過去ログ - 【ペルソナ5 奥村春SS】春のまにまに
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1:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:51:53.83 ID:Y3tzY7X6o
※注意点

・シナリオ終了後の話なので多大にネタバレ含みます
・主人公は各種イベントで春を選択してきたと思ってください
・春可愛いよ春

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:54:12.63 ID:Y3tzY7X6o

 深みのある独特の芳香が鼻孔に届いた。心臓は警鐘を鳴らすように強く胸を叩いており、とても落ち着いて香りを楽しむどころではないのに。

 このコーヒーは私が淹れたものではない。四軒茶屋にある喫茶店「ルブラン」。この屋根裏に暮らす彼が、先ほど下で淹れてくれたものだ。

以下略



3:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:54:54.76 ID:Y3tzY7X6o
 ……そりゃあ? 私だって年頃の女の子ですし? 男女が誰もいない家で二人きりになるということの意味ぐらい、わかってるんだから。

 でも、そういうのはまだ、早いよね。うん。

 そんなことを思っていたのに、私は、今───。
以下略



4:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:55:31.02 ID:Y3tzY7X6o
「えっ、と……。きゅ、急に、どうした、の?」

 やだ、なんでこんなにしどろもどろなの、私。

「どうしたって、言わなきゃ駄目?」
以下略



5:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:56:59.08 ID:Y3tzY7X6o
 何か言おうにも頭はついてこれず、口から漏れる言葉は意味を成さない。彼は私の喘ぎとも悲鳴ともつかぬ何かを意に介すことなく、私の左手に掌を重ねた。柔らかな温もりが伝わり、顔が、胸が、心が熱くなる。

 そこで不意に、彼が、ふっと。

「ひゃあぅっ」
以下略



6:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:57:47.31 ID:Y3tzY7X6o
 ダメ。無理。抗えない。蕩けちゃいそう。

 経験のなさに起因する想像力の乏しい頭でこの先にありそうな行為を思い浮かべると、体の内側のどこかで疼きにも似た熱を感じた。

 これから、魔性の男のような魅力をもった彼に、知恵の泉のような知識で私のいたるところを、ライオンハートのような大胆さと慈母神のような優しさで、超魔術のような指で、弄ばれる。
以下略



7:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:59:03.13 ID:Y3tzY7X6o
「ベッドは駄目だよ。埋まってる」

「……え?」

 彼の言っていることの意味がわからず気の抜けた声が漏れた。
以下略



8:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 21:59:45.16 ID:Y3tzY7X6o
 カメラの横にはスピーカーもついているらしく、弱いノイズとともに私も知っている声が聞こえてきた。

「何をしているー。わたしはちゃんと見ているぞー」

「ふ、双葉ちゃん!?」
以下略



9:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:00:33.53 ID:Y3tzY7X6o
 メイド姿で泣きながら謎の内職をしているのは私の学校の教諭に相違なかった。たぶん見間違いじゃない、はず。

 刹那、窓の外が眩く光り輝いた。

「スクープだねこれは。怪盗くんの浮気現場、押さえたよ!」
以下略



10:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:01:29.66 ID:Y3tzY7X6o
「春……。こうなりたくはなかったけど、仕方ないわね」

 マコちゃんはペルソナを出してフレイダインをしようとしているらしい。やめて、それ私に効くから。

「抜け駆けはよくないよ!」
以下略



11:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:02:16.96 ID:Y3tzY7X6o


 あ、そうか。

 ここまできてようやく揺るぎないただ一つの簡単な真実に辿り着き、その虚しい答えを呟いた。
以下略



12:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:03:10.55 ID:Y3tzY7X6o
「なんだったんだろ。知らない人たくさんいたし……」

 荒唐無稽にもほどがあるよ、わけわかんなすぎ。

 そう思って一人で笑うと、ほんの少しだけど気が紛れた。ちょっと早いけど気持ち悪いからもう着替えちゃおっと。
以下略



13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:03:56.20 ID:Y3tzY7X6o
 本当に途中までは幸せだった……恥ずかしくもあったけれど。夢でさえあれだけ焦るのに、もし実際に彼にあんなことをされてしまったら私はどうなってしまうんだろう。そんな具体性に欠ける妄想をしただけでまた顔に熱がこみ上げるのを感じた。

