過去ログ - 『聖タチバナ』野球しようよ『パワプロss』
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4: ◆ugYRSBAsKU[saga]
2016/04/23(土) 02:10:42.52 ID:Xg6flBWM0
1/slugger.

     (4/18)

 縦およそ一五〇センチ/横およそ九〇センチの白線で囲まれた空間に立つ人影があった。
 誰のものだろうか? 簡単なことだ。その影は、自分以外の何者でもない。
 微かに腰を沈め、金属の棒を握り締めながら悠然と構える。
 そして、視線は先を向いている。
 何が映る? 投手(てき)の姿だった。
 向こうもまた、緊張一つせず悠々とマウンドに立っている。
 威厳すら感じるその姿に、僅かな感心を抱く。


 ―――セットポジション、テイクバック。


 マウンドに立つ影がゆらりと身体を動かす。
 後方へと重心は進み、白球を握る腕が下へと沈む。
 関節と骨は齟齬を起こすことなく連動を始め、微かに沈んだ身体は浮上を始める。
 

 ―――ステップ、トップ。リリース。


 足は大地を踏みしめ、張りつめた弓のように身体はしなる。
 瞬間、装填された弾丸は込められた力を逃すことなく直進する。
 コンマ数秒後の世界、こちらはステップと同時にテイクバックを終えた。
 トップに入った身体は蓄えられた力を放出しようとスイングは開始する。
 軸足はコマのように回転すると、アルファベットのCのごとき美しい曲線を描いた。
 左手はグリップを引き、ヘッドは猛進するかのごとく前方へ走り、一本の金属棒は空を滑った。


 ―――刹那の闘劇後。
    聞こえる音は、白球を叩く音か。
    あるいは其が皮を叩く音か。


 もう二度とその答えは分からない。
 現(うつつ)では当然のことで、またヒュプノスの中でさえ、闘劇は閉幕を迎えることは許されない。
 機会は一生訪れないまま、かつて思い描いた未来の姿は泡沫となって散ったのだ。


     ■■■


「――――――、」

 高校生となって初めて迎える日曜日でのこと、気持ちの悪い汗を全身でかきながら目が覚めた。
 最悪だと心の中で呟きながら、着替えの衣服を手に持つと風呂場へと向かった。
 その際に一度リビングの方へと顔を出すと、そこには誰の姿もなかった。
 高校生となってから一人暮らしを始めたのだから当然の結末だった。
 が、寝起きでぼんやりとした頭の中では親がキッチンで朝食を作っている姿が浮かんでいたのだ。
 何を間抜けなことを、と内心で自嘲しながら今一度風呂場へと向かう。
 そして。
 シャワーを浴びれば目も覚めるだろう、と思いながら着ていた服を洗面所近くで脱ぎ去ると浴室に足を運んだ。
 そこは実家と比べれば狭い場所だが、何も文句はない。
 雨のように降り注ぐ水滴を浴びながら、ふと今日の予定について考えてみる。
 しかし残念ながら何も予定はない。お先真っ暗とは言わないが、真っ白なのもどうだろうか。
 億劫なほど長い休暇の時間の有効な活用法を、汗を流しながら暫し考えてみる。
 結果、思いついたのは運動だった。ようは、適度なトレーニング。
 しかし、運動部に所属はしていない。この先もするつもりはないと思う。
 それなのにトレーニングとは、とまたもや自嘲してみるが。
 とにかく午前中はそうしようとはんば無理やりにでも自身を納得させた。


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