいいよ汀目
417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/25(金) 19:44:44.48 ID:lhl8gz60
人間関係早く読みたいなー
418 :A HAPPY NEW YEAR 2 0 1 0 ! :2010/01/01(金) 00:35:55.39 ID:PlvEiEAO
新年明けました
419 :A HAPPY NEW YEAR 2 0 1 0 ! :2010/01/01(金) 11:51:01.74 ID:zHQ/HEAO
あけおめー
420 :A HAPPY NEW YEAR 2 0 1 0 ! [sage]:2010/01/03(日) 17:01:11.97 ID:QJYRu1wo
明けまみた
421 :A HAPPY NEW YEAR 2 0 1 0 ! [sage]:2010/01/04(月) 20:30:14.07 ID:TzIvew2o
「緋色の英雄」彼女の生い立ちの物語は今年中に読めるかな?
422 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/01/25(月) 03:04:44.92 ID:rWxBbQAO
今更ながらあけおめ
更新待ってるぜ
423 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/28(木) 12:29:40.58 ID:4FaB5cAO
まだかにー
予定日とか教えてほしいにー
424 :パー速のローカルルールが変わりました :2010/02/06(土) 21:32:51.28 ID:r2FoqAAO
作者死んだ?
425 :パー速のローカルルールが変わりました :2010/02/07(日) 16:38:11.54 ID:PpeTDxY0
まだかいな
426 :パー速のローカルルールが変わりました :2010/02/10(水) 21:12:30.15 ID:tJd.ToE0
年を越してもまだ来ない・・・・
252.39 KB   

スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)