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別に新ジャンルじゃない「ひょんなことから女の子」Part3 - パー速VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/28(土) 20:01:54.12 ID:9vJP2AEo
ここは「ひょんなことから女の子」スレ Part3です。

誰かが女の子になったり、何かが女の子になったりしています。
デフォのキャラがいないので、自由にキャラを作って下さい。
別に新ジャンルじゃないし既出も上等。何でも自由、ただし節度を持って。
あなたも「ひょんなの子」を妄想してみませんか?

・過度のリアル報告・自虐、自動保守は避けましょう。
・書きたければ迷わず書こう。長編でもSSでも何でもおk。
・投下する時はコテや作品名をつけるとまとめやすいです。


Part2 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1213089411/
まとめwiki http://www12.atwiki.jp/hyon/
避難所 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/31732/

ということでおねがいします。どしどし投下おk。
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/

2 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/28(土) 20:23:26.62 ID:RRFXFdUo
乙一
3 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/29(日) 00:35:50.03 ID:RQP9IVso
ああああああああああああもうなんで前スレ住まってるのおおおおおおお
4 :もういいやこっちに投下しまふ :2009/11/29(日) 00:36:40.37 ID:RQP9IVso
☆〜 前スレに投下された物語まとめ 〜☆

◆Z5if4Sx6mU 「ひょんなことから女ねこ」
 1[08/06/20] >>24-26   2[08/06/26] >>41-44
 3[08/07/14] >>131-134

◆KYq8dD7k0Q 「題名は無い」
 1[08/06/26] >>46-56   2[08/06/27] >>66-77

vqzqQCI0 「どんだけ☆エモーション」(完)
 1[08/06/29] >>81-87   2[08/07/01] >>97-101
 3[08/07/09] >>115-121 4[08/07/30] >>142-146
 5[08/08/08] >>152-158 6[08/08/19] >>169-175
 7[08/08/30] >>183-189 8[08/09/27] >>218-232
 9[08/10/31] >>345-352 0[08/11/19] >>361-373
 1[08/11/28] >>379-392 2[08/12/14] >>400-412
 3[09/01/17] >>443-454 4[09/02/18] >>462-482
 5[09/03/26] >>492-516

ID:2/2a9wAO 「」
 1[08/07/04] >>107-108

オリサs 「同性的な彼女」(完)
 1[08/07/06] >>111-112

レモン ◆yVOiXYQsYU 「」(完)
 1[08/08/31] >>194-205
5 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/29(日) 00:38:02.81 ID:RQP9IVso
◆wjOmYNm0Aw
 1[08/10/06] >>240-249 2[08/10/09] >>253-256
 3[08/10/11] >>263-367 4[08/10/11] >>270-275
 6[08/10/12] >>281-288 7[08/10/13] >>291-297
 7[08/10/16] >>303-311 8[08/10/18] >>314-327
 9[08/10/24] >>333-341 0[08/12/19] >>418-422

静宮 「ソプラニスタ」(完)
 1[09/01/15] >>434-439

◆VaiOM4oLyA 「」
 1[09/05/01] >>534-537 2[09/05/04] >>540-545
 3[09/05/06] >>550-556

◆SaEKLUFt0w 「」
 1[09/07/23] >>637-645

rtQgin37x 「」
 1[09/05/12] >>573-576 2[09/05/18] >>579-582
 3[09/05/23] >>587-600 4[09/05/24] >>605-606
 5[09/05/28] >>612-617 6[09/07/09] >>627-630
 7[09/08/09] >>651-653
6 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/29(日) 00:39:02.48 ID:RQP9IVso
駄文文! ◆dJNUgCnIng 「」
 1[09/08/16] >>657-672 2[09/08/17] >>675-683
 3[09/09/02] >>703-706 4[09/09/16] >>781-784
 5[09/09/20] >>795     6[09/10/26] >>885-887
 7[09/11/12] >>938

vqzqQCI0 「どんだけ☆エモーション セカンドシーズン」
 1[09/09/04] >>710-716 2[09/09/12] >>751-757
 3[09/09/16] >>770-777 4[09/09/25] >>797-801
 5[09/10/02] >>810-818 6[09/10/10] >>824-836
 7[09/10/17] >>849-857 8[09/10/24] >>870-881
 9[09/11/01] >>899-909

◆/ShBG.hvjg 「」
 1[09/09/05] >>722-726 2[09/09/08] >>732-736
 3[09/09/09] >>742-746 4[09/09/13] >>762-766
 5[09/09/17] >>787-791 6[09/10/11] >>842-846
 7[09/10/18] >>863-867 8[09/10/26] >>890-894
 9[09/11/14] >>948-952

u4ZPDzk0
 1[09/11/11] >>919-935 2[09/11/12] >>939-943
 3[09/11/13] >>945     
7 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/29(日) 14:04:05.34 ID:feQL4e6o
>>3
変な携帯君が来ちゃったからねぇ
ウィルスにでも感染してるのかもしれんが
8 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/29(日) 22:19:48.85 ID:uNivCFwo
わざわざ埋めなくてもいいのでは?
に反応しなかったあたり嵐と判断してもいいような・・・
9 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/11/30(月) 16:12:36.75 ID:sDGJd6DO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
10 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/01(火) 00:49:31.87 ID:xIkMTuU0
てす
書き込めたらなんか書く
11 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/01(火) 00:53:59.26 ID:zlBB/J6o
wktk
12 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/01(火) 16:41:43.99 ID:991262DO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
13 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/02(水) 15:37:44.25 ID:Z6CIe.DO
乙!
14 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/03(木) 16:02:11.40 ID:IXVqGIDO
荒ぶる鷹の乙!
15 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/04(金) 15:26:17.03 ID:KgEzNYDO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
16 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/04(金) 18:28:40.15 ID:VOraZgAO
いつの間にか新しいスレが立っていたとは。
しかしこの流れで投下してくれる方がいるのだろうか…。
17 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/05(土) 00:12:55.16 ID:gQ4xs8co
>>16
執筆中でございます…
物語が進むにつれてどんどん書くスピードが遅くなってるwwwwww
18 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/05(土) 01:16:34.49 ID:h7N6j8o0
wktk
19 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/05(土) 09:44:05.19 ID:.ofwwcDO
乙!
20 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/06(日) 07:59:01.25 ID:9VnlHgDO
乙!
21 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/15(火) 10:32:09.41 ID:CBjbrf2o
ほす
22 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/16(水) 15:50:16.86 ID:JND6DYDO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
23 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/17(木) 15:53:33.21 ID:331k7IDO
乙!
24 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/18(金) 18:31:35.48 ID:WlwsCQDO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
25 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/19(土) 00:06:54.22 ID:kihmySEo
何もねーのに乙とか気持ち悪いな。
26 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/19(土) 01:46:23.57 ID:Vae2JADO
そろそろ年末ですから、忙しいんだろ?、と言い聞かせる俺がいる…
27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/19(土) 10:38:56.09 ID:TMYCTYDO
>>25
確かに
28 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2009/12/20(日) 16:33:00.68 ID:8g8FQbIo
お久しぶりです。お久しぶりなほど投下してませんが、しばらく休みます。
1月中旬頃に再開できるかとおもいます。ではノシ
29 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/20(日) 18:59:37.13 ID:ediQSYDO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
30 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/21(月) 16:30:16.65 ID:g1FghADO
保守
31 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/23(水) 21:28:50.23 ID:9LVQvAAO
新しくスレが立ったのに何という過疎。
盛り上げるために何か投下してみようかな。
32 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/24(木) 01:01:34.17 ID:hyAsAyQ0
>>31
wwktk
33 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/27(日) 18:45:09.14 ID:vls2fEDO
乙!
34 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/27(日) 19:08:58.18 ID:DonxiRAo
とりあえず乙!って書き込みが止むのを祈るぜ
35 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/28(月) 15:52:49.47 ID:46qUa2DO

36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saged]:2009/12/28(月) 17:44:42.98 ID:kyvud.Uo
>>34
じゃあ俺は空白だけの書き込みが止むのを祈るぜ
37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/29(火) 15:12:26.71 ID:84EHhZM0
>>36
反転するとなんか書いてあるんだぜ
まぁ何も書いてないのと同じようなもんだがな・・・
38 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/29(火) 15:30:24.44 ID:gFPA2Nc0
投下するために書いてたやつ消えて涙目。

誰か女の子になって俺を慰めてくれ。
39 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/29(火) 22:30:05.13 ID:OcCJb.DO
嫌だ
40 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/12/30(水) 16:36:27.02 ID:uYnBQoDO
黙れ!
41 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:30:19.03 ID:MuoL59Q0
明けましておめでとうございます。
HKOKスレprat3入りもおめでとうございます。

皆様、ことしもよろしくお願い致します。

正月休みの妄想である程度お話の流れを作ったので、いっそ見切り発車します。

それでは投下初め。
42 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:33:41.42 ID:MuoL59Q0


「うー……あー……なんだこれ」


帰ろうと、歩を進めた矢先、めまいが襲ってきた。
脳みそがぐわんぐわんと揺さぶられてるような感じだ。

さっき先生にあんなことをされたせいだろうか……。
あのとき、なんだか頭の中がバチバチと火花を散らせてショートしたような衝撃を味わった。
回線をつなぎ間違えてる感じで刺激に感覚が伴ってないというか……
ああもう、良く分からないし、説明しにくいがそんな感じだ。
快感でもなく、苦痛でもない、良く分からない真っ白な感覚になってあとは良く覚えていない。

先生は気持ちよくなるのかとかなんとか言っていた。
女性があんなことをされて気持ちが良くなるということは、そりゃあ知っている。
でも実際に体験したことは無い……もちろんさっきのはカウントに入らない。
そういうことを、されたことはもちろんあるわけない。
してあげたことも……ない。
別に好き好んでしようとも思わないけれど。
いやいや、そんなことはどうでもいい、何考えてるんだ。
まったく顔まで熱くなってきた、きっと真っ赤になってる。

とにかく体はこんなになったけど、精神的には元のままなのだと思う。
そんなチグハグな状況が、さっきの感覚の原因なのかもしれない。
それだけ気に留めておけばいい、余計なことは考えない。
平常心、平常心。

まてよ……自分を慰めるときは、どうなるんだろう。
というか……どうすればいいんだろう。


「ま、まぁ、どうでもいいや、帰ろ」
43 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:36:26.30 ID:MuoL59Q0


感情から目を逸らすように横に振った首。
ふと、視界に職員専用トイレが入る。
職員室のすぐ隣りにあるだけに、これがとても恨めしい。
職員専用でなければ、来る足でわざわざ、2階まで出向いて用を足さずにすんだものを、
げんこつを食らわずにすんだものを……。
なんだかイライラしてきた。
平常心、平常心。


「定時の奴らももう帰ってる……。」


視聴覚室兼定時制夜間部の教室、来るときにはまばらにあった人影も今はもう一つもない。


「静かだな……。」


つづけて通り過ぎる音楽室、ここも真っ暗だ。
そういえば、うちの音楽室にも怪談がある。
でも目が動くとかいうのはない、うちの音楽室にあの人はいない。
でもその代わり、夜な夜なピアノが鳴るらしい。
でも今日は鳴っていない。
今日は幽霊も早く帰りたいのだろう。
いやひょっとしたら風邪でも引いたのかもしれない。
いつもならピアノの様子を確認しに行くところだが、今日はスルーして帰る。


「怪談の事考えながら、階だ……。」


ここまで口走って、急に恥ずかしくなった。
あととても悔しくなった、ちくしょう。
44 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:40:48.75 ID:MuoL59Q0


「ううー……ばかやろう……」


ぶつけようのないイライラと、得も言われぬクラクラに苛まれながら、階段を下る。
明かりがほとんどない夜の学校、薄暗い階段に足音が良く響く。
これがちょっとしたホラーなのだが、もう慣れてしまった。


「もうすぐ12時回るし……真っ暗だし……」


暗いのと、膝とかに力が入らないせいで、一歩一歩一段一段おっかなびっくりゆっくり階段を下る。
だから1階分下るのにも無駄に時間がかかる。
一番上の3階からだから、無駄に無駄に無駄に時間がかかる。
ああ早く帰りたい。


「今日、満月か……きっと外のほうが明るいな……」


窓の外を一瞥する。
昼間なら見えるはずのグラウンド、グラウンドの右手側の体育館、左手側のプール、
全部とっくに明かりが消えて、月明かりがうっすらと照らす影だけが浮かぶ。
私立のこじんまりとした学校なので、校舎はひとつしかない。
その校舎の中にも、おそらくもう俺以外の生徒は居ないのだろう。
俺は、面接を受ける時間が一番遅い部類の一人だからいつものことなのだが、
今日に限ってはそれがなんだか恨めしい。
またイライラしてきた。
平常心、平常心。
45 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:42:47.02 ID:MuoL59Q0


「ちゃんと手すり直せよな……」


うちも、学校としての基本的な設備は一通り揃っている。
だが、いかんせん由緒正しい歴史が、これらにもしっかりと刻まれている。

まあ、要するにボロい。

バリアフリーに関する部分だけでも保修をしっかりして欲しいものだ。
お年寄りとか、今の俺とかが非常に困る。


「はぁ……」


やっとの思いで1階まで降りたら、思わず年寄りみたいにため息を付いてしまった。
なんか今日は、こんなのばっかりだ。


「帰ろ……」


トボトボと、長い廊下を玄関目指して歩く。
非常灯と消火栓の緑と赤しか、いつもなら見えないところだけど、
今日は月明かりがあった。


「え……うそ……」


今日は、「理不尽」がてんこ盛りな日だ。
いろいろな面倒くさいことが山のように降りかかってきた。
これでもかというほど降りかかった面倒事に、俺の幸せな日常はすっかりうもれてしまった。
こんな不思議なことは、もっとそういうことを期待している人間に降りかかれば良い。
自分は、いつもと変わらない日常だけあれば幸せなんだから放っておいてほしい。
こんなことになって、いったい俺にどうしろというのだ。

でも……

こういうのをみると、そういう理不尽もちょっとだけどうでも良くなる。
46 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:44:23.62 ID:MuoL59Q0


「すげぇ……」


柄にもなく息を飲んだ。
いつもの道が、いつもと違っていた。


「綺麗だ……こんなこと……あるんだ……」


月明かりの差し込む一直線の廊下。
休暇前だからだろうか、ワックス掛けたての床はツヤツヤしていて、
反射した月の光が、校舎の出口がある廊下の終わりまで、
キラキラの月明かりの道を作ってくれていた。


「ひょっとして、足元照らしてくれてんのかな。」


普段だったら、ほとんど真っ暗な道。
今日は、宝石をばらまいた様に煌めいてる。


「ありがとなお月様。」


携帯を取り出して写真に収めようと思ったのだが、うまく撮れなかった。


「写真は無理か、でも帰ってクレアに教えてあげよう。こういうこと好きそうだ。」


クレアはまだ起きているだろうか、いつも通りならギリギリ間に合うかもしれない。


「あぁ……ほんとに綺麗だ。」
47 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:45:45.60 ID:MuoL59Q0


光の道を歩きながら、思う。

たくさんの理不尽があって、ひとつの良いことがある。

それが、バランスの良い日常の有り様なのかもしれない。

そして、それを共有できる友人がいることこそが、大きな幸せなのだと思う。

でもそれは、別にリアルの中だけの話じゃない。

だって世界中の大切な友人達と、あの箱の中で会えるから……。

今日も沢山の理不尽を味わった友人達が、皆がそこへ帰ってくるのだ。

彼らに迎えられ、そして彼らを迎えるためにも、俺も急いでそこに帰らなくちゃいけない。


「もうすぐ夏だけど、今日はお月見できるマップで狩るか」


帰ってやることがで見つかったら、俄然元気が出てきた。


「明日から夏休みだし、忙しくなるなぁ……」


時計はそろそろ、↑で重なる。

一年で一番長い、一年で一番忙しいお休みがやってくる。

多くの友人達と、多くの時を過ごせる事への期待は胸の中でどんどん膨らんでいた。

リアルに胸が膨らんでいるのも思い出したけど。

そりゃ、こういう不安もあるけれど。

だけど大きな期待は変わらない。

どんな出来事が待ってるだろう、どんな人と会えるだろう、どんな幸せがあるだろう。

月の光の道を歩く。

だんだんと早足になりながら歩く。

俺はまだ知らない。

俺は、もうすぐ始まる、この花やかな休暇のなかで……
48 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/01/04(月) 23:56:02.11 ID:MuoL59Q0

----------------------------------------
今日はここまでです。
続きは未定。
やっとお話が始まる感じです……長くて申し訳ない。
冬の寒さに負けず、敢えて夏のお話。
拙文ですが、よろしくお付き合いいただけると幸いです。

つづく。






『Flower * Vacation』//That rose is bluer than indigo

序章

第1話

"Day lily"
49 :A HAPPY NEW YEAR 2 0 1 0 ! [sage]:2010/01/05(火) 12:44:59.78 ID:OGQIBUDO
乙!
50 :A HAPPY NEW YEAR 2 0 1 0 ! [sage]:2010/01/05(火) 17:50:22.89 ID:lL.c7AAO
投下きてた

期待して待ってるよ
51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/22(金) 21:27:54.96 ID:4WgjKcAO
いくらなんでも過疎り杉じゃないか?
52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/01/23(土) 00:32:07.97 ID:nQ.ulOIo
前スレで投下の多かった三人がここでまだ投下してないからな
過疎るのも仕方ないべ
53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/24(日) 01:08:16.34 ID:xWYbLj2o
こんなスレがパー速にあったのね
現行の話で皆のオヌヌメは?
54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/24(日) 23:30:57.08 ID:Zsi9S6U0
現行のはどれもオススメなんだが、いつ更新くるか基本的にわからないからな・・・
とりあえず保管庫のを全部読めば良いんじゃないか?
55 : ◆/ShBG.hvjg :2010/01/24(日) 23:51:18.75 ID:18oYbQEo
いつ更新が来るか、それは今かも知れない。お久しぶりです。ついに10話ですー
他の方より一回の分量が少ないというのもありますが、
なんとかここまで続けることができましたーありがとうございましたー
投下しますー

前回までのあらすじ
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

※ややこしいのでこの回から作中劇の役名には[括弧]を付けます。
 [祐樹]役:岩崎悠介 [ユウカ]役:高原美恵
 [彰彦]役:上田雅人 [麻衣]役:吉里優衣
56 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/24(日) 23:53:39.94 ID:xWYbLj2o
いや、保管庫から面白いそうなのから読んでみたかったから
現行のからオススメあったらその人の過去作見てみようかなーと
57 : ◆/ShBG.hvjg :2010/01/24(日) 23:55:17.09 ID:18oYbQEo
「傑作だったわよー二人」
優衣の笑い声が部屋いっぱいに広がった。
ここは比古女神社に隣接する雅人の家の大広間。
合宿練習をするために用意してくれた部屋だ。

寝泊まりする部屋に荷物を置いてジャージに着替えた私たちは、
大広間に集まってさっそく練習の打ち合わせを始めたのだが、
そのうちただの雑談になっていた。

雅人の「どうしたの?」という問いに応じて優衣が説明をはじめた。
「だってとっくに雨止んでるのに、二人で相合い傘なんだもん」
それを遮るように悠介が言い訳をする。
「あ…相合い、傘って、急に雨降ってきたから入れてもらっただけで」
「怪しいなあ。私が声かけたら慌てて傘仕舞ってたじゃない」

後ろからやってきた優衣に声をかけられた時放心状態だった私は、
雨が止んでいた事にやっと気付いて慌てて傘を仕舞ったが、
相合い傘を意識してというわけではなかった。
58 : ◆/ShBG.hvjg :2010/01/24(日) 23:56:10.04 ID:18oYbQEo
顔を赤くして目を伏せた悠介が誤解を広げる中、
いったいどうして釈明しようかと考えていると、
ふすまが開いて40代くらいの男が雅人の父親と共に入ってきた。

「みんな。吉里政男さんが来られたよ」
雅人の父親に紹介された吉里氏は広間の中心に固まっている私たちを見ると、
「やあどうも。演技指導にと呼ばれたんだが、さっそく練習しているみたいだね?」
と挨拶した。吉里氏は優衣の叔父さん。私たちがやる劇の台本を書いてくれた人だ。
台本だけでなく演技指導までやってくれるというのだから、それだけ劇が好きなのだろう。

「おじさ〜ん!」
優衣が突如立ち上がって開いたふすまのほうに駆け出すと、吉里氏に飛びついた。
「ありがとう来てくれて。今ね、10幕のシーンについて話し合ってて」
別に取り繕う事もないと思った。所詮学園祭の劇だ。
「へえ。相合い傘って聞こえたような気がしたのだが」
どうやら雑談は部屋の外まで筒抜けだったようだ。

しかし優衣は気にせず畳み掛ける。
「でね、[彰彦]と[麻衣]が歩くところで相合い傘にしたら雰囲気がよく伝わる気がするんだけど」
吉里氏は優衣の勢いに押されながらも慣れているようで、
「はいはい、えっとどういうシーンだったか」と鞄から台本を取り出して確認すると、
「ん、まあそれでいこうか。いいよね?」と優衣の肩ごしに私達に向かって言った。
59 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2010/01/24(日) 23:57:01.99 ID:18oYbQEo
演出の小変更で特に困ることも無いので三人そろって「はい」と答えると、
満足した顔で私達の居る部屋の中心にようやく向かってきた。優衣も一緒に戻ってくる。
吉里氏は真っ直ぐ私の所に来ると、私に話しかけた。
「君がギャップちゃんだね。ヒロインは台詞多いが頑張って」
あんまりなあだ名を付けられた事にずっこけそうになりながらも、
「初めまして、よろしくお願いします。ようやく一通り頭に入ったところです」
と、挨拶を返した。

吉里氏の演技指導は流石に本格的で、かなり細かいところまで指示が入った。
今までやってきたことは演技ではない。そう思えるほどだ。

「そこ。ただ驚くだけじゃなくて、切なそうに視線をずらして」
雅人が演じる[彰彦]と、優衣が演じる[麻衣]が仲良く歩くシーン。
優衣の提案で相合い傘になった場面だ。
それを私が演じる[ユウカ]が目撃するというベタな展開なのだが、
[ユウカ]の複雑な感情を表現しろという注文が付いた。

[祐樹]が[ユウカ]に変身してしまう前は、仲が良かった三人。
当然、[彰彦]と[麻衣]が仲良くしていてもそれが普通だった。
でも[ユウカ]になり[雅彦]と付き合うようになってからは許せなくなっていた…。

現実にあてはめて考えてみると、私が雅人に嫉妬するようなものだ。
いっそ本当に嫉妬してしまえば演技も楽だろうが、元々男同士だから無理がある。
60 : ◆/ShBG.hvjg :2010/01/25(月) 00:01:07.02 ID:i0hw3KYo
一方の優衣はというと、これでもかと嫉妬を誘うような演技だ。
自然体な雅人も満更でも無さそうな様子で、
知らぬ人が見れば恋人同士と思ってしまいそうな空気を作り出していた。

これで私が大根役者だと一気に冷めてしまうだろう。

残る悠介は出番が少なく殆ど脇役の代役として練習に付き合っているだけなので、
結果的に吉里氏の指導は、その多くが私に向けられることとなった。
お昼ご飯を挟んで練習は続き、ようやく終幕までの確認が終わった。

「それじゃぁ休憩しようか」
吉里氏の言葉と同時に、上田家のお手伝いさんがお茶を持って入ってきた。
かなり優秀なお手伝いさんで、いつも良いタイミングで現れる。
以前私が悠介だった頃にこの家に泊まった時も、その神出鬼没ぶりに驚いたものだ。

はじめてそれを体験した優衣は目を丸くして驚いていたが、
吉里氏は何の環境の変化もないといった感じで二人分のコップを受け取ると、
私の前に座ってコップをよこした。
立っていた私が座ってコップを受け取るのを見て、吉里氏は話し始めた。
61 : ◆/ShBG.hvjg :2010/01/25(月) 00:02:19.98 ID:i0hw3KYo
「ちょっと失礼な話になるんだがね、優衣の言ってたギャップがわかったよ」
演技の指導をした吉里氏には一目瞭然だろう。
「動きが男っぽい、ということですか?」
「ああ自覚してるのか。うん、そうか、成る程」
なにを納得したのか解らないが劇のような境遇になっているとは気付くまい。
会話が早急に結論に達したために何を話すこともなくお茶を啜っていると、
よそ見をしていた吉里氏がポツリと言った。
「君は、岩崎悠介君と相性がよさそうだ」

吉里氏の視線を追うと、
悠介が優衣と打ち合わせをしながら私と同じようにコップを傾けている。
視線を戻すと吉里氏はもう立ち上がって優衣の方に行こうとしていた。

話し相手を失った私は雅人の姿が無いことに気付いて部屋を見渡すと、
ちょうど障子の向こうに黒い影が見えた。
しかし襖が開いて出てきたのは、上田家の優秀なお手伝いさんだった。

「高原さん、ちょっとよろしいですか」

第十話END
62 : ◆/ShBG.hvjg :2010/01/25(月) 00:03:13.40 ID:i0hw3KYo
まるで最終回のような冒頭コメントでしたが、まだまだ続きますーwwww
打ち切りを期待した方がいたらすみませんwwwwたぶん20話くらいで終わる予定です。
今度こそ頑張って最後まで続けますよww
63 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/25(月) 01:36:55.21 ID:nL9mp2I0
よかった続いてた!
20話まで楽しみにしてるよー
64 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/01/26(火) 08:08:20.00 ID:9GJBvQI0
GJ!
これでスレが盛り上がれば嬉しいです
65 :パー速のローカルルールが変わりました :2010/02/11(木) 18:43:46.21 ID:Q5pnEsAO
過疎。誰か投下してくれる人、居ないのかな。
66 :パー速のローカルルールが変わりました :2010/02/13(土) 08:36:39.27 ID:PAndFcAO
このスレ自体廃れているから無理。
書き手もレスのつかないスレに投下する気がわかないのでは?
67 :lain. [sage]:2010/02/15(月) 21:07:31.09 ID:???
パー速のローカルルールが変更され、
SS、やる夫系スレはニュー速VIP避難所(クリエイター)【http://ex14.vip2ch.com/news4gep/】へ移行することになりました。
(次スレを立てられるようであれば)移動はこのスレが埋まってからで構いませんので、
上記の件を把握されましたらご返答お願いします。
68 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/02/15(月) 23:37:34.56 ID:b6tpgUoo
次スレまで何ヶ月かかるだろうww
69 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/02/16(火) 00:36:01.75 ID:Ahe60LA0
次スレになる頃には忘れてうっかりここに次スレが出来てしまうオチが見える・・・
70 :u4ZPDzk0 :2010/02/22(月) 03:07:06.53 ID:lI88wOc0
投下する気はあるのですが、書く時間が無いです……申し訳ない。
遅くなりました、少しだけ投下です。

がんばって次スレを目指しましょう。
71 :u4ZPDzk0 :2010/02/22(月) 03:09:26.90 ID:lI88wOc0


「うわー、だいぶおそくなったな……」

月明かりで手元が明るい。
手間取ることなく下駄箱から靴を取り出せる。

「部活終わって帰っとけば良かったなぁ、
生徒会の仕事までこなすんじゃなかったよ……
ま、あと10分ぐらいで夏休みだし、いいか。」

はるか昔に下校時刻を過ぎている。
普通なら、下校時刻をちょっとでも過ぎれば見回りの教師に怒鳴られるのだが、
今日の当番である教師は特別だった。

「馬木先生、いいのかな、こんな時間まで生徒を残らせて……」
しかも、鍵返しに行ったら仕事してなかったし……」

あの人は、生徒に寛容で、しかもかなりの美人だ。
当然、生徒の間、特に男子生徒達からは圧倒的な人気を誇っているのだが、
いかんせん圧倒的に仕事に対する熱意がない。
生徒に寛容、もとい生徒にあまり興味がないと言った方が良いのかもしれない。
そんなわけであの人の教師としての資質には甚だ疑問を感じてはいるのだが……

「まあ、それでも一応授業はちゃんとするし……」

今回は、あの人のお陰で夏休みに入る前に、ぎりぎり滑り込みセーフで
仕事を片付けることができたわけだから、素直に感謝しておかねばなるまい。

「さてと……」

足だけの動作で、無理やりかかとを靴にはめ込む。

「帰りますか、って……」

足元に置いていたかばんを拾い上げようと振り返った、ちょうど目の前にその不審者は立っていた。

「うぉわっ!?」

どうみたって不審なその格好、マスクとニット帽の間から覗かせている目が丸くなっている……
不審者も驚いたのだろうか……
どうしよう、とりあえず逃げて――
警察に通報――?
いやまて、襲われるならもう背中からざくっとやられているんじゃないのか。
ど、どうする……
72 :u4ZPDzk0 :2010/02/22(月) 03:10:15.94 ID:lI88wOc0

「こ、こんばんは」

確かに生徒会役員たるもの、普段から礼儀正しくあらねばならないとは心がけている。
礼儀は大切だ……って、そんなものは時と場合によるだろう。
思いのほか気が動転していることを認識した。

「……」

不審者は微動だにしない、とりあえず突然襲い掛かられるようなことは無かった。
見つかってしまったことに動揺したのか、相手も目が泳いでいるような気がする。
とにかく怪しい。

「君、この学校の生徒?」

間髪を入れず、コクンと不審者の首が縦に振られた。
……あれ、うちの生徒なのか。
予想と違う結果に、思わず拍子抜けしてしまう。

「もしかして通信制の……馬木先生と面接?」

少し間をおいて、また首が立てに振られる。
いかにも怪しげな格好だが、通信制の生徒と言うのであれば何か事情があるのかも知れない。
ならば、これ以上の余計な詮索はしないほうが良い気がする。

「ああ、ごめん。
制服でわかると思うけど、僕は昼間部だから通信制ことは全然分からないんだ。
変に驚かせちゃって悪かったね……。」

今度は、首が横に振られる。
気にするな、ということなのだろうか。
思考を巡らせている間に、不審者、もとい通信制の生徒だという彼は、
スタスタと自分の靴を取りに行ってしまった。

「やれやれ……でも不審者じゃなくてよかった」

件の不審者というは、いきなりナイフで切りつけたりする切り裂き魔紛いのこともやるらしい。
もしそんなのと出会っていたら今頃本当に死んでたかもしれないのだから、本当に恐ろしい話だ。

「……僕もはやく帰ろ」
73 :u4ZPDzk0 :2010/02/22(月) 03:15:28.98 ID:lI88wOc0

玄関口へ歩きだすと、下駄箱の向かい側で靴をはき終えて出てきた彼と
、自然と並んで歩く格好になってしまった。
不審者と勘ぐった手前、横に並んで歩くのが申し訳なかった。
少し、歩幅を狭めて、一歩後から付いていくようにしている自分。

「……」

無言のままの彼の足が、ちょうど玄関の扉をくぐったところでとまった。
また並んでしまった。
このまま知らぬ顔で帰るべきかと思案し、彼の様子をうかがおうと横目で見る。
空を見上げている彼。
自分も釣られて上を見た。

「ああ……今日満月なんだね、だからこんなに明るかったんだ。」

彼の視線が此方を向く。

「ええと僕は歩きだからこのまま裏門から出るけど……その格好だと君は自転車?」

首は縦に振られる。

「そっか、それじゃ、ここでお別れだね。
 ……って特に何かしたわけじゃないけど。」

「……」

苦笑する自分。
結局終始無言の彼だが、今回はコクンと首を縦に振ったあとに、
右手でさよならをしてくれた。

「ありがとう、それじゃあね」

こちらもさよならをして、互いに背を向ける。
そして歩き出そうとした目の前に、いつの間に現れたのだろう
見知らぬ人間が三人立っていた。
74 :u4ZPDzk0 :2010/02/22(月) 03:16:05.91 ID:lI88wOc0

A「まったく、たまにしかこねえお前が来るって言うんでわざわざ待ち伏せしてやったのに、
 昼間部の奴とこんな時間までデートかよ、お、ひ、め、さま」

B「ひゅーひゅー、月明かりの下でおあついねぇ、お二人さん」

C「この前の俺らにあんな事しといてさぁ……いい度胸してんじゃん」

いかにも不良という雰囲気の三人組、自分の後ろに居る彼に向かって、
口々によくわからない言葉を吐いている。
しかし、彼は立ち止まることも無く、駐輪場のほうに歩いていこうとしていた。
それに対して、挑発していたはずの彼らが逆に切れた。
彼へ走り寄って、そのまま襟首をつかむ。

A「テメェ、シカトこいてんじゃねえぞ。
 こないだはよくもやってくれたな。
 あんときの借り、返させてもらうぞ。」

不良は、左手で彼の襟首を押さえたまま、右腕を振りかぶって、
そのまま彼の顔面めがけて拳を叩きつけようとした。
それを彼は、慣れてるかのようにふいと避ける、すかさず不良の襟首と袖をつかんだ。
その格好を見て、授業で習った柔道の投げ技を思い出した。

僕「ちょ……投げる気!?」

切れのある彼の動きは、授業中の練習試合で
僕を投げ飛ばした柔道部員を髣髴とさせるものだ。
下が芝生とはいえ、投げられれば間違いなく戦闘不能だろう。

A「クソッ」

もう遅い、足を払われたら後はそのまま、なすすべも無く投げ飛ばされる。
経験者が語るのだから間違いが無い。
と、思った瞬間、ガクンと彼の体制が崩れ、腰に不良を乗せたまま地面に転んでしまった。


75 :u4ZPDzk0 :2010/02/22(月) 03:16:31.35 ID:lI88wOc0

A「はっ、驚かせやがって……
 足腰弱ってんのか、こりゃいいや」

体勢を立て直した不良は、まだ起き上がっていない彼に、
あろうことか蹴りを見舞った。

彼「ぐ、うっ……」

初めて聞いた彼の声は、悲痛な呻き。
そこにさらに、二度、三度、と蹴りが入れられる。
さすがにやりすぎだ、このままじゃ喧嘩で終わらなくなるかもしれない。

彼「が、ぁ……」

僕「おい止めろッ」

叫んで、彼に走り寄った。
うずくまって動かない、帽子もマスクもとれしまっている。
だが咄嗟に庇ったのだろうか、顔面に目立つ怪我は無い。

僕「大丈夫……?」

上半身を抱え起こす。
小柄であるのは感じていた。
だけど、その軽さは見た目以上だった。
この華奢さで、あの不良を投げようとするのは無茶だ。

彼「ゴホッ…ゴホ…」

激しく咳き込む彼。
最初に背中を思い切り蹴られていた。
もしかすると息が上手くできないのかもしれない。
首まであげられているウィンドブレイカーのジップを下ろす。
これで少しは楽に……

僕「え……?」

彼の胸までジップを下ろしたとき、その感触は確かにあった。
なんてことだろう、自分はずっと勘違いしていたのだ。
目の前にいるのは、彼ではなく……

僕「女の……子……」

僕の腕の中に居たのは、「彼女」だった。
76 :u4ZPDzk0 :2010/02/22(月) 03:19:47.47 ID:lI88wOc0
第1話"Day lily"-----------つづく


今日は以上です。

77 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/02/22(月) 21:16:58.23 ID:XcShJvY0
続きwktk
78 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 21:53:54.84 ID:IlZVyyM0
前スレからすっかり遠ざかってましたが如何お過ごしでしょうか。

リアルに忙しくて話を作る暇もなく、ほとんど投げっぱなしでした。
正直、投下を止めようかとも思いましたが途中まで話を作っていたので
もう少し頑張ってみようかと思います。

それではもう少しの間、お付き合い下さいませ。
79 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 21:55:51.93 ID:IlZVyyM0
どんだけ☆エモーションSS(その10)

(ミヒロ視線)

「サッカー部の活動はどう?」

「うん、順調かな」

園生ちゃんの質問に私はエビフライを箸でつまみながら笑顔で答える。
その横で類ちゃんは私に寄り掛かりつつ手製のオニギリを頬張っている。

私のサッカー部入部が決まって数日経ったある日の昼休み。

天候が良いのでいつものように中庭でそれぞれ持ち寄ったお弁当を囲み、
私と園生ちゃんと類ちゃんの仲良し3人組は昼食を取っている。

園生ちゃんの質問に答えた通り、
私のサッカー部マネージャーとしての活動は順調そのものだった。

まあ、元々自分が居た部であったし、居る部員も知らない人間達では無いので
すんなりと馴染んだ。皆が歓迎ムードで私を迎え入れてくれた事もあるけど。
当然ながら自分は"ヒロアキ"ではないので、"ミヒロ"としてサトシ以外の
サッカー部メンバーには初めて接するような振舞いをしなければならない。

「ミヒロちゃんって、結構アクティブだよね。
サッカー部ってこれまで女子のマネージャーって居なかったから
サッカー部の男子にとっても初めての経験だよねー」
類ちゃんは私の様子を興味深そうに眺める。
80 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 21:56:39.88 ID:IlZVyyM0
「私も色々考えたよ。でも、結論として私もサッカーが好きだから
マネージャーとして参加できれば、と思ったんだよね」
私はおかずのサトイモを箸でころころとお弁当箱の中でドリブルのように転がし
最後には自分の口の中に入れる。
「まあ、確かに先日のスーパープレーを見てしまったら誰もミヒロちゃんの
入部に文句言う人間なんて居ないよね」
私の話に類ちゃんも納得した感じで頷く。

「そろそろサッカーの地区予選が始まるんだ。時期的にも忙しくなるし、
マネージャーが必要だよね? だから私、入部したんだ」
「ふ〜ん? 目的はそれだけなのかな?」
私の説明にジト目で園生ちゃんは見てくる。

「な、何? それ以外、何か?」
私は彼女の視線におののく。
「別にぃ〜。だけどわたしとしては、ね」
園生ちゃんはそう言うとお弁当の残りをつつく。

「…」
私はそんな園生ちゃんの姿を見つつ、先日の彼女とのやりとりを思い起こす。

         ◇
81 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 21:57:30.49 ID:IlZVyyM0
場面は数日前に戻る。

私と園生ちゃんの二人は人気の途絶えた渡り廊下に居た。

頬を赤く染めて私の顔をじっと見つめる園生ちゃんと
ドキドキして顔を赤らめてはいるものの呆然としている私。

「…ど、どうしてその話を私に?」
園生ちゃんに動揺しつつも聞いてみる私。

それはサッカーの授業後に園生ちゃんが私に話してくれた告白。
…とは言ってもそれは"ヒロアキ"に対しての告白であって
今の私、"ミヒロ"に対してのものではない。

園生ちゃんのようないい子に告白されるのは嬉しい事ではあるんだけど
何故今このタイミングで、しかも私、"ミヒロ"なんだろう?
彼女の私と出会ってからのこれまでの経緯を色々振り返ってみるものの、
思い当たる節は無いので正直困惑している。

「…分からないの、それが。どうしちゃったんだろう?
でも今日のミヒロちゃんを見ていたら…どうしても話しておきたかったんだ」
園生ちゃんも戸惑った様子で答える。

「…私に?」
思わず問いかける私。
「うん」
今度はハッキリした口調の彼女。

「…言えなかったんだ、ヒロアキ君には。居なくなって今更なんだけど、
言わない事がこんなに辛いものだなんて分からなかったから、すごく後悔してるんだ。
だから自分の伝えたい事は言うようにしないと駄目だよね?」
話しながらも辛そうな表情を浮かべる園生ちゃん。
「…うん」
たぶん彼女はこれまでの事を思い出しながら私に話してくれているに違いない。
だから私はそれを聞いてあげなければならないと思った。

82 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 21:58:27.57 ID:IlZVyyM0
「彼が私の席の隣になった時、すごく嬉しかった。すでにサッカーを辞めてしまっていたけど
相変わらずわたしの気持ちは変わっていなかったんだ」
「…」
「だけど。本人を目の前にすると…緊張してしまうというか、何を話していいものか
分からなくって…。そうこうしているうちにヒロアキ君は…」
「園生ちゃん…」
自分の想いを切々と語る彼女の様子に私は何と言えば良いものか、
声はかけてみるもののそれ以上の言葉は続かなかった。

「…」
私はヒロアキの頃を思い出す。

自分の席のすぐ隣にいた園生ちゃん。
会話は殆ど無く、たまにチラリと見ても目を合わす事も無く。
だから私は特に気に留める事の無い、クラスメイトの一人としか彼女を
見ていなかった。だけど、まさかそんな風に思われていたなんて思いも寄らなかった。

「あ、ゴメンね、ミヒロちゃん。…困るよね? こんな話を聞かされても」
私の困惑する様子に気が付いたのか、園生ちゃんは申し訳なさそうに言う。
「ううん。私は別に大丈夫だけど…でも何故、その話を私にしてくれるの?」
始めの問いをもう一度園生ちゃんに聞く私。

確かに私は(設定上において)"ヒロアキ"の従兄妹であるので
"ヒロアキ"との接点は無いわけではないけど…。

「ミヒロちゃんって、雰囲気が似ているの。…ヒロアキ君に」

「え!?」
彼女の発言にビックリする私。
似ている…って、どういう事なんだろう?
以前もサトシとの一件で似たような事があったので妙にドキドキする。

「そ、それって、どういうこと?」
動揺しつつも訊ねる私。
83 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 21:59:58.43 ID:IlZVyyM0
「うん。不思議なんだけど、ミヒロちゃんが転校してきた初日から感じたんだ。
…なんだか似ているな、って。"ヒロアキ君"と"ミヒロちゃん"が。」
「…」
彼女の言葉に硬直している私。まさか私の正体に感づく人間がいようとは。
しかも、席が隣りとはいえ、ほとんど交流も無かったクラスメートに。

「ん? あ、ゴメンね。従兄妹どうしだもんね、雰囲気が似ていて当然だよね?
言い方が悪かったよね? 気に障ったらゴメンなさい」
私の様子を見てフォローする園生ちゃん。

「…」
「雰囲気だよ? 姿かたちが同じなわけじゃないからね? なんか…こう、
仕草とか、話の節々からの表情とかが何だか似ているかな?って」

「よ、よくそこまで分かるよね…」
思わずうろたえ気味の私。
「うん、だってわたし見ていたもの。ずっと、…彼の事。
たぶん向こうは気付いてはいないだろうけど、
ずっと目で追っているんだよね。わたし自身も困っちゃう位」
顔を赤らめつつも言葉を返す園生ちゃん。

「そこまで私のこと…じゃ無くって、ヒロアキ兄の事を…」
彼女の様子を見つめつつ、呟く私。

「さっきのフットサル。サトシ君とミヒロちゃんのコンビネーション。
…ホント凄かった。一年前に見た"あの二人"の動き、そのものだった。」

「…」

「そんな光景を見ていたら、わたしの気持ちが
居ても立っても居られなくなったんだ。
ミヒロちゃんに…わたしの"想い"をどうしても聞いて欲しいって」
園生ちゃんはそう言うとじっと私を見つめる。

頬を赤く染め、潤んだ瞳で私を見つめる彼女の眼差しは
まるで恋人か大切な人へ向けられている、そんな感覚に私はとらわれた。
84 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 22:03:48.20 ID:IlZVyyM0
「…」
何も言えずその場に立ち尽くす私。

…。

……。

色々な事が私の頭の中を駆け巡る。

それは自分の正体がバレたらどうしようかといった不安であったり、
私の事をそこまで思ってくれている園生ちゃんへの切ない想いであったり、
彼女を騙している申し訳なさであったり…
「…」
様々な思考が頭の中でごっちゃになった後、真っ白になり
私は硬直してしまっていた。

「? おーい、どうしちゃったの? ミヒロちゃん?」
私の様子に声をかけて軽く私の肩を揺する園生ちゃん。

「…え、あれっ?」
彼女の呼びかけにハッと意識を取り戻す私。

「ふふっ、おかしなミヒロちゃん」
気が付くとさっきまでの辛そうな表情が無くなり、
いつもの明るい雰囲気の園生ちゃんに戻っている。

「ご、ゴメンなさいっ、ちょっと色々考え込んじゃって…」
私は動揺の色を隠せずあたふたしてしまっている。
「…ふうん、そうなんだ」
園生ちゃんは笑みを浮かべて私の様子を見、
そして両手でぎゅっ、と私の両手を握ってくる。
「え」

「ミヒロちゃんに関係ない話ばかり言って困っちゃったよね? ゴメンね」
「え、そ、そんな」
彼女の言動に相変わらずオロオロする私。
「でも聞いてくれてありがとう、ちょっとスッキリしたかな?」
「そ、そうなんだ…良かった」
「…これが本人ならもっと良かったかな? うふふ」

「…あはは、そ、そうだね」
「うふふ」
園生ちゃんの笑いにつられて笑う私。
彼女の明るさがさっきまでの切ない気分を和らげてくれる。

でも園生ちゃんの私に話しかけてきた時の表情。

…あれは私に何かを訴えかけるような感じだったように思えた。
私自身そんなに鋭い人間ではないけど、
彼女の"目"が私の心の中に何か強い気持ちをぶつけているような
そんな気がした。
85 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 22:04:37.41 ID:IlZVyyM0






……。



        ◇

「おーい、どうしちゃったの?」

「え?」

一人で物思いにふけていると横から類ちゃんが私の頬を突付いてきた。

そこで私は現実に戻される。
そう言えばまだお昼の最中だったんだ。

私がハッとして辺りを見渡すと園生ちゃんと類ちゃんが私を見つめている。

「ミヒロちゃん、考え事しちゃって。何か悩み事かな?」
園生ちゃんは既に昼食を食べ終わっていて、自分のお弁当箱を片付けていた。
「う、ううん。ちょっと回想シーンに浸っていたと言うか、何というか」

「回想?」
類ちゃんは不思議そうな表情を浮かべると寄り掛かったままで
私に抱きつく。

86 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 22:05:56.45 ID:IlZVyyM0
「ちょ、ちょっと、類ちゃん?」
「ミヒロちゃんも早く食べ終わってゴロゴロしようよ〜ww
こんなにいい天気だからお昼寝すると気持ちいいよ?」
お腹が一杯になったせいか、眠たそうな様子で私にベタベタしてくる類ちゃん。

「分かったから、離れてくれないとご飯が食べられないからね?」
困った表情を浮かべる私。
「え〜? なんで〜? いいでしょ〜? 気持ちいいのに〜」
私の言葉には気にも留めずまとわり付いたままの類ちゃん。

確かに類ちゃんの柔らかい感触は私にとっても気持ちいいんですけど、
でも、こうしていると…



…( ゚д゚)ハッ!

