過去ログ - 【艦これ】「私は今日も待っている」
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1:名無しNIPPER[saga sage]
2015/10/29(木) 13:35:48.93 ID:Ryjud2+Fo
ss初投稿です

注意
・ただの思いつきでかなり短いです
・独自設定、オリキャラあり
・文学オマージュ作品

それでよければ見てってください

SSWiki : ss.vip2ch.com



2:名無しNIPPER[saga]
2015/10/29(木) 13:41:29.02 ID:Ryjud2+Fo
横須賀港にほど近い小さな公園で、私は毎日待っている。何かを……待っている。

 毎朝公園を一周し、夕方になるまで、海沿いに置かれた、キラキラと輝く海と同じ青いベンチに腰をおろし、被っていた帽子を膝に乗せ、ぼんやり海を眺める。

 あまり人が居ない。まるでこの世界に私だけしかいないような錯覚にも陥るくらいに波風と、時たまウミネコの鳴き声のみが響くこの公園。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2015/10/29(木) 13:49:16.23 ID:Ryjud2+Fo
『隣、失礼します』

ベンチに腰掛海をぼうっと眺める私に、可愛らしく、どこか懐かしさを感じさせる声で問いかけ、隣に座る。とても発音の良い英語。日本育ちの日本人になるのだろうが生まれは英国なので、英語も日本語もどちらもわかる。
そんな私でも見事だと思う綺麗な発音。きっと、普段から英語を聞きなれない方にはまず聞き取ることができないだろう。

以下略



4:名無しNIPPER[sage]
2015/10/29(木) 14:00:06.67 ID:Ryjud2+Fo
いや……私の待っているものは、人間とは呼べないかも知れない。
私は、人間を好きではない。いいや、正直言うと、好きや嫌いなどの気持ちがまだよく……いや、少ししかわからない。

人と顔を合せて、お変りありませんか、寒くなりました、などとまるで仮面を被っているような笑顔で挨拶を、いい加減に言っている人間を見ると、何と言えばいいのか、生き辛くないのかと疑問に思い、とても……モヤモヤする。

以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2015/10/29(木) 14:30:09.69 ID:Ryjud2+Fo
 世の中の人間というものは、牽制のような挨拶をして、互いの顔色を窺い、そうして本心を隠して、一生を送るものなのだろうか?

 いや、少なくとも“あの方”は違った。

 しかし、他の人たちはあの方と同じではない。
以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2015/10/29(木) 18:20:37.02 ID:Ryjud2+Fo
けれども、彼女らが――――深海棲艦達が現れ、戦いが始まり、周囲がひどく緊張してから、私だけがあの場で毎日ぼんやりしていることが、何だか不安で、ちっとも落ちつかなくなった。

身を粉にして戦って、直接に、役に立ちたかった。しかし、私は、私の今までの生活に、時の流れの速さに自信を失ってしまった。

あの場に黙って座って居れない思いで、けれど、海に出たところで、私はただの足手まといだ。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2015/10/29(木) 23:50:17.39 ID:Ryjud2+Fo
誰かが、ひょいと私を呼びに現われたら。という期待と、現われたら困る、どうしようという恐怖。
しかし、現われた時には仕方が無い、その人に私を使わせよう、という決意。

私という存在が……今の何物でもない私という存在が、兵器か、人間であるか決まってしまう、あきらめに似た覚悟と、その他さまざまな空想などが、異様にからみ合い、息苦しくなり、体が震える。

以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2015/10/30(金) 19:27:31.50 ID:P9UkEcMPo
ああ……私はいったい、何を待っているのだろう。

ひょっとしたら、私は大変弱い存在なのかも知れない。
過去の大戦で、あの方が乗っていたから、それだけで私は今も丁重にここに住まわせてもらっている。

以下略



9:名無しNIPPER[sage]
2015/10/30(金) 19:58:00.44 ID:P9UkEcMPo
私は、なにを待っているのだろう……? はっきりしたビジョンは何もない。ただ、もやもやしている。

けれども、私は待っている。彼女達との戦争が始まってから、毎日、毎日、散歩の後に、この青いベンチに腰をかけて、待っている。

そして、今、この子が、ひとり、笑って私に声を掛けた。
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2015/10/31(土) 21:55:58.07 ID:sfUnMhAio
姉様方? ちがう。

