過去ログ - 梓「ミッドナイト・エスケープ」
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19: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/04/04(土) 06:21:01.72 ID:JO/9j/TF0
 しばらくして流した涙が赤い痕になって残り始めた頃−−
私の胸に抱きしめられていたお姉ちゃんは、もう涙声を隠さないで意を決したように、言いました。

「ねぇ、憂……キスしたことある?」

 私は一瞬、戸惑いましたが−−「ううん、ないよ。お姉ちゃんは?」
とだけ返しました。真意はすぐに、わかりました。
 お姉ちゃんは、それから、いつもの柔らかい声ではない、強い意志を持った声で話し始めました。

「私もしたことないよ。だからね、憂に、私の初めてを……あげたいの。
私たち……姉妹だから、ここから先には、もう行けないけど……だけど! 
私の初めては……初めてだけは、もらってほしい……」

 その言葉で、途切れていた涙がまた溢れ出しました。

 聴いていた私も、話したお姉ちゃんも−−とめどなく溢れて、
思わず抱きしめていた両手に、ぎゅっと強く力がこもりました。

「うん……いいよ……っ、お姉ちゃん。私もっ……
私の初めても……っ。お姉ちゃんに、もらってほしい……!」

 その言葉をきっかけに、私の胸元にいたお姉ちゃんは私の眼前にやって来て、
涙でぐしゃぐしゃになりながらにっこり、笑います。
 つられて私も、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、にっこり、笑いました。

「同じ顔で……へんなの……っ!」

 そう言って、お姉ちゃんは両手で私の頬を挟み込みます。
その手は震えて、今にも崩れ落ちそうでした。

 それじゃ、いくよ−−そう言って、私たちは最初で最後のキスをしました。

 そのひと時に、私たちの想いは駆け巡ります。ふたりが恋し合った一瞬を、
これから訪れる姉妹としての永遠に託すかのように。

 溢れる涙でしょっぱい、哀しくて、優しい−−それが私たちのファーストキスでした。

 窓の外には、もう朝が、待っていました。


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