過去ログ - 梓「ミッドナイト・エスケープ」
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18: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/04/04(土) 06:14:37.36 ID:JO/9j/TF0
 そしてお姉ちゃんがこの家を出て大学の寮へ出発する前の日の夜。
お姉ちゃんは私の部屋へ「一緒に寝てもいい?」とやってきました。
 私はどくん、と跳ねた心と最後の夜だという寂しさを抑えて、
「いいよ、入って?」というので精一杯でした。

 迎え入れた一つのベッドの中で、私たちはいろんな話をしました。
 小さい頃のこと、小学校の時のこと、中学校の時のこと、そして、桜高でのこの3年間のこと。
軽音部の皆さんのこと、梓ちゃんのこと。ギー太のこと、音楽のこと、それから、私のこと。

 たくさんたくさん、ありがとうを言ってくれました。

 「憂が妹でよかった、憂と一緒にいられてよかった」と、
最近よく見せる寂しそうで、それでいてどこか悲しそうな笑顔で何度も言ってくれました。
 それからもいつもは早寝のお姉ちゃんが、まだ寝たくないと、
駄々をこねるようにたくさんたくさん、話してくれていました。
 私はもう、その気持ちや言葉に嬉しいような、寂しいような気持ちになってしまって、
そしてそれと同じくらい、お姉ちゃんに恋をしてしまったことが申し訳なくて……涙ぐんでいました。
そんな様子を気付かれないよう、欠伸をかみ殺すふりをしてみたり、鼻をかんでみたり。
 ちゃんと誤魔化せているかな、とお姉ちゃんの様子を見ると−−
なんとお姉ちゃんも同じように、涙ぐんでいるのを必死に誤魔化しています。
 その後言葉は途切れて、涙を堪えるような声だけが、静かな部屋の中を支配していました。

 そうして、しばらくした後−−。

「似た者姉妹だね……私たち……っ」

 そう、涙声のお姉ちゃんは同じような私と目が合うと、鼻をすすりながら言いました。
そして涙が溢れるのを、顔を歪ませながら堪えて、続けます。

「なんで……っ! わたしたち……姉妹で生まれちゃったのかなぁ……っ!」

「お、ねえちゃん……!」

 そうか……お姉ちゃんも、“同じ”だったんだ。

 私が一人で声を殺して泣いている時も、想いをひた隠しにしている時も。
 お姉ちゃんだって、妹の私に赦されない想いを抱いて。
同じように、隠して、声を殺して、傷ついていたんだ……。

 そして、私の想いにも、とっくに気付いていたんだ。

 お姉ちゃんは知っていながら隠して、私は知られないよう隠した。
 私が“お姉ちゃんにだけは気付かれないよう”想っていたのと同じように、
お姉ちゃんは“私にだけは悟られないよう”想ってくれていたんだ。

 なんて、優しくて愛おしいんだろう……。

 そんな事を思っていると、目の前のお姉ちゃんはもう誤魔化しきれないくらいに、涙を流し始めました。

 私とよく似た泣き顔をして、同じような、素振りをして。

 私たちは、この何年かを、きっとほとんど同じ気持ちで過ごしていたのです。
 そしてそんな日々をお姉ちゃんは軽音部の皆さんに救われ、私は梓ちゃんと純ちゃんに救われた。

「似た者姉妹」

 その言葉が、たぶん、私たちのすべてだったのです。

 そんなお姉ちゃんを抱きしめていると、私も涙でぐしゃぐしゃになっていました。

「ほんとだね……似た者姉妹っ……だね」

 それだけをやっとの思いで言うと、二人で顔を見合わせて、笑いました。
 泣きながら、たくさん笑いました。
 そうしていると、やがて解り始めたのです。

 今、この瞬間が。この夜が。

 私たち姉妹の−−卒業式なんだということに。


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