横から突き刺さるような視線を感じる私。

「…」
恐る恐る振り向くとそこには満面の笑顔で私たちを見つめている
園生ちゃんの姿が。



そうなのだ。

最近気になるのは園生ちゃんの私に対する態度。
私が他の女の子と仲良く話をしているとその後妙に素っ気無いんだ。

彼女曰く、私が他の娘と仲良くしているのを見ると気持ちが
落ち着かないとの事で、以前の体育の時間の着替えの時、
他の女の子の着替えを眺めていた私に言っていた。
87 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 22:07:03.34 ID:IlZVyyM0
そんなわけで今の園生ちゃん、笑顔を浮かべてはいるものの
明らかに不機嫌になっているんですけど。

でも仲良くする相手が類ちゃんだと特に問題は無いみたい。

















…だけど、スキンシップはNGのようでww

「そ、園生ちゃん? 私、別に喜んでなんかないからね?
だ、だって類ちゃんが勝手に」
「え? わたし、別に気にしてないよ? よくある女の子同士の
友情表現みたいなものだし」

顔は笑っているものの、明らかに目が怒っているよ?

園生ちゃん???
88 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 22:08:14.41 ID:IlZVyyM0


こういう場合の心得はとにかく彼女に構ってあげる事。

「そ、それじゃ、私も園生ちゃんに!!」
私はそういうとすかさず園生ちゃんに抱きつこうとする。

「え、ええっ!? ミヒロちゃん?」
いきなりの私の行動に慌てて避けようとするものの、
私の素早い動きにあっさりと捕まって抱きつかれる園生ちゃん。
男の時ならともかく、今の私は女の子。
女の子同士なら抱きついても全然問題ないよね?

「何で逃げちゃうの〜? 友情表現なのに?」
ちょっと甘えた感じで園生ちゃんに抱きついたまま、頬擦りしてみる私。

私と同様に細身で華奢な彼女ではあるけれども、抱きついた瞬間に
園生ちゃんの柔らかい感触と共に甘く良い香りがしてすごく気持ちいい。
…しかも何気に私よりも胸が大きいですしww

話の流れで思わず園生ちゃんに抱きついた私だけど、
普通であればこんなに可愛い娘に抱きつく機会なんてそうそう無い。

…うわ。なんだかすごくドキドキしてきた。
園生ちゃんだから尚更だよ。
89 :vqzqQCI0 :2010/03/02(火) 22:09:34.02 ID:IlZVyyM0
「だ、だって、いきなりだし…。やだ、もう、恥ずかしいよ」
口ぶりでは困った感じではあるものの、顔を赤くする彼女。
何だか嬉しそうにも見える。
「え、そうかな? でも園生ちゃんに抱きつく事が出来て嬉しいかもww」
「だ、大胆だよね…ミヒロちゃん、うふふ」
苦笑しつつも大人しく私に抱きつかれている園生ちゃん。
すっかり機嫌が良くなっているのが分かる。良かったww

「ちょっと!! ミヒロちゃん、ヒドイよ!
類を放って園生のところに行くなんて!!」
類ちゃんは類ちゃんで私が園生ちゃんに抱きついたものだから
非難の声を上げてくる。
「順番だよ? 私は園生ちゃんに抱きつく番だからね」
「そ、そんな順番なんてあったんだ…」
さらりと返す私と目を丸くして呟く園生ちゃん。

「じゃあ、類も!」
そう言うと、類ちゃんが私たちに抱きついてきた。

「ちょっと」
「類ちゃん?」
類ちゃんの強行的な行動に慌てる私と園生ちゃん。

もはや収拾の着かない状況になりつつあったりして。

ふう…。

それにしても女の子同士のお付き合いって、
(色々な意味で)大変だなぁ…などと思う私。

これまでの男同士の友情とは違う感じなので結構戸惑う事が多い。

でも園生ちゃんも類ちゃんもすごく可愛いし、
ホントにいい娘達だから正直なところ嬉しいんですけどね。
90 :vqzqQCI0 [sage]:2010/03/02(火) 22:12:22.72 ID:IlZVyyM0
今回の投下は以上です。
91 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/02(火) 22:37:45.13 ID:wAEdVZQ0
続きwktk
92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/03(水) 14:32:29.43 ID:LWGsdAAO
乙です。投下止めてしまったのかとオモタ。
前スレの投下してた他の人達、どうしたのかなー。
93 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/03(水) 17:36:14.57 ID:CLjNqw.o
>>92
前スレ終盤に書いてた4人(>>6 参考)のうち3人来てるよ。
過疎スレにしては良い方じゃないかな
94 : ◆/ShBG.hvjg :2010/03/07(日) 01:55:23.53 ID:sV29XSgo
11話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61
95 : ◆/ShBG.hvjg :2010/03/07(日) 01:55:58.42 ID:sV29XSgo
お手伝いさんに誘われるまま長い廊下を歩く。
どうせ雅人に呼ばれたのだろうとは思ったが、
なぜ呼ばれたのかは皆目見当も付かなかった。

屋敷内に人が少ないからか、廊下はとても静かだった。
自分の足音だけが響く。廊下が結構きしむのに、
お手伝いさんは何の音も立てずに歩くのだ。

幾つか角を曲がって、どうやら目的の部屋に辿り着いた。
「失礼します。高原様をお連れしました」
お手伝いさんが部屋の中にそう告げてから襖を開けると、
果たしてそこには雅人の姿があった。
しかしそれだけではない。神主の装束を纏った雅人の父親と、
そして自分の、つまり高原美恵の父親も座っていた。

「お父さん!?」
驚いて出た私の台詞に、美恵の父親は顔をゆがませた。
「いや、すまない。『お父さん』と呼ばせてしまって」
「えっ…」この人は何を言っているんだ。
「まあ美恵ちゃん座って。父から伝えないといけない事があるんだ」
そう言うと雅人は、意外な反応に戸惑って動けなくなった私の手を取り、
部屋の中に引っ張り入れ、廊下に誰も居ない事を確認してからしっかりと襖を閉じた。
96 : ◆/ShBG.hvjg :2010/03/07(日) 01:57:19.45 ID:sV29XSgo
「驚かせてすまない。そして、今日までご苦労様でした。悠介君」
雅人の父親はそう確かに、私がこの姿になる前の名前を言った。
「私が、いえ、俺の正体がわかるんですか!?」
「わかるも何も、私が貴方の魂を高原さんの体に入れたのです。
 早く経緯を貴方にお伝えしたいと思っていました。
 しかし貴方から来ていただいて助かりました」
「お父さんも雅人も、知ってたんですか」
雅人は黙って頷いたが、美恵の父親は固まったまま動かなかった。

「どこから話そうか、そう、貴方はやはり普通の人間ではない。
 もう少し正確に言うと、貴方は人間ではないのです」
「それは、どういう…」
「貴方はこの神社におわす産土神の、分け御霊です。
 この地域の五つの家には必ず一人は産土様の分身が居て、
 信仰を守るための役目が与えられる。貴方の生まれた岩崎家はその一つ。
 亡くなられた貴方のお爺様も、分け御霊でした」
わけの分からないことをスラスラ言われても頭がついて行けない。
雅人の父親の言葉を遮って質問をする。
「ちょっとまって。ワケミタマって何ですか」
「神の分身であり神そのものです。貴方は根本的には産土神と同一。
 ただ、人間として個別の人格を持ち、記憶等には一定の制限があるようです。
 そのため子供の頃は神性を意識することはありません。
 成人した頃から、一柱の神として意識するようになると言われています」
97 : ◆/ShBG.hvjg :2010/03/07(日) 01:57:47.87 ID:sV29XSgo
「俺が…神様…?」
「信じられないでしょうが、仮定としてでも理解してください。
 ここからが本題になります」

頭の中がぐるぐると渦巻いて、吐き気を催してきた。
俺が美恵になってからというもの、理解の範疇を超えすぎだ。
それら全てを神だからという理由で片付ける事はできる。
できるが、それはいくらなんでも反則だろう。
それでも目の前の神主は大まじめに語っているのだ。

「貴方はお父さん…いえ、高原さんが何故引っ越して来られたか知っていますか」
「確か変死の調査とか」
美恵の母親が話していたから知っている。
しかしそれと今の状況とどういう関係があるのだろうか。
美恵の父親に視線を送ると、彼は頷いて話し始めた。
「ああ、そうだ。この辺りで続出した変死事件、
 調査に行き詰まったから助けて欲しいと呼ばれたんだ。
 この事件の調査が終わり次第幹部ポストが約束されていたから、
 喜び勇んだ私は、家族を連れて本部のあるここに越してきたのだ。
 着任後すぐ目を通したレポートから、私は非現実的な存在が原因だと気付いた。
 しかし、科学的裏付けを求める調査でオカルト的なことを語るのは非常にマズい。
 一人でこっそり神社に相談しにいこうと思ったが、
 どうせなら美恵を連れて氏神様に挨拶をと思ってここに来た。
 だがそのせいで美恵は…」
98 : ◆/ShBG.hvjg :2010/03/07(日) 01:58:28.06 ID:sV29XSgo
最初得意気だった美恵の父親の顔はだんだんと曇り、ついには俯いてしまった。
神社の話に戻ったので、神主である雅人の父親がかわりに話を続けた。

「高原さんが来られたその時に、美恵さんが祟り神に襲われたのです。
 信仰心の強い人間を喰おうと祟り神が参道で待ち伏せていたようです。
 私がすぐ駆け付けたため、美恵さんの魂が喰われてしまう自体は防げましたが、
 美恵さんの体は、魂が完全に分離して抜け殻になってしまいました」
「そこになぜ私が?」
「人の体に入れるのは神か妖怪の類しかおりません。
 美恵さんの魂を体にそのまま戻す事は通常不可能なのです。
 そこで産土神の分け御霊の中でも人体年齢が同じ貴方の魂を分け、
 肉体が滅びないように一時的に入っていただく措置をとりました」
「という事は、美恵さんが元に戻れる可能性があるんですね!?」
「そうです。美恵さんは現世で生きる神となるための修行をされています。
 あと1ヶ月もすれば現世に戻り、元の体に戻る事ができるでしょう」
「あ……でも美恵さんが戻ると私は…」
「貴方は神ですから死ぬ事はありません。
 美恵さんの体を抜けていだたいた後、元々居られた本殿にお戻しします」

結局、死ぬのと同じ事ではないか。私の魂が分けられてからの時間は短いが、
悠介として生きた記憶がある分この世への未練はたっぷりだ。
99 : ◆/ShBG.hvjg :2010/03/07(日) 02:00:01.22 ID:sV29XSgo
畳の目を睨みつけていると、目の前にいる神主は深々と頭を下げた。
「辛い事でありましょう。しかしながら私どもは更なるご迷惑を承知で、
 大切な御願いがあってこの度お呼びしたのです」
悠介の父親は、神主らしい真っ直ぐな目で私を捉えて言った。
「祟り神を鎮めていただきたい」

「断る」
私はハッキリと言い放った。
「さっきから、言ってることが勝手すぎやしませんか?あーもう無茶苦茶。
 それでさらに面倒事を押しつけるって?産土神とやらに頼んだらどうですか」
荒々しい口調で繰り出す私の言葉を聞き、神主は愕然とした顔で硬直した。
そして彼にとってはとてもながい時間であろう数秒を経て、ようやく絞るように言葉を発した。
「しかし…しかしあなたがその産土神様なのです!
 我々人間は本来、神と対話する事はできない。
 神職の中でも特殊な能力を持つ私も例外ではないんです。
 現人神たる分け御霊の方にしかこのような相談は…」
「では、他の分け御霊の方に」
実際私はもう、どうでも良くなっていた。
話がすべてファンタジーに思えてきたし、自分が神だという話も信じ切れない。
だが、そんな私とは対照に神主はどんどん必死の形相になっていく。
「他の方はまだ幼かったり、ご高翌齢でとても…」

「誰が幼いって?」
そんな声と共に、急に襖が開いた。

第十一話END
100 : ◆/ShBG.hvjg :2010/03/07(日) 02:00:41.18 ID:sV29XSgo
また襖ENDか!すみませんww
そしてなんだか、ひょんな子設定が薄れてきた気がするww
次回はもうちょっと女の子な自分に戸惑う感じを…出せるかなww
101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/07(日) 22:44:43.49 ID:VwJ5RMc0
続き来てた!急展開で興奮がとまらんなコレは・・・
次回も襖ENDですね!?わかります!
102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/08(月) 08:32:31.56 ID:r4509YAO
乙。投下があると、一瞬盛り上がるよな〜。
103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/08(月) 13:40:56.52 ID:Kv.6DwDO
乙!
104 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/09(火) 13:10:24.21 ID:IkhkPUDO
乙!
105 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/10(水) 09:32:26.08 ID:KdrO92DO

106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/11(木) 09:58:29.66 ID:ejsICUDO
続きまだかな
107 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/12(金) 09:17:48.47 ID:e4sH5EDO
続きまだかな
108 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/12(金) 11:51:17.46 ID:gAF/9wAO
続きと言っても、続きで止まってる話はたくさんあるが?
109 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/13(土) 20:50:40.94 ID:P2H7cQDO
>>108
そうだな
110 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/15(月) 09:15:14.89 ID:DPQxe6DO

111 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/15(月) 17:21:27.87 ID:KHvBzGwo
過疎ってるねー
暇だしなんか短編投下しようかな。

地の文入ってるのと入ってないのだったらどっちがいいんだろか
112 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/15(月) 21:11:42.58 ID:7fTQ3UQ0
どっちでも書きやすい方でお願いします
投下wktk
113 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/20(土) 09:57:15.21 ID:/u6ZOSEo
復活したー

>>112 おk
ちょっと書いてくる
114 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/20(土) 21:20:54.72 ID:75cf6sDO
>>113
どうぞ
115 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/21(日) 09:37:07.18 ID:dkPVWwDO

116 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/22(月) 09:14:11.83 ID:h78GQcDO

117 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/23(火) 09:08:14.97 ID:5x5SDgDO

118 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/23(火) 21:18:00.04 ID:EeP3pYAO
書きこみ無しで無駄に消化させるなよな。
119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/25(木) 09:34:33.06 ID:e7db/gDO
まったくだ
120 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/25(木) 15:13:13.35 ID:TIn1LoQo
毎回同じ奴なのか?スペースだけとか何もないときに「乙!」だけとか。いつもケータイ野郎だ。
投下後の「乙!」まで疑ってしまうww
121 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/27(土) 09:27:25.22 ID:YVio/QDO
age
122 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/28(日) 09:31:21.76 ID:WeS09cDO
あげ
123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/29(月) 09:17:07.71 ID:MPdugMDO
age
124 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/30(火) 09:09:17.70 ID:ynTkjMDO
支援
125 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/03/31(水) 09:20:30.16 ID:DSkfZEDO
支援!
126 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:26:59.43 ID:SdDKn1.0
どんだけ☆エモーションSS(その11)


こうして騒がしくも楽しい昼休みも終わり、さらには午後の授業も
終わった後、いよいよ放課後を迎えた。

今日もサッカー部のマネージャーの日なので私は準備を済ませると
園生ちゃん類ちゃんと別れ、部室へと向かう。

「こんにちはー」
いつものように部室の入り口を開けて中に入る。

「こんちゃーす」
「待ってました! ミヒロさん」
先に部室に来ていた数人のサッカー部員が私の挨拶に返事をしてくれる。

「…むぅ」
男の運動部の部室らしく独特の汗臭さ漂う部屋の臭いに圧倒される私。
自分が男の時は特に気にもしなかった臭いではあったが、
性別が変わってみると不思議と気になる。

これも自分が女の子になってしまったからかな?
などと実感してしまう。

「さてと」
そう思いつつ、とりあえず部室の整理整頓をする。
サッカー部マネージャーとしての私の一日はこうして始まる。

マネージャーの仕事自体は部活動の準備や後片付けであったり、
試合の日程を見て活動スケジュールを作成したり、雑用や事務的なものが多い。

やることは少ないかな、などと思っていたが意外に仕事が多い事に気付く私。
127 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:28:35.13 ID:SdDKn1.0
もちろん、これらの仕事は全て私がやる訳では無い。
雑用は後輩部員達と一緒だし、事務的な仕事は顧問の先生やサッカー部の部長と
一緒にやっている。

以前、"部員"として活動していた頃は試合に勝つための練習に
ひたすら専念していれば良かった。

だけどこうした様々な裏方の仕事をやってくれている人たちのお陰で
サッカー部の活動は円滑に行われているんだな、と改めて感じる。

今後は私が裏方となって、皆を支えていかないとならないよね。

"目指せ全国"という目標に向け、これまでと違った形で携わって行こうと
私は考える。

"目標と約束"に向かって努力しているサトシに対して私の出来る事はそれ位しかないから。

だから今の活動はすごく充実しているような気がする。
もちろんサトシと一緒にいる事も大きな要因ではあるとは思うけど。

「えーと…」
部室に自分の荷物を置くと早速サッカーグラウンドに向かう私。
事前に女子更衣室で運動着に着替えているので特に準備することは無い。
とりあえずボールとか、練習に使う用具を出す作業をしに行かなければ
ならない。

早めに来たにも関わらず、主力メンバーは既にウォーミングアップをしている。
サトシもグラウンドの周囲を軽く走っていた。
128 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:32:54.42 ID:SdDKn1.0
「お疲れ様でーす」
私はウォーム中の数人のメンバーに挨拶をしつつ、作業を進める。
後輩部員も私と同様に準備作業を行っている。

「ミヒロちゃん、頑張っているな」
私の姿に気付いたサトシがランニングをしながらも私に声をかけてきた。

「サトシ、早いね? 終わってすぐ来たんだ?」
「まあね。時間もあまり無いから、練習メニューをこなしていかないとね」
サトシも笑顔を浮かべつつ、私の問いに答える。

思えばこうして学校内でサトシの方から声をかけてくるのは
サッカー部に入部してからだ。
こうやって周りの目を気にする事無く昔のようなやりとりが出来る状況。

…これこそ私が望んでいた、シュチュエーションかも知れない。
妙な充足感に思わず笑みが浮かぶ私。

「何か嬉しそうだね」
そう言いつつ、サトシも何故か嬉しそうな表情で私をじっと見る。
「そりゃ、活動に参加できるんだもん、嬉しいに決まっているよ。…それに」
「それに?」
言いかけてちょっと考え込む私に反応するサトシ。

「…アハハ、何でも無いやww さあ、頑張ろ!」
私はそう言うと逃げるようにサトシから離れた。
まだ私は続きのセリフを言っていないんだけど、自分の顔が
不思議と熱くなっているのが分かる。

「何だよ、それは? まあ、いいけどさ」
サトシはちょっと憮然とした様子でそんな私を見つめる。
129 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:34:49.58 ID:SdDKn1.0
かくして本日もサッカー部の練習が始まった。

練習の合間に水分補給する為のスポーツドリンクや汗拭き用のタオルを
準備してしまうとほとんどする事が無くなってしまった私。
とりあえず私はグラウンドの側に設置しているベンチに座り込むと
じっと練習中のレギュラー選手達の動きを見つめる。

「…」
さすがに大会予選前だけあって皆、緊張感を持って練習を行っている。
このピリピリした感じがとても懐かしく感じる。

そんな中でピカイチの動きをしているのは言うまでも無くサトシ。

サッカー部の入部当時から着実に練習を重ねてきたサトシは
この前対戦した私が言うのも何だけど、かなりレベルアップしている。
今やサッカー部のエースだもんね。

他のメンバーも私が知っている限りそれなりに出来るようになっている。
…この調子だと今回の大会、いいところまで行けそうな気がするかも。

そうこうしているうちに練習はどんどん熱を帯びてきた。

試合形式のゲームも本番さながらの激しさで観ているこちらも
ウズウズしてくる。
思わず身を乗り出してしまう私。

そんな時。

「危ない!! ミヒロさん!」
「え?」
後輩部員の急な呼びかけに反応する私。

プレー中の部員の蹴ったボールが思いっきりグラウンド内を飛び出して
私めがけて飛んできた。

しかもかなりの勢いで。
130 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:36:44.40 ID:SdDKn1.0
…だけど。

「よっ、とっ」

私は自分めがけて飛んできたボールをかわしつつ、つま先でトラップし
跳ね上がったボールを2度3度リフティングした後
練習中の部員目がけてパスする。

蹴り返したボールは何事も無くプレー中の部員に届く。

「あらら」
意識せずとも身体が勝手に動いてしまった事に思わず自分で感心してしまう私。
やはり身体に染み込んだサッカーのテクニックは今だに健在なんだな。

「ハイ、パス!」
「え?」
ふと自分のサッカーについて考え込んでいるのも束の間、再び
ボールが私目がけて飛んで来た。

「えっ? えっ?」
慌ててボールを受け取り、声の主を見る。
「早くパス!」
その声につられ、思わずパスする。

「…木戸…くん?」
声の主は木戸だった。
木戸は私の返したボールを受け、再びパスしてくるとゴールポストに向かって
走り出す。

「パスパス!」
「あ、ハイ」
彼の呼び掛けにつられて私も走り出し、ドリブルしつつ木戸に向かってパスする。
私のパスしたボールは寸分の狂い無く木戸の足元に届く。
「ナイスパス、って言うか、完璧じゃんよ?」
そう言うとすぐさま私にパスを返す木戸。
何時の間にか私もグラウンド内に入り込んでゴール向けて木戸との
パスワークを続ける。

私達のやり取りを他の練習している部員達が注目しはじめる。
皆、自分の練習を止めて見ている。
131 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:38:13.30 ID:SdDKn1.0
「行くよ! センタリング!!」
木戸はボールを高く蹴り上げる。
そのボールの動きに反応し、私はゴールにボールを叩き込む。
センタリングからのシュートは非常にシンプルではあるが
キレイに決まった時はやっぱり気持ちいいものだ。

その後も簡単なサッカー練習をする木戸と私。

「すごいな〜、やっぱりこの間のサッカー授業といい、ミヒロさんは
サトシ並のサッカーセンスがあるんだろうな〜」
木戸がそう言って私のところにやってきた。
気が付くと木戸以外のレギュラー陣も私のところに集まって来ていた。

ついつい木戸につられてグラウンド上で練習に参加してしまったけど
皆が見ている状況を見て、またやってしまった事に気付く。

「サトシ君並って、言い過ぎだと思うんだけど…」
息を整えつつ苦笑いする私。

「そんな事無いって。実際にやってみて俺はミヒロさんが
かなりのサッカー技術を持っているんだなって思ったんだよ」
この前のサッカー授業で木戸と組み、私と対戦した吉岡が話しかけてきた。
「そうだよなー、速攻してきた時のサトシとのコンビプレー、
あれはうちの連中では誰も真似できないよ」
木戸も感心したように話を続ける。
132 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:39:51.05 ID:SdDKn1.0
「すごいな、彼女は」
一連の動きを見ていたサッカー部部長で3年の中川先輩が私達の前にやってくる。
「そりゃあ、もう」
「俺らなんか話にならない位、ミヒロさんのテクニックは凄いですよ」
二人は口々に私を褒めちぎってくる。
「女の子だから力強さは無いですけど、的確なコントロール力、キープ力、
何よりも試合の流れを読んで動いている洞察力はこの間のゲームで嫌と言うほど
思い知らされましたからね」

「ですから私は…」
話が大きくなりそうな予感がした私は慌てて否定しようとするが、
「ふ〜ん、そうなんだ。本当か? サトシ?」
すかさず中川先輩は私達のところにやってきたサトシに確認を求める。

「まあ…確かにミヒロさんは相当出来ます」
「ちょ、ちょっと」
私はあっさりと認めるサトシに思わず突っ込みを入れそうになる。
「そうですね、ミヒロさんは技術もさる事ながら観察力もかなりのものですし、
客観的に自分達の良いところ悪いところ弱点も分析できると思います」

「ふ〜ん、そうなのか…」
先輩は私の顔を見ながらじっと考えこむ。
「俺は彼女の動きは途中からしか見ていないけど、相当の
サッカーセンスを感じさせるんだよな…去年までうちの部に居たあいつ、
…ヒロアキ並みのセンスを彷彿とさせるというか…」

ギクッ。

私とサトシは先輩の言葉に一瞬身体を硬直させる。
サッカー部の中でキャプテン兼、チームコーチを務める中川先輩。
思えばサトシと私は入部して間も無く、この先輩に見出されて
一年でありながらレギュラーに抜擢されたんだっけ。

そんな先輩なので人の見る「目」は確かなものがあるが、流石にここまで
私の動きを見ているとは…。
133 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:41:01.71 ID:SdDKn1.0
「そうだ…、この際だから彼女にはマネージャーだけでなく、コーチもやって
もらおうか」
「ええっ!?」
突拍子も無い先輩の発想に思わず声を上げる私。

「流石に彼女は女の子なので試合に参加というわけには行かないけど、
各自の細かい部分に対して的確なアドバイスができる人間がうちのチームには
必要だと思うんだよな」
「…」
「…」
中川先輩の話をじっと黙って聞いているサトシは私。
しかもこの提案に誰も反論する様子の部員は誰もいない。

「ちょ、ちょっと待ってください? 私はまだサッカー部のマネージャーになって
1週間くらいしか経っていない新米なんですよ?
そんな私がいきなりコーチみたいな事なんて…」
戸惑う私。

「ミヒロさん、さっきの木戸とのパスワーク。君が実際に合わせてみて
どう感じた?」
「え?」
いきなりの先輩の言葉に思考が止まる私。

「え、えーと…。パスを受け取ってから返すまでに間があるんですよね。
コントロールはまずまずですが動きに無駄が多いので相手に読まれて取られる確立は
高いと思います…」
「ええっ!? そ、そんな…」
私の言葉に即座に反応し動揺する木戸。

「そうだな、彼女の言うとおりだな。…という事でこれは誰もミヒロさんの
コーチについて反論するものは居ないという事だな」
私の答えに満足そうに頷く先輩。
134 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:43:06.43 ID:SdDKn1.0
「…」
返す言葉も無く私はサトシを見る。
「…マネージャーだけじゃ、つまんないだろ? いい機会だと思うけどな」
サトシも中川先輩相手に返す事無く、むしろ賛同の意を
こそっ、と私の耳元で囁く。

「…」
かくして私はマネージャーのみならず、コーチもすることになってしまったようで。

…でも実のところそんなに嫌で無かったりして。

先輩もそんなに重く考える必要は無いって、コーチといっても
気になる部分を本人に教えてやればいいって言ってたしね。

「…」

かくして私のサッカー部生活もさらなる活気と言うか、
盛り上がりを見せるのかな?
いきなりのコーチ抜擢ですぐに地方選抜もあるし
忙しくなりそうだな…、と考える私。

そんな訳で早速、他の部員達に混じって私も練習に加わることにする。



うん。やっぱり、サッカーは観ているよりもやった方が楽しいんだよね。
あらためて実感する私であった。

「ふう…」
とは言え、やはり女の子になって体力が落ちているせいか
男子と一緒に練習に加わると一番最初にバテてしまう私。

…これまで身体を鈍らせていたせいもあるけど。

私は一汗かいた後ベンチに座り、タオルで汗を拭きつつ辺りを見てみると
割と多くの人間がグラウンドの外から私達の練習風景を見物している事に気付く。
135 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:45:50.95 ID:SdDKn1.0
ひと昔ならともかく、ブームも去ったと思われるサッカーに
そんなに人が、しかも女の子が集まっている事実に何気に驚く。

みんなサトシ目当てなのかな?と思う私。
相当なファンクラブがあるくらいだし。

「…」
練習風景を眺めている女の子達を見ていたら園生ちゃんの事を思い出す。

私が"ヒロアキ"でまだサッカー部に所属していた頃、彼女は頻繁に
練習風景を観に来ていたという話を本人から聞いた。

私がまだ"ヒロアキ"でサッカー部員ならば園生ちゃんは
いまだに観に来ていたんだろうか? と、考えてみる。



…ううん、やめよう。
そんな事を考えてもどうにもならない事だし。

…今は私の大切な友達の一人だからね。





「…」

私が取り留めの無い事を考えている時、サッカー部グラウンドの外には
声援を送る女の子たちに交じって私達の様子をじっと見つめる人物がいた。

だけど、多くのギャラリーの中に紛れ、尚且つ
目立った動きもしている訳では無いその存在に誰も気に留める事は無く。

当然の事ではあるけれど、それには気付かず
グラウンドの部員の動きを一心に目で追いかけていた私。

「さて、もうひと汗かかないといけないかな?」
私は呼吸が落ち着いた後、タオルをベンチに置いて
グラウンド内に向かう。



「…」

…私の知らないところで何かが動き始める。

だけど、そんな事なんて誰も分かりはしない。
136 :vqzqQCI0 [sage]:2010/04/07(水) 03:51:52.97 ID:SdDKn1.0
投下は以上です。

すっかり間が空いてしまいました。
多少は書き溜めたものが出来つつあるので次回の投下は
早くできそうです。

と言いますか、間が空きすぎてこの話がどんな話だったのかも
書いている本人も忘れかかっている次第ですがww
137 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/07(水) 10:20:11.08 ID:3T3.iUAO
乙です。
続きwwktkしてます!
138 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/08(木) 00:12:30.26 ID:2igTQrE0
GJ!
139 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 19:14:06.17 ID:WskssAs0
どしどし。ということなので思い切って投下してみようと想うんですが
パロディとか苦手な人っていらっしゃいますか?
140 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 21:05:04.02 ID:5ER//qoo
題材による…
141 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 22:27:30.43 ID:WskssAs0
>>140
ですよね…
とりあえず投下してみますので、お口に合わなかったらスルーするなり罵声を浴びせるなり調教するなりしてください



「おはよう弟君。目が覚めたかい?」
朝、寝苦しさから目を覚ますと、俺の布団の上でマウントポジションを取っているバカが一人。
その突き出た腹。寝癖だらけでろくに手入れのされてない髪。まさしく俺の兄その人である。
「おはようクソ兄貴。とりあえずこの状況について説明してもらおうか」
「ふむ、不機嫌だな。せっかくすばらしい発明ができたというのに」
この状況で腹が立たない人間はいないだろう。いたらぜひ紹介して欲しいところだ。
だがそれは置いといてだ。今奴はなんと言った?
「発明?今度はどんなアホなものを作ったんだ?」

このクソ兄貴、クソのくせして無駄に天才なのである。いつも部屋にこもって何かしら研究をしている。
……ただしそのベクトルがまっとうな方向に向かうことは滅多にないがな。

「おお、聞いてくれ!これは実に画期的な発明だ」
「その前にまず俺の上から降りろ。重い」
この兄貴、運動などするはずがないから当然メタゲフンゲフン……ふくよかな体型である。
「この上に乗っているのも計算の上だ。いいから話を聞け」
いったい俺の上に乗っかっているのが発明とどんな関係があるというのか。
どうせまっとうなものを作ったはずがないから話など聞きたくもないのだが、話さないと降りてくれそうにもない。
「原稿用紙3行以内で頼む」
「うん、それ無理。いいから聞け。俺が妹萌えなことは知っているな?」
「知るか!というかそんなこと知りたくなかったわ!!」
知られざる兄の性癖があらわに!しかも危険思想!?
「だがうちには妹がいない。だから妹萌えなのかもしれないが、とにかくそのはけ口をこれまでゲームやアニメで満たしてきた」
とりあえず現実世界、しかも目の前で「妹萌え」と言っている男を兄とは認めたくないが、これ現実なのよね。逃げようのない現実に欝になってくる俺。
だがここで逃げてしまっては兄と同じになってしまう。俺は違う!俺は勇気を持って現実に立ち向かえる人間でs

「しかし、もうそれも物足りなくなってきた!現実にも妹が欲しいッ!!」

もう……ゴールしてもいいよね?
142 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 22:28:41.44 ID:WskssAs0
「だがッ!うちにいるのはこのように出来の悪い弟が一人。私は実に悲しいッ!」
「しばくぞコラ」
聞き捨てならない台詞に一瞬にして意識が回復する。
「そこで考えたのだ。妹がいないなら作ってしまえ、と」
「何だ?父さんと母さんに頼むのか?」
うちの両親、そんなに元気だとは思えないがな。
第一聞いてくれるとも思わん。
「そんなことをしても私好みの時期に育つには時間がかかる。そこまで待ってはいられない。」
「いいからさっさと結論を述べろ。重いんだよ。」
「ふむ。では結論を述べよう。私が今回作ったのはこの薬だ」
そういうと兄貴は、液体の入ったビンを取り出す。
いかにも怪しいにおいがプンプンする。
「で、それは何なんだ?」
「これはTS、すなわち性転換を起こすための薬だ。飲むだけで女の子になってしまう夢の薬だ」
「ほう。それで性同一性障害の治療をしようというのか?めずらしくまっとうな発明だな。」
「バカ言え。だからお前はバカだというのだ。こんなものが世に出回っては変な風に悪用する輩が出ないとも限らん。残念ながらそれは無理だ」
悔しいが一理ある。一理あるが、だ。
「それとさっきの話と何の関係が?」
「ここまで言って気づかないか?まあいい。では教えてやろう」

そういうと兄貴はニヤリと笑った。
ヤバい。何かヤバイ予感がする。本能がまずいと告げている。

「つまりだ。悪用するのは私だけで十分なのだよ!!」

……マウント、妹、性転換。
断片的なキーワードが寝ぼけた頭の中でつながり

「てめえ……まさか!?」
「さあ飲め!そして俺のことをお兄ちゃんと呼べ!!(はーと)をつけて呼べ!!」
「ふざけんな!何で俺がてめえの欲求のはけ口にされなくちゃならんのだ!!」
そう言って俺はこのバカを押しのけようとする、が。
「ふふん、お前ごときの力で俺を動かせると思ったか?」
全く体が動かない。ありかよ反則だ!
「ふふん、ただ太っているわけではないのだよ弟君。これもこの日のための布石だったのだよ」
「それは流石にウソだろうが!」
「何とでも言うがいいさ。現にお前は抵抗が出来ないではないか。負け犬が何を言っても遠吠えにすぎぬのだよ」
畜生、クソむかつく!クソむかつくが、抵抗が出来ないのもまた事実。
「さあ!さっさと飲め!!」
そう言うなり兄貴は俺の鼻を手で塞いできた。
「さあ、いつまで耐えられるかな?くくっ……」
くそ……苦しくなってきた。
いったいこのまま死ぬのと女の子にされるのとどっちがいいのかな……
143 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 22:30:19.24 ID:WskssAs0
死ぬ?俺はここで死ぬのか?

嫌だ!それは絶対に嫌だ嫌だ嫌だ!!

じゃあ女になって兄貴の慰み者となるのか?
うん……それなら死んだほうがマシだ!!よし、このまま死んでやる!!

あ、何か見えてき……た……

…………

………こくん

……









「なぜだああああああああああああああああああ!?」
「どわああああああああああああ!?」
突然の叫び声に驚いて飛び起きる。
見るとあのバカが頭を抱えて慌てふためいている。
「どこで失敗したというのだ俺は!こんなの認めんぞおおおおおおおお!!!」
「お、おい、ちょっと落ち着いて……あれ?」
その時感じた、妙な違和感。
体が何だが重い。いや、正確に言うと体の一部分がやけに重い。
「はは……いや、まさかな」
そんなはずは、そんなはずはない。
そう自分に言い聞かせつつ、俺は恐る恐るその一部分に視線を移して……
「胸がでけえええええええええええ!!??」
その正直な感想を口にする。
「そうなんだよおおおおおお!!こんなはずじゃなかったんだよおおおおおおお!!!!」
兄の絶叫も耳に入らず、俺は全身を確かめる。
「髪が長え!声が高え!」
股間にも手をやり
「オラのここには何にもねえ!!!!」

『これはTS、すなわち性転換を起こすための薬だ。飲むだけで女の子になってしまう夢の薬だ』
さっきの兄の言葉が思い出されて

「俺、女の子になってる!!!?」

あわてて鏡で確認する。と
「う……お」
思わず声が出る。
144 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 22:31:23.48 ID:WskssAs0
そこに写っていたのは、腰まであろうかと長い黒髪と、抜群のプロポーションを持つ、
「これが、俺?」

文句なしに顔立ちの整った、可愛い女の子だった。
思わず鏡の前で、笑ったり怒ったり、さまざまな表情をしてみる。
鏡の中の女の子はそれに応えるように、コロコロと表情を変える。
「か、かわいい」
その表情の一つ一つが、怒った顔さえも可愛いのはもはや反則的ではないのか。
聞く人が聞けばナルシスト発言にも聞こえるだろうが、事実なんだからしょうがない。初めて見るその女の子は、文句なしにかわいいのだ。
「ちがああああああう!!!!」
「ひあっ!?」
思わず見とれていると、兄貴がまたなにやら騒ぎ出した。
「な、何が違うんだよ?」
薬で俺を女の子にして、妹にしてしまおうというのが今回の兄貴の計画。だったらこれで大成功じゃないのかよ?自分で言うのもなんだけど、こんなに可愛いんだぞ?
「じーっ」
「ど、どこ見てんだよバカ!」
兄貴の視線が俺の胸に集中してるのに気づいて、思わず抱え込むようにして体をひねる。と、
「違う!俺が望んだのは……嗚呼俺はこんな胸など望んではいなかった!!」
ものすごく大げさなジェスチャーで叫ぶ兄貴。
「は?」
「俺が望んだのは!もっとロリロリでつる〜んでぺた〜んで『おにいちゃん……お風呂ひとりじゃこわいから、いっしょにはいろ?』な妹だったんだ!!どうしてこうなった!どうしてこうなった!!」
「そっちかよ!」
もう駄目だこの兄貴、早く何とか……って手遅れだな。
「もうやだ……ねよう」
叫びつかれたのか絶望からかなのか、そう言って兄貴は自分の部屋に帰ろうと
「っておいちょっと待て!これどうやったら元に戻るんだ!?」
「知らん。じゃあな」
そういうと兄貴は鍵をかけて自室に閉じこもってしまった。
「いや、知らん。って……」

それはつまり、ずっとこのままってことなわけで……

「一体どうすりゃいいんだよおおおおおおおおおお!!!!」
今日何度目か分からない叫び声をあげるしかなかったのだった。
145 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 22:34:48.90 ID:WskssAs0
と、こんな感じです。

パロ以前に、個人的にはシリアスな作品が多い中でコレはどうなのという気もいたしますが…
146 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/09(金) 22:51:59.32 ID:twVYDCU0
ネタ元が何かわからないんだが、GJ!
コミカルな作品も好きだから普通に嬉しい
147 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/10(土) 01:21:50.70 ID:4XmpU/6o
おれもネタ元わかんねえww
うんまあだから良いんじゃないかな、うん。
148 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/10(土) 22:46:39.32 ID:HQkVNko0
ギャグ路線とかもいっぱいあったんだし、良いんじゃない?
何はともあれGJ!

