八幡「想いで」
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1:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:17:37.07 ID:5fkFdj7q0


人は何故山に登るのか、というと問いに対して、とある著名な登山家は「そこに山があるからだ」と答えた。ならば、だ、なぜ人は休むのか?という問いに対して、「そこに家があるからだ」と答えることだって可能なはずなのだ。論理としては何も破たんしていない。それなのにどうであろうか。山を評したこの言葉は名言とされ、様々なメディアに取り上げられている。一方で休息という、人生においてある意味では最も重要な事項ともいえる事柄について述べたこの言葉は、引きこもりの、働かない言い訳のように扱われるであろうことが、想像に難くないのだ。。優先順位は格段に上の筈なのに。
ああ無情。働きたくないでござる。何なら動きたくもないでござる。家でじっとしていたい。家最高。あとは、マッカン、小町、戸塚。八幡的三種の神器がそろっていれば、それだけで、もう他には何もいらないまである。
とまあ、普段の俺なら例のごとく、動かない言い訳を作るのだろう。まあ、この意見は論理として正しい、ということに俺は一ミリの疑いも持ってはいないのだが。

しかしながら、今回の一件に関して、それは別だ。というのも、言い出したのが俺だからだ。


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2:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:19:15.57 ID:5fkFdj7q0

「ま、まだ着かないのかしら?」

平静を装っていたが、吐息が荒かった。無理もない、もともと体力のない雪ノ下の事である。俺でさえ疲れてきているのに、彼女が平気なはずがない。この道は、山道としては決して急なものではないが、その代わりに長い。もうかれこれ30分は歩いているのに、まだ頂上までたどり着かない。

以下略 AAS



3:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:20:24.60 ID:5fkFdj7q0
足元が良く見えないせいで、小さな段差に気づくことが難しい。何度も躓きかけて、ギリギリで踏みとどまる。先ほどから何度か、彼女は小さな悲鳴を上げていた。木の枝に肌をひっかけているのだろうか。俺が出来る限り枝をかき分けてはいるものの、限界がある。やっぱり、彼女をこんなところに連れてくるべきではなかったかもしれない。


4:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:21:24.00 ID:5fkFdj7q0

「っ…!そう…そうなのね……」

「本当にもう少しなんだよ……」

以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:21:59.34 ID:5fkFdj7q0

押し寄せる後悔を振り切るように、俺は脚を進める。もっと他の場所は、他の選択肢はなかったのか。別にあそこでなくてもいいんじゃないか。そんなことを考える。考えてしまえばキリがない。けれど、そうして自分を責めてしまったら、自分が全て悪いのだと、断じてしまったら。逆戻りしてしまう。あの頃に。彼女達が引っ張り上げてくれるまで、どっぷりと浸かっていた、あの闇の中に。


6:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:22:50.73 ID:5fkFdj7q0

深くなっていく闇に、存在自体が飲み込まれてしまうかもしれない。この森の中の様に。


7:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:23:46.11 ID:5fkFdj7q0

ネガティブな方向に向かう思考を、やっとの思いでつなぎとめる。一際大きな段差を乗り越えた時だった。

「きゃっ」

以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:24:29.32 ID:5fkFdj7q0
「少し休むか?」

その姿から半ば無理やり目を逸らし、俺は休憩を提案する。

「いや、その必要はないわ」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:26:37.81 ID:5fkFdj7q0


暗闇の中で、山を登っていく時、背景となるものは夜空だ。これが昼間ならば、背景は青空で、どこがこの短い旅の終わりなのか容易に知ることが出来ただろう。しかし、今は夜。先ほど雲間から僅かに覗いていた月も隠れてしまっている。そして人生の中に無数にちりばめられた出会いの様に。唐突に視界が開ける。

  「ああ…」
以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 15:28:39.83 ID:5fkFdj7q0


「ここが目的地なの?」

「ああそうだ」
以下略 AAS



11:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 20:02:53.46 ID:5fkFdj7q0


少しの間、無言の時間が流れる。

 「こんなところまで連れてきて、どうするつもりなのかしらキモヶ谷君」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 20:04:54.72 ID:5fkFdj7q0


「呆れた……そのために、私はこんなところまで連れてこられたのね?」

雪ノ下は頭を押さえて、やれやれという仕草をした。
以下略 AAS



13:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 20:06:03.66 ID:5fkFdj7q0


「あなた…まさか暗がりに紛れて、私に変なことをするつもりなのではないでしょうね。こんなところに連れてきたのも、助けが呼べないようにするためなのかしら」

「んなわけねえだろ。ほら、前見ろ、前」
以下略 AAS



14:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:06:41.19 ID:5fkFdj7q0


「湖?」

一瞬の逡巡の後、雪ノ下はそういった
以下略 AAS



15:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:07:43.62 ID:5fkFdj7q0


「水面、見てみろよ。目を凝らさないとわかんないかもしれないけどな」

 雪ノ下と思しき影に、呼びかける
以下略 AAS



16:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:09:11.99 ID:5fkFdj7q0

「えーっとな」

そして俺は語り始める。ここに来た一番の理由を。

以下略 AAS



17:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:09:55.21 ID:5fkFdj7q0


覚えている。沈みかけた夕日に照らされたその少女は、駆け上がってきた俺に向かってこう言ったのだ。

『君も苦しいの?』と。
以下略 AAS



18:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:10:39.70 ID:5fkFdj7q0

涙と汗でグシャグシャになり、ただでさえ腐った目(まだ当時はそこまで腐っていなかったのかもしれない)がもっと見られないような状況になっていたのにも関わらず、だ。
自暴自棄になっていた俺は、その子に全てを話した。別に前から彼女の事を知っていたわけではない。初対面でしかも見るからにボロボロだった俺の、叫ぶような一方的な訴えを、彼女は黙って聞いてくれた。逃げたりはしなかった。

とても、優しかった。
以下略 AAS



19:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:11:27.07 ID:5fkFdj7q0

「この電灯が、時間になると消えてしまうってものさ、その子に教えてもらったんだ」

話している最中、いきなり消えた電球に怯える俺を、彼女はそっと抱きしめてくれた。耳元で囁かれた言葉が忘れられない。

以下略 AAS



20:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:11:58.38 ID:5fkFdj7q0


『暗いところだとね、星が良く見えるでしょ?』

『君は今、暗いところにいるかもしれないけれど、でも、だからこそ、ほんの僅かな星の光だって、他の誰にも見えない光だって、君は見つけてあげられるんだと思うんだ』
以下略 AAS



21:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:22:48.92 ID:5fkFdj7q0

今なら、その言葉の意味も分かる。あの頃、自分とそこまで年の変わらなかった少女が、こんな言葉を吐いたのかという驚きも、今になって漸く実感する。
誰かが吐いた言葉が、時間が過ぎ去った後になって、違う側面を見せてくるということは、よくあることだ。それは自分が成長した証だと言えるのだろうか。
それとも、ねじ曲がってしまった証拠となるのだろうか。巧妙な皮肉、遠回しな罵倒、そして、さりげない優しさ。俺は今までどれだけの物を見落としてきたのだろう。どれだけの感情から、目を背けてきたのだろうか。そんなことを思う。


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