【ミリマス】松田亜利沙「同級生から、コクハクされちゃいました……」
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6:自縄自縛 5/9[sage saga]
2021/03/05(金) 18:05:25.18 ID:sro8Zma60
「すぐ、彼は男の子たちのグループに混ざるようになったんで……。席替えしてからは、話すこともあまりなくなっちゃいました。中三の時にクラスも別になりましたし。一緒の高校になってからも、会ったら挨拶ぐらいはしてましたけど……」

 細い指が、おしぼりの入っていたビニール袋をがさがさと弄んでいる。注文していたハニートーストがテーブルに届いたが、頼んだ当の本人は手をつけようとしなかった。

「……彼の言葉を聞いた瞬間、大声も出ないぐらい、びっくりしました。頭の中がぐちゃーってなっちゃったんです。もうお仕事に行かなきゃいけない時間だったからお返事を考えることもできなくて、咄嗟に出てきたのが、お断りの言葉でした」
「適切な対応だと思う。間違ったことはしてないよ」
「そう……ですよね。ありさ、間違ったことはしていませんよね」

 まだ口のついていなかったストローを、ようやく亜利沙が咥えた。半透明の筒を、バニラアイスの溶け込んだソーダがゆっくりと上っていく。「すごい雨」「靴がびしょびしょだよ」と話す二人組が、隣を通り過ぎていった。

「でも……『中学の頃から好きだった』って言われたんです。オーディションを受けようって思う前の、ただの個人だった松田亜利沙のことを……」
「……そうか」
「そのことを後から思い出したら、ありさ、『アイドルだから』に逃げて、自分の気持ちで答えてなかったのカモ、って思っちゃったんです……」

 亜利沙の声は揺らいでいた。ほんの一口分飲んだだけのクリームソーダは、すぐにテーブルへ戻されてしまった。横倒しだったチェリーが逆さまにひっくり返っている。

「コクハクって、きっと、すごく勇気のいることですよね。なのに、ありさが不誠実な答え方して、よけいに傷つけちゃったんじゃないかって思うと……ぐすっ……なんだか、苦しくなってきちゃったんです……」

 色白の頬を滴が伝った。

「もっと……ちゃんと向き合ってあげればよかった……!」

 絞り出すように口にすると、亜利沙は下を向いて肩を震わせ、目元を押さえてしまった。

 すすり泣く悲痛な声はぐっさりと胸を抉った。それは、亜利沙が思春期真っ只中の高校生であることを忘れ、アイドルとしての立場ばかりを気にしていた男への戒めでもあった。自分の見当違いに対する恥ずかしさと、亜利沙の抱えた辛さを思うと、舌が苦味で痺れた。何か口に入れたくてコーヒーを啜ると、更に渋味まで押し寄せてきた。


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