1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/09/17(水) 03:48:45.33 ID:zcM9nRFH0
二度目の全国ツアーを終え、二日間に及ぶ打ち上げの翌朝、
後部座席の千早にどう話を切り出したものかと俺は考えあぐねていた。
……だが、言いかたはどうあれ、伝えなければいけない内容は変わらない。
「……なあ」
「なんですか」
まだ疲れの残った声で、千早が応える。
「千早はさ、もっと多くの人に自分の歌を聞いてもらいたいとは思わないか」
「そんなの、当たり前じゃないですか」
間髪を入れない返事。
「だよな……」
「はい」
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 03:51:17.31 ID:zcM9nRFH0
「俺も、千早の歌をもっと多くの人に聞いてもらいたいと思ってる」
「……」
「千早の声には、言葉が伝わらない人たちすら魅了してしまうような力がある」
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2014/09/17(水) 03:52:46.56 ID:zcM9nRFH0
「……実は、社長の知り合いにアメリカで音楽プロデューサーをしている人がいるんだが」
「……はい」
これだけでもう、話の大筋を察知したのだろう。
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2014/09/17(水) 03:54:21.50 ID:zcM9nRFH0
俺がその人に初めて会ったのはちょうどこのツアーが始まる前。
「社長の紹介でな」
まったく……あの人の人脈はいったいどうなってるんだか……
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2014/09/17(水) 03:55:51.91 ID:zcM9nRFH0
「今アメリカに来てくれるなら、成功させる自信はあるけど……」
「……」
「一年後じゃわからない」
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2014/09/17(水) 03:57:38.35 ID:zcM9nRFH0
「……」
「安心しろよ、向こうだってそれを承諾してくれたんだから」
つまり、あちらさんも千早の実力は疑ってないってことだ。
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2014/09/17(水) 03:59:43.96 ID:zcM9nRFH0
「住む場所や、現地のプロダクションは、その人が準備してくれる手はずになってる」
「現地のプロダクション……」
「ああ、まあ日本のアイドルプロダクションとはかなりシステムが違うみたいだが」
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2014/09/17(水) 04:00:47.42 ID:zcM9nRFH0
「……プロデューサーは……」
「……」
「どう……思ってるんですか……」
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2014/09/17(水) 04:01:43.98 ID:zcM9nRFH0
待ち合わせ場所に指定された噴水の縁に腰掛けながら、
さっきから何度も腕時計を確認しているのだが……
「時間、聞き間違えたかな……」
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:03:08.18 ID:zcM9nRFH0
「……」
オフの間に千早がなにをしていたのかについて、俺はほとんどなにも知らない。
千早と仲の良いアイドル達から聞こえてきたのは、
連絡は取れるが、会おうとはしてくれないという話。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:04:07.84 ID:zcM9nRFH0
「……デューサー」
聞き慣れた声が耳を掠め、俺は振り向く。
「千早……」
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2014/09/17(水) 04:05:36.29 ID:zcM9nRFH0
「ああ……ここかぁ……」
言われるがままに目的地を入力し、ナビの案内で辿り着いたのは郊外にある遊園地。
「懐かしいなあ」
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2014/09/17(水) 04:07:41.99 ID:zcM9nRFH0
「で、どうするの」
「なにか食べましょうか」
「ああ、もう昼過ぎかあ」
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:09:00.24 ID:zcM9nRFH0
「それで……どこから回るの」
「いえ……」
「……」
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:11:18.50 ID:zcM9nRFH0
「……あの観覧車で最後にしようか」
「はい」
もう、日は随分傾いている。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:12:50.65 ID:zcM9nRFH0
「今日、ここに来た理由……なんとなくわかるよ」
「……」
「あそこだよな……」
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:14:00.65 ID:zcM9nRFH0
「よく、頑張ったな」
舞台裏に帰ってきた千早の涙腺は、俺のひと言で一気に崩壊した。
俺は痛感した、アイドルを笑顔にするのも泣かせるのもプロデューサー次第なのだ。
千早の知名度や、ここの立地を考えれば、そもそも賭けにすらなっていない。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:15:05.55 ID:zcM9nRFH0
「……あのあとも結局、失敗だらけでしたけどね」
「そうだったな……」
「でも、あの時のプロデューサの言葉で、私もプロデューサーを信じてみる気になったんです」
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:16:43.46 ID:zcM9nRFH0
「あの……プロデューサー……」
「なに」
「もし、私がアメリカに行って、成功して、世界的なアーティストになれたとしたら……」
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:18:41.88 ID:zcM9nRFH0
「……私は、多分無理です」
「……なにが」
「だって……私がここまで頑張って来れたのは……」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[sage]
2014/09/17(水) 04:19:59.70 ID:zcM9nRFH0
「ねえ、プロデューサー」
「……ん」
「わたしはまだ、765プロのアイドルですよね」
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