堀裕子「ぴーぴーかんかん?」
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33:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:00:49.97 ID:I9OmqLYR0
その瞬間、世界が呼吸を止めたようにそんな風に思えた。
窓から射す夕日が、流れる風が、刹那の時が、全てが俺のために時間を止めてくれているのだと
この瞬間の世界には二人しか存在していないのだと、そんな事を思わせてくれた。

それは実際に測ってしまえば二秒だとか、一秒だとか、あるいはもっと短い時間だったのかもしれないとも思う。
以下略 AAS



34:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:01:33.11 ID:I9OmqLYR0
グラウンドから吹いた熱い風は放課後のどこか涼しい雰囲気に紛れて、サイズの合わない俺の夏服だとか、
彼女によく似合う白いブラウスだとか、思春期の言いようのない漠然とした不安だとか
そう言うあの頃の俺に見えてた、広くて狭い世界の在り方の全てを通り過ぎて向こう側に消えて行った。

蝉の残響が聞こえる。
以下略 AAS



35:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:02:51.25 ID:I9OmqLYR0
5.七月

その日、自販機で飲み物は何を買ったんだとか、
別れ際に彼女と何を話したんだとか
そういう詳しい事はイマイチ俺自身にも覚えていなかったけれど
以下略 AAS



36:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:03:45.95 ID:I9OmqLYR0
「イツキさん顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
彼女がこちらを心配したような顔で覗き込んでくる。
「誰のせいでこうなってると思ってんだよ」
とは、そんな事は口が裂けても言えないし、そもそもそんな事を言う勇気は俺にはハナから備わっていない。

以下略 AAS



37:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:04:23.81 ID:I9OmqLYR0
「ほら真ん中のこの五円玉をよく見てください……イツキさんはだんだん眠くなーる……だんだん眠くなーる」
 彼女は五円玉振り子を小刻みに揺すってから馬鹿の一つ覚えみたいに「眠くなーる」と繰り返している。
恐らくこの感じだと普通に眠い人も彼女の声が気にかかって眠れないのではないだろうか。

「眠くなーる……眠くなーる……眠くな……ん……」
以下略 AAS



38:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:05:40.62 ID:I9OmqLYR0
「なぁユッコ、お前が寝てどうする」
「……はっ……私としたことが!」
 適当に声をかけて彼女を起こす。
彼女の寝顔を見続けるのはどこか犯罪じみて思えたし、俺の心臓が持ちそうにないと思えたから。

以下略 AAS



39:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:06:44.59 ID:I9OmqLYR0
「なぁユッコって超能力のこと信じてる?」
俺がその気まずさを打開しようと彼女に振った言葉はそんな感じだったと思う。
急に何言ってるんだコイツって思われたと思う。

何となく文字足らずになってしまって言葉を付け加える。
以下略 AAS



40:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:07:13.63 ID:I9OmqLYR0
「ふふっ」
 慌てふためく俺の姿が面白かったのか彼女は少しはにかんで笑った。
「はい!如何にも私はサイキックを信じています!」
「サイキックだけじゃなくて、UFOだとか宇宙人だとかネッシーだとか……ビックフットだとか!」
「そういう物も全部!」
以下略 AAS



41:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:07:56.17 ID:I9OmqLYR0
「でも……冷静に考えてみれば……そんな物は居ないのかもしれません
UFOは誰かの悪ふざけかもしれないし、ビックフットだって着ぐるみかもしれません」

「でも……私は思うんです!きっと信じている方が楽しいんだって!」

以下略 AAS



42:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:08:41.15 ID:I9OmqLYR0
「もしかしたらバッドエンドの物語がハッピーエンドに変わっちゃうような、そんな映画みたいな奇跡だって叶えられるかもしれません!」
「それに私とイツキさんが出会えたことだって、もしかしたら既に奇跡だったかもしれませんよ!」



43:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:09:06.69 ID:I9OmqLYR0
……何と言うか、俺には彼女の紡いだその言葉はあまりにも善政的でとても眩しくて、
まるで穢れだなんて何も知らない無垢な赤ん坊のように、あるいは清濁の全てを呑み込んで光も闇も
その全てを内包するような柔らかさだとか、大きさだとかそう言った物を感じさせた。




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