速水奏「文、奏でる」【モバマスSS】
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17:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 21:00:35.61 ID:u50g9+A20


 私は拍手をしようとして、別の人に役目を取られた。

 背後からの拍手の音に、私は顔を向ける。

 パンツスーツ姿の女性。

 プロデューサーだった。


「お見事、やれば出来るじゃん文香」

「プ、プロデューサーさん……」


 文香は恥ずかしさがぶり返してきたのか、顔が真っ赤になった。

 私は体を捻らせて、背もたれに肘をついて伺う様に頭を屈めた。


「覗き見? 良い趣味とは言えないんじゃない、プロデューサー?」

「アタシはプロデューサーなんだから。見る権利はあるでしょ」

「どうかしら、優待券を持ってないなら、窓口でチケットを買って」

「モギリがいるようには見えないけど?」


 私が手を差し出す。キョトンとしたプロデューサーだったけど、短く笑った。


「今度からネットで予約しとく」


 うんざりした様子のプロデューサーに、私はにっこり笑顔を作った。

 プロデューサーは仕事以外の話をあまりしたがらない。興味が無い……というより、苦手という感じだ。

 そんなプロデューサーだから、私もついからかってしまう。


「冗談はもういい? これからのスケジュールについてなんだけど」

「ええ」


 そもそも私たちが残っていたのは、プロデューサーからその話があるからだ。メールなんかでも済みそうだけど、会って説明するのが彼女の主義。

 雑談は得意じゃないけど、それぞれの仕事に対しては親身に応じる。そう言う意味では古風な人だった。

 プロデューサーはまずは私に書類を渡して、次に文香に。



 でもプロデューサーは文香に渡すのを、少し躊躇した。


「あの、プロデューサーさん?」

「……いえ。ごめんなさい」


 謝りながら、改めて文香に渡す。


「どうかしましたか、プロデューサーさん」

「……一応、来月までの予定が書かれているけど……もしかしたら、少し変わるかも」

「それは……?」

「もうちょっと、色々早めてもいいかもってこと」

「えっ」


 文香は驚きに、前髪の奥の瞳が大きく膨らんでいた。

 私が指導した甲斐は、あったようだ。





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