17:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/01(土) 22:07:02.27 ID:WMIgWMbh0
*Cantabile(カンタービレ)【歌うように、表情豊かに】
できないことは恥ずかしいことじゃない。
ただ見た目に綺麗であることが全てじゃない。
こう思えるようになったのが、たぶん私がアイドルになったことで得られた最大の成長だ。
……とはいえ、やっぱりそこは女性の心。
複雑だったりもするわけで。
シングルブル。七のダブル。十七のシングル。
投じられた矢は的確にダーツボードに刺さった。
「……ねえ、プロデューサー上手すぎじゃない?」
「そうですか? まあ学生の時、友人付き合いで何度かやっていたので」
「その程度でこんなに上手くなるもの?」
「なりましたね。……松山さんは、その……なんというか、アレですね?」
「いいわよ濁さなくて、かえって傷つくから!」
ボードの下には数本の矢が散らばっている。そのほとんどが私が投げた分。
プロデューサーと二人で、繁華街のダーツバーに行った時のことだ。
ユニットを組んでいる友人に誘われ、私はたまにここに来ていた。私自身は趣味と言えるほど頻繁に入り浸っていなかったし、プロデューサーもそこまでの経験はないようだったから同程度のレベルだと思っていたのに。
「……しかし、久しぶりですけど楽しいですね」
矢を回収しつつ、彼が小さな声で呟いた。
いじけたような声で私は返事をする。子どもみたいだ。
「……それだけ上手なら楽しいわよね、それは」
「大学の時より少し腕は落ちてるんです。……でも、今は当時より……」
言い澱み、手で弄んでいたダーツに落としていた目を、彼はちらりとこちらへ向けた。
「松山さんは、楽しくありませんか?」
ばっちり合った目を逸らす。その問いは卑怯だ。
「……楽しいわよ。もちろん」
「それはよかった」
柔らかな、咲くような笑顔。
言外に込められた思いを、期待していいものかどうか。
……ああ、卑怯だなあ。本当にもう。
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