加群「鏡の向こうの」
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15:名無しNIPPER[sage]
2019/04/03(水) 21:20:52.93 ID:pOwoTKMWo

『無理を承知で尋ねるが、考え直すつもりはないのかい。未だこの街には君の助けを必要とする子供がいるはずだ』

「落第防止のような職が常に必要とされること自体、あまり褒められたことではないのだがね」

 脳幹は考える。本来はこれで正しいのかもしれないと。
 加群は木原だ。それはただの姓ではない。科学を悪用し、美しい目的の為であれば如何なる手段も正当化する科学者の冠だ。
 彼が被験者を全て蘇らせたとしても、その全てを一度は故意に殺してきたことに変わりはないのだ。
 そんな人間は子供の相手など、するべきではなかったのかもしれない。

『子供は常に助けを求めているものだよ。そしてそれに真摯に向き合える大人はそう多くはない』

 それでも、現実に彼は子供達を助けてきた。
 たかだか三十二人。それを破格と評したところで、彼が止めてきた心臓の数と比べれば些細なものかもしれない。
 しかし彼は十代にして命の扱いを極め、その定義を一行で書き示すことが出来る領域まで上り詰めた異才なのだ。
 そしてその高い知性は限られた分野でのみ発揮されるものでは決してない。
 なればたかが小学生如きを救い導くことなど容易であるべき――そう考えることは、そこまで逸脱した論理展開ではないだろう。
 だが現実はそうではなかった。彼が救ったのは、僅かに三十二人なのだから。
 それは、一つの優しい証明にはならないだろうか。
 例え小さな存在だろうと、その短い人生には、ただ生命を冷たい科学で解き明かしただけでは足りないものがあるのだと。
 彼はそれを示して見せたのだと、そう捉えてしまうのはロマンが過ぎる見方だろうか。

「だとしても、今の私に出来ることなどもうあるまい。私は木原だ」



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