パロって言ってたのは各所に版権作品の台詞とかが使われてる。って意味だよね?
それだったら良いんじゃない?
149 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/10(土) 22:58:47.14 ID:4XmpU/6o
ああそういう事か。二次創作という意味かと思ってた。
ネタ台詞は問題ないと思うよー。
150 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/11(日) 12:34:50.17 ID:NVNolMDO
いいね
151 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/11(日) 20:04:35.68 ID:J1qvsKMo
>>111で書いてくるとか言って書き溜めた後すっかり忘れていた阿呆です。
以前とトリップ&文体を変更してお送りしようと思います

*注意点*
・多少の中二病があるかもしれません
・地の文満載(そのうち少なくなります)
・短編じゃなくなった

……投下してもおk?
152 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/11(日) 20:55:44.26 ID:J1qvsKMo
えーい投下しちまえ
153 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/11(日) 20:56:45.45 ID:J1qvsKMo

私は街を走っている。
サイズの合っていない男性物の靴に収めた小さな足を、懸命に振り回して駆ける。
背後から追ってくるものなど居はしないが、それでも何かから逃れるように足を送る。
その何か――つまり、私の住んでいた町は記憶の中でどす黒く染色され、すでに私のなかに入り込んでいる。
死の匂いを洗うように風が吹く。
青い風を切って、私は街を走る。獣に追われた動物のように。

「もし逃げる事が出来たなら」
寝たきりだった私の、口癖だった。
面倒を見に来てくれる息子夫婦は、目に見えるように、来るたびやつれていく。
私に気を使ってくれていたのだろう。口には出さないが、生気を失っていくのが判ってしまうくらい。
この町の瘴気にあてられたのだ。
それは、余生も長くない私の、唯一の気がかり。
迷惑をかけるくらいなら、この世から逃れてしまおうと何度思った事か。
実際、それは無理な話であった。起き上がる事すら儘ならない私に、いったいなにが出来ようか。
154 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/11(日) 20:57:18.69 ID:J1qvsKMo

しかし、ある時転機が訪れる。
それは突然だった。
玄関の方から、ガシャン、と硝子の割れる音がして、ぺた、ぺたと童子のような足音が家の中に入り込んできたのだ。
その足音は無邪気でもあり、何か恐ろしい物を孕んでいるようにも思われた。

私は目を閉じて童子らしき者に存在を悟られぬようにつとめた。動けない私にとっては、侵入者に対しての精一杯の抵抗。
しかしその努力は無意味だったようだ。突然にふっ、と日が翳った。
なにが起きたのか、とゆっくりと目を開けると、目の前には足音の主であろう子供。十歳かそこらに見えた。
もっとも、年とともに落ちた視力は、眼鏡無しでその輪郭を正確に捉えることはできなかったのだが。
つやつやとしたその顔は引きつったように笑っており、ともすれば耳にまで口の端が届きそうなほどである。
目には隈が出来ており、光が無い。
だが、全身に赤い服を着て後ろで手を組んでいるその姿は、一種の芸術として捉えられそうなほど美しかった。

不意に童子が私の胸を指差した。まるで、「そんな事もわからないの?」とばかりに。
いいや、そんなことはない。例え動かなくとも、何十年と付き添った私の身体だ。わからないはずがない。
胸に突き立った包丁はひやりとした感覚を伝えてくる。
まるで草木が生えるように、自然に刺さっている包丁は私の意識を白く染め、天へと導く。
これで私の人生は終わるのか。もう息子夫婦に迷惑を掛けることは、葬式を除いてなくなるだろう。そう思った。終わるはずだった。
155 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/11(日) 20:57:43.47 ID:J1qvsKMo

白くなった意識に鮮やかな色が戻り、気がつくと、私は畳の上に立っていた。
立っていた、というよりも世界が横たわった、といった方がいいのかもしれない。実際、寝たきりの私にとってはそのような感覚だった。
しかし今はそんな事はどうでも良かった。
……眼前に広がった惨憺たる光景から目をそらし、何が起きたのかをぼやけた頭で必死に考える。
目の前に横たわっている老人の男性は、確実に私だったものだ。最後に鏡で見たときよりもたくさんの皺が刻まれていたが、自分自身を見間違えるはずがない。
では私はなんなのか。震える手を見つめる。か細い腕。膝の間を吹き抜ける冷たい風。
その結論にたどり着いた瞬間、私は首を振ってそれを否定した。
きっと何人もの返り血を浴びてきたのだろう、鼻をつく異臭が赤いワンピースからほのかに感じられた。

半刻後。
何をしていいのかも分からずに佇立していた私の眼を、車の排気音が覚まさせた。
反射的に身体が動く。
安心したように眠っている「私」の枕元から財布と腕時計をひったくり、動けた頃はお気に入りだった靴を靴箱から引っ張り出す。
玄関前の階段を上がってきた息子夫婦の間を突き抜け、驚いた顔を尻目に町外れへと駆ける。
後からは義理の娘のものであろう悲鳴が聞こえてきたが、これで二人が解放されるのなら安い代償だ、と思った。
どうせ事情を説明しても、分かってくれるはずなどないのだから。

私の考えていたとおり、街の住民たちはどこかおかしかった。いいや、どこかどころではない。狂っている、と確信できるほどおかしかった。
胡乱げなひとみであてどもなく闊歩するもの、道端の猫を捌くもの。見かけるのはそんな人間たちばかり。
年齢が若くなるほど、頭の螺子が多く外れているように感じられた。
それらの目にふれないよう走っていた私は、あることに気付く。
この町は、殆どが塀で囲まれているのだ。まるで何かを閉じ込めるように。何か? 決まっている。狂った住人たちだ。
唯一外に出られるのであろう道路は、自警団らしきもので封鎖されているようだった。
そういえば、息子は隣町の自警団だと言っていた気がする。
私の面倒を見に来ることが出来たのは、恐らく見回りなどと理由をつければ町に入れるからだったのだろう。もうその必要は、ないのだが。
自嘲めいた笑みを口元に貼り付けたまま、私は何とか抜け出そうと試みる。ここを突破するのは難しいだろう。
それならば、と塀によじ登ろうとしてみたが、有刺鉄線が張り巡らされている。塀は無理なようだ。
悩んでいると、ふと、足音が聞こえてきた。ゆっくりとではあるが、確実にこちらへ近付いてくる。
数瞬の間、思考する。またとないチャンスだが、同時に大きい危険も伴う。
やるか?
やるしかあるまい。
156 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/11(日) 20:59:42.86 ID:J1qvsKMo
以上
やっぱり新ジャンルスレで地の文多いと違和感があるな
157 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/11(日) 22:50:46.72 ID:mil7qdYo
元々新ジャンルって会話だけの文体じゃが、
このスレは結構普通?な文体が多いき、なんちゃー問題ないと思うぜよ。
158 :u4ZPDzk0 :2010/04/11(日) 23:58:28.63 ID:sLfRm7E0
スレが盛り上がっている!?
皆さん、止め処なく乙です。

>>150
気にしないでいいと思う。
常識にとらわれずに「新ジャンル」を開拓すべき。
159 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/12(月) 15:24:59.21 ID:TnaInADO
乙!
160 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/12(月) 20:29:39.51 ID:1T5qPrAo
>>157,158
d、でもさすがに多いよな
少し減らすわ

スレが盛り上がってるのは気のせいですぜ旦那。
全盛期はもっと良かったような。
161 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/12(月) 20:30:58.36 ID:1T5qPrAo

足音は私を視認すると、ものすごい速度で追いかけてきた。ここまでは予定内。
上着を振り回したような長い髪の若い男性。正気を失う前はきっと陸上競技が得意だったのだろう。
私は走りにくい靴を片手に、裸足でバリケードへと全速力で走る。
慌てて止めようとする自警団の方々の間を、申し訳なく思いつつ小さい身体ですり抜ける。
百メートルほどそのまま進む。
若い男性は止められたようだったが、私はまだ幾人かの自警団に追われていた。
数年ぶりに走るすぐこけそうな私よりも自警団の方々のほうが当然早く、何度も追いつかれそうになったが、小さい身体を生かして隠れつつ逃げる。
さすがに足が痛くなり、途中で靴を履いた。自警団員はまだ追ってくる。
当然だ。狂った町から狂った人間を逃すわけにはいかないだろう。少なくとも彼らの間には、そんな緊張が感じて取れた。

休んでは追ってきた自警団を撒き、また休む。数時間も続いた鬼ごっこは、辺りが茜色に染まり始めた頃にやっと終わった。
だが、それでも私は逃げた。あの町から少しでも遠くに離れたかった。――
162 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/12(月) 20:31:46.99 ID:1T5qPrAo

……
――――
「あれ、今のは」
暗い山道の中を運転しているユウが、不意に車を止めた。止めた理由は、街灯の下にうずくまっていた毛布の塊が見えたからだろう。
「人、みたいだったね」
私が、ユウの自然に口から出たのであろう言葉に相槌を打つと、彼はうなずいた。
行ってみよう、と私を催促する。車を降りて、暗い夜道を薄暗く照らしている街灯にユウは向かっていった。私も続く。

「死んでるの……かな」
私がうかつにもそんな言葉を漏らすと、ユウがしかめ面をして、待て、の形で手を突き出す。
軽はずみな言動を恥じつつも、私はボロ雑巾のようになった毛布に包まる子供を揺り動かした。
「ん……」
よかった、生きている。
笑みを零し、私たちは顔を見合わせる。
163 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/12(月) 21:21:29.45 ID:HxmTTrk0
続きwktk
164 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/15(木) 18:43:27.00 ID:p9lsDmIo
>>163
1人でも待っていてくれる人がいるとウレシイわー

でも投下ペースは落とすよー、こちらも忙しいのでねー
165 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/15(木) 18:44:06.03 ID:p9lsDmIo
もしかして俺のことを待ってるんじゃなかったりしてww
166 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/15(木) 18:45:03.94 ID:p9lsDmIo

毛布の塊が、少し動いた。どうやら顔を上げたようだ。
恐らくは女の子であろう子供は、霞んだ目をこちらに向けて言葉を発した。
「あなたたちは……、誰ですか……?」
可愛らしい声と顔にそぐわない、いろいろな感情を一緒くたにしたような、掠れた声でつぶやく少女。
そんな未知の声に多少驚きつつも、私は名前を告げる。
「私はアカリ、こっちのでっかいのはユウ」
「アカリ……さんにユウ、さん、ですね……」
少し水気が戻っている、しかし未だ掠れた声で少女は続ける。
「ここは……、どこなんでしょうか?……」
167 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/15(木) 18:46:00.54 ID:p9lsDmIo

「――、」
その言葉は、ただならぬ響きを持っていた。ただここはどこだと聞いているだけなのに、なにか底の見えない闇を覗いたような。
私はすぐにでもこの子を保護するべきだと思った。
ユウの顔を見ると、同じ事を考えている、という事が窺えた。
少女の目つきは弱々しくも鋭く、研いだばかりの、しかし使い古されたナイフを思わせる。私たちが何をするのか、見計らっているのだろう。
ゆっくりと、沈黙が流れていった。
「俺らの家に行こう」
何十分にも感じられた沈黙を破って、踵を返すと、ユウは車へと向かっていく。
少女の方を振り返れば既にその姿はなく、いつのまにか彼女も車へと向かっていた。
168 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/15(木) 18:47:11.95 ID:p9lsDmIo

私たちの家は町外れの田園地帯近くにある。
もともとはユウの父が始めたアパートメントで、今現在は二つの部屋を除き人に貸してはいない、不人気アパートだ。
もっとも家主のユウも滅多に人に貸す気はないらしく、一階は私たちの部屋と物置、二階は入居者たちの自由な空間となっている。
そのアパートの、一室。
「ここは私たちのアパート。市名は羊歯雨って言うの。あなたは……どこから来たの?」
「しださめ、ですね。私は詩萩から来ました」
「詩萩町から? とんでもなく遠い所から来たんだな」
しおぎ、かぁ。聞いたことはあるけれど、私には詳しい場所が分からない。
棚から地図を引っ張り出して調べてみると、なるほどユウの言う通り、随分と離れた所に位置していた。
「ここまでかなり距離があるよね……車でも三時間はかかるよ」
「それをブカブカの靴で、だもんなぁ。そりゃあ疲れるさ」
黙々とおかゆをすする少女。作りたてで熱いはずなのに、冷ます事なく口へ運んでいく。
「そういえば、あなたの名前は?」
169 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/15(木) 20:43:47.64 ID:/XwJbkDO
期待
170 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/15(木) 22:22:14.31 ID:gmixU4A0
>>165
いえいえ待ってましたよ
乙!
171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:13:24.14 ID:lQjSWM.0
こんばんわ
>>144の続きです

あとパロディと言ったのは>>148さんの意味でのことです
紛らわしくて申し訳ありませんでした
172 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:17:15.15 ID:lQjSWM.0
「畜生……一体これからどうすりゃいいんだ……」

女にされた挙句放置プレイをくらった俺は、これからのことを考えて憂鬱になる。
だってそうだろ?変な薬を飲まされて女になったなんて、誰が信じてくれるってんだ。
俺が俺だとわかる人間なんて兄貴しかいないのに、当の本人はアレだし。

「はぁ……」
まず家にはいられないだろうし、何処かの施設に預けられるかもしれない。
最悪不審者として警察へ突き出されて……

「どうなるんだろホント」

悩んでいても、いい解決法なんて思い浮かぶはずもなく。
不安で胸が押しつぶされそうで、
「うぅ……っく、あれ?」
頬を涙が伝っているのがわかる。ああ、泣いたのなんて何年ぶりだろうか。
「もう……ホントどうすれば……」


「ちょっと、さっきからうるさいんだけ……ど?え?」
「あ……」
と、突然開いたドアに驚いて顔を上げると
「え……と、どちら様?慶の知り合い?彼女……はないか」
こちらを見て呆然と立つ女性がいた。
その人を母さんだとすぐには認識できないほど、俺の心はまいってしまってたようで、
「か……かあ、さん」
そしてその姿は、俺が知る限りのどんな女神様よりも神々しく見えるほど、俺の心はまいってしまってたようで、
「母さん!かあさーん!!」
「え、ええ!?」
思わず小さい子供のように、抱きついてしまった。
173 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:18:12.65 ID:lQjSWM.0
「で、あなたが慶だと」
「うん……」
一通り泣いて落ち着いた後、俺は母さんに事情を話す。
「けど、信じてもらえないよね……」
そういって俺は俯く。
話したところで、それを信じてもらえるかは別なわけで。
と言うか、俺も信じたくないわけで。

「ちょっと顔上げてくれるかな?」
そういうと母さんは、俺の顔に手を当て、顔を近づける。
「え、ええ?」
顔と顔が、まるで恋人同士がキスをするかのように迫っていく。
すでに子供を2人も生んだ身でありながら、その唇は瑞々しい張りを保っており、俺の視線は自然に――
「って、か、かあさんちょっと?」
そしてお互いの鼻と鼻が、まさに触れ合おうとするところで止まると、
「…………よしよし。大変だったね慶。もう大丈夫だよ」
まるで小さい子をあやすように、優しく頭を撫でてくれる母さん。
「え、あ……信じて、くれたの」
すると、緊張が解けるのと一緒に、抱えていた不安も流れていくようで
「うん。目を見ればわかるよ。あなたは私の息子。嘘なんてついてない。それくらい分からないと、母親なんてできないから」
「う……あ」

今日ほど母さんを尊敬したことはない。
「あ、りがと。ぐすっ……」
溶け出した不安が、少しずつ目から溢れてしまって

いつもはちょっと駄目なところがあるけど、やっぱり母親って

「さて、そうと分かれば……でてこんかいダボがぁ!!今日という今日は許さん!!」
そういうと母さんは、ドアを蹴破って兄貴の部屋へ
「ひでぶっ!?」
「てめえうちの息子になにさらしてくれとんのじゃゴラぁ!」
「お、俺も息子でごきゃっ!?」
「うわあ……もろテンプルに……」

やっぱり怒れる母親って怖ぇなあ……
174 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:19:30.71 ID:lQjSWM.0
「とりあえずあのバカには速やかに男にもどすようキツく言っといた。で」
「うん」
「あなたはしばらく女の子として生活しなくちゃいけないわけで」
「うん。けどさ」
「だから……ね?」
「けどブラとショーツは嫌だああああああああ!!」

あの後、兄貴を文字通りフルボッコにした母さんだったか、俺の服装に目をやるなり、「このままじゃまずいわね」とつぶやいて出かけてしまった。
そして大量の紙袋を抱えて帰ってきた結果がこれだよ!

「もう、何言ってんのよ。明日から学校にだっていくんだからね。スカートの中からトランクスが見えたりしたら大事でしょ?」
「は、え、学校!?」
何この急展開!?
「いや、そんなん無理だろ!?」
「担任に相談してみたら『いいから連れて来い。こなけりゃこっちから行く』って。やっぱり学校くらい行かないと」
「何言っちゃってんのあの担任!?」
ちなみに担任と母さんは旧知の仲だったりする。
「そのほうが面白そうだってみどりんも(何言ってるの。物事は最悪のケースを想定するものよ。万が一男に戻れなくても生きていける様にはしとかないと)」
「本音と建前逆!!逆になってるよ!?」
「だから、もう諦めて脱いじゃいなさいな……ムッフー」
「ちょ、母さん目が怖いやめ……アッー!!」


【着せ替え中です。しばらくお待ちください】


「キャー!可愛い!すっごい可愛い!!」
「うう……もうお婿に行けない……」
「お嫁にならいつでも行けるわね!」
「うるさいよ!!」

そりゃあ、母さんが選んだ服をきた俺は可愛かったよ。ええ可愛かったですけども!
さっき俺を心配してくれてた綺麗な母さんはどこに行っちゃったんでしょうね。

「キャッ♪綺麗だなんてもうこの子ったら」
「心を読むな!そういう意味じゃないから!」
「けどねぇ。こんなんではずかしがってたらお風呂はどうする気なのよ」
「お……風呂、だと?」
「そ。だっていくら自分の体とはいえ女の子の裸よ?あんた一人で入れる?なんなら私が」

お風呂ね。そうかお風呂なんてものがあったなへにゅう……


「え、あ、ちょ、気絶してる!?」
175 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:20:50.88 ID:lQjSWM.0

「いや無理マジ無理。それだけはマジ無理だって!!」
「何言ってんのよ。お風呂がよくて何でこれは駄目なのよ」
「それとこれとはまるで別問題!」

翌朝、再び言い合いを始める俺と母さん。
昨日、風呂は思ったより抵抗なく入れた。
というか自分の体だからか興奮なんてしなかったのだが……

「セーラー服着て学校とかどんな羞恥プレイだよ!」
「女の子だから問題ないでしょ?」
「俺は男だっつーの!」
さすがにこれは抵抗がある。
もう何か越えてはならない一線をロケットで突き抜けていくようなそんな感じがするのだ。
「もし元に戻ったらみんなから何て言われるか……」
「下着だって女物だから今更じゃない」
「だから余計に不安なんだよ!」

なんせ女になった理由が理由だ。
学校で突然元に戻ってしまわないとも限らない。そうなってしまったら最後。
俺の扱いは間違いなく校内で最下層の存在になってしまう。


「ほら、早くしないとあの担任が来ちゃうかもよ」
「う……」
それは……それはちょっと……
ナニを、もとい何をされるか分かったもんじゃない。
「おお、観念したか。偉いぞ」
「しくしく……」

176 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:21:43.16 ID:lQjSWM.0

「おはようございます。斉藤先生をお願いします」
「ああ、遠山さんですね。こちらへどうぞ」
学校に着いた俺たちは、担任の待つ会議室へと通された。
「松永先生。遠山さんです」
「ああ、入ってください」
会議室の扉を開けると、中にはよく知った顔。
「さて……と」
声の主は椅子から腰を上げると、ゆっくりと近づいてきて俺の背後に回り、

モミモミ

「ひあああああ!?」
「ふむ。大きさ、感度ともに十分、っと」
いつもどおりの感情の読み取れない顔でセクハラしてきやがった!畜生予想通りだけど最悪だ!!
「ちょっとちょっと。何人の娘にセクハラしてくれてんのよみどりん!」
「母さん!俺娘ちゃう!息子や!!」
俺より俺が女になったことに順応してるのはどうしてなの!?
「まあ、娘か息子かはこの際どうでもいいとして……結婚してください」
「アンタ既婚者だろ!しかも同性!ていうかバイ!?」
「と、冗談はここまでにして」
「ほら慶。アンタもそろそろ真面目にしなさい」
「俺は最初から真面目だ!!」
ああもうツッコミが追いつかねえ!
「とりあえず転校生としてうちのクラス受け入れることは決まった、んだけど」
「何か問題があった?」
いきなり真面目なトーンで話し出す二人。この切り替えの速さは何なんだ……
「響子なら分かると思うけど、慶くんは女の子、とりわけ女子高生の怖さって知らないと思う」
「あ〜。そっかそっか。最近のは特に酷いって言うしね」
ああ、そういうのはよく聞くな。
とはいえ体験談なんかで読んだことはあっても、実際に体験したことはない。
今まで男子だったからなおさら、その辺のことには疎い。
「私の高校の時にも、それで大変な目にあった子がいるし、今の慶くんじゃ学校に頼れる友達もいないわけだし。だから何かあったら、私やお母さんにすぐ相談してね」
「はい」
「もちろん、そういう場面を見かけた時も。って慶君はそんなのほっとける子ではないと思うけど」
「はい。もちろんです」
何だかんだ言っても、やっぱり先生なんだなと感心する。
母さんといい斉藤先生といい、俺の周りの大人は、ふざけているようで締めるところはきちんと
「対価はその体でいいから」
「俺の感動を返せコンチクショー!!」
177 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:25:14.07 ID:lQjSWM.0

朝。
2年1組の教室は、爽やかな小春日和だというのに、まるでそこだけ暗雲が立ち込めているかのように、不穏な空気に包まれていた。

ざわ……ざわ……

担任の横に並ぶ見知らぬ女子生徒を見て、とたんにざわつき始める教室。
それは、あるいはこの後に続く言葉を予測してのことなのか。

「はい。それでは転校生を紹介します」
「!!」

その時、教室に電流走る!!

「えっと、お、私……」
「「「「「「「「「じーっ」」」」」」」」」」

うわ……すげえ注目されてる。
男子は文字通り飢えた獣の目で見てるし、女子は何か商品の値踏みをするような目で見てる。何だこのプレッシャー……

「か、川尻恵(めぐみ)って言います」
転校生と言うことで先生に紹介され、前に出る俺。
あまり長い自己紹介だとボロが出そうなので、簡潔に済ませる。
ちなみにこの偽名は先生がつけたものである。

『あなたを女の子にしたその薬、やっぱり存在が知れ渡るのはまずいと思う。だから申し訳ないんだけど、あなたには正体を隠してもらうわ』
との先生の結論から、俺はしばらくの間転校生として生活することになった。

「これから、どうぞよろしくお願いします」

「美少女転校生キター!!」
「何だあの巨乳。まさしく計り知れない胸囲!」
「誰が上手いこと言えと」
「ようこそこのクラスへ。保安官のロバートです」
「ドサクサにまぎれて手ぇ握ろうとすんな岡島!」

「はは……」
自己紹介が終わるとともに、一気に騒がしくなる教室。というか男子。
高校では転校生はただでさえ珍しく、しかも可愛い女の子と来たもんだから教室は大騒ぎ。蜂の巣を突いたってのはこういうことを言うのか。

「すご……可愛い……」
「私の次くらいかな。可愛さレベル」
「あーあ、大騒ぎしちゃって。これだから男子は……」
逆に女子は、ちょっと冷めた反応が多い。
まあそうだよな。俺だってイケメン転校生が来たらそんな感じになるかもな。
うん、間違いなく嫉妬しちゃうな。
「大人気ね」
こそっと耳打ちしてくる先生。
これ、正体ばれたら俺どうなっちゃうんでしょうね。
178 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:26:03.13 ID:lQjSWM.0
「んじゃあ、槙原さんの席は……」

そんな俺の気持ちなど知ったこっちゃない先生は、さらに転校生特有のイベントを進めようとするが、

「「「「「「「「死にさらぶへらっ!!!!」」」」」」」」

それが闘いのゴングだと言わんばかりにお互いの顔にカウンターを入れあう男子。
ホント、男ってやつぁ……というか俺この男子の中で普通に生活してたのか……

「……今空いてる遠山君の席ってことで文句ないわね」
「「「「「「「「「うぇい」」」」」」」」」
と、まあ当然だけど昨日まで俺が座ってた席への移動を促される。
「はい、じゃあ。みんなうずうずしてるし、後は質問タイムってことで、HRを終わります」
もうめんどくさくなったのだろう。
先生のその言葉と同時に、俺の席に人だかりができる。

「転校生ってどこから来たの?」
「前の学校ってどんなところ?」
「趣味は?」
「彼氏とかいたの?」
「スリーサイズは?」
「Sですか?Mですか?ちなみに僕はMです」
答えをいい終わらないうちに次から次から質問が飛んできて、もう教室は大混乱だ。たまらず俺が先生に目で助けを求めると、
179 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:28:33.68 ID:lQjSWM.0
「あ、そうそう。みんな聞いて」

よかった。これでちょっとはマシに……


「遠山君留学したから。ハルケギニアって国に」
「ってええええええええええ!?」

何とんでもないことさらっと言ってくれちゃってんのこの担任!?
留学ってぶっちゃけありえないって言うかどこなのその国!?本当にこの地球上にあるの!?
そんなでたらめ誰も信じるわけ

「ねえ、彼氏とかいなかったの?」
「うちの部、人数少ないんだけどよかったら」
「せめて何カップかだけでも!」
「童貞必死だなwwwwwwwwww」
「動物は好きですか?ちなみに僕は犬と呼ばれるのが好きです」

って誰も聞いてすらねえよ!
そんなに俺より目の前の転校生(つまり俺だが)が大事か!
ていうか一人レベルの高い変態が混じってるぞ!

「じゃあかんばってね」
そして何も状況を改善してくれることもなく、今の俺にはあまりに残酷な言葉を残して去っていく担任。
もうやだこんな生活!!
性転換2日目の朝にして、早くも心が折れかけてる俺なのだった。
180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 20:31:16.53 ID:lQjSWM.0
今日は以上です。
ネタもひとまず大丈夫そうなので、色々だしていこうと思いますww
181 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/16(金) 23:11:58.41 ID:y3vAKIo0
待ってたました!
GJすぎる
182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/17(土) 09:16:07.95 ID:Ttwo/kDO
待ってました!
183 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/18(日) 14:22:22.02 ID:ZO1N/4Io
どんな展開がお好み?
184 : ◆SI.G.Owte. [sage saga]:2010/04/18(日) 14:23:12.19 ID:ZO1N/4Io

すっかり忘れてくれていると思ったのだが、結局は名前を聞かれてしまった。どうするべきか。
この少女の名前など私が知るはずもないし、本名の慧蔵を名乗るわけにもいくまい。
余り長く黙っていても、怪しまれてしまう。
案の定訝しまれてしまったようで、「……名前言いたくないの?」と訊かれてしまった。その顔はどこか困惑したようにも見える。
いや、事実困惑しているのだろうか。

「……サト」

悩んだ末に出てきた名前はそれだった。慧蔵の慧の字を読み替えて、サト。悪い案ではないが、特別いい案とも思えない。
「へえ、サトって名前なんだ。字はどう書くの?」
多少の沈黙に疑問を持ってはいただろうが、それは気にする事ではないとばかりに明るく振舞ってくれる。
私はアカリさんに少し好感を持った。
185 : ◆SI.G.Owte. [sage saga]:2010/04/18(日) 14:23:40.44 ID:ZO1N/4Io

「慧、と書いてサト。……あなた方は?」
「私は明理って書くの。ユウは確か、悠、だったかな」
そういって、紙に書くアカリさん。その仕草はどことなく優雅だ。
「――何か事情があるようだけど、俺らは詮索しないぞ」
思いもかけず掛けられた言葉に、私はハッとする。
「別に私たちを信用してくれなくてもいいの。でも、何かから逃げていたり、そういうことがあるなら、しばらくはここに居た方がいいよ」
二人の眼は真剣で、とても普通に生きてきたとは思えないような光が眼底に灯されている。私はゆっくりと頷く。二人も頷いた。
「さ、飯にしようか」
ユウさんがそういって席を立つ。俺、こう見えても料理は得意なんだぜ、とエプロンをつけて笑うユウさん。
アカリさんは手伝わないの? と聞くと、彼女は舌を出して苦笑い。
「私は味音痴だからだめよ」
「めんどくさいからって上達しようとしないんだ、コイツ」ユウさんもさっきより大きく笑う。
瞬時にして重い空気を明るい雰囲気に変えてしまった二人に感嘆しつつも、私は料理を手伝う事にした。
186 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/18(日) 14:25:56.63 ID:ZO1N/4Io
おしまい

忙しくなるから、来られる日が少なくなるかもしれましぇん
ご了承ください
187 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/18(日) 17:31:04.98 ID:ZGv1YkAO
え…終わり?
続きを期待させる結末にwwktkしてもいいのかな?
188 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/18(日) 20:42:10.79 ID:ZO1N/4Io
ちがうww「今日は投下」おしまいって書き忘れただけww
189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:45:51.55 ID:DD6Hk2.o
みなさんこんばんわ
>>179の続きです。


「で、今日はどうだった」
放課後、俺は松永先生に呼ばれて生徒指導室にいた。
「疲れました」
俺はその率直な感想を口にする。

「ていうか何で俺留学したことになってるんですか!?ハル……何とかってどこなんですか!!」
「こういうときのお約束だから。留学」
ごめん。まったく意味がわからない。
「だって退学とか転校とかじゃだめでしょ?いつ元に戻れるかわかんないんだし」
「まあ、それはそうですけど……」
何か釈然としない。絶対半分遊んでる。
「それよりどう?何か変わったことはなかった?たとえばお尻触られたとか胸揉まれたとか」
「先生以外にはされてないです」
というかそんなのこの人以外しないだろ常識的に考えて。
「ん〜、そっか。じゃあとりあえず一安心。今日はこのまま帰るの?」
「はい。そのつもりですけど」
別にやることもないしな。
「女の子の一人歩きは何かと物騒だから気をつけなさい。何なら私が」
「いえけっこうです。ひとりでかえれますので」
できるだけ感情をこめずに言う。
「そう……」
この先生と帰るほうが危ない。間違いなく。
「では失礼します」
「うん、気をつけてね」




「さて、ひょんなのこスレを……と」
190 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:47:58.97 ID:DD6Hk2.o
さて、帰ろうとは思ったものの思ったより時間が早い。
どうやってバスまでの時間を潰そうか。
ふとグラウンドに目をやると、多くの生徒が部活に汗を流している。
いいねぇ。青春だね。ウムウム。
「1・2・ソーレ!1・2・ソーレ!」
ランニングしてる女子の揺れる胸が目に入る。が

カキーン

そんな男のロマンよりも、この甲高い金属音の方に心引かれてしまうのが悲しい。
健全な青少年としてはいささか問題である。

「野球かぁ……懐かしいな」

グラウンドの際奥では、野球部がフリーバッティングをしている。
ふと俺は、中学時代のことを思い出す。
みんなで汗水垂らした厳しい練習。
ベンチで必死に声を枯らしたこと。
勝利の瞬間誰よりも早くベンチを飛び出したこと。
祝賀会の焼肉etc
すべてが最高の思い出であり、俺の宝物だ!

「って試合に出た記憶が一つもねえ!?」
そういや俺ってばド補欠だったしな。そりゃ帰宅部にもなるってもんだ。

「お、コウだ」
気を取り直して打席のほうに目を向けなおすと、
「お願いしまーっす!!」
一際大きな声を出して打席に入る選手の姿。

コウ=木戸幸一。俺の幼稚園からの親友にして…

191 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:48:50.70 ID:DD6Hk2.o
キィン!
「センターバックバック!!ってまたネットの上か」

我が弱小松栢高校の正捕手。
二年生にして県内有数のスラッガーと名高い高校球児である。

キィン!!
「レフトー!ジャンプ!!」
「無理!悟版並みのジャンプ力ないと無理だから!!」

「すげ……」

思わずため息が出る。
いつもは馬鹿やってる俺たちだけど、グラウンドに立つととたんに別次元の選手になる。

恐ろしく速いスイングスピード。
名門校のバッターとも引けをとらない飛距離。
美しい放物線を描いて飛んでいく打球。
そして滴る汗。真剣な眼差し……

「かっけー……」

っておい!今俺何考えてた!?
やべえって、今の思考はマジやばいっていうか俺なんなの?
もうすっかり女の子気分?馬鹿なの?死ぬの?

カキィーン!!
「うわ、ちょ、これはデカイ……って危なーい!!」
「へっ!?」

「ゴツッ」 アタシは死んだ。スイーツ(笑)

―完―

192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:50:15.10 ID:DD6Hk2.o


「って勝手に終わらせるなああああああああ!!!!!っつう……痛たたた」
うわ、何か頭ぐわんぐわんする。なにこれガンガンどころの騒ぎじゃない。
そして喉がヒリヒリする。
「あ、気がついた!」

周りを見回すと見たこともない部屋。
横には心配そうな顔の母さんがいる。

「うう……あれ、ここどこ?」
「病院よ。頭にボールが当たって運ばれたって聞いた時はびっくりしちゃったわ」

ああ、なんかそういえば野球部の練習見てた気がする。
んで、コウが打席に入って……
あれ?俺なんかすげえ恥ずかしいこと考えてたような……あれ?

「あ、そうそう。そういえば僕のボールが当たってしまったんだって、コウくんが来ててさ」
まあいいか。思い出せないってことはそれほど重要なことでもないんだろ。
「私が保護者として来たのを見て、何で慶のお母さんがって話になっちゃってさ。もうごまかすの大変だったのよアッハッハ」
ああ、そりゃアイツからしたら不思議だろうな。
「ふーん。ちなみになんて言ったんだ?」
そう言いつつ俺はベッドのそばのコップに手を伸ばす。もう喉がカラカラだ。
俺はコップの水を口に含み

193 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:50:42.16 ID:DD6Hk2.o
「うん、慶の許婚としてうちに来てるって言っといた」
「ぶほぁっ!!!げほっ……けほ……」

盛大に吹き出した。
「うわっ!何やってるのよ慶」
「何やってるのじゃねええええええええええ!!!むしろそっちが何やってんだよ!?」

何で俺が俺の許婚になってんの!?その発想はねえだろ!
母さんといい先生といい無茶苦茶だ!!

「面白いかなって。他に思い浮かばなかったし」
「そして最悪の返答があっ!?」
もしかしてこの大人たち、兄貴よりタチが悪いんじゃないか?
「何よ、今まで彼女がいなかった男の子の所にいきなり許婚よ?逆転満塁サヨナラホームランどころの騒ぎじゃないわよ?こんなおいしい話がある?」
「この女の子が俺と別人だったらそりゃあ大歓迎だよ可愛いし胸大きいし!」
「自分でよく言うわね……確かに可愛いけどさ」
「…………だけど面白半分でそんなこと言うのはどうよ!?コウに勘違いされたらどうすんだよ!?」
「今可愛いって言われ動揺したな?……っていうか勘違いって、何を?」
「何って……あれ?」

ん、俺は何をそんなに怒ってるんだ?
そりゃ面白半分に俺の許婚ってことにされたのは(そういう以外にいい言い訳を思い浮かばなかったのも事実らしいが)これから学校で何を言われるか分からないから怒っても当たり前だが、コウに勘違いって……何を?俺に許婚がいるって羨ましがられるにしても、何か怒る理由があるか?

「??????」
「大丈夫?頭打っておかしくなったんじゃない?」
「かもしんない。寝るわ」
「ん〜。じゃあ、ちょっと心配だけど、お休み」
その心配はできればもっと前にして欲しかったな。
俺はそんなことを考えながら眠りについたのだった。

194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:52:05.16 ID:DD6Hk2.o
翌朝
目を覚ますと枕元には書置きがあった。

『パートに行ってきます。ホントはついててあげたいんだけど……
ちょっとでも体がおかしいと思ったらすぐナースコールすること!

美人の母より』

「自分でよく言うね……」
何かデジャブを感じる台詞を呟く。
「さて、何すっかな」
夕方退院らしいが、それまでは完全に自由なのだ。病院のベッドに独り座っている。
ちらっと窓の外を見やる。満開の桜が目に入る。天気は快晴。
「見た目だけなら悲劇のヒロインだな。俺」
そんなことを考える。と、
「はーい。朝ごはんですよ」
と、お盆を持って看護婦さんが入ってくる。
そういえば昨日晩飯食ってなかったっけ。急に空腹を覚える。
「いただきます」
初めての病院食は、味が薄いという感想しか思いつかなかった。

とりあえず午前中は、売店で漫画を買って過ごした。
昼もやっぱり病院食で、やっぱり味が薄い。
食べながら、昼から何をしようかと考えていると

コンコン

ん、ノック。誰だろ?
「あ、はい。どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、
「昨日はごめんなさい。大丈夫ですか?」
よく知った顔と、違和感のある口調。
そこに違和感を覚えなければ、俺は自分が女の子になってたことを忘れて対応して、大事になっていただろう。
「はい。もう大丈夫ですよ」
コウが本気で心配そうな顔をしてたので、安心させるために笑顔を見せてやる。
「…………」
「どうか、しました?」

なのに、なぜかコウはきょとんとした顔。

「……あ、ああ。いや、その……なんていうか……」
「?」
俺はコウの態度が謎で首をかしげる。と
「……っ……え……と」
何だこの反応。
「……慶の許婚、なんですよね?」
「え……そ、そうですけど」
「いや、こんなに可愛い女の子と慶がって思うと、羨ましくて」
……俺はさっきまでの自分の行動をコウ視点で見直してみる。
195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:53:35.69 ID:DD6Hk2.o
可愛い転校生の病室に入る。

自分、謝る。

転校生、ベッドの上で自分に笑いかける。

自分、可愛さに動揺して固まる。

転校生、首をかしげる。
その仕草も(たぶん)可愛い

うむ。即死コンボだ。

「畜生あいつめ。さては恥ずかしくて黙ってたな!」
そういうわけじゃないんだけどな。
知られたらある意味はずかしいけど。
「あいつめ。帰ってきたら野球部式の祝福してやる……知り合い全員で」
それただのリンチじゃね?

「……ところで話は変わるけどさ」
「はい?」
「野球、好きなの?昨日見学してたみたいだったけど」
ふむ、野球な。
「はい。好きですよ」
当然だ。部に入っていないからといって嫌いになったわけじゃないからな。
「意外だね」
「そうですか?」
「好きな選手は?」
「山本昌」
「渋っ!」
「ですよね〜」

こんな感じでひとしきり野球談義を楽しむ俺たち。
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/19(月) 21:54:51.24 ID:DD6Hk2.o
「お。もうこんな時間か。じゃあ俺……」
そこまで言いかけて何か考えてたコウだったが、
「あのさ……もしよかったらなんだけど、野球部のマネージャーやらない?」
「え?」
「それだけ野球詳しいし、その……可愛いからやる気でるし、それに」

え、可愛いって何今の告白?
そう思った瞬間顔が熱くなってくる。
そして次の言葉を待つが、

「もしかしたら……慶も戻ってきてくれるかもしれないし」
「え?」

思いもよらない言葉に驚く俺。

「俺、あいつと高校で野球するの、夢だったから。ごめん……エサみたいで申し訳ないな」

おいおい何の冗談ですか?今更俺が入ったところでどうにもならんでしょーよ。
こちとら補欠の補欠のピッチャーだったんだぜ?
球威0、コントロール0の00ユニットとは俺のことだぜ?

