高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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6: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/18(水) 18:40:11.16 ID:hD9nuK1M0

◆◆◆◆

『泣くなよ、楓。泣くんじゃない』

膝を抱えて泣く少女に、男の子はどうすることもできず、背中をさすった。
目の前に横たわる故郷の川は、何も語りかけてくることはない。良いことなど何もなかった故郷であるけれども、年端もいかぬ二人にそれでも、何も応えてはくれなかった。

『泣きっはらしたらな、泣きぼくろになってしまうぞ。泣きぼくろが出来たおなごはな、一生泣くことになってしまうんや。俺はそんなん、嫌じゃ。楓は、笑ってるほうが絶対にええ』

大粒の涙が流れる瞳は、緑と青が融けた絵の具のように混じる、互い違いの妖瞳である。
猫の瞳のようにきらきら光る、不思議な色をした瞳から落ちる涙を、男の子はまるでほほを濡らさせまいとするかのように、両の親指で何度も何度もぬぐった。

『泣いてなど、おりません』

ずび、と、赤い鼻を鳴らして、少女は唇をキッと結んだ。

『楓は、悲しいことなどありません。楓はうれしいのです。どうして泣く事があるのです』
『泣いとるじゃないか』
『泣いてません』
『泣いとる』
『泣いてません』
『じゃあそれはなんじゃ』
『心の汗です。』
『……』
『大人は、目から心の汗が出るんです。まだ童のおまえさまには、わからないでしょうけど』

男の子の小さな両掌にすっぽり収まったまま、りんごのようなあからほっぺがうそぶいた。

『楓は、うれしいのです。ほんとう、ですよ』

きらきらの眼は、真っ赤になってしまっている。

『楓は、京でたらふく白いおまんまさ食べて、綺麗なべべを着るのです。そしたらととさまもかかさまも、腹いっぱい食べれて、この冬さ越せるのです。
 こったな妖瞳の気味の悪い子供でも、みなのお役に立つことができます。楓にはもったいない果報な事です。』

零れ落ちそうなふたつの目がぱちぱちと輝いたとき、男の子はたまらなくなって、遮二無二、少女を抱き締めてしまった。
そうするほかに、その子が出来ることは何も無かったからだ。

『……そうやな。京はきっと、ええとこじゃろな。ええことも、いっぱいあろうな。こったな村より、ずっと。友達も、いっぱいできるぞ。新しいおっかさんも、きっと雅でええ人に違いねぇ』



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