【ぼざろSS】あなたの温度
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3:名無しNIPPER[sage saga]
2023/01/07(土) 13:52:42.68 ID:FRtckmfc0
「この前遊びに来てくれた子たちを見て思ったんだ。あの子たちとは、きっとそれくらい仲よくなれたんだろうなって。まだ練習終わったばかりなら、話もしやすいだろ?」
(無理無理無理……)
 ひとりの脳内に負のビジョンが思い浮かぶ。
「えっ、そんな急に言われても……」と戸惑う虹夏。「私、人を泊めたりするの無理なんで」ときっぱり断るリョウ。「うちもちょっと……ごめんなさいっ」と愛想笑いを浮かべる郁代。みんなから断られ、絶望に打ちひしがれるひとり。みんなと呼吸のあった演奏もできなくなり、本番は大失敗……結束バンドはこの不和をきっかけに解散……
「ひぃぃぃああぁぁぁぁ!!!」
「ひとり!? 大丈夫か!?」
「あっ、あぁえっと……なんだっけ……」
「だから、今日は誰かお友達のおうちに泊めてもらった方がいいんじゃないかって。今最優先なのは、結束バンドのみんなが本番を無事に迎えることだと思うからさ」
「うん……」
「大丈夫そうか? まあ難しいようなら、こっちに戻ってきてもいいけど……」
「……」
 ここで「難しいです」「無理です」と素直に言えたなら、どれだけよかったか。
 心でそう思っていても、なぜか強がって正反対の言葉が口をついて出てしまうのが、後藤ひとりの一番厄介な部分だ。
「た、頼んでみます……たぶん大丈夫だと思う……」
「おおそうか! よかったよかった。それじゃあこっちのことは父さんたちに任せていいから、お泊まり楽しんでおいで」
「へへへ、はーい……」

 通話を切った瞬間、全身の力が抜け、思わず冷え切ったコンクリートに膝をつきそうになった。
 とんでもない事態になってしまった。こんな時間から急に誰かの家に泊めてもらうなんてできるわけがない。
 LINEを開き、結束バンドのトークルームに並ぶ三人のアイコンを見る。今のひとりが頼れるのはこの三人だけだが、先ほど脳内をよぎった負のビジョンがあながち間違っているとも思えなかった。特に今日の練習後の雰囲気を思い出すと、余計にそんな気がしてしまう。
 外泊なんてハードルの高いこと、やはり自分には難しい。スマホをポケットにしまってため息をつく。


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