「ごめん。ワガママばっかだな俺」

……だけど、素直に嬉しい言葉だったから……

「じゃ、また明日……」
「いいですよ」
「え?」

「マネージャー、引き受けます」

何より野球が、やっぱり好きだから。
とびっきりの笑顔で、そう答えた。
197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/19(月) 21:56:27.53 ID:DD6Hk2.o
今日は以上です。
改行エラーのせいで1レスの長さがバラバラになっちまった…
198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/20(火) 00:09:36.58 ID:1J.giWQ0
待ってました
GJ!!!!!
199 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/24(土) 06:31:19.56 ID:SrfX02Yo
やっぱり明るい展開が欲しいねー
200 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/24(土) 06:31:47.56 ID:SrfX02Yo

「すごい」
「うん、すごい」
正直な感想を述べると、そうなった。
「私も手伝います」と言って台所に入ってきたサトちゃんは、瞬く間に料理を二品作り、
(私の目から見ると)ちんたら料理を作っていたユウの手伝いまでこなしてしまった。
なんだか負けた気分になって「料理は味だ」とか何とか言っていたユウも、一口味見するとテーブルに突っ伏してしまった。
よほど悔しかったらしい。しばらくぶつぶつ言った後、起き直ってサトちゃんに「弟子にしてください」と土下座する始末。
そんなユウを尻目に、サトちゃんに「料理の秘訣は?」と聞いてみたら、「心です」と即答された。
心だけでどうにかなるものじゃないと思うけどな。それにしても美味しい。美味しいぞ。味音痴の私でも分かるくらい。
「いや、そんなにご大層なものじゃあないですよ。昔、幾年かレストランで修行しただけです」
とサトちゃんが言う。
「レストランで修行……やっぱり」
ユウと私の台詞が被る。当のサトちゃんは「あれっまずいこといったかな」って顔になっていた。
201 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/24(土) 06:32:32.51 ID:SrfX02Yo

しまった。うっかり口が滑った。
年端もいかない少女が「レストランで修行した」なんて言ったら、怪しまれるに決まっている。
大体、修行したのは数十年も前のことで、そのレストランはとっくに戦禍に巻き込まれて消滅してしまった。
まあ、見たところ二人とも怪しんだ素振りは見せていないし、一応は安心していいのだろうが、これからは気をつける必要があるな。
それにしても、このくらいの食事で美味しいと言われるのには参ってしまった。私にとっては失敗の部類に入るのに。
この分だとご飯を作るたびにこの状況になってしまうな。それはそれで面白いが。

……ここまでなんとか「少女」として外面を取り繕う事が出来たが、今後、いつ正体を表してしまうのか少し不安だ。
この年代の少女は普通小学校に通っていることなど、このまま暮らしていくにはいくぶん私の置かれている状況は辛い。
しかし、私が「私」になってから、頭の回転が速くなっているような気がする。
老人の脳から若い脳になったのだから当然のことなのかもしれない。若いというのは、良いことだ。そう思った。
202 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/04/24(土) 06:33:27.91 ID:SrfX02Yo
いじょー
書き溜めが少なくなってまいりますた
203 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/04/24(土) 21:34:07.19 ID:YwBJQoAO
乙です。最近、投下が増えて嬉しい。
204 : ◆/ShBG.hvjg :2010/04/27(火) 01:06:26.15 ID:QfhG4fco
12話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61 11[10/03/07] >>95-99

なお、11話に誤字があったので訂正します。
>>98 6行目
× 私がすぐ駆け付けたため、美恵さんの魂が喰われてしまう自体は防げましたが、
○ 私がすぐ駆け付けたため、美恵さんの魂が喰われてしまう事態は防げましたが、
>>99 21行目
パー速の文字置き換えにより「高 齢」の間に「翌」の字が入っています。
205 : ◆/ShBG.hvjg :2010/04/27(火) 01:07:15.91 ID:QfhG4fco
「誰が幼いって?」
突然開いた襖の向こうに現れたのは、吉里氏だった。
「吉里様っ…!」
神主はとがめるような口調で吉里氏を様付けで呼んだ。
「ああ、大丈夫。とっくに気付いてるから。それで、この子もそうなんでしょ」
なんだなんだ?気付いてるから大丈夫って?この子もそうって?
演技指導の時と変わらぬ雰囲気のまま不思議な事を言う吉里氏は、
私の頭上にさらなるハテナを増やしてくれた。

神主は私の疑問に気付いたのか私の耳元に近づいて、
「彼も、あなたと同じ産土様の分け御霊なのです」
「だったら吉里さんに…」
そう言いかけた私の言葉を遮り、より声量を絞って耳打ちした。
「吉里様は荒御霊、つまり産土様の荒ぶる魂を分けた方なのです。
 彼に祟り神の話をするのは危険です。
 相手は祟り神と言っても失うことのできない大切な神です。
 しかし彼は……抹殺しかねない…!」
206 : ◆/ShBG.hvjg :2010/04/27(火) 01:07:45.98 ID:QfhG4fco
あの吉里氏が荒ぶる神だという。
吉里氏は私と目が合うと、
「なに内緒話してるのかな?」とにこやかに質問をなげかけた。
神主の言う「抹殺」と吉里氏の見た目のギャップに動揺した私は、
この話を一旦終わらせた方が良いと判断してこう言った。
「あ、いや、なんでもないです。
 ほら、そろそろ戻らないと残ってる二人が暇をもてあましてますよ」

すでに、私がこの部屋に来てからかなり時間が経っているはずだ。
夕刻とあって吉里氏の向こうに見える空の色がずんと暗くなっていく。
吉里氏も帰りの遅い私たちを探す建前で来たのではないだろうか。

吉里氏は一瞬考える素振りを見せてから、
「じゃあ神主、また後で。ギャップちゃん、戻ろうか。」
と言って部屋に入りかけていた足を引っ込めた。

私は「あんたもギャップあるじゃないか」と思いながら、
大広間に戻るべく吉里氏の後を追った。
207 : ◆/ShBG.hvjg :2010/04/27(火) 01:08:23.69 ID:QfhG4fco
「あ、おかえり。雅人は?」
部屋に入ると、優衣とトランプで遊んでいた悠介が振り返って言った。
雅人はもっともらしい言い訳のために遅れてくる。
「夕飯の準備を手伝ってたんだけど、オーブンのが焼けたら来るって」

あの話の最中、有能なお手伝いさんはいつの間にか居なくなっていて、
一人で私たちの夕飯を作っていてくれたそうだ。
それで、私と雅人が手伝っていた事にすれば問題ないと言うのだ。
程なくして雅人がお手伝いさんと共に運んできた夕飯は、
お手伝いさん一人で用意したとはとても思えない豪華なものだった。
一体この人はどうなっているんだろうか。

大広間の中央に設置された大きな座敷机に溢れるほどの料理が並ぶ様は、
どこのお城のパーティーかと思うほど。そう、パーティーであって宴会ではない。
この純和室の広間には似つかわしくない、なんと西洋料理だったのだ。
自分の台詞に「オーブン」という文字が入っていた意味に今更気付かされた。

「きゃー!!美味しそう」
大げさなリアクションで喜ぶ優衣はさすが女の子といったところか。
元男である私には、こんな可愛いリアクションはできようがない。
小さな口を開けてポカーンとしていると、やはり同じ表情の悠介と目があった。
「「美味しそうだね」」
と、結局同じタイミングで同じコメントをしてしまった。
208 : ◆/ShBG.hvjg :2010/04/27(火) 01:09:06.44 ID:QfhG4fco
照れる悠介を見て、隣に座っている優衣が顔を近づけてきた。
「ちょっとー。美恵さんたちどうなってんの?
 恋人、いえ、夫婦、でもない、双子並にシンクロしてない?」
そのわけを知るよしも無い優衣は、
私と悠介が何か特別な関係ではないかと疑っているようだ。
「別に、偶然よ」
「ね、」と悠介に同意を求めようとも思ったが、余計に怪しまれる気もする。
見かねた雅人は、
「おい悠介、俺たちもシンクロしようぜ?」
と訳のわからない事を言い出した。いや、思い出した。
小さい頃、秘密基地に入るための暗号があったんだ。

まず雅人が最初の4文字を言う。
「ひいわや」
続けて二人で同じ暗号を早口でシンクロして言い合うのだ。
「「みれれだ つるらけ きもゆで ちのうあ にはしる」」
「「は!」」
最後は拳を突き出すポーズ。

「何それー」
完璧に息のあった二人をみて、優衣は腹を抱えて笑い出した。
私も、端から見るとこんなに滑稽だったのかと、
可笑しくなって笑いが止まらなくなった。

「女性陣に大受けだぞ、兄弟」「ばっちりだな、兄弟」
二人はすっかりその気になっていた。
209 : ◆/ShBG.hvjg :2010/04/27(火) 01:09:46.01 ID:QfhG4fco
そんな事をしているうちに吉里氏はもう食べ始めていて、
それを見た私たち4人は一斉に目の前の食事に取りかかった。

殆ど料理の名前は判らないが、
彩り鮮やかな見た目がその美味しさを想像させる。
口に入れてみると慣れない味だが、それでも最高に美味しい。
このパイのようなものは、さっき言ってたオーブン料理だろう。
(これはキッシュですよ)
「ありがと」
料理名を教えてくれた事に対して礼を言っただけなのに、
なぜか全員が手を止めて、不思議そうに私を見た。

「えっ?」
優衣が教えてくれたのだろうと顔を見ると、
「えっと、美恵さん独り言言ってたよ」
と疑問の理由を話してくれた。

さっきの声は女性だったし、ここに居る女性は私の他には優衣だけだ。
それなのに、さっきの声は優衣ではないというのか。
そういえば語尾が「ですよ」と丁寧だった気がする。

咄嗟に後ろを振り返ってみたが、
この大広間のだだっ広さが感じられただけで、何もない。
襖の向こうにも、気配は感じられなかった。

第十二話END
210 : ◆/ShBG.hvjg :2010/04/27(火) 01:10:32.52 ID:QfhG4fco
>>101に言われてつい最後に襖と書いてしまったとかそんなこと無いんだからね!
暗号は昨日テレビ見て思いついたとかそんなこと無いんだからね!

書いてるうちに先の話がどんどん変わって収集がつかなくなってますーwwww
投下したら話を修正できないので怖いですねーwwwwwwww
次回、急展開!?と思ってたけど、どうなるやらーwwww
211 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/04/27(火) 22:20:50.97 ID:8MIj1GQ0
乙!
212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/05/01(土) 00:32:30.60 ID:wjVS/KU0
☆〜 物語まとめ(2010年4月版) 〜☆

u4ZPDzk0
 . 1[09/11/11] 前919-935 2[09/11/12] 前939-943
 . 3[09/11/13] 前945     4[10/01/04] >>42-47
 . 5[10/02/22] >>71-75

◆/ShBG.hvjg
 . 1[09/09/05] 前722-726 . 2[09/09/08] 前732-736
 . 3[09/09/09] 前742-746 . 4[09/09/13] 前762-766
 . 5[09/09/17] 前787-791 . 6[09/10/11] 前842-846
 . 7[09/10/18] 前863-867 . 8[09/10/26] 前890-894
 . 9[09/11/14] 前948-952 10[10/01/24] >>57-61
 11[10/03/07] >>95-99  12[10/04/27] >>205-209

vqzqQCI0 「どんだけ☆エモーション セカンドシーズン」
 . 1[09/09/04] 前710-716 . 2[09/09/12] 前751-757
 . 3[09/09/16] 前770-777 . 4[09/09/25] 前797-801
 . 5[09/10/02] 前810-818 . 6[09/10/10] 前824-836
 . 7[09/10/17] 前849-857 . 8[09/10/24] 前870-881
 . 9[09/11/01] 前899-909 10[10/03/02] >>79-89
 11[10/04/07] >>126-135

ID:WskssAs0
 1[10/04/09] >>141-144 2[10/04/16] >>172-179
 3[10/04/19] >>189-196

◆SI.G.Owte.
 1[10/04/11] >>153-155 2[10/04/12] >>161-162
 3[10/04/15] >>166-168 4[10/04/18] >>184-185
 5[10/04/24] >>200-201
213 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:03:29.36 ID:Z1A2lRc0
>>212
まとめ乙です。

そんなわけでまたまた間が空いてしまいましたが投下します。
214 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:05:38.99 ID:Z1A2lRc0
  どんだけ☆エモーションSS(その12)




…。


…身体が重い。

「…むぅ」
朝目覚めると私は何とも言えない気だるい感覚に襲われていた。

昨日まで部活で絶好調だったのにどういった自分の身体の変化だろうか。
身体の重さだけでなく、私の頭の中も妙にぼんやりとして冴えない。

「んあ…おはよう、お姉ちゃん。どうしちゃったの?」
いつものように私に抱きついて眠っている実由が私の変化に気付いて聞いてくる。

「うん、何だか身体の調子が良くないような、何と言うか…」
「大丈夫? 具合が悪いなら今日学校休んだら?」
実由は心配そうに私の様子をうかがう。

「うーん…風邪で熱が有るわけでも無いし、休むほどでも無いかな」
私はそう言うと重たい身体を起こす。

実由と着替えを済ましてリビングに向かう私。
「ミヒロちゃん〜? 顔色が良くないわね〜?」
母さんも私の様子に気付き、そばに寄ってくる。

「うん、まあ、そんなに、ね…」
曖昧に答える私に母さんは学校を休む事を提案するが
そうこうしているうちにサトシが迎えにやって来たので
私は学校に行く事にする。

「無理しちゃ駄目よ〜、辛かったら早退しなさいよ〜」
「お姉ちゃん、無理しないでね!」
実由と母さんの言葉に「分かった」という返事をしつつ、
私はサトシと学校に向かった。
215 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:07:12.23 ID:Z1A2lRc0
「大丈夫なの?」
サトシも心配そうに私の様子を見つめる。
「うん、とりあえずは」
冴えないながらも私は笑顔でサトシに返す。
とは言いつつも身体は相変わらず重い。
…一体何なんだろう。

「? どうしたの、ミヒロちゃん?」
学校に着き、教室で一息ついていると園生ちゃんと類ちゃんが
私のところにやって来た。

私の様子の変化に気付いた二人は心配そうに
気遣う言葉をかけてきてくれる。
「…ありがとう。でも、大丈夫だよ? 時間が経てば良くなるからね」
私は園生ちゃんと類ちゃんに心配をかけまいと平気な振りをしてみせる。

「ホントに? …でも無理しちゃ駄目だよ、絶対。
"女の子の身体"はミヒロちゃんが思っているほど頑丈じゃないんだからね?」
「え? う、うん…分かった」
園生ちゃんの言葉に返事をする私。

そうこうしていると朝のホームルームが始まり、皆それぞれの席に着く。
かくして気分的には優れないものの、本日の学校生活が始まった。

「…」

授業が進む毎に私の気分の悪さは着実に進行してきている。
休み時間に園生ちゃんが私の顔色の悪さに保健室に行く事を強く勧めてきた。
「あはは。大丈夫、大丈夫」
私は相変わらず大丈夫な振りをして園生ちゃん達の心配をかわす。

ふう…まいったなぁ…。
大丈夫な振りをしてはみるものの、そんなに大丈夫では無いんだよね。
これ以上具合が悪くなったらどうしようか?と思案を巡らしつつ
辺りを見渡す私。
216 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:09:06.77 ID:Z1A2lRc0
…そんな最中。

「いや〜、なかなかの美少女だったなぁ」
自分の教室にサトシと一緒に戻ってきた吉田。
何やら非常に満足げな様子を浮かべている。
「このクラスにはこのクラスで美少女3人組がいるけど、常に可愛い子は
沢山居るに越した事は無いよな〜」

…美少女3人組?
私は吉田の言葉をぼんやりと聞いていたが
その3人組は私、園生ちゃん、類ちゃんの事を言っている事に気付く。

私はともかくとして園生ちゃん、類ちゃんはクラスの男子から
すごく人気があるという事を他のクラスメイトから聞いた事がある。
確かにあの二人はすごく可愛いから分かる気はするけど。

「サトシも結構興味深々だったんじゃないのか? 割と神秘的というか、
清楚なお嬢様な感じの転校生だったからなぁ〜」
ニヤニヤしながらサトシの肩をたたく吉田。
「あのなぁ、お前だけだよ。喜んでいるのは…。
それにクラスが違うから接触する機会なんて早々無いだろ」
困った様子のサトシ。

吉田の声が大きいせいか、周りの反応を気にしているサトシ。
その視線は何気に私を見ていたりしているような気がする。

―全く、吉田ってホントに女好きだよな。
私は呆れて奴の様子を眺める。

以前私が編入試験を受けに来た時、吉田はわざわざ私の姿を観に行ったと聞いた。
だから他のクラスまで見に行く事は別に珍しい話では無いな、と思う。

吉田が"可愛い女の子"にものすごく反応する奴なのは知ってはいるけど、
気分的に優れない時に奴の能天気な姿を見ると妙に腹立たしく感じるのは何でだろう?

…サトシも困った振りしているけど、吉田に付き合って他のクラスに
行っている位だから満更でも無いんじゃないの?
217 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:11:14.63 ID:Z1A2lRc0
…うわ。

そう考えると苛立ちがどんどん大きくなっていく。

む〜。

何気にその苛立ちの視線をサトシに向けてみたりする私。

それにしても。

この時期に転校生なんて、どういう事なんだろ?

私もほんの数週間前に転校生としてやって来たので
あまり人の事は言えないけど、私を含めてこの短い間に転校生がやって来るのは
珍しいのではないだろうか。

まぁ、他のクラスの事だし、私がその転校生の女の子と関わる機会は
無いとは思うけど。



…と思っていたら。




「本日よりサッカー部にマネージャーとして入部する入間 椿、2年生です。
皆さん、よろしくお願いします」

私達、サッカー部一同の目前で顧問の先生によって
一人の女子マネージャーが紹介される。

紹介された女子生徒は長い黒髪をなびかせて
丁寧にお辞儀をしてみせる。
知性を感じさせるような澄んだ瞳と整った顔立ち、尚且つどこかのお嬢様のように
清楚な雰囲気を漂わすこの女生徒はスポーツ系のマネージャーというよりは
文系の大人しめのクラブの方が似合うような気がする気がする。


「ヤッター!! 美少女マネージャーがこれで2人も!!」
「おいおい、どうしちゃったの!?
これまで女子マネに縁の無かったサッカー部なのに!?」

私の入部の時と同様に大喜びする部員達。
218 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:12:45.34 ID:Z1A2lRc0
「…」
その様子をじっと見ている私。
具合が悪いのも相まって不機嫌になっていく。
…何なんだろうか? この気持ちは?

確かにもしも自分が"ヒロアキ"であったらこの状況に素直に喜ぶのかも知れない。
だけど、今の私には不思議とそのような気持ちにはならない。

これも自分が"女の子"になったせいなのかな?

更には喜んでいる部員達を見ていると
「これだから男って奴は…」なんて気持ちが湧いてくる。

自分も以前は男だった事なんてすっかり棚上げしつつ、
冷めた視線でその様子を眺める私であった。

「では紹介も終わった事だし、早速本日の練習に取り掛かるか」
部員達の騒ぎがある程度落ち着いた頃合いを見計らって、
中川先輩は声をかける。

皆その声を受け、それぞれの場所に向かった。

「それじゃミヒロさん。彼女の面倒を頼むよ」
「あ、ハイ、分かりました」
中川先輩は簡単に入間さんの紹介をした後、私に彼女を託した。


かくして私は入間さんと二人きりになった。

「…」
じっと私は彼女を見る。

う〜む。

確かにクラスメイトの吉田の言う通り、入間さんは結構な美少女だ。

私よりも若干背丈があって、外観から判断するに私よりも
プロポーションは良いように思われる。…胸の大きさは類ちゃん並みかな?
睫毛が長いせいか大きな瞳がさらにパッチリしているような気がする。
艶のある長い黒髪、白くキレイな肌はさすがの私も見ていて
ウットリしてしまう程だ。
219 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:14:28.51 ID:Z1A2lRc0
「…」

…ハッ!

彼女からの視線に我に返る私。
思わず彼女の綺麗さに見とれてしまっていた。

「え〜と、それじゃ、仕事を説明しますね」
「ハイ、よろしくお願いします」
気を取り直した私に何事も無く返事をする彼女。

これまでマネージャーが居なかったサッカー部なので
急にマネージャーが2人に増えてそんなにする仕事があるのかという部分が
あるが、コーチという新たな仕事を与えられた私なので
実際のところマネージャー業務は入間さんにお任せする事になるだろう。

…でもそんなに仕事なんて無いんだけどなぁ。

とりあえず仕事を教えなくてはならない。
入部1週間ほどとは言え、一応マネージャーにおいては
先輩な私なのだからね。

「…で、簡単だけど私がやっているのはこんな感じかな?」
「なるほど。大体分かりました」

自分のやっている業務の内容を彼女に教える私。
そんなに難しい事はやっていないので入間さんもすんなり理解してくれた。

「ふぅ…」
ある程度一緒に彼女と作業をした後、グラウンド横のベンチに座る。
入間さんも私の横に座り、じっと練習中の部員の動きを眺めている。

しかし新人で仕事を知らないとは言え、入間さんが居て良かった。
正直、朝よりも自分の体調は悪くなっていたのだ。
220 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:18:00.69 ID:Z1A2lRc0
ちょっとした力仕事も二人がかりでやる事ができて
自分の身体に負担がそんなに無い状況で済ます事ができた。

「…大丈夫ですか? 見た感じ具合が悪そうに見えますが?」
私の様子をじっと見詰める入間さん。

「え? どうして?」
彼女の予期せぬ質問に戸惑う私。
初対面でよく知らない相手からいきなり心配されてもどう対応して良いのか
分からない。

「顔色が良くないですし、作業も辛そうでしたから…」
「う〜ん、具合が悪いのは否定しないけど…まぁ、大丈夫かな」
とりあえず何事も無いように答える私。
部活が終わればすぐに家に帰宅するし、それまで頑張れば良いわけだし。
それまでは我慢できそうなので大丈夫だろう。

…しかし。

そろそろ部活も終わりに近づきある中で私の具合は急速に悪化していた。

「…」

何だろう? この気分の悪さは?
頭がグラグラするし、何より下半身が重く力が入らない。
そもそも原因が分からないし、心当たりを考えてみるも
混乱しつつある今の私には冷静に判断できる状況に無い感じ。

とりあえず今日のコーチ業務は体調不良により厳しいとサトシが事前に
主将へ伝えてくれたお陰で今日の私はじっとベンチに座っていられたのだけど。
221 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:19:29.27 ID:Z1A2lRc0
「…さん、ミヒロさん」
「…え?」
私がベンチでうずくまっていると新人ながらも早速マネージャーらしく
仕事をしている入間さんが声をかけてきた。

「そろそろ部活が終わりそうなんですけど…」
私の様子に気遣っている様子の彼女。

え。もうそんな時間。

辺りを見回すとちょっと薄暗くなっている外の風景が広がる。
「あ、ゴメンなさい。私もすぐ動くからね…」
慌てて立ち上がろうとする私。





…あ。

思わずバランスを崩す私。

急に立ち上がろうとしたせいか、具合の悪いせいか分からないけど
眩暈に襲われたかと思うとその場にしゃがみ込む。

「え、あの…」
「ちょっと、ミヒロちゃん!?」

私の状況に声をかけようとする入間さんともう一人。
目の前が暗くなって誰かは見る事が出来ない。

だけど、…この声は。



…園生ちゃん?
222 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:22:48.93 ID:Z1A2lRc0
「ミヒロちゃん、大丈夫!?」
園生ちゃんはすごい勢いで私の元に駆け寄ると私の肩に手を置く。

「そ、園生ちゃん? どうして?」
意識が朦朧としながらも疑問を口にする私。
ここには居ないはずの彼女が何故?

「どうして、じゃないよ? 朝からずっと調子悪いの知っていたからね、
部活が終わってから気になって見に来ていたの」
心配そうに私の様子をうかがう園生ちゃん。

園生ちゃんは今日はお料理研究会と掛け持ちをしている運動部の
マネージャーをしている日だったらしく、帰り際に私の事が
気になって様子を見に来ていたとの事であった。

「まだこの時間なら保健室の先生も居るからそこに行きましょ」
園生ちゃんはそう言うとまだ座り込んでいる私に肩を貸して
立ち上がらせようとする。

「ヒロ…! 大丈夫か!?」
その様子を見ていたサトシが練習を中断して慌てた様子で私のところに
やって来た。

中川先輩をはじめ他の部員達も私の事が気になってやって来る。

「これからミヒロちゃんを保健室に連れて行きます。
後の事はわたしに任せてもらえませんか?」
私を立ち上がらせると園生ちゃんは中川先輩に伝える。
普段の温和な彼女とは思えないほど有無を言わせぬ迫力を
周囲に見せる園生ちゃん。

「ああ、頼む。サトシも彼女の手助けをしてやってくれ」
「はい、分かりました」
先輩も園生ちゃんの申し出を承諾するとすかさずサトシに
伝える。
「仲林さん、ミヒロちゃんは俺が運ぶよ」
サトシはそう言うと私をおぶさろうとする。
「うん、分かった。…お願いね、サトシ君」
自分の肩で私の身体を支えていた園生ちゃんはサトシの背に私を乗せる。

「よし」
サトシは私をおぶさるとゆっくりと立ち上がる。
その横で園生ちゃんは私達について行く。
「…」
サトシの背中でぐったりとしている私。

もし私の意識がハッキリしていればサトシの背中に抱きついている
今の状況はきっと慌てふためくシュチュエーションなんだろうけど…、
そんな余裕は無かったりする私。

バタバタと慌ただしく私を含めた3人は保健室に向かった。
223 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/02(日) 03:45:40.48 ID:Z1A2lRc0
以上です。

投下が遅いのですっかり他の投下の中に埋もれてきましたww
忘れ去られそうな勢いですww
224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/05/02(日) 08:46:00.20 ID:7AKnlsAO
乙!
続いてくれるのが嬉しい。
225 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/05/02(日) 22:34:47.25 ID:Rc7eBa60
待ってたよGJ!
226 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/03(月) 12:22:16.91 ID:WTooHuYo
待ってました!!GJ!!

良作の後だと気が引けるよ投下するよ
227 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/03(月) 12:23:34.60 ID:WTooHuYo
あれっ書き溜めどこ行った
228 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/03(月) 13:36:28.52 ID:WTooHuYo

「サッちゃん」
食事が終わった後。ひとっ風呂あび、布団にくるまってアカリさんとのんびりテレビを見ていると、ユウさんが私のことを呼んだ。
先ほどまでとはうって変わって、ある種冗談のような物が混じっていた顔から真面目な顔に変わっている。
「サトちゃん、行ってきなよ」
アカリさんも彼の顔つきが変わったことを見て取ったらしく、テレビに目を釘付けにしたままではあるが、横顔はやはりユウさんのそれと全く同じであった。
私は立ち上がり、玄関を出て別の部屋へ入るユウさんを追う。
話があるようだが、一体なんだろうか。先刻は「事情は聞かない」と言っていたのだから、その線はないだろう。
食事の作り方か。ふしだらな事を考えているのか。いやそれもないだろうと自分にあきれて首を振る。
ユウさんの入っていった一〇四号室の扉を開けると、待っていたとばかりにこちらを見たユウさんが部屋の奥を指差した。
229 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/03(月) 13:36:52.14 ID:WTooHuYo

「はぁ……」
ユウがあんな顔をするのは珍しい。普段は軽いユウだからこそ、緊急時や非常時にしか見られない顔だ。
サトちゃんは何か大きい問題を抱えている。そのことについて余計な詮索はしたくない。
だが、お風呂に入るときに私は気付いた。

彼女の着ていたワンピースの黒は、乾いた血の色だった事に。

食事の時は、薄手のワンピースでは寒いだろうと毛布を羽織らせていて、ユウも私も気がつかなかった。
普通、毛布は脱衣所まで持っていったりしない。彼女だって例外ではなかった。
居間に毛布を置き、私についてくるサトちゃんを見て気づいたのだろう。
無駄に心配性で、でも心の広いユウはサトちゃんをいきなり追い出す事はせず、話を聞く、という選択肢を選んだのだ。
それが吉と出るか凶と出るかはわからないけれど。
230 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/03(月) 13:37:32.29 ID:WTooHuYo

私を部屋の奥に招いたユウさんが、何かを持ち上げた。まるでナイフを向けるように。
いや、実際にナイフを持っているのかもしれない。そのくらいの重圧感を持った、仕草だった。
「……君に聞きたいことがある」
それは、私の着ていたワンピース。何人もの血を吸ったであろう、赤黒い……!
「さっき俺は事情を聞かないといった」
しまった。あまりにもゆったりとした空気に呑まれて、
「親か何かから逃げてきた家出少女だと思ったから」
私の立場を、忘れていた。
「でも、コレは洒落にならない」
そういって私のワンピースを小さく揺らす。銀色の光がわずかに見える。先ほど感じたナイフの気配は本物だった。
「俺たちも、それなりに修羅場はくぐりぬけている」
どう。どう切り抜ければ。
「だが、服全体、余す所なく血で染まっているような人間は」
逃げる。言い訳。口止め。黙秘。ナイフを奪う。
「さすがに見たことがない……!」
231 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/03(月) 13:37:56.08 ID:WTooHuYo

幾つもの手段が私の頭を駆け抜ける。
「俺たちの追っ手と考えられなくはなかった」
ユウさんがいつのまにか刀身をあらわにしていたナイフを下ろす。私は内心、首をかしげた。
「だが、こんなものを着てきたら当然怪しまれる。そんな格好で暗殺に来るような間抜けは奴らの中にはいないし、その線はないだろうと思った」
小刻みにナイフを揺らすユウさん。さっきの殺気はどこへやら、とてもくつろいだ格好だ。
「ギブアンドテイクといこうか、サトさん。俺たちは居場所を提供する。君は洗いざらい事情を話す。どうかな?」
「……」
しばし考える。確かに私には帰るところがなく、しかも社会的には違う人間になっている。どこにもあてがないのだ。
ユウさんの目的はわからない。ただの親切心かもしれないし、何かに利用しようとしているのかもしれない。
しかしここで断ったらどうなるのか。まず、私は路頭に迷うだろう。ユウさんたちに追われることもあるかもしれない。
「……いいだろう。その提案、受け入れようか」
事情を話すなら、いまさら口調など無意味だ。ユウさんは少し驚いたようだったが、すぐに元の顔に戻った。
無言で立ち上がり、部屋を出て行くユウさん。私も立ち上がり、ユウさんの後を追った。
232 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/03(月) 13:38:32.94 ID:WTooHuYo
今日はここまで
どうも中二展開が多くて困るね
233 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/05/03(月) 21:06:06.22 ID:ugHJwac0
乙!
234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/04(火) 01:01:17.17 ID:J.Vp/YAO
GJ!
続きwwktk
235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/04(火) 01:18:07.05 ID:j/Tb40s0
乙!
ここ最近作品投下が多くて一日一更新だったのに五更新くらいするようになったよ
続きが楽しみだ・・・
236 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 01:57:07.80 ID:l2QxudY0
どんだけ☆エモーションSS(その13)


―保健室前―

そんなこんなで、保健室にたどり着いた私達。

室内は明かりが点けられていて、中では何やら書類を書いている
保健室の原田先生が居た。

「あら? どうしたの? その子?」
私達の様子にただならぬものを感じたかどうかはともかく、
先生はパタパタと私達の元にやって来る。

「彼女、朝から具合が悪くて…」
心配そうに私の状況を先生に伝える園生ちゃん。
私はサトシによって保健室のベッドに横たえられる。

「朝からねぇ…、ふうん」
原田先生は横たわっている私の様子をじっと眺める。
園生ちゃんとサトシは先生の動きに注目している。

原田先生はちょっと考え込んだ後、
ぽつりと一言。

「…この子、かなり重たいのかしらね?」

「え? 重たい?」
先生の言葉にサトシが首を傾げる。

「…そうか、そういうことね」
園生ちゃんは言っている意味を理解したらしい。
彼女は原田先生と顔を見合わせた後、サトシに一言。

「サトシ君、ちょっと外に出てもらえるかな?」

              ◇
237 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 01:59:49.70 ID:l2QxudY0
「一応、換えの下着は学校にあるからね。あと、返さなくてもいいからね」

「…はい」
とりあえず眩暈がひどいのでベッドに寝そべったまま返事をする私。

どうやら朝からの体調不良の原因は"生理"のせいだったらしい。
確かにそんなに多くはないものの、自分のショーツが大変な事になっていた。

本来ならばきっとこの事態に動揺するんだろうけど
頭の中がクラクラするせいか恥ずかしさというよりも
「後始末をどうするか」といった部分で冷静にこの状況を考えたりする私。
   
それにしてもこんなに具合が悪くなるものとは。
もちろん個人差はあるんだろうけど。

「…」
困惑したままサトシはベッドで横になっている私を見つめていた。

考えてみれば男だったはずの自分の親友が女の子になったばかりでなく、
こうして"生理"になってしまった場面まで立ち会ってしまっているのである。
これが動揺せずにいられないわけが無いだろう。

私も返答の仕様が無くて苦笑を浮かべてみたりする。

「それじゃ、後は私に任せてくれるかな? "彼女"のお母さんには
伝えておいたから。場合によっては私が送ってもいいし」
気が付くと千絵先生が保健室に来ていて、
原田先生に私の今後の処置について話をしている。

どうやら原田先生が千絵先生に私の事を伝えたらしい。

「ミヒロちゃんも今回は大変だったわよね〜? まぁ、初めてだったから
仕方ないけど」
私の髪を撫で付けてフォローを入れるように話しかける千絵先生。

「え? …ミヒロちゃん、今まで無かったんだ? それはそれで驚きだけど」
千絵先生の言葉に驚きの表情を浮かべる園生ちゃん。
私のベッドの横の椅子に座っている。
238 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:02:01.76 ID:l2QxudY0
「…確かに。"なって"まだ一ヶ月も経ってないもんなぁ…」
自分の思考回路が上手く回っていないせいか何も考えず
ぼんやりと呟く私。
私の周りに居るのが事情を知っている人だけならば
問題の無い発言ではあるけれども。



「え? 一ヶ月も経ってないって?」

私の言葉に理解できない人間が一人。



園生ちゃんである。

「ちょっ、ミヒロちゃ…」
意味深な私の言葉に反応したサトシは慌てて私に声をかける。

「え? なあに? サトシ? 今更慌てる必要なんて無いじゃない?
だってここには…」
「ああっ、もう! 寝惚けるのもいい加減に…」
「はいはい、それじゃ行くかしら? 私も早く帰れる口実が出来るからね」
私とサトシの会話を遮るように千絵先生が割って入る。

「え? え?」
急にサトシと千絵先生が慌ただしく動き始めて
何が起こったのか理解できない園生ちゃん。
ベッドで横になっていた私を起こすと、自分の車に乗せるべく
サトシに手伝わせている千絵先生。

「あの…」
「それじゃ、仲林さん。今日はミヒロちゃんの面倒を見てくれて
ありがとうね」
何かを訊ねようとする園生ちゃんに有無を言わせない感じで区切りをつけると
千絵先生は再びサトシに私をおぶらせて保健室を出た。
239 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:03:48.95 ID:l2QxudY0
「…何だろう、今の」
いきなりの千絵先生とサトシの行動に部屋に取り残された園生ちゃんは
ぼんやりと呟く。
「…まあ、千絵先生が彼女の面倒を見てくれたし、私達は安心して帰れるわね」
所在無く佇んでいる園生ちゃんに声をかける保健室の原田先生。
「そうですけど…」
彼女はそう言って窓から見える外の風景を見つめる。

外はもう暗くなっていた。

        ◇

「もう、ミヒロちゃんったら…」
帰りの車内で千絵先生は苦笑しつつ助手席の私を見る。

「…すいません、うっかりしてて…」
私はうなだれたままの状態でさらに頭を下げる。

「本当だぜ? ミヒロちゃんは何を言い出すのかと思ったぜ。
いくらなんでも不用意過ぎるよな」
後部座席に乗り込んでいるサトシが話しかける。
サトシも早々に部活を切り上げて私に付き添ってくれたのだ。
千絵先生がサッカー部の皆にうまく話をしてくれたお陰だ。

それにしても…確かに不用意だった。
サトシの言う通りだ。

せっかく上手く"ミヒロ"としてこの生活に馴染んできたのに
こんなところでボロを出すわけにはいかない。

千絵先生の機転がなければ今頃どうなっていたことやら。
…危ない、危ない。
240 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:05:30.54 ID:l2QxudY0
自宅に到着すると既に話を聞いていた母さんと実由が
パタパタとやってきた。

「ミヒロちゃ〜ん、大丈夫?」
「お姉ちゃん! だから無理しちゃ駄目だっていったのに!」
二人の勢いにさらに千絵先生とサトシが加わり、
私はあっと言う間に自分の部屋のベッドに寝かされる。

「う〜、何だったんだろ…あの勢いは」
「アハハ、そりゃ、皆心配だからだろ、俺もあの勢いに巻き込まれてしまったよ」
ベッドの中でうなだれる私にサトシは笑いかける。

母さんと実由、千絵先生は私をベッドに寝かすとサトシに私の様子を見てもらって
自分達はリビングで会話に花を咲かせている。
3人の賑やかな声が聞こえている。…やれやれ。

「…」

「…」

そんな訳で今、自分の部屋には私とサトシの二人だけになっている。

「それにしても…何と言うか、今日は驚いたよ。まさか…その」
一瞬間が空いた後、実感を込めるように私に何かを話しかけようとするサトシ。
でも後半ちょっと口ごもる。何か言いずらそうな感じ。

「…うん、確かに。まさか自分が"生理"になるなんて、さ」
「…」

「これまではそんなに実感がある訳では無かったんだけどなぁ…」
「実感?」
ぼんやりと呟く私に意味が分からず聞いてくるサトシ。
241 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:07:46.15 ID:l2QxudY0
「…うん。女の子になってから毎日が慌ただしくて何だかドラマか
マンガの中にいるような感覚だったんだ」
「確かに毎日ドタバタだったかもな」
納得したようなサトシの表情。

「…」
「どうした?」
考え込むような私の様子にサトシはじっと見る。

「でも、ある程度落ち着いて、こうして生理にまでなって
私、本当に"女の子"になっちゃったんだなって、初めて気付いたよ。
これまでは"振り"をしているような感じが、女の子を演じている自分が
いたけど、もうそういう訳にはいかないんだと思ったんだ」
俯き加減でしみじみと語る私。

「ミヒロちゃん…」
サトシはその様子を見て私に声をかけようか
躊躇うような表情をする。

「あはは、あんまりそんなに深刻に取るほどでも無いよ。
それなりに私は私で気持ちの切り替えは出来ているからね」
私にどのように声をかければ良いのか困っているサトシに向かって
軽く笑顔で返す。

「そうか、…それならいいんだけど、無理すんなよ。
何かあれば俺に言ってくれよな、親友なんだから」

「うん、ありがとう」
サトシなりの精一杯の言葉に嬉しくなる私。





…でも何か物足りない気持ち。



…親友かぁ。


242 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:09:46.97 ID:l2QxudY0
「ん? どうした?」
ちょっと黙り込む私に怪訝な表情で訊ねるサトシ。
「ううん。何でも無いよ」
何事もないように返す私。

その後、サトシは私に大人しく静養するように、と言い残し
自分の家に帰って行った。

「ふぅ…、参ったな」
ベッドでごろりと横になる私。

傍から見ると大した事なさそうだなと考えていたが
いざ自分が"生理"になってしまうとこれ程とは思わなかった。

…保健室の原田先生の言う通り私は「重たい」のかも知れないと考えると
正直、気が重い。

しかも"女の子"になった以上この状況は今後も続くわけで。
う〜む、"女の子"って大変なんだな…と実感する。

母さんと実由は「慣れればどうってこと無いわよ〜」などと言っていたけど。
ホントかなぁ?

こうして自宅に戻り気持ちが落ち着いてくると
自分の今の状況を振り返ってみる余裕が出てきた私。

「…もう『そういう訳にはいかない』か。」
さっきサトシに言った自分のセリフをもう一度呟いてみる。

…これからの自分自身。

これまでは直面する事態を如何に切り抜けるかといったところに
様々に思案していた私であったが、
これからはこの先『"女性"として生きていかなければならない』
という事実を今回の"生理"によって改めて気付かされた。
243 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:11:43.76 ID:l2QxudY0
「女性として…か」
この事実からは逃れられないんだ。
そして今後について私は真剣に考えなければならないんだ。

"ひょんなことから女の子"になってしまった私。

普通であればそんな展開に混乱とかするんだけど、
意外にも私はすんなり受け入れてこられた。
もちろんそれは"彼女の存在と助け"があったからだが。

だけど、これからは自分の人生は自分で考えていかなければならないんだ。



…。

でも、今の私はそれを認識するのに精一杯。

正直なところ"ヒロアキ"の時ですら自分自身の今後について明確でなかったのに、
"女性"になったからといって直ぐに何をどうするかなんて考えもつかない。

まずはこの体調を何とかしないと。

「とりあえず横になっていれば明日には大分良くなっているかも」
気分がすぐれない状況のまま私はベッドの中で丸くなる私。

実由はそんな私を気遣ってか、本日の夜は私のベッドで寝に来なかった。

でも。

「寂しいよー、早く良くなってねー、お姉ちゃんww」
などと言って自分の部屋に戻る前に何度も私に抱きついて擦りついてきた。
うっう〜、可愛過ぎるよ、私の実由は。

…。
244 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:13:58.65 ID:l2QxudY0
しかしながら具合の悪さは翌日なっても変わらず。

結局、その日一日も私は家でじっくり静養する事になった。

昨日から園生ちゃんや類ちゃんからの私を気遣うメールが来ていたので
とりあえず「大丈夫だよ」と返信しておく私。

サトシは朝、私の様子を見に来たが具合が悪いのを母さんに聞いて
そのまま学校に一人で行ったという話を母さんから聞いた。

だからサトシにも「わざわざありがとう」と言う趣旨のメールを送っておいた。

母さんと実由と言えば、一応"初潮"を迎えた私に「お祝いをしないと!」
などと言っていたが、具合の悪い私なのでそれは後日行うという事になった。

とりかくサッカー部の試合も近いし、そろそろ試験も近いんだよね…
身動きの取れない今の自分の状態に悶々としながらベッドで丸くなる私であった。


245 :vqzqQCI0 [sage]:2010/05/07(金) 02:22:28.46 ID:l2QxudY0
本日の投下は完了です。

書き溜めがあったので投下は早くできましたが
今後の展開が微妙なので書くのがつらくなりそうです。

246 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/05/07(金) 22:42:44.43 ID:2gdzvO.0
GJ!!!
247 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/08(土) 00:54:56.90 ID:Ts6YtEAO
投下ペース上がってきたww
本気で続きwwktk
248 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/15(土) 17:36:31.60 ID:dgSDTQAO
連休が終わると過疎になるな。
249 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/18(火) 06:34:53.63 ID:DMOvHdso
そんなもんですよ
今日余裕があったら即興投下します
250 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/19(水) 14:37:24.18 ID:HPbjWcAO
wwktkしている俺。
251 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/05/21(金) 06:29:34.31 ID:uGdimzMo
しかしパー速が落ちて書けなかったのであった

>>250には申し訳ないのですが、一週間ほど来れないかもしれません。ご了承くださいませ。
252 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/28(金) 14:57:17.52 ID:/glHAUDO
sage
253 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/29(土) 10:03:30.63 ID:kK5.kADO
支援
254 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/05/30(日) 09:59:12.69 ID:6L8fwkDO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
255 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/05/31(月) 22:34:34.44 ID:Xl0V.cco
☆〜 物語まとめ(2010年5月版) 〜☆

u4ZPDzk0
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 . 5[10/02/22] >>71-75

◆/ShBG.hvjg
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 . 3[09/09/09] 前742-746 . 4[09/09/13] 前762-766
 . 5[09/09/17] 前787-791 . 6[09/10/11] 前842-846
 . 7[09/10/18] 前863-867 . 8[09/10/26] 前890-894
 . 9[09/11/14] 前948-952 10[10/01/24] >>57-61
 11[10/03/07] >>95-99  12[10/04/27] >>205-209

vqzqQCI0 「どんだけ☆エモーション セカンドシーズン」
 . 1[09/09/04] 前710-716 . 2[09/09/12] 前751-757
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 . 5[09/10/02] 前810-818 . 6[09/10/10] 前824-836
 . 7[09/10/17] 前849-857 . 8[09/10/24] 前870-881
 . 9[09/11/01] 前899-909 10[10/03/02] >>79-89
 11[10/04/07] >>126-135 12[10/05/02] >>214-222
 13[10/05/07] >>236-244

ID:WskssAs0
 1[10/04/09] >>141-144 2[10/04/16] >>172-179
 3[10/04/19] >>189-196

◆SI.G.Owte.
 1[10/04/11] >>153-155 2[10/04/12] >>161-162
 3[10/04/15] >>166-168 4[10/04/18] >>184-185
 5[10/04/24] >>200-201 6[10/05/03] >>228-231
256 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/06/01(火) 18:32:30.44 ID:eVY8UwUP
激しくまとめ乙です
257 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/01(火) 20:06:52.87 ID:Nvvn6EDO
乙!
258 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/02(水) 15:32:30.36 ID:Ch7ZZADO
乙!
259 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/03(木) 16:35:51.43 ID:Ies1fsDO
乙!
260 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/04(金) 00:24:54.18 ID:/NAWomco
まーたはじまった…?
261 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:30:11.98 ID:zxiwO.E0
どんだけ☆エモーション(その14)


生理不順による休みの翌日。

すっかり体調の良くなった私はいつものようにサトシの迎えを待っていた。

「えーと、時間はAM6時20分か。朝練があるからそろそろかな…」
玄関前でソワソワしている私。

「お姉ちゃんお早う。早いねー、サッカー部の朝練だったよね?」
私と同じベッドに居ながら後から目覚めた実由がパジャマ姿で眠そうに
やって来る。
「まあね。来週から大会なんだ。もう時間も無いから皆真剣だよ」
私は可愛い実由の頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。
忙しくてあまり構ってあげられない実由へ私なりの
せめてものスキンシップだ。

「エヘヘww そうなんだー」
実由もくすぐったそうに撫でられている。

ん〜。

それにしても遅いな。サトシの奴。

「…むう。もうAM6時30分か」
呟く私。
少なくともAM7時にはグラウンドについて練習を始めないと
いけないので学校までの時間を考えると…遅いぞ。
262 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:32:28.98 ID:zxiwO.E0
「寝坊かな? サトシらしくない」
私は自分の携帯を取り出すとサトシの番号に電話する。
一応、前の日に「明日は学校行けるよ」とメールは送っておいたのだが。







…繋がらない。

流石にこのままじっとしていても仕様が無いので
とりあえず出かける事にする私。

「サトシ君、繋がらないの?」
「うん、どうしたんだろ? らしくないけど仕方ないから行くね」

私は実由と後から顔を出してきた母さんに「行ってきます」をした後、
自宅を出る。

急ぎ足で学校に向かう。

まだ時間的にも早い時間なので人の姿も疎らだ。

すっかり夏っぽくなったせいか、こんな早朝ではあるけれど
肌寒さは無い。

すっかり衣替えもして
ブレザーからブラウス姿の薄着になった私。
体調が良くなったのも相まって何だか軽やかになった気分だ。

でも。

「…ううむ」
相変わらず実由によって自分のスカート丈を調整されていて
短めのスカートは油断すると危険な感じである。
しかし脚のスースーする感じは慣れてきたような気がするなぁ。
263 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:33:54.41 ID:zxiwO.E0


でも、どうしたんだろう? サトシは。
改めてサトシの状況を考えてみる私。

ひょっとして寝坊したとか? 風邪を引いたとか?

