6:名無しNIPPER[saga]
2018/02/13(火) 18:39:13.56 ID:K48b6BSl0
「プロデューサー」
「ん?」
「……やっぱり、なんでもない」
「そうか」
なんでもないと言う時は、たいてい何かある時だ。
ちゃんと口に出さないと、伝わるものも伝わらない。
伝わっているものがあったとしても、それは言葉にするまで伝わらない。伝わらないことになっている。
「困ってる?」
「困ってるよ。加蓮は?」
「困ってる。おかしいね」
「おかしいな」
今、私から彼の顔を見ることはできない。彼から私の顔を見ることもできない。
人が五感から得る情報のほとんどは視覚から得る情報だと言う。なら、今の私たちは互いの気持ちがほとんどわからない状態だ。
体温や鼓動は伝わるけれど、それだけで相手の気持ちがわかることなんてきっとない。表情に比べたら、その情報量はとても少ないものだろう。
「好きになるなら、身だしなみくらいはちゃんとしてる人だと思ってた」
だから、普段は言えないことを口にしてしまったのかもしれない。
伝わり過ぎてはいけないから。でも、ずっと言葉にしたかったから。
「最低限のデリカシーはあって……それから、なさけないところを見せない人」
抱きしめた腕の中で、彼が固まる。何を考えているかはわからない。わからないことになっている。
「プロデューサーは……Pさんは、当てはまらないね」
それでもおかしくて、私は思わず笑ってしまう。彼はいくらか声を落として、「そうだな」とつぶやく。
「認めるんだ」
「認めるよ」
「プロデューサーがデリカシーないってどうなの?」
「それを言われると困るな」
「困るんだ」
「困る」
「そっか。じゃあ、もっと困って」
私に困って。私のことで、もっと困って。
「現在進行系で困ってるけどな」
「それは知ってる」
「そろそろ離れないか?」
「まだダメ」
「そうか」
「そうだよ」
まだ離さない。だって、大事なことを、まだ口に出せてない。
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