16:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:55:09.38 ID:u50g9+A20
私はゆっくりと踊る速度を落として、やがて止まる。
文香から、手を離した。
「ほら、文香も綺麗に踊れるでしょ?」
「奏さんのリードがお上手だからです」
「嬉しいこと言ってくれるわね。私もチャレンジした甲斐、有ったみたい」
「……もしかして、奏さんもああいう踊りは初めてなんですか?」
「生憎、ミュージカルは見る専門だから。だから、観客がいなくて良かったわ、本当に」
もし客観的に私達をみていたのなら、ミュージカル映画というより、滑稽なコメディだっただろう。それこそ、あまりの酷さに私の体が強張ってしまう位。でも幸いにして、私達の踊りは誰にも見られていない。
見られていないなら、取り繕わなくて済むから、楽だ。
「どう、リラックスして踊れたでしょ?」
「ええ、なんとなくですけど……」
「それなら、もう一回やってみて」
文香は戸惑いながら、私の手を握ろうとしてくる。
「社交ダンスはもうおしまい」
「あ……」
カッと顔が赤くなった文香。クスクスと笑ってから、私はテーブルに座った。
今度はあくまで、観客として。
「ほら、やってみて」
「……はい」
胸に手を置きながら文香は小さく息をつく。まだ、少し緊張してる。
注意しようと思ったけど、必要はなかった。文香はもう一度息をついた。深く、自分を落ち着かせるように。
そうして、ステップを踏み出した。
ステップは力が抜けていたが、やっぱり上手いとは言えない。力を抜いてやるからこそ、体の動かし方に戸惑っているのも分かった。
それでも、今までより自然に踊れていた。
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