でも昨日送ったメールの返信で「分かった、明日行く」
という内容が来ていたのを私は確認している。
様々な憶測をしてみる私。

色々な事を考えているうちに気が付くと目の前に学校が見える。
何はともあれ、集合時間ギリギリにサッカー部グラウンドにたどり着く事ができた。

「おはようございます」

「おはよう。身体は大丈夫かい?」
グラウンドに入りまず声をかけてきてくれたのは中川先輩。

「はい、ご心配おかけしましたがもう大丈夫です」
急ぎで来たにも関わらず身体がきつくないのを確認した後、
私は笑顔で返す。

「ミヒロさん、元気になったんだ?」
「心配したよー、でも良かった」
次々に私に声をかけてくる部員達。

「ありがとうございます」
みんな心配してくれていたんだな、って事を実感する私。
今度から無理しないようにと改めて思う。

「…うーむ」
それにしてもサトシはどうしちゃったんだろう。
264 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:36:14.39 ID:zxiwO.E0
「あれ?」

サッカー部用の倉庫からガラガラと音を立て、
ボールの入ったキャリーを押しながらこちらにやって来る
サトシと入間さんの二人の姿を確認する私。
何だか二人で楽しそうに笑い合っていたりしている。

「サトシ」

「あ、ミヒロちゃん」
私の姿を確認するや、困ったような笑いを浮かべるサトシ。

「先に来ていたんだ? 待っていたのに」
思わず不服そうな声をあげる私。
別に大した事では無いが、私を差し置いて入間さんと仲良くしている姿を
見ていたら不思議と苛立ちが湧いてくる。

「ゴメン、迎えに行こうとしていたんだけど…ちょっと…」
私の様子を見て、気まずそうに理由を話そうとしているサトシ。

「ちょっと、って何? 来れないならメールでもくれれば良かったのに?」
ジト目でサトシを睨みつける私。

自分の中でサトシに対する苛立ちが感情の高まりと共に大きくなっているのが分かる。
…何でだろ?

「私が登校中にサトシさんを見かけて声をかけたんです」

「え?」
横から入間さんの声。

「私はまだ学校への道が慣れていなくてついついサトシさんに
お願いしちゃったんです。だからサトシさんは悪いわけでは無いんです」
私達の様子を察した入間さんはサトシを弁護するように私に理由を言ってきた。

「…そ、そうなの?」
彼女の話にすっかりテンションの下がった私。
とりあえずサトシに確認してみる。

「う、うん…。まぁ、入間さんはどうも俺達の住んでいる近くに引越ししてきた
みたいなんだ。それで今朝も声をかけられて学校まで案内していたんだ」
入間さんという助け舟を得て何とか理由を話す事が出来たサトシ。
265 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:38:21.44 ID:zxiwO.E0
「なんだ、それなら連絡して欲しかったな。私、朝練に遅れるところだったよ」
とりあえず納得するような表情を浮かべてみる私。

「うん、ゴメン。いきなりだったから、連絡取れなくてホントにゴメン」
私の様子を見てホッとしながらも謝るサトシ。





…。


ん?


…今朝も?

サトシの言葉の内容にふと疑問符の浮かぶ私。

「あれ? サトシ…」
「へぇー、お二人はそんな関係なんですね?」
サトシに気になって私が聞こうとした時、
私達のやり取りを見ていた入間さんは興味深そうに尋ねてきた。

「「え」」
私とサトシは二人してハモる。

「いえ、朝一緒に登校したり、見た感じ仲が良さそうですし、
ひょっとしたらと思ったんですけど」
私達の様子を見て興味深そうに話す入間さん。

…これは不味いのではないか?
ふとそんな思いが私の中で浮かぶ。

いくら転校生の彼女であっても私とサトシの関係で妙な誤解をされて
しまったら今後どのように話が急展開するか想像もつかない。

この数日で何気に女の子同士の事情というものを実感した私。
噂の広まるネットワークの早さとか尋常でないのも知った。
266 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:39:57.41 ID:zxiwO.E0
入間さんが何処で私達の話をするか想像に難くない。

まして自分達の知らないところで「あの二人はできている」なんて話が
広がった日には今後の学校生活において…って、あれ?

…ん?


サトシはともかく






私は別に…。




「彼女は俺の親友の"従兄妹"なんだ。元々顔見知りだし、
入間さんの思っているような関係は全く無いよ」

サトシは入間さんの問いに真面目な表情で否定する。

「え」
思わず固まる私。

「…そうなんですか?
…何だ。私、妙な誤解してしまったようですね。ごめんなさい」
サトシの答えに申し訳なさそうに謝る入間さん。

「ううん、大丈夫。あまり変な噂が広まるのは困るから。ね? ミヒロちゃん?」
「う、うん…、そうだね」
サトシは私に笑いかけ、とりあえず頷く私。



変な噂…か。

「それじゃ、練習しないと。時間がどんどん無くなってしまうよ」
「そうですね、急ぎましょう」
二人はそう言うとバタバタとグラウンドに向かう。
私もその後を追いかける。
267 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:42:16.58 ID:zxiwO.E0
「…」

何だろう?
この胸のズキズキする感じは。

そんなに大きくない胸だけど何か強い力で鷲掴みされるような感じが
私の中で伝わる。

学校でサトシの私に対する発言や振る舞いは様々な気遣いがあっての理由なのは
分かってはいるんだけど…。

そんなに強く否定しなくても。

…。






実質、正味1時間程度ではあるが簡単なパスワークやシュート練習などを
こなしてサッカー部の本日の朝練は終了した。

それぞれの教室に向かう部員達を尻目に
練習に使用した用具を私と入間さんの二人で片付ける。

「今朝は色々ありましたけど、私のせいでサトシさんとミヒロさんに
気まずい思いをさせてしまってすいませんでした」
作業をしながら私にあらためて謝ってきた入間さん。

「え? 別に気にしてないから大丈夫だよ?
何か逆に気を遣わせてしまったようで私の方こそゴメンね」
私は笑顔で返す。

「いえ、そんな風に言ってもらえると私もホッとしました。
…でも、良かったかも」
「え? 良かった?」
入間さんの言葉が気になる私。

「サトシさんとミヒロさんの関係が単なる知り合い関係で良かったです」
そう言うと頬を赤らめる彼女。

「…」
「私、サトシさんの事、気になるんですよね。
一目見て、何だか気になったと言うか…何と言いますか」
268 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:45:05.57 ID:zxiwO.E0
「ええ? まさか入間さん…」
「うふふ」
私の問いかけに笑顔で応える入間さん。
ひょっとしなくても彼女は本気のようだ。

他の女の子はともかく、入間さんのような綺麗な女の子だと
学校の女の子には興味が無いと言っていたサトシでもどうなるか分からない。

何故だろう?…胸の鼓動が妙に早くなる。

「で、でも、サトシは人気あるからね? ファンクラブがあるって話だし。
噂に聞いたところによるとサトシに言い寄った女の子が過激なファンの子に
酷い目に遭ったという話も聞くし、気をつけないと大変な目に遭っちゃうかも…」
「そうなんですか? でもそういう障害も燃えてきますね。
サトシさんが私を好きになってくれればきっと守ってくれると思いますしww」

何だか私の不安をかきたてる発言にも全然堪える様子の無い彼女。
かえって彼女の闘争心に火をつけた感じ。

「私、ミヒロさんと知り合えて良かったです」
「え? どうして?」
「だって、サトシさんの"知り合い"だから色々と彼の情報を知る事が
出来ますよね?」

「そ、そう…」
私とは対照的に彼女の気持ちの盛り上がりはぐんぐんと上昇しているようで。

片付けを済ました私は入間さんと別れると足早に自分の教室に向かう。

「…」
入間さんの発言を受け、さっきから胸の動悸が治まらない。
何なんだろう。この不安な気持ちは。

サトシが他の女の子と仲良くなる。

そりゃ、あれだけ人気のある奴だ。サトシがその気になれば
すぐにでも彼女の一人や二人出来るに違いない。

だけど。

そんなサトシの姿を想像するのが私には凄く辛く感じる。
…理由は分からないけど。

サトシが他の女の子と仲良くするのを止める権限など私には全く無いし、
どうする事も出来ないのは私にも分かっている。

どこまでいっても所詮私は奴の"親友"だから。
それ以上それ以下も無い。

この自分の晴れない気持ち…どうすればいいのだろう。
良い考えも浮かばないまま私は足早に教室に向かった。
269 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:47:57.70 ID:zxiwO.E0
          ◇

「おはよう! ミヒロちゃん、元気になったんだね、良かった!」

教室に入るなり、満面の笑顔を浮かべて園生ちゃんがやって来た。

「ヤター!! ミヒロちゃん! ギュー!!」
類ちゃんもスゴイ勢いで私に抱きつく。

「ちょ、類ちゃん!?」
相変わらず焦る私。
未だに類ちゃんのような美少女に抱きつかれるとドキドキする。

「全く、類は…、でも私も類に負けないからね?」

「…え? 園生ちゃん!?」
なんと、園生ちゃんもそう言うと私に抱きついてきた。
彼女の柔らかくも暖かい感覚が私にやって来る。
夏服の薄着だから尚更だ。

いつもは控えめな彼女だけど、どうしちゃったんだろ?

「わたしだってミヒロちゃんの事、好きだもん。
いくら相手が類でもミヒロちゃんに抱きついているのを見たらすごく焦るよ。
ミヒロちゃんを"取られる"かも知れないなんて、ねww」
そう言うと頬を赤らめて私を見つめる園生ちゃん。

「そ、そう? そんな事無いよ? 私は園生ちゃん一筋だもん、誰にも
取られやしないよ?」

園生ちゃんのあまりの可愛らしさに当てられて、クラクラしつつも
正気を保とうとする私。
もう、このまま園生ちゃんと何処までも行きたい気持ちで一杯だよww

先程のやり取りによるモヤモヤした思いが園生ちゃんと類ちゃんによって
一気に飛んでしまう。
270 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:50:15.23 ID:zxiwO.E0
「うふふ、嬉しいww それじゃ、わたし達は両想いだよねww」
私の言葉に照れ臭そうに笑顔を浮かべる園生ちゃん。

「それにしてもどうしたの? ここまでハッキリ"好き"とか言われると
私は嬉しいけど何だか照れるなぁ…」
ドキドキしながら園生ちゃんのされるままに抱きつかれている私。

「"想い"は思っているだけじゃ駄目なんだよ。"言葉"にして相手に伝えないとね」
「え…、園生ちゃん?」
園生ちゃんは私から離れると私の顔をじっと見つめる。

「ね? 以前、ミヒロちゃんに言ったでしょ?
"言えない事がこんなに辛かったなんて思わなかった"って。
後悔はしたくないんだ。だからわたしは言うの、ミヒロちゃん"大好き"って」

「園生ちゃん…」
彼女の話を聞いて以前の園生ちゃんとのやり取りを思い起こす私。

今はこうして親密な間柄だけど、以前私が"ヒロアキ"だった頃は
全く接点は無かった。
そんな状況にも関わらず園生ちゃんは私、"ヒロアキ"を好きになったわけだけど
告白すら出来なかった自分自身を彼女はすごく後悔していた。

だからこそのこのセリフなんだけど、何だかこの園生ちゃんの言葉は
私の心の中で妙に重く感じるなぁ。


271 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:51:55.20 ID:zxiwO.E0
「身体は大丈夫なんだ?」
そうこう考え込んでいるのを余所に園生ちゃんは私の様子をあらためて確認する。

「え? うん、お陰さまでね。でも昨日までは辛かったよ」
彼女の前で平気な様子を見せる。
「でも無理しちゃ駄目だよ。女の子の身体はデリケートなんだからね」
「うん。でもこんなのがこれからも続くかと思うと憂鬱」

「あはは、それは仕方無いよ。これはわたし達女の子には必ずつきものだし。ね?」
「む〜、そうなんだけど」
「ちょっと! またまた類を差し置いて何二人でイチャイチャしてるの!?」
楽しそうに会話している私と園生ちゃんに割って入るように類ちゃんが騒ぐ。

いけない、類ちゃんの存在を忘れてしまっていたよww

「あれ? 類居たんだ? わたし、ミヒロちゃんと仲良くしていて気付かなかったよ」
類ちゃんの存在に初めて気付いたような表情で彼女を見つめる園生ちゃん。
だけど類ちゃんはさっきからずっと私に抱きついていたりするんですけど。

「うっう〜! そんな訳無い!! 園生!!」
ちょっと駄々をこねるような様子で私達の前でバタつく類ちゃん。

相変わらずこの2人のやり取りは見ていて楽しい。
この2人、本人達から聞いたところ幼稚園からの付き合いという事で
何だかんだ言いながら結構な仲良しであったりするんだよね。

「…少しは元気になったかな?」
「え?」
いきなりの園生ちゃんの言葉に驚く私。

「さっき、ミヒロちゃんが教室に入ってきたときに暗い顔してた」
「何か難しそうな顔してたよねー」
二人とも私の様子をじっと見ている。
272 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 02:53:00.38 ID:zxiwO.E0
「…そんなところまで見ていたの?」
「だってミヒロちゃんだから。で、何かあったの?」
まるで当然というような表情をして笑みを浮かべる園生ちゃん。

「…う〜ん、私にも良く分からないんだ。何であんな気持ちになったのか…」
「分からない事があれば相談してみてよ。
きっと何かアドバイスしてあげられるかも知れないし」
「うん、ありがとww でも、大丈夫みたい。
園生ちゃんと類ちゃんと仲良くしていたらそんな気持ちが何処かに言っちゃったww」
平気さをアピールするかのようにガッツポーズをしてみせる私。

「…分かった。でも遠慮したり、無理したら駄目だよ。
この前のように倒れられたら皆心配するんだからね?」
ちょっと考え込んだ後、私の肩にポンと手を置く園生ちゃん。

「ミヒロちゃんは変なところで気を遣うんだから!
困った事は園生でも類でもいいから、絶対に言うんだよ?」
珍しく真剣な表情の類ちゃん。
私がサッカー部の練習中に倒れた時、すぐに何もしてあげられなかった事に
口惜しい思いをしていたとの話を園生ちゃんから聞いた。

「ありがとう、類ちゃん。絶対言うから。今度こそは類ちゃんに助けてもらうよ、私」
私はそう言うと類ちゃんの両手をぎゅっ、と握る。
ホントに私の周りには素敵な人ばかりいる事に嬉しくなる。

キーンコーン。

「さー、授業が始まるぞ」

そうこうしている間に授業のチャイムが鳴り、授業を教える先生がやってきた。
私達がそれぞれの席に着くと授業の準備に取り掛かる。

かくしてまたいつもの日常が始まろうとしていた。
273 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/12(土) 03:06:47.65 ID:zxiwO.E0
久々の投下完了です。

ボチボチ書いてはおりますが…何だか話の展開が進まないような。
気長にやっていくしかないのかも知れません。
ちゃんと完結できるか、それとも投げてしまうか。
…ううむ。
274 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/12(土) 09:17:05.19 ID:BzT.pgDO
期待
275 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/12(土) 12:10:11.96 ID:KNEwXxso
幾ら親友でも中身が男より純粋な女と付き合いたいわwwww
276 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/12(土) 17:19:01.67 ID:f.7Xl.AO
続きwwktk
しかし、にょただから萌えるという場合もあるんだぜwwww
277 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 20:22:34.84 ID:I3H.AfE0
投下しても大丈夫なのかな?

投下するにあたって
〜遅筆なのは勘弁
〜地の文は殆ど無
〜wなど使うけど勘弁
〜wが半角なのは仕様です
〜gdgdしたらごめん
以上です。

21時頃を目安に投下OKなら投下始めたいと思います。
278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/12(土) 20:26:19.21 ID:KNEwXxso
>>277
おお新しい人かえwwww遠慮するこたねぇwwwwww好きなように始めれww
279 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:08:09.62 ID:I3H.AfE0
よーし、んじゃ投下。

あんまり伏線だとかそういう高度な技術は持ち合わせて無いっす。
んじゃ始めます。
280 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:10:11.17 ID:I3H.AfE0
あれ…

なんだか知らないけどネット回線ちょっとおかしいんで急に投下止まったらすまない
281 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:21:50.45 ID:I3H.AfE0
俺「今日の体育の授業は[ピーーー]るな」

友「ああ…全くだ」

照りつける太陽の光、35度はあろう気温。

俺「なんでこんな日に限って持久走なんだ畜生」

友「ああ…全くだ」

俺「お前同じことしか言ってないぞ」

友「ああ…全くだ」

俺「駄目だこいつ」

友「ああ…全くだ」

俺「……」





282 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:31:54.74 ID:I3H.AfE0
俺「あーあ、雨でも降らないかね」

友「それは蒸し暑くなって更に駄目だろ」

俺「お、復活したのか」



俺「やっと終わったし…」

友「疲れたな」

俺「さてと飯か、屋上行こーぜ」

友「なんでわざわざまた外に出るんだよ…」

俺「お前知らないのか?この時間帯は屋上風吹いてるの」

友「ふーんじゃあ行くか」

283 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:39:29.08 ID:I3H.AfE0
屋上

友「うお、いい感じに風吹いてる」

俺「だろ?」

俺「んじゃ飯食うか」

友「うむ、ってそれ何だ?」

俺、が弁当と一緒に取り出したのは、びん詰めされた謎の液体。
ラベルはなく、いかにも怪しいものだった。

友「……」

友「どこで手に入れたんだよ」

俺「自販機の横」

友「お前は時々ネジが外れていると思う」

俺「なんでだよ?うまそうだろ?」

友「あーあ、俺知らねえからな」

284 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:45:56.08 ID:I3H.AfE0
友「ふー、食った食った」

俺「さて、飲んでみるわ」

友「結局飲むのかよ…」

俺「うお、なんだこれ色青じゃん」

俺「まあいいや」ゴクゴク

友「絶対良くない。青とかお前……って飲むなあああああああああ」

俺「お、うめえ」

友「やりやがった、こいつ……」

俺「なんかメロンソーダっぽい味がする」

友「もうどうでもいいや」

285 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:51:37.23 ID:I3H.AfE0
…帰路
午後の授業も俺、は普通に授業(睡眠)をしていた。

俺「ほらな?なんも無かったろ?」

友「だからってそう落っこちてるもん飲むなよ……」

俺「よいではないかよいではないか」

友(・A・)イクナイ!

俺「分かったわかった気をつける」

俺「んじゃーな」
286 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 21:59:16.75 ID:I3H.AfE0
…翌日

俺「んー」ジリリリリ

俺「ほらみろ、今日も元気だぜ」

俺「顔洗うかな……」すたすた

俺「んあ?鏡に可愛い子が映ってる」
俺「…気のせいか」ジャバジャバ
俺「学校行くかな」
友「おーい俺ー!一緒に行こうぜ」
俺「今から行くー!」
友「…?」
287 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 22:06:05.04 ID:I3H.AfE0
>>286改行忘れすいません

友「(なんか今別の人が返事しなかったか?)」

友「おーい!」

俺「待て!」

友「喉でも潰したんかな」

俺「ぃょぅ」ガチャ

友「うわあああああああああ家間違えたごめんなさいいいいい」スタタタタタ

俺「ちょ…おま待て…俺は俺だぞ?」

友「……はい?」

俺「俺は俺だぞ?」

友「……これはゆめだこれはゆめだこれはゆめだこれはゆめだこれはゆめだこれはゆめだこれはゆめだこれはゆめだこれはゆめだこれはゆめだ」

288 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 22:11:29.12 ID:I3H.AfE0
俺「も…もちつけもちつけ」

友「お前もしかして気づいて無いのか?」

俺「え?」

友「ちょっと目線を下に」

俺「……なんだこれ」

俺「膨らんでる?」

友「(だめだこいつ」

友「おいお前んちよってくぞ」

俺「なんd友「いいから早く!」
289 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 22:17:25.48 ID:I3H.AfE0


友「はい鏡」

俺「んん?そっきの美少女だな」

友「(なんでだよおおおおおおおお)」

友「俺、鏡には何が映りますか?」

俺「自分の姿…」

俺「……」※思考回路やっと復活

俺「うええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!??????????」

俺「これはまさか…」ごそごそ

俺「無い…だと…?」

290 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 22:22:43.85 ID:I3H.AfE0
友「よし、お前が俺なのは理解した」

俺「しっかしなんでこんなことに」

友「昨日の怪しきドリンクしかねーよ……」

俺「それにしても我ながら可愛いな」

黒髪のロングヘアーに整った顔。加えてきょぬー。

友「ここは否定できねーな」

291 : ◆OP3EgqX2dc :2010/06/12(土) 22:26:38.69 ID:I3H.AfE0
うーむ、投下遅くてすまない。

ちょいときょうはここまで。

一行開けつつ書いたけどあけなくていい?
292 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/12(土) 22:29:14.21 ID:KNEwXxso
おつ
293 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/12(土) 23:07:57.84 ID:xH0kwgs0
>>291

行は空けた方が読みやすいと思う
294 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/13(日) 00:32:07.15 ID:tA.quCAo
お久しぶりです13話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61  11[10/03/07] >>95-99
 12[10/04/27] >>205-209
295 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/13(日) 00:32:33.46 ID:tA.quCAo
ほわっとした湯気の暖かい匂いに包まれると、
なぜ人は幸福な気分に浸れるのだろうか。
今日色々とあった事全部脇に置いておいて、
いまはこの至福の時間《とき》を満喫したい…。

お風呂。元々風呂は好きだったのだが、
女の姿になって最初は緊張してしまい寛ぐどころではなかった。
しかし2週間も経つと裸になるのも慣れたものだ。

檜の大きなお風呂に手足を伸ばし「んー」とのびをすると、
自然と露わになった体の前の部分に目が行く。
慣れたとはいえ借り物の、他人の体。
それをまじまじと見てしまうのは今でも少し可哀想な気はする。
でもまあそれも、やっぱりどうでもいいや。
頭がぼんやりとして、眠気が襲ってきた――。

「やっほい美恵さん!」
急に扉が開いて素っ裸の優衣さんが飛び込んできた。
おかげで眠くなってからたった数秒で眠気が覚めてしまった。

「なななななななにをしてるの優衣」
「なにって、お風呂入りに来たんじゃない。広いから二人入れるでしょ」
確かに、四人くらいまでは余裕で入れそうな大きな湯船のあるこの浴室は、
二人では充分すぎるくらいの広さがあるのだが、そういう問題ではない。

「なーに恥ずかしがってるの、ほら美恵さんそんな縮こまらないで」
咄嗟に湯船で身体を隠し顔だけ覗かせていた私は、
観念して逸らしていた目だけ前方に戻した。
296 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/13(日) 00:33:15.75 ID:tA.quCAo
優衣は壁に向かって座り、身体を洗い始めていた。
以前からモデル体型だとは思っていたが、こうして後ろ姿を見るととてもスタイルが良い。
感心するあまり、つい「凄い…」と声が漏れてしまった。

声に気付いた優衣は振り返り、私が見ていたことに気付いて溜息をついた。
「前にも言ったけどさ、美恵さんは女の私から見ても可愛いしスタイルも断然良いよ。
 それなのに私の後ろ姿みてスゴイって、馬鹿にされたのかな」
「や、そんなつもりじゃ。自分でスタイル良いとか考えたこと無いし優衣のほうが」
「それよ。考えなよ。もっと自分を知りなよ。私なんて体型維持するために必死なのに、
 なんで考えたこともない美恵さんのほうがスタイル良いわけ?」

優衣は洗面桶のお湯をざざんと体にかけて石けんを流すと、
大股歩きで湯船に近づき、私の腕を掴んで湯船から引き上げた。

「わっ、なにするの!」
「へへー。脱いでも凄いな美恵さんは」
他人にまじまじと身体を見られるほど恥ずかしいことはない。
両腕を取られているから前を隠すことも出来ないのだ。
「やめてっ、恥ずかしい」
「恥ずかしいのはお互い様よ。あ、そうだ」
そのまま腕を引っ張られ、鏡の前に立たされた。
「どう?」
優衣は私に自分の体型を確認するように促したのだ。
そろそろ勘弁してほしいなと思いながら鏡を見ると、
突然鏡の全面がすっと曇って映ったのはぼんやりとした肌色。
「どうって…鏡曇ってるよ」
「あれ?おっかしいなあ。さっきまで見えてたと思うけど」
「気のせいじゃないかな?」
297 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/13(日) 00:33:55.59 ID:tA.quCAo
「いいからお風呂浸かろっ」
突然の事態に助けられた私は優衣が呆気にとられたスキに引き返し、湯船へと身体を沈めた。
諦めがついたのか、優衣も大人しく私の横に腰を下ろした。

あたたかいお湯に浸かっているのに、全く気が休まらない。
裸の女の子と二人っきりなんて有り得ない事態だろう。
体育座りで水面から突き出た膝に額を乗せ、
何も考えないように、何も考えないようにと頭の中で呟き続けた。
優衣からしたら女の子同士気兼ねすることも無いらしく、
隣でとてもリラックスした感じに脚を伸ばしている。

「ねぇ。美恵さんさ、岩崎君のことどう思ってる?」
「な、えっと、あの…」
緊張してる上に“何も考えないように”していたため焦ってしまった。
「なにその慌てよう。やっぱ意識してるんだ」
そういうわけじゃないんだけど。
返答に困って黙っていると、優衣が私を見て微笑んだ。
「良いと思うよ、すごく。お似合いだと思う」
「いや、そういうんじゃなくて」
慌てて言葉を繰り出そうとするが、
本当のことを話してしまいそうになって上手い弁解が出てこない。
「さっきはちょっと馬鹿にしちゃったけどさ、羨ましいんだ」
「へっ?」
優衣の目がキラッと輝いて見えた。
「だって、あれだけ息ピッタリな人そう居ないよ!?運命の赤い糸じゃない?」
298 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/13(日) 00:34:35.69 ID:tA.quCAo

     *

結局1時間近く優衣の恋愛観について講義を受けた私は、
ぐったりとのぼせて浴場を後にした。
優衣はというと「もうちょっと居るー」だそうで、
幾らお風呂が好きだと言っても付き合いきれないと思って、
こうして出てきたのだ。

お風呂で疲れを癒すどころか逆に疲れてしまった私は、
もう何の感情も無く普通に“女物”の寝間着を着て脱衣所を出た。

縁側の廊下を歩くと夜の風が涼しい。
これから先、寒くなった頃には私はこの空気を感じることができなくなる。
お風呂の温かさも、湯気の匂いも。

そう思うと、もうちょっとお風呂に居てて良かったかも知れない。
「もっと優衣と話をしていれば良かった」
二人だけの賑やかなお風呂から急に静かな所に来たせいか、
感傷的に、独りごちた。
遠くの部屋から聞こえてくる笑い声も、寂しいBGMになる。
299 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/13(日) 00:35:16.46 ID:tA.quCAo
声と言えば夕方のあれは何だったんだろう。
誰のものでもない、私にしか聞こえなかった女性の声。

あの有能すぎるお手伝いさんならやりかねないけど、どこか違う感じがする。

「考えても、わかんないものはわかんないや」
解らないことが最近多すぎて、考えるのにもう疲れてしまった。

私に割り当てられた部屋に着くと、
ふかふかの気持ちよさそうな布団が既に敷いてあった。

倒れ込むように布団に寝転がると眠気が一気に襲ってくる。
遠くの笑い声に混じりたい気もあったけれど、
これはどうにも抗えそうにない。

色々あった一日の終わりにしては何もなく、
ぐっすりと眠れそうだと、
意識が薄れながら…


第十三話END
300 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/13(日) 00:35:52.01 ID:tA.quCAo
数日前、VIPのSSスレで会話オンリーの書いてみたら楽しかったー
書くの遅いから落ちてしまったけどーww
これ終わったらやってみよう。と言ってもこれいつ終わるんだろー
既に半年以上経過してる件ーwwww
301 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/13(日) 09:43:41.80 ID:MXMboEAO
GJ!
時間がかかっても続いている事が嬉しい。
302 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/06/13(日) 14:56:55.74 ID:dhIuuGco
賑わってますな
303 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/06/13(日) 14:58:32.96 ID:dhIuuGco
「――というわけなんだが」
「にわかには、信じがたいね」
ユウが顔をしかめる。当然だ、こんな荒唐無稽な話をされたら誰だってその人の正気を疑う。
もしかしたら、彼女は本当に精神をやられてしまっているのかもしれない。
一瞬そう考えて、それからそんな事を考えた自分を恥じた。
「二重人格ということはないのかな?」ユウがたずねる。
「それでもだな、私の意識がここにある以上、今の『私』が精神的に死ぬか、もしくはひっこまない限りはこの身体を返せない」
「それもそうか……」
二重人格かぁ。それだと記憶はどうなっているんだろう?
老人としての彼の記憶は残っているのだろうか?
そこまで考えて、ちょっとした考えが頭にひらめいた。
「サトちゃん」
「なんですか?」
「戦時中のこと、話せる?」
ユウがハッとした顔を見せた。
そう、二重人格であれば戦時中のことなどは事細かに話せない。
祖父か誰かに聞いた体験談を話すということもできなくはないが、そういう場合はだいたい何かしらのほころびが生じる。
「戦時中のことか……」
サトちゃんは冷静に話を始めた。
304 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/06/13(日) 15:02:30.26 ID:dhIuuGco

戦時中のことなど、あまり思い出したくもないな。
しかしそうしなければ、きっと病院へ行くことについて同意を求められるだろう。
そして自分――この場合はこの身体の持ち主だろうか――の名前も知らない私は、孤児、もしくは精神病患者としてどこぞの施設に入れられてしまうだろう。
せっかくの自由を手に入れたのだから、それは避けたい事態でもある。
まあ、散々話した武勇伝でも話しておくか。
そんな事より気になるのは、私が死んだ時からすべてのことを洗いざらい話してしまってもよかったのだろうか、ということだった。
もちろん細部はぼかしてもあるが……。
おっといけない、いい加減話をはじめないと。
305 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/06/13(日) 15:04:02.26 ID:dhIuuGco

サトちゃんの話を聞いた私たちは、なんともいえない気分に陥っていた。
彼女の話は現実味を帯びすぎている。まるで歴史の教科書に載った個人談のよう。記録を調べればきっとそのまま出てくると思わせるほどに。
何より話しなれている感じを受けるし、細かい所までもキッチリと話をしてくれた。
「――信じてもらえたかな?」
サトちゃんの問いかけに、私たちは頷くしかなかった。
306 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/06/13(日) 15:05:17.41 ID:dhIuuGco

「ありがとう、サトさん」
少し長い静寂の後、ユウさんが口を開いた。
「でも、今日はもう遅い。残りの話は明日に回そう。……といってももう十二時をすぎてるけどな」
彼の軽口に部屋が包まれ、一気に柔らかい雰囲気になった。ユウさんはあまり固い雰囲気を好まないらしい。
「そうですね。では、先に失礼させていただきます」
軽く会釈して、寝室へと向かう私。後ろからはアカリさんが震えながらついて来る。戦時中の幽霊話がいけなかったのだろうか。
「戸籍やそのほかもろもろはすぐに用意するから、安心して寝てください。では、おやすみなさい」
「私の方が年下なんだから、敬語でなくてもいいですよ、ユウさん」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
ユウさんは軽く笑って、自分の部屋へ戻っていった。
いい人なんだろうな、と私は思う。アカリさんとはきっと恋人関係だろう。普通の優しいお兄さんだ。ただ背負っている物が大きすぎるだけで。
彼らの言うところの「奴ら」とはなんなんだろう。おそれている感じは判るが、どうも輪郭がつかめない。
明日になればそのあたりも説明してもらえるだろうし、今日はゆっくりと眠るか。
こわがるアカリさんのために豆電球を残し、私は暖かい布団にもぐりこむ。
外では幾つかの星がまたたいていた。
307 : ◆SI.G.Owte. [sage]:2010/06/13(日) 15:07:18.14 ID:dhIuuGco
投下終了

何かの要望があれば、このあと反映して行こうと思います?
308 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/13(日) 16:42:36.73 ID:tA.quCAo
この土日にみんな集中したなーwwwwみなさん乙ですよー

>>301 そう言ってくれると励みになるーww
309 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/15(火) 21:50:40.31 ID:yhgbYoDO

310 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/16(水) 18:33:12.71 ID:WbBm1sDO
支援
311 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:48:36.49 ID:hhW2/mE0
どんだけ☆エモーションSS(その15)


「ミヒロさん、ちょっといい?」

2時限目が終わって次の授業の準備をしている時、
何故か見知らぬクラスの女子から私に呼び出しがかかった。

「え? 何?」
呼び出された意味の分からない私。

呼び出した相手をじっくり見るも全然思い当たる節が無い。
取り合えずリボンの色(白)を見る限り同じ学年の子なのは分かったけど。

とりあえず何か私に用事があるのだろう。
次の授業の準備もそこそこに私は教室の外に出ようとする私。

「? ミヒロちゃん、ちょっと」
用事を済ませて教室に戻ってきた園生ちゃんは
私が呼び出しを受けている事に気が付き声をかけてきた。

「あ、園生ちゃん。何?」
「呼び出しって、ミヒロちゃん、あの子について行くの?」
不審そうな表情で訊ねてくる園生ちゃん。
「うん。何か用事があるみたい。全然顔見知りでは無いんだけど」
私も良く分からない素振りをしてみせる。

「そう…、でも次の授業までそんなに時間が無いし、早く戻ってくるんだよ」
「うん、分かった」
私は園生ちゃんに返事をすると足早に廊下に出ると
入り口前で待っている女生徒の所へ行く。

「お待たせ。で、私に何?」
「ちょっとここでは…、付いて来てくれる?」
相手の女子は私をちら、と一瞥すると返事を待たずに歩き出した。

「…?」
首を傾げつつも付いて行く事にする私。

…。
312 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:51:00.04 ID:hhW2/mE0
無言のまま廊下を歩く二人。
全然面識の無い相手に何の用件かも分からずについて行くのは
非常に不思議に思いながら周囲を眺める私。

まだ休み時間なので廊下には多くの生徒が居て賑わっている。
でもその賑わいからどんどん遠ざかっていくようです。

何だかんだ言いながらこの学校に1年以上(ヒロアキ時代を含めて)通っている私だ。
目の前の女子の向かう先が何処なのか分かってきた。

…第2教材倉庫。

"倉庫"とはいいつつもほとんど何も無く、全く使用されていない部屋。
生徒達の居る教室から離れている場所にあるのでほとんど人が来る事の無い場所。


「…」

ここで私は自分の身にあまり良くない事が起こるような、そんな予感がした。



バタン。

目の前の女子が倉庫の入り口を開ける。

倉庫には数人の女子が居て、入り口の扉が開いた瞬間
皆一斉に私の方を振り返る。

「…」「…」「…」



…ううっ。

思わず彼女達の視線におののく私。
しかもその視線はとても不快で尚且つ敵意を感じるんですけど。

ここで私は彼女達が何の集まりかようやく気付いた。
313 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:52:41.94 ID:hhW2/mE0
…。

これは…サトシのファンクラブ。

かなり過激で実際にサトシに言い寄った女の子が彼女達に脅されたりしたという
いわくつきの存在。
噂には聞いていたけど、実際にその存在を目の当たりにするのは
これが初めてだ。

見たところ全員リボンが同じ色なので私と同じ学年の子達のようで、
6人程この場所に揃っていた。

…あれ?

サッカー部の試合の時にサトシに声援を送っている数人の女子が居たような。
…あれもこのファンクラブのメンバーだったのかな?

「…」
見た感じ、何処にでも居そうな普通の女の子ばかりなんですけど…
う〜む、でもちょっと目付きが悪いかな?
雰囲気も何だか陰湿さを感じるし。

…でもこれで私がここに呼び出された理由が分かってきた。

「呼ばれた理由、分かっているわよね?」
リーダー格と思われる一人の女子が私に声をかける。

「ええと…。たぶんサッカー部のサトシさんの事だと思うけど…」
それ以外に呼び出された理由が分からないのでそう答える私。

サッカー部にマネージャーとして入部してから部活のみならず
教室内においても何気にサトシとのやり取りをするようになった。
流石に朝の一緒の登校は人目の付かないようにはしているけど。

傍から見れば私はサトシに急接近しているものと思われるのも
想像に難くないのかな?
314 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:54:21.30 ID:hhW2/mE0
「そうよ、分かっているじゃん。サトシ君の事よ」
私の返事に大仰に返す女子。
「サッカー部のマネージャーになったのも彼に近づく為でしょ?
小賢しいマネをするんじゃないよ」
「多少サッカーが出来るからっていい気になっているんでしょうけど、
私達は許さないんだから」
次々に私に非難の声を浴びせるファンクラブの女子達。

「…」
その勢いに多少なりとも萎縮してしまう私。
考えてみれば女の子達にこんな風に囲まれて責められるのは初めての経験で
どうすれば良いのか全然分からない。

「単刀直入に言うわ。サッカー部のマネージャーを辞めな!」
私の様子に業を煮やしたのか、リーダー格の子が叫ぶ。
「サトシ君に近づくな!」
「先生にクラスを変えてもらうように言え!」
「他の学校に転校しろ!」
次々と他の子たちも私に向かって言ってくる。

それにしても勢い余っているとはいえ、内容が結構無茶苦茶だ。
…どうすれと言うのか。

「…」
何も言えない私。っていうか、初めての経験に思考回路が止まってしまっている。

これが"ヒロアキ"であれば「うるせぇ」などと言って
暴れるんだろうけど、今の私は女の子。
今朝からの"事件"も相まって精神的に弱っているせいもあるのか
この場面を力ずくで乗り切る気持ちが湧いてこない。
情けない程に言われるがままの私。

多分時間的にこのやり取りは2〜3分も満たない位に短いと思うのだが、
今の私にとってはえらく長いように感じられた。



…何で。

「黙ってないで何か言えよ!」
傍から見れば無反応な私に一人の女子が私の肩を突く。
私は避ける事もできずよろける。
「無視すんなよ!」
「早く返事しろ!」
始めの一人に感化されたのか次々に私を突いたり叩いたりしてくる女子達。
315 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:55:15.09 ID:hhW2/mE0
「うっ」
思わず床に倒れこむ私。
あまり綺麗に清掃されていない倉庫の床は埃がひどく、
自分の制服が埃で汚れてしまった。
しかしそんな事も気にならない位にぼんやりしてしまっている。
実際のところ私の頭の中は真っ白だ。



…何でだろう。

「金輪際サトシ君に近づくんじゃねーよ!」
まだ新しさの残る私の制服を踏みつける女子。



…何でこんな目に遭わなくちゃならないんだろう?

私の中で一つの感情が生まれてくる。
自分の理解の仕様が無い、暗い感情。

そして。

この状況が延々と続くものと思われたその時。

「何やっているの?」
鋭く倉庫内に響く声。

その声にファンクラブの女子達が一斉に声の主に向かって振り向く。

「こんな時間にこんなところで集まって
何をしているのかと思えば…感心しないわね」
強い口調。

女子達の雰囲気がこの張りのある女性の声で一瞬にして変わる。
「私達はそんな…」
「よ、用事は終わりましたのでこれで…」
「す、すいません…」
バタバタと慌ただしく倉庫から女子達が出て行く。
316 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:56:24.07 ID:hhW2/mE0
あっという間に倉庫内は私と女性の二人だけになった。
私は俯いたままで床に座り込んだままでいた。。

「大丈夫? 酷い目に遭ったわね」
先程とは口調が変わり、優しく私に声をかけてきた。

「…」
私は無言のまま頭を横に振る。
「立てる?」
相変わらず返事も無く、ふらつきながら立ち上がろうとする私。
「気をつけて。あらあら…こんなに埃だらけになっちゃって…
ちょっと、いい?」
女性はそう言うと私の前にしゃがみ込み、ブラシで私の制服についた
埃を払っていく。

「…」
私はここで初めて女性の姿を見る。
細身ながら私よりも背が高くスタイルの良さそうな女生徒。
艶のある長い黒髪をサラリとなびかせているのが印象的だ。

白いブラウスにしているリボンの色からも上級生だと思われる
この女性は切れ長の瞳をしていてどことなく強い意志を感じさせる。
でもすごい綺麗だし、凛とした感じで大人っぽい雰囲気を醸し出している。

…あれ? この女性、どこかで見たような…?

「ん? どうしたの?」
私がじっと見ている事に気付く女性。
「い、いいえっ、何でも…」
彼女の澄んだ瞳にちょっと焦って答える私。

さっき登場したときには物凄く威厳が感じられたけど、
私に対しては妙に優しい"お姉さん"的な感じで接してくれている。

「さっきの子達、サッカー部のファンクラブよね。困った子達ね」
私に話しかけつつもブラシがけの作業を続ける女性。
すごく丁寧に制服についた埃を落としてくれる。
317 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:57:35.42 ID:hhW2/mE0
キーンコーン。

「あら? チャイムが鳴っちゃったわね」
チャイムの音に呑気な感じの女性。

「すいません…私、授業に…」
「お待ちなさい」
「え?」
私が教室に戻ろうとすると女性は私を引き止めるように優しく抱き止める。
「大丈夫。先生には私の方から言っておくからね、
あなたの気持ちが落ち着くまで私に付き合いなさいな」
「…はい」
いきなりの展開に私は戸惑いながらも頷く。
女性の良い香りが私に伝わる。

「「ミヒロちゃん! 大丈夫!?」」
バタバタと園生ちゃんと類ちゃんがやって来た。
「え…園生ちゃん、類ちゃん?」
二人の登場に驚きの表情を浮かべる私。
何でここに?