この子? ちがいます。

友人? ……ああ、怖い。
以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2015/10/31(土) 23:33:09.64 ID:sfUnMhAio
悩める私に話しかける可愛らしい声。

『ええ。ごめんなさいね。少し……考え事をしていたの』

私も英語で返す。ここは日本で、私達も日本国籍なのに、英語と言うのは少しおかしい気もしないでもないが、気にはしない。大戦争中でもあるまいし、この子とは、この言語で話したい。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2015/11/01(日) 01:37:16.19 ID:78H0hnu1o
そうして、彼女は私の名を呼んだ。戦艦三笠。それが私の名だ。かつて連合艦隊旗艦を任され、あの方――――東郷平八郎が乗った艦として世間には知られ、今は記念艦としてこの三笠公園に“体”が保存されている。

『ええ、久しぶりね。金剛』

私も彼女の名を呼ぶ。世界一硬い鉱物の和名を持つ、その名に相応しい、力強さ、輝きを持つ少女になったものだ……実は○○歳だが。
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2015/11/02(月) 20:15:05.18 ID:WyNYRjxco
少しして、今度は私が口を開く。

『……何をしにきたんだ?』

結局、私も牽制のように聞いてしまった。これでは私が見ていて悲しくなっていた人々と同じになってしまった。
以下略



14:名無しNIPPER[sage]
2015/11/03(火) 23:09:24.85 ID:qvusO1Oko
金剛型は最前線で活躍していると見回りの兵が喋っていたのを覚えていた。

そんな前線にいる艦が本当にそれだけでここに来るのか? 軍はそれを許したのか?

『念のために言っておきますと、特別な遠征の帰り……と言う建前です。議事堂で提督に代わり、直接長門が戦果報告を……と。その帰りについでに寄らせてもらいました』
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2015/11/04(水) 00:19:15.87 ID:dWV6/RuUo
私はそう言われハッとした。

自分でも散々言っていたではないか。“待っている”と。

待つと言う選択をしていたではないか。
以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2015/11/04(水) 00:34:02.69 ID:dWV6/RuUo
「斬る!!」

「ちょっ、刀具現化なんてどうやったデース!? 艦娘なら艤装展開してくだサイ!?」

私はまだ艦娘にはなってないぞ、憑喪神のような存在ではあるだろが。
以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2015/11/04(水) 00:46:59.45 ID:dWV6/RuUo
私はおかしくなり、大きな声で笑う。

こんなに笑うのは久々だ。涙まで出てきた。

私は今まで何を悩んでいたのだろう。
以下略



18:名無しNIPPER[sage]
2015/11/04(水) 00:55:18.05 ID:dWV6/RuUo
なごやかな、ぱっと明るい、素晴らしいものを私は待っている。

「また来マス」と、最後に少し片言の日本語でそう言いながら帰って言った。……そういえば、あの子の片言はいつになったら直るのだろう?

次に来たときには、その辺りについても追求してやろうかと考えながら、私は自身の体に帰る。
以下略



19:名無しNIPPER[sage]
2015/11/04(水) 00:56:40.98 ID:neRwQKkg0
期待


20:名無しNIPPER[saga]
2015/11/04(水) 00:58:07.00 ID:dWV6/RuUo
>>18訂正
『ああ、待つよ。私はいつまでも待つ。金剛、君達がこの海に平和を取り戻し、また笑顔を見せに来ることを』

そうだ、私が待っているのは戦争なんて、殺伐で、暗くて、愚かなものではない。

以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2015/11/04(水) 01:01:50.17 ID:dWV6/RuUo
私はここで待っている。胸を躍らせて待っているのだ。この、何処までも広がる海と蒼穹を眺め、ウミネコ達の鳴き声を聞きながら、まだか、まだか、と一心に一心に待っているのだ。
だから――――私を置いていかないでくれ。

毎日、毎日、このベンチに座り、皆を待っていることしかできない私を笑わずに、どうか、笑顔で迎えに来て欲しい。会いに来て欲しい。

以下略



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