速水奏「文、奏でる」【モバマスSS】
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5:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:31:55.24 ID:u50g9+A20


 今度は読んでいなかったのだろう。ギュッと胸の前で本を抱いた姿で彼女は私を見て立ち尽くしていた。


 先ほど、一階で見せた奇妙な挙動の理由に合点が言った。

 彼女は、一階に降りるためにエレベーターに乗っていたんじゃない。

 一階から、この階にやってくる為に、エレベーターに乗っていたのだ。

 多分、本を読むのに夢中になり過ぎていたのだろう、だから目的の階でエレベーターが止まってもそのまま読み続けて、そして再び、一階に戻ってきてしまったのだ。

 失態を隠す為にわざわざ一度降りてから、また改めてこの階のボタンを押したと。

 彼女の唯一の誤算は、私が同じ階で降りていたこと。


 呆然としていた彼女の顔が、段々と赤くなるのが分かって、私は思わず口元が緩んだ。

 そんな私の変化に、彼女は益々顔を赤くしていった。



「ねえ、第三会議室がどこか、分かるかしら?」

「第三会議室……ですか?」


 キョトンとした様子の彼女は、おずおずと頷いた。


「えっと、はい……」

「良かったら、教えてくれない? 来るのは初めてなの」

「それなら……案内します。丁度、私もそちらに向かう所だったので」



 それが文香――鷺沢文香との出会いだった。






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