過去ログ - ビッチ・2
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16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/02/20(水) 00:12:20.21 ID:23PR5ugqo

 奈緒を引き取った一時期、怜菜の意図に不安を覚えて博人と言い争いをしてしまったこ
ともあったけど、それがかえってよかったのかもしれない。お互いに不安や不満を吐き出
したことによって、麻季の不安は収まった。それにそれが端緒になって、二人の理解も深
まり和解することができた。博人は再び麻季を抱けるようにもなった。こうして夫婦の危
機は収まったのだ。

 容姿と性格だけを取り上げてみれば奈緒は本当に可愛らしい女の子だった。幸か不幸か
麻季のお腹を痛めた子どもは男の子だったから、これまで娘が自分の手元にいることなん
て思ったこともなかった。そうしてほとんんど自分が産んだのと同じように幼い少女を育
てているとぼんやりとだけどこの子への母親めいた感情まで浮かんでくるようだった。

 心が安定し余裕を持って眺めてみると、することなすこと奈緒の仕草は全て可愛い。麻
季は一時期、怜菜の博人への想いを忘れるくらい奈緒に夢中になった。奈緒を引き取って
一緒に暮らし出した頃から奈緒人は急にしっかりとした子になった。どちらかというと甘
えん坊な息子のことが麻季は大好きだったのだけれど、その息子はいつのまにか母親離れ
して、今では麻季が助かるほど奈緒の面倒をみてくれるようになった。

 それは幸せな日々だった。もう鈴木先輩も亡くなった怜菜さえも麻季と博人を脅かすこ
とはないのだ。博人が帰宅すると麻季と二人の子どもは待ちかねたようにそろって玄関で
彼を出迎える。博人に抱きつきたかったのは麻季も一緒だったけど、最近ではその権利は
まだ幼い奈緒に奪われがちだった。そういうとき奈緒を抱き上げる博人のことを麻季は怜
菜のことなんて微塵も思い出さずに微笑んで眺めていられた。奈緒人も父親に抱きつく権
利を奈緒には喜んで譲ったけれど、そういうとき彼は珍しく麻季に甘えるように抱きつい
た。それで麻季はこのときだけは母親離れをした奈緒人を思う存分に抱きしめることがで
きたのだ。

 これ以上望むことはない。怜菜と博人の関係を、誰を傷つけることなく消化し昇華でき
たのだ。奈緒を幸せな家庭に加えることによって。あの声は今回も正しいアドバイスを彼
女にしてくれたようだった。

 そういうわけで満足し充足した生活を送ることができた麻季だけど、奈緒の名前につい
て悩むことは未だにあった。博人が奈緒と呼ぶ声。奈緒人が奈緒と呼びかける声。何より
も自分が奈緒に呼びかける際に感じる逡巡に彼女は悩むことがあったのだ。

 今が幸せなのでそんなことを考える必要はない。麻季は自分に言い聞かせた。そして博
人が家にいるときはそんな考えは少しも脳裏をよぎることはなかったけど、奈緒人と奈緒
を幼稚園の送迎バスに送り出して一人になったとき、その考えはしばしば彼女の心を蝕み
出した。


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