【ぼざろSS】あなたの温度
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2023/01/07(土) 13:51:20.71 ID:FRtckmfc0
 駅までもう少しというところで、ポケットのスマホが震えた。メッセージではなく着信だった。慌てて手に取ると、そこには父親からの着信であることを示す画面が。なるべく人の少ない静かな路地に小走りで逃げ込み、ひとりは電話に応じた。
「おっ、出た出た。もしもし、ひとり?」
「え……お父さん、どしたの」
「今どこだ?まだ電車乗ってないか?」
「うん……もう乗るとこだけど」
「ああ待って、まだ乗らない方がいいかもしれない。実はな……」
 ポケットの振動がメッセージではなく着信だとわかったときからなんとなく嫌な予感はしていたが、案の定だった。
 父親の話によると、妹のふたりが熱を出したらしい。

「朝はまだ元気だったんだけど、昼過ぎくらいに先生から電話があってな。明らかに熱っぽいってんで、今日は早引けしたんだ」
「そうなんだ……」
「それでほら、ふたりの幼稚園でも、例の流行り病にかかっちゃった子が結構いるだろ? ふたりももしかしたら貰ってきちゃったのかもしれないから、明日検査に行くんだよ」
「……」
 この時点でひとりは、なんとなく先の展開を察してしまった。ただの風邪ならメッセージのひとつふたつで連絡は済む。珍しく電話するほどの要件があるとすれば、それなりの話を持ち出されるはずだ。
「父さんたちは看病もしなきゃいけないからもう仕方ないんだけど、ひとりは確か、大事な本番が近いんだろ? もしもここでかかっちゃったら、結束バンドのみんなに大変なご迷惑をおかけすることにかもしれないと思ってさ」
「……そう、だね」
「だから急な話で申し訳ないけど、今日はこっちに帰ってこないで、誰かの家に泊まらせてもらったりした方がいいんじゃないか?」
「っ!」
「明日の検査結果次第だけど、ひとりにうつらないような態勢を作れるようこっちも準備しておくからさ、とりあえず今日のところは……」

 それから先の父親の話は、ひとりの耳を素通りしていった。
 こんな夜遅くに、こんなにいきなり、誰かの家に泊めてもらうというような真似が、この娘にできると本気で思っているのだろうか。


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