高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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25: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/18(水) 23:24:43.65 ID:hD9nuK1M0

「派手な捕り物だったようだな、お疲れさん」

瓶かめに顔を突っ込んでガブガブと行水していると、ふと背後から声を掛けられ振り返った。

――この男の、人を斬った後は本当にわかりやすい。

血で血を洗う新撰組でも、十本の指のうちに入るほど多くの人を斬って来たであろうに、こいつはいつまでも慣れぬように、奪った命がのしかかってくるようなでろんとした隈を目の下に作って、それを洗い流すように、遮二無二ざぶざぶと頭から水を被るのだ。

こいつはいつもそうだった。隈の濃さも、浴びる水も、日ごと増した。

「――ああ、川島さん」
「よく毎度、器用に生け捕りに出来るもんだ。薩長の賊ばらなんぞ、ぶった斬ってしまえばよかろうに」

川島は男とは同時期入隊で、もう五年も同じ釜の飯を食った中だが、この男の働きぶりをよく知っている。
不逞浪士の取り締まりは元より、市中戦闘、死番突入、仲間の介錯や粛清。
命のかかる場面、誰もが躊躇する嫌な仕事、そういうヤマに決まって進んで名乗りを上げ、必ず相応の働きをした。

「……ま、斬り死にしていたほうがよほどマシだったと思うかもしれんがね」

川島の言葉には、言外の意味があった。
鬼の副長の詮議とは、なまなかのものではないからだ。それこそ死んだ方がマシ、というほどの。
釈放されたときにはもう、人間の形をしていなかった、ということは、少なくなかった。

「世の中はかまびすしいが、勤めは変わりませぬゆえ。褒美も変わらず出ますしの」
「明け透けに褒美褒美と申すな。士道不覚悟で腹切らされるぞ」
「あいやー……」
「お主、八木殿から持ち掛けられた縁談を断ったそうだな」
「ええ? あぁ、ははは」
「櫻井家は神戸港を本拠とする大商家だ。そこの入婿となれば五百や千両の金は右から左となる。銭金にこだわる貴様の事だから、飛び付くものだと思っていたが」


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