佐久間まゆ「凛ちゃん聞いてください! まゆ、プロデューサーさんとキスしました!」
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15: ◆E055cIpaPs
2017/10/29(日) 19:56:19.65 ID:T3zoKt8I0
「実はさ、うちの会社でもアイドル事業をやろうって話になっててさ、その企画に俺たちの雑誌も全面的に関わって行こうって話になってるんだ」

 もう何の雑誌かわかりやしないよな、と笑いながら彼は続けます。

 その”俺たち”の中にまゆが入っていない万が一のことを祈りながら、まゆはその続きを黙って聞いていました。

「なのに、なかなかメンバーが集まらなくってさぁ、本当に困っちゃってさあ」

「アイドルの事務所、今は沢山ありますから」

 だからアイドル事業はやめておきませんか。

 確かにまゆはそうやって必死に断る理由を探しているのに、なのに頭の片隅からは全く別の声がまゆの心を揺さぶって来るのを感じていました。

 『ねえ、凛ちゃんとの約束はアイドルを辞めないことでしたよね?』

 『ねえ、まゆはこの人の力になってお詫びと恩返しをするべきなんじゃないんですか?』

 『ねえ、まゆが本当に幸せになれるのはここなんじゃないんですか?』

 その声に流されるがままアイドルをやめてしまえればどんなに楽でしょうか。

 その声に流されるがままもう一度あの場所でやりなおせればどんなに幸せでしょうか。

 プロデューサーさんが結婚してしまってからまゆも、事務所のみんなも、プロデューサーさん自身もなにも上手くいかなくなってしまって。

 あんなに明るくて楽しかった場所が突然暗くなってしまって、ギスギスして、寂しくなって。

 あんなに大好きだった、いまでも本当に大好きなプロデューサーさんと一緒にいても、二人で話していても、もう本当にただただ辛いだけで。

「でも、佐久間が来てくれればきっと全部解決すると思う。だから―――」

 そういって彼は、まゆに向かって手を差し伸べてくれました。

 もうずっと前、まゆを読者モデルにしてくれた時のように。

 この手を取れば、きっとまゆはもう一度やり直せるのでしょうか。

 今のどうしようも無くなってしまった環境を抜け出して、楽しかったことも、辛かったことも無かったことにして。




 だなんて、そんなことは所詮は夢物語です。

 トップアイドルはもうまゆ自身の夢にもなっていますし、やっぱり凛ちゃんや事務所のお友達と別れることなんてできません。

 なによりも、まゆの勝手な行動が原因で読モの仲間たちはみんな事務所をやめてしまっているんですから。

 だから、決してあの頃の時間は返ってきません。

 それに、あの頃の幻にすがりつくことさえ当時の仲間たちは許してくれないでしょう。

 そう、自分の中で結論付けて彼の誘いを断ろうと、いつの間にか目線が足元にいくまで下がってしまっていた自分の頭を、まゆは持ち上げました。



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