速水奏「文、奏でる」【モバマスSS】
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19:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 21:06:22.57 ID:u50g9+A20




 文香と事務所を出た時には、周囲は夜が強くなっていた。

 ギラギラとした都会のネオンはいよいよ鋭くなって、綺麗を飛び越えてチープなCG加工のようだった。

 薄い雨は続いていて、二人で傘をさして夜の街を歩き出す。昼ごろよりも、気温が下がっている。


 少し、肌寒かった。


「ホントに、凄いです。奏さん」


 冷えた空気に暖かな文香の音がこぼれて、私の耳に届く。



 文香の声は、優しい木漏れ日のような響きがある。


「もう、デビューだなんて」

「そうかしら。アイドルとして売り出したい旬を考えたら、遅いぐらいじゃない?」

「そう言う話になると、奏さんより年上の私は……」


 そうだった。当たり前に隣にいてくれるから忘れがちだけど、文香の方が2つ年上だった。


「勘違いしないで。その人の年齢そのものは問題じゃなくて。その人が輝いて見える瞬間のこと。私はそれが、たまたま文香より早い時期に来ただけだから」

「それは奏さんが魅力的だからです」


 その言葉の裏には、小さなとげがあった。

 でもそれは、私に向けられたものではなく、文香自身へのとげだった。


「でも、作家でも色々な人がいるでしょ? 若くしてデビューした人や、逆に年老いてからデビューした人」


 私は自分の拙い知識で、それぞれの例を挙げてみる。


「彼らの書く作品には、優劣なんて存在する?」

「そんな訳がありません。どちらも素晴らしい作家です。確かに活躍した年代や方向性は違いますが……優劣なんてとても」


「そういうこと。ただ、しかるべき魅力が発見される瞬間は人によって違って、私は今で、文香も今。年齢は関係ないの。それで、たまたま私の方が先にデビューできるかもしれないってだけ」






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