「わたし、ミヒロちゃんを呼び出した相手がファンクラブの子だって事に
気が付いて思わず類に連絡したの」
「そう、園生がかなり慌てていたからね。
とにかく事情を生徒会長に報告したら『私が直接行ってあげる』って
言ってくれたんだ。ありがとうございます、会長!」

「え、会長…?」
そこで私は気が付いた。
私をファンクラブの子達から助けてくれたのは我が高の生徒会長、
堤 有紗だと言う事に。

そう言えばこの人の色々な噂は"ヒロアキ時代"から聞いていた気がする。
この学校始まって以来、初の女性生徒会長であり女子武術部の部長。
しかも学年試験が常にトップなどと言う、文武両道に長けたスーパー才女。
先生からも信頼は厚く、色々と特例的な優遇を受けているらしい。
…で、そんな人が何故私を?
318 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 02:58:48.97 ID:hhW2/mE0
「類は生徒会書記だから堤会長には可愛がってもらっているんだよね〜、
スゴイ綺麗な人だし」
「あら、わたしだって女子武術部のマネージャーをやっているもの。
堤部長とは知らない仲ではないわよ」

成る程、二人は堤会長との接点があるようで、類ちゃんは生徒会、
園生ちゃんは彼女が掛け持ちでやっている女子武術部のマネージャーとして
それぞれに繋がりがある事が分かった。

それにしても二人とも目を輝かせて堤会長の話題について私に話してくれている。
彼女は余程この2人には好かれているんだな、って思う私。


…ん?
以前園生ちゃんが言っていた類ちゃんにとって「コワイ人」って、
この人の事だったのかな?
何となく考える私。



どちらにしてもまたまた二人には助けてもらっちゃったな…。

「…ん? あれ? ミヒロちゃん?」
私の様子の変化に気付いた類ちゃんが声をかけてくる。
「泣いているの?」
「え…?」
私は自分の顔をそっと触れてみる。
自分でも気が付かなかったけど、涙がこぼれていて頬が濡れていた。

「大丈夫!? 怖い目に遭っちゃったんだもん、仕方無いよ」
園生ちゃんはハンカチを取り出すと私の目元を優しく拭ってくれる。
「ううん、別に怖いとかは無いんだけど…」
私はポツリと話す。
さっきまでは大丈夫だったのにどうしたんだろうか、と首を傾げる。
319 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 03:00:05.09 ID:hhW2/mE0
「多分、ホッとしたのね。でも、今回の話は解決したわけでは無いわよ」
考え込むように呟く堤 会長。
「それにしてもあの子達、サトシ君のファンクラブでしょ?
これまでの件も含めてサトシ君本人は何で何もしないでいるのかなっ?
しかも今回はこんなにスーパーカワイイ、ミヒロちゃんだよ!?
もー信じられないよ!!」
ファンクラブの異常な行動に対し、何もしないサトシへの怒りを露わにする類ちゃん。

「類ちゃん、落ち着いて。別にサトシが悪いわけじゃ無いよ。
だって、サトシはファンクラブの存在自体良く分かってないし、
ましてメンバーが誰なのかなんて知らないはずだよ」
「そ、そうなの?」
私の発言に拍子抜けした感じでテンションを下げる類ちゃん。
「うん、以前本人が言ってたから間違いないよ。だからサトシは悪くないんだ。
私が用心しなかったからいけないんだ…浮かれ過ぎちゃって、バカみたい」

実際のところ私は今まで通りサトシとの学校生活が送れる事に
浮かれてしまっていたんだ。
以前のような"同性同士の親友"では無く、
"異性の間柄"になってしまっている事を認識していなかった。
だから今回のファンクラブのように周囲に誤解を生むような
事態を招いたんだ。

あれだけサトシが気にしていたにも関わらずに。
…ホント、バカみたい。

「ミヒロちゃん…」
園生ちゃんは私の様子を心配そうに見つめる。

「…そろそろ教室に戻ろうか? ね?」
堤会長はちらりと時計を見ると私達に声をかけた。
320 :vqzqQCI0 [sage]:2010/06/19(土) 03:13:19.47 ID:hhW2/mE0
投下完了です。
そろそろ話の展開が重くなりそうで…書くペースが落ちてきましたww

先週末は随分賑わってましたね、ホント乙です。
自分も頑張らないと。
321 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/19(土) 19:21:36.51 ID:e66w0sAO
乙です。
続き、どうなるかな〜?
322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/19(土) 22:55:17.43 ID:Hj7oV/A0
GJ!
323 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/19(土) 23:10:30.00 ID:5G5mg96o
最近投稿多いwwGjww
324 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/20(日) 00:15:23.11 ID:Yl5GTHgo
14話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61  11[10/03/07] >>95-99
 12[10/04/27] >>205-209 13[10/06/13] >>295-299
325 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/20(日) 00:16:09.86 ID:Yl5GTHgo
(――さん、いわ……さ…、岩崎さんっ!)
ん…?なんだろう。
目を開けると、一人の女の子が私の前に立っていた。
辺りはぼんやりと灰色がかっていて、風景といえるものが無い。
「なんだここは…?あ、あんたは!」
なんでこの人が、どうして目の前に居るのだろう。

「初めまして、高原美恵です。私の身体がお世話になってますっ」
目の前に“自分”が居たのだ。
いや、正確には自分自身では無いのだが、
いま高原美恵の身体を使っているのは他でもない私だったはずだ。
「これは一体…?」
目の前の女の子はニコッと笑い、背中に隠していた鏡を取り出て私に向けた。
鏡の中に映っていたのも、やはり高原美恵だった。

しかしその姿は徐々に歪んでゆき、混沌として形が定まらない。
「うっ……!」
目眩がした。目を開けているのが辛くなって堅くまぶたを閉じる。
何がどうなっているんだ。

「ご、ごめんなさい。うー、鏡を見せれば大丈夫って言われたのに…」
全然全く一切合切大丈夫じゃないのだが。
「あの、大丈夫ですっ。ここ、夢の中ですから」
夢?
「そうです。あなたは私を見て混乱しちゃっただけですっ。
 あなた本来の姿を思い出してください。それで、大丈夫ですっ」
言われたとおりに、自分の姿を思い浮かべる。
ただし、高原美恵としてではなく、岩崎悠介としての自分を。
326 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/20(日) 00:16:46.02 ID:Yl5GTHgo
閉じていた目を開けて鏡を見ると、
果たしてそこには自分本来の姿が映っていた。
「よかったー」
女の子は私を見て安堵の溜息をついた。
いや、ほんとよかったよ。私としても。
「で、あんたは何者なんだ?」
「うー、さっき言いましたよ。私は高原美恵ですっ」
はて。
「はて、じゃないですっ!うー、あなたには感謝していますが……」
ちょっとまて、今の「はて」は声にだしていないぞ?
「だって、ここ夢の中ですから。
 喋ってる言葉も、考えてる言葉も、同じように私に伝わってきますっ」
そういやさっきも夢だって言ってたな。

「まだ寝ぼけてるみたいなので説明しますよっ。
 私は、あなたがいま使っている身体の元の持ち主ですっ!
 今は夢の中なので、私は姿でいられるだけなのですっ」
ようやく事情がつかめてきた。
「そっか。あんたがこの身体から抜けた魂ってわけだ」
夕方に神主から聞いた話を思い起こすと、
元の身体に戻るため、神になる修行をしているそうだ。
その修行が終わると私はお役ご免となる。

「お陰様で、神様になる修行も順調で、
 ようやく人の脳内信号に接続する程度の能力がついたんですっ。
 まだ、この神社の中でしか使えませんが……」
「神様って、やっぱり人知を超えた力を持ってるんだな」
327 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/20(日) 00:17:12.94 ID:Yl5GTHgo
「何言ってるんですか、あなたも神様なのに」
十数年間普通の人間として生きてきたから、未だに神様という実感はない。
神主から宣告されてから今まで、自分が神だという事を忘れてたくらいだ。
「いや、私、自分が神だと知ったの今日の夕方だったから」
そう言うと、美恵はハッとした顔になった。
「あーっ!そうでした。その件で来たんだった。ちょっとま、待ってくださいねっ」
そこまで言うと、頭を抱え込んでうんうん唸り始めた。

美恵ってこんな人だったんだ。マイペースで、すこし抜けてて。
優衣とは違って天然物の天然ボケだ。
「誰がボケですかっ!」
あっ、頭で考える事が筒抜けだったんだ。
「うー、演算が止まっちゃったじゃないですかっ。もっかいやるんで待ってくださいっ」
……。邪魔しちゃだめだな。
…………。

しばらくして、「できましたっ」と美恵が顔を上げた。
「いったい、何をやってたんだ?」
けっこう長い間唸ってたけど。
「プロテクト解除コードを生成しましたっ。
 今のあなたの能力は人間程度に制限されていますっ。
 この解除コードを読み込むことで、神としての能力が使えるようになりますっ」
「制限か、なるほど。道理で実感がなかったわけか。
 それで、その『解除コード』ってのは?」
「これはこれですよっ」
美恵は両手を開いて見せた。
328 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/20(日) 00:17:49.31 ID:Yl5GTHgo
「何もないじゃないか」
「うー、ここに両手を乗せてくださいっ」
言われたとおりにするとわかるのだろう。
美恵の手に両手を重ねると、美恵はぎゅっと握って
「それではいきますよっ!」と私に声を掛けた。その瞬間。

ジジジッバチッ!
繋いだ手を中心にプラズマが走りとっさに身の危険を感じたが、
強く手を握られてたためどうすることもできず、
そのまま美恵の手を伝って大電流が流れてきた。

「んなっ!」
「うー、ごめんなさい。水神さんはもうちょっと電流控えめで良かったんだっけ」
「知るか!」
「でも大丈夫ですよー。物理的には何も起こってませんから。
 夢の中の仮想現実ですから、実害はありませんよ」
「あ、」
そうか、これは夢だ。電流が流れたと“思った”だけなのか。
「でも痛みと痺れを感じた事に変わりは無い!」
「うー、ごめんなさい……。あ、それよりどうですか、
 いまので制限が解除されたと思いますっ」
「いや……、よくわかんないな」
頭の中で色々と考えを巡らせてみるが、
特に変わった事があるようには思えない。

「そうですかー……」
美恵は困った顔のまま固まった。
何かを考えているのかと思ったがそのまま微動だにしない。
329 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/20(日) 00:18:45.49 ID:Yl5GTHgo
「あれ、オリジナルさん?高原美恵さーん?」
肩に触れるとそこからモザイク状に形が崩れ、
風に砂が流されるように姿が消えていった。
「こ、これは現実で有ったら怖いな。夢なんだよなほんとに」
(あーごめんなさーいっ。接続が切れちゃいましたっ)
頭の中に響くように美恵の声が聞こえてきた。

「この声、そうか。夕食の時のあれはオリジナルだったんだ」
誰もいない灰色の空間に呼びかけてみたがちゃんと聞こえているらしく、
(な、なんですかーその呼び名は)
と不満そうな声が帰ってきた。
「だって、私がいま美恵って呼ばれる立場だから、ややこしいでしょ」
(うー…)
「そうそう、オリジナル、神の力ってどうやったら試せるんだ?」
(たぶん夢の中のエミュレーションモードで試すのは難しいかもですっ)
「起きてから試せって?」
(そう。あなたは水神さんなので、水を使うのがわかりやすいですねっ)
「水神?ああ、そういえばこの神社の神様って湧き水の神だったそうだな」
(それがあなたなんですってば!)

そんな事言われてもな。

優衣からは可愛い女の子としての自覚を持てと言われ、
オリジナル美恵からは神としての自覚を当然のように求められ。

岩崎悠介としての自分を失いつつある今、
これからは自分の正体たる神としての自我を持つ必要はあるのだろう。
女の子としての私は、あくまで仮のものなのだから。

第十四話END
330 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/20(日) 00:19:36.59 ID:Yl5GTHgo
ちょっとずつ分量増やしてますー
あと、このままでは本当にいつ終わるかわからないので、
ちょっと心配ながら、週刊化宣言をしますー!
これからは毎週日曜日に投下しますのでよろしくお願いしますー
(深夜に投下出来なかったら夜になりますー)
331 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/20(日) 00:30:25.29 ID:gvSl6go0
まさかの主人公が神パワー覚醒(?)でwwktkが加速せざるを得ない。
各作品も安定投下再開してきたミたいだ・・・
332 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/20(日) 09:58:53.46 ID:R6VN9IDO
期待
333 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/20(日) 23:19:27.37 ID:UiG6NQAO
ワッフルワッフル
334 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/21(月) 16:38:56.16 ID:4o/K96DO
わっふるわっふる
335 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/22(火) 15:46:38.12 ID:rixOlwDO
ワッフルワッフル
336 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/22(火) 20:02:03.89 ID:rkQvKcAO
wwafflewwaffle
337 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/23(水) 15:46:59.65 ID:A80eREDO
わっふるわっふる
338 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/24(木) 16:02:01.03 ID:N5uy1wDO
期待
339 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/25(金) 17:07:36.81 ID:3KPe0MDO
待っている
340 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/26(土) 09:25:55.06 ID:DAYhdkDO
待ってます
341 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/26(土) 23:25:02.22 ID:Ko0EwmIo
話のネタを持ってきましたよと

宿主を性転換させる寄生バクテリア
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100127002&expand
342 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/27(日) 00:31:23.92 ID:eJG6qHgo
15話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99
 12[10/04/27] >>205-209 13[10/06/13] >>295-299
 14[10/06/20] >>325-329
343 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/27(日) 00:31:59.15 ID:eJG6qHgo
何時の間にやらあの灰色の空間で意識を失っていたようで、
気がつくと朝になっていた。

夢で見聞きしたことはハッキリ覚えているが、
こうして目が醒めると、本当に起こった夢なのか自信がない。
夕方の神主の話から連想して見た夢だとしてもおかしくはないのだ。
でも、もし私が神の能力を使うことができるようになったのなら、
自分が神だという話をついに信じなければならないだろう。

寝起きの重い身体をゆっくりと起こし、寝ぼけ眼をこする。
そうだ、顔を洗いに洗面所に行こう。
水を使う能力が解りやすいってオリジナル美恵が言ってたはずだ。

携帯電話の時計を見ると、いまは朝の6時を過ぎたところ。
両隣の各部屋に泊まった悠介と優衣はまだ起きていないようで静かだ。
いくらか試したら、朝の御勤めの手伝いで起きているはずの雅人に会いに行こう。
邪魔だと言われるかもしれないけど、ここの神様なんだから良いだろう。

普段より早く起きてしまったせいか、朝の空気が新鮮に感じる。
ここの家と神社が森に囲まれているせいでもあるのだろう。
昨日のお風呂上がりに通った広縁の廊下は、朝もまた気持ちよく、
こんないい家に住んでいる雅人が羨ましくなってくる。

昨日使ったお風呂場とそれに隣接する洗面所は泊まり客用なので、
私が泊まった部屋からも近く、考えながら歩いていると通り過ぎそうになった。
年季が入っているが滑りの良い戸をスッと開くと、
少し湿気の匂いがする、シーンとした空間が私を迎えた。

戸をピッタリと閉めてから、洗面器に向かう。
未知なるものに対峙するのは少し緊張する。
乾いた喉をごくりと鳴らして、わたしは蛇口をひねった。
344 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/27(日) 00:32:41.28 ID:eJG6qHgo
言葉にすれば、「顔を洗うだけ」だ。

水を使う能力としてまず考えたのが、水流の操作。
蛇口から重力に従って下に流れる水を、上に飛ばすことができれば……

……。
だめだ。何も起きない。
力の使い方も何も聞いていないのだから当然と言えば当然だ。
あーもう、何もできないとなんだか恥ずかしくなってきた。
アニメで見た魔法技を練習する子供みたいではないか。
ポーズを決めていない分、いくらかマシだけど。

朝起きてからずっと、オリジナル美恵の声は聞こえてこず、
何らかのヒントが得られるのではという期待も、望み薄だ。
為す術もなく結局いつものように手で顔を洗う結果となり、
少し気が立ってしまったのか水をぶちまけてしまったのが、また悔しい。

近くにあったタオルで床に溢れた水を拭う。

「俺は一体なにをやってるんだろうな」

美恵になってからずっと一人称を「私」で通してきた私だったが、
つい悠介だった頃の一人称で独り言をつぶやいてしまった。
ハッとして入口の戸を見やるが、
洗面所の外はまだ朝の静けさが残っているようでホッと息をついた。が、

「ゴトッ」
安心したのも束の間。物音がしたのは洗面所の奥にあるトイレの個室だった。

お店や学校のトイレじゃあるまいし、トイレの扉は常時閉まっている。
だから、トイレの中に誰かが居るなんて事は考えもしていなかったのだ。
今の聞かれた?優衣だったら相当からかわれるかもしれない。
逃げようかと思ったけど声と状況でばれそうなものだ。
345 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/27(日) 00:33:24.72 ID:eJG6qHgo
仕方なくトイレからのアクションを待っていると……、
そのまま何の物音もなく静寂の時間が過ぎた。
待ってばかりもいられないので「あのー」とトイレに声を掛けるが反応はない。
もしやと思ってドアノブに手を掛けると、鍵が開いていた。

「誰もいない…よね?」
ノブを手前に引いた途端、バンッ!
と内側から勢いよく押され、私はその衝撃で後ろに飛ばされて尻餅をついた。
驚くことには些か慣れてきたが、突然の事はやっぱり心臓に悪い。

開いた扉のせいでよく見えなかったが、確かに何かがトイレから飛び出して行った。
「いったー…」
お尻をさすりながら起き上がると、洗面所の入口が目に付いた。
出入口の戸が、さっきからずっと閉まったままなのだ。

この洗面所には、廊下に繋がる出入口と窓の二カ所しか出られる所はない。
窓は尻餅をついた私の背後にあったので、そこから出たとも考えられない。
そしてここには、私以外の誰の姿も無いのだ。

人じゃない。

その結論に達するまで時間は殆ど必要なかった。
そもそも自分自身が人じゃないらしいので、
いまトイレから出てきたはずなのに姿の見えない「何か」が
人じゃないという可能性も否定できるものではないだろう。

部屋の中を見渡しながら、もう一度考える。
人じゃないなら、もう1カ所出られるかもしれない場所はある。
トイレの天井に付いた換気口だ。
346 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/27(日) 00:34:20.27 ID:eJG6qHgo
しかしそれならば、わざわざ扉を開けて出てくる必要は無いだろうし、
扉の隙間からも出られそうなものだ。
やはりトイレから出てきた何かはまだこの洗面所にいる。

私はふと思い立って、洗面所の中を歩き始めた。
檻の中の熊のようにうろうろと、あっちに行ったりこっちに行ったり。

「ミシッ…」
洗面台の前を通ったところで、目の前で音がした。
音にめがけて突き進む。
「グ……ズッミシッ……」
足音だ。古い木の床が軋んで音が目立つ。
目に見えない何かが、私に追われて動き出した。
一般家庭のそれより広いとはいえ洗面所に大したスペースはない。
足を速め、手を伸ばして音に近づく。

「あっ」
手が触れた瞬間、目の前の見えなかった何かが声を出して姿を現した。
「よ…吉里さん!?」
吉里氏は昨日泊まらずに帰ったはずだった。
「げ。見つかっちゃったなー」
台詞とは裏腹に吉里氏は無表情だ。
「何してたんですか」
「へー、あんまり驚かないのか。うん成る程」
「質問に答えてくださいよ」
「驚かないと言うことは、うん。そうか」
完全にはぐらかす気でいるようだ。

はぁ。と溜息をついたら、
「君は諦めるのが早いな。粘りがないと主演女優賞は狙えないよ」
と、まさかの駄目出しを受けた。
忘れちゃ行けないのは、今は学園祭劇の合宿中なのだ。
別に主演女優賞は狙っていないのだけど。
347 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/06/27(日) 00:34:42.59 ID:ti.cCdEo
 ヘ○ヘ
   |∧    荒ぶる鷹のポーズ!
  /
348 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/27(日) 00:35:32.30 ID:eJG6qHgo
「もういいです。今日も練習見てくれるんですか?」
「今日は君たちだけでやりなさい。君はそれどころじゃないかもしれないが」
「それってどうい…いっ!」
話してる途中だというのに吉里氏は再び姿を消した。

「ちょっ、ちょっとまって」
吉里氏の足音は真っ直ぐ出入口に向かっている。
すぐに戸が開け放たれ、吉里氏はそのまま外へ出たようだ。

洗面所に取り残された私も、ここに居る意味はないので外に出ようと出入口に向かった。
しかし。

「いてっ」
窓ガラスにぶつかったかのように、洗面所から出る行く手を阻まれた。
しかし、それはガラスのように堅くはなかった。

「なにしてるんですか、吉里さん」
目の前の見えないそれにむかって話しかける。
「君は、何ができる?」
「へ?」
やはり出入口に立っていたのは透明で見えない吉里氏だったのだが、
また質問には答えず、妙なことを聞いてきた。

「君の能力だよ。同一神とはいえ、個体によって出来ることは違う」
「えっと、水の能力だと」
「それは基礎力だ。具体的な能力について何も知らないのか?」
「だって、昨日はじめて神だって知ったから」
そんな事を言われても能力の事なんて知っているはずもないのだ。

「成る程、それじゃ何も出来ないな。残念」
再び見えない足音が遠ざかってゆく。

一体私にどうしろというのだ。

第十五話END
349 : ◆/ShBG.hvjg :2010/06/27(日) 00:36:24.54 ID:eJG6qHgo
ギリギリ書けたー、早くも週刊危うし。荒ぶる鷹ワロタwwwwwwww
長さの関係で1話につき1人と喋るっていう変な感じになってるなーww
それぞれのシーンにかける長さも調整しにくくてムズカシスー
ではまたー
350 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/27(日) 10:32:19.75 ID:8FQMcUDO
またね
351 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/27(日) 22:20:02.95 ID:3cOj.e.0
続きwktk
352 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/28(月) 12:39:48.58 ID:aias0cDO
続き期待
353 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/29(火) 08:50:16.80 ID:76h4IsDO
続き
354 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/06/30(水) 08:05:39.52 ID:U.m0NwDO
待っている
355 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/02(金) 00:35:59.05 ID:V/CDIQMo
やばいにぎょうしかかけてない
356 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:27:52.61 ID:2J9vHn20
どんだけ☆エモーションSS(その16)



クラスに戻り、その時間の授業が終わった後の休み時間に
サトシが声をかけてきた。

「ミヒロちゃん、どうしたの?授業が始まっても戻ってこなかったから心配したよ」
私がサッカー部のマネージャーになってから教室内で
普通に声をかけるようになったサトシ。
心配そうな様子を浮かべている。

「…!」
私は一瞬嬉しそうな表情を浮かべる。

でも。

同時に私の中で様々な思考や光景が思い浮かぶ。

それは先程のファンクラブの女子達とのやり取りから
「人前でサトシと仲良くする事は良くない」という意識が生まれてしまった事、
今朝の入間さんとサトシの楽しそうな様子を目の当たりにして
言い様の無い不快な気持ちを抱いてしまっている事実や
入間さんがサトシに好意を持っている事を入間さん本人から聞いて
困惑と不安が入り乱れてごっちゃになってしまっている事…

そのような様々な事が思い浮かんだ瞬間、私の心の何処かでサトシに対する接し方が
どうすれば良いのか全く分からなくなってしまった。

「ありがとう、サトシ。…でも、大丈夫だよ」
私はサトシの問いかけを愛想無く返す。

これまでとは違い、サトシから一歩引いたような、引かなくてはいけないような
…そんな気持ちに急になった。

「そうか、ならいいけどさ、先日の体調不良もあるからな気をつけないと」
サトシは私の様子の変化には気付かず、とにかく私を気遣うように話しかける。

「うん、大丈夫だから」
またもや素っ気無い返事。

「…? そうか。それならいいんだ」
流石のサトシも一瞬怪訝な表情をする。
だけどもう一度「気をつけろよ」といってサトシは自分の席に戻っていった。
357 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:31:22.61 ID:2J9vHn20


次の授業が始まった。

「…」
うわの空で授業に参加する私。

…何であんな風に返事しちゃったんだろうか。

あんなに私の事を心配してくれてたのに。
時間が経つにつれてどんどんと自己嫌悪に陥る私。

でも私の中では自己嫌悪以外にも自分を擁護するような思考も浮かんでくる。

ファンクラブとのやり取りの件については類ちゃんが言っていた通り、
サトシがあの子達にちゃんと言っていればこんな事にならなかった思うし、
入間さんと仲良くしているサトシの姿を思い起こすと
「何だよ、サトシの奴」って苛立つ気持ちを抑えられなくなり、
サトシに素っ気無い態度をするのは仕方ないと考えてみたりする。

…でも様々に思いを巡らせても何の結論も見出せない事に
益々、私自身落ち込んでいくんだよね。



キーンコーン。

気が付けば放課後になっていた。

今日の授業は全然身に入らなかった。
自分の中での混乱状態は相変わらずの状況だ。

昼休み、いつものように園生ちゃんと類ちゃんと一緒にお弁当を
食べていた時もうわの空だった私。
二人とも私の様子を見てかなり気にかけてくれていたけど
私は「大丈夫だよ」と返事をする。
…でも実際は大丈夫でも何でも無いんだ。

「ああ、もう…何なんだろう、今日は」
軽く頭を振りつつ、バッグに荷物を詰め込む。

本当に今日は朝から色んな事があった。
思い起こすのも嫌になる位。
でも、だからと言ってネガティブでいても仕方ない。

今日もこの後、サッカー部の活動があるから
身体を動かせば多少のモヤモヤも晴れるかな。
358 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:33:57.46 ID:2J9vHn20


…と思っていたら。









「…」
私はその光景を見る事になる。

親しげにしている二人。
それは入間さんと…サトシ。

休憩の合間に水分補充のスポーツドリンクを真っ先にサトシに持っていく彼女。
サトシが汗をかいていればすぐにタオルを差し出して拭ってあげようとする。
入間さんの献身ぶりに困りつつもそれでも満更でも無い様子のサトシ。

その光景は傍から見ても結構気になるほどの様子で
木戸や吉岡が冷やかし半分でサトシに「お前ら出来てるんじゃないか」と
言っている。

私はその様子をなるべく見ないようにする。

…多分気持ちが落ち着かなくなるから、って既に落ち着かないのですが。
正直、作業が手につかない。


気持ちを紛らわそうとグラウンドから視線を移すと昨日同様、グラウンドの外には
女の子達のギャラリーがいる事に気付く。

「…」
そう言えばあまり見なかったけど、今日の休み時間に私を呼び出した
サトシのファンクラブの女の子達はこの中に居るのかな…と、
恐る恐る見てみる私。

もし、この中にファンクラブの女の子が居るとすれば、
入間さんとサトシのやり取りをしっかり見ているはずだ。
これは…まずいのではないかな?
359 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:39:04.04 ID:2J9vHn20
入間さんに伝えないと…。

…。




…でも。

ここで暗い感情が私の中に充満する。

彼女も私が受けた仕打ちを受けるとサトシに近づかなくなるのかな…。





「〜〜」

頭を振る私。
…何なんだ、私は。

幾らなんでも駄目だろ。人の不幸を望むなんて。
自分でさらに自己嫌悪に陥る私。

ああ〜、もう!
全然活動が手につかない。

「どうしたんですか?」
声の方を振り向くと入間さんが私の元にやって来ていた。
何だか嬉しそうな様子である。

「ううん、何でもないよ。それより嬉しそうだね、どうしたの?」
「うふふ、サトシ君が私の相手をしてくれるんです。嫌がられるかなって思ったけど
…良かったってww」
私の問いかけに嬉しそうに語る彼女。
その様子だとサトシとのやり取りは非常に順調のようで満足そうな様子を
浮かべている。

「そ、そうなんだ…。でも、気をつけてね」
「え? どうしてです?」
色々考えた末、私は今日あった事を入間さんに話す。
それはサトシのファンクラブの女の子達についてである。

ひょっとしたら今こうしている時にも彼女達は
サトシや私達を見ているに違いない。今後の学校生活を平穏に過ごす為には
誤解を受けるような事は避けるのが無難だと言う事を私は入間さんに伝えた。
360 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:41:01.30 ID:2J9vHn20
「ふぅ〜ん、そうなんですか…」
私の話に妙にあっさりと反応する彼女。
そんなに気にしていないようにも感じる。

「なんだかそんなに気にしてないみたいだね…」
「え? まあ、気にならないと言えばそうでも無いですけど、でも気にしても
意味が無いと言う感じですかね。だって、サトシさんと仲良くなれそうなのに
そんな事でその機会を失うのはバカらしいです」
ハッキリと迷いの無い表情で答える入間さん。
私が心配するのが可笑しくなってしまうくらいだ。

「それでミヒロさんはどうするんですか?」
「え?」
「ミヒロさんはファンクラブの人たちに酷い目にあったんですよね?
だから私が同じ目に遭わないように気遣って忠告してくれたのは分かります。
でもミヒロさん。ミヒロさん自身は今後サトシさんとの関わりはどうするんですか?」
何故だか話の方向性が入間さんから私のほうに振られてしまった。

「わ、私は…」
入間さんにじっと見つめられ言葉に詰まる。
「一応、友達だし、これからもサトシとの関わりを止めるつもりは無いよ。
…でも、こんな事があったわけだから少しは自重しなければならないかな、って」
色々考えた末、そう答える私。

サトシにしても私が平穏に学校生活を送るために色々気遣ってくれている訳だし、
それをあえて無理してまでこの場でサトシと仲良くする必要は無いと考えてみる。
別に学校だけがサトシと接する事の出来る場所ではないから。

…でも多分これは言い訳でしかないな、と思う私。

「そうなんですか。
でも、ミヒロさんはどうして仲が良いのにサトシさんを
避ける必要があるんですか? 」
「え?」
彼女の問いかけに一瞬思考が止まる私。

「だって、大切な友達同士ならば周りからのちょっかいなんて
関係無いじゃないですか。そんな事でこれまでの関係を崩してしまうのであれば
そんな程度の友達でしか無いと私は考えてしまいます」
「…」
彼女の言葉に返す言葉を失う私。
361 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:42:56.21 ID:2J9vHn20
…私が避ける? サトシを?

「…私は別に」
否定の言葉を彼女に伝えようとする私。

「違うんですか? でも、私が見た限りでは今日のミヒロさん、
明らかにサトシさんを避けてます」
「…」
私の言い訳じみた言葉をまるで見透かしているかのようにキッパリと言い放つ彼女。

…確かに入間さんの言うとおりだ。

本当はサトシとこれまで通りのやり取りをしたいというのが私の中で大半を
占めている。なのに自分の気持ちと反対の事を言っている。
心の中で違和感が湧いてきているのを実感せざるを得ない。

私自身は分かっているんだ。
だからこそ入間さんのセリフに私の気持ちが追い詰められる感じがする。

「さー、休憩終了だ。練習再開するぞ」
中川先輩の言葉で皆が休憩を止めてグラウンドに向かう。

「話の途中でごめんね、練習に向かわないと」
「あ、ミヒロさん、待って」
入間さんが引きとめようとするのを聞かずに私はグラウンドに向かう。

かくして練習は再開された。

「…」
私は動揺を隠せないまま作業を続ける。



確かに彼女の言う事はもっともだ。
周りからの反応を恐れて私は明らかにサトシを避けてしまっている。
これは弁解の仕様も無い事実だ。
362 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:45:01.87 ID:2J9vHn20
…だけど。

そこで私はチラリと入間さんを見る。

彼女は顧問の先生と話し込んでいる。






…。

…私がサトシを避ける原因はあなたのせいでもあるんだよ?

あなたがサトシと仲良くする。
それが今の私には…きついんだ。

理由は分からないけど。

…もう、自分の気持ちがこうなってしまった以上、
私にはどうしたら良いのか分からない。

とにかく今は身体を動かす事で、余計な思考をしない事で
自分の気持ちを紛らわせようとしていた。



363 :vqzqQCI0 [sage]:2010/07/03(土) 02:51:33.06 ID:2J9vHn20
今回の投下は終了です。

ちょっと短めですが書き溜めがあるので次回投下は早くなりそうです。

364 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:00:22.03 ID:isy14cAO
乙です。
続きワッフルワッフルww
365 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/03(土) 22:40:39.74 ID:uLT0siY0
GJ!
続きwktk
366 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2010/07/04(日) 23:47:26.09 ID:W0elFaQo
15話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99
 12[10/04/27] >>205-209 13[10/06/13] >>295-299
 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
367 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/04(日) 23:48:12.27 ID:W0elFaQo
違った。16話投下しますー
368 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/04(日) 23:49:12.70 ID:W0elFaQo
「でさ、どうしたらいいだろう?」
比古女神社境内の入口にほど近い手水場横のベンチに雅人を誘った。
ここは木陰になっていて、時々気持ちの良い風が吹き抜けるお気に入りの場所だ。
鳥居から本殿までの広い庭が見渡せるこのベンチは、
小さい頃から境内で遊んでいた俺たちのお決まりの休憩場所でもある。

「口調が悠介に戻ってないか?」
ベンチに座りながら雅人が指摘する。
「いいんだよ、もう。雅人の前では女口調にするほうが恥ずかしい」
「美恵ちゃんの中身が悠介だってわかってるのに、どうしても違和感がなあ」
雅人は大切な物を失った時のような残念な顔になっていた。
「文句言うなよ、誰のせいだ」と笑いながら言い返したが、
雅人が真面目な顔で「すまん」と謝ったのは意外だった。
「いいって。俺が神なら当然の役割なんだろうし、戸惑いまくってるけど結構楽しんでるから」

「楽しんでる」は半分嘘で半分本当。
小さい頃は超常現象とかに憧れてたけど、いざ巻き込まれるとなると迷惑なだけ。
でも知らない世界を知って好奇心が満たされる楽しさもある。
正直いまだに自分の気持ちに整理をつける余裕は無いが、
楽しいかと聞かれて否定すると嘘になる。

「で、どうすんだ?」
こんどは雅人が聞いてきた。
「わからないから相談にきたんじゃないか」
質問に質問で返されて少しムッとしたのが伝わったのか、雅人は残念そうに説明した。
「んな事言っても神様のやる事なんて人間にはわからないんだよ。
 人間の神職ができるのは大昔に神様から教わったとされる儀式だけで」
369 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/04(日) 23:50:11.59 ID:W0elFaQo
「てことは俺の能力も、神のみぞ知るなんだ」
その神は俺…私じゃなくて、ほかの有能な方々を指すわけだが。
「まさに言葉通りにな。
 俺は吉里さんにそんな能力があった事すら知らなかったんだぜ?
 これまでは神なら何とかできるだろうという、
 一般人が思いつく程度の事を想像するしか無かったんだ」
神の具体的な能力を神職に伝えた俺はかなり珍しい例だという。
なんでも現人神と神職の力関係で、親しくする事が無いからだそうだ。

「じゃぁ何も出来ないまま?」
「そうだな。残念ながら知識的な事は俺も親父も力になれない。
 ただ、その力を使うのに何か手伝う事があれば手伝うぜ?
 祭壇組んで力貸したり、できるかもしれん」
「そんときは頼むな。どう手伝ってもらっていいのかわからないけど」
ハハッと自虐的な笑いが洩れた。つられて雅人も笑う。

俺が女の姿に変わっても、男同士の友情が確かにここにある。
尤も、元の悠介も居るのだから
雅人がどういう気持ちで俺に接しているのかはわからない。
俺も悠介だとして接してくれているのか、
悠介に似た別の人として接しているのか、
それとも……まったく別の人としてなのだろうか。

「じゃ、片付けするから」と社務所へ向かった雅人を見送って、
俺はそのままベンチに座っていた。

ここの神社はそこそこ規模はあるのだが人が少ない。
神主とその息子の雅人、そして巫女はあのお手伝いさんが兼務しているそうだ。
例大祭と正月以外は殆ど参拝客が居ないから3人だけでやっていけるとか。
多分、有能すぎるお手伝いさんのおかげだと思うけど。
370 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/04(日) 23:51:03.75 ID:W0elFaQo
そんな誰の姿もない静かな境内をぼんやりと眺めていると、
ふいに、泊まった建物のほうから出てくる人影が見えた。
誰かが起きてきたのかと目をこらしてみたが、よく見えない。

「吉里、さん…?」
どうやら男のようだが元の自分の姿は見たらすぐ判る。
でもそうじゃない。むしろ、さっき会った吉里氏のように見えた。
ただ、吉里氏であれば、さっきみたいに姿を消すこともできるはずだ。
それに、あんなところで一体何をしているのだろうか。

「おーいっ!」
さっき社務所に戻って行ったばかりの雅人が叫びながら戻ってきた。
雅人の珍しく焦った顔を見てとっさに立ち上がって雅人に駆け寄ろうとするが、
ふと人影から目を離した事が気になって立ち止まった。

悪い予感は的中した。目を離したうちに人影は忽然と消えていたのだ。
少し気になるけど見失っては仕方がない。
とりあえずは雅人が緊急だと思い直して再び雅人の方に駆けた。

「どした?」
雅人は息も絶え絶えで、よほど急いで来たように見える。
「優依、ちゃんが、倒れた」
「えっ!?」
驚いて聞き返すが、どうやら言葉通りの意味らしい。
「それでまさか、祟り神なのか?」
「親父、曰く、そう、だって」
371 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/04(日) 23:52:18.62 ID:W0elFaQo
自分はその祟り神に襲われた人間の体に入っている当事者なのに、
また誰かが襲われるという可能性が頭からすっぽりぬけ落ちていた。
「命は…大丈夫なのか?」
「ああ…。でも何かが取り憑いたみたいで、酷い熱が出てる。
 親父がなんとかそれを追い出そうとしてるところだ。
 悠介が見つけなかったらどうなってたか」
「悠介が?」
「悪い予感がしたんだと。神の能力で何かを感じ取ったのかもしれない」
「そうか…」
元々俺は神らしいので、当然悠介にもそういう力があるはずなのだ。

「ただ、まだ悠介には神の事とか教えるわけにはいかないから、
 医者を呼んだと言ってある。もし会ったら上手く誤魔化してくれ。
 あと、美恵ちゃんに入ってる方の悠介に頼みがあるんだ」
「なんだ?」
「祟り神がまだ近くにいるかも知れないから探して欲しい。
 優衣に取り憑いたのは、祟り神じゃなく低級霊だったんだ。
 でも祟り神が接触した痕跡もあったから、
 優衣を弱らせてからまた襲うつもりなんだと思う。
 まだ辺りで機会を窺ってるかもしれないんだ」

「探せったってどんな姿してるんだよ」
「俺もわからん。肉眼で見えるかどうかすらあやしい」
「どうやって探すんだよそれ。神ったって神の力使えないんだぜ俺は」
372 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/04(日) 23:53:25.83 ID:W0elFaQo
そんな文句を言いながら、心に引っかかってる物があった。
さっき見た人影だ。
目撃した場所が場所だけに……
「そうだ。優衣が倒れてたのって泊まってた部屋だよな?」
「何か感じたか?確かにそこだ」
「いや、さっきそっちの方に怪しい人影を見たんだ。
 祟り神かわからないけど、ちょっと見てくるな」
「たのむ。じゃぁ、俺は本殿の方にいるから。」
俺が人影を見た方向に走り出すのと同時に雅人も本殿に向けて走り出した。

優衣を助けたい。
でもそういう気持ちとは別に、自分の存在を確かにしたいという思いもある。
俺は本当に神なのか。神なら何が出来るのか。神はどうあるべきか。
もし祟り神を見つけられたとしても、何が出来るかなんて俺には判らない。
でもきっと何かが出来る。そんな根拠のない自信が芽生えていた。

自分を信じないと何も始まらないだろう。
俺は悠介であり、美恵であり、この神社の神。でも俺は俺なんだ。
外見は変わったけど、俺の魂は何が変わったというわけでもない。
知らなかった自分を知って戸惑っている場合じゃない。
神なら神らしくしてやろうじゃないか。

(…nあ……s…あ…)
ふと頭の中で音が聞こえてることに気付いて立ち止まった。
「なんだ…この声は、オリジナルか!?」
(m……い……s…つな…t…)
「どうした?音が途切れ途切れだぞ……?」

第十六話END
373 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/04(日) 23:54:08.10 ID:W0elFaQo
遅筆で書き溜めもないのに週刊なんて無理があるよ!
ぎりぎり日曜日の投下ですー

ところで単純計算だけど
全部書き終わったら文庫本一冊程度になるようなー…!?
衝動的に書き始めたものがそんな事になるなんてーww

また来週ー
374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/05(月) 00:06:27.25 ID:/j74sts0
乙!
375 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/10(土) 18:19:16.10 ID:oo6nycAO
wwktk
376 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2010/07/11(日) 16:09:42.14 ID:7Fb7ajQo
17話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99
 12[10/04/27] >>205-209 13[10/06/13] >>295-299
 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
 16[10/07/04] >>368-372
377 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/11(日) 16:10:13.56 ID:7Fb7ajQo
立ち止まって、一つの音も取り逃がさないように聴いていると、
途切れ途切れで聞こえてくる声はどうやら繰り返しているようだった。

『手水場の水に触れてください。音声回路を繋ぎます』
声の断片を何度も聞くうちにようやく拾えたメッセージを信じ、
急いで手水場に戻って溜まり水に手を沈めた。

(えっ、わ!よかった繋がりましたっ!)
水に手が触れた瞬間にクリアな声が頭に響く。
何も出来ないと思っていたけど、ようやく手がかりがつかめるかもしれない。

(大変ですっ。大変ですっ。祟り神さん大暴れですっ)
オリジナルの声は夢で会った時より焦っているようだ。
「雅人に聞いたよ。どうしよう、友達が倒れた。俺に何が出来る?俺の力ってなんなんだ?」
(そう、その事でお話が。神の力は試されましたか?)
「試すも何も、やり方が分からないと何も出来ないじゃないか。どうやってやるんだ?」
(それはっ…)
オリジナルは口ごもった。
「なんだよ。早くしないと。祟り神、捕まえないと!」

(それは…、力の使い方は、自然と分かるはずなんですっ。
 本来、自分の能力は自分で気付くものですっ。
 水流操作を試されたのも、偶然ではありません)
「でもっ…」
気付いても、できなかった。どういう事なんだ?
本来、自分が神だと自覚するのは成人してからだ。
まだ子供の俺には使えないと言うことか?
378 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/11(日) 16:10:55.03 ID:7Fb7ajQo
(同い歳の、しかも元人間の私でも神の力は使えますよっ
 だから使えない方が不思議で……)
カチンと来る言い方だな。
そういえば夢じゃないのにまた考えてる事筒抜けなのか。

(ええ、いまは妨害が入らないように脳内に直接接続してますっ。
 さっきメッセージを送ったときは声が不鮮明だったでしょう?
 あれは耳に働きかける簡易通信なんですが、
 祟り神さんが放つ強力な電磁波のせいで、あんなふうになってしまうんですっ)
で、こうやって水に触れてないと通信できないと。
(そういうわけなのですっ。冷たいですがごめんなさいっ)

それは別に良いんだが、
オリジナルと話しても自分の力の事は分からずじまいなのが辛い。
今から祟り神を見つけても、本当に何も出来ないかも知れない。
それでも行かなきゃ…

覚悟を決めて手水場の溜まり水から手を引き抜こうとした。

(待ってくださいっ!)
もう少しで手が水から離れて通信が遮断するという所で、オリジナルが引き留めた。
(いま環境情報を調べてみたんですが、岩崎さんが力を使った痕跡ありますっ。力使ってますよっ)
へ?どういう事だ。さっきは力を使おうとしても何も起こらなかったはずだ。

(えーっとっこれがこうで…ちゃんと2回使ってますねっ。しかも結構強力っ。凄いなあ…)
まて、嘘だろ?何が何だかわからない。
無自覚で力を使ったという事だろうか。だとしても一体何処で。
(2回目は、それと同時に吉里さんの力が打ち消されていますねっ。何かありました?)
379 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/11(日) 16:11:33.82 ID:7Fb7ajQo
吉里氏に会ったとき、身体を掴んだ瞬間に消えていた身体が姿を現した。
姿を現した瞬間に驚いた声を出してい.たのは覚えているが、
油断して何かの術を解いてしまったのだと思っていた。
でも、力を打ち消したのだとしたら、この時。

(そういう事でしたかっ。
 吉里さんの姿を隠す力は、水の膜を使った光学迷彩のようなものなのですっ。
 岩崎さんが触れた時に水の膜を壊してしまったんでしょう。
 オーラまで隠す強力な物で、そう簡単に壊れるものでは無いのですがっ…)

