加群「鏡の向こうの」
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14:名無しNIPPER[sage]
2019/04/03(水) 21:20:22.13 ID:pOwoTKMWo

『……いや、そうか。そうだな』

 しかし、脳幹が言及しようとしたのはそこではない。科学だとか、或いは魔術だとか、そんなことは二の次で。
 ただ彼は年長者として、一人の社会人の服装を叱責しようとしただけだ。
 だがそれも、もはや何の意味もないことなのだろう。
 彼はそれを知っている。知った上で、それでも指摘したかっただけで。

 脳幹は一つ息を吐く。寒い冬に、その白さを確かめるように。
 だが夏の空気の中では、本来のまま透明である呼気を視認出来ようはずもない。

『行くのかね、若人よ』

「ああ。こんなのは元々寄り道だ」

『そうか。もう、決めてしまったのだな』

 脳幹はかつての光景を思い起こす。
 そう昔の話ではない、彼の周りにいつも子供たちがいた頃のことだ。
 二人で木原らしくきな臭い話をしようとしても、少し油断すれはすぐに子供に囲まれていた日々。
 そして現役最前線の木原とか何とか、吠えてみたところで所詮彼の見た目は愛らしい犬っころである。
 出発進行の刑を処される度に、脳幹は枕を涙で濡らしたものだった。

 だが、この乾いた路地裏には一人と一匹しかいない。
 子供の喧しい声など、どこからも聞こえてはこない。
 それは加群が子供達から愛想を尽かされたとかそういうわけではなく、単に彼がそうしているからだろう。
 元々彼が本気で行方をくらませようとすれば、ただの子供などに補足出来るわけがないのだ。
 だから今ここは静かで、彼は人知れず成すべきことを成した。
 そしてこれからも、きっとそうするはずだ。



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