松田亜利沙「大好きを繋ぐレスポンス」
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17: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/10/29(日) 23:24:11.56 ID:s1IKgLXf0
「今回の合格者は、三番の方になります。他の方は申し訳ありませんが不合格、ということで」

 やり切ったという感覚と疲れに押されて、受かりますように、なんて祈る時間もなく結果が告げられた。
 胃がキリキリすることもなかったから、ある意味幸運だったかもしれない。

 胸元の3と書かれた番号札を見やって……え、三番?

「え、ええぇぇーーーっ!? けほっ、けほっ」

 無様に叫んで、大慌てで口元をふさいで。現実を直視できないまま深呼吸にも失敗してせき込む有様だ。
 周りのアイドルちゃんたちはあきれ交じりの笑みとともにありさを見やりながら、席を立とうとする。

「あ、皆さんちょっと待ってくださいっ!」

 慌てて呼び止めた。今回のオーディション、結果はどうあれやりたいことがもう一つあったのだ。
 担当者さんにジェスチャーでお詫びして、一緒に戦ったアイドルちゃんたちに向き直る。

「サイン……頂いてもいいですか!? 今日、皆さんとお会いできるのが楽しみで楽しみで……ああっ、色紙は用意してあるので!」

 みんなの視線に乗った感情が一層強まった。何言ってるんだコイツ、と訴えかけてくる感じ、ちょっとゾクゾクくるかも。もちろん、ありさは大真面目なのだけど。

 エントリー番号が若い順から色紙を渡して、サイン会に来た時と違わないテンションでお喋りしながらサインをもらう。
 始めこそ置いてけぼりな様子だったアイドルちゃんたちも、すぐに心得たとばかりにノってくれた。

 最後の一人、スパーク☆めいでんちゃんにも、緊張しながら色紙を渡す。
 何から話そう。オーディションで負かした直後なのに、何を話していいんだろう? もう四回繰り返したはずの行為に、今更ながら混乱してしまう。
 ……やっぱり、目の前にいる子はありさにとってどうしようもなく推しのアイドルちゃんなんだな、って自覚した。

「ねぇ、あなた。……松田、亜利沙ちゃん? もしかしなくても私のファンだよね?」

「うえぇっ!? は、はははい、大ファンですぅっ! じゃ、なくって……その、やっぱりバレちゃいますかね?」

「そりゃあ、あんなにバッチリ振りコピされちゃったら、流石に分かっちゃうかなあ」

「う、うぅ……オーディションを受けるって決めてから、本当にびっくりして、どうしてもやりたくなって……あ! この前のアニバーサリーも行きましたよっ! すっごくキラキラしてて、とにかく、よかったです!」

「え、ホント? うーん……なんだか不思議な気分かも。オーディションに来たのに、こんな風にサインなんてしちゃってて」

 時にサインの手を止めて、身振り手振りを交えながら答えてくれる彼女は、本当にサービス精神旺盛というか……ううん、これが素なんだとありさは思っている。
 それでも、普段より多くの時間を割いてもらっていることは間違いなくて、役得だなぁと感じずにはいられない。

「……その、いちばんありさの心に残ったのは、負けない! って宣言した時のスパーク☆めいでんちゃんの姿でした。オーディションを受けるって決めたのも、それがきっかけで……」

 言おうかどうか迷っていたこと。きっと余計な一言。
 だけどやっぱり、ウカツにも口に出してしまおうと思ってしまうのだ。
 目の前にいる、大好きなアイドルちゃんへの偽らざる想いとか、そういうものをまるごと乗せて。

「ありさも、アイドルちゃんとして……これでいいのか、って思わされたんですっ! オーディションの最中も、目を奪われて、最後までやり切る力を貰いました! 虹色スパーク、ありさの胸の中に響いてます!」

 きょとん、と。彼女はありさの方をじっと見て。その瞳に目を奪われてしまった。

「……そっか。あんな風に宣言して、敵に塩送って、負けちゃったか。……悔しいなぁ……っ、もー!」

 ほんの一瞬、困ったように笑った彼女は、言葉の勢いと一緒にペンを滑らせた。
 さっきまでの態度とは打って変わって少し乱暴に色紙をありさに押し付けてくる。

「はい、どうぞ! みんなが……ううん、私がサインを受けたのは、オーディションの中で、あなたのその気持ちが本物だって感じたから。あんなアピール方法、上手くいったのが奇跡だって思うけど……なんて、こんなの負け惜しみだ」

「でも、次は絶対負けないから、覚悟しておいて!」

 くるりと踵を返して、返事も待たずにスパーク☆めいでんちゃんは去っていった。
 負け惜しみと言っていたけれど、彼女の言葉はもっともだとありさも思う。
 ライバルに対してこんな言葉を使うのも不思議だけど、みんなのおかげで勝てたのだから。

 五枚の色紙をぎゅっと抱いて、ずっと待っていてくれた担当者さんに改めてお騒がせしましたと謝った。
 ちょうどやってきたプロデューサーさんも一緒になって頭を下げて、そんな最中さえアイドルちゃんたちの顔が離れなかった。

 改めて、頑張ろうって強く思った。
 貰ったのは、オーディションを受けるって決めた時の想像を遥かに超える大きなエネルギーだった。



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