だとすると、1回目はいつだ?
水流操作を試そうと思いついたのは起きてから。
そのあと洗面所に着くまで水には触れていない。
蛇口を開けるも何も起きず、普通に顔を洗って……

あれ?あのときあまり乱暴に水を掬ったつもりではなかったのに、
水をぶちまけてしまったが……

(それですよ!)
頭の中でオリジナルの声が大きく響き、
思わず水に浸けていないほうの手で頭を抑えた。
「それってなんだ!」
(だからそれですって!あなたの能力はおそらく水に触れないと機能しません。
 蛇口を開けただけでは何も起こらず、掬ったときに水を飛ばしたんですよっ)
そんな…まさか。
力が使えなかったんじゃなく、力を使ったことに気付かなかったというのか。
なら、いま水に浸かっているこの手で、水を飛ばしたり出来るんじゃないか?
(あ、だめっ!)
ドゥッ!と爆音をあげて、水が、爆発した。
岩を切り出した手水場は石ころの大きさまで粉々になり、
木の屋根は何処に行ったのかわからないくらい吹っ飛んでしまった。
380 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/11(日) 16:12:15.19 ID:7Fb7ajQo
例外なく吹き飛ばされた俺は暫く気を失っていたようだ。
オリジナルの声ももう聞こえないが、
手水場を破壊してしまったのだから仕方がない。

まさかあんな威力があるとは思わないじゃないか。
吉里氏より俺のほうがよっぽどか荒御霊みたいだぞ。
姿を隠すだけの吉里氏の能力が荒々しいとはとても言えないな。

木々に囲まれたここはやけに静かだ。
おそらく神社を取り囲む林の中だろうけど、残念ながら神社の建物は見えない。
かなり遠くに飛ばされたのに、よく無事だったなと思う。
服はボロボロなのに身体には傷一つ無いのだ。
スカートから伸びる足も、白い腕も、なんとも無い。
普通の人間ではどう考えてもあり得ないから、何か神的な力がはたらいたのだろう。

水を中心に爆発を起こしたので、全身びしょ濡れだ。
「寒い……」
このままでは風邪を引いてしまいそうだ。
体表面の水を飛ばすことも出来そうだが、
威力の調節を間違えると大変な事になりそうで億劫になる。

「祟り神、見つけなきゃ」
身体を起こして土を払うべく腰に手を回すが、
服が濡れているせいで泥まみれになっていてどうしようもない。
手に付いた泥だけ払って、辺りを見渡した。

何もない……。
そう簡単に見つかるとも思わないが、
何の手がかりもないというのは少々面倒だ。
まずは歩き回って、ついでに神社の位置も確認しよう。
381 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/11(日) 16:13:15.34 ID:7Fb7ajQo
薄暗い林の中を歩き始めると、小さい頃を思い出す。
神社の境内と林の中は雅人とよく遊んだ。
とは言っても隅々まで風景を覚えているわけではなく、
この面倒な状況を打開する思い出ではない。

林の中を鬼ごっこしていると、
あまり速く走れないから、体力差の付いてきた頃でも結構互角に戦える。
無理して走ると躓いて捕まったり取り逃がしたりしてしまうのだ。
それに死角が多いから隠れてやり過ごす事も……

「……!」
さっきまでは見えなかった木の陰に、黒い影が見えた。
人間か?それとも祟り神……

雰囲気はさっき境内から見えた人影に似ている気がする。
そろりそろりと足音を立てないように近づく。
緊張で手のひらや足の裏がじわっと汗ばむ。

ゴクリ。喉が鳴る音すら相手に聞こえるのではないかという錯覚に陥る。
どんな些細な音すらも立てられない。

ゴサッ…

妙なところを踏んでしまったようで、大きな足音を出してしまった。
黒い影はビクッと動いてこちらに振り返った。

まずい。やられる……
思わず目をつむってしまったのは最悪の選択だった。
でも怖くて目を開けられない。どうしよう。

「なんだ…。君か」
目の前から聞こえてきた声は、耳に聞き覚えのあるものだった。
まさかと思って目を開けると、驚いてその人の名を叫んでしまった。
「吉里さん!」

第十七話END
382 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/11(日) 16:14:03.63 ID:7Fb7ajQo
なかなか時間が取れない中でも前より短い時間で書けるようになってきたー
耳すまを見たせいで貴重な時間の大半を削ってしまった結果だけどww
原石かあー…

また来週ー
383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/11(日) 23:32:51.79 ID:3xPOscQ0
乙です!
384 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:02:47.73 ID:fWiCS7c0
どうもお久しぶりです。夏が始まってしまいますね。
ずいぶん遅くなってしまいましたが、続きです。
拙いですが、お暇なときにでも……

『Flower * Vacation』//That rose is bluer than indigo
385 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:05:01.29 ID:fWiCS7c0
「止めろ!いくら何でもやりすぎだ!」

声が聞こえる。
頭にも蹴りが入っていたのか、それ以前の出来事のせいか、意識がぼうっとする。
自閉モード解除といえばいいのか。遠ざけていた体の感覚を意識する。
すごく痛い。
後頭部、背中、足、身体の彼方此方に激痛が走る。
あの馬鹿、本気で蹴りやがった……
痛みに耐えるためにぎゅっと強く閉じた瞼、思わず更に強く、きつく閉じた。
痛みで潤んでいた涙が、ひとつ頬を伝って流れていく、生温い。

「ああ?てめぇは誰だよ、いいからすっこんでろ。俺はそいつに用があるんだ。」

馬鹿の声が聞こえる。
それにしても痛い。
報復せよ、恨みを晴らせ、と心の中の悪魔っぽい存在が語りかけてくる。
黙れダークサイド、今はすごく痛い、ほっといてくれ。
更にここで、普通は天使っぽい存在が出てくるべきところだが、これ以上面倒な思案はしたくなかった。
自堕落な引き篭もりの感情を全面に押し出して、中二病のごとき葛藤をあっさり制圧する。
ああ、痛い。起き上がるのも億劫だ。
このままこの暖かい、気持ちよい感触に身を任せて、今すぐ寝てしまいたいくらいだ。

ふと湧き上がる疑問……。

この心地よい感じ、これは一体何なのだろう。
聴覚、痛覚だけだったチャンネルをもう一つ増やす。
きつく閉じた瞼を少しだけ緩める。薄目を開けて辺りを窺う。
386 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:05:43.28 ID:fWiCS7c0
「ここまで一方的に暴力を振るって、それでもまだやるっていうなら見過ごせないな。」

顎、首、胸、その辺り人間のパーツが見える。
胸は膨れてない、男。
制服からしてさっき話しかけてきた昼間部の人間。
馬鹿と掛け合っている声の主。
ああ、なるほど。
俺が間抜けにも転んでしまい、あの馬鹿に足蹴にされたところまでは鮮明に思い出せる。
そこからおそらく、そのまま、この状況なのだろう。
この何処の誰か分からない親切な人間に助け起こされ上半身を支えられている。
そして目の前の馬鹿が、未だ食って掛かってきている、というところ。
やれやれ、軽くぶん投げて一目散に逃げるつもりが、おそらく凄く面倒くさい状況になっている。

「昼間部風情が。でしゃばりやがって、いい度胸じゃねえか。」

「君こそ、こんな事するなんて……。
 本当にプライドの欠片すらないんだね。」

「んだとっ!?」

事態を飲み込もうとしている間に、事態はまだ転がろうとしている。
ちょっと待て、二人で何勝手に話を進めているんだ。
ただの喧嘩ではないか。
見て見ぬ振りでもしてくれた方が面倒が無くて良いのに、
この人間は何故、当事者間の面倒ごとに割り込んでくるのだろうか。
ああもう、面倒くさい。

「こんなにボロボロじゃないか、女の子に蹴りを入れるなんてどういう神経してるんだよ!!」

沈黙……少しの間……そして、

「……は?」 //……は?
387 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:06:28.14 ID:fWiCS7c0

まさに今。
心の声があの馬鹿とかぶった。
以心伝心、異口同音、どちらでもいいが非常に心外だ。
馬鹿と同じ思考……?
何を馬鹿な、俺を馬鹿と一緒にするな。

「……おまえ頭大丈夫か?」

馬鹿に頭を心配されるこの人物には同情する。
しかし俺も馬鹿と同じ心象を抱いてしまった。
二度も意見が合ってしまったこの状況。
彼を馬鹿から何某かに昇格させるか?
もしくは自分を馬鹿の位へと降格させるか?
どちらも腹立たしいので却下だ。
拒否権を行使する。
ちなみに俺の生きている間はずっと行使できる。
だが、奴と同じ称号は死んでも断る。
ていうか、女の子って誰だ。

「馬鹿は君だろう!?こんなか弱い女の子を虐めて笑えるなんてどうかしてる!」

「すまん姫野、詫びならいくらでもする、後で同じだけ蹴られてやっても良い。
だから、頼むからお前からも突っ込んでやってくれ。
 確かに俺は頭悪いが、なんか致命的に今のこいつの発言はおかしい、それは分かる。」

謝りやがった。
馬鹿だと認めやがった。
それはずるい。
自らの非を認め、無知の知を主張するなんて……
こいつが意識して言ってる訳は無いが、今の発言は高ポイントだ。評価せざるを得ない。
奴と同じ意見、俺自身が正当だと思っている意見、そいつを正当な理由無く却下したとしよう。
そうなると俺は、自分より馬鹿な人間が、自分と同じ意見なのが気に喰わないから貶めているだけの、ただの嫌な奴になってしまう。
なんだか俺の方が馬鹿っぽく見えてしまう。
それは困る。
奴の方が、俺より誠実キャラ、みたいになるなんて、今後の展開として非常に不愉快だ。
そもそも、俺を女の子であるなどと、馬鹿な事を言い出した人間がここにいるせいで、
あの馬鹿の格が繰り上がってしまったのだ。
となると、本当の馬鹿は貴様か。
目の前の親切人を、馬鹿と罵るのは、絶対、誠実キャラのやることでは無いように思うが、
これまで積み重なっているイライラが俺のダークサイドを覚醒させているのでもう押さえは利かない。
痛みも忘れて、叫ぶ。

「ひとさ…」
388 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:07:10.90 ID:fWiCS7c0

そこまで口に出して、二人とも驚いてこっちを見ていて、ようやく気づいた。
人様の性別を間違えるなんて……失礼にもほどが……っと言うつもりで口を開いて、
やっと、とても大切なことを忘れていることに気づいた。
今、気づいた。
両者の主張の正しさと、彼らの名誉をフォローせねばならない立場に陥っていることに。
まずい、きっと馬鹿に蹴られたせいだ。
馬鹿が移ったに違いない。
叫びかけたせいで、二人の視線が痛い。
身体の痛みも絶賛自己主張中だ。
すごく痛い、いろいろな意味で。

「あー…あのー…そのー…」

馬鹿になってしまったので、上手い言い訳が浮かばない。
どうすれば両者を納得させられる。
この自分に起こった不思議現象を説明するのか?
いや、面倒くさい、それは凄く面倒くさい。
今の俺の存在、そして立場は、非常にややこしい。
あの馬鹿は俺を未だいつもの俺だと認識していて、
この親切人は、俺を……その、つまり、女性だと認識している。
どちらも、問題なく正解なので安易に否定出来ないので、ややこしい。
そういえば端から見ると、俺は抱き抱えられてるように見えるのだろうか。
俺が男にしろ、女にしろ、どちらにしても、非常に恥ずかしい。

いや、そんなことはどうでもいい。
これ以上こんがらがるのはごめんだ・。
とりあえず、何とか両者を引き離してから各個撃破しよう。
まずこの誰かさんを無理やりにでも、なんとか引っ張っていって……
それから、適当に理由をでっち上げてお帰り願おう、そうだ、それがいい。

「あ、あの……」

と、声をかけて初めて、親切な人の表情が凍り付いているのに気づく。
389 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:07:53.27 ID:fWiCS7c0

叫んだとはいえ、痛みで喉にも腹にも力はそんなに入っていなかったのだが、
そんなに驚かせてしまっただろうか。

「えっと……」

恐る恐る声をかける。

「姫…野……?」

「え……?」

「姫野って、まさか君、姫野って……」

なんだこいつ、俺の名前がどうしたというのだろうか。

「えっと……すみません、貴方の事を私は存じ上げないのですが……」

小声で彼に問うた。

「あ、し、失礼しました、申し遅れたけれど、僕はコソバといいます。
変な苗字ですけど小さな蕎麦と書いてコソバです、コソバ カズキといいます。」

珍しい苗字と名前の人間。
それで、俺の反応は終わらない。
この人間が驚いた理由に、俺は心あたりがある。
コソバカズキという名前に、俺は心あたりがある、どころではない。
あいつと同じ、同姓同名の人間、おそらく、この世に二人と居るはずがない。

「一応これでも昼間部で生徒会副会長をしてるんです。
ですから、学校の問題は看過できない。
大丈夫、ちゃんと無事に家まで帰っていただきます。」

そう言って笑いかけてくる。
そして、更にひとつ、付け加えた。

「でも、それとは別の問題……。
 姫野さん、この件が終わったら、少しお尋ねしたいことがあります。
貴女と同じ苗字の人が、昔、私の大切な友人でした、その人について。」
390 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:09:07.43 ID:fWiCS7c0

ああ、言われなくても分かっている、答えてやるよ。
目の前の人間が、コソバカズキだと分かった以上は……確かに看過できない。
もう決して、お前は俺と会うべきじゃなかったのに 。

『もちろん逃げても構わないけれど、それ以上の面倒事が起きて、また逃げられるとは限らないのは、あいくんも分かってるよね?』

レン姉の言葉の重みを、これほど早く突きつけられることになるとは思わなかった。
たしかに、逃げられなかっただろう。
俺と、お前と、そしてあの馬鹿までこの場に居合わせているのだから。
嫌な、とても嫌な奇跡だ。
包囲は完璧と言っていい。
神様が、あの日からの償いを……
逃げ出したツケを回収しに来たのではないかと思う。

天使っぽい存在が語りかけてくる。
あの日の清算をすべきなのだと。

だけど…ひとつ、神様にとっても誤算だったのかもしれない。
奇跡の抜け穴、今の俺には魔法がかかっている。
悪魔が、あの日からの逃避を……
ツケの割増と引換に、勝負をレイズすることを誘っているのではないかと思う。

悪魔っぽい存在が語りかけてくる。
今逃げ切れば、きっと大丈夫だと。

そして俺は選んだ。
慎重に言葉を選び、懐かしい友人に、
見知らぬ他人のように応える。

「分かりました、どのような要件は存じ上げませんが、ご質問には答えします。
ですが、この問題は私と彼との問題です。
元を糺せば、本当にどうでも良い痴話喧嘩みたいなものなのです。
それがここまで至ってしまった。おそらく私の落ち度も少なくないのでしょう。
ですから折角の仲裁の申し出、非常に有難いのですが……ですが、どうか解決は私自身の言葉でさせて頂けませんか。 」

「……わかりました。
ですが、また暴力沙汰になるようであれば、
貴女の意思より、貴女の五体満足を優先します、よろしいですね、」

「はい、ありがとうございます。」
391 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:09:33.87 ID:fWiCS7c0

この友人に悟らせてはならない。
俺が、俺であることを。
あの馬鹿にも悟らせてはならない。
この場の人間すべてが、あの日の出来事で繋がっていることを。

思い出の箱の蓋を開けてはならない。
忘れた振りをして生きている。そしてこれからも生きて行かねばならない。
だから今、ここで、終わらせねばならない。
魔法が続いているうちに、逃げ出さねばならない。
今、ここで、終わらせねばならない。
魔法が切れないうちに。

レイズ。俺は、悪魔の誘いに乗った。
392 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/16(金) 02:15:15.62 ID:fWiCS7c0

今回は以上です、あまり執筆に時間が取れないので
確認もほどほどに大急ぎで上げています。
設定、表現など、おかしな部分があるやもしれませんがご容赦ください。
次も突貫になるかとは思いますが、夏の間に一区切り付けるペースで頑張る所存です。


393 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/16(金) 22:14:12.41 ID:cZFtm220
乙です!
394 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2010/07/18(日) 19:50:02.50 ID:5o/I5jco
今週は間に合いそうにありませんー
明日中に投下できなかったら来週にまわしますー
395 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/18(日) 23:07:43.34 ID:/kX6N.w0
無理しないでくださいね
396 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/18(日) 23:49:42.65 ID:cnrRE6AO
毎週投下は大変だろ。無茶せず頑張りな。
397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/19(月) 01:55:53.08 ID:q2LBrYDO
待ってた〜♪
ちょっと諦めてたwww
乙です
398 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/25(日) 01:59:23.44 ID:V72sUfco
18話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99
 12[10/04/27] >>205-209 13[10/06/13] >>295-299
 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
 16[10/07/04] >>368-372 17[10/07/11] >>377-381
399 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/25(日) 02:00:07.37 ID:V72sUfco
驚いてその人の名前を呼んだのは、
予想外の人物だったからというわけではない。
吉里氏が思いも寄らない事態に陥っている事に気付いたからだ。

服はずたずたに破れ、あちこちが血で濡れていた。
いつもキッチリ整えている髪もボサボサでつやを失い、
どんよりとした顔も相まって酷く体力を消耗しているように見えた。

「君は……ここで一体なにをしている」
「なにって、祟り神を探して……」
「何故祟り神の事を知っている?ああ…神主の息子と仲が良いんだったな……。
 君がいても足手まといになるだけだ。本殿にでもかくまってもらいなさい」
そのまま背を向けて吉里氏は立ち去ろうとした。

「待ってください。満身創痍でそんな事言われても困りますよ。
 俺だって何も出来ない訳じゃないんです。確かにまだ……ヒヨッ子ですけど」 
俺の声を聞いた吉里氏は立ち止まったけれども、振り向きはしない。
「だからどうした。足手まといに違いはない。
 君も聞いただろう?さっきの爆発音を。あれだけの力をもっているんだ、祟り神は」
400 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/25(日) 02:00:51.27 ID:V72sUfco
「爆発音……?」
自分が起こしたもの以外に覚えはない。
祟り神による爆発が俺に聞こえない程小規模なものだったとしたら拍子抜けだ。
「聞かなかったのか?」
イライラした顔で吉里氏はようやく振り返った。
普段は公務員らしい冷静な顔を保っているのに今は余裕がないらしい。

「ええ。大したことなかったんじゃないですか?」
「んな馬鹿な事があるか!」
あまりにもストレートに言ってしまったため、吉里氏は激高して俺につかみかかった。
身体は女の子なんだから乱暴しないでよ――なんて言える雰囲気ではない。

「手 水 場 が 丸 ご と 消 え 去 る ほどだったんだぞ!」

えっと……。それは。
つまり、吉里氏はその爆発を目の当たりにしたわけではなく、
遠くから聞こえた爆発音を、祟り神のものと勘違いしたらしい。

強張っていた俺の顔から緊張感が無くなったのに気付いたのか、
吉里氏は力を緩めて「どうした」とだけ聞いた。
401 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/25(日) 02:01:29.33 ID:V72sUfco
「あの……それは、俺ですよ。まだ力の加減がわからなくて」
「な!?君はまだ自分の力が判らないって言ってたじゃないか!」
再び力がこもる。押さえつけられた肩が痛い。
「さっ…き、わかりました」
そうありのまま答えると、吉里氏は力を緩めて肩を落とした。
「あきれた……慣れないうちにあんな無茶をする奴がいるとは」

吉里氏は俺の肩から手を離すと、近くの木の根元に腰を下ろした。
「もういい。俺もあとで手を貸すから、先に祟り神を止めに行ってきなさい」
「でも、吉里さん大丈夫なんですか?」

「これか?人間じゃあるまいし、すぐ治るよ」
服の破れた間から見える皮膚は、
血に染まって判りづらかったけれど、出血量の割りに傷は浅く見えた。
さっきの俺が無傷だったのも同じようにすぐ治癒したのだろう。

吉里氏と別れてしばらく歩いていると、案外簡単に神社に戻ることが出来た。
爆発で吹き飛んだとはいえそう遠く離れたわけではなかったのだ。
現在地は把握できた事だし、とっとと祟り神を探そう。
402 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/25(日) 02:03:12.93 ID:V72sUfco
そういえば、吉里氏は祟り神と戦闘して傷だらけになったのだろうか。
それなら祟り神の容姿も知っていたはずだ。そもそも目で見える存在なのかどうかも。
今更聞きに戻るのも面倒だし、また馬鹿にされるのも癪だ。

なんとなく万能感があるのか見たら判る気がしているけど、
相手がどんな存在なのかを知らずに見つける事なんてできるのか……?

いつの間にか、泊まった建物の近くまで来ていた。
おそらくさっき見た人影は祟り神ではなく吉里氏だったのだろう。
目を離した短時間で姿を消すには林に入るしかない。
そして、その後林の中の吉里氏を見つけたのだから辻褄は合う。

問題は、どこで傷を負ったのかだ。
林の中で戦闘していたのなら林の中で祟り神を探した方が良いだろう。
でも、このあたりで闘ったあとに吉里氏が林に逃げ込んだ可能性もある。

ぐるりと見渡してみるが、どこから探して良いのか見当が付かないな。
403 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/25(日) 02:03:51.31 ID:V72sUfco
ふと庭の一角に目がとまった。池がある。
祟り神との戦闘を考慮すると水神である俺にとって池の存在は有利だ。
まだ使い慣れていないから使途不明ではあるけれども、
何かしら水を使う場面は出てくるだろう。

使途不明?そんな事はないじゃないか。
さっき手水場の水を介してオリジナルと会話していた。
この池を使ってまた会話ができるかもしれない。
まだオリジナルに聞きたいことはあるんだ。

さて。
手を突っ込むとなると、なかなか体勢がつらい。
前屈みになるとスカートの中が見えそうで嫌なのだ。
でもそうしないと手が届かない。

キョロキョロと人が居ないことを確認して、池に手を伸ばす。
これまでオリジナルの方から通信をしてきたのだけど、
こちらから発信する事はできるだろうか。

念じるようにしていると、頭のなかでキューンと音がしはじめた。
ラジオのチューニングをしているような感覚がする。
これなら…!

第十八話END
404 : ◆/ShBG.hvjg :2010/07/25(日) 02:05:09.08 ID:V72sUfco
>>395-396
暖かい応援の言葉ありがとうございますー♪

文章量増やした上に週刊化はやはり無理がありましたねー
というわけでしばらく文章量減らしますー

また(?)来週ー
405 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/25(日) 22:58:05.18 ID:fSSZg2AO
GJ!!
406 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/27(火) 02:26:26.79 ID:Yno7NHQ0
どうもお疲れ様です、こんばんは。

『Flower * Vacation』//That rose is bluer than indigo

序章第1話〜Daylily〜

の、中の下くらい。



407 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/27(火) 02:28:07.47 ID:Yno7NHQ0
彼女は和解の為に歩み寄る。
互いの体の距離が縮むたびに、彼の表情が険しくなっていく。
おそらく報復への警戒。
一方、彼女の歩みには迷いも、警戒も、無い。
すたすたと止まること無く彼の元へたどり着く。

僕は少し離れたところで、様子をうかがう。
薄暗がりのなかで、取っ組み合いになったときにぎりぎり割って入れる距離。
もちろん会話は聞こえない、彼女のプライベートへ配慮、最低限の礼儀だ。




408 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/27(火) 02:31:27.33 ID:Yno7NHQ0


ひとまず位置取りを確認しよう。
後ろを振り返る、僕の背後はさっき出てきた正面玄関。
そして正面へ向き直る。
彼女の背中、そして彼ら、その先にこの学校の正門。
このまま出口を目指すと彼らが立ちはだかる格好になってしまう。
それならば、万が一のときは正門より裏門から出たほうが良いかもしれない。
そういえば、彼女は自転車で来ていると言った。

「よくよく考えると、女の子で自転車って……すごいな。」

口をついて独り言が漏れる。
かなりの感嘆を抱いている証拠だ。

409 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/27(火) 02:32:27.56 ID:Yno7NHQ0

ああ、自転車通学を凄いと言ったその理由を説明しておこうか。

そもそも、この学校は山の中腹、結構な高台に位置している。
うちの学校の通学の手段。徒歩、バス、自転車、これらが主流なのだが、
学生各々がそのいずれを選ぶかには、凡そ次のような基準がある。
ひとつ、徒歩は自宅が歩ける距離にある者。
ひとつ、バスは自宅が歩ける距離にない者。
そして自転車は、自宅が歩ける距離になく、かつ体力に自身がある者だ。
毎日の通学に使うとなると、バスの料金は馬鹿にならない。
自転車ならばそれを節約できるとあって、自転車通学の許可されている我が校には、
毎朝のハートブレイクヒルクライムに挑む強者が、ごく少数であるが存在するのだ。

しかし、彼女が自転車で来ていると言ったあの時、僕は内心、かなり驚いた。
何しろ麓から学校までの急勾配、心臓破りの坂と名づけても良いくらいの魔の坂である。

通信制に通うような……失礼、これは偏見だろう。
前言を撤回する。
しかし撤回したとしても、あれほど華奢な女の子が、この学校までの道程を、
自転車通学しているという事実には、ほとほと感心してしまう。

僕は、麓まで下ってすぐの所に家があるので通学は徒歩なのだが、
僕の自宅から学校までの距離でさえ、自転車を使えと言われれば、僕は躊躇してしまうだろう。
一応、生徒会と掛け持ちで部活もやっているから、体力に自信がないわけではない。
それでも躊躇してしまう。それほどのものなのだ、この学校での自転車通学の難易度と言うのは。

 「ひょっとして彼女、案外運動できるのかな。
  さっき彼を投げようとしたときの動きも様になってたし。」

独り言ちて、考えを本線に戻す。
自転車で通学する距離となると、徒歩で帰すのは心苦しい。
玄関から正門を正面にとらえて右手に進む、そうすると駐輪場がある。
彼女を帰すためには、そこから自転車の回収をせねばならないだろう。
先に僕が行って回収するという手段を思いついたが、すぐに諦めた。
この時間だから駐輪場に残っている自転車は彼女のものだけかもしれない、
うちの駐輪場は、面目無いことに自転車盗難多発地点だ。
自転車にチェーンロックが掛かっているのは間違いない。
仮に鍵が掛かっていなかったとしても、回収に手間取っている間に何かあっては本末転倒だ。

さて、どうしたものか…。
410 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/27(火) 02:33:32.83 ID:Yno7NHQ0

こんばんは以上です。

またいずれ。
411 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/27(火) 22:16:23.45 ID:ItvUrQQ0
乙!
412 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/07/29(木) 00:41:50.91 ID:1Ud1z6DO
まとめて投下してくれ、短すぎて物足りなくなる…
でも乙
この作品の設定とか好きだから応援してる。
413 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/07/29(木) 13:08:23.40 ID:HSP3NiU0
>>412
申し訳ない。
物足りないと感じていただけるほどに読んでいただいているとは……

今回は一呼吸置いてというつもりで敢えて短く切りました。
次の投下まで、あまりお待たせするつもりもないです。

世間様は、どうもブーム?のようなものが起きているにもかかわらずスレは思いのほか静か。
スレ活性化の一助を目指して、一度の分量より継続的な投下を優先する方向で行こうかなと思ってます。

何か要望があれば、ご遠慮なくお申し付けください。
414 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/01(日) 00:41:51.50 ID:n65pmW6o
19話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99   12[10/04/27] >>205-209
 13[10/06/13] >>295-299 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
 16[10/07/04] >>368-372 17[10/07/11] >>377-381 18[10/07/25] >>399-403
415 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/01(日) 00:42:14.61 ID:n65pmW6o
どうやらハズレだったらしい。
オリジナルとの通信を試みた結果聞こえてきたのは、
複数の男の声だった。よく聞き取れないが楽しそうな雰囲気。
一体何を話しているのか気になる。もっと音を明瞭化できないだろうか。

オリジナルが言った「力の使い方は自然と分かるはず」という言葉通り、
念じるだけである程度の力は使えるようだ。だんだん音がはっきり…
『それでは明日リリースのニューシングルをお聞き下さい――』
なんという事だ!
ラジオのチューニングのようだと思っていたら本当にラジオを受信していたとは。
神様って便利だな!……と、感心している場合ではない。失敗は失敗。

「やめ」と念じた瞬間に、流れ始めていた音楽が止まる。
もう一度、別の方法を試そう。通信…通信……。
はっと、何かが起動したような感覚が生まれた。
接続先。接続先、オリジナルに。繋がるか?聞こえろ!オリジナル!
416 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/01(日) 00:42:58.14 ID:n65pmW6o
(え、わっ!岩崎さんですか?大丈夫だったんですねっ!)
繋がった!
安堵で姿勢が崩れ、池の水から手を離しそうになったが、
なんとかそのまま通信は続いている。

「まさかあんな爆発が起こせるなんてな」
(気をつけてくださいよお。私の身体なんですからねっ!)
「わかってるよ。ああ、爆発で飛んだときの傷は全部治ってるみたいだぜ」
(祟り神の電磁波で、岩崎さんの状況が全然つかめないんですっ。
 すごく心配しましたよお……)
人間の感覚からすると、あの爆発では即死レベルだろう。
「すまん、なんとか話せる手だてがあって良かったよ」
(グッジョブですよっ、力に目覚めてすぐこんな事もできるなんてっ!
 さすがは役職持ちの神様ですねー)
「役職?」
(八百万の神と言われるように世の中には色んな神様がいますけれど、
 中でも産土になるような神様って信仰心が厚くて力も強いんですよっ。
 私みたいな新米は比べものにもならないんですっ。)
417 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/01(日) 00:43:46.96 ID:n65pmW6o
「ふーん。でさ、祟り神の事を聞きたいんだよ。
 そいつは見えるのか?どうやって見つけたら良いんだ」
(人間の目で見える方ではないそうですっ)
「やっぱりそうか。聞いて良かった」
(まさか、目で探すつもりだったのですかっ!)
そんなに驚かないでくれよ。今日は朝からいっぱいいっぱいだ。
朝ご飯もまだなのに。

「見えないのにそんなのどうやって相手するんだよ……」
(どうしましょう。お話なら、いま私と話してるみたいにできますよ)
「話で解決したら苦労しないと思うんだが」
(えへへ)
「えへへじゃないっ!」
突っ込みのつもりでつい大きな声が出てしまった。
誰かに見られたりしてないだろうか。
特に、事情を知らない悠介に見られるのは面倒だ。

しかし嫌な予感というものは的中してしまうから厄介なもので、
目線を動かした先に、襖を半開きにさせたまま立ちすくむ悠介の姿があった。
418 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/01(日) 00:44:49.67 ID:n65pmW6o
独り言のようなオリジナルとの会話を見られたという困り事が、
それに起因するもうひとつの大問題をすっぽり覆い隠して忘れさせていた。
つまり悠介が俺と目があった瞬間に目をそらし顔を赤くした原因――

「ばっ!」
馬鹿、と言いたかったけど声にならず、
悠介を睨みつけながらスカートの中が見えないように右手で抑えた。
「見てない!見てないから!」
悠介は必死に弁解するが、信じられない。
見てないのなら必死になる必要があるだろうか。
(やあああっ!もうお嫁に行けないっ!)
頭の中でいささか古めかしい悲鳴をあげるオリジナルを不憫に思いながら、
そろりそろりと体を動かし、左手を池につけたまま体を池に沿わせる格好になった。
この向きなら、庭の奥から人が来ない限り大丈夫だろう。

「あの、さ。」
移動が一段落ついたところで悠介が口を開いた。
聞きたい事がわかってしまうから、少し牽制のつもりで「なに」と短く冷たい口調で聞き返す。
でも、たじろぎながらも結構ハッキリ聞いてくるのだ。岩崎悠介という人は。
419 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/01(日) 00:45:39.40 ID:n65pmW6o
「あの、さ、そこで何してんの?」
「あー……」
わかっていたのに答えを用意するのを忘れていた。
端から見ると片手を池に浸けて独り言を呟いているというシチュエーション。
どう弁解してもおかしな人になってしまう。

もう何でも良いからアドリブで行こうと声を出しかけたところで、
オリジナルがまた悲鳴をあげた。こんどはさっきと違って逼迫感がある。
(岩崎さん!.右っ!右ですっ!)
なんだって?右には悠介がいるけれども、それがどうしたというのだ。
悠介の居る方向に目を向けると、
そこに見えるのは悠介だけなのに明らかにもうひとつの気配があった。

「なに……これ」
顔からさーっと血の気が引いていくのがわかった。
悠介の斜め後ろ方向に居るそれに、明らかな殺気が感じられたのだ。

第十九話END
420 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/01(日) 00:46:53.39 ID:n65pmW6o
次でついに20話ですねー。>>62時点では20話までの予定でしたが、
あまりにも話が薄くなるのでゆっくり展開に変えてお送りしておりますー
今の調子だと30話までに終わるかな?という感じですー

それでは7月終わったので物語まとめをどうぞ↓
421 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/08/01(日) 00:47:33.45 ID:n65pmW6o
☆〜 物語まとめ(2010年7月版) 〜☆

u4ZPDzk0
 . 1[09/11/11] 前919-935 2[09/11/12] 前939-943
 . 3[09/11/13] 前945     4[10/01/04] >>42-47
 . 5[10/02/22] >>71-75   6[10/07/16] >>385-391
 . 7[10/07/27] >>407-409

◆/ShBG.hvjg
 . 1[09/09/05] 前722-726 . 2[09/09/08] 前732-736 . 3[09/09/09] 前742-746
 . 4[09/09/13] 前762-766 . 5[09/09/17] 前787-791 . 6[09/10/11] 前842-846
 . 7[09/10/18] 前863-867 . 8[09/10/26] 前890-894 . 9[09/11/14] 前948-952
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99   12[10/04/27] >>205-209
 13[10/06/13] >>295-299 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
 16[10/07/04] >>368-372 17[10/07/11] >>377-381 18[10/07/25] >>399-403
 19[10/08/01] >>415-419

vqzqQCI0 「どんだけ☆エモーション セカンドシーズン」
 . 1[09/09/04] 前710-716 . 2[09/09/12] 前751-757 . 3[09/09/16] 前770-777
 . 4[09/09/25] 前797-801 . 5[09/10/02] 前810-818 . 6[09/10/10] 前824-836
 . 7[09/10/17] 前849-857 . 8[09/10/24] 前870-881 . 9[09/11/01] 前899-909
 10[10/03/02] >>79-89   11[10/04/07] >>126-135 12[10/05/02] >>214-222
 13[10/05/07] >>236-244 14[10/06/12] >>261-272 15[10/06/19] >>311-319
 16[10/07/03] >>356-362

ID:WskssAs0
 1[10/04/09] >>141-144 2[10/04/16] >>172-179
 3[10/04/19] >>189-196

◆SI.G.Owte.
 1[10/04/11] >>153-155 2[10/04/12] >>161-162
 3[10/04/15] >>166-168 4[10/04/18] >>184-185
 5[10/04/24] >>200-201 6[10/05/03] >>228-231
 7[10/06/13] >>303-306

◆OP3EgqX2dc
 1[10/06/12] >>281-290
422 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/01(日) 22:42:42.93 ID:ghHE8eM0
乙!
続きwktk
423 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/02(月) 13:03:58.64 ID:sMp7ODI0
どうもお疲れ様です、こんにちは。

『Flower * Vacation』//That rose is bluer than indigo

序章第1話〜Daylily〜

の、下の上あたり?

424 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/02(月) 13:04:18.58 ID:sMp7ODI0

さて、どうしたものか…

ソバを背後に残し、あの馬鹿目指して歩き出したは良いが、
一向にあの馬鹿を懐柔する方法が思い浮かばない。
ソバは俺を完全に、姫野という苗字の女の子として認識しているけれど、
あの馬鹿はそうではない。
なにせこの学校で教師以外の誰とも関わり合いを持たないこの俺が、唯一、顔見知りとよべる輩である。
俺が定期的に学校に出てくるのを知っているし、俺がいつもこの格好なのも知っている。
それにアイツがいきなり本気で足蹴りをしてくるような相手は俺くらいなものだ。
なに、友人なのか?だと?
敵と書いて「友人」と読むならその通りだ。
え?宿敵?それともライバル?ふざけるなそんなものではない。
向こうが一方的に絡んで来るだけだ。
こちらは鎖国状態なのに、向こうは戦争をしている気でいる。
毎度毎度、厄介事しか持ってこない。面倒くさいことこの上ない。
今回も絶妙のタイミングで表れたかと思えば、いつの間にか状況をひっちゃかめっちゃかにしてくれやがって…
絶対に許さん。
よし、興が乗った。
こいつの細胞のミトコンドリアに極々少量含まれているであろう、男のプライドとやらを利用して、精神的に惨殺してくれる。
貴様は取り返しの付かないことをした。
あろうことか、このか弱い女の子を問答無用で足蹴にしたのだ。
これは厳然たる事実。現行犯でアウト。だから貴様は裁かれねばならない。
上場酌量の余地は若干あるが、そんなものは燃えないゴミの最終処分場か何かにしてしまおう。
では判決、死刑。
歩きながら携帯を取り出す、召喚魔法だ。
恐らくレベル上げに勤しんでいるであろう死刑執行人を電話で呼び出す。
長い付き合いだ、無茶な配役になるが召喚の呪文一言で委細を察してくれると信じる。
425 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/02(月) 13:07:01.05 ID:sMp7ODI0

「もしもし」

『おう、どーした』

「正門の前で、か弱い女の子がスギヤマ達に絡まれてるから助けてやってくれ」

暫くの間、そして返答。

『as you wish,my princess』

気の利いた皮肉が返ってくるあたり、恐らくこちらの事情をある程度察しただろう。
これで数ターン後には勝利確定。

マギが相当に勘の利く奴で助かった、レン姉ほどではないが……。

「さてと…マギが来る前に、支度を整えておかないとな」

ぼそり呟いて、再びあの馬鹿の方を見る。
おーおー、身構えている、警戒している。
そんなことをしても、悪夢からは逃れられないぞスギヤマ君。
夜更かしの悪い子は、怖い魔女が連れってっちゃうんだから諦めなさいな。
携帯をポケットに戻し、いよいよ歩み寄る。
こいつに俺が姫野本人でないことを刷り込めば、総ては静かに元の鞘に収まる。
さあ、手札を切ろう。
自分自身ががワイルドカード、ジョーカーだ。

上手く切り札になり変わらなければならない。

今から俺は、『父方に引き取られて海外で暮らしている姫野本人の妹が、夏休みの間に兄を訪ねて帰ってきた』という、とんでも設定を押し通す。
早い話、姫野家の長女を演じるわけだ。
もちろんこの設定はフィクションである。我が家に長女など存在しない。

めちゃくちゃな展開だが、あの馬鹿にならば恐らく勝算は…ある。

アイツもこちらの家庭の事情までは知らないはずだ。
ここにいるのが、俺がまだ幼い頃に両親が離婚したとき、父方に引き取られた子供なのだと言えばいい。
姫野本人と面識がないことにすれば、血はつながってはいるが、赤の他人のようなものだ。
服装、格好が姫野本人のそれであることが設定と矛盾しているが、それを指摘されたとしても最後の切り札がある。最悪、ソバが気づきかけても絶対にごまかせる。究極の切り札が。
しかし、とても嫌な奇跡だ。
ソバが現れて、スギヤマが現れて、そして自分がいる。
出来すぎている。ドラマチックな脚本が在るのではないかと思うくらいに。
今この場は完成しかけているパズルみたいなものだ。
姫野本人の存在が最後のピースで、それがはまってしまえば、パンドラの箱が開いてしまう。
だから、やるしかない。
426 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/02(月) 13:08:36.90 ID:sMp7ODI0

これで良いのか、という疑問はさっきから引っ切り無しに湧いて出てくるが、それを理性で圧し潰す。
ふと、理性的にこの作戦を推し進めている自分に気づいて凹む。
今この時だけ、俺は、女の子だと、そう自分に言い聞かせてはみる。
それでも羞恥心と屈辱のようなもので顔が熱くなる。
いや、顔じゃない、もっと頭、脳みその根っこの部分が焼けるように熱い。
さっきマギに絡まれた時と同じだ。
なんなのだろう、この気持ちは。
真実を知っている人間はここには居ない、何を恥ずかしがる必要がある……
いや、居るのだ、真実を知っている人間が。
自分に対して、自分が抱いている。
男のプライドなどというものには特に執着は無い方だが、
それでも無意識の内に、自分の心の一番深い部分が、「違う」と叫んでいる。
ああ、心の性別というのは今必死に悲鳴をあげているこいつのことなのかもしれない。
意識して始めて手が届く。自分の心という存在をとても間近に感じる。
だが、そんなものにかまっている場合ではなかった。
心の中の、男女についての問題など、今はどうでもいい。
自分の、もっと深いところ、心の根っこ、いいや、もっと、さらに深いところだ。
自分の生きる理由、生きる価値、そういったところに、ソバとの思い出、あの日の記憶は根を下ろしている。
箱に閉じ込めている嫌な思い出、このツケを払うことになれば、おそらく俺は……
いや、考えるのはよそう、それを考えなくていいようにするために、今から動くのだ。
そして振り出しに戻る。
恥ずかしい、なんだか悔しい、とても大切な物を失う気がする。
引きつる顔。
真っ白になりそうな頭の中。
ちくしょう、目が潤んできた、涙なのかこれ。
震える声で、恐る恐る口を開く。
427 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/02(月) 13:10:29.35 ID:sMp7ODI0
「あ、あの…」

こちらの様子がおかしい事に気づいたのかスギヤマが怪訝な表情になる。
ドクン、ドクン、ドクン、と鼓動の音が、周囲から聞こえる音よりも遥かに大きく聞こえる。
信じられない。人間の動悸ってこんなに大きく、早くなるものなのか。
それなのに、時間がスローモーションであるかのように、ゆっくりと、ゆっくりと流れてゆく。
涙が徐々に目にたまって、もう溢れそうだった。
もう無理だ、開放して欲しい。
ネカマという連中はなぜ恥ずかしげもなく、こんな事が出来るのか。
否定的にも肯定的にも思っていなかったが、今回ばかりは彼らに尊敬と畏怖の気持ち覚える。
気を抜けば涙声になってしまう、それでも喉から搾り出す。
たとえ無理だろうと……やらねばならない。
大切なものを失おうと……もっと大切なものを砕かれるよりはマシだ。
凛とする。絶対に負けない。
自分から自分を切り離せ。
これはもう自分じゃない、自分が創りだした新しいキャラクターなのだ。
画面の中の自分の分身を操るように、客観的に、不自然の無いように、違う自分を、姫野という女の子を演じろ。
そうして思考を切り刻んでいくうちに、ふと、それは浮かんできた。




428 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/02(月) 13:14:16.48 ID:sMp7ODI0

-----------------------------つづく

今日は以上です。
お約束しかねますが、週に1,2度、投下していくつもりです。量も次期も不定ですが…
文章の体裁は大丈夫でしょうか?見にくくないですか?
改善すべきところがあったら教えてください。





429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/02(月) 20:47:24.39 ID:5Ac.tfU0
GJ!
十分読みやすいです
430 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/06(金) 00:10:52.61 ID:udfL3rE0
こんばんは、お疲れ様です。

『Flower * Vacation』//That rose is bluer than indigo
序章第1話〜Daylily〜
の、中の下くらい、まだまだ続きます。
それでは投下。
------------------------------------------


「・・・良いですか、姫――?」

人差し指を顔の横にぴんと立てて、俺を見つめながら話す女性の姿。俺の母。
母さんは、優しく言い聞かせるように語りかけてくる。母さんが敬語で話しかけてくるとき。
それはいつも、とても大事なことを教えてくれるときだった。
俺も幼いながらに、聞き漏らすまい、忘れまいと、懸命に耳を傾ける。
母さんは続ける。

「その人が何を思い、何を望むのかを、常に考え、感じ、理解してください。」

これは、今ではもうおぼろげにしか思い出せない母さんとの記憶。

「それができれば、あなたはきっと……」

記憶はそこで途切れる。一体いつの出来事なのか、何をしていたのか、それも思い出せない。
だけど、時々こうして思い出す。だって母が教えてくれた、とても大切なことなのだから。

「その人が何を思い、何を望むのか……か――」

一呼吸、すうっと吸って……目を閉じた。
そして想像する。
目の前には、女の子がいる。
俺と同じ背丈…いや、少し低い。
俺と同じ顔…いや、少し…いやかなり違う気がする、割と可愛い。
髪は背中の辺りまで伸びる長い黒髪、首後ろあたりで軽く結んである。
きっと、この子も切るのが面倒くさかったに違いない。
胸が膨らんでいる、意外と大きい。
この子は今この状況で、何を感じ、何を思い、何を望むのだろうか。
スギヤマと初めて会う彼女は、どういう振る舞いをするのだろうか。
そうしてから、息を吐くのと同時に、目を開いた。
でも結局、俺には分からなかった。
だってその彼女はこの世に存在しないのだから。
存在しない、会ったこともない、どんな人生を送ってきたのかもわからない、
そんな人間が何を望むのかなんて分かりっこない、俺が心を重ねることなんて不可能だ。
だけど、もし母さんなら――そう、母さんならきっと……


431 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/06(金) 00:32:39.41 ID:udfL3rE0
深呼吸。
涙をぬぐって、背筋を伸ばす。
母さんのように、凛々しく、優しく……
笑顔を浮かべ、彼に語りかける。

「スギヤマ、ケンゴさん…ですね?」

彼が訝しげに目を細める。

「あぁ?今更なに言って――」

きっと、母さんなら、たとえ怒鳴られようと、足蹴にされようと、殺されかけようと、興味津々で話しかけるのだろう。

「はじめまして。私は…」

きっと、母さんなら、一体どんな人なのだろうか、どんな素敵な人なのだろうか、ワクワクしながら問いかけるのだろう。

「ヒメノ、アイと申します。」

「は…?」

意味が分からない、と言う顔。母さんなら、それがとても嬉しいのだろう。
イタズラが成功して喜んでいる子供のような、満面の笑みを浮かべるのだろう。
これから新たな人間と関われる。とても幸福な時間が訪れる。
その期待に胸を踊らせながら、最初の一歩を何のためらいもなく歩み寄るのだろう。
彼女は、まず誰かと会ったら、手当たり次第に、満面の笑みでこう言うのだ。

「私とお友達になりませんか?」

それが…本人曰く稀代の英雄(笑)だったらしい彼女の、とても馬鹿で、でもとても魅力的で、そして俺の憧れだった、俺の母の、不思議な性格である。
432 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/06(金) 00:40:45.75 ID:udfL3rE0

-------------------------つづきます
今日はここまで、弾ができたら即時発射のような状態です。
続きは暫しお待ちを。
433 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/06(金) 22:56:16.74 ID:VPvUL3Q0
乙!
434 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/08(日) 22:14:51.85 ID:yJW6pigo
20話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99   12[10/04/27] >>205-209
 13[10/06/13] >>295-299 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
 16[10/07/04] >>368-372 17[10/07/11] >>377-381 18[10/07/25] >>399-403
 19[10/08/01] >>415-419
435 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/08(日) 22:15:28.11 ID:yJW6pigo
目に見えない敵ほど恐ろしいものはない。
見えないけど居るのが判っていて、
それはオリジナルの反応からしておそらく正しい。
しかし、どうすれば?

