過去ログ - 『聖タチバナ』野球しようよ『パワプロss』
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3: ◆ugYRSBAsKU[saga]
2016/04/19(火) 11:41:28.68 ID:rLrtqJ1V0
0/一年目

 家から徒歩で二、三分だからという理由で選んだ『聖タチバナ学園』。学園は私立ということもあって、学内の設備はとにかく充実していた。少し前まで通っていた中学と比べれば雲泥の差だった。随分と適当な理由で進路を決めたものだが、こうやって見ると結構よかった選択じゃないかと思われる。校内で見かける女生徒もそれはそれは……いいものである。
 しかし、問題の発生。
 入学当初から立てていた計画は、あっさりと白紙に戻った。
 これから三年間の学園生活で根幹となる筈だったものはここにはなぜか存在せず、期待されていた我々の戦いの日々は、肝心の時間を迎えた当日、大方の予想を裏切ってそうそうの終わりを告げたのである。

「―――いや、見事なまでの手のひら返しだ。ここまでくるといっそ清々しいけど、どう思う?」

 放課後のこと。
 これから一年は使うであろう教室内で、入学してから手渡された学内資料を机に開き、悠々とした調子で俺はそう訊ねた。
 質問を投げ掛けられた人物はぼんやりと虚空を見つめていて、きっと俺の言葉なんて聞いちゃいなかっただろう。
 そんな態度に少々呆れながらも、それも仕方ないかと息を吐く。
 『矢部明雄』。『〜でやんす』という語尾が特徴的で、その人柄がなんとなく気になったので話しかけてみるとだ。入学してからすぐ、互いに同じ好みを持つ一点からごく短い間で友人関係となってしまった。クラスが同じになってしまったことも友人となった理由の一つである。
 で、話は戻るが。
 その共通した好みが、『野球』という訳である。
 しかし目の前の資料、担任から聞いた限りでは、この学園には『野球部』あるいは『愛好会』すらないようだ。
 アニメ・玩具となどいったホビーに心酔しながらも、野球を愛し(多分)、根っからの『野球バカ』・『野球少年』であるらしい矢部はその事実を受け止められず、先程こちらが問いを投げかけても聞く耳を持たなかったことから分かる通り、現在現実から逃げている訳だ。が、現実は虚しく残酷で、この学園には野球はない。もう一度言うが、野球はない。それもかなり徹底していて、グラウンドにはマウンドすらないという。ここの学園長は野球がよっぽど嫌いなのだろうかと思わず疑ってしまうほどだ。……実際、担任の『大仙清』教諭から聞いた限りでは、学園長は野球を推奨していないっぽいということだ。ワン・アウト一塁ダブル・プレー、なんて言葉が聞こえてきそうだ。
 そんな事実に対して、同じく『野球少年』である俺は平然としているように見えるが。
 こう見えて結構傷心中で、それなりに頭を悩ましている。

 ……どうしたものだろうか?

 矢部同様に、教室の天井をぼんやりと眺める。
 三年間野球を楽しむという計画が白紙となった現在、やれることはこのくらい。
 とにかく、うん。今は休もう。入学式での長々とした学園長の演説(?)や、クラス内での自己紹介に、教科書の類の購入など、野球部がないというとんでも事実を聞かされ知ってしまったお陰で色々とあって疲れているのだから。なんて思いながら、一先目を閉じた。
 その睡眠が、これから始まる『高校生活』のエネルギーを得るためのものか。
 はたまた諦めの永眠かは知らない。今は知りたくない。
 そんなものは後に分かる。だから、今はこうしておこう。
 ……そういうことだ。


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