 まだ彼が地元に帰ってから一週間ちょっとしか経ってないのにあんな夢を見るなんて、どれだけ彼が恋しいんだろう。

 私、彼のことこんなに好きだったんだ。
以下略



14:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:04:45.46 ID:Y3tzY7X6o
 恩義。利益。見返り。なんと呼んでもいい。私の家庭環境を知った人たちやお父様の周囲にいた大人たちの行動の数々は、まだ子供だった私の認知を変え固めてしまうには余りあるものだった。

 もっとずっと幼かったときは違っていたはずなのに、いつの間にかそうなっていた。私が大きくなるにつれそれを感じ取れるようになったのか、それとも私以外の人たちが変わっていったのかは今となってはよくわからない。

 けれども成長とともに私の人付き合いの多くは目的ではなくなり、ただの手段になっていった。大過なく物事を終えるための儀式。通過儀礼。人付き合いというものにそれ以上の価値は見出だせない。
以下略



15:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:05:39.17 ID:Y3tzY7X6o
 それは、古い記憶の喫茶店。朗らかなお爺様と、穏やかにこだまする笑い声と、コーヒーの香り───。

「おはようございます。もう起きていらっしゃいますか?」

 部屋の外からの声にハッとなり、沈みかけた過去から現在に呼び戻された。今もなおこの家に残る、数少ない私以外の人のものだ。
以下略



16:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:06:34.94 ID:Y3tzY7X6o
「これが仕事ですので」

 返答もいつもと同じ台詞だった。何事にも動じない彼女のその姿は、夢にまで見た彼のことを思い起こさせた。

 でも、これもあと数日で区切りの日が訪れる。
以下略



17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:07:22.38 ID:Y3tzY7X6o
 もちろん、大きな経営方針や実務に口を出せるほどの経験も知識も持ち合わせていないので、そのあたりは会社で信頼のおける新社長の高倉さんに一任している。当面、オクムラフーズで私が関わるのは新規展開するコーヒーチェーン店のプロジェクトだけだろう。

 進学に伴い、私はこの家を出て一人暮らしをすることを決めていた。思いきったが、ちゃんと考えて自分で下した決断だ。

 この家はもう私の自由を奪う鳥籠じゃない。そもそもこの家を出たところで奥村という名と無関係にはならないし、今のところそうするつもりもない。生活ではお手伝いの人もいるし、毎日を過ごすにあたり不満があるわけじゃない。
以下略



18:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:08:42.10 ID:Y3tzY7X6o


 喪失はあまりに唐突で、受け入れられないわけではなかったと思うけれど、感情が追い付いていなかったことをあとになって思い知った。

 それからは最高責任者をなくしても廻り続ける会社のこと、怪盗団のこと、今でも信じられないけどこの世界の運命のこと。私に背負える重さを遥かに越えたものが次々と降りかかり、ついていくのに必死で悲しみに暮れる暇はなかった。というより、別の何かに目を向け続けることで、無意識にそれを遠ざけようとしていた。
以下略



19:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:09:35.45 ID:Y3tzY7X6o
 私の無理や我が儘を聞いてもらい、融通も利かせてもらった。わかっていたことだけれど私はまだまだ子供で、奥村の娘なんだと実感した。
 
 そんな事情でお手伝いさんが毎日来るのは今月で最後になるが、この家自体は手放さず残したままにすることになっていた。その理由は、お父様の遺したものを全て整理しきれていないことがまず一つ。そしてもう一つは、お父様との記憶と、私の帰ってくる場所をなくしたくなかったから。

 私にとって、お父様の死は繋がりを断ち切るだけのものではなかった。不満を感じながらただ生きているだけでは見過ごしていた、見えずともそこに確かにあった絆を浮かび上がらせ、ある感情を呼び起こした。
以下略



20:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:10:22.74 ID:Y3tzY7X6o


 その日、私たちは馴染みあるいつもの場所に集まっていた。階下から香る深みのある独特の芳香が私の胸の高鳴りを少しだけ静めてくれる。

「つーか遅ぇなあいつら、何してんだ。ったくよー」
以下略



21:名無しNIPPER[sage saga]
2016/10/24(月) 22:11:26.31 ID:Y3tzY7X6o
「そーだよー。てかわたしもそうじろうから聞いただけだし。他に誰か聞いてないの?」

 ずっとスマホを見つめていた双葉ちゃんが顔をあげ首を捻る。

「残念ながら俺は聞いていないぞ」
以下略



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