トイレで会った時の吉里氏は見えない敵だった。
でもただ見えないだけでそこに吉里氏の身体があり、
動く音で居場所が判ったからなんとかなった。
しかしこんどは、おそらく物体としては存在していない。

(祟り神を、この池に引きずり込んでください。
 ここに結界を張れば、いくら祟り神でも出られないでしょう)
結界?そんな事俺に出来るのか?
(岩崎さんは池に引きずり込む事ができればいいです。
 あとは水膜結界に強い吉里さんが何とかしてくれるはず)
436 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/08(日) 22:16:37.59 ID:yJW6pigo
一方、悠介が縁側にあったサンダルを履いて、こちらに来ようとしていた。
「何か落としたのか?」
俺が手を池に入れているのを、落とし物を拾う動作だと悠介は解釈したらしい。
「う、うん」
良いように誤解してくれたからつい、嘘の肯定をしてしまったが、
池の中を見れば、そんな落とし物がないことはすぐにバレてしまうだろう。

一歩一歩、悠介と俺との距離が近くなる。
少しずつ、池の中が見える距離になってしまう。

その時、
悠介の背後にあった祟り神の気配が急に大きくなってこっちに向かってきた。

悠介が危ない!いや、危ないのは俺の方かもしれない。
とっさに水を掴んでいた左手に力を込め、池の水を大きく盛り上がらせた。
437 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/08(日) 22:17:15.55 ID:yJW6pigo
「な、えっ!?」
まだ事情を知らない悠介が混乱して腰を抜かしてしまった。
できれば見せたくなかったが、
目の前に危機が迫っている以上背に腹は代えられない。

そのまま俺と悠介を包む鎌倉のように水の壁を作り、
祟り神の進行を阻止しようと試みる。
(水だけではダメですっ!水壁を核にして結界を張ってくださいっ!)
オリジナルとの通信を維持しながら水壁を作るという面倒なことをしているのに、
さらに結界を張れだと?さっきは吉里氏に任せるって……
(ほら、早くしないとっ!)

「えーっと……これは一体どういう事?」
せまりくる危機に気付けない悠介が少し照れながら聞いてくる。
彼にとっては女の子と水壁の仲に二人きりというシチュエーションなのだ。
だが悠介の相手をしている余裕はなく、「黙ってて」と冷たく言い放った。
俺の態度と超常現象を見て、異常事態に気付いて欲しいものだ。
438 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/08(日) 22:17:46.93 ID:yJW6pigo
でも結界って……どうやって?
頭の中をフル回転して試行錯誤するものの、
水を沸騰させたり凍らせたり色んな現象が起こるだけで
なかなか結界らしきものが出てこない。

終いにはとうとう体力を消耗して、水の壁が大きな音を立てて崩れ落ちた。
辺りは水浸しになり、壁の下に居た俺と悠介も例外なくびしょ濡れになった。
「おいっ!一体なんなんださっきから!」
散々放置された末にずぶ濡れにされた悠介が、ついに怒ってしまった。

この事件についてどこまで言って良いのやら。
面倒になったものだと顔の水を拭い悠介を見ると、
彼の怒りのオーラが激しく燃えて見えた。

あれ?オーラを見る事って、俺できたっけ?

まさかと思って視線をずらすと、
悠介のオーラとは比べものにならないくらい、大きなオーラが迫っていた。
439 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/08(日) 22:18:11.34 ID:yJW6pigo
(もしかしてっ!見えましたかっ!?祟り神ですよっ!!)
さっきまで気配でしかわからなかった祟り神が、
いまこの目にオーラという形で見えている。

それは想像以上に大きく強烈で、
こんなものを相手にするのかと恐怖で震えそうになった。

目に見えない敵ほど恐ろしいものはない。
しかし見えて初めてわかる恐ろしさもあった。

もう一度水壁を作って結界を張るには時間がなさ過ぎる。
せまってくる祟り神に、俺はどうする事も出来ず

ただ、呆然としてしまった。


第二十話END
440 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2010/08/08(日) 22:18:41.37 ID:yJW6pigo
今回はPCの無い環境、紙にペンで書いていたので、
どのくらいの分量を書けば良いのか悩んでしまいましたー
思ったよりB5用紙に書ける量は少なかったですねーww

ではまた来週ー
441 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/08(日) 22:44:33.64 ID:AX/OdWs0
GJ!
続きwktk
442 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/10(火) 23:25:25.60 ID:Evlm4Tg0
こんばんは、お疲れ様です。

『Flower * Vacation』//That rose is bluer than indigo
序章第1話〜Daylily〜
------------------------------------------

「おい…馬鹿、くそっ…離せっ――」

畜生、一体なんなんだ、訳がわからない。

「やーかーまーしーいー」

アイツは確かにヒメノと名乗った。
なのに、なんで……
思い起こされるのは、アイツの弾けるような笑顔、そして――
握りしめてていた手のひらを開いて、もう一度握る。
あの時の感触が未だに残っていた。

『はじめまして。私は…』

アイツはヒメノと名乗りながら、けれども俺の知ってるアイツではないと言った。
暗がりでよく分からなかったが、確かにいつもと違う雰囲気であったのは間違いない。
それは今日出会って最初に見たとき既に感じていた。
しかし、今夜、あの時刻、あの場所で、いつもどおりの格好で現れた人間が、アイツ以外であるはずがない。
状況証拠というやつは完璧にそろっている、にもかかわらずアイツはしらを切り通そうとした。
だから俺は「お前がアイツじゃない証拠を見せろ」と、そう言ったのだ。
そして、決定的に覆された。

『証拠…ですか――』

アイツは俺に歩み寄って、俺の手首をつかみ、そのまま自身の胸に突っ込んだのだ。
そして、そこには、確かにあった。
本物だった。
アイツの胸にあった、柔らかい感触。

『これで、信じて頂けますか……?』

少し顔を赤くしたアイツ…いや彼女は、したり顔ではにかむ。
その笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

「くそっ……おいこらマギ離せっ、おれはあの娘に用がある!」

「やかましいッ――」

「がはっ」

拳骨を食らう、痛い。
今俺は、職員室でマギから聴取を受けている。
逃げ出さないよう首根っこをつかまれ、
逃げようと身を捩ったりすれば、グッっと俺の首を掴んでいる腕に力が入れられる。
443 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/10(火) 23:26:14.35 ID:Evlm4Tg0


「痛っいててて…分かった!分かった!
 逃げないから!静かにするから!やめてくれっ」

なんて馬鹿力だ、こちらが手を使って引き剥がそうとしてもびくともしない、
女性としては紛れもなくスタイルは抜群の、その肉体の一体どこから、こんな馬鹿力が生まれるというのだ。

「クソッタレ、お前が来なきゃ……」

結局、あの娘が誰なのか分からず仕舞いだ。
あの後直ぐ、こいつが現れ、抵抗する間もなくここに連れてこられた。
ツガムラとマツダもこの魔女の姿を確認した瞬間に、一目散に逃走した。
2人が逃げたことはもちろん恨みっこは無しだ、俺達の誰かが捕まっても、
残された人間はそいつを見捨てて逃げる、皆でそう決めている。
犠牲は少ないほうがいいし、今回は俺が原因だ。
アイツらに迷惑がかからなかったことを幸いに思うべきだろう。

しかし、あの娘は一体誰なのだろうか、ヒメノと違うけど、ヒメノと似ている。
そして、ヒメノ違うくせに、ヒメノと名乗る。
ワケが分からない。
それを確かめる前に、今そこにいる魔女が現れて有耶無耶になった。
なんてタイミングで現れ――……
いや、まて…なんでこいつは気づけたんだ?
よく考えればおかしい、絶対におかしい。

「おい、マギ、お前知ってんのか!?ヒメノ アイって誰だ!?」

語勢を荒らげて問いただす。

「なんでお前が出てくる!?お前が関係あるのか!?」

「――しらないね」

嘘だ、正門での、あの程度のドタバタが、ここ、最上階にある職員室まで届くはずがない。
誰かが呼んだのだ。
あの娘か…いや、突然でしゃばってきた野郎って可能性もある。

「ちくしょう!ぜってぇ突き止めてやる、ぜってぇ見付け出すからな!」

「だーかーらー……」

すうっと息を吸い込んで左手を振りかざす魔女。
この学校のすべての人間から畏れられている魔女の鉄槌。

「やかましいって言ってんだ!近所迷惑だろうが!少し黙れ馬鹿野郎!!」

「ぐはっ」

「ったく、今何時だと思ってるのかね全く……」
444 :u4ZPDzk0 [sage]:2010/08/10(火) 23:28:14.86 ID:Evlm4Tg0


今日、3度目の拳骨。
痛いを通り越して、ぐらりと意識が遠のく。
だが朧気な意識の中でも、この決意だけはハッキリと胸に刻む。

絶対に、あの娘を見つけ出す。

理由?

ああ、そんなもの……

あの笑顔を、もう一度見たいからに決まっているだろうが。

意識が揺らぐ。
はあ、と溜息をつく魔女の姿を閉じる間際の薄目で捉えながら……
ぽつりと呟いたマギの言葉を聞くこと無く、俺は眠りに落ちた。

「……人使いの荒いお姫様だよ……ほんとに……」



-------------------------つづく
今日は以上です。


445 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/11(水) 00:03:48.75 ID:fOWXYPQ0
乙!
446 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2010/08/15(日) 22:36:58.27 ID:geXGWp2o
21話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99   12[10/04/27] >>205-209
 13[10/06/13] >>295-299 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
 16[10/07/04] >>368-372 17[10/07/11] >>377-381 18[10/07/25] >>399-403
 19[10/08/01] >>415-419 20[10/08/08] >>435-439
447 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/15(日) 22:37:31.74 ID:geXGWp2o
どこかでこの状況を見ていたのではないか。
そう思わせるタイミングだった。

祟り神のオーラが目と鼻の先に迫った瞬間、何かにぶつかって動きを止めたのだ。
その何かは水面を揺らしたようにたわみ、目の前の空間を歪ませて見せた。
水膜結界。俺と悠介をそれぞれ包んでいるそれを作ることが出来る神を一人しか知らない。
まあ、神の知り合いは一人しかいないけど。

「やはり足手まといになるだけだったな。ふん、囮にはなったようだが」
振り向くと、吉里氏が木にもたれて立っていた。
今追いついた様子には見えず、まるでずっとそこにいたような落ち着きよう。
「いつから居たんですか」
「ずっと居たのに気付かなかったのか?」
ストーカーかこの人は。オリジナルの話だと、吉里氏の水膜結界は
姿だけでなくオーラも隠すことが出来る。そんなのに気づけるわけがない。
でももし心配して付いて来てくれたのなら、感謝すべきだろう。
現に今、ぎりぎりの所で助かったのだ。
448 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/15(日) 22:38:58.98 ID:geXGWp2o
「池に手を浸けないと何も出来ないとは滑稽だな。
 水を盛り上がらせるとか、考えられなかったのか?」
げ。悠介にスカートの中を見られて恥ずかしがっていた時も、
吉里氏はすぐそこで黙ってみていたのだ。ほんと嫌な奴だな。
「見てたんなら先に言ってくださいよ!」
さっきの応用で、動きやすいように池と手を水の紐で繋ぎ、
俺はようやく無理な体勢から解かれることとなった。

「吉里さん、しつもん」
しばらく黙っていた悠介が口を開いた。
「いったい何なんですか、これ。理解の範疇を超えてるんだけど」
尋ねられた吉里氏は少し間を置いてこう答えた。
「君が知るにはまだ早いが……。中途半端に知られてしまったのも問題だな。
 ただ、まだ厄介事は終わってないから、後でな。脇で待っててくれ」
「え、あ、はい」
なんと聞き分けの言い。流石は俺の分身、いや俺が悠介の分身だった。
まぁそんな温和しい奴なのだ、俺は。
結界をまとったまま、何も気付かずに祟り神をすり抜け、悠介は縁側に戻った。
449 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/15(日) 22:39:52.83 ID:geXGWp2o
「さて、ギャップ。ああ、君は悠介でも美恵でもないからそう呼ばせて貰うよ。
 君は祟り神が見えるね?池の水全部使って良いから祟り神を囲め。
 その上から俺が結界を張る」
「結局その呼び名なんですか。もっとましな名前にしてくださいよ」
(私を「オリジナル」って呼ぶ岩崎さんのセンスと変わりませんよっ?)
すかさずオリジナルがツッコミを入れるが聞かなかったことにしておこう。
「神のいち分け御霊に名前なんて必要ない。ほら、ギャップ、はやくしろ」
という事だそうだ。オリジナルもオリジナルでいいよな。

それにしても、さっきから祟り神がいやに温和しい。
吉里氏と会話している間、ずっと何もしてこないのだ。

吉里氏の大けがを見て危ないものと想像していたのに、
俺が指示通りに水を動かすだけで、もう片付いてしまうのだろうか。

(あぶないっ!後ろですっ!)
「こら!!ギャップ、避けろ!」

脳内に響くオリジナルの声と吉里氏の声が同時に聞こえた瞬間、
俺は激しい痛みと共に地面と接触する感覚をうけた。
450 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/15(日) 22:40:38.82 ID:geXGWp2o
「何してんだ!油断するな!!チッ」
言葉を吐き捨てて吉里氏が単独で動き始めた。

俺はどうなってしまったのか、身体が動かない。
状況からして祟り神に何かされたのだろうけど一瞬で何も判らなかった。
「お、おい。しっかり。しっかりしろ。救急車呼ぶから」
すぐに悠介が駆け寄って俺を抱き起こした。
「だ。い、じょ。うぶ。す。ぐなお、るあら。」
畜生、うまく声が出ない。
「はあ?何言ってんだ。死ぬぞ?」
「おれら、は、神だ。これ、くらいの傷は、どうってことない」
ほら、少しずつ声が出るようになってきた。

爆発で吹き飛んでもすぐ傷が癒える便利な能力。
本来人間が持つ治癒能力を極限まで高めているらしい。
負担はかかるけど神だから耐えられる、とか。

「なんか超能力的な事してたけど、神ってか。わけわかんねーぜ」
どさくさ紛れに俺を抱きかかえているのも、わけわかんないんだけど。
451 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/15(日) 22:41:28.39 ID:geXGWp2o
「お前もそうなんだよ、悠介。俺もお前も同じ」
もうバラしてもいいだろう。悠介にとっては衝撃の告白になる。
「あれ?言葉遣い……どうしたんだ?頭打った?」
俺が美恵の姿をしているのを半分忘れていた。
この姿でいきなり男口調はまずいだろう。
でもそれが真実。伝えなければ。

「説明したら長くなるけど。私は高原美恵じゃない。
 いま吉里さんが闘ってる祟り神にやられて美恵の魂は抜けたんだ。
 そこに、悠介の分身が入ることになった。それが、俺」
「頭、大丈夫か?ほんとに」
「さっき超能力みたいなの見ただろう。信じて」
「だけどさあ……」
悠介は煮え切らない様子だ。
自分の目で見た真実と俺の説明はリンクしているはずなのに、
頭の理解が追いつかないのだ。そう、俺もそうだった。

(岩崎さん、いつまでも休んでいられませんよ。
 吉里さんの結界だけでは攻めに転じられないみたいです)
とはいえ俺も傷の回復で体力を殆ど使い切ろうとしている……。
「そうだ、悠介!闘えないか?」
「は!?」

第二十一話END
452 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/15(日) 22:42:00.42 ID:geXGWp2o
ここで書くことも、もはやあまりないですねー
悠介はどうなってしまうのでしょうかー

ではまた来週ー
453 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/16(月) 00:06:39.15 ID:SfbHDOw0
乙!
続きwktk
454 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/16(月) 15:17:04.33 ID:jrwubkAO
GJ。
このスレ、最近投下が多くて賑わってるよな。毎日wwktkしながら投下されるのを待っているよ。
455 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/22(日) 00:17:06.97 ID:nG5AZfko
22話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99   12[10/04/27] >>205-209
 13[10/06/13] >>295-299 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
 16[10/07/04] >>368-372 17[10/07/11] >>377-381 18[10/07/25] >>399-403
 19[10/08/01] >>415-419 20[10/08/08] >>435-439 21[10/08/15] >>447-451
456 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/22(日) 00:17:42.18 ID:nG5AZfko
「やっぱり、病院に……」
悠介は俺をかかえたまま立ち上がろうとした。
「ま、まて。そうだ。オリジナル!悠介と接続できるか?」
「誰に話しかけてんだ?」
悠介はさっきから意味不明なことを話している俺を見て、
頭を打っておかしくなったのだと思っていることだろう。

(そうですねっ。岩崎さん同士、手を繋いでみてくださいっ)
「わかった。悠介、百聞は一見にしかずってね。見えないけど」
俺は傷が塞がってきた身体をゆっくり起こし、悠介の手を掴んだ。

(はじめまして、もうひとりの岩崎悠介さん♪)
「うわっ!声、声が、耳からじゃなくて!」
悠介の頭にもオリジナルの声が響いたようだ。
「それは神の声です。よーく聞きなさい」
あやしげな宗教に誘うような声で悠介にささやいてみると、
悠介は背筋をピンと伸ばして正座に座り直した。
予想外に神がかっていたから驚いたようだ。
457 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/22(日) 00:18:19.72 ID:nG5AZfko
オリジナルも自分の役柄を理解したようで、
いつもの軽い口調ではなく、どこか雰囲気のある声でこれまでの経緯を話した。

「それで、俺はどうすれば……」
悠介はすっかり信用したようだ。
(あなたの力を解放する必要があります。岩崎さんっ、)
「はい」「はい」俺と悠介の両方が答えた。
(えーっとっ。二人とも同じ名前だからややこしいですねっ。あ。ギャップちゃんっ♪)
「お前もその名前で呼ぶか……!」
(この通信ではそっちの岩崎さんに解除プログラムを直接実行できません。
 ギャップちゃんに転送しますので、岩崎さんに適用してあげてください)
「ああ、夢の中とは勝手が違うんだな」

寝ている間だったからほんの数時間前の事だ。
夢の中でオリジナルに制限を解いてもらい、神の力を使えるようになった。
実際に神の力を使う事ではじめて神だという認識を持てた。
それなのにもう、元々自分が神として存在していたかのようになじんでいる。
自分の本来の力に目覚めるというのは不思議なものだ。
458 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/22(日) 00:19:42.37 ID:nG5AZfko
(転送完了ですっ。ギャップちゃん、プログラムを実行してくださいっ)
「わかった。悠介、いくよ」
「あ、ああ」

ジ、ジジ……
音声通信で使う信号よりも少しだけ出力をあげて、
悠介に能力制限解除プログラムを実行する。
悠介は手の痺れに少し驚いたようだが、まっすぐ俺の目を見て受け入れてくれた。
俺がオリジナルに同じ事をされたときは
出力が強すぎて痛かったけど今回は大丈夫かな。

「う、うわっ!なにこれ」
プログラムが終了し悠介の能力制限が解かれた瞬間、
悠介は俺の手を放して後ずさった。
「どうした!?」
「いや。急に、その。祟り神が見えたからびっくりして」
俺はついさっきまで祟り神のオーラが見えなかったのに、
悠介は解除してすぐに見えたという。本物の俺は俺より少し優秀なのだろう。
459 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/22(日) 00:20:51.73 ID:nG5AZfko
「水の動かしかた、わかる?」
オリジナルとの通信用に池からひっぱっていた水のひもに触れさせると、
悠介は器用にもその紐を分岐させて自分の腕に巻き付けて見せた。
「すごいっ!さすが悠介」
思わず悠介に抱きつくと、
「あの、本当に美恵ちゃんの中身俺なのか?女になるとそんなキャラなのか!?」
と、とまどい顔を赤らめた。

自分のキャラクターなんてハッキリしたことはわからないけど、
少し変わったとしたら、それは美恵の身体のなのだろう。

(おふたりさん……、イチャイチャしてないで仕事してくださいっ)
美恵は少し不機嫌そうに言った。
俺が倒れてからこんの間ずっと、吉里氏は戦い続けている。
結界の網をかけてはぎりぎりで逃げられ、反撃されそれを防ぎ、
見事な戦い振りだったが見るからに疲弊しているようだった。
460 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/22(日) 00:21:34.26 ID:nG5AZfko
「悠介、俺は後方支援するから、
 池の水を使って祟り神を包むように壁を作って欲しいんだ」
「わかった。やってみる」
悠介はいつもの悠介ではなかった。ここ一番の時に見せる男の顔。
ある意味自画自賛だけど惚れそうになった。

「吉里さん、水壁で祟り神を囲むので結界の準備お願いします!」
「遅いぞ!とっととやれ!」
「はいっ!」

祟り神も吉里氏も間合いを取って動きを止めている。
やるなら今だ。

悠介は俺と合図をかわし、祟り神を抑えるべく、走り出した。

第二十二話END
461 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/22(日) 00:22:22.19 ID:nG5AZfko
来週ついに 最 終 話 です!!!
2009年9月5日から約1年。ようやくここまで来れましたー
毎回ひとりふたりと「乙」を書いてくれたおかげですー
処女作であり習作であr……って、まだ終わってませんでした!
来週、8月28日深夜最終話投下します!
462 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/22(日) 01:27:44.67 ID:STwI9kDO
そっかもう一年か…
よく続いたな、乙
463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/22(日) 22:24:50.58 ID:EWnC5FY0
乙!
投下楽しみに待ってるよ
464 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/29(日) 00:33:11.00 ID:QEuMfeYo
最終話投下しますー

前スレまでのあらすじ(1〜9話)
 目覚めると知らない部屋にいた岩崎悠介は、転校生の高原美恵の姿になっていた。
 転校生としての生活がはじまった学校ではクラス委員長の吉里優衣に目を付けられ、
 学園祭劇のヒロインに抜擢されて合宿練習に参加する事になる。
 一方で元の自分がそのまま存在しており、合宿をする上田雅人の家に向かう途中、
 自分はオリジナルの岩崎悠介ではなくコピーされた意識体だと気付き、ショックを受ける。

現スレ投下話(10話以降)
 10[10/01/24] >>57-61   11[10/03/07] >>95-99   12[10/04/27] >>205-209
 13[10/06/13] >>295-299 14[10/06/20] >>325-329 15[10/06/27] >>343-348
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 19[10/08/01] >>415-419 20[10/08/08] >>435-439 21[10/08/15] >>447-451
 22[10/08/21] >>456-460
465 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/29(日) 00:33:33.53 ID:QEuMfeYo
「大丈夫?起きれるか?」
雅人が優衣に話しかけた。
本殿の祭壇を前にして横たわっている優衣は、
祟り神によって悪霊に取り憑かれたため神主に保護され、
いまの今まで神主の祈祷で除霊をしてもらっていたのだ。
「みんな……?あれ、なんで私ここに」
寝ている間のことだったから、祟り神に襲われた時の事は覚えてないという。
「優衣さんは悪い霊に取り憑かれてね。
 みんなの祈りの力も借りてようやく除霊できたんだ」
神主はそう優衣に説明した。

実際のところ俺と悠介、そして吉里さんの力によるところが大きかった。
あのあと思いの外すんなりと祟り神を池に封じ込め、本殿に駆けつけると、
神主がものすごい形相で儀式をしていた。

人間の神主もある程度の力を持っているが、
その実、神の力を借りているだけなので大した力は出せない。
優衣に取り憑いた悪霊の力に勝てず、四苦八苦していたのだ。

その力を貸している本人である産土神の三人が集まることで
ようやく除霊に成功し、優衣は目覚めることが出来た。
466 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/29(日) 00:33:59.60 ID:QEuMfeYo
ちなみに。
吉里氏は本殿に到着する直前からずっと水膜結界を張って姿を隠している。
昨日吉里氏は誰にも言わずに神社に残り、
俺たちが何かあったときにこっそり解決してやろうと思っていたそうだ。
朝、人目に付かないトイレで隠れていたのはそのため。
それで吉里氏が手伝ってくれたことは言えず、
神主も雅人も、俺と悠介がふたりで祟り神を封じ込めたと思っている。

「吉里氏が荒ぶる神って……。やっぱり誤解じゃないかな?」
「俺もそう思う」
悠介とこっそりそんな話をしていると、
全快して元気そのものの優衣がめざとく、
「あら?おふたりさん。昨日よりくっついてない?」
とからかってきた。
俺が悠介の分身だということを知ってから悠介は俺に遠慮しなくなった。
親しい女友達の居なかった悠介がこうなってしまうと、
俺たちがカップルに思われてしまうのも時間の問題だろう。

あと一ヶ月でこの身体の持ち主はオリジナルの美恵に戻るというのを、
悠介はちゃんと理解しているのだろうか。
467 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/29(日) 00:34:31.84 ID:QEuMfeYo
その一ヶ月は、あっという間にやってきた。
毎日放課後の練習と毎週末の合宿練習をしたおかげで、
文化祭のクラス劇は大成功。その間に優衣は雅人とつきあい始め、
案の定、俺と悠介もクラスの公認カップルという事にされてしまったが、
美恵としてとても楽しい生活を送ってこれた。
毎日が充実していて、時間が過ぎるのがとても早かったのだ。

文化祭の打ち上げが終わり幹事をしていた雅人が「解散!」の一言を告げると、
それぞれが「お疲れ様」を言い合って思い思いに帰路についた。
俺も雅人達に声を掛けて帰ろうとすると、
雅人は「帰りちょっとウチ寄ってくれないかな?」と引き留めた。
悠介も呼び止めていたから主役四人で二次会でもするのかと思ったが優衣の姿が無い。
「優衣は先に帰ってもらったよ」
いつになく真面目な口調に俺は、すっかり忘れようとしていた一つのことを頭に思い浮かべた。
「もしかして……さ。今日、戻ってくるのか?」
「ああ」
その一言がとても重たく感じられた。

ヒロインとあって、俺に声を掛けて返るクラスメイトは多い。
彼女らにとっては何気ないひとときの会話が、俺にとっては別れの言葉だ。
今日をもって俺は役目を終え、代休明けから登校するのはオリジナルの美恵。
俺はこれでもうクラスメイトと話をすることは叶わない。
そんなことを考えていると、いつの間にか目から涙が溢れ止まらなくなった。

みんな「大丈夫?」と声を掛けてくれるのに、その優しさが涙腺をさらに弛める。
立っているのもつらくなってへたり込みそうになったとき、悠介がそっと抱き留めてくれた。
「お疲れ様。今日までよく頑張ったよお前は。柄でもないのに一生懸命なりきってさ。
 なんでもない顔してたけど大変だったろ。もう、休んで良いんだぞ」

涙は、枯れるまで流れ続けた。
468 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/29(日) 00:34:58.10 ID:QEuMfeYo
神社に着くと、例のお手伝いさんが出迎えてくれた。でもこれは一体どういう事だろう。
「お、同じ顔が5人……!?」
「言ってなかったっけ?お手伝いさんはみんな式神なんだ。
 親父――神主の術なんだけど、今日は俺も二体出してるんだぜ」
神出鬼没だと思ったらそういうカラクリだったのか。
「じゃあ俺は悠介と本殿で待ってるから」
雅人がそう言って別れると、
5人のお手伝いさんは「ささ、こちらへ」と俺を別室に連れて行った。

「ここは……」
ここの家に泊まったときのお風呂場だった。
「岩崎様にはこれから身を清めていただきます
 ただいまよりお体は私どもがお世話いたしますので、
 どうか御身をお預け下さいませ」
その言葉には何らかの力があったようで、とたんに身体中の力が抜けた。
5人がかりで服を脱がされ、
生まれたままの姿になった美恵の身体が冷水で濯がれる。
次第に感覚が薄れ、何も感じなくなった。
かろうじて目や耳は機能しているが、
遠くのテレビを見ているように映像も音もハッキリしない。
この体から、ついに出て行く準備ができたのだろう。
469 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/29(日) 00:35:18.15 ID:QEuMfeYo
白装束に包まれ、お手伝いさんの一人に抱きかかえられて本殿に入った。

神職の衣装を着た神主と雅人を中心にして、
悠介、吉里氏、美恵の父親も居る。
そのうちの誰かが俺に声を掛けたようだが、言葉として耳に入ってこない。
もう、お別れ。最後に挨拶くらいしたかったのに、
ここの神社の人たちは最初から最後まで勝手なものだ。

儀式が始まると、とうとう目も耳も使えなくなった。
浮翌遊感から、美恵の体を抜けたことを実感したとき、
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「もうひとりの俺、聞こえるか?みんな最期はありがとうって言ってたよ。
 こっちの事は俺に任せて、神社から見守ってくれ。美恵とも、うまくやるから」
「岩崎さん。今までありがとうございましたっ!
 寂しくなると思うけど、また神社に遊びに来ますね。じゃぁ、行ってきますっ!」

同じ神である悠介。自分の身体に戻るために神になった美恵。
二人とももう話せなくなるわけではないけど、
人間の世界で暮らすためしばらく会えなくなる。
でも美恵はようやく人としての生活を取り戻すことができたのだ。
美恵の父親もさぞかし喜ぶことだろう。

うん。それでいい。
そのために俺は今日まで美恵の体に入って肉体を維持してきた。
これが、産土神としての俺の役目だったのだ。

「産土神の役目!」END
470 : ◆/ShBG.hvjg :2010/08/29(日) 00:36:01.12 ID:QEuMfeYo
長いあいだ読んでいただきありがとうございましたー!
拙い文章で何日続くかと思いましたがまさかの完結ですwwww
感想は聞きたいような聞きたくないような……
直したいところが沢山あるので正直怖いですww

今後の予定は未定ですが、違った文体で考えていますー
少なくとも2週は休みますが、また書き始めたらよろしくおねがいしますーww
471 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/08/29(日) 22:42:05.91 ID:AM77YsAO
最後は駆け足のように終わらせてしまった感があるけど、でも完結出来て乙です。
ハッピーエンド…では無いよね?
でもこういう話も有りかな、と思います。次回作もwwktkさせて下さい。
472 : ◆/ShBG.hvjg [sage]:2010/08/30(月) 00:04:13.12 ID:qrdrSwIo
>>471
ありがとうございますー
ハッピーエンドは苦手だったりしますwwww
でも次はちょっと明るめの話を書く予定ですー
473 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/09/06(月) 19:08:58.27 ID:9hHIfcAO
定期的に投下する人がいなくなったら
過疎になるな。
投下止まってる人はどうしたのかな。待っているのだが。
474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/09/12(日) 22:15:01.53 ID:50pOsYAO
まあ、過疎だな。
475 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/09/12(日) 22:55:54.68 ID:0d.P10Uo
このスレ元々こんなだったからな。仕方ない
476 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/24(水) 02:53:06.42 ID:IY/NaU.0
あがれえええええええええええええ
477 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 00:14:55.98 ID:mmq8CcDO
レスがついたと思ったら
478 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 22:25:13.29 ID:q7Tq5ygo
パー速だから新しい人も来ないのかもナ
479 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/05(日) 22:54:19.19 ID:qMY1FEko
だナ
480 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/02/05(土) 15:06:59.12 ID:Xesy/iAAO
保守
481 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/02/05(土) 15:10:05.91 ID:PqQnUBQEo
久しぶりに書き込みがあったとおもったら二ヶ月ぶりwwwwww
482 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/02/05(土) 20:51:37.90 ID:7qHoaIg8o
GEPに移るどころか、移転先がさらにSS速報に変わってしまったなww
483 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/02/05(土) 20:56:41.39 ID:PqQnUBQEo
そういえばそんな話あったなwwwwww
484 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/02/09(水) 23:23:50.05 ID:xcvnATlDO
また2ヶ月後に会いましょうwww
485 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/02/09(水) 23:31:59.61 ID:AL68MOGOo
おいwwww
486 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/02/09(水) 23:41:51.18 ID:xcvnATlDO
にょたスレ巡回ご苦労様です(^-^ゞ
487 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/02/10(木) 00:01:13.08 ID:EyWhv06po
巡回って。誰かが書き込めば更新チェックですぐわかるだけだよ。
488 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/03/01(火) 23:53:23.14 ID:EsAesY0DO
そしてまた月日は流れた…
重要のあるジャンルなのに何なのこの過疎
489 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/03/01(火) 23:57:16.43 ID:/0wl1gIEo
書く人いなくなったな。
490 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/03/04(金) 18:23:52.51 ID:SpXucxCk0
まぁアレか、女性化SSを投稿する場所はココに限らないしなぁ
491 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/07(月) 23:13:05.00 ID:yG+8hHv40
少しだけでも書いてみたいが良いかな?
492 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/03/07(月) 23:14:28.90 ID:mBLuQAJso
待ってまちた!
493 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/07(月) 23:15:22.10 ID:yG+8hHv40
少しばかり時間掛かるけどおK?
494 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/03/07(月) 23:17:18.18 ID:mBLuQAJso
どうぞどうぞ。オーディエンスは俺だけかもしれないがな!
495 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/07(月) 23:24:48.31 ID:yG+8hHv40
「いつもがいつもじゃないに変わりました」

俺「・・・・どちら様?」
俺の名前は谷口涼、一般的な男子高校一年生・・・だった。
しかし今は違う、鏡の中に居る美少女は間違いなく俺自身である・・・

俺「どうしてこんな事に・・・」
496 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/07(月) 23:47:44.86 ID:yG+8hHv40
昨日は部活後家に真っ直ぐ帰ってきて風呂に入り、その後母親があらかじめ作って置いた晩飯を食べて歯を磨いた後
自分の部屋で自慰行為をし、その後少し友達にメールして午後10時に就寝・・・
昨日の行動を振り返ったがどこにも自分が女体化する要因が全く無かった。
俺「何故だ!何故俺が女になっているんだぁっ!」
しかしその悲痛な叫びは神様に届かなかった・・・

俺「どうしよう・・・とりあえず友達に電話するしかない!」
すぐさま携帯電話で友達に電話をすることに・・・
プルルル・・・・プルルルル・・・・ガチャッ
友「ああ、おはよう涼、土曜日の朝お前から電話とは珍しいな・・・」
俺「おいっ!どうしよう!俺女になっちまった!!」
友「・・・・て言うかどちら様!?涼の親戚か?」
俺「違うって!俺だよ!俺!いつも部活でスっ転ぶ谷口涼だよ!!」
友「その通り名を知っているのは部活のメンバーの3人と俺ぐらい、しかも部活のメンバーの三人は全員男・・・」
俺「これで信じてくれるか!」
友「分かった分かった、今からそっち行くから大人しく家で待ってろよ!」 プツッ
俺「あ、ちょっと待て!」ツー・・・ツー・・・
と・・・とりあえず俺はリビングで友が来るのを待ったいた・・・
497 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/07(月) 23:52:26.08 ID:yG+8hHv40
今日はこれ位しか書けないが許してくれ、また明日続きを書くよ。
じゃあ落ちるZE。
498 :ブラックバード ◆3740km/h.. :2011/03/08(火) 00:05:06.16 ID:4OQ2Z/9AO
速いぞゴルァ
499 :ネ申 ◆IamGod8E8E :2011/03/08(火) 00:05:54.11 ID:4OQ2Z/9AO
神だゴルァ
500 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/03/08(火) 01:00:41.10 ID:DsJNfPPto
楽しみが増えてよかった。
501 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/08(火) 21:26:26.71 ID:DfkAV/5M0
今日もほんの少しだが書いていくぞ。


数分後・・・・
ピンポーン・・・・ガチャッ、
友「おい!大丈夫か!・・・・オォゥ・・・・」
驚いた、急いで涼の家へ向かい玄関を開けたらそこにはいつもの涼ではなく可愛らしい少女が居たのだから・・・
友「お前・・・可愛くなったなぁ・・・・・」
とりあえず言えることはこれしかなかった、髪は長く胸も少し膨らんでおりどこからどう見ても女の子である。
俺「・・・・そんなにジロジロ見るな!はっ恥ずかしいだろ!ほら、さっさと入れ・・・」
顔を赤らめ恥ずかしがっている所を見ると心も女の子になりつつあるようだ。
502 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/08(火) 21:47:49.46 ID:DfkAV/5M0
リビングに行き、まず今まであった事を話す事に。
俺「・・・・って事だ、いつも通りに過ごしていたのに・・・・」
友「んー・・・確かに昨日は何も変わったことは無かったな・・・とりあえずその格好はどうにかならんか・・・」
俺「こればっかりはどうしようも無いんだ・・・俺に合った女物の服が無いから・・・・」
友「半そでのTシャツでトランクス一丁って、朝起きたばっかりだし仕方ないか・・・よしっ!決めた!」
俺「えっ?何をだ?」
友「今日はお前用の女物の服と下着を買おう!金は俺が出すからさ。」
俺「うぅむ・・・・確かにこれだと日常で困るし・・・・」
・・・・と、言うわけでとりあえずいつもの服を着て、女物の服を買いに出かけることに。
503 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/08(火) 22:00:10.97 ID:DfkAV/5M0
家から駅は近いので歩いて行く事に、何度か「友!お前いつの間に可愛い彼女が出来たのか!」と言われ去ること約20分駅へ到着した。
友「そうそう、電車の中ではぐれたり、痴漢に遭うなよ!」
昔からこいつは良く危ない目に遭うのでいつも注意しているのだ。
俺「第一こんな男物の服着て痴漢に遭うわけ無いだろ・・・」
友「じゃ、行くぞデパートまで。」
俺「(畜生・・・どうなるんだ俺は・・・・)」
少しの期待と大きな不安を持ちいざ、戦いへ・・・・・・

504 :初心者 ◆uAzaJUOQks :2011/03/08(火) 22:01:48.62 ID:DfkAV/5M0
なんか今日はあまり書く気になれぬ・・・・済まないな今日はこれで落ちるよ。
505 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2011/03/08(火) 22:07:22.75 ID:AB4Oj41To
そうか。がんばれ
506 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方) :2011/03/25(金) 01:21:35.04 ID:usOuWtHOo
まだ残り500近くあるけどSS速報に移動しない?書いても人来ないし。
4月になったら少し時間あくし俺もなんか書くよ。そのとき移動でもいいけど
507 :506 :2011/04/11(月) 01:54:53.63 ID:Y+bq9Svgo
なんとか新しいの書けそう。来週くらいから投下しようかな

板移動について意見求む
508 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(中国地方) :2011/04/11(月) 21:00:27.48 ID:bYgOwuwL0
投下wktk
板移動はどっちでもかまわないから、多い意見の方で
509 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(千葉県) [↓]:2011/04/17(日) 09:30:48.63 ID:arU4UJNR0
wktk
期待してるぜ。
510 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方) :2011/04/17(日) 23:40:42.78 ID:Jyutkxj5o
意見多い方って意見無いけどまあいっかwwwwww
いまから準備します
511 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方) :2011/04/17(日) 23:56:12.00 ID:Jyutkxj5o
別に新ジャンルじゃない「ひょんなことから女の子」Part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1303052106/

立ててきた。
512 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(関西地方) :2011/04/18(月) 00:14:49.06 ID:4KdPkibko
初回分投下完了ですっ。新スレに移動よろしくおねがいしますー
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