8: ◆/BueNLs5lw[saga]
2016/05/29(日) 15:32:55.40 ID:4yJ+Tv6jO
「いってらっしゃい」
母が父を玄関まで見送っていた。
最近はめっきり見られなくなった光景だ。
私はもう一度茶碗をのぞく。
自分の手より、大きく感じる。
座った椅子も、いや、何もかも。
母でさえ、大きく感じる。
食器棚のガラス戸に自分の姿がぼんやりと移っていた。
「なに、ぼけっとしてるの。やすはちゃん来るわよ」
「え、あ……え? やすは?」
「そうでしょ? え、登校班変わったの?」
登校班?
なにそれ。
「変わってないでしょ? ボケたこと言ってないで、もお、お母さん仕事あるから……鍵は外の倉庫の前のタンス棚に入れておいて」
と、エプロンのポケットから鍵を取り出して、私に投げる。
「わ……」
この光景。
デジャブ。
そうだ、確か、小さい頃によく。
小学校の頃、母も父も私より先に仕事に出かける人だったから。
今は、エプロンもしてないし、鍵だっていつもあの黒い棚に……棚がない。
130Res/101.95 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20