【ミリマス】松田亜利沙「同級生から、コクハクされちゃいました……」
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5:自縄自縛 4/9[sage saga]
2021/03/05(金) 18:04:50.93 ID:sro8Zma60
 社長から連れられて初めて入った彼と同じように、ルノアールに入った亜利沙は店内をキョロキョロ見渡していた。

「すごく、落ち着いた所ですね……。ありさ、スタバとかドトールとかは行きますけど……」
「学生さんが来るような所じゃないからな」

 コーヒーテーブルの周りには円形に並べられた椅子が四つ、ゆったりと並べられている。周囲に客のいない一角へ案内されて、先に座った亜利沙の斜めに腰を下ろす。商談で相手をリラックスさせ、話を有利に運ぶためのポジションだったが、担当アイドル相手に試したことはなかった。そうすることで亜利沙の内心にへばりつくものを剥ぎ取れれば、と彼は期待していたのだ。

 湯気のたつコーヒーのすぐ近くに、色鮮やかなクリームソーダが到着した。「それで」と彼が話を切り出そうとすると、途端に亜利沙の顔には緊張が走った。

「話せそうか?」

 ストローを口に含もうとして持ち上げられたグラスは、何もされないまま元のコースターに引き返していく。伊達眼鏡を外し、こほん、と小さく咳払いをして、亜利沙が口を開いた。

「ありさ……昨日、生まれて初めて……男の子にコクハクされたんです」
「……告白」

 ふかふかした椅子から思わず身を乗り出した。全身がビシッと張り詰める。プロデューサーとして、聞き逃すわけにはいかなかった。車で迎えに行くまさにその直前の出来事だったそうだ。

「中学の同級生だったんです。進学先がたまたま一緒で。まだ授業中だったのに、ありさが帰っていくのを見て、飛び出してきちゃったらしいんです。校舎の玄関の所で、『松田さん』って呼び止められて」
「放課後にでも言うつもりが慌てて……って感じだな」

 暖かい店内でクリームソーダのバニラアイスが溶けだし、少しずつソーダを濁らせていく。ヘタを天に向けていたチェリーが、バランスを崩して横倒しになった。

「どう返事したんだ?」
「……お断りしました。『ありさはアイドルだから、誰か一人だけとのお付き合いはできません、ごめんなさい』って」
「……そうか」

 上手な対応だったじゃないか、と思わず口から出かかったが、コーヒーの中にそれは流し込んだ。ぽつりぽつりと、いつもより1オクターブ低い声で話す亜利沙を前に、とてもそうは言えなかった。まだ飲み頃になっていなかったブラックコーヒーは、喉を焼くような熱さだった。

「どういう男の子なんだ?」
「中2の頃に転入してきた子なんです。席が隣だったから、学校のことがよく分からない時に、ちょっと教えてあげたりしたんです。買い物するのに便利な所とか、危なくて近寄らない方がいい所とかも」
「亜利沙らしい気配りだな。そこから仲良くなったりしたのか?」

 亜利沙は首を振った。


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