9: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/04/01(水) 10:54:24.97 ID:w+Y5NOKn0
「ねぇ、憂。唯先輩には、二人で話そうね。私そばにいるから、ふたりで、ちゃんと」
「うん……そうする。ありがとう、梓ちゃん。私うまく……伝えられるかな……」
憂の表情が曇る。無理もない、だけど平気だよ。私がいる。
「大丈夫、憂。唯先輩ならきっとわかってくれる。
いつも憂の幸せ願ってくれてる人だから、だから、大丈夫」
「ありがとう……梓ちゃん……」
憂は泣いてはいなかった。少し不安そうにしているけど、きっと、大丈夫。
確かに決心して、前に歩き出そうとしている−−そう思える表情だった。
あと、ひとつだけ伝えたら、今日は眠ろう。そう思った私は
再び隣で横になっている憂の瞳を見つめて切り出した。
「憂、約束してほしいの。これから先、“私なんか”って言うの、絶対禁止ね。
憂は私が選んだ世界で一番の人だから。だから、それだけは、絶対ダメ」
憂はじっと、私から視線を逸らさないように瞬きも忘れて、私の言葉に耳を傾けてくれた。
やがて憂はまた涙と笑顔をいっぱいにした表情で、私を見つめる。
「うんっ……! ありがとう……梓ちゃん……!」
5月の終わりの静かな青い夜。こうしてふたりは微笑み合っては泣いて、
笑うように泣きながら、今、ここにまた生まれた。
そして、それから、真夜中の海を泳ぎだすように魚になった後、
白み始めた輪郭を抱きしめあって眠りにつく。
おやすみ、憂。また明日ね。
そして朝、目覚めたら、ふたりでまたこの家を出て、いつも通りを始めようよ。
もう私たちは、ふたりでどこへだって行